説明

エラストマー系芯鞘コンジュゲート繊維

【課題】本発明は、伸縮弾性力及び透明性に優れたコンジュゲート繊維を提供する。
【解決手段】伸縮弾性を有するエラストマー樹脂(A)と伸縮弾性を有し永久伸びが25〜70%かつ引張伸度が100〜800%を持つエラストマー樹脂(B)とを含むコンジュゲート繊維であって、芯部分に該エラストマー樹脂(A)を、鞘部分に該エラストマー樹脂(B)を含んでなる収縮性の高いコンジュゲート繊維、並びに、伸縮弾性を有するエラストマー樹脂(A)と伸縮弾性を有し永久伸びが25〜70%かつ引張伸度が100〜800%を持つエラストマー樹脂(B)とをそれぞれ溶融し、複合口金を2個有した口金で、エラストマー樹脂(A)が芯部分にエラストマー樹脂(B)が鞘部分になるように複合紡糸することを特徴とするコンジュゲート繊維の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ストッキング、パンティストッキング(PS)等のストレッチ衣料の素材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のパンティストッキング用繊維として、ストレッチ繊維が採用されている。このストレッチ繊維としては、例えば、ポリウレタン繊維に1本又は複数本のナイロン繊維を巻き付けたシングルカバードヤーン(SCY)、これらを撚り方向を変えて2重に巻き付けたダブルカバードヤーン(DCY)が主に採用されている(例えば、特許文献1、2等)。或いは、ストレッチ繊維(ポリウレタン等)と熱可塑性繊維(ポリアミド等)が繊維の長さ方向に連続して貼り合わされた構造を有するコンジュゲート繊維を捲縮させたものも使用されている(例えば、特許文献3〜7等)。これらの繊維に関して、目的とする衣料の伸縮特性、強度等に合わせて改良されたものが数多く報告されている。
【0003】
しかし、SCYやDCYは、一般に、その高い伸縮性により優れたサポート性を有しているが、生地厚みが大きくなりやすくまた透明感が低いものであり、しかも製造コストが高くなるという問題点を有していた。
【0004】
また、上記コンジュゲート繊維を捲縮させたものは、SCYやDCYと比較して生地厚みが少なく透明感が高いことを特徴としているが、捲縮によるサポート性、即ちコイル状の伸縮による弾性を利用しているため、一般にSCYやDCYと比較してサポート性が弱く、昨今の市場ニーズである高いサポート性の要求を満足させることは難しいという面があった。
【特許文献1】特開昭47−19146号公報
【特許文献2】特開昭62−263339号公報
【特許文献3】特開昭61−34220号公報
【特許文献4】特開昭61−256719号公報
【特許文献5】特開平3−206122号公報
【特許文献6】特開平3−206124号公報
【特許文献7】特開平2003−171831号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、伸縮弾性力及び透明性に優れたコンジュゲート繊維を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記の課題を解決するために鋭意研究を行った結果、2種類の異なるストレッチ繊維からなる芯鞘コンジュゲート繊維が、透明性を維持したままで捲縮性と伸縮性に優れていることを見出した。かかる知見に基づき、さらに研究を重ねて本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明は下記のコンジュゲート繊維及びその製造方法を提供する。
【0008】
項1.伸縮弾性を有するエラストマー樹脂(A)と伸縮弾性を有し永久伸びが25〜70%かつ引張伸度が100〜800%を持つエラストマー樹脂(B)とを含むコンジュゲート繊維であって、芯部分に該エラストマー樹脂(A)を、鞘部分に該エラストマー樹脂(B)を含んでなる収縮性の高いコンジュゲート繊維。
【0009】
項2.前記コンジュゲート繊維の芯部分と鞘部分が偏芯円型又は同心円型である項1に記載のコンジュゲート繊維。
【0010】
項3.前記エラストマー樹脂(A)がポリウレタンエラストマーである項1又は2に記載のコンジュゲート繊維。
【0011】
項4.前記エラストマー樹脂(B)がポリエステル系エラストマー及び/又はポリアミド系エラストマーである項1〜3のいずれかに記載のコンジュゲート繊維。
【0012】
項5.前記鞘部分にさらに熱可塑性樹脂を含む項1〜4のいずれかに記載のコンジュゲート繊維。
【0013】
項6.前記鞘部分にさらに無機微粒子を含む項1〜5のいずれかに記載のコンジュゲート繊維。
【0014】
項7.前記鞘部分にさらに無機微粒子を含む項1〜6のいずれかに記載のコンジュゲート繊維からなる衣料。
【0015】
項8.伸縮弾性を有するエラストマー樹脂(A)と伸縮弾性を有し永久伸びが25〜70%かつ引張伸度が100〜800%を持つエラストマー樹脂(B)とをそれぞれ溶融し、複合口金を2個有した口金で、エラストマー樹脂(A)が芯部分にエラストマー樹脂(B)が鞘部分になるように複合紡糸することを特徴とするコンジュゲート繊維の製造方法。
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
I.コンジュゲート繊維
本発明のコンジュゲート繊維は、伸縮弾性を有するエラストマー樹脂(A)と伸縮弾性を有し永久伸びが25〜70%かつ引張伸度が100〜800%を持つエラストマー樹脂(B)とを含むコンジュゲート繊維であって、芯部分に該エラストマー樹脂(A)を、鞘部分に該エラストマー樹脂(B)を含んでなるエラストマー系芯鞘コンジュゲート繊維である。本発明のコンジュゲート繊維では、繊維の伸縮弾性力を高めるために、芯部分だけでなく鞘部分にも特定のエラストマー樹脂(B)を採用する点に特徴を有している。
【0017】
例えば、これらのコンジュゲート繊維断面を偏芯円型にする場合、伸長時において初期は捲縮力による弾性を発揮し、その後はエラストマーの伸縮弾性力が発揮されサポート性が向上する。
【0018】
本発明のコンジュゲート繊維の芯部分を構成する伸縮弾性を有するエラストマー樹脂(A)は、伸長してもほぼ元の長さに戻る(伸長可能な範囲で降伏点を有しない)性質、すなわちゴム弾性(ヒステリシス曲線において10%以内に戻る)を有する熱可塑性エラストマーであれば特に限定はない。エラストマー樹脂(A)としては、ポリウレタン、ポリスチレンブタジエン系ブロックコポリマー等が例示され、特に、ポリウレタンが好適である。
【0019】
エラストマー樹脂(A)の引張強度(JIS K7311)は、30〜60MPa程度、さらに45〜60MPa程度の高強度のものが好ましく、また引張伸度(JIS K7311)が400〜900%程度、さらに400〜600%が好ましい。
【0020】
エラストマー樹脂(A)の具体例としては、例えば、クラミロンU((株)クラレ製)3195、8175等、ミラクトラン(日本ポリウレタン工業(株)製)P485、P495等が挙げられる。
【0021】
エラストマー樹脂(A)の製法一例として、ポリウレタンエラストマー樹脂の製法を以下に示す。ポリウレタンエラストマー樹脂は、例えば、芳香族ポリイソシアネートとポリオールから、ワンショット法、プレポリマー経由法等の公知の方法を用いて製造できる。
【0022】
原料である芳香族ポリイソシアネートとしては、炭素数(NCO基中の炭素を除く、以下同様)6〜20の芳香族ジイソシアネート、これらの芳香族ジイソシアネートの変性物(カーボジイミド基、ウレトジオン基、ウレトイミン基、ウレア基等を有するジイソシアネート変性物)、およびこれらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0023】
芳香族ポリイソシアネートの具体例としては、1,3−および/または1,4−フェニレンジイソシアネート、2,4−および/または2,6−トリレンジイソシアネート、2,4’−および/または4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(以下、MDIと略記)、4,4’−ジイソシアナトビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジイソシアナトジフェニルメタン、1,5−ナフチレンジイソシアネートなどが挙げられる。このうちで、特に好ましいものはMDIである。
【0024】
原料であるポリオールとしては、ポリエーテル系、ポリエステル系、ポリカーボネート系、脂肪族系ポリオール等が挙げられ、特にポリエーテル系又はポリエステル系ポリオールが好適である。
【0025】
ポリオールの数平均分子量は、本材料から製造される繊維のソフト感の観点から好ましくは300以上、好ましくは1000以上、さらに好ましくは2000以上であり、該繊維の弾性の観点から好ましくは4000以下、好ましくは3500以下、さらに好ましくは3000以下である。
【0026】
本発明のコンジュゲート繊維の鞘部分を構成するエラストマー樹脂(B)は、伸縮弾性を有しており、永久伸びが25〜70%を持つ熱可塑性エラストマー樹脂である。永久伸びはJIS K 6301に定義される。つまり、この樹脂(B)は、100%以上に伸長した場合は伸縮弾性を有するものの原形に復さず、伸長した後に安定した形状に復するという性質を有している。
【0027】
これは、エラストマー樹脂(B)の原形では、エラストマー樹脂(B)を構成するハードセグメントとソフトセグメントがランダム状態にあるが、これを100%以上伸長するとハードセグメントが配向したまま復元されず、ソフトセグメントのみが伸縮弾性を有することになるためと考えられる。本発明のコンジュゲート繊維は、エラストマー樹脂(B)のこの特性を巧みに利用し、高いサポート性を発揮する。
【0028】
該エラストマー樹脂(B)の永久伸び(JIS K 6301)は100%伸長時25〜70%程度、好ましくは30〜70%程度、より好ましくは40〜60%程度である。この、永久伸びは、ダンベル形試験片に引張り荷重をかけて規定伸び率100%(2倍)まで引き伸ばし、10分間その状態で保持した後、速やかに荷重を除き、10分間放置した後の伸び率を原長に対して求め、永久伸び率(%)とすることが規定されている。かかる値が、25%未満であるとコンジュゲート繊維として高いサポート性が得られない。また、70%を越えると弾性体の性質で小さくなり、塑性変形してしまう。
【0029】
また、永久伸びからの伸長は、通常100%(2倍)〜300%(4倍)程度まで伸長することができる。
【0030】
エラストマー樹脂(B)の引張強度(JIS K7311)は、10〜40MPa程度、さらに25〜40MPa程度の高強度のものが好ましい。また、引張伸度(JIS K7311)が100〜800%程度、さらに400〜600%が好ましい。かかる値が、100%未満であると伸度不足で同用途として使用不可能であり、800%を越えると一般に強度が低く、高いサポート性が得られない。
【0031】
上記の特性を有するエラストマー樹脂(B)の具体例としては、ウレタン系エラストマー(TPU)、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、スチレン−ブタジエン系エラストマー等が挙げられる。これらのエラストマー樹脂は、いずれも公知の方法で製造できるか、或いは、市販のものを用いることができる。
【0032】
ウレタン系エラストマーとしては、例えば、ポリオール成分からなるソフトセグメントと、有機ポリイソシアネート成分からなるハードセグメントから構成されるブロック共重合体が挙げられる。具体的には、ポリエステル系のポリウレタンエラストマー、ポリカプロラクトン系のポリウレタンエラストマー、ポリカーボネート系ポリウレタンエラストマー、ポリエーテル系のウレタン系エラストマーなどが挙げられる。例えば、(株)クラレ社製のクラミロンが例示される。
【0033】
ポリエステル系エラストマーとしては、例えば、芳香族ポリエステル成分からなるハードセグメントと、ポリエーテル成分又はポリエステル成分からなるソフトセグメントとから構成されるポリエーテル(又はポリエステル)エステルブロック共重合体が挙げられる。ハードセグメントである芳香族ポリエステル成分としては、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等が挙げられ、ソフトセグメントであるポリエーテル成分又はポリエステル成分としては、ポリテトラメチレングリコール(PTMG)、ポリカプロラクトン(PCL)等が挙げられる。本発明ではこれらのいずれをも用いることができるが、ポリエーテルエステルブロック共重合体を用いるのが好ましい。
【0034】
具体的には、例えば、東洋紡績(株)社製のペルプレン(Pタイプ、Sタイプ等)、東レ・デュポン社製のハイトレル、帝人(株)社製のレクセ等が例示される。また、例えば、特開平11-302519号公報、特開2000-143954号公報等に記載のポリエステル系エラストマーも用いることができる。
【0035】
ポリアミド系エラストマーとしては、例えば、ポリアミド成分からなるハードセグメントと、ポリエーテル成分又はポリエステル成分あるいは両成分からなるソフトセグメントから構成されるブロック共重合体が挙げられる。例えば、アルケマ(株)社製のぺバックス、宇部興産社製のPAEシリーズ等が例示される。
【0036】
スチレン−ブタジエン系エラストマーとしては、例えば、ポリスチレン成分からなるハードセグメントと、ポリオレフィン成分からなるソフトセグメントから構成されるブロック共重合体が挙げられる。具体的には、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)等が例示される。
【0037】
本発明のコンジュゲート繊維の芯部分と鞘部分は、偏芯円型、同心円型の他、熱収縮等により有意に捲縮性を発現できる点からサイドバイサイドも挙げられる。中でも、肌触りの点から偏芯円型が好適である。
【0038】
繊維断面積に対するエラストマー樹脂(A)の占有率は、30〜90%程度、好ましくは50〜70%程度であればよい。この範囲であれば、サポート性の高いコンジュゲート繊維にすることができる。かかる値が、30%未満だとエラストマー樹脂(B)の占有率が高くなるので、高いサポート性が得られず、また、90%を越えると伸長した後、安定した形状に復し難い。
【0039】
本発明のコンジュゲート繊維の直径は、特に限定はないが、通常、20〜100μm程度、好ましくは30〜80μm程度である。特に、パンティストッキング(PS)用の素材に用いる場合は、40〜70μm程度にするのが好適である。
【0040】
上記したように、芯部分を構成する伸縮弾性を有するエラストマー樹脂(A)は、伸長可能な範囲で降伏点、即ち、弾性域を超える伸長点を有さず、エラストマー樹脂(B)は、伸縮弾性を有しその伸長可能な範囲において降伏点を有している。そのため、本発明のコンジュゲート繊維にもこの特性が受け継がれる。つまり、本発明のコンジュゲート繊維をエラストマー樹脂(B)の降伏点以上に伸長した場合は、エラストマー樹脂(B)はその降伏点伸度の長さに戻り安定化する。一方で、エラストマー樹脂(A)は常に伸長された状態になり依然として伸縮弾性を有している。そのため、コンジュゲート繊維として、サポート性が格段に向上する。例えば、図1を参照すれば容易に理解できる。
【0041】
また、本発明のコンジュゲート繊維は、そのまま生地に編成した際厚みが薄くまた透明感が高いという特徴も有している。
【0042】
従って、当該機能が特に求められるストッキング、パンティストッキング等の用途に好適に用いることができるが、当然これに限定されるものでなく、他の衣料用途にも用いることができる。
II.コンジュゲート繊維の製法
本発明のコンジュゲート繊維は、エラストマー樹脂(A)及びエラストマー樹脂(B)を、それぞれ溶融し、複合口金を2個有した口金で、エラストマー樹脂(A)が芯部分にエラストマー樹脂(B)が鞘部分になるように複合紡糸することにより製造できる。この方法は、公知の紡糸装置を用いて容易に実施することができる。得られた繊維は、目的に応じて、延伸して強伸度を調整することができる。
【0043】
本発明のコンジュゲート繊維は、透明性及びサポート性に優れるとともに、従来のカバードヤーンと比べて極めて簡便に製造することができるため、製造コストを低減することができ高い生産性が達成される。
【0044】
さらに、繊維に染色性を付与するために、鞘部分のエラストマー樹脂(B)に染色可能な樹脂(例えば、ナイロン、ポリエステル等)をアロイ化したりして改質することも可能である。染色可能な樹脂としては例としてポリアミド系、ポリエステル系、アクリル系、ビニロン系など選択できるが、好ましくはポリアミド系、ポリエステル系が例示できる。これらの配合量はエラストマー(B)の染色性に応じて決定されるが、上記樹脂の含有量の好ましい下限は1重量%、好ましい上限は30重量%である。更に好ましい上限は10重量%である。1重量%未満であると、染色による発色性が低く、30重量%を超えると、繊維の強伸度が低下することがある。また紡糸性が悪くなる。
【0045】
またこれらの作製方法としてはエラストマー樹脂(B)に上記樹脂を混合して押出機に投入することで出来るが、安定した物性を得るには均一分散をさせることが望ましい。このため、2軸混練機でコンパウンド原料を作製し押出機に投入することがより望ましい。
【0046】
これにより、肌触りが良好でしかも種々の染色が可能なファッション性に優れたパンティストッキングを製造することができる。
【0047】
また、本発明のコンジュゲート繊維においては、肌触りを改良するために、鞘部分のエラストマー樹脂(B)の表面に無機微粒子等を分散したりして改質することも可能である。
【0048】
無機微粒子としては特に限定されず、例として軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム等の炭酸カルシウム;炭酸バリウム;塩基性炭酸マグネシウム等の炭酸マグネシウム;カオリン、タルク、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化チタン、酸化チタン、
酸化亜鉛、酸化マグネシウム、フェライト粉末、硫化亜鉛、炭酸亜鉛、サチンホワイト、
焼成ケイソウ土等のケイソウ土;珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム、無定形シリカ、非晶質合成シリカ、コロイダルシリカ等のシリカ;コロイダルアルミナ、擬ベーマイト、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、アルミナ、リトポン、ゼオライト、アルミノ珪酸塩、活性白土、ベントナイト、セリサイト等の鉱物質顔料等が挙げられる。これらは単独で用いられてもよく、2種類以上が併用されてもよい。これらのなかでは、酸化チタン、酸化亜鉛、硫酸バリウム、シリカが好ましい。
【0049】
また、上記無機微粒子の形状としては特に限定されず、球状、針状、板状等の定型物又は非定型物が挙げられる。
【0050】
上記無機微粒子の平均粒子径の好ましい下限は0.20μm、好ましい上限は3.00μmである。0.20μm未満であると、湿潤時のベトツキ等の不快感を改善する効果が不充分となることがあり、3.00μmを超えると衣料にした場合、風合いや肌触りが損なわれたり、繊維の強度が低下したりすることがある。
【0051】
上記無機微粒子の含有量の好ましい下限は2重量%、好ましい上限は30重量%である。更に好ましい上限は7重量%である。2重量%未満であると、湿潤時のベトツキ等の不快感を改善する効果が不充分となることがあり、30重量%を超えると、繊維の強伸度が低下することがある。また紡糸性が悪くなる。
【0052】
またこれらの作製方法としてはエラストマー樹脂(B)に無機微粒子を混合して押出機に投入することで出来るが、安定した物性を得るには均一分散をさせることが望ましい。このため、2軸混練機でコンパウンド原料を作製し押出機に投入することがより望ましい。
【発明の効果】
【0053】
本発明のコンジュゲート繊維は、従来のSCY及びDCYや、ストレッチ繊維と熱可塑性繊維からなるコンジュゲート繊維では達成できなかった、高い伸縮性により優れたサポート性を有しつつ、生地厚みが薄く、かつ透明感が高いという特徴を有している。
【0054】
本発明のコンジュゲート繊維は、伸縮弾性力及び透明性に優れているため、美観が良く、サポート性に優れたストレッチ衣料、特に、ストッキング、パンティストッキングの素材として好適に用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0055】
以下、比較例と共に実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0056】
実施例1
熱可塑性ポリウレタン及びポリエステル系エラストマーを、それぞれ200℃及び195〜210℃で溶融し、195℃に加熱した複合口金を2個有した口金で、熱可塑性ポリウレタンが芯部分にポリエステル系エラストマーが鞘部分になるように非捲縮発現型(同心円型)に複合紡糸した。複合繊維の横断面における熱可塑性ポリウレタンとポリエステル系エラストマーの面積比率は、各成分のギヤポンプによる吐出比で変化させた。
【0057】
吐出量は、延伸後単糸24dになるように調製した。
【0058】
巻き取り速度は500m/分で、シリコン系油剤を付着させて未延伸で巻き取り、その後別工程で延伸し80℃、結露点10℃、24時間エージングを行った。
【0059】
得られたコンジュゲート繊維の断面写真を、図2に示す。繊維の直径は61μmであり、繊維断面積に対する芯部分の占有率は58%であった。
【0060】
比較例1
実施例1において、ポリエステル系エラストマーに代えてポリアミド(ナイロン−6)を用いること以外は、実施例1と同様にしてコンジュゲート繊維を製造した
繊維の直径は60μmであり、繊維断面積に対する芯部分の占有率は56%であった。
【0061】
比較例2
ポリウレタン弾性糸22dTを芯糸、ナイロン糸11dT、5フィラメントをカバリング糸としてS方向から巻き付けたシングルカバードヤーンを作製した。
【0062】
実施例2
実施例1のコンジュゲート繊維を用いて、シングルシリンダ編機でシングル編(天竺編)により筒状の編地を編成し、常法に従ってつま先縫、パンティー縫合した後、染色(ベージュ色;カルロ)、足型にて熱セットしてパンティストッキングを作製した。
【0063】
比較例3
比較例1のコンジュゲート繊維を用いて、実施例2と同様にして、パンティストッキングを作製した。
【0064】
比較例4
比較例2のシングルカバードヤーンを用いて、実施例2と同様にして、パンティストッキングを作製した。
【0065】
試験例1
上記実施例1及び比較例1、2で得られた繊維、実施例2及び比較例3、4で得られた生地について、次のような評価を行った。
<表面特性の評価>
パンティストッキング生地における表面特性(MIU;動摩擦係数、MMD;動摩擦係数の変動幅、単位:それぞれ無次元、SMD;表面粗さ、単位:μm)をKESシステム(カトーテック(株)製)により測定した。
<伸縮弾性力の評価>
パンティストッキング生地の伸縮弾性力は定伸長回復抵抗力(横伸び)にて行った。股下10cmの部分(ニー部)に引張治具を取り付け、50cm伸長時、最大60cm伸長時と50cm回復時の抵抗力、単位:CNを測定した。
<透明性の評価>
パンティストッキング生地の透明性は、官能評価にて行った。具体的には、図3に示すように被験者は各パンティストッキングを履き、踏み台の上に片足を乗せる。評価者は被験者から1.5m離れた位置に座り(床に直接座る)評価を行う。評価項目は、「透明感」「光沢がない(ぎらつきがない)」「素足っぽさ」である。着用者1名に対し被験者9名で評価した。評価基準として標準(0)を中心として前後2段階(-2、-1 マイナス符号は劣等評価、+1、+2 プラス符号は優等評価)、合計5段階評価とし、各評価項目の平均値(小数点第1位)を算出した。
<色彩値>
光学濃度色彩値(L*、a*、b*)および光学濃度は、パンティストッキング生地を16枚重ね合わせてマクベス分光光度計 WHITE EYE3000(Kollmongen Instruments Corporation製)により測定した。特に光学濃度は不透明度の指数であり、数値が低いほど透明性が高い。
【0066】
上記の測定結果を表1及び表2に示す。
【0067】
【表1】

【0068】
【表2】

【0069】
上記の結果より、実施例1によるパンティストッキング生地はMMD、SMDの結果より動摩擦係数変動、生地凹凸が何れも小さい、すなわち引っ掛りが少ない生地であることが分かる。また、伸縮弾性においては比較例1と比較して優れた特性となっている。また透明性評価においては透明性が高く、かつ光沢性が少ない、素足っぽい自然見えることが分かった。この結果は、色彩値の光学濃度が低いことからも裏付けられた。
【0070】
よって、本発明のコンジュゲート繊維は、総合的に優れた伸縮弾性と透明性を有しており、パンティストッキング等のストレッチ衣料の素材として好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明のコンジュゲート繊維の伸縮挙動を示す模式図である。
【図2】本発明のコンジュゲート繊維の断面の顕微鏡写真である。
【図3】透明性評価の模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
伸縮弾性を有するエラストマー樹脂(A)と伸縮弾性を有し永久伸びが25〜70%かつ引張伸度が100〜800%を持つエラストマー樹脂(B)とを含むコンジュゲート繊維であって、芯部分に該エラストマー樹脂(A)を、鞘部分に該エラストマー樹脂(B)を含んでなる収縮性の高いコンジュゲート繊維。
【請求項2】
前記コンジュゲート繊維の芯部分と鞘部分が偏芯円型又は同心円型である請求項1に記載のコンジュゲート繊維。
【請求項3】
前記エラストマー樹脂(A)がポリウレタンエラストマーである請求項1又は2に記載のコンジュゲート繊維。
【請求項4】
前記エラストマー樹脂(B)がポリエステル系エラストマー及び/又はポリアミド系エラストマーである請求項1〜3のいずれかに記載のコンジュゲート繊維。
【請求項5】
前記鞘部分にさらに熱可塑性樹脂を含む請求項1〜4のいずれかに記載のコンジュゲート繊維。
【請求項6】
前記鞘部分にさらに無機微粒子を含む請求項1〜5のいずれかに記載のコンジュゲート繊維。
【請求項7】
前記鞘部分にさらに無機微粒子を含む請求項1〜6のいずれかに記載のコンジュゲート繊維からなる衣料。
【請求項8】
伸縮弾性を有するエラストマー樹脂(A)と伸縮弾性を有し永久伸びが25〜70%かつ引張伸度が100〜800%を持つエラストマー樹脂(B)とをそれぞれ溶融し、複合口金を2個有した口金で、エラストマー樹脂(A)が芯部分にエラストマー樹脂(B)が鞘部分になるように複合紡糸することを特徴とするコンジュゲート繊維の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−77556(P2007−77556A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−270916(P2005−270916)
【出願日】平成17年9月16日(2005.9.16)
【出願人】(000001339)グンゼ株式会社 (919)
【Fターム(参考)】