説明

エナメル質接着性組成物

エナメル質の接着に対してプライミング材または接着材適用のいずれの操作がなくても、優れた接着性能と機械物性、審美性を有する接着性レジンセメント組成物を提供する。(A)下記式(1)CH=CR−COO−R−OCO−R−COOH…(1)ここで、Rは、HまたはCH基であり、そして、RおよびRは、互いに独立に、C,Hを主体とする2価の不活性基を表す、で示される構造を有する、酸性基を持つラジカル重合性モノマー、(B)分子量が220以下且つ沸点が60℃/10mmHg以上の単官能性ラジカル重合性モノマー、(C)カルボン酸エステル基含有芳香族アミン、(D)光重合開始剤、(E)2官能性ラジカル重合性モノマーおよび、場合により(F)フィラーを含む、光硬化型歯科用エナメル質接着性組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、光硬化型歯科用エナメル質接着性組成物に関する。さらに詳しくは、歯質とりわけエナメル質に対して、プライミング、または接着補助剤がなくても優れた接着性を示ししかも、歯質に対して使用できるばかりではなく、歯科用の金属、セラミックスおよび歯科用レジンに優れた接着性能を示し加えて審美性を示す光硬化型歯科治療用エナメル質接着性組成物に関する。
【背景技術】
歯科治療において、変色歯の被覆、矯正器具の接着などエナメル質を接着対象とした場合がしばしばある。矯正器具の接着などに、通常グラスアイオノマーセメント、レジンモデファイグラスアイオノマーセメント、またはレジンセメント接着材が用いられる。
グラスアイオノマー、レジンモデファイグラスアイオノマーセメントは、使用に際しエナメル質の前処理を要求しない場合もあるが、歯質との接着強度が低い上に、硬化機構が酸塩基反応に基づいたものであるために、感水性、吸水性など欠点に由来して口腔環境内での耐久性がやや不確実の欠点がある。
確実な接着と耐久性の観点から、矯正器具の接着などにレジンセメント接着材が多く用いられている。しかし、レジンセメント接着材は、使用に際し通常何らかの前処理、例えばエッチング、さらにプライミング、またはエッチング、さらに接着材適用の操作が必要であり、臨床上の処置が煩雑である。
このように、エナメル質に簡単、確実に接着し、実用上十分な耐久性を持つレジンセメント接着材の開発が望まれている。
【発明の開示】
本発明は、上記の従来技術の問題点を解決し、エナメル質の接着に対してプライミング材または接着材適用のいずれの操作がなくても、優れた接着性能と機械物性、審美性を有する接着性レジンセメント組成物を提供するものである。
本発明のさらに他の目的および利点は、以下の説明から明らかになろう。
本発明らは、上記課題の解決に鋭意検討した結果、
(A)下記式(1)
CH=CR−COO−R−OCO−R−COOH ・・・(1)
(ここで、Rは、HまたはCH基であり、そして、RおよびRは、互いに独立に、C、Hを主体とする2価の不活性基を表す)
で示される構造を有する、酸性基を持つラジカル重合性モノマー、
(B)分子量が220以下且つ沸点が60℃/10mmHg以上の単官能性ラジカル重合性モノマー、
(C)カルボン酸エステル基含有芳香族アミン、
(D)光重合開始剤 および
(E)2官能性ラジカル重合性モノマー
を含むことを特徴とする光硬化型歯科用エナメル質接着性組成物が上記目的を達しうることを見出し本発明に到達した。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明の光硬化型歯科用エナメル質接着性組成物について詳述する。
成分(A)は、驚くことに、接着性組成物に対し、歯質への接着性ばかりではなく、歯科用の金属、セラミックスへの接着性能も付与すると同時に、重合開始剤成分である(C)成分のカルボン酸エステル基含有芳香族アミンに悪影響を示さず、これまでに困難とされていた酸性基含有モノマーとアミンとの共存を可能とし、接着性組成物であるレジンセメントの安定保存を可能とした。
(A)モノマーは、前記式(1)で表される。式(1)において、Rは、HまたはCH基であり、R、Rは、C、Hを主体とする不活性基である。不活性基とは、例えば、接着性組成物の重合反応や接着結合反応に際してそれ自身(これに結合している他の官能基部分は反応して良い)は、結合反応や開裂反応を活発に起こさずに安定に保持され得る有機基である。R、Rとしては、かかる意味から特に限定されるものではないが、例えば、エチレン乃至はポリエチレン(−(CH−)基(nは好適には1〜10の整数)、ビニレン(−CH=CH−)基、シクロヘキセンなどの2価のシクロ環基、フェニレン基などの2価の芳香環基、これらの組み合わせ、さらに分枝としての置換基、あるいは、ハロゲン基やエーテル酸素のような比較的不活性なヘテロ原子を含む基であることができる。窒素原子は余り好ましくないが、例えば、ペプチド結合のような安定した原子団であれば問題ない場合もある。好ましくは、
は−(CH−基(nは1〜10の整数)であり、そして
は−CH−、−CH=CH−、−C10−または−C−基である。
なお、モノマー(A)の分子量が大きくなりすぎると、歯質への拡散力が低下することがあり好ましくない場合があるので、好ましくは400以下、さらに好ましくは300以下である。
モノマー(A)のより詳細な具体例としては、例えば、
2−(メタ)アクリロイロキシエチルコハク酸(本明細書において、「(メタ)アクリ・・・」とは、「アクリ・・・または、メタクリ・・・」を意味する。)、3−(メタ)アクリロイロキシプロピルコハク酸、4−(メタ)アクリロイロキシブチルコハク酸などの(メタ)アクリロイロキシポリメチレン(n=2〜10)コハク酸;
2−(メタ)アクリロイロキシエチルマレイン酸、3−(メタ)アクリロイロキシプロピルマレイン酸、4−(メタ)アクリロイロキシブチルマレイン酸などの(メタ)アクリロイロキシポリメチレン(n=2〜10)マレイン酸;
2−(メタ)アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、3−(メタ)アクリロイロキシプロピルヘキサヒドロフタル酸、4−(メタ)アクリロイロキシブチルヘキサヒドロフタル酸などの(メタ)アクリロイロキシポリメチレン(n=2〜10)ヘキサヒドロフタル酸;
2−(メタ)アクリロイロキシエチルフタル酸、3−(メタ)アクリロイロキシプロピルフタル酸、4−(メタ)アクリロイロキシブチルフタル酸などの(メタ)アクリロイロキシポリメチレン(n=2〜10)フタル酸
等が挙げられる。
そのうち、特に2−(メタ)アクリロイロキシエチルコハク酸、2−(メタ)アクリロイロキシエチルマレイン酸、2−(メタ)アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、2−(メタ)アクリロイロキシエチルフタル酸が望ましい。
モノマー(A)の含有量は、成分(A)、(B)、(C)、(D)および(E)の合計量100重量部に対して、好ましくは10〜40重量部、より好ましくは15〜30重量部である。
分子量が220以下で且つ沸点が60℃/10mmHg以上の単官能ラジカル重合性モノマー(B)は、レジンセメントの歯質への接着性と安定した保存性能に寄与する。分子量が220を超える場合には、モノマーの歯質への拡散能が低下する傾向にある。また、沸点が60℃/10mmHgより低い場合では、保存中モノマーが徐々に蒸散し、セメントの組成の変化、強いては接着性能の低下をもたらす傾向にある。好ましくは分子量が200以下であり且つ沸点が70℃/10mmHg以上である。
モノマー(B)の具体例としては、(メタ)アクリレート系モノマーが好ましい。メタクリレート系モノマーとしては、例えば、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、3−ヒドロキシプロピルメタクリレート、2−ヒドロキシブチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、グリセリンモノメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、メトキシエチレングリコールメタクリレート、メトキシジエチレングリコールメタクリレート、メトキシプロピレングリコールメタクリレート、ブトキシエチレングリコールメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、フェノキシエチルメタクリレート、イソボルニルメタクリレートなどが挙げられる。また、アクリレート系モノマーとしては、前記メタクリレート系モノマーと同様の化合物を例示することができる。
そのうち、特に2−ヒドロキシエチルメタクリレート、グリセリンモノメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレートなど極性基を有するモノマーが望ましい。
モノマー(B)の含有量は、成分(A)、(B)、(C)、(D)および(E)の合計量100重量部に対して、好ましくは2〜30重量部、より好ましくは10〜25重量部である。
カルボン酸エステル基含有芳香族アミン(C)としては、エステルのアルキル部が炭素数2〜10の直鎖状または分枝状アルキルであるのが好ましく、芳香環がベンゼン環であるのが好ましく、そしてアミンは3級であることが好ましい。また、アミンの有機基は、炭素数1〜4の直鎖状または分枝状アルキルが好ましく、さらに、カルボン酸残基とアミンはパラ位に位置するのが好ましい。また、前記直鎖状または分岐鎖状アルキルはエーテル結合で中断されていてもよい。カルボン酸エステル基含有芳香族アミン(C)の具体例としては、p−ジメチルアミノ安息香酸メチルエステル、p−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、p−ジメチルアミノ安息香酸ブチルエステル、p−ジメチルアミノ安息香酸ブトキシエチルエステル、p−ジメチルアミノ安息香酸イソアミルエステルなどのp−ジメチルアミノ安息香酸アルキルエステル;
p−ジエチルアミノ安息香酸メチルエステル、p−ジエチルアミノ安息香酸エチルエステルなどのp−ジエチルアミノ安息香酸アルキルエステル
等が挙げられる。
そのうち、特にp−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、p−ジメチルアミノ安息香酸ブトキシエチルエステルが望ましい。
カルボン酸エステル基含有芳香族アミン(C)の含有量は、成分(A)、(B)、(C)、(D)および(E)の合計量100重量部に対して、好ましくは0.3〜3重量部、より好ましくは0.5〜2重量部である。
光重合開始剤(D)の具体例としては、可視光線を照射することによってラジカル重合性モノマーの重合を開始しうるものが好ましく使用される。その例としては、
ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテルなどのベンゾイン類;
ベンジル、4,4’−ジクロロベンジル、ジアセチル、α−シクロヘキサンジオン、d,l−カンファキノン(CQ)、カンファキノン−10−スルホン酸、カンファキノン−10−カルボン酸などのα−ジケトン類;
ベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸メチル、ヒドロキシベンゾフェノンなどのジフェニルモノケトン類;
2,4−ジエチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントンなどのチオキサントン類;
2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイドなどのアシルホスフィンオキサイド類
などの光増感剤が挙げられる。これら光重合開始剤は単独で、もしくは組み合わせて使用することができる。これらのうち、ベンジル、4,4’−ジクロロベンジル、ジアセチル、α−シクロヘキサンジオン、d,l−カンファキノン(CQ)、カンファキノン−10−スルホン酸、カンファキノン−10−カルボン酸などのα−ジケトン類およびアシルホスフィンオキサイド類が好ましく用いられる。とりわけ、d,l−カンファキノン、カンファキノン−10−カルボン酸、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイドが特に好ましい。
光重合開始剤(D)の含有量は、成分(A)、(B)、(C)、(D)および(E)の合計量100重量部に対して、好ましくは0.1〜1重量部、より好ましくは0.2〜0.8重量部である。
2官能性ラジカル重合性モノマー(E)の具体例としては、例えば、
エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ヘキシレングリコールジ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピルジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートなどのアルカンポリオールのポリ(メタ)アクリレート;
ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどのポリオキシアルカンポリオールポリ(メタ)アクリレート;
下記式(2)

(ここで、Rは水素原子またはメチル基であり、mおよびnは同一もしくは異なり0〜10の数であり、そしてR

で表わされる脂肪族または芳香族である)のジ(メタ)アクリレート;
さらに、下記式(3)

(ここで、Rは水素原子またはメチル基であり、nは0〜10の数であり、そしてR

で表わされる脂肪族または芳香族である)のエポキシジ(メタ)アクリレート;
および下記式(4)

(ここで、Rは水素原子またはメチル基であり、そしてR

で表わされる)の分子中にウレタン結合を有する多官能(メタ)アクリレートなどを挙げることができる。
また、2官能性(メタ)アクリレートとしては、例えばトリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートのような分子内にエチレングリコール鎖を有するジ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピルジ(メタ)アクリレート、下記式(2)−a

(ここで、R、mおよびnの定義は式(2)に同じである)で表わされる化合物、
下記式(3)−a

(ここで、R、mおよびnの定義は式(2)に同じである)で表わされる化合物、
下記式(4)−a

(ここで、Rの定義は式(4)に同じである)で表わされる化合物、
などが特に好ましく用いられる。これらは単独で、または2種類以上併用することができる。
2官能性モノマーの含有量は、成分(A)、(B)、(C)、(D)および(E)の合計量100重量部に対して、好ましくは50〜80重量部、より好ましくは55〜75重量部である。
本発明において必要により用いられるフィラー(F)は、有機フィラー、無機フィラーあるいはこれらの混合物および複合物のいずれであってもよい。無機フィラー(F1)としては、例えば、ジルコニウム酸化物、ビスマス酸化物、チタン酸化物、酸化亜鉛、酸化アルミニウム粒子などの金属酸化物粉末、炭酸カルシウム、炭酸ビスマス、リン酸カルシウム、リン酸ジルコニウム、硫酸バリウム、フッ化ナトリウム、フッ化カルシウムなどの金属塩粉末、シリカ微粒子、シリカ、バリウム、アルミニウムなど含有ガラス粉末、ストロンチウム含有ガラス粉末、ジルコニウムシリケート粉末粒子などのガラスフィラーおよびさらに銀徐放性を有するかまたはフッ素徐放性を有する上記のフィラーなどを挙げることができる。これら無機フィラーは単独であるいは組み合わせて使用することができる。
また、無機フィラーとレジンマトリクスに強固な結合を得るには、シラン処理などの表面処理を施した無機フィラーを使用することが好ましい。
有機フィラー(F2)としては、例えばポリメチル(メタ)アクリレート、ポリエチル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート・エチル(メタ)アクリレート共重合体、メチル(メタ)アクリレート・ブチル(メタ)アクリレート共重合体、メチル(メタ)アクリレート・スチレン共重合体などの非架橋性ポリマー、メチル(メタ)アクリレート・エチレングリコールジ(メタ)アクリレート共重合体、メチル(メタ)アクリレート・トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート共重合体、(メタ)アクリル酸メチルとブタジエン系モノマーとの共重合体などの(メタ)アクリレート重合体を挙げることができる。
これらのフィラーは、単独であるいは組み合わせて使用することができる。適切なセメント組成物の稠度、操作性を得るには、上記フィラー粒子の平均粒子径は、0.005〜50μmの範囲内にあることが好ましく、さらに、0.01〜30μmの範囲内にあることが特に好ましい。
本発明の組成物におけるフィラー(F)は、成分(A)、(B)、(C)、(D)および(E)の合計量100重量部に対して、好ましくは150〜400重量部、より好ましくは200〜300重量部である。
本発明の組成物は、本発明の目的を損なわない限り、さらに、溶剤、顔料、粘度調整剤、重合禁止剤などを含有してもよい。
本発明の組成物は、歯科用マニキュア乃至はそのキットにも好適である。さらに詳しくは、歯への光沢付与や、歯に適用して色調調節するなどの歯の審美性の向上、保護に使用する歯科用コーティング材、さらに歯科用エッチング剤、歯科用プライマー、歯科用接着剤などを構成に含んでも良い歯科用マニキュアキットにおいて、好適に用いることができる。
本発明の組成物を前記用途に用いれば、安全に短時間で色調を事前に決定でき、歯質表面を削ることもなく歯の色調を変えられる歯科用マニキュアキットを提供することができる。さらに、処置をすることによって歯面の艶も高くすることができる歯科用マニキュアキットを提供することができる。
前記の具体的態様としては、歯牙のエナメル質表面に硬質膜を形成する歯科用マニキュアキットであって、該歯科用マニキュアキットが、独立して容器に充填された歯科用コーティング材組成物(p)からなり、該歯科用コーティング材組成物(p)は硬化膜を形成可能な重合開始剤を含むことを特徴とする歯科用マニキュアキットである。
上記歯科用コーティング材組成物(p)は、さらに(F)フィラーおよび/または(G)着色剤を含有することが好ましい。
上記歯科用コーティング材組成物(p)は、最外層を形成するトップコート材層形成材料(p−1)と、該トップコート材層の下層を形成するオペークコーティング材層形成材料(p−2)とを含有しており、該トップコート材層形成材料と、該オペークコーティング材層形成材料とが独立した容器に充填されていることが好ましい。
上記歯科用コーティング材組成物(p)によって形成される硬質膜のビッカース硬度は10〜60HVの範囲内にあることが好ましい。
上記歯科用マニキュアキットは、上記歯科用コーティング材組成物(p)とは別に、(q)歯科用エッチング剤、(r)歯科用プライマー、および、(s)歯科用接着剤よりなる群から選ばれる少なくとも一種類の成分をそれぞれ独立して含むことが好ましい。
上記歯牙のエナメル質の表面に形成される層あるいは膜の合計の厚さは10〜400μmの範囲内にあることが好ましい。
上記歯科用マニキュアキットで、歯面を歯科用エッチング剤(q)で処理した後に、次に処理を行うことが好ましい。
上記マニキュアキットは、歯科用コーティング材組成物(p)が、最外層を形成するトップコート材層形成材料(p−1)と、該トップコート材層の下層を形成するオペークコーティング材層形成材料(p−2)または、(s)歯科用接着剤の少なくとも1つに含まれるものである。
本発明の組成物は、最外層を形成するトップコート材層形成材料(p−1)とすることができる。このトップコート材層形成材料(p−1)は、通常は透明な層である硬質膜となる。また、この重合性モノマー(a)と重合開始剤(b)とにさらにフィラー(F)、着色剤(G)などを配合することにより、オペークコーティング材層形成材料(p−2)を形成することができる。このオペークコーティング材層形成材料(p−2)は、上記トップコート材層形成材料(p−1)の下層を形成する。
このトップコート材層形成材料(p−1)とオペークコーティング材層形成材料(p−2)とは、別の容器に充填される。
前記の歯科用コーティング材組成物(p)には、着色剤(G)を配合することができる。ここで使用される着色剤(G)としては、公知の歯科用の顔料や染料が使用できる。
顔料としては、例えば黒酸化鉄、黄色酸化鉄、弁柄、チタンイエロー、チタンホワイトなどの無機顔料やブロモフタールレッド、ブロモフタールイエローなどの有機顔料が使用できる。着色剤の配合量は歯科用コーティング材組成物(p)および(F)フィラーの合計100重量部に対して、好ましくは0.01〜3重量部である。
前記の歯科用マニキュアキットの第1の容器に充填される歯科用コーティング材組成物(p)には、さらに本発明の目的を損なわない範囲内において、他の添加剤を配合することもできる。添加剤の例としては、殺菌剤、安定剤、重合禁止剤を挙げることができる。
また、この歯科用マニキュアキットは、上記のような歯科用コーティング材組成物(p)を、着色剤を有するオペークコーティング材層形成材料(p−2)と、着色剤を含有しない透明コーティング材層形成材料(p−1)とに分けて容器に充填することもできる。
エナメル質に対しての接着強度をコントロールする方法としては、例えば歯面へのエッチング処理の有無、エッチング剤の種類、エッチングの方法、歯科用コーティング材組成物(p)の塗布前にプライマーや接着剤を適用する方法などが挙げられる。
特に本発明の歯科用マニキュアキットを使用するにあたっては、歯に前処理を施すのが好ましい。
歯科用マニキュアキットを使用する際に採用される前処理としては、例えば(q)歯科用エッチング剤による接着面のエッチング処理、(r)歯科用プライマーによる接着面の改質処理あるいはエッチング能を有するプライマーによる接着面のエッチングおよび改質処理などを挙げることができる。
歯面のエッチング処理に用いられる歯科用エッチング剤(q)としては、例えば5〜60重量%のリン酸水溶液、および10重量%のクエン酸と3重量%の塩化第二鉄とを含む水溶液を挙げることができる。
このような歯科用エッチング剤(q)は、上記のような歯科用コーティング剤(p)とは別の容器に充填されて、本発明の歯科用マニキュアキットを構成することができる。
本発明の歯科用マニキュアキットを使用するに際しては、上記のような歯科用エッチング剤(q)を用いてエッチング処理された歯面を、別途調製された歯科用プライマーを用いて処理することが好ましい。この歯科用プライマーは、歯面の接着面の改質処理剤であり、本発明の歯科用マニキュアキットには、このような歯面の接着面の改質処理剤である歯科用プライマー(r)を充填した容器を含めることができる。
本発明において使用される歯科用プライマー(r)のうち、接着面の改質処理に用いられる歯科用プライマー(r)としては、例えば20〜50重量%の2−ヒドロキシエチル(メチル)アクリレート、1,3−ジヒドロキシプロピルモノ(メタ)アクリレートを含有する水溶液を挙げることができる。
また、本発明では歯科用プライマーとして、接着面のエッチングと改質処理に用いられるエッチング能を有するプライマーを使用することもできる。このようなエッチング能を有するプライマーの例としては有機酸(酸性基を有するモノマーを含む)と、脱灰した歯質を改質し、歯質への接着剤の拡散を促進する成分とを含有する水溶液などが好ましく用いられる。歯質への接着剤の拡散を促進する成分としては、例えばアルキレングリコール、ポリアルキレングリコール、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、1,3−ジヒドロキシプロピルモノ(メタ)アクリレートなどの水酸基含有モノマーあるいはポリエチレングリコール(メタ)アクリレートなどを挙げることができる。
本発明の歯科用マニキュアキットには、さらに、別途調製された接着剤層形成成分(s)が充填された容器を含むものであってもよい。
上記のような接着剤層形成成分(s)中には、さらに本発明の目的を損なわない範囲内において他の添加剤を配合することもできる。添加剤の例としては、水、アセトン、エタノールなどの溶剤、増粘剤、殺菌剤、安定剤を挙げることができる。
前記の歯科用マニキュアキットの構成は、上記歯科用コーティング材層形成材(p)の入った容器を必須とし、これに(q)エッチング剤の充填された容器、(r)プライマーの充填された容器、(s)接着剤の充填された容器、(E)オペークコーティング材層形成材料を単独又は組み合わせて構成されている。また、上述のように上記歯科用コーティング材層形成材(p)を、着色剤、フィラーなどが配合されていない透明コーティング材層形成成分(p−1)と、着色剤、フィラーなどを含み透明コーティング材層形成成分(p−1)の下層を形成するとオペークコーティング材層形成材料(p−2)とに分割することができる。歯科用コーティング材層形成材(p)を、透明コーティング材層形成成分(p−1)と、オペークコーティング材層形成材料(p−2)に分割する場合、オペークコーティング材層よりも透明コーティング材層を硬質にすることが好ましい。
なお、オペークコーティング材層形成材料(p−2)は例えば色あわせのために、繰り返し塗り重ねをすることができる。また、硬質膜は、比較的短期間で審美性が損なわれることがあり、このような場合には、透明コーティング材層形成成分(p−1)を修復するように塗り重ねることができる。
歯科用マニキュアにおける各層の膜厚は、着色剤を含有するオペークコーティング材層を形成する場合、その隠蔽力や操作性から、オペークコーティング層は、20〜300μmとすることが好ましい。また、摩耗性を向上させるための硬質膜を形成する場合、透明トップコート材層の膜厚は5〜100μmとすることが好ましい。
口腔内での接着耐久性を向上させるために接着材を用いる場合、この接着材層の膜厚は3〜100μmにするのが望ましい。また、プライマー層の厚さは、好ましくは3μm以下である。
本発明の歯科用マニキュアキットによるマニキュア積層構造物全体の厚みは違和感がないという点や対合歯とかみ合わせ、スケーラーによる剥離しやすさから10〜400μmが好ましく、20〜250μmがより好ましく、30〜100μmが最も好ましい。
本発明の歯科用マニキュアキットを用いて形成されるコーティング層の表面硬度(ビッカース硬度)は10〜60HVであることが好ましく、20〜60HVであることがより好ましい。表面硬度が10HV未満では摩耗性が低いために歯ブラシで清掃すると表面艶のなくなるのが速く審美性に問題が生じる。
本発明の歯科用マニキュアキットを使用する際には、歯科用コーティング材組成物を直接エナメル質に適用しても歯面処理後に適用しても良い。コーティング層は歯表面の色調を調整するために何度も重ね塗りを行っても良い。口腔内での耐久性を向上させるために接着剤を用いる場合は、接着材層を形成させてから、コーティング材層をその上に形成させる。さらに耐久性を高めるためにエッチング剤を用いる場合は、接着剤を用いる前に適用する。摩耗性を向上させるためにオペークコーティング材層と透明コーティング材層とを別に形成する場合には、オペーク用コーティング材層の上に透明コーティグ材層を形成する。
上記のような歯科用コーティング材組成物、透明コーティング材層形成成分、オペークコーティング材層形成成分、接着剤層形成成分、プライマーは、通常は光重合反応により硬化する。この硬化には歯科用ハロゲン光照射器を用いて可視光などを照射する。このように可視光を用いて硬化反応を行う場合、可視光の光照射時間は通常は10〜60秒、好ましくは15秒〜40秒である。
なお、本発明の歯科用マニキュアキットの各成分を充填する容器は、それぞれの成分が混合しないように独立して充填できるものであればよい。
前記の歯科用マニキュアキットによれば、歯質表面を削ることもなく歯質表面の色調を短時間で安全に改善することができる。さらに、このようにして形成されたコーティング材層は、歯質に対する接着強度が高くないため必要に応じて容易に外すことも可能である。
【実施例】
以下、本発明を実施例を示して具体的に説明するが、本発明は以下の実施例により何ら限定されるものではない。
(実施条件)
(A.接着性組成物の保存安定性)
接着性組成物をシリンジに入れ、76℃の恒温箱にて24時間保管して熱処理した後、組成物をシリンジから絞り出す具合を確認する。熱処理前と同様に絞り出すことができ、且つ接着性組成物の性状の変化が認められないものは、○;シリンジから絞り出せるが、接着性組成物に硬い芯があるなど性状に変化が認められたもの、またはシリンジから絞り出せないものは、×で評価した。
(B.エナメル質接着強度の測定)
(1)牛下額前歯を注水下1000#の耐水研磨し、平坦なエナメル質面を削りだす。
(2)削りだしたエナメル質接着面をエナメル質表面処理材レッド(サンメディカル(株)製)で処理し、水洗、乾燥した後、直径3.0mmのテープで接着面積を規定する。
(3)接着面に凹凸(幅0.25mm、深さ0.17mm、ピッチ0.5mmの格子状溝、接着面端部に面取り(幅0.125mm、深さ0.17mm))を施した上にサンドブラスト処理したSUS304製金属ロッド(直径4mm、長さ15mm)に接着性組成物を載せ、テープで規定した歯面に圧接して光照射器で20秒間照射して硬化させて接着する。
(4)上記接着したサンプルを37℃、湿度100%の恒温槽に入れ、20時間経過した後、引張接着強度を測定するかまたは5℃/55℃のサーマルサイクル試験機に入れ、サーマルサイクル5000回かけた後耐久性引張接着強度を測定する。
(C.接着性組成物の構成成分)
接着性組成物の構成成分は、以下の通りの略号にて示す。
MESA:2−メタクリロイロキシエチルコハク酸
MEHA:2−メタクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸
MEFA:2−メタクリロイロキシエチルフタル酸
4−META:4−メタクリロイルオキシエチルトリメリット酸無水物
HEMA:2−ヒドロキシエチルメタクリレート
GCMA:グリセリンモノメタクリレート
TFMA:テトラヒドロフルフリルメタクリレート
EMA:エチルメタクリレート
DMABE:p−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル
DMABEB:p−ジメチルアミノ安息香酸ブトキシエチルエステル
DMPT:p−ジメチルアミノトルエン
CQ:カンファキノン
UDMA:ジ(メタクリロキシエチル)トリメチルヘキサメチレンジウレタン
RDMA:レゾルシンジメタクリレート
NaF:フッ化ナトリウム
FSi:シリカ微粒子(平均粒径14nm)
GF1:ガラスフィラー(SiO:30,SrO:20,F:15,ZnO:10,P<5,NaO<5(数値は全て重量%を示す),平均粒径3.5μm)
GF2:ガラスフィラー(SiO:50,BaO:25,B:10,Al:10,F<2(数値は全て重量%を示す),平均粒径14μm)
[実施例1〜6]
表1に示す組成で、接着性組成物の保存安定性およびエナメル質接着強度を測定したところ、いずれも良好な性能を示した。
比較例1、2
実施例1の組成物に、成分(A)の含有量のみを表1に示すものに変更し、保存安定性と接着性能を測定したところ、保存安定性には悪影響が見られないが、接着性能の大幅な低下が見られた。
比較例3、4
実施例1の組成物に、成分(B)の含有量のみを表1に示すものに変更し、保存安定性と接着性能を測定したところ、保存安定性には悪影響が見られないが、接着性能の大幅な低下が見られた。
比較例5
実施例1の組成物に、成分(A)を表1に示すものに変更し、保存安定性と接着性能を測定したところ、保存安定性に大幅な低下が見られた。
比較例6
実施例1の組成物に、成分(B)を表1に示すものに変更し、保存安定性と接着性能を測定したところ、保存安定性に大幅な低下が見られた。
比較例7
実施例1の組成物に、成分(C)を表1に示すものに変更し、保存安定性と接着性能を測定したところ、保存安定性に大幅な低下が見られた。

[実施例7]
実施例1接着性組成物をオペークコーティング材層形成材料(p−2)として、実施例1接着性組成物において、成分(F)を含まないものを歯科用接着剤(s)及びトップコート材層形成材料(p−1)として、歯科用接着剤(s)、オペークコーティング材層形成材料(p−2)、トップコート材層形成材料(p−1)の順に、塗布して、歯科用マニキュアコーティングを形成した。
耐久接着強度は、10MPaであり、色ムラは視認されなかった。
以上のとおり、本発明の光硬化型歯科用エナメル質接着性組成物を用いることにより、エナメル質の接着に対して、プライミング材料や接着を補助する材料による処理のいずれの操作がなくても、優れた接着性能と耐久性を得ることが可能となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記式(1)
CH=CR−COO−R−OCO−R−COOH ・・・(1)
(ここで、Rは、HまたはCH基であり、そして、RおよびRは、互いに独立に、C、Hを主体とする2価の不活性基を表す)
で示される構造を有する、酸性基を持つラジカル重合性モノマー、
(B)分子量が220以下且つ沸点が60℃/10mmHg以上の単官能性ラジカル重合性モノマー、
(C)カルボン酸エステル基含有芳香族アミン、
(D)光重合開始剤 および
(E)2官能性ラジカル重合性モノマー
を含むことを特徴とする光硬化型歯科用エナメル質接着性組成物。
【請求項2】
(F)フィラーをさらに含む請求項1に記載のエナメル質接着性組成物。
【請求項3】
上記成分(A)、(B)、(C)、(D)および(E)の合計量を100重量部としたとき、成分(A)が10〜40重量部であり、成分(B)が2〜30重量部であり、成分(C)が0.3〜3重量部であり、成分(D)が0.1〜1重量部であり、成分(E)が50〜80重量部である請求項1に記載のエナメル質接着性組成物。
【請求項4】
上記成分(A)、(B)、(C)、(D)および(E)の合計量を100重量部としたとき、上記成分(F)が150〜400重量部である請求項2に記載のエナメル質接着性組成物。
【請求項5】
成分(A)は2−メタクリロイロキシエチルコハク酸および/または2−メタクリロイロキシエチルフタル酸である請求項1〜4のいずれかに記載のエナメル質接着性組成物。
【請求項6】
成分(B)は2−ヒドロキシエチルメタクリレートおよび/または2−ヒドロキシプロピルメタクリレートである請求項1〜5のいずれかに記載のエナメル質接着性組成物。
【請求項7】
成分(C)は、p−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、および/またはp−ジメチルアミノ安息香酸ブトキシエチルエステルである請求項1〜6のいずれかに記載のエナメル質接着性組成物。

【国際公開番号】WO2005/074862
【国際公開日】平成17年8月18日(2005.8.18)
【発行日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−517832(P2005−517832)
【国際出願番号】PCT/JP2005/002101
【国際出願日】平成17年2月4日(2005.2.4)
【出願人】(592093578)サンメディカル株式会社 (61)
【Fターム(参考)】