説明

エチレンカーボネートの精製方法

【課題】エチレンオキサイドと二酸化炭素からエチレンカーボネートを製造するにあたり、簡便な装置で、重合物の副生を最小限に抑え、かつ、蒸留の極めて困難なジエチレングリコールを分離し、効率よくエチレンカーボネートを精製する方法。
【解決手段】(1)反応器出口混合物中のジエチレングリコールが、該混合物中のエチレンカーボネートに対して1000ppm以下であり、(2)反応器出口混合物から未反応エチレンオキサイドと未反応二酸化炭素を分離除去して、主としてエチレンカーボネートを含む混合物を得たのち、該混合物からエチレンカーボネートを蒸留分離する工程において、該蒸留分離の圧力が、該蒸留温度におけるエチレンカーボネートとジエチレングリコールの蒸気圧の間であり、(3)該蒸留分離から取り出されたエチレンカーボネートが、その後の工程で40℃から120℃に維持されていることを特徴とするエチレンカーボネートの精製方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレンオキサイドと二酸化炭素から触媒の存在下エチレンカーボネートを製造するにあたり、エチレンカーボネートの効率よい精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレンオキサイドと二酸化炭素からエチレンカーボネートを製造する反応(以下しばしば本反応と略記する)は、その有用性から多くの検討が行われ、工業的に充分な反応速度を得るために触媒の検討も活発に行われている。固体酸触媒、アルカリ金属塩触媒、均一系有機金属触媒等を使用した報告が多く、例えば、アルキル基置換アンモニウムカチオンを対カチオンとするカルボン酸型陽イオン交換樹脂を触媒とするアルキレンカーボネートの製造方法(特許文献1)、タングステン酸化物ないしはモリブデン酸化物からなる触媒を用いるアルキレンカーボネートの製造方法(特許文献2)、3級アミン官能基ないしは4級アンモニウム官能基を有する陰イオン交換樹脂を触媒とするアルキレンカーボネートの製造方法(特許文献3)、アルカリ金属塩を触媒としたアリール置換アルキレンカーボネートの合成(特許文献4)、相間移動有機金属錯体触媒を用いるアルケニルエーテルカーボネートの製造方法(特許文献5)等がある。
【0003】
これらの触媒改良により、エチレンオキサイドの転化率、エチレンカーボネートの選択率ともに大幅な向上が見られているものの、多い場合には、1%程度の未反応エチレンオキサイドと1%程度の副生成物が発生することは避けられず、工業スケールで本反応を実施する場合には、これらの化合物を、製品エチレンカーボネートから効率よく分離し適切に処理しなければならない。
本発明の反応の副生成物としては、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリエチレンカーボネートなどが知られ、蒸留の方法等が示された文献が知られているが(特許文献6、7)、これらの教示はプロセスの一部を切り出して開示したものがほとんどであり、また、グリコールを加熱すると、これらを基点としてエチレンオキサイドやエチレンカーボネートの重合が誘発されて、製品収率を悪化させることを考慮していないなど、充分な技術開示とはいえなかった。
【0004】
すなわち、エチレングリコールは、エチレンカーボネートとの蒸留分離が可能な充分な沸点差を持ってはいるが、蒸留工程で加熱する時間が長過ぎると、ポリマーの副生を誘発し、製品収率を悪化させてしまう。したがって、エチレングリコールは、加熱しないまま、分離除去することが望ましい。
さらには、これら副生成物のなかでも、ジエチレングリコール(沸点246℃)は、エチレンカーボネート(沸点247℃)と沸点差がほとんど無く、蒸留による分離が困難である。もちろん、複雑な操作と分離処理時間を無視すれば、蒸留塔の理論段数を高く積むことで分離は可能に見えるが、ジエチレングリコールとエチレンカーボネートを一緒に加熱すると、ジエチレングリコールが基点となってエチレンカーボネートやエチレングリコールの重合が進み、ポリエチレンカーボネートやポリエチレングリコールが生成してしまい、エチレンカーボネートの収率が下がるのみならず、ポリマーがプロセス内に蓄積し、反応器、熱交換器、蒸留塔の壁面や配管に付着して、伝熱や流動を妨げるなどの障害を引き起こす欠点がある(特許文献8)。
【0005】
ところが、これら文献類のすべてにおいて、エチレングリコールの多量体については、ポリエチレングリコールとして一括して取り扱っており、ジエチレングリコールの特殊性に着目した技術開示は無く、ジエチレングリコールの効率的な分離が充分でない欠点があり、その充分な分離精製方法が求められていた。
【特許文献1】特開平7−206846号公報
【特許文献2】特開平7−206847号公報
【特許文献3】特開平7−206848号公報
【特許文献4】特開平8−53396号公報
【特許文献5】米国特許第5,095,124号
【特許文献6】米国特許第4,166,773号
【特許文献7】特開昭57−106631号公報
【特許文献8】特開平2−32045号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、エチレンオキサイドと二酸化炭素から触媒の存在下エチレンカーボネートを製造するにあたり、簡便な装置で、重合物の副生を最小限に抑え、かつ、蒸留の極めて困難なジエチレングリコールを分離し、効率よくエチレンカーボネートを精製する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、ある特定の蒸留条件において、生成したエチレンカーボネートに対して少量のジエチレングリコールであれば、分離精製できることを見出し、本発明の端緒とした。
しかしながら、それも限界があり、まずは、反応系にてジエチレングリコールが生成しないようにすることが肝要であり、その検討を行った。さらに、分離し切れなかったジエチレングリコールがエチレンカーボネートの重合を誘発しないように、その後の精製工程についても考察を加えた。
その結果は驚くべきものがあり、極めて分離しにくいエチレンカーボネートとジエチレングリコールを、理論段数を高く積み上げた複雑特殊な蒸留塔を用いることもなく、余計な加熱蒸留工程を経ることによるポリエチレンカーボネートやポリエチレングリコールといった不必要なポリマーの副生を悪化させることもなく、簡便なフラッシュタンクと運転の容易な薄膜蒸留器で分離することが可能になったという相反するいくつもの要求を同時に満足する顕著な効果を見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、
1.エチレンオキサイドと二酸化炭素を触媒の存在下反応させてエチレンカーボネートを得るプロセスにおいて、(1)反応器出口混合物中のジエチレングリコールが、該混合物中のエチレンカーボネートに対して1000ppm以下であり、(2)反応器出口混合物から未反応エチレンオキサイドと未反応二酸化炭素を分離除去して、主としてエチレンカーボネートを含む混合物を得たのち、該混合物からエチレンカーボネートを蒸留分離する工程において、該蒸留分離の圧力が、該蒸留温度におけるエチレンカーボネートとジエチレングリコールの蒸気圧の間であり、(3)該蒸留分離から取り出されたエチレンカーボネートが、その後の工程で40℃から120℃に維持されていることを特徴とするエチレンカーボネートの精製方法に係わる。
2.上記1記載の反応器出口混合物中のジエチレングリコールが、該混合物中のエチレンカーボネートに対して300ppm以下であることを特徴とする上記1記載のエチレンカーボネートの精製方法に係わる。
3.該触媒の濃度が、3質量%以下で反応させることを特徴とする上記1あるいは2記載のエチレンカーボネートの精製方法に係わる。
4.該エチレンオキサイドあるいは該二酸化炭素に含まれる水分が0.2質量%以下であることを特徴とする上記1〜3のいずれか記載のエチレンカーボネートの精製方法に係わる。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、エチレンオキサイドと二酸化炭素から触媒の存在下エチレンカーボネートを製造するにあたり、簡便な装置で、重合物の副生を最小限に抑え、かつ、蒸留の極めて困難なジエチレングリコールを分離し、効率よくエチレンカーボネートを精製する方法を提供するという効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の反応は、エチレンオキサイドと二酸化炭素からエチレンカーボネートを得るものである。
本発明で用いられるエチレンオキサイドは、どのような方法で得られたものでも構わないが、工業的には、エチレンの酸化反応によって得られるエチレンオキサイドが好ましく用いられる。
本発明で用いられる二酸化炭素は、工業的に入手可能なものが好ましく、天然ガス、発酵ガス、石油精製の副生ガス、アンモニア合成工程の副生ガスなどから得られる二酸化炭素が例示される。荷姿は、ガス状炭酸ガス、液化炭酸ガス、ドライアイスから選ばれるが、なかでもガス状炭酸ガスおよび液化炭酸ガスが、取り扱いの容易さから好ましく用いられる場合が多い。
【0011】
本発明に用いる触媒は、背景技術の項で説明したように、種々の触媒を用いることが可能であり、よく知られているテトラエチルアンモニウムブロマイド、カルボン酸型陽イオン交換樹脂、タングステン酸化物ないしはモリブデン酸化物を主体とするヘテロポリ酸、アルカリ金属のヨウ化物や臭化物などが例示される。なかでもハロゲン化アルカリが容易に入手できるなどの利点があり好ましく、アルカリ金属のヨウ化物は、反応混合物からの分離回収が容易であり、一般に安定であり、一層好ましい。
触媒濃度は、用いる触媒、反応条件、反応器の形状等により異なり、反応器中の濃度として、0.01〜5質量%に調整されるのが一般的であり、0.01〜3質量%であることが好ましい。
【0012】
本発明の反応方式は、気泡塔反応器、完全混合型反応器、完全混合型反応器を直列に用いた多段反応方式、プラグフロー反応器、完全混合反応器とプラグフロー反応器を組み合せた方式等、一般的に用いられる反応方式を使用することができる。
本発明を実施するに当り、エチレンカーボネートを合成する反応の、反応温度は、通常、100〜200℃、好ましくは150〜190℃である。反応圧力は、通常、2〜15MPa、好ましくは4〜12MPaである。反応時間は、原料であるエチレンオキサイドと二酸化炭素の組成比、使用触媒の種類と濃度、反応温度等によって異なり、完全混合反応器を用いて合成する場合には、反応器の滞留液量と全供給液量から求められる平均滞留時間を反応時間と定義すると、通常、0.5〜10Hr、好ましくは1〜5Hrである。
【0013】
本発明を実施するに当り、原料であるエチレンオキサイドと二酸化炭素の量比は、エチレンオキサイドに対する二酸化炭素のモル比で表現して、通常、1〜5、好ましくは1〜2である。しかし、通常は反応器から余剰の二酸化炭素ガスを放出すると、同伴する未反応のエチレンオキサイドも増えるので、反応器圧力が一定となるように二酸化炭素供給量を調整する方法が好ましい。
本反応は、二酸化炭素の反応液への溶解が律速過程になる場合が圧倒的に多いため、溶解度を上げる目的で高圧反応が選ばれる場合が多い。二酸化炭素で高圧をかけることは、自己燃焼性(爆発性)のエチレンオキサイドを、爆発限界を外して安全に反応させる目的からも好ましい。
【0014】
また、二酸化炭素を反応液に溶解させるために、種々の反応器形式が考案されており、本発明で開示するシャワーノズル式や、エジェクター方式、気泡塔反応器などが例示され、ベンチュリー攪拌子を備えた完全混合槽反応器などを用いることも好ましい。
本反応は著しい発熱反応であり、反応熱の除去が重要である。種々の方式が提案されているが、一般的には、反応器の周りにジャケットを設けてオイルを流し、このオイルを熱交換器に通して除熱したり、反応器から反応混合物を一部抜き出し、熱交換器を通して冷ました反応混合物を再び反応器に戻して除熱したりする方式が用いられる場合が多い。
反応を完全混合槽反応器で行う場合には、反応液中に二酸化炭素が溶解し易いように、大流量の反応液をポンプで循環する方法も好ましい。通常、単位時間当たりの循環回数は10〜50回/Hrであり、好ましくは20〜40回/Hrである。反応液をポンプ循環する配管の途中に熱交換器を設けて、反応熱の除去を行う場合には、大流量の循環を行うと、熱交換器の冷却能力が上がるので好ましい。
【0015】
反応器等のプロセス液が通る部位の材質は、プロセス液に対する耐蝕性があれば使用可能である。鉄錆があるとその触媒作用によりエチレンオキサイドの重合物の生成原因となるので、ステンレス鋼を用いるのが好ましい。
本発明においては、エチレンカーボネートは、まず、反応器出口混合物から未反応エチレンオキサイドと二酸化炭素を分離して、主としてエチレンカーボネートを含む混合物を得たのち、該混合物からエチレンカーボネートを蒸留分離する。
未反応のエチレンオキサイドと二酸化炭素を分離する工程で用いる蒸留塔は、簡便なフラッシュタンクや理論段数として数段以下の簡便な蒸留塔で構わない。これら設備の運転条件は、本反応の反応条件にも依るし、引き続く蒸留工程との熱量や圧力のバランスにも依るが、一般に100〜150℃、300〜2000Torrという条件で運転される場合が多い。
【0016】
フラッシュタンクの出口ガスは、そのままではエチレンカーボネートを相当量含んでいるため、一旦凝縮器を通してエチレンカーボネートを回収した残りのガスを排出する方式も好ましい。
主としてエチレンカーボネートを含む混合物からエチレンカーボネートを得る蒸留工程は、該混合物がポリエチレンオキサイド、ポリエチレンカーボネートなどのポリマー様の高沸点化合物を含むため、通常の蒸留塔ではなく、薄膜蒸留設備を用いる場合が多い。
薄膜蒸留設備に導入する前に、小型のフラッシュタンクを通して、気化できるエチレンカーボネートは予め気化させて回収することも、薄膜蒸留設備の負荷量を軽くできるため好ましい。
【0017】
小型フラッシュタンクおよび薄膜蒸留設備から回収されたエチレンカーボネートは、夾雑物を同伴していることがあるため、一旦デミスタードラムを通して、これら同伴している夾雑物を分離することも好ましい実施様態である。
薄膜蒸留設備では、エチレンカーボネートを気化させるために多大な熱を加えて使用するが、これらの熱量は、反応器から反応熱として回収した熱を用いると、エネルギーの無駄が少なくなって好ましい。
本発明では、特に、エチレンカーボネートと沸点差のほとんど無いジエチレングリコールの分離方法について開示する。
【0018】
本発明者らの検討に拠れば、反応器出口混合物から未反応エチレンオキサイドと未反応二酸化炭素を分離除去して、主としてエチレンカーボネートを含む混合物を得たのち、該混合物からエチレンカーボネートを蒸留分離する工程において、該蒸留分離の圧力が、該蒸留温度におけるエチレンカーボネートとジエチレングリコールの蒸気圧の間であることが好ましい。
例えば、蒸留温度120℃の場合、エチレンカーボネートとジエチレングリコールの蒸気圧は、それぞれ、13Torrと6Torrであり、蒸留圧力は10Torr前後が好ましく、160℃ならば、エチレンカーボネートとジエチレングリコールの蒸気圧は、それぞれ、61Torrと43Torrであり、50Torr前後が好ましい。
【0019】
この間の圧力よりも圧力が低いと、製品エチレンカーボネートにジエチレングリコールが混入してしまい好ましくなく、圧力が高いと、製品エチレンカーボネートの回収率が低下してしまい好ましくない。
しかしながら、このような簡便な方法でジエチレングリコールを分離するには限界があり、あまり高濃度のジエチレングリコールは分離できない。その濃度の上限は、反応器出口混合物中のジエチレングリコールのエチレンカーボネートに対する濃度として1000ppmであり、300ppm以下であることが好ましく、さらにその濃度は小さいほど好ましい。
【0020】
ジエチレングリコールの副生を抑える方法は種々あるため、そのうちのいくつかを例示する。
エチレンカーボネート選択性の優れた触媒を用いることは重要であり、本発明の実施例で用いたヨウ化カリウム、一般的によく用いられるテトラエチルアンモニウムブロマイドなどが挙げられ、これらを組み合せて用いることも好ましい。
エチレンオキサイドの転化率を下げれば、一般に選択性が上がることよく知られているが、転化率を下げることなく選択性を高く維持する方法としては、反応器を、一段で高い転化率を達成するよりも、多段にして、いたずらに反応時間を延ばすことなく選択性を上げる方法も好ましい。また、完全混合型反応器を用いる場合には、反応器出口に、フィニッシャーと呼ばれる小型のピストンフロー型反応器を取り付けておき、転化率を稼ぐ方法も好ましい。
【0021】
原料の純度も重要であって、用いるエチレンオキサイド、用いる二酸化炭素は、精製したものであることが好ましい。エチレンオキサイドには、一般に、エチレングリコール、アセトアルデヒド、ホルムアルデヒド、水などが含まれる。また、エチレンの酸化反応によってエチレンオキサイドを製造する工程においては、反応ガスを水で吸収させる工程を用いる場合が多いため、水分を含む場合もある。二酸化炭素の不純物は、その供給元によって異なるため、一概には例示できないが、例えば、アンモニア製造工程で副生する二酸化炭素の場合、最も多く含まれる不純物は水分である。これら水分は、エチレンオキサイドと速やかに反応してエチレングリコールを副生し、エチレングリコールはエチレンオキサイドと反応してジエチレングリコールを副生する。したがって、できるだけ水分の少ないエチレンオキサイドと二酸化炭素が良く、水分として0.2%以下、好ましくは0.05%以下の原料が好適に用いられる。
【0022】
さらに、ジエチレングリコールは、上記したように、エチレンオキサイドと反応してさらに分子量の大きなポリエチレングリコールに転化するのみならず、エチレンカーボネートとも反応してポリエチレンカーボネートになったり、それがさらに脱炭酸して一部ポリエチレングリコールになったり、さまざまな副反応を併発して、ポリマー様の高沸点化合物を副生する。
これらの反応は、温度と時間が高く長ければ、ほぼそれに応じて副生量が増すため、エチレンカーボネート蒸留工程から得られたエチレンカーボネートは、それ以降の工程では、蒸留に供されて、蒸留塔底部などで長時間の加熱に晒されたり、また過度な加熱を受けたりしないことが重要である。
【0023】
また、エチレンカーボネートは、融点が36℃であり、それ以下の温度では固化してハンドリングが困難になる場合が想定されるため、エチレンカーボネートを含むプロセス液は、ハンドリングの容易な液体状態に維持するべく、40℃以上に加熱保温しておくことが好ましい。
したがって、エチレンカーボネート蒸留工程から得られたエチレンカーボネートは、40〜120℃の温度範囲に維持されていることが好ましく、さらに好ましくは、50〜100℃である。40℃を下回ると、エチレンカーボネートが析出してハンドリングが困難になる可能性があり好ましくなく、120℃以上の温度に晒されると、蒸留工程に供されて余計な加熱を受けた状態と同じことになるため好ましくない。
【0024】
このようにして得られたエチレンカーボネートは、一般に安定で、毒性の無い、極性の大きな化合物であり、水や有機溶剤とよく混合し、高分子物質に対しても、一般に優れた溶解性を示す。そのため、有機溶剤として広範囲に用いられるのみならず、活性水素を有する化合物に対して、開環付加反応、開環縮合反応を行うため、有機合成原料としても有用である。また、二次電池用電解液としての用途にも好ましく用いることができる。
具体的な用途としては、有機溶剤、ポリマー溶剤、ヒドロキシアルキル化剤、リチウム二次電池用電解液、医薬品、アクリル繊維加工剤、土壌硬化剤などに用いられ、芳香族ポリカーボネート原料としての炭酸ジエステルを製造する原料としても、好適に用いられる。
【実施例】
【0025】
[実施例1]
図1を用いて本発明を具体的に説明する。
図1はアルキレンカーボネート製造プロセスを示すフロー図である。
反応器11は、内径10cmΦ、直胴部長さ250cm、容量20Lで、反応器上部に二酸化炭素の吸収効率を高める液分散ノズルを持った、ステンレス製の縦型円塔槽である。
なお、配管14と16の分岐から調整弁までの間に、フィニッシャーを設けたが、記載は省略した。
【0026】
原料として、約5℃に冷却されたエチレンオキサイドを、原料配管1からエチレンオキサイドポンプ4に供給し、そこで2650g/hをポンプで昇圧し、エチレンオキサイド供給配管8から反応器循環配管14に供給した。もう一方の原料である二酸化炭素として、液化二酸化炭素を原料配管3から二酸化炭素供給ポンプ6に供給した。そこで昇圧させ、温水浴型の二酸化炭素蒸発器7でガス化させ、約90℃の温度で二酸化炭素供給配管10から反応器上部の気相部に約9.5MPaの一定圧力となるよう調節して供給した。平均的な二酸化炭素供給量は2870g/hであった。
触媒には、沃化カリウム(KI)を用い、エチレンカーボネート溶液に5wt%となるように調合した。フレッシュ触媒は、触媒配管2から触媒供給ポンプ5に供給し、触媒供給配管9から反応器循環配管14に供給した。エチレンカーボネート精製工程で回収した触媒を含む混合物は、配管24を通じて、触媒供給ポンプ25に送り、反応器循環配管14に供給した。
【0027】
エチレンカーボネート精製工程で回収した触媒とフレッシュ触媒の割合は、それぞれ9部及び1部として、反応器循環液中の沃化カリウム濃度が0.23〜0.26wt%となるように設定した。
反応器内の液保有量が14.5kgで一定となるように、送り出し配管16の調節弁を調整して、抜き出した混合物は、まずフラッシュタンク18に供給し、未反応のエチレンオキサイド、未反応の二酸化炭素、微量のエチレンカーボネートをガスとして配管17から系外に排出した。フラッシュタンクの作動条件は、760Torr、130℃であった。
【0028】
さらに、フラッシュタンク18の底部より、主にエチレンカーボネートを含む混合物を配管19を通して抜き出し、エチレンカーボネート回収塔21に導入した。エチレンカーボネート回収塔は、160℃、49Torrに制御された薄膜蒸留器である。エチレンカーボネートは蒸留器21より配管20を通して抜き出し、触媒、高沸物を含む混合物は蒸留塔より配管22を通して抜き出した。この一部を、配管23を通して系外に排出した。
各配管の流量と組成を表1にまとめた。エチレンオキサイド、エチレンカーボネート、二酸化炭素、ヨウ化カリウム、エチレングリコール、ジエチレングリコール、高沸物はそれぞれ、EO、EC、CO2、KI、EG、DEG、HBと略記した。配管16の値は、フィニッシャー以降の混合物の分析結果である。
上記条件で700時間の連続運転を行い、安定した製造実績を達成した。
配管19におけるポリマーの割合は0.88%、エチレングリコールへの選択率は99%を超えた。
配管20のエチレンカーボネート中にジエチレングリコールは検出されなかった。
【0029】
[比較例1]
ジエチレングリコール1%を含むエチレンオキサイドを用いた以外は、実施例1と同様の反応を行った。
反応時間800時間付近から反応温度の上昇が始まり、820時間で反応を停止し、開放点検した。薄茶〜茶色の付着物が熱交換器の伝面全体に付着していた。配管23の抜き出し液も目視で若干着色していた。
配管20のエチレンカーボネート中にジエチレングリコールが0.3%検出された。
【0030】
[比較例2]
薄膜蒸留器21の運転圧力を75Torrとした以外は、比較例1と同様の運転を行った。
配管20のエチレンカーボネート中にジエチレングリコールが420ppm検出された。
配管20におけるエチレンカーボネートの回収率は、比較例1の約6割に止まった。
【0031】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、エチレンオキサイドと二酸化炭素から触媒の存在下エチレンカーボネートを製造するにあたり、エチレンカーボネートの効率よい精製方法として好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】アルキレンカーボネート製造プロセスを示すフロー図。
【符号の説明】
【0034】
1、2、3、8、9、10、12、14、15 配管
16、17、19、20、22、23、24、26 配管
4、5、6、13、25 ポンプ
7 熱交換器
11 反応器
18 フラッシュタンク
21 薄膜蒸留器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレンオキサイドと二酸化炭素を触媒の存在下反応させてエチレンカーボネートを得るプロセスにおいて、(1)反応器出口混合物中のジエチレングリコールが、該混合物中のエチレンカーボネートに対して1000ppm以下であり、(2)反応器出口混合物から未反応エチレンオキサイドと未反応二酸化炭素を分離除去して、主としてエチレンカーボネートを含む混合物を得たのち、該混合物からエチレンカーボネートを蒸留分離する工程において、該蒸留分離の圧力が、該蒸留温度におけるエチレンカーボネートとジエチレングリコールの蒸気圧の間であり、(3)該蒸留分離から取り出されたエチレンカーボネートが、その後の工程で40℃から120℃に維持されていることを特徴とするエチレンカーボネートの精製方法。
【請求項2】
反応器出口混合物中のジエチレングリコールが、該混合物中のエチレンカーボネートに対して300ppm以下であることを特徴とする請求項1記載のエチレンカーボネートの精製方法。
【請求項3】
該触媒の濃度が、3質量%以下で反応させることを特徴とする請求項1あるいは2記載のエチレンカーボネートの精製方法。
【請求項4】
該エチレンオキサイドあるいは該二酸化炭素に含まれる水分が0.2質量%以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載のエチレンカーボネートの精製方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−104096(P2006−104096A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−290879(P2004−290879)
【出願日】平成16年10月4日(2004.10.4)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)