説明

エッチング液電解再生装置

【課題】エッチング液を電解再生する場合、陽極槽のエッチング液の硫酸濃度の上昇を回避するためには隔膜に陽イオン交換膜を使用することが望ましいが、陽イオン交換膜を取り付ける陰極槽を構成する際に金属製の部材を使用すると、バイポーラ現象により電解再生装置の酸化能力が低下していた。
【解決手段】電解槽1内に陽極板3と陰極槽2とを配設し、該陰極槽2はチタン材により上端が開放された箱型に形成した陰極槽本体6と、陽イオン交換膜7と、チタン材の押さえ板8と、チタン製のボルト9とから構成して内部に陰極板13を設け、陰極槽本体6の陽極板3に対向する面に陽イオン交換膜7を押さえ板8により押さえて取り付け、陰極槽本体6の陽イオン交換膜7を取り付けた面と押さえ板8にそれぞれ抜き穴10、11を設け、陰極槽2を導線20により陽極板3に接続した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成樹脂にめっきする場合の前処理に使用されるエッチング液を電解して再生処理する、エッチング液電解再生装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
合成樹脂にめっきする場合、樹脂の表面を粗面化するためにクロム酸と硫酸を主成分とするエッチング液によって前処理が行われている。このエッチング液は使用するにしたがって樹脂の溶解成分が液中に増加し、同時にクロム酸の6価クロムが3価クロムに還元されて3価クロムが増加することになる。エッチング液中の3価クロムが増加するとエッチング能力が低下するので、この3価クロムを陽極酸化して6価クロムにし、さらに樹脂の溶解成分をエッチング液から除去するために従来は磁器製の隔膜を使用した電解再生処理装置により電解して再生処理が行われていた。
【0003】
このような電解再生処理装置は、電解槽内に鞄状に成型した磁器製の隔膜を配置し、該隔膜内に陰極を設けて隔膜内を陰極槽とし、隔膜の外側の電解槽内に陽極を設けて電解槽内を陽極槽とし、陽極と陰極の間に通電しながら陽極槽とエッチング槽との間でエッチング液を循環させるようにしたものである。ところがこうした従来の電解再生処理装置では、磁器製の隔膜がイオン選択性をもたないため電解中に陰極液の中の硫酸イオンが陽極側に移動し、電解するにしたがって陽極槽のエッチング液の硫酸濃度が上昇するという問題があった。このような問題を解決するものとしては、例えば特許文献1に示されるような、隔膜として陽イオン交換膜を使用したエッチング液の再生装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実用新案登録第3146425号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上述べたように、従来3価クロムを陽極酸化してエッチング液を再生する場合には、磁器製の隔膜を使用した電解再生処理装置により再生処理するのが普通であり、陽極槽のエッチング液の硫酸濃度が上昇するという問題があった。そのため例えば特許文献1に示されるように、隔膜として陽イオン交換膜を使用することが考えられた。ところが陽イオン交換膜は磁器製の隔膜とは異なり、それ自体では形状を維持することができないため、何らかの構造物で陽イオン交換膜を支持する必要があり、例えば特許文献1に示されているものでは、陰極板の両側にフッ素系樹脂製のスペーサー、パッキングを介在させ、該パッキングの外側に陽イオン交換膜を配設し、その外側にフッ素系樹脂製のパッキングとチタン製の枠に装着されたメッシュを配設して陰極槽が構成されている。
【0006】
しかしながら、陰極槽をフッ素系樹脂で構成した場合には、構造上の制約やコストがかさむという問題があった。また、陰極槽を特許文献1に示されるようなチタン製の枠を配設した構成としたり、金属製の部材を使用して陰極槽を構成したりした場合には、チタン製の枠や金属製の部材の陽極に対向する面が陰極になるバイポーラ現象が発生することになる。バイポーラ現象が発生すると、チタン製の枠や金属製の部材の陰極になった面でエッチング液中の6価クロムが3価クロムに陰極還元され、電解再生装置としては一方で3価クロムを陽極酸化しながら同時に6価クロムを陰極還元することになり、電解再生装置としての酸化能力を低下させるという問題があった。
【0007】
本発明は上記の問題点を解決しようとするものであり、陽イオン交換膜を使用できる構造とするために金属製の部材を使用して陰極槽を構成しても、バイポーラ現象によって電解再生装置の酸化能力が低下することがない、エッチング液電解再生装置を実現することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そして、本発明はクロム酸と硫酸を主成分とするエッチング液を電解して再生処理するエッチング液電解再生装置であって、電解槽内に陽極板と陰極槽とを配設し、該陰極槽はチタン材により上端が開放された箱型に構成して内部に陰極板を設け、陰極槽の陽極板に対向する面に抜き穴を設けて陽イオン交換膜を取り付け、陰極槽を導線により陽極板に接続して構成したものである。ここにおいて、陰極槽を陽極板に接続する導線はチタン材とすることが好ましい。
【0009】
上記の課題解決手段による作用は次の通りである。すなわち、陰極槽をチタン材により構成して内部に陰極板を設け、陰極槽の陽極板に対向する面に抜き穴を設けて陽イオン交換膜を取り付け、隔膜として陽イオン交換膜を使用しているので、陰極液の中の硫酸イオンが陽極側へ移動することがなく、陰極槽を構成する際に構造上の制約を受けることがない。また、陰極槽を導線により陽極板に接続しているので陰極槽が陽極板と同電位になり、陰極槽にバイポーラ現象が発生することがなく、陰極槽の表面で6価クロムが3価クロムに還元されることがない。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように、本発明のエッチング液電解再生装置では、隔膜として陽イオン交換膜を使用しているので、陰極液の中の硫酸イオンの陽極側への移動がなく、陽極槽のエッチング液の硫酸濃度が上昇することはない。また、陽イオン交換膜を固定する陰極槽をチタン材で構成しているので、フッ素系樹脂で構成した場合に比べて構造上の制約が少なく、低コストになる利点がある。さらに、陰極槽を導線により陽極板に接続しているので、陰極槽が陽極板と同電位になり、バイポーラ現象が発生しないので陰極槽の表面で6価クロムが3価クロムに還元されることがなく、再生能力を低下させることがない効果がある。また、陰極槽を陽極板に接続する導線をチタン材とした場合には、導線が腐蝕しないので導線を交換する必要がない利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明のエッチング液電解再生装置を設置した状態を示す要部の縦断正面図である。
【図2】電解槽の縦断側面図である。
【図3】陰極槽の側面図である。
【図4】図3のA−A部における断面図である。
【図5】陰極槽の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図に基づいて説明する。
【0013】
図において1は電解槽であって、該電解槽1内には1個又は複数の陰極槽2、2と、該陰極槽2、2に対向する陽極板3、3とが配設されている。電解槽1は陽極槽として機能するものであって、エッチング液に対して耐蝕性のある材質で構成されており、電解槽1に供給されるエッチング液を受け入れるエッチング液供給口4と、電解槽1からオーバーフローしたエッチング液を排出するエッチング液排出口5とが設けられている。陰極槽2はチタンの板材により上端が開放された箱型に形成された陰極槽本体6と、隔膜である陽イオン交換膜7と、陽イオン交換膜7を押さえるチタンの板材製の押さえ板8と、押さえ板8を陰極槽本体6に固定するチタン製のボルト9とから構成されている。
【0014】
陰極槽本体6の陽極板3に対向する側面には複数の抜き穴10、10が設けられ、押さえ板8にも同様に複数の抜き穴11、11が設けられている。これにより、陽イオン交換膜7は陰極槽本体6の側面と押さえ板8の間に挟まれてボルト9、9により固定され、抜き穴10、10及び抜き穴11、11を通して陰極槽2の内側と外側にそれぞれ露出することになり、押さえ板8はボルト9、9により陰極槽本体6と電気的に接続されることになる。陰極槽本体6の上部には陰極液排出孔12が設けられており、陰極槽本体6の内部には陰極板13が設けられている。図示していないが、陰極槽本体6の側面と陽イオン交換膜7の接触部及び押さえ板8と陽イオン交換膜7の接触部にはパッキングを介在させることが好ましく、陽極板3及び陰極板13は従来の電解再生装置と同様鉛材とすることが好ましい。
【0015】
電解槽1近傍の電解槽1より下方になる位置には陰極液槽14が設けられており、また、陰極液槽14から陰極液を汲み上げる陰極液循環ポンプ15が設けられている。陰極液循環ポンプ15の吐出側には陰極液供給パイプ16が連結され、該陰極液供給パイプ16の先端は陰極槽本体6の上端から陰極槽本体6内に挿入されている。陰極槽本体6の陰極液排出孔12には陰極液排出パイプ17が連結されており、陰極液排出パイプ17の先端が臨む位置には陰極液受樋18が設けられ、陰極液受樋18には陰極液を陰極液槽14まで導く陰極液戻りパイプ19が連結されている。これにより陰極液槽14と陰極槽本体6の間を循環する陰極液の経路が構成される。
【0016】
陽極板3、3と陰極板13、13はそれぞれ図示しない直流電源装置のプラス極とマイナス極に接続されており、陰極槽本体6は導線20により陽極板3に接続されている。この導線20はエッチング液により溶解されるのを避けるため、チタン材とすることが好ましい。図示していないが電解槽1はフードで覆うことが好ましく、さらに排気装置を附設することが好ましい。前記のように構成された本発明のエッチング液電解再生装置は再生処理の対象となるエッチング槽21より上方に設置され、エッチング槽21からエッチング液を汲み上げてエッチング液供給口4に供給するエッチング液循環ポンプ22が設けられている。図中23はエッチング液循環ポンプ22とエッチング液供給口4を連結するエッチング供給パイプであり、24はエッチング液がエッチング液排出口5からエッチング槽21に戻るエッチング液戻りパイプである。
【0017】
このように構成された本発明のエッチング液電解再生装置において、陰極液槽14に希釈した硫酸を充填し、陰極液循環ポンプ15、エッチング液循環ポンプ22及び図示しない直流電源装置を運転すると、陰極液は陰極液槽14と陰極槽本体6との間で、エッチング液はエッチング槽21と電解槽1との間でそれぞれ循環し、陽極板3と陰極板13との間に電流が流れて電解が行われることになる。電解の進行に伴って従来の電解再生処理装置と同様に陽極板3上では3価クロムが6価クロムに酸化され、酸素ガスが発生する。
【0018】
エッチング液中の治具から溶出した銅等の金属イオンは陽イオン交換膜7を通して陰極槽2内に移動し、陰極板13上で析出する。また、ABS樹脂から溶出するブタジエンのようなエッチング液中の樹脂の溶解成分と陽極酸化を免れた一部の3価クロムは陰極槽2内に移動し、陰極液中に蓄積される。エッチング液中に存在していた6価クロムと3価クロムが酸化されて生じた6価クロムはクロム酸イオンの形となるので陽イオン交換膜7に阻止されて陰極槽2内に移動することはなく、陰極槽2内の硫酸イオンも陽イオン交換膜7に阻止されて陽極側に移動することはない。このとき、陰極槽本体6が導線20により陽極板3に接続されているので、陰極槽本体6、押さえ板、ボルト9は陽極板3と同電位になり、バイポーラ現象が発生しないので陰極槽本体6等の表面で6価クロムが3価クロムに還元されることはない。
【0019】
以上説明したように、本発明のエッチング液電解再生装置では、隔膜として陽イオン交換膜を使用しているので、陰極液の中の硫酸イオンの陽極側への移動が阻止され、陽極槽のエッチング液の硫酸濃度が上昇することはない。また、陽イオン交換膜を固定する陰極槽をチタン材で構成しているので、フッ素系樹脂で構成した場合に比べて構造上の制約が少なく、低コストになる利点がある。さらに、陰極槽を導線により陽極板に接続しているので、陰極槽が陽極板と同電位になり、バイポーラ現象が発生しないので陰極槽の表面で6価クロムが3価クロムに還元されることがなく、再生能力を低下させることがない利点がある。
【0020】
前記の陰極槽は一つのユニットとして構成することができるので、エッチング液電解再生装置として求められる処理能力に応じて必要な数の陰極槽を組み合わせてエッチング液電解再生装置を構成することができ、標準化が容易で低コストでエッチング液電解再生装置を提供することができる利点がある。
【符号の説明】
【0021】
1 電解槽
2 陰極槽
3 陽極板
4 エッチング液供給口
5 エッチング液排出口
6 陰極槽本体
7 陽イオン交換膜
8 押さえ板
9 ボルト
10、11 抜き穴
12 陰極液排出孔
13 陰極板
14 陰極液槽
15 陰極液循環ポンプ
16 陰極液供給パイプ
17 陰極液排出パイプ
18 陰極液受樋
19 陰極液戻りパイプ
20 導線
21 エッチング槽
22 エッチング液循環ポンプ
23 エッチング液供給パイプ
24 エッチング液戻りパイプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロム酸と硫酸を主成分とするエッチング液を電解して再生処理するエッチング液電解再生装置であって、電解槽内に陽極板と陰極槽とを配設し、該陰極槽はチタン材により上端が開放された箱型に構成して内部に陰極板を設け、陰極槽の陽極板に対向する面に抜き穴を設けて陽イオン交換膜を取り付け、陰極槽を導線により陽極板に接続したことを特徴とするエッチング液電解再生装置。
【請求項2】
陰極槽を陽極板に接続する導線をチタン材としたことを特徴とする請求項1に記載のエッチング液電解再生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−71232(P2012−71232A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−216478(P2010−216478)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【出願人】(000150202)株式会社中央製作所 (35)
【Fターム(参考)】