説明

エネルギー移動体

【課題】不要なエネルギーを新たなエネルギーとして活用するなど、より効率的なエネルギー移動を実現することができるエネルギー移動体を提供する。
【解決手段】エネルギー量の変化に伴って電荷を発生するエネルギー変換デバイス12aと、電荷の負荷によりエネルギーの放出がなされるエネルギー変換デバイス12bとを備えており、前記エネルギー変換デバイス12a、12bのそれぞれがエネルギー変換層14a、14bと電極層15a、15bとを備え、前記エネルギー変換層14a、14bが極性高分子と極性低分子とから構成されてなり、前記エネルギー変換デバイス12a、12bの相互間は導線13を介して電気的に接続されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば不要なエネルギーを新たなエネルギーとして活用するなど、効率的なエネルギー移動を実現することができるエネルギー移動体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、熱エネルギーを電気エネルギーとして取り出すことができるエネルギー変換システムとして熱電変換素子が知られている(例えば特許文献1参照)。熱電変換素子は、排熱を利用して電気エネルギーに変換したり、屋外で簡単に電気を得る発電デバイスとして大きく期待されている反面、変換効率が低く、製造方法が煩雑であり、材料コストも高いことから実用化には至っていない。
【0003】
一方、近年、水素と酸素の電気化学反応によって発電する燃料電池が新しいエネルギー供給源として注目されている。この燃料電池は、高分子電解質であるイオン交換樹脂膜をアノード極とカソード極とで挟持した接合体と、該接合体の各電極間に燃料である水素ガスを供給する燃料供給路と酸化剤ガスを供給するガス供給路とを形成するセパレータとから構成されている(例えば特許文献2参照)。
【0004】
ところが、この燃料電池にあっては、100℃を超える高温領域では、水分が気化してしまうため、高分子電解質であるイオン交換樹脂膜の保水力を維持することが困難となり、高温領域での使用は困難とされていた。
【0005】
このような事情から、本発明者は、温度変化に伴って電荷を発生する発電デバイスであって、発電効率が高く、使用温度条件によっても発電性能に悪影響を受け難く、しかも製造方法が簡単で低コストである発電デバイス、それを用いた発電装置、センサー並びに発熱体を提案している(例えば特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−195817号公報
【特許文献2】特開平6−251780号公報
【特許文献3】特開2007−173221号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者は、上述の発電デバイス並びに発熱体のさらなる改良を目的として、エネルギー変換、特に不要なエネルギーを新たなエネルギーとして活用できるエネルギー移動システムの研究を進めていく過程で、上述のデバイスが熱エネルギーの他に振動エネルギー、衝撃エネルギー、電磁波エネルギーなどのエネルギー変化に伴って電荷を生じること、さらに、このデバイスを複数準備し、相互を電気的に接続することで、一のデバイスにおいて生じたエネルギー変換が電気的に接続された他のデバイスにおいてエネルギー変換を生じ、効率的なエネルギー移動を可能ならしめることを発見し、ここに本発明を完成させた。
【0008】
すなわち本発明は、例えば不要なエネルギーを新たなエネルギーとして活用することができ、効率的なエネルギー移動を実現することができるエネルギー移動体を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明は、伝わるエネルギー量の変化に伴って電荷を発生する少なくとも1つのエネルギー変換デバイスと、
電荷の負荷により前記電荷を発生するエネルギー変換デバイスに伝わるエネルギーと同一の又は異なるエネルギー形態となってエネルギーの放出がなされる少なくとも1つのエネルギー変換デバイスとを備えており、
前記電荷を発生するエネルギー変換デバイスと前記エネルギーの放出がなされるエネルギー変換デバイスの相互間は導線を介して電気的に接続されており、
前記電荷を発生するエネルギー変換デバイスと前記エネルギーの放出がなされるエネルギー変換デバイスのそれぞれが、
エネルギー変換層と、
前記エネルギー変換層表面に設けた電極層と、
を備えており、前記エネルギー変換層が、
極性高分子と、
前記極性高分子のマトリックス中に含まれる極性低分子と、
からなることを特徴とするエネルギー移動体をその要旨とした。
【発明の効果】
【0010】
本発明のエネルギー移動体11は、図1及び図2に示すように、伝わるエネルギー量の変化に伴って電荷を発生する少なくとも1つのエネルギー変換デバイス12aと、電荷の負荷により前記電荷を発生するエネルギー変換デバイス12aに伝わるエネルギーと同一の又は異なるエネルギー形態となってエネルギーの放出がなされる少なくとも1つのエネルギー変換デバイス12bを備えている。
【0011】
電荷を発生する少なくとも1つのエネルギー変換デバイス12aと、エネルギーの放出がなされる少なくとも1つのエネルギー変換デバイス12bの相互間は導線13を介して電気的に接続されている。また、各エネルギー変換デバイス12a、12bは、エネルギー変換層14a、14bと前記エネルギー変換層14a、14b表面に設けた電極層15a、15bとを備えており、前記エネルギー変換層14a、14bは、図3及び図4に示すように、極性高分子16a、16bと前記極性高分子16a、16bのマトリックス中に含まれる極性低分子17a、17bとから構成されている。このように、電荷を発生するエネルギー変換デバイス12aとエネルギーの放出がなされるエネルギー変換デバイス12bとは同一の構成を有しており、エネルギー量が変化する側が電荷を発生するエネルギー変換デバイス12aとなり、これに導線13を介して繋がり、電荷を受ける側がエネルギーの放出がなされるエネルギー変換デバイス12bとなるのである。このため、用途や使用形態によっては、電荷を発生するエネルギー変換デバイス12aとエネルギーの放出がなされるエネルギー変換デバイス12bとが交互に変更する場合もあり得る。
【0012】
以下、その作用効果を詳しく説明する。電荷を発生するエネルギー変換デバイス12aに伝わるエネルギー量が変化したとき、これに伴ってエネルギー変換デバイス12aにおいて電荷が発生する。その電荷は導線13を介してエネルギー変換デバイス12bに移動する。エネルギー変換デバイス12bにおいては、前記電荷によってエネルギー変換が行われ、エネルギー変換デバイス12aに伝わるエネルギーと同一の又は異なるエネルギー形態となってエネルギーの放出がなされる。
【0013】
電荷を発生するエネルギー変換デバイス12aにおけるエネルギー変換層14aにおいては、例えば図3及び図4に示す例を用いて説明すると、極性高分子16aのマトリックス中に極性低分子17aが含まれることで、エネルギー量の変化に伴って電荷が発生するようになっている。そのメカニズムは以下のとおりと考えられる。すなわち、エネルギー変換デバイス12aに伝わるエネルギー量に変化が無い場合、図3に示すように、エネル
ギー変換層12aを構成する極性高分子16aにおける極性基(例えばフッ素や塩素など)の電荷に対応して、極性高分子16aのマトリックス中に含まれる極性低分子17aの極性基が配向して分散し、電気的に安定した状態となっている。
【0014】
ところが、エネルギー変換デバイス12aに外部から伝わるエネルギー量が変化したとき、該デバイス12aにおけるエネルギー変換層14aの、例えば一方面と他方面とにおいて伝わるエネルギー量の差、例えば温度差、振動量の差、電磁波や光の入射量の差などがあると、外部から伝わるエネルギーの変化量が低い側面では、図3に示すように極性低分子17aの回転や位相のズレが少なく、電気的に安定な状態が保たれるが、伝わるエネルギーの変化量が高い側面における極性低分子17aは、図4に示すように、極性高分子2aのマトリックス内部で振動したり、回転したり、位相がズレたりし、極性高分子16aの極性基との間で電気的な変動が生じ、これに伴って電荷が生じることになる。このエネルギー変換層14aにおけるエネルギー量の変化に伴って発生した電荷は、図1〜図4に示すように、エネルギー変換層14aの表面に設けた電極15aから電気エネルギーとして取り出すことができるようになっているのである。
【0015】
一方、図1及び図2に示すように、エネルギー変換デバイス12aのエネルギー変換層14aの両表面に設けた電極15aにはそれぞれ導線13の一端が繋がれており、これら導線13の他端は、エネルギー変換デバイス12bのエネルギー変換層14bの両表面に設けた電極15bに接続されている。このため、エネルギー変換デバイス12aにおいて生じた電荷は、導線13を介してエネルギー変換デバイス12bへと移動する。
【0016】
エネルギー変換デバイス12aにおいて生じた電荷が導線13を介してエネルギー変換デバイス12bに移動したとき、その電荷は、エネルギー変換層14bの両表面に設けた電極15bからエネルギー変換層14bに移動する。この結果、電荷が負荷されたエネルギー変換層14b内部では、例えば図4に示すように、極性高分子16bのマトリックス内部で極性低分子17bが振動したり、回転したり、その位相がズレたりし、極性高分子16bの極性基との間で電気的な変動が生じることになる。
【0017】
エネルギー変換デバイス12bのエネルギー変換層14bにおける極性低分子17bと極性高分子16bの極性基との間での電気的な変動は、熱、振動、音、電磁波、光といったエネルギー形態に変換され、放出がなされるようになっている。
【0018】
このように、本発明のエネルギー移動体11は、図1〜図4に示すように、熱、振動、音、光、電磁波といったエネルギーが一のエネルギー変換デバイス12aに伝わったとき、それが電気エネルギーにエネルギー変換され、その電荷が導線13を通じて他のエネルギー変換デバイス12bに伝わり、電荷が負荷された他のエネルギー変換デバイス12bにおいて再び熱、振動、光、電磁波などのエネルギー形態に変換されて放出されることから、例えば不要なエネルギーを新たなエネルギーとして活用するなど、効率的なエネルギー移動を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】フィルム状をなすエネルギー変換層の表裏に電極層が設けられた2枚のエネルギー変換デバイスを導線で接続したエネルギー移動体を示す分解斜視図。
【図2】フィルム状をなすエネルギー変換層の表裏に電極層が設けられた複数枚のエネルギー変換デバイスを導線で接続したエネルギー移動体を示す分解斜視図。
【図3】本発明のエネルギー移動体におけるエネルギー変換デバイスを構成する極性高分子のマトリックス中に極性低分子が配列している状態を示す模式図。
【図4】エネルギー変換デバイスにエネルギーが伝わってエネルギー量の変化が生じたときの極性高分子のマトリックス中における極性低分子の状態を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明のエネルギー移動体をさらに詳しく説明する。本発明のエネルギー移動体は、図1又は図2に示すように、エネルギー変換デバイス12a、12bと、前記エネルギー変換デバイス12a、12bの相互間を電気的に接続する導線13を備えている。また、各エネルギー変換デバイス12a、12bは、エネルギー変換層14a、14bと前記エネルギー変換層14a、14b表面に設けた電極層15a、15bとを備えている。さらに、エネルギー変換層14a、14bは、極性高分子16a、16bと、極性高分子16a、16bのマトリックス中に含まれる極性低分子17a、17bとから構成されている。
【0021】
エネルギー変換層を構成する極性高分子としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素系高分子、ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン66、アラミド樹脂などのポリアミド系高分子、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、塩素化ポリエチレンなどの塩素系高分子、エチレン酢酸ビニル共重合体などの酢酸ビニル系ポリマー、ポリアクリロニトリル、アクリロニトリルとアクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、アクリルアミド、メタクリルアミド、或いは酢酸ビニルなどのモノマーと共重合させたアクリロニトリル系共重合体などのアクリロニトリル系高分子、アクリル酸、メタクリル酸、アクリロニトリル、アクリルニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)などのアクリル系高分子の中から選ばれるいずれか1種若しくは2種以上を挙げることができる。
【0022】
尚、極性高分子の選定にあたっては、極性高分子の価格、取り扱い性、極性低分子との相溶性の他、該発電デバイスの用途や使用状態(用途や使用状態における熱伝導性、耐候性、耐熱性など)を考慮して適宜決定するとよい。
【0023】
上記極性高分子のマトリックス中には極性低分子が含まれる。極性低分子としては、分子量が1000以下である含硫化合物、含窒素化合物、フェノール系化合物、或いはアクリル系化合物の中から選ばれるいずれか1種若しくは2種以上を用いることができる。
【0024】
含硫化合物としては、例えばN−シクロへキシル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N−オキシジエチレン−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N−t−ブチル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミドを挙げることができ、含窒素化合物として、例えば4,4’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、オクチル化ジフェニルアミン、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミン、2−[2'−ヒドロキシ−5'−メチルフェニル]−ベンゾトリアゾール、2−[2'−ヒドロキシ−3'−t−ブチル−5'−メチルフェニル]−5−クロロベンゾトリアゾール、p−(p−トルエンスルホニルアミド)ジフェニルアミンなどを挙げることができる。
【0025】
フェノール系化合物としては、2,2'−メチレンビス(4−エチル−6−ターシャリ−ブチルフェノール)、2,2'−メチレンビス(4−メチル−6−ターシャリ−ブチルフェノール)、4,4'−チオビス(2−メチル−6−ターシャリ−ブチルフェノール)、4,4'−メチレンビス(2,6−ジターシャリ−ブチルフェノール)、4,4'−エチレンビス(2,6−ジターシャリ−ブチルフェノール)、4,4'−プロピリデンビス(2−メチル−6−ターシャリ−ブチルフェノール)、4,4'−ブチリデンビス(3−メチル−6−ターシャリ−ブチルフェノール)、4,4'−イソプロピリデンビス(2,6−ジターシャリ−ブチルフェノール)などを挙げることができる。
【0026】
アクリル系化合物としては、、ベンジル(メタ)アクリレート、4−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリオキシエチル(メタ)アクリレートなどを挙げることができる。
【0027】
本発明のエネルギー変換デバイスにおけるエネルギー変換層は、「発明の効果」の箇所で詳述したように、極性高分子のマトリックス中に極性低分子が含まれることで、伝わるエネルギー量の変化に伴って電荷を発生し、或いは電荷の負荷により同一の又は異なるエネルギー形態に変換してエネルギーを放出する機能を奏するのであるが、発生する電荷や放出されるエネルギー量は、エネルギー変換デバイスに伝わるエネルギー量の変化が大きければ大きいほど大きくなる。また、当然のことながら、エネルギー変換デバイス(エネルギー変換層)の面積が大きければ大きいほど、発生する電荷や放出されるエネルギー量も大きくなる。また、エネルギー量の変化により発生する電荷(起電力)は直流電圧であり、エネルギー量の変化がマイナスからプラスへ変化した場合の電荷(起電力)を+としたとき、エネルギー量の変化がプラスからマイナスに変化したときの電荷(起電力)は−となる。
【0028】
極性高分子における極性低分子の含有量としては、極性高分子100重量部に対して極性低分子が10〜200重量部の割合で望ましい。極性低分子の含有量が10重量部を下回る場合、上述の十分なエネルギー変換性能を得ることができず、極性低分子の含有量が200重量部を上回る場合には、含有量を多くした分だけの効果が期待できず、不経済となる。
【0029】
エネルギー変換デバイスを構成するエネルギー変換層は、上記極性高分子に極性低分子を配合し、混練することで得ることができるが、その使用形態としては、フィルム状、板状、棒状、粒状、あるいは繊維状などに成形するのが望ましく、高表面積を確保して高性能化するため、又は取り扱い性を良好ならしめるため、フィルム状とするのがより望ましい。
【0030】
上記エネルギー変換層表面には電極層が設けられ、該電極層を通してエネルギー変換層内で発生した電荷が取り出され、電極層を通して電荷がエネルギー変換層内に付与されるようになっている。電極層としては、銀、アルミ、銅、白金、金から選ばれる金属膜、或いはカーボン、導電性プラスチックから選ばれる導電性シートを用いることができる。電極層として金属膜を適用する場合には、エネルギー変換層表面に銀、アルミ、銅、白金、金などの金属を蒸着するなど成膜法を用いることができる。カーボンや導電性プラスチックなどの導電性シートを用いる場合には、エネルギー変換層表面に導電性接着剤を介して接着する方法を用いると良い。
【0031】
上記構成を備えた本発明のエネルギー移動体の用途としては、例えば図1及び図2に示すように、フィルム状をなす2枚のエネルギー変換デバイスを用い、このうちの一枚を電荷を発生するエネルギー変換デバイスとしてパソコンのCPUに貼り付け、もう一方の一枚をエネルギーの放出がなされるエネルギー変換デバイスとして本体パネルに貼り付け、これらをリード線で接続するのである。
【0032】
CPUの熱は、一方のエネルギー変換デバイスで電気エネルギーに変換され、リード線を通じて本体パネルに貼り付けたもう一方のエネルギー変換デバイスにその電荷が移動する。電荷を受けたもう一方のエネルギー変換デバイスではマイナス熱のエネルギーに変換され、本体パネルの冷却が行われることになる。この場合、冷却ファンやヒートシンクが不必要となり、かつ小型化が可能となる。
【0033】
本発明のエネルギー移動体の別の用途としては、焼却場の炉の周りのコンクリートの外
壁に板状又はフィルム状に設けたエネルギー変換デバイスを電荷を発生するエネルギー変換デバイスとして配置し、このエネルギー変換デバイスにより焼却炉から発生する熱を電気エネルギーに変換させる。焼却場の炉の周りに設けたエネルギー変換デバイスには電線を接続する。電線が繋がる温水プールや公衆浴場の熱源部にはエネルギーの放出がなされるエネルギー変換デバイスを配置する。焼却場側のエネルギー変換デバイスで発生した電荷は電線を通じて離れた温水プールや公衆浴場の熱源部に配置したエネルギー変換デバイスに送られ、電線を通じて電荷が負荷された熱源部に配置したエネルギー変換デバイスでは熱エネルギーへのエネルギー変換が行われ、温水プールや公衆浴場の水の加熱が行われることになる。
【0034】
また、焼却炉からの熱エネルギーから変換された電気エネルギーは、電線を通じ道路や屋根に配置したエネルギー変換デバイスに送ることもでき、この場合、電線を通じて電荷が負荷された道路や屋根に配置したエネルギー変換デバイスが発熱し、焼却炉からの熱が、道路や屋根の融雪に利用できるようになる。
【0035】
本発明のエネルギー移動体のさらに別の用途としては、フィルム状に設けた2枚のエネルギー変換デバイスを用い、そのうちの一枚のエネルギー変換デバイスを電荷を発生するエネルギー変換デバイスとしてエンジンルームを覆うカバーとして配置する。もう一枚は、エネルギーの放出がなされるエネルギー変換デバイスとしてフェンダーライナーに貼り付け、前記2枚のエネルギー変換デバイスをリード線で接続する。そして、車のエンジン起動により生じる排熱でエンジンをカバーするエネルギー変換デバイスにおいて電荷が発生し、ここで生じた電荷はリード線を介してフェンダーライナーに貼り付けたエネルギー変換デバイスへと送られる。電荷が負荷されたフェンダーライナー側のエネルギー変換デバイスでは、エネルギー変換が行われて発熱し、フェンダーライナーに雪が付着してもすぐに溶かすことが可能となる。尚、その他、熱エネルギーを受けて電荷を発生する例には、バッテリー熱、ブレーキ摩擦熱、冷蔵庫等の家電の放熱、壁面(日射熱と外壁温度差)、或いは太陽熱温水器(温水面と裏面との温度差)が考えられる。
【0036】
本発明のエネルギー移動体のさらに別の用途としては、フィルム状に設けた2枚のエネルギー変換デバイスを用い、そのうちの一枚のエネルギー変換デバイスを電荷を発生するエネルギー変換デバイスとして高速道路や鉄道の防音壁や防音パネルの内側に張り付ける。自動車や列車の運行で発生した音や振動のエネルギーを受けたエネルギー変換デバイスのエネルギー変換層内部では、そのエネルギー量の変化に伴って極性低分子が振動し、或いは位相のズレ、回転などが起こり、電荷が発生する。
【0037】
防音壁や防音パネルの内側に張り付けたエネルギー変換デバイスで生じた電荷は、電線を通して高速道路や鉄道の防音壁や防音パネルの外側に張り付けたエネルギー変換デバイスに移動させることができる。電荷が負荷された防音壁や防音パネルの外側に張り付けたエネルギー変換デバイス内部では、再度分子の振動、或いは位相のズレ、回転などが起こり、その変動は音や振動といったエネルギー形態で取り出すことができる。この手法により、例えば高速道路や鉄道の不快な重低音を電気エネルギーに変換し、転送することができ、転送先のデバイスは厚みや面積を変えることで人間に心地よい周波数で共振させることもできる。転送先のデバイスは硬い弾性体パネルに貼り付けることでパネル自体を共振させることができるので、例えば壁一面に貼り付けることで壁全体がスピーカーとなる。尚、その他、音や振動エネルギーを受けて電荷を発生する例には、自動車、バイク、自転車、産業機械等の振動(走行振動、エンジン振動)、工場内に設置されている生産機械や加工機械で生じる振動の発生部位をフィルム状に設けたエネルギー変換デバイスでカバーしておき、そのカバーに伝わる走行振動やエンジン振動でエネルギー変換デバイスがエネルギー変換し、電荷を発生する例も考えられる。
【0038】
本発明のエネルギー移動体のさらに別の用途としては、フィルム状に設けた2枚のエネルギー変換デバイスを用い、そのうちの一枚のエネルギー変換デバイスを電荷を発生するエネルギー変換デバイスとしてビルや住宅のガラス面の外側面に張り付ける。エネルギー変換デバイスのエネルギー変換層内には電磁波で共振する分子を添加しておく、そして、ビルや住宅のガラス面に電磁波や紫外線といった人体に有害な電磁波エネルギーが照射されたとき、エネルギー変換デバイスのエネルギー変換層内部では、そのエネルギー量の変化に伴って電磁波で共振する分子が振動し、電荷が発生する。
【0039】
一方、ビルや住宅のガラス面の外側面に張り付けたエネルギー変換デバイスで生じた電荷は、リード線を通して暖房機や調理器の熱源部に張り付けたエネルギー変換デバイスに移動させることができる。熱源部に張り付けたエネルギー変換デバイスのエネルギー変換層内には遠赤外線波長で共振する分子を添加しておく。そして、ビルや住宅のガラス面の外側面に張り付けたエネルギー変換デバイスからの電荷が負荷された熱源部のエネルギー変換デバイスのエネルギー変換層内では電荷の負荷により遠赤外線波長で共振する分子が振動し、遠赤外線を放出し、部屋を暖めたり、調理ができるようになる。尚、その他、電磁波エネルギーを受けて電荷を発生する例には、電磁波を発生する高容量バッテリー、機械設備、家電(パソコン、電磁調理器等)或いは医療機器等の筺体をエネルギー変換デバイスで構成しておき、筺体内で発生した電磁波をエネルギー変換して電荷を発生させるなどの例もある。
【0040】
本発明のエネルギー移動体のさらに別の用途としては、飛行場や駅構内の通路、道路など衝撃が加わる所にエネルギー変換デバイスを配置しておけば、エネルギー変換デバイス上を人が行き来することで、該エネルギー変換デバイスに圧力や衝撃が加わり、そのエネルギー量の変動によってエネルギー変換デバイス内で電荷が発生するようになる。また、飛行場や駅構内の通路や道路に熱で振動する分子を配合したエネルギー変換デバイスを配置しておけば、電荷が発生したエネルギー変換デバイスに繋がる電線を通じて熱で振動する分子を配合したエネルギー変換デバイスに電荷が送られ、エネルギー変換デバイス内で熱が発生し、建物や構内、或いは道路を加熱し、雨や雪で濡れた通路や道路を早期に乾かすことができる。
【0041】
尚、本発明のエネルギー移動体は、上述の例に限定されず、例えばエネルギー変換デバイスを構成するエネルギー変換層中に染料、消泡剤、防腐剤等を含有させるなど、特許請求の範囲に記載された範囲で自由に変更して実施することができる。
【符号の説明】
【0042】
12a、12b・・・エネルギー変換デバイス
13 ・・・導線
14a、14b・・・エネルギー変換層
15a、15b・・・電極
16a、16b・・・極性高分子
17a、17b・・・極性低分子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
伝わるエネルギー量の変化に伴って電荷を発生する少なくとも1つのエネルギー変換デバイスと、
電荷の負荷により前記電荷を発生するエネルギー変換デバイスに伝わるエネルギーと同一の又は異なるエネルギー形態となってエネルギーの放出がなされる少なくとも1つのエネルギー変換デバイスとを備えており、
前記電荷を発生するエネルギー変換デバイスと前記エネルギーの放出がなされるエネルギー変換デバイスの相互間は導線を介して電気的に接続されており、
前記電荷を発生するエネルギー変換デバイスと前記エネルギーの放出がなされるエネルギー変換デバイスのそれぞれが、
エネルギー変換層と、
前記エネルギー変換層表面に設けた電極層と、
を備えており、前記エネルギー変換層が、
極性高分子と、
前記極性高分子のマトリックス中に含まれる極性低分子と、
からなることを特徴とするエネルギー移動体。
【請求項2】
極性高分子が、フッ素系高分子、ポリアミド系高分子、塩素系高分子、酢酸ビニル系高分子、アクリロニトリル系高分子、及びアクリル系高分子の中から選ばれるいずれか1種若しくは2種以上であることを特徴とする請求項1に記載のエネルギー移動体。
【請求項3】
極性低分子が、分子量が1000以下である含硫化合物、含窒素化合物、フェノール系化合物、及びアクリル系化合物の中から選ばれるいずれか1種若しくは2種以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のエネルギー移動体。
【請求項4】
含硫化合物が、N−シクロへキシル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N−オキシジエチレン−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド、及びN−t−ブチル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミドから選ばれるいずれかであることを特徴とする請求項3に記載のエネルギー移動体。
【請求項5】
含窒素化合物が、4,4’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、オクチル化ジフェニルアミン、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミン、2−[2'−ヒドロキシ−5'−メチルフェニル]−ベンゾトリアゾール、2−[2'−ヒドロキシ−3'−t−ブチル−5'−メチルフェニル]−5−クロロベンゾトリアゾール、及びp−(p−トルエンスルホニルアミド)ジフェニルアミンから選ばれるいずれかであることを特徴とする請求項3に記載のエネルギー移動体。
【請求項6】
フェノール系化合物が、2,2'−メチレンビス(4−エチル−6−ターシャリ−ブチルフェノール)、2,2'−メチレンビス(4−メチル−6−ターシャリ−ブチルフェノール)、4,4'−チオビス(2−メチル−6−ターシャリ−ブチルフェノール)、4,4'−メチレンビス(2,6−ジターシャリ−ブチルフェノール)、4,4'−エチレンビス(2,6−ジターシャリ−ブチルフェノール)、4,4'−プロピリデンビス(2−メチル−6−ターシャリ−ブチルフェノール)、4,4'−ブチリデンビス(3−メチル−6−ターシャリ−ブチルフェノール)、及び4,4'−イソプロピリデンビス(2,6−ジターシャリ−ブチルフェノール)から選ばれるいずれかであることを特徴とする請求項3に記載のエネルギー移動体。
【請求項7】
アクリル系化合物が、ベンジル(メタ)アクリレート、4−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、及びトリメチロールプロパントリオキシエチル(メタ)アクリレートから選ばれるいずれかであることを特徴とする請求項3に記載のエネルギー移動体。
【請求項8】
極性高分子100重量部に対して極性低分子が10〜200重量部の割合で含有することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のエネルギー移動体。
【請求項9】
エネルギー変換層がフィルム状をなすことを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のエネルギー移動体。
【請求項10】
電極層が、銀、アルミ、銅、白金、金から選ばれる金属膜、或いはカーボン、導電性プラスチックから選ばれる導電性シートからなることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載のエネルギー移動体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−204220(P2012−204220A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−69058(P2011−69058)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(506229970)AS R&D合同会社 (16)
【出願人】(391033388)三井屋工業株式会社 (7)
【Fターム(参考)】