説明

エラストマー製造装置、エラストマー製造方法、及びエラストマー

【課題】シスポリイソプレンからエラストマーを製造できるエラストマー製造装置を提供する。
【解決手段】電圧を発生させる電圧生成器6と、電圧生成器6に接続され、表面が接地された、(C)の繰り返し単位により構成されているシスポリイソプレンに対して電子ビームを照射するカソード1と、を備え、シスポリイソプレンに対して電子ビームを照射することによって、[RHCRHCC=CRCHR]で表される繰り返し単位により構成されているエラストマーを製造する。〔式中、Rのうち、いずれか一つはメチル基を示し、その他は水素原子を示す。〕

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シス(cis)ポリイソプレンに対して電子ビームを照射することによってエラストマーを製造するエラストマー製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ゴムノキからとられたシス型のポリイソプレン(シスポリイソプレン)である天然ゴムや、イソプレンを化学的に重合させたシスポリイソプレンなどが弾性を有するゴムとして知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】"ゴム"、[online]、2010年3月26日、[2010年4月6日検索]、ウィキペディア、インターネット<URL:http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B4%E3%83%A0>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そのようなシスポリイソプレンを改良することによって、シスポリイソプレンよりも優れた性質を有するエラストマーを製造したいという要望があった。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、シスポリイソプレンに電子ビームを照射することによって、シスポリイソプレンよりも優れた性質を有するエラストマーを製造するエラストマー製造方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明によるエラストマー製造装置は、電圧を発生させる電圧生成器と、電圧生成器に接続され、表面が接地された、(C)の繰り返し単位により構成されているシスポリイソプレンに対して電子ビームを照射するカソードと、を備え、シスポリイソプレンに対して電子ビームを照射することによって下記化学式で表される繰り返し単位により構成されているエラストマーを製造するものである。
【化1】

〔式中、Rのうち、いずれか一つはメチル基を示し、その他は水素原子を示す〕である。
【0007】
このような構成により、シスポリイソプレンからエラストマーを製造することができる。そのエラストマーは、シスポリイソプレンよりも大きい分子量を繰り返し単位として有するため、シスポリイソプレンよりも高い耐熱性を示すものである。
【0008】
また、本発明によるエラストマー製造装置では、電圧生成器は、負電圧を周期的に発生させ、カソードは、シスポリイソプレンに対して電子ビームインパルスを照射してもよい。
このような構成により、電子ビームインパルスではない電子ビームをシスポリイソプレンに照射する場合よりも、効率よくエラストマーを製造することができる。
【0009】
また、本発明によるエラストマー製造装置では、カソードとシスポリイソプレンとを内部に収容可能であり、内部雰囲気を真空に保持可能な真空チャンバをさらに備えてもよい。
このような構成により、真空チャンバ中で、エラストマーを製造することができる。
【0010】
また、本発明によるエラストマー製造装置では、カソードを内部に収容可能であり、内部雰囲気を真空に保持可能な真空チャンバをさらに備え、真空チャンバは、カソードから出射された電子ビームインパルスを外部に通過可能な、金属薄膜である窓を有し、シスポリイソプレンは、真空チャンバの外部に存在し、カソードは、窓を介して電子ビームインパルスをシスポリイソプレンに照射してもよい。
【0011】
このような構成により、真空中ではない大気中において、電子ビームインパルスをシスポリイソプレンに照射することによって、エラストマーを製造することができる。この場合には、真空チャンバ内にシスポリイソプレンを入れなくてもよいため、そのシスポリイソプレンの形状等に関する自由度が高くなる。
【0012】
また、本発明によるエラストマー製造方法は、電圧を発生させる工程と、発生された電圧によってカソードから電子ビームを、表面が接地された、(C)の繰り返し単位により構成されているシスポリイソプレンに対して照射する工程と、を備え、シスポリイソプレンに対して電子ビームを照射することによって下記化学式で表される繰り返し単位により構成されているエラストマーを製造するものである。
【化2】

〔式中、Rのうち、いずれか一つはメチル基を示し、その他は水素原子を示す〕
このような構成により、シスポリイソプレンからエラストマーを製造することができる。
【0013】
また、本発明によるエラストマーは、下記化学式で表される繰り返し単位により構成されているエラストマーである。
【化3】

〔式中、Rのうち、いずれか一つはメチル基を示し、その他は水素原子を示す〕
このようなエラストマーは、従来のシスポリイソプレンよりも高い耐熱性を有するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によるエラストマー製造方法等によれば、シスポリイソプレンからエラストマーを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態1によるエラストマー製造装置の構成を示す図
【図2】同実施の形態によるエラストマー製造装置の構成の他の一例を示す図
【図3】本発明の実施の形態2によるエラストマー製造装置の構成を示す図
【図4】同実施の形態によるエラストマー製造装置の構成の他の一例を示す図
【図5】同実施の形態によるエラストマー製造装置の構成の他の一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明によるエラストマー製造装置について、実施の形態を用いて説明する。なお、以下の実施の形態において、同じ符号を付した構成要素は同一または相当するものであり、再度の説明を省略することがある。
【0017】
(実施の形態1)
本発明の実施の形態1によるエラストマー製造装置について、図面を参照しながら説明する。本実施の形態によるエラストマー製造装置は、天然ゴム(シスポリイソプレン)に電子ビームを照射することによって、新たなエラストマーを製造するものである。
【0018】
図1は、本実施の形態によるエラストマー製造装置100の構成を示す図である。本実施の形態によるエラストマー製造装置100は、カソード1と、電圧生成器6と、真空チャンバ50とを備える。
【0019】
電圧生成器6は、電圧を発生する。その発生された電圧は、カソード1に供給される。カソード1は、電圧生成器6に接続され、電圧生成器6から受け取った電圧によって、処理対象2に対して電子ビーム3を照射する。処理対象2は、表面が接地されている。真空チャンバ50は、カソード1と処理対象2とを内部に収容可能であり、内部雰囲気を真空に保持可能である。真空チャンバ50内は真空に保たれるため、本実施の形態では、真空中で電子ビーム3が照射されることになる。
【0020】
なお、電子ビーム3は、電子ビームインパルスであることが好適である。そのほうが、処理対象2からエラストマーを製造する効率が高いからである。したがって、電圧生成器6は、負電圧を周期的に発生するインパルス生成器であってもよい。また、カソード1は、その発生された負電圧が供給され、その負電圧によって、処理対象2に対して電子ビームインパルスを照射してもよい。本実施の形態及び実施の形態2では、主に、電子ビーム3が電子ビームインパルスであり、電圧生成器6がインパルス生成器である場合について説明する。なお、図1では、電圧生成器6がインパルス生成器である場合について図示しているが、電圧生成器6がインパルス以外の電圧を生成してもよいことは前述の通りである。
【0021】
カソード1の形状、特に、カソード1が電子ビーム3を照射する面の形状は問わない。カソード1は、例えば、平面形状であってもよく、あるいは、処理対象2に電子ビーム3を集中させて照射できる形状であってもよい。後者の場合には、例えば、シリンダ形状であってもよく、あるいは、パラボラ形状や、球形状であってもよい。シリンダ形状とは、円筒を、その円筒の長さ方向の2個の直線で切り取った形状である。すなわち、シリンダ形状のカソード1の電子ビーム3を照射する面は、円弧を、その円弧を含む円に垂直な方向に延ばした形状となる。なお、そのシリンダ形状のカソード1の長さ(すなわち、そのシリンダ形状の長さ方向における長さ)は、処理対象2の大きさ等に応じて、適宜、所望の長さにすることができる。なお、そのシリンダ形状のカソード1から照射される電子ビーム3は、そのシリンダ形状の中心線(シリンダ形状が完全な円筒であった場合におけるその円筒の中心軸)に向けられることになる。したがって、処理対象2は、そのシリンダ形状の中心線の位置に配置されることが好適である。また、カソード1の電子ビーム3の照射面がパラボラ形状である場合には、そのカソード1が照射する電子ビーム3は、そのパラボラ形状の焦点に向けられることになる。したがって、処理対象2は、その焦点の位置に配置されることが好適である。また、カソード1の電子ビーム3を照射する面が球形状であるとは、その面が全球に近い形状であってもよく、半球の形状であってもよく、半球と全球の間の形状であってもよく、球に占める範囲が半球よりも狭い形状であってもよい。また、カソード1の電子ビーム3の照射面が球形状である場合には、そのカソード1が照射する電子ビーム3は、その球形状の中心に向けられることになる。したがって、処理対象2は、その中心の位置に配置されることが好適である。このカソード1は、比較的大きいものである。そのカソード1の大きさは、例えば、球状の直径以上のサイズであってもよい。
【0022】
また、カソード1の種類は問わない。カソード1は、例えば、熱カソードであってもよく、酸化物カソードであってもよく、エクスプローディング(Exploding)カソードと呼ばれる冷カソードであってもよく、またはタンクカソードであってもよい。また、これらの例示した以外の種類のカソード1を用いてもよい。これらのカソードの種類については、すでに公知であり、詳細な説明を省略する。
【0023】
電圧生成器6は、電圧を発生してカソード1に供給する。なお、本実施の形態では、電圧生成器6がインパルス生成器であり、負電圧を周期的に発生して、カソード1に供給する場合について説明する。その電圧生成器6は、例えば、インダクションアダー(Induction Adder:誘導演算回路)タイプであってもよい。その場合には、電圧生成器6は、200kVから4MVの負電圧であって、20から300nsのインパルスを生成する。誘導演算回路とは、入力信号の振幅の和に比例する出力信号振幅を発生する演算回路である。また、その電圧生成器6がインパルスを生成する周期は、例えば、1000Hzであってもよい。その周期は、通常、200〜8000Hzである。また、電圧生成器6に供給される電力は、直流であってもよく、あるいは、交流であってもよい。なお、交流の高周波電源を使用した場合に、最も効率よく電子ビーム3を生成することができるようになる。なお、電圧生成器6に供給される電源電圧は、例えば、200Vであってもよく、400Vであってもよく、あるいは、その他の電圧であってもよい。
【0024】
処理対象2は、次の化学式で示される(C)の繰り返し単位により構成されているシスポリイソプレンである。その処理対象2は、いわゆる天然ゴムであってもよく、イソプレンを化学的に重合させたポリイソプレンであってもよい。その処理対象2は、シスポリイソプレンが主成分であるが、それ以外の物(例えば、たんぱく質や脂肪酸、トランス型のポリイソプレン、スチレンゴムやブタジエンゴム等の合成ゴム、硫黄、カーボンブラック、オイル、その他の物質等)をも含んでいてもよい。また、処理対象2は、シスポリイソプレンを含むゴムタイヤであってもよい。
【化4】

【0025】
また、図1で示されるように、処理対象2の表面は、接地されている。すなわち、処理対象2の表面はアースに接続されていることになる。なお、エラストマー製造装置100は、処理対象2の表面を接地させるための、アースに接続されている端子を備えていてもよい。そして、そのアースに接続されている端子を処理対象2の表面に接続することによって、処理対象2の表面を接地してもよい。
【0026】
このようにして、カソード1は、表面が接地された、シスポリイソプレンに対して、電子ビームインパルスを照射することになる。その電子ビームインパルス(あるいは、インパルスではない電子ビーム)の照射によって、後述する化学式で示されるエラストマーが製造されることになる。
【0027】
次に、本実施の形態によるエラストマー製造装置100の使用方法、すなわち、エラストマーの製造方法について説明する。真空チャンバ50の内部に処理対象2を配置し、その処理対象2の処理を行いたい表面を接地する。そして、真空チャンバ50の内部雰囲気を真空にする。そのために用いられる真空ポンプを真空チャンバ50が有してもよい。その後に、電圧生成器6を動作させて、カソード1に対して周期的に負電圧を供給する。すると、カソード1から処理対象2の表面に対して、電子ビーム3が照射される。その電子ビーム3の照射によって、処理対象2であるシスポリイソプレンから、次の化学式で表される繰り返し単位により構成されているエラストマーを生成することができる。
【化5】

〔式中、Rのうち、いずれか一つはメチル基を示し、その他は水素原子を示す〕
【0028】
このエラストマーは、シス型であってもよく、トランス型であってもよい。すなわち、このエラストマーの構造式は、次の化学式(A)または化学式(B)を繰り返し単位として構成されるものである。なお、その繰り返し単位は、化学式(A)であるか、化学式(B)であるかの違いと、Rのうち、いずれがメチル基(−CH)になるのかに応じて、8種類存在することになる。ここで、エラストマーに含まれる各繰り返し単位は、すべて同じ種類であってもよく、あるいは、そうでなくてもよい。なお、化学式(A)の場合には、右下のR(すなわち、二重結合している炭素原子に直接結合しているR)がメチル基になることが多く、化学式(B)の場合には、右上のR(すなわち、二重結合している炭素原子に直接結合しているR)がメチル基になることが多い。また、生成されるエラストマーは、通常、化学式(B)を繰り返し単位として構成されるものが多い。
【化6】

〔式中、Rのうち、いずれか一つはメチル基を示し、その他は水素原子を示す〕
【化7】

〔式中、Rのうち、いずれか一つはメチル基を示し、その他は水素原子を示す〕
【0029】
なお、上記のようなエラストマーを製造する際の電子ビームとしては、次のような条件のものを用いてもよい。
供給電圧:1MeV
電流:1000A
電子ビームインパルスの照射時間:200〜300ns(ナノ秒)
周波数:1000Hz
電子ビームインパルスの照射エネルギー:300J
【0030】
図2は、アノード5をさらに備えたエラストマー製造装置100の一例を示す図である。図2において、電子ビーム3の照射の際に、カソード1と処理対象2との間にアノード5が配置されている。そのアノード5は、電子ビーム3が通過可能な孔を有するものとする。電子ビーム3は、アノード5の孔を通過して処理対象2に照射されるため、アノード5の孔を所望の形状にすることによって、電子ビーム3を所望の範囲に照射することが可能となる。
【0031】
ここで、本実施の形態のエラストマー製造装置100による電子ビーム3の照射について、説明する。ダイオード放射の特徴は、電子の加速は非常に短時間tの間にしか起こらない、と言うことである。そして、これはインパルスと呼ばれ、ある特定の反復周波Nを周期的に作り出す。もしカソード1にマイナス電圧をかけたなら、アースに接続された処理対象2やアノード5は、電圧Vに等しく、電流をI、電子ビーム3の平均パワー(出力)をPとすると、そのPの式は、
P=N・I・V・t
となる。Nは、200〜8000Hzである。
【0032】
冷カソードを使用した場合、インパルスは300nsを超すことはできず、ミニマムは20ns程度である。熱カソードを使用した場合は、電子を数マイクロ秒の間、加速することができる。
【0033】
また、電子ビーム3の強さは、空間チャージ現象によってコントロールされ、チャイルド・ラングミュアー(Child?Langmuir)の法則によって値が定まる。この値は、数kAにも達することがある。なお、チャイルド・ラングミュアーの式は、真空中の電極間における電子・イオンの空間電荷制限電流iが、V3/2/dに比例することを示す式である。Vは電極間電圧であり、dは電極の距離である。
【0034】
その電圧Vは、200kVから4MVであり、処理する表面の厚さや、希望する処理スピード等によって異なる値に設定する。アースに接続されたアノードを持ったカソードにおいて、マイナス電極を選択する理由は、実験を通した経験から得られたものであり、一般には、アースに接続された処理表面を操作する方が容易である。
【0035】
電圧Vは、電子エネルギーをコントロールするものであり、電子が処理対象2の表面に食い込む深さをp(cm)とすると、次の関係式が得られる。
p=0.33E/d
【0036】
ここで、Eはエネルギー(MeV)であり、dは処理対象2の密度(g/cm)である。物質の中に電子エネルギーが取り込まれるには圧力波が作用するが、そのためには、「コンスタントな温度量」という条件がある。言い換えれば、物質が膨張しない程度に、より迅速に物質を温めることが必要となる。これはこの膨張を音速のスピードで行うことで可能になる。すなわち、わりあいに遅いスピードで行うことである。これを実現するためには、
t<p/2C
となる。なお、Cは、電子ビーム3が吸収される物質の中を通る音速である。
【0037】
[実験例]
天然ゴム(シスポリイソプレン)、合成ゴム(スチレンゴム、ブタジエンゴム等)、カーボンブラック、オイル、その他の添加剤を含み、硫黄架橋された自動車のゴムタイヤを、処理対象2とした。そのゴムタイヤの密度は、1.5g/cmである。その処理対象2に対して、電子ビームインパルスを照射した。その電子ビームインパルスを生成する条件は次の通りである。なお、電子ビームインパルスの直径は33mmであり、その電子ビームインパルスが処理対象2のゴムタイヤに照射された際には、直径が87mmであった。
供給電圧:1MeV
電流:1000A
電子ビームインパルスの照射時間:200〜300ns(ナノ秒)
周波数:1000Hz
電子ビームインパルスの照射エネルギー:300J
【0038】
そのようにして電子ビームインパルスを照射し、硫黄で架橋されたゴムの分子切断を行うことができ、前述の化学式で示されるエラストマーのポリマーと、合成ゴムのポリマーと、カーボンブラックやオイル、その他の添加剤が生成された。なお、200〜300nsごとの電子ビームインパルスの照射によって、約3gの硫黄で架橋されたゴムの分解が認められた。
【0039】
以上のように、本実施の形態によるエラストマー製造装置100によれば、処理対象2であるシスポリイソプレンに対して電子ビーム3を照射することによって、シスポリイソプレンに化学反応を起こし、上記した化学式で示されるエラストマーを製造することができる。そのエラストマーは、繰り返し単位の分子量がシスポリイソプレンよりも大きいことから、耐熱温度がシスポリイソプレンよりも高いことになる。したがって、シスポリイソプレンから、シスポリイソプレンよりも優れた性質(耐熱性)を有するエラストマーを製造できたことになる。また、上記した化学式で示されるエラストマーは、シスポリイソプレンよりも、圧縮強度や耐久性、耐薬品性等が優れているものである。
【0040】
(実施の形態2)
本発明の実施の形態2によるエラストマー製造装置について、図面を参照しながら説明する。本実施の形態によるエラストマー製造装置は、大気中に存在する処理対象に対して電子ビームを照射するものである。
【0041】
図3は、本実施の形態によるエラストマー製造装置200の構成を示すブロック図である。本実施の形態によるエラストマー製造装置200は、カソード1と、電圧生成器6と、カソード1を内部に収容可能な真空チャンバ50とを備える。なお、真空チャンバ50が、接地された窓4を備えており、その窓4を介して放出された電子ビーム3を、真空チャンバ50の外部に存在する処理対象2に対して照射する以外は、実施の形態1と同様であり、その説明を省略することがある。
【0042】
カソード1は、窓4を介して電子ビーム3を処理対象2に照射する。そのカソード1が、処理対象2に電子ビーム3を集中させて照射できる形状であってもよいことや、カソード1が、熱カソード、酸化物カソード、またはタンクカソードであってもよいこと、カソード1が、エクスプローディングカソード、または冷カソードであってもよいことは、実施の形態1と同様である。また、カソード1は、プラズマカソードや、酸化熱カソード、ディスペンサー(dispenser)タイプのカソードであってもよい。また、電圧生成器6も、実施の形態1と同様のものである。すなわち、電圧生成器6は、電圧を発生してカソード1に供給するものである。本実施の形態でも、電圧生成器6がインパルス生成器である場合について主に説明する。
【0043】
真空チャンバ50は、電子ビーム3が通過可能な窓4を有する以外、実施の形態1の真空チャンバ50と同様のものである。窓4は、カソード1から出射された電子ビーム3を外部に通過可能な金属薄膜である。その金属薄膜は、例えば、チタンの薄膜であることが好適である。その金属薄膜は、例えば、アルミニウムや、チタンルテニウム(チタンとルテニウムの合金)等のチタン以外の薄膜であってもよいが、アルミニウムの場合には性能が落ちることになる。なお、金属薄膜がチタンの薄膜である場合に、その厚さは、10〜30μmであることが好適である。また、その窓4によって、照射される電子ビーム3のエネルギーの分散を最小限(5〜10%)に抑えることが可能となりうる。また、窓4は、単一素材であってもよく、複合層を有する積層素材であってもよいが、接地するための導電性の層を少なくとも有するものである。なお、図3では、真空チャンバ50の窓4と、それ以外の部分とを区別するために、窓4を他の部分よりも厚く描いているが、これは説明の便宜上であって、通常、窓4のほうが、他の部分よりも薄くなる。後述する図4においても同様である。
【0044】
本実施の形態では、処理対象2は、真空チャンバ50の外部に存在することになる。したがって、実施の形態1の場合のように、処理対象2を真空チャンバ50の中に置いてから、真空チャンバ50の内部雰囲気を真空にする、という処理が必要なくなり、真空チャンバ50の内部雰囲気をはじめから真空にすることができる。その結果、処理対象2に電子ビーム3を照射するまでの時間を短縮することができる。なお、処理対象2は、実施の形態1の場合と同様に、処理の行われる表面が接地されているものとする。また、窓4は、接地されている。
【0045】
図4は、エラストマー製造装置200の構成の他の一例を示す図である。より高いパワー密度が要求される場合には、図4で示されるように、処理対象2にエネルギーが集中されるように、カソード1の形状を、処理対象2に電子ビーム3を集中させて照射できる形状にしてもよい。なお、そのカソード1の形状(厳密には、カソード1における電子ビーム3を出射する面の形状)に合わせて、窓4の形状も変形させてもよい。すなわち、カソード1の電子ビーム3を出射する面と、窓4の面とが相似形であってもよい。具体的には、カソード1の電子ビーム3を出射する面と、窓4との距離が均一になるように、窓4の形状を設定してもよい。
【0046】
また、高出力になると、窓4の温度が高くなる。したがって、それを冷却するために、図4で示されるように、エラストマー製造装置200は、窓4に送風を行う送風部14をさらに備えてもよい。送風部14は、窓4に送風することによって、窓4の温度を下げるものである。送風部14は、高速エアーを窓4に送風してもよい。送風部14は、図4で示されるように、窓4の外側に対して送風することによって、窓4を空冷するものである。
【0047】
図5は、エラストマー製造装置200の構成の他の一例を示す図である。図5のエラストマー製造装置200において、処理対象2の表面は、金属ブラシ18によって、アースに接続されている。また、電子ビーム3は、窓4を介して照射される。また、送風部14からは、超高速(例えば、200m/s)のエアーインジェクション(送風)がなされ、窓4を冷却する。本実施の形態によるエラストマー製造装置200のように、大気圧状況に処理対象2が存在する場合には、電圧生成器6としては、Induction Adderタイプのものが好適である。その電圧生成器6において、カソード1に接続された支柱13は、金属管であり、カソード1と反対側の先端はアースに接続される。また、絶縁チューブ20は、例えば、ガラスやセラミック製のものであり、真空チャンバ50内の真空雰囲気の気密性を保つために用いられる。なお、真空チャンバ50は、アースに接続されている。絶縁チューブ20の中心軸に沿って、複数のインダクター(電磁石)11が並べて設置されている。各インダクター11において、積層状の磁気コア12に銅線が巻かれている。その積層状の磁気コア12は、例えば、アモルファス(非結晶質の薄層)が積層されたものであってもよい。各インダクター11への給電は、インパルスジェネレータ10から同軸ケーブル9を介して行われる。例えば、図5では、12個のインダクター11から構成されているため、もし1.2MVの出力を望むのであれば、インパルスジェネレータ10は、インパルスの振幅が100kVであり、電流がカソード1から照射される電流と等しいインパルスを生成する。例えば、その電流は2kAであってもよい。また、同軸ケーブル9のインピーダンスは50Ωであり、インパルスジェネレータ10も同じく50Ωであってもよい。
【0048】
窓4を空冷する送風部14は、フィルターにかけられた圧縮空気や、窒素ガス、ヘリウムガス、水素ガスなどのガス23を、窓4に接するように超高速で循環させてもよい。また、カソード1を取り付けた支柱13は、底の金属板22に接続されている。また、その金属板22と、真空チャンバ50の筐体とをつなぐトラス棒21を介して、戻り電流が流れることになる。カソード1は、熱カソードであり、その熱カソードを温める方法は、ヒータケーブルを、カソード1を支える支柱13の中に通し、アースの電極と、カソード1がインパルスする高電圧で簡単に行うことができる。窓4は、前述のように、10〜30μmのチタンの薄膜を使用し、2〜4cm幅の湾曲したシリンダ形状であってもよい。
【0049】
処理対象2は、前述のように、シスポリイソプレンを含むものであれば、どのようなものであってもよい。例えば、処理対象2は、天然ゴムであってもよく、シスポリイソプレンを含む合成ゴムやゴムタイヤ等であってもよい。
【0050】
以上のように、本実施の形態によるエラストマー製造装置200によれば、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。さらに、実施の形態1のように、処理対象2を真空中に置かなくてもよいため、処理を開始するまでの作業が簡易なものとなり、作業性が向上することになる。また、実施の形態1の場合であれば、真空チャンバ50に入る大きさの処理対象2に対してのみ処理を行うことができたが、実施の形態2の場合には、そのような制限もなくなる。
【0051】
また、上記各実施の形態で生成されたエラストマー(ゴム)は、例えば、自動車のタイヤや、飛行機のタイヤ、ゴム製品全般等で用いることができる。
【0052】
また、上記各実施の形態では、真空チャンバ50の内部に電圧生成器6も含まれる場合について主に説明したが、電圧生成器6の全部または一部は、真空チャンバ50の外に存在してもよいことは言うまでもない。
【0053】
また、上記各実施の形態において、電子ビーム3が、電子ビームインパルスであってもよく、あるいは、電子ビームインパルスではない電子ビームであってもよいことは前述の通りである。なお、電子ビーム3が電子ビームインパルスであるほうが、より好適な効果が得られることも前述の通りである。電子ビーム3が電子ビームインパルスでない場合には、その電子ビーム3をゴムタイヤに照射した場合に、タイヤの形状をそのままとどめることになるため、そのタイヤを粉砕する工程が別途必要になる。一方、電子ビーム3が電子ビームインパルスである場合には、そのような工程は必要ない。
【0054】
また、上記各実施の形態において、各構成要素等で用いられる情報、例えば、電圧の値や、周波数の値等がユーザによって変更されてもよい場合には、上記説明で明記していない場合であっても、ユーザが適宜、それらの情報を変更できるようにしてもよく、あるいは、そうでなくてもよい。それらの情報をユーザが変更可能な場合には、その変更は、例えば、ユーザからの変更指示を受け付ける図示しない受付部と、その変更指示に応じて情報を変更する図示しない変更部とによって実現されてもよい。その図示しない受付部による変更指示の受け付けは、例えば、入力デバイスからの受け付けでもよく、通信回線を介して送信された情報の受信でもよく、所定の記録媒体から読み出された情報の受け付けでもよい。
【0055】
また、本発明は、以上の実施の形態に限定されることなく、種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0056】
以上より、本発明によるエラストマーの製造装置や製造方法等によれば、シスポリイソプレンからエラストマーを製造できるという効果が得られ、エラストマーを製造する装置や方法等として有用である。
【符号の説明】
【0057】
1 カソード
2 処理対象
3 電子ビーム
4 窓
5 アノード
6 電圧生成器
9 同軸ケーブル
10 インパルスジェネレータ
11 インダクター
12 磁気コア
13 支柱
14 送風部
18 金属ブラシ
20 絶縁チューブ
21 トラス棒
22 金属板
23 ガス
50 真空チャンバ
100、200 エラストマー製造装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電圧を発生させる電圧生成器と、
前記電圧生成器に接続され、表面が接地された、(C)の繰り返し単位により構成されているシスポリイソプレンに対して電子ビームを照射するカソードと、を備え、
前記シスポリイソプレンに対して電子ビームを照射することによって下記化学式で表される繰り返し単位により構成されているエラストマーを製造するエラストマー製造装置。
【化1】

〔式中、Rのうち、いずれか一つはメチル基を示し、その他は水素原子を示す。〕
【請求項2】
前記電圧生成器は、負電圧を周期的に発生させ、
前記カソードは、前記シスポリイソプレンに対して電子ビームインパルスを照射する、請求項1記載のエラストマー製造装置。
【請求項3】
前記カソードと前記シスポリイソプレンとを内部に収容可能であり、内部雰囲気を真空に保持可能な真空チャンバをさらに備えた、請求項2記載のエラストマー製造装置。
【請求項4】
前記カソードを内部に収容可能であり、内部雰囲気を真空に保持可能な真空チャンバをさらに備え、
前記真空チャンバは、前記カソードから出射された電子ビームインパルスを外部に通過可能な、金属薄膜である窓を有し、
前記シスポリイソプレンは、前記真空チャンバの外部に存在し、
前記カソードは、前記窓を介して電子ビームインパルスを前記シスポリイソプレンに照射する、請求項2記載のエラストマー製造装置。
【請求項5】
電圧を発生させる工程と、
発生された電圧によってカソードから電子ビームを、表面が接地された、(C)の繰り返し単位により構成されているシスポリイソプレンに対して照射する工程と、を備え、
前記シスポリイソプレンに対して電子ビームを照射することによって下記化学式で表される繰り返し単位により構成されているエラストマーを製造するエラストマー製造方法。
【化2】

〔式中、Rのうち、いずれか一つはメチル基を示し、その他は水素原子を示す。〕
【請求項6】
下記化学式で表される繰り返し単位により構成されているエラストマー。
【化3】

〔式中、Rのうち、いずれか一つはメチル基を示し、その他は水素原子を示す。〕

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−21073(P2012−21073A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−159349(P2010−159349)
【出願日】平成22年7月14日(2010.7.14)
【出願人】(510194220)
【出願人】(510194231)
【出願人】(510193979)
【出願人】(510193980)
【Fターム(参考)】