説明

エステル又はラクトンの製造法

【課題】2級アルコールから対応するエステル又はラクトンを、簡易な操作により高い選択率で工業的に効率よい製造方法の提供。
【解決手段】第2級アルコール[Ra−CH(OH)−Rb、(Ra;Rbは、隣接する炭素原子との結合部位に炭素原子を有する有機基を示し、互いに結合して隣接する炭素原子と共に環を形成してもよい)]を、下記式(I)で表される骨格を環の構成要素として含む窒素原子含有環状化合物及びハロゲン原子含有カルボン酸、ハロゲン原子非含有スルホン酸、又はハロゲン原子含有フェノールの存在下、分子状酸素により酸化して対応するエステルまたはラクトンを得る方法。


[Xは酸素原子又は−OR基(Rは水素原子又はヒドロキシル基の保護基を示す)]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エステル又はラクトンの製造法、より詳細には、第2級アルコール及びケトンを分子状酸素で酸化して対応するエステル又はラクトンを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エステル又はラクトンは、医薬、香料、染料、有機合成中間体及び高分子樹脂原料として重要な化合物である。エステル又はラクトンを得る方法として、鎖状又は環状ケトンを過安息香酸、過酢酸、三フッ化過酢酸などの過酸と反応させる、いわゆるBaeyer−Villiger転位(酸化)により生成させる方法が知られている。しかし、過酸は不安定であり、取扱いに格別の注意が必要である。また、過酸を用いる反応では、当量のカルボン酸が副生する。
【0003】
エステル又はラクトンを製造する他の方法として、第2級アルコールをイミド化合物の存在下で分子状酸素により酸化した後、酸で処理して、対応するエステル又はラクトンを生成させる方法が知られている(特許文献1参照)。しかし、この方法では、エステル又はラクトンの選択率が低く、工業的方法として十分満足できる方法とはいえない。また、第2級アルコールを窒素原子含有環状化合物の存在下、分子状の酸素により酸化した後、周期表16族第4〜6周期元素を含む化合物で処理して、対応するエステル又はラクトンを得る方法も知られている(特許文献2参照)。しかし、この方法も目的化合物の分離精製のしやすさ等の点で必ずしも満足できるものではない。
【0004】
これを解決する方法として、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール(HFIP)等のフッ素系アルコールを溶媒として使用する方法が見出されている(非特許文献3参照)。しかし、HFIP等のフッ素系アルコールは一般に低沸点であり、例えばHFIPの沸点は58℃である。また、フッ素系アルコールは高価であり、そのためフッ素系アルコールの製造プロセスにおいて、気相部への溶媒のロスが問題となっている。さらに、高い効率でエステル又はラクトンを製造するために、より反応速度の高い製造方法が必要とされている。
【0005】
【特許文献1】国際公開第99/50204号パンフレット
【特許文献2】特開2004−256483号公報
【非特許文献3】第100回触媒討論会 討論会A予稿集(2007年、第237頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、第2級アルコール又はその酸化物(過酸化物)から対応するエステル又はラクトンを、簡易な操作により高い選択率および高反応速度で工業的に効率よく、かつ溶媒のロスを低減できる条件で製造しうる方法を提供することにある。
【0007】
さらに、本発明の他の目的は、ケトンから対応するエステル又はラクトンを、簡易な操作により高い選択率および高反応速度で工業的に効率よく、かつ溶媒のロスを低減できる条件で製造しうる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記目的を達成するため鋭意検討した結果、ハロゲン原子含有カルボン酸、ハロゲン原子非含有スルホン酸及びハロゲン原子含有フェノールからなる群より選択された少なくとも1種の化合物が、第2級アルコールの酸化反応において、環状イミド系化合物等の窒素原子含有環状化合物触媒と併用する場合には、いわゆるBaeyer−Villiger型の反応をより円滑に進行させ、対応するエステル又はラクトンの選択率を向上させる機能を有すること、及び第2級アルコールの酸化物である特定構造の過酸化物(第2級アルコールの二量化過酸化物)を速やかに分解して第2級アルコールに対応するエステル又はラクトンを生成させる機能を有することを見出した。そして、さらに検討を加え、(i)第2級アルコールを特定の窒素原子含有環状化合物触媒と、ハロゲン原子含有カルボン酸、ハロゲン原子非含有スルホン酸及びハロゲン原子含有フェノールからなる群より選択された少なくとも1種の化合物の存在下で分子状酸素により酸化するか、(ii)第2級アルコールを特定の窒素原子含有環状化合物触媒の存在下で分子状酸素により酸化した後、ハロゲン原子含有カルボン酸、ハロゲン原子非含有スルホン酸及びハロゲン原子含有フェノールからなる群より選択された少なくとも1種の化合物で処理するか、又は(iii)第2級アルコールの酸化物である特定構造の過酸化物をハロゲン原子含有カルボン酸、ハロゲン原子非含有スルホン酸及びハロゲン原子含有フェノールからなる群より選択された少なくとも1種の化合物で処理するか、又は(iv)ケトンを第二級アルコールと特定の窒素原子含有環状化合物触媒と、ハロゲン原子含有カルボン酸、ハロゲン原子非含有スルホン酸及びハロゲン原子含有フェノールからなる群より選択された少なくとも1種の化合物の存在下で分子状酸素により酸化するか、又は(v)ケトンを特定の窒素原子含有環状化合物触媒の存在下で分子状酸素により酸化した後、ハロゲン原子含有カルボン酸、ハロゲン原子非含有スルホン酸及びハロゲン原子含有フェノールからなる群より選択された少なくとも1種の化合物で処理すると、温和な条件で反応[上記(i)、(ii)、(iii)、(iv)、(v)の場合は、いわゆるBaeyer−Villiger型の反応]が進行して、対応するエステル又はラクトンが高い選択率で生成し、該エステル又はラクトンを高反応速度で工業的に効率よく、かつ溶媒のロスを低減できる条件で製造できることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、下記式(1)
【化1】

(式中、Ra、Rbは、同一又は異なって、隣接する炭素原子との結合部位に炭素原子を有する有機基を示し、Ra及びRbは互いに結合して、隣接する炭素原子と共に環を形成してもよい)
で表される第2級アルコールを、下記式(I)
【化2】

[式中、Xは酸素原子又は−OR基(Rは水素原子又はヒドロキシル基の保護基を示す)を示す]
で表される骨格を環の構成要素として含む窒素原子含有環状化合物及びハロゲン原子含有カルボン酸、ハロゲン原子非含有スルホン酸、又はハロゲン原子含有フェノールの存在下、分子状酸素により酸化して、下記式(2)
【化3】

(式中、Ra、Rbは、同一又は異なって、隣接するカルボニル炭素原子又は酸素原子との結合部位に炭素原子を有する有機基を示し、Ra及びRbは互いに結合して、隣接するカルボニル炭素原子及び酸素原子と共に環を形成してもよい)
で表される化合物を得ることを特徴とするエステル又はラクトンの製造法(以下、「第1のエステル又はラクトンの製造法」と称する場合がある)を提供する。
【0010】
この製造法において、式(1)で表される第2級アルコールをケトンの存在したで酸化してもよい。
【0011】
本発明は、また、下記式(1)
【化4】

(式中、Ra、Rbは、同一又は異なって、隣接する炭素原子との結合部位に炭素原子を有する有機基を示し、Ra及びRbは互いに結合して、隣接する炭素原子と共に環を形成してもよい)
で表される第2級アルコールを、下記式(I)
【化5】

[式中、Xは酸素原子又は−OR基(Rは水素原子又はヒドロキシル基の保護基を示す)を示す]
で表される骨格を環の構成要素として含む窒素原子含有環状化合物の存在下、分子状酸素により酸化した後、ハロゲン原子含有カルボン酸、ハロゲン原子非含有スルホン酸、又はハロゲン原子含有フェノールで処理して、下記式(2)
【化6】

(式中、Ra、Rbは、同一又は異なって、隣接するカルボニル炭素原子又は酸素原子との結合部位に炭素原子を有する有機基を示し、Ra及びRbは互いに結合して、隣接するカルボニル炭素原子及び酸素原子と共に環を形成してもよい)
で表される化合物を得ることを特徴とするエステル又はラクトンの製造法(以下、「第2のエステル又はラクトンの製造法」と称する場合がある)を提供する。
【0012】
この製造法において、式(1)で表される第2級アルコールをケトンの存在下で酸化してもよい。
【0013】
本発明は、さらに、下記式(3a)及び/又は(3b)
【化7】

(式中、Ra、Rbは、同一又は異なって、隣接する炭素原子との結合部位に炭素原子を有する有機基を示し、Ra及びRbは互いに結合して、隣接する炭素原子と共に環を形成してもよい)
で表される過酸化物をハロゲン原子含有カルボン酸、ハロゲン原子非含有スルホン酸、又はハロゲン原子含有フェノールで処理して、下記式(2)
【化8】

(式中、Ra、Rbは、同一又は異なって、隣接するカルボニル炭素原子又は酸素原子との結合部位に炭素原子を有する有機基を示し、Ra及びRbは互いに結合して、隣接するカルボニル炭素原子及び酸素原子と共に環を形成してもよい)
で表される化合物を得ることを特徴とするエステル又はラクトンの製造法(以下、「第3のエステル又はラクトンの製造法」と称する場合がある)を提供する。
【0014】
本発明は、さらに、ハロゲン原子含有カルボン酸、ハロゲン原子非含有スルホン酸、又はハロゲン原子含有フェノールとして、トリフルオロ酢酸又はメタンスルホン酸を用いることを特徴とするエステル又はラクトンの製造法を提供する。
【0015】
本発明は、さらに、下記式(4)
【化9】

(式中、Rc、Rdは、同一又は異なって、隣接する炭素原子との結合部位に炭素原子を有する有機基を示し、Rc及びRdは互いに結合して、隣接する炭素原子と共に環を形成してもよい)
で表されるケトンを、下記式(5)
【化10】

(式中、Re、Rfは、同一又は異なって、隣接する炭素原子との結合部位に炭素原子を有する有機基を示し、Re及びRfは互いに結合して、隣接する炭素原子と共に環を形成してもよい)
で表される第2級アルコールと、下記式(I)
【化11】

[式中、Xは酸素原子又は−OR基(Rは水素原子又はヒドロキシル基の保護基を示す)を示す]
で表される骨格を環の構成要素として含む窒素原子含有環状化合物及びハロゲン原子含有カルボン酸、ハロゲン原子非含有スルホン酸、又はハロゲン原子含有フェノールの存在下、分子状酸素により酸化して、下記式(6)
【化12】

(式中、Rc、Rdは、同一又は異なって、隣接するカルボニル炭素原子又は酸素原子との結合部位に炭素原子を有する有機基を示し、Rc及びRdは互いに結合して、隣接するカルボニル炭素原子及び酸素原子と共に環を形成してもよい)
で表される化合物を得ることを特徴とするエステル又はラクトンの製造法(以下、「第4のエステル又はラクトンの製造法」と称する場合がある)を提供する。
【0016】
本発明は、さらに、下記式(4)
【化13】

(式中、Rc、Rdは、同一又は異なって、隣接する炭素原子との結合部位に炭素原子を有する有機基を示し、Rc及びRdは互いに結合して、隣接する炭素原子と共に環を形成してもよい)
で表されるケトンを、下記式(5)
【化14】

(式中、Re、Rfは、同一又は異なって、隣接する炭素原子との結合部位に炭素原子を有する有機基を示し、Re及びRfは互いに結合して、隣接する炭素原子と共に環を形成してもよい)
で表される第2級アルコールと、下記式(I)
【化15】

[式中、Xは酸素原子又は−OR基(Rは水素原子又はヒドロキシル基の保護基を示す)を示す]
で表される骨格を環の構成要素として含む窒素原子含有環状化合物の存在下、分子状酸素により酸化した後、ハロゲン原子含有カルボン酸、ハロゲン原子非含有スルホン酸、又はハロゲン原子含有フェノールで処理して、下記式(6)
【化16】

(式中、Rc、Rdは、同一又は異なって、隣接するカルボニル炭素原子又は酸素原子との結合部位に炭素原子を有する有機基を示し、Rc及びRdは互いに結合して、隣接するカルボニル炭素原子及び酸素原子と共に環を形成してもよい)
で表される化合物を得ることを特徴とするエステル又はラクトンの製造法(以下、「第5のエステル又はラクトンの製造法」と称する場合がある)を提供する。
【0017】
なお、本明細書では、第1又は第2のエステル又はラクトンの製造法における「第2級アルコール」、第4又は第5のエステル又はラクトンの製造法におけるケトンを単に「基質」と称する場合がある。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、第2級アルコール、又はその酸化物(第2級アルコールに対応する二量化過酸化物)から対応するエステル又はラクトンを、簡易な操作により、高い選択率及び高反応速度で工業的に効率よく、かつ溶媒のロスを低減できる条件で製造することができる。
【0019】
さらに、本発明によれば、ケトンから対応するエステル又はラクトンを、簡易な操作により、高い選択率及び高反応速度で工業的に効率よく、かつ溶媒のロスを低減できる条件で製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の第1のエステル又はラクトンの製造法では、前記式(1)で表される第2級アルコールを、前記式(I)で表される骨格を環の構成要素として含む窒素原子含有環状化合物及びハロゲン原子含有カルボン酸、ハロゲン原子非含有スルホン酸、又はハロゲン原子含有フェノールの存在下、分子状酸素により酸化して、前記式(2)で表されるエステル又はラクトンを得る。また、本発明の第2のエステル又はラクトンの製造法では、前記式(1)で表される第2級アルコールを、前記式(I)で表される骨格を環の構成要素として含む窒素原子含有環状化合物の存在下、分子状酸素により酸化した後、ハロゲン原子含有カルボン酸、ハロゲン原子非含有スルホン酸、又はハロゲン原子含有フェノールで処理して、前記式(2)で表されるエステル又はラクトンを得る。さらに、本発明の第3のエステル又はラクトンの製造法では、前記式(3a)及び/又は(3b)で表される過酸化物をハロゲン原子含有カルボン酸、ハロゲン原子非含有スルホン酸、又はハロゲン原子含有フェノールで処理して、前記式(2)で表されるエステル又はラクトンを得る。特に、トリフルオロ酢酸、メタンスルホン酸で処理することが好ましい。さらに、本発明の第4のエステル又はラクトンの製造法では、前記式(4)で表されるケトンを、前記式(5)で表される第2級アルコールと前記式(I)で表される骨格を環の構成要素として含む窒素原子含有環状化合物と、ハロゲン原子含有カルボン酸、ハロゲン原子非含有スルホン酸、又はハロゲン原子含有フェノールの存在下、分子状酸素により酸化して、前記式(6)で表されるエステル又はラクトンを得る。さらに、本発明の第5のエステル又はラクトンの製造法では、前記式(4)で表されるケトンを、前記式(5)で表される第2級アルコールと、前記式(I)で表される骨格を環の構成要素として含む窒素原子含有環状化合物の存在下、分子状酸素により酸化した後、ハロゲン原子含有カルボン酸、ハロゲン原子非含有スルホン酸、又はハロゲン原子含有フェノールで処理して、前記式(6)で表されるエステル又はラクトンを得る。
【0021】
[第2級アルコール]
式(1)及び(5)で表される第2級アルコールにおいて、Ra、Rb、Re、Rfで示される「隣接する炭素原子との結合部位に炭素原子を有する有機基」には、炭化水素基及び複素環基が含まれる。炭化水素基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチル、ペンチル、ネオペンチル、ヘキシル、オクチル、デシル、ドデシル、ペンタデシル、ビニル、アリル、1−へキセニル、エチニル、1−ブチニル基などの炭素数1〜20(好ましくは炭素数1〜15、さらに好ましくは炭素数1〜10)程度の脂肪族炭化水素基(アルキル基、アルケニル基又はアルキニル基);シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロペンテニル、シクロヘキシル、シクロへキセニル、シクロオクチル、シクロドデシル基などの3〜20員(好ましくは3〜15員、さらに好ましくは5〜8員)程度の脂環式炭化水素基(シクロアルキル基又はシクロアルケニル基);フェニル、ナフチル基などの炭素数6〜18程度の芳香族炭化水素基などが挙げられる。
【0022】
前記複素環基に対応する複素環として、例えば、ヘテロ原子として酸素原子を含む複素環(例えば、テトラヒドロフラン、クロマン、イソクロマン、フラン、オキサゾール、イソオキサゾール、4−オキソ−4H−ピラン、ベンゾフラン、イソベンゾフラン、4−オキソ−4H−クロメンなど)、ヘテロ原子としてイオウ原子を含む複素環(例えば、チオフェン、チアゾール、イソチアゾール、チアジアゾール、4−オキソ−4H−チオピラン、ベンゾチオフェンなど)、ヘテロ原子として窒素原子を含む複素環(例えば、ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、モルホリン、インドリン、ピロール、ピラゾール、イミダゾール、トリアゾール、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、インドール、キノリン、アクリジン、ナフチリジン、キナゾリン、プリンなど)などが挙げられる。
【0023】
a及びRb、又はRe及びRfが互いに結合して、隣接する炭素原子と共に形成してもよい環には、シクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、シクロペンテン、シクロヘキサン、シクロへキセン、シクロオクタン、シクロドデカン環などの3〜20員(好ましくは3〜15員、さらに好ましくは3〜12員)程度の脂環式炭化水素環(シクロアルカン環又はシクロアルケン環);ノルボルナン環、ノルボルネン環、アダマンタン環などの2〜4環程度の橋かけ環式炭化水素環又は橋かけ環式複素環;テトラヒドロフラン、クロマン、イソクロマン、ピロリジン、ピペリジンなどの5〜8員程度の非芳香族性複素環などが含まれる。
【0024】
前記有機基、並びに、Ra及びRb、又はRe及びRfが互いに結合して、隣接する炭素原子と共に形成してもよい環は、置換基を有していてもよい。このような置換基としては、例えば、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、メルカプト基、オキソ基、置換オキシ基(例えば、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシルオキシ基など)、置換チオ基、カルボキシル基、置換オキシカルボニル基、置換又は無置換カルバモイル基、シアノ基、ニトロ基、置換又は無置換アミノ基、スルホ基、アルキル基(例えば、メチル、エチル、t−ブチル基などのC1-4アルキル基など)、アルケニル基(例えばC2-4アルケニル基など)、アルキニル基(例えばC2-4アルキニル基など)、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、複素環基などが挙げられる。また、前記環には芳香族性又は非芳香族性の環(炭化水素環又は複素環)が縮合していてもよい。
【0025】
式(1)及び(5)で表される第2級アルコールの代表的な例としては、2−プロパノール、2−ブタノール、3−メチル−2−ブタノール、4−メチル−2−ペンタノール、3−メチル−2−ペンタノール、3,3−ジメチル−2−ブタノール、2−ドデカノール、2−メチル−3−ペンタノール、2−メチル−3−ヘプタノール、1−ブテン−3−オール、2−メチル−1−ブテン−3−オール、1−シクロヘキシルエタノール、1−フェニルエタノール、1−(2−メチルフェニル)エタノール、1−(2−ピリジル)エタノール、1−シクロヘキシル−1−フェニルメタノール、ベンズヒドロール(ジフェニルメタノール)、αーフェネチルアルコールなどの脂肪族第2級アルコール類;シクロプロパノール、シクロブタノール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、4−メチルシクロヘキサノール、4−クロロシクロヘキサノール、2,4,4−トリメチルシクロヘキセン−6−オール、シクロヘプタノール、シクロオクタノール、シクロデカノール、シクロドデカノール、シクロペンタデカノール、1,3−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロオクタンジオール、2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシヘキシル)メタン、4−(4−ヒドロキシシクロヘキシル)シクロヘキサノール、2−アダマンタノールなどの脂環式アルコール類などが例示できる。
【0026】
第4又は第5のエステル又はラクトンの製造法の場合、式(5)で表される第2級アルコールの使用量は、基質1モルに対して、例えば0.1〜10モル、好ましくは0.1〜7モル、さらに好ましくは1.1〜5モル程度である。
【0027】
[窒素原子含有環状化合物]
本発明の製造法においては、触媒として、式(I)で表される骨格を環の構成要素として含む窒素原子含有環状化合物を用いる。式(I)において、窒素原子とXとの結合は単結合又は二重結合である。Xは酸素原子又は−OR基(Rは水素原子又はヒドロキシル基の保護基を示す)を示す。前記窒素原子含有環状化合物は、分子中に、式(I)で表される骨格を複数個有していてもよい。また、この窒素原子含有環状化合物は、前記Xが−OR基であり且つRがヒドロキシル基の保護基である場合、式(I)で表される骨格(但し、Xが−OR基である)のうちRを除く部分が複数個、Rを介して結合していてもよい。
【0028】
式(I)中、Rで示されるヒドロキシル基の保護基としては、有機合成の分野で慣用のヒドロキシル基の保護基を用いることができる。このような保護基として、例えば、アルキル基(例えば、メチル、t−ブチル基などのC1-4アルキル基など)、アルケニル基(例えば、アリル基など)、シクロアルキル基(例えば、シクロヘキシル基など)、アリール基(例えば、2,4−ジニトロフェニル基など)、アラルキル基(例えば、ベンジル、2,6−ジクロロベンジル、3−ブロモベンジル、2−ニトロベンジル、トリフェニルメチル基など);置換メチル基(例えば、メトキシメチル、メチルチオメチル、ベンジルオキシメチル、t−ブトキシメチル、2−メトキシエトキシメチル、2,2,2−トリクロロエトキシメチル、ビス(2−クロロエトキシ)メチル、2−(トリメチルシリル)エトキシメチル基など)、置換エチル基(例えば、1−エトキシエチル、1−メチル−1−メトキシエチル、1−イソプロポキシエチル、2,2,2−トリクロロエチル、2−メトキシエチル基など)、テトラヒドロピラニル基、テトラヒドロフラニル基、1−ヒドロキシアルキル基(例えば、1−ヒドロキシエチル、1−ヒドロキシヘキシル、1−ヒドロキシデシル、1−ヒドロキシヘキサデシル、1−ヒドロキシ−1−フェニルメチル基など)等のヒドロキシル基とアセタール又はヘミアセタール基を形成可能な基など;アシル基(例えば、ホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル、バレリル、ピバロイル、ヘキサノイル、ヘプタノイル、オクタノイル、ノナノイル、デカノイル、ラウロイル、ミリストイル、パルミトイル、ステアロイル基などのC1-20脂肪族アシル基等の脂肪族飽和又は不飽和アシル基;アセトアセチル基;シクロペンタンカルボニル、シクロヘキサンカルボニル基などのシクロアルカンカルボニル基等の脂環式アシル基;ベンゾイル、ナフトイル基などの芳香族アシル基など)、スルホニル基(メタンスルホニル、エタンスルホニル、トリフルオロメタンスルホニル、ベンゼンスルホニル、p−トルエンスルホニル、ナフタレンスルホニル基など)、アルコキシカルボニル基(例えば、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、t−ブトキシカルボニル基などのC1-4アルコキシ−カルボニル基など)、アラルキルオキシカルボニル基(例えば、ベンジルオキシカルボニル基、p−メトキシベンジルオキシカルボニル基など)、置換又は無置換カルバモイル基(例えば、カルバモイル、メチルカルバモイル、フェニルカルバモイル基など)、無機酸(硫酸、硝酸、リン酸、ホウ酸など)からOH基を除した基、ジアルキルホスフィノチオイル基(例えば、ジメチルホスフィノチオイル基など)、ジアリールホスフィノチオイル基(例えば、ジフェニルホスフィノチオイル基など)、置換シリル基(例えば、トリメチルシリル、t−ブチルジメチルシリル、トリベンジルシリル、トリフェニルシリル基など)などが挙げられる。
【0029】
また、Xが−OR基である場合において、式(I)で表される骨格のうちRを除く部分が複数個、Rを介して結合する場合、該Rとして、例えば、オキサリル、マロニル、スクシニル、グルタリル、フタロイル、イソフタロイル、テレフタロイル基などのポリカルボン酸アシル基;カルボニル基;メチレン、エチリデン、イソプロピリデン、シクロペンチリデン、シクロヘキシリデン、ベンジリデン基などの多価の炭化水素基(特に、2つのヒドロキシル基とアセタール結合を形成する基)などが挙げられる。
【0030】
好ましいRには、例えば、水素原子;ヒドロキシル基とアセタール又はヘミアセタール基を形成可能な基;カルボン酸、スルホン酸、炭酸、カルバミン酸、硫酸、リン酸、ホウ酸などの酸からOH基を除した基(アシル基、スルホニル基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基等)などの加水分解により脱離可能な加水分解性保護基が好ましい。Rとしては特に水素原子が好ましい。
【0031】
前記式(I)で表される骨格を環の構成要素として含む窒素原子含有環状化合物には、
下記式(7)
【化17】

[式中、nは0又は1を示す。Xは酸素原子又は−OR基(Rは水素原子又はヒドロキシル基の保護基を示す)を示す。R1、R2、R3、R4、R5及びR6は、同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、シクロアルキル基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、カルボキシル基、置換オキシカルボニル基、アシル基又はアシルオキシ基を示し、R1、R2、R3、R4、R5及びR6のうち少なくとも2つが互いに結合して、環状イミド骨格を構成する炭素原子又は炭素−炭素結合と共に、二重結合、又は芳香族性若しくは非芳香族性の環を形成してもよい。前記R1、R2、R3、R4、R5、R6、又はR1、R2、R3、R4、R5及びR6のうち少なくとも2つが互いに結合して形成された二重結合又は芳香族性若しくは非芳香族性の環には、下記式(a)
【化18】

(式中、n、Xは前記に同じ)
で表されるN−置換環状イミド基がさらに1又は2個以上形成されていてもよい]
で表される環状イミド系化合物が含まれる。
【0032】
式(7)で表される環状イミド系化合物において、置換基R1、R2、R3、R4、R5及びR6のうちハロゲン原子には、ヨウ素、臭素、塩素およびフッ素原子が含まれる。アルキル基には、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、ヘキシル、デシル、ドデシル基などの炭素数1〜30(特に、炭素数1〜20程度)の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基が含まれる。
【0033】
アリール基には、フェニル、トリル、キシリル、ナフチル基などが含まれ、シクロアルキル基には、シクロペンチル、シクロヘキシル基などが含まれる。アルコキシ基には、例えば、メトキシ、エトキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、t−ブトキシ、ヘキシルオキシ、デシルオキシ、ドデシルオキシ基などの炭素数1〜30(特に、炭素数1〜20程度)のアルコキシ基が含まれる。
【0034】
置換オキシカルボニル基には、例えば、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、イソプロポキシカルボニル、ブトキシカルボニル、t−ブトキシカルボニル、ヘキシルオキシカルボニル、デシルオキシカルボニル基などのC1-30アルコキシ−カルボニル基(特に、C1-20アルコキシ−カルボニル基);シクロペンチルオキシカルボニル、シクロヘキシルオキシカルボニル基などのシクロアルキルオキシカルボニル基(特に、3〜20員シクロアルキルオキシカルボニル基);フェニルオキシカルボニル基などのアリールオキシカルボニル基(特に、C6-20アリールオキシ−カルボニル基);ベンジルオキシカルボニル基などのアラルキルオキシカルボニル基(特に、C7-21アラルキルオキシ−カルボニル基)などが挙げられる。
【0035】
アシル基としては、例えば、ホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル、バレリル、ピバロイル、ヘキサノイル、デカノイル、ラウロイル基などのC1-30脂肪族アシル基(特に、C1-20脂肪族アシル基)等の脂肪族飽和又は不飽和アシル基;アセトアセチル基;シクロペンタンカルボニル、シクロヘキサンカルボニル基などのシクロアルカンカルボニル基等の脂環式アシル基;ベンゾイル基などの芳香族アシル基などが例示できる。
【0036】
アシルオキシ基としては、例えば、ホルミルオキシ、アセチルオキシ、プロピオニルオキシ、ブチリルオキシ、イソブチリルオキシ、バレリルオキシ、ピバロイルオキシ、デカノイルオキシ、ラウロイルオキシ基などのC1-30脂肪族アシルオキシ基(特に、C1-20脂肪族アシルオキシ基)等の脂肪族飽和又は不飽和アシルオキシ基;アセトアセチルオキシ基;シクロペンタンカルボニルオキシ、シクロヘキサンカルボニルオキシ基などのシクロアルカンカルボニルオキシ基等の脂環式アシルオキシ基;ベンゾイルオキシ基などの芳香族アシルオキシ基などが例示できる。
【0037】
前記置換基R1、R2、R3、R4、R5及びR6は、同一又は異なっていてもよい。また、前記式(7)において、R1、R2、R3、R4、R5及びR6のうち少なくとも2つが互いに結合して、環状イミド骨格を構成する炭素原子又は炭素−炭素結合と共に、二重結合、または芳香族性又は非芳香族性の環を形成してもよい。好ましい芳香族性又は非芳香族性環は5〜12員環、特に6〜10員環程度であり、複素環又は縮合複素環であってもよいが、炭化水素環である場合が多い。このような環には、例えば、脂環式環(シクロヘキサン環などの置換基を有していてもよいシクロアルカン環、シクロヘキセン環などの置換基を有していてもよいシクロアルケン環など)、橋かけ環(5−ノルボルネン環などの置換基を有していてもよい橋かけ式炭化水素環など)、ベンゼン環、ナフタレン環などの置換基を有していてもよい芳香族環(縮合環を含む)が含まれる。前記環は芳香族環で構成される場合が多い。前記環は、アルキル基、ハロアルキル基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、カルボキシル基、置換オキシカルボニル基、アシル基、アシルオキシ基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、ハロゲン原子などの置換基を有していてもよい。
【0038】
前記R1、R2、R3、R4、R5、R6、又はR1、R2、R3、R4、R5及びR6のうち少なくとも2つが互いに結合して形成された二重結合又は芳香族性若しくは非芳香族性の環には、前記式(a)で表される環状イミド基がさらに1又は2個以上形成されていてもよい。例えば、R1、R2、R3、R4、R5又はR6が炭素数2以上のアルキル基である場合、このアルキル基を構成する隣接する2つの炭素原子を含んで前記環状イミド基が形成されていてもよい。また、R1、R2、R3、R4、R5及びR6のうち少なくとも2つが互いに結合して、環状イミド骨格を構成する炭素−炭素結合と共に二重結合を形成する場合、該二重結合を含んで前記環状イミド基が形成されていてもよい。さらに、R1、R2、R3、R4、R5及びR6のうち少なくとも2つが互いに結合して、環状イミド骨格を構成する炭素原子又は炭素−炭素結合と共に、芳香族性若しくは非芳香族性の環を形成する場合、該環を構成する隣接する2つの炭素原子を含んで前記環状イミド基が形成されていてもよい。
【0039】
好ましい環状イミド系化合物には、下記式で表される化合物が含まれる。
【化19】

(式中、R11〜R16は、同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、シクロアルキル基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、カルボキシル基、置換オキシカルボニル基、アシル基又はアシルオキシ基を示す。R17〜R26は、同一又は異なって、水素原子、アルキル基、ハロアルキル基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、カルボキシル基、置換オキシカルボニル基、アシル基、アシルオキシ基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、ハロゲン原子を示す。R17〜R26は、隣接する基同士が結合して、式(7c)、(7
d)、(7e)、(7f)、(7h)又は(7i)中に示される5員又は6員のN−置換環状イミド骨格を形成していてもよい。式(7f)中、Aはメチレン基又は酸素原子を示す。Xは前記に同じ)
【0040】
置換基R11〜R16におけるハロゲン原子、アルキル基、アリール基、シクロアルキル基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、カルボキシル基、置換オキシカルボニル基、アシル基、アシルオキシ基としては、前記R1〜R6における対応する基と同様のものが例示される。
【0041】
置換基R17〜R26において、アルキル基には、前記例示のアルキル基と同様のアルキル基、特に炭素数1〜6程度のアルキル基が含まれ、ハロアルキル基には、トリフルオロメチル基などの炭素数1〜4程度のハロアルキル基、アルコキシ基には、前記と同様のアルコキシ基、特に炭素数1〜4程度の低級アルコキシ基、置換オキシカルボニル基には、前記と同様の置換オキシカルボニル基(アルコキシカルボニル基、シクロアルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基など)が含まれる。また、アシル基としては前記と同様のアシル基(脂肪族飽和又は不飽和アシル基、アセトアセチル基、脂環式アシル基、芳香族アシル基等)などが例示され、アシルオキシ基としては前記と同様のアシルオキシ基(脂肪族飽和又は不飽和アシルオキシ基、アセトアセチルオキシ基、脂環式アシルオキシ基、芳香族アシルオキシ基等)などが例示される。ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素原子が例示できる。置換基R17〜R26は、通常、水素原子、炭素数1〜4程度の低級アルキル基、カルボキシル基、置換オキシカルボニル基、ニトロ基、ハロゲン原子である場合が多い。
【0042】
好ましいイミド化合物のうち5員のN−置換環状イミド骨格を有する化合物の代表的な例として、例えば、N−ヒドロキシコハク酸イミド、N−ヒドロキシ−α−メチルコハク酸イミド、N−ヒドロキシ−α,α−ジメチルコハク酸イミド、N−ヒドロキシ−α,β−ジメチルコハク酸イミド、N−ヒドロキシ−α,α,β,β−テトラメチルコハク酸イミド、N−ヒドロキシマレイン酸イミド、N−ヒドロキシヘキサヒドロフタル酸イミド、N,N′−ジヒドロキシシクロヘキサンテトラカルボン酸ジイミド、N−ヒドロキシフタル酸イミド、N−ヒドロキシテトラブロモフタル酸イミド、N−ヒドロキシテトラクロロフタル酸イミド、N−ヒドロキシヘット酸イミド、N−ヒドロキシハイミック酸イミド、N−ヒドロキシトリメリット酸イミド、N,N′−ジヒドロキシピロメリット酸ジイミド、N,N′−ジヒドロキシナフタレンテトラカルボン酸ジイミド、α,β−ジアセトキシ−N−ヒドロキシコハク酸イミド、N−ヒドロキシ−α,β−ビス(プロピオニルオキシ)コハク酸イミド、N−ヒドロキシ−α,β−ビス(バレリルオキシ)コハク酸イミド、N−ヒドロキシ−α,β−ビス(ラウロイルオキシ)コハク酸イミド、α,β−ビス(ベンゾイルオキシ)−N−ヒドロキシコハク酸イミド、N−ヒドロキシ−4−メトキシカルボニルフタル酸イミド、4−クロロ−N−ヒドロキシフタル酸イミド、4−エトキシカルボニル−N−ヒドロキシフタル酸イミド、N−ヒドロキシ−4−ペンチルオキシカルボニルフタル酸イミド、4−ドデシルオキシ−N−ヒドロキシカルボニルフタル酸イミド、N−ヒドロキシ−4−フェノキシカルボニルフタル酸イミド、N−ヒドロキシ−4,5−ビス(メトキシカルボニル)フタル酸イミド、4,5−ビス(エトキシカルボニル)−N−ヒドロキシフタル酸イミド、N−ヒドロキシ−4,5−ビス(ペンチルオキシカルボニル)フタル酸イミド、4,5−ビス(ドデシルオキシカルボニル)−N−ヒドロキシフタル酸イミド、N−ヒドロキシ−4,5−ビス(フェノキシカルボニル)フタル酸イミドなどの式(7)におけるXが−OR基で且つRが水素原子である化合物;これらの化合物に対応する、Rがアセチル基、プロピオニル基、ベンゾイル基等のアシル基である化合物;N−メトキシメチルオキシフタル酸イミド、N−(2−メトキシエトキシメチルオキシ)フタル酸イミド、N−テトラヒドロピラニルオキシフタル酸イミドなどの式(7)におけるXが−OR基で且つRがヒドロキシル基とアセタール又はヘミアセタール結合を形成可能な基である化合物;N−メタンスルホニルオキシフタル酸イミド、N−(p−トルエンスルホニルオキシ)フタル酸イミドなどの式(7)におけるXが−OR基で且つRがスルホニル基である化合物;N−ヒドロキシフタル酸イミドの硫酸エステル、硝酸エステル、リン酸エステル又はホウ酸エステルなどの式(7)におけるXが−OR基で且つRが無機酸からOH基を除した基である化合物などが挙げられる。
【0043】
好ましいイミド化合物のうち6員のN−置換環状イミド骨格を有する化合物の代表的な例として、例えば、N−ヒドロキシグルタルイミド、N−ヒドロキシ−α,α−ジメチルグルタルイミド、N−ヒドロキシ−β,β−ジメチルグルタルイミド、N−ヒドロキシ−1,8−デカリンジカルボン酸イミド、N,N′−ジヒドロキシ−1,8;4,5−デカリンテトラカルボン酸ジイミド、N−ヒドロキシ−1,8−ナフタレンジカルボン酸イミド(N−ヒドロキシナフタル酸イミド)、N,N′−ジヒドロキシ−1,8;4,5−ナフタレンテトラカルボン酸ジイミドなどの式(7)におけるXが−OR基で且つRが水素原子である化合物;これらの化合物に対応する、Rがアセチル基、プロピオニル基、ベンゾイル基等のアシル基である化合物;N−メトキシメチルオキシ−1,8−ナフタレンジカルボン酸イミド、N,N′−ビス(メトキシメチルオキシ)−1,8;4,5−ナフタレンテトラカルボン酸ジイミドなどの式(7)におけるXが−OR基で且つRがヒドロキシル基とアセタール又はヘミアセタール結合を形成可能な基である化合物;N−メタンスルホニルオキシ−1,8−ナフタレンジカルボン酸イミド、N,N′−ビス(メタンスルホニルオキシ)−1,8;4,5−ナフタレンテトラカルボン酸ジイミドなどの式(7)におけるXが−OR基で且つRがスルホニル基である化合物;N−ヒドロキシ−1,8−ナフタレンジカルボン酸イミド又はN,N′−ジヒドロキシ−1,8;4,5−ナフタレンテトラカルボン酸ジイミドの硫酸エステル、硝酸エステル、リン酸エステル又はホウ酸エステルなどの式(7)におけるXが−OR基で且つRが無機酸からOH基を除した基である化合物などが挙げられる。
【0044】
前記式(I)で表される骨格を環の構成要素として含む窒素原子含有環状化合物には、上記環状イミド系化合物の他に、環状アシルウレア骨格[−C(=O)−N−C(=O)−N−]を有する環状アシルウレア系化合物が含まれる。環状アシルウレア系化合物の代表的な例として、下記式(8)
【化20】

(式中、R27、R30は、同一又は異なって、水素原子、アルキル基、アリール基、シクロアルキル基、保護基で保護されていてもよいヒドロキシル基、保護基で保護されていてもよいカルボキシル基、又はアシル基を示し、R28、R29は、同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、シクロアルキル基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、カルボキシル基、置換オキシカルボニル基、アシル基又はアシルオキシ基を示す。R27、R28、R29、R30のうち少なくとも2つが互いに結合して、式中の環を構成する原子とともに二重結合、又は芳香族性若しくは非芳香族性の環を形成してもよく、R28とR29は一体となってオキソ基を形成してもよい。Rは前記に同じ)
で表されるヒドロ−1−ヒドロキシ(又は1−置換オキシ)−1,3,5−トリアジン−2,6−ジオン化合物が挙げられる。
【0045】
式(8)中、R27、R30におけるアルキル基、アリール基、シクロアルキル基、アシル基としては、上記R1〜R6におけるアルキル基等と同様のものが例示される。ヒドロキシル基の保護基としては、前記のものが挙げられる。
【0046】
カルボキシル基の保護基としては、有機合成の分野で慣用の保護基、例えば、アルコキシ基(例えば、メトキシ、エトキシ、ブトキシなどのC1-6アルコキシ基など)、シクロアルキルオキシ基、アリールオキシ基(例えば、フェノキシ基など)アラルキルオキシ基(例えば、ベンジルオキシ基など)、トリアルキルシリルオキシ基(例えば、トリメチルシリルオキシ基など)、置換基を有していてもよいアミノ基(例えば、アミノ基;メチルアミノ基、ジメチルアミノ基などのモノ又はジC1-6アルキルアミノ基など)などが挙げられる。
【0047】
28、R29におけるハロゲン原子、アルキル基、アリール基、シクロアルキル基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、カルボキシル基、置換オキシカルボニル基、アシル基、アシルオキシ基としては、上記R1〜R6におけるアルキル基等と同様のものが例示される。
【0048】
式(8)において、R27、R28、R29、R30のうち少なくとも2つが互いに結合して、式中に示される環を構成する原子(炭素原子及び/又は窒素原子)とともに二重結合、又は芳香族性若しくは非芳香族性の環を形成してもよく、R28、R29は一体となってオキソ基を形成してもよい。好ましい芳香族性又は非芳香族性環としては前記と同様のものが例示される。
【0049】
式(8)で表される化合物のなかでも、下記式(8a)で表されるイソシアヌル酸誘導体が好ましい。
【化21】

[式中、R、R′、R″は、同一又は異なって、水素原子又はヒドロキシル基の保護基を示す]
【0050】
環状アシルウレア系化合物に含まれる代表的な化合物の例として、例えば、ヘキサヒドロ−1,3,5−トリヒドロキシ−1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリオン(=1,3,5−トリヒドロキシイソシアヌル酸)、1,3,5−トリアセトキシ−ヘキサヒドロ−1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリオン、ヘキサヒドロ−1,3,5−トリス(メトキシメチルオキシ)−1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリオン、ヘキサヒドロ−1−ヒドロキシ−1,3,5−トリアジン−2,6−ジオン、ヘキサヒドロ−1−ヒドロキシ−3,5−ジメチル−1,3,5−トリアジン−2,6−ジオン、1−アセトキシ−ヘキサヒドロ−1,3,5−トリアジン−2,6−ジオン、1−アセトキシ−ヘキサヒドロ−3,5−ジメチル−1,3,5−トリアジン−2,6−ジオンなどが挙げられる。
【0051】
前記窒素原子含有環状化合物のうち、Xが−OR基で且つRが水素原子である化合物(N−ヒドロキシ環状化合物)は、公知の方法に準じて、又は公知の方法の組み合わせにより製造することができる。また、前記窒素原子含有環状化合物のうち、Xが−OR基で且つRがヒドロキシル基の保護基である化合物は、対応するRが水素原子である化合物(N−ヒドロキシ環状化合物)に、慣用の保護基導入反応を利用して、所望の保護基を導入することにより調製することができる。
【0052】
具体的には、前記環状イミド系化合物のうち、Xが−OR基で且つRが水素原子である化合物(N−ヒドロキシ環状イミド化合物)は、慣用のイミド化反応、例えば、対応する酸無水物とヒドロキシルアミンとを反応させ、酸無水物基の開環及び閉環を経てイミド化する方法により得ることができる。また、例えば、N−アセトキシフタルイミドは、N−ヒドロキシフタルイミドに無水酢酸を反応させたり、塩基の存在下でアセチルハライドを反応させることにより得ることができる。また、これ以外の方法で製造することも可能である。
【0053】
特に触媒として好ましい環状イミド系化合物は、脂肪族多価カルボン酸無水物(環状無水物)又は芳香族多価カルボン酸無水物(環状無水物)から誘導されるN−ヒドロキシイミド化合物(例えば、N−ヒドロキシコハク酸イミド、N−ヒドロキシフタルイミド、N,N′−ジヒドロキシピロメリット酸ジイミド、N−ヒドロキシグルタルイミド、N−ヒドロキシ−1,8−ナフタレンジカルボン酸イミド、N,N′−ジヒドロキシ1,8:4,5−ナフタレンテトラカルボン酸ジイミドなど);及び該N−ヒドロキシイミド化合物のヒドロキシル基に保護基を導入することにより得られる化合物などが含まれる。
【0054】
前記環状アシルウレア系化合物のうち、例えば、1,3,5−トリアセトキシ−ヘキサヒドロ−1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリオン(=1,3,5−トリアセトキシイソシアヌル酸)は、ヘキサヒドロ−1,3,5−トリヒドロキシ−1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリオン(=1,3,5−トリヒドロキシイソシアヌル酸)に無水酢酸を反応させたり、塩基の存在下でアセチルハライドを反応させることにより得ることができる。
【0055】
式(I)で表される骨格を環の構成要素として含む窒素原子含有環状化合物は、単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。前記窒素原子含有環状化合物は反応系内で生成させてもよい。また、前記窒素原子含有環状化合物は担体に担持した形態で用いてもよい。担体としては、活性炭、ゼオライト、シリカ、シリカ−アルミナ、ベントナイトなどの多孔質担体を用いる場合が多い。窒素原子含有環状化合物の担体への担持量は、担体100重量部に対して、例えば0.1〜50重量部、好ましくは0.5〜30重量部、さらに好ましくは1〜20重量部程度である。
【0056】
前記窒素原子含有環状化合物の使用量は広い範囲で選択でき、例えば、式(1)で表される第2級アルコール1モル、又は式(4)で表されるケトン1モルに対して、0.0000001〜1モル、好ましくは0.0001〜0.5モル、さらに好ましくは0.001〜0.4モル、特に好ましくは0.01〜0.35モル程度である。
【0057】
[酸素]
基質の酸化に利用される分子状酸素は、特に制限されず、純粋な酸素を用いてもよく、窒素、ヘリウム、アルゴン、二酸化炭素などの不活性ガスで希釈した酸素や空気を使用してもよい。
【0058】
分子状酸素の使用量は、基質の種類に応じて適宜選択できるが、通常、基質1モルに対して、0.5モル以上(例えば、1モル以上)、好ましくは1〜100モル、さらに好ましくは2〜50モル程度である。基質に対して過剰モルの分子状酸素を使用する場合が多い。
【0059】
[第1又は第2のエステル又はラクトンの製造法におけるケトン]
本発明の第1又は第2のエステル又はラクトンの製造法では、式(1)で表される第2級アルコールをケトンの存在下に酸化するのが好ましい。系内にケトンを存在させると、前記式(3a)、(3b)で表される安定な過酸化物が生成しやすくなり、ハロゲン原子含有カルボン酸、ハロゲン原子非含有スルホン酸、又はハロゲン原子含有フェノールの存在下での酸化、又は酸化後のハロゲン原子含有カルボン酸、ハロゲン原子非含有スルホン酸、又はハロゲン原子含有フェノールによる処理を経ることで、高い選択率及び高反応速度で目的化合物を得ることができる。式(3a)、(3b)において、Ra、Rbは前記に同じであり、分子中の2つのRa、2つのRbは、それぞれ異なっていてもよい。なお、前記式(3b)で表される化合物(ヒドロキシヒドロペルオキシド化合物)は、第2級アルコールの酸素酸化によりin situで生成した過酸化水素がケトン(特に、第2級アルコールに対応するケトン)と反応することにより生成すると考えられる。式(3a)、(3b)で表される化合物はハロゲン原子含有カルボン酸、ハロゲン原子非含有スルホン酸、又はハロゲン原子含有フェノールにより容易に転位して対応するエステル又はラクトンが生成する。後に詳述する本発明の第3のエステル又はラクトンの製造法は、この式(3a)、(3b)で表される過酸化物をハロゲン原子含有カルボン酸、ハロゲン原子非含有スルホン酸、又はハロゲン原子含有フェノールで処理して対応するエステル又はラクトンを得る方法である。
【0060】
ケトンは系内に一括添加してもよく、複数回に分割して添加してもよい。ケトンとしては、前記式(1)で表される第2級アルコールに対応するケトンが挙げられる。このケトンは下記式(9)で表される。
a−C(=O)−Rb (9)
(式中、Ra、Rbは前記に同じ)
【0061】
ケトンの具体的な例として、前記第2級アルコールの代表例に対応するケトン、すなわち、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルs−ブチルケトン、メチルt−ブチルケトン、メチルデシルケトン、エチルイソプロピルケトン、イソプロピルブチルケトン、メチルビニルケトン、メチルイソプロペニルケトン、メチルシクロヘキシルケトン、メチルフェニルケトン、メチル(2−メチルフェニル)ケトン、メチル(2−ピリジル)ケトン、シクロヘキシルフェニルケトン、ジフェニルケトンなどの鎖状ケトン;シクロプロパノン、シクロブタノン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、4−メチルシクロヘキサノン、4−クロロシクロヘキサノン、イソホロン、シクロヘプタノン、シクロオクタノン、シクロデカノン、シクロドデカノン、シクロペンタデカノン、1,3−シクロヘキサンジオン、1,4−シクロヘキサンジオン、1,4−シクロオクタンジオン、2,2−ビス(4−オキソシクロヘキシル)プロパン、ビス(4−オキソシクロヘキシル)メタン、4−(4−オキソシクロヘキシル)シクロヘキサノン、2−アダマンタノンなどの環状ケトンなどが例示できる。
【0062】
本発明の好ましい態様では、前記ケトンとして、基質として用いた前記式(1)で表される第2級アルコールに対応するケトンを用いる。例えば、基質としてシクロヘキサノールを用いる場合には、ケトンとしてシクロヘキサノンを用いる。この場合、シクロヘキサンの自動酸化によって安価に製造できるいわゆるK/Aオイル(シクロヘキサノールとシクロヘキサノンの混合物)を好適に使用できる。
【0063】
基質である第2級アルコールと該基質に対応するケトンとを用いる場合には、酸化反応において、例えば前記式(3a)、(3b)で表される過酸化物が対称的な構造をとり(分子中の2つのRa、2つのRbが、それぞれ同一の基となる)、ハロゲン原子含有カルボン酸、ハロゲン原子非含有スルホン酸、又はハロゲン原子含有フェノールの存在下での酸化、又は酸化後のハロゲン原子含有カルボン酸、ハロゲン原子非含有スルホン酸、又はハロゲン原子含有フェノールを用いた処理により、単一のエステル又はラクトンが生成し得る。このため、目的化合物を選択性よく高反応速度で製造できると共に、精製も容易になる。
【0064】
前記ケトンは単独で又は2種以上混合して使用できる。ケトンの使用量は、基質1モルに対して、0〜10モル(例えば0.1〜10モル)、好ましくは0.1〜5モル、さらに好ましくは0.2〜0.9モル程度である。
【0065】
[第4又は第5のエステル又はラクトンの製造法におけるケトン]
本発明の第4又は第5のエステル又はラクトンの製造法では、式(4)で表されるケトンを基質として用いる。
【0066】
前記式(4)中、Rc、Rdとしては、同一又は異なって、隣接する炭素原子との結合部位に炭素原子を有する有機基を示し、Rc及びRdは互いに結合して、隣接する炭素原子と共に環を形成してもよい。
【0067】
式(4)で表されるケトンにおいて、Rc、Rdで示される「隣接する炭素原子との結合部位に炭素原子を有する有機基」には、炭化水素基及び複素環基が含まれる。炭化水素基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチル、ペンチル、ネオペンチル、ヘキシル、オクチル、デシル、ドデシル、ペンタデシル、ビニル、アリル、1−へキセニル、エチニル、1−ブチニル基などの炭素数1〜20(好ましくは炭素数1〜15、さらに好ましくは炭素数1〜10)程度の脂肪族炭化水素基(アルキル基、アルケニル基又はアルキニル基);シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロペンテニル、シクロヘキシル、シクロへキセニル、シクロオクチル、シクロドデシル基などの3〜20員(好ましくは3〜15員、さらに好ましくは5〜8員)程度の脂環式炭化水素基(シクロアルキル基又はシクロアルケニル基);フェニル、ナフチル基などの炭素数6〜18程度の芳香族炭化水素基などが挙げられる。
【0068】
前記複素環基に対応する複素環として、例えば、ヘテロ原子として酸素原子を含む複素環(例えば、テトラヒドロフラン、クロマン、イソクロマン、フラン、オキサゾール、イソオキサゾール、4−オキソ−4H−ピラン、ベンゾフラン、イソベンゾフラン、4−オキソ−4H−クロメンなど)、ヘテロ原子としてイオウ原子を含む複素環(例えば、チオフェン、チアゾール、イソチアゾール、チアジアゾール、4−オキソ−4H−チオピラン、ベンゾチオフェンなど)、ヘテロ原子として窒素原子を含む複素環(例えば、ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、モルホリン、インドリン、ピロール、ピラゾール、イミダゾール、トリアゾール、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、インドール、キノリン、アクリジン、ナフチリジン、キナゾリン、プリンなど)などが挙げられる。
【0069】
c及びRdが互いに結合して、隣接する炭素原子と共に形成してもよい環には、シクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、シクロペンテン、シクロヘキサン、シクロへキセン、シクロオクタン、シクロドデカン環などの3〜20員(好ましくは3〜15員、さらに好ましくは3〜12員)程度の脂環式炭化水素環(シクロアルカン環又はシクロアルケン環);ノルボルナン環、ノルボルネン環、アダマンタン環などの2〜4環程度の橋かけ環式炭化水素環又は橋かけ環式複素環;テトラヒドロフラン、クロマン、イソクロマン、ピロリジン、ピペリジンなどの5〜8員程度の非芳香族性複素環などが含まれる。
【0070】
前記有機基、並びに、Rc及びRdが互いに結合して、隣接する炭素原子と共に形成してもよい環は、置換基を有していてもよい。このような置換基としては、例えば、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、メルカプト基、オキソ基、置換オキシ基(例えば、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシルオキシ基など)、置換チオ基、カルボキシル基、置換オキシカルボニル基、置換又は無置換カルバモイル基、シアノ基、ニトロ基、置換又は無置換アミノ基、スルホ基、アルキル基(例えば、メチル、エチル、t−ブチル基などのC1-4アルキル基など)、アルケニル基(例えばC2-4アルケニル基など)、アルキニル基(例えばC2-4アルキニル基など)、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、複素環基などが挙げられる。また、前記環には芳香族性又は非芳香族性の環(炭化水素環又は複素環)が縮合していてもよい。
【0071】
式(4)で表されるケトンの具体的な例としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルs−ブチルケトン、メチルt−ブチルケトン、メチルデシルケトン、エチルイソプロピルケトン、イソプロピルブチルケトン、メチルビニルケトン、メチルイソプロペニルケトン、メチルシクロヘキシルケトン、メチルフェニルケトン、メチル(2−メチルフェニル)ケトン、メチル(2−ピリジル)ケトン、シクロヘキシルフェニルケトン、ジフェニルケトンなどの鎖状ケトン;シクロプロパノン、シクロブタノン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、4−メチルシクロヘキサノン、4−クロロシクロヘキサノン、イソホロン、シクロヘプタノン、シクロオクタノン、シクロデカノン、シクロドデカノン、シクロペンタデカノン、1,3−シクロヘキサンジオン、1,4−シクロヘキサンジオン、1,4−シクロオクタンジオン、2,2−ビス(4−オキソシクロヘキシル)プロパン、ビス(4−オキソシクロヘキシル)メタン、4−(4−オキソシクロヘキシル)シクロヘキサノン、2−アダマンタノンなどの環状ケトンなどが例示できる。これらの中でも、環状ケトンが好ましく用いられる。
【0072】
[ラジカル発生剤]
本発明の方法では、式(1)で表される第2級アルコールをラジカル発生剤の存在下に酸化するのが好ましい。系内にラジカル発生剤を存在させると、酸化反応において前記式(3a)、(3b)で表される過酸化物が選択的に生成するためか、ハロゲン原子含有カルボン酸、ハロゲン原子非含有スルホン酸、又はハロゲン原子含有フェノールの存在下での酸化、又は酸化後のハロゲン原子含有カルボン酸、ハロゲン原子非含有スルホン酸、又はハロゲン原子含有フェノールを用いた処理により、高い選択率で目的化合物を得ることができる。ラジカル発生剤は系内に一括添加してもよく、逐次添加してもよい。逐次添加には、複数回に分割し間欠的に添加する方法と、少量ずつ連続して添加する方法の2種類が挙げられる。
【0073】
ラジカル発生剤としては、例えばラジカル重合の重合開始剤として用いられる化合物などが挙げられる。ラジカル開始剤の代表的な例として、2,2−ジエトキシアセトフェノンなどのアセトフェノン類;ベンゾイルペルオキシド(BPO)等のジアシルペルオキシド類、シクロヘキサノンペルオキシド等のケトンペルオキシド類、1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン等のペルオキシケタール類、t−ヘキシルペルオキシド等のヒドロペルオキシド類、1,1,3,3−テトラメチルブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート等のペルオキシエステル類、ジイソプロピルペルオキシジカーボネート等のペルオキシジカーボネート類などの過酸化物類;アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、ジメチル−2,2′−アゾビス(イソブチラート)(MAIB)、ジブチル−2,2′−アゾビスイソブチレートなどのアゾ系化合物;2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジノオキシル(=2,2,6,6−テトラメチルピペリジニル−1−オキシ;TEMPO)などの環状アミン−N−オキシル化合物などが例示できる。
【0074】
ラジカル発生剤の使用量は、例えば、基質1モルに対して、0.0000001〜0.8モル、好ましくは0.0001〜0.7モル、さらに好ましくは0.01〜0.6モル程度である。
【0075】
[助触媒]
なお、本発明の製造法では、必要に応じて、前記窒素原子含有環状化合物(触媒)とともに助触媒を用いることもできる。助触媒として、例えば、(i)電子吸引基が結合したカルボニル基を有する化合物、(ii)金属化合物、(iii)少なくとも1つの有機基が結合した周期表15族又は16族元素を含む多原子陽イオン又は多原子陰イオンとカウンターイオンとで構成された有機塩、(iv)強酸などが含まれる。これらの助触媒は、単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0076】
前記電子吸引基が結合したカルボニル基を有する化合物(i)において、カルボニル基に結合する電子吸引基としては、例えば、フルオロメチル、トリフルオロメチル、テトラフルオロエチル、フェニル、フルオロフェニル、ペンタフルオロフェニル基などのフッ素原子で置換された炭化水素基などが挙げられる。前記化合物(i)の具体例として、例えば、ヘキサフルオロアセトン、トリフルオロ酢酸、ペンタフルオロフェニル(メチル)ケトン、ペンタフルオロフェニル(トリフルオロメチル)ケトン、安息香酸などが挙げられる。これらの化合物を用いると、系内で反応性の高い過酸化物に変換されるためか、Baeyer−Villiger型の反応の反応速度が促進される。前記化合物(i)の使用量は、基質1モルに対して、0.0001〜1モル、好ましくは0.01〜0.7モル程度である。
【0077】
金属化合物(ii)を構成する金属元素としては、特に限定されず、周期表1〜15族の金属元素の何れであってもよい。金属化合物(ii)としては、前記金属元素の単体、水酸化物、酸化物(複合酸化物を含む)、ハロゲン化物(フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物)、オキソ酸塩(例えば、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩、ホウ酸塩、炭酸塩など)、オキソ酸、イソポリ酸、ヘテロポリ酸などの無機化合物;有機酸塩(例えば、酢酸塩、プロピオン酸塩、青酸塩、ナフテン酸塩、ステアリン酸塩など)、錯体などの有機化合物が挙げられる。金属化合物(ii)は、単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。金属化合物(ii)を用いると、反応の選択性が向上する場合がある。金属化合物(ii)の使用量は、例えば、基質1モルに対して、0.0001〜1モル、好ましくは0.001〜0.5モル程度である。
【0078】
前記有機塩(iii)において、周期表15族元素には、N、P、As、Sb、Biが含まれる。周期表16族元素には、O、S、Se、Teなどが含まれる。好ましい元素としては、N、P、As、Sb、Sが挙げられ、特に、N、P、Sなどが好ましい。有機塩(iii)としては有機オニウム塩が好ましい。有機塩(iii)の使用量は、例えば、前記基質1モルに対して0.0001〜1モル、好ましくは0.001〜0.5モル程度である。
【0079】
強酸(iv)としては、硫酸、硝酸、塩酸などの鉱酸、p−トルエンスルホン酸などのスルホン酸、強酸性陽イオン交換樹脂などが挙げられる。強酸(iv)は、単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。強酸(iv)の使用量は、例えば、前記基質1モルに対して0.0001〜1モル、好ましくは0.001〜0.5モル程度である。
【0080】
[ハロゲン原子含有カルボン酸]
ハロゲン原子含有カルボン酸としては、カルボン酸中の水素原子の一部又は全部をハロゲン原子で置換したものを何れも使用でき、特に制限されない。ハロゲン原子含有カルボン酸としては、例えば、例えばフルオロ酢酸、ジフルオロ酢酸、トリフルオロ酢酸、クロロ酢酸、ジクロロ酢酸、トリクロロ酢酸、ブロモ酢酸、ジブロモ酢酸、トリブロモ酢酸、2−フルオロプロピオン酸、2−クロロプロピオン酸、2−ブロモプロピオン酸等のハロゲン原子含有脂肪族カルボン酸、o−フルオロ安息香酸、m−フルオロ安息香酸、p−フルオロ安息香酸、o−クロロ安息香酸、m−クロロ安息香酸、p−クロロ安息香酸、o−ブロモ安息香酸、m−ブロモ安息香酸、p−ブロモ安息香酸等のハロゲン原子含有芳香族カルボン酸等が挙げられる。これらのなかでも、トリフルオロ酢酸などのフッ素原子含有カルボン酸が好ましい。
【0081】
[ハロゲン原子非含有スルホン酸]
ハロゲン原子非含有スルホン酸としては、ハロゲン原子で置換されていないスルホン酸を何れも使用でき、特に制限されない。ハロゲン非含有スルホン酸としては、o−トルエンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、m−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、プロパンスルホン酸、アリルスルホン酸、ブタンスルホン酸、ペンタンスルホン酸、ヘキサンスルホン酸、へプタンスルホン酸、ヘキサンスルホン酸、ヘプタンスルホン酸、オクタンスルホン酸、ノナンスルホン酸、デカンスルホン酸、ドデカンスルホン酸、テトラデカンスルホン酸等の脂肪族スルホン酸、アミノメタンスルホン酸、2−(N−モルホリノ)エタンスルホン酸、タウリン等の置換脂肪族スルホン酸類、ベンゼンスルホン酸、p−クロロベンゼンスルホン酸、p−フェノールスルホン酸、グアヤコール−4−スルホン酸、p−スチレンスルホン酸、フェニルヒドラジン−p−スルホン酸、1,2−ベンゼンジスルホン酸、1,3−ベンゼンジスルホン酸、1,4−ベンゼンジスルホン酸、m−トルエンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、2,4−ジメチルベンゼンスルホン酸、2,5−ジメチルベンゼンスルホン酸、2−メシチレンスルホン酸、p−エチルベンゼンスルホン酸、3,5−ジクロロ−2−ヒドロキシベンゼンスルホン酸、2,4,6−トリニトロベンゼンスルホン酸、o−アミノベンゼンスルホン酸、m−キシリジン−6−スルホン酸、スルファニル酸、メタクリル酸等の芳香族スルホン酸類等が挙げられる。これらのなかでも、メタンスルホン酸やp−トルエンスルホン酸などの、脂肪族スルホン酸が好ましい。
【0082】
[ハロゲン原子含有フェノール]
ハロゲン原子含有フェノールとしては、フェノール類中のベンゼン環の水素原子の一部又は全部をハロゲン原子で置換したものを何れも使用でき、特に制限されない。ハロゲン原子含有フェノールとしては、例えば、3−トリフルオロメチルフェノール、o−フルオロフェノール、m−フルオロフェノール、p−フルオロフェノール、2,4−ジフルオロフェノール、2,5−フルオロフェノール、2,6−ジフルオロフェノール、3,5−ジフルオロフェノール、2,4,6−トリフルオロフェノール、o−クロロフェノール、m−クロロフェノール、p−クロロフェノール、2,4−ジクロロフェノール、3,5−ジクロロフェノール、2,4,6−トリクロロフェノール、o−ブロモフェノール、m−ブロモフェノール,p−ブロモフェノール、2−ブロモ−p−tert−ブチルフェノール、2−ブロモ−p−クミルフェノール、2−ブロモ−p−tert−オクチルフェノール,2−ブロモ−p−ノニルフェノール,2,4−ジブロモフェノール、2,5−ジブロモフェノール、2,6−ジブロモフェノール、3,5−ジブロモフェノール、2,4,6−トリブロモフェノール、2,4−ジクロロフェノール、2,5−ジクロロフェノール、2,6−ジクロロフェノール、3,5−ジクロロフェノール、2−ブロモ−p−クレゾール、4−クロロ−o−クレゾール等が挙げられる。これらの中でも、3−トリフルオロメチルフェノール等のフッ素原子含有フェノールが好ましい。
【0083】
ハロゲン原子含有カルボン酸、ハロゲン原子非含有スルホン酸、又はハロゲン原子含有フェノールの使用量(総使用量)は特に制限されず、例えば、前記式(1)で表される第2級アルコール1モルに対して、又は前記式(3a)、(3b)で表される過酸化物(総量)1モルに対して、又は式(4)で表されるケトン1モルに対して0.001モル以上、好ましくは0.05モル以上、さらに好ましくは0.5モル以上の広い範囲から選択することができる。ハロゲン原子含有カルボン酸、ハロゲン原子非含有スルホン酸、又はハロゲン原子含有フェノールは反応原料に対して大過剰量使用してもよく、またハロゲン原子含有カルボン酸、ハロゲン原子非含有スルホン酸、又はハロゲン原子含有フェノールを溶媒として使用して反応を行うのも好ましい。ハロゲン原子含有カルボン酸、ハロゲン原子非含有スルホン酸、又はハロゲン原子含有フェノールは1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0084】
[第1のエステル又はラクトンの製造法]
本発明の第1のエステル又はラクトンの製造法では、式(1)で表される第2級アルコールを、式(I)で表される骨格を環の構成要素として含む窒素原子含有環状化合物及びハロゲン原子含有カルボン酸、ハロゲン原子非含有スルホン酸、又はハロゲン原子含有フェノールの存在下、分子状酸素により酸化して、式(2)で表されるエステル又はラクトンを得る。この方法によれば、第2級アルコールから対応するエステル又はラクトンをワンステップで製造することができ、工業的方法として極めて有用である。
【0085】
酸化反応は溶媒の存在下又は非存在下で行われる。前記のように、溶媒としてハロゲン原子含有カルボン酸、ハロゲン原子非含有スルホン酸、又はハロゲン原子含有フェノールを用いることができる。また、溶媒として、例えば、酢酸、プロピオン酸などの有機酸;アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類;ホルムアミド、アセトアミド、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミドなどのアミド類;ヘキサン、オクタンなどの脂肪族炭化水素;クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、四塩化炭素、クロロベンゼン、トリフルオロメチルベンゼンなどのハロゲン化炭化水素;ニトロベンゼン、ニトロメタン、ニトロエタンなどのニトロ化合物;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類;これらの混合溶媒などを用いることもできる。
【0086】
反応温度は、基質の種類などに応じて、例えば0〜150℃、好ましくは20〜120℃、さらに好ましくは40〜80℃程度の範囲から選択できる。反応は常圧又は加圧下で行うことができる。反応時間は、反応温度及び圧力に応じて、例えば30分〜48時間程度の範囲から適当に選択できる。
【0087】
反応は、分子状酸素の存在下又は分子状酸素の流通下、回分式、半回分式、連続式などの慣用の方法により行うことができる。反応により、基質として用いた第2級アルコールが対応するエステル又はラクトンに変換される。
【0088】
反応終了後、反応生成物や未反応の基質、ケトン、窒素原子含有環状化合物、ハロゲン原子含有カルボン酸、ハロゲン原子非含有スルホン酸、又はハロゲン原子含有フェノール、溶媒は、例えば 濾過、濃縮、蒸留、抽出、晶析、再結晶、吸着、カラムクロマトグラフィーなどの分離手段やこれらを組み合わせた分離手段により分離・精製・回収できる。また、未反応の基質やケトン、窒素原子含有環状化合物、ハロゲン原子含有カルボン酸、ハロゲン原子非含有スルホン酸、又はハロゲン原子含有フェノール、溶媒は、前記分離手段により分離した後、酸化工程にリサイクルすることも可能である。未反応の基質やケトン、窒素原子含有環状化合物、ハロゲン原子含有カルボン酸、ハロゲン原子非含有スルホン酸、又はハロゲン原子含有フェノール、溶媒などをリサイクル使用することにより、目的化合物を生産効率よく製造することができる。
【0089】
なお、反応系にインジウム化合物、セレン化合物、テルル化合物及びポロニウム化合物から選択された少なくとも1種の化合物を添加してもよく、酸化反応後の反応生成物をこれらの化合物で処理してもよい。これらの化合物の添加あるいはこれらの化合物での処理により、目的化合物の収率や選択率が向上する場合がある。インジウム化合物としては、三塩化インジウムなどの無機インジウム化合物、及びインジウム錯体などが挙げられる。セレン化合物としては、例えば、酸化セレン(SeO2、SeO3)、ハロゲン化セレン又はオキシハロゲン化セレンなどの無機セレン化合物、及び有機セレン化合物が挙げられる。テルル化合物としては、酸化テルル(TeO2、TeO3)、ハロゲン化テルル又はオキシハロゲン化テルルなどの無機テルル化合物、及び有機テルル化合物が挙げられる。ポロニウム化合物としては、酸化ポロニウム(PoO、PoO2、PoO3)、ハロゲン化ポロニウムなどの無機ポロニウム化合物、及び有機ポロニウム化合物が挙げられる。
【0090】
インジウム化合物、セレン化合物、テルル化合物及びポロニウム化合物から選択された少なくとも1種の化合物の使用量は、基質1モルに対して、例えば0.0001〜1モル、好ましくは0.001〜0.1モル、さらに好ましくは0.005〜0.05モル程度である。
【0091】
酸化反応後の反応生成物を上記の化合物で処理する場合、該処理は溶媒の存在下又は非存在下で行われる。溶媒としては、前記酸化反応において用いられる各種溶媒が挙げられる。酸化反応後の反応液に上記の化合物を添加して処理を行ってもよい。処理温度は、例えば0〜150℃、好ましくは20〜120℃、さらに好ましくは40〜80℃程度である。圧力は常圧、加圧下の何れであってもよい。反応時間は、例えば、0.5〜24時間、好ましくは2〜10時間、さらに好ましくは3〜8時間程度である。
【0092】
[第2のエステル又はラクトンの製造法]
本発明の第2のエステル又はラクトンの製造法では、式(1)で表される第2級アルコールを、式(I)で表される骨格を環の構成要素として含む窒素原子含有環状化合物の存在下、分子状酸素により酸化した後(この酸化工程を、「第1の工程」と称する場合がある)、ハロゲン原子含有カルボン酸、ハロゲン原子非含有スルホン酸、又はハロゲン原子含有フェノールで処理して(この処理工程を、「第2の工程」と称する場合がある)、式(2)で表されるエステル又はラクトンを得る。
【0093】
第1の工程における酸化反応は溶媒の存在下又は非存在下で行われる。溶媒としては、例えば、酢酸、プロピオン酸などの有機酸;アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類;ホルムアミド、アセトアミド、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミドなどのアミド類;ヘキサン、オクタンなどの脂肪族炭化水素;クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、四塩化炭素、クロロベンゼン、トリフルオロメチルベンゼンなどのハロゲン化炭化水素;ニトロベンゼン、ニトロメタン、ニトロエタンなどのニトロ化合物;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類;これらの混合溶媒などが挙げられる。溶媒としては、酢酸などの有機酸類、アセトニトリルやベンゾニトリルなどのニトリル類、トリフルオロメチルベンゼンなどのハロゲン化炭化水素、酢酸エチルなどのエステル類などを用いる場合が多い。
【0094】
反応温度は、基質の種類などに応じて、例えば0〜150℃、好ましくは20〜120℃、さらに好ましくは40〜80℃程度の範囲から選択できる。反応は常圧又は加圧下で行うことができる。反応時間は、反応温度及び圧力に応じて、例えば30分〜48時間程度の範囲から適当に選択できる。
【0095】
反応は、分子状酸素の存在下又は分子状酸素の流通下、回分式、半回分式、連続式などの慣用の方法により行うことができる。反応終了後、反応生成物は、必要に応じて、濃縮、希釈、溶媒交換、精製等の適当な処理を施した後、第2の工程に供される。
【0096】
第1の工程では、基質として用いた第2級アルコールが酸化されて、例えば、前記式(3a)及び/又は(3b)で表される化合物等の過酸化物が主に生成する。なお、前記第2級アルコールはこの工程で、対応するヒドロペルオキシド類やケトンにも変換しうる。
【0097】
第2の工程では、酸化反応後の反応生成物をハロゲン原子含有カルボン酸、ハロゲン原子非含有スルホン酸、又はハロゲン原子含有フェノールで処理して、前記式(2)で表されるエステル又はラクトンを生成させる。
【0098】
ハロゲン原子含有カルボン酸、ハロゲン原子非含有スルホン酸、又はハロゲン原子含有フェノールによる処理は溶媒の存在下又は非存在下で行われる。溶媒としては、前記第1の工程において用いられる各種溶媒が挙げられる。第1の工程の溶媒と第2の工程の溶媒は同一であっても異なっていてもよい。処理温度は、例えば0〜150℃、好ましくは20〜120℃、さらに好ましくは40〜80℃程度である。圧力は常圧、加圧下の何れであってもよい。反応時間は、例えば、0.5〜24時間、好ましくは2〜10時間、さらに好ましくは3〜8時間程度である。
【0099】
第2の工程においては、第1の工程で生成した酸化反応生成物[例えば、前記式(3a)、(3b)で表される過酸化物など]が速やかに分解して、目的物である対応するエステル又はラクトンに変換される。
【0100】
第1の工程及び/又は第2の工程の終了後、反応生成物、未反応の基質やケトン、窒素原子含有環状化合物、ハロゲン原子含有カルボン酸、ハロゲン原子非含有スルホン酸、又はハロゲン原子含有フェノール、溶媒は、それぞれ、例えば 濾過、濃縮、蒸留、抽出、晶析、再結晶、吸着、カラムクロマトグラフィーなどの分離手段やこれらを組み合わせた分離手段により分離・精製・回収できる。また、未反応の基質やケトン、窒素原子含有環状化合物、ハロゲン原子含有カルボン酸、ハロゲン原子非含有スルホン酸、又はハロゲン原子含有フェノール、溶媒は、前記分離手段により分離した後、第1の工程及び/又は第2の工程にリサイクルすることも可能である。未反応の基質やケトン、窒素原子含有環状化合物、ハロゲン原子含有カルボン酸、ハロゲン原子非含有スルホン酸、又はハロゲン原子含有フェノール、溶媒などをリサイクル使用することにより、目的化合物を生産効率よく製造することができる。
【0101】
なお、第1の工程又は第2の工程の反応系にインジウム化合物、セレン化合物、テルル化合物及びポロニウム化合物から選択された少なくとも1種の化合物を添加してもよく、第2の工程後の反応生成物をこれらの化合物で処理してもよい。これらの化合物の添加あるいはこれらの化合物での処理により、目的化合物の収率や選択率が向上する場合がある。インジウム化合物、セレン化合物、テルル化合物、ポロニウム化合物としては前記のものを使用でき、その使用量も前記と同様である。第2の工程の反応生成物を上記の化合物で処理する場合、該処理の条件は前記第1のエステル又はラクトンの製造法の場合と同様である。
【0102】
[第3のエステル又はラクトンの製造法]
本発明の第3のエステル又はラクトンの製造法では、前記式(3a)及び/又は(3b)で表される過酸化物をハロゲン原子含有カルボン酸、ハロゲン原子非含有スルホン酸、又はハロゲン原子含有フェノールで処理して、前記式(2)で表されるエステル又はラクトンを得る。式(3a)、(3b)におけるRa、Rbは前記に同じである。
【0103】
式(3a)、(3b)で表される化合物は、前記のように、第2のエステル又はラクトンの製造法の第1の工程で生成する。
【0104】
また、式(3a)で表される化合物は、前記式(9)で表されるケトンを過酸化水素又は過酸化物と反応させることにより得ることができる。この場合、反応は溶媒の存在下又は非存在下で行うことができる。反応温度は、例えば0〜80℃、好ましくは10〜40℃程度である。反応終了後、反応生成物は、濾過、濃縮、蒸留、抽出、晶析、再結晶、吸着、カラムクロマトグラフィーなどの分離手段やこれらを組み合わせた分離手段により分離・精製・回収できる。
【0105】
さらに、式(3b)で表される化合物は、前記式(9)で表されるケトンを、塩酸などの酸の存在下で、過酸化水素又は過酸化物と反応させることにより得ることができる。この場合、反応は溶媒の存在下又は非存在下で行うことができる。反応温度は、例えば0〜80℃、好ましくは10〜40℃程度である。反応終了後、反応生成物は、濾過、濃縮、蒸留、抽出、晶析、再結晶、吸着、カラムクロマトグラフィーなどの分離手段やこれらを組み合わせた分離手段により分離・精製・回収できる。
【0106】
式(3a)及び/又は(3b)で表される過酸化物のハロゲン原子含有カルボン酸、ハロゲン原子非含有スルホン酸、又はハロゲン原子含有フェノールによる処理は溶媒の存在下又は非存在下で行われる。溶媒としては、前記第2のエステル又はラクトンの製造法の第1の工程において用いられる各種溶媒が挙げられる。処理温度は、例えば0〜150℃、好ましくは10〜120℃、さらに好ましくは15〜80℃程度である。圧力は常圧、加圧下の何れであってもよい。反応時間は、例えば、0.5〜24時間、好ましくは2〜10時間、さらに好ましくは3〜8時間程度である。
【0107】
ハロゲン原子含有カルボン酸、ハロゲン原子非含有スルホン酸、又はハロゲン原子含有フェノール処理により、式(3a)、(3b)で表される過酸化物が分解して目的物である対応する式(2)で表されるエステル又はラクトンに変換される。
【0108】
反応終了後、反応生成物、未反応原料、ハロゲン原子含有カルボン酸、ハロゲン原子非含有スルホン酸、又はハロゲン原子含有フェノール、溶媒等は、それぞれ、例えば 濾過、濃縮、蒸留、抽出、晶析、再結晶、吸着、カラムクロマトグラフィーなどの分離手段やこれらを組み合わせた分離手段により分離・精製・回収できる。また、未反応原料、ハロゲン原子含有カルボン酸、ハロゲン原子非含有スルホン酸、又はハロゲン原子含有フェノール、溶媒は、前記分離手段により分離した後、反応工程にリサイクルすることも可能である。これらをリサイクル使用することにより、目的化合物を生産効率よく製造することができる。
【0109】
なお、反応系にインジウム化合物、セレン化合物、テルル化合物及びポロニウム化合物から選択された少なくとも1種の化合物を添加してもよく、フッ素原子含有アルコールによる処理後の反応生成物をこれらの化合物でさらに処理してもよい。これらの化合物の添加あるいはこれらの化合物での処理により、目的化合物の収率や選択率が向上する場合がある。インジウム化合物、セレン化合物、テルル化合物、ポロニウム化合物としては前記のものを使用でき、その使用量も前記と同様である。フッ素原子含有アルコールによる処理後の反応生成物をを上記の化合物でさらに処理する場合、該処理の条件は前記第1のエステル又はラクトンの製造法の場合と同様である。
【0110】
[第4のエステル又はラクトンの製造法]
本発明の第4のエステル又はラクトンの製造法では、式(4)で表されるケトンを、式(5)で表される第2級アルコールと、式(I)で表される骨格を環の構成要素として含む窒素原子含有環状化合物と、ハロゲン原子含有カルボン酸、ハロゲン原子非含有スルホン酸、又はハロゲン原子含有フェノールの存在下、分子状酸素により酸化して、式(6)で表されるエステル又はラクトンを得る。この方法によれば、ケトンから対応するエステル又はラクトンをワンステップで製造することができ、工業的方法として極めて有用である。
【0111】
酸化反応は溶媒の存在下又は非存在下で行われる。溶媒としては、前記第1のエステル又はラクトンの製造法において用いられる各種溶媒が挙げられる。反応温度は、例えば0〜150℃、好ましくは20〜120℃、さらに好ましくは40〜80℃程度の範囲から選択できる。圧力は常圧、加圧下の何れであってもよい。反応時間は、反応温度及び圧力に応じて、例えば30分〜48時間程度の範囲から適当に選択できる。
【0112】
反応は、分子状酸素の存在下又は分子状酸素の流通した、回分式、半回分式、連続式などの慣用の方法により行うことができる。反応により、基質として用いたケトンが対応するエステル又はラクトンに変換される。
【0113】
反応終了後、反応生成物や未反応の基質、第2級アルコール、窒素原子含有環状化合物、ハロゲン原子含有カルボン酸、ハロゲン原子非含有スルホン酸、又はハロゲン原子含有フェノール、溶媒は、例えば 濾過、濃縮、蒸留、抽出、晶析、再結晶、吸着、カラムクロマトグラフィーなどの分離手段やこれらを組み合わせた分離手段により分離・精製・回収できる。また、未反応の基質や第2級アルコール、窒素原子含有環状化合物、ハロゲン原子含有カルボン酸、ハロゲン原子非含有スルホン酸、又はハロゲン原子含有フェノール、溶媒は、前記分離手段により分離した後、酸化工程にリサイクルすることも可能である。未反応の基質や第2級アルコール、窒素原子含有環状化合物、ハロゲン原子含有カルボン酸、ハロゲン原子非含有スルホン酸、又はハロゲン原子含有フェノール、溶媒などをリサイクル使用することにより、目的化合物を生産効率よく製造することができる。
【0114】
なお、反応系にインジウム化合物、セレン化合物、テルル化合物及びポロニウム化合物から選択された少なくとも1種の化合物を添加してもよく、酸化反応後の反応生成物をこれらの化合物で処理してもよい。これらの化合物の添加あるいはこれらの化合物での処理により、目的化合物の収率や選択率が向上する場合がある。インジウム化合物、セレン化合物、テルル化合物、ポロニウム化合物としては前記のものを使用でき、その使用量も前記と同様である。
【0115】
[第5のエステル又はラクトンの製造方法]
本発明の第5のエステル又はラクトンの製造法では、式(4)で表されるケトンを、式(5)で表される第2級アルコールと、式(I)で表される骨格を環の構成要素として含む窒素原子含有環状化合物の存在下、分子状酸素により酸化した後(この酸化工程を、「第1の工程」と称する場合がある)、ハロゲン原子含有カルボン酸、ハロゲン原子非含有スルホン酸、又はハロゲン原子含有フェノールで処理して(この処理工程を、「第2の工程」と称する場合がある)、式(6)で表されるエステル又はラクトンを得る。
【0116】
第1の工程における酸化反応は溶媒の存在下又は非存在下で行われる。溶媒としては、例えば、酢酸、プロピオン酸などの有機酸;アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類;ホルムアミド、アセトアミド、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミドなどのアミド類;ヘキサン、オクタンなどの脂肪族炭化水素;クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、四塩化炭素、クロロベンゼン、トリフルオロメチルベンゼンなどのハロゲン化炭化水素;ニトロベンゼン、ニトロメタン、ニトロエタンなどのニトロ化合物;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類;これらの混合溶媒などが挙げられる。溶媒としては、酢酸などの有機酸類、アセトニトリルやベンゾニトリルなどのニトリル類、トリフルオロメチルベンゼンなどのハロゲン化炭化水素、酢酸エチルなどのエステル類などを用いる場合が多い。
【0117】
反応温度は、基質の種類などに応じて、例えば0〜150℃、好ましくは20〜120℃、さらに好ましくは40〜80℃程度の範囲から選択できる。反応は常圧又は加圧下で行うことができる。反応時間は、反応温度及び圧力に応じて、例えば30分〜48時間程度の範囲から適当に選択できる。
【0118】
反応は、分子状酸素の存在下又は分子状酸素の流通下、回分式、半回分式、連続式などの慣用の方法により行うことができる。反応終了後、反応生成物は、必要に応じて、濃縮、希釈、溶媒交換、精製等の適当な処理を施した後、第2の工程に供される。
【0119】
第1の工程では、式(5)で表される第2級アルコールが酸化され、例えば、下記式(10a)及び/又は(10b)で表される化合物等の過酸化物が主に生成するものと推測される。
【化22】

(式中、Re、Rfは前記に同じ)
【0120】
第2の工程では、酸化反応後の反応生成物をハロゲン原子含有カルボン酸、ハロゲン原子非含有スルホン酸、又はハロゲン原子含有フェノールで処理して、前記式(6)で表されるエステル又はラクトンを生成させる。
【0121】
ハロゲン原子含有カルボン酸、ハロゲン原子非含有スルホン酸、又はハロゲン原子含有フェノールによる処理は溶媒の存在下又は非存在下で行われる。溶媒としては、前記第1の工程において用いられる各種溶媒が挙げられる。第1の工程の溶媒と第2の工程の溶媒は同一であっても異なっていてもよい。処理温度は、例えば0〜150℃、好ましくは20〜120℃、さらに好ましくは40〜80℃程度である。圧力は常圧、加圧下の何れであってもよい。反応時間は、例えば、0.5〜24時間、好ましくは2〜10時間、さらに好ましくは3〜8時間程度である。
【0122】
第2の工程では、第1の工程で生成した酸化反応生成物[例えば、前記式(10a)、(10b)で表される過酸化物など]と、式(4)で表されるケトンとが反応して、目的物である式(6)で表されるエステル又はラクトン[式(4)で表されるケトンに対応するエステル又はラクトン]が生成するものと推測される。
【0123】
第1の工程及び/又は第2の工程の終了後、反応生成物、未反応の基質や第2級アルコール、窒素原子含有環状化合物、ハロゲン原子含有カルボン酸、ハロゲン原子非含有スルホン酸、又はハロゲン原子含有フェノール、溶媒は、それぞれ、例えば 濾過、濃縮、蒸留、抽出、晶析、再結晶、吸着、カラムクロマトグラフィーなどの分離手段やこれらを組み合わせた分離手段により分離・精製・回収できる。また、未反応の基質や第2級アルコール、窒素原子含有環状化合物、ハロゲン原子含有カルボン酸、ハロゲン原子非含有スルホン酸、又はハロゲン原子含有フェノール、溶媒は、前記分離手段により分離した後、第1の工程及び/又は第2の工程にリサイクルすることも可能である。未反応の基質や第2級アルコール、窒素原子含有環状化合物、ハロゲン原子含有カルボン酸、ハロゲン原子非含有スルホン酸、又はハロゲン原子含有フェノール、溶媒などをリサイクル使用することにより、目的化合物を生産効率よく製造することができる。
【0124】
なお、第1の工程又は第2の工程の反応系にインジウム化合物、セレン化合物、テルル化合物及びポロニウム化合物から選択された少なくとも1種の化合物を添加してもよく、第2の工程後の反応生成物をこれらの化合物で処理してもよい。これらの化合物の添加あるいはこれらの化合物での処理により、目的化合物の収率や選択率が向上する場合がある。インジウム化合物、セレン化合物、テルル化合物、ポロニウム化合物としては前記のものを使用でき、その使用量も前記と同様である。第2の工程の反応生成物を上記の化合物で処理する場合、該処理の条件は前記第1のエステル又はラクトンの製造法の場合と同様である。
【0125】
本発明の第1〜第3のエステル又はラクトンの製造法によれば、第2級アルコール又はその酸化物(過酸化物)から直接エステル又はラクトンを高い選択率及び高反応速度で、かつ溶媒のロスを低減できる条件で得ることができる。本発明の製造法では、脂肪族第2級アルコールを基質として用いると対応するエステルが生成し、脂環式アルコールを基質として用いると、員数が1つ増加した対応するラクトンが生成する。なお、後者の場合、原料の脂環式アルコールより員数の1つ少ない対応する脂環式カルボン酸が副生することがある。この製造法は、アルキル基などの置換基を有していてもよい3〜20員のシクロアルカノール(シクロアルカノール類;例えば、シクロヘキサノール類など)や2〜4環程度の橋かけ環式炭化水素に対応する脂環式アルコールを酸化して、直接、対応するラクトン類(例えば、ε−カプロラクトン類など)を製造する方法として有用である。
【0126】
さらにまた、本発明の第4又は第5のエステル又はラクトンの製造法によれば、ケトンから直接エステル又はラクトンを高い選択率及び高反応速度で、かつ溶媒のロスを低減できる条件で得ることができる。本発明の製造法では、鎖状ケトンを用いると対応するエステルが生成し、環状ケトンを用いると、員数が1つ増加した対応するラクトンが生成する。この製造法は、特にアルキル基などの置換基を有していてもよい3〜20員のシクロアルカノン(シクロアルカノン類:例えばシクロヘキサノン類など)や2〜4環程度の橋かけ環式炭化水素に対応する環状ケトンを酸化して、対応するラクトン類(例えば、ε−カプロラクトン類など)を製造する方法として有用である。
【0127】
こうして得られたエステル又はラクトンは、医薬、香料、染料、有機合成中間体及び高分子樹脂原料として使用できる。
【実施例】
【0128】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0129】
実施例1
シクロヘキサノール10ミリモル、シクロヘキサノン40ミリモル、N−ヒドロキシフタルイミド6ミリモル、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)3ミリモル、及びトリフルオロ酢酸とヘキサンを75:25の重量比で混合した混合溶媒30mLの混合物を、酸素雰囲気下(1気圧=0.1MPa)、60℃で15時間撹拌した。反応液をガスクロマトグラフィー分析により調べたところ、ε−カプロラクトンが4.1ミリモル、シクロヘキサノールが30ミリモル、シクロヘキサノンが14ミリモル存在していた。ε−カプロラクトンの選択率(シクロヘキサノールとシクロヘキサノンのトータルの転化量を基準)は68%であった。
【0130】
実施例2
シクロヘキサノール10ミリモル、シクロヘキサノン40ミリモル、N−ヒドロキシフタルイミド6ミリモル、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)3ミリモル、及びトリフルオロ酢酸とHFIPを50:50の重量比で混合した混合溶媒30mLの混合物を、酸素雰囲気下(1気圧=0.1MPa)、60℃で15時間撹拌した。反応液をガスクロマトグラフィー分析により調べたところ、ε−カプロラクトンが3.8ミリモル、シクロヘキサノールが29ミリモル、シクロヘキサノンが16ミリモル存在していた。ε−カプロラクトンの選択率(シクロヘキサノールとシクロヘキサノンのトータルの転化量を基準)は76%であった。
【0131】
実施例3
シクロヘキサノール10ミリモル、シクロヘキサノン40ミリモル、N−ヒドロキシフタルイミド6ミリモル、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)3ミリモル、及びトリクロロ酢酸とHFIPを50:50の重量比で混合した混合溶媒30mLの混合物を、酸素雰囲気下(1気圧=0.1MPa)、60℃で15時間撹拌した。反応液をガスクロマトグラフィー分析により調べたところ、ε−カプロラクトンが3.5ミリモル、シクロヘキサノールが28ミリモル、シクロヘキサノンが17ミリモル存在していた。ε−カプロラクトンの選択率(シクロヘキサノールとシクロヘキサノンのトータルの転化量を基準)は70%であった。
【0132】
実施例4
シクロヘキサノール10ミリモル、シクロヘキサノン40ミリモル、N−ヒドロキシフタルイミド6ミリモル、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)3ミリモル、及びp−トルエンスルホン酸一水和物とHFIPを50:50の重量比で混合した混合溶媒30mLの混合物を、酸素雰囲気下(1気圧=0.1MPa)、60℃で15時間撹拌した。反応液をガスクロマトグラフィー分析により調べたところ、ε−カプロラクトンが3.3ミリモル、シクロヘキサノールが28ミリモル、シクロヘキサノンが17ミリモル存在していた。ε−カプロラクトンの選択率(シクロヘキサノールとシクロヘキサノンのトータルの転化量を基準)は66%であった。
【0133】
実施例5
シクロヘキサノール10ミリモル、シクロヘキサノン40ミリモル、N−ヒドロキシフタルイミド6ミリモル、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)3ミリモル、及びメタンスルホン酸とHFIPを50:50の重量比で混合した混合溶媒30mLの混合物を、酸素雰囲気下(1気圧=0.1MPa)、60℃で15時間撹拌した。反応液をガスクロマトグラフィー分析により調べたところ、ε−カプロラクトンが3.5ミリモル、シクロヘキサノールが29ミリモル、シクロヘキサノンが16ミリモル存在していた。ε−カプロラクトンの選択率(シクロヘキサノールとシクロヘキサノンのトータルの転化量を基準)は70%であった。
【0134】
実施例6
シクロヘキサノール10ミリモル、シクロヘキサノン40ミリモル、N−ヒドロキシフタルイミド6ミリモル、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)3ミリモル、及び3−トリフルオロメチルフェノール30mLの混合物を、酸素雰囲気下(1気圧=0.1MPa)、60℃で15時間撹拌した。反応液をガスクロマトグラフィー分析により調べたところ、ε−カプロラクトンが3.8ミリモル、シクロヘキサノールが30ミリモル、シクロヘキサノンが15ミリモル存在していた。ε−カプロラクトンの選択率(シクロヘキサノールとシクロヘキサノンのトータルの転化量を基準)は76%であった。
【0135】
実施例7
ベンズヒドロール120ミリモル、シクロヘキサノン40ミリモル、N−ヒドロキシフタルイミド6ミリモル、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)3ミリモル、アセトニトリル60mLの混合物を、酸素雰囲気下(1気圧=0.1MPa)、75℃で20時間撹拌した。その後、溶媒を除去し、トリフルオロ酢酸とヘキサンを75:25の重量比で混合した混合溶媒120mLを加え、60℃で24時間撹拌した。反応液をガスクロ的グラフィー分析により調べたところ、ε−カプロラクトンが26ミリモル存在していた。ε−カプロラクトンのシクロヘキサノン基準の収率は65%であった。
【0136】
実施例8
試験管に下記式(11)で表される1,1’−ジヒドロキシジシクロヘキシルパーオキシドを0.434ミリモル入れ、トリフルオロ酢酸とヘキサンを75:25の重量比で混合した混合溶液を554.4mg添加した。室温で30分撹拌し、ガスクロマトグラフィーにより分析したところ、ε−カプロラクトンが0.432ミリモル、シクロヘキサノンが0.395ミリモル生成した。
【化23】

【0137】
実施例9
試験管に上記式(11)で表される1,1’−ジヒドロキシジシクロヘキシルパーオキシドを0.651ミリモル入れ、トリフルオロ酢酸とHFIPを50:50の重量比で混合した混合溶液を941.2mg添加した。室温で30分撹拌し、ガスクロマトグラフィーにより分析したところ、ε−カプロラクトンが0.570ミリモル、シクロヘキサノンが0.707ミリモル生成した。
【0138】
実施例10
試験管に上記式(11)で表される1,1’−ジヒドロキシジシクロヘキシルパーオキシドを0.217ミリモル入れ、トリクロロ酢酸とHFIPを50:50の重量比で混合した混合溶液を944.4mg添加した。室温で30分撹拌し、ガスクロマトグラフィーにより分析したところ、ε−カプロラクトンが0.209ミリモル、シクロヘキサノンが0.210ミリモル生成した。
【0139】
実施例11
試験管に上記式(11)で表される1,1’−ジヒドロキシジシクロヘキシルパーオキシドを0.651ミリモル入れ、p−トルエンスルホン酸一水和物とHFIPを62:38の重量比で混合した混合溶液を1251.1mg添加した。室温で30分撹拌し、ガスクロマトグラフィーにより分析したところ、ε−カプロラクトンが0.508ミリモル、シクロヘキサノンが0.716ミリモル生成した。
【0140】
実施例12
試験管に上記式(11)で表される1,1’−ジヒドロキシジシクロヘキシルパーオキシドを0.217ミリモル入れ、3−トリフルオロメチルフェノールを944.5mg添加した。室温で30分撹拌し、ガスクロマトグラフィーにより分析したところ、ε−カプロラクトンが0.206ミリモル、シクロヘキサノンが0.195ミリモル生成した。
【0141】
実施例13(反応速度比較)
試験管に上記式(11)で表される1,1’−ジヒドロキシジシクロヘキシルパーオキシドを0.217ミリモル入れ、トリフルオロ酢酸とヘキサンを75:25の重量比で混合した混合溶液を554.4mg添加した。室温で10分撹拌し、ガスクロマトグラフィーにより分析したところ、ε−カプロラクトンが0.213ミリモル、シクロヘキサノンが0.195ミリモル生成した。
【0142】
実施例14(反応速度比較)
試験管に上記式(11)で表される1,1’−ジヒドロキシジシクロヘキシルパーオキシドを0.217ミリモル入れ、メタンスルホン酸とへキサンを75:25の重量比で混合した混合溶液を554.4mg添加した。室温で10分撹拌し、ガスクロマトグラフィーにより分析したところ、ε−カプロラクトンが0.195ミリモル、シクロヘキサノンが0.184ミリモル生成した。
【0143】
比較例1(反応速度比較)
試験管に上記式(11)で表される1,1’−ジヒドロキシジシクロヘキシルパーオキシドを0.217ミリモル入れ、HFIPを554.4mg添加した。室温で10分撹拌し、ガスクロマトグラフィーにより分析したところ、ε−カプロラクトンが0.104ミリモル、シクロヘキサノンが0.102ミリモル生成した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】

(式中、Ra、Rbは、同一又は異なって、隣接する炭素原子との結合部位に炭素原子を有する有機基を示し、Ra及びRbは互いに結合して、隣接する炭素原子と共に環を形成してもよい)
で表される第2級アルコールを、下記式(I)
【化2】

[式中、Xは酸素原子又は−OR基(Rは水素原子又はヒドロキシル基の保護基を示す)を示す]
で表される骨格を環の構成要素として含む窒素原子含有環状化合物及びハロゲン原子含有カルボン酸、ハロゲン原子非含有スルホン酸、又はハロゲン原子含有フェノールの存在下、分子状酸素により酸化して、下記式(2)
【化3】

(式中、Ra、Rbは、同一又は異なって、隣接するカルボニル炭素原子又は酸素原子との結合部位に炭素原子を有する有機基を示し、Ra及びRbは互いに結合して、隣接するカルボニル炭素原子及び酸素原子と共に環を形成してもよい)
で表される化合物を得ることを特徴とするエステル又はラクトンの製造法。
【請求項2】
式(1)で表される第2級アルコールをケトンの存在下で酸化する請求項1記載のエステル又はラクトンの製造法。
【請求項3】
下記式(1)
【化4】

(式中、Ra、Rbは、同一又は異なって、隣接する炭素原子との結合部位に炭素原子を有する有機基を示し、Ra及びRbは互いに結合して、隣接する炭素原子と共に環を形成してもよい)
で表される第2級アルコールを、下記式(I)
【化5】

[式中、Xは酸素原子又は−OR基(Rは水素原子又はヒドロキシル基の保護基を示す)を示す]
で表される骨格を環の構成要素として含む窒素原子含有環状化合物の存在下、分子状酸素により酸化した後、ハロゲン原子含有カルボン酸、ハロゲン原子非含有スルホン酸、又はハロゲン原子含有フェノールで処理して、下記式(2)
【化6】

(式中、Ra、Rbは、同一又は異なって、隣接するカルボニル炭素原子又は酸素原子との結合部位に炭素原子を有する有機基を示し、Ra及びRbは互いに結合して、隣接するカルボニル炭素原子及び酸素原子と共に環を形成してもよい)
で表される化合物を得ることを特徴とするエステル又はラクトンの製造法。
【請求項4】
式(1)で表される第2級アルコールをケトンの存在下で酸化する請求項3記載のエステル又はラクトンの製造法。
【請求項5】
下記式(3a)及び/又は(3b)
【化7】

(式中、Ra、Rbは、同一又は異なって、隣接する炭素原子との結合部位に炭素原子を有する有機基を示し、Ra及びRbは互いに結合して、隣接する炭素原子と共に環を形成してもよい)
で表される過酸化物をハロゲン原子含有カルボン酸、ハロゲン原子非含有スルホン酸、又はハロゲン原子含有フェノールで処理して、下記式(2)
【化8】

(式中、Ra、Rbは、同一又は異なって、隣接するカルボニル炭素原子又は酸素原子との結合部位に炭素原子を有する有機基を示し、Ra及びRbは互いに結合して、隣接するカルボニル炭素原子及び酸素原子と共に環を形成してもよい)
で表される化合物を得ることを特徴とするエステル又はラクトンの製造法。
【請求項6】
ハロゲン原子含有カルボン酸、ハロゲン原子非含有スルホン酸、又はハロゲン原子含有フェノールとして、トリフルオロ酢酸又はメタンスルホン酸を用いることを特徴とする請求項5記載のエステル又はラクトンの製造法。
【請求項7】
下記式(4)
【化9】

(式中、Rc、Rdは、同一又は異なって、隣接する炭素原子との結合部位に炭素原子を有する有機基を示し、Rc及びRdは互いに結合して、隣接する炭素原子と共に環を形成してもよい)
で表されるケトンを、下記式(5)
【化10】

(式中、Re、Rfは、同一又は異なって、隣接する炭素原子との結合部位に炭素原子を有する有機基を示し、Re及びRfは互いに結合して、隣接する炭素原子と共に環を形成してもよい)
で表される第2級アルコールと、下記式(I)
【化11】

[式中、Xは酸素原子又は−OR基(Rは水素原子又はヒドロキシル基の保護基を示す)を示す]
で表される骨格を環の構成要素として含む窒素原子含有環状化合物及びハロゲン原子含有カルボン酸、ハロゲン原子非含有スルホン酸、又はハロゲン原子含有フェノールの存在下、分子状酸素により酸化して、下記式(6)
【化12】

(式中、Rc、Rdは、同一又は異なって、隣接するカルボニル炭素原子又は酸素原子との結合部位に炭素原子を有する有機基を示し、Rc及びRdは互いに結合して、隣接するカルボニル炭素原子及び酸素原子と共に環を形成してもよい)
で表される化合物を得ることを特徴とするエステル又はラクトンの製造法。
【請求項8】
下記式(4)
【化13】

(式中、Rc、Rdは、同一又は異なって、隣接する炭素原子との結合部位に炭素原子を有する有機基を示し、Rc及びRdは互いに結合して、隣接する炭素原子と共に環を形成してもよい)
で表されるケトンを、下記式(5)
【化14】

(式中、Re、Rfは、同一又は異なって、隣接する炭素原子との結合部位に炭素原子を有する有機基を示し、Re及びRfは互いに結合して、隣接する炭素原子と共に環を形成してもよい)
で表される第2級アルコールと、下記式(I)
【化15】

[式中、Xは酸素原子又は−OR基(Rは水素原子又はヒドロキシル基の保護基を示す)を示す]
で表される骨格を環の構成要素として含む窒素原子含有環状化合物の存在下、分子状酸素により酸化した後、ハロゲン原子含有カルボン酸、ハロゲン原子非含有スルホン酸、又はハロゲン原子含有フェノールで処理して、下記式(6)
【化16】

(式中、Rc、Rdは、同一又は異なって、隣接するカルボニル炭素原子又は酸素原子との結合部位に炭素原子を有する有機基を示し、Rc及びRdは互いに結合して、隣接するカルボニル炭素原子及び酸素原子と共に環を形成してもよい)
で表される化合物を得ることを特徴とするエステル又はラクトンの製造法。