説明

エチレンイミン重合体水溶液およびその製造方法

【課題】低着色、さらには着色および粘度の経時的変化の少ない工業的に要求される品質基準に適合した高純度エチレンイミン重合体水溶液を提供する。
【解決手段】水性媒体中でエチレンイミンを重合してエチレンイミン重合体水溶液を製造する際に、酸素濃度の低い不活性ガス雰囲気下で重合中の反応溶液の温度と冷媒温度の差を特定の範囲に維持しながら重合することを特徴とするエチレンイミン重合体水溶液の製造方法により達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレンイミン重合体水溶液およびその製造方法に関するものである。さらに詳しくは、本発明は、エチレンイミンを開環重合させるエチレンイミン重合体水溶液の製造方法、並びに、エチレンイミン重合体水溶液に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンイミンは紙加工剤、接着剤、粘着剤、塗料、インキ、繊維処理剤、凝集分離剤、化粧品、トイレタリー、分散剤などの分野で幅広く利用されている。エチレンイミン重合体は、エチレンイミンを重合開始剤の存在下に重合させて得られるが、無溶媒下での重合では、粘度上の問題から、得られるエチレンイミン重合体の重合度は低い。このため、高重合度のエチレンイミン重合体を得るためには、水性媒体中で重合反応を行い、高分子量のエチレンイミン重合体をその水溶液の形態で得ている。例えば、特許文献1には、水性溶液中でポリハロアルカン重合開始剤の存在下、55℃から85℃でエチレンイミン水溶液の沸点の範囲の温度でエチレンイミンを重合させてエチレンイミン重合体水溶液を得る方法が記載されている。特許文献2は、モノエタノールアミンを触媒の存在下に分子内脱水反応させて得られる粗エチレンイミンの水性媒体中でポリハロアルカン重合開始剤、例えば、ジクロロエタンの存在下に80℃で反応することによりエチレンイミン重合体水溶液が得られることが開示されている。特許文献3には、水性媒体中でエチレンイミンを重合してエチレンイミン重合体水溶液を製造するにあたり、エチレンイミンを80℃以下の温度で重合させ、次いで100〜150℃の温度で熟成することにより、粘度の経時的変化が少なく品質が安定し、また樹脂分が20〜70質量%という高濃度のエチレンイミン重合体水溶液が得られることが開示されている。
【0003】
しかしながら、エチレンイミン重合体は製造工程、貯蔵、運搬、使用時など経時的に黄変、さらには褐色に着色しやすいことが問題となった。そのため外観が問題となる用途、例えば食品の包装フィルム用や洗剤用原料、インク、塗料など外観を重視する用途によってはエチレンイミン重合体水溶液の使用制限を受けることがあった。そのため、かかる変色を防止する方法として、下記の方法が知られている。例えば、ポリアリルアミンやポリエチレンイミンの水溶性の混合物に、リン酸、クエン酸、酒石酸などの酸を添加する方法(特許文献4参照)、ポリアミンにホウ素化合物を添加することによる変色防止法(特許文献5参照。)、ポリアミンに、ケイ酸化合物および/または該ポリアミンよりも高い塩基性を有する塩基性化合物を添加することにより変色防止法(特許文献6参照)、着色抑制剤として有機リン酸エステル化合物の添加(特許文献7)が提案されている。
【0004】
しかし、各種の酸、ホウ素化合物、塩基性化合物または有機リン酸エステル化合物等の着色抑制剤は使用時の着色、ラミネートフィルム等の使用製品の着色を抑制する目的としたものであり、また各種抑制剤の添加は純度を低下させる要因となるため、根本的に低着色で高純度のエチレンイミン重合体およびその製造方法が望まれており改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭43−8828号公報
【特許文献2】特開2001−213959号公報
【特許文献3】特開2001−288265号公報
【特許文献4】特開平6−240154号公報
【特許文献5】特開平9−255870号公報
【特許文献6】特開平11−236445号公報
【特許文献7】特開2006−131668号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記問題点に鑑み、本発明は、着色がなく、長期に保存しても着色の少ない高純度エチレンイミン重合体水溶液及びその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らの研究によれば、前記課題は下記発明により達成できることがわかった。
(1)水性媒体中でエチレンイミンを重合してエチレンイミン重合体水溶液の製造方法であって、酸素濃度2体積%以下の不活性ガス雰囲気下で、重合時の反応溶液温度が45〜80℃になるようにエチレンイミンを重合させ、かつ重合中の反応熱を除去する熱媒の温度を40℃以上で行うことを特徴とするエチレンイミン重合体水溶液の製造方法。
(2)重合反応後に100〜150℃の温度で熟成することを特徴とする(1)記載のエチレンイミン重合体水溶液製造方法。
(3)反応溶液温度が50〜70℃になるようにエチレンイミンを重合させ、次いで110〜140℃の温度で熟成することを特徴とする(1)または(2)記載のエチレンイミン重合体水溶液の製造方法。
(4)(1)から(3)のいずれかに記載の重合を、反応液の最終液量(m)当りの撹拌機の撹拌動力(kW)の比率(PV値=撹拌動力/最終液量)が0.5kW/m以上であることを特徴とする(1)から(3)のいずれかに記載のエチレンイミン重合体水溶液の製造方法。
(5)エチレンイミンを重合して得られたエチレンイミン重合体水溶液の水をさらに蒸留除去してエチレンイミン重合体水溶液を精製する工程を含むことを特徴とする(1)から(4)のいずれかに記載のエチレンイミン重合体水溶液の製造方法。
(6)着色度合いの指標となるハーゼン単位色数が100以下であることを特徴とするエチレンイミン重合体水溶液。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、重合反応後だけでなく、長期に保存しても着色の少ない高純度エチレンイミン重合体水溶液を製造することができる。さらに、本発明の着色の少ない高純度エチレンイミン重合体水溶液は、着色および粘度が経時的に変化が起きないため、品質が安定なエチレンイミン重合体水溶液であり、食品の包装フィルム用や洗剤用原料、インク、塗料などに好適に用いることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明にかかるエチレンイミン重合体水溶液の製造方法は、水性媒体中でエチレンイミンを重合する際に、酸素濃度2体積%以下の不活性ガス雰囲気下で、重合時の反応溶液温度が45〜80℃になるようにエチレンイミンを重合させ、かつ重合中の反応熱を除去する熱媒の温度を40℃以上で行うエチレンイミン重合体水溶液の製造方法である。また、本発明にかかる高純度エチレンイミン重合体水溶液は、ハーゼン単位色数が100以下であるエチレンイミン重合体水溶液である。
【0010】
本発明に用いるエチレンイミンには特に制限はなく、例えば、液相でハロゲン化エチルアミンを濃アルカリにより分子内閉環する方法、モノエタノールアミン硫酸エステルを熱濃アルカリにより分子内閉環する方法(以下、液相法ともいう)、あるいはモノエタノールアミンを触媒的気相分子内脱水反応させる方法(以下、気相法ともいう)により得られるエチレンイミンを用いることができる。
【0011】
気相法により得られるエチレンイミン原料としては、モノエタノールアミンの触媒的分子内脱水反応により得られるエチレンイミン含有反応混合物を簡単な蒸留操作に供して回収した粗エチレンイミンを重合用の原料とすることができる(特許文献2参照)。尚、粗エチレンイミンを重合する場合は、例えば特開2001−270941号公報に記載のとおり、エチレンイミン重合体(以下、粗エチレンイミン重合体ということもある。)を簡便な精製操作に供して、工業的に要求される品質基準に適合した高純度ポリエチレンイミンを得ることができる。
【0012】
前記エチレンイミン含有反応混合物を高度に精製して得られる精製エチレンイミンもエチレンイミン重合体水溶液合成の原料として利用することができる。この場合、前記エチレンイミン含有反応混合物中には、目的物のエチレンイミンのほかに、未反応のモノエタノールアミンや、エチレンイミンのオリゴマー、アセトアルデヒドなどのケトン類、アセトアルデヒドと原料のモノエタノールアミンとが反応して生成するシッフ塩基などの重質不純物や、アンモニア、メチルアミンおよびエチルアミンの軽質アミン類、アセトニトリルなどの軽質不純物が含まれているので、これら不純物を高度の精製工程を経て除去し、しかる後に得られる精製エチレンイミンを重合反応に供するのである。
【0013】
高度の精製工程を経て得られる精製エチレンイミンを用いてエチレンイミン重合体を製造する技術は、高度の精製工程の実施にともなう生産コストのアップを免れず、工業的に有利とはいえないため、粗エチレンイミンがエチレンイミン原料として好適に用いられる。
【0014】
重合開始剤としては、エチレンイミンの重合に一般に用いられているものを使用できるが、1,2−ジクロロエタン、1,3−ジクロロプロパン、1,2−ジブロモエタン、クロロホルムなどのポリハロアルカンが好適に用いられる。重合開始剤の使用量は、目的とするエチレンイミン重合体の分子量により適宜選択できる。高分子量エチレンイミン重合体の水溶液を得るためには、エチレンイミンに対して、0.5〜5質量%とするのが好適である。
【0015】
水性媒体としては、通常、水が用いられるが、水溶性有機液体、例えば、メタノール、エタノール、アセトン、ジメチルホルムアミドなどと水との混合物も使用することができる。
【0016】
本発明において、エチレンイミンを重合する際には酸素濃度2体積%以下の不活性ガス雰囲気下で行うのが良い。好ましくは酸素濃度1体積%以下、より好ましくは0.5体積%以下である。2体積%を超えるとエチレンイミン重合体水溶液が着色するか、またはその水溶液の保存又は貯蔵中に着色しやすくなる。不活性ガスとしては、特に限定されるものではなく、エチレンイミンに対して反応不活性なガスであれば良く、例えば、窒素、ヘリウム、二酸化炭素、又はアルゴン等を用いることができ、好適には窒素が用いられる。
【0017】
本発明においては、エチレンイミンを重合する際、反応溶液温度を45〜80℃、好ましくは50〜70℃の温度で行う。80℃を超える温度では、粘度の経時的変化が少なく品質の安定したエチレンイミン重合体水溶液を得ることができない。なお、あまり低い温度では、重合時間が長くなって経済的でない。
【0018】
本発明において、反応熱を除去するために用いる熱媒の温度は40℃以上に維持しながら重合を行うのが良い。好ましくは45℃以上、より好ましくは50℃以上である。熱媒の温度が40℃より低いとエチレンイミン重合体水溶液の着色しやすい傾向がみられる。熱媒の上限温度は特に制限はなく、前記反応溶液温度より低く、反応温度を制御できる熱媒温度であれば良いが、反応溶液温度との差が小さいと反応時間が伸びて生産性が低下する。
【0019】
前記熱媒の温度を維持することにより、エチレンイミンの反応中に反応溶液が局部的に高粘度になることが抑制され、高効率の撹拌により局部滞留がなく均一な重合をさせることができるため、エチレンイミンの反応が均一かつ効率的に行うことができるようになる。熱媒としては、温水、水蒸気または加熱したオイル等が使用でき、工業的には温水および水蒸気が好適に用いられる。
【0020】
本発明においては、エチレンイミンの重合終了後、好ましくは供給したエチレンイミンの95%以上が消費された後、反応液を100〜150℃、好ましくは110〜140℃に昇温して、この温度範囲で熟成させる。100℃より低い温度では、粘度の経時的変化が少なく品質の安定したエチレンイミン重合体水溶液を得ることができない。また、150℃より高い温度では、生成したエチレンイミン重合体の熱分解が起こり、高分子量の重合体が得られないこともある。熟成時間は、通常、1〜20時間であり、好ましくは2〜10時間である。また、反応液を熟成温度まで昇温する時間は、通常、0.2〜5時間であり、好ましくは0.5〜3時間である。
【0021】
本発明におけるエチレンイミンの重合反応の際、重合開始剤およびエチレンイミンは一括して添加してもよいが、発熱反応であるため、温度制御しながらそれぞれ連続的に供給するのがよい。
【0022】
重合反応は常圧、加圧のいずれでもよく、通常、0〜10MPaG、好ましくは0〜2MPaGで行う。反応液の熟成は、通常、0.05〜10MPaG、好ましくは0.05〜1MPaGの加圧下に行うのがよい。ここで、MPaG(メガパスカルゲージ)はゲージ圧力のことである。
【0023】
重合反応および熟成処理は、回分式(バッチ式)、半回分式、連続流通式などいずれの反応形式によっても行うことができる。連続流通式のように連続的にエチレンイミン重合体を製造する場合は管型反応器等が用いられ、回分式反応の場合は反応器等が使用される。本発明に用いる反応器としては、温度計、撹拌機、冷却装置等を備えた円筒型反応器が好適に用いられる。
【0024】
回分式反応の場合、重合反応の際に、重合物の粘度が高くなるため、除熱、拡散、反応促進のため撹拌機として、工業的にはパドル翼や高粘度用撹拌翼、例えばマックスブレンド翼(住友重機械工業(株)製)などが用いられ、好適にはマックスブレンド翼である。また重合により発生した反応熱を除去できるように熱媒を流すための冷却装置が付いた反応器、例えば外部ジャケット付反応器などが好適に用いられる。ジャケット式除熱の効率化を図るため縦チューブ型冷却器を用いることもでき、エチレンイミンを還流下で重合するのが好適である。
【0025】
本発明においては、反応液の最終液量(m)当りの撹拌動力(kW)で表わされる値、すなわちPV値(撹拌動力/最終液量)を0.5kW/m以上で行うのが良く、好ましくは、2kW/m以上が好ましい。尚、10kW/m超えるとエネルギーコストが高くなり経済的でない。
【0026】
本発明の製法において好ましい形態は、得られたエチレンイミン重合体水溶液の水や水溶性有機液体をさらに蒸発除去してエチレンイミン重合体水溶液を精製する工程を含む形態である。具体的には、例えば、重合反応終了後、反応器内温度が200℃を超えない温度、好ましくは100〜180℃の範囲の温度で撹拌下にエチレンイミン重合体水溶液から水分を蒸発除去する。水分の蒸発除去の程度(水溶液の濃縮の程度)については特に制限はないが、後述の通り、エチレンイミン重合体水溶液中のエチレンイミン重合体の濃度(樹脂分)は通常20〜70質量%であり、好適範囲が30〜50質量%であるので、この範囲になるようにエチレンイミン重合体水溶液中の水を蒸発除去すればよい。これにより、気相法で得られた粗エチレンイミン原料とする場合は軽質アミン類、アセトニトリルの含有量がともに1ppm以下の高純度エチレンイミン重合体水溶液を得ることができる。なお、蒸発操作は常圧または減圧のいずれでもよいが、減圧下で行う場合には、反応器内圧力を10〜700mmHgにするのが好ましい。
【0027】
本発明のエチレンイミン重合体水溶液に含まれるエチレンイミン重合体(樹脂分)の濃度は、通常、エチレンイミン重合体水溶液の全質量に対し20〜70質量%である。好ましくは40〜60質量%、最も好ましくは30〜50質量%である。20質量%以下では製品安定性が低下する傾向がみられる。70質量%を超えると粘度が高すぎて取り扱いが困難となる。
【0028】
本発明のエチレンイミン重合体水溶液は、水以外の媒体を含まないものが最も好ましい形態であるが、例えば、水に対してメタノール、エタノール、アセトン、ジメチルホルムアミドなどが5質量%未満の溶剤が含まれていても良い。
【0029】
本発明のエチレンイミン重合体水溶液は不純物の少ない高純度の重合体水溶液でもある。原料のエチレンイミンは特に制限されないが、その原料エチレンイミンの製造方法の種類により含まれる不純物が異なる。前記気相法により得られたエチレンイミンを用いる場合、不純物として原料のモノエタノールアミン、エチレンイミンのオリゴマー、アセトアルデヒドなどのケトン類、アセトアルデヒドと原料のモノエタノールアミンとが反応して生成するシッフ塩基などの重質不純物や、アンモニア、メチルアミンおよびエチルアミンの軽質アミン類、アセトニトリルなどの軽質不純物が含まれるが、エチレンイミン重合体水溶液の重量に対してそれぞれ0.1ppm以下、好ましくはそれぞれ0.05ppm以下、より好ましくはそれぞれ0.01ppm以下である。不純物が多いと下記に示す、着色や粘度の経時的変化に悪影響を及ぼす場合がある。これらの不純物はガスクロマトグラフにより測定することができる。
【0030】
前記液相法により得られたエチレンイミンを用いる場合は、エチレンイミンの蒸溜操作に問題がある場合、合成途中で生成する硫酸アルカリ金属塩が不純物として含まれることになる。硫酸アルカリ金属が混入すると着色の原因となることがある。そのため、不純物量は硫酸イオン換算として含有量をエチレンイミン重合体水溶液の重量に対して1.0ppm以下、さらには0.1ppm以下にすることが好ましい。硫酸イオンはイオンクロマトグラフィーで測定することができる。
【0031】
本発明のエチレンイミン重合体水溶液に含まれる未反応エチレンイミンは0.1ppm以下、好ましくは0.01ppm以下である。未反応エチレンイミンは窒素ガスのバブリング等の公知方法により除去することができるが、前記した重合体(樹脂分)の濃度を調整する工程で、水分を蒸溜で除去する操作の際に同時に未反応エチレンイミンを除去することもできる。未反応エチレンイミンはガスクロマトグラフィーで測定することができる。
【0032】
本発明のエチレンイミン重合体水溶液に含まれる重合体は、エチレンイミン重合体の平均重量分子量は1,000〜1,000,000(ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)測定、プルラン換算)である。
【0033】
本発明のエチレンイミン重合体水溶液は、ハーゼン単位色数が100以下のエチレンイミン重合体である。好ましくは、75以下、より好ましくは50以下である。ハーゼン単位色数が100を超えると明らかに着色が感じられるため、食品の包装フィルム用や洗剤用原料、インク、塗料などに用いた場合に外観的影響を与える場合がある。
【0034】
本発明のエチレンイミン重合体水溶液の粘度は、エチレンイミン重合体の樹脂分濃度により異なるが、例えば、樹脂分濃度50質量%の場合、10,000〜20,000mPa・s/25℃、好ましくは14,000〜18,000mPa・s/25℃である。
【0035】
本発明の方法によれば、上述の物性および組成を有するエチレンイミン重合体水溶液は、保存中の経時変化が少ない安定したエチレンイミン重合体水溶液でもある。特に、着色の変化及び粘度変化の少ないのエチレンイミン重合体水溶液である。
【実施例】
【0036】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、ことわりのない場合、本明細書に記載した「ppm」、「%」は「質量ppm」、「質量%」を示すものとする。
<着色度の測定>
JIS K0071−1「ハーゼン単位色数」に準じて測定した。具体的には、塩化白金酸カリウムと塩化コバルトを所定濃度で溶解し溶液を標準比色液とした。比色管は外径25mm、内径22mmの石英ガラス製のもので底面は平底仕上げしたもの、さらには底面より130mmの高さ(約50mlに相当)に標線があり蓋付きのものを用いた。
標準比色液とエチレンイミン重合体水溶液を各比色管に取り、色を目視で比較しその結果をハーゼン単位色数として表した。
【0037】
実施例1<エチレンイミン重合体水溶液の調製>
撹拌装置、温度計、エチレンイミンおよび重合開始剤仕込管を備えた容積2リットル(以下、Lとも表す)の耐圧反応器を熱媒の温水を60℃にした水浴槽中に置いた。反応器に水1200gを仕込み、反応溶液温度を55℃に加熱した後、窒素ガス置換により酸素濃度0.5体積%の雰囲気にし気相法で得られたエチレンイミン800gおよび1,2−ジクロロエタン13.2g(対エチレンイミン1.65質量%)を反応温度が80℃になるように保ちながら、反応器にフィードした。その後、水槽の水温を調節しながら反応温度を70℃で4時間撹拌したところ、原料エチレンイミンの98%が反応していた。この間の反応液温度と水浴槽の熱媒温度の差を10〜20℃に維持した。
【0038】
その後、水槽をオイル槽に変更し反応液の温度を120℃まで30分で昇温し、温度120℃、圧力0.1MPaGで5時間熟成した。120℃に昇温直後の反応液の粘度は5000mPa・s/25℃に達した。熟成中の粘度の変化は見られなかった。エチレンイミン重合体水溶液中の残存エチレンイミンは1ppm以下であり、得られたエチレンイミン重合体水溶液中のハーゼン単位色数は5以下であった。
【0039】
尚、PV値(撹拌動力(kW)/最終液量(m)は2.0kW/mで行った。
【0040】
上記の方法により得られたエチレンイミン重合体水溶液1000gをオイルバス上の攪拌機、蒸気凝縮抜出し器および温度計を備えたフラスコ反応器に仕込み、気相部に窒素ガスを連続添加しながら酸素濃度0.1体積%以下の雰囲気で、常圧にて、110℃に加熱して精製を行った。留出水をカットし、樹脂分50質量%になったところで、分析した結果、残存するエチレンイミンは0・01ppm以下であった。得られた精製エチレンイミン重合体水溶液中のハーゼン単位色数は5以下であった。また、精製後の粘度は17000mPa・s/25℃であった。
実施例2
温水温度を45℃に変更した以外は実施例1同様に実施し、エチレンイミン重合体水溶液を得た。精製前後のエチレンイミン重合体水溶液のハーゼン単位色数は5以下であった。精製後のエチレンイミン重合体水溶液の樹脂分が50質量%になったところで粘度は16300mPa・s/25℃であった。
実施例3
PV値(撹拌動力/最終液量)を0.7kW/mに変更した以外は実施例1同様に実施し、エチレンイミン重合体水溶液を得た。精製前後のエチレンイミン重合体水溶液のハーゼン単位色数はそれぞれ5以下であった。精製後のエチレンイミン重合体水溶液の樹脂分が50質量%になったところで粘度は16800mPa・s/25℃であった。
比較例1
温水温度を35℃未満(25℃)に変更して、PV値(撹拌動力/最終液量)を0.3kW/m、酸素濃度2.5体積%で行った以外は実施例1同様に実施し、エチレンイミン重合体水溶液を得た。精製後のハーゼン単位色数は120であった。
精製後のエチレンイミン重合体水溶液の樹脂分が50質量%になったところで粘度は16100mPa・s/25℃であった。
<エチレンイミン重合体水溶液の安定性評価>
実施例1、2、3及び比較例1で得られた精製前のエチレンイミン重合体水溶液を70℃に保持し、10日後の経時変化を調べた結果、実施例1、2、3のエチレンイミン重合体水溶液のハーゼン単位色数変化はなかったが、比較例1のエチレンイミン重合体水溶液のハーゼン単位色数は140となり、着色の変化が見られた。また、実施例1及び比較例1で得られた水溶液の粘度は、それぞれ16700、16100、16000及び14900mPa・s/25℃であった。
【0041】
実施例1、2、3および比較例1から明らかなように、本発明で得られるエチレンイミン重合体水溶液は、着色の経時的変化がないだけでなく、粘度も経時的な変化もほとんどない、品質の安定なエチレンイミン重合体水溶液であることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明のエチレンイミン重合体水溶液は、紙加工剤、接着剤、粘着剤、塗料、インキ、繊維処理剤、凝集分離剤、化粧品、トイレタリー、分散剤などの分野で安全に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性媒体中でエチレンイミンを重合してエチレンイミン重合体水溶液の製造方法であって、酸素濃度が2体積%以下の不活性ガス雰囲気下で、重合時の反応溶液温度が45〜80℃になるようにエチレンイミンを重合させ、かつ重合中の反応熱を除去する熱媒の温度を40℃以上で行うことを特徴とするエチレンイミン重合体水溶液の製造方法。
【請求項2】
重合反応後に100〜150℃の温度で熟成することを特徴とする請求項1記載のエチレンイミン重合体水溶液製造方法。
【請求項3】
反応溶液温度が50〜70℃になるようにエチレンイミンを重合させ、次いで110〜140℃の温度で熟成することを特徴とする請求項1または請求項2記載のエチレンイミン重合体水溶液の製造方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の重合を、反応液の最終液量(m)当りの撹拌機の撹拌動力(kW)の比率(PV値=撹拌動力/最終液量)が0.5kW/m以上であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載のエチレンイミン重合体水溶液の製造方法。
【請求項5】
エチレンイミンを重合して得られたエチレンイミン重合体水溶液の水をさらに蒸留除去してエチレンイミン重合体水溶液を精製する工程を含むことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載のエチレンイミン重合体水溶液の製造方法。
【請求項6】
着色度合いの指標となるハーゼン単位色数が100以下であることを特徴とするエチレンイミン重合体水溶液。

【公開番号】特開2013−71966(P2013−71966A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−210663(P2011−210663)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】