説明

エバネセント導波管及び集積センサを用いるバイオセンサ

本発明は、導波管センサに関し、筐体及び一体化された導波管センサを有し、診断用途に用いられるエバネセント場誘発型のセンサシステムにも関する。このセンサは、導波管層と、目標物質に対する特定の結合のため上記導波管層の上部面に適用されるキャプチャ複合物と、上記導波管層の下部面に配置される接触クラッド層と、励起放射線の放射線を吸収及び/又は反射し、発光放射線を透過させるフィルタであって、上記クラッド層の下部面の下に配置される、フィルタと、発光放射線を検出する少なくとも1つの検出器であって、上記フィルタの下部面の下に配置される、検出器と、上記検出器に接続され、上記検出器の電気インタフェースを有する基板とを有する。上記導波管層の上部面の間で、少なくとも上記筐体の下部面セクションに沿って、流体プローブを受けるチャネルが形成され、上記発光放射線は、上記エバネセント場による励起の結果として目標物質にバインドされる発光タグにより生成される。これは、エバネセント場誘発型のセンサシステムの改良された感度を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エバネセント場ベースのセンサシステムに関する。より詳細には、本発明は、生体分子を検出する化学物質又はバイオセンサとして使用するためのエバネセント導波管及び一体化された検出器を備えるセンサシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
励起が導波層の直接的な環境に限定されるので、エバネセント発光励起は解析分野において非常に注目されている。特に、エバネセント場励起蛍光は、その一意な感度のため、バイオセンサに関する非常に重要な技術である。
【0003】
エバネセント波を用いて励起されるバインドされた蛍光分子を検出する有意な利点は、放出された蛍光が水性反応溶液の外側で検出されることができるということである。ほとんどの複雑な生物溶液は、蛍光発光と干渉する分子を含む。これは、蛍光分子が励起されるとき、この分子が光子を放出すること、及び、特異的結合反応の信号として検出されるのではなく、しばしば発光点と検出器との間に位置する水性懸濁液における生物学的破片又は物質を取り囲むことにより、光子がキャプチャ又は吸収されることを意味する。同様に、光は、水性懸濁液における分子を励起させ、表面での特異的結合に関連しない放射線を放出することもできる。この貢献は、しばしばバックグラウンド放射線又はノイズ放射線と呼ばれ、検出の前に複雑な生体マトリクスを通過する光子を放出する従来のアッセイ構成に関連付けられる。
【0004】
導波管バイオセンサは最も単純な場合において一般に、第1のソリッド基板、無機の波伝導層及びアッセイのためのサンプルを有する第2のソリッド基板という3層システムで構成される。この場合、無機の波伝導層は、第1及び第2のソリッド基板の間に挟まれる。導波管バイオセンサの例は、米国特許出願公開第2002/0110839A1号に開示され、参照により組み込まれる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
米国特許出願公開第2002/0110839A1号に開示されるエバネセント場導波管バイオセンサは、光をガイドし及び通すことができる導波管を有し、かつナノウェルの形式で少なくとも1つの空乏領域を持つクラッド層を上記導波管の表面に持つ反応行列のシステムを用いる。上記空乏領域に配置される物質は、上記導波管に向けられる光のエバネセント波により照射されることができる。斯かるナノウェル・マイクロアレイ・クラッド層の製造は、より複雑でより正確な処理を必要とする。更に、非常に小さなナノウェルは、すべてのウェルにおけるバインドされた分子のより正確で更により複雑な位置決めを必要とする。このことは、更なる欠点をもたらす。更に、上記従来技術のエバネセント場導波管バイオセンサは、導波管層とセンサとの間に挟まれる一体化されたフィルタを持たない。
【0006】
従って、本発明の1つの目的は、目標物質により生成される発光放射線の改善された検出精度を持ち、容易に生成されることができ、及び製造時に低い垂直範囲を持つ、生体分子を検出する化学物質又はバイオセンサとしての使用に適したエバネセント場ベースの光導波管センサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的は、エバネセント場ベースの導波管センサを提供することにより実現される。この導波管センサは、
導波管層と、
目標物質に対する特定の結合のため上記導波管層の上部面に適用されるキャプチャ複合物と、
上記導波管層の下部面に配置される接触クラッド層と、
励起放射線の放射線を吸収及び/又は反射し、発光放射線を透過させるフィルタであって、上記クラッド層の下部面の下に配置される、フィルタと、
発光放射線を検出する少なくとも1つの検出器であって、上記フィルタの下部面の下に配置される、検出器と、
上記検出器に接続され、上記検出器の電気インタフェースを有する基板とを有する。
【0008】
導波管センサが、例えばレーザ、LED、OLED及び/又はPLEDといったそこに一体化される励起光源を有することが好ましいとすることができる。更に、導波管センサは、例えばビームシェーパレンズ及び/又はプリズムといったそこに一体化される光学レンズを有することができる。
【0009】
本発明によれば、最も好ましくは、少なくとも1つのフィルタ及び少なくとも1つの検出器がエバネセント場誘発型のセンサ/センサシステムに一体化されるエバネセント場ベースの導波管センサである。その結果、クラッド層、フィルタ及び検出器の光学的な接触間に空気層が存在しない。導波管、クラッド層及び検出器の間のエアーインタフェースにおいて、発光放射線の検出の感度に対して負の効果を与える放出放射線の反射が回避されるので、これは、エバネセント場誘発型の導波管センサ及び導波管センサシステムの改良された感度を提供する。
【0010】
本発明の更なる目的は、筐体と、一体化された導波管センサとを有するエバネセント場誘発型のセンサシステムに関し、このシステムは、
導波管層と、
目標物質に対する特定の結合のため上記導波管層の上部面に適用されるキャプチャ複合物と、
上記導波管層の下部面に配置される接触クラッド層と、
励起放射線の放射線を吸収及び/又は反射し、発光放射線を透過させるフィルタであって、上記クラッド層の下部面の下に配置される、フィルタと、
発光放射線を検出する少なくとも1つの検出器であって、上記フィルタの下部面の下に配置される、検出器と、
上記検出器に接続され、上記検出器の電気インタフェースを有する基板とを有し、
上記導波管層の上記上部面の間で、少なくとも上記筐体の下部面セクションに沿って、流体プローブを受けるチャネルが形成され、上記発光放射線は、上記エバネセント場による励起の結果として目標物質の発光により生成される。
【0011】
発光放射線は、好ましくは蛍光である。
【0012】
スーパーストレートは、導波管層の少なくとも上部面を取り囲み、及び/又は接触する。スーパーストレートは、一般に、屈折率nが1.33である水である。
【0013】
上記導波管センサ及び/又は上記エバネセント場誘発型のセンサシステムが導波管層を有することが好ましい場合がある。上記導波管層は、好ましくは透過的ポリマ導波管層とすることができる。より好ましくは、上記導波管層は、0.10μm以上かつ0.50μm以下の厚み及び1.39〜1.79の屈折率nを持つことができる。
【0014】
特に記載がなければ、屈折率は、温度23℃及び632.8nmの波長で測定される。
【0015】
上記導波管層の下部面が、1.29〜1.69の屈折率nを持つクラッド層と光学的接触状態にあるか又は接触することが更に好ましい場合がある。この場合、上記導波管層及び上記クラッド層の屈折率の差Δnが少なくとも0.1であるよう、上記導波管層及び上記クラッド層の物質が選択される。クラッド層は、好ましくは透過的ポリマ物質とすることができる。
【0016】
本発明の好ましい実施形態は、低い屈折率を持つクラッド層と、例えば、上記クラッド層の上部面のトップでスピンコートされる透過的ポリマ導波管層といった高い屈折率導波管層の薄い層とを有する、導波管センサ及び/又はエバネセント場誘発型のセンサシステムであり、上記導波管層の外側上部面が、少なくとも1つの特定の化学物質及び/又は生化学物質を検出するために、特定の結合複合物を所有する。更に、少なくとも1つのフィルタ及び少なくとも1つの検出器が、クラッド層と基板との間に挟まれて配置される。励起放射線をブロックし、発光放射線を透過させるため、上記フィルタは検出器の上において光学的接触状態で配置され、これにより検出器の検出精度が改善される。
【0017】
本発明の好ましい実施形態によれば、センサは、有機物質(OLED/PLEDタイプ)とすることができる。
【0018】
検出器は、適切な結合物質を用いて基板に取り付けられることができる。例えば、検出器は、上記結合物質に埋め込まれることができる。しかしながら、検出器の上部外側面には上記結合物質がないことが好ましい。検出器の上部外側面がフィルタの下部面と接触することが好ましい。適切な結合物質は、自己蛍光をしない又は実質的にしない物質である。斯かる物質は、専門家に一般に知られている。
【0019】
検出器が大きな表面を持つことが好ましい場合がある。検出器の大きな表面は発光放出の全体の収集を増加させる。その一方で、それとは対照的に、一般に増加された表面領域はセンサのノイズに寄与する。検出器の表面は、0.001〜1000mmの範囲とすることができ、好ましくは0.01〜100mmの範囲とすることができ、より好ましくは0.1〜10のmmの範囲とすることができる。同じ基板上に別々の検出器のアレイを持つことも好ましい。すべての検出器が物質における目標物の多重化検出に関するスポットの特定の生物学的スポット又はセットから生じる放射線を収集するという態様で、斯かるアレイは整列配置されることができる。
【0020】
検出器の検出精度を更に改善するため、導波管層、クラッド層、フィルタ、検出器及び基板の構成が、間に空気層を持たない一体化された導波管センサの形であることが好ましいとすることができる。これは、エバネセント場誘発型のセンサシステムの改良された感度及び精度を提供する。なぜなら、光及び干渉効果の任意の内部反射が回避されるからである。
【0021】
蛍光分子により生じる放出放射線は一般には、全方向に均一というわけではない。更に、放出放射線光のメイン部分は、大きな角度で導波管及びクラッド層基板に入り、従来技術のエバネセント場ベースの導波管センサからの出力光が、全体の内部反射が原因で、側面で回折される。従って、減らされた量の放出光だけが検出器に到達することができる。
【0022】
本発明によるエバネセント場ベースの導波管センサの構成は、内部反射を回避又は最小化するため導波管層、クラッド層、フィルタ及び検出器の間に空気層が存在しないものであり、その結果、検出器が、増加された量又は少なくとも大部分の発光放出を受信することができる。
【0023】
励起ビーム方向に対して直交する方向における発光の検出を伴う発光のエバネセント励起は、理想的なケースにおいて検出器上に励起放射線が入射することを回避する。しかしながら、サンプル及び/又は導波管及びクラッド層の励起ボリュームにおける粒子による励起放射線の散乱が原因で、励起放射線は、まだ検出器にぶつかることができ、目標物の検出感度を減らすバックグラウンド信号を作成することができる。好ましい実施形態によれば、導波管を検出器と一体化することにより、他の外部放射線の貢献が最小化される。従って、本発明の目的は、導波管層と検出器との間の、好ましくはクラッド層と検出器表面との間の光路にフィルタを含めることである。吸収、反射及び干渉といった異なる物理作動原理に基づかれるフィルタが使用されることができる。好ましい構成において、フィルタ選択度は、用途の要件に合わせて調整されることができる。特定の場合において、製造における低い垂直範囲を持つが二色性の干渉フィルタと比較して比較的劣ったフィルタ特性を持つ、透過的マトリクスにおける染料のソリッド溶液に基づき、吸収フィルタの使用を可能にするより低い選択度が許容されることができる。本発明による有益な光学ポリマフィルタは、例えばスーダン染料を用いてドーピングされるポリジメチルシロキサン(PDMS)層といった染料ドープポリマ層である。
【0024】
しかしながら、フィルタが、発蛍光団の放出放射線に対しては非常に半透明であり、励起放射線に対しては半透明でない又は貧弱な半透明性を持つことが好ましい。励起放射線に対する放出放射線の透過率における選択度は、少なくとも係数10であるべきである。しかしながら、励起放射線に対する放出放射線の透過率における選択度に関する係数は、100〜1000000の間であることが好ましい。従って、励起放射線にわたる放出放射線の透過率の比は、10:1以上1,000,000:1以下の範囲であり、好ましくは100:1以上1,000,000:1以下の範囲であり、更に好ましくは1000:1以上1,000,000:1以下の範囲であり、より好ましくは10000:1以上1,000,000:1以下の範囲であり、最も好ましくは100000:1以上1,000,000:1以下の範囲である。
【0025】
一般に、励起放射線の最大及び発光放射線の最大の差はおよそ20nm〜30nmである。ここで、放出波長は励起のため赤側にシフトされる。従って、透過スペクトルのエッジが励起及び放出放射線の間の波長領域において吸収から透過へと急激な移行を示すよう、フィルタが選択されることが好ましい。適切なフィルタは、660nmの放射線で励起され、700nmで最大の放出を持つ染料に関して、670nmまでに対する高い吸収率及び690nm以上に対する高い透過率を示すことができるものである。
【0026】
導波管層、クラッド層及び基板を有するエバネセント場誘発型のセンサシステムの要素は、全てのポリマ物質とすることができ、好ましくは、全ての透過的有機ポリマとすることができる。更に、検出器及び/又はフィルタは、有機物質、好ましくは有機ポリマとすることができる。更に、導波管センサ及び/又はエバネセント場誘発型のセンサシステムは、有機物質、好ましくは有機ポリマから作られることができる。熱機械的な特性に一層好適にマッチするので、これは、導波管センサ及び/又はエバネセント場誘発型のセンサシステムをより安定したものにする。更に、全ての有機ポリマ導波管センサ及び/又はエバネセント場誘発型のセンサシステムは、無機層構造を持つ導波管センサ及びエバネセント場誘発型のセンサシステムと比較して増加された柔軟性を持つ。
【0027】
本発明の意味において、用語「ポリマ」は、熱可塑性、熱硬化性及び/又は、構造的に架橋されたプラスチックを含む。
【0028】
充分な強度のエバネセント場を実現するために、導波管層の厚さの調整と、上記導波管層及び上記クラッド層の屈折率の差Δnの調整とは重要である。
【0029】
Xが1〜9の範囲であるよう、好ましくは1.2〜6の範囲であるよう、より好ましくは1.5〜4.5の範囲であるよう、最も好ましくは2〜3.5の範囲であるよう、導波管層の厚みが選択されることができる。これにより、dが、

に基づき計算される。ここで、dは、導波管層の厚みをnmで表したものであり、nは導波管層の屈折率であり、λは波長をnmで表したものである。この場合、波長は、360nmから1000nmの範囲にあり、好ましくは400nmから800nmの範囲にあり、より好ましくは600nmから750nmの範囲にある。
【0030】
薄い導波管層の厚みは、633nmの波長に対して、0.12μm以上0.40μm以下であり、好ましくは0.14μm以上0.30μm以下であり、より好ましくは0.16μm以上0.28μm以下であり、最も好ましくは0.18μm以上0.24μm以下である。
【0031】
しかしながら、上記導波管層と上記クラッド層との屈折率の差Δnが小さくなればなるほど、導波管の厚みが大きくなることができるということも有益となり得る。
【0032】
導波管層の厚みが、0.13μm以上0.29μm以下とすることができることが好ましい場合がある。エバネセント場誘発型のセンサシステムの増加した強度のエバネセント場が、0.17μm以上0.22μm以下の厚さを持つ導波管層のために得られることができる。
【0033】
クラッド層の厚みは、2μm以上5mm以下とすることができる。しかしながら、クラッド層の厚みは、好ましくは20μm以上3mm以下であり、より好ましくは50μm以上1.5mm以下である。クラッド層の厚みは、100μm以上500μm以下とすることもできる。
【0034】
上記導波管層の下部面がクラッド層の上部面と完全に接触することが好ましい、とすることができる。
【0035】
他の重要な特徴は、本発明によるエバネセント場誘発型のセンサシステムを用いて化学物質又は生化学複合物の定性的な及び/又は定量的決定に関して充分高いエバネセント強度を得るため、上記導波管層及びクラッド層に対する屈折率差Δnが、0.1から0.5であり、好ましくは0.2から0.4であり、より好ましくは0.25から0.35である点にある。
【0036】
更に、導波管層の屈折率nが、導波管の下部面に接触するクラッド層の屈折率nより高いことが重要である。
【0037】
上記導波管層に光波を結合させることを強化するため、上記導波管層が結合格子リセス構造を持つことが好ましい場合がある。導波管層は、上記導波管の外側上部面上に少なくとも1つのリセス及び/又は少なくとも1つに盛り上がり部(heightening)を持つことができる。更に、導波管層は、クラッド層と接触する上記導波管のより低い上部面上に少なくとも1つのリセス及び/又は少なくとも1つの盛り上がり部を持つことができる。盛り上がり部は、上記ポリマ導波管と接触するクラッド層にポジティブフィットの態様で係合し、クラッド層は、上記導波管のより低い上部面にポジティブフィットの態様で係合する。リセスは上記導波管層に光波を結合させることを強化するために重要でありえる。この場合、上記リセスの深さは、上記導波管層の厚みより小さい。上記導波管層に光波を結合させることを強化するための複数のリセスの格子構造が、導波管層の上部及び/又は下部面上に形成されることが好ましい。
【0038】
本発明の好ましい実施例によれば、盛り上がり部の上部面は、導波管層の上部外側面を超えない。
【0039】
上記導波管層の上部外側面及び/又は下部内側面の少なくとも5%から95%、好ましくは5%から25%、より好ましくは5%から15%の上記導波管層の表面領域が、上記導波管層に光波を結合させることを強化することのための複数のリセスの格子構造を有することが好ましい。
【0040】
格子間隔は、250nmから950nmまであり、より好ましくは300nmから750nmであり、最も好ましくは350nmから450nmまでである。格子は、1つの周期性のみを呈する。即ち単回析格子である。しかしながら、格子が、例えば2つ又は3つの周期性といった1つ以上の周期性及び/又は周期性の漸進的な変動を呈することが好ましい可能性がある。
【0041】
本発明によれば、導波管層の上部面がクラッド層又は基板のいずれにも接触しないことが好ましい可能性がある。従って、ナノウェルマイクロアレイが導波管層の上部面上に配置されないこと、及び/又は導波管層と光学的に接触しないことが好ましい。
【0042】
規定された物質特性の上述した選択により、特定の化学物質及び/又は生化学物質を高い定性的及び/又は定量的精度で検出するための高い性能を持つ光学バイオセンサが提供されることが、本発明によるエバネセント場誘発型のセンサシステムの利点である。
【0043】
更なる利点は、本発明によるエバネセント場誘発型のセンサシステムが、製造における低い垂直範囲を持つことである。なぜなら、導波管が成形又はキャストされたポリマ基板に対するスピンコーティング又はプリンティングにより適用されることができるからである。しかしながら、スピンコート又はプリントされたポリマ導波管上にポリマ基板をキャスト又は成形することも可能である。
【0044】
本発明によるエバネセント場誘発型のセンサシステムは、導波管層の表面における化学分子及び/又は生体分子の存在に対する表面プラズモン共鳴ベースの検出のために使用されることもできる。この場合において、導波管層の上部外側面は、薄い金属層で、好ましくは金で覆われる。
【0045】
ポリマ物質を有する本発明によるエバネセント場誘発型のセンサシステムの利点は、例えばポリマ物質が化学及び熱機械的な特性と整合する点にある。従って、導波管のトップでのバイオセンシング用途に関して必要とされるさまざまな処置の間の失敗は、無機導波管層を持つエバネセント場誘発型のセンサシステムと比較して大幅に減らされる。無機導波管層の熱膨張と、例えばクラッド層といった接触基板層の熱膨張とにおける固有の差が原因で、無機導波管に問題が生じる。この膨張は、上記層におけるストレスをもたらし、上記インタフェースにおける高い機械的ストレスをもたらす。このストレスは、割れ及び離層をもたらす。
【0046】
本発明による導波管層、クラッド層及び基板は、好ましくは平面形式を持つことができる。
【0047】
本発明の範囲に含まれるエバネセント場誘発型のセンサシステムは、ストリップ、プレート、丸いディスク、又は他の任意の幾何的形式で形成されることができる。選択された幾何的形式は重要ではなく、目的のセンサ用途により支配されることができる。しかしながら、このシステムは、励起光源及び光電子検出システムから空間的に分離される独立した要素として使用されることもできる。
【0048】
少なくとも1つの特定の化学及び/又は生化学物質を検出するための特定のバインディング複合物が、導波管層の外側上部面に直接バインドされるか又は導波管層の外側上部面に例えば吸着を用いて接触されることができ、及び/又は導波管層の外側上部面に例えば直接の化学反応を用いて又は化学リンカー分子を介して固定されることができる。これは、印刷技術により、パターン化された態様で、及び多数の異なる種類の特定のプローブに対して行われることができる。
【0049】
製造における垂直範囲が最小になるよう、本発明によるエバネセント場誘発型のセンサシステムが、ナノウェルの形式における少なくとも1つの空乏領域を持つクラッド層をトップに備える導波管層を有しないことが最も好ましい。この場合、バインドされた分子は検出物質として上記空乏領域内に配置される。従って、本発明によるエバネセント場誘発型のセンサシステムは、光をガイドし及び向けることができる導波管層であって、上記導波管層の上部面に少なくとも1つの空乏領域を持つクラッド層を備える導波管層を除外することができる。この場合、上記空乏領域内に配置される物質は、上記導波管層において向けられる光のエバネセント波により照射されることができる。
【0050】
更に、格子又はリセスが検出物質を持たないことが好ましい場合がある。しかしながら、検出物質は、格子構造上に適用されることができる。
【0051】
通常、導波管層においてガイドされる光波の減衰は、633nmで放出する光源を用いて測定され、0.5dB/cmより小さく、好ましくは0.01dB/cmより小さい。これにより、ガイドされるビームが長距離ビームとなり、ガイドされる波の周囲の媒体への散乱が抑えられる。特に、これらの条件の下でTE及び/又はTMモードをガイドすることが好ましい。
【0052】
1つのTMモード及び/又は1つのTEモードだけが導波管層において伝播することができるよう、本発明による導波管層の厚みは十分に小さい。
【0053】
クラッド層のためのポリマ物質は、例えばオレフィン、環式のオレフィン、アクリレート、メタクリレート、エーテル、エステル、ウレタン、エーテルエステル、エーテルウレタン、ウレタンアクリレート、エノール、及びこれらの物質の部分的又はペルフルオロ類似体、シリコン、シリコンアクリレート、シリコンメタクリレート等の透過的ポリマを有するグループから好ましくは選択される。
【0054】
クラッド層の透過的ポリマ物質として最も好ましくは、ハロゲン化ポリマ、特にフッ化又はペルフルオロポリマーである。従って、最も好ましいのは、ハロゲン化されたアクリレート、ハロゲン化されたメタクリレート、ペルフルオロ側鎖を持つアクリレート及び/又はペルフルオロ側鎖を持つメタクリレート、その共重合体であり、例えば低屈折率n=1.37〜1.41を持つ。
【0055】
クラッド層の透過的物質は、導波管層より低い屈折率を持ち、即ち屈折率nは多くても1.69である。
【0056】
最も好ましくは、基板のクラッド層物質が架橋される。
【0057】
適切な導波管層物質は通常、クラッド層より高い屈折率を持つ任意の種類の透過的ポリマ物質である。できるだけ高い光学屈折率を持つ透過的ポリマを使用することが好ましい。
【0058】
また、導波管層物質が、できるだけ簡単な態様で、例えばクラッド層の上部外側面のトップにおけるスピンコーティングにより光学的に処理されることができることが好ましい場合がある。
【0059】
最も好ましくは、クラッド層物質は、少なくとも蛍光放出波長で非常に透過的であるべきであり、好ましくは自己蛍光を示さない。
【0060】
本発明の意味において、「透過的導波管層物質」又は「導波管層物質」という用語は、クラッド層より高いすべての屈折率を持つ熱可塑性、熱硬化性及び/又は、構造的に架橋されたプラスチックを含む。即ち、屈折率nは少なくとも1.39である。
【0061】
導波管層のための物質は好ましくは、単素環及び/又は複素環芳香薬、ハロゲン化された及び/又は硫黄含有ポリマを有するグループから選択される。臭素及び/又は硫黄含有ポリマ、特に制限された脱局所化されたパイ−システム(pi-system)をそなえる臭素及び/又は硫黄含有ポリマが好ましい。
【0062】
導波管層に関してより好ましい物質は、ポリ(ペンタブロモフェニルメタクリレート)(n=1.71)、ポリ(ビニルフェニルサルファイド)(n=1.657)、ビスフェノル−Sベースのエポキシド及び/又はアクリレート等である。
【0063】
上記導波管層の外側上部面は、少なくとも1つの特定の化学及び/又は生化学物質を検出するために、特定のバインディング複合物を所有する。
【0064】
上記導波管層の表面は、例えば注目する液体の解析のためにデバイスの処理表面にわたり向けられるサンプル液体における生物目標物の選択的なバインディング又はハイブリダイゼーションのための抗体又はcDNAストランドといった生体分子にバインドする特定の層、例えば粘着層を用いて処理され、この層で覆われることができる。バインドされた生体分子の存在は、例えば、本発明によるセンサシステムの導波管のエバネセント場により励起される蛍光により検出される。
【0065】
本発明の範囲内で、用語「サンプル」又は「プローブ」又は「流体サンプル」又は「流体プローブ」又は「スーパーストレート」は、アッセイ対象の全体の溶液を意味するものとして考慮されるべきである。これは、分析物を検出するための物質を含むことができる。検出は、シングルステップ又はマルチステップアッセイでなされることができる。その過程において、本発明によるエバネセント場誘発型のセンサシステムの導波管層の表面は、1つ又は複数の溶液と接触される。使用される溶液の少なくとも1つは、本発明の実施において検出されることができる発光特性を持つ物質を含むことができる。
【0066】
発光特性を持つ物質が上部導波管面で既に吸収される場合、サンプルは発光要素を含まなくてもよい。
【0067】
サンプルは、更なる構成要素を含むことができ、通常はpHバッファ、塩類、酸、塩基、界面活性物質、ビスコシティ作用調節剤又は染料を含むことができる。特に、生理的食塩水は、溶媒として使用されることができる。発光成分自体が液体である場合、溶媒の添加は省略されることができる。
【0068】
サンプルは、例えば卵黄、体液又はその構成要素といった生物媒質、特に血液、血清、プラズマ又は尿を更に含むことができる。更に、サンプルは、表面水、例えば土又は植物の一部といった天然又は合成媒体の抽出物の溶液、バイオプロセスブロス又は合成ブロスから構成されることができる。
【0069】
サンプルは、原液とすることができるか又は溶媒と共に追加的に使用されることができる。適切な流体は、例えば水、水性緩衝液及びタンパク質溶液及び有機溶剤といった溶媒である。
【0070】
適切な有機溶剤は、アルコール、ケトン、エステル及び脂肪族炭化水素である。水、水性緩衝液又は水及び水混和性の有機溶剤の混合物を使用することが好ましい。サンプルは、しかしながら、例えば顔料粒子、分散剤、天然及び合成オリゴマ又はポリマといった溶媒に不溶性の要素を含むこともできる。この場合、サンプルは、光学的に混濁状の分散又は乳液の形を取る。
【0071】
適切な発光複合物は、360nmから1000nmの範囲の波長において発光する発光染料であり、通常、ローダミン、フルオレセイン誘導体、クマリン誘導体、ジスチリルビフェニル、スチルベン誘導体、フタロシアニン、ナフタロシアニン、トリ(2,2'−ビピリジル)塩化ルテニウム、トリ(1,10−フェナントロリン)塩化ルテニウム、トリ(4,7−ジフェニル−1,10フェナントロリン)塩化ルテニウム及びポリピリジル−フェナジン−ルテニウム錯体といったポリピリジル−ルテニウム錯体、例えばオクタエチル白金ポルフィリンといった白金ポルフィリン錯体、長寿命ユウロピウム及び/又はテルビウム錯体又はシアニン染料、GaN又はInP等のいわゆる量子ドットを含む。360nmから1500nmまで範囲において吸収及び放出波長を持つ染料が、血液又は血清の解析に適している。
【0072】
特に適切な発光複合物は、例えばフルオレセイン誘導体といった染料である。これは、共有結合的に結合されることができる官能基を含み、例えばフルオレッセインイソチオシアネートとすることができる。
【0073】
好ましい発光は、蛍光である。
【0074】
使用に適した発光染料は、ポリマ又は生化学親和システムにおけるバインディングパートナーの1つに対して化学的にバインドされることもできる。バインディングパートナーは例えば、抗体又は抗体フラグメント、抗原、タンパク質、ペプチド、レセプタ又はそれらのリガンド、ホルモン類又はホルモン受容体、オリゴヌクレオチド、DNAストランド及びRNAストランド、DNA又はRNA類似体、例えばプロテインA及びGといったバインディングタンパク質、アビジン又はビオチン、酵素、酵素補因子又はゼロインヒビタ(0 inhibitor)、レクチン又は炭水化物である。最後に記載の共有結合形の発光ラベリングは、可逆又は不可逆(バイオ)化学親和アッセイのための好ましいユーティリティである。更に発光標識ステロイド、脂質及びキレータを使用することも可能である。発光染料のインターカレーションは、特に異なるルテニウム錯体同様、その染料がインターカレーションにおいて強化された発光を呈する場合、DNAストランド又はオリゴヌクレオチドを用いるハイブリダイゼーションアッセイにとっても非常に興味深い。これらの発光標識複合物が、本発明によるエバネセント場誘発型のセンサシステムの表面上に固定されるそれらの親和性パートナーと接触状態にされる場合、バインディングは、発光の測定された強度から定量的に決定されることができる。分析物の定量は、サンプルが発光団と相互作用するとき、例えば酸素とのルミネセンス消光の形で又はタンパク質のコンフォメーション修正による発光強化の形で、発光における変化を測定することによっても可能である。
【0075】
発光励起に関して可干渉光を使用することが好ましい。より詳細には、波長300〜1100nmのレーザ光線を使用する。更により詳細には400〜850nmの波長を用い、最も好ましくは、540〜700nmの波長を用いる。
【0076】
適切に使用されることができるレーザは、色素レーザ、ガスレーザ、固体レーザ及び半導体レーザである。必要な場合、放出波長は、非線形結晶光学機器により2倍にされることもできる。ビームは、光学要素により更に焦束されることもでき、分極されることもでき、又は、グレーフィルタにより減衰されることもできる。特に適切なレーザは、それぞれ457nmから514nmまでの間の波長及び543nmから633nmまでの間の波長で放出するアルゴンイオンレーザー及びヘリウムネオンレーザである。特に非常に適したレーザは、630nmから1100nmまでの間の基礎波長で放出する半導体物質のダイオードレーザ又は周波数2倍ダイオードレーザである。なぜなら、それらが、小さな寸法及び低消費電力という理由で、全体のセンサシステムの実質的な小型化を可能にするからである。しかしながら、約405nm及び充分なパワーを持つダイオードレーザが使用されることもできる。
【0077】
本発明の処理において、サンプルは、連続的にガイドされるだけでなく、静止した状態においてエバネセント場誘発型のセンサシステムと接触する状態にされることができる。サイクルは、オープン型又はクローズ型とすることができる。
【0078】
特定の実施形態の処理は、導波管層の表面で分析物を直接検出するのに使用される発光特性を持つ物質を固定するステップから構成される。発光特性を持つ物質は、例えば、タンパク質にバインドされ、これにより導波管層の表面でこの態様で発光するよう励起される発光団とすることができる。タンパク質に対する親和性を持つパートナーがこの固定された層にわたりガイドされる場合、発光は修正されることができ、上記パートナーの量はこの態様で決定されることができる。特に、例えばルミネセンス消光の形で、2つの間のエネルギー移動から濃度の決定を遂行することができるよう、親和性錯体の両方のパートナーは発光団を用いてラベル化されることもできる。
【0079】
化学又は生化学親和アッセイを実行する処理の別の好ましい実施形態は、エバネセント場誘発型のセンサシステムの表面で、即ち導波管の上部外側面で、分析物自体に対する又はバインディングパートナーのうちの1つに対する化学又は生化学検出器物質として特定のバインディングパートナーを固定することにある。アッセイは、シングルステップ又はマルチステップのアッセイとすることができる。この過程における連続したステップにおいて、本発明によるエバネセント場誘発型のセンサシステムの表面上に固定される検出器物質に対するバインディングパートナーを含む1つ又は複数の溶液がガイドされ、分析物が、部分的なステップのうちの1つにおいてバインド状態になる。親和性アッセイにおける発光標識物とのバインドにより、分析物の検出が実行される。使用される発光標識物質は、親和性アッセイの1つ若しくは複数のバインディングパートナー、又は発光団を具備する分析物の類似体から構成されることができる。唯一の基準は、分析物の存在が、選択的に発光信号又は選択的に発光信号における変化をもたらすということである。
【0080】
検出器物質の不動化は通常、上部外側の導波管表面における疎水性吸収若しくは直接の共有結合により、又は例えばシラン化若しくはポリマ層の適用により、表面の化学的修正の後に、実行されることができる。更に、例えばSiOから成る薄い中間層は、導波管上での直接の検出器物質の不動化を容易にするため、粘着促進物質として上部外側の導波管面に対して適用されることができる。
【0081】
適切な検出器物質は通常、抗原に対する抗体、免疫グロブリンに対する例えばプロテインA及びGといったバインディングたんぱく質、リガンドに対するレセプタ、オリゴヌクレオチド及び相補鎖に対するRNA及びDNAの単一のストランド、ビオチンに対するアビジン、酵素基質に対する酵素、酵素補因子又は防止剤、炭水化物に対するレクチンである。個別の親和性パートナーのうちどれが、本発明によるエバネセント場誘発型のセンサシステムの表面に固定されるかは、アッセイの構造に依存することになる。
【0082】
アッセイ自体は、例えば競合アッセイといったシングルステップ錯体生成処理、又は例えばサンドイッチアッセイといったマルチステップ処理とすることができる。
【0083】
競合アッセイの最も簡単な場合において、発光ラベリングを除けば類似する既知の量の複合物だけでなく未知の濃度の分析物を含むサンプルが、本発明によるエバネセント場誘発型のセンサシステムの表面と接触状態にされる。ここで発光標識及び非標識分子が、固定された検出器物質でのバインディング部位を競って奪い合う。サンプルが分析物を含まないとき、最大の発光信号がこのアッセイ構成において実現される。検出される物質の濃度の増加と共に、監視下の発光信号はより小さくなる。
【0084】
競合イムノアッセイにおいて、固定されるのが必ずしも抗体である必要はない。抗原も、検出器物質として本発明によるエバネセント場誘発型のセンサシステムの表面に固定されることができる。通常、化学又は生化学親和性アッセイにおいてどちらのパートナーが固定されるかは重要でない。これは、例えば表面プラズモン共鳴又はインターフェロメトリといった方法に対する発光ベースのアッセイの基本的な利点である。これは、導波管層のエバネセント場における吸着腫瘤における変化に基づかれる。
【0085】
更に、競合アッセイの場合、競合は、本発明によるエバネセント場誘発型のセンサシステムの表面でのバインディング部位に限定される必要はない。例えば、既知の量の抗原が、上記センサの表面上に固定されることもでき、その後、発光標識抗体と同様に分析物と同じ抗原の検出される未知の量を含むサンプルと接触状態にされることもできる。この場合、表面において不動化され、溶液に存在する抗原間の競合が、抗体のバインディングのために生じる。
【0086】
マルチステップアッセイの最も簡単な場合は、サンドイッチ・イムノアッセイである。このアッセイにおいては、プライマリ抗体が、本発明によるエバネセント場誘発型のセンサシステムの表面上に固定される。検出されることになる抗原と、抗原の第2のエピトープに対する検出を実行するために使用される発光標識2次抗体とのバインディングは、抗原を含む溶液と発光標識抗体を含む第2の溶液とを連続的に接触させることにより、又は、これらの2つの溶液を事前に結合することにより実行されることができる。その結果、最終的に、抗原及び発光標識抗体からなる部分的な錯体がバインドされる。
【0087】
アフィニティアッセイは、更なる追加的なバインディングステップを有することもできる。例えばサンドイッチ・イムノアッセイの場合、上述したように実行される後続のサンドイッチアッセイにおいて1次抗体として機能する免疫グロブリンといわゆるFc部で特異的に結合するたんぱく質Aが、最初のステップにおいて、本発明によるエバネセント場誘発型のセンサシステムの表面に固定されることができる。
【0088】
通常、既知のアビジン−ビオチン親和性システムを使用する、更なるタイプの多数の親和性アッセイが存在する。
【0089】
本発明によるエバネセント場誘発型のセンサシステムの表面を1回しか使用しないだけでなく、それを再生して使用することが更に可能である。例えば低いpH、高い温度といった適切な条件の下、有機溶剤又はいわゆるカオトロピズム試薬(塩類)を用いて、固定された検出器物質のバインド能力を実質的に損なうことなく、親和性錯体を選択的に分離することが可能である。正確な条件は、特定の親和性システムに非常に依存する。
【0090】
この処理の別の本質的な実施形態は、一方では、信号の生成を導波管のエバネセント場に限定し(反結合の場合、これは信号検出にもあてはまる)、他方では、平衡状態処理として親和性錯体形成を可逆にすることから構成される。連続的なフローシステムにおける適切な流動率を用いて、エバネセント場においてバインドされた発光標識親和性パートナーのバインディング又は脱着又は解離をリアルタイムに監視することが可能である。この処理は、従って、異なる関連付け又は解離定数を決定するための動力学的研究に対して又は変位アッセイに適している。
【0091】
最も重要な設計基準は、導波管の表面でのエバネセント場の強度である。この強度は、導波管層(n2)、基板(n1)及びスーパーストレート(n3)の屈折率、導波管層(6)の厚みにより決定される。
【0092】
この強度は、導波管表面からの距離の増加と共に指数的に減衰する。最適化のため、1つの実施形態は、吸着生体分子の予想される厚みの範囲において、エバネセント場の平均強度を取ることができる。このエバネセント場において、染料分子が同じ場により励起されることになる。
【0093】
本発明によるエバネセント場誘発型のセンサシステムの一体化された導波管センサの好ましい実施形態が以下に概説される。
【0094】
導波管層:
ポリペンタブロモアクリル酸フェニル(オールドリッチ)、
光重合を可能にするためモノマに追加されるIrgacure184(Ciba)。
【0095】
クラッド層:
低指数基板:2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロ−1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート(ABCR)。
【0096】
フィルタ:
ポリママトリックスにおける染料分子のソリッド溶液(例えばPDMSにおけるスーダンII)。
【0097】
センサ:
光学センサアモルファスシリコン又は(低温の)多結晶シリコン(LTPS)薄膜センサ。
【0098】
基板:
ポリマ又はガラス。
【0099】
ポリマクラッド層及びポリマ導波管層の屈折率は、それぞれ約1.44及び1.70である。ポリマクラッド層の最終厚さは約2μmであり、ポリマ導波管層の厚は約210nmである。
【0100】
本発明によるエバネセント場誘発型のセンサシステムは、筐体を有する。筐体は、一体化された導波管センサを受信する。
【0101】
一体化された導波管センサと筐体が除去可能に接続されることが好ましい場合がある。これは、一体化された導波管センサが他に配置されることができる場合、筐体が再利用されることができるエバネセント場誘発型のセンサシステムを提供する。
【0102】
従って、例えばレーザ、ビームシェーパ及び/又はプリズムといった励振源を筐体に一体化することが好ましい場合がある。
【0103】
筐体は、医療装置、診断用装置、読出しデバイス又は例えば内視鏡等の手術器具の集積部分とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】本発明による第2のエバネセント場誘発型のセンサシステムを示す図である。
【図2】本発明による第3のエバネセント場誘発型のセンサシステムを示す図である。
【図3】本発明による第4のエバネセント場誘発型のセンサシステムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0105】
図1は、筐体2を備え、診断用途に有益なエバネセント場誘発型のセンサシステム1を示す。筐体2は、一体化された導波管センサ3のトップに配置される。一体化された導波管センサ3は、1mmの厚さ及びn3=1.49の屈折率を持つポリメタクリル酸メチル(PMMA)のクラッド層7上に250nmの厚さ及びn2=1.65の屈折率を持つポリエーテルスルホン(PES)のポリマ導波管層4を有する。ポリマ導波管層4の上部の外側面6のトップに、特定の化学物質を検出するキャプチャ複合物5が構成される。ポリマ導波管層4の上部の外側面上に、上記透過的ポリマ導波管に光波を結合させることを強化するための複数のリセス18の格子構造が構成される。代替的に、格子構造は、クラッド層と導波層との間のインタフェースに存在することもできる。ポリマ導波管層4の上部の外側面と筐体2との間で、チャネル14が水性のプローブを受けるよう形成される(n1は、ほとんど1.33に等しい)。クラッド層7の上部の外側面は、上記導波管層4の下部面8と接触する。更に、ポリマフィルタ9、又は680nmを越える蛍光放射線を透過させる変形例としてのダイクロイックフィルタが、下に構成され、上記クラッド層7の下部面10と接触する。エバネセント場による励起の結果として目標物質にバインドされる蛍光タグにより生成される蛍光放射線を検出する2つの検出器11は、基板13の上部面上、かつ上記フィルタ9の下部面12の下に構成される。検出器11は、表面12に対する(平坦化)結合物質19を用いて取り付けられる。導波管層4、クラッド層7、フィルタ9、検出器11及び基板13の構成は、間に空気層を持たない一体化された導波管センサ3の形式である。これはエバネセント場誘発型のセンサシステム1の改良された感度を提供する。なぜなら、これは、発光放射線に対して負の効果を与える場合がある、導波管4、クラッド層7及び検出器11の間の任意の空気干渉を回避するからである。更に、フィルタ9は、検出器11の発光捕集率を改善する。励起放射線は、660nmの波長を持つソリッドステートレーザ光源15により生成される。励起放射線は、ビームシェーパ、ダイアフラム及びコリメーティングレンズを含むことができる一組のレンズ16により、導波管の格子領域に投影される。
【0106】
図2は、筐体2を備え、診断用途において有益なエバネセント場誘発型のセンサシステム1を示す。筐体2は、一体化された導波管センサ3に除去可能に接続される。これは、筐体2の再利用を可能にし、一体化されたセンサ3は、使用後廃棄されることができる。更に、レーザ光源15、ビームシェーパレンズ16及びプリズム17が、筐体2に配置される。これは、エバネセント場誘発型のセンサシステム1の使用を容易にし、速度を上げる。一体化された導波管センサ3は、0.6mmの厚さ及びn3=1.53の屈折率を持つシクロオレフィン(co)ポリマー(COP)のクラッド層7上に130nmの厚さ及びn2=2.15の屈折率を持つTaの無機導波管層4を有する。ポリマ導波管層4の上部の外側面6のトップに、特定の化学物質を検出するキャプチャ複合物5が配置される。ポリマ導波管層4の上部の外側面と筐体2との間で、チャネル14が水性のプローブを受けるために形成される(n1は、ほとんど1.33に等しい)。クラッド層7の上部の外側面は、上記導波管層4の下部面8と接触する。更に、650nmを超える蛍光放射線を透過させるポリマ基板層上の例えば無機多層スタックであるフィルタ9が、下に配置され、上記クラッド層7の下部面10と接触する。エバネセント場による励起の結果として目標物質にバインドされる蛍光タグにより生成される蛍光放射線を検出する2つの検出器アレイ11は、基板13の上部面上かつ上記フィルタ9の下部面12の下に配置される。検出器11は、結合物質19を用いて取り付けられる。導波管層4、クラッド層7、フィルタ9、検出器11及び基板13の構成は、間に空気層を持たない一体化された導波管センサ3の形である。これは、エバネセント場誘発型のセンサシステム1の改良された感度を提供する。なぜならこれは、発光放射線の検出の感度に対して負の効果を持つ、導波管4、クラッド層7及び検出器11の間のエアーインタフェースでの放出された放射線の反射を回避するからである。更に、フィルタ9は、検出器11の発光捕集率を改善する。励起放射線は、633nmの波長を備えるレーザ光源15により筐体2において生成される。励起放射線は、ビームシェーパレンズ16により平行化され、プリズム17により約90°回転される。これは、エバネセント場誘発型のセンサシステムの平坦な構造を可能にする。筐体2は、医療装置、読出しデバイス、診断用装置又は手術器具(図示省略)が集まる部分とすることができる。
【0107】
図3は、クラッド層7が非常に薄い層の厚さを持つことを除けば図2に記載のエバネセント場誘発型のセンサシステム1を示す。ここでは、クラッド層は、0.01mmから0.2mmの厚さを持つ。これは、更に、エバネセント場による励起の結果として目標物質にバインドされる蛍光タグにより生成される蛍光の検出器キャプチャの効率を改善する。より重要なことに、これは、箔技術及び/又はスピン及びローラーコート技術に基づかれる、異なる製造及び組立て処理を可能にする。こうして、複数のセンサが、単一の基板(ウェーハベース又はリール対リール)上で処理されることができる。
【0108】
上記フィルタ9を持つエバネセント場誘発型のセンサシステム1は、フィルタが使用されない点を除けば同じエバネセント場誘発型のセンサシステムと比べて、ノイズ放射線が除去されることができるので検出器感度が改善されることができるという利点を持つ。
【0109】
本発明によれば、エバネセント強度、即ち上記エバネセント場誘発型のセンサシステムの外側上面に対してそこから垂直な20nmの距離にわたるスーパーストレート(superstrate)水におけるTM場の割合が、0.002〜0.01の範囲で、好ましくは0.003〜0.008の範囲で、より好ましくは0.004〜0.007の範囲で調整されることが好ましい。
【0110】
TM場は、W. Lukosz及びK. Tiefenthalerによる「sensitivity of grating couplers as integrated-optical chemical sensors」、 J. Opt. Soc. Am. B6(2) (1989) pp. 209-220に基づき計算されることができる。エバネセント場誘発型のセンサシステムのベンチマークと比べると(図2参照)、屈折率n2.13のTa及び屈折率n1.53のZeonex280基板の導波管から構成される(Zeonex 280は、日本ゼオン社(LTD)から入手可能)。これにより、スーパーストレートは、屈折率n1.33の水である。
【0111】
導波管のスーパーストレートにおける電場の割合は、好ましくは式

を用いて計算されることができる。ここで、δz1は、スーパーストレートにおける浸入度であり、δz3は、基板における浸入度であり、

が成立する。
【0112】
これらの式において、qは、スーパーストレートにおける波動ベクトルの虚数部であり、qは、基板における波数ベクトルの虚数部であり、

が成立する。
【0113】
量neffは、伝播モードの有効屈折率を表す。TMモードの伝搬定数に関する値は、以下の式

を解くことにより発見されることができる。
【0114】
ここで、m=0、1、2...は、モード次数であり、位相関数φm1及びφm3

により与えられる。ここで、

が成り立つ。
【0115】
上記式においてスーパーストレートの誘電率、導波管層及び基板は、ε、ε及びεでそれぞれ表され、kは、真空における波動ベクトルであり、dは、導波管層の厚みである。
【0116】
1つの側面によれば、本発明は、本発明によるエバネセント場誘発型のセンサシステムを用いて、導波管層の上部面又は導波管層の上部面に取り付けられる結合物質の上部面と、液体サンプルとを接触状態にして、サンプルにおける発光特性を持つ物質により、又は上記導波管上に固定される発光特性を持つ物質により生成される発光を光電子的に測定することにより、発光を検出する処理に関する。この場合、励起光は、上記導波管に結合され、導波層を横断する。これにより、発光特性を持つ物質は、導波層のエバネセント場において発光するよう励起される。
【0117】
エバネセントに励起発光の検出のための検出器は、例えばフォトダイオード、光電池、光電子増倍管、電荷結合素子(CCD)アレイである。例えばCCDカメラのような検出器アレイが、適切に使用されることができる。有益な検出器は、光に露出されるとき、電圧又は電流を生成させる感光性要素を持つ。
【0118】
しかしながら、最も好ましいのはシリコンベースの検出器である。製造費用が安価だからである。好適なシリコンベースの検出器に関する1つ例は、α−Siダイオードセンサである。
【0119】
また、製造コストを更に下げ、総センサシステムの他の層との処理互換性を保つため、機能的なポリマベースの検出器も好ましい。
【0120】
別の側面において、本発明は、例えば抗体又は抗原といった化学物質又は生化学複合物の定量のための、本発明によるエバネセント場誘発型のセンサシステムの使用に関する。
【0121】
本発明によるエバネセント場誘発型のセンサシステムの更に別の有用性は、レセプタ又はリガンド、オリゴヌクレオチド、DNA又はRNAのストランド、DNA又はRNA類似体、酵素、酵素基質、酵素補因子又は防止剤、レクチン及び炭水化物の定量に関する。
【0122】
更なる側面において、本発明は、光学的に混濁状の流体における発光構成要素の選択的な定量のための、本発明によるエバネセント場誘発型のセンサシステムの使用に関する。
【0123】
光学的に混濁状の流体は通常、例えば卵黄のような生物学的流体、例えば血液、血清又はプラズマといった体液、及び、表面水、溶解された土壌浸出液及び溶解された植物エキスを含む環境分析から生じるサンプルとすることができる。適切な流体は、蛍光、ホワイトニング剤といった発光の産生から生じる化学産生、特に色素溶液又は反応溶液において得られる反応溶液でもある。これらが1つ又は複数の発光要素を含むならば、繊維業界において通常使用される全ての種類の分散及び定式化も適切である。
【0124】
本発明によるエバネセント場誘発型のセンサシステムは、品質に対する保護にも使用されることができる。
【0125】
要約すると、本発明によるエバネセント場誘発型のセンサシステムは、例えば以下に関して使用されることができる。
【0126】
−例えば卵黄、血液、血清又はプラズマといった生物学的流体の解析を有する化学物質又は生物学的解析。
【0127】
−水、溶解された土壌浸出液及び溶解された植物エキスの解析を有する環境解析。
【0128】
−特に染料溶液又は反応溶液といった化学産生における解析を有する反応溶液、分散及び/又は定式化解析、及び/又は
【0129】
−品質保護解析。
【0130】
明細書を過度に長くすることなく包括的な開示を提供するため、出願人は、上記で示された特許及び特許出願の各々を参照によりここに組み込む。
【0131】
上記の詳細な実施形態における特定の要素及び特徴の組み合わせは、例示的であるにすぎない。本出願における、及び参照により含まれる特許/出願における他の教示を、これらの教示と交換すること及び代入することも、明白に想定される。当業者であれば理解されるであろうが、請求項に記載される本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、本願明細書に記載される以外の変形、修正及び他の実現を第三者が思いつくことができるであろう。従って、前述の説明は、例示に過ぎないものであり、限定として意図されるものではない。本発明の範囲は、以下の請求項及びその均等の範囲において規定される。更に、明細書及び請求項において使用される参照符号は、請求項に記載される本発明の範囲を限定するものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エバネセント場ベースの導波管センサであって、
導波管層と、
目標物質に対する特定の結合のため前記導波管層の上部面に適用されるキャプチャ複合物と、
前記導波管層の下部面に配置される接触クラッド層と、
励起放射線を吸収及び/又は反射し、発光放射線を透過させるフィルタであって、前記クラッド層の下部面の下に配置される、フィルタと、
発光放射線を検出する少なくとも1つの検出器であって、前記フィルタの下部面の下に配置される、検出器と、
前記検出器に接続され、前記検出器の電気インタフェースを有する基板とを有する、導波管センサ。
【請求項2】
前記フィルタの上部面が、前記クラッド層の下部面と光学的に接触し、前記フィルタの下部面は、前記検出器と光学的に接触し、好ましくは、前記フィルタの上部面が、前記クラッド層の下部面と接触し、及び前記フィルタの下部面は、前記検出器と接触する、請求項1に記載の導波管センサ。
【請求項3】
前記クラッド層が、有機透過的ポリマに基づかれ、好ましくは、前記導波管層、前記クラッド層及び前記基板が、有機透過的ポリマに基づかれる、請求項1又は2に記載の導波管センサ。
【請求項4】
前記導波管層の上部外側面及び/又は下部内側面が、前記導波管層に光波を結合させることを強化するための少なくとも1つのリセスを持ち、前記リセスの深さは、好ましくは前記導波管層の厚みより少なく、リセスが前記導波管層の下部内側面上に形成される場合、前記クラッド層が、前記リセスにポジティブフィットする態様で係合する、請求項1乃至3のいずれかに記載の導波管センサ。
【請求項5】
前記導波管層の外側上面が、薄い貴金属層で覆われる、請求項1乃至4のいずれかに記載の導波管センサ。
【請求項6】
前記フィルタが、前記蛍光体の放出放射線に関して高い透過率を持ち、及び前記励起放射線に関して半透明でなく又は十分に透過的でなく、好ましくは、前記フィルタの前記励起放射線にわたる前記放出放射線の前記透過率の前記比は、10:1以上1、000、000:1以下の範囲にある、請求項1乃至5のいずれかに記載の導波管センサ。
【請求項7】
筐体と請求項1乃至6のいずれかに記載の一体化された導波管センサとを有するエバネセント場誘発型のセンサシステムであって、前記導波管層の上部面の間で、少なくとも前記筐体の下部面セクションに沿って、流体プローブを受けるチャネルが形成され、前記発光放射線は、前記エバネセント場による励起の結果として目標物質の発光により生成される、センサシステム。
【請求項8】
前記筐体が、レーザ、ビームシェーパレンズ及び/又はプリズムを有する、請求項7に記載のシステム。
【請求項9】
前記筐体が、前記一体化された導波管センサに除去可能に接続される、請求項7又は8に記載のシステム。
【請求項10】
前記筐体が、医療装置、読出しデバイス、診断用装置又は手術器具が集まる部分である、請求項7乃至9のいずれかに記載のシステム。
【請求項11】
請求項1乃至7のいずれかに記載のエバネセント場ベースの導波管センサ及び/又は請求項8乃至10のいずれかに記載のシステムの、
例えば卵黄、血液、血清又はプラズマといった生物学的流体の解析を有する化学物質又は生物学的解析に対する使用、
水、溶解された土壌浸出液及び溶解された植物エキスの解析を有する環境解析に対する使用、
化学産生、特に色素溶液又は反応溶液における解析を有する反応溶液、分散及び/又は定式化解析に対する使用、及び/又は
品質保護解析に対する使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−518389(P2010−518389A)
【公表日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−548774(P2009−548774)
【出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際出願番号】PCT/IB2008/050355
【国際公開番号】WO2008/096296
【国際公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】