説明

エステルオリゴマー及び防曇剤並びに防曇体

【課題】
本発明は、優れた防曇性及びその持続性(耐久性)を有するとともに、極めて簡便、容易にその防曇性を樹脂製品、ガラス製品、反射鏡、金属製品等の支持体に付与することができる新規なエステルオリゴマーを有効成分とする防曇剤を提供し、さらにはこの防曇剤を塗布することにより、防曇層を形成させた防曇体を提供することを目的とするものである。
【解決手段】
(a)多価カルボン酸成分、(b)多価アルコール成分及び(c)分子量調節剤としての1価アルコール成分又は1価カルボン酸成分から得られるエステルオリゴマーにおいて、(b)多価アルコール成分として数平均分子量150〜1000のポリエチレングリコールを用いてエステルオリゴマーを製造し、該エステルオリゴマーを有効成分とする防曇剤を用いて、防曇体を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定のエステルオリゴマーを有効成分とする防曇剤及び防曇体に関する。詳しくは、樹脂製品、ガラス製品、反射鏡、あるいは金属板等の金属製品といった支持体表面に水分の凝縮による曇りが生じない防曇層を形成させるための防曇剤及びかかる防曇層を有する防曇体(材料)に関するものである。尚、本発明における“防曇”とは、“防滴”をも意味するものとし、防曇剤の“有効成分”とは、防曇剤の成分(配合液)中で、防曇効果を最ももたらす成分のことを指す。
【背景技術】
【0002】
例えば、樹脂フィルム、樹脂シートやガラス等のごとき材料の透明体、あるいは反射鏡面を有するガラスや金属板のごとき材料の反射体では、それらが配置され、その場において接する空気の温度が著しく低温である場合には、空気中の水分がかかる透明体や反射体の表面で凝縮(結露)して表面を曇らせたり、また屋外で用いられる場合には降雨等で表面に水滴が付くことで、各々透明性や反射性を失い、透明体や反射体としての機能を喪失する。
【0003】
このため、例えば自動車におけるフロントガラス等の窓ガラスでは、これに温風を吹きかけたり、窓ガラス内面に設置したヒーターで加温したりして結露するのを防いでいる。また、建物の窓ガラスや浴室、洗面台等の湿度が高いところに設置された鏡においても、窓ガラスの内面や鏡の裏面等にヒーターを設置して結露を防いでいる。さらに、眼鏡や鏡、安全マスク、食品包装用樹脂フィルムにおいても、農業用樹脂フィルム等においても、結露によりそれぞれの透明性や反射性が失われるという現象が認められている。
【0004】
このような空気中の水分の結露による透明体や反射体の曇りは、一般家庭の場合や小規模な場合には、生じた結露を拭き取ることが面倒という程度で大きな問題となることは少ないが、前述の透明体や反射体を利用して、例えば自動車のヘッドライトカバーや、交通ミラー等の結露拭き取りが困難なものについては、結露は重要な問題であるほか、結露以外にも雨天においてガラス、ミラー等に付着する水滴により視界が悪化するという問題がある。
【0005】
一方で、農業用フィルムを用いたハウス栽培やトンネル栽培等が広く行われているが、このような栽培においては農業用フィルムを展張使用する際、内面に水滴付着による曇りを防止する方法として、一般に、展張後に防曇剤(防滴剤)をスプレー塗布する方法が用いられてきた。しかしながら。この際に用いられる防曇剤においては、防曇持続性(耐久性)を欠き、通常1年程度で防曇効果が失われるという欠点がある。そして、防曇効果が失われた場合には再塗布を行わなければならない。
【0006】
そこで、例えば、各種樹脂シート又は樹脂フィルム表面に水滴が付着しない様にするために、各種の防曇剤を配合したり表面に塗布したりする方法が提案され、その幾つかは実用化されている。例えば、樹脂に各種防曇剤を配合して防曇性シートにする方法としては、次の様な方法が知られている。
【0007】
塩化ビニル樹脂にポリグリセリン脂肪酸エステルを練り込む方法(例えば特許文献1参照)、ポリオレフィンフィルム中にポリグリセリン脂肪酸エステルを練り込む方法(例えば特許文献2参照)、多価アルコールとヒドロキシステアリン酸のエステルと多価アルコールと脂肪酸のエステルとをポリオレフィン系樹脂に練り込む方法(例えば特許文献2参照)。しかしながら、これらの方法では、防曇剤がシート表面に浮き出し、シートの透明性を極端に低下させたり、シート表面がべとつきブロッキングが発生したりするという問題がある。
【0008】
他方、上記の欠点を補う方法として、樹脂表面に各種防曇剤を塗布する方法として、例えば、スチレン系樹脂シートに、界面活性剤1重量部に対して、ショ糖脂肪酸エステルを0.1〜10重量部混合してなる液を塗布する方法(例えば特許文献4参照)、ポリオレフィン系フィルム又はシートにショ糖脂肪酸エステルを存在させる方法が知られている(例えば特許文献5参照)。しかしながら、ショ糖脂肪酸エステルを表面に塗布したシートにおいては、間接加熱方式でシートを加熱した後、成形品を製造した場合に防曇性がなくなるという欠点があるほか、防曇効果の耐久性にも問題がある。
【0009】
さらに、容器として使用される極めて透明性の良いポリエステル系樹脂シートでは、その透明性を活かすために、直接加熱方式に比べて成形品の透明性が維持できる間接加熱方式により加熱成形する方法が採られている。そのため、ポリエステル系樹脂シートの成形品の場合は、間接加熱方式による加熱により成形した後も防曇性が低下しないポリエステル系樹脂シートが要望され、ポリエステルフィルム表面にデカグリセリンラウリレートを代表とするポリグリセリン脂肪酸エステル表面に塗布する方法が提案されている(例えば特許文献6参照)。
【0010】
しかし、デカグリセリンラウリレートの様なポリグリセリン脂肪酸エステルを塗布する場合は、製品そのものの防曇性能は良好であるものの、デカグリセリンラウリレートを含有する塗布用液体を調製する場合、攪拌混合する際に泡を巻き込み易いため均一な塗布をするために消泡材を配合するという生産性低下の懸念があるほか、防曇効果の持続に問題があり、いわゆる“ワンウェイパック”のみで用いられているのが現状である。
【0011】
【特許文献1】特開昭54−56647号公報
【特許文献2】特開平4−334449号公報
【特許文献3】特開平6−93139号公報
【特許文献4】特公昭59−19584号公報
【特許文献5】特開昭54−99180号公報
【特許文献6】特許3405097号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、優れた防曇性及びその持続性(耐久性)を有するとともに、極めて簡便、容易にその防曇性を樹脂製品、ガラス製品、反射鏡、金属製品等の支持体に付与することができる新規なエステルオリゴマーを有効成分とする防曇剤を提供し、さらにはこの防曇剤を塗布することにより、防曇層を形成させた防曇体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
すなわち、本発明は、以下に記載の要旨を骨子とするものである。
(1) (a)多価カルボン酸成分、(b)多価アルコール成分及び(c)分子量調節剤としての1価アルコール成分又は1価カルボン酸成分から得られるエステルオリゴマーであって、(b)多価アルコール成分がポリエチレングリコールを含むものであることを特徴とするエステルオリゴマー。
(2) (a)多価カルボン酸成分が、炭素数8〜12の芳香族多価カルボン酸又は炭素数4〜8の脂肪族多価カルボン酸であることを特徴とする(1)に記載のエスエルオリゴマー。
(3) (a)多価カルボン酸成分が、無水フタル酸であることを特徴とする(1)に記載のエステルオリゴマー。
(4) ポリエチレングリコールが、数平均分子量150〜1000のポリエチレングリコールであることを特徴とする(1)乃至(3)のいずれかに記載のエステルオリゴマー。
(5) ポリエチレングリコールが、数平均分子量400のポリエチレングリコールであることを特徴とする(1)乃至(3)のいずれかに記載のエステルオリゴマー。
(6) エステルオリゴマーの数平均分子量が、500〜5000の範囲にあることを特徴とする(1)乃至(5)に記載のエステルオリゴマー。
(7) エステルオリゴマー中のエステルモノマー成分の割合が、40wt%以下であることを特徴とする(1)乃至(6)のいずれかに記載のエステルオリゴマー。
(8) (1)乃至(7)のいずれかに記載のエステルオリゴマーを有効成分とする防曇剤。
(9) 支持体表面に(8)に記載の防曇剤による防曇層を有することを特徴とする防曇体。
(10) 支持体が、樹脂製品、ガラス製品、反射鏡又は金属製品のいずれかであることを特徴とする(9)に記載の防曇体。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、樹脂製品、ガラス製品、反射鏡、金属製品等の表面に塗布することで、耐久性の優れた防曇層を有する防曇体を簡単に得ることができる。さらに得られた防曇体の防曇層は、べたつきがなく透明性も良好である。また、水分を表面に保持する効果が向上することから、帯電防止等の機能をも付与することができるのは言うまでもない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。先ず本発明の防曇剤の有効成分となるエステルオリゴマーについて説明する。本発明のエステルオリゴマーは、(a)多価カルボン酸、(b)多価アルコール及び(c)分子量調節剤としての1価アルコール成分又は1価カルボン酸成分のエステル化反応及びエステル交換反応によって得られるものである。
【0016】
本発明における(a)多価カルボン酸成分としては、炭素数8〜12の芳香族多価カルボン酸又は炭素数4〜8の脂肪族多価カルボン酸が好適に用いられる。炭素数8〜12の芳香族多価カルボン酸としては、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、トリメリット酸等が挙げられ、炭素数4〜8の脂肪族多価カルボン酸としては、コハク酸、アジピン酸、グルタル酸、フマル酸、マレイン酸、リンゴ酸等が挙げられる。これらの多価カルボン酸成分は、単独で用いても、混合物であっても良く、また、例えば無水フタル酸のような無水物を用いても、例えばジメチルテレフタレートのようなエステル化物を用いても良い。好ましい多価カルボン酸成分は、無水フタル酸である。
【0017】
本発明における(b)多価アルコール成分としては、ポリエチレングリコールを含むものであることを必須とする。ポリエチレングリコールの数平均分子量としては、150〜1000が好ましい。ポリエチレングリコールの数平均分子量が150以下だと、本発明の防曇剤としての効果がほとんどなくなり、一方、数平均分子量が1000以上でも防曇剤としての効果はあるが、エステル化反応が遅くなったり、ポリエチレングリコール自体及びエステルオリゴマーの融点が高く取り扱いが困難になったりする可能性がある。ポリエチレングリコールのより好ましい数平均分子量の範囲は200〜800であり、さらに好ましくは300〜600である。最も好ましいポリエチレングリコールの数平均分子量は400である。また、例えば、数平均分子量400のポリエチレングリコールと、数平均分子量800のポリエチレングリコールを混合して用いても構わない。
【0018】
数平均分子量150〜1000のポリエチレングリコール以外に用いられる多価アルコール成分としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール等のジオール或いはグリセリン、トリメチロールプロパン等のトリオール等が挙げられる。さらにその他、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシエチレン/オキシプロピレン共重合グリコール或いはポリテトラメチレンエーテルグリコール等の長鎖ポリエーテルポリオール等を用いても構わない。また、これら多価アルコール成分は、2種以上を混合して用いても構わない。多価アルコール成分中の数平均分子量150〜1000のポリエチレングリコールの好ましい割合は20mol%以上、さらに好ましくは30mol%以上、最も好ましくは40mol%以上であり、多価アルコール成分の全量を数平均分子量150〜1000のポリエチレングリコールとしても構わない。
【0019】
本発明における(c)分子量調節剤としての1価アルコール成分としては、炭素数4〜12の脂肪族1価アルコールが好適に用いられる。炭素数4〜18の脂肪族1価アルコールとしては、ブチルアルコール、オクタノール、2−エチルヘキサノール、ノニルアルコール、イソノニルアルコール、デシルアルコール、ラウリルアルコール、ステアリルアルコール等が挙げられるほか、エチレングリコールモノメチルエーテルのようなエーテル結合を持った1価アルコールを用いても構わないし、これらを2種以上併用しても構わない。好ましい炭素数4〜18の脂肪族1価アルコールとしては、2−エチルヘキサノール及びイソノニルアルコールである。一方、(c)分子量調節剤としての1価カルボン酸成分としては、炭素数4〜18の脂肪族カルボン酸を用いることができる。炭素数4〜18の脂肪族カルボン酸としては、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、ミリスチル酸、ステアリン酸、ヤシ油脂肪酸等が挙げられる。これらを2種以上併用しても構わない。また、これらの1価アルコール成分と1価カルボン酸成分を併用しても構わない。
【0020】
本発明のエステルオリゴマーは、数平均分子量が500〜5000の範囲内、好ましくは、700〜4000の範囲内、さらに好ましくは800〜3000の範囲内のものが、防曇性、耐久性及び樹脂との相溶性の観点から望ましい。数平均分子量が500以下の場合、結果的にエステルモノマー成分が多い分子量分布となり、防曇性が低下する可能性がある。一方、数平均分子量が5000以上の場合、粘度が著しく悪化して取り扱いが困難になる可能性がある。ここでのエステルオリゴマーの数平均分子量は、原料の仕込み組成より計算できる。
【0021】
本発明におけるエステルオリゴマー中のエステルモノマー成分とは、分子中に含まれる多価カルボン酸残基の数が1以下であるエステル成分であり、1価カルボン酸成分を併用する場合にあっては、多価アルコール成分と1価カルボン酸成からなるエステル成分或いは1価アルコール成分と1価カルボン酸成分からなるエステル成分も含まれる。具体的には、用いる(a)多価カルボン酸成分、(b)多価アルコール成分及び(c)1価アルコール成分又は1価カルボン酸成分の種類にもよるが、例えば、(a)多価カルボン酸成分として無水フタル酸、(c)1価アルコール成分としてイソノニルアルコールを用いた場合は、ジイソノニルフタレートとなり、これが大量に存在する場合には防曇性を悪化させる原因となる。そのため、エステルモノマー成分の好ましい含有量は40wt%以下であり、さらに好ましくは35wt%以下、最も好ましくは30wt%以下である。
【0022】
エステルオリゴマーを製造する際の、数平均分子量150〜1000の範囲にあるポリエチレングリコールと多価カルボン酸成分との使用割合は、分子量調節剤として、1価アルコール成分を使うか、1価カルボン酸成分を使うかによって大幅に異なり、また、他の多価アルコール成分を併用する場合には、その量によっても異なるが、通常、1当量の多価アルコール成分に対し、0.1〜4当量の多価カルボン酸成分を用いることが好ましい。また、分子量調節剤の量は、通常、1当量の多価アルコール成分に対し、1価アルコールの場合は、0.1〜6当量を用い、1価カルボン酸の場合には、0.1〜4当量を用いることが好ましい。
【0023】
本発明において、エステルオリゴマーは、公知の方法に従って、前述のカルボン酸成分(多価カルボン酸や1価カルボン酸など)とアルコール成分(多価アルコールや1価アルコール等)を原料としたエステル化反応及びエステル交換反応により得られるほか、前述の多価カルボン酸のメチルエステル等のアルキルエステルとアルコール成分とのエステル交換反応等により得ることができる。それ以外にも、例えば、ジオクチルフタレートと数平均分子量150〜1000ポリエチレングリコールとをエステル交換反応させ、副生する2−エチルヘキサノールを留去するよう方法でも構わない。
【0024】
エステル化反応及びエステル交換反応では、一般に、酸触媒が使用される。酸触媒として使用されるルイス酸としては、例えば、テトライソプロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート等のオルトチタン酸エステル;ジエチル錫オキシド、ジブチル錫オキシド等の錫系化合物;酸化亜鉛などの金属化合物が挙げられる。また、ルイス酸の他には、パラトルエンスルホン酸などのブレンステッド酸を使用しても構わない。これらの触媒の使用量は、原料のカルボン酸とアルコール成分の合計に対し、通常0.01〜1.0重量%、好ましくは0.01〜0.2重量%、さらに好ましくは0.01〜0.03重量%である。一方、触媒を用いずに反応しても構わない。
【0025】
反応温度は、通常150〜250℃、好ましくは180〜230℃である。例えば、180℃で反応を開始し、反応の進行に伴って230℃まで徐々に昇温するような条件であれば、反応を制御し易い。また、反応圧力は、常圧でも構わないが、副生する水を系外に除去し、反応を速やかに完結させるために反応の進行に伴って、徐々に減圧するとよい。ただし、反応時の減圧度が不足するとエステル化反応の完結度が低くなり、酸価の高いエステルオリゴマーが生成する。一方、反応時に過度に減圧にすると、アルコール成分が系外に留去され収率を損なうばかりか、高分子量のエステルオリゴマーが形成され、得られたエステルオリゴマーの粘度が著しく上昇して取り扱いが困難となる。従って、適切な到達反応圧力は、反応温度によっても異なるが、例えば、反応温度が200℃の場合、通常1〜30kPa、好ましくは3〜20kPaである。勿論、目標とするエステルオリゴマーの粘度や水酸基価、原料の種類、使用量によっては、上記の圧力範囲以外の条件で反応を行っても構わない。また、減圧する代わりに、トルエン、キシレン等の有機溶媒を少量併用して副生する水を系外に共沸させて除去しても構わないし、窒素のような不活性ガスをキャリアーとして用いても構わない。さらに、エステルオリゴマーの物性調整のため、未反応のアルコール成分を窒素のような不活性ガス、あるいは水蒸気をキャリアーとして留去しても構わない。
【0026】
反応の終点は、通常、使用したカルボン酸成分の未反応カルボキシル基の量で決定する。防曇用途においては、未反応のカルボキシル基の量(すなわち酸価)は、出来るだけ低い方が好ましい場合が多く、通常、10mgKOH/g以下、好ましくは5mgKOH/g以下、さらに好ましくは3mgKOH/g以下であるが、用途によっては、未反応のカルボキシル基がその範囲を超えて多くても構わない。
【0027】
尚、反応開始時には、生成するエステルオリゴマーの着色を防ぐために反応容器の空間部を窒素置換し、さらに、反応液中の溶存酸素も除去することが好ましい。また、反応終了の後に、適当な条件下に、未反応のアルコール成分を系外に留去させて、エステルオリゴマーの物性や性能を調節しても構わない。
【0028】
反応後、生成したエステルオリゴマー中には、金属触媒由来の金属成分、例えばテトライソプロピルチタネート由来のチタン等が残存する場合があるが、エステルオリゴマーの用途において、これらが悪影響を及ぼす可能性がある場合には除去することも可能である。方法としては、活性炭での吸着や、少量の水を添加して金属酸化物又は水酸化物とし、余剰の水を減圧留去後、濾過分離で金属分を除去すること方法、また、水溶液として放置すると、金属酸化物又は水酸化物が析出するので、これを濾過分離、あるいは遠心沈降分離してもよい。
【0029】
次に、本発明の防曇剤、並びに防曇体について説明する。前述のエステルオリゴマーは、防曇剤としての被膜を形成させる際、通常、所定の割合で溶媒に溶解させた溶液として使用される。溶媒としては、例えば、水、エタノール等のアルコール類、ケトン類、トルエン等の有機溶剤類、あるいはそれらの混合溶媒が用いられるが、エステルオリゴマーの組成によっては、水への溶解性を持たない場合、あるいは有機溶剤への溶解性を持たない場合もあるので、その組成、用途に応じた溶媒を選択することが大切である。また、本発明の効果を損ねない範囲で、界面活性剤、相溶化剤、定着剤、帯電防止剤、酸化防止剤、分散剤、安定剤、消泡剤、滑剤、架橋剤等、その他の助剤を同時に用いても構わない。
【0030】
被膜の形成方法としては、例えば、樹脂シート、樹脂フィルム等の製造工程中に塗布・乾燥工程を加えたり、また、製品としての樹脂シート、樹脂フィルム表面に塗布した後に乾燥する方法が挙げられるほか、ガラス製品、反射鏡、あるいは金属板等へ直接スプレー噴霧することが挙げられる。一般的な塗布方法としては、刷毛ぬり、噴霧、ロールコーター、グラビアロールコーター、ナイフコーター、ローターダンプニング法、浸漬法などの公知の方法が使用できる。その他、適当な濃度の溶液をガーゼ等の布に染み込ませ、それを支持体に塗りこむような方法をとっても良い。
【0031】
本発明においては、用途にもよるが、樹脂製品の場合、表面に0.01〜0.50g/m2程度の割合で前記の防曇剤の被膜を形成させることができる。防曇剤の割合が0.01g/m2未満の場合は防曇性が劣り、0.50g/m2を超える場合は、表面にべたつきが生じる場合がある。好ましい防曇剤の割合は、樹脂製品の場合で、0.01〜0.30g/m2、さらに好ましくは0.02〜0.10g/m2である。用途によってはこれらの範囲を超えて防曇層を形成させても構わない。
【0032】
本発明で対象となる樹脂としては、例えば、ポリエステル系樹脂、スチレン系樹脂、ゴム強化樹脂、オレフィン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリアリレート樹脂、塩化ビニル系樹脂などが挙げられる。また、これらの樹脂のコンパウンドであってもよい。
【0033】
上記のポリエステル系樹脂としては、例えば、ジカルボン酸又はその誘導体(低級アルキルエステル、酸ハライド、酸無水物など)とグリコール又は二価フェノールとを縮合させて得られる熱可塑性ポリエステルが挙げられる。
【0034】
上記のジカルボン酸の具体例としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、スべリン酸、アゼライン酸、セバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸類;テレフタル酸、イソフタル酸、p,p’−ジカルボキシジフェニルスルホン、p−カルボキシフェノキシ酢酸、p−カルボキシフェノキシプロピオン酸、p−カルボキシフェノキシ酪酸、p−カルボキシフェノキシ吉草酸、2,6−ナフタリンジカルボン酸、2,7−ナフタリンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸類又はこれらのカルボン酸の混合物が挙げられる。
【0035】
上記のグリコールの具体例としては、炭素数2〜12のアルキレングリコール又はオキシアルキレングリコール、例えば、エチレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,12−ドデカメチレングリコール等の脂肪族グリコール類の他、p−キシリレングリコール等の芳香族グリコール類;1,4−シクロヘキサンジメタノール等の脂環式グリコール類が挙げられる。一方、二価フェノールとしては、ピロカテコール、レゾルシノール、ヒドロキノン又はこれらの化合物のアルキル置換誘導体が挙げられる。
【0036】
ポリエステル系樹脂の他の例としては、ポリ乳酸やラクトンの開環重合により得られるポリエステルも挙げられる。例えば、ポリピバロラクトン、ポリ(ε−カプロラクトン)等である。また、ポリエステルのさらに他の例としては、溶融状態で液晶を形成するポリマー(Thermotropic Liquid Crystal Polymer : TLCP)としてのポリエステルがある。これらの区分に入るポリエステルとしては、イーストマンコダック社の「X7G」、ダートコ社の「Xyday(ザイダー)」、住友化学社の「エコノール」、セラニーズ社の「ベクトラ」等が代表的な商品である。
【0037】
これらのポリエステル系樹脂の中では、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリナフタレンテレフタレート、ポリ-1,4−シクロヘキサンジメチレンテレフタレート又は液晶性ポリエステル等が好適である。
【0038】
前記のスチレン系樹脂としては、スチレン系単量体の単独重合体、スチレン系単量体の部分架橋重合体、スチレン系単量体の共重合体、スチレン系単量体に共重合可能な単量体を共重合して得た共重合体およびそれらの混合物が挙げられる。
【0039】
上記のスチレン系単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルトルエン、t−ブチルスチレン等が挙げられ、また、スチレン系単量体と共重合可能な単量体としては、アクリル酸、アクリル酸エチル、アクリル酸メチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリロニトリル、メタクリル酸、メタクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン(イソプレン)等が挙げられる。
【0040】
前記のゴム強化樹脂としては、ゴム状重合体(イ)の存在下に、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル、酸無水物系単量体およびマレイミド系化合物の群から選ばれた少なくとも1種の単量体成分(ロ)を重合して得られるグラフト共重合体が挙げられる。また、このグラフト共重合体と単量体成分(ロ)の(共)重合体のブレンド物であってもよい。
【0041】
上記のゴム状重合体(イ)としては、ポリブタジエン、ブタジエン−スチレン共重合体、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体、エチレン−プロピレン−(非共役ジエン)共重合体、エチレン−ブテン−1−(非共役ジエン)共重合体、イソブチレン−イソプレン共重合体、アクリルゴム、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、SEBS等の水素添加ジエン系(ブロック、ランダム、ホモ)重合体、ポリウレタンゴム、シリコーンゴム等が挙げられる。
【0042】
上記の単量体成分(ロ)としては、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル、酸無水物系単量体およびマレイミド系化合物の群から選ばれた少なくとも1種の単量体が挙げられる。
【0043】
上記の芳香族ビニル化合物としては、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルトルエン、メチル−α−メチルスチレン、臭素化スチレンなどが挙げられる。シアン化ビニル化合物としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどが挙げられ、(メタ)アクリル酸エステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチルが挙げられ、酸無水物系単量体としては、無水マレイン酸が挙げられ、マレイミド系単量体としては、マレイミド、N−メチルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−(2−メチルフェニル)マレイミド、N−(4−ヒドキシフェニル)マレイミド、N−シクロヘキシルマレイミドが挙げられる。
【0044】
上記のグラフト共重合体の製造における各成分の割合は、通常、(イ)成分:20〜70重量%(ロ)成分:80〜30重量%〔ただし、(イ)+(ロ)=100重量%〕である。尚、グラフト共重合体中には、単量体成分(ロ)がゴム状重合体(イ)にグラフトしていない未グラフト成分〔単量体成分(ロ)の(共)重合体〕が含まれる。また、ゴム強化樹脂としては、上記のグラフト共重合体の他に、これに単量体成分(ロ)を(共)重合して得られる(共)重合体をブレンドしたものでもよい。従って、ゴム強化樹脂中の最終的な(イ)成分と(ロ)成分の割合は、(イ)成分:5〜60重量%、好ましくは8〜60重量%、(ロ)成分:95〜40重量%、好ましくは92〜60重量%〔ただし、(イ)+(ロ)=100重量%〕である。
【0045】
ゴム強化樹脂におけるグラフト率は、通常30〜200重量%、好ましくは40〜150重量%である。グラフト率は、ゴム強化樹脂1g中のゴム成分をx、ゴム強化樹脂中のメチルエチルケトン不溶分をyとすると、下記の計算式により求められる。
【0046】
「数1」
グラフト率(%)=[ (y−x)/x ] ×100
【0047】
また、ゴム強化樹脂のマトリックス樹脂の極限粘度〔η〕(メチルエチルケトン中、30℃で測定)は、通常0.1〜1.0dl/g、好ましくは0.3〜0.8dl/gである。
【0048】
グラフト共重合体やこれと共に使用する(共)重合体は、公知の乳化重合、溶液重合、懸濁重合などにより製造できるが、乳化重合により製造した場合、通常、凝固剤により凝固し得られた粉末を水洗後、乾燥することによって精製される。
【0049】
なお、グラフト重合時のラジカル開始剤としては、例えば、クメンハイドロパーオキシド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキシド、過硫酸カリウム、AIBN、ベンゾイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、t−ブチルパーオキシラウレイト、t−ブチルパーオキシモノカーボネート等が挙げられる。
【0050】
代表的なゴム強化樹脂としては、ABS樹脂、AES樹脂などが挙げられる。また、単量体成分(ロ)を単独で重合した場合の代表的な樹脂としては、AS樹脂、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、スチレン−N−フェニルマレイミド共重合体、スチレン−N−フェニルマレイミド−アクリロニトリル共重合体などが挙げられる。
【0051】
ABS樹脂又はAES樹脂の場合、ゴム量は、通常20〜65重量%、好ましくは25〜55重量%、グラフト率は、通常50〜130重量%、好ましくは60〜120重量%、マトリックス樹脂極限粘度〔η〕は、通常0.1〜1.0dl/gである。
【0052】
AS樹脂の場合、アクリロニトリルの共重合量は、通常15〜45重量%、好ましくは20〜35重量%、極限粘度〔η〕は、通常0.3〜0.8dl/g、好ましくは0.4〜0.7dl/gである。
【0053】
前記のオレフィン系樹脂としては、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリ−4−メチル−ペンテン−1、プロピレン−エチレンブロック又はランダム共重合体、エチレンと他の共重合可能なモノマーとの共重合体などが挙げられる。
【0054】
前記のポリカーボネート樹脂としては、種々のジヒドロキシアリール化合物とホスゲンとの反応によって得られるもの(ホスゲン法)、ジヒドロキシアリール化合物とジフェニルカーボネートとのエステル交換反応によって得られるもの(エステル交換法)が挙げられる。代表的なポリカーボネートとしては、2,2′−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンとホスゲンとの反応により得られる芳香族ポリカーボネートである。
【0055】
ポリカーボネート樹脂の原料となるジヒドロキシアリール化合物としては、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1′−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2′−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2′−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルジフェニルエーテル、4,4′−ジヒドロキシフェニルスルフィド、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルジフェニルスルホン、ヒドロキノン、レゾルシン等が挙げられる。
【0056】
ポリカーボネート樹脂の分子量は、粘度平均分子量(Mv)として、通常13,000〜50,000、好ましくは16,000〜40,000、さらに好ましくは19,000〜30,000である。
尚、本発明における粘度平均分子量(Mv)は、溶媒として塩化メチレンを使用し、ウベローデ粘度計によって25℃の温度で測定した溶液粘度より求めた極限粘度[η]から、次式により算出した値である。
【0057】
「数2」
[η]=1.23×10-4 ×(Mv)0.83
【0058】
前記のアクリル樹脂としては、例えば、アクリル酸又はメタクリル酸のメチル、エチル、ブチル、2−エチルヘキシル等のアルキルエステルから成る重合体をベースとするアクリル系樹脂などが挙げられ、具体的には、メタクリル酸メチルとアクリル酸メチル及び/又はアクリル酸ブチルから成る共重合体、メタクリル酸メチルとアクリル酸メチル及び/又はアクリル酸ブチルとスチレン等のビニル系モノマーとの共重合体などが挙げられる。
【0059】
前記のポリアリレート樹脂は、芳香族ジカルボン酸又はその機能誘導体と、二価フェノール又はその機能誘導体とから得られる樹脂である。この場合、芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸又はイソフタル酸が好適であり、テレフタル酸/イソフタル酸のモル比は通常9/1〜1/9、好ましくは7/3〜3/7である。また、二価フェノールとしては2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジクロロフェニル)プロパン、4,4−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4−ジヒドロキシジフェニルケトン、4,4−ジヒドロキシジフェニルメタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、4,4−ジヒドロキシジフェニル、ベンゾキノン等が挙げられる。ポリアリレート樹脂の分子量は、通常7,000〜100,000である。
【0060】
前記の塩化ビニル系樹脂としては、塩化ビニルの単独重合樹脂の他、塩化ビニルを主成分とする共重合樹脂および重合樹脂ブレンドを包含する。塩化ビニルを主成分とする共重合樹脂としては、塩化ビニルと、エチレン、プロピレン、酢酸ビニル、塩化ビニリデン、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、マレイン酸エステル等との共重合体が挙げられる。塩化ビニル樹脂は公知の何れの製造法で得られたものでもよい。
【0061】
可塑剤として、フタル酸エステル系可塑剤(ジメチルフタレート、ジブチルフタレート、ジヘプチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート、ジイソオクチルフタレート、ジ−n−オクチルフタレート、ジイソノニルフタレート、ジデシルフタレート、ジイソデシルフタレート、ジラウリルフタレート、ジシクロヘキシルフタレート、ブチルベンジルフタレート、ジベンジルフタレート等)、フタル酸系以外のカルボン酸のエステル系可塑剤又はポリエステル系可塑剤(ジ−n−ブチルアジペート、ジ−n−オクチルアジペート、ジイソノニルアジペート、ジイソデシルアジペート、ポリプロピレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ジイソブチルアゼレート、ジ−2−エチルヘキシルアゼレート、ジブチルセバケート、ジ−2−エチルヘキシルセバケート、ポリプロピレンセバケート、トリ−2−エチルヘキシルトリメリテート、トリイソデシルトリメリテート、ジ−2−エチルヘキシルフマレート、トリブチルシトレート、ジブチルマレート、ジオクチルマレート、メチルアセチルリシノレート、ポリプロピレンセバケート等)が挙げられる。これらの可塑剤の添加量は、塩化ビニル樹脂100重量部に対し、通常0〜100重量部である。
【0062】
本発明において、樹脂製品としては、例えば、延伸又は未延伸のフィルム又はシートが挙げられる。これらは、各樹脂に応じた公知の方法で得られる。例えば、樹脂シートは、Tダイ法、インフレーション法又はカレンダー成形法によって製造することが出来る。また、本発明で使用されるシートの層構成は、単層シートは勿論のこと、上記の樹脂から1種以上が選択される2層以上の多層シート、各層の組成が上記の樹脂から1種以上が選択されコンパウンドされた組成をもつ多層シートでも可能である。フィルム又はシートは包装材および蓋材として使用される。
【0063】
また、本発明において、樹脂製品は、直接加熱方式又は間接加熱方式の何れの方式で成形されたものであってもよい。例えば、本発明の防曇性樹脂シートは、これを直接加熱方式又は間接加熱方式によって加熱した後、目的の容器形状に成形して使用することができる。直接加熱方式はシートを直接熱板に置き加熱するのに対し、間接加熱方式はヒーターで予め所定の温度に設定された加熱炉に所定の時間シートを挿入し、ヒーター等にシートを接触させずにシートを間接的に加熱する方法である。これら直接加熱および間接加熱により加熱されたシートは、容器形状の金型に接触させ、真空成形法、圧空成形法、プラグアシスト成形法等により、目的の容器形状に成形する。極めて透明性の良いポリエステル系樹脂シートでは、その透明性を活かすために、間接加熱方式により加熱成形して容器に成形される。透明性の指標としては、一般にヘーズ値が採用される。例えば、通常、透明と言われる未延伸シート(厚さ0.25mm)のヘーズ値とは、ポリエチレンテレフタレートの場合0.5〜5%、ポリエチレンの場合2〜20%、ポリ塩化ビニルの場合1〜20%である。
【0064】
樹脂製品以外では、例えば、浴室や洗面所等の鏡、自動車のフロント、サイド、リヤガラス及びミラー、交通ミラー等のガラス製品、反射鏡、あるいは金属板等の金属製品といった支持体表面の防曇、防滴に用いることができる。
【0065】
ところで、例えば、ポリエステル樹脂シートの表面の水滴接触角は通常60〜70度であるが、本発明においては、そのシートに防曇剤を塗布し、かつ、その防曇性を長期に保持するため、防曇剤を塗布する前のポリエステル樹脂シートの表面を処理することにより、水滴接触角を通常45〜55度、好ましくは46〜53度の範囲に調整するのが好ましい。水滴接触角が55度よりも大きい場合は、防曇剤塗布直後の数時間以内での初期防曇性は良好であるが、目的としている長時間にわたる防曇性が保持できないこともある。また、水滴接触角が45度よりも小さい場合は、シート同士がブロッキングし易くなり、シートがロール状に巻かれた場合、シートの巻き戻しが困難となり、シートそのものとしての使用に支障を来すことがある。シート表面の水滴接触角を上記の範囲とするための処理方法としては、コロナ放電処理や高周波処理によりシート表面を適度に荒らす様な処理が有効である。もちろん、表面未処理の樹脂シートを使用しても構わない。
【0066】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、これらの例に限定されるものではない。
尚、以下の諸例における評価方法は次の通りである。
【0067】
(1)防曇剤溶液調製時の発泡性:
後述の防曇剤溶液100gを200mlのビーカーに移し、攪拌翼により、200rpmの回転速度で1分間攪拌し、泡の発生状況を目視観察し、以下に示す基準で評価した。
○:泡の発生がほとんどなく、生産上問題ないものと判断される。
△:泡が僅かに発生しており、場合によっては生産上問題となる可能性がある。
×:泡が発生し、生産上問題となる可能性が高いと推定される。
【0068】
(2)水滴接触角:
水滴接触角計として、協和界面科学(株)製接触角計「CA−X型」を用い、滴下液にはイオン交換水を使用した。試料シートの表面に滴下する水滴の量は1.8μLで、滴下後10秒以内に1回の測定を行った。
【0069】
(3)防曇性:
60℃程度の温水の入ったビーカーの上部に試料シートを10秒間かざし、水蒸気が試料シート表面に凝結する状況を目視観察し、以下に示す基準で評価した。
○:ほとんど水滴がない。
△:僅かに水滴が発生している。
×:全体的に水滴が発生している。
【0070】
(4)耐久性
上記(3)の防曇性の評価で使用した試料シートをビーカーに入れた水に10秒間浸漬し、風乾後に再び(3)の試験を繰り返し行い、以下に示す基準で評価した。
○:5回以上の繰り返しに耐える。
△:2〜4回の繰り返しに耐える。
×:1回で防曇効果をほとんど失う。
【0071】
(5)密着性
市販の粘着テープを試料シートに貼り付け、5分後に剥離した後に上記(3)の防曇性の評価を行い、以下に示す基準で評価を行い密着性の指標とした。
○:ほとんど剥がれがなく、防曇性を持続している
△:一部剥がれがある。
×:ほぼ全面が剥がれ、防曇性がなくなっている。
【0072】
(6)べたつき性:
試料シートをA4サイズに切断し、防曇剤の塗布面と非塗布面を合わせ、500kg/m2の圧力で1分間プレスした。手で両方のシートを剥がし、その際の剥がし感覚を以下に示す基準で評価した。
○:ほとんどべたつきがなく、スムーズに剥がれる。
△:僅かにべたつきがあり、製品として問題となる可能性がある。
×:べとつき感が強く、製品として問題となる可能性が高い。
【0073】
[エステルオリゴマーの合成]
以下に示す方法で、エステルオリゴマーの合成を行った。(実施例1、2及び比較例1)
「実施例1」
【0074】
攪拌機、還流冷却機、温度計、圧力計、加熱装置などを装備した、容積が2リットルのガラス製反応器に、無水フタル酸300g、数平均分子量400のポリエチレングリコール541g、イソノニルアルコール244gを仕込み、反応器の空間部を窒素ガス置換した後、反応器内用物の加熱を開始した。反応器内温が200℃に達した時点で、触媒としてテトライソプロピルチタネート0.5gを反応器内に添加し、反応を開始した。その後、1時間かけて内温を215℃に昇温し、反応終了時までこの温度を保持した。一方、反応器内の圧力は、内温が200℃の時点から内温が215℃に達するまでは、100.0kPaに維持した。その後、3時間かけて徐々に減圧して、13.3kPaとし、さらに4時間かけて徐々に減圧して、4.0kPaとし、エステル化反応が終了するまでこの圧力を保持した。反応の進行に伴い、反応混合物は均一な溶液になることが、目視観察された。反応進行中に、反応混合物の一部を反応器から抜き出して、抜き出した試料につき、酸価を測定してエステル化反応の進行状況確認の指標とした。エステル化反応の終了は、酸価が3.0程度となり、かつ、反応混合物が均一な溶液となった時点とした。エステル化反応終了後、1時間かけて1.3kPaまで減圧し、さらに1時間反応を行った後に加熱を停止して100℃付近まで冷却し、反応生成物を抜き出した。ここで得られたエステルオリゴマーを「エステルオリゴマー−1」とした。このものの、数平均分子量は1500、エステルモノマー成分量は10〜20wt%であった。なお、エステルモノマーの成分量は、GPC法で測定した。カラムには、東ソー製「TSK-GEL G1000 HXL」、「TSK-GEL G2000HXL」、「TSK-GEL G3000 HXL」(何れも、直径7.8mm,長さ300mm)を3本直列に接続して使用した。溶離液:THF(流速1.0ml/min)、カラム温度:40℃、検出器:RIの条件で測定した。(以下同じ)
「実施例2」
【0075】
実施例1の仕込み原料において、無水フタル酸を312g、数平均分子量400のポリエチレングリコールを422g、イソノニルアルコールを380gとした以外は、同様の手順で反応させた。ここで得られたエステルオリゴマーを「エステルオリゴマー−2」とした。このものの、数平均分子量は950、エステルモノマー成分量:20〜30wt%であった。

「比較例1」
【0076】
実施例1の仕込み原料において、無水フタル酸を499g、数平均分子量400のポリエチレングリコールの代わりにジエチレングリコールを238g、イソノニルアルコールを405gとした以外は、同様の手順で反応させた。ここで得られたエステルオリゴマーを「エステルオリゴマー−3」とした。このものの数平均分子量は900、エステルモノマー成分量は20〜30wt%であった。
【0077】
[防曇剤溶液の作成]
以下に示す方法で、各種防曇剤溶液を調整して発泡性の評価を行い、結果を「表1」に示した。(実施例3、4及び比較例2〜4)
「実施例3」
【0078】
上記で合成した「エステルオリゴマー−1」の水/イソプロパノール=15/85(重量部)の1wt%溶液を調製して「防曇剤溶液−1」として評価に用いた。
「実施例4」
【0079】
同様に、上記で合成した「エステルオリゴマー−2」の水/イソプロパノール=15/85(重量部)の1wt%溶液を調製して「防曇剤溶液−2」として評価に用いた。
「比較例2」
【0080】
同様に、上記で合成した「エステルオリゴマー−3」の水/イソプロパノール=15/85(重量部)の1wt%溶液を調製して「防曇剤溶液−3」として評価に用いた。
「比較例3」
【0081】
一般的なショ糖脂肪酸エステルとして、三菱化学フーズ株式会社製「リョートーシュガーエステル LWA−1570」を同様に水/イソプロパノール=15/85(重量部)の1wt%溶液になるように調整し、「防曇剤溶液−4」として評価に用いた。
尚、「リョートーシュガーエステル LWA−1570」の成分重量は以下のとおりである。
ショ糖脂肪酸エステル:40%
エタノール:4%
水:56%
「比較例4」
【0082】
エステルモノマーとして、和光純薬株式会社製「ジイソノニルアルコール(以下、DINP)を同様に水/イソプロパノール=15/85(重量部)の1wt%溶液になるように調整し、「防曇剤溶液−5」として評価に用いた。
【0083】
【表1】

[評価用樹脂シートの作製]
以下に示す方法で、各種評価用樹脂シートを調整し、前述の評価方法で防曇性等の評価を行った。評価結果を「表2」に示した。(実施例5、6及び比較例5〜8)
【0084】
上記の防曇剤溶液をポリスチレン(以下、PS)、ポリエチレンテレフタレート(以下、PET)の樹脂シート及びガラス板に各防曇剤溶液を12μmのバーコーターで塗布後、乾燥することで評価用の樹脂シートを作成した。また、防曇剤溶液を塗布しないものをブランクとした。
尚、PS及びPETは市販のシート(表面コートなし、コロナ処理済)を使用し、ガラス板は一般的なスライドガラスを使用した。
【0085】
【表2】

【0086】
「参考例」
本発明の防曇溶液−1をガーゼに染み込ませ、ガラス板に軽く塗り込んで同様の評価を行ったところ、先程のガラス板に塗布したものと同じような結果が得られた。ガーゼに染み込ませ、ガラス板に軽く塗り込む作業は、厚く(ムラもできるが)塗布することと同じ意味合いではあるが、本発明の防曇剤はこのような使い方も可能であることがわかる。
【0087】
「表−1」、[表−2]より、主に以下のことが明らかである。
(1)実施例3、4と比較例3の比較結果
本発明のエステルオリゴマーを有効成分とする本発明の防曇剤は、ショ糖脂肪酸エステルに比べ防曇剤溶液の調製時に泡が発生し難い。
(2)実施例5、6と比較例5、7の比較結果
本発明の(b)多価アルコール成分として数平均分子量400のポリエチレングリコールを用いたエステルオリゴマー−1、−2を使用した実施例5、6の場合、使用しなかったエステルオリゴマー−3やエステルモノマーであるDINPを用いた比較例5、7の場合に比べ、水滴接触角が低く、防曇性が優れている。
(3)実施例5、6と比較例6の比較結果
本発明のエステルオリゴマー−1、−2を使用した実施例5、6の場合、ショ糖脂肪酸エステルを用いた比較例6の場合と比べ、耐久性、べたつき性に優れている。水滴接触角、防曇性及び密着性にはあまり差異がない。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明によれば、優れた防曇性及びその持続性(耐久性)を有するとともに、極めて簡便、容易にその防曇性を樹脂製品、ガラス製品、反射鏡、金属製品等の支持体に付与することができる新規なエステルオリゴマーを有効成分とする防曇剤を提供し、さらにはこの防曇剤を塗布することにより、防曇層を形成させた防曇体を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)多価カルボン酸成分、(b)多価アルコール成分及び(c)分子量調節剤としての1価アルコール成分又は1価カルボン酸成分から得られるエステルオリゴマーであって、(b)多価アルコール成分がポリエチレングリコールを含むものであることを特徴とするエステルオリゴマー。
【請求項2】
(a)多価カルボン酸成分が、炭素数8〜12の芳香族多価カルボン酸又は炭素数4〜8の脂肪族多価カルボン酸であることを特徴とする請求項1に記載のエスエルオリゴマー。
【請求項3】
(a)多価カルボン酸成分が、無水フタル酸であることを特徴とする請求項1に記載のエステルオリゴマー。
【請求項4】
ポリエチレングリコールが、数平均分子量150〜1000のポリエチレングリコールであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のエステルオリゴマー。
【請求項5】
ポリエチレングリコールが、数平均分子量400のポリエチレングリコールであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のエステルオリゴマー。
【請求項6】
エステルオリゴマーの数平均分子量が、500〜5000の範囲にあることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のエステルオリゴマー。
【請求項7】
エステルオリゴマー中のエステルモノマー成分の割合が、40wt%以下であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載のエステルオリゴマー。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載のエステルオリゴマーを有効成分とする防曇剤。
【請求項9】
支持体表面に請求項8に記載の防曇剤による防曇層を有することを特徴とする防曇体。
【請求項10】
支持体が、樹脂製品、ガラス製品、反射鏡又は金属製品のいずれかであることを特徴とする請求項9に記載の防曇体。



【公開番号】特開2007−297477(P2007−297477A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−125566(P2006−125566)
【出願日】平成18年4月28日(2006.4.28)
【出願人】(000199795)川崎化成工業株式会社 (133)
【Fターム(参考)】