説明

エピスルフィド化合物の増粘方法

【課題】
エピスルフィド化合物の高粘度体を提供すること。
【解決手段】
(A)エピスルフィド化合物85〜98wt%と、(B)硫黄2〜15wt%を混合し反応させることにより、エピスルフィド化合物が穏やかに増粘する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチックレンズ、プリズム、光学フィルム、光ファイバー、情報記録基板、LEDの封止材、コーティング材、光学接着剤等で使用可能な高屈折率樹脂のモノマーであるエピスルフィド化合物の増粘方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック材料は軽量かつ靭性に富み、また染色が容易であることから、各種光学材料に近年多用されている。光学材料の多くに要求される性能の一つとして、高屈折率があげられる。高屈折率な光学材料については、屈折率1.7以上の光学材料を可能とするエピスルフィド化合物が多数見いだされている(特許文献1、特許文献2、特許文献3参照)。中でも、一般式(1)で表されるエピスルフィド化合物は、より高い屈折率を示すことから特に有用である。
しかしながら、一般式(1)で表されるエピスルフィド化合物は、室温においては10〜30mPa・s程度の低粘度であるため、用途によっては使用しにくいという問題があった。具体的には、フィルムや基板上に薄膜を形成する場合、はじきが生じやすい、液だれしやすいという問題があり、微粒子を分散させる場合には微粒子が沈降しやすいという問題があり、モノマーを盛上げて硬化したい場合、盛り上げが難しいといった問題があった。このような状況から、エピスルフィド化合物の高粘度化が強く望まれていた。
【0003】
エピスルフィド化合物は上記特許に記載の塩基触媒で硬化ができる。従って、原理的にはこれらの塩基触媒を使っての増粘が可能であるが、これらの触媒を使用した場合、粘度が一気に上昇し硬化まで至るため、所望の粘度で増粘を止めることが難しいという問題があった。更に、トラブル等が発生し増粘停止が遅れた場合反応釜中で硬化が起こり、硬化物を取り出すことが困難になるという問題があった。従って、温和に増粘が進行し、且つ最終的には硬化まで至らないという増粘方法の開発が望まれていた。
【0004】
エピスルフィド化合物と硫黄との組み合わせについては、特許文献4、特許文献5、特許文献6、特許文献7、特許文献8、特許文献9、特許文献10等に記載がある。これらの特許において硫黄は屈折率向上を目的に添加されている。更に、特許文献4、特許文献5、特許文献6、特許文献7、特許文献8ではエピスルフィド化合物と硫黄を混合し、モールド中で直接硬化する方法が開示されているだけで、増粘方法については開示されていない。また、特許文献7及び特許文献8には、エピスルフィド化合物と硫黄との反応についての記載があるが、それらの詳細な説明において、「混合にあたり、設定温度、これに要する時間等は基本的には各成分が十分に混合される条件であればよいが、過剰の温度、時間は各原料、添加剤間の好ましくない反応が起こり、さらには粘度の上昇をきたし注型操作を困難にする等適当ではない。」と記載されていることから明らかなように、増粘が起こりにくい反応方法を開示したものである。
【0005】
【特許文献1】特開平9−71580号公報
【特許文献2】特開平9−110979号公報
【特許文献3】特開平9−255781号公報
【特許文献4】特開2001−2783号公報
【特許文献5】特開2001−2933号公報
【特許文献6】特開2002−122701号公報
【特許文献7】特開2004−43526号公報
【特許文献8】特開2004−237481号公報
【特許文献9】特開2004−269673号公報
【特許文献10】特開2004−339329号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、エピスルフィド化合物の高粘度体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記問題を解決すべく検討を行った結果、(A)一般式(1)で表されるエピスルフィド化合物85〜98wt%と、(B)硫黄2〜15wt%を混合し反応させることにより、エピスルフィド化合物が穏やかに増粘することを見出した。
【化1】

(ここで、mは0〜4の整数、nは0〜1の整数を表す。)
更に、(A)一般式(1)で表されるエピスルフィド化合物45〜97wt%と(B)硫黄2〜15wt%および(C)SH基を1分子中に1個以上有する化合物1〜40wt%を混合し反応させることによっても、同様にエピスルフィド化合物が穏やかに増粘することを見出し本発明に至った。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、高屈折率樹脂用モノマーであるエピスルフィド化合物の高粘度体の提供が可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
高粘度体はその粘度を高めるほど架橋反応が進行するため、操作性が悪くなる、溶剤での洗浄が困難になる等の問題が発生する。工業的に取り扱いやすい粘度としては200mPa・s〜10万mPa・s、更に取り扱いやすい粘度としては200mPa・s〜1万mPa・s、最も取り扱いやすい粘度は200mPa・s〜1千mPa・sである。
一般式(1)で表されるエピスルフィド化合物は、屈折率を考慮するとビス(β−エピチオプロピル)スルフィド(n=0)またはビス(β−エピチオプロピル)ジスルフィド(n=1、m=0)であることが好ましい。エピスルフィド化合物の純度は屈折率やその他性能を勘案すると96%以上であることが好ましい。
硫黄の添加量は増粘を行なう組成物において、2〜15wt%が好ましく、5〜12wt%が更に好ましく、7〜10wt%が最も好ましい。硫黄の添加量が2wt%より少ない場合には増粘速度が極めて遅くなる。また、10wt%より多い場合には増粘速度が速くなりすぎ制御が難しくなる、硬化物に着色が生じやすくなるといった問題が発生する。
エピスルフィド化合物と硫黄の反応温度は0℃〜100℃が好ましく、10℃〜70℃が更に好ましく、20℃〜50℃が最も好ましい。反応温度が低くすぎる場合は増粘速度が極めて遅くなり、反応温度が高すぎる場合には増粘速度が速くなりすぎ制御が難しくなる。
反応時間は所望する粘度、反応条件により異なるが、増粘の制御の容易さを考えると、0.5日〜30日が好ましく、2日〜20日が更に好ましく、4日〜10日が最も好ましい。
【0010】
増粘の停止剤としては酸物質、あるいはケイ素、ゲルマニウム、スズ、アンチモンのハロゲン化物が使用可能である。
酸物質は酸であれば使用できるが、操作性や高粘度体への溶解性を考慮すれば、常温で無色透明の液体である燐酸エステル、亜燐酸エステル類が好ましい。具体例としては以下の化合物を挙げることができる。メチル燐酸、ブチル燐酸、イソデシル燐酸、2−エチルヘキシル燐酸、亜燐酸ジメチル、亜燐酸ジエチル、亜燐酸ジブチル、亜燐酸ジイソプロピル、亜燐酸ジフェニル。この中で、亜燐酸ジフェニルが最も好ましい。これらは単独でも2種類以上を混合して使用してもかまわない。
ケイ素、ゲルマニウム、スズ、アンチモンのハロゲン化物の中で好ましいものは塩化物であり、より好ましくは、トリクロロまたはジクロロ化合物であり、さらに好ましくはアルキル基を有するゲルマニウム、スズ、アンチモンのトリクロロまたはジクロロ化合物である。最も好ましいものの具体例はジブチルスズジクロライド、ブチルスズトリクロライド、ジオクチルスズジクロライド、オクチルスズトリクロライド、ジブチルジクロロゲルマニウム、ブチルトリクロロゲルマニウム、ジフェニルジクロロゲルマニウム、フェニルトリクロロゲルマニウム、トリフェニルアンチモンジクロライドである。これらは単独でも2種類以上を混合して使用してもかまわない。
停止剤の添加量については、得られる高粘度体100重量部に対して0.001から5重量部が好ましく、好ましくは0.01から1重量部である。停止剤の量が少なすぎる場合には増粘を十分に抑えることが難しく、停止剤の量が多すぎる場合にはその後の硬化が十分に進行しなくなる。
増粘を停止させた化合物の保管条件は、−10℃〜50℃の範囲が好ましく、0℃〜30℃の範囲がより好ましく、5℃〜25℃の範囲が最も好ましい。保管温度が50℃を超える場合には増粘を十分に抑えることが難しく、保管温度が低すぎる場合には固体析出が起こる。
【0011】
エピスルフィド化合物はSH基を有する化合物と一緒に重合硬化することにより耐酸化性(耐黄変性)が向上することが知られている(特開平10−298287)。本発明においては、エピスルフィド化合物、硫黄に加え、SH基を有する化合物を共存させても高粘度体を得ることが可能である。SH基を有する化合物は特開平10−298287に開示されているものがそのまま使用できるが、1分子中にSH基を2個以上有する化合物が好ましい。具体例としては、メタンジチオール、メタントリチオール、1,2−ジメルカプトエタン、ビス(2−メルカプトエチル)スルフィド、ビス(2−メルカプトエチル)エーテル、ビス(2,3−ジメルカプトプロピル)スルフィド、1,2,3−トリメルカプトプロパン、2−メルカプトメチル−1,3−ジメルカプトプロパン、2−メルカプトメチル−1,5−ジメルカプト−3−チアペンタン、4−メルカプトメチル−1,8−ジメルカプト−3,6−ジチアオクタン、2,4−ビス(メルカプトメチル)−1,5−ジメルカプト−3−チアペンタン、4,8−ビス(メルカプトメチル)−1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカン、4,7−ビス(メルカプトメチル)−1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカン、5,7−ビス(メルカプトメチル)−1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカン、3,5−ビス(メルカプトメチルチオ)−1,7−ジメルカプト−2,6−ジチアヘプタン、1,2,7−トリメルカプト−4,6−ジチアヘプタン、1,2,9−トリメルカプト−4,6,8−トリチアノナン、1,2,6,7−テトラメルカプト−4−チアヘプタン、1,2,8,9−テトラメルカプト−4,6−ジチアノナン、1,2,10,11−テトラメルカプト−4,6,8−トリチアウンデカン、1,2,12,13−テトラメルカプト−4,6,8,10−テトラチアトリデカン、エチレングリコールビス(チオグリコレート)、トリメチロールプロパントリス(チオグリコレート)、ペンタエリスリトールテトラキス(チオグリコレート)、エチレングリコールビス(3−メルカプトプロピオネート)、トリメチロールプロパントリ(3−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、テトラキス(メルカプトメチル)メタン、テトラキス(4−メルカプト−2−チアブチル)メタン、テトラキス(7−メルカプト−2,5−ジチアヘプチル)メタン、トリメチロールプロパントリス(2−メルカプトアセテート)、トリメチロールプロパントリス(3−メルカプトプロピオネート)、 ペンタエリスリトールテトラキス(2−メルカプトアセテート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、2,5−ビス(メルカプトメチル)−1,4−ジチアン、ビス(4−メルカプトフェニル)スルフィド、ビス(4−メルカプトメチルフェニル)メタン、2,2−ビス(4−メルカプトメチルフェニル)プロパン、ビス(4−メルカプトメチルフェニル)エーテル、ビス(4−メルカプトメチルフェニル)スルフィド等が挙げられる。より好ましくはエチレングリコールビス(チオグリコレート)、トリメチロールプロパントリス(チオグリコレート)、ペンタエリスリトールテトラキス(チオグリコレート)、エチレングリコールビス(3−メルカプトプロピオネート)、トリメチロールプロパントリ(3−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、ビス(2−メルカプトエチル)スルフィド、ビス(2−メルカプトエチルエーテル)、1,2,6,7−テトラメルカプト−4−チアヘプタンまたは2−メルカプトメチル−1,5−ジメルカプト−3−チアペンタン等が挙げられる。これらは単独でも2種類以上を混合して使用してもかまわない。
SH基を有する化合物の添加量は、増粘を行なう組成物において1〜40wt%が好ましく、3〜30wt%が更に好ましく、5〜20wt%が最も好ましい。1wt%以下の添加では耐酸化性は不十分であり、熱による黄変が起こりやすい。一方、40wt%以上の添加では耐酸化性自体は飽和してしまい、向上効果が認められない。
【0012】
本発明で得られる高粘度体は熱および光で硬化が可能である。熱硬化においては従来公知の触媒が使用できるが、好ましい具体例としては、トリエチルアミン、N,N−ジメチルシクロヘキシルアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、N,N−ジメチルアニリン、ピリジン、N−メチルピペリジン、ピペラジントリエチレンジアミン、イミダゾール等のアミン類、トリ−n−ブチルホスフィン、トリフェニルホスフィンの等のホスフィン類、テトラ−n−ブチルホスホニウムブロマイド、テトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイド、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド、セチルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、1−n−ドデシルピリジニウムクロライド等の第4級アンモニウム塩、テトラフェニルホスホニウムブロマイド等の第4級ホスホニウム塩が挙げられる。熱硬化の場合、高粘度体を20℃から200℃の温度範囲で、数分から数日間加熱して硬化する。硬化に使用できる熱源としては、電気オーブン、恒温槽、ドライヤーなどがあげられる。
また、光硬化の場合には、特願平2003−288288号、特願平2004−029979号記載の触媒が好適に使用できる。光硬化の場合、高粘度体に紫外線を照射することにより硬化を行うが、使用する紫外線源は、紫外線を発生させる装置であれば特に制限はない。具体的には、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、ハイパワーメタルハライドランプ等を挙げることができる。
以上、高粘度体の硬化触媒のごく一部を例示したが、重合促進効果を発現するものであれば、これら列記化合物に限定されるものではない。また、これら触媒は単独でも2種類以上を混合して使用してもかまわない。触媒の添加量は、高粘度体100重量部に対して、0.0001〜10.0重量部であり、好ましくは0.0005〜5.0重量部である。
【0013】
エピスルフィドと硫黄の反応が遅く増粘がしにくい場合には、特開2004−269673号公報に開示されている反応促進剤を使用できる。この中で好ましい化合物は、2 − メルカプト− 1 − メチルイミダゾール、トリフェニルホスフィン、3 , 5 − ジメチルピラゾール、N − シクロヘキシル− 2 − ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、1 , 2 , 3 − トリフェニルグアニジン、1 , 3 − ジフェニルグアニジン、1 , 1 , 3 , 3 − テトラメチレングアニジン、アミノグアニジン硫酸塩、トリメチルチオ尿素、テトラエチルチオ尿素、ジメチルエチルチオ尿素、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジベンジルジチオカルバミン酸亜鉛、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛、ピペコリルジチオカルバミン酸ピペコリウム、チオウレタン類である。反応促進剤の使用量は、増粘を行なう組成物100重量部に対して、0 .001 〜 5 重量部であり、好ましくは0 .005 〜 2 重量部であり、より好ましくは0.01 〜 1重量部である
【0014】
さらに、高粘度体の性能を所望に調整するために、必要に応じて、組成物成分の一部もしくは全部と反応可能な化合物を添加することも可能である。組成物成分の一部もしくは全部と反応可能な化合物としては、エポキシ化合物類、イソ(チオ)シアネート類、カルボン酸類、カルボン酸無水物類、フェノール類、アミン類、ビニル化合物類、アリル化合物類、アクリル化合物類、メタクリル化合物類などが挙げられる。組成物成分の一部もしくは全部と反応可能な化合物を使用する場合の添加量は、高粘度体100重量部に対して、1〜200重量部である。
この他、本発明の高粘度体は、酸化防止剤、ブルーイング剤、紫外線吸収剤、密着性改善剤、濡れ性改善剤、離型性改善剤、帯電防止剤等の各種性能改良添加剤を加えて、得られる光学素子の実用性をより向上せしめることはもちろん可能である。
【0015】
高粘度体の取り扱いは、ゴミや異物など混入を避けるためにクリーンルームで行うのが好ましく、また、硬化は、雰囲気を窒素やヘリウムなどの不活性ガス気流下、適宜フィルムなどで覆って行っても構わない。
高粘度体を重合硬化させる前に、あらかじめ脱気処理およびろ過処理を行うことは、光学素子の高度な透明性を達成する面から好ましい。脱気処理は、通常、0.001〜50torrの減圧下、1分間〜24時間、0℃〜100℃で行う。ろ過処理は、0.05〜10μm程度の孔径を有するPTFEやPETなどのフィルターを通過させて行う。
【0016】
本発明のエピスルフィド化合物と硫黄の反応による増粘法を操作の順に従い説明する。
エピスルフィド化合物に硫黄、更に必要な場合にはSH基を1分子中に1個以上有する化合物を添加し、撹拌下または非撹拌下、0 ℃ 〜 100 ℃ で、1 分間〜2 時間かけて硫黄を完全に溶解させる。この時の温度は硫黄が完全に溶けきる温度であればよいが、0 ℃ 〜 1 0 0 ℃ が好ましく、1 0 ℃ 〜 80 ℃ がより好ましく、2 0 ℃ 〜 60 ℃ が最も好ましい。硫黄の溶解時間は1 分間〜2 時間であるが、5分〜1.5時間が好ましく、10分〜1時間が最も好ましい。また、硫黄を溶解させる際に、反応促進剤を添加していてもよい。
エピスルフィド化合物と硫黄の反応による増粘は、撹拌下または非撹拌下、0℃〜100℃、0.5日〜30日で行なう。この後、酸物質、あるいはケイ素、ゲルマニウム、スズ、アンチモンのハロゲン化物を添加し、増粘の停止を行なう。得られた高粘度体の保管は−10℃〜50℃で行なう。
以上の全ての操作は、大気中で行なってもよいが、不活性ガス雰囲気下で実施することが望ましい。
高粘度体の硬化は、高粘度体に重合触媒ならびに各種性能改善剤を添加後、熱または光で行なう。
【実施例】
【0017】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。尚、粘度および屈折率の測定は以下の方法により行った。
粘度測定:ブルックフィールド社製コーンプレート粘度計モデルDV−IIを用い、25℃の粘度を測定した。
屈折率(nd):アッベ屈折計を用いて25℃で測定した。
【0018】
実施例1
硫黄添加による増粘
フラスコにビス(β−エピチオプロピル)スルフィド93g、硫黄7gを仕込み、フラスコ内を窒素置換した。この溶液を攪拌しながら50℃まで昇温し硫黄を完全に溶解させた。その後、溶液を室温まで戻し、溶液約1gをサンプリングし粘度を測定した。この時の粘度は12mPa・sであった。
フラスコを再び窒素置換後、温度が25℃に保たれた保管庫内に静置した。所定の経過日数後、サンプリングを行い、上記と同様に粘度を測定した。結果を図1に示した。図1に示すように、粘度はゆっくりと増加した。
更に、30日後溶液を観察したところ、溶液はゲル状になっていた。
【0019】
比較例1
フラスコにビス(β−エピチオプロピル)スルフィド100gおよびエピスルフィド化合物の一般的な硬化触媒であるテトラ(n−ブチル)ホスホニウムブロミドを0.02g仕込み、フラスコ内を窒素置換後攪拌し触媒を完全に溶解させた。この溶液約1gをサンプリングし粘度測定を行なった。この時の粘度は11mPa・sであった。
フラスコを再び窒素置換後、温度が25℃に保たれた保管庫内に静置した。所定の経過日数後、サンプリングを行い、上記と同様に粘度を測定した。結果を図1に示した。硬化触媒を微量使用したにもかかわらず粘度上昇が一気に起こり、従来の硬化触媒では粘度制御が難しいことが分かった。更に、4日後溶液を観察したところ、溶液は固化していた。
【0020】
実施例2
SH化合物共存下の硫黄添加による増粘
フラスコにビス(β−エピチオプロピル)スルフィド87g、ジメルカプトエチルスルフィド5gならびに硫黄8gを仕込み、フラスコ内を窒素置換した。この溶液を攪拌しながら50℃まで昇温し硫黄を完全に溶解させた。その後、溶液を室温まで戻し、温度が25℃に保たれた保管庫内に静置した。7日後サンプリングを行い粘度を測定した。この時の粘度は770mPa・sであった。
【0021】
実施例3
酸による増粘停止、保管および硬化物の作製
実施例1と全く同様に(β−エピチオプロピル)スルフィドを増粘させた。溶液粘度がおよそ500mPa・sとなった時点で、高粘度体100重量部に対し増粘停止剤として亜燐酸ジフェニルを0.1重量部を加え十分に攪拌し溶解させた。この時の粘度は510mPa・sであった。フラスコを窒素置換後、温度が10℃に保たれた保管庫内に静置した。23日後、再び粘度を測定したところ520mPa・sであり、粘度変化はほとんど認められなかった。
保管後の高粘度体100重量部に対して硬化触媒テトラ(n−ブチル)ホスホニウムブロミド0.4重量部を加え十分に攪拌し溶解させた。この溶液をガラスモールドに注入し、下記の温度パターンで硬化させた。硬化物を110℃で1時間アニールした後、屈折率を測定したところ1.72(d線)であった。
硬化温度パターン:30℃で10時間保持、30℃から100℃まで10時間で昇温、100℃で1時間保持
【0022】
実施例4
塩素化合物による増粘停止、保管および硬化物の作製
実施例1と全く同様に(β−エピチオプロピル)スルフィドを増粘させた。溶液粘度がおよそ1000mPa・sとなった時点で、高粘度体100重量部に対し増粘停止剤としてジブチルスズジクロライド0.1重量部を加え十分に攪拌し溶解させた。この時の粘度は1200mPa・sであった。フラスコを窒素置換後、温度が10℃に保たれた保管庫内に静置した。21日後、再び粘度を測定したところ1340mPa・sであり、粘度は微増しただけであった。
保管後の高粘度体100重量部に対し硬化触媒テトラ(n−ブチル)ホスホニウムブロミド0.4重量部を加え十分に攪拌し溶解させた。この溶液をガラスモールドに注入し、実施例3と同様の温度パターンで硬化させた。硬化物を110℃で1時間アニールした後、硬化物の屈折率を測定したところ1.72(d線)であった。
【0023】
比較例2
フラスコにビス(β−エピチオプロピル)スルフィド93g、硫黄7gを仕込み、フラスコ内を窒素置換した。この溶液を攪拌しながら50℃まで昇温し硫黄を完全に溶解させた。その後、溶液を室温まで戻し、この溶液に対して硬化触媒テトラ(n−ブチル)ホスホニウムブロミド0.1gを加え十分に攪拌し溶解させた。この溶液をガラスモールドに注入し、実施例3と同様の温度パターンで硬化させた。硬化物を110℃で1時間アニールした後、硬化物の屈折率を測定したところ1.72(d線)であった。
この結果より、本比較例で得られた硬化物と実施例2,3で得られた硬化物は物性的に同等であることが確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記一般式(1)で表されるエピスルフィド化合物85〜98wt%と(B)硫黄2〜15wt%を混合し反応させることを特徴とするエピスルフィド化合物の増粘方法。
【化1】

(ここで、mは0〜4の整数、nは0〜1の整数を表す。)
【請求項2】
(A)下記一般式(1)で表されるエピスルフィド化合物45〜97wt%と(B)硫黄2〜15wt%および(C)SH基を1分子中に1個以上有する化合物1〜40wt%を混合し反応させることを特徴とするエピスルフィド化合物の増粘方法。
【化2】

(ここで、mは0〜4の整数、nは0〜1の整数を表す。)
【請求項3】
請求項1または2記載の組成物に酸物質若しくはケイ素、ゲルマニウム、スズ又はアンチモンのハロゲン化物を添加することを特徴とする増粘停止法。
【請求項4】
請求項3記載の方法によって得られる高粘度体。
【請求項5】
請求項4記載の高粘度体を−10℃〜50℃において保管する保管方法。
【請求項6】
請求項4記載の高粘度体を重合硬化して得られる樹脂。
【請求項7】
請求項6記載の樹脂より得られる光学材料。

【公開番号】特開2007−238796(P2007−238796A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−63822(P2006−63822)
【出願日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】