説明

エタノール製造方法

【課題】本発明では、木質系バイオマスを微粉砕し、酵素と酵母や細菌を同時に反応させる並行複発酵を行う技術を用いたエタノール生産方法を開発することを目的とするものである。
【解決手段】上記木質系バイオマスを物理的方法で粒径100ミクロン以下の微粉体とし、セルラーゼやヘミセルラーゼを用いてグルコースなどの糖を生産させる。並行して生産された糖を酵母や細菌などによりすみやかに高効率でエタノールに変換する方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リグノセルロース、特に木質系バイオマスを用いて、酵素と酵母または細菌によるエタノール製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エタノールは、自動車用のガソリン燃料に添加できる理想的な燃料である。バイオマスから製造される99.4%以上の濃度のエタノールは、二酸化炭素の排出削減に直結するガソリン添加剤であるため、間伐材などの木質系バイオマスや稲わらなどの草本系バイオマスなどからのエタノール製造方法が求められている。現状では、エタノール製造のために使用されている原料は、サトウキビまたはビートなどの糖類やトウモロコシまたは他の食用作物の澱粉が主流である。これらの農業資源作物は非常に高価であるため、エタノールの大規模製造用の原料として使用することは難しい。
間伐材などの木質系バイオマスや稲わらなどの草本系バイオマスは、低価格で大量に入手できる再生可能な原料であるため低コストでのバイオエタノール生産の原料として期待される。これらバイオマスの成分はセルロースとヘミセルロースとリグニンである。これらバイオマスから酵素を用いて糖を得るためには、糖変換を行うときの阻害因子であるリグニンを除去するための前処理が不可欠である。そのため現状では、酵素を用いる変換方法でなく濃硫酸または希硫酸を用いたセルロース・ヘミセルロース分解糖化法が多く用いられている。しかし、硫酸法は、セルロース、ヘミセルロースの過分解が発生するため回収できる糖量が減少する。また,分解後にエタノール発酵を行うための硫酸除去処理すなわち硫酸の回収と糖液の中和工程を必要とし、水酸化カルシウムを用いた中和により石膏が副産物として生成し、その処理コストも掛かってしまう。また,回収した硫酸を再使用するための熱エネルギーを大量消費する濃縮工程が必要である。さらに硫酸法で処理された糖化液から完全に硫黄成分を除去できずに硫黄成分を含んだエタノールを製造してしまうことになる危険性もある。また、硫酸を用いるため機械の腐食などにより耐久性が短くなってしまう。(特許文献1参照)
【0003】
硫酸法を用いずに木質系バイオマスからグルコースやキシロースなどの単糖を得る方法として、リグニンを効率よく除去する技術及び脱リグニン処理によって得られたセルロースとヘミセルロースの単糖への糖化技術の確立が必要である。脱リグニンにより得られたセルロースとヘミセルロースの糖化は、硫酸法と異なり温和な条件で行なえる酵素糖化が望ましい。さらに得られた糖は中和工程を経ることなく酵母や細菌を用いたエタノール発酵を行うことが出来る。また、酵素によって容易に分解が可能となったセルロースとヘミセルロースは、酵素と酵母や細菌と同時に反応させることにより簡便にエタノールを生産することが出来る。
【0004】
穀物澱粉を原料とした並行複発行技術によるエタノール生産は、清酒醸造では古くから行なわれている技術である。このシステムでは、発酵中の糖濃度が酵母によるエタノール発酵に最適な2%程度に低く保たれているため酵母に影響を与えることなく高濃度のエタノールを生産することが可能である。木質系バイオマスは、酵素を用いる糖変換を阻害するリグニンが含まれるためセルロースとヘミセルロースの分解が穀物澱粉の分解に比較して困難であるため、脱リグニン技術と効率的な並行複発酵技術を組合せたエタノール生産を行なう技術が確立していない。
【特許文献1】特開平11-169188号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明では、木質系バイオマスを微粉砕し、酵素と酵母や細菌を同時に反応させる並行複発酵を行う技術を用いたエタノール生産方法を開発することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、20ミクロンの粒径まで物理的方法で粉砕された木質系バイオマス微粉末を酵素と酵母または細菌を用いた糖化と発酵を並行して行う並行複発酵を行わせることにより木質系バイオマスから効率良く高濃度のエタノールを生産できることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
【0007】
木質系バイオマスを適切なサイズに粉砕する工程においては、振動式ボールミルあるいはロッドミル,高衝撃力が付加できるミルを用いて100ミクロン以下、好ましくは50ミクロン以下まで微粉砕を行なう。
【0008】
糖化及び発酵工程においては、微粉砕された木質系バイオマス原料溶液(5〜30重量%)にセルラーゼ酵素を0.1〜20重量%になるように添加し、さらにエタノール生産の可能な酵母または細菌を植菌し糖化と発酵を同時に行わせる。
【0009】
セルロースとヘミセルロースは、グルコースやマンノースなどの6炭糖とキシロース、アラビノースなどの5炭糖で構成されているため、酵素剤は、これらの糖を効率良く生産することが求められる。従って、前記目的を達成するために、複数の酵素剤を用いる場合もある。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、エタノール生産量が約1.5倍高く、発酵能が維持された酵母を提供することが出来る。本酵母を使用することにより木質系バイオマスと草本系バイオマスからのエタノール製造が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
木質系バイオマスを、振動式ボールミルやロッドミル,あるいは高衝撃力を付加できるミルを用いることにより100ミクロン以下、好ましくは50ミクロン以下まで微粉砕することができる。
【0012】
前記の処理によって得られた木質系バイオマス微粉砕物原料溶液(5〜30重量%)にセルラーゼ酵素を0.1〜20重量%になるように添加し、さらにエタノール生産の可能な酵母または細菌を植菌し糖化と発酵を並行して行わせる。糖化と発酵が並行して行われる並行複発酵はpH5.0〜pH7.0好ましくはpH5.5、温度は20℃〜37℃、好ましくは、28℃〜30℃で行なわれる。糖化と発酵は同時に進行し2日程度の反応でエタノールが生産される。
【0013】
木質系バイオマスの微粉砕物の糖化に用いる酵素は、比較的安価な市販のものでよく、メイセラーゼ(明治製菓株式会社)、ドリセラーゼ(協和発酵株式会社)、Amano AあるいはT(アマノエンザイム株式会社)を用いることができる。酵素剤の使用は、単独もしくは組み合わせることにより生成する糖に違いがある場合もあるため、原料によって最適な使用方法がある。さらに原料により使用する酵素量も違うため、0.1〜20重量%の範囲で最適な量を使用すれば良い。
【0014】
前記の並行複発酵が行われている反応液において、セルラーゼの活性を高く維持するためにはpH(水素イオン濃度)をpH5.0前後にすることが望ましい。このためには、0.1モル/リットル程度の酢酸緩衝液を用いてpHを維持することが出来る。また、発酵に寄与する酵母や細菌の中には、pH5.0で発酵が出来ない菌も存在するためpH5.0で発酵可能な菌を用いなければならない。
【0015】
並行複発酵は、回分発酵により行うことが出来る。さらに、発酵途中に発酵タンクに微粉砕物を添加しながら発酵を行う流加培養法による回分発酵も行うことが出来る。流加培養による発酵は、初めに前記の処理によって得られた木質系バイオマス微粉砕物原料溶液(5〜30重量%)にセルラーゼ酵素を0.1〜20重量%になるように添加し、さらにエタノール生産の可能な酵母または細菌を植菌し糖化と発酵を同時に行わせる。糖化と発酵が同時に行われる並行複発酵はpH5.0〜pH7.0好ましくはpH5.5、温度は20℃〜37℃、好ましくは、28℃〜30℃で行なわせる。並行複発酵開始後、1日もしくは2日目に、同じ発酵容器に木質系バイオマス微粉砕物原料を1〜10重量%になるように添加し、並行複発行を続ける。同様の操作をさらに1日もしくは2日おきに行い5回以上続けることが出来る。
以下、本発明を実施例により詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0016】
(秋田杉材を高衝撃付加ミルで粉砕した微粉砕物の酵素による糖化)
【0017】
秋田杉材を高衝撃付加ミルで粉砕した微粉末1gを10mlの0.1モル/リットルの酢酸緩衝液に懸濁しメイセラーゼ(明治製菓株式会社)とヘミセルラーゼC(Amano A天野エンザイム株式会社)をそれぞれ0.12%添加し50℃で24時間反応させた。pHは5.0〜7.0の範囲で変化させた。その結果を表1に示す。コントロールとして硫酸処理によって得られる糖の分析も行なった。硫酸処理は4%濃度の硫酸溶液に木粉を添加し121℃で2時間反応させて得られた反応液を分析した。メイセラーゼとヘミセルラーゼを同時に作用させた場合pH5.5の時に最も単糖の生産量が多くなった。
【0018】
【表1】

【実施例2】
【0019】
(秋田杉材を高衝撃付加ミルで粉砕した微粉砕物の酵素と酵母による並行複発酵)
【0020】
秋田杉材を高衝撃付加ミルで粉砕した微粉末を10%〜22%の範囲で50mlの0.1モル/リットルの酢酸緩衝液に懸濁しメイセラーゼとヘミセルラーゼC(Amano A天野エンザイム株式会社)をそれぞれ0.12%添加し、サッカロマイセス・セルビシエ NBRC0224を植菌し、30℃で並行複発酵を行った。その結果を図1に示す。エタノールの生産量は基質濃度が高いほどおおくなった。
【実施例3】
【0021】
(秋田杉材を高衝撃付加ミルで粉砕した微粉砕物の酵素と酵母による並行複発酵)
秋田杉材を高衝撃付加ミルで粉砕した微粉末6gを50mlの0.1モル/リットルの酢酸緩衝液に懸濁しメイセラーゼとAmano Aをそれぞれ0.12%添加し、サッカロマイセス・セルビシエ NBRC0224を植菌し、30℃で並行複発酵を行った。発酵開始後1日おきに3gの秋田杉材を高衝撃付加ミルで粉砕した微粉砕物を添加し発酵を続けた。その結果を図2と図3に示す。図3は、秋田杉材を高衝撃付加ミルで粉砕した微粉砕物のみを添加した時のエタノール生産の経時変化を示している。図4は秋田杉材を高衝撃付加ミルで粉砕した微粉砕物と酵素剤を同時に添加したときのエタノール生産の経時変化を示している。同時に添加した時にエタノールの生産量が多くなった。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】エタノール生産の及ぼす初発微粉砕秋田杉濃度の影響
【図2】発酵途中に微粉砕秋田杉を添加した場合のエタノール生産の経時変化 ●:エタノール、▲:全糖濃度、■:グルコース
【図3】発酵途中に微粉砕秋田杉と酵素剤を同時に添加した場合のエタノール生産の経時変化 ●:エタノール、▲:全糖濃度、■:グルコース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物理的な方法で微粉砕された木質系バイオマスをセルラーゼとヘミセルラーゼを2種類以上混合した酵素での糖化と並行して発酵をおこなうことを特徴とするエタノール製造方法
【請求項2】
物理的な方法で微粉砕された木質系バイオマスから糖化と発酵を同時におこなうエタノール製造方法において発酵工程で酵母または細菌を使用することを特徴とするエタノール製造方法
【請求項3】
物理的な方法で微粉砕された木質系バイオマスから糖化と発酵を同時におこなうエタノール製造方法において糖化と発酵の並行工程途中に物理的な方法で微粉砕された木質バイオマスを添加することを特徴とするエタノール製造方法
【請求項4】
物理的な方法で微粉砕された木質系バイオマスから糖化と発酵を同時におこなうエタノール製造方法において糖化と発酵の並行工程途中に物理的な方法で微粉砕された木質バイオマスとセルラーゼとヘミセルラーゼも同時に添加することを特徴とするエタノール製造方法

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−22165(P2009−22165A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−185456(P2007−185456)
【出願日】平成19年7月17日(2007.7.17)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年3月5日 社団法人 日本農芸化学会発行の「平成19年度 日本農芸化学会大会 講演要旨集」に発表
【出願人】(591108178)秋田県 (126)
【出願人】(306024148)公立大学法人秋田県立大学 (74)
【Fターム(参考)】