エネルギーと位置情報を利用した放射線検出方法及び装置
【課題】検出器内での散乱成分を取得可能として、検出器の感度を高める。
【解決手段】深さ方向の検出位置とエネルギーが識別可能な(3次元)検出器20を用いて放射線を検出する際に、深さ方向の検出位置に応じて、信号とノイズを識別するエネルギーウィンドウを変えることにより、検出器内での散乱成分を取得可能とする。深さ方向の検出位置に応じて、異なる検出素子20A、20Bを用いることができる。
【解決手段】深さ方向の検出位置とエネルギーが識別可能な(3次元)検出器20を用いて放射線を検出する際に、深さ方向の検出位置に応じて、信号とノイズを識別するエネルギーウィンドウを変えることにより、検出器内での散乱成分を取得可能とする。深さ方向の検出位置に応じて、異なる検出素子20A、20Bを用いることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線検出方法及び装置に係り、特に、ポジトロンイメージング装置や陽電子放射断層撮影(PET)装置に用いるのに好適な、エネルギーと位置情報を利用した放射線検出方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図1に示す如く、+β崩壊によって陽電子放出核種8から放出された陽電子が、周囲の電子と対消滅し、それによって生ずる一対の511keVの消滅放射線8a、8bを、対の放射線検出器10a、10bで同時計数の原理によって測定するPET装置が知られている。この際、511keVのエネルギーを付与した消滅放射線のみを利用するため、エネルギーウィンドウによって、取得するエネルギー(信号)の下限と上限を制限する。これにより、核種8の存在位置を、対の検出器10a、10b同士を結ぶ1本の線分(同時計数線:line-of-response:LOR)上に特定することができる。被検体の頭から足の方向に向かう軸を体軸と定義すると、体軸と垂直に交わる平面上の核種の分布は、その平面上において様々な方向から測定された同時計数線のデータから、2次元画像再構成によって求められる。
【0003】
PET用検出器10は、断面が5mm角程度の微細な検出素子の集まりであり、体内から対向して放出される1対の消滅放射線8a、8bを高い確率で検出するためには2〜3cm程度の厚さを必要とする。又、検出器10は、1対の消滅放射線を捉えるために、図2に示す如く、被検者を覆うようにリング状に配置されているのが一般的である。しかしながら、検出器10に対して斜めに入射する放射線は測定誤差を生じ、空間分解能を劣化させるため、リング径を視野より大幅に大きくせざるを得ない。
【0004】
PET装置において、より高い検出能を獲得するために、検出素子に入射した深さ位置も検出する3次元検出器が開発されている。図3に例示する如く、同一種類の検出素子21〜24を受光素子26の上に積層し、検出素子間の光学反射材によって光の進路を制御することで、受光素子26から出力される信号の違いから、深さ検出位置とエネルギーを特定することができる(特許文献1、非特許文献1参照)。また、2層の深さ識別には、2種類の検出素子を層ごとに積層し、受光素子26から出力される信号の時間的な違いから、深さ検出位置を特定するのが一般的である。
【0005】
このような3次元検出器20は、検出素子に対して斜めに入射する放射線による空間分解能の劣化を改善でき、従来のPET装置に比べて検出器を被検体に近接することができるため、より高感度検出が可能となる。
【0006】
一方、感度を向上させるための方法として、図4(A)に示す検出器散乱を利用することが考えられるが、従来の2次元検出器10では、図4(B)、(C)に示す如く、被検体(散乱体とも称する)6の散乱と区別できないため、図5及び図6に示す如く、エネルギーウィンドウの下限を、光電吸収Aにおけるエネルギーの下限に合わせることで両方の事象をノイズとして除外していた。
【0007】
なお、図7に示す如く、検出器10の上面に、低エネルギーの散乱線を除去するシールド12を設置すれば、被検体6からの散乱線は除去できるが、同時に光電吸収事象も一部除去してしまう(非特許文献2参照)。
【0008】
【特許文献1】特開2004−279057号公報
【非特許文献1】H.Murayama,H.Ishibashi,H.Uchida,T.Omura,T.Yamashita,“Design of a depth of interaction detector with a PS-PMT for PET”,IEEE Trans.Nucl.Sci.,Vol.47,No.3,1045-1050,2000
【非特許文献2】G.Muehllehner:“Positron camera with extended counting rate capability”,J.Nucl.Med.Vol.16,663-657,1975
【非特許文献3】E.Yoshida,K.Kitamura,T.Tsuda,et.al.:“Energy spectra analysis of four-layer DOI detector for brain PET scanner:jPET−D4”,Nucl.Instr.Meth.A,577,664-669,2006
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、3次元検出器を実装したPET装置は、従来のPET装置に比べて高感度な検出器配置を取ることができるが、それでもなお、PET装置の持つ原理的な高感度計測法及び豊富な情報量を十分に活かし切っていないという問題点を有していた。
【0010】
本発明は、前記従来の問題点を解消するべくなされたもので、従来は捨てていた検出器内での散乱成分を取得可能として、検出感度を向上させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
体内で散乱した事象は、検出器に入射する以前にエネルギー損失を起こしており、検出器に入射する時点におけるエネルギーが511keVよりも少ないほど、検出器の上層で全エネルギーを付与して停止する確率が高くなる。一方、検出素子のみで散乱した事象は、入射した時点のエネルギーは511keVであり、結晶内で1回若しくは複数回の散乱を繰り返した後、最終的に511keVの全エネルギーを付与するか、エネルギーの一部を付与し、残りのエネルギーを保有したまま、検出器の外へ逃げてしまう。体内で散乱せず、検出素子において511keVの全エネルギーを付与した場合は、図5に示したエネルギーウィンドウ内で検出されるが、一部のエネルギーのみ付与した場合は、有意な位置情報を有しているにも拘らず、エネルギーウィンドウを外れてしまうことがある。従って、従来のPET装置では、図4に示した如く、検出器内で散乱した真の同時計数Bと散乱同時計数Cを識別できないため、有用な位置情報を持ったBの大部分を捨てていた。
【0012】
3次元検出器20は、図8に示す如く、下層の検出素子においては、散乱体による散乱(散乱同時計数)Cを低減できるため、エネルギーウィンドウの下限を検出器散乱エネルギーの下限まで下げることにより、検出器散乱Bも同時計数として利用できる。本発明は、このような事象を有効に活用し、放射線検出装置の感度を向上させる方法を提供する。被検体による散乱と検出器での散乱の割合は、放射線を検出した深さと付与したエネルギーによって異なることが期待される。従って、3次元検出器で検出した深さ方向の検出位置とエネルギー情報を取得できれば、被検体からの散乱成分が多い領域は取り除いて、検出器での散乱成分を取得可能になる。
【0013】
本発明は、このような点に着目してなされたもので、深さ方向の検出位置とエネルギーが識別可能な検出器を用いて放射線を検出する際に、深さ方向の検出位置に応じて、信号とノイズを識別するエネルギーウィンドウを変えることにより、検出器内での散乱成分を取得可能として、前記課題を解決したものである。
【0014】
本発明は、又、深さ方向の検出位置とエネルギーが識別可能な検出器を用いて放射線を検出する放射線検出装置において、深さ方向の検出位置に応じて、信号とノイズを識別するエネルギーウィンドウが変えられ、検出器内での散乱成分が取得可能とされていることを特徴とするエネルギーと位置情報を利用した放射線検出装置を提供するものである。
【0015】
ここで、深さ方向の検出位置に応じて、異なる検出素子を備えることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、検出器内での散乱成分を取得可能として、検出器の感度を高めることができる。従って、PET装置やポジトロンイメージング装置等の感度を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0018】
本発明の第1実施形態は、図9に示す如く、3次元検出器20を実装したPET装置等において、図10に示す如く、低エネルギー領域においても検出深さを制限することで検出器散乱を利用し、図11に示す如く、被検体6内で散乱した事象Cと、検出器20で散乱した後、エネルギーの一部を検出器20に付与した事象Bを識別する機構を持つ。これにより、位置情報の劣化を防止しつつ、3次元検出器を有するPET装置等の更なる高感度化が達成される。
【0019】
同時計数の手順を図12に示す。
【0020】
又、本発明は、検出素子を積層する場合、全ての層において同一の検出素子を用いる必要が無く、図13に示す第2実施形態の如く、実効原子番号の高い高価な検出素子20Aが必要な上層に比べて、下層においては実効原子番号の低い安価な検出素子20Bを利用するというように異なる検出素子を用いることが可能である。この際、上層の検出素子20Aの長さは散乱線を止めるのに十分な長さを持たせるが、下層の検出素子20Bより短くすることで、低コストで高性能なPET装置が実現できる。
【0021】
もしくは、半導体検出器のような、実効原子番号の低い検出素子のみを用いたPET装置の高感度化を達成することもできる。
【実施例】
【0022】
出願人らが開発した頭部用PET装置試作機「jPET−D4」(非特許文献3参照)を模擬したシミュレーションを行なった。本装置は、2.9×2.9×7.5mmのGSOシンチレータを4層に積層した3次元検出器20を用いて、39cmのリング径と26cmの長さを持つ検出器リングを構成した。被検体6を模擬するファントムとしては、直径20cm、長さ20cmの円筒ファントムを水で満たし、中心軸上に20cmの1対の511keVの放射線を放出する線状放射線源を設置した。
【0023】
従来法によるエネルギーウィンドウは、全ての層で同じで、例えば400〜600keVであるが、本発明による方法では、図14に示す如く、1層目は400〜600keVとし、2層目〜4層目は100〜300keV及び400〜600keVの二つのエネルギーウィンドウとした。つまり、300〜400keVを除く、100〜600keVとした。このように必要に応じて、従来のPET装置とは異なり、複数のエネルギーウィンドウを設けることもできる。
【0024】
図15に、(A)真の同時計数のエネルギースペクトルと(B)散乱同時計数のエネルギースペクトルを示す。下層に行く程、(B)に示す被検体による散乱線の影響が少なくなっていることが分かる。
【0025】
図16に、エネルギーウィンドウの下限を変化させた際の(A)相対感度と(B)散乱フラクション(計測したデータに物体散乱が含まれる割合)の変化を示す。相対感度は、エネルギーウィンドウの下限400keVを100としてある。図から明らかなように、本発明を用いることによって、散乱フラクションの増加を抑えつつ、高感度を達成できる。
【0026】
なお、前記説明においては、本発明がPET装置に適用されていたが、本発明の適用対象は、これに限定されず、ポジトロンイメージング装置等の他の核医学イメージング装置や、放射線検出装置一般に適用できる。又、3次元検出器の種類も、図3に示した物に限定されず、例えばアナログで深さ方向位置を識別できるものでも良い。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】PET装置の原理を示す図
【図2】従来のPET装置の全体構成を示す図
【図3】特許文献1で提案された3次元検出器を示す斜視図
【図4】本発明の原理を説明するための、ガンマ線の相互作用とエネルギースペクトルを示す図
【図5】従来のエネルギーウィンドウによる散乱線の除去法を示す図
【図6】従来法によるデータ処理を示す図
【図7】従来のシールドによる散乱線の除去法を示す図
【図8】本発明の原理を示す図
【図9】本発明を利用したPET装置の第1実施形態を示す図
【図10】第1実施形態のデータ処理手順を示す流れ図
【図11】第1実施形態への放射線の入射状況を示す図
【図12】第1実施形態の同時計数手順を示す流れ図
【図13】本発明を利用したPET装置の第2実施形態を示す図
【図14】実施例のエネルギーウィンドウを示す図
【図15】同じく(A)真の同時計数と(B)散乱同時計数のエネルギースペクトルを比較して示す図
【図16】同じく(A)感度と(B)散乱フラクションを比較して示す図
【符号の説明】
【0028】
20…3次元検出器
20A、20B…検出素子
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線検出方法及び装置に係り、特に、ポジトロンイメージング装置や陽電子放射断層撮影(PET)装置に用いるのに好適な、エネルギーと位置情報を利用した放射線検出方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図1に示す如く、+β崩壊によって陽電子放出核種8から放出された陽電子が、周囲の電子と対消滅し、それによって生ずる一対の511keVの消滅放射線8a、8bを、対の放射線検出器10a、10bで同時計数の原理によって測定するPET装置が知られている。この際、511keVのエネルギーを付与した消滅放射線のみを利用するため、エネルギーウィンドウによって、取得するエネルギー(信号)の下限と上限を制限する。これにより、核種8の存在位置を、対の検出器10a、10b同士を結ぶ1本の線分(同時計数線:line-of-response:LOR)上に特定することができる。被検体の頭から足の方向に向かう軸を体軸と定義すると、体軸と垂直に交わる平面上の核種の分布は、その平面上において様々な方向から測定された同時計数線のデータから、2次元画像再構成によって求められる。
【0003】
PET用検出器10は、断面が5mm角程度の微細な検出素子の集まりであり、体内から対向して放出される1対の消滅放射線8a、8bを高い確率で検出するためには2〜3cm程度の厚さを必要とする。又、検出器10は、1対の消滅放射線を捉えるために、図2に示す如く、被検者を覆うようにリング状に配置されているのが一般的である。しかしながら、検出器10に対して斜めに入射する放射線は測定誤差を生じ、空間分解能を劣化させるため、リング径を視野より大幅に大きくせざるを得ない。
【0004】
PET装置において、より高い検出能を獲得するために、検出素子に入射した深さ位置も検出する3次元検出器が開発されている。図3に例示する如く、同一種類の検出素子21〜24を受光素子26の上に積層し、検出素子間の光学反射材によって光の進路を制御することで、受光素子26から出力される信号の違いから、深さ検出位置とエネルギーを特定することができる(特許文献1、非特許文献1参照)。また、2層の深さ識別には、2種類の検出素子を層ごとに積層し、受光素子26から出力される信号の時間的な違いから、深さ検出位置を特定するのが一般的である。
【0005】
このような3次元検出器20は、検出素子に対して斜めに入射する放射線による空間分解能の劣化を改善でき、従来のPET装置に比べて検出器を被検体に近接することができるため、より高感度検出が可能となる。
【0006】
一方、感度を向上させるための方法として、図4(A)に示す検出器散乱を利用することが考えられるが、従来の2次元検出器10では、図4(B)、(C)に示す如く、被検体(散乱体とも称する)6の散乱と区別できないため、図5及び図6に示す如く、エネルギーウィンドウの下限を、光電吸収Aにおけるエネルギーの下限に合わせることで両方の事象をノイズとして除外していた。
【0007】
なお、図7に示す如く、検出器10の上面に、低エネルギーの散乱線を除去するシールド12を設置すれば、被検体6からの散乱線は除去できるが、同時に光電吸収事象も一部除去してしまう(非特許文献2参照)。
【0008】
【特許文献1】特開2004−279057号公報
【非特許文献1】H.Murayama,H.Ishibashi,H.Uchida,T.Omura,T.Yamashita,“Design of a depth of interaction detector with a PS-PMT for PET”,IEEE Trans.Nucl.Sci.,Vol.47,No.3,1045-1050,2000
【非特許文献2】G.Muehllehner:“Positron camera with extended counting rate capability”,J.Nucl.Med.Vol.16,663-657,1975
【非特許文献3】E.Yoshida,K.Kitamura,T.Tsuda,et.al.:“Energy spectra analysis of four-layer DOI detector for brain PET scanner:jPET−D4”,Nucl.Instr.Meth.A,577,664-669,2006
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、3次元検出器を実装したPET装置は、従来のPET装置に比べて高感度な検出器配置を取ることができるが、それでもなお、PET装置の持つ原理的な高感度計測法及び豊富な情報量を十分に活かし切っていないという問題点を有していた。
【0010】
本発明は、前記従来の問題点を解消するべくなされたもので、従来は捨てていた検出器内での散乱成分を取得可能として、検出感度を向上させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
体内で散乱した事象は、検出器に入射する以前にエネルギー損失を起こしており、検出器に入射する時点におけるエネルギーが511keVよりも少ないほど、検出器の上層で全エネルギーを付与して停止する確率が高くなる。一方、検出素子のみで散乱した事象は、入射した時点のエネルギーは511keVであり、結晶内で1回若しくは複数回の散乱を繰り返した後、最終的に511keVの全エネルギーを付与するか、エネルギーの一部を付与し、残りのエネルギーを保有したまま、検出器の外へ逃げてしまう。体内で散乱せず、検出素子において511keVの全エネルギーを付与した場合は、図5に示したエネルギーウィンドウ内で検出されるが、一部のエネルギーのみ付与した場合は、有意な位置情報を有しているにも拘らず、エネルギーウィンドウを外れてしまうことがある。従って、従来のPET装置では、図4に示した如く、検出器内で散乱した真の同時計数Bと散乱同時計数Cを識別できないため、有用な位置情報を持ったBの大部分を捨てていた。
【0012】
3次元検出器20は、図8に示す如く、下層の検出素子においては、散乱体による散乱(散乱同時計数)Cを低減できるため、エネルギーウィンドウの下限を検出器散乱エネルギーの下限まで下げることにより、検出器散乱Bも同時計数として利用できる。本発明は、このような事象を有効に活用し、放射線検出装置の感度を向上させる方法を提供する。被検体による散乱と検出器での散乱の割合は、放射線を検出した深さと付与したエネルギーによって異なることが期待される。従って、3次元検出器で検出した深さ方向の検出位置とエネルギー情報を取得できれば、被検体からの散乱成分が多い領域は取り除いて、検出器での散乱成分を取得可能になる。
【0013】
本発明は、このような点に着目してなされたもので、深さ方向の検出位置とエネルギーが識別可能な検出器を用いて放射線を検出する際に、深さ方向の検出位置に応じて、信号とノイズを識別するエネルギーウィンドウを変えることにより、検出器内での散乱成分を取得可能として、前記課題を解決したものである。
【0014】
本発明は、又、深さ方向の検出位置とエネルギーが識別可能な検出器を用いて放射線を検出する放射線検出装置において、深さ方向の検出位置に応じて、信号とノイズを識別するエネルギーウィンドウが変えられ、検出器内での散乱成分が取得可能とされていることを特徴とするエネルギーと位置情報を利用した放射線検出装置を提供するものである。
【0015】
ここで、深さ方向の検出位置に応じて、異なる検出素子を備えることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、検出器内での散乱成分を取得可能として、検出器の感度を高めることができる。従って、PET装置やポジトロンイメージング装置等の感度を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0018】
本発明の第1実施形態は、図9に示す如く、3次元検出器20を実装したPET装置等において、図10に示す如く、低エネルギー領域においても検出深さを制限することで検出器散乱を利用し、図11に示す如く、被検体6内で散乱した事象Cと、検出器20で散乱した後、エネルギーの一部を検出器20に付与した事象Bを識別する機構を持つ。これにより、位置情報の劣化を防止しつつ、3次元検出器を有するPET装置等の更なる高感度化が達成される。
【0019】
同時計数の手順を図12に示す。
【0020】
又、本発明は、検出素子を積層する場合、全ての層において同一の検出素子を用いる必要が無く、図13に示す第2実施形態の如く、実効原子番号の高い高価な検出素子20Aが必要な上層に比べて、下層においては実効原子番号の低い安価な検出素子20Bを利用するというように異なる検出素子を用いることが可能である。この際、上層の検出素子20Aの長さは散乱線を止めるのに十分な長さを持たせるが、下層の検出素子20Bより短くすることで、低コストで高性能なPET装置が実現できる。
【0021】
もしくは、半導体検出器のような、実効原子番号の低い検出素子のみを用いたPET装置の高感度化を達成することもできる。
【実施例】
【0022】
出願人らが開発した頭部用PET装置試作機「jPET−D4」(非特許文献3参照)を模擬したシミュレーションを行なった。本装置は、2.9×2.9×7.5mmのGSOシンチレータを4層に積層した3次元検出器20を用いて、39cmのリング径と26cmの長さを持つ検出器リングを構成した。被検体6を模擬するファントムとしては、直径20cm、長さ20cmの円筒ファントムを水で満たし、中心軸上に20cmの1対の511keVの放射線を放出する線状放射線源を設置した。
【0023】
従来法によるエネルギーウィンドウは、全ての層で同じで、例えば400〜600keVであるが、本発明による方法では、図14に示す如く、1層目は400〜600keVとし、2層目〜4層目は100〜300keV及び400〜600keVの二つのエネルギーウィンドウとした。つまり、300〜400keVを除く、100〜600keVとした。このように必要に応じて、従来のPET装置とは異なり、複数のエネルギーウィンドウを設けることもできる。
【0024】
図15に、(A)真の同時計数のエネルギースペクトルと(B)散乱同時計数のエネルギースペクトルを示す。下層に行く程、(B)に示す被検体による散乱線の影響が少なくなっていることが分かる。
【0025】
図16に、エネルギーウィンドウの下限を変化させた際の(A)相対感度と(B)散乱フラクション(計測したデータに物体散乱が含まれる割合)の変化を示す。相対感度は、エネルギーウィンドウの下限400keVを100としてある。図から明らかなように、本発明を用いることによって、散乱フラクションの増加を抑えつつ、高感度を達成できる。
【0026】
なお、前記説明においては、本発明がPET装置に適用されていたが、本発明の適用対象は、これに限定されず、ポジトロンイメージング装置等の他の核医学イメージング装置や、放射線検出装置一般に適用できる。又、3次元検出器の種類も、図3に示した物に限定されず、例えばアナログで深さ方向位置を識別できるものでも良い。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】PET装置の原理を示す図
【図2】従来のPET装置の全体構成を示す図
【図3】特許文献1で提案された3次元検出器を示す斜視図
【図4】本発明の原理を説明するための、ガンマ線の相互作用とエネルギースペクトルを示す図
【図5】従来のエネルギーウィンドウによる散乱線の除去法を示す図
【図6】従来法によるデータ処理を示す図
【図7】従来のシールドによる散乱線の除去法を示す図
【図8】本発明の原理を示す図
【図9】本発明を利用したPET装置の第1実施形態を示す図
【図10】第1実施形態のデータ処理手順を示す流れ図
【図11】第1実施形態への放射線の入射状況を示す図
【図12】第1実施形態の同時計数手順を示す流れ図
【図13】本発明を利用したPET装置の第2実施形態を示す図
【図14】実施例のエネルギーウィンドウを示す図
【図15】同じく(A)真の同時計数と(B)散乱同時計数のエネルギースペクトルを比較して示す図
【図16】同じく(A)感度と(B)散乱フラクションを比較して示す図
【符号の説明】
【0028】
20…3次元検出器
20A、20B…検出素子
【特許請求の範囲】
【請求項1】
深さ方向の検出位置とエネルギーが識別可能な検出器を用いて放射線を検出する際に、深さ方向の検出位置に応じて、信号とノイズを識別するエネルギーウィンドウを変えることにより、検出器内での散乱成分を取得可能とすることを特徴とするエネルギーと位置情報を利用した放射線検出方法。
【請求項2】
深さ方向の検出位置に応じて、異なる検出素子を用いることを特徴とする請求項1に記載のエネルギーと位置情報を利用した放射線検出方法。
【請求項3】
深さ方向の検出位置とエネルギーが識別可能な検出器を用いて放射線を検出する放射線検出装置において、深さ方向の検出位置に応じて、信号とノイズを識別するエネルギーウィンドウが変えられ、検出器内での散乱成分が取得可能とされていることを特徴とするエネルギーと位置情報を利用した放射線検出装置。
【請求項4】
深さ方向の検出位置に応じて、異なる検出素子を備えたことを特徴とする請求項3に記載のエネルギーと位置情報を利用した放射線検出装置。
【請求項5】
単一エネルギーの放射線に対し、深さ方向の検出位置に応じて、散乱成分の少ない2つ以上のエネルギーウィンドウの放射線の情報を利用することを特徴とする請求項3又は4に記載の放射線検出装置。
【請求項1】
深さ方向の検出位置とエネルギーが識別可能な検出器を用いて放射線を検出する際に、深さ方向の検出位置に応じて、信号とノイズを識別するエネルギーウィンドウを変えることにより、検出器内での散乱成分を取得可能とすることを特徴とするエネルギーと位置情報を利用した放射線検出方法。
【請求項2】
深さ方向の検出位置に応じて、異なる検出素子を用いることを特徴とする請求項1に記載のエネルギーと位置情報を利用した放射線検出方法。
【請求項3】
深さ方向の検出位置とエネルギーが識別可能な検出器を用いて放射線を検出する放射線検出装置において、深さ方向の検出位置に応じて、信号とノイズを識別するエネルギーウィンドウが変えられ、検出器内での散乱成分が取得可能とされていることを特徴とするエネルギーと位置情報を利用した放射線検出装置。
【請求項4】
深さ方向の検出位置に応じて、異なる検出素子を備えたことを特徴とする請求項3に記載のエネルギーと位置情報を利用した放射線検出装置。
【請求項5】
単一エネルギーの放射線に対し、深さ方向の検出位置に応じて、散乱成分の少ない2つ以上のエネルギーウィンドウの放射線の情報を利用することを特徴とする請求項3又は4に記載の放射線検出装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2010−32214(P2010−32214A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−112925(P2007−112925)
【出願日】平成19年4月23日(2007.4.23)
【出願人】(301032942)独立行政法人放射線医学総合研究所 (149)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年4月23日(2007.4.23)
【出願人】(301032942)独立行政法人放射線医学総合研究所 (149)
【Fターム(参考)】
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