説明

エストロゲンおよび抗エストロゲンマーカー遺伝子

本発明は以下の工程によってエストロゲン様または抗エストロゲン様活性を有する化合物をスクリーニングする方法に関する:表1の少なくとも1つの単一遺伝子を発現することができる細胞系またはそのサンプルを提供する工程、前記系の少なくとも一部分をスクリーニングされるべき化合物とインキュベーションする工程、および表1の単一遺伝子の前記系における発現をコントロールの細胞系における遺伝子発現と比較する工程。本発明の別の目的は、エストロゲンレセプターシグナリングによって惹起され、仲介され、および/または伝播される生理学的および/または病理学的状態を以下の工程によってモニターする方法に関する:少なくとも1つの単一化合物の有効量をそのような処置を必要とする哺乳動物に投与する工程、および前記哺乳動物から回収した生物学的サンプルにおける表1の単一遺伝子の発現を決定する工程。本発明はまた、表1の遺伝子によってコードされる遺伝子産物と特異的に相互作用する物質と同様、表1の遺伝子の使用にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は以下の工程によってエストロゲン様または抗エストロゲン様活性を有する化合物をスクリーニングする方法に関する:表1の少なくとも1つの単一遺伝子を発現することができる細胞系またはそのサンプルを提供する工程、前記系の少なくとも一部分をスクリーニングされるべき化合物とインキュベーションする工程、および表1の単一遺伝子の前記系における発現をコントロールの細胞系における遺伝子発現と比較する工程。本発明の別の目的は、エストロゲンレセプターシグナリングによって惹起され、仲介され、および/または伝播される生理学的および/または病理学的状態を以下の工程によってモニターする方法に関する:少なくとも1つの単一化合物の有効量をそのような処置を必要とする哺乳動物に投与する工程、および前記哺乳動物から回収した生物学的サンプルにおける表1の単一遺伝子の発現を決定する工程。本発明はまた、表1の遺伝子によってコードされる遺伝子産物と特異的に相互作用する物質と同様に表1の遺伝子の使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
内分泌活性化合物(EAC)は、ホルモンの合成、分泌、輸送、結合、作用または排除を変化させることによって、内因性ホルモンの生理学的機能に干渉しまたはこれを模倣することができるヒト内因性および天然起源の外因性物質である。EACは、ヒトおよび野生生物集団における発生系、生殖系、神経系および免疫系に関連する多様な反健康作用を引き起こすか、またエストロゲン依存性疾患に対して有益な作用を有することができ、それらの作用態様に関する完全な解析を確実にする。
異なる構造を有する種々の化学物質クラスから生じるので、内分泌系に対するEACの作用が多様なメカニズムによって仲介されるということは驚くにあたらない。主要メカニズムは、核内レセプタースーパーファミリーに属し、遺伝子の転写を調節するステロイドホルモンレセプターと関連する。エストロゲンレセプターERαおよびERβは、多くの日常生活製品(例えば医薬、農薬または食品成分)を含むエストロゲン様化学物質の詳述されている標的である。全ての化合物はER依存遺伝子転写の仲介という類似性を共有するが、一般的な考え方では、植物エストロゲン(天然に存在する植物由来化合物の大きなファミリー)は一般に有益と考えられ、一方、合成EACは有害な作用を伴う。しかしながら、学術的研究はこの一般化された考えを支持しない。実験結果は多様な因子、例えば処置濃度、使用された種、組織または細胞タイプおよび内在エストロゲンの状態に左右される。それら生物学的作用の根幹に横たわるメカニズムのより深い理解のみがこの食い違いの理解に役立ち、ヒトおよび環境に対する関係の評価を助けることができる。
【0003】
結果として内分泌の破壊は重要な問題となった。なぜならば、様々な起源および化学物質クラスで構成される多数の環境化合物が、エストロゲンレセプターと結合してエストロゲン応答遺伝子を刺激または阻害することによって多くの種においてホルモンの不均衡を誘発し得るからである。これに続いて、多くの他の遺伝子の発現レベルが変化し、いくつかの本質的な細胞性プロセスが制御され得る。しかしながら、マイトジェン活性化タンパク質キナーゼ、ホスファチジルイノシトール3-OHキナーゼ、GPCRおよび増殖因子シグナリングカスケードのステロイド誘発性調節を伴う急速な非ゲノム性作用もまたトランスクリプトームにおける改変を引き起こすことができる。したがって包括的な遺伝子発現における多様性についての情報は、ERとの初期結合事象の究明よりもエストロゲン性の信頼に足る評価にとって重要である。
DESに関して見出されたエストロゲン性のための推定マーカー遺伝子の多くは、より低い程度でゲニステイン(GEN)、ジーラレノン(ZEA)、ビスフェノールA(BPA)、o.p’-ジクロルジフェニルトリクロルエタン(DDT)およびレスヴェラトール(RESV)によって調節され、このことは、これら化合物について報告されたエストロゲン様能力が低いことを裏付けている(Mueller et al. 2004 Toxicol Sci 80(1):14-25)。そのような低能力はリスク評価および実験動物からヒトへの低用量作用の外挿を複雑にし、エストロゲン性の評価および用量‐応答関係の概算のためにより感度の高い実験系が必要であることを示している。特に、BPAおよびDDTについての結果は熟慮の必要性に根拠を与える。なぜならば、GENおよびZEAよりも50から100倍高い用量においてさえ、マーカー遺伝子の調節は植物エストロゲンの場合よりもしばしば弱かったからである。
【0004】
新規なスクリーニングツールの重要性はまた、REACH(化学物質の登録、評価、認可および制限(Registration, Evaluation, Authorization and Restriction of Chemicals))、化学物質に対する新規な欧州共同体規制(European Commission 2007)によって例証されている。REACHにしたがって、おおよそ30,000の既存の化学物質を試験する必要があり、内分泌破壊はREACH試験プログラムにおける極めて重要な問題である。しかしながら、莫大な費用および動物保護の問題が、既存の伝統的な毒物学的アッセイを用いるREACHの要件を満たすことを困難にしている。
環境ホルモンの作用はエストロゲン様活性を有する化学物質を判定することによって検出できることが、最近になってUS2003/0008309A1で提唱された。遺伝子の部分または全体および/またはEST(発現配列タグ(Expressed Sequence Tag))(その発現はエストロゲン様活性を有する化学物質の影響を受ける)を含むDNAフラグメントがマイクロアレイの基板に固定される。しかしながら、従来技術は乳癌由来MCF-7細胞での発現レベルの変化に限定され、別個の発現プロファイルを編集することができない。
【0005】
US 7,371,207B2は、エストロゲンおよび/または他のホルモン若しくはホルモンの組合せに曝露された腎臓細胞およびそれらに曝露されていない腎臓細胞において示差的に発現している複数の遺伝子を開示しており、それらは第1のグループと第2のグループを含んでおり、第1のグループの各遺伝子はエストロジェンおよび/または他のホルモン若しくはホルモンの組合せに曝露された腎臓細胞において曝露されていない細胞よりも高レベルで示差的に発現しており、第2のグループの各遺伝子はエストロジェンおよび/または他のホルモン若しくはホルモンの組合せに曝露された腎臓細胞において曝露されていない細胞よりも低いレベルで発現している。しかしながら、限られており、前記第1のグループは完全長遺伝子NTT73、CYP7B 1およびABCC3を含み、前記第2のグループは完全長遺伝子BHMTおよびSAHHを含んでおり、このことはスクリーニングの安定性を低下させ、誤差率を増大させる。
【発明の概要】
【0006】
したがって、本発明の根底を形成する技術的課題は、エストロゲン様または抗エストロゲン様特性を効率的に同定し特徴付けることのできる、化合物スクリーニング方法を提供することである。本発明の別の課題は、エストロゲン依存性疾患の簡便で迅速なモニタリングを可能とする、エストロゲン様または抗エストロゲン様活性を検出するための物質を提供することである。
【0007】
本発明は、エストロゲン様または抗エストロゲン様活性を有する化合物をスクリーニングする方法を提供することによって前記問題を解決する。この方法は以下の工程を含む:
(a)表1の少なくとも1つの遺伝子を発現することができる細胞系またはそのサンプルを提供する工程であって、前記系が単細胞、細胞培養、組織、器官および哺乳動物の群から選択される、前記工程、
(b)前記系の少なくとも一部分をスクリーニングされるべき化合物とインキュベーションする工程、および
(c)前記表1 の少なくとも1つの遺伝子の前記系における発現をコントロールの細胞系における遺伝子発現と比較することによって活性を検出する工程。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】(A)潜在的内分泌活性を有する植物由来化合物、菌類由来化合物および合成化合物の構造。(B)DES、GEN、RESV、ZEA、BPA、DDTおよび/またはICIの低用量(ld)および高用量(hd)で24時間処理したイシカワプラスおよびイシカワマイナス細胞におけるIllumina包括的遺伝子発現プロファイリング(p-値/BH-q-値は0.01未満)から得られた有意な調節を示す遺伝子の実験的相関関係の解析。相関距離の算出および画像化は、Genedata’s Expressionist(商標) Analystソフト(Genedata AG, Basel, Switzerland)によって実施した。Pearsonの相関係数の規模はカラースケール及び対応する注釈によって示した。
【図2】遺伝子発現のK-Meansクラスター解析および種々のEACによる処理後のイシカワプラス細胞の脱調節遺伝子の数。有意に調節される遺伝子(p-値/BH-Q-値は0.01未満)のK-Meansクラスターは、低用量(ld)および高用量(hd)のEAC、抗エストロゲンICI、またはhdレベルEACとICIとの組み合わせによる処理の後で比較した。クラスター1および2は、EAC処理と抗エストロゲンICI処理との間で正反対の発現プロファイルを有する遺伝子を含む。したがって、これらの遺伝子は古典的なエストロゲンレセプター依存性シグナリングによって調節される可能性があり、エストロゲン依存遺伝子クラスターと称される。EACに対する応答でICIと類似する発現パターンを示す遺伝子はクラスター3−6にまとめられている。クラスター3および4は両方の用量のEAC処理でこれらのプロファイルを示す遺伝子を含み、一方、クラスター5および6の遺伝子はld処理でのみ抗エストロゲン様作用を示した。エストロゲン様および抗エストロゲン様遺伝子調節の割合(%エストロゲン様/抗エストロゲン様応答プロファイル)を各化合物について有意に調節される遺伝子の総数に対して算出した。
【図3】低用量(ld)および高用量(hd)の種々のEACおよび/またはICIによる24時間処理後のイシカワプラス細胞で示差的に調節される遺伝子の遺伝子プロファイルディスプレー。Illuminaアレイを用いてEACに対する応答を解析した。61のアップレギュレートされる遺伝子および26のダウンレギュレートされる遺伝子(これらはヒートマップで示されている)が有意に調節されることが見出され(p-値/BH-q-値は0.01未満)、DESのhd処理については1.5倍を超える調節倍数を示した。カラースケールは遺伝子発現の変化倍数に対応する。すなわち刺激される遺伝子は赤で、抑制される遺伝子は緑で、調節されない遺伝子は黒で示される。マーカー遺伝子の略語は補充的情報として提供される。
【図4】イシカワプラス細胞でのIllumina実験から選択した遺伝子をTaqMan PCRに付して、マイクロアレイの結果を立証した。データは18Sハウスキーパー遺伝子発現に対してΔΔCt法によって解析した。調節倍数は担体コントロールに対して両方の技術について計算した。*p<0.05、**p<0.01(スチューデントのt検定)。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、エストロゲン様または抗エストロゲン様活性を有する化合物をスクリーニングする方法を提供することによって前記問題を解決する。この方法は以下の工程を含む:
(a)表1の少なくとも1つの遺伝子を発現することができる細胞系またはそのサンプルを提供する工程であって、前記系が単細胞、細胞培養、組織、器官および哺乳動物の群から選択される、前記工程、
(b)前記系の少なくとも一部分をスクリーニングされるべき化合物とインキュベーションする工程、および
(c)前記表1の少なくとも1つの遺伝子の前記系における発現をコントロールの細胞系における遺伝子発現と比較することによって活性を検出する工程。
【0010】
驚くべきことに、72の遺伝子で構成される上述の群はエストロゲン性と相関性を示すことを本発明者らは明らかにした。結果として、前述の複数のマーカー遺伝子は新規なエストロゲン/エストロゲンレセプター標的遺伝子を表わす(その遺伝子自体およびその遺伝子産物は、それぞれエストロゲン性の段階を弁別するために極めて適切な標的である)。基本的遺伝子は示差的発現解析の結果として選択される。同定された遺伝子は現在判明しているその実体における機能または分布と必ずしも一致しないが、そのような関係が前記群の1つの単一メンバーまたは2つ以上のメンバーで出現する可能性は排除されない。その代わり、すべての遺伝子はEAC未処置細胞に対する明確な相違によって特徴づけられる(前記相違はアップレギュレーションまたは抑制のどちらかによって示される)。これらの遺伝子は配列および他の特色についてすでに従来技術において記載されているが、エストロゲン性との連関は記載されていない。類似の遺伝子の調節は、分裂促進遺伝子のアップレギュレーション並びに負の分裂調節因子およびアポトーシス誘発遺伝子のダウンレギュレーションを介してエストロゲン様成長刺激活性を発揮するEACの能力を反映する。前述の遺伝子は別の名で命名されているかも知れないが、アクセッション番号(一般的に許容され、多数のデータベース(例えばGenBank、SwissProtなど)で定着している)によって容易に割り当てられる。
【0011】
エストロゲン性と個々の遺伝子との連関が、内分泌活性化合物(エストロゲンレセプターシグナリングを妨害し得る)および抗エストロゲン様化合物のin vitro検出に利用される。化合物特異的な遺伝子発現プロファイルの構築(表1の複数の遺伝子を基にする)は、エストロゲン様または抗エストロゲン様作用メカニズムの確立において思いがけず有益であり、したがって新規化合物の潜在的な危険または利点の判定に役立ち、古典的スクリーニング方法を補足する。1つの単一マーカー遺伝子または2つ以上のマーカーを最高度の検査信頼性のために用いることができる。前記は、本方法の基礎となる本発明の原理は、遺伝子レベルまたはタンパク質レベル(遺伝的レベルが好ましい)で検出し得る遺伝子産物を探索することを含むことを意味する。遺伝子産物は、一定の細胞タイプに対する特異性と同様にその絶対量および相対量の両方の観点から選択される。
【0012】
一般的に、“遺伝子”は、調節機能、触媒機能を有するか、および/またはタンパク質をコードするRNAに転写され得るゲノム上の領域である。遺伝子は、典型的にはイントロンおよびエキソンを有し、それらイントロンおよびエキソンを編成して、成熟タンパク質の別型をコードする種々のRNAスプライス変種を生成することができる。“遺伝子”は、機能的なドメインを表す又は表さない、遺伝子のフラグメントを含む。
本明細書で用いられる“複数の遺伝子”は、その発現が種々の組織、細胞または種々の条件下または生物学的状態下で変動する、同定されたまたは単離された遺伝子の群を指す。前記種々の条件は、一定の作用因子(外因性であれ内因性であれ)(ホルモン、レセプターリガンド、化合物などを含む)への暴露によって引き起こされ得る。複数の遺伝子の発現は一定のパターンを示す。すなわち、前記複数遺伝子の各遺伝子は、種々の条件下でまたは一定の内因性もしくは外因性物質に暴露されもしくは暴露されないで様々に発現される。各遺伝子の示差的発現の程度またはレベルは前記複数の遺伝子において多様であり得るが、本発明にしたがって定性的におよび/または定量的に決定することができる。本明細書で用いられる、遺伝子発現プロファイルは、種々のレベルで示差的に発現される複数の遺伝子を指し、遺伝子発現プロファイルは“パターン”または“プロファイル”を構成する。本明細書で用いられるように、“発現プロファイル”、“プロファイル”、“発現パターン”、“パターン”、“遺伝子発現プロファイル”および“遺伝子発現パターン”は相互に用いることができる。
【0013】
“遺伝子産物”という用語は、前記遺伝子の土台から生化学的、化学的または物理学的反応(例えばDNA合成、転写、スプライシング、翻訳、断片化またはメチル化)によって形成される分子を指す。本発明の好ましい遺伝子産物は、RNA(特にmRNAおよびcRNA)、cDNAおよびタンパク質である。
本明細書で用いられるように、“エストロゲン様活性を有する化合物”はエストロゲンの生物学的作用の少なくともいくつかを示す物質であり、由来が内因性であれ外因性であれ、任意の因子、物質、化合物が該当し、前記はエストロゲンレセプターと結合および相互作用することができ、それによってエストロゲンの一定の生物学的作用を誘引することができる。当業者は、エストロゲンの生物学的作用の1つは例えばメスの生殖系の発生促進であることを理解していよう。エストロゲンの他の生物学的作用も書物に詳しく記載され考察されている。例えば、エストロゲンは、組織、例えば脳、肝臓、筋肉、骨細胞および胃(これらはエストロゲンレセプター遺伝子を発現する)に影響を及ぼすと考えられる。本発明の趣旨では、“抗エストロゲン様活性を有する化合物”は、上記に記載したエストロゲン様作用を逆方向に動かすことができる化合物を含む。
“エストロゲン”は、卵胞、胎盤などから分泌されるステロイド性化学物質であって、メスの生殖器官(例えば卵胞および乳腺)または他の器官の発生を誘発するホルモンに対する一般的用語である。
【0014】
最初の工程(a)では、細胞系が提供される。この細胞系は細胞を含む限り任意の対象物と定義される。したがって、細胞系は、単細胞、細胞培養、組織、器官および哺乳動物の群から選択することができる。哺乳動物は、好ましくは実験動物および/または非ヒト生物である。細胞系の範囲にはまたそのような生物学的実体の部分、すなわち組織、器官および哺乳動物のサンプルが含まれる。上述の順序で記載された各細胞系はそれぞれ後に続く系のサンプルを表すことは理解されよう。
特に、細胞サンプルは試験される哺乳動物からin-vivoまたはin-situで採取される。前記細胞サンプルの回収は推奨医療実務(good medical practice)に従う。生物学的サンプルは任意の種類の生物種から採取することができるが、前記サンプルは特にヒト、ラットまたはマウスから採取され、より好ましくはヒトから採取される。そのような哺乳動物は、エストロゲン様活性を有する化合物をスクリーニングする場合はほとんどまたは全くエストロゲンを生成するべきではない。例えばアロマターゼノックアウト動物はエストロゲンを生成できない。循環エストロゲンの主要供給源は卵巣であるので、卵巣摘出は循環エストロゲンレベルを劇的に低下させる。したがって、ある実施態様では、卵巣摘出動物が用いられる。これとは反対に、抗エストロゲン様活性を有する化合物をスクリーニングする場合は、エストロゲン刺激細胞系が提供される。
【0015】
本発明では、細胞系はまた生物学的液体を含むことができ、この場合、体液サンプルは好ましくは血液、血清、血漿、唾液または尿から成る。生検によって、特に不快部位近くで採取した組織サンプルを収集することもまた好ましい。組織学的サンプルは、任意の組織(子宮、下垂体、肝臓、脳、結腸、乳房、脂肪組織などを含む)に由来し得る。好ましい実施態様では、生物学的サンプルは腎臓、下垂体および子宮由来である。サンプルを精製して妨害物質、例えば水素結合形成の阻害物質を除去することができる。
細胞サンプルは、表1の少なくとも1つの遺伝子を発現することができる限り、単離された状態にあろうが培養中であろうが細胞株であろうが、任意のタイプの初代細胞または遺伝的に操作された細胞をいう。同じ機能を有する変種、変異体、または相同遺伝子配列の部分も保護範囲および定義の範囲に含まれることは理解されよう。本来の配列とその誘導体との間の変化の程度は、EACによって変化した遺伝子発現の要件によって必然的に制限される。好ましくは、相同性は少なくとも85%になる。可能な変化には、少なくとも1つのヌクレオチドの欠失、挿入、置換、改変および付加、または別の核酸との融合が含まれる。操作された細胞は、これらの遺伝子またはその部分を保有する適切なベクターを用いたトランスフェクションによってこれらの遺伝子を発現することができる。好ましくは、組換え細胞は真核細胞起源である。
【0016】
本発明のより好ましい実施態様では、ヒトイシカワ細胞株が本スクリーニング方法の工程(a)で提供される。イシカワ細胞は子宮起源のヒト内膜癌細胞である。
細胞サンプルは、保存されるか(例えば凍結)、一定期間培養されるか、または直ちに工程(b)に付される。細胞サンプルをスクリーニングされるべき化合物とインキュベーションする前に、細胞サンプルを多数の部分に分割する。少なくとも2つの部分が提供される:1つをスクリーニングに用い、他方をコントロールとして供する。好ましくは、スクリーニング用部分の数はコントロール部分の数より多い。通常は、多数の部分が高処理スクリーニングに付される。
化合物は、標的分子と相互作用することができる生物学的および/または化学的構造物から構成される。ここでは、エストロゲンシグナリングのいずれの構成要素も“標的分子”と考えられるであろう。標的分子はエストロゲンレセプター標的に限定されないが、選択した遺伝子自体、または調節タンパク質もしくはその遺伝子産物、または前記遺伝子もしくはその遺伝子産物を含むシグナルトランスダクション経路の成分を含むことができる。結果として、化合物の特異的な相互作用は単なる標的到達または細胞機能の変化の誘発のどちらかを伴うか、または両方の作用を同時に含むこともできる。
【0017】
本方法でスクリーニングされるべき化合物はどのようにも制限されない。特に、前記化合物は核酸、ペプチド、炭水化物、ポリマー、50から1000Daの分子量を有する小分子およびタンパク質の群から選択される。これらの化合物はしばしばライブラリーとして入手できる。1つの単一化合物を細胞サンプルのそれぞれ別個の部分でインキュベーションすることが好ましい。しかしながら、少なくとも2つの化合物を1つの部分内でインキュベーションすることによって、化合物の協調的作用を究明することもまた可能である。さらに別の細胞部分を化合物の非存在下で同時にインキュベーションする。
“インキュベーション”という用語は、化合物を一定の期間細胞と接触させることを意味し、前記期間は化合物の種類および/または標的に左右される。インキュベーションプロセスはまた多様な他のパラメータ(例えば細胞タイプおよび検出の感度)に左右され、その最適化は当業者に公知の日常的手順にしたがう。インキュベーションの手順は化学的変換がなくても達成され得るが、生化学的反応を伴うこともできる。化学的溶液の添加および/または物理的手順(例えば熱衝撃)の適用によって、サンプル中での標的構造物の接近能力を改善できる。インキュベーションの結果として特異的なインキュベーション生成物が形成される。
【0018】
工程(c)では、本発明の趣旨において有効な化合物の同定は、前記系が発現することができる表1の少なくとも1つの単一遺伝子の発現パターンを決定することによって間接的に実施される。決定は特定の時点で実施し、実験の開始時および陽性/陰性コントロールにおけるシグナル強度との相関性を調べる。下記のマイクロアレイの例で説明するように、コントロール系は化合物とインキュベーションされないか(陰性コントロール)、またはコントロール系はエストロゲン様/抗エストロゲン様活性をもたない標準化合物とインキュベーションされるか(陰性コントロール)、またはエストロゲン様/抗エストロゲン様活性を有する標準化合物とインキュベーションされる(陽性コントロール)。活性は発現の変化によって表される。好ましくは、EAC暴露により細胞で発現または抑制される遺伝子が、EACに暴露されなかった細胞で発現または提示される遺伝子と比較される。対毎の比較が各処置間で実施される。対毎の比較とは、ある処置条件下でのある遺伝子についての発現データの第二の処置条件下でのこの遺伝子についての発現データの比較である。この比較は、公知であり市販されているプログラムの支援による適切な統計技術を用いて実施される。
【0019】
遺伝子発現をモニターするための適切な試験、ヌクレオチド配列の決定および変種解析は当業者にとって公知であり、また日常的事柄として容易に設計することもできる。本発明のアッセイは、遺伝子発現の検出および/または定量に適した任意のアッセイであり得る。多くの様々なタイプのアッセイが公知であり、それらの例は下記で示されるが、ヌクレオチドアレイおよびヌクレオチドフィルターによる解析が含まれる。ハイブリダイゼーション条件(温度、時間および濃度)は当業界で周知でもある手順にしたがって調節される。チップハイブリダイゼーションおよび/または遺伝子発現決定用PCRを適用するのが好ましい。別の好ましい実施態様では、本発明のアッセイは高密度オリゴヌクレオチドアレイの使用を必要とする。さらに別の好ましい実施態様では、解析は、複合的qPCRによって、より好ましくは低密度TaqManアレイまたは分枝DNAアッセイによって実施される。他の固相およびマイクロアレイも当業者には公知であり、市場で入手できる。
結果として、本発明は、以下の工程によって、エストロゲン様活性を有する化合物の細胞性作用を予想する方法に関する:評価されるべき細胞から核酸サンプルを調製する工程、前記核酸サンプルをマイクロアレイと接触させる工程、マイクロアレイとハイブリダイゼーションする核酸を検出する工程、および工程(c)で検出された結果をコントロール細胞から調製された核酸サンプルを用いて検出された結果と比較する工程。
【0020】
本発明の好ましい実施態様では、遺伝子産物であるRNA、cRNA、cDNAおよび/またはタンパク質、より好ましくはmRNA、cRNAおよび/またはcDNAが検出される。例えば、そのような細胞の全RNAが当業者に公知の方法、例えばTrizol(Invitrogen)によって調製され、続いて再精製(例えばRNeasyカラム(Qiagen)による)される。
全RNAを用い、本発明の方法にしたがって当業界で周知の検出可能な標識を使用して標識標的を作製する。例えば、RNAをビオチンで標識し、アッセイで使用するcRNA標的を生成する。次に、鋳型として抽出したmRNAを用い、逆転写酵素(例えばSuperScript Reverse Transcriptase(GibcoBRL))および標識dNPT(例えばCy3-dUTPおよびCy5-dUTP(Amersham Pharmacia Biotech))を用いてcDNAを生成し、評価されるべき細胞内で発現された遺伝子の量を反映するcDNAサンプルを調製する。これによって標識cDNAがcDNAサンプルに含まれるようになる。標識として蛍光標識または放射能標識のどちらでも用いることができる。このようにして調製したcDNAサンプルを、その一本鎖変性形として下記で述べるマイクロアレイに適用し、cDNAサンプルに含まれるcDNAを基板に固定した遺伝子とハイブリダイズさせる。
【0021】
“in-situハイブリダイゼーション”は、サンプル中の遺伝子の存在またはそのコピー数、例えば蛍光in-situハイブリダイゼーション(FISH)を決定するための方法論である。一般的には、in-situハイブリダイゼーションは以下の主要な工程を含む:(1)解析されるべき組織または生物学的構造物を固定する工程;(2)標的核酸の接近能力を高めるため、および非特異的結合を低下させるために前記生物学的構造物をプレハイブリダイゼーション処理する工程;(3)前記生物学的構造物または組織中の核酸と前記核酸混合物をハイブリダイズさせる工程;(4)前記ハイブリダイゼーションで結合しなかった核酸フラグメントを除去するためにポストハイブリダイゼーション洗浄を実施する工程;および(5)ハイブリダイズした核酸フラグメントを検出する工程。そのような適用で用いられるプローブは、典型的には例えば放射性同位元素または蛍光性レポーターで標識される。好ましいプローブは、ストリンジェントな条件下での標的核酸との特異的なハイブリダイゼーションを可能にするために十分に長く、例えば約50、100または200ヌクレオチド(nt)から約1000またはそれより大きいヌクレオチドである。cDNAとのハイブリダイゼーションは、例えば65℃で10から20時間インキュベーションすることによって達成することができる。
【0022】
本明細書において、“マイクロアレイ”という用語は、生物分子を検出するために、例えば遺伝子発現を測定するために用いることができるヌクレオチドアレイを指す。“アレイ”、“スライド”および“(DNA)チップ”は本開示では互換的に用いる。マイクロアレイは通常、基板(例えばスライドガラス、シリコンなどで構成される)およびこの基板にアレイとして固定されたDNAフラグメントを含む。このマイクロアレイを用いて、サンプルに含まれるDNAを、それらDNAと基板に固定したDNAフラグメントとハイブリダイズさせることによって検出することができる。サンプル内のDNAは放射能標識または蛍光標識されているので、放射能画像スキャナー、蛍光画像スキャナーなどによる検出が可能である。様々な種類のアレイが世界中の研究および製造施設で作製され、それらのいくつかは市場で入手できる。アレイの土台に核酸物質が配置される態様が異なる2種類の主要なヌクレオチドアレイ、スポットアレイおよびin-situ合成アレイが存在する。もっとも広く用いられているオリゴヌクレオチドアレイの1つは、Affymetrix社製のGeneChipである。このオリゴヌクレオチドプローブは、長さが10から50ヌクレオチド(nt)、好ましくは15から30nt、より好ましくは20から25ntである。それらはアレイ土台にin-silicoで合成される。これらアレイは高密度、例えば40,000遺伝子/cm2を超える密度を達成することができる。他方、スポットアレイは密度がより低くなりがちであるが、プローブ(典型的には部分的cDNA分子)は通常25ヌクレオチドよりずっと大きい。スポットcDNAアレイの代表的タイプはIncyte Genomics社製のLifeArrayである。前もって合成し増幅させたcDNA配列をこの種類のアレイの土台上に結合させる。
【0023】
ある実施態様では、アレイはマトリックスであり、前記マトリックスでは、各位置は遺伝子によってコードされた生成物(例えばタンパク質またはRNA)に対してそれぞれ別個の結合部位を表し、さらに結合部位は、表1および場合によって表4の遺伝子の大部分またはほぼ全ての遺伝子の生成物に対して存在する。ある実施態様では、“結合部位”(以下では“部位”)は、特定の同族cDNAが特異的にハイブリダイズできる核酸または核酸アナローグである。結合部位の核酸またはアナローグは、例えば合成オリゴマー、完全長cDNA、完全長未満のcDNAまたは遺伝子フラグメントであってもよい。好ましくは、マイクロアレイは、問題の遺伝子発現変調物質の作用に関係する遺伝子、および問題の生物学的経路の遺伝子のための結合部位を有する。表1および場合によって表4の遺伝子群から選択される遺伝子またはその一部分とストリンジェントな条件下でハイブリダイズできる、2つ以上のDNAフラグメントが基板に固定されてあるのが好ましい。基板に固定されるDNAフラグメントは遺伝子の全部または部分を含むことができる。本明細書で用いられる“遺伝子の部分”という用語は、遺伝子の一部分および少なくとも10nt、好ましくは少なくとも25nt、より好ましくは50nt、もっとも好ましくは300nt、さらに好ましくは500ntと等価のヌクレオチド配列を意味する。
【0024】
さらにまた、エストロゲン様活性を有する化学物質の有無にかかわらず構成的に発現する遺伝子(以下では陰性コントロール遺伝子などと称する)が、マイクロアレイの基板に固定されてあるのが好ましい。本発明の遺伝子の発現レベルは、基板に陰性コントロール遺伝子を固定し、前記陰性コントロール遺伝子の発現レベルを定常値に修正することによって修正することができる。したがって、表1および場合によって表4の遺伝子の発現レベルにおける変化を確実に検出することができる。正確さはいくつかの陰性コントロール遺伝子および/または種々の発現レベルを有するものを選択することによってさらに高めることができる。
核酸またはアナローグを固相または基板に結合させる。固相または基板という用語は本明細書では互換的に用いることができ、それらはガラス、プラスチック(例えばポリプロピレンまたはナイロン)、ポリアクリルアミド、ニトロセルロースまたは他の材料から作製できる。DNAフラグメントおよび陰性コントロール遺伝子を基板に固定するとき、一般的に知られている技術を用いることができる。例えば、基板の表面を多価陽イオン(例えばポリリジン)で処理し、基板の表面でそれらの荷電により静電気的にDNAフラグメントと結合させることができる。さらにまた、DNAフラグメントの5’末端を基板と共有結合させる技術も用いることができる。或いは、その表面にリンカーを有する基板を作製し、前記リンカーと共有結合を形成することができる官能基をDNAフラグメントの末端に導入する。リンカーと官能基との間で共有結合を形成することによって、DNAフラグメントを固定する。核酸を表面に結合させる好ましい方法はガラスプレートにプリントすることによる方法である。
最後に、マイクロアレイ上のDNAフラグメントとハイブリダイズしたcDNAを検出する。ハイブリダイズしたcDNAが蛍光標識されている場合には、蛍光は例えば蛍光レーザー顕微鏡およびCCDカメラを用いて検出され、蛍光強度はコンピュータにより解析される。同様に、ハイブリダイズしたcDNAが放射能標識されている場合には、検出はRI画像スキャナーなどを用いて実施でき、放射線の強度はコンピュータにより解析できる。
【0025】
スクリーニング方法の別の実施態様では、エストロゲン様または抗エストロゲン様活性の検出は、工程(c)でさらに洗練させることができる。この目的のために、遺伝子発現は、表1の遺伝子によってコードされる少なくとも1つの遺伝子産物を検出し、シグナルの量またはシグナルの変化をこの系における遺伝子発現と相関させることによって決定される。同定した種々の濃度の内分泌活性化合物と本発明の細胞系をインキュベーションする。EACの存在下で観察される放出されるシグナルの量またはシグナルの変化が、化合物によって被る遺伝子発現の変化の指標である。この変化を続いてサンプル中のEACの濃度と相関させることができる。すなわち検量線は適合濃度の計量測定を可能にする。好ましくは、検量線は、UV/VIS発色またはルミネッセンスを用いる場合はLambert-Beer等式に基づく。化合物のエストロゲン性は、サンプル中の遺伝子産物の濃度を非エストロゲン生成細胞および/またはエストロゲン生成細胞の既知遺伝子産物濃度レベルと比較することによって診断される。前記既知濃度は統計的に証明されたものであり、したがってそれぞれ一定レベルまたは範囲を表すことは理解されよう。遺伝子発現の方向および強度はまた、下記で説明するように一定の因子による明瞭なアップレギュレーションまたはダウンレギュレーションのどちらかが認められるような本発明の標的遺伝子の示差的発現の解析によって計算された(前記はバイオマーカーの選別の基礎を形成する)。EAC非刺激細胞の遺伝子産物濃度とは異なる測定濃度はいずれも被検細胞サンプルの異常性を示し、一方、EAC非刺激細胞の濃度レベルと同程度の遺伝子産物濃度では化合物をEACと分類することはできない。エストロゲン性の検出には、非刺激細胞の遺伝子産物濃度レベルよりも高い濃度を測定することが好ましい。この方法を用いて、本発明者らはマイクロモル濃度以下またはナノモル濃度での感度さえも示した。検度プロットによって本方法は数桁に及ぶ動的範囲で適用できることが示された。
【0026】
本発明の好ましい実施態様にしたがえば、“ポリメラーゼ連鎖反応”または“PCR”は遺伝子のコピー数を測定するために用いられる増幅を基準にするアッセイである。そのようなアッセイでは、対応する核酸配列は増幅反応で鋳型として働く。定量的増幅では、増幅生成物の量は最初のサンプル中の鋳型の量と比例するであろう。適切なコントロールとの比較は、上記で考察した原理にしたがって、特異的な使用プローブに対応する遺伝子のコピー数の測定を提供する。
リアルタイムの定量的PCR(例えばRNA用)のための詳細なプロトコルが提供される。生物学的サンプル中の“mRNAレベル”は、細胞または生物学的サンプル中に存在するある遺伝子から転写されたmRNAの量に該当する。本発明の測定で有用な生物学的サンプル(例えば細胞または細胞培養)の生物学的状態のある局面はその転写の状態である。生物学的サンプルの転写の状態には、ある設定条件下での細胞内の構成RNA種(特にmRNA)の実体および豊富さが含まれる。好ましくは、生物学的サンプル中の全構成RNA種の相当な部分が測定されるが、問題の化合物を特徴付けるために少なくとも十分な部分が測定される。
プライマーは、増幅されるべき部位にフランキングする領域のヌクレオチド配列情報に基づいて設計される。プライマーは、長さが100から200塩基対の領域を増幅させるように設計することができる。核酸増幅方法には、PCR、好ましくはリアルタイムPCRが含まれるが、ただし前記に限定されない。mRNAレベルはまた本明細書に記載の他の方法によっても定量することができる。
【0027】
解析されるべき生物学的サンプルおよび上記に記載したプライマーを用いて核酸の増幅反応を実施した後、核酸が増幅されたか否かをチェックする。増幅核酸の検出を容易にするために、前もってプライマーを標識することができる。適用可能な蛍光標識の例には、Applied Biosystems社製のFAMTM、TETTM、HEXTM、TAMRATMおよびROXTMが含まれる。これらの事例では、プライマーの5’-末端または3’-末端、好ましくは5’-末端を標識できる。或いは、標識ヌクレオチドを用いることによって、またはPCRを完了させた後でさえも核酸を標識することができる。光の放出は汎用ルミネッセンス測定装置によって測定される。
TaqManプローブを用いる“リアルタイム定量PCR”の方法もまた当業界では周知である。TaqMan系アッセイはポリヌクレオチドの定量に適用できる。TaqMan系アッセイは、5’-蛍光色素および3’-消光物質を含む蛍光発生オリゴヌクレオチドプローブを用いる。このプローブはPCR生成物とハイブリダイズするが、それ自体は3’-末端の妨害物質のために伸長することができない。PCR生成物がその後のサイクルで増幅されるとき、ポリメラーゼ(例えばAmpliTaq)の5’-ヌクレアーゼ活性はTaqManプローブの切断をもたらす。この切断は5’-蛍光色素と3’-消光物質を分離させ、それにより増幅の関数として蛍光の増加がもたらされる。
他の適切な増幅方法には、リガーゼ連鎖反応(LCR)、転写増幅、セルフサステイン配列複製、ドットPCRおよびリンカーアダプターPCRが含まれるが、ただしこれらに限定されない。
【0028】
質量分光計を用いるときは、発現パターンにしたがって長さが変化する核酸フラグメントの増幅を可能にするプライマーを設計することができる。
増幅核酸フラグメントの有無はまた、反応溶液を例えば一本鎖構造多形性(SSCP)解析のために電気泳動に付すことによってチェックすることができる。前記はキャピラリー電気泳動によって実施できる。しかしながら、他の方法の電気泳動、例えばゲル電気泳動もまた適用可能であり、当業者には公知である。
したがって、本発明は、上記で説明したアッセイによって遺伝子発現の変調を判定または測定することに関する。そのような変調は遺伝子発現の誘発または阻害に該当する。典型的には、遺伝子発現の変調は内因性または外因性因子もしくは物質によって引き起こされ得る。ある化合物の作用は当業者に公知の任意の手段によって測定することができる。例えば、発現レベルは、PCR、ノザンブロッティング、プライマー伸長、弁別表示技術などによって測定できる。発現の誘発(すなわちアップレギュレーション)は、個々の遺伝子の発現レベルにおける定性的または定量的に認知可能なまたは測定可能ないずれの増加も該当する。前記と反対に、発現の阻害(すなわちダウンレギュレーション)は、個々の遺伝子の発現レベルにおける定性的または定量的に認知可能なまたは測定可能ないずれの低下も該当する。発現レベルの測定は、生物学的サンプル中のRNA転写物を測定することができる任意の技術を用いて実施できる。これらの技術の例には、上記で考察したようにとりわけPCR、TaqMan、プライマー伸長、弁別表示およびヌクレオチドアレイが含まれる。調節の事例では、遺伝子産物濃度は、コントロール系における遺伝子産物濃度の少なくとも2倍、好ましくは少なくとも10倍、より好ましくは少なくとも25倍、もっとも好ましくは少なくとも40倍それぞれ過剰または過少であるということは、本発明のまた別の実施態様である。
【0029】
本発明の好ましい実施態様では、発現が表2の遺伝子群から選択される遺伝子のアップレギュレーションおよび/または表3の遺伝子群から選択される遺伝子のダウンレギュレーションを伴うならば、化合物のエストロゲン様活性は工程(c)で陽性と検出される。“陽性検出”という用語は、対応する活性がある種の化合物の固有の特色として実際に立証されたという事実を意味する。いくつかの新規な遺伝子(エストロゲンレセプター活性と連係して特徴づけられたわけではないが細胞の増殖および発生の正の調節に関与する)が、エストロゲン様化合物によって有意にアップレギュレートされるが(表2)ICIによって阻害されるとして同定された。PIM1(固有のセリン-スレオニンキナーゼ活性を有するプロトオンコジーン)は、いくつかの細胞周期調製物質(p21(Waf)、Cdc25AおよびC-TAK1を含む)の活性を変化させることによって細胞周期の進行を高めることができる。G0/G1スイッチ2(G0S2)は、脂肪細胞の分化に必要とされることが見出され、血液の単核細胞で細胞周期の進行を駆動する。アミノペプチダーゼN(ANPEP)および構造分子ラミニンベータ3(LAMB3)は、腫瘍の侵襲および組織再生時の細胞遊走で重要な役割を果たす。アミノ酸トランスポーター、例えばL型アミノ酸トランスポーターLAT1(SCL7A5)およびそのサブユニット42Fの重鎖42Fhc(SCL3A2)は、必須アミノ酸の細胞への供給で機能する(この機能はタンパク質合成のためおよびエネルギー供給源として要求される)。これら両遺伝子の高い発現が腫瘍細胞で見出され、腫瘍の増殖進行を促進した。さらにまた、SLC3A2はヒト腫瘍細胞の表面のベータ1インテグリンと特異的に結合し、したがって固着および血清非依存性増殖を可能にすることによって悪性の形質転換に寄与し得る。エストロゲン様化学物質と応答してダウンレギュレートされたマーカー遺伝子(表3)のうち、大半は、細胞の増殖阻害(スペルミジン/スペルミンN1-アセチルトランスフェラーゼ、SATおよびレチノール結合タンパク質1セルラー、RBP1)およびアポトーシス誘発(プロリンデヒドロゲナーゼオキシダーゼ1、PRODHおよび腫瘍壊死因子レセプタースーパーファミリーメンバー25、TNFRSF25)と関連することが見出された。
【0030】
前記とは反対に、発現が表2の遺伝子のダウンレギュレーションおよび/または表3の遺伝子のアップレギュレーションを伴うならば、化合物の抗エストロゲン様活性は工程(c)で陽性と検出される。
本発明の各バイオマーカー遺伝子は本スクリーニング方法の範囲内で1つの単一マーカー遺伝子の使用を可能にする感度を示すが、エストロゲン性を検出するために2つ以上のマーカー遺伝子を適用することが好ましい。本発明の実施態様では、したがって工程(a)で提供される細胞系は、表1の少なくとも2つの遺伝子、好ましくは少なくとも10遺伝子、より好ましくは少なくとも25遺伝子、もっとも好ましくは少なくとも40遺伝子、極めて好ましくは72遺伝子を含む完全なパネルを発現することができる。したがって、表1の少なくとも2つの遺伝子、好ましくは少なくとも10遺伝子、より好ましくは少なくとも25遺伝子、もっとも好ましくは少なくとも40遺伝子、極めて好ましくは72遺伝子を含む完全なパネルの発現が工程(c)でコントロールの系における遺伝子の発現と比較される。本発明者らは、多数のエストロゲン性応答遺伝子の解析はスクリーニングの安定性を高め、単一遺伝子レポーターアッセイよりも広いエストロゲン様応答スペクトルをカバーすることによって誤りの割合を減少させることを示した。複数の遺伝子に関する先の教示は有効であり、表2および表3(表1のサブセットを表す)に限定されることなく適用できるが、ただし対応する好ましい複数の遺伝子は、“3個”ルールにしたがって計算しなおされることを条件とする。
【0031】
表1の群から選択される遺伝子の発現に加えて、細胞系またはそのサンプルは、本発明のスクリーニング方法の工程(a)で、表4の少なくとも1つの単一遺伝子を好ましくは発現することができる。さらにまた、工程(c)で表4の単一遺伝子の発現がコントロール系における遺伝子発現と比較される。いくつかのエストロゲン/エストロゲンレセプター調節遺伝子が同定された。それらは例えばアルカリホスファターゼ胎盤系様2(ALPPL2)、プロジェステロンレセプター(PGR)、セブンインアブセンチアホモローグ2(Drosophila)(SIAH2)、形質転換増殖因子アルファ(TGFA)およびエストロゲンレセプター活性を変調させる遺伝子(例えば核内レセプター相互作用タンパク質1(NRIP1))である。さらにまた、注目すべき経路、WNT/β-カテニンシグナリングは、ほとんどのエストロゲン様化合物の処理によってアップレギュレートされるがICI処理後にはアップレギュレートされない。WNT/β-カテニンシグナリングは、細胞増殖および分化を含む多様な発生プロセスに関与する。WNT2Bは、高度に保存された分泌型シグナリング分子のウィングレス型MMTV組込み部位ファミリーのメンバーをコードする。エストロゲンによるWNT2Bのアップレギュレーションはヒト乳癌で重要な役割を果たすかもしれない。HMGボックス転写因子、SOX17はβ-カテニンと相互作用する能力を有し、Tcf/Lefと類似する標的遺伝子の転写活性化を高める。4つと半分の(four and a half)LIMドメイン2(FHL2)タンパク質はβ-カテイン/TCF仲介転写強化の共同アクチベーター特性を示し、卵巣癌で過剰発現することが見出された。
【0032】
本発明の好ましい実施態様では、発現が表5の遺伝子群から選択される遺伝子のアップレギュレーションおよび/または表6の遺伝子群から選択される遺伝子のダウンレギュレーションを伴う場合、化合物のエストロゲン様活性は工程(c)で陽性と検出される。前記と反対に、発現が、表5の遺伝子のダウンレギュレーションおよび/または表6の遺伝子のアップレギュレーションを伴う場合、化合物の抗エストロゲン様活性は工程(c)で陽性と検出される。
本発明の別の好ましい実施態様では、表4の複数の遺伝子、より好ましくは少なくとも2つの遺伝子、もっとも好ましくは少なくとも10遺伝子、極めて好ましくは15遺伝子を含む完全なパネルが工程(a)および(c)の両方で適用される。もう一度繰り返せば、複数の遺伝子に関する先の教示は有効であり、表5および表6(表4のサブセットを表す)に限定されることなく適用できるが、ただし対応する好ましい複数の遺伝子は、“3個”ルールにしたがって計算しなおされることを条件とする。
本発明のより好ましい実施態様では、選択したマーカー遺伝子ALPP2、CEBPD、FOXD1、G0S2、NRIP1、PGRおよびPIM1の発現がコントロール系における遺伝子発現と比較される。本発明のもっとも好ましい実施態様では、表1および表4の全ての遺伝子の発現がコントロール系における遺伝子発現と比較される。同定した87遺伝子は全てのEAC処理に応答してイシカワプラスで類似の発現パターンを示し、一方、ICIはこれら遺伝子の発現規模を低下させるかまたは逆行させ、ER依存性調節を示唆した。エストロゲン様遺伝子調節はさておき、ビスフェノールA、o,p’-DDT、レスヴェラトロール、ジーラレノンおよびゲニステインはそれらの発現パターンについてICIとの類似性を示した。
【0033】
本発明の別の好ましい実施態様では、工程(a)で提供される細胞系は、表7の特に好ましい遺伝子群から選択される少なくとも1つの遺伝子を発現することができる。したがって、表7の少なくとも1つの遺伝子の発現が、工程(c)においてコントロール系における遺伝子発現と比較される。工程(a)および(c)の両方で、表7の複数の遺伝子、より好ましくは少なくとも2つの遺伝子、もっとも好ましくは少なくとも10遺伝子、極めて好ましくは49遺伝子を含む完全なパネルを適用することもまた好ましい。本発明のより好ましい実施態様では、発現が表8の遺伝子群から選択される遺伝子のアップレギュレーションおよび/または表9の遺伝子群から選択される遺伝子のダウンレギュレーションを伴う場合、化合物のエストロゲン様活性は工程(c)で陽性と検出される。前記と反対に、発現が表8の遺伝子のダウンレギュレーションおよび/または表9の遺伝子のアップレギュレーションを伴う場合、化合物の抗エストロゲン様活性は工程(c)で陽性と検出される。複数の遺伝子に関する先の教示は有効であり、表8および表9(表7のサブセットを表す)に限定されることなく適用できるが、ただし対応する好ましい複数の遺伝子は、“3個”ルールにしたがって計算しなおされることを条件とする。
【0034】
表7の遺伝子の発現に加えて、工程(a)の細胞系は好ましくは少なくとも1つの、表10の遺伝子群から選択される単一遺伝子を発現することができ、その発現がコントロール系における遺伝子発現と工程(c)で比較される。工程(a)および(c)の両方で、表10の複数の遺伝子、より好ましくは少なくとも2つの遺伝子、もっとも好ましくは少なくとも10遺伝子、極めて好ましくは34遺伝子を含む完全なパネルを適用することもまた好ましい。本発明の好ましい実施態様では、発現が、表11の遺伝子群から選択される遺伝子のアップレギュレーションおよび/または表12の遺伝子群から選択される遺伝子のダウンレギュレーションを伴う場合、化合物のエストロゲン様活性は工程(c)で陽性と検出される。前記と反対に、発現が、表11の遺伝子のダウンレギュレーションおよび/または表12の遺伝子のアップレギュレーションを伴う場合、化合物の抗エストロゲン様活性は工程(c)で陽性と検出される。複数の遺伝子に関する先の教示は有効であり、表11および表12(表10のサブセットを表す)に限定されることなく適用できるが、ただし対応する好ましい複数の遺伝子は、“3個”ルールにしたがって計算しなおされることを条件とする。
【0035】
工程(a)で細胞系またはそのサンプルが表1の複数の遺伝子を発現でき、および/または表4の複数遺伝子をさらに加えて発現でき、さらにまた工程(c)で表1および/または表4の複数遺伝子の発現パターンがコントロール系における発現パターンと比較されるならば、エストロゲン性は化合物特異的に特徴付けることができる。特に、発現パターンは、複数遺伝子の相関関係および/または変化した調節の規模によって決定される。本発明のスクリーニング方法は、判定されるべき細胞でエストロゲン様または抗エストロゲン様活性を有する化学物質の作用を判定するだけでなく、この作用の詳細を示すことができる。分類した遺伝子の発現レベルを個々に判定することによって、判定されるべき細胞に影響を及ぼす、エストロゲン様または抗エストロゲン様活性を有する化学物質を弁別することが可能である。
本発明はまたスクリーニング方法の以下の実施態様を開示する:工程(a)で哺乳動物(好ましくは実験室用哺乳動物)が提供され、工程(b)でスクリーニングされるべき化合物が前記哺乳動物に提供され、さらに工程(c)で治療効果が、前記哺乳動物から回収した生物学的サンプルにおけるエストロゲン様または抗エストロゲン様活性レベルにより、非内分泌破壊作用および/または内分泌破壊作用を示す哺乳動物との比較で検出される。治療効果に関しては、定性的レベルが工程(c)に取り入れられる。“治療として適切な効果”は、疾患の1つまたは2つ以上の症状のある程度の緩和、または正常性への部分的もしくは完全な復帰、疾患もしくは病的状態に付随するまたはその原因である生理学的もしくは生化学的パラメータの復帰である。さらにまた、“治療的に有効な量”という表現は、この量を与えられていない対応する対象者と比較して、以下の結果を有する量を指す:治療の改善;疾患、症状、状態、不快、異常または副作用の治癒、予防または排除;または疾患、不快もしくは異常の進行の緩和。“治療的に有効な量”という表現はまた、正常な生理学的機能の増進に有効な量を包含する。いくつかの化合物の試験は、哺乳動物対象の治療に最適な化合物の選別を可能にする。選択化合物のin-vivoの投与割合は、便利にはそれら化合物のin-vitroデータに関する特異的細胞のエストロゲン性に対して前もって調節される。したがって治療有効性は飛躍的に増強される。
【0036】
本発明の別の目的は本スクリーニング方法によって同定された化合物である。本スクリーニング方法に関して本明細書で先に教示したものは有効であり、適切であれば化合物そのものに関係なく適用できる。
ある異常または状態に付随する遺伝子の発現を誘導または抑制する化合物の同定は、そのような異常または状態を予防、治療または管理するために治療的に有効な量で患者に投与できる医薬の開発をもたらすことができる。したがって、本発明はさらにまた、本発明の少なくとも1つの化合物および場合によって賦形剤および/またはアジュバントを含む医薬に関する。本発明の趣旨では、“アジュバント”は、同時に、同時期にまたは連続して投与されるならば本発明の活性成分に対する特異的応答を可能にし、強化しまたは改変する全ての物質を意味する。注射溶液のために公知のアジュバントは、例えばアルミニウム組成物(例えば水酸化アルミニウムまたはリン酸化アルミニウム)、サポニン(例えばQS21)、ムラミルジペプチドまたはムラミルトリペプチド、タンパク質(例えばガンマ-インターフェロンまたはTNF)、M59、スクォレンまたはポリオールである。結果として、本発明はまた、活性成分として本発明にしたがってスクリーニングされた少なくとも1つの化合物および/または生理学的に許容されるその塩の有効量を医薬的に耐え得るアジュバントと一緒に含む医薬組成物に関する。
【0037】
本発明の趣旨の“医薬”、“医薬組成物”または“医薬処方物”は医学分野における任意の物質であって、本発明の1つ以上のEACまたはその調製物を含み、エストロゲンレセプターシグナリングに関連する疾患を有する患者の全身的状態または当該生物の特定の領域の状態の病因の改変を少なくとも一時的に確立させることができるように、それら患者の予防、治療、フォローアップまたはアフタケアで用いることができる物質である。
さらにまた、活性成分は単独で、または他の処置と組み合わせて投与することができる。相乗作用は、医薬組成物で2つ以上の化合物を用いることによって達成できる。すなわち本発明のEACは活性成分として少なくとももう1つの物質と組み合わされる。活性成分は同時にまたは連続的に用いることができる。
医薬組成物は、所望される任意の適切な方法による、例えば経口(頬側または舌下を含む)、直腸、鼻内、局所的(頬側、舌下または経皮を含む)、膣または非経口的(皮下、筋肉内、静脈内または皮内を含む)方法による投与のために利用することができる。そのような処方物は、製薬業界で公知の全てのプロセスを用いて、例えば活性成分を賦形剤またはアジュバントと混合することによって製造することができる。
【0038】
本発明の医薬組成物は、一般的な固体または液状担体、希釈剤および/または添加物および製薬操作のための通常的なアジュバント並びに適切な用量計算を用い、公知の方法で製造される。最少投薬型を製造するために活性成分と混合される賦形剤の量は、処置される宿主および個々の投与態様にしたがって変動する。適切な賦形剤には、種々の投与経路(例えば経腸的(例えば経口的)、非経口的または局所的適用)に適し、さらに本発明の化合物と反応しない有機もしくは無機物質またはその塩が含まれる。適切な賦形剤の例は、水、植物油、ベンジルアルコール、アルキレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセロールトリアセテート、炭水化物(例えばラクトースまたは澱粉)、ステアリン酸マグネシウム、タルクおよびワセリンである。
経口投与用に適合させた医薬処方物は、独立したユニット(例えばカプセルまたは錠剤);散剤または顆粒;水性または非水性の液体中の溶液または懸濁物;食用泡沫または泡沫食品;または水中油の液状エマルジョンまたは油中水の液状エマルジョンとして投与することができる。
【0039】
したがって、例えば錠剤またはカプセルの形態で経口投与される場合、活性成分要素は、経口用で無害な医薬的に許容できる不活性な賦形剤、例えばエタノール、グリセロール、水などと混合することができる。散剤は、化合物を適切な微細サイズに粉砕し、それを同様な態様で粉砕した医薬賦形剤、例えば食用炭水化物(例えば澱粉またはマンにトール)と混合することによって製造される。香料、保存料、分散剤および色素も同様に存在し得る。
カプセルは、上記に記載した散剤混合物を調製し、成形したゼラチンシェルに前記を充填することによって製造される。潤滑剤および滑沢剤、例えば薄く分散させたケイ酸、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウムまたは固形のポリエチレングリコールを充填操作の前に散剤混合物に添加することができる。カプセル摂取後の医薬の利用性を高めるために、崩壊剤または可溶化剤、例えば寒天、炭酸カルシウムまたは炭酸ナトリウムを同様に添加することができる。
【0040】
さらにまた、所望の場合または必要な場合、適切な結合剤、滑沢剤および崩壊剤を色素と同様に混合物に取り入れることができる。適切な結合剤には、澱粉、ゼラチン、天然糖、例えばグルコースまたはベータ-ラクトース、トウモロコシから製造した甘味料、天然および合成ゴム、例えばアラビアゴム、トラガカントまたはアルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコール、ロウなどが含まれる。これらの投薬型で用いられる滑沢剤には、オレイン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、安息香酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、などが含まれる。崩壊剤には澱粉、メチルセルロース、寒天、ベントナイト、キサンタンゴムなどが含まれるが、ただしこれらに限定されない。錠剤は、例えば散剤混合物を調製し、前記混合物を顆粒化または乾燥圧縮し、滑沢剤および崩壊剤を添加し、さらに錠剤を生成するために全混合物を圧縮することによって処方される。散剤混合物は、上記に記載した希釈剤または基剤とともに、および場合によって結合剤(例えばカルボキシメチルセルロース、アルギネート、ゼラチンまたはポリビニルピロリドン)、溶解遅延剤(例えばパラフィン)、吸収促進剤(例えば四級塩)、および/または吸収剤(例えばベントナイト、カオリンまたはリン酸二カルシウム)とともに適切な態様で粉砕した化合物を混合することによって製造される。散剤混合物は、それを結合剤(例えばシロップ、澱粉ペースト、アカディア粘漿剤、またはセルロースもしくはポリマー材料の溶液)とともに湿潤化させ、さらに前記を篩から押し出すことによって顆粒化することができる。顆粒化の別の選択肢として、散剤混合物を錠剤製造機に通して不均質形を生じ、これを粉砕して顆粒を形成する。ステアリン酸、ステアリン酸塩、タルクまたは鉱物油を添加することによってこの顆粒を滑らかにし、錠剤鋳造鋳型に粘着するのを防ぐことができる。続いてこの滑沢化混合物を圧縮し、錠剤を得る。本発明の化合物をまた自由流動不活性賦形剤と混合し、続いて顆粒化または乾燥圧縮工程を実施することなく直接圧縮して錠剤を得ることができる。セラックシーリング層、糖またはポリマー物質の層、およびロウの光沢層から成る透明または不透明保護層が存在してもよい。これらのコーティングに色素を添加して様々な投薬ユニットを区別することができる。
【0041】
経口用液体、例えば溶液、シロップおよびエリキシルを、ある量が予め規定した量の化合物を含むように投薬ユニットの形態で調製することができる。シロップは、適切な香料を含む水溶液に化合物を溶解させることによって製造することができ、一方、エリキシルは無害なアルコール担体を用いて製造される。懸濁剤は、無害な担体に化合物を分散させることによって処方することができる。可溶化剤および乳化剤(例えばエトキシル化イソステアリルアルコールおよびポリオキシエチレンソルビトールエーテル)、保存料、香料添加物(例えばはっか油)、または天然甘味剤、またはサッカリンもしくは他の人工甘味料などを同様に添加することができる。
経口投与のための投薬ユニット処方物は、所望の場合は、マイクロカプセルに被包化することができる。前記処方物はまた、例えばポリマー、ロウなどで粒状物質をコーティングまたは前記に包埋することによって、放出を引き延ばしまたは遅らせるように製造することができる。
本発明の化合物およびその塩、溶媒和物および生理学的に機能的な誘導体をリポソームデリバリー系の形態、例えば小さな単層小胞、大きな単層小胞および多層小胞として投与してもよい。リポソームは種々のリン脂質、例えばコレステロール、ステアリルアミンまたはホスファチジルコリンから形成することができる。
【0042】
本発明の活性成分はまた、目的地への誘導輸送、標的細胞内への取り込みおよび/または分布を促進するまた別の分子と融合させるかまたは複合体を形成させることができる。
本発明の化合物およびその塩、溶媒和物および生理学的に機能的な誘導体はまた、前記化合物分子を結合させたモノクローナル抗体を個々の担体として用いてデリバ−することができる。化合物はまた、標的誘導医薬の担体としての可溶性ポリマーに結合させることができる。そのようなポリマーは、ポリビニルピロリドン、ピランコポリマー、ポリヒドロキシプロピルメタクリルアミドフェノール、ポリヒドロキシエチルアスパルトアミドフェノールまたはポリエチレンオキシドポリリジン(パルミトイルラジカルによって置換)を含むことができる。化合物はさらにまた、医薬の制御放出を達成するために適切なあるクラスの生物分解性ポリマーと結合させることができる。前記生物分解性ポリマーは、例えばポリ酢酸、ポリエプシロンカプロラクトン、ポリヒドロキシ酪酸、ポリオルトエステル、ポリアセタール、ポリジヒドロキシピラン、ポリシアノアクリレートおよびヒドロゲルの架橋または両親媒性ブロックコポリマーである。
経皮投与に適合させた医薬処方物は、レシピエントの表皮との長期の緊密な接触のために別個の膏薬として投与できる。したがって、例えば活性成分は、文献(Pharmaceutical Research, 1986, 3(6):318)に一般的に記載されているようにイオン泳動によって膏薬からデリバ−され得る。
局所投与に適合させた医薬化合物は、軟膏、クリーム、懸濁物、ローション、パウダー、溶液、ペースト、ジェル、スプレー、エーロゾルまたはオイルとして処方することができる。
【0043】
眼または他の外部組織(例えば口および皮膚)の処置のためには、処方物は好ましくは局所軟膏またはクリームとして適用される。軟膏を提供する処方の場合、活性成分は、パラフィン系または水に混合性のクリーム基剤のどちらか一緒に利用することができる。或いは、活性成分は、水中油クリーム基剤または油中水基剤と一緒にクリームを提供するために処方できる。
眼への局所適用のために適合させた医薬処方物には、活性成分が適切な担体(特に水性溶媒)中に溶解または懸濁された眼薬が含まれる。
口への局所適用のために適合させた医薬処方物には、ロゼンジ、トローチおよび口内洗浄液が含まれる。
直腸投与のために適合させた医薬処方物は、座薬または浣腸の形で投与することができる。
鼻内投与のために適合させた、担体物質が固体である医薬処方物は、粒子サイズが粗い(例えば20−500ミクロンの範囲)粉末を含み、前記処方物は鼻で吸って、すなわち鼻の近くに保持した前記粉末を含む容器から鼻道を経由する急速吸入によって投与される。担体として液体を含む鼻道スプレーまたは鼻点滴としての投与に適切な処方物は、水または油に活性成分を含む。
吸入による投与のために適合させた医薬処方物は、微細粒状ダストまたは霧状物を含み、前記ダストまたは霧状物は、エーロゾル、ネブライザーまたは散布器を有する多様なタイプの加圧ディスペンサーによって生成される。
【0044】
膣投与のために適合させた医薬処方物は、ペッサリー、タンポン、クリーム、ジェル、ペースト、泡沫またはスプレー処方物として投与される。
非経口投与のために適合させた医薬処方物には、抗酸化剤、緩衝剤、制菌剤および溶質(処方物を処置されるレシピエントの血液と等張にする)を含む水性および非水性無菌的注射溶液;並びに水性および非水性無菌的懸濁液(前記は懸濁媒体および膨張剤を含むことができる)が含まれる。前記処方物は、シングルドースまたはマルチドース容器(例えば封入アンプルおよびバイアル)で投与でき、さらに無菌的な担体液(例えば注射用水)の添加のみが使用直前に必要とされるように凍結乾燥状態で保存できる。本レシピにしたがって調製される注射溶液および懸濁液は、無菌的散剤、顆粒および錠剤から調製することができる。
上記に具体的に記述した成分の他に、処方物はまた、個々の処方物タイプに関して当業界で通常的な他の物質を含むことができることは言うまでもない。したがって、例えば経口投与に適した処方物は香料を含むことができる。
本発明の好ましい実施態様では、医薬組成物は経口的にまたは非経口的に、より好ましくは経口的に投与される。特に、活性成分は、水溶形(例えば医薬的に許容できる塩(酸および塩基付加塩の両方を含むことを意味する))で提供される。さらにまた、本発明の化合物およびその塩は凍結乾燥させることができ、生じた凍結乾燥物を用いて、例えば注射用調製物が製造される。表示の調製物は滅菌可能で、および/または補助物質、例えば担体タンパク質(例えば血清アルブミン)、滑沢剤、保存料、安定化剤、充填剤、キレート剤、抗酸化剤、溶媒、結合剤、懸濁剤、湿潤化剤、乳化剤、塩(浸透圧に影響を与えるため)、緩衝物質、着色剤、香料およびさらに別の1つ以上の活性物質、例えば1つ以上のビタミンを含むことができる。添加剤は当業界で周知であり、それらは多様な処方物で用いられる。
【0045】
医薬処方物は投薬ユニットの形態で投与できる。投薬ユニットは、投薬ユニットにつきあらかじめ定めた量の活性成分を含んでいる。処方物中の予防的または治療的に有効な成分の濃度は、約0.1から100wt%で変動し得る。好ましくは、式(I)の化合物または医薬的に許容できるその塩は、ドースユニットにつき約0.5から1000mg、より好ましくは1から700mg、もっとも好ましくは5から100mgの用量で投与される。一般的には、そのような用量範囲は1日の全服用量として適切である。言い換えれば、1日の用量は好ましくは体重1kgにつき約0.02から100mgである。しかしながら、各患者のための固有の用量は多様な因子に左右される。例えば、処置される症状、投与方法並びに患者の年齢、体重および状態に左右される。好ましい投薬ユニット処方物は、活性成分の上記に示した1日の用量もしくは一部分の用量またはその対応する部分を含む処方物である。さらにまた、このタイプの医薬処方物は、製薬業界で一般的に知られているプロセスを用いて製造することができる。
【0046】
本発明はまた、エストロゲンレセプターシグナリングによって惹起され、仲介され、および/または伝播される生理学的および/または病理学的状態をモニターする方法に関し、前記方法では、少なくとも1つの化合物またはその生理学的に許容できる塩の有効量がそのような処置を必要とする哺乳動物に投与され、さらに前記哺乳動物から回収した生物学的サンプルで表1の少なくとも1つの遺伝子の発現が決定される。前記化合物は、好ましくは上記で説明した本発明のスクリーニング方法によって得られる。したがって、先きの本明細書のスクリーニング方法に関する教示は有効であり、都合のよい場合にはモニター方法に関係なく適用することができる。
上記に記載した複数の遺伝子の同定は、状態の進行、症状または処置の判定のために強力なツールを提供する。特に、複数の遺伝子は、ある事象(例えば閉経、外科手術、治療スケジュールの開始、または治療スケジュールの完了)の前に患者で同定し、基準線の結果を提供することができる。続いてこの基準線をそのような事象中または事象後に同一方法を用いて得られた結果と比較することができる。この情報を診断および予後判定の両方の目的に用いることができる。
【0047】
本発明のモニター方法はヒト医薬および獣医医薬で用いることができる。この場合、化合物は、治療として機能するように疾患の開始前および開始後に1回または数回投与することができる。“有効量”または“有効用量”または“用量”は本明細書では互換的に用いることができ、疾患または病的状態に対して予防的または治療的に対応する効果を有する医薬化合物の量を意味する。すなわち、前記は、組織、系、動物またはヒトで例えば研究者または医師によって探究され所望される生物学的または医学的応答を引き起こす。
前述の医薬生成物の本発明の使用は特に治療的処置に用いられる。モニターするということは治療の一種と考えられ、化合物は、例えば応答の後押しおよびエストロゲン関連疾患の病因および/または症状の完全な根絶のために、好ましくは明瞭に間隔を空けて投与される。同一化合物または異なる化合物を適用することができる。本医薬はまた、発症の蓋然性を低下させるため、またはエストロゲンレセプターシグナリング関連疾患の開始を前もって防ぐためにさえも、または生じた症状および持続する症状を治療するためにも用いることができる。本発明の趣旨では、対象者が前述の生理学的または病理学的状態の必須条件のいずれか、例えば家族性傾向、遺伝的欠陥または既往症を有する場合には、予防的処置が推奨される。
【0048】
本発明に関連する疾患は、好ましくは癌(特に乳癌、直腸癌および子宮内膜腺癌)、アルツハイマー病、白内障、ショック(特に敗血症性ショックにおける血管体積の維持)、閉経期症状(例えば閉経後カルシウム欠乏(特に閉経後の婦人の不適切なカルシウム摂取および骨粗鬆症))、心脈管系疾患および腎臓の血流低下症状(特に利尿薬またはうっ血性心不全によって引き起こされるもの)である。腎臓の遺伝子発現のエストロゲン調節に関連するさらに別の症状は女性で知られ、この場合、妊娠の際に排卵に先行する高エストロゲンレベルおよびエストロゲン投与でもたらされる高エストロゲンレベルは一般的に体内の水分の停留をもたらす。腎臓のナトリウム再吸収の増加はまた液体保持の増加の主要な力学的要素である。エストロゲンは、チアジド感受性NaClコトランスポーターの発現レベルを高めることが示され、ナトリウム保持におけるエストロゲン作用の可能な1つの分子的基礎を提供した。本発明の趣旨でさらに好ましい生物学的条件は、炎症、糖尿病、前立腺の健康状態、異常細胞の発生および感染性疾患である(WO2003/040404A1を参照されたい)。
【0049】
本発明の前記化合物はそれらの最終的な非塩形態で用いることができる。他方、本発明はまた医薬的に許容できるそれらの塩の形態でこれら化合物を使用することを含む(それら塩は当業界で公知の方法によって多様な有機および無機酸並びに塩基から誘導することができる)。本発明の関係では“医薬的に許容できる塩”および“生理学的に許容できる塩”という表現(これらは本明細書では相互に用いられる)は、特にこの塩の形が、活性成分の遊離形または以前に用いられた活性成分の任意の他の形態と比較して改善された薬物動態特性を活性成分に付与するならば、本発明の化合物をその塩の1つの形態で含む活性成分を意味すると解釈される。活性成分の医薬的に許容できる塩の形はまた、以前には有していなかった所望の薬物動態特性をこの活性成分に初めて提供することができ、さらにこの塩の形は、身体におけるその治療的有効性に関してこの活性成分の薬物動態に正の影響をもつことさえ可能である。
本発明の目的はまた、エストロゲン様または抗エストロゲン様活性をもつ化合物をスクリーニングするためにマーカー遺伝子として表1の少なくとも1つの遺伝子を使用することである。本発明の別の目的はまた、化合物特異的にエストロゲン性を特徴付けるためにマーカー遺伝子として表1および場合によって表4の複数の遺伝子を使用することである。先のスクリーニング方法に関する本明細書の教示は有効であり、都合がよい場合には前記使用に関係なく適用できる。
【0050】
本発明のまた別の目的は、エストロゲン様または抗エストロゲン様活性を検出するために、表1の遺伝子によってコードされる少なくとも1つの遺伝子産物と特異的に相互作用する物質を使用することである。本明細書で用いられる“特異的な物質”という用語は、選択した遺伝子によってコードされる少なくとも1つの遺伝子産物との確かな結合を担保する高い親和性をもつ分子を含む。前記物質は、好ましくは前記遺伝子産物の一部分に対して特異的である。そのような部分は特異的機能の発現に十分な領域に限定される。すなわち認識のための構造的決定基を供給する。短縮はいずれも固有の認識を保存するために必然的に制限される。しかしながら、前記遺伝子産物部分は非常に小さくてもよい。前記物質は、好ましくは選択したただ1つの標的との排他的で規制された相互作用を担保するために単一特異性である。
【0051】
本発明の遺伝子産物またはその一部分の認識は、前記遺伝子配列をもつ核酸配列または前記遺伝子によって発現されるアミノ酸配列の一次、二次および/または三次構造レベルにおける物質との特異的相互作用によって実現され得る。遺伝情報のコード機能は一次構造認識に有利に働く。それとは反対に、三次元構造は主としてタンパク質の認識について考慮すべきである。本発明の趣旨では、“認識”という用語は、特異的物質と標的との間の任意のタイプの相互作用、特に共有的または非共有的結合もしくは結びつき、例えば共有結合、疎水性/親水性相互作用、ファンデルワールス力、イオン対、水素結合、リガンド-レセプター相互作用、エピトープと抗体の結合部位との相互作用、ヌクレオチドの塩基対形成などに関する(これらに限定されない)。そのような結びつきはまた、他の分子(例えばペプチド、タンパク質または他のヌクレオチド配列)の存在を含むことができる。
特異的物質は、認識、結合および相互作用を可能にする態様で標的分子と相互作用することができる生物学的および/または化学的構造を含む。特に、前記物質は、核酸、ペプチド、炭水化物、ポリマー、50から1,000Daの分子量を有する小分子およびタンパク質の群から選択され、好ましくは核酸である。特異的物質は、信頼できる検出を担保するために十分な感度および特異性を示す。
【0052】
タンパク質またはペプチドは、好ましくは抗体、サイトカイン、リポカイン、レセプター、レクチン、アビジン、リポタンパク質、糖タンパク質、オリゴペプチド、ペプチドリガンドおよびペプチドホルモンから成る群から選択される。より好ましくは抗体が特異的物質として用いられる。“抗体”は本質的に免疫グロブリン遺伝子またはそのフラグメントによってコードされるポリペプチドを意味する。本発明にしたがえば、抗体は、完全な免疫グロブリンまたは十分に性状が決定された多数のフラグメントとして存在する。フラグメントは、好ましくはFabフラグメント、Fcフラグメント、単鎖抗体(scFv)、可変領域、定常領域、H鎖(VH)およびL鎖(VL)から成る群から選択され、より好ましくはFabフラグメントおよびscFvである。フラグメント、例えばFabフラグメントおよびFcフラグメントは多様なペプチダーゼを用いて切断することによって生成され得る。さらにまた、フラグメント、好ましくはscFvは操作および組換えにより発現される。
“核酸”という用語は、一本鎖または二本鎖のDNAまたはRNAの天然または合成ポリマーでそれぞれ合成、非天然または改変ヌクレオチドを含む(DNAまたはRNAポリマーに取り込まれ得る)ものを指す。各ヌクレオチドは、糖部分、リン酸基部分およびプリンまたはピリミジン残基のどちらかから成る。核酸は、好ましくは一本鎖もしくは二本鎖DNAまたはRNA、プライマー、アンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイム、DNA酵素、アプタマーおよび/またはsiRNA、またはその部分である。核酸は、場合によってホスホロチオエートDNA、ロックされた核酸(LNA)、ペプチド核酸(PNA)またはスピーゲルマーとして改変され得る。
【0053】
“核酸プローブ”は、標的核酸または相補性配列と1つ以上のタイプの化学的結合により、通常は水素結合形成による相補性塩基対形成により結合することができる核酸である。本明細書で用いられるように、プローブは天然(すなわちA、G、CまたはT)または改変塩基(例えば7-デアザグアノシン、イノシンなど)を含むことができる。さらにまた、プローブ中の塩基はホスホジエステル結合以外の結合によって連結ことができるが、ただし前記結合がハイブリダイゼーションを妨害しないことを条件とする。プローブは、ハイブリダイゼーション条件のストリンジェンシーに応じてプローブ配列との完全な相補性を欠く標的配列と結合できることは当業者には理解されよう。プローブは、好ましくは同位元素(例えば発色団、発光団または色素原)で直接標識するか、またはビオチン(前記にストレプトアビジン複合体を後で結合させることができる)で間接的に標識する。プローブの有無をアッセイすることによって、問題の標的遺伝子の有無を検出できる。
エストロゲン性特異的物質として用いられる特に好ましい核酸プローブはオリゴヌクレオチドプローブである。
特異的物質は標識することができ、標識する場合、その実施はそれら物質の固有の特色および適用される検出方法に左右される。特異的なインキュベーション生成物の検出のために、適用される方法は、モニターされる特異的なインキュベーション生成物に左右され、それらは当業者によく知られている。本発明の適切な検出方法の例は、蛍光、ルミネッセンス、VIS着色、放射線放出、電気化学的プロセス、磁気または質量分析である。
【0054】
標識方法には標識が容易に検出されるかぎり特に制限はない。“標識核酸またはオリゴヌクレオチドプローブ”とは、核酸またはプローブの存在が、それらと結合した標識の存在を検出することによって検出できるように、リンカーもしくは化学的結合を介して共有結合的に、またはイオン結合、ファンデルワールス結合、静電気結合、疎水性相互作用もしくは水素結合を介して非共有結合的に標識と結合するものである。本発明の好ましい実施態様では、核酸は、ジゴキシゲニン、ビオチン、化学発光物質、蛍光色素、磁性ビーズ、金属性ビーズ、コロイド粒子、高密度電子試薬、酵素(いずれも当業界で周知である)または放射性同位元素で標識される。本発明の範囲で核酸を標識するために好ましい同位元素は3H、14C、32P、33P、35Sまたは125Iであり、より好ましくは32P、33Pまたは125Iである。
さらにまた、本発明はキットとして実施することができ、前記キットは、特にエストロゲン様または抗エストロゲン様活性を検出する本発明の方法を実施するために、表1の遺伝子によってコードされる少なくとも1つの遺伝子産物と特異的に相互作用する物質を含む。本発明のキットは、本発明の方法の実施の仕方について書かれた指示を含む物品、またはそのような書かれた指示に使用者を誘導する物品を含むことができる。ある実施態様では、キットはさらにまた、レポーター部分またはレポーター装置、好ましくは蛍光発光団または電場効果トランジスターを含む。さらにまた、キットは、核酸(好ましくはmRNA)を単離するための抽出試薬を含むことができる。先きのスクリーニング方法に関する本明細書の教示は有効であると考えられ、都合がよい場合には当該キットに関係なく適用することができる。
本発明のさらに別の目的は、表1から12のいずれかの複数の遺伝子のいずれか1つまたは2つ以上または前記の組合せを含む遺伝子チップに関する。
【0055】
本発明の範囲において、表1の遺伝子を含む群から選択される少なくとも1つの遺伝子の固有の遺伝子発現パターンを活用する、エストロゲン様活性を有する化合物をスクリーニングする方法が初めて提供される。本発明は、特徴的な発現フィンガープリントおよびエストロゲン性と関連するマーカー遺伝子のサブセットを教示し、それら遺伝子が内分泌破壊作用に中心的に関与することを示唆する。本明細書に記載した包括的遺伝子発現パターンは、Illumina社のビーズをベースにしたマイクロアレイプラットフォームを用いたとき、公知のER-陽性イシカワプラスによって誘導されたが、ER-陰性イシカワマイナスヒト内膜癌細胞では誘導されなかった。ジエチルスチルベストロール(DES)、レスヴェラトロール(RESV)、ゲニステイン(GEN)、ジーラレノン(ZEA)、ビスフェノールA(BPA)、およびo,p’-ジクロルジフェニル-トリクロエタンを試験化合物として用い、抗エストロゲンICI182,780(ICI)による(同時)処理を実施して、ER-依存応答を判定した。示差的発現遺伝子の解析は大規模スクリーニング試験に非常に適している。そのようにして、未知の作用態様を有する化学物質を同定し、内分泌破壊作用を示すそれら化学物質の潜在能力を予想することができる。本発明のこのモニター方法と同様に検出方法を単純で迅速な態様で実施することができる。さらにまた、適切なキットをコスト効率よく生産することができる。表1および表4の87遺伝子の特徴付け、特に表7の49遺伝子(エストロゲン性に決定的に必要である)の特徴付けはまた、診断、予防または治療的処置のための、および/または症状(エストロゲンレセプターシグナリングによって惹起され、仲介され、および/または伝播される)のモニターのための医薬組成物の提供をもたらした。それらの使用は、エストロゲン依存性疾患と明白につながる症状の直接的および迅速な緩和をもたらす広範囲の治療法のための有望で新規なアプローチである。in-vitroスクリーニングおよびそのような生理学的または病理学的状態のモニターでは、表1の遺伝子がエストロゲン性の検出および特徴付けのためのバイオマーカーとして定量される。表1の遺伝子によってコードされる遺伝子産物のターゲッティングは、エストロゲン様活性およびその活性から駆動される医学的異常に高度に特異的である。全ての物質が、高い親和性、特異性および安定性;低い製造コストおよび操作の簡便さを特徴とする。これらの特色は、再現性のある作用(これには交差反応性の欠如が含まれる)およびそれら物質と適合する標的構造物との信頼できる確実な相互作用のための基礎となる。
【0056】
本明細書(US2003/0008309A1およびUS7,371,207B2を含む)に引用した全ての参考文献は参照により本発明の開示に含まれる。
本発明は、本明細書に記載した具体的な方法、特定の物質、使用およびキットに限定されないことは理解されよう。なぜならば、そのような事柄はもちろん変動し得るからである。本明細書で用いられる専門用語は単に具体的な実施態様を記述する目的ためであり、本発明の範囲を限定しようとするものではないこともまた理解されよう(前記範囲は添付の請求の範囲によってのみ規定される)。本明細書(添付の請求の範囲を含む)で用いられるように、単語の単数形(例えば“a”、“an”および“the”)は、文脈が明らかに別の形を指定していないかぎり、それら単語の対応する複数形を含む。したがって、“a substance(「物質」)”といえば、1つまたはいくつかの別個の物質が含まれ、“a method(「方法」)”といえば、当業者に公知の等価の工程および方法を指し、以下同様である。特段の指定がないかぎり、本明細書で用いられる全ての技術用語および学術用語は、本発明が属する業界の業者が一般的に理解する同じ意味を有する。
本明細書に記載した方法および材料と等価のものを本発明の実施または試験で用いることができるが、適切な例を下記に記載する。以下の実施例は例示として提供し、限定として提供するものではない。これらの例では、夾雑活性を含まない標準的な試薬および緩衝物質が(実際的である場合は常に)用いられる。特に、これらの実施例は、明示された特色の組合せに限定されないが、それら具体化された特色は本発明の技術的問題が解決されるならば制限なく組み合わせることができると解釈されるべきである。
【0057】
以下の略語が本明細書では用いられる:
BPA: ビスフェノールA
DES: ジエチルスチルベストロール
DDT: o,p’-ジクロルジフェニルトリクロルエタン
EAC: 内分泌活性化合物
ER: エストロゲンレセプター
GEN: ゲニステイン
GO: 遺伝子オントロジー
hd: 高用量
ICI: ICI182,780
ld: 低用量
RESV:レスヴェラトロール
TLDA:TaqMan(商標)低密度アレイ
ZEA: ジーラレノン
【0058】
化学薬品および細胞培養液補充物質
DES(純度≧99%)、GEN(純度≧98%)、ZEA(純度≧99%)、RESV(純度>99%)、BPA(純度≧99%)およびペニシリン/ストレプトマイシン溶液はSigma-Aldrich(Taufkirchen, Germany)から購入し、o,p’-DDT(純度≧99%)はChem Service(West Chester, USA)から入手し、ICI182,780はTocris(Ellisville, USA)から入手し、DMEM/F12、ゲンタマイシンおよびピルビン酸ナトリウムはInvitrogen Corp.(Karlsruhe, Germany)から購入した。ウシ胎児血清(FBS)はBiochrome KG(Berlin, Germany)によりデリバ−され、デキストラン被覆木炭処理FBS(DCC/FBS)はHyclone(Lot AKD11642A, Perbio Science, Bonn, Germany)から入手した。
【0059】
細胞培養および用量選択
ヒトイシカワプラス細胞株(ECACC Order No. 99040201)はヒト子宮内膜腺癌由来で、内因性ERαを発現する。ER-欠損イシカワマイナス細胞株はK.Korach(NIEHS, NC, USA)から入手した(Ignar-Trowbridge et al. 1993, Mol Endocrinol 7(8):992-998)。細胞は、L-グルタミンおよび15mMのHepesを含むDMEM/F12(10%(v/v)FBS、1%(v/v)のペニシリン(10kU/mL)‐ストレプトマイシン(10mg/mL)溶液、0.1%(v/v)ゲンタマイシン(50mg/mL)および1mMピルビン酸ナトリウムを補充)で37℃および5%CO2にて培養フラスコで日常的に維持した。5x105の細胞を、L-グルタミンおよび15mMのHepesを含む無フェノールレッドDMEM/F12(10%(v/v)デキストラン被覆木炭処理FBS、ピルビン酸ナトリウムおよび抗生物質を含む)中、6ウェルプレートに播種した。担体コントロールとして0.5%(v/v)エタノールまたは2用量レベルの化合物による処理の前24時間、細胞を37℃および5%CO2で培養した(前記2用量は、レポーターとしてコンセンサスEREを用いてERαトランスアクチベーション実験からから選択した)(Mueller et al. 2004, Toxicol Sci 80(1):14-25)。
低用量(ld)レベルはレポーター遺伝子の最大活性化の半分を引き起こす化合物濃度(EC50)に一致し、一方、高用量(hd)は飽和活性における用量に該当する。以下の用量を実験のために選んだ:DES 0.05nM(ld)/1nM(hd)、GEN 200nM(ld)/1μM(hd)、ZEA 2.5nM(ld)/100nM(hd)、RESV 7.5μM(ld)/50μM(hd)、BPA 2μM(ld)/5μM(hd)、o,p’-DDT 4μM(ld)/10μM(hd)。細胞はまた、抗エストロゲンICI182,780(100nM)で、さらに高用量の試験化合物との組合せでも処理された。全ての実験は、3−25継代の細胞を用いて3回実施した。
【0060】
RNA抽出
24時間の処理時間後、細胞をPBS(Gibco Invitrogen, Karlsruhe, Germany)で洗浄して採集し、さらにRNeasyミニキット(QIAGEN, Hilden, Germany)を製造業者の記載のように用いて全RNAを抽出した(製造業者の記載にはQIAshredderスピンカラムの手順およびカラム上でのRNaseフリーDNase消化が含まれていた)。RNAを40μLのRNA保存溶液(Ambion, Darmstadt, Germany)で溶出させた。RNAの品質管理および定量は、NanoDrop(商標) 分光高度計(Kisker, Steinfurt, Germany)および2100 Agilent Bio-Analyzer(Agilent Technologies, Waldbronn, Germany)を用いて実施した。1.9から2.1の品質比(A260/A280)を有し、ピーク分解(18s/28s)の形跡のないRNAのみを用いた。
【0061】
cRNA合成およびIllumina全ゲノムチップでのハイブリダイゼーション
遺伝子発現解析は、約23,000の転写物の解析を可能にする、Illumina Sentrix(商標) HumanRef-8 V2 ビーズチップアレイ(Illumina Inc., San Diego, CA, USA)を用いて実施した。ビオチン標識cRNAの合成は、Theonyx Liquid Performer(Aviso GmbH, Greiz, Germany)およびMessageAmpTM II RNA増幅キット(Ambion, Daemstadt, Germany)を用い、プロセスを最適化するためにIllumina社が要求するいくつかの改変を加えた自動化工程で実施した(Zidek et al. 2007, Toxicol Sci 99(1):289-302)。カラム洗浄の代わりに、ビーズをベースにしたAgencourt(商標) RNAcleanTMシステム(Beckman Coulter, Krefeld, Germany)を用いてcDNAおよびcRNAを精製した。cRNAの品質は分光高度計(NanoDrop(商標))により測定し、2100 Agilent Bio-Analyzerを品質判定に用いた。
750ナノグラムの増幅させたビオチニル化cRNAを、ハイブリダイゼーションカートリッジ内のIllumina Sentrix(商標) BeadChipで、湿潤状態にて20時間58℃(ハイブリダイゼーションオーブン、Illumina Inc., San Diego, CA, USA)でハイブリダイズさせた。続いて、このチップを洗浄し、1μg/mLのストレプトアビジン結合Cy3(Amersham Biosciences, Buckinghamshire, UK)で10分間染色し、さらに提供されたプロトコルにしたがって最後に遠心により乾燥させた。蛍光の検出は、Illumina(商標) ビーズアレイリーダー(Illumina, Inc., San Diego, CA, USA)を用い538nmおよび0.8μmの解像度で共焦点レーザースキャンによって実施した。
【0062】
統計的データ解析
アレイデータの解析は、アレイ表面におけるマイクロビーズのランダムアッセンブリーのために画像スポットの解読で始まる多段プロセスである(Gunderson et al. 2004, Genome Res 14(5):870-877;Kuhn et al. 2004, Genome Res 14:2347-2356)。各ビーズタイプはアレイ当たり平均30倍となり、内部複製物を提供する(Steemers and Gunderson, 2005, Pharmacogenomics 6(7):777-782)。Illumina(商標) BeadStudioソフトを用いてこれらのデータを圧縮し、さらに種々のコントロールビーズパラメータを基にしてアレイの品質を確認した。
データの正規化および統計解析のために、データをGenedata’s Expressionist(商標) Analystソフト(Genedata AG, Basel, Switzerland)にアップロードした。Lowess(局部荷重直線回帰、Locally Weighted Linear Regression)を用いてデータを正規化し、サンプルとアレイ間の非生物学的相違(体系的変動)を相殺した。正規化の後で、それぞれ個々の化合物処理に対する倍数表示調節を算出した。200を超える(バックグラウンドレベル)任意のシグナル強度によるフィルタリングによって包括的遺伝子セットを減少させて、更なる解析時の多重試験の誤りの割合を減じた。
化合物特異的な弁別発現遺伝子の解明およびER依存性調節を示す遺伝子の選別のために、各化合物の遺伝子発現プロファイルを、個々におよび抗エストロゲンICIと組み合わせて担体コントロールに対して分散分析法(ANOVA)によって比較した。BH-Q-値(Benjamini and Hochbergの偽の発見率)をp-値に加えて有意さの測定として用いた(Benjamini and Hochberg 1995, JR Statist Soc 57(1):289-300)。したがって、0.01未満のp-値およびBH-Q-値を有する遺伝子のみを有意として受け入れた。Genedata’s Expressionist(商標)の非管理K-Meansクラスターアルゴリズムを用いて、選択した遺伝子をランダムに決定した種々の区分(クラスター)にグループ分けし、(抗)エストロゲン様遺伝子発現プロファイルの同定を容易にした(図2)。さらにまた、各化合物の有意に脱調節される遺伝子(p-値/BH-Q-値が0.01未満)による化合物間比較(cross-compound comparison)を、種々の処理実験についてのPearson相関係数を計算することによって実施した(図1B)。
特徴的なエストロゲン性マーカー遺伝子の選択のために、担体コントロールに対して試験したEACにANOVAを適用した。p-値およびBH-Q-値が0.01未満である遺伝子のみを有意として受け入れた。前記遺伝子群をDESのhdサンプルで1.5倍の調節を示す遺伝子を選択することによってさらに圧縮した(これは潜在的マーカー遺伝子の選別を改善した)。
全てのデータをMIAME(マイクロアレイ実験に関する最小情報、Minimum Information About a Microarray Experiment)の推奨にしたがって記録した。
【0063】
TaqMan(商標)低密度アレイ(TLDA)のためのcDNA合成
Illuminaの結果を立証するために、Transcripor First Strand cDNA合成キット(Roche, Mannheim, Germany)を製造業者のプロトコルにしたがって用い、ランダムな6量体プライマーにより2μgの精製全RNAをcDNAに逆転写した。定性および定量は、2100 Agilent Bio-Analyzer(Agilent Technologies, Waldbronn, Germany)を用いmRNA Picoチップアッセイによって実施した。
【0064】
TLDAの調製および解析
平行して8サンプルの解析を可能にする384ウェルのTaqMan(商標)低密度アレイ(Appplied Biosystems, Darmstadt, Germany)を用い、選択した遺伝子およびサンプルについてリアルタイムPCRを実施した(Tuschl and Mueller 2006, Toxicology 218(2-3):205-215)。効率値は、イシカワプラスの全RNAから調製した一連の希釈のcDNA(デュープリケートで各サンプルウェルにつき500ng、50ng、5ng、0.5ng、0.05ng)を用いて実施したPCR反応から算出した。遺伝子発現解析は、Livak and Schmittgenの効率修正ΔΔCt法(18S rRNAに対する標的遺伝子発現(ハウスキーピングコントロール)および担体コントロールに対する遺伝子発現を決定する(Livak and Schmittgen 2001, Methods 25(4):402-408))によって実施した。T検定は、有意さの試験のためにGenedata’s Expressionist(商標)解析ソフトを用いて実施し、それによりp-値が0.05未満の遺伝子のみを有意であると受け入れた。
【0065】
表1は、EAC暴露後に示差的に発現される新規なエストロゲン/エストロゲンレセプター標的遺伝子のリストである。
表2は、EAC暴露後にアップレギュレートされる新規なエストロゲン/エストロゲンレセプター標的遺伝子のリストである。
表3は、EAC暴露後にダウンレギュレートされる新規なエストロゲン/エストロゲンレセプター標的遺伝子のリストである。
表4は、EAC暴露後に示差的に発現される公知のエストロゲン/エストロゲンレセプター標的遺伝子のリストである。
表5は、EAC暴露後にアップレギュレートされる公知のエストロゲン/エストロゲンレセプター標的遺伝子のリストである。
表6は、EAC暴露後にダウンレギュレートされる新規なエストロゲン/エストロゲンレセプター標的遺伝子のリストである。
表7は、EAC暴露後に示差的に発現される新規なエストロゲン/エストロゲンレセプター標的遺伝子のリストである(表1のサブセット)。
表8は、EAC暴露後にアップレギュレートされる新規なエストロゲン/エストロゲンレセプター標的遺伝子のリストである(表2のサブセット)。
表9は、EAC暴露後にダウンレギュレートされる新規なエストロゲン/エストロゲンレセプター標的遺伝子のリストである(表3のサブセット)。
表10は、EAC暴露後に示差的に発現されるエストロゲンシグナリングの遺伝子のリストである。
表11は、EAC暴露後にアップレギュレートされるエストロゲンシグナリングの遺伝子のリストである。
表12は、EAC暴露後にダウンレギュレートされるエストロゲンシグナリングの遺伝子のリストである。
【実施例1】
【0066】
EACはイシカワプラス細胞で特徴的な遺伝子発現パターンを誘導するが、イシカワマイナス細胞では誘導しない
主要目的は、エストロゲン様活性を有することが判明しているかまたは疑われる化学物質の遺伝子発現パターンを解明することであった。DESを参照化合物として供した。RESVおよびGEN(代表的な2つの植物エストロゲン)、マイコトキシンZEA、並びに化学物質BPAおよびo,p’-DDT(図1A)を、ゲノムの広範囲転写物のレベル変化を測定することによってイシカワ細胞における分子応答を解析するために選択した。ER依存応答を明らかにするため、および細胞のストレスから生じる一般的な非特異的変化を区別するために、純粋な抗エストロゲンICIによる(単独またはEACと組み合わせて)追加処理も加えた。分子レベルにおけるエストロゲン様作用の大半はエストロゲンレセプターによって仲介され、このことは、これら実験のためにERα陽性イシカワプラス細胞を選択し、さらに結果をエストロゲン非応答性であるERα陰性イシカワマイナス細胞株と比較することを促した。
相関性の解析を1682の遺伝子(イシカワプラス)および1265の遺伝子(イシカワマイナス)のセットで実施した(前記遺伝子セットは、いずれもANOVAによって選択された各化合物処理について有意に脱調節される遺伝子を加えて作製された)(図1B)。相関性の結果を用いて、抗エストロゲンICI と同様にDES参照物質との(非)類似性を概算した。ICIはリガンド結合部位に対して他のERリガンドと競合し、したがって下流のシグナルトランスダクション事象を阻害することができる。したがって、被検化合物とICIとの遺伝子発現プロファイルにおける類似性は抗エストロゲン様遺伝子調節を表示する。
イシカワプラス細胞における遺伝子発現の解析は、DESと比較してBPA、DDT、並びに低用量のGENおよびZEAについて低い正の相関性を明らかにし、一方、高用量のGENおよびZEAは中等度から高い相関性があることを明らかにした。対照的に、RESV処理とDESとの間には相関関係は見出されなかった。興味深いことに、RESVはICIと高い正の相関関係を示し、これはBPA、DDT並びに低用量のGENおよびZEAについて同様であった。DESに対するGENおよび高用量ZEAとの高い相関関係に一致して、ICIとの類似性はほとんど認められなかった。DES誘導発現はICI誘導発現と負の相関関係を示した。総合すれば、化合物間比較は、GENおよびZEAの低用量、BPA、DDT並びにRESVについて、同様にGENおよびZEAの高用量処理と比較してDESについて高度に類似する遺伝子発現プロファイルを示した(図1B)。
イシカワプラスにおける結果とは対照的に、ER欠損イシカワマイナスにおける遺伝子発現パターンはランダムであり、EACとICIとの間に注目すべき相関傾向は認めることができなかった(図1B)。実際、イシカワマイナスでは有意に脱調節される遺伝子は極めてわずかで、より低い変化倍数が観察された。このことは、ERは、被検EACの転写作用の主要な調節因子であることをさらに立証した。
【実施例2】
【0067】
クラスター解析はイシカワプラス細胞におけるEACの(抗)エストロゲン様特性を明らかにした
イシカワプラス細胞を用いたK-Meansクラスター形成は、遺伝子発現パターンおよび有意に調節される遺伝子に対するICIの潜在的作用についてより詳細な洞察を提供する(図2)。K-Meansクラスター形成は、類似の発現パターンを有する遺伝子を一緒に分類し、さらに他の非類似遺伝子群からそれらを分離する能力を有する。その転写がエストロゲンレセプターによって調節され得る遺伝子を同定することに焦点を置いた。クラスター1および2はそのような潜在的ER-依存調節遺伝子を表す。なぜならばICI処理またはICI/高用量化合物の組合せ処理は、化合物のみの処理と比較して弱いかまたは反対の調節を示したからである。DES解析はER依存性発現プロファイルを示す遺伝子のみを明らかにしたが(193のアップレギュレーションおよび62のダウンレギュレーション)、さらに別のクラスターが他の試験化合物について発見され、別個の作用態様が示唆された。本発明者らは、ICI並びにGENおよびZEAの低用量処理によって同様に調節される一組の遺伝子を見出した(クラスター5および6)。それらは、GEN低用量およびZEA低用量脱調節遺伝子のそれぞれほぼ86%および91%になる。ほんのわずかの遺伝子のみがER依存性態様で調節されるように思われる。対照的に、GENおよびZEAの高用量レベルでは、ER依存性調節遺伝子だけが同定された。したがって、GENおよびZEAは、低用量と高用量で別個の発現パターンを示し、EACの二相性の用量-応答関係を示唆する。GENおよびZEAによって調節されるこれらER依存性遺伝子のほぼ66%がまたDES処理後同じ向きに脱調節され、GENおよびZEAのDES類似エストロゲン様活性を示唆する。さらにまた、低用量のGENおよびZEAの遺伝子発現パターンの抗エストロゲン様部分を比較した。両方が、抗エストロゲン様アップレギュレートおよびダウンレギュレート遺伝子の50%を超える遺伝子で同様な発現を示した(クラスター5および6)。
RESV、BPAおよびDDT処理後に有意に調節される遺伝子のK-Means解析は4つの異なるクラスタータイプをもたらした(図2)。それらは、クラスター1および2(ER依存性調節遺伝子)並びに2つの他の特異的遺伝子群(化合物、ICIまたはその両方による処理に応答してアップレギュレート(クラスター3)またはダウンレギュレート(クラスター4)される遺伝子を含む)である。したがって、クラスター3および4は抗エストロゲン様(ICI様)発現パターンを示し、RESV、BPAおよびDDTによって有意に調節される遺伝子の大半を含む。RESV処理については、エストロゲン様(48%)および抗エストロゲン様(52%)遺伝子発現の両方が観察された。推定的エストロゲン様応答内のいくつかの脱調節にもかかわらず、これら遺伝子の6%のみがDES処理後に一方向性に調節されることがまた見出された。これらの結果は、RESVはER依存性調節遺伝子の発現パターンに顕著な変化を誘発し得るがDESとは異なる態様で変化を誘発することを示唆している。BPAおよびDDTによって誘発される発現変化は、BPAおよびDDTによって有意に調節される遺伝子のそれぞれ86%および85%に一致する抗エストロゲン様遺伝子調節によってもっぱら特徴づけられた。しかしながら、より少数の遺伝子が潜在的にER依存的に調節されたが、DESとの一致は顕著であった。BPAおよびDDT調節クラスター1および2遺伝子のそれぞれ80%および72%がまたDES暴露後に同じ向きに示差的に発現された。さらにまた、BPAおよびDDTの多くのICI様調節遺伝子(クラスター3および4)がRESVによって一方向性に調節されることが見出された。同じことが低用量のGENおよびZEA処理後にも事実であり(クラスターおよび6)、これら全てのEACによって誘引される抗エストロゲン様応答の高度な類似性が示唆された。
結局、これらの発見は相関性解析の結果を支持している。なぜならばICIと比較してBPA、DDT、低用量のZEAおよびGENについて高い相関関係が推定され、エストロゲン様活性よりは強い抗エストロゲン様活性が示唆されたからである。ER依存性調節プロファイルを有する遺伝子のみがDES、高用量のZEAおよびGENに応答することが見出され、これら処理条件間における高い相関関係を説明する。
【実施例3】
【0068】
EACのin-vitroスクリーニングのために予想される候補物
包括的遺伝子発現プロファイリングを用いて同様に発現される遺伝子を同定した(これら遺伝子はエストロゲン様活性のための推定的マーカーとして供することができよう)。これら6つの化合物は種々の規模でイシカワプラスにおいて遺伝子の発現を変化させたが、87の遺伝子(61がアップレギュレートで26がダウンレギュレート)が全化合物について同様に調節されることが見出され(図3)、下記でより詳細に考察するRESVを除いて同様なエストロゲン様作用メカニズムが示唆された。大半の遺伝子が、ICIまたはICI/化合物組合せ処理によってより弱い調節スコアを示すか、または正反対に調節され、これら遺伝子のER依存性調節を提供した。これらマーカー遺伝子の機能注釈は、細胞増殖および分化、転写調節、免疫応答、細胞シグナリング、並びに細胞内輸送に関する遺伝子を明らかにした。
我々のIlluminaの結果を立証するために、選択したエストロゲン様マーカー遺伝子ALPP2、CEBPD、FOXD1、G0S2、NRIP1、PGRおよびPIM1の発現レベルをリアルタイムPCRによって定量した(図4)。遺伝子発現は様々な規模で変化したが、リアルタイムPCR発現パターンはIllumina遺伝子発現実験の結果を確認した。
EACの判定では、抗エストロゲン様化合物ICIに対して発現パターンにおける特異的な類似性もまた観察された。BPA、DDT、ZEAおよびGENはICIに対して良好な相関関係を示し、これら化合物の抗エストロゲン様特性の提唱を支持する。対照的に、RESVはその有意に調節される遺伝子の52%をICIと同じ向きに調節するだけでなく、推定的エストロゲン様マーカー遺伝子の1/3をICIに対し一方向性に調節することもまた示された。この作用は高用量のRESVでより甚大でさえあった。したがって、RESVおよびGENは癌予防性および心臓保護作用を示すので、前記の特別なエストロゲン様/抗エストロゲン様混合活性パターンはこれら化合物の提唱されている有益な作用を説明できるかもしれない。しかしながら、これらデータは、GENおよびZEAについて観察されたように(GENおよびZEAは低用量でのみ抗エストロゲン様遺伝子調節を示した)、用量が重要な役割を果たすことを示した。
【0069】
表1
【表1−1】

【0070】
表1つづき
【表1−2】

【0071】
表1つづき
【表1−3】

【0072】
表1つづき
【表1−4】

【0073】
表2
【表2−1】

【0074】
表2つづき
【表2−2】

【0075】
表2つづき
【表2−3】

【0076】
表3
【表3−1】

【0077】
表3つづき
【表3−2】

【0078】
【表4】

【0079】
【表5】

【0080】
【表6】

【0081】
表7
【表7−1】

【0082】
表7つづき
【表7−2】

【0083】
表7つづき
【表7−3】

【0084】
表8
【表8−1】

【0085】
表8つづき
【表8−2】

【0086】
表9
【表9】

【0087】
表10
【表10−1】

【0088】
表10つづき
【表10−2】

【0089】
表11
【表11−1】

【0090】
表11つづき
【表11−2】

【0091】
表12
【表12】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む、エストロゲン様または抗エストロゲン様活性を有する化合物をスクリーニングする方法:
(a)表1の少なくとも1つの遺伝子を発現することができる細胞系またはそのサンプルを提供する工程であって、前記系が単細胞、細胞培養、組織、器官および哺乳動物の群から選択される、前記工程、
(b)前記系の少なくとも一部分をスクリーニングされるべき化合物とインキュベーションする工程、および
(c)前記表1の少なくとも1つの遺伝子の前記系における発現をコントロールの細胞系における遺伝子発現と比較することによって前記活性を検出する工程。
【請求項2】
工程(a)でヒトイシカワプラス細胞株が提供される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(c)で遺伝子発現が、表1の遺伝子によってコードされる少なくとも1つの遺伝子産物を検出し、シグナルの量またはシグナルの変化を前記系における遺伝子発現と相関させることによって決定される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
発現が表2の遺伝子のアップレギュレーションおよび/または表3の遺伝子のダウンレギュレーションを伴うならば、工程(c)で化合物のエストロゲン様活性が陽性と検出される、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
工程(a)で細胞系またはそのサンプルがさらに表4の少なくとも1つの遺伝子を発現することができ、さらに工程(c)で表4の少なくとも1つの遺伝子の発現がコントロール系における遺伝子発現と比較される、請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
発現が表5の遺伝子のアップレギュレーションおよび/または表6の遺伝子のダウンレギュレーションを伴うならば、工程(c)で化合物のエストロゲン様活性が陽性と検出される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
工程(a)で細胞系またはそのサンプルが表1の複数の遺伝子を発現することができ、および/または、表4の複数の遺伝子をさらに発現することができ、さらに工程(c)で表1および/または表4の複数の遺伝子の発現パターンがコントロール系における発現パターンと比較され、それによってエストロゲン性を化合物特異的に特徴付ける、請求項1から6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
工程(c)で表7の全ての遺伝子の発現が、コントロール系における遺伝子発現、好ましくは表1および表4の全ての遺伝子の発現と比較される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
発現パターンが、複数遺伝子の相関関係および/または変化した調節の規模によって決定される、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
エストロゲン依存性疾患のための治療用化合物をスクリーニングする、請求項1に記載の方法であって、工程(a)で哺乳動物、好ましくは実験室用哺乳動物が提供され、工程(b)でスクリーニングされるべき化合物が前記哺乳動物に投与され、さらに工程(c)で治療効果が、前記哺乳動物から回収した生物学的サンプルにおけるエストロゲン様活性レベルまたは抗エストロゲン様活性レベルにより、非内分泌破壊作用および/または内分泌破壊作用を示す哺乳動物との比較で検出される、前記方法。
【請求項11】
エストロゲンレセプターシグナリングによって惹起され、仲介され、および/または伝播される生理学的および/または病理学的状態をモニターする方法であって、少なくとも1つの化合物または生理学的に許容できるその塩の有効量がそのような処置を必要とする哺乳動物に投与され、さらに前記哺乳動物から回収した生物学的サンプルで表1の少なくとも1つの遺伝子の発現が決定される、前記方法。
【請求項12】
表1の少なくとも1つの遺伝子の、エストロゲン様または抗エストロゲン様活性を有する化合物をスクリーニングするためのマーカー遺伝子としての使用。
【請求項13】
表1および場合によって表4の複数の遺伝子の、エストロゲン性を化合物特異的に特徴付けるためのマーカー遺伝子としての使用。
【請求項14】
表1の遺伝子によってコードされる少なくとも1つの遺伝子産物と特異的に相互作用する物質の、エストロゲン様または抗エストロゲン様活性を検出するための使用。
【請求項15】
表1の遺伝子によってコードされる少なくとも1つの遺伝子産物と特異的に相互作用する物質を含む、エストロゲン様または抗エストロゲン様活性の検出および/または特徴付けにおいて使用されるキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2012−505387(P2012−505387A)
【公表日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−530390(P2011−530390)
【出願日】平成21年9月18日(2009.9.18)
【国際出願番号】PCT/EP2009/006749
【国際公開番号】WO2010/040446
【国際公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【出願人】(591032596)メルク パテント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (1,043)
【氏名又は名称原語表記】Merck Patent Gesellschaft mit beschraenkter Haftung
【住所又は居所原語表記】Frankfurter Str. 250,D−64293 Darmstadt,Federal Republic of Germany
【Fターム(参考)】