説明

エチレンジアミン−ピペラジン混合物からピペラジンを連続的に蒸留除去する方法

【課題】エチレンジアミン−ピペラジン混合物を高温高圧下で蒸留し、蒸留塔の塔頂からエチレンジアミンを排出し、蒸留塔の塔底からピペラジンを排出することにより、上記混合物からピペラジンを連続的に蒸留除去する方法において、ピペラジンの品質、特に色及び色安定性を改良する。
【解決手段】本発明の方法は、上記蒸留塔の塔底から排出されたピペラジンを、約160〜約170℃で操作されている蒸発装置を介して移送して上記蒸留塔に戻す循環処理に直接付す工程、及び、上記循環処理を行うシステムに30〜約60分間滞留させた後、上記蒸留塔の下部の側方排出口からピペラジンを蒸気の形態で排出させる工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレンジアミン−ピペラジン混合物を高温高圧下で蒸留し、蒸留塔の塔頂からエチレンジアミンを排出し、蒸留塔の塔底からピペラジンを排出することにより、上記混合物からピペラジンを連続的に蒸留除去する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ピペラジンは、ヒト用医薬品及び動物用医薬、化粧品及び写真薬剤の製造において使用されている。ピペラジンの重要な品質特性として、純度(一般に、ガスクロマトグラフィーによって測定される)に加えて、変色度及び色安定性が挙げられる。
【0003】
変色度の測定には、通常いわゆる色数が使用される。色数は、一定の条件下で決定された透明物質の色に対する特性値であり、通常は視覚的に比較することによって決定される。液体の色数の評価には、APHA(American Public Health Association;米国公衆衛生協会)の色数(Roempp Chemie Lexikon 1995)が頻繁に使用される。
【0004】
ピペラジンは、生成混合物を蒸留除去する公知の方法により、所望の純度で得ることができる。この点に関し、最終的に得られたピペラジンの留分が既に所望の純度を有しているような高性能の蒸留装置を使用することができる。従って、蒸留は1段階に除去(分離)工程と精製工程の両方を含んでいる。蒸留法は、経済的な理由から、初めにピペラジンを1個以上の塔で繰り返し分留しなければならない場合でさえ、特に効果的な方法である。
【0005】
ピペラジンは、通常、種々のエチレンジアミンの製造において、価値のある生成物の1つとして、工業的規模で得られる。この方法における合成は、ジクロロエチレンとアンモニアの反応(EDC法)又はモノエタノールアミンとアンモニアの反応(MEOA法)を基礎としている。この反応において共に得られる生成物としては、エチレンジアミン(EDA)、ジエチレントリアミン(DETA)、トリエチレンテトラミン(TETA)、及びこれらより高次の直鎖状又は環状のエチレンアミンが挙げられ、さらに、MEOA法に場合にはアミノエチルエタノールアミン(AEEA)も生成する。
【0006】
両方の合成法は、結局、エチレンの(塩素又は酸素による)酸化によりEDC及び酸化エチレン(EO)をそれぞれ得る工程と、続いてアンモニアと1段階又は2段階で反応させる工程を基礎としている。MEOA法は従って追加の1段階の合成工程を含むけれども、塩素の酸化剤は高価であり、さらに塩の形成が回避できない。
【0007】
EDC法と比較して、MEOA法では環状化合物の留分が増加するが、ピペラジンを含有する混合物を生成物として得たい場合には、好適な方法である。
【0008】
合成法の選択に関わらず、工業的な製造工程で生成したエチレンジアミン混合物を、通常、一連の塔を用いて連続法で精製し、分離する。まずアンモニアを加圧塔で除去し、次いで形成した(又はEDC法において添加された)プロセス水を蒸留除去する。
【0009】
この点に関し、GB1263588号公報は、水の蒸留除去において不純物を共沸物として除去することにより、生成した混合物を精製する方法を開示している。
【0010】
これとは反対に、US3105019号公報は、蒸留におけるピペラジンのための連行剤として、特にピペラジン−TEDA留分の除去のために、有機溶媒を添加することを開示している。
【0011】
【特許文献1】GB1263588号公報
【特許文献2】US3105019号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述の方法はいずれも十分な純度のピペラジン又は他のエチレンアミン生成物又は生成混合物を与えるものの、測定された色数が分離直後には要求仕様に適合する場合でさえも、充分な色安定性を有する生成物が得られることを保証するものではない。
【0013】
というのは、変色成分は一般に個々の成分としては検出できず、例えばガスクロマトグラフィーによる純度検定における検出限界以下の量でしか存在しないからである。特にMEOA法では、変色成分はアセトアルデヒド分及びその凝集生成物に基づいている。この場合には、発色化合物が時間の経過と共に形成され、色数の変化がしばしば貯蔵後にのみ生じ、要求仕様がもはや達成されなくなってしまう。
【0014】
これらの不純物は、特にMEOA法において認められる。というのは、MEOAのアミノ化がエチレン単位を基礎としているため、脱水によるC2フラグメントの形成及び反応条件下での脱アミノ化が起こるからである。これらのフラグメント、特にアセトアルデヒド及びその高次の凝集生成物は、生成物の品質、特に色安定性を継続的に劣化させる。しかしながら、これらの不純物は、その不均一性及び低濃度のために、蒸留後に分離された成分においては一般に分析により検出することができないのも事実である。
【0015】
そこで、本発明の目的は、色、色安定性及び臭気に関して改良さえた品質を有する純ピペラジンの製造方法であって、改良された効果的で経済的に実行可能な法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
この目的は、エチレンジアミン−ピペラジン混合物を高温高圧下で蒸留し、蒸留塔の塔頂からエチレンジアミンを排出し、蒸留塔の塔底からピペラジンを排出することにより、上記混合物からピペラジンを連続的に蒸留除去する方法であって、上記蒸留塔の塔底から排出されたピペラジンを、約160〜約170℃で操作されている蒸発装置を介して移送して上記蒸留塔に戻す循環処理に直接付す工程、及び、上記循環処理を行うシステムに30〜約60分間滞留させた後、上記蒸留塔の下部の側方排出口からピペラジンを蒸気の形態で排出させる工程、を含むことを特徴とする方法によって達成される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明では、方法自体は公知の方法により得られるエチレンジアミン−ピペラジン混合物が使用される。この混合物は、高温高圧下で蒸留塔において分離される。この目的のために好適なのは、蒸発器と凝集器とを有する慣用の蒸留装置である。好ましいのは、棚段、構造化充填物又は不規則充填物の形態の理論段数が10〜60、好ましくは30〜40段の蒸留塔を使用する。有用な棚段には、泡鐘段、網目段、バルブトレー、トールマントレー(Thorman tray)、ストロイベルトレー(Streuber tray)、及びデュアルフロートレーが含まれる。好ましい構造化充填物は、金属又はプラスチックの圧縮されたシート状構造物又は織物である。有用な不規則充填物は、ラッシヒリング、イントスリング又はポールリングのようなリング、バレルサドル又はインタロックスサドルのようなサドル、及びトップパック又はブレードである。
【0018】
エチレンジアミン−ピペラジン混合物は、蒸留装置の理論段数5〜20段、特に10〜15段の領域に供給される。蒸留は、圧力が0.5〜2bar、好ましくは0.8〜1.5bar、塔底温度が約140〜約170℃の条件下で行われる。
【0019】
エチレンジアミン−ピペラジン混合物が熱に敏感なため、内壁温度が低く且つ液体容量が少ない蒸発器を有する蒸留塔を稼動させるのが好ましい。総合的には、薄膜型蒸発器又は折畳膜型蒸発器を使用するのが特に好適であることがわかっている。穏やかな蒸発のために、蒸気側と生成物側の温度差が30℃以下、特に20℃以下であるのが好ましい。塔底部と蒸発器の底部とは、混合物の滞留時間が60分未満になるように設計される。
【0020】
蒸留により得られたエチレンジアミンは、塔頂から排出され、ピペラジンは塔底から排出される。エチレンジアミンは、還流バックとして蒸留塔に供給され、還流比が0.4〜0.8になるように調整される。本発明では、ピペラジンを、約160〜約170℃で操作されている蒸発装置を介して移送して蒸留塔に戻す循環処理に直接付す。適当な蒸発装置は、流下膜型蒸発器、薄膜型蒸発器、短経路蒸発器又は螺旋管蒸発器である。上記循環処理を行うシステム中に30分〜約60分滞留させた後、ピペラジンを蒸留塔の下部の側方排出口から蒸気の形態で連続的に排出する。
【0021】
側方排出口から排出された蒸気形態のピペラジンを、次いで慣用の凝縮器又は外部冷却機を有するピペラジン急冷機で凝縮させ、小片形態又は別の形態でピペラジンを得て貯蔵することができる。
【0022】
側方排出口から排出されたピペラジンは高純度を有し(ピペラジン含有量99質量%以上)、色数が小さい(APHA30未満)。また、色数安定性も改良されている。塔底から排出されるピペラジンは高純度を有しており、ピペラジン水溶液の製造のために使用されると、色数がより大きくても特に問題にならない。
【0023】
改良された色安定性は、長期試験において調査することができる。
【0024】
色数の試験では、化合物の色の品質は一般に入射光の透過度を測定することにより決定される。この目的のため、長さのわかっているキュベット内に導入した所定の濃度の溶液又は溶融物に、予め決定された波長の光ビームを照射する。ある波長において透過した光エネルギーの割合により、色数の値が定まる。着色の弱い溶液では、APHAの色の尺度が使用される。
【0025】
色数は、予め50mmのプラスチックのキュベットに使用した水を導入して零点を較正した分光計で測定される。ピペラジンを粉砕した形態で秤量してキュベットに導入する。このとき、摩擦により過剰の熱が発生しないように注意しなければならない。全体の操作は、ピペラジンの吸湿性による吸水量が最小限になるように、空気を効果的に抜き取ることができる場所で迅速に行わなければならない。
【実施例】
【0026】
以下、本発明を実施例を使用して詳細に説明する。
【0027】
例1(比較例)
棚段数が70段のDN50泡鐘段塔を使用して実験を行った。
【0028】
約90質量%のエチレンジアミンと約10質量%のピペラジンの混合物を、1500g/hの量で導入した。供給物は、26段目の棚の位置に導入した。還流比は、約1:2であった。蒸留塔は、絶対圧が1bar、搭頂温度が約117℃、塔底温度が約150℃の条件で操作した。塔の底部での蒸発は、循環蒸発器で行った。エチレンジアミンを塔頂から高純度で得た。ピペラジンを塔底から得た。このようにして得られたピペラジンの純度は少なくとも99.9質量%であったが、色、色数安定性及び臭気に関しては不満足な特性を示し、従って市販することができなかった。仕上げ直後の色数は24APHAであったが、3ヶ月後の色数は65AHPAであった。
【0029】
例2(実施例)
泡鐘段塔の塔底から排出されたピペラジンを、温度165℃で操作された流下膜型蒸発器を介して移送して蒸留塔に戻す循環処理に付した点を除いて、例1の手順を繰り返した。上記循環処理を行うシステムにおけるピペラジンの滞留時間は約40分であった。このことは、塔底におけるピペラジンへの熱応力を低下させる。次いで、蒸気形態のピペラジンを連続的に泡鐘段塔の4段目の棚上に配置された側方排出口から連続的に排出し、凝縮させて仕上げた。塔底からの排出物の量と側方排出口からの排出物の量との比は、約1:1であった。ピペラジンは99.9質量%以上の純度で得られた。色数と色数安定性は、例1の実験と比較して顕著に改良されていた。仕上げ直後の色数は16APHAであり、3ヶ月後の色数は42APHAであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレンジアミン−ピペラジン混合物を高温高圧下で蒸留し、蒸留塔の塔頂からエチレンジアミンを排出し、蒸留塔の塔底からピペラジンを排出することにより、前記混合物からピペラジンを連続的に蒸留除去する方法であって、
前記蒸留塔の塔底から排出されたピペラジンを、約160〜約170℃で操作されている蒸発装置を介して移送して前記蒸留塔に戻す循環処理に直接付す工程、及び、
前記循環処理を行うシステムに30〜約60分間滞留させた後、前記蒸留塔の下部の側方排出口からピペラジンを蒸気の形態で排出させる工程、
を含むことを特徴とする方法。

【公開番号】特開2007−51142(P2007−51142A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2006−216786(P2006−216786)
【出願日】平成18年8月9日(2006.8.9)
【出願人】(595123069)ビーエーエスエフ アクチェンゲゼルシャフト (847)
【氏名又は名称原語表記】BASF Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】