説明

エタノールの製造方法

【課題】有効利用されていない樹皮を食料と競合しないセルロース系バイオマスとして併行糖化発酵法によりエタノールを製造する方法を提供する。
【解決手段】樹皮原料を水酸化カルシウムを含有するアルカリ液による処理と機械的に微細化する処理により微細樹皮としてpH4〜7の微細樹皮スラリーを調製する前処理工程と、該微細樹皮スラリーを併行糖化発酵法により処理する併行糖化発酵処理工程と、発酵液から生成エタノールを回収し、酵素含有液を前記併行糖化発酵処理工程に戻すエタノール及び酵素回収工程と、発酵液から分離される発酵残渣留分に含まれるカルシウム分を水酸化カルシウムの状態として回収し、前記アルカリ液用の水酸化カルシウムとして循環する水酸化カルシウム回収工程、を有する、エタノールの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹皮原料から糖化と発酵を同時に行う併行糖化発酵法によりエタノールを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹木は、細胞分裂が活発な形成層を境界にその内側の木部と外側の樹皮に分けられる。樹皮は総樹木質量の約10〜15%を占める。特に、若いユーカリでは、樹皮は木部と比べてリグニン含量が比較的に低く、可溶性成分を多く含み柔軟である。
【0003】
樹皮は死んだ組織の外樹皮と生きている組織の内樹皮に分けられる。
外樹皮は主に周皮あるいはコルク層からなり、木材組織を機械的損傷から守るとともに、温度と湿度の変動を小さくしている。
内樹皮は師要素、柔細胞および厚壁細胞からなり、師要素は液体と栄養素の運搬の機能を持ち、柔細胞はデンプン等の栄養素貯蔵の機能を持ち、内樹皮の師要素間に介在する。厚壁細胞は支持組織として機能し、木部の年輪と同じように層状に観察され、形によって靭皮繊維とスクレレイドとに区別される。
【0004】
樹皮組織は、大きく分けて、繊維、コルク細胞及び柔細胞を含む微細物質からなる。樹皮の繊維は、木部の繊維と化学的に似ており、セルロース、ヘミセルロース及びリグニンからなる。コルク細胞及び柔細胞を含む微細物質には多量の抽出成分が存在し、コルク細胞の壁にはスベリン類が、微細物質画分にはポリフェノール類が多い。このように、樹皮は木部と異なり多くの有用な可溶性成分を含有し、その量は乾燥質量の20〜40%に達し、しかも繊維画分には木部と同様な繊維質を有しているという優れた性質を有している。しかし、樹皮は、材木用途では使用されず、製紙工程のパルプ化の際には、わずかに混入してもパルプの品質を低下させるため、枝や根とともに植林地で肥料として土壌に戻されるか、製材工場又はチップ工場で剥皮されて焼却されており、木質系バイオマスとして有効利用されていない。
【0005】
現在、製紙用パルプ原料としてマツ、アカシア、ユーカリなどが植林されている。その中でユーカリは500種類以上あり、生長が早く伐採期間が7年から10年と短く、乾燥地帯でも生育するため、製紙用材以外にも緑化目的などでも世界中に広く植林されている。
一方、地球温暖化防止の観点から化石燃料由来のCO排出削減のため、バイオマスの有効利用が注目されている。しかし、近年、トウモロコシ等の食品系バイオマスからのバイオエタノールの製造は食品価格の上昇を引き起こし、発展途上国では食糧不足などの重大な問題を引き起こしている。そこで、食料と競合しない木質系バイオマス、すなわちリグノセルロースからのバイオエタノールの製造が注目されている。
【0006】
リグノセルロースを利用する際には、セルロースを単糖であるグルコース等に分解する糖化が重要な段階となる。リグノセルロース材料は澱粉と異なり、そのまま酵素処理しても糖化されるセルロースの割合は低い。その理由は、リグニン及びヘミセルロースがセルロースと結合しているためである。そこで、物理的あるいは化学的な前処理により、セルロースを酵素糖化され易い状態にする必要がある。物理的前処理としては、加圧熱水処理、蒸煮及び爆砕による前処理などが研究されている(特許文献1〜4参照)。
また、化学的前処理としてはアルカリによる前処理が研究されている(特許文献5〜9参照)。
【0007】
上記の各提案は、あらかじめリグノセルロースを数mmから数百μmまで粉砕する必要があり、さらに高温高圧下で処理するため、処理に要するエネルギーが大きく、かつ反応装置が高価となる問題がある。一般的に、粒径を小さくすればする程、粉砕に多量のエネルギーを要する。
【0008】
このような状況下において、NEDO(独立行政法人 新エネルギー・産業技術開発機構)では、前記した樹皮に注目し、樹皮の糖化についての研究成果を報告している。樹皮の場合、前記した粉砕エネルギーの問題が少ない。しかし、アルカリ処理などの前処理が必要であることには変わりがない。
一方、リグノセルロースからのエタノール生産方法としては、リグノセルロースに対してセルラーゼを反応させてセルロースを酵素的にグルコースへ糖化する工程と、次にグルコースをエタノール酵母によって発酵させてエタノールを生成する方法が採用されていた。しかし、この方法は、糖化工程における糖化反応が、糖化が進行するに従って遅くなる欠点があるので、特許文献10〜13のように、糖化と発酵を同時に行う併行糖化発酵法が研究されていた。先の特許文献9にも併行糖化発酵の記載がある。
リグノセルロース原料として樹皮を用いた場合でも事情は同じで、併行糖化発酵法を採用することが好ましいと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−136263号公報
【特許文献2】特開2007−20555号公報
【特許文献3】特開平10−117800号公報
【特許文献4】特開昭59−204997号公報
【特許文献5】特許3493026号公報
【特許文献6】特公昭63−28597号公報
【特許文献7】特開昭59−192093号公報
【特許文献8】特開昭59−192094号公報
【特許文献9】特開2008−092910号公報
【特許文献10】特開平05−207885号公報
【特許文献11】特開2002−186938号公報
【特許文献12】特開2008−104452号公報
【特許文献13】特開2005−168335号公報
【特許文献14】特開2004−344084号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】独立行政法人 新エネルギー・産業技術開発機構 平成20年度バイオマスエネルギー関連事業成果報告会予稿集A−4(平成21年2月11日、名古屋大学生命農学研究科 福島和彦教授他)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前述のごとく、原料として樹皮を用いる場合、アルカリ処理による前処理を行い、併行糖化発酵法により糖化発酵させる方法が好ましい方法として考えられるが、併行糖化発酵を行う発酵槽内のスラリーのpHは、酵素糖化と、発酵に適当なpHであるpH4〜7に調整することが好ましいため、多くの場合、酸により中和する必要がある。
また、酵素は高価であるため、糖化発酵液から酵素を分離し酵素を再度糖化発酵槽に循環して使用することが必要である。そのため、糖化発酵槽にはアルカリイオンと対イオンが蓄積されることとなり、工業的に連続生産するには、イオン濃縮による糖化反応や発酵反応の阻害を防止することが重要な課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、樹皮をセルロース系バイオマスとして併行糖化発酵法によりエタノールを製造しようとする場合に当面する前記課題を解決するため鋭意研究した結果、アルカリ処理用のアルカリ化合物として水酸化カルシウムを採用することにより、アルカリイオンと対イオンが蓄積することに起因する糖化反応や発酵反応の阻害を容易に回避することが可能であることの知見を得て、以下の発明に到達したものである。
【0013】
(1)樹皮原料を水酸化カルシウムを含有するアルカリ液による処理と機械的に微細化する処理により微細樹皮とし、該微細樹皮からpH4〜7の微細樹皮スラリーを調製する前処理工程と、
該微細樹皮スラリーを併行糖化発酵法により処理した後、生成エタノール及び酵素を含有する液体留分と発酵残渣留分とを分離する併行糖化発酵処理工程と、
生成エタノール及び酵素を含有する液体留分から生成エタノールを回収し、酵素含有液を前記併行糖化発酵処理工程に戻すエタノール及び酵素回収工程と、
前記併行糖化醗酵処理工程で生成エタノール及び酵素を含有する液体留分から分離される発酵残渣留分に含まれるカルシウム分を水酸化カルシウムの状態として回収し、前記アルカリ液用の水酸化カルシウムとして循環する水酸化カルシウム回収工程、
を有することを特徴とする、樹皮原料からエタノールを製造する方法。
【0014】
(2)前記前処理工程において、前記アルカリ液処理と機械的微細化処理後の微細樹皮から分離される処理済みアルカリ液と該微細樹皮を水洗した後の水洗処理液を含むカルシウム分含有処理液に含まれるカルシウム分を水酸化カルシウムの状態として回収し、前記アルカリ液用の水酸化カルシウムとして循環する水酸化カルシウム回収工程、
を有することを特徴とする、(1)項記載の樹皮原料からエタノールを製造する方法。
【0015】
(3)前記前処理工程は、水酸化カルシウムを含有するアルカリ液による処理と機械的に微細化する処理によって得られる微細樹皮含有スラリーを微細樹皮分と処理済みアルカリ液分とに分離し、微細樹皮分を水洗して洗浄処理液を分離した後、微細樹皮分を水中に分散させてpH4〜7の微細樹皮スラリーを調製する工程であることを特徴とする、(1)項又は(2)項に記載の樹皮原料からエタノールを製造する方法。
【0016】
(4)前記微細樹皮分を水中に分散させて微細樹皮スラリーを調製する工程が、該スラリーをさらに中和する処理を含む工程であることを特徴とする、(1)項〜(3)項のいずれか1項に記載の樹皮原料からエタノールを製造する方法。
【0017】
(5)前記水酸化カルシウム回収工程は、前記前処理工程で発生するカルシウム分含有処理液に二酸化炭素を作用させて生成する炭酸カルシウム沈殿を分離し、焼成して酸化カルシウムに転化し、さらに、消和して水酸化カルシウムとして回収する処理を含む工程であることを特徴とする、(1)項〜(4)項のいずれか1項に記載の樹皮原料からエタノールを製造する方法。
【0018】
(6)前記水酸化カルシウム回収工程は、前記併行糖化発酵処理工程において、生成エタノール及び酵素を含有する液体留分を分離して得られる発酵残渣留分を焼成して含まれるカルシウム分を酸化カルシウムに転化し、さらに消和して水酸化カルシウムとして回収する処理を含む工程であることを特徴とする、(1)項〜(5)項のいずれか1項に記載の樹皮原料からエタノールを製造する方法。
【0019】
(7)前記生成エタノール及び酵素を含有する液体留分から生成エタノールを回収し、酵素含有液を前記併行糖化発酵処理工程に戻すエタノール及び酵素回収工程は、該酵素含有液に随伴されている発酵残渣分を除去する処理を含む工程であることを特徴とする、(1)項〜(6)項のいずれか1項に記載の樹皮原料からエタノールを製造する方法。
【0020】
(8)前記併行糖化発酵処理工程において生成エタノール及び酵素を含有する液体留分から分離された発酵残渣留分の少なくとも一部を、さらに機械的に微細化処理して微細発酵残渣スラリーを調製する工程と、該微細発酵残渣スラリーを併行糖化発酵処理して生成エタノール及び酵素を含有する液体留分と発酵残渣留分とに分離する併行糖化醗酵処理工程と、生成エタノール及び酵素を含有する液体留分から生成エタノールを回収し、酵素含有液留分を併行糖化発酵処理工程用の酵素源として戻す生成エタノール及び酵素回収工程と、前記併行糖化発酵処理工程で分離される発酵残渣留分からカルシウム分を水酸化カルシウムの状態として回収するカルシウム分回収工程からなる追加のエタノール製造工程において処理して追加のエタノール分を回収する工程を有することを特徴とする、(1)項〜(7)項のいずれか1項に記載の樹皮原料からエタノールを製造する方法。
【0021】
(9)前記追加のエタノール製造工程における生成エタノール及び酵素を含有する液体留分の少なくとも一部を、前記最初の併行糖化発酵処理工程から得られる生成エタノール及び酵素を含有する液体留分と合して前記最初の生成エタノール及び酵素回収工程で処理することを特徴とする、(8)項記載の樹皮原料からエタノールを製造する方法。
【0022】
(10)原料樹皮が、ユーカリ(Eucalyptus)属に属する樹木の樹皮であることを特徴とする、(1)項〜(9)項のいずれか1項に記載の樹皮原料からエタノールを製造する方法。
【0023】
(11)前記併行糖化発酵処理工程における発酵のための酵母として、イサチェンキア属オリエンタリス種(Issatchenkia orientalis)に属する微生物を用いることを特徴とする、(1)項〜(10)項のいずれか1項に記載の樹皮原料からエタノールを製造する方法。
【発明の効果】
【0024】
本発明により、工業的な連続生産で樹皮原料を効率的に酵素糖化発酵処理することが可能となり、従来、木質系資源として工業的に未利用であった樹皮からのバイオエタノールの工業的な生産に途を拓くものである。また、糖化発酵に際して、反応が進行するにつれて発生する炭酸ガスにより系内のpHが下がって行くため、一般的にはpHを4〜7程度に維持するために薬品を添加することが必要となるが、本発明の方法の場合は、水酸化カルシウムを一定量残すだけで足りるのでpH調整のための薬品を別途用意する必要がない。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の樹皮原料からエタノールを製造する方法を実施するための一実施形態を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の樹皮原料からのエタノールの製造方法について詳述する。
本発明のエタノール製造方法においては、原料として木本植物の樹皮を使用する。樹皮原料としては、特に限定されないが、樹皮が厚く、かつ、糖分(セルロース)が多いという理由で、ユーカリ(Eucalyptus)属に属する樹木の樹皮を使用することが好ましい。前記ユーカリ属に属する樹種(ユーカリ)としては、グランディス(grandis)種、グロブラス(globulus)種、ナイテンス(nitens)種、カマルドレンシス(camaldulensis)種、デグラプタ(deglupta)種、ビミナリス(viminalis)種、ユーロフィラ(Urophylla)種、ダニアイ(dunnii)、及びこれらの交雑種等が挙げられる。
【0027】
ユーカリの樹皮には、無機成分としてシュウ酸カルシウムが多量に含まれており、本発明のエタノールを製造する工程において、アルカリ液として使用する水酸化カルシウム由来のカルシウム分と共にカルシウム成分として回収し、利用することが可能なので、本発明の樹皮原料として特に好適である。
【0028】
本発明においては、樹皮原料を、アルカリ化合物として水酸化カルシウムを含有するアルカリ液に浸漬するアルカリ液処理及び機械的な微細化処理を行って樹皮原料を微細化する前処理工程、及び該微細化処理樹皮を糖化酵素とエタノール発酵微生物で併行糖化発酵処理する併行糖化発酵処理工程に従って処理してエタノールを製造する。
【0029】
樹皮原料は、入手できる状態のままで原料とすることができるが、搬送時の取り扱い性等を考慮して数十cmから数cmに裁断乃至粉砕されている状態のものであればそのまま前処理工程に供給することができる。樹皮原料のサイズが大きい場合、断裁機、チッパー、破砕機、ハンマークラッシャー等の機械的処理により形状や大きさを整えれば良い。樹皮原料は微細である程、後の併行糖化発酵処理工程において糖化効率を高めることができるが、本発明の方法の場合、先に樹皮をアルカリ処理した後に機械的に微細化処理すると、より少ないエネルギー量で微細化することが可能となり、前処理工程前の乾燥樹皮原料を微粉砕する処理を省略することができる。
【0030】
前処理工程におけるアルカリ化合物の樹皮原料に対する添加量は、樹皮を柔化せしめる量であれば特に限定されない。例えば、乾燥樹皮100質量部に対して0.1質量部以上、好ましくは0.1〜50質量部、より好ましくは6〜20質量部である。
アルカリ処理のための温度は、樹皮を柔化せしめる温度であれば特に限定されないが、好ましくは10℃〜300℃、さらに好ましくは25℃〜95℃、最も好ましくは60〜95℃である。10℃未満の場合ではアルカリ処理効果が低下するおそれがある。
【0031】
アルカリ処理は、簡易な設備で実施することができ、投入エネルギーも削減できるという点で、常圧下で行うことが特に好ましい。
アルカリ処理時間は、原料を柔軟化せしめ、原料の糖化性を促進せしめるに十分な時間であれば特に限定されないが、好ましくは1分〜72時間、さらに好ましくは1分〜17時間、もっとも好ましくは1分〜2時間である。
【0032】
本発明においては、樹皮原料をアルカリ化合物含有水としての水酸化カルシウム含有水に浸漬し、さらに必要に応じて加熱してアルカリ処理を行う。
本発明において、アルカリ化合物としての水酸化カルシウム含有水への浸漬とは、水にアルカリ化合物を予め溶解及び/又は混合した状態で樹皮原料を浸漬してもよく、また、樹皮原料とアルカリ化合物を同時に水に投入してもよく、樹皮原料とアルカリ化合物を予め混合した後、さらに水に浸漬してもよい。いずれにしても、最終的に樹皮原料がアルカリ化合物含有水に浸漬された状態で柔軟化されたものとなればよい。
【0033】
本発明においては、アルカリ化合物として水酸化カルシウムを使用する。水酸化カルシウムは、他のアルカリ化合物と比較して安価であり、また、溶解度が低いため、沈殿として回収し再使用することが容易である。さらに、洗浄などで希薄溶液となった場合でも、二酸化炭素で中和すると炭酸カルシウムとなって沈殿するため、カルシウム分の回収が容易である。
水酸化カルシウムの場合は、アルカリ水溶液と言っても、溶解度が低いため、溶解していない固形分も同時に存在していること状態となる。
水酸化カルシウム含有水のアルカリ化合物濃度は0.05質量%以上、好ましくは0.05〜10質量%、より好ましくは1〜4質量%である。
【0034】
水酸化カルシウムの添加量は、樹皮原料を柔軟化して酵素による糖化反応を促進せしめる状態とすることができる量であればよい。好ましくは、乾燥樹皮原料100質量部に対して0.1〜50質量部である。0.1質量部未満の場合は、原料のアルカリ処理による糖化促進の効果が十分でないおそれがあり、50質量部を超えた場合には、効果が頭打ちとなる。
水の添加量は、乾燥樹皮原料1質量部に対して5〜20質量部が好適である。水の添加量が20質量部より多いと、加熱のために必要なエネルギーが多くなり、エネルギー収支が悪化する。水の添加量が5質量部未満の場合は、樹皮原料と水酸化カルシウムとの接触が不十分となり、十分な糖化促進効果が得られないおそれがある。なお、水酸化カルシウムは溶解度が1.7g/Lと低いため、アルカリ処理工程においては、水酸化カルシウム水溶液が、原料樹皮及び固体の水酸化カルシウムが接触するには充分な量の水を添加することが重要である。
【0035】
アルカリ浸漬と同時に、もしくはアルカリ浸漬された後に樹皮を機械的に微細化する微細化処理工程は、特に限定されないが、具体的には、レファイナー、グラインダーなどによって樹皮を磨砕処理する。
上記の磨砕処理とは、樹皮原料を剪断力により磨砕する処理である。装置としては、パルプ製造に使用されるグラインダー、レファイナーが使用可能である。グラインダーとしてはストーン型、石臼型のいずれでもよい。
【0036】
レファイナーとしては、木材から機械パルプを製造する際に用いられる各種高濃度レファイナー機を使用することができる。レファイナーの型としては、固定板と回転する1枚のディスクにより磨砕するシングルディスクレファイナー、2枚の逆回転するディスクにより磨砕するダブルディスクレファイナー、固定板を挟んで両側の回転するディスクにより磨砕するツインディスクレファイナーが使用できる。また、回転板が平板ではなく円錐型であるコニカルディスクレファイナーも使用できる。
また、メディア攪拌式湿式粉砕装置も使用できる。この装置は、粉砕容器に挿入した攪拌機を高速で回転させて、粉砕容器内に充填したメディアと繊維状セルロースを攪拌して剪断応力を発生させて粉砕する装置であり、例えばサンドグラインダーが代表的な装置である。
【0037】
樹皮原料を、アルカリ化合物含有水と共に混練機によりアルカリ処理と混練処理を同時に行うことにより微細化しても良い。混練処理とは、樹皮をアルカリ化合物の水溶液と混合しながら物理的に力を加えることで微細化することであり、混練処理で用いる装置は、ニーダー、ディスパーザー、エクストルーダー、ミキサー等が使用できるが、この中でも混練を主目的としているニーダーと呼ばれている装置が好ましく、特に二軸ニーダーが好適に用いられる。特にユーカリ樹皮は柔らかいため、アルカリ化合物の存在下で、ニーダー等により処理するだけで簡単に微細化することが可能である。
【0038】
混練処理による微細化処理の場合、アルカリ化合物の樹皮原料に対する添加量は、樹皮を柔軟化できる量であれば特に限定されず、条件に応じて変動するため、必要に応じて適宜選択可能である。
例えば、乾燥樹皮100質量部に対してアルカリ化合物0.1質量部以上、好ましくは1質量部以上、より好ましくは5質量部以上である。30質量部を超えて使用しても、効果は頭打ちとなり、薬品、洗浄水の無駄となるおそれがある。
【0039】
混練処理による微細化処理の場合、樹皮に対するアルカリ含有水の添加量比率は、乾燥樹皮1gに対するアルカリ含有水のmlで表示すると、1〜6の範囲が好適である。添加量比率が1未満の場合、樹皮に対するアルカリ処理が十分に行われず糖化率が劣るおそれがあり、また、繊維化に必要な機械エネルギーも大きくなる。添加量比率が6を超えた場合には、混練処理時の加熱に必要な熱エネルギーが増大して非効率となるおそれがある。
【0040】
混練処理による微細化処理温度は、樹皮を柔化することができる温度であれば特に限定されないが、好ましくは25〜300℃、さらに好ましくは90〜200℃である。25℃未満の場合、反応が十分に完了しない可能性があり、300℃を超えた場合には過分解という問題がある
混練処理による微細化処理時間は、樹皮を柔化せしめるに十分な時間であれば、特に限定されないが、好ましくは30秒〜10分の範囲である。
【0041】
混練処理によって微細化処理された樹皮は、微細であるほど後の糖化効率が高くなるが、所要エネルギー量も多くなるため、繊維の大きさは適度な範囲とすることが好ましい。具体的には、繊維の平均繊維長が2〜4mm、かつ平均繊維径が100〜400μmであることが好ましい。
上記のような微細化処理を行うことによって、後の併行糖化発酵処理工程における酵素による糖化反応効率の向上を図ることができる。なお、樹皮原料はアルカリ処理によって柔化されているため、前記微細化処理に要するエネルギーコストは、収率の向上効果と比較すれば問題にならない程度である。
【0042】
本発明において、樹皮原料は、上記アルカリ処理及び微細化処理を含む前処理工程を経た後、あるいは、アルカリ処理と混練処理による微細化処理よりなる前処理工程を経た後、必要に応じて、濃縮及び/又は洗浄、pH調整等を行って、糖化酵素及び酵母による併行糖化発酵処理工程において糖化発酵処理される。
併行糖化発酵処理は、通常のリグノセルロース系バイオマスの糖化処理方法で採用されている酵素の種類や、反応時間、反応温度等の反応条件を採用して行われる。また、同時に、通常の糖を発酵する酵母と培地を投入して行われる。
【0043】
樹皮の糖化に使用するセルロース分解酵素は、セロビオヒドロラーゼ活性、エンドグルカナーゼ活性、ベータグルコシダーゼ活性を有する、所謂セルラーゼと総称される酵素である。
各セルロース分解酵素は、夫々の活性を有する酵素を適宜の量で添加しても良いが、市販されているセルラーゼ製剤には、上記した各種のセルラーゼ活性を有すると同時に、ヘミセルラーゼ活性も有しているものが多ので、市販のセルラーゼ製剤を用いれば良い。
【0044】
市販のセルラーゼ製剤としては、トリコデルマ(Trichoderma)属、アクレモニウム属(Acremonium)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、ファネロケエテ(Phanerochaete)属、トラメテス属(Trametes)、フーミコラ(Humicola)属、バチルス(Bacillus)属などに由来するセルラーゼ製剤がある。このようなセルラーゼ製剤の市販品としては、全て商品名で、例えば、セルロイシンT2(エイチピィアイ社製)、メイセラーゼ(明治製菓社製)、ノボザイム188(ノボザイム社製)、マルティフェクトCX10L(ジェネンコア社製)等が挙げられる。
原料固形分100質量部に対するセルラーゼ製剤の使用量は、0.5〜100質量部が好ましく、1〜50質量部が特に好ましい。
【0045】
本発明において、発酵用の微生物としては酵母などが用いられ、培地などを同時に添加しても良い。酵母としては、周知の酵母、例えばサッカロミセス・セラビシエなども使用できるが、好ましくは、耐塩性酵母が用いられる。耐塩性酵母としては、イサチェンキア属オリエンタリス種のものが好ましく、37℃から45℃の範囲であっても増殖することが可能で、実質的にプロテアーゼを生産しない株であればいずれも用いることができる。特に好ましくは、Issatchenkia属orientalis種のアルコール発酵性酵母MF−121が例示される。本菌株は平成15年5月22日に独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに寄託され、受託番号FERM P−19368が付与された。本菌株については特許文献14に詳細な記載がある。
【0046】
微生物は固定化しておいてもよい。微生物を固定化しておくと、次工程に微生物を液と共に送り出して再回収するという工程を省くことができるか、少なくとも回収工程にかかる負担を軽減することができるし、微生物をロスするリスクを軽減することもできる。また、微生物を固定化するほどでのメリットはないが、凝集性のある微生物を選択することにより微生物の回収を容易にすることができる。この微生物を用いた場合、反応槽中の塩の濃度が高くなっても安定して発酵反応が進むという利点があるし、高温で発酵が進むので、酵素反応の進行も促進される。
【0047】
併行糖化発酵反応のpHは4〜7が好ましい。反応温度は30〜60℃が好ましく、35〜50℃がさらに好ましい。反応工程は、連続式が好ましいが、バッチ方式でもよい。糖化発酵時間は、酵素濃度によっても異なるが、バッチ式の場合は0.5〜72時間、さらに好ましくは2〜48時間である。連続式の場合も、平均滞留時間が、0.5〜48時間、さらに好ましくは1〜24時間である。
【0048】
糖化発酵工程の原料の濃度は、10〜30質量%であることが好ましい。10質量%未満であると、最終的に生産物の濃度が低すぎて生産物の濃縮のコストが高くなるという問題が発生する。また、30質量%を超えて高濃度となるにしたがって、原料の攪拌が困難になり、生産性が低下するという問題が発生する。
【0049】
なお、糖化発酵処理工程の前に、樹皮原料に対して、予め殺菌を行うことが好ましい。樹皮原料中に雑菌が混入していると、糖化発酵を行う際に、雑菌が糖を消費して生成物の収量が低下してしまうという問題が発生する。
殺菌工程は、酸やアルカリなど、菌の生育困難なpHに原料を晒す方法でも良いが、高温下で処理する方法でも良く、両方を組み合わせても良い。酸、アルカリ処理後の原料については、中性付近、もしくは、糖化及び/又は糖化発酵処理工程に適したpHに調整した後に原料として使用することが好ましい。また、高温殺菌した場合も、室温もしくは糖化発酵工程に適した温度まで降温させてから原料として使用することが好ましい。このように、温度やpHを調整してから原料を送り出すことで、好適pH、好適温度外に酵素が晒されて、失活することを防ぐことができる。
【0050】
本発明においては、前処理工程の前に、樹皮原料を一軸破砕機を用いて破砕処理した後、前処理工程においてアルカリ処理することが、糖化効率を高める上で好ましい。
一軸破砕機とは、回転ロータ一に取り付けられた回転刃と、前記回転刃に対して原料を押圧するプッシャと、前記プッシャに取り付けられた固定刃を有し、前記回転刃と固定刃の間で原料を破砕する装置である。
樹皮原料は、一軸破砕機を用いて処理した場合、比較的少ない投入エネルギーで樹皮を繊維状にすることが可能である。繊維状とされた樹皮は、微細であるほど後の糖化効率が高くなるが、微細化のための所要エネルギー量も多くなるため、繊維の大きさは適度な範囲とすることが好ましい。具体的には、繊維分布として、繊維長3mm以上の繊維の割合が全体の20%以上であることが好適である。さらに繊維長3mm以上の繊維の割合が20%以上、かつ、繊維長10mm以下の割合が50%以下であることが好ましい。最も好ましくは、繊維長3mm以上の繊維の割合が20%以上、10mm以上の繊維の割合が10%以下である。
【0051】
本発明の方法においては、前処理工程におけるアルカリ処理に使用するアルカリ化合物を水酸化カルシウムとするため、アルカリ処理後に樹皮とアルカリ液とを分離して、前記アルカリ液をアルカリ処理工程に戻すことが比較的簡単にできる。
アルカリ処理後に樹皮とアルカリ液とを分離する方法としては、アルカリ処理した後に脱液する。脱液する方法としては、フィルター等を用いた常圧下での濾過のほか、加圧濾過、吸引濾過や、遠心分離手段を適宜用いることができる。
分離された脱液分には、溶解している水酸化カルシウム分の他、固形分としての水酸化カルシウムも存在する。本発明の場合、投入した水酸化カルシウムに対して20〜70質量%程度が脱液中に存在する。この液分はそのままアルカリ処理用として循環使用することもできる。
【0052】
前記の循環によって、水酸化カルシウムを含む液分が、アルカリ処理に再利用されることによって、水酸化カルシウム及び水の使用量の節減が可能となる。なお、水酸化カルシウムは脱液後の固形分(樹皮分)に付着して先送りされるため、再利用の際には水酸化カルシウムを追加する必要がある。また、必要に応じて、循環する工程の途中で濾過等により有機分を除去してからアルカリ処理用として戻してもよい。
更に、場合によっては、分離された液分から、焼成等を経て、水酸化カルシウムを再生しても良い。
【0053】
上記アルカリ処理後に脱液を終えた樹皮は、前述の通り機械的手段によって微細化処理を施すものとする。具体的には樹皮を剪断力によって磨砕処理することが好ましい。
磨砕処理に際しては、必要に応じて水を供給しても良い。例えば、レファイナー処理の場合、樹皮絶乾固形分1質量部に対して、水は2質量部以上存在することが好ましい。より好ましくは、水が5〜20質量部である。
なお、アルカリ処理後に直ちに磨砕処理を行い、その後に濃縮処理を行っても良い。その場合、磨砕により発生する新たな繊維表面からもアルカリが浸透することになり、アルカリ処理の効果としては増大する反面、微細繊維が発生すると濃縮の効率が下がる危険性もある。
【0054】
水酸化カルシウムによってアルカリ処理された後、脱液によりアルカリ液を分離された樹皮、もしくは、それに引き続き磨砕された樹皮を、水で洗浄する洗浄工程を設けることが好ましい。洗浄処理は、処理物に水を加えて、アルカリ処理物に付着した水酸化カルシウムを洗い流し、又は水に溶解させて排出する。洗浄工程では、フォールウォッシャー、濃縮洗浄機、パルプ洗浄装置等により、洗浄を行うことが可能である。また、この工程の排出液には、水酸化カルシウム分の他、樹皮原料に含まれるシュウ酸カルシウム分も排出される。これらカルシウム分の溶解度は低いので、固液分離することにより、かなりの部分が固形分として回収でき、これを焼成して酸化カルシウムとし、消和(消化)して水酸化カルシウムとして再利用することが可能となる。
ここにおいて、固液分離前に、二酸化炭素をスラリーに供給して液を中和し、カルシウム固形分の回収を促進しても良い。
【0055】
上記の固液分離工程で分離した水酸化カルシウムを含む液分の一部又は全部を、二酸化炭素により中和して炭酸カルシウムとして回収することができる。生成した炭酸カルシウムは、沈殿槽等で沈殿物として回収される。回収された炭酸カルシウムからさらに水酸化カルシウムを再生し、本発明のアルカリ処理用として再利用することができる。
炭酸カルシウムを除去した液分は、アルカリ処理工程及び洗浄工程において使用する水として再利用することができる。また、環境負荷が低いものとなっているのでそのまま廃棄することもできる。
中和工程に使用する二酸化炭素は、気体でも固体でもよく、また液体に溶解した状態であってもよい。
なお、本発明の前処理を行った原料を併行糖化発酵処理してエタノールを製造する場合には、副産物として二酸化炭素が発生するため、この二酸化炭素を回収して中和に用いることがさらに好ましい。
【0056】
水酸化カルシウムによるアルカリ処理時に磨砕処理を行わずに、洗浄処理後に磨砕処理を行っても良い。この方法の場合、洗浄工程における樹皮分と液分の分離が容易であるという利点がある。しかし、磨砕処理時のアルカリ濃度が低くなるためアルカリ液による処理効果が少なくなり磨砕エネルギーが増加することとなる場合がある。
【0057】
本発明においては、併行糖化発酵処理工程の後で蒸留工程を設けることが可能である。蒸留工程では、減圧蒸留装置により発酵生成物が蒸留分離される。減圧下では低い温度で発酵生成物を分離できるため、酵素の失活を防ぐことができる。減圧蒸留装置としては、ロータリーエバポレーター、フラッシュエバポレーターなどを用いることができる。
蒸留温度は25〜60℃が好ましい。25℃未満であると、生成物の蒸留に時間がかかって生産性が低下する。また、60℃より高いと、酵素が熱変性して失活してしまい、新たに追加する酵素量が増加するため経済性が悪化する。
蒸留後の蒸留残渣留分中に残る発酵生成物濃度は0.1質量%以下であることが好ましい。このような濃度とすることによって、後段の固液分離工程において固形物とともに排出される発酵生成物量を低減することができ、収率を向上させることができる。
【0058】
糖化発酵反応は連続式が好ましいが、バッチ方式でも良い。糖化発酵反応時間は、酵素濃度によっても異なるが、バッチ式の場合は10〜240時間、さらに好ましくは15〜160時間である。連続式の場合も、平均滞留時間が、10〜150時間、さらに好ましくは15〜100時間である。
【0059】
前記した糖化発酵処理工程において、セルロースに由来する六炭糖、即ち、グルコースと、ヘミセルロースに由来する五炭糖、即ち、マンノース、ガラクトースなどがアルコール発酵されるが、五炭糖は未反応のまま残留するものもある。このような場合、五炭糖をより確実に発酵する酵母も添加するか、あるいは、別工程で処理しても良い。
【0060】
本発明のエタノール製造方法においては、糖化発酵工程から得られる残渣を機械的処理した後、さらに糖化し、発酵させることが可能である。
残渣の機械的処理は、任意の機械的手段によって、残渣をさらに磨砕して、糖化発酵に適した状態にすることである。磨砕処理に用いられる装置としては、グラインダー、レファイナー等、アルカリ処理工程の直後に行う機械的処理における磨砕処理(最初の磨砕処理)で用いられるものと同様の装置が使用可能である。発酵後の残渣は既に柔軟になっているため、上記の中でも特にレファイナーの使用が好ましい。また、最初の磨砕処理においてレファイナー処理を採用した場合、発酵残渣の磨砕処理としては最初の磨砕処理より磨砕の度合いを高めることが好ましい。最初の磨砕処理、発酵残渣の磨砕処理のいずれも同じレファイナーで行う場合には、発酵残渣の機械処理は最初の前処理に比較して、刃のクリアランスを0.1mm以上狭くすることが好ましい。
【0061】
前記の発酵残渣処理工程の機械的処理工程の前後少なくともいずれかにおいて、アルカリ処理を行うことが可能である。
アルカリ処理については、前述した樹皮原料のアルカリ処理の場合と同様な薬品、処理条件が可能である。
【0062】
以下、発酵残渣の機械的処理について説明する。
併行糖化発酵処理工程から得られた発酵残渣を機械的処理したものを、さらに併行糖化発酵処理する場合、一回目の併行糖化発酵処理工程(最初の併行糖化発酵処理工程)とは別の併行糖化発酵処理工程(第二の併行糖化発酵処理工程)を設けて発酵させる第一実施形態(図1のフロー参照)と、発酵残渣を機械的処理したものを一回目の併行糖化発酵処理工程(最初の糖化発酵処理工程)に返送する第二実施形態が存在する。
第一実施形態の場合、最初の併行糖化発酵処理工程及び第二の併行糖化発酵処理工程は、夫々独立して、バッチ処理あるいは連続処理のいずれによっても行うことができる。
【0063】
第二実施形態の場合、最初の併行糖化発酵処理工程がバッチ式であれば、第二の併行糖化発酵処理工程もバッチ式で、最初の併行糖化発酵処理工程の1番目のロットの発酵残渣は、第二の併行糖化発酵処理工程で処理された後、最初の併行糖化発酵処理工程の2番目の併行糖化発酵処理工程のロットに混合されて糖化発酵処理され、以後同様に続けられる。従って、新たに最初の併行糖化発酵処理工程に第2番目のロットとして供給される前処理物の量は、混合される発酵残渣を含めて、ほぼ同一の量が毎ロット処理されるように調整される。また、数回のロットを終えたら、残渣を廃棄することが必要になる。連続処理でも同様で、最初の併行糖化発酵処理工程、第二の併行糖化発酵処理工程を共に連続処理とすることが好ましく、適宜のタイミングで残渣を廃棄する必要がある。残渣を適宜廃棄するのは、セルロース以外の有機物が次第に蓄積し、糖化反応を阻害することを防止するためである。
【0064】
第一実施形態の場合、機械的処理を施された最初の併行糖化発酵処理工程からの発酵残渣は第二の併行糖化発酵処理工程に送られ、最初の併行糖化発酵処理工程と同様に糖化発酵が行われ、処理後に濾過して固液分離される。液体分は蒸留工程に送られ、固体分は最終の残渣としてカルシウム分の回収に供される。
【0065】
アルカリ処理として水酸化カルシウムを用いているため、発酵残渣を焼成するか、残渣から無機分を分離して焼成することにより、酸化カルシウムが得られる。これを消和(消化)して水酸化カルシウムとし、アルカリ処理用として使用することが可能である。また、樹皮がユーカリである場合には、樹皮中のシュウ酸カルシウムも残渣として残るので、残渣を焼成すれば酸化カルシウムが多量に得られるという利点がある。
特に、前述した残渣の磨砕処理を行う方法においては、前述の第二の併行糖化発酵処理工程の残渣を焼成処理する方法が最も合理的である。
【実施例】
【0066】
以下の実施例により本発明の方法を、図1を参照して具体的に説明する。
〔樹皮破砕処理〕
図1の工程図における「樹皮破砕工程1」において、10cmスクリーンを通過したチップ状のユーカリ・グロブラスの樹皮を、一軸破砕機(西邦機工製,SC−15)を用いて以下の条件で破砕した。
一軸破砕機のホッパーに、含水率30.8質量%の樹皮723g(絶乾質量で500g相当)の樹皮を投入し、丸穴φ20mmのスクリーンを使用して運転を行った。一軸破砕機で破砕された樹皮を10Lのステンレスバケツに取った。
【0067】
〔アルカリ処理〕
図1の工程図における「前処理工程」中の「アルカリ処理工程2」において、上記の破砕樹皮に、水酸化カルシウム粉末を62.5g(対絶乾樹皮12.5質量%)を加えて良く混合した後、水の総量が5Lとなるように水を加えた。これも良く混合した後、90℃にて40分間保持してアルカリ処理を施した。
【0068】
〔固液分離〕
アルカリ処理後、図1の工程図における「前処理工程」中の「固液分離工程3」において、40メッシュの合成繊維メッシュを用いて、遠心脱水により固形分であるアルカリ処理物と液分とを分離する濃縮処理を行った。
アルカリ処理濃縮物(Wet)は約1.9Kgで、水分は73.2質量%であった。また、液の量は3.1kgであった。この液をろ液(a)として保管した。
【0069】
〔磨砕〕
図1の工程図における「前処理工程」中の「磨砕工程4」において、上記「固液分離工程」からのアルカリ処理濃縮物をレファイナー(熊谷理器工業製、KRK高濃度ディスクレファイナー)を用い、クリアランス0.5mmで磨砕した。
【0070】
〔洗浄〕
図1の工程図における「前処理工程」中の「洗浄工程5」において、前記磨砕処理物に5Lの純水を添加し、10分間攪拌した後、40メッシュのスクリーンにて固液分離して洗浄された前処理物〔これを前処理微細樹皮(b)とする〕を得た。また、分離された液はろ液(c)として保管した。
【0071】
〔併行糖化発酵処理〕
図1の工程図における「併行糖化発酵処理工程」中の「第一併行糖化発酵処理工程6」において、上記前処理微細樹皮(b)を反応容器に入れ、水を加えて濃度8%に調整したのち、ポリペプトン5g/L、酵母(MF−121)エキス3g/L、麦芽エキス3g/Lとなるようにそれぞれ添加し、前記液体培地3Lで前培養後の洗浄遠心で集菌した酵母菌体及び市販セルラーゼ(Multifect CX16L、ジェネンコア協和社製)250mLを添加し、37℃、20時間の条件で最初の糖化発酵処理(第一併行糖化発酵処理)し、発酵液のエタノール濃度を測定した。
【0072】
〔固液分離〕
「第一併行糖化発酵処理工程」で最初の併行糖化発酵処理後、図1の工程図における「固液分離工程7」で、40メッシュのスクリーンにて固液分離して発酵残渣(d)を得た。
【0073】
〔蒸留〕
図1の工程図における「第一併行糖化発酵処理工程6」で最初の併行糖化発酵処理した処理液を「固液分離工程7」で分離して得られる生成エタノール及び酵素を含有する発酵液(m)を、「蒸留工程8」で蒸留してエタノール(e)を得た。また、エタノールが除かれた酵素含有液(f)は最初の併行糖化発酵処理工程(第一併行糖化発酵処理工程6)に戻された。
【0074】
〔固液分離〕
蒸留工程でエタノールが除かれた酵素含有液(f)を「固液分離工程9」で処理して、酵素液(g)を最初の併行糖化発酵処理工程(第一併行糖化発酵処理工程6)用の酵素源として戻し、固形分は最終残渣(h)として「焼成工程10」に送った。
【0075】
〔第二磨砕〕
図1の工程図における「第二磨砕工程12」で、前記最初の併行糖化発酵処理工程からの発酵液から固液分離工程で分離された発酵残渣をレファイナーによりクリアランス0.3mmで処理した。
【0076】
〔第二併行糖化発酵処理〕
図1の工程図における「第二併行糖化発酵処理工程13」で、上記第二磨砕工程で処理した発酵残渣(d)を空の反応容器に入れ、水を加えて濃度8%に調整し、「第一併行糖化発酵処理工程6」で用いたものと同様の、ポリペプトン5g/L、酵母エキス3g/L、麦芽エキス3g/Lとなるようにそれぞれ添加し、前記液体培地1Lで前培養後の洗浄遠心で集菌した酵母菌体及び市販セルラーゼ70mLを添加して37℃、20時間の条件で併行糖化発酵処理(第二の併行糖化発酵処理)を行い、発酵液のエタノール濃度を測定し、第一併行糖化発酵処理で得られたエタノール量との合計量を算出した。エタノールの合計量は58gであった。
【0077】
〔固液分離〕
図1の工程図における前記第二の併行糖化発酵処理工程からの糖化発酵液を「固液分離工程14」で、40メッシュのスクリーンにて固液分離して最終残渣(k)と追加のエタノール及び酵素を含有する発酵液(j)を得た。分離された発酵液(j)は前記の最初の併行糖化発酵処理工程からの発酵液を固液分離工程で分離して得られる生成エタノール及び酵素を含有する発酵液(m)と一緒に「蒸留工程8」に送り蒸留した。
【0078】
[残渣及びろ液の処理]
上記第二の併行糖化発酵処理工程13からの発酵液から分離した最終残渣(k)と、前記最初(第一)の併行糖化発酵処理工程6からの発酵液の蒸留工程8から得られる酵素含有液(f)から固液分離工程9で分離した最終残渣(h)とは、一緒にして「焼成工程10」焼成し、含まれるカルシウム分を酸化カルシウムに転化した。
また、前記樹皮原料の「アルカリ処理工程2」からの処理物の「固液分離工程3」から得た「ろ液(a)」と該「固液分離工程3」で得たアルカリ処理樹皮の「洗浄工程5」からの「ろ液(c)」は、一緒にして「沈殿工程15」に送り、炭酸ガスを吹き込んで炭酸カルシウムを沈殿物として分離した後、「焼成工程16」に送って焼成して酸化カルシウムに転化した。前記ろ液と発酵残渣の各焼成工程から得られた酸化カルシウムの合計量は約92gであった。この量は、投入した水酸化カルシウムから想定される量よりはるかに多く、樹皮原料中に含まれているシュウ酸カルシウム等のカルシウム分の大部分も酸化カルシウムに転化され、酸化カルシウムとして回収されたと推定される。前記両焼成工程10,16からの酸化カルシウムは消化(消和)工程11でそれぞれ水酸化カルシウムに転化した。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明によれば、極めて単純な工程にしたがって、しかも安価な薬品を使用して、現在、有効利用が図られておらず、廃棄乃至放置されている樹皮を原料としてエタノールを生産することができる実用化可能な方法が提供されるので、食料と競合しないバイオエタノール製造の実用化に途を拓くものである。
【符号の説明】
【0080】
1:樹皮破砕工程
2:アルカリ処理工程
3:固液分離工程
4:磨砕工程
5:洗浄工程
6:第一併行糖化発酵処理工程
7:固液分離工程
8:蒸留工程
9:固液分離工程
10:焼成工程
11:消化(消和)工程
12:磨砕工程
13:第二併行糖化発酵処理工程
14:固液分離工程
15:沈殿工程
16:焼成工程
a:処理済みアルカリ液
b:前処理微細樹皮
c:洗浄液
d:発酵残渣e:回収エタノール
f:酵素含有液
g:酵素液
h:最終残渣
j:発酵液
k:発酵残渣
l:炭酸カルシウム
m:発酵液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹皮原料を水酸化カルシウムを含有するアルカリ液による処理と機械的に微細化する処理により微細樹皮とし、該微細樹皮からpH4〜7の微細樹皮スラリーを調製する前処理工程と、
該微細樹皮スラリーを併行糖化発酵法により処理した後、生成エタノール及び酵素を含有する液体留分と発酵残渣留分とを分離する併行糖化発酵処理工程と、
生成エタノール及び酵素を含有する液体留分から生成エタノールを回収し、酵素含有液を前記併行糖化発酵処理工程に戻すエタノール及び酵素回収工程と、
前記併行糖化醗酵処理工程で生成エタノール及び酵素を含有する液体留分から分離される発酵残渣留分に含まれるカルシウム分を水酸化カルシウムの状態として回収し、前記アルカリ液用の水酸化カルシウムとして循環する水酸化カルシウム回収工程、
を有することを特徴とする、樹皮原料からエタノールを製造する方法。
【請求項2】
前記前処理工程において、前記アルカリ液処理と機械的微細化処理後の微細樹皮から分離される処理済みアルカリ液と該微細樹皮を水洗した後の水洗処理液を含むカルシウム分含有処理液に含まれるカルシウム分を水酸化カルシウムの状態として回収し、前記アルカリ液用の水酸化カルシウムとして循環する水酸化カルシウム回収工程、
を有することを特徴とする、請求項1記載の樹皮原料からエタノールを製造する方法。
【請求項3】
前記前処理工程は、水酸化カルシウムを含有するアルカリ液による処理と機械的に微細化する処理によって得られる微細樹皮含有スラリーを微細樹皮分と処理済みアルカリ液分とに分離し、微細樹皮分を水洗して洗浄処理液を分離した後、微細樹皮分を水中に分散させてpH4〜7の微細樹皮スラリーを調製する工程であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の樹皮原料からエタノールを製造する方法。
【請求項4】
前記微細樹皮分を水中に分散させて微細樹皮スラリーを調製する工程が、該スラリーをさらに中和する処理を含む工程であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の樹皮原料からエタノールを製造する方法。
【請求項5】
前記水酸化カルシウム回収工程は、前記前処理工程で発生するカルシウム分含有処理液に二酸化炭素を作用させて生成する炭酸カルシウム沈殿を分離し、焼成して酸化カルシウムに転化し、さらに、消和して水酸化カルシウムとして回収する処理を含む工程であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の樹皮原料からエタノールを製造する方法。
【請求項6】
前記水酸化カルシウム回収工程は、前記併行糖化発酵処理工程において、生成エタノール及び酵素を含有する液体留分を分離して得られる発酵残渣留分を焼成して含まれるカルシウム分を酸化カルシウムに転化し、さらに消和して水酸化カルシウムとして回収する処理を含む工程であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の樹皮原料からエタノールを製造する方法。
【請求項7】
前記生成エタノール及び酵素を含有する液体留分から生成エタノールを回収し、酵素含有液を前記併行糖化発酵処理工程に戻すエタノール及び酵素回収工程は、該酵素含有液に随伴されている発酵残渣分を除去する処理を含む工程であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の樹皮原料からエタノールを製造する方法。
【請求項8】
前記併行糖化発酵処理工程において生成エタノール及び酵素を含有する液体留分から分離された発酵残渣留分の少なくとも一部を、さらに機械的に微細化処理して微細発酵残渣スラリーを調製する工程と、該微細発酵残渣スラリーを併行糖化発酵処理して生成エタノール及び酵素を含有する液体留分と発酵残渣留分とに分離する併行糖化醗酵処理工程と、生成エタノール及び酵素を含有する液体留分から生成エタノールを回収し、酵素含有液留分を併行糖化発酵処理工程用の酵素源として戻す生成エタノール及び酵素回収工程と、前記併行糖化発酵処理工程で分離される発酵残渣留分からカルシウム分を水酸化カルシウムの状態として回収するカルシウム分回収工程からなる追加のエタノール製造工程において処理して追加のエタノール分を回収する工程を有することを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の樹皮原料からエタノールを製造する方法。
【請求項9】
前記追加のエタノール製造工程における生成エタノール及び酵素を含有する液体留分の少なくとも一部を、前記最初の併行糖化発酵処理工程から得られる生成エタノール及び酵素を含有する液体留分と合して前記最初の生成エタノール及び酵素回収工程で処理することを特徴とする、請求項8記載の樹皮原料からエタノールを製造する方法。
【請求項10】
原料樹皮が、ユーカリ(Eucalyptus)属に属する樹木の樹皮であることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか1項に記載の樹皮原料からエタノールを製造する方法。
【請求項11】
前記併行糖化発酵処理工程における発酵のための酵母として、イサチェンキア属オリエンタリス種(Issatchenkia orientalis)に属する微生物を用いることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか1項に記載の樹皮原料からエタノールを製造する方法。



【図1】
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【公開番号】特開2011−152067(P2011−152067A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−14896(P2010−14896)
【出願日】平成22年1月27日(2010.1.27)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【Fターム(参考)】