説明

エチニル化合物の製造方法及び取扱方法、並びにアスコルビン酸又はその塩の使用方法

【課題】モノ置換エチニル化合物を製造あるいは使用等する場合の取扱い時における1,3−ジイン化合物の副生成を防止する。
【解決手段】下記一般式(1)で表されるエチニル化合物を、下記一般式(2)で表される第二のエチニル化合物を液相中、還元剤の存在下で反応させることにより製造する〔Q:有機基;R,R:水素原子、炭化水素基(R及びRは互いに連結されてもよい)〕。下記一般式(1)で表される第一のエチニル化合物の取り扱いを、製造あるいは使用する液相中、還元剤の存在下で行なう。
【化1】



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医農薬中間体、液晶、電子材料等の機能性材料として有用なモノ置換エチニル化合物を製造、使用、取り扱い等する場合に好適なエチニル化合物の製造方法及び取扱方法、並びにアスコルビン酸又はその塩の使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モノ置換エチニル化合物は、医農薬中間体、液晶、電子材料などの機能性材料原料として重要な化合物である。例えば、耐熱性樹脂の耐熱性を高める手段として、5−エチニルイソフタル酸が開示されている(例えば、特許文献1参照)。また、癌等の過増殖性疾患の治療薬の部分構造として(例えば、特許文献2参照)、スメクチック液晶組成物の閾値特性、層構造、配向性、コントラスト比の改善に用いる配合剤の原料として(例えば、特許文献3参照)用いられている。
【0003】
一方、モノ置換エチニル化合物は、酸化作用により容易に1,3−ジイン化合物に転換される性質がある。このため、これまでモノ置換エチニル化合物を用いた反応においては、例えば、ヒドロキシプロピル基で保護した状態から、脱保護と並行してハロゲン化アリールとのカップリング反応に供する方法(例えば、非特許文献1参照)や、原料中のエチニル基末端をアンチモン化合物で保護し、反応と共にハロゲン化アリールとカップリングさせるときに低温で反応させる方法で、脱保護と共に精製する1,4−ジフェニル−1,3−ブタジインの生成を回避する方法(例えば、非特許文献2参照)が提案されている。
【特許文献1】特開2002−201158号公報
【特許文献2】特表2000−512990号公報
【特許文献3】特開2005−298453号公報
【非特許文献1】「ジャーナル オブ オーガニック ケミストリー (Journal of Organic Chemistry) 」, 2001年, 第66巻, p.1910-1913
【非特許文献2】「テトラヘドロン レターズ (Tetrahedron Letters) 」, 2003年, 第44巻, p.8589-8592
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記に鑑みなされたものであり、モノ置換エチニル化合物を製造あるいは使用、取り扱う場合における1,3−ジイン化合物の副生成を抑制できるエチニル化合物の製造方法及び取扱方法、並びにアスコルビン酸又はその塩の使用方法を提供することを目的する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、1,3−ジイン化合物の副生成は、モノ置換エチニル化合物の除々に進む酸化反応によるものであるとの知見、並びにこの酸化反応の抑制には特定の還元剤の添加、具体的には、無機系還元剤では医農薬中間体、液晶、電子材料等の機能性材料としての有用性を損なう残存が懸念される一方、有機系還元剤は固−液分離で検出限界以下までの除去性に優れており、添加後の残存に伴なう機能性材料(医農薬中間体、液晶、電子材料等)としての有用性を損なわない有機系還元剤の添加が有効であるとの知見に基づいて達成されたものである。
【0006】
前記課題を達成するための具体的手段は以下の通りである。
<1> 下記一般式(1)で表される第一のエチニル化合物の製造方法であって、下記一般式(2)で表される第二のエチニル化合物を液相中、還元剤の存在下で反応させて前記第一のエチニル化合物を得ることを特徴とするエチニル化合物の製造方法である。
【0007】
【化1】

【0008】
【化2】

【0009】
前記一般式(1)及び(2)において、Qは、有機基を表す。R及びRは、各々独立に、水素原子、又は炭化水素基(好ましくは、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のシクロアルキル基、又は炭素数6〜12のアリール基)を表し、R及びRは互いに連結されてもよい。
【0010】
前記<1>に記載のエチニル化合物の製造方法によれば、原料物質である一般式(2)で表される化合物を還元剤含有の液相中に存在させてモノ置換エチニル化合物の製造を行なうことで、モノ置換エチニル化合物が製造された後の過程で受けやすい酸化反応を抑制できるので、製造後に進行する酸化による1,3−ジイン化合物の副生成を飛躍的に防止できる。これにより、医農薬中間体、液晶、電子材料等の機能性材料に適したモノ置換エチニル化合物を安定的に製造することができる。
【0011】
<2> 前記Qは、置換基を有していてもよい炭化水素基又はヘテロ原子含有基であることを特徴とする前記<1>に記載のエチニル化合物の製造方法である。
<3> 前記Qは、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は芳香族複素環であることを特徴とする前記<2>に記載のエチニル化合物の製造方法である。
<4> 前記Qは、置換基を有していてもよいアリール基であることを特徴とする前記<3>に記載のエチニル化合物の製造方法である。
<5> 前記Qは、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアラルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、又は置換基を有していてもよいアルキニル基であることを特徴とする前記<3>に記載のエチニル化合物の製造方法である。
【0012】
<6> 前記Qは、水酸基、アミノ基、アシルアミノ基、カルボキシル基、アルコキシ基、スルホニル基、及びホスホニル基から選ばれる少なくとも2つの置換基を有し、隣り合う2つの置換基が互いに連結して環が形成されていることを特徴とする前記<1>〜<5>のいずれか1つに記載のエチニル化合物の製造方法である。
【0013】
<7> 前記Qは、少なくとも1つの置換基を有するフェニル基、少なくとも1つの置換基を有するナフチル基、又は少なくとも1つの置換基を有するアントラニル基であることを特徴とする前記<4>に記載のエチニル化合物の製造方法である。
【0014】
<8> 前記Qがアリール基であり、前記Qにおける置換基が2−カルボキシル基、3−カルボキシル基、3,4−ジカルボキシル基、3,5−ジカルボキシル基、3−アミノ基、3−アシルオキシ基、4−アミノ基、4−アシルアミノ基、又はこれらの塩であることを特徴とする前記<4>に記載のエチニル化合物の製造方法である。
【0015】
<9> 前記還元剤が、前記第一のエチニル化合物の二量化反応を抑制するように機能することを特徴とする前記<1>〜<8>のいずれか1つに記載のエチニル化合物の製造方法である。
【0016】
<10> 前記還元剤が、ジチオトレイトール、β−メルカプトエタノール、酒石酸、アスコルビン酸、及び置換もしくは無置換のヒドロキシルアミン、並びにこれらの塩からなる群より選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする前記<1>〜<9>のいずれか1つに記載のエチニル化合物の製造方法である。
<11> 前記還元剤が、アスコルビン酸及び酒石酸並びにこれらの塩からなる群より選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする前記<10>に記載のエチニル化合物の製造方法である。
【0017】
前記<10>に記載のエチニル化合物の製造方法によれば、有機系還元剤、特にジチオトレイトール、β−メルカプトエタノール、酒石酸、アスコルビン酸及びヒドロキシルアミン並びにこれらの塩を選択することで、添加した還元剤は固−液分離により検出限界以下まで除去することが可能であり、無機還元剤のように残存に起因して、医農薬中間体、液晶、電子材料等の機能性材料としての有用性を損なうことがなく、置換エチニル化合物の製造あるいは使用時における1,3−ジイン化合物の副生成を効果的に抑制することができる。
更には、前記<11>に記載のエチニル化合物の製造方法によれば、前記<10>と同様の効果をより効果的に得ることができる。
【0018】
<12> 下記一般式(1)で表される第一のエチニル化合物を、製造又は使用する液相中、還元剤の存在下で取り扱うことを特徴とするエチニル化合物の取扱方法である。
下記一般式(1)において、Qは有機基を表す。
【0019】
【化3】

【0020】
前記<12>に記載のエチニル化合物の取扱方法によれば、モノ置換エチニル化合物を還元剤含有の液相中に存在させて取り扱うようにすることで、モノ置換エチニル化合物の製造、使用などの取り扱いの過程で生じやすい酸化反応が抑制されるので、1,3−ジイン化合物の副生成が飛躍的に防止できる。これにより、モノ置換エチニル化合物の医農薬中間体、液晶、電子材料等の機能性材料としての適性を確保することができる。
【0021】
<13> アスコルビン酸又はその塩の使用方法であって、下記一般式(1)で表される第一のエチニル化合物が含まれる液相中にアスコルビン酸又はその塩を存在させ、下記第一のエチニル化合物の二量化反応を抑制するアスコルビン酸又はその塩の使用方法である。下記一般式(1)において、Qは有機基を表す。
【0022】
【化4】

【0023】
前記<13>に記載のアスコルビン酸又はその塩の使用方法によれば、モノ置換エチニル化合物を還元剤含有の液相中に存在させて取り扱うようにすることで、アスコルビン酸又はその塩の取り扱いの過程で生じやすい酸化反応が抑制できるので、取り扱い時に生じやすい1,3−ジイン化合物の副生成が飛躍的に防止できる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、モノ置換エチニル化合物を製造あるいは使用、取り扱う場合における1,3−ジイン化合物の副生成を抑制できるエチニル化合物の製造方法、エチニル化合物の取扱方法、及びアスコルビン酸又はその塩の使用方法を提供することできる。
例えば、本発明によれば、医農薬中間体、液晶、電子材料等の機能性材料として有用なモノ置換エチニル化合物及びその誘導体を、1,3−ジイン化合物の副生成を防止しながら、高収率にて安定的に製造し、使用、取り扱うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明のエチニル化合物の製造方法及び取扱方法、並びにアスコルビン酸又はその塩の使用方法について詳細に説明する。
【0026】
下記一般式(1)で表されるモノ置換エチニル化合物、並びにその製造あるいは使用、取り扱う方法について説明する。
【0027】
【化5】

【0028】
前記一般式(1)において、Qは、有機基を表す。好ましくは、無置換でも置換基を有していてもよい炭化水素基又はヘテロ原子含有基を表し、より好ましくは、無置換でも置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を表す。
【0029】
上記の中でも、Qとして更に好ましくは、無置換でも置換基を有していてもよいアリール基あるいは、無置換でも置換基を有していてもよいアルキル基、無置換でも置換基を有していてもよいアラルキル基、無置換でも置換基を有していてもよいアルケニル基、無置換でも置換基を有していてもよい複素環基、又は無置換でも置換基を有していてもよいアルキニル基である。
【0030】
特に好ましくは、Qは、無置換でも置換基を有していてもよいアリール基、無置換でも置換基を有していてもよい複素環基、又は無置換でも置換基を有していてもよいアルキニル基であり、最も好ましくは無置換でも置換基を有していてもよいアリール基である。更に好ましくは、置換基を有するアリール基である。
【0031】
また、前記アリール基としては、総炭素数5〜16が好ましく、総炭素数6〜12がより好ましい。前記アルキル基としては、総炭素数2〜12が好ましく、総炭素数3〜8がより好ましい。前記アラルキル基としては、総炭素数6〜18が好ましく、総炭素数8〜14がより好ましい。前記アルケニル基としては、総炭素数4〜12が好ましく、総炭素数5〜8がより好ましい。前記複素環基としては、総炭素数3〜12が好ましく、総炭素数3〜8がより好ましい。前記アルキニル基としては、総炭素数4〜12が好ましく、総炭素数6〜10がより好ましい。
【0032】
前記一般式(1)中のQで表される基の具体例としては、フェニル基、チオフェニル基、ナフチル基、アントラニル基、ピレニル基、フタロイル基、フタロイルイミノ基、2−フェニルエチル基、ベンゾオキサゾリル基、ベンゾイミダゾリル基、シクロヘキシル基、シクロヘキセニル基、n−オクチル基、イソプロペニル基、n−ヘキシル基、5−メチルヘキセニル基、イソプロピル基、sec−ブチル基、2−フェニルエチレニル基、シクロヘキセニル基、トリアジニル基、ピリミジニル基、ピリジニル基、2−フェニルエチニル基、及び1−ブチニル基などが挙げられる。中でも、フェニル基、ナフチル基、アントラニル基、トリアジニル基、ピリミジニル基、ピリジニル基、チオフェニル基、2−フェニルエチニル基、及び1−ブチニル基が好ましく、より好ましくは、フェニル基、ナフチル基、及びアントラニル基である。
【0033】
として好ましくは、少なくとも1つの置換基を有するフェニル基、少なくとも1つの置換基を有するナフチル基、又は少なくとも1つの置換基を有するアントラニル基であり、少なくとも1つの置換基を有するフェニル基がより好ましい。
【0034】
前記Qは、無置換でも置換基を有していてもよく、Qが置換基を有する場合の置換基としては、水酸基、アミノ基、アシルアミノ基、アシルオキシ基、カルボキシル基、アミノカルボキシル基、(ジ)アルキルアミノカルボキシル基、スルファモイル基、(ジ)アルキルスルファモイル基、シアノ基、ニトロ基、スルホニル基、アルキル基、アルケニル基、ホスホニル基、アルキニル基、及びハロゲン原子が挙げられる。中でも、水酸基、アミノ基、アシルアミノ基、アシルオキシ基、カルボキシル基、アミノカルボキシル基、(ジ)アルキルアミノカルボキシル基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、及びハロゲン原子が好ましく、より好ましくは、水酸基、アミノ基、アシルアミノ基、アシルオキシ基、カルボキシル基、スルホニル基、及びホスホニル基である。
【0035】
上記のうち、一般式(1)中のQがアリール基(好ましくはフェニル基)である場合、置換されている置換基として好ましくは、2−カルボキシル基、3−カルボキシル基、3,4−ジカルボキシル基、3,5−ジカルボキシル基、3−アミノ基、3−アシルオキシ基、4−アミノ基、4−アシルアミノ基、又はこれらの塩である。
【0036】
が複数の置換基を有するときには、2つの置換基は連結していてもよい。この場合、上記の置換基のうち、水酸基、アミノ基、アシルアミノ基、カルボキシル基、アシルオキシ基、スルホニル基、及びホスホニル基から選ばれる複数の置換基が互いに連結して環を形成していることが好ましい。好ましい例として、隣接する炭素原子にそれぞれカルボキシル基が置換されているときには、これら2つのカルボキシル基が互いに結合して環を形成し、酸無水物を形成している場合が挙げられる。
【0037】
以下、前記一般式(1)で表される化合物の具体例を示す。但し、本発明においてはこれらに限定されるものではない。
【0038】
【化6】

【0039】
前記一般式(1)で表される化合物は、空気、容器、及び不純物などにより、下記一般式(1')で表されるジイン化合物を生成することがある。
【0040】
【化7】


一般式(1')で表される化合物の、前記一般式(1)で表される化合物からの生成は、特に溶液中の塩基性条件、あるいは気体条件において、顕著にその生成が速くなる。例えば、アルカリ金属あるいはアルカリ土類金属を含んで塩基性を示すプロトン性溶媒中、大気下で攪拌すると生成する。
【0041】
本発明では、一般式(1')で表される化合物の、前記一般式(1)で表される化合物からの生成を還元剤の添加によって抑制することができる。
一般式(1')で表される化合物の、前記一般式(1)で表される化合物からの生成は、一般式(1)で表される化合物への空気あるいは意図しない不純物混入による酸化作用によるものであり、この酸化作用は、末端エチニル基のC−H結合の塩基による解離、例えばビニル基あるいはアルキル基のC−H結合と比べてpKaが小さいとする知見からも推定できる。そのため、この酸化作用を一般式(1)で表される化合物に代わって酸化される物質、すなわち還元剤の添加によってこのジイン化合物の生成を抑制できる。ここでの還元剤は、以上の考え方に基づいて用いられる。
【0042】
一般式(1)で表される化合物を使用する際の具体的態様の1つは、例えば、一般式(1)で表される化合物を溶媒で溶解等して含有する溶液(液相)中に還元剤を加えた構成である。
【0043】
還元剤としては、無機系及び有機系のいずれも使用可能である。また、還元剤は、第一のエチニル化合物の二量化反応を抑制するように機能するものを選択することが、ジイン化合物の生成を抑制する点で望ましい。
【0044】
還元剤の具体的な例としては、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、亜ジチオン酸ナトリウム、硫化ナトリウム、2硫化ナトリウム、ジチオトレイトール、β−メルカプトエタノール、酒石酸あるいはその塩、アスコルビン酸あるいはその塩、置換もしくは無置換のヒドロキシルアミンあるいはその塩などが挙げられる。
中でも、添加後に還元剤を固−液分離により検出限界以下まで除去することが可能で、医農薬中間体、液晶、電子材料等の機能性材料への用途により適する観点から、有機系還元剤が好ましく、ジチオトレイトール、β−メルカプトエタノール、酒石酸あるいはその塩、アスコルビン酸あるいはその塩、及び置換もしくは無置換のヒドロキシルアミンあるいはその塩がより好ましく、酒石酸あるいはその塩、及びアスコルビン酸あるいはその塩が更に好ましい。
【0045】
還元剤の使用量としては、特に制限はないが、一般式(1)で表される化合物1モルに対して、例えば0.001モル〜1.0モルの量とすることができる。還元剤の使用量が前記範囲内であると、液−液分離や固−液分離による除去が容易になる点で効果的である。中でも、一般式(1)で表される化合物1モルに対して、0.01モル〜0.50モルが好ましく、より好ましくは0.02モル〜0.20モルである。
【0046】
前記一般式(1)で表される化合物は、公知の合成法により得ることが可能である。本発明においては、例えば下記一般式(2)で表される化合物を原料に合成することができ、これは本発明における好ましい製造方法の1つである。
【0047】
【化8】

【0048】
以下、一般式(2)で表される化合物について説明する。
一般式(2)中、Qは、前記一般式(1)中のQと同義であり、好ましい態様も同様である。中でも、Qは、炭化水素基又はヘテロ原子含有基が好ましく、芳香族炭化水素基又は芳香族複素環がより好ましく、アリール基が更に好ましく、アルキル基、アラルキル基、アルケニル基、複素環基、又はアルキニル基も好ましい。これらQはいずれも、無置換でも置換基を有していてもよい。
中でも更に、Qとして好ましくは、少なくとも1つの置換基を有するフェニル基、少なくとも1つの置換基を有するナフチル基、又は少なくとも1つの置換基を有するアントラニル基であり、少なくとも1つの置換基を有するフェニル基がより好ましい。また、一般式(2)中のQがアリール基(好ましくはフェニル基)である場合、置換されている置換基として好ましくは、2−カルボキシル基、3−カルボキシル基、3,4−ジカルボキシル基、3,5−ジカルボキシル基、3−アミノ基、3−アシルオキシ基、4−アミノ基、4−アシルアミノ基、又はこれらの塩である。
このとき、一般式(2)で表される化合物から一般式(1)で表される化合物に変換される際にQの構造が変化していてもよい。すなわち、合成過程での変化によって、一般式(1)のQと一般式(2)のQとは異なってもよい。
【0049】
また、Qが複数の置換基を有するときには、2つの置換基は連結されていてもよい。この場合、上記の置換基のうち、水酸基、アミノ基、アシルアミノ基、カルボキシル基、アシルオキシ基、スルホニル基、及びホスホニル基から選ばれる複数の置換基が互いに連結して環を形成していることが好ましい。好ましい例として、隣接する炭素原子にそれぞれカルボキシル基が置換されているときには、これら2つのカルボキシル基が互いに結合して環を形成し、酸無水物を形成している場合が挙げられる。
【0050】
前記一般式(2)中、R及びRは、各々独立に、水素原子、又は炭化水素基を表し、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のシクロアルキル基、又は炭素数6〜12のアリール基が好ましい。
【0051】
、Rが炭素数1〜6のアルキル基を表す場合、アルキル基は直鎖、分岐、又は環状のいずれであってもよく、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、イソブチル、t−ブチル、n−ヘキシル等の基が挙げられる。これらの中でも、メチル、エチル、イソブチルが好ましい。また、R及びRは互いに連結して環を形成していてもよく、環を形成している場合の好ましい環の例としては、シクロプロパン環、シクロペンタン環、シクロヘキサン環等が挙げられる。
【0052】
、Rで表される構造が炭素数1〜6のシクロアルキル基である場合、置換もしくは無置換の脂環式炭化水素基が挙げられる。シクロアルキル基の具体的な例としては、シクロヘキシル基、シクロペンチル基、シクロプロピル基、シクロプロピルメチル基、シクロブチル基等が挙げられる。これらの中でも、シクロヘキシル基、シクロペンチル基、シクロプロピル基が好ましく、シクロヘキシル基がより好ましい。
【0053】
、Rが炭素数6〜12のアリール基を表す場合、アリール基としては置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基が挙げられる。アリール基の具体的な例としては、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、p−トリル基、2,4,6−トリメチルフェニル基(メシチル基)等が挙げられる。これらの中でも、フェニル基、1−ナフチル基、p−トリル基が好ましく、フェニル基、p−トリル基がより好ましく、フェニル基がより好ましい。
【0054】
前記一般式(2)で表される化合物の例としては、3−(3−ヒドロキシ−3−メチルブチル−1−イル)アニリン、5−(3−ヒドロキシ−3−メチルブチル−1−イル)イソフタル酸ジメチルエステル、4−(3−ヒドロキシ−3−メチルブチル−1−イル)フタル酸ジメチルエステル、N−アセチル−4−(3−ヒドロキシ−3−メチルブチル−1−イル)アニリド、N−イソ酪酸−アセチル−4−(3−ヒドロキシ−3−メチルブチル−1−イル)アニリド、1−t−ブトキシカルボニルオキシ−3−(3−ヒドロキシ−3−メチルブチル−1−イル)ベンゼンなどを挙げることができる。
【0055】
次に、前記一般式(2)で表される化合物から前記一般式(1)で表される化合物を得る方法について説明する。
【0056】
一般式(1)で表される化合物を、一般式(2)で表される化合物より得る方法については従来より知られており、プロトン性溶媒中、アルカリ条件下で作用させることで達成できる。
本発明においては、生成された一般式(1)で表される化合物が酸化作用を受けて一般式(1')で表される化合物へ変化するのを防止するために、一般式(1)で表される化合物を得る際の液相中にその反応前から還元剤を共存させておくようにする。
【0057】
前記一般式(1)で表される化合物を一般式(2)で表される化合物より生成する際に一般式(2)で表される化合物を含む液相中に共存させる還元剤としては、既述のように無機系及び有機系のいずれも使用可能であり、例えば、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、亜ジチオン酸ナトリウム、硫化ナトリウム、2硫化ナトリウム、ジチオトレイトール、β―メルカプトエタノール、酒石酸あるいはその塩、アスコルビン酸あるいはその塩、置換あるいは無置換のヒドロキシルアミンあるいはその塩などが挙げられる。中でも、添加後に還元剤を固−液分離により検出限界以下まで除去することが可能で、医農薬中間体、液晶、電子材料等の機能性材料への用途により適する観点から、有機系還元剤が好ましく、ジチオトレイトール、β−メルカプトエタノール、酒石酸あるいはその塩、アスコルビン酸あるいはその塩、及び置換あるいは無置換のヒドロキシルアミンあるいはその塩が好ましく、酒石酸あるいはその塩、及びアスコルビン酸あるいはその塩がより好ましい。
【0058】
一般式(1)で表される化合物を一般式(2)で表される化合物より生成させる際に共存させる還元剤の量は、生成する一般式(1)で表される化合物1モルに対し、例えば0.001モル〜1.0モルの量が挙げられるが、中でも、0.01モル〜0.50モルが好ましく、より好ましくは0.02モル〜0.20モルである。
【0059】
一般式(1)で表されるモノ置換エチニル化合物を製造あるいは使用、取り扱う際には、モノ置換エチニル化合物を溶解等してこれを含有する液相を形成するために、溶媒を用いてもよい。溶媒としては、水及び、トルエン、n−ブタノール、エタノール、メタノ−ル、N−メチルピロリドン、1,3−ジメチルイミダゾリジン、ジメチルスルホキシド等の溶剤などを用いることができる。
【0060】
本発明のエチニル化合物の取扱方法は、前記一般式(1)で表されるモノ置換エチニル化合物(第一のエチニル化合物)を、製造又は使用する液相中、還元剤の存在下で取り扱う取扱方法である。第一のエチニル化合物の詳細及び好ましい態様、還元剤の詳細及び好ましい態様、並びに還元剤の量及びその好ましい範囲については、前記同様である。
上記のように、取り扱う液相中に還元剤を存在させることで、ジイン化合物の生成が抑制されるので、ジイン化合物の生成を抑えながら取り扱うことが可能である。
【0061】
また、本発明のアスコルビン酸又はその塩の使用方法は、下記一般式(1)で表される第一のエチニル化合物が含まれる液相中にアスコルビン酸又はその塩を存在させ、下記第一のエチニル化合物の二量化反応を抑制するものである。第一のエチニル化合物の詳細及び好ましい態様、並びにアスコルビン酸又はその塩(還元剤)の量及びその好ましい範囲については、前記同様である。
上記した酸化作用が、前記一般式(1)で表される第一のエチニル化合物に代わるアスコルビン酸又はその塩の存在により抑えられ、ジイン化合物の生成を効果的に抑制することが可能である。
【0062】
このように、本発明の一般式(1)で表されるモノ置換エチニル化合物を製造あるいは使用、取り扱い時に、モノ置換エチニル化合物が存在する液相中に還元剤(特に有機系還元剤)を用いることによって、空気、容器、及び意図しない不純物による酸化作用を防止でき、一般式(1')で表されるジイン化合物の副生成を効果的に抑制することができる。これにより、安定的に且つ高品質のモノ置換エチニル化合物を得ることができる。
【実施例】
【0063】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」及び「%」は質量基準である。
【0064】
(実施例1)
〜3−エチニルアニリンの合成〜
容積300mlの3つ口フラスコに、3−(3−ヒドロキシ−3−メチルブチル−1−イル)アニリン(一般式(2)で表される化合物)35.0g、トルエン200g、及びアスコルビン酸(還元剤)1.76gを加えて攪拌し、これに25%水酸化ナトリウム水溶液10.0gを添加した後、加温して90℃まで昇温した。90℃で1時間反応させた後、15%食塩水を適量添加して60℃まで冷却し、5分間静置して水相を廃棄した。次に、5%食塩水を用いて攪拌後静置して再度水相を廃棄した。有機相を濃縮後、減圧蒸留により3−エチニルアニリンを取り出した(収量22.9g、収率97.9%)。
【0065】
高速液体クロマトグラフ(HPLC;以下、HPLCと略記する)により分析したところ、酸化副生成物となる1,4−ビス(3−アミノフェニル)−1,3−ブタジインは検出されなかった。
【0066】
(比較例1)
実施例1において、アスコルビン酸を用いずに3−エチニルアニリンを合成し、減圧蒸留により取り出した(収量20.5g、収率87.6%)。
蒸留残渣をHPLCにより分析したところ、酸化副生成物である1,4−ビス(3−アミノフェニル)−1,3−ブタジインが検出され、また、その検出量は1.7g(収率にして7.3%に相当する量)であった。
【0067】
(実施例2)
〜5−エチニルイソフタル酸の合成〜
容積200mlの3つ口フラスコに窒素気流下、5−(3−ヒドロキシ−3−メチルブチル−1−イル)イソフタル酸ジメチルエステル(一般式(2)で表される化合物)34.5g、水60g、及びアスコルビン酸(還元剤)2.2gを加えて攪拌し、これに25%水酸化ナトリウム水溶液60gを添加した後、加温して80℃まで昇温した。80℃で4時間反応させた後、50℃に冷却後活性炭を加えて30分間攪拌した。その後、セライトを用いた吸引濾過で活性炭を除去し、濾材の洗いに用いた水も合わせた。この水溶液に35.5%の濃塩酸50.7gを加え、一旦80℃まで内温を昇温させた後、室温まで4時間かけて除々に冷却した。析出物を吸引濾過により取り出し、蒸留水50gで掛け洗いをして50℃で2日間風乾させ、5−エチニルイソフタル酸の白色粉末22.6gを得た(収率95.2%)。
【0068】
得られた白色粉末をHPLCにより分析したところ、254nmの吸光度での面積比は97.8%であり、酸化副生成物となる1,4−ビス(3,5−ジカルボキシルフェニル)−1,3−ブタジインは殆ど検出されなかった。
【0069】
(比較例2)
実施例2において、アスコルビン酸を用いずに5−エチニルイソフタル酸を合成し、減圧蒸留により取り出した(収量22.2g、収率93.5%)。
これをHPLCにて分析したところ、254nmの吸光度での面積比は81.1%であり、酸化副生成物である1,4−ビス(3,5−ジカルボキシルフェニル)−1,3−ブタジインを面積比16.9%で検出された。
【0070】
(実施例3)
〜4−エチニルフタル酸の合成〜
容積500mlの3つ口フラスコに窒素気流下、4−(3−ヒドロキシ−3−メチルブチル−1−イル)フタル酸ジメチルエステル55.3g、水300g、及びアスコルビン酸3.5gを加えて攪拌し、これに25%水酸化ナトリウム水溶液80.0gを添加した後、昇温させて10時間加熱還流した。その後、60℃に冷却して塩酸を加えてpHを1以下にした後、2時間かけて除々に冷却した。このときの析出物を吸引濾過により取り出し、水100gで掛け洗いをして50℃で2日間風乾させ、4−エチニルフタル酸の微黄色粉末を得た(収量33.6g、収率88.3%)
【0071】
得られた白色粉末をHPLCにて分析したところ、254nmの吸光度での面積比は97.0%であり、酸化副生成物となる1,4−ビス(3,4−ジカルボキシルフェニル)−1,3−ブタジインは殆ど検出されなかった。
【0072】
(比較例3)
実施例3において、アスコルビン酸を用いずに4−エチニルフタル酸を合成し、減圧蒸留により取り出した(収量32.5g、収率85.4%)。
これをHPLCにて分析したところ、254nmの吸光度での面積比は90.4%であり、酸化副生成物である1,4−ビス(3,4−ジカルボキシルフェニル)−1,3−ブタジインを面積比6.0%で検出された。
【0073】
上記した実施例では、3−エチニルアニリン、5−エチニルイソフタル酸、4−エチニルフタル酸を製造する場合を中心に説明したが、これらを製造以外の目的で液相中で使用する場合、並びに、既述の一般式(1)で表されるモノ置換エチニル化合物に含まれる化合物のうち上記以外の化合物を液相中に存在させて製造あるいは使用、取り扱う場合も、上記と同様に、1,3−ジイン化合物の酸化生成を効果的に防止することが可能である。
また、実施例では、還元剤としてアスコルビン酸を用いた場合を示したが、アスコルビン酸以外の上記した他の還元剤を用いた場合も同様の効果を得ることができる。
【0074】
また、既述の一般式(1)で表されるモノ置換エチニル化合物とアスコルビン酸及び/又はその塩とを混合して混合液とした場合には、混合液中でモノ置換エチニル化合物を、二量体を生成することなく安定に保って使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される第一のエチニル化合物の製造方法であって、
下記一般式(2)で表される第二のエチニル化合物を液相中、還元剤の存在下で反応させて前記第一のエチニル化合物を得ることを特徴とするエチニル化合物の製造方法。
【化1】


【化2】


〔一般式(1)及び(2)中、Qは、有機基を表す。R及びRは、各々独立に、水素原子、又は炭化水素基を表し、R及びRは互いに連結されてもよい。〕
【請求項2】
前記Qは、置換基を有していてもよい炭化水素基又はヘテロ原子含有基であることを特徴とする請求項1に記載のエチニル化合物の製造方法。
【請求項3】
前記Qは、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は芳香族複素環であることを特徴とする請求項2に記載のエチニル化合物の製造方法。
【請求項4】
前記Qは、置換基を有していてもよいアリール基であることを特徴とする請求項3に記載のエチニル化合物の製造方法。
【請求項5】
前記Qは、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアラルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、又は置換基を有していてもよいアルキニル基であることを特徴とする請求項3に記載のエチニル化合物の製造方法。
【請求項6】
前記Qは、水酸基、アミノ基、アシルアミノ基、カルボキシル基、アシルオキシ基、スルホニル基、及びホスホニル基から選ばれる少なくとも2つの置換基を有し、隣り合う2つの置換基が互いに連結して環が形成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のエチニル化合物の製造方法。
【請求項7】
前記Qは、少なくとも1つの置換基を有するフェニル基、少なくとも1つの置換基を有するナフチル基、又は少なくとも1つの置換基を有するアントラニル基であることを特徴とする請求項4に記載のエチニル化合物の製造方法。
【請求項8】
前記Qがアリール基であり、前記Qにおける置換基が2−カルボキシル基、3−カルボキシル基、3,4−ジカルボキシル基、3,5−ジカルボキシル基、3−アミノ基、3−アシルオキシ基、4−アミノ基、4−アシルアミノ基、又はこれらの塩であることを特徴とする請求項4に記載のエチニル化合物の製造方法。
【請求項9】
前記還元剤が、前記第一のエチニル化合物の二量化反応を抑制するように機能することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のエチニル化合物の製造方法。
【請求項10】
前記還元剤が、ジチオトレイトール、β−メルカプトエタノール、酒石酸、アスコルビン酸、及び置換もしくは無置換のヒドロキシルアミン、並びにこれらの塩からなる群より選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載のエチニル化合物の製造方法。
【請求項11】
前記還元剤が、アスコルビン酸及び酒石酸並びにこれらの塩からなる群より選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする請求項10に記載のエチニル化合物の製造方法。
【請求項12】
下記一般式(1)で表される第一のエチニル化合物を、製造又は使用する液相中、還元剤の存在下で取り扱うことを特徴とするエチニル化合物の取扱方法。
【化3】


〔一般式(1)中、Qは有機基を表す。〕
【請求項13】
アスコルビン酸又はその塩の使用方法であって、下記一般式(1)で表される第一のエチニル化合物が含まれる液相中にアスコルビン酸又はその塩を存在させ、下記第一のエチニル化合物の二量化反応を抑制するアスコルビン酸又はその塩の使用方法。
【化4】


〔一般式(1)中、Qは有機基を表す。〕

【公開番号】特開2008−214317(P2008−214317A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−57600(P2007−57600)
【出願日】平成19年3月7日(2007.3.7)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】