説明

エタノール製造方法

【課題】セルロース含有原料及び糖含有液から、効率よく、高濃度のエタノールを製造することが可能なエタノール製造方法の提供。
【解決手段】糖含有液に、セルロース含有原料処理液を添加した後、それらをエタノール発酵してエタノールを得るエタノール製造方法であって、前記糖含有液は、水溶性糖類を含有する農作物の搾汁液、モラセス、及び穀類の酵素処理物からなる群より選択される1種以上であり、前記セルロース含有原料処理液は、セルロース含有原料を糖化して得られるセルロース含有原料由来糖液、又は、前記セルロース含有原料由来糖液をエタノール発酵して得られるセルロース含有原料由来発酵液、のいずれかであることを特徴とするエタノール製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース含有原料及び糖含有液から、効率よく、高濃度のエタノールを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化防止策として、植物性バイオマスからエタノールを効率よく製造し、エネルギーや化学原料として利用する試みが国内外で進められている。植物性バイオマスとしては、食糧供給と競合しないセルロース系バイオマスを用いてエタノールを製造する方法が注目されている。
セルロース系バイオマスからエタノールを製造するための方法としては、まず、セルロース系バイオマスを前処理した後に、酵素による糖化処理を行って糖を得、得られた糖をエタノール発酵してエタノールを製造する方法が一般的に用いられている(特許文献1、2参照)。
一方、糖含有液を原料として用いたエタノール生産は古くから行われており、例えば、砂糖工場におけるモラセス(廃糖蜜)を原料としたエタノール生産が挙げられる。
【0003】
近年では、上記のようなセルロース系バイオマスからのエタノール生産技術の向上に伴い、セルロース系バイオマスと、糖含有液とからのエタノール生産を組み合わせるシステムが提案されている。例えば、非特許文献1、2には、図1に示すような糖含有液であるモラセスを用いて製造したエタノールと、セルロース系バイオマスであるバガス(サトウキビ搾汁後残渣)とを用いて製造したエタノールとを併せて蒸留するエタノール製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−168335号公報
【特許文献2】特開2009−022165号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「平成16年度調査報告 製糖工場におけるモラセス・バガスエタノール 製造モデル事業実施可能性調査」独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構編
【非特許文献2】「Operational Report from Thai RoongRuangEnergy Co.,ltd., Ugrit Asadatorn」タイ国砂糖工業局ホームページ、http://oldweb.ocsb.go.th/uploads%5Ccontents%5C4%5Cattachfiles%5CTRE%20Presentation%204−06−09−1.pdf
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のようなセルロース系バイオマスを原料として酵素糖化する際に、糖化槽内の不溶性固形分濃度が高すぎる場合には、糖化効率が低くなり、糖化後の糖収率が低下する。そのため、糖化処理前に希釈液を投入して糖化槽内の不溶性固形分濃度を調整することが一般に行われているが、その場合、大量の希釈液が必要になるという問題があった。
一方で、糖含有液を原料としてエタノール発酵をする際に、仕込み糖濃度が高すぎる場合、発酵処理中の発酵槽内エタノール濃度が高くなりすぎ、該高濃度のエタノールが発酵槽内の酵母によるエタノール発酵自体を阻害し、発酵後のエタノール収率が低下する。例えば、糖含有液が一般に50質量%程度の糖を有するモラセスである場合、糖濃度50質量%では発酵処理中の発酵槽内エタノール濃度が高くなりすぎる。そのため、糖含有液の種類によっては発酵処理前に希釈液を投入して発酵槽内の糖濃度を調整することが一般に行われているが、その場合、大量の希釈液が必要になるという問題があった。
【0007】
さらに、上記のように糖化処理前や発酵処理前に希釈液を投入する場合、得られる発酵液中のエタノール濃度が低下し、該発酵液を蒸留して高濃度エタノール液を製造する際に必要なエネルギー量が増大するという問題もある。さらに、エタノール製造から排出される排水量が多くなるという問題もある。
【0008】
また、上記非特許文献1〜2に記載されたエタノール製造方法では、モラセス由来の発酵液とバガス由来の発酵液とを混合し、蒸留工程を一度に行うが、セルロース系バイオマスからの糖化及び発酵と、糖含有液からの発酵とは、それぞれ個別の槽内で行われる。そのため、それぞれの槽に対して希釈液を添加する必要があり、大量の希釈液を必要とするという問題は解決されていない。
糖含有液の発酵は、発酵に用いる微生物のエタノール耐性濃度を越えないように希釈液を添加することにより行われるが、セルロースの糖化発酵の場合、先述のように固形物濃度を調整して糖化を効率よく行う目的のためにも希釈液を添加する。よって、セルロースの糖化発酵液中のエタノールは発酵に用いる微生物のエタノール耐性濃度よりも低く、かつ通常行われる糖含有液発酵液のエタノール濃度よりも低くなってしまう。
蒸留工程には両発酵液を混合したものを供給するが、結果としてこの混合液中のエタノール濃度は微生物の耐性濃度より大幅に低い値となるのが現状である。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、セルロース含有原料及び糖含有液から、効率よく、高濃度のエタノールを製造することが可能なエタノール製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、セルロース含有原料を糖化して得られるセルロース含有原料由来糖液、又は、前記セルロース含有原料由来糖液をエタノール発酵して得られるセルロース含有原料由来発酵液、のいずれかを、糖含有液のエタノール発酵時に添加して用いることにより、セルロース含有原料及び糖含有液から効率よく、高濃度のエタノールを製造することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明は、
(1)糖含有液に、セルロース含有原料処理液を添加した後、それらをエタノール発酵してエタノールを得るエタノール製造方法であって、前記糖含有液は、水溶性糖類を含有する農作物の搾汁液、モラセス、及び穀類の酵素処理物からなる群より選択される1種以上であり、前記セルロース含有原料処理液は、セルロース含有原料を糖化して得られるセルロース含有原料由来糖液、又は、前記セルロース含有原料由来糖液をエタノール発酵して得られるセルロース含有原料由来発酵液、のいずれかであることを特徴とするエタノール製造方法、
(2)前記糖含有液のエタノール発酵の発酵槽における糖濃度が、25質量%以下であることを特徴とする(1)のエタノール製造方法、
(3)前記糖含有液のエタノール発酵後に得られるエタノール濃度が、12質量%以下であることを特徴とする(1)又は(2)のエタノール製造方法、
(4)前記セルロース含有原料の糖化工程と前記発酵工程とが、同一の反応槽中で行われることを特徴とする(1)〜(3)いずれかのエタノール製造方法、
(5)前記セルロース含有原料が、バガス、稲わら、麦わら、籾殻、麦殻、キャッサバ残渣及びコーンストーバーからなる群より選択される1種以上であり、前記穀類の酵素処理物が、米、麦、キャッサバ及びトウモロコシからなる群より選択される1種以上を糖化して得られる澱粉糖化液であることを特徴とする(1)〜(4)いずれかのエタノール製造方法、
(6)前記セルロース含有原料がバガスであり、前記糖含有液が水溶性糖類を含有する農作物の搾汁液又はモラセスであることを特徴とする(1)〜(5)いずれかのエタノール製造方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明のエタノール製造方法では、糖含有液をエタノール発酵する際の希釈液の一部として、従来の水等に替えて、セルロース含有原料処理液を用いることにより、セルロース含有原料からのエタノール発酵と糖含有液のエタノール発酵を各々単独で行う場合より希釈液の使用量を低減することができるため、コスト低減及び効率向上を達成でき、且つ、発酵後に高濃度のエタノールを得ることができる。
また、本発明のエタノール製造方法によれば、得られる発酵液中のエタノールが高濃度であるため、該エタノール発酵液を蒸留する際のエネルギーを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】バガス及びモラセスを用いた従来のエタノール製造方法を示すフローチャートである。
【図2】発酵後エタノール目標濃度(微生物エタノール耐性上限濃度)が12%の場合の、糖含有液、セルロース含有原料由来糖液、及び希釈液量を決定するための算出方法を示す図である。
【図3】発酵後エタノール目標濃度(微生物エタノール耐性上限濃度)が12%の場合の、糖含有液、セルロース含有原料由来糖液、及び希釈液量を決定するための制御概念を示すフローチャートである。
【図4】発酵後エタノール目標濃度(微生物エタノール耐性上限濃度)が12%の場合の、糖含有液、セルロース含有原料由来発酵液、及び希釈液量を決定するための算出方法を示す図である。
【図5】発酵後エタノール目標濃度(微生物エタノール耐性上限濃度)が12%の場合の、糖含有液、セルロース含有原料由来発酵液、及び希釈液量を決定するための制御概念を示すフローチャートである。
【図6】発酵後エタノール目標濃度(微生物エタノール耐性上限濃度)が10%の場合の、バガス由来糖液、及びモラセス(糖含有液)を用いた本発明のエタノール製造方法を示すフローチャートである。
【図7】発酵後エタノール目標濃度(微生物エタノール耐性上限濃度)が10%の場合の、バガス由来発酵液、及びモラセス(糖含有液)を用いた本発明のエタノール製造方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のエタノール製造方法は、糖含有液に、セルロース含有原料処理液を添加した後、それらをエタノール発酵してエタノールを得るエタノール製造方法である。
【0015】
(糖含有液)
本発明において、糖含有液は、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、ソルボース、アロース、タロース、グロース、アルトロース、イドース、キシロース、アラビノース、リボース、リキソースなどの単糖、または、これら単糖を最小単位とするスクロース、トレハロース、ラクトース、マルトース、セロビオース、ラフィノース、セロトリオースなどの多糖類等の水溶性糖類を含有する農作物の搾汁液、モラセス、及び穀類の酵素処理物からなる群より選択される1種以上である。
水溶性糖類を含有する農作物としては、例えば、ケーンジュース、ビートジュース、ソルガムジュース等が挙げられる。
穀類としては、米、麦、キャッサバ、とうもろこし、キビ、アワ、ヒエ等が挙げられる。
穀類を酵素処理する方法は、特に限定されるものではなく、例えば、アミラーゼ等の酵素と穀類とを接触させることにより行うことができる。本発明においては、澱粉含有量が高く、且つ生産量が多いことから、米、麦、キャッサバ及びトウモロコシからなる群より選択される1種以上を糖化して得られる澱粉糖化液であることが好ましい。
水溶性糖類を含有する農作物の搾汁液、モラセス、又は穀物の酵素処理物は、そのまま用いてもよく、脱塩処理や、殺菌処理をした後に用いてもよい。ここで脱塩処理、殺菌処理の方法は特に限定されるものではなく、公知の方法により行うことができる。
【0016】
本発明において、糖含有液は、糖を5質量%以上含有する液体であることが好ましく、糖を10質量%以上含有する液体であることがより好ましく、糖を15質量%以上含有する液体であることがさらに好ましく、糖を20質量%以上含有する液体であることが特に好ましい。
【0017】
(セルロース含有原料処理液)
本発明において、セルロース含有原料処理液は、セルロース含有原料を糖化して得られるセルロース含有原料由来糖液、又は、前記セルロース含有原料由来糖液をエタノール発酵して得られるセルロース含有原料由来発酵液、のいずれかである。
セルロース含有原料としては、セルロースを含有するものであれば特に限定されるものではなく、草本系バイオマスであってもよく、木質系バイオマスであってもよく、その他のセルロースを含有するバイオマスであってもよい。セルロース含有原料としては、稲、麦、トウモロコシ、サトウキビ、テンサイ、麻、綿花、ソルガム、エリアンサス、キャッサバ等の栽培作物等であってもよいが、廃棄の対象とされ得るものであって、セルロース含有量が比較的多いものであることが好ましい。具体的には、稲わら、麦わら、籾殻、麦殻、コーンストーバー、バガス、ヤシガラ、キャッサバ残渣(デンプン回収後のキャッサバの残渣)等の農業残渣、竹、木材チップ、間伐材等の林業残渣、古紙、古着等が挙げられる。中でも、草本系バイオマス等のソフトセルロース系バイオマスであることが好ましく、安価で大量に入手可能であることから、バガス、稲わら、麦わら、籾殻、麦殻、キャッサバ残渣、コーンストーバー等の穀物残渣であることがより好ましい。本発明においては、これらのセルロース含有原料のうち、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を用いてもよい。
【0018】
本発明におけるセルロース含有原料としては、特に、用いられる糖含有液と同一の産業分野で得られる原料であることが好ましく、上記糖含有液と同一の食物工場等から得られるものであることがさらに好ましい。セルロース含有原料と糖含有液とを、同じ工場や農地等から調達可能である場合には、本発明のエタノール製造方法を、当該工場等の近隣に建設されたプラントにおいて実施することにより、セルロース含有原料や糖含有液を運搬するコストを削減することができる。
【0019】
具体的には、製糖工場において得られる、バガスをセルロース含有原料とし、モラセスを糖含有液とする場合;稲又は米加工工場分野において得られる、稲わら又は籾殻をセルロース含有原料とし、何らかの理由で廃棄される米の酵素処理物を糖含有液とする場合;麦加工工場において得られる、麦わら又は麦殻をセルロース含有原料とし、何らかの理由で廃棄される麦の酵素処理物を糖含有液とする場合;キャッサバ澱粉工場で得られる澱粉製造残渣(キャッサバ残渣)をセルロース原料含量とし、何らかの理由で廃棄されるキャッサバの酵素処理物を糖含有液とする場合;トウモロコシ加工工場において得られる、コーンストーバーをセルロース含有原料とし、何らかの理由で廃棄されるトウモロコシの酵素処理物を糖含有液とする場合;製糖工場において得られる、バガスをセルロース含有原料とし、何らかの理由で廃棄されるサトウキビを搾った搾汁液(ケーンジュース)を糖含有液とする場合;製糖工場において得られる、甜菜残渣をセルロース含有原料とし、何らかの理由で廃棄される甜菜(砂糖大根)を搾った搾汁液(ビートジュース)を糖含有液とする場合;製糖工場において得られる、ソルガム残渣をセルロース含有原料とし、何らかの理由で廃棄されるソルガムを搾った搾汁液(ソルガムジュース)を糖含有液とする場合、が好ましいものとして挙げられる。
なかでも、バガスと、農作物の搾汁液又はモラセスとを用いた場合、穀類を酵素処理する工程が不要であるため、特に好ましい。
【0020】
また、本発明において、セルロース含有原料は、前処理工程により前処理されたものであることが好ましい。
セルロース含有原料を前処理する方法は、セルロース含有原料に対して施すことにより後段の糖化工程における糖化効率を改善し得るものであれば、特に限定されるものではないが、例えば、細断処理、及び水熱処理からなる処理方法から選択される1種又は2種以上を組み合わせて用いることが好ましい。
【0021】
細断処理の方法は特に限定されるものではなく、公知の装置等を用いて行うことができるが、例えば、1〜20mmのサイズ、より好ましくは1〜5mmのサイズに細断することができる。
【0022】
水熱処理の方法は特に限定されるものではなく、公知の装置等を用いて行うことができる。
水熱処理の条件は特に限定されるものではないが好ましくは160〜250℃の飽和水蒸気下、より好ましくは170〜220℃の飽和水蒸気下で、圧力として具体的には0.7〜2.3MPaGで水熱処理を行うことが好ましい。また、水熱処理は、好ましくは3〜120分、より好ましくは5〜30分で行うことが好ましい。上記のような好ましい条件において水熱処理を行うことにより、セルロース含有原料の過分解を低減することができる。
【0023】
また、上記細断処理、水熱処理に代えて、又は、これらと組み合わせて、粗粉砕処理、微粉砕処理、アルカリ処理、微生物処理、硫酸処理、熱軟化処理、ソルボリシス処理等の公知の前処理を行うこともできる。
【0024】
さらに、上記処理に替えて、または上記処理と併せて、解繊処理を行うことも好ましい。解繊処理の方法は特に限定されるものではなく、例えば、通常製紙産業において用いられるパルプ離解機、具体的には、低濃度(固形分濃度6質量%未満)パルパー、中濃度(固形分濃度6〜10質量%)パルパー、高濃度(固形分濃度10〜30質量%)パルパー等を用いて行うことができる。解繊処理は、前記水熱処理の後に併せて行うことがより好ましい。
【0025】
また、上記のように処理されたセルロース含有原料は、必要に応じて、遠心脱水式、ベルト濃縮式等の公知の濃縮機を用いて、液体成分の割合を調整してもよい。
【0026】
・セルロース含有原料由来糖液
本発明におけるセルロース含有原料由来糖液は、セルロース含有原料、又は、上記のような前処理を行った前処理済セルロース含有原料(以下、「前処理物」ということがある。)を糖化して得られるものである。
糖化を行う方法は特に限定されるものではなく、公知慣用の方法により行うことができる。例えば、上記のようにして得られたセルロース含有原料又は前処理物に、セルラーゼ等の糖化酵素を添加して酵素処理を行うことにより、セルロースやヘミセルロースを糖化した糖液を得ることができる。糖化酵素については公知慣用のものでよく、トリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei)由来のものであっても、アクレモニウム・セルロリティカス(Acremonium cellulolyticus)由来のものであっても構わない。
糖化に用いるセルロース含有原料の不溶性固形分濃度が高すぎる場合、上述のように糖化効率が低くなるため、不溶性固形分濃度は25質量%以下であることが好ましい。セルロース含有原料の不溶性固形分濃度を上記範囲内とする方法としては、特に限定されるものではないが、例えばセルロース含有原料又は前処理物に、必要に応じて希釈液を添加することができる。ここで希釈液としては、水が好ましい。
【0027】
また、セルロース含有原料又は前処理物の糖化は、全量の糖化を一度に行ってもよく、一部量のみの糖化を行った後に、残りのセルロース含有原料又は前処理物の糖化を行う等の方法により、二段階以上に分けて糖化を行ってもよい。糖化初期段階のセルロース含有原料又は前処理物は固形分濃度が高いため、糖化初期段階においてのみ、糖化槽内の攪拌所要動力が高くなる。そこで、糖化初期段階の数時間、例えば1〜5時間のみ、高い攪拌動力を有する槽内にて一部量の糖化を行った後に、別の槽内にて残りのセルロース含有原料又は前処理物の糖化を行うことが好ましい。このように二段階以上に分けて糖化を行うことにより、効率的に糖化を行うことができる。
また、糖化初期にセルロース含有原料全量を添加せず、糖化の進行に従い原料を徐々に添加する流加法を用いることも可能である。この方法によると初期の槽内の固形物濃度は低く、かつ糖化の進行に従い固形物濃度が低下してから新たな固形物が添加されるため、常に槽内の固形物濃度を低く保てるメリットがある。
【0028】
・セルロース含有原料由来発酵液
本発明におけるセルロース含有原料由来発酵液は、前記セルロース含有原料由来糖液をエタノール発酵して得られるものである。
【0029】
セルロース含有原料由来糖液をエタノール発酵する方法は、特に限定されるものではなく、糖液のエタノール発酵に通常用いられる方法により行うことができる。例えば、エタノール発酵槽中のセルロース含有原料由来糖液に、エタノール発酵能を有する公知の微生物を添加することにより、セルロース含有原料由来発酵液が得られる。
エタノール発酵能を有する微生物としては、例えば、サッカロミセス(Saccharomyces)属の酵母、具体的には、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)等が挙げられる。
セルロース含有原料由来糖液をエタノール発酵する際に、エタノール発酵槽中の糖濃度が高すぎる場合、前述したように発酵処理中の発酵槽内エタノール濃度が高くなりすぎ、該エタノールが発酵槽内の酵母によるエタノール発酵を阻害し、単位糖量あたりのエタノール収量が低下してしまう。そのため、エタノール発酵槽中の糖濃度は、25質量%以下であることが好ましく、22質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることが最も好ましい。
エタノール発酵槽中の糖濃度を上記範囲とする方法は特に限定されるものではなく、希釈液を添加する等の方法により行うことができる。希釈液としては、水が好ましい。
なお、本発明におけるセルロース含有原料由来発酵液には、未発酵の糖が微量含有されていてもよい。
【0030】
近年、製造プロセスを単純化し効率を向上させる観点から、糖化と発酵とを同時に行う方法も用いられている。上記セルロース含有原料の糖化処理とエタノール発酵処理とは、別個の槽内で独立に行ってもよく、同一の槽内で、同時に行ってもよい。
【0031】
(糖含有液のエタノール発酵)
エタノール発酵前に、糖含有液に添加するセルロース含有原料処理液の量は、特に限定されるものではないが、発酵液中のエタノール濃度が、12質量%以下となるように添加量を決定することが好ましく、エタノール濃度が10質量%以下となるように添加量を決定することがより好ましい。また、セルロース含有原料処理液のみを添加した場合に、上記エタノール濃度が満たされない場合には、さらに希釈液を添加することができる。
【0032】
具体的には、発酵液中のエタノール濃度が12質量%以下となる糖含有液とセルロース含有原料由来糖液との量は、例えば、図2に示す算出方法、並びに、図3のフローチャートで示す制御概念により決定することができる。また、発酵液中のエタノール濃度が12質量%以下となる糖含有液とセルロース含有原料由来発酵液との量は、例えば、図4に示す算出方法、並びに、図5のフローチャートで示す制御概念により決定することができる。
図2〜5中、Aはセルロース原料由来処理液(図2〜3は糖液、図4〜5は発酵液)を、xaはセルロース原料処理液中の糖濃度を、yaはセルロース原料処理液中のエタノール濃度を、Dは発酵槽内の全量を、xbは糖含有液中の糖濃度を、Cは添加すべき希釈液量を示す。なお、図2〜5中、糖からエタノールへの変換係数(割合)は、51質量%とした。
【0033】
本発明において、糖含有液と、セルロース含有原料処理液とをエタノール発酵する方法は特に限定されるものではなく、糖液のエタノール発酵に通常用いられる方法により行うことができる。例えば、糖液に、エタノール発酵能を有する公知の微生物を添加し、糖液をエタノール発酵することにより、エタノールを含む発酵液が得られる。エタノール発酵能を有する微生物としては、上記同様のものが挙げられる。なお、糖含有液にセルロース含有原料由来発酵液を添加して希釈する場合、含有するエタノールによって、糖含有液発酵工程において雑菌繁殖を抑制する効果がある。
【0034】
上記エタノール発酵により得られたエタノールを含む発酵液は、通常、蒸留、精製等の工程を経て、実用に供されるが、本発明のエタノール製造方法によって得られた発酵液はエタノール濃度が高いため、蒸留の工程におけるエネルギーを低減することが可能となり、より効率よく純度の高いエタノールを得ることができる。
【0035】
図6〜7に、本発明のエタノール製造方法の具体例を示す。図6は、セルロース含有原料処理液として、セルロース含有原料由来糖液を用いた具体例であり、図7は、セルロース含有原料処理液として、セルロース含有原料由来発酵液を用いた具体例である。なお、図6〜7において用いられているモラセス及びバガスの量は、図1の従来のエタノール製造方法と同じであり、図1、図6及び図7における発酵後エタノール目標濃度(微生物エタノール耐性上限濃度)はいずれも10%である。
図6〜7と図1とを比較すると、従来法(図1)では、用いる希釈液の量が合計で195万トン/年であるのに対し、本発明(図6〜7)では110万トン/年である。
また、従来法では、得られた発酵液中のエタノール濃度が7.3質量%であるのに対し、本発明では10質量%と向上している。そのため、本発明では製品エタノール(約100%純度のエタノール)を得る際の蒸留に必要なエネルギーを低減することができる。
このように、本発明のエタノール製造方法によれば、添加する希釈液量を低減し、且つ、得られる発酵液中のエタノール濃度を高めることができる。
【0036】
なお、本発明のエタノール製造方法では、図6〜7中に示すような、「糖濃度測定手段」、「エタノール濃度、糖濃度測定手段」を用いて、それぞれ、セルロース含有原料由来糖液又は糖含有液中の糖濃度の測定、セルロース含有原料由来発酵液中の糖及びエタノール濃度の測定を行い、得られた測定値等を用いて、図2〜5に示す制御概念や式により、用いる糖含有液処理液の量や希釈液の量を決定することが好ましい。
また、図7において、セルロース含有原料由来発酵液中のエタノール濃度を「エタノール濃度、糖濃度測定手段」により測定し、糖含有液に添加するセルロース含有原料由来発酵液量を決定するが、セルロース含有原料由来発酵液中のエタノール濃度が高い等の理由により、製造ラインにおいてセルロース含有原料由来発酵液が余剰となった場合には、該発酵液を糖含有液に添加せず、直接蒸留することも可能である。
【実施例】
【0037】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0038】
≪実施例1〜2、比較例1〜2≫
セルロース含有原料としてバガスを、糖含有液としてモラセスを用いてエタノールを製造した場合の、発酵後の発酵液中のエタノール濃度について検討した。
【0039】
[実験例1・酵母培養液の調整]
酵母エキス10g/L、ペプトン20g/L、グルコース20g/Lからなる培地を定法により滅菌後、本菌株を接種し、35℃で1日間好気的に培養した。培養液はそのままモラセス発酵およびバガス発酵に使用した。
【0040】
[実験例2・酵素液の調整]
結晶性セルロース50g/L、コーンステイープリカー10g/L、硫酸アンモニウム5g/L、尿素3g/L、硫酸マグネシウム1.2g/L、リン酸2水素カリウム12g/L、硫酸亜鉛10mg/L、硫酸マンガン10mg/L、硫酸銅10mg/Lからなる培地(pH4.0)を定法により滅菌後、本菌株を接種し、30℃で7日間好気的に培養した。得られた培養液をそのままバガス糖化に使用した。
【0041】
[実施例1]
(バガス糖化)
酵素糖化前処理として、セルロース含有原料であるバガスの水熱処理を行った。水熱処理には、バイオマス投入口、反応物排出口、水蒸気供給口を有する小型圧力容器(スチームガン)を用いた。バガス100g(水分20質量%)をスチームガンに投入して密閉し、水蒸気を供給して220℃まで加熱した。この状態を10分保持した後、排出口を開放し、バガスを取り出した。排出物の総量は140gであり、水分は60質量%であった。これをそのまま酵素糖化または同時糖化発酵に使用した。
水熱処理をしたバガス25g(湿ベース、水分60質量%)を滅菌した250mLの三角フラスコに入れ、酵素液6.7g、滅菌水18.3gを添加し、水熱バガス20質量%スラリーを調整した(全量50g)。この三角フラスコを35℃恒温培養器に設置された振とう培養器((株)日伸理化製NX−25D;以下、振とう機は全て同型を使用)にて50rpmで96時間振とうし、糖化を行った。糖化後の全量は50gであった。
【0042】
(モラセス発酵)
モラセス(糖濃度50質量%)18gを滅菌した三角フラスコに入れ、実験例1の酵母培養液4.4g、上記バガス糖化液50g、及び硫酸アンモニウム0.5gを含む滅菌水16.4gを添加して全量を88.8gとした。この三角フラスコを35℃恒温培養器に設置された振とう培養器にて50rpmで48時間振とうし、発酵を行った。発酵後の全量は80.7gであり、そのエタノール濃度は10質量%であった。
【0043】
[実施例2]
(バガス同時糖化発酵)
上記実施例1と同様に水熱処理をしたバガス25g(湿ベース、水分60質量%)を滅菌した250mLの三角フラスコに入れ、酵母培養液2.5g、酵素液6.7g、滅菌水15.8gを添加し、水熱バガス20質量%スラリーを調整した(全量50g)。この三角フラスコを35℃恒温培養器に設置された振とう培養器にて50rpmで96時間振とうし、同時糖化発酵を行った。同時糖化発酵後の全量は46.4gであり、このエタノール濃度は7.7質量%であった。
【0044】
(モラセス発酵)
モラセス(糖濃度50質量%)18gを滅菌した三角フラスコに入れ、酵母培養液4.3g、上記バガス発酵液46.4g、及び硫酸アンモニウム0.5gを含む滅菌水16.5gを添加して全量85.2gとした。この三角フラスコを35℃恒温培養器に設置された振とう培養器にて50rpmで48時間振とうし、発酵を行った。発酵後の全量は80.7gであり、そのエタノール濃度は10質量%であった。
【0045】
[比較例1]
(バガス同時糖化発酵)
上記実施例1と同様に水熱処理を行ったバガス25g(湿ベース、水分60質量%)を滅菌した250mLの三角フラスコに入れ、実験例1の酵母培養液2.5g、実験例2の酵素液6.7g、及び滅菌水15.8gを添加し、水熱処理バガス20質量%スラリーを調整した(全量50g)。この三角フラスコを35℃恒温培養器に設置された振とう培養器にて50rpmで96時間振とうし、同時糖化発酵を行った。同時糖化発酵後の発酵液の全量は46.4gであり、発酵液のエタノール濃度は7.7質量%であった。
【0046】
(モラセス発酵)
モラセス(糖濃度50質量%)18gを滅菌した三角フラスコに入れ、実験例1の酵母培養液2.5g及び硫酸アンモニウム0.5gを含む滅菌水29.5gを添加して全量を50gとした。この三角フラスコを35℃恒温培養器に設置された振とう培養器にて50rpmで48時間振とうし、発酵を行った。発酵後の発酵液の全量は45.5gであり、発酵液のエタノール濃度は10質量%であった。
両発酵液を合わせたエタノール量、濃度を表1に示す。
【0047】
[比較例2]
(バガス同時糖化発酵)
上記実施例1と同様に水熱処理をしたバガス25g(湿ベース、水分60質量%)を滅菌した250mLの三角フラスコに入れ、実験例1の酵母培養液2.2g、実験例2の酵素液6.7g、及び滅菌水10.8gを添加し、水熱バガス22.4質量%スラリーを調整した(全量44.7g)。この三角フラスコを35℃恒温培養器に設置された振とう培養器にて50rpmで96時間振とうし、同時糖化発酵を行った。同時糖化発酵後の全量は41.7gであり、このエタノール濃度は7.3質量%であった。
【0048】
(モラセス発酵)
モラセス(糖濃度50質量%)18gを滅菌した三角フラスコに入れ、実験例1の酵母培養液2.2g及び硫酸アンモニウム0.5gを含む滅菌水24.5gを添加して全量44.7gとした。この三角フラスコを35℃恒温培養器に設置された振とう培養器にて50rpmで48時間振とうし、発酵を行った。発酵後の全量は40.7gであり、そのエタノール濃度は10質量%であった。
両発酵液を合わせたエタノール量、濃度を表1に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
まず、比較例1は、バガス、モラセスを別々に発酵した例であり、両発酵液は各々発酵が良好に進む条件(バガス糖化発酵:スラリー濃度20質量%以下、発酵後エタノール濃度10質量%以下、及びモラセス糖化発酵:発酵後エタノール濃度10質量%以下)を採用している。よって仕込モラセス、バガス量からすると最大エタノール収量が得られていると考えられる。
次に、比較例2は比較例1同様、バガス、モラセスを別個に発酵するプロセスで、エタノール濃度向上を目的として、希釈水量を両工程から5gずつ減量した例である。この場合、両系統ともエタノール収量が減少し、結果として収量が少ないばかりか、エタノール濃度も低くなってしまった。
一方、本発明に係る実施例1〜2は、上述の発酵が良好に進む条件を確保しつつ、希釈液として、滅菌水の替わりに糖含有液由来発酵液を用いた例である。その結果、比較例2よりも得られたエタノール収量が多く、且つ、比較例1よりも得られた発酵液中のエタノール濃度が高いものとなった。
上記の結果から、本発明のエタノール製造方法によれば、同量のモラセス及びバガスを用いた場合にも、セルロース含有原料から、効率よく、高濃度のエタノールを製造することができることがわかった。
【0051】
≪参考例1≫
発酵液中のエタノール濃度と、該発酵液中のエタノールの蒸留に必要な熱量との関係をシミュレーションにより調べた。
発酵液を蒸留する際のエネルギー量と、発酵液中のエタノール濃度とは反比例の関係にあるため、約5質量%のエタノールを99.5質量%に濃縮脱水する場合のエネルギー量は約1390kcal/L−エタノールとなり、約8質量%のエタノールを99.5質量%に濃縮脱水する場合のエネルギー量は約930kcal/L−エタノールとなる。
上記シミュレーションの結果から、発酵工程によって得られる発酵液中のエタノール濃度が高いほど、発酵工程後の蒸留にかかる熱量を低減できることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明のエタノール製造方法を用いることにより、セルロース含有原料及び糖含有液から、効率よく、高濃度のエタノールを製造することができるため、バイオマスからのエタノール産生の分野で好適に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖含有液に、セルロース含有原料処理液を添加した後、それらをエタノール発酵してエタノールを得るエタノール製造方法であって、
前記糖含有液は、水溶性糖類を含有する農作物の搾汁液、モラセス、及び穀類の酵素処理物からなる群より選択される1種以上であり、
前記セルロース含有原料処理液は、セルロース含有原料を糖化して得られるセルロース含有原料由来糖液、又は、前記セルロース含有原料由来糖液をエタノール発酵して得られるセルロース含有原料由来発酵液、のいずれかであることを特徴とするエタノール製造方法。
【請求項2】
前記糖含有液のエタノール発酵の発酵槽における糖濃度が、25質量%以下であることを特徴とする請求項1に記載のエタノール製造方法。
【請求項3】
前記糖含有液のエタノール発酵後に得られるエタノール濃度が、12質量%以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のエタノール製造方法。
【請求項4】
前記セルロース含有原料の糖化工程と前記発酵工程とが、同一の反応槽中で行われることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載のエタノール製造方法。
【請求項5】
前記セルロース含有原料が、バガス、稲わら、麦わら、籾殻、麦殻、キャッサバ残渣及びコーンストーバーからなる群より選択される1種以上であり、
前記穀類の酵素処理物が、米、麦、キャッサバ及びトウモロコシからなる群より選択される1種以上を糖化して得られる澱粉糖化液であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載のエタノール製造方法。
【請求項6】
前記セルロース含有原料がバガスであり、前記糖含有液が水溶性糖類を含有する農作物の搾汁液又はモラセスであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか記載のエタノール製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−170443(P2012−170443A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−38338(P2011−38338)
【出願日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(000165273)月島機械株式会社 (253)
【Fターム(参考)】