説明

エチレン−酢酸ビニル共重合体とシリコーン樹脂との接着剤

【課題】 エチレン−酢酸ビニル共重合体製のマウスガード基体の内外表面に、シリコーン樹脂からなる表層材を接着してマウスガードを製造するような際に必要になる、エチレン−酢酸ビニル共重合体とシリコーン樹脂とを強固に接着させる接着剤を提供すること。
【解決手段】 (A)有機溶媒100重量部、及び
(B)不飽和エステル系単量体の重合体セグメント(α)とシロキサン重合体セグメント(β)を主たる構成成分として含有してなり、好適には該シロキサン重合体セグメント(β)が、ハイドロシリレーション反応の反応性官能基を有しているブロック共重合体0.1〜20重量部
を含んでなるエチレン−酢酸ビニル共重合体とシリコーン樹脂との接着剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレン−酢酸ビニル共重合体とシリコーン樹脂との接着剤に関する。また、本発明は、上記接着剤を用いて、エチレン−酢酸ビニル共重合体からなるマウスガード基体の内外表面に、シリコーン樹脂からなる表層材を接着してマウスガードを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スポーツ時の顎組織の外傷を防止し、歯や顎の骨を保護するためのスポーツ保護用具あるいは口腔内保護装置として、ボクシング等のコンタクトスポーツで使用されるマウスガード(マウスピースまたはマウスプロテクターとも呼ばれる)が知られている。
【0003】
一般的に、スポーツ用のマウスガードの装着目的は、顔面に前方及び側方から直接受ける外力から歯、歯周組織(特に上顎前歯)を保護したり、外力による口唇、舌、頬に対する歯による損傷を防止したり、下顎に外力が加わったときに上顎との接触による衝撃等から歯、歯周組織、補綴物等を保護したり、外力から顎関節(関節腔、関節円板等)を保護したり、顎関節及び歯列を介して受ける脳への衝撃による脳震盪等の脳へのダメージを防いだりすることにある。
【0004】
マウスガードは、材料として柔軟性に優れた弾性材料を用いることで、上記のように、顎、口腔内の外傷防止及び脳への衝撃吸収・緩和等の効果を発揮することが可能になる。即ち、マウスガードの装着により、外力は、マウスガード全体に拡散し、衝撃の集中を抑制することができる。
【0005】
マウスガードについて、例えば、特許文献1では、模型上にマウスガード形状のワックスアップを行い、石膏による埋没を行い、流蝋し、弾性材料であるポリビニルアルコールゲルを填入し、冷却などより硬化させる義歯製造方法と類似した方法で製造するマウスガードが開示されている。
【0006】
また、特許文献2及び特許文献3では、複数のサイズが用意された既製のマウスガード基体(シェル)の中から使用者の歯列の大きさに適したサイズのものを選び、その内表面に補隙層としてペースト状のシリコーン樹脂をライニングし、マウスガード使用者の口腔内歯列に挿入し、硬化させて製造するシェルライナー型マウスガードが開示されている。
【0007】
上記の特許文献1で開示されているマウスガードは、使用者の歯列模型を作製し、間接法によって歯科医師や歯科技工士が作製する為、装着歯列との適合が良いというメリットがあるが、専門家によって作製されるため使用者自身で作製する事が出来ない事、作製に手間がかかり完成までに時間がかかる事、作製したマウスガードが比較的高価である事、という問題があった。
【0008】
これに対し、上記の特許文献2で開示されているマウスガードは、一般にシェルライナー型マウスガードと呼ばれ、使用者の口腔内に合うサイズのマウスガード基体(シェル)の内表面(口腔内側)にライナーとして常温硬化型のシリコーン樹脂をライニングし、口腔内に装着して硬化させて作製する為、技工操作を必要とせずその場で作る事ができ、使用者自身で装着する歯列に対して適合性の良いマウスガードを簡単に製作することができ、安価であるというメリットがある。シェルライナー型マウスガードのシェルに用いる弾性材料には一般的にエチレン−酢酸ビニル共重合体やシリコーン樹脂などが用いられるが、エチレン−酢酸ビニル共重合体は安価で成形性が良いというメリットがあるが、シリコーン樹脂との接着性が悪いという問題があった。特に、上記マウスガードのシェルの内表面にライニングする常温硬化型のシリコーン樹脂としては、副生成物が発生しない等から、常温付加重合型(ハイドロシリレーション反応硬化性)のものが好適に使用されるが、このシリコーン樹脂との接着性が低いものであった。
【0009】
そこで、上記の特許文献3で開示されているマウスガードでは、マウスガードの基体(シェル)に孔を設け、ライニングした常温硬化型弾性材料(ライナー)を該孔より浸出させて硬化させる事により機械的な勘合力でシェルとライナーを保持し、これにより、上記接着性の悪いエチレン−酢酸ビニル共重合体とシリコーン樹脂の組合せでもシェルライナー型のマウスガードを作製する事を可能にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2003−102478号公報
【特許文献2】特開昭61-100273号公報
【特許文献3】特開平8−206272号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記の特許文献3で開示されているマウスガードはシェルとライナーの界面が機械的な嵌合力のみで保持させているため、耐久性が充分ではない事、界面に汚れが付着しやすく衛生的ではない事が問題である。この問題を解決する為には、シェルとライナーを緊密に密着させ固定することが求められ、シェルであるエチレン−酢酸ビニル共重合体とライナーであるシリコーン樹脂、特に、ハイドロシリレーション反応硬化性のシリコーン樹脂とを良好に接着させる接着剤が必要である。
【0012】
また、上記方法で作製されたマウスガードを長期間の使用や強い噛み締め等を伴う使用に用いる事によって、エチレン−酢酸ビニル共重合体に擦り切れや孔などを生じる場合がある。また、口腔内組織の変化により、マウスガード装着時にしっかりと噛み締める事のできる咬合が得られなくなる場合や、マウスガードの口腔内への適合性(密着性)が悪くなってしまう場合などがある。このような問題の改善として、劣化部分の補修や咬合関係、適合性等の修正を行いたい場合、模型を用いず直接口腔内で補修や修正を行うような簡便な方法が無く、新たにマウスガードを作る必要があり、手間やコストがかかる事が問題である。この問題を解決する為には、口腔内で硬化させることができるシリコーン樹脂を用いて劣化部分の補修や咬合関係等の修正をする方法が考えられるが、この場合にも、エチレン−酢酸ビニル共重合体とシリコーン樹脂を接着させる接着剤が必要となる。しかし、これまでエチレン−酢酸ビニル共重合体とシリコーン樹脂との接着剤は知られていない。
【0013】
そこで本発明の目的は、エチレン−酢酸ビニル共重合体とシリコーン樹脂、特に特に、ハイドロシリレーション反応硬化性シリコーン樹脂とを強固に接着させる接着剤を提供することを目的とする。
【0014】
また、このような接着剤を用いて、エチレン−酢酸ビニル共重合体からなるマウスガード基体の内外表面に、シリコーン樹脂からなる表層材を接着してマウスガードを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは上記課題を解決すべく、鋭意検討を行った。その結果、エチレン−酢酸ビニル共重合体とシリコーン樹脂とを接着する接着剤として、不飽和エステル系単量体の重合体セグメントとシロキサン重合体セグメントを主たる構成成分として含有するブロック共重合体(以下、「不飽和エステル・シロキサンブロック共重合体」とも略記する)の有機溶液を用いれば、上記の課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
すなわち、本発明によれば、
(A)有機溶媒100重量部、及び
(B)不飽和エステル系単量体の重合体セグメント(α)とシロキサン重合体セグメント(β)を主たる構成成分として含有するブロック共重合体0.1〜20重量部
を含んでなるエチレン−酢酸ビニル共重合体とシリコーン樹脂との接着剤が提供される。
【発明の効果】
【0017】
エチレン−酢酸ビニル共重合体とシリコーン樹脂とを接着させるに対して、本発明の接着剤を用いれば、(B)不飽和エステル・シロキサンブロック共重合体における不飽和エステル系単量体の重合体セグメント(α)が前者の接着対象となじみ、他方、シロキサン重合体セグメント(β)が後者の接着対象となじみ、その結果、両材料を強固に接着することができる。従って、基体が、該エチレン−酢酸ビニル共重合体製であるマウスガードにおいて、その内外表面に、シリコーン樹脂からなる表層材を接着する場合、好適には、エチレン−酢酸ビニル共重合体製マウスガードシェルの内表面にシリコーン樹脂をライニングして、シェルライナー型マウスガードを製造するような場合に、両材料を強固に接着することができ、使用時の信頼性を大きく高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<接着剤の組成について>
本発明のエチレン−酢酸ビニル共重合体とシリコーン樹脂との接着剤は、有機溶媒(a)に対して、(B)不飽和エステル・シロキサンブロック共重合体を配合してなるものである。
[成分(B):]
本発明において、成分(B)不飽和エステル・シロキサンブロック共重合体は、不飽和エステル系単量体の重合体からなるセグメント(α)と、シロキサン重合体からなるセグメント(β)とがブロック共重合した重合体である。この(B)不飽和エステル・シロキサンブロック共重合体の有機溶液を接着剤として用いることにより、エチレン−酢酸ビニル共重合体とシリコーン樹脂とを強固に接着することが可能になる。
【0019】
なお、不飽和エステル系単量体の重合体からなる部分とシロキサン重合体からなる部分を有する共重合体としては、上記ブロック共重合体の他に、不飽和エステル系単量体の重合体からなる主鎖にシロキサン重合体がグラフト共重合したグラフト共重合体も考えられる。そうして、このようなグラフト共重合体の有機溶液でも、前記エチレン−酢酸ビニル共重合体とシリコーン樹脂との接着剤として同様の高い接着力が発揮できる。
【0020】
しかし、こうしたグラフト共重合体の場合、接着面のより確実なる被覆を実現するために、一度接着剤を塗って、ある程度乾燥した後に更に重ね塗りしたような場合には、十分な接着力が得難くなる。これは、上記グラフト共重合体の有機溶液からなる接着剤の場合、エチレン−酢酸ビニル共重合体表面に1回の塗布で形成される被膜は、該エチレン−酢酸ビニル共重合体となじまないシロキサン重合体のグラフト鎖が膜表面に密に偏在するものになるからである。すなわち、このシロキサン重合体のグラフト鎖の偏在面に、再度、接着剤を上塗りすると、今度は逆に、該シロキサン重合体のグラフト鎖となじまない、不飽和エステル系単量体の重合体からなる主鎖が、重ね塗りにより形成される被膜の表面に偏在するようになる。この場合、該不飽和エステル系単量体の重合体からなる主鎖の偏在面に、接着対象のシリコーン樹脂を接触させても十分な接着力は発揮されなくなる。これに対して、本発明の如くにブロック共重合体を用いるのであれば、不飽和エステル系単量体の重合体からなるセグメントも、シロキサン重合体からなるセグメントも同一主鎖上にあるため、このような一方の共重合体部分の極端な偏在は解消され、接着剤を重ね塗りしても高い接着力が保持できるようになるものと考えられる。
【0021】
(B)不飽和エステル・シロキサンブロック共重合体において、不飽和エステル系単量体の重合体からなるセグメント(α)と、シロキサン重合体からなるセグメント(β)の結合形態に制限はなく、ジブロック共重合体、トリブロック共重合体、又はセグメント単位数が4以上のマルチブロック共重合体であっても良い。特に、エチレン−酢酸ビニル共重合体やリコーン樹脂との接着力が高く、かつ重ね塗りによる接着力の低下が起こりにくいという点から、マルチブロック共重合体であるのが好ましい。
【0022】
ここで、不飽和エステル系単量体とは、不飽和カルボン酸のエステル化合物やカルボン酸の不飽和エステル化合物が挙げられる。例えば、前者の代表は、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル等の(メタ)アクリル酸のアルキルエステルであり、後者の代表は、酢酸ビニル、酪酸ビニル等の飽和脂肪族カルボン酸ビニルエステルである。
【0023】
不飽和エステル系単量体の重合体セグメント(α)は、不飽和エステル系単量体の単独重合体として構成されるだけでなく、2種以上の不飽和エステル系単量体の共重合体として構成されていても良い。エチレン−酢酸ビニル共重合体とのなじみの点から、不飽和エステル系単量体単位の平均繰り返し単位数は10〜400、特に20〜200が好適である。
【0024】
他方、シロキサン重合体セグメント(β)は、シロキサン単位の繰り返しからなり、該シロキサン単位はケイ素原子に有機基が結合するオルガノシロキサン単位であっても良い。こうしたシロキサン重合体セグメントも、単一のシロキサン単位により構成されるだけでなく、2種以上のシロキサン単位により構成されていても良い。シリコーン樹脂とのなじみの点から、シロキサン単位の平均繰り返し単位数は10〜400、特に20〜200が好適である。
【0025】
また、接着するシリコーン樹脂がハイドロシリレーション反応硬化性のものの場合、これとエチレン−酢酸ビニル共重合体とをより強固に接着するためには、上記シロキサン重合体セグメント(β)は、ハイドロシリレーション反応の反応性官能基を有していることが好ましい。すなわち、オルガノシロキサン単位の有機基の一部として、ハイドロシリレーション反応の反応性官能基を導入するのが好適である。これにより、このセグメントを、シリコーン樹脂と良好になじませるだけでなく、該シリコーン樹脂の硬化反応時に、不飽和エステル・シロキサンブロック共重合体層との界面で化学結合を生じさせることが可能になり、接着剤の接着力を大きく高めることが可能になる。ハイドロシリレーション反応の反応性官能基としては、水素基、又はビニル基、アリル基等の重合性不飽和炭化水素基が挙げられ、該反応性官能基が、1つのシロキサン重合体セグメント(β)中に、平均値で示して3個以上、より好適には10個以上存在するようにするのが好ましい。
【0026】
上記(B)不飽和エステル・シロキサンブロック共重合体の具体例としては、不飽和エステル系単量体の重合体セグメント(α)が下記式(1)で示されるセグメントからなり、シロキサン重合体セグメント(β)が下記式(2)で示されるセグメントからなるものを挙げることができる。
【0027】
【化1】

【0028】
〔前記式(1)において、
は、水素原子、メチル基、又はエチル基を示し、
は、炭素数1〜14の炭化水素基を示し、
Aは、COO又はOCOで表されるエステル結合を示し、
1セグメント内における、Rの夫々、Rの夫々、及びAの夫々は、異種であっても良く、
bは、1セグメント内での平均繰り返し単位数を示し、10〜400の数である。〕
【0029】
【化2】

【0030】
〔前記式(2)において、
〜Rは、水素原子、又は炭素数1〜14の炭化水素基を示し、
1セグメント内における、Rの夫々、及びRの夫々は、異種であっても良く、
cは、1セグメント内での平均繰り返し単位数を示し、10〜400の数である。〕
上記式(1)で示される不飽和エステル系単量体の重合体セグメント(α)においてRは、水素原子、メチル基、及びエチル基の中から選ばれるものであり、原料入手のしやすさ、共重合体の合成のしやすさ、特に、原料単量体(不飽和エステル系単量体)の共重合反応性の点から水素原子又はメチル基が好ましい。
【0031】
上記式(1)中のRは、炭素数1〜14の炭化水素基であり、具体的には、メチル基,エチル基,n-プロピル基,イソプロピル基,n-ブチル基,イソブチル基,t-ブチル基,s-ブチル基,n-ペンチル基,イソペンチル基,ネオペンチル基,t-ペンチル基,1-メチルペンチル基,n-ヘキシル基,イソヘキシル基,2-メチルペンチル基,3-メチルペンチル基、n−オクチル基、トリデシル基等の直鎖状又は分岐状の炭素数1〜14のアルキル基;シクロプロピル基、シクロヘキシル基、シクロペンチル基等の炭素数3〜10のシクロアルキル基;フェニル基、トリル基、メシチル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基等の炭素数6〜14のアリール基;ベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基、フェニルブチル基等の炭素数6〜14のアラルキル基等があげられる。原料入手のしやすさ、共重合体の合成のしやすさから、メチル基、エチル基、n−プロピル基等の炭素数が3以下の低級アルキル基が好ましく、メチル基が最も好ましい。
【0032】
上記式(1)中のAは、COO又はOCOで表されるエステル結合であり、COOの場合は不飽和カルボン酸飽和エステル系の構造単位となり、OCOの場合には飽和カルボン酸不飽和エステル系の構造単位となる。
【0033】
前記したように不飽和エステル系単量体の重合体セグメント(α)は、不飽和エステル系単量体の単独重合体として構成されるだけでなく、2種以上の不飽和エステル系単量体の共重合体として構成されていても良いものである。したがって、上記式(1)で示される不飽和エステル系単量体の重合体セグメント(α)は、2種以上の不飽和エステル系単量体の共重合体であっても良く、この場合、1セグメント内における、Rの夫々、Rの夫々、及びAの夫々は、同一種だけでなく、異種のものにより構成されることになる。
【0034】
上記式(1)中のbは、該セグメント中の不飽和エステル系単量体単位の平均繰り返し数であり、10〜400の範囲である。得られる共重合体の性状、エチレン−酢酸ビニル共重合体との接着性の良好さの観点から、20〜200の範囲であるのが好ましい。
【0035】
これら式(1)で示される不飽和エステル系単量体の重合体セグメント(α)の具体例を示せば、以下の通りである。
【0036】
【化3】

【0037】
【化4】

【0038】
【化5】

【0039】
【化6】

【0040】
(2種の繰り返し単位は、ランダムに共重合している。また、xとyの合計がbである。)

また、上記式(2)で示されるシロキサン重合体セグメント(β)において、R〜Rは、水素原子又は炭素数1〜14の炭化水素基であり、夫々は独立しては選ばれる。これら炭素数1〜14の炭化水素基を具体的に示せば、メチル基,エチル基,n-プロピル基,イソプロピル基,n-ブチル基,イソブチル基,t-ブチル基,s-ブチル基,n-ペンチル基,イソペンチル基,ネオペンチル基,t-ペンチル基,1-メチルペンチル基,n-ヘキシル基,イソヘキシル基,2-メチルペンチル基,3-メチルペンチル基、n−オクチル基、トリデシル基等の直鎖状又は分岐状の炭素数1〜14のアルキル基;シクロプロピル基、シクロヘキシル基、シクロペンチル基等の炭素数3〜10のシクロアルキル基;ビニル基、アリル基、1−プロペニル基、2−ブテニル基、1,3−ブタジエニル基、2−ペンテニル基、2−オクテニル基等の炭素数2〜14のアルケニル基;フェニル基、トリル基、メシチル基、ビニルフェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基等の炭素数6〜14のアリール基;ベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基、フェニルブチル基等の炭素数6〜14のアラルキル基等が挙げられる。合成原料である(ポリ)シロキサンの合成、入手のしやすさ、得られる共重合体の反応性の高さ、シリコーン樹脂への硬化性の影響から、R〜Rは、メチル基、エチル基、n−プロピル基等の炭素数が3以下の低級アルキル基、またはフェニル基であることが好適であり、特に、メチル基またはフェニル基であることが好適である。
【0041】
前記したようにシロキサン重合体セグメントも、単一のシロキサン単位により構成されるだけでなく、2種以上のシロキサン単位により構成されていても良いものである。したがって、上記式(2)で示されるシロキサン重合体セグメント(β)も、Rの夫々、及びRの夫々は、同一種だけでなく、異種のものにより構成されても良い。
【0042】
また、前記したように、接着するシリコーン樹脂がハイドロシリレーション反応硬化性のものの場合、これとエチレン−酢酸ビニル共重合体とをより強固に接着するためには、シロキサン重合体セグメント(β)は、ハイドロシリレーション反応の反応性官能基を有していることが好適である。このため、該式(2)で示されるシロキサン重合体セグメント(β)は、上記R〜Rの一部が、前記ハイドロシリレーション反応の反応性官能基であることが好ましい。好適には、1つのシロキサン重合体セグメント(β)において、R〜Rの総数中に占める、平均値で示して3個以上、より好適には10個以上が、ハイドロシリレーション反応の反応性官能基であるのが好ましい。
【0043】
ここで、ハイドロシリレーション反応の反応性官能基は、前記R〜Rとして示した基のうち、水素原子(Si−H基が形成される)、又はビニル基、アリル基、ビニルフェニル基等の重合性不飽和炭化水素基を有するものが該当する。水素原子及びビニル基、アリル基等の重合性のアルケニル基が好ましく、その中でも、ハイドロシリレーション反応の反応性の高さから、水素原子が最的である。
【0044】
前記式(2)中のcは、該セグメント中のシロキサン単位の平均繰り返し数であり、10〜400の範囲である。得られる共重合体の性状、シリコーン樹脂とのなじみの良さの観点から、20〜200の範囲であるのが好ましい。
【0045】
これらセグメント(β)の具体例を示せば、以下の通りである。
【0046】
【化7】

【0047】
(2種の繰り返し単位は、ランダムに共重合している。また、pとqの合計がcである。)
【0048】
【化8】

【0049】
(2種の繰り返し単位は、ランダムに共重合している。また、rとsの合計に1を加算した数がcである。)
【0050】
【化9】

【0051】
本発明において、(B)不飽和エステル・シロキサンブロック共重合体中に占める、不飽和エステル系単量体の重合体セグメント(α)とシロキサン重合体セグメント(β)との含有割合は、質量比で示して1:0.1〜2、特に1:0.2〜1.6の範囲であることが好ましい。不飽和エステル系単量体の重合体セグメント(α)の含有割合が上記範囲よりも少ない場合には、(B)不飽和エステル・シロキサンブロック共重合体のエチレン−酢酸ビニル共重合体とのなじみが悪くなり、接着力が十分でなくなる。また、シロキサン重合体セグメント(β)の含有割合が上記範囲よりも少ない場合には、(B)不飽和エステル・シロキサンブロック共重合体のシリコーン樹脂とのなじみが悪くなるため、やはり接着力が十分でなくなる。
【0052】
また、(B)不飽和エステル・シロキサンブロック共重合体は、エチレン−酢酸ビニル共重合へのなじみ、溶媒への溶解性、膨潤性の点から、重量平均分子量が5000〜1000000の範囲、より好ましくは10000〜500000の範囲にあることが好ましい。(B)不飽和エステル・シロキサンブロック共重合体が、前記した式(1)の不飽和エステル系単量体の重合体セグメント(α)と、式(2)のシロキサン重合体セグメント(β)とからなるものの場合、上記した重量平均分子量の範囲になるように、式(1)におけるbの値、式(2)におけるcの値、セグメント(α)、(β)の結合形態を調整すれば良い。
【0053】
これら(B)不飽和エステル・シロキサンブロック共重合体は、一般に、ワックス状から白色粉末状の固体の外観をしている。
【0054】
なお、上記説明した(B)不飽和エステル・シロキサンブロック共重合体は、不飽和エステル系単量体の重合体セグメント(α)とシロキサン重合体セグメント(β)とが直接的に結合したブロック共重合体であっても良いが、後述するように製造の容易さ等から、これら両セグメントが、連結基を介して結合するものであっても良い。このような連結基は、両セグメントの結合性を高める2価の有機基を適宜選定して適用すれば良いが、好適には、下記式(3)
【0055】
【化10】

【0056】
〔前記式(3)においてR及びRは夫々独立して低級アルキル基又はシアノ基を表し、GはNH又は酸素原子を表し、Rは酸素原子が介在していても良い低級アルキレン基を表し、mは0〜6の整数を表し、nは0又は1を表す。〕
で示した基が挙げられる。
【0057】
上記式(3)で示した連結基において、R及びRで表される低級アルキル基としては、直鎖状でも分枝状でもよく、通常炭素数1〜6のものが挙げられ、具体的には、例えば、メチル基,エチル基,n-プロピル基,イソプロピル基,n-ブチル基,イソブチル基,t-ブチル基,s-ブチル基,n-ペンチル基,イソペンチル基,ネオペンチル基,t-ペンチル基,1-メチルペンチル基,n-ヘキシル基,イソヘキシ ル基,2-メチルペンチル基,3-メチルペンチル基が挙げられる。
【0058】
また、Rで表される、酸素原子を有していてもよい低級アルキレン基の低級アルキレン基としては、直鎖状でも分枝状でもよく、通常炭素数1〜6のものが挙げられ、具体的には、メチレン基,エチレン基,メチルメチレン基,トリメチレン基,プロピレン基,テトラメチレン基,ブチレン基,ペンタメチレン基,ペンチレン基,ヘキサメチレン基,ヘキシレン基等が挙げられる。酸素原子が介在している場合には前記低級アルキレン基の任意の位置に通常1〜2個の酸素原子を有しているものが挙げられ、具体的には、例えば-CH2-O-CH2-,-CH2CH2-O-CH2-,-CH(CH3)-O-CH2-,-CH2-O-CH2-O-CH2-,-CH2-O-CH(CH3)-,-CH2CH2CH2-O-CH2CH2-,-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH2-等が挙げられる。
【0059】
上記式(3)で示される連結基の内、最も好適なものを示せば、
【0060】
【化11】

【0061】
である。
【0062】
本発明において、これら連結基の含有割合は、ブロック共重合体全体に対し、10質量%以下であることが好ましい。
【0063】
また、(B)不飽和エステル・シロキサンブロック共重合体は、接着剤の性能を大きく損なわない少量であれば、前記不飽和エステル系単量体の重合体セグメント(α)及びシロキサン重合体セグメント(β)以外の重合体セグメントを含んでいても許容され、この場合も、こうした他の重合体セグメントの含有割合は、ブロック共重合体全体に対し、10質量%以下であることが好ましい。
【0064】
以上説明した、(B)不飽和エステル・シロキサンブロック共重合体は、公知の方法にしたがって適宜に製造すれば良い。例えば、不飽和エステル系単量体の重合体セグメント(α)とシロキサン重合体セグメント(β)とが直接的に結合したブロック共重合体であれば、ジャーナル オブ アプライド ポリマー(J.Appl.Polym.Sci.).8.2707(1964年)に記載されているように、不飽和エステル系単量体をテトラヒドロフラン等の有機溶媒中でカリウムナフタレン等のアリールカリウム化合物からなる触媒を用いてリビング重合し、次いで、オクタメチルシクロテトラシロキサン(D4)等のシクロシロキサンを添加し重合させれば得ることができる(リビングアニオン重合法)。また、ポリマー(Polymer).22〔5〕.663(1981年)に記載されているように、無溶媒下またはトルエン等の溶媒中において、末端に炭素−炭素不飽和結合を有する不飽和エステル系単量体の重合体と、両末端にSi-H基を有するシロキサン重合体とを白金等の貴金属触媒の存在下でヒドロシリル化反応させることによっても得ることができる(ヒドロシリル化法)。
【0065】
しかし、リビングアニオン重合法は各セグメントの成長を同一の反応場で行うものであり、またヒドロシリル化法は反応性の異なる末端の炭素−炭素不飽和結合とSi-H基との結合を行うものであり、それぞれ重合条件のコントロールの難しさがある。このため、(B)不飽和エステル・シロキサンブロック共重合体は、不飽和エステル系単量体の重合体とシロキサン重合体とを反応性良く結合させる連結基を介して結合させても良い。このような連結基を介在させる製造方法としては、例えば、特開2000−219715号公報に記載されているような、下記式(4)
【0066】
【化12】

【0067】
〔前記式(4)において、Bはシロキサン重合体セグメント(β)であり、R、R、G、R、m、及びnは前記と同じであり、pは1〜500の整数を表す。〕
で示されるシロキサン重合体セグメント含有化合物と不飽和エステル系単量体とを、有機溶媒中で30〜150℃に加熱して反応させる方法が挙げられる。この式(4)で示されるシロキサン重合体セグメント含有化合物において、pは1〜500、好ましくは3〜200、より好ましくは3〜50、更には3〜10の整数であることが好適である。
【0068】
上記シロキサン重合体セグメント含有化合物は主鎖にアゾ基が介在しているため加熱されると、この部分が開裂してラジカルが発生し、ここを起点に不飽和エステル系単量体のラジカル重合が進行する。その結果、不飽和エステル系単量体の重合体セグメント(α)とシロキサン重合体セグメント(β)とが、前記式(3)で示した連結基を介して連結するブロック共重合体(通常は、マルチブロック共重合体)が得られる。
【0069】
上記の上記シロキサン重合体セグメント含有化合物の具体例としては、
【0070】
【化13】

【0071】
等が挙げられる。
【0072】
本発明の接着剤において、(A)有機溶媒100重量部に対する、(B)不飽和エステル・シロキサンブロック共重合体の配合量は0.1〜20重量部である。この(B)不飽和エステル・シロキサンブロック共重合体の配合量が0.1重量部未満では、該不飽和エステル・シロキサンブロック共重合体の量が不足し、エチレン−酢酸ビニル共重合体とシリコーン樹脂との接着力が十分でなくなる。また、(B)不飽和エステル・シロキサンブロック共重合体の配合量が20重量部を越えると、接着剤が過度に高粘度になって、形成される(B)不飽和エステル・シロキサンブロック共重合体層が厚くなり過ぎ、やはり上記両材料に対する接着力が十分でなくなる。接着成分として十分量が配合され、且つ接着剤に塗布性の良好な適度な粘性を付与する観点からは、前記(B)不飽和エステル・シロキサンブロック共重合体の配合量は、0.5〜10重量部であることがより好ましく、最も好ましくは1〜5重量部である。
【0073】
[成分(A):]
本発明で用いる成分(A)有機溶媒は、上記(B)不飽和エステル・シロキサンブロック共重合体、及び接着対象であるエチレン−酢酸ビニル共重合体を溶解、又は膨潤させる作用を有する。こうした有機溶媒としては、例えば、パークロロエチレン、トリクロロエチレン、塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン系有機溶媒や、ヘキサン、ヘプタン、ペンタン等の炭化水素化合物;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族化合物;エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール等のアルコール化合物;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、t−ブチルメチルエーテル等のエーテル化合物;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン化合物;ぎ酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル等のエステル化合物;などの非ハロゲン系有機溶媒を挙げることができる。これらの中でも、エチレン−酢酸ビニル共重合体の溶解性、膨潤性が良く、高い接着性が得られることから、パークロロエチレン、トリクロロエチレン、塩化メチレン等のハロゲン系有機溶媒;トルエン、ベンゼン等の芳香族化合物;テトラヒドロフラン等のエーテル化合物がより好ましく、塩化メチレン、トルエン、テトラヒドロフランが最適である。これらの(A)有機溶媒は、複数種を混合して用いてもよい。
【0074】
[他の成分:]
本発明の接着剤は、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、上述した(A)及び(B)の成分以外に、着色剤、香料等の添加剤を含有していてもよい。
【0075】
[接着剤の調製]
本発明の接着剤は、(B)不飽和エステル・シロキサンブロック共重合体を、(A)有機溶媒に溶解又は膨潤させることで簡単に調製することができる。
【0076】
<接着剤の使用方法について>
上述した本発明の接着剤は、エチレン−酢酸ビニル共重合体とシリコーン樹脂との接着剤として使用される限り、その使用方法は特に限定されない。代表的な操作方法は、エチレン−酢酸ビニル共重合体表面に該接着剤を塗布し、溶媒を蒸発させて不飽和エステル・シロキサンブロック共重合体層を形成し、その上にシリコーン樹脂の未硬化ペーストを盛り、硬化させる方法である。シリコーン樹脂は、硬化と同時に不飽和エステル・シロキサンブロック共重合体層を介してエチレン−酢酸ビニル共重合体に接着し、硬化終了時に接着は完了する。この際、本発明の接着剤においては、前述したとおり、1度塗布して乾燥させた後に更に重ね塗りしても、その高い接着強度が保持できるという特徴を有する。
【0077】
ここで、接着対象であるエチレン−酢酸ビニル共重合体は、公知のものが制限なく使用できる。エチレン−酢酸ビニル共重合体中のエチレン単位と酢酸ビニル単位の含有割合は、有機溶媒への溶解性・膨潤性と共重合体の性状(強度、柔軟性)の点からエチレン単位が99.5〜60質量%であり、酢酸ビニル単位が0.5〜40質量%であるのが好ましい。さらに、エチレン単位が95〜70質量%であり、酢酸ビニル単位が5〜30質量%であるのがより好ましい。また、樹脂性状に大きく影響しない範囲(通常は10質量%以内)で、共重合可能な他の重合性単量体に由来した単位が含有されていても良い。このような共重合可能な他の重合性単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、塩化ビニル、スチレンなどが挙げられる。
【0078】
また、樹脂性状を大きく損なわない範囲で、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、着色剤、結晶核剤、可塑剤等の各種添加剤が添加されていてもよい。これらの添加剤の含有量は、通常、エチレン−酢酸ビニル共重合体100重量部に対して0.01〜5重量部の範囲である。
【0079】
また、マウスガードとして必要な性状(硬さ、柔軟性)と接着剤との接着性を損なわない範囲で、エチレン−酢酸ビニル共重合体とその他の重合体が混合されたものを使用しても良い。混合しても良いその他の重合体としては、例えば、ポリエチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカプロラクトン、ポリ(メタ)アクリル酸メチルなどが挙げられ、その含有量は、通常、エチレン−酢酸ビニル共重合体100重量部に対して80重量部以内である。
【0080】
また、本発明の接着剤の接着対象であるシリコーン樹脂は、シロキサン結合を主鎖とする重合体(オルガノポリシロキサン)からなり、通常は、硬化後に良好な柔軟性を有しているものが用いられる。このような柔軟性を有するシリコーン樹脂としては、公知のものが制限なく使用できる。硬化させるための重合様式としては、熱加硫型、縮合型、付加型、紫外線硬化型等が挙げられるが、患者の口腔内で直接硬化させることができ、しかも副生成物が発生しないことから常温付加重合型(ハイドロシリレーション反応硬化性)が好ましい。
【0081】
このような常温付加重合型のシリコーン樹脂になる硬化性組成物としては、
(i)末端に炭素−炭素不飽和結合を持つ有機基を分子中に少なくとも2個有するオルガノポリシロキサン、
(ii)SiH基を分子中に少なくとも3個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン、
(iii)ヒドロシリル化触媒、及び
(iv)シリコーン樹脂系充填材及び/又はシリカ系充填材、
を含んでなるものが好ましい。また、該シリコーン樹脂系硬化性組成物は、さらに、
(v)SiH基を分子中に1個又は2個存在するオルガノハイドロジェンポリシロキサン、
を含有しているのが好ましい。成分(v)を配合すると、硬化体の弾性率が小さくなる傾向があり、粘弾性を調節しやすくなる。
【0082】
これらのシリコーン樹脂系硬化性組成物で使用される各成分の詳細は、特開平10−226613号、特開2001−79020号公報等により公知であり、本発明でもこれらで説明されるものと同様のものが使用される。
【0083】
このようなシリコーン樹脂系硬化性組成物は、通常、所謂二液混合方式により使用される。即ち、硬化触媒を含むA材と硬化触媒を含まないB材(何れの材も液状或いはペースト状である)を別々に調整して保存しておき、使用直前に両者を混練することにより硬化させて使用される。
【0084】
また、シリコーン樹脂系硬化性組成物には、硬化物の物性を損なわない範囲で、上記したもの以外の各種充填剤及び各種添加剤を添加してもよい。
【0085】
本発明の接着剤によれば、シリコーン樹脂系硬化性組成物の硬化と同時に、該シリコーン樹脂をエチレン−酢酸ビニル共重合体に短時間で強固に接着させることができる。

(エチレン−酢酸ビニル共重合体からなるマウスガードの補修や調整への使用)
エチレン−酢酸ビニル共重合体からなるマウスガードにおいて、使用中の噛み締め等によるマウスガード咬合面部分の擦り切れや孔などが生じた場合や、マウスガード装着時の咬合関係や適合性を修正したい場合に、本発明の接着剤とシリコーン樹脂系硬化性組成物を用いることでマウスガードの補修や調整を容易に行う事ができる。以下に代表的な方法を示すが、これに限定されるものではない。
【0086】
エチレン−酢酸ビニル共重合体からなるマウスガードを基体とし、その補修したい部分や調整したい部分を十分に洗浄し乾燥する。次いで、その補修、調整したい部分に、本発明の接着剤を塗布し、有機溶媒を蒸発させる。有機溶媒の蒸発後、前記接着剤の塗布部分に表層材としてシリコーン樹脂の未硬化ペーストを盛り付け、硬化する前に使用者の歯列、又は使用者の歯列模型に被装させる。そうして、この被装されたシリコーン樹脂の未硬化ペーストを硬化させることでマウスガードの補修または調整を行うことができる。
【0087】
(シェルライナー型マウスガードの製造方法への使用)
本発明の接着剤は、基体が、該エチレン−酢酸ビニル共重合体製で、その内外表面に、シリコーン樹脂からなる表層材が接着された形態のマウスガードを製造する際に、効果的に使用される。こうした形態のマウスガードとしては、前記シェルライナー型マウスガードが代表的である。すなわち、シェルライナー型マウスガードとは、マウスガード基体であるシェルの内表面に、口腔内歯列との間の補隙層としてシリコーン樹脂がライニングされた形態のマウスガードのことを言う。その製造は、前記特許文献2に示されるような方法であり、その実施に際して本発明の接着剤を用いることで、耐久性があり、界面に汚れが付着しにくく衛生的なマウスガードを製造する事ができる。以下に具体的な製造方法を示すが、これに限定されるものではない。
【0088】
すなわち、エチレン−酢酸ビニル共重合体からなるマウスガードシェルをマウスガード基体とし、その内表面に該接着剤を塗布し、溶媒を蒸発させる。溶媒蒸発後、該接着剤を塗布した内表面にライナーとなるシリコーン樹脂の未硬化ペーストをライニングする。次いで、内表面にシリコーン樹脂の未硬化ペーストがライニングされたマウスガードシェルをマウスガード使用者の歯列に被装し形状適合させる。歯列に被装させた状態で該硬化性シリコーン樹脂の未硬化ペーストを硬化させることでシェルライナー型マウスガードを製造する事ができる。
【0089】
また、マウスガードの機能を損なわない範囲で、ライナーの余剰部分を切るまたは削るなどの成形を行っても良い。また、マウスガードの機能を損なわない範囲で、シェルとライナーの間にネームプレートやデザインシート等のマウスガード使用者(所有者)を識別できるものを入れてもよい。
【0090】
なお、マウスガードシェルの成形方法は、公知の方法であれば何ら制限無く使用する事ができる。例えば、マウスガードシェルの金型に溶融したエチレン−酢酸ビニル共重合体を射出して成形する方法や、加熱して軟化させたエチレン−酢酸ビニル共重合体をマウスガードシェルの金型や模型に圧接して成形する方法などがある。
【0091】
マウスガードシェルの形状に何ら制限はないが、充分に衝撃を吸収しかつ装着感のよいマウスガードを製造する為に、マウスガードシェルの厚みが0.5mmから3mmで、マウスガード内表面と歯列との間に0.5mmから3mmの間隙(シリコーン樹脂がライニングされる補隙層)を有するような形状である事が好ましい。
【0092】
また、マウスガードシェルの用意について何ら制限はないが、簡便に素早く装着感の良いマウスガードを製造する為に、S,M,Lのような数サイズの既製マウスガードシェルを用意しておき、その中から使用者の歯列の大きさにあったものを選ぶ事が好ましい。
【実施例】
【0093】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。試験に用いた材料を以下に示す。
〔成分(A)有機溶媒〕
・塩化メチレン(和光純薬、特級)
・酢酸エチル(和光純薬、特級)
・トルエン(和光純薬、特級)
・テトラヒドロフラン(和光純薬、特級)

〔成分(B)不飽和エステル・シロキサンブロック共重合体〕
共重合体(イ)の合成
下記式で示されるシロキサン重合体セグメント含有化合物
【0094】
【化14】

【0095】
を36g、メチルメタクリレート60g及びイソプロパノール500gを混合し、窒素雰囲気下、80℃で6時間重合した。重合終了後、反応液に純水1000gを注入し、ブロック共重合体を粉末状に晶析させた。該晶析物を濾取し、減圧下80℃で6時間乾燥させ、夫々下記式で表される、不飽和エステル系単量体セグメント(α)とシロキサン重合体セグメント(β)とからなるブロック共重合体(イ)を得た。得られたポリマーの重量平均分子量はポリスチレン標準で、170000であった。
【0096】
【化15】

【0097】
共重合体(ロ)の合成
共重合体(イ)の合成方法において、使用するシロキサン重合体セグメント含有化合物を下記式で示される化合物
【0098】
【化16】

【0099】
を38gに代えた以外は、共重合体(イ)と同様にして、夫々下記式で表される、不飽和エステル系単量体セグメント(α)とシロキサン重合体セグメントセグメント(β)とからなるブロック共重合体(ロ)を得た。得られたポリマーの重量平均分子量はポリスチレン標準で、180000であった。
【0100】
【化17】

【0101】
共重合体(ハ)の合成
共重合体(イ)の合成方法において、使用するシロキサン重合体セグメント含有化合物を下記式で示される化合物
【0102】
【化18】

【0103】
を11gに代えた以外は、共重合体(イ)と同様にして、夫々下記式で表される、不飽和エステル系単量体セグメント(α)とシロキサン重合体セグメントセグメント(β)とからなるブロック共重合体(ハ)を得た。得られたポリマーの重量平均分子量はポリスチレン標準で、130000であった。
【0104】
【化19】

【0105】
共重合体(ニ)の合成
共重合体(イ)の合成方法において、使用するシロキサン重合体セグメント含有化合物を下記式で示される化合物
【0106】
【化20】

【0107】
を84gに代えた以外は、共重合体(イ)と同様にして、夫々下記式で表される、不飽和エステル系単量体セグメント(α)とシロキサン重合体セグメントセグメント(β)とからなるブロック共重合体(ニ)を得た。得られたポリマーの重量平均分子量はポリスチレン標準で、270000であった。
【0108】
【化21】

【0109】
共重合体(ホ)の合成
共重合体(イ)の合成方法において、メチルメタクリレートを225gに代えた以外は、共重合体(イ)と同様にして、夫々下記式で表される、不飽和エステル系単量体セグメント(α)とシロキサン重合体セグメントセグメント(β)とからなるブロック共重合体(ホ)を得た。得られたポリマーの重量平均分子量はポリスチレン標準で、500000であった。
【0110】
【化22】

【0111】
共重合体(へ)の合成
共重合体(ハ)の合成方法において、メチルメタクリレートを12gに代えた以外は、共重合体(ハ)と同様にして、夫々下記式で表される、不飽和エステル系単量体セグメント(α)とシロキサン重合体セグメントセグメント(β)とからなるブロック共重合体(ヘ)を得た。得られたポリマーの重量平均分子量はポリスチレン標準で、43000であった。
【0112】
【化23】

【0113】
共重合体(ト)の合成
共重合体(イ)の合成方法において、メチルメタクリレートの代わりに酢酸ビニル51gを用いた以外は、共重合体(イ)と同様にして、夫々下記式で表される、不飽和エステル系単量体セグメント(α)とシロキサン重合体セグメントセグメント(β)とからなるブロック共重合体(ト)を得た。得られたポリマーの重量平均分子量はポリスチレン標準で、170000であった。
【0114】
【化24】

【0115】
共重合体(チ)の合成
共重合体(イ)の合成方法において、メチルメタクリレートの量を27gに代え、更に酢酸ビニル23gを加えて合成を行った以外は、共重合体(イ)と同様にして、夫々下記式で表される、不飽和エステル系単量体セグメント(α)とシロキサン重合体セグメントセグメント(β)とからなるブロック共重合体(チ)を得た。得られたポリマーの重量平均分子量はポリスチレン標準で、170000であった。
【0116】
【化25】

【0117】
共重合体(リ)の合成
共重合体(イ)の合成方法において、使用するシロキサン重合体セグメント含有化合物を下記式で示される化合物
【0118】
【化26】

【0119】
を57gに、メチルメタクリレートを9gに代えた以外は、共重合体(イ)と同様にして、夫々下記式で表される、不飽和エステル系単量体セグメント(α)とシロキサン重合体セグメントセグメント(β)とからなるブロック共重合体(リ)を得た。得られたポリマーの重量平均分子量はポリスチレン標準で、750000であった。
【0120】
【化27】

【0121】
共重合体(ヌ)の合成
共重合体(リ)の合成方法において、メチルメタクリレートを38gに代えた以外は、共重合体(リ)と同様にして、夫々下記式で表される、不飽和エステル系単量体セグメント(α)とシロキサン重合体セグメントセグメント(β)とからなるブロック共重合体(ヌ)を得た。得られたポリマーの重量平均分子量はポリスチレン標準で、1070000であった。
【0122】
【化28】

【0123】
〔比較成分(B’)メタクリレート系ランダム共重合体〕
共重合体(ル)の合成
フラスコにメチルメタクリレートを25g、アリルメタクリレートを0.63g、アゾビスイソブチロニトリルを0.26g、トルエンを30ml入れ、窒素をバブリングしながら70℃に加熱攪拌してメチルメタクリレートとアリルメタクリレートのランダム共重合体を晶析させた。該晶析物を濾取し、減圧下80℃で6時間乾燥させ、下記式で表される2種の単量体単位からなるランダム共重合体(ル)を得た。得られたポリマーの重量平均分子量はポリスチレン標準で、120000であった。
【0124】
【化29】

〔比較成分(B”)不飽和エステル・シロキサングラフト共重合体〕
共重合体(ヲ)の合成
フラスコにメチルメタクリレートを25g、アリルメタクリレートを0.63g、アゾビスイソブチロニトリルを0.26g、トルエンを30ml入れ、窒素をバブリングしながら70℃に加熱攪拌してメチルメタクリレートとアリルメタクリレートの共重合比50対1(モル比)の共重合体(重量平均分子量120000)を得た。
【0125】
フラスコに、下記式のハイドロジェンシロキサン化合物
【0126】
【化30】

【0127】
を27.7g、トルエンを300ml、白金1000ppmに調節した白金/ジビニルシロキサン錯体溶液を0.33g入れ、窒素をバブリングしながら80℃に加熱、攪拌した。上述の方法で合成したメチルメタクリレートとアリルメタクリレートの共重合比50対1(モル比)の共重合体(重量平均分子量120000)5gをトルエン100mlに溶解した溶液を1時間かけて滴下した。その後、滴下終了後更に6時間加熱、攪拌し、トルエンを減圧除去後、メタノール/エタノール混合溶媒で過剰の上記ハイドロジェンシロキサン化合物を洗浄した後、濾別、乾燥し、下記式で表される不飽和エステル・シロキサングラフト共重合体(ヲ)を得た。得られたポリマーの重量平均分子量はポリスチレン標準で、180000であった。
【0128】
【化31】

【0129】
上記方法で製造した各共重合体(イ)〜(ル)について、表1にまとめた。
【0130】
【表1】

【0131】
以下の実施例及び比較例において、接着強度の測定に使用した常温付加重合型シリコーン樹脂は、以下に示すA1、A2ペースト及びB1、B2ペーストを同量ずつ混練して硬化させたものである。
A1ペースト:
・ポリジビニルジメチルシロキサン 「ME91」(東芝シリコーン) 50重量部
【0132】
【化32】

【0133】
・ポリジビニルジメチルシロキサン 「XC86−A9723」(東芝シリコーン) 50重量部
【0134】
【化33】

【0135】
・白金/ビニルシロキサン錯体溶液(白金1000ppm、Pt/V2) 0.3重量部
・ポリメチルシルセスキオキサン微粒子(粒径3μm、メチルトリメトキシシランを加水分解して得られたもの) 40重量部

A2ペースト:
・ポリジビニルジメチルシロキサン 「ME91」(東芝シリコーン) 50重量部
・ポリジビニルジメチルシロキサン 「XC86−A9723」(東芝シリコーン) 50重量部
・ポリハイドロジェンメチルシロキサン
「DMS−M20H20」(信越化学) 2重量部
【0136】
【化34】

【0137】
「TSL9586」(東芝シリコーン) 7重量部
【0138】
【化35】

【0139】
これらのA1及びA2ペーストを同量ずつ混練して得たシリコーン樹脂硬化体の引張強度は約2.0MPaである。

B1ペースト:
・ポリジビニルジメチルシロキサン 「ME91」(東芝シリコーン) 60重量部
・ポリジビニルジメチルシロキサン 「XC86−A9723」(東芝シリコーン) 40重量部
・白金/ビニルシロキサン錯体溶液(白金1000ppm、Pt/V2) 0.3重量部
・シリカ粉末(一次粒径0.01μm、レオロシールMT−10:トクヤマ) 10重量部
・ポリプロピレングリコール(分子量3000、和光純薬) 0.1重量部
B2ペースト:
・ポリジビニルジメチルシロキサン 「ME91」(東芝シリコーン) 40重量部
・ポリジビニルジメチルシロキサン 「XC86−A9723」(東芝シリコーン) 60重量部
・ポリハイドロジェンメチルシロキサン 「DMS−M20H20」(信越化学) 3重量部
・シリカ粉末(「レオロシールMT−10」(トクヤマ)10重量部
・ポリプロピレングリコール(和光純薬)0.1重量部
これらのB1及びB2ペーストを同量ずつ混練して得たシリコーン樹脂硬化体の引張強度は約2.0MPaである。
【0140】
接着力、接着耐久性及びマウスガードの衛生性の評価に関する操作、測定手順及び評価基準は、それぞれ下記に示すとおりである。
【0141】
(a)接着力の評価
縦3cm、横3cm、厚み1.5mmのエチレン−酢酸ビニル共重合体のシートに、調製した接着剤をトクソー毛筆No.5(トクヤマデンタル社製)を用い、筆に十分に接着剤を含ませた状態で塗布し、A1、A2両ペースト、またはB1、B2両ペーストを同量ずつ取り、よく混練し、接着剤を塗布したエチレン−酢酸ビニル共重合体のシート上に盛り付けた。盛り付けたペーストが硬化する前に、直径6mm、高さ2cm、円柱状のポリメチルメタアクリレート製引張試験用ロッドの底面を「ソフリライナー用プライマー」(トクヤマデンタル社製)でプライミング処理を行い、硬化前のペーストの上に処理を行った面を乗せ、圧接した。ロッドの脇に出てきた余剰なペーストをとり、これを25℃で10分間静置してペーストを硬化させた。硬化後、オートグラフ(島津製作所社製)を用い、引張試験を行った。接着剤の塗布条件は、1度塗りとした。
【0142】
各条件毎に5回試験を行い、5回の平均が800kPa以上であるものを◎、400kPa以上、800kPa未満のものを○、100kPa以上、400kPa未満のものを△、100kPa未満のものを×とし、接着力の評価とした。
【0143】
(b)接着耐久性の評価
接着力の評価と同様に、引張試験用の試験体を作製した。接着剤の塗布条件は、1度塗りとした。
【0144】
上記方法で作製した試験体を37℃水中に24時間浸漬させ、その後、熱衝撃試験機(トーマス科学器械株式会社)を用いて4℃、60℃の熱サイクル試験を5000回行った。熱サイクル試験後の試験体について、接着力の評価と同様に、それぞれオートグラフによる引張試験を行った。
【0145】
各条件毎に5回試験を行い、5回の平均が800kPa以上であるものを◎、400kPa以上、800kPa未満のものを○、100kPa以上、400kPa未満のものを△、100kPa未満のものを×とし、接着耐久性の評価とした。
【0146】
(c)マウスガードの衛生性の評価
エチレン−酢酸ビニル共重合体からなるマウスガードシェルの内表面に調整した接着剤を塗布し、溶媒を充分に乾燥させた。接着剤の塗布条件は、1度塗りとした。A1、A2両ペースト、またはB1、B2両ペーストを同量ずつ取り、よく混練し、接着剤を塗布した面に盛り付けた。シリコーン樹脂の未硬化ペーストを盛り付けたマウスガードシェルを歯列模型に被装し形状適合させた。シリコーン樹脂未硬化ペーストを硬化させてシェルライナー型マウスガードを作製した。
【0147】
上記方法で作製したマウスガードを7.4wt%コーヒー(ネスカフェエクセラ、ネスレ日本製)水溶液に浸漬し、攪拌しながら60℃で5時間保持した。その後、水洗、乾燥し、エチレン−酢酸ビニル共重合体とシリコーン樹脂の界面の着色を観察し、以下の判定に従い、AからDの4段階で評価した。
A:着色なし
B:界面の1割未満が着色している
C:界面の5割未満が着色している
D:界面の5割以上が着色している
各条件毎に5回試験を行い、5回全てがAであるものを◎、5回の試験結果がAまたはBで、CとDを含まないものを○、5回の試験結果がA、B、またはCで、Dを含まないものを△、5回試験結果にDを含むものを×とし、界面の着色性によってマウスガードの衛生性の評価とした。
【0148】
(d)接着剤重ね塗りによる接着力への影響の評価
接着剤の塗布条件を2度塗り(1回目の塗布後、溶剤が乾燥してから同様の方法で再度接着剤の塗布行う)に変更を行う以外は、(a)接着力の評価と同様に、引張試験用の試験体を作製し、オートグラフによる引張試験を行った。評価方法についても(a)接着力の評価と同様の評価を行い、重ね塗りした際の接着力を評価した。
【0149】
実施例1
表2に示すように、塩化メチレン(有機溶媒)100重量部に対して、不飽和エステル・シロキサンブロック共重合体〔共重合体(イ)〕1.5重量部を添加混合して溶液状の本発明の接着剤を調製した。また、常温付加型シリコーン樹脂としてA1、A2ペーストを用いた。調製した接着剤を用いて接着力、耐久性及び衛生性を評価したところ、表3に示したようにいずれも良好であった。
【0150】
実施例2〜24
表2に示す組成とする他は実施例1と同様にして接着剤を調製し、接着力、耐久性及び衛生性の評価を行った。その結果を表3に示す。いずれの接着剤を用いた場合においても良好であった。
【0151】
実施例25
表2に示すように、常温付加型シリコーン樹脂としてB1、B2ペーストを用いた他は実施例1と同様にして接着剤を調製し、接着力、耐久性及び衛生性の評価を行った。その結果を表3に示す。いずれの接着剤を用いた場合においても良好であった。
【0152】
比較例1
表2に示すように、接着剤を用いず、実施例1と同様の方法で試料を作製し、接着力、耐久性及び衛生性の評価を行った。その結果を表3に示す。いずれも全く接着せず、耐久性、衛生性も悪かった。
【0153】
比較例2
表2に示すように、不飽和エステル・シロキサンブロック共重合体を加えずに溶媒(塩化メチレン)のみを用いて、実施例1と同様にして接着力、耐久性及び衛生性の評価を行った。その結果を表3に示す。いずれも全く接着せず、耐久性、衛生性も悪かった。

比較例3
表2に示すように、実施例1において、不飽和エステル・シロキサンブロック共重合体〔共重合体(イ)〕に代えて、シロキサン重合体セグメントを含まない不飽和エステル系重合体として、メチルメタクリレートとアリルメタクリレートを50:1(モル比)で共重合した重合体〔共重合体(ル)〕を用いて、実施例1と同様にして接着剤を調整し、接着力、耐久性及び衛生性の評価を行った。その結果を表3に示す。いずれも全く接着せず、耐久性、衛生性も悪かった。
【0154】
比較例4
表2に示すように、実施例1において、不飽和エステル・シロキサンブロック共重合体〔共重合体(イ)〕に代えて、ハイドロジェンシロキサン化合物「DMS−M20H20」を用いて、実施例1と同様にして接着剤を調整し、接着力、耐久性及び衛生性の評価を行った。その結果を表3に示す。いずれも全く接着せず、耐久性、衛生性も悪かった。
【0155】
比較例5
表2に示すように、エチレン-酢酸ビニル共重合体に対する不溶性の溶媒として水を用いて、実施例1と同様にして接着剤を調整し、接着力、耐久性及び衛生性の評価を行った。その結果を表3に示す。いずれも全く接着せず、耐久性、衛生性も悪かった。
【0156】
比較例6、7
表2に示すように、共重合体(イ)の添加量を極少量または過剰量とした以外は、実施例1と同様にして接着剤を調整し、接着力、耐久性及び衛生性の評価を行った。その結果を表3に示す。ほとんど接着せず、耐久性、衛生性も悪かった。
【0157】
【表2】

【0158】
【表3】

【0159】
実施例26〜28
表2に示す組成において、接着剤重ね塗りによる接着力への影響の評価を行った。その結果を表4に示す。重ね塗りした際の接着力は、1度塗りした際の接着力と変わらず良好な接着力であり、重ね塗りによる接着力への影響は見られなかった。
【0160】
比較例8
表2に示すように、不飽和エステル・シロキサンブロック共重合体に代えて、不飽和エステル・シロキサングラフト共重合体〔共重合体(ヲ)〕を用いた以外は、実施例1と同様にして接着剤を調整し、1度塗りした際の接着力の評価及び重ね塗りによる接着力への影響の評価を行った。その結果を表4に示す。重ね塗りにより接着力の低下が見られた。
【0161】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)有機溶媒100重量部、及び
(B)不飽和エステル系単量体の重合体セグメント(α)とシロキサン重合体セグメント(β)を主たる構成成分として含有するブロック共重合体0.1〜20重量部
を含んでなるエチレン−酢酸ビニル共重合体とシリコーン樹脂との接着剤。
【請求項2】
(B)不飽和エステル系単量体の重合体セグメント(α)とシロキサン重合体セグメント(β)を主たる構成成分として含有するブロック共重合体において、該シロキサン重合体セグメント(β)が、ハイドロシリレーション反応の反応性官能基を有している、請求項1記載の接着剤。
【請求項3】
(B)不飽和エステル系単量体の重合体セグメント(α)とシロキサン重合体セグメント(β)を主たる構成成分として含有するブロック共重合体が、不飽和エステル系単量体の重合体セグメント(α)が下記式(1)で示されるセグメントからなり、シロキサン重合体セグメント(β)が下記式(2)で示されるセグメントからなるものである、請求項1又は請求項2記載の接着剤。
【化1】

〔前記式(1)において、
は、水素原子、メチル基、又はエチル基を示し、
は、炭素数1〜14の炭化水素基を示し、
Aは、COO又はOCOで表されるエステル結合を示し、
1セグメント内における、Rの夫々、Rの夫々、及びAの夫々は、異種であっても良く、
bは、1セグメント内での平均繰り返し単位数を示し、10〜400の数である。〕
【化2】

〔前記式(2)において、
〜Rは、水素原子又は炭素数1〜14の炭化水素基を示し、
1セグメント内における、Rの夫々、及びRの夫々は、異種であっても良く、
cは、1セグメント内での平均繰り返し単位数を示し、10〜400の数である。〕
【請求項4】
上記式(1)で示される不飽和エステル系単量体の重合体セグメント(α)と上記式(2)で示されるシロキサン重合体セグメント(β)を主たる構成成分として含有するブロック共重合体において、該式(2)で示されるシロキサン重合体セグメント(β)が、R〜Rの一部が、水素原子又は重合性不飽和炭化水素基であるセグメントである、請求項3記載の接着剤。
【請求項5】
(B)不飽和エステル系単量体の重合体セグメント(α)とシロキサン重合体セグメント(β)を主たる構成成分として含有するブロック共重合体が、不飽和エステル系単量体の重合体セグメント(α)とシロキサン重合体セグメント(β)との質量比が1:0.1〜2であり、重量平均分子量が5000〜1000000の重合体である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の接着剤。
【請求項6】
(B)不飽和エステル系単量体の重合体セグメント(α)とシロキサン重合体セグメント(β)を主たる構成成分として含有するブロック共重合体において、これら両セグメントが連結基を介して結合したものである、請求項1〜5のいずれか一項に記載の接着剤。
【請求項7】
エチレン−酢酸ビニル共重合体がマウスガード基体であり、シリコーン樹脂がマウスガード基体の内外表面に接着させる表層材である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の接着剤。
【請求項8】
マウスガード基体がシェルライナー型マウスガードのシェルであり、表層材が該シェルの内側にライニングするライナーである、請求項1〜7のいずれか一項に記載の接着剤。
【請求項9】
エチレン−酢酸ビニル共重合体製マウスガードシェルの内表面に請求項1〜6のいずれか一項に記載の接着剤を塗った後、シリコーン樹脂の未硬化ペーストをライニングし、次いで、得られた内表面にシリコーン樹脂未硬化ペーストがライニングされたマウスガードシェルを歯列に被装し形状適合させた後、該シリコーン樹脂未硬化ペーストを硬化させることを特徴とするシェルライナー型マウスガードの製造方法。

【公開番号】特開2012−51955(P2012−51955A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−193023(P2010−193023)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(391003576)株式会社トクヤマデンタル (222)
【Fターム(参考)】