説明

エチレンイミン重合体およびその製造方法

【課題】低着色で、その経時変化も少なく、さらには分子量分布の狭い工業的に要求される品質基準に適合した高純度エチレンイミン重合体を提供する。
【解決手段】エチレンイミンを重合してエチレンイミン重合体を製造する際に、重合中の気相部の雰囲気を酸素濃度の低い不活性ガス雰囲気にして、さらに反応溶液の温度と反応熱を除去する熱媒の温度を特定の範囲に維持しながら重合することを特徴とするエチレンイミン重合体の製造方法により達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレンイミン重合体およびその製造方法に関するものである。さらに詳しくは、本発明は、エチレンイミンを開環重合させるエチレンイミン重合体の製造方法、並びに、エチレンイミン重合体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エチレンイミン重合体は紙加工剤、接着剤、粘着剤、塗料、インキ、繊維処理剤、凝集分離剤、化粧品、トイレタリー、分散剤などの分野で幅広く利用され、一般に、主鎖に二級アミンを有するポリマーであるエチレンイミン重合体は、エチレンイミンを塩酸や硫酸等の酸触媒の存在下で開環重合することにより製造されている。特許文献1には、酸触媒とエチレンジアミン等のアミン中にエチレンイミンを滴下し、重合する際に、アミンとエチレンイミンのモル比を変えることによって重合体の分子量を制御することが開示されている。特許文献2には、エチレンイミンをポリメタロオキソ酸塩の存在下で重合させることにより、分岐の少ないエチレンイミン重合体、具体的には、分岐度が0を越え、30%以下であるエチレンイミン重合体を製造することができることを開示している。特許文献3にはエチレンイミンを溶剤中で触媒の存在下で温度少なくとも80℃で、均一液相中で、内径に対する長さの比が少なくとも5である管型反応器中で重合することによる、エチレンイミンのホモポリマーの連続的な製造方法。第二級窒素原子40〜60%を含有しておりかつ分散度(Mw/Mn比)1.5〜3を有するエチレンイミン重合体が得られることを開示している。特許文献4は、モノエタノールアミンを触媒の存在下に分子内脱水反応させて得られる粗エチレンイミンを有効量の酸触媒、例えば塩酸の存在下に0〜200℃で反応することによりエチレンイミン重合体が得られることが開示されている。
【0003】
しかしながら、エチレンイミン重合体は製造工程、貯蔵、運搬、使用時など経時的に黄変、さらには褐色に着色しやすいことが問題となった。そのため外観が問題となる用途、例えば食品の包装フィルム用や洗剤用原料、インク、塗料など外観を重視する用途によってはエチレンイミン重合体の使用制限を受けることがあった。そのため、かかる変色を防止する方法として、下記の方法が知られている。例えば、ポリアリルアミンやポリエチレンイミンの水溶性の混合物に、リン酸、クエン酸、酒石酸などの酸を添加する方法(特許文献5参照)、ポリアミンにホウ素化合物を添加することによる変色防止法(特許文献6参照。)、ポリアミンに、ケイ酸化合物および/または該ポリアミンよりも高い塩基性を有する塩基性化合物を添加することにより変色防止法(特許文献7参照)、着色抑制剤として有機リン酸エステル化合物の添加(特許文献8)が提案されている。
【0004】
しかし、各種の酸、ホウ素化合物、塩基性化合物または燐酸エステル化合物等の着色抑制剤は使用時の着色、ラミネートフィルム等の使用製品の着色を抑制する目的としたものであり、また各種抑制剤の添加は純度を低下させる要因となるため、根本的に低着色で高純度のエチレンイミン重合体およびその製造方法が望まれており改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭49−33120号公報
【特許文献2】特開平11−158271号公報
【特許文献3】特表2000−501757号公報
【特許文献4】特開2001−213958号公報
【特許文献5】特開平6−240154号公報
【特許文献6】特開平9−255870号公報
【特許文献7】特開平11−236445号公報
【特許文献8】特開2006−131668号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記問題点に鑑み、本発明は、着色の少ない高純度エチレンイミン重合体及びその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らの研究によれば、前記課題は下記発明により達成できることがわかった。
(1)エチレンイミンを重合してエチレンイミン重合体の製造方法であって、酸素濃度2体積%以下の不活性ガス雰囲気下で、重合時の反応溶液温度が80〜160℃になるようにエチレンイミンを重合させ、かつ重合中の反応熱を除去する熱媒の温度を40℃以上で行うことを特徴とするエチレンイミン重合体の製造方法。
(2)重合反応後に80〜160℃の温度で熟成することを特徴とする(1)記載のエチレンイミン重合体の製造方法。
(3)反応溶液温度が110〜130℃になるようにエチレンイミンを重合させ、次いで110〜130℃の温度で熟成することを特徴とする(1)または(2)記載のエチレンイミン重合体の製造方法。
(4)(1)から(3)のいずれかに記載の重合を反応液の最終液量(m)当りの撹拌動力(kW)の比率(PV値=撹拌動力/最終液量)が5kW/m以上であることを特徴とする(1)から(3)のいずれかに記載のエチレンイミン重合体の製造方法。
(5)エチレンイミンを重合して得られたエチレンイミン重合体を下記(A)〜(C)のいずれかの操作で処理することを特徴とする(1)から(4)のいずれかに記載のエチレンイミン重合体の製造方法。
A:エチレンイミン重合体中に不活性ガスをバブリングする。
B:エチレンイミン重合体に水を添加、混合した後、水を蒸発除去する。
C:エチレンイミン重合体に水を添加、混合した後、水を蒸発除去するとともに、エチレンイミン重合体に不活性ガスをバブリングする。
(6)着色度合いの指標となるハーゼン単位色数が100以下であることを特徴とするエチレンイミン重合体。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、重合反応後だけでなく、長期に保存しても着色の少ない高純度エチレンイミン重合体を製造することができる。さらに、本発明の着色の少ない高純度エチレンイミン重合体は、分子量分布の狭いエチレンイミン重合体でもある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明にかかるエチレンイミン重合体の製造方法は、エチレンイミンを重合する際に、酸素濃度2体積%以下の雰囲気下で、重合時の反応溶液温度が80〜160℃になるようにエチレンイミンを重合させ、かつ重合中の反応熱除去する熱媒の温度を40℃以上で行うエチレンイミン重合体の製造方法である。また、本発明にかかる高純度エチレンイミン重合体は、ハーゼン単位色数100以下であるエチレンイミン重合体である。
【0010】
本発明に用いるエチレンイミンには特に制限はなく、例えば、液相でハロゲン化エチルアミンを濃アルカリにより分子内閉環する方法、モノエタノールアミン硫酸エステルを熱濃アルカリにより分子内閉環する方法(以下、液相法ともいう)、あるいはモノエタノールアミンを触媒的気相分子内脱水反応させる方法(以下、気相法ともいう)により得られるエチレンイミンを用いることができる。
【0011】
気相法により得られるエチレンイミン原料としては、モノエタノールアミンの触媒的分子内脱水反応により得られるエチレンイミン含有反応混合物を簡単な蒸留操作に供して回収した粗エチレンイミンを重合用の原料とすることができる(特許文献4参照)。尚、粗エチレンイミンを重合する場合は、例えば特開2001−261820号公報に記載のとおり、エチレンイミン重合体(以下、粗エチレンイミン重合体ということもある。)を簡便な精製操作に供して、工業的に要求される品質基準に適合した高純度ポリエチレンイミンを得ることができる。
【0012】
前記エチレンイミン含有反応混合物を高度に精製して得られる精製エチレンイミンもエチレンイミン重合体合成の原料として利用することができる。この場合、前記エチレンイミン含有反応混合物中には、目的物のエチレンイミンのほかに、未反応のモノエタノールアミンや、エチレンイミンのオリゴマー、アセトアルデヒドなどのケトン類、アセトアルデヒドと原料のモノエタノールアミンとが反応して生成するシッフ塩基などの重質不純物や、アンモニア、メチルアミンおよびエチルアミンの軽質アミン類、アセトニトリルなどの軽質不純物が含まれているので、これら不純物を高度の精製工程を経て除去し、しかる後に得られる精製エチレンイミンを重合反応に供するのである。
【0013】
高度の精製工程を経て得られる精製エチレンイミンを用いてエチレンイミン重合体を製造する技術は、高度の精製工程の実施にともなう生産コストのアップを免れず、工業的に有利とはいえないため、粗エチレンイミンがエチレンイミン原料として好適に用いられる。
【0014】
重合触媒としては、エチレンイミンの重合に一般に用いられているものを使用でき、無機酸、有機酸、炭酸ガス又はルイス酸が適当である。無機酸としては、例えば塩酸、硫酸、臭化水素酸、燐酸、有機酸としては、例えばP−トルエンスルホン酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、ルイス酸としては塩化アルミニウム等があげられ、特に酢酸、塩酸、硫酸、炭酸ガスが好適に用いられる。触媒量としては、反応を調整可能な速度で製造するためにはエチレンイミンに対して、0.1〜1質量%とするのが好適である。
【0015】
本発明においては、重合の基点となるベースアミンとして特許文献1記載の制御された分子量のエチレンイミン重合体を得るために1級アミン、2級アミン有する化合物が使用される。ベースアミンの分子量としては31〜1000の範囲のものを使用でき、例えばエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、エタノールアミン等が好適に用いられる。ベースアミン使用量は目的とするエチレンイミン重合体の分子量により適宜選択できるが、低分子のエチレンイミン重合体を得る場合はベースアミンの比率を高くし、高分子のエチレンイミン重合体を得る場合はベースアミンの比率を低くするのが良、最終エチレンイミン重合体の重量に対し1質量%〜40質量%の範囲で使用するのが好ましい。このベースアミンは反応容器内に仕込まれ重合開始の際の溶剤としての役割を有することもある。
【0016】
本発明において、エチレンイミンを重合する際には酸素濃度2体積%以下の不活性ガス雰囲気下で行うのが良い。好ましくは酸素濃度1体積%以下、より好ましくは0.5体積%以下である。2体積%を超えるとエチレンイミン重合体が着色するか、保存又は貯蔵中に着色しやすくなる。不活性ガスとしては、特に限定されるものではなく、エチレンイミンに対して反応不活性なガスであれば良く、例えば、窒素、ヘリウム、二酸化炭素、又はアルゴンを用いることができ、好適には窒素が用いられる。
【0017】
本発明において、エチレンイミンを重合する際の反応溶液温度としては80〜160℃、好ましくは110〜130℃で行われる。160℃を超える温度では、品質の安定したエチレンイミン重合体を得ることができない。なお、あまり低い温度では、重合時間が長くなって経済的でない。
【0018】
本発明において、反応熱を除去するために用いる熱媒の温度は40℃以上に維持しながら重合を行うのが良い。好ましくは45℃以上、より好ましくは50℃以上である。熱媒の温度が40℃より低いとエチレンイミン重合体水溶液の着色しやすい傾向がみられる。熱媒の上限温度は特に制限はなく、前記反応溶液温度より低く、反応温度を制御できる熱媒温度であれば良いが、反応溶液温度との差が小さいと反応時間が伸びて生産性が低下する。
【0019】
前記熱媒の温度を維持することにより、エチレンイミンの反応中に反応溶液が局部的に高粘度になることが抑制され、高効率の撹拌により局部滞留がなく均一な重合をさせることができるため、エチレンイミンの反応が均一かつ効率的に行うことができるようになる。熱媒としては、温水、水蒸気または加熱したオイル等が使用でき、工業的には温水および水蒸気が好適に用いられる。
【0020】
本発明において熟成とは、エチレンイミンの重合終了後、好ましくは供給したエチレンイミンの95%以上が消費された後の重合のことを表し、反応液を80〜160℃、好ましくは110〜130℃で熟成させる。100℃より低い温度では、熟成に長時間を要する。また、150℃より高い温度では、生成したエチレンイミン重合体の熱分解が起こり、高品質の重合体が得られないこともある。熟成時間は、通常、1〜20時間であり、好ましくは2〜10時間である。また、反応液を熟成温度まで昇温する時間は、通常、0.2〜5時間であり、好ましくは0.5〜3時間である。
【0021】
本発明におけるエチレンイミンの重合反応の際、重合触媒およびエチレンイミンは一括して添加してもよいが、発熱反応であるため、温度制御しながらそれぞれ連続的に供給するのがよい。
【0022】
重合反応は常圧、加圧のいずれでもよく、通常、0〜10MPaG、好ましくは0〜2MPaGで行う。反応液の熟成は、通常、0〜10MPaG、好ましくは0〜2MPaGで行う。ここで、MPaG(メガパスカルゲージ)はゲージ圧力のことである。
【0023】
重合反応および熟成処理は、回分式(バッチ式)、半回分式、連続流通式などいずれの反応形式によっても行うことができる。連続流通式のように連続的にエチレンイミン重合体を製造する場合は管型反応器等が用いられ、回分式反応の場合は反応器等が使用される。本発明に用いる反応器としては、温度計、撹拌機、冷却装置等を備えた円筒型反応器が好適に用いられる。
【0024】
回分式反応の場合、重合反応の際に、重合物の粘度が高くなるため、除熱、拡散、反応促進のため撹拌機として、工業的にはパドル翼や高粘度用撹拌翼、例えばマックスブレンド翼(住友重機械工業(株)製)などが用いられ、好適にはマックスブレンド翼である。また重合により発生した反応熱を除去できるように熱媒を流すための冷却装置が付いた反応器、例えば外部ジャケット付反応器などが好適に用いられる。ジャケット式除熱の効率化を図るため縦チューブ型冷却器を用いることもでき、エチレンイミンを還流下で重合するのが好適である。
【0025】
本発明においては、反応液の最終液量(m)当りの撹拌動力(kW)で表わされる値、すなわちPV値(撹拌動力/最終液量)を5kW/m以上で行うのが良く、好ましくは、8kW/m以上が好ましい。尚15kW/m超えるとエネルギーコストが高くなり経済的でない。
【0026】
本発明の製法において好ましい形態は、得られたエチレンイミン重合体をさらに前記(A)〜(C)のいずれかの操作で処理して精製する工程を含む形態である。以下、(A)〜(C)の操作について説明する。
【0027】
操作(A)は、エチレンイミン重合体中に不活性ガスをバブリングするものである。具体的には、例えば、重合反応終了後、反応器内の重合体中に不活性ガスをバブリングする。不活性ガスとしては、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガスなどのアミンに対し不活性なガスが用いられるが、経済的な面から窒素ガスが好適に用いられる。バブリングする際の重合体の温度は150℃を超えないようにするのがよく、110〜130℃の範囲に保持するのが好ましい。不活性ガスの量は、重合体1kg当り、通常、0.01〜10Nl/minであり、好ましくは0.1〜2Nl/minである。バブリング時間は、通常、0.5〜100時間であり、好ましくは1〜20時間である。操作は常圧または減圧下のいずれでもよく、減圧下で行う場合、好ましい反応器内圧力は10〜700mmHgである。操作(A)により、軽質アミン類、アセトニトリルなどの含有量がいずれも1ppm以下の高純度エチレンイミン重合体が得られる。
【0028】
操作(B)は、エチレンイミン重合体に水を添加、混合した後、混合物を加熱して水を蒸発除去するものである。具体的には、例えば、重合反応終了後、反応器内の重合体に水を添加して、よく混合した後、この混合物を加熱して水を蒸発除去する。水の添加量は、通常、重合体の1〜95質量%であり、好ましくは5〜30質量%である。水の蒸発除去に際しては、重合体の温度が160℃ を超えないようにするのがよく、100〜150℃の範囲に保持するのが好ましい。操作は常圧または減圧下のいずれでもよく、減圧下で行う場合、好ましい反応器内圧力は10〜700mmHgである。添加した水の15質量%以上を蒸発除去することにより、軽質アミン類、アセトニトリルなどの含有量がいずれも1ppm以下の高純度エチレンイミン重合体が得られる。
【0029】
操作(C)は操作(A)と操作(B)とを組み合わせたものであり、より短い操作時間で高純度エチレンイミン重合体を得ることができる。具体的には、例えば、反応終了後、反応器内の重合体に水を添加し、この混合物中に不活性ガスをバブリングしながら、水を蒸発除去する。
【0030】
バブリングや水分の蒸発除去の程度(水溶液の濃縮の程度)については特に制限はないが、後述の通り、本発明のエチレンイミン重合体全質量に対して、溶媒や水を除くエチレンイミン重合体(樹脂分)の濃度範囲は30〜99.99質量%、好ましくは90〜99.9質量%であるので、この範囲になるように溶媒や水を蒸発除去すればよい。
【0031】
本発明のエチレンイミン重合体は、不純物の少ない高純度の重合体でもある。原料のエチレンイミンは特に制限されないが、その原料エチレンイミンの製造方法の種類により含まれる不純物がことなる。前記気相法により得られたエチレンイミンを用いる場合、不純物として原料のモノエタノールアミン、エチレンイミンのオリゴマー、アセトアルデヒドなどのケトン類、アセトアルデヒドと原料のモノエタノールアミンとが反応して生成するシッフ塩基などの重質不純物や、アンモニア、メチルアミンおよびエチルアミンの軽質アミン類、アセトニトリルなどの軽質不純物が含まれるが、エチレンイミン重合体の重量に対してそれぞれ0.1ppm以下、好ましくはそれぞれ0.05ppm以下、より好ましくはそれぞれ0.01ppm以下である。不純物が多いと下記に示す、着色や粘度の経時的変化に悪影響を及ぼす場合がある。これらの不純物はガスクロマトグラフにより測定することができる。
【0032】
前記液相法により得られたエチレンイミンを用いる場合は、エチレンイミンの蒸溜操作に問題がある場合、合成途中で生成する硫酸アルカリ金属塩が不純物として含まれることになる。硫酸アルカリ金属が混入すると着色の原因となることがある。そのため、不純物量は硫酸イオン換算として含有量をエチレンイミン重合体の重量に対して1.0ppm以下、さらには0.1ppm以下にすることが好ましい。硫酸イオンはイオンクロマトグラフィーで測定することができる。
【0033】
本発明のエチレンイミン重合体に含まれる未反応エチレンイミンは0.1ppm以下、好ましくは0.01ppm以下である。未反応エチレンイミンは充分な熟成により減らすことができるが、前記した精製法(A)〜(C)のいずれかの操作の際に同時に未反応エチレンイミンを除去することもできる。未反応エチレンイミンはガスクロマトグラフィーで測定することができる。
【0034】
本発明のエチレンイミン重合体は、分子量分布の狭いエチレンイミン重合体であり、分子量分布の広がり度合いを示す分散度(Mw/Mn比)は1.00から1.40(ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)測定、プルラン換算)である。
【0035】
本発明の方法によって得られるエチレンイミン重合体の樹脂分濃度は、通常、エチレンイミン重合体の全質量に対して90〜99.9質量%、好適には90〜99.9質量%である。また、エチレンイミン重合体の平均重量分子量は1,000〜1,000,000(ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)測定、プルラン換算)である。
【0036】
本発明のエチレンイミン重合体は、ハーゼン単位色数が100以下のエチレンイミン重合体である。好ましくは、75以下、より好ましくは50以下である。ハーゼン単位色数が100を超えると明らかに着色が感じられるため、食品の包装フィルム用や洗剤用原料、インク、塗料などに用いた場合に外観的影響を与える場合がある。
【0037】
本発明のエチレンイミン重合体の粘度は、樹脂分濃度により異なるが、例えば、樹脂分濃度が99.0質量%の場合、200〜300,000mPa・s/25℃である
本発明の上述の物性および組成を有するエチレンイミン重合体は、保存または貯蔵中の着色変化が少なく、しかも分子量分布の狭いエチレンイミン重合体でもある。
【実施例】
【0038】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら
の実施例のみに限定されるものではない。なお、以下ことわりのない場合、本明細書に記載した「ppm」、「%」は「質量ppm」、「質量%」を示すものとする。
【0039】
<着色度の測定>
JIS K0071-1「ハーゼン単位色数」に準じて測定した。具体的には、塩化白金酸カリウムと塩化コバルトを所定濃度で溶解し溶液を標準比色液とした。比色管は外径25mm、内径22mmの石英ガラス製のもので底面は平底仕上げしたもの、さらには底面より130mmの高さ(約50mlに相当)に標線があり蓋付きのものを用いた。
標準比色液とエチレンイミン重合体水溶液を各比色管に取り、色を目視で比較しその結果をハーゼン単位色数として表した。
実施例1<エチレンイミン重合体の調製>
撹拌機、還流冷却器および温度計を備えた容積2リットルの耐圧反応器にエチレンジアミン60gおよび35%塩酸17gを仕込み後、窒素ガス置換により酸素濃度0.5体積%の雰囲気にし密閉後、反応器を熱媒オイル温度100℃のオイル槽中に置いて加熱した。昇温後、熱媒を温水にした水槽に移し60℃の温水にて気相法で得られたエチレンイミン1140gを反応液温度110〜130℃になるように添加した。この時の反応液温度と水浴槽の熱媒温度の差を50〜70℃に維持した。添加終了しエチレンイミンの95%が反応した後、反応液温度110〜130℃で2時間熟成し反応を完結させた。エチレンイミン重合体中の残存エチレンイミンは1ppm以下であり、得られたエチレンイミン重合体中のハーゼン単位色数は25であった。 尚、PV値(撹拌動力/最終液量)は10kW/mで行った。
【0040】
上記の方法により得られたエチレンイミン重合体1kgをオイルバス上の2リットルフラスコに仕込み、常圧にて、窒素ガスを0.2Nl/minで重合体中にバブリングして精製を行った。バブリング中、重合体の温度を120℃に維持した。5時間バブリングした後、得られた精製エチレンイミン重合体中のハーゼン単位色数は25で変わらなかった。また、粘度は6300(mPa・s/25℃、B型粘度計)、平均重量分子量3625、分子量分布の広がり度合いを示す分散度(Mw/Mn比)は1.10を示した(ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)測定、プルラン換算)。この分散度(Mw/Mn比)の値が、特許文献3に記載の範囲1.5〜3よりも小さい値となっており、予期せずに分子量分布が狭いエチレンイミン重合体が得られたこと示している。
実施例2
水槽に移した時の温水の温度を60℃から45℃に変更した以外は実施例1同様に実施し、エチレンイミン重合体を得た。精製前後のエチレンイミン重合体のハーゼン単位色数はいずれも30で変わらなかった。窒素ガスでバブリングした後のエチレンイミン重合体の粘度は5965(mPa・s/25℃、B型粘度計)、平均重量分子量は3575、分散度(Mw/Mn比)は1.15であった。
実施例3
PV値(撹拌動力/最終液量)を6kW/mに変更した以外は実施例1同様に実施し、エチレンイミン重合体を得た。精製前後のエチレンイミン重合体のハーゼン単位色数はいずれも30で変わらなかった。窒素ガスでバブリングした後のエチレンイミン重合体の粘度は6150(mPa・s/25℃、B型粘度計)、平均重量分子量は3650、分散度(Mw/Mn比)は1.18であった。
比較例1
熱媒温度を35℃未満(25℃)に変更して、PV値(撹拌動力/最終液量)を2kW/m、酸素濃度3体積%の窒素雰囲気下で行った以外は実施例1同様に実施し、エチレンイミン重合体を得た。精製前後のエチレンイミン重合体のハーゼン単位色数はいずれも105であった。窒素ガスでバブリングした後のエチレンイミン重合体の粘度は5970(mPa・s/25℃、B型粘度計)、平均重量分子量3380、分子量分布の広がり度合いを示す分散度(Mw/Mn)は1.43を示した(ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)測定、プルラン換算)。
【0041】
実施例1および比較例1の結果より、本発明の方法で製造されたエチレンイミン重合体が、着色の少なく分子量分布の狭いエチレンイミン重合体であることは明らかである。
<エチレンイミン重合体の安定性評価>
実施例1、2、3及び比較例1で得られた精製前のエチレンイミン重合体を70℃に保持し、10日後の経時変化を調べた結果、実施例1、2、3のハーゼン単位色数の変化はなかったが、比較例1のエチレンイミン重合体のハーゼン単位色数は140となり、着色の変化が見られた。
【0042】
実施例1、2、3および比較例1から明らかなように、本発明で得られるエチレンイミン重合体水溶液は着色の経時的変化がなく、品質の安定なエチレンイミン重合体であることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明のエチレンイミン重合体は、紙加工剤、接着剤、粘着剤、塗料、インキ、繊維処理剤、凝集分離剤、化粧品、トイレタリー、分散剤などの分野で安全に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレンイミンを重合してエチレンイミン重合体の製造方法であって、酸素濃度が2体積%以下の雰囲気下で、重合時の反応溶液温度が80〜160℃になるようにエチレンイミンを重合させ、かつ重合中の反応熱を除去する熱媒の温度を40℃以上で行うことを特徴とするエチレンイミン重合体の製造方法。
【請求項2】
重合反応後に80〜160℃の温度で熟成することを特徴とする請求項1記載のエチレンイミン重合体の製造方法。
【請求項3】
反応溶液温度が110〜130℃になるようにエチレンイミンを重合させ、次いで110〜130℃の温度で熟成することを特徴とする請求項1または請求項2記載のエチレンイミン重合体の製造方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の重合を反応液の最終液量(m)当りの撹拌動力(kW)の比率(PV値=撹拌動力/最終液量)が5kW/m以上であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のエチレンイミン重合体の製造方法。
【請求項5】
エチレンイミンを重合して得られたエチレンイミン重合体を下記(A)〜(C)のいずれかの操作で処理することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のエチレンイミン重合体の製造方法。
A:エチレンイミン重合体中に不活性ガスをバブリングする。
B:エチレンイミン重合体に水を添加、混合した後、水を蒸発除去する。
C:エチレンイミン重合体に水を添加、混合した後、水を蒸発除去するとともに、エチレンイミン重合体に不活性ガスをバブリングする。
【請求項6】
着色度合いの指標となるハーゼン単位色数が100以下であることを特徴とするエチレンイミン重合体。

【公開番号】特開2013−71967(P2013−71967A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−210664(P2011−210664)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】