説明

エトドラクエステルの製造方法

【課題】本発明の目的は、主として、エトドラクの製造中間体であるエトドラクエステルの製造方法を提供することにある。
【解決手段】本発明として、酸の存在下、7−エチルトリプトホールと3−オキソ吉草酸エステルとを、アセトニトリル溶媒中又はアセトニトリルを50容積%以上含む混合溶媒中で反応させることを特徴とする、エトドラクメチルエステルの製造方法を挙げることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬として有用な(±)−1,8−ジエチル−1,3,4,9−テトラヒドロピラノ〔3,4−b〕インドール−1−酢酸(以下、「エトドラク」という。)の製造中間体であるエトドラクのエステル体(以下、「エトドラクエステル」という。)の新規な製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エトドラクは、シクロオキシゲナーゼ2の選択的な阻害活性を有する非ステロイド性抗炎症剤として知られており、世界約58カ国で既に販売されている(例えば、非特許文献1参照)。日本においては、1994年から慢性リウマチ、変形性関節症などを適応症として販売されている。
【0003】
エトドラクは、エトドラクエステルを加水分解することにより製造できることが知られている(例えば、特許文献1参照。)。かかるエトドラクエステルは、硫酸存在下、メタノール溶媒中、又は、塩化水素ガス存在下、アルコール系溶媒中で、7−エチルトリプトホールと3−オキソ吉草酸エステルとを反応させることにより製造することができる(例えば、特許文献2、特許文献3参照)。
【0004】
しかしながら、上述の従来法では、7−エチルトリプトホールと3−オキソ吉草酸エステルとの縮合反応が完結するまでに7〜12時間を要するため、エトドラクエステルを製造する場合は、長時間にわたり製造設備を稼動させる必要があり、工業スケールでの製造方法として満足できるものではない。
【0005】
加えて、従来法は、大量の反応溶媒を必要とするため、大容量の反応容器を備えた製造設備が必要であり、インフラやコストの面からも問題がある。
【非特許文献1】Kawai S, et al, Inflamm Res. Supp12, 102−106(1998)
【特許文献1】米国特許第4585877号明細書
【特許文献2】中国特許第1740174号明細書
【特許文献3】米国特許第6331638号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、主として、エトドラクの製造中間体であるエトドラクエステルを、短時間に高収率で得ることができる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、酸存在下、7−エチルトリプトホールと3−オキソ吉草酸エステルとを、アセトニトリル溶媒中又はアセトニトリルを50容積%以上含む混合溶媒中で反応させることにより、短時間に高収率でエトドラクエステルを製造することができることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
本発明としては、例えば、下記1.および2.を挙げることができる。
1.酸の存在下、次の構造式(1)で表される7−エチルトリプトホールと、次の一般構造式(2)で表される3−オキソ吉草酸エステルとを、アセトニトリル溶媒中又はアセトニトリルを50容積%以上含む混合溶媒中で反応させることを特徴とする、次の一般構造式(3)で表されるエトドラクエステルの製造方法。
【0009】
【化1】

【0010】
上記一般構造式中、Rは、炭素数1〜8のアルキルを表す。
2.次の工程1及び2を含む、エトドラクの製造方法。
工程1:酸存在下、次の構造式(1)で表される7−エチルトリプトホールと、次の一般構造式(2)で表される3−オキソ吉草酸エステルとを、アセトニトリル溶媒中又はアセトニトリルを50容積%以上含む混合溶媒中で反応させる工程。
【0011】
【化2】

【0012】
工程2:工程1で得られる、次の一般構造式(3)で表されるエトドラクエステルを加水分解してエトドラクを得る工程。
【0013】
【化3】

【0014】
上記一般構造式中、Rは、炭素数1〜8のアルキルを表す。
【0015】
以下に本発明を詳述する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
I.エトドラクエステルの製造方法
エトドラクエステルは、下記の反応式に従って、製造することができる。
【0017】
【化4】

【0018】
反応式中、Rは、炭素数1〜8のアルキルを表す。
【0019】
本反応において、本発明では、溶媒としてアセトニトリル又はアセトニトリルを50容積%以上含む混合溶媒を用いることを特徴とする。特に、溶媒としてアセトニトリルを用いるのが好ましい。混合溶媒は、アセトニトリルと一種又は複数のその他の溶媒とからなり、その他の溶媒としては、例えば、トルエンを挙げることができる。
【0020】
ここで、「容積%」は、当業者に周知であるが、反応溶媒として用いるアセトニトリルの容積(mL)を反応溶媒として用いる各溶媒の容積(mL)の総和で除した値に100を乗じた値である。
【0021】
アセトニトリルは、反応溶媒として一般に入手可能なものであれば特に問わないが、例えば、ナカライテスク株式会社から販売されているもの(ナカライ規格1級、JIS規格特級など)、関東化学株式会社から販売されているもの(鹿1級、特級など)、和光純薬工業株式会社から販売されているものを挙げることができる。
【0022】
混合溶媒中のアセトニトリルの割合は、50容積%以上が適当であるが、70容積%以上が好ましい。
【0023】
本反応で用いうる溶媒の量は、用いる溶媒や酸の種類等によって異なるものの、基本的には本反応が進行する量であれば特に制限されず、例えば、7−エチルトリプトホール(1)1gに対して1〜10mLの範囲内の量が適当であり、1.5〜3mLの範囲内の量が好ましい。
【0024】
本反応で用いうる酸としては、本反応が進行するものであれば特に制限されないが、例えば、硫酸、メタンスルホン酸、トルエンスルホン酸などから選択される1〜2種の酸が適当であり、その中でも、硫酸、メタンスルホン酸が好ましい。
【0025】
上記酸の量は、用いる溶媒や酸の種類等によって異なるが、例えば、7−エチルトリプトホール(1)1モルに対して、0.2〜3モルの範囲内が適当であり、0.5〜2モルの範囲内が好ましい。
【0026】
本反応で用いる3−オキソ吉草酸エステル(2)の量は、本反応が進行する量であれば特に制限されないが、例えば、7−エチルトリプトホール(1)1モルに対して、1〜2モルの範囲内が適当であり、1.0〜1.1モルの範囲内が好ましい。
【0027】
なお、本反応で用いる7−エチルトリプトホール(1)及び3−オキソ吉草酸エステル(2)は、公知の方法により製造することができる(例えば、米国特許文献第3939178号明細書参照)。
【0028】
3−オキソ吉草酸エステル(2)のエステル部分は、本反応が進行するものであれば特に制限されないが、例えば、直鎖状又は分枝鎖状の炭素数1〜6のアルキルを挙げることができる。具体的には、例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、イソペンチル、n−ヘキシル、イソヘキシルを挙げることができる。なかでも、炭素数1〜4のアルキルが好ましく、炭素数1又は2のアルキルがより好ましい。
【0029】
本反応は、本発明に係る特定の溶媒を用いること以外は、常法により実施することができる。例えば、溶媒中で各原料及び酸を、攪拌、混合することにより実施することができる。
【0030】
反応温度は、用いる溶媒や酸の種類等によって異なるが、30℃以下が適当であり、−20℃〜20℃の範囲内が好ましい。
【0031】
本発明によれば、高収率のエトドラクエステル(3)を短時間で得ることができる。
【0032】
本発明において、「短時間」とは、4時間以内をいい、2時間以内が好ましく、1時間以内がより好ましい。「高収率」とは、80%以上をいい、90%以上が好ましい。
【0033】
上記反応が完結したか否かは、例えば、反応液中の7−エチルトリプトホールや3−オキソ吉草酸エステルの量を測定することにより、確認することができる。
【0034】
本反応が終了した後、生成物であるエトドラクエステルは、常法により単離、精製することができる。例えば、反応液中の析出物を濾取することにより、又は反応液の濃縮乾固物を抽出処理、又はカラムクロマトグラフィーで処理することにより、エトドラクエステルを単離することができる。
II.エトドラクの製造方法
上記の方法により得られたエトドラクエステルを、塩基存在下で常法により加水分解することにより、エトドラクを得ることができる。例えば、米国特許第4585877号明細書に記載の方法により、エトドラクエステルからエトドラクを得ることができる。得られたエトドラクは必要に応じて光学分割することができ、かかる光学分割によりエトドラクの光学異性体を得ることができる。
【実施例】
【0035】
以下に参考例、実施例及び試験例を掲げて本発明をさらに詳述する。但し、本発明は、これらのみに限定されるものではない。
参考例1 特許文献2記載の方法による、(±)−1,8−ジエチル−1,3,4,9−テトラヒドロピラノ[3,4−b]インドール−1−酢酸メチルエステル(以下、「エトドラクメチルエステル」という。)の製造
7−エチルトリプトホール10gと3−オキソ吉草酸メチル7.95gとをメタノール63mLに溶解し、これに硫酸2.73gをゆっくりと滴下した後、25℃で15.5時間攪拌した。反応液を冷却後,反応液中の析出物を濾取後、該析出物をメタノール5mLで洗浄し、更に、洗液が中性になるまで水で洗浄した。得られた析出物を減圧乾燥し、エトドラクメチルエステル10.15gを白色結晶として得た。
参考例2 特許文献3記載の方法によるエトドラクメチルエステルの製造
7−エチルトリプトホール12gと3−オキソ吉草酸メチル9.10gとをメタノール50mLに溶解し、これに10重量%塩酸メタノール溶液50mLを添加した後、25℃で7時間攪拌した。反応液中の析出物を濾取後、該析出物をメタノール5mLで洗浄し、更に、洗液が中性になるまで水で洗浄した。得られた析出物を減圧乾燥し、エトドラクメチルエステル5.78gを白色結晶として得た。
実施例1 本発明方法によるエトドラクメチルエステルの製造
7−エチルトリプトホール20gと3−オキソ吉草酸メチル14.4gとをアセトニトリル(ナカライテスク,EP、以下同じ)40mLに溶解し、これに硫酸10.4gをゆっくりと滴下した後、0℃で1時間攪拌した。反応液中の析出物を濾取後、該析出物をアセトニトリル20mLで洗浄し、更に、洗液が中性になるまで水で洗浄した。得られた析出物を減圧乾燥し、エトドラクメチルエステル29.7gを白色結晶として得た。
実施例2−6
反応溶媒の種類・量、酸の種類・量、反応時間、反応温度をそれぞれ変えて、それ以外は実施例1と同様の条件により、エトドラクメチルエステルを製造した。参考例を含む反応条件の一覧を表1に示す。
【0036】
なお、表1中の「溶媒量(v/w)」は、7−エチルトリプトホール1gに対する溶媒の量(mL)を表し、「酸の量(eq)」は、7−エチルトリプトホール1モルに対する酸のモル量を表す。
【0037】
【表1】

【0038】
試験例1 収率、化学純度
上記参考例1、2及び実施例1〜6で得られたエトドラクメチルエステルの収率、化学純度を表2に示す。
【0039】
なお、エトドラクメチルエステルの化学純度は、HPLC法で以下の条件により測定し、各ピークの面積比により算出した。
【0040】
カラムはcosmosil AR−II(150mm、ナカライテスク社製)を使用し、カラム温度は40℃、流速は1mL/min、検出はUV280nmに設定した。移動相はA液(0.1%過塩素酸水溶液/アセトニトリル=60/40)、B液(0.1%過塩素酸水溶液/アセトニトリル=20/80)を、表3に記載の直線グラジェント条件で使用した。
【0041】
【表2】

【0042】
【表3】

【0043】
表1、表2から明らかなように、本発明に係る製法(実施例1〜6)によれば、従来法(参考例1、2)に比べ、エトドラクメチルエステルを短時間かつ高収率で製造することができる。また、本発明に係る製法によれば、従来法に比べ、反応溶媒の量を約1/3〜1/4に低減することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明によれば、短時間で高収率にエトドラクエステルを製造することができ、工業スケールでの製造方法として非常に有用である。また、本発明は、反応溶媒の量も大幅に削減可能であることから、インフラやコストの面からも有利な製造方法である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸の存在下、次の構造式(1)で表される7−エチルトリプトホールと、次の一般構造式(2)で表される3−オキソ吉草酸エステルとを、アセトニトリル溶媒中又はアセトニトリルを50容積%以上含む混合溶媒中で反応させることを特徴とする、次の一般構造式(3)で表される(±)−1,8−ジエチル−1,3,4,9−テトラヒドロピラノ[3,4−b]インドール−1−酢酸エステル(以下、「エトドラクエステル」という。)の製造方法。
【化1】

上記一般構造式中、Rは、炭素数1〜8のアルキルを表す。
【請求項2】
Rがメチルである、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
反応溶媒の量が、7−エチルトリプトホール(1)1gに対して、1〜10mLである、請求項1又は2のいずれかに記載の製造方法。
【請求項4】
次の工程1及び2を含む、(±)−1,8−ジエチル−1,3,4,9−テトラヒドロピラノ[3,4−b]インドール−1−酢酸(以下、「エトドラク」という。)の製造方法。
工程1:酸存在下、次の構造式(1)で表される7−エチルトリプトホールと、次の一般構造式(2)で表される3−オキソ吉草酸エステルとを、アセトニトリル溶媒中又はアセトニトリルを50容積%以上含む混合溶媒中で反応させる工程。
【化2】

工程2:工程1で得られる、次の一般構造式(3)で表されるエトドラクエステルを加水分解してエトドラクを得る工程。
【化3】

上記一般構造式中、Rは、炭素数1〜8のアルキルを表す。
【請求項5】
Rがメチルである、請求項5記載の製造方法。
【請求項6】
工程1における反応溶媒の量が、7−エチルトリプトホール(1)1gに対して、1〜10mLである、請求項4又は5のいずれかに記載の製造方法。

【公開番号】特開2009−120599(P2009−120599A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−273925(P2008−273925)
【出願日】平成20年10月24日(2008.10.24)
【出願人】(000004156)日本新薬株式会社 (46)
【Fターム(参考)】