説明

エチレンビニルアルコール共重合体系樹脂成形体

【課題】優れた曲げ加工性と導電性を有するエチレンビニルアルコール共重合体系樹脂成形体を提供する。
【解決手段】エチレンビニルアルコール共重合体系樹脂と、導電性物質とを含有する成形体であり、動的粘弾性測定法により、振動周波数10Hz、温度23℃で測定される該成形体の貯蔵弾性率(E’)が2.0GPa以上4.0GPa以下であることを特徴とするエチレンビニルアルコール共重合体系樹脂成形体を提案する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、良好な曲げ加工性と良好な導電性を備えた成形体に関する。詳しくは、エレクトロニクス分野に用いる各種材料、帯電防止効果を有する包装材や薬品タンクなどのように、曲げ加工性と導電性が共に必要とされる用途に利用することができる成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
エレクトロニクス分野で使用される材料には、曲げ加工性と導電性が共に必要とされることが多く、この種の用途には、導電性を備えた導電性樹脂成形体が利用されている。
また、エレクトロニクス分野に用いる部品等は、静電気により破壊され易いため、これらの部品を包装あるいは搬送する場合には、帯電防止効果(すなわち静電気を逃がす性質)を有する導電性樹脂からなる包装材料が用いられている。
そのほか、可燃性薬品のタンクなど、静電気で発火する可能性のある薬品の容器やタンクには、帯電防止効果の観点から、導電性を備えた導電性樹脂成形体が使用されている。
【0003】
この種の用途に利用される導電性樹脂成形体として、例えば特許文献1や特許文献2などには、樹脂と導電性材料としてのカーボン系材料とを配合してなる樹脂組成物からなる成形体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平7−5756号公報
【特許文献2】特開平11−71515号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来開示されている導電性樹脂材料の多くは、導電性を高めるために導電性材料の配合量を増やすと、溶融流動性すなわち溶融成形性が低下したり、脆くなったりして曲げ加工性を損なうことがあるなど、良好な曲げ加工性と良好な導電性を共に備えることは難しいことであった。
そこで本発明は、優れた導電性と曲げ加工性とを共に有し、好ましくは軽量である、新たな樹脂成形体を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、エチレンビニルアルコール共重合体系樹脂と、導電性物質とを含有する成形体であり、動的粘弾性測定法により、振動周波数10Hz、温度23℃で測定される該成形体の貯蔵弾性率(E’)が2.0GPa以上4.0GPa以下であることを特徴とするエチレンビニルアルコール共重合体系樹脂成形体を提案する。
【0007】
本発明の樹脂成形体は、優れた導電性と曲げ加工性とを共に有しているばかりか、エチレンビニルアルコール共重合体系樹脂をベース樹脂として含有するため、耐油性に優れており、例えば各種薬品タンクの構成部材などに好適である。
さらに、導電性物質としてカーボン系材料を用いることにより、軽量の樹脂成形体が得られ、例えばエレクトロニクス分野で用いる包装材の用途にも好適に利用することができる。
よって、本発明が提案するエチレンビニルアルコール共重合体系樹脂成形体は、例えばエレクトロニクス分野における導電性材料として好適に利用することができるばかりか、例えば帯電防止効果が必要とされる包装材料や、帯電防止効果が望まれる薬品タンクなどのように、良好な曲げ加工性と導電性がともに要求される用途全般に好適に利用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態の一例としてのエチレンビニルアルコール共重合体系樹脂成形体(「本樹脂成形体」と称する)について説明する。但し、本発明が、この本樹脂成形体に限定されるものではない。
【0009】
<本樹脂成形体>
本樹脂成形体は、エチレンビニルアルコール共重合体系樹脂と、導電性物質と、を主たる構成成分とする樹脂組成物から形成される成形体である。
【0010】
(エチレンビニルアルコール共重合体系樹脂)
本樹脂成形体の主たる構成成分であるエチレンビニルアルコール共重合体系樹脂としては、エチレンとビニルエステルの共重合体をケン化して得られるものが好ましい。ビニルエステルとしては、例えば蟻酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル等が挙げられる。中でも経済的な観点から酢酸ビニルが好ましい。
【0011】
該エチレンビニルアルコール共重合体系樹脂のエチレン共重合比率(樹脂中にエチレンが占める比率)は25モル%以上50モル%以下であるのが好ましく、特に30モル%以上、48モル%以下、その中でも特に40モル%以上、45モル%以下であるのが好ましい。エチレン共重合比率が25モル%以上であれば、溶融流動性すなわち溶融成形性を良好にすることができて良好な曲げ加工性を得ることができ、50モル%以下であれば、成形体の剛性、耐油性が維持されて好ましい。
【0012】
該エチレンビニルアルコール共重合体系樹脂のケン化度(ビニルエステル単位とビニルアルコール単位との合計量に対するビニルアルコール単位の割合)は90モル%以上であるのが好ましい。90モル%以上であれば、得られる成形体の機械的強度、剛性、耐油性、耐溶剤性を好ましく維持することができる。かかる観点から、特に95モル%以上、中でも特に97モル%以上であるのがより一層好ましい。
【0013】
該エチレンビニルアルコール共重合体系樹脂のMFR(メルトフローレート、210℃、2160g荷重)は、5g/10分以上25g/10分以下の範囲であることが好ましい。5g/10分以上であれば、導電性物質を配合しても樹脂組成物の溶融流動性が確保され、溶融成形が容易になるので好ましい。25g/10分以下であれば、成形体に必要な機械的強度、剛性を確保できるので好ましい。
【0014】
該エチレンビニルアルコール共重合体系樹脂は、上記の2成分以外の不飽和単量体を共重合して変性されていてもよい。
かかる共重合可能な不飽和単量体としては、例えばプロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、α−オクテン、α−ドデセン、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、高級脂肪酸ビニルエステル、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル、アルキルビニルエーテル、N−(2−ジメチルアミノエチル)メタクリルアミド類又はその4級化物、アクリルアミド、メタアクリルアミド、N−ビニルピロリドン、N−ビニルイミダゾール、N、N’−ブトキシメチルアクリルアミド、ビニルトリメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルジメチルメトキシシラン等が挙げられる。
【0015】
本樹脂成形体においては、エチレンビニルアルコール共重合体系樹脂として市販製品を用いることができる。特に限定されるものではないが、例えばクラレ社製の「エバール(登録商標)」、日本合成化学工業社製の「ソアノール(登録商標)」等が挙げられる。
【0016】
(導電性物質)
本樹脂成形体に用いることのできる導電性物質としては、例えば天然黒鉛、熱分解黒鉛、キッシュ黒鉛等の黒鉛粉、酸性溶液に前述した黒鉛粉を浸漬させた後、加熱して膨張させた膨張黒鉛、ケッチェンブラック、アセチレンブラックやファーネス法等で作られたカーボンブラック、ポリアクリルニトリル(PAN)系、ピッチ系等のカーボン繊維、アーク放電法、レーザ蒸着法、気相成長法等で作られたカーボンナノファイバー、タングステンカーバイト、シリコンカーバイト、炭化ジルコニウム、炭化タンタル、炭化チタン、炭化ニオブ、炭化モリブデン、炭化バナジウムなどの金属炭化物、酸化チタン、酸化ルテニウム、酸化インジウムなどの金属酸化物、窒化クロム、窒化アルミニウム、窒化モリブデン、窒化ジルコニウム、窒化タンタル、窒化チタン、窒化ガリウム、窒化ニオブ、窒化バナジウム、窒化ホウ素などの金属窒化物、鉄繊維、銅繊維、ステンレス繊維などの金属繊維、チタン粉、ニッケル粉、錫紛、タンタル紛、ニオブ粉などの金属粉末が挙げられる。これらは単独で用いることもできるし、また、これらのうちの2種類以上を組み合わせて併用することもできる。
中でも、樹脂成形体の軽量化に有利な点で、黒鉛粉、ケッチェンブラック、カーボンブラック、カーボン繊維、又はカーボンナノファイバーなどのカーボン系物質が好ましい。これらは単独で用いることもできるし、また、これらのうちの2種類以上を組み合わせて併用することもできる。
カーボン系物質の中でも、軽量性の観点から、中空シェル構造で空隙率の高い粒子からなるケッチェンブラックは、特に好ましい物質の一つである。
【0017】
導電性物質の含有量は、樹脂成形体の全体質量の3質量%以上15質量%以下であるのが好ましく、特に4質量%以上、或いは12質量%以下の範囲がさらに好ましい。3質量%以上であれば、樹脂成形体に十分な導電性を付与できるので好ましい。また15質量%以下であれば、樹脂組成物の溶融流動性すなわち成形性が確保できるので好ましい。
【0018】
(他の成分)
本樹脂成形体は、エチレンビニルアルコール共重合体系樹脂及び導電性物質の機能を損なわない範囲内で、これら以外の樹脂(「他成分樹脂」という)を含有してもよい。また、エチレンビニルアルコール共重合体系樹脂及び導電性物質の機能を損なわない範囲内で、例えば酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、分散剤、相溶化剤及びその他の添加剤を含有してもよい。
【0019】
(貯蔵弾性率(E’))
本樹脂成形体は、23℃での貯蔵弾性率(E’)、すなわち、動的粘弾性測定法によって振動周波数10Hz、温度23℃で測定される貯蔵弾性率(E’)が、2.0GPa以上4.0GPa以下であることが重要である。
貯蔵弾性率が2.0GPa以上であれば、本樹脂成形体をフィルム状とした場合にも必要なハンドリング性を確保できるので好ましい。一方、貯蔵弾性率が4.0GPa以下であれば、本樹脂成形体を折曲げ加工など後加工する際に必要な加工性を確保できるので好ましい。
かかる観点から、本樹脂成形体の23℃での貯蔵弾性率(E’)は、前記範囲の中でも2.5GPa以上、或いは3.5GPa以下であるのがより好ましい。
【0020】
本樹脂成形体において、23℃での貯蔵弾性率(E’)を2.0GPa以上4.0GPa以下に調整するには、例えば、エチレンビニルアルコール共重合体系樹脂の種類、前記樹脂に組み合わされる導電性物質の種類や量などによって制御することができる。中でも、エチレンビニルアルコール共重合体系樹脂のエチレン共重合比率を調整することは特に有効である。
【0021】
(体積抵抗率)
本樹脂成形体は、体積抵抗率が1.0×10−2Ω・cm以上1.0×10Ω・cm以下であることが好ましい。体積抵抗率がかかる範囲にあれば、例えばエレクトロニクス分野における導電性材料として、包装材料や各種薬品タンクの構成部材などに好適に利用できるので好ましい。
本樹脂成形体の体積抵抗率は、導電性材料の種類と量を調製することで、調整することができる。
【0022】
(樹脂成形体の形態)
本樹脂成形体の形態は、特に限定されるものではない。例えばフィルム形状、シート形状を好ましい形態として挙げることができる。
この際、エチレンビニルアルコール共重合体系樹脂と導電性物質とを主たる構成成分とする樹脂組成物から形成された単層構成のフィルムであってもよいし、また、エチレンビニルアルコール共重合体系樹脂と導電性物質とを主たる構成成分とする樹脂組成物から形成された層を2層以上積層した多層構成のフィルムであってもよい。
【0023】
例えば樹脂層Aからなる単層フィルム構成をとる場合、フィルム状なる層であっても、溶融樹脂組成物を押出或いは塗布などによって(フィルムを形成することなく)薄膜形成してなる層であってもよい。また、フィルムからなる場合、そのフィルムは未延伸フィルムであっても、一軸或いは二軸延伸フィルムであってもよい。
【0024】
さらに樹脂層Bを設ける場合についても同様で、樹脂層Bはフィルムからなる層であっても、溶融樹脂組成物を押出或いは塗布などによって(フィルムを形成することなく)薄膜形成してなる層であってもよい。また、フィルムからなる場合、そのフィルムは未延伸フィルムであっても、一軸或いは二軸延伸フィルムであってもよい。
【0025】
多層構成のフィルムとしては、例えば、エチレンビニルアルコール共重合体系樹脂と導電性物質とを主たる構成成分とする樹脂組成物Aから形成された樹脂層Aと、エチレンビニルアルコール共重合体系樹脂と導電性物質とを主たる構成成分とする樹脂組成物Bから形成された樹脂層Bとを備えた2種類の層からなるものを挙げることができる。この際、樹脂層A/樹脂層B、樹脂層A/樹脂層B/樹脂層A、樹脂層B/樹脂層A/樹脂層Bの順に積層することが考えられる。
また、樹脂層A及び樹脂層B以外に他の層を備えてもよいし、樹脂層A及び樹脂層Bの各層間に他の層が介在してもよい。例えば、樹脂層A、樹脂層B間に接着層が介在してもよい。
【0026】
(厚み)
本樹脂成形体の厚みは、特に限定されるものではないが、10μm〜1000μmであるのが通常は好ましく、実用面における取り扱い性を考慮すると30μm〜500μm程度の範囲内であるのが特に好ましい。
【0027】
(製造方法)
次に、本樹脂成形体の製造方法について一例を挙げて説明するが、下記製造法に何等限定されるものではない。
【0028】
先ず、エチレンビニルアルコール共重合体系樹脂に、導電性物質、その他の添加剤等を必要に応じて配合して樹脂組成物を作製する。具体的には、エチレンビニルアルコール共重合体系樹脂に導電性物質を加え、さらに酸化防止剤等の添加剤を必要に応じて加えて、リボンブレンダー、タンブラー、ヘンシェルミキサー等で混合した後、バンバリーミキサー、1軸または2軸押出機等を用いて、樹脂の融点以上の温度で混練することにより樹脂組成物を得ることができる。
但し、導電性物質、添加剤等を、別々のフィーダー等により所定量をエチレンビニルアルコール共重合体系樹脂に添加することにより樹脂組成物を得ることもできる。また、導電性物質、添加剤等を予めエチレンビニルアルコール共重合体系樹脂に高濃度に配合した、いわゆるマスターバッチを作っておき、このマスターバッチとエチレンビニルアルコール共重合体系樹脂とを混合して所望の濃度の樹脂組成物とすることもできる。
【0029】
次に、このようにして得られた樹脂組成物を溶融し、フィルム状に成形する。例えば、エチレンビニルアルコール共重合体系樹脂組成物を押出機に供給し、所定の温度以上に加熱して溶融する。押出温度等の条件は、分解によって分子量が低下すること等を考慮して設定されることが必要で、押出温度は200℃〜260℃の範囲が好ましい。その後、溶融したエチレンビニルアルコール共重合体系樹脂組成物をTダイのスリット状の吐出口から押し出し、冷却ロールに密着固化させてシート状樹脂成形体を形成する。
【0030】
なお、エチレンビニルアルコール共重合体系樹脂と導電性物質とを主たる構成成分とする樹脂組成物から形成された層を2層以上積層した多層構成のフィルムとする場合には、上記の如く樹脂組成物をそれぞれ調製し、共押出しして積層してもよいし、また、別々にシート状樹脂成形体とし、ラミネートして積層してもよい。
【0031】
上記シート状樹脂成形体は、必要に応じて適宜な方法及び条件で熱処理してもよい。
【0032】
(用途)
本樹脂成形体は、曲げ加工性と導電性が共に必要とされる用途に使われる各種材料として好適に利用することができる。例えば、エレクトロニクス分野で使用される材料や、帯電防止効果が必要とされる包装材料や、同じく帯電防止効果が求められる薬品容器乃至タンクの構成部材などとして好適に利用することができる。
【0033】
<用語の説明>
一般的に「フィルム」とは、長さ及び幅に比べて厚みが極めて小さく、最大厚みが任意に限定されている薄い平らな製品で、通常、ロールの形で供給されるものをいう(日本工業規格JISK6900)。他方、一般的に「シート」とは、JISにおける定義上、薄く、一般にその厚みが長さと幅のわりには小さく平らな製品をいう。しかし、シートとフィルムの境界は定かでなく、本発明において文言上両者を区別する必要がないので、本発明においては、「フィルム」と称する場合でも「シート」を含むものとし、「シート」と称する場合でも「フィルム」を含むものとする。
【0034】
また、本明細書において「主たる構成成分(以下「主成分」という」と表現した場合、特に記載しない限り、当該主成分の機能を妨げない範囲で他の成分を含有することを許容する意を包含する。この際、当該主成分の含有割合を特定するものではないが、主成分(2成分以上が主成分である場合には、これらの合計量)がその層を構成する組成物の50質量%以上、好ましくは70質量%以上、特に好ましくは90質量%以上(100%含む)を占めるものである。
【0035】
本発明において、「X〜Y」(X,Yは任意の数字)と表現した場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」及び「好ましくはYより小さい」の意を包含する。
また、本発明において、「X以上」(Xは任意の数字)と表現した場合、特にことわらない限り「好ましくはXより大きい」の意を包含し、「Y以下」(Yは任意の数字)と表現した場合、特にことわらない限り「好ましくはYより小さい」の意を包含する。
【実施例】
【0036】
以下に実施例を示し、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内で種々の応用が可能である。
なお、実施例に示す測定値および評価は以下に示すようにして行った。
【0037】
(1)樹脂成形体の貯蔵弾性率(GPa)
粘弾性スペクトロメータDVA−200(アイティー計測制御社製)を用いて、振動周波数10Hz、昇温速度3℃/分、測定温度−50℃から200℃の範囲で測定し、23℃における数値を樹脂成形体の貯蔵弾性率(E’)とした。
【0038】
(2)樹脂成形体の体積抵抗率(Ω・cm)
JISK−7194に準じて、以下の条件により測定を行った。
・測定装置:LorestaHP(三菱化学社製)
・測定方式:四探針法(ASPタイププローブ)
【0039】
(3)曲げ加工性
JIS P−8115に準じて、以下の条件により耐折回数(往復折曲げ回数)を測定した。
・測定装置:MIT耐折疲労試験機 D型(東洋精機製作所社製)
・荷重:160g
・折曲げ角度:135度
・折曲げ速度:180回/分
・耐折回数(往復折曲げ回数):試料が破断するまでの往復折り曲げ回数。
【0040】
上記耐折回数を下記評価基準に照らして、曲げ加工性の評価を行った。ただし、記号「○」、および「△」は実用レベル以上である。
【0041】
評価基準:
「◎」:耐折回数が100回以上
「○」:耐折回数が50回以上
「△」:耐折回数が5回以上
「×」:耐折回数が5回未満
【0042】
<実施例1>
(樹脂組成物の作製)
エチレンビニルアルコール共重合体系樹脂A(クラレ社製「エバールL104B」、エチレン共重合比率=27モル%、MFR=8.9g/10分)のペレットと、カーボン系物質としてカーボンブラック(ライオン社製ケッチェンブラック「EC600JD」、中空シェル構造、空隙率80%、一次粒子径34.0mm、BET比表面積1270m2/g、DBP吸油量495cm3/100g、pH9.0)とを、90:10の質量割合で混合した後、230℃に加熱された二軸押出機を用いてペレット化して、樹脂組成物を作製した。
【0043】
(フィルム状成形体の作製)
得られた樹脂組成物を、230℃に加熱された押出機に供給し、この押出機を用いて混練し、次いで、溶融状態の樹脂組成物をTダイよりシート状に押出し、冷却固化して厚み50μmのフィルム状成形体を得た。
得られた成形体について、貯蔵弾性率、曲げ加工性、および体積抵抗率の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0044】
<実施例2>
エチレンビニルアルコール共重合体系樹脂B(クラレ社製「エバールC109B」、エチレン共重合比率=35モル%、MFR=21g/10分)のペレットを用いた点を除いて、実施例1と同様に厚み50μmのフィルム状成形体を得た。得られた成形体について、実施例1と同様に評価を行った。その結果を表1に示す。
【0045】
<実施例3>
エチレンビニルアルコール共重合体系樹脂C(クラレ社製「エバールE105B」、エチレン共重合比率=44モル%、MFR=13g/10分)のペレットを用いた点を除いて、実施例1と同様に厚み50μmのフィルム状成形体を得た。得られた成形体について、実施例1と同様に評価を行った。その結果を表1に示す。
【0046】
<実施例4>
(樹脂組成物の作製)
エチレンビニルアルコール共重合体系樹脂C(クラレ社製「エバールE105B」、エチレン共重合比率=44モル%、MFR=13g/10分)のペレットと、カーボン系物質としてカーボンブラック(ライオン社製ケッチェンブラック「EC600JD」)とを、93:7の質量割合で混合した後、230℃に加熱された二軸押出機を用いてペレット化して、樹脂組成物を作製した。
【0047】
(フィルム状成形体の作製)
得られた樹脂組成物を、230℃に加熱された押出機に供給し、この押出機を用いて混練し、次いで、溶融状態の樹脂組成物をTダイよりシート状に押出し、冷却固化して厚み50μmのフィルム状成形体を得た。
得られた成形体について、実施例1と同様に評価を行った。その結果を表1に示す。
【0048】
<実施例5>
(樹脂組成物の作製)
エチレンビニルアルコール共重合体系樹脂C(クラレ社製「エバールE105B」、エチレン共重合比率=44モル%、MFR=13g/10分)のペレットと、カーボン系物質としてケッチェンブラック(EC600JD:ライオン社製)とを、96:4の質量割合で混合した後、230℃に加熱された二軸押出機を用いてペレット化して、樹脂組成物を作製した。
【0049】
(フィルム状成形体の作製)
得られた樹脂組成物を、230℃に加熱された押出機に供給し、この押出機を用いて混練し、次いで、溶融状態の樹脂組成物をTダイよりシート状に押出し、冷却固化して厚み50μmのフィルム状成形体を得た。
得られた成形体について、実施例1と同様に評価を行った。その結果を表1に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
表1から明らかなように、実施例1〜5の樹脂成形体は、貯蔵弾性率が2.0GPa以上4.0GPa以下で、良好な曲げ加工性を有することが分かった。中でも、実施例3〜5の樹脂成形体は、特に良好な曲げ加工性を有することが分かった。
23℃での貯蔵弾性率(E’)を調整するには、エチレンビニルアルコール共重合体系樹脂のエチレン共重合比率を調整することが特に有効である点からすると、エチレンビニルアルコール共重合体系樹脂のエチレン共重合比率は25モル%以上50モル%以下であるのが好ましく、特に30モル%以上48モル%以下、その中でも特に40モル%以上45モル%以下であるのが好ましいと考えることができる。
【0052】
また、実施例1〜5の樹脂成形体の体積抵抗率は1.0×10−1Ω・cm〜1.0×10Ω・cmの範囲であった。このような実施例の結果と、これまで上記実施例以外に行った試験結果とを考慮すると、体積抵抗率は1.0×10−2Ω・cm以上1.0×10Ω・cm以下であるのが好ましく、そのためには、導電性物質の含有量が、樹脂成形体の全体質量に対して3質量%以上15質量%以下とするのが好ましいと考えることができる。
【0053】
なお、実施例3に比べて実施例2の耐折回数が低く、曲げ加工性が劣っているのは、実施例2のエチレンビニルアルコール共重合体系樹脂BはMFRが高く、流動性が高いために、このように耐折回数が低く、曲げ加工性が劣っている結果となったものと推測される。かかる観点からすると、エチレンビニルアルコール共重合体系樹脂のMFRは、20g/10分以下であるのが特に好ましいと考えることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレンビニルアルコール共重合体系樹脂と、導電性物質とを含有する成形体であり、動的粘弾性測定法により、振動周波数10Hz、温度23℃で測定される該成形体の貯蔵弾性率(E’)が2.0GPa以上4.0GPa以下であることを特徴とするエチレンビニルアルコール共重合体系樹脂成形体。
【請求項2】
前記樹脂成形体の23℃での体積抵抗率(JIS K−7194)が、1.0×10−2Ω・cm以上1.0×10Ω・cm以下であることを特徴とする請求項1に記載のエチレンビニルアルコール共重合体系樹脂成形体。
【請求項3】
前記導電性物質が、カーボン系物質であることを特徴とする請求項1又は2に記載のエチレンビニルアルコール共重合体系樹脂成形体。
【請求項4】
前記エチレンビニルアルコール共重合体系樹脂のエチレン共重合比率が25モル%以上50モル%以下であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のエチレンビニルアルコール共重合体系樹脂成形体。
【請求項5】
前記導電性物質の含有量が、樹脂成形体の全体質量に対して3質量%以上15質量%以下であることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載のエチレンビニルアルコール共重合体系樹脂成形体。

【公開番号】特開2012−21041(P2012−21041A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−157892(P2010−157892)
【出願日】平成22年7月12日(2010.7.12)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】