説明

エステル交換触媒

【課題】エステル交換反応によって(メタ)アクリル酸エステルを製造する際に短時間で触媒活性が失活せず、当該(メタ)アクリル酸エステルの収率を高めるエステル交換触媒およびそのエステル交換触媒を用いた(メタ)アクリル酸エステルの製造方法を提供すること。
【解決手段】式(I):


(式中、R1およびR2は、それぞれ独立して、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基または炭素数7〜12のアラルキル基、Xはアルカリ金属原子またはアルカリ土類金属原子、nはXの原子価を表わす数を示す)で表されるジチオカルバミン酸塩を有効成分として含有するエステル交換触媒、およびアルコールと(メタ)アクリル酸エステルとを当該エステル交換触媒の存在下でエステル交換反応させることを特徴とする(メタ)アクリル酸エステルの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エステル交換触媒に関する。さらに詳しくは、エステル交換触媒および当該エステル交換触媒を用いた(メタ)アクリル酸エステルの製造方法に関する。
【0002】
なお、本明細書において、「(メタ)アクリル酸」は、アクリル酸および/またはメタクリル酸を意味する。
【背景技術】
【0003】
メタクリル酸エステルをエステル交換反応によって製造する方法として、メタクリル酸メチルなどのメタクリル酸エステルとアルコールとを水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物や、リチウムメトキシド、ナトリウムメトキシドなどのアルカリ金属アルコキシドなどのエステル交換触媒の存在下でエステル交換反応させる方法が知られている(例えば、特許文献1−5参照)。
【0004】
しかし、この方法に使用されているエステル交換触媒は、その触媒活性が短時間で失活するのでメタクリル酸エステルとアルコールとのエステル交換反応を十分に進行させることができないため、エステル交換反応によって生成するメタクリル酸エステルの収率が必然的に低くなるという欠点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭54−61117号公報
【特許文献2】特開平9−31018号公報
【特許文献3】特開2001−97919号公報
【特許文献4】特開2002−3263973号公報
【特許文献5】特許第4137228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記従来技術に鑑みてなされたものであり、エステル交換反応によって(メタ)アクリル酸エステルを製造する際に短時間で触媒活性が失活せず、当該(メタ)アクリル酸エステルの収率を高めるエステル交換触媒およびそのエステル交換触媒を用いた(メタ)アクリル酸エステルの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、
(1)式(I):
【0008】
【化1】

【0009】
(式中、R1およびR2は、それぞれ独立して、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基または炭素数7〜12のアラルキル基、Xはアルカリ金属原子またはアルカリ土類金属原子、nはXの原子価を表わす数を示す)
で表されるジチオカルバミン酸塩を有効成分として含有してなるエステル交換触媒、および
(2)アルコールと(メタ)アクリル酸エステルとを、前記式(I)で表されるジチオカルバミン酸塩を有効成分として含有するエステル交換触媒の存在下でエステル交換反応させることを特徴とする(メタ)アクリル酸エステルの製造方法
に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明のエステル交換触媒は、エステル交換反応によって(メタ)アクリル酸エステルを製造する際に短時間で触媒活性が失活せず、目的とする(メタ)アクリル酸エステルの収率を高めることができる。また、本発明の(メタ)アクリル酸エステルの製造方法によれば、エステル交換反応によって(メタ)アクリル酸エステルを製造する際に短時間で触媒活性を失活させることなく、目的とする(メタ)アクリル酸エステルを収率よく製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のエステル交換触媒に有効成分として含有されるジチオカルバミン酸塩は、式(I):
【0012】
【化2】

【0013】
(式中、R1およびR2は、それぞれ独立して、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基または炭素数7〜12のアラルキル基、Xはアルカリ金属原子またはアルカリ土類金属原子、nはXの原子価を表わす数を示す)
で表される。
【0014】
式(I)において、R1およびR2は、触媒活性を持続させる観点およびエステル交換反応によって得られる(メタ)アクリル酸エステル〔以下、目的(メタ)アクリル酸エステルという〕の収率を高める観点から、それぞれ独立して、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基または炭素数7〜12のアラルキル基である。なお、式(I)で表されるジチオカルバミン酸塩の製造の容易さの観点から、R1およびR2は、それぞれ同一であることが好ましい。
【0015】
炭素数1〜18のアルキル基のなかでは、触媒活性を持続させる観点および目的(メタ)アクリル酸エステルの収率を高める観点から、炭素数1〜12のアルキル基が好ましく、炭素数1〜8のアルキル基がより好ましく、目的(メタ)アクリル酸エステルを製造した後に水洗によって容易に除去することができる観点から、炭素数1〜4のアルキル基がさらに好ましい。炭素数1〜4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基およびターシャリーブチル基が挙げられる。
【0016】
炭素数6〜12のアリール基としては、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、ビフェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0017】
炭素数7〜12のアラルキル基としては、例えば、ベンジル基、フェニルエチル基、メチルベンジル基、ナフチルメチル基などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0018】
式(I)において、Xは、アルカリ金属原子またはアルカリ土類金属原子である。アルカリ金属原子としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウムなどが挙げられる。アルカリ土類金属原子としては、例えば、マグネシウム、カルシウム、バリウムなどが挙げられる。Xのなかでは、触媒活性を持続させる観点および目的(メタ)アクリル酸エステルの収率を高める観点から、ナトリウム、カリウム、マグネシウムおよびカルシウムが好ましく、ナトリウム、カリウムおよびマグネシウムがより好ましく、ナトリウムおよびカリウムがさらに好ましい。
【0019】
式(I)において、nは、Xの原子価を表わす数である。したがって、Xがアルカリ金属である場合、nは1であり、Xがアルカリ土類金属原子である場合、nは2である。
【0020】
式(I)で表されるジチオカルバミン酸塩の具体例としては、ジメチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジプロピルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジブチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジメチルジチオカルバミン酸カリウム、ジエチルジチオカルバミン酸カリウム、ジプロピルジチオカルバミン酸カリウム、ジブチルジチオカルバミン酸カリウム、メチルエチルジチオカルバミン酸ナトリウム、メチルプロピルジチオカルバミン酸ナトリウム、エチルプロピルジチオカルバミン酸ナトリウム、メチルブチルジチオカルバミン酸ナトリウム、メチルエチルジチオカルバミン酸カリウム、メチルプロピルジチオカルバミン酸カリウム、エチルプロピルジチオカルバミン酸カリウム、メチルブチルジチオカルバミン酸カリウム、ジフェニルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジトリルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジキシリルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジビフェニルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジナフチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジアントリルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジフェナントリルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジフェニルジチオカルバミン酸カリウム、ジトリルジチオカルバミン酸カリウム、ジキシリルジチオカルバミン酸カリウム、ジビフェニルジチオカルバミン酸カリウム、ジナフチルジチオカルバミン酸カリウム、ジアントリルジチオカルバミン酸カリウム、ジフェナントリルジチオカルバミン酸カリウム、ジベンジルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジフェニルエチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジメチルベンジルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジナフチルメチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジベンジルジチオカルバミン酸カリウム、ジフェニルエチルジチオカルバミン酸カリウム、ジメチルベンジルジチオカルバミン酸カリウム、ジナフチルメチルジチオカルバミン酸カリウムなどのジチオカルバミン酸アルカリ金属塩;およびジメチルジチオカルバミン酸マグネシウム、ジエチルジチオカルバミン酸マグネシウム、ジプロピルジチオカルバミン酸マグネシウム、ジブチルジチオカルバミン酸マグネシウム、ジメチルジチオカルバミン酸カルシウム、ジエチルジチオカルバミン酸カルシウム、ジプロピルジチオカルバミン酸カルシウム、ジブチルジチオカルバミン酸カルシウム、メチルエチルジチオカルバミン酸マグネシウム、メチルプロピルジチオカルバミン酸マグネシウム、エチルプロピルジチオカルバミン酸マグネシウム、メチルブチルジチオカルバミン酸マグネシウム、メチルエチルジチオカルバミン酸カルシウム、メチルプロピルジチオカルバミン酸カルシウム、エチルプロピルジチオカルバミン酸カルシウム、メチルブチルジチオカルバミン酸カルシウム、ジフェニルジチオカルバミン酸マグネシウム、ジトリルジチオカルバミン酸マグネシウム、ジキシリルジチオカルバミン酸マグネシウム、ジビフェニルジチオカルバミン酸マグネシウム、ジナフチルジチオカルバミン酸マグネシウム、ジアントリルジチオカルバミン酸マグネシウム、ジフェナントリルジチオカルバミン酸マグネシウム、ジフェニルジチオカルバミン酸カルシウム、ジトリルジチオカルバミン酸カルシウム、ジキシリルジチオカルバミン酸カルシウム、ジビフェニルジチオカルバミン酸カルシウム、ジナフチルジチオカルバミン酸カルシウム、ジアントリルジチオカルバミン酸カルシウム、ジフェナントリルジチオカルバミン酸カルシウム、ジベンジルジチオカルバミン酸マグネシウム、ジフェニルエチルジチオカルバミン酸マグネシウム、ジメチルベンジルジチオカルバミン酸マグネシウム、ジナフチルメチルジチオカルバミン酸マグネシウム、ジベンジルジチオカルバミン酸カルシウム、ジフェニルエチルジチオカルバミン酸カルシウム、ジメチルベンジルジチオカルバミン酸カルシウム、ジナフチルメチルジチオカルバミン酸カルシウムなどのジチオカルバミン酸アルカリ土類金属塩が挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0021】
式(I)で表されるジチオカルバミン酸塩のなかでは、エステル交換反応後に水洗によって分離させて回収し、再利用することができることから、アルキル基の炭素数が1〜4のジアルキルジチオカルバミン酸塩が好ましく、アルキル基の炭素数が1〜4のジアルキルジチオカルバミン酸アルカリ金属塩がより好ましく、ジメチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジプロピルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジブチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジメチルジチオカルバミン酸カリウム、ジエチルジチオカルバミン酸カリウム、ジプロピルジチオカルバミン酸カリウムおよびジブチルジチオカルバミン酸カリウムがさらに好ましい。
【0022】
式(I)で表されるジチオカルバミン酸塩は、その1種類だけで用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0023】
本発明のエステル交換触媒は、式(I)で表されるジチオカルバミン酸塩を有効成分として含有するものである。したがって、本発明のエステル交換触媒は、式(I)で表されるジチオカルバミン酸塩のみで構成されていてもよく、本発明の目的が阻害されない範囲内で、他のエステル交換触媒が併用されていてもよい。他のエステル交換触媒としては、例えば、特開2002−326973号公報の段落[0043]に記載のものなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0024】
式(I)で表されるジチオカルバミン酸塩の量は、エステル交換に供される原料の(メタ)アクリル酸エステル〔以下、原料(メタ)アクリル酸エステルという〕およびアルコールの種類などによって異なるので一概には決定することができない。通常、式(I)で表されるジチオカルバミン酸塩の量は、アルコール1モルあたり、目的(メタ)アクリル酸エステルを迅速に製造するとともに収率を高める観点から、好ましくは0.0001モル以上、より好ましくは0.001モル以上あり、経済性の観点から、好ましくは0.1モル以下、より好ましくは0.05モル以下である。
【0025】
本発明において、目的(メタ)アクリル酸エステルは、そのエステル基に対応するアルコールと原料(メタ)アクリル酸エステルとを、式(I)で表されるジチオカルバミン酸塩を有効成分として含有するエステル交換触媒の存在下でエステル交換反応させることによって製造することができる。
【0026】
アルコールは、通常、目的(メタ)アクリル酸エステルのエステル基に対応するものが選択される。アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノールなどの1価の脂肪族アルコール;1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコールモノエチルエーテル、ポリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ポリプロピレングリコールモノエチルエーテル、ポリテトラメチレングリコール、トリメチロールエタンなどの脂肪族多価アルコール;シクロプロパノール、シクロヘキサノール、テトラヒドロフルフリルアルコールなどの1価の脂環式アルコール;フェノキシエタノール、ベンジルアルコール、ベンジルオキシエタノール、フェノキシイソプロパノール、フェネチルアルコール、2−フェニルエチルアルコール、シンナミルアルコール、フェニルプロパノール、1−フェノキシ−2−プロパノール、α−メチルベンジルアルコール、p-アニシルアルコール、p-メチルベンジルアルコールなどの1価の芳香族アルコール;フェニルジグリコールなどの芳香族多価アルコールなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0027】
原料(メタ)アクリル酸エステルは、アルコールとのエステル交換反応によって目的(メタ)アクリル酸エステルとなることから、原料(メタ)アクリル酸エステルのエステル基は、アルコールとエステル交換しやすいものを選択することが好ましい。原料(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチルなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。エステル基の炭素数が1〜4の(メタ)アクリル酸エステルは、アルコールとエステル交換しやすいという利点を有することから好ましい。
【0028】
原料(メタ)アクリル酸エステルのなかでは、メタクリル酸エステル、好ましくはエステル基の炭素数が1〜4のメタクリル酸アルキルエステルは、ジチオカルバミン酸塩の失活を防止し、不純物量を低減させることができることから、本発明において好適に使用することができるものである。
【0029】
アルコールと原料(メタ)アクリル酸エステルとの割合に関しては、原料(メタ)アクリル酸エステルのエステル基とアルコールの水酸基との当量比〔原料(メタ)アクリル酸エステルのエステル基/アルコールの水酸基〕は、反応速度を高める観点から、好ましくは1/1以上、より好ましくは1.5/1以上であり、経済性の観点から、好ましくは10/1以下、より好ましくは5/1以下である。
【0030】
アルコールと原料(メタ)アクリル酸エステルとのエステル交換反応の際には、重合を防止する観点から、重合防止剤を用いることが好ましい。
【0031】
重合防止剤としては、例えば、ヒドロキノン、ヒドロキノンモノメチルエーテル、ベンゾキノンなどのキノン系重合防止剤;2,6−ジターシャリーブチルフェノール、2,4−ジターシャリーブチルフェノール、2,6−ジターシャリーブチル−4−メチルフェノール、2,4,6−トリターシャリーブチルフェノールなどのアルキルフェノール系重合防止剤;N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、フェノチアジン、N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミン、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−ベンゾイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1,4−ジヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−ヒドロキシ−4−ベンゾイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンなどのアミン系重合防止剤;ジメチルジチオカルバミン酸銅、ジエチルジチオカルバミン酸銅、ジブチルジチオカルバミン酸銅などのジチオカルバミン酸銅系重合防止剤;2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、4−ベンゾイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシルのエステルなどのN−オキシル系重合防止剤;硫酸銅、酸化銅、塩化銅などの銅化合物などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0032】
重合防止剤の量は、アルコールや原料(メタ)アクリル酸エステルの種類などによって異なるので一概には決定することができないが、通常、原料(メタ)アクリル酸エステル100重量部あたり、重合を十分に抑制する観点から、好ましくは0.0001重量部以上、より好ましくは0.0005重量部以上であり、経済性の観点から、好ましくは1重量部以下、より好ましくは0.5重量部以下である。
【0033】
アルコールと原料(メタ)アクリル酸エステルとのエステル交換反応は、必要により、有機溶媒中で行なうことができる。有機溶媒としては、エステル交換反応に対して不活性であるものが好ましい。好適な有機溶媒の例としては、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテルなどのエーテル系化合物;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素化合物;ペンタン、ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素化合物;シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素化合物;クロロホルム、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素化合物などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0034】
有機溶媒の量は、特に限定されないが、アルコールと原料(メタ)アクリル酸エステルとの合計量100重量部あたり、0重量部以上であるが、反応効率を高める観点から、好ましくは10重量部以上であり、経済性の観点から、好ましくは500重量部以下、より好ましくは100重量部以下である。
【0035】
アルコールと原料(メタ)アクリル酸エステルとのエステル交換反応の際の反応温度は、副生するアルコールを除去する観点から、副生するアルコールの沸点以上であるか、または有機溶媒を用いる場合には、副生するアルコールと有機溶媒との共沸温度以上であることが好ましい。前記反応温度は、通常、50〜150℃の範囲内から適宜選択される。
【0036】
アルコールと原料(メタ)アクリル酸エステルとのエステル交換反応は、常圧で行なってもよく、あるいは減圧下で行なってもよい。また、アルコールと原料(メタ)アクリル酸エステルとのエステル交換反応の際の雰囲気は、重合防止の観点から、酸素を含む雰囲気であることが好ましく、大気であることがより好ましい。エステル交換反応は、アルコールと原料(メタ)アクリル酸エステルとの混合物に空気を吹き込みながら行なうことが重合防止の観点から好ましい。
【0037】
アルコールと原料(メタ)アクリル酸エステルとのエステル交換反応に要する時間は、他の反応条件などによって異なるので一概には決定することができない。通常、アルコールと原料(メタ)アクリル酸エステルとのエステル交換反応に要する時間は、エステル交換反応が完了するように調整することが好ましい。
【0038】
アルコールと原料(メタ)アクリル酸エステルとのエステル交換反応を行なう際、副生するアルコールを有機溶媒との共沸によって除去する場合には、例えば、精留塔などを用いることが好ましい。
【0039】
エステル交換反応の進行状況および反応終了後における反応混合物の組成は、例えば、ガスクロマトグラフィー、液体クロマトクロマトグラフィーなどによって確認することができる。
【0040】
反応混合物に含まれている目的(メタ)アクリル酸エステルは、必要により、例えば、濾過、水洗、蒸留、抽出、デカンテーションなどにより、精製することができる。
【0041】
回収された目的(メタ)アクリル酸エステルは、例えば、樹脂原料、医薬品原料、各種化合物の製造中間体などとして使用することができる。
【実施例】
【0042】
次に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0043】
実施例1
温度計、空気導入管および撹拌機を取り付けた1リットル容の4つ口フラスコに20段オールダーショウ型精留塔、冷却管およびデカンターを取り付けた反応装置を使用した。
【0044】
前記フラスコ内に、1,3−ブタンジオール108.14g(1.2モル)、メチルメタクリレート383.26g(3.83モル、アルコール1モルあたりの量:3.19モル)、n−ヘキサン225.4g、ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム(固体)2.704g(0.012モル、アルコール1モルあたりの量:0.01モル)およびN,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミン0.27gを仕込んだ。
【0045】
空気を5mL/minの流量で空気導入管からフラスコ内に吹き込み、加熱し、反応を開始した。共沸するメタノールとヘキサンとの混合物をデカンターで静置し、ヘキサン層を精留塔に戻し、分離したメタノール層を抜き出すことにより、連続的に反応を進めた。このエステル交換反応を13時間行なった。その間の塔頂温度は57〜66℃、ボトム温度は75〜83℃であった。
【0046】
エステル交換反応の終了時における反応混合物の組成をガスクロマトグラフィーにて分析した。その結果、その組成は、目的とする1,3−ブタンジオールジメタクリレート94.3重量%、モノエステル1.1重量%および不純物4.6重量%であった。
【0047】
実施例2
実施例1において、1,3−ブタンジオールをエチレングリコール74.5g(1.2モル)に代えたこと以外は、実施例1と同様にしてエステル交換反応を行なったところ、11時間で反応が終了した。
【0048】
エステル交換反応の終了時における反応混合物の組成をガスクロマトグラフィーにて分析した。その結果、その組成は、目的とするエチレングリコールジメタクリレート90.0重量%、モノエステル1.2重量%および不純物8.8重量%であった。
【0049】
実施例3
実施例1で用いたのと同じ反応装置を用い、フラスコ内に、ベンジルアルコール216.3g(2モル)、メチルメタクリレート300.4g(3.0モル、アルコール1モルあたりの量:1.5モル)、n−ヘキサン216g、ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム2.25g(0.01モル、アルコール1モルあたりの量:0.005モル)およびN,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミン0.27gを仕込み、実施例1と同様にしてエステル交換反応を行なったところ、反応は7時間で終了した。
【0050】
エステル交換反応の終了時における反応混合物の組成をガスクロマトグラフィーにて分析した。その結果、その組成は、目的とするベンジルメタクリレート94.6重量%、ベンジルアルコール0.4%および不純物5.0重量%であった。
【0051】
実施例4
実施例3において、ベンジルアルコールをテトラヒドロフルフリルアルコール204.3g(2.0モル)に代えたこと以外は、実施例3と同様にしてエステル交換反応を行なったところ、反応は6時間で終了した。
【0052】
エステル交換反応の終了時における反応混合物の組成をガスクロマトグラフィーにて分析した。その結果、その組成は、目的とするテトラヒドロフルフリルメタクリレート93.0重量%、テトラヒドロフルフリルアルコール1.9%および不純物5.1重量%であった。
【0053】
実施例5
実施例1において、ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウムの量を1.35g(0.005モル)に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてエステル交換反応を行なったところ、反応は12時間で終了した。
【0054】
エステル交換反応の終了時における反応混合物の組成をガスクロマトグラフィーにて分析した。その結果、その組成は、目的とする1,3−ブタンジオールジメタクリレート91.9重量%、モノエステル3.6重量%および不純物4.5重量%であった。
【0055】
実施例6
実施例1において、ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウムの量を0.68g(0.0025モル)に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてエステル交換反応を行なったところ、反応は13時間で終了した。
【0056】
エステル交換反応の終了時における反応混合物の組成をガスクロマトグラフィーにて分析した。その結果、その組成は、目的とする1,3−ブタンジオールジメタクリレート91.7重量%、モノエステル4.7重量%および不純物3.6重量%であった。
【0057】
実施例7
実施例1において、ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム(固体)の代わりに22%ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム水溶液12.3g(ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウムの含有量:2.70g、0.012モル、アルコール1モルあたりの量:0.01モル)を使用したこと以外は、実施例1と同様にしてエステル交換反応を行なったところ、反応は14時間で終了した。
【0058】
エステル交換反応の終了時における反応混合物の組成をガスクロマトグラフィーにて分析した。その結果、その組成は、目的とする1,3−ブタンジオールジメタクリレート92.1重量%、モノエステル4.7重量%および不純物3.2重量%であった。
【0059】
この結果から、実施例1のようにジエチルジチオカルバミン酸ナトリウムを固体で用いる場合と対比して、目的(メタ)アクリル酸エステルの収率がやや低下していることから、ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウムを水溶液で用いた場合には、触媒活性がやや低下することがわかる。しかし、アルコールをフラスコ内に仕込む前に反応系内の水分の除去を十分に行なえば、実施例1の結果から、触媒活性を高めて収率よく目的(メタ)アクリル酸エステルを得ることができることがわかる。
【0060】
比較例1
実施例1で用いたのと同じ反応装置を用い、フラスコ内に、1,3−ブタンジオール108.14g(1.2モル)、メチルメタクリレート383.26g(3.83モル、アルコール1モルあたりの量:3.19モル)、n−ヘキサン225.4gおよびN,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミン0.27gを仕込み、75〜80℃に加熱し、全還流で脱水を行なった後、ナトリウムメチラート0.23g(0.0012モル)を添加し、エステル交換反応を行なったところ、反応開始から3時間で反応が進行しなくなった。
【0061】
その時点で、得られた反応混合物の組成をガスクロマトグラフィーにて分析した。その結果、その組成は、目的とする1,3−ブタンジオールジメタクリレート73.2重量%、モノエステル16.9重量%および不純物9.9重量%であった。このことから、エステル交換反応が完全に終了していないことが確認された。
【0062】
比較例2
実施例1で用いたのと同じ反応装置を用い、フラスコ内に、1,3−ブタンジオール108.14g(1.2モル)、メチルメタクリレート383.26g(3.83モル、アルコール1モルあたりの量:3.19モル)、n−ヘキサン225.4gおよびN,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミン0.27gを仕込み、75〜80℃に加熱し、全還流で脱水を行なった後、水酸化リチウム0.05gを添加し、エステル交換反応を行なったところ、反応開始から4時間で反応が進行しなくなった。
【0063】
その時点で、得られた反応混合物の組成をガスクロマトグラフィーにて分析した。その結果、その組成は、目的とする1,3−ブタンジオールジメタクリレート74.4重量%、モノエステル17.8重量%および不純物7.8重量%であった。このことから、エステル交換反応が終了していないことが確認された。
【0064】
比較例3
実施例1で用いたのと同じ反応装置を用い、フラスコ内に、1,3−ブタンジオール108.14g(1.2モル)、メチルメタクリレート383.26g(3.83モル、アルコール1モルあたりの量:3.19モル)、n−ヘキサン225.4gおよびN,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミン0.27gを仕込み、75〜80℃に加熱し、全還流で脱水を行なった後、水酸化ナトリウム0.05gを添加し、エステル交換反応を行なったところ、反応開始から3時間で反応が進行しなくなった。
【0065】
その時点で、得られた反応混合物の組成をガスクロマトグラフィーにて分析した。その結果、その組成は、目的とする1,3−ブタンジオールジメタクリレート78.9重量%、モノエステル13.2重量%および不純物7.9重量%であった。このことから、エステル交換反応が終了していないことが確認された。
【0066】
比較例4
実施例1で用いたのと同じ反応装置を用い、フラスコ内に、1,3−ブタンジオール108.14g(1.2モル)、メチルメタクリレート383.26g(3.83モル、アルコール1モルあたりの量:3.19モル)、n−ヘキサン225.4gおよびN,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミン0.27gを仕込み、75〜80℃に加熱し、全還流で脱水を行なった後、水酸化カリウム0.07gを添加し、エステル交換反応を行なったところ、反応開始から4時間で反応が進行しなくなった。
【0067】
その時点で、得られた反応混合物の組成をガスクロマトグラフィーにて分析した。その結果、その組成は、目的とする1,3−ブタンジオールジメタクリレート76.9重量%、モノエステル19.3重量%および不純物3.8重量%であった。このことから、エステル交換反応が終了していないことが確認された。
【0068】
比較例5
実施例1において、ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウムの代わりに、ジエチルジチオカルバミン酸銅0.01モルを使用したこと以外は、実施例1と同様にしてエステル交換反応を5時間行なったが、エステル交換反応がまったく進行せず、目的とするジエステルが生成しなかった。
【0069】
比較例6
実施例1において、ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウムの代わりに、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛0.01モルを使用したこと以外は、実施例1と同様にしてエステル交換反応を5時間行なったが、エステル交換反応がまったく進行せず、目的とするジエステルが生成しなかった。
【0070】
以上の結果から、各実施例によれば、式(I)で表されるジチオカルバミン酸塩を有効成分とするエステル交換触媒が用いられているので、エステル交換反応によって(メタ)アクリル酸エステルを製造する際に短時間で触媒活性が失活せず、目的とする(メタ)アクリル酸エステルの収率を高めることができることがわかる。また、各実施例によれば、エステル交換反応によって(メタ)アクリル酸エステルを製造する際に短時間で触媒活性を失活させずに、目的(メタ)アクリル酸エステルを収率よく製造することができることがわかる。
【0071】
実施例8
実施例1で得られた反応混合物612gに室温で水15gを加えて攪拌し、有機層と水層とを分離することにより、水層のジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム水溶液を17g回収した。
【0072】
回収されたジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム水溶液17gとメチルメタクリレート383.26g(3.83モル、アルコール1モルあたりの量:3.19モル)、n−ヘキサン225.4gおよびN,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミン0.27gを実施例1で用いたのと同じ反応装置のフラスコ内に仕込み、75〜80℃で共沸脱水を行なった後、1,3−ブタンジオール108.14g(1.2モル)を加え、13時間反応を行なった。
【0073】
エステル交換反応の終了時における反応混合物の組成をガスクロマトグラフィーにて分析した。その結果、その組成は、目的とする1,3−ブタンジオールジメタクリレート91.1重量%、モノエステル5.6重量%および不純物3.3重量%であった。
【0074】
このことから、触媒として、ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウムなどのアルキル基の炭素数が1〜4のジアルキルジチオカルバミン酸アルカリ金属塩を用いた場合には、水洗後に回収して再使用することができることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】

(式中、R1およびR2は、それぞれ独立して、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基または炭素数7〜12のアラルキル基、Xはアルカリ金属原子またはアルカリ土類金属原子、nはXの原子価を表わす数を示す)
で表されるジチオカルバミン酸塩を有効成分として含有してなるエステル交換触媒。
【請求項2】
式(I)において、R1およびR2が、それぞれ独立して、炭素数1〜4のアルキル基である請求項1に記載のエステル交換触媒。
【請求項3】
アルコールと(メタ)アクリル酸エステルとを、式(I):
【化2】

(式中、R1およびR2は、それぞれ独立して、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基または炭素数7〜12のアラルキル基、Xはアルカリ金属原子またはアルカリ土類金属原子、nはXの原子価を表わす数を示す)
で表されるジチオカルバミン酸塩を有効成分として含有するエステル交換触媒の存在下でエステル交換反応させることを特徴とする(メタ)アクリル酸エステルの製造方法。
【請求項4】
式(I)において、R1およびR2が、それぞれ独立して、炭素数1〜4のアルキル基である請求項3に記載の(メタ)アクリル酸エステルの製造方法。
【請求項5】
原料として使用される(メタ)アクリル酸エステルが、エステル基の炭素数が1〜4のメタクリル酸アルキルエステルである請求項3または4に記載の(メタ)アクリル酸エステルの製造方法。

【公開番号】特開2010−172839(P2010−172839A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−19266(P2009−19266)
【出願日】平成21年1月30日(2009.1.30)
【出願人】(000205638)大阪有機化学工業株式会社 (101)
【Fターム(参考)】