説明

エリスロアスコルビン酸の製造方法

【課題】アスコルビン酸の代替として有用なエリスロアスコルビン酸を高変換率で効率よく製造する。
【解決手段】アスコルビン酸を、アスコルビン酸分解能を有する真菌、好ましくはペニシリウム属、特に、ペニシリウムNo.196F(FERM P−20598)と接触させ、前記接触によって得られたエリスロアスコルビン酸を採取する。このとき、真菌は、固定化担体に固定化されていてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エリスロアスコルビン酸の製造方法に関し、特に微生物を用いたエリスロアスコルビン酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エリスロアスコルビン酸は、ビタミンC(アスコルビン酸)の酸化分解によって得られるビタミンC誘導体の1種である(非特許文献1を参照)。また、カビ及び酵母においてビタミンC様化合物として作用しており、特に、ビタミンCと同様に抗酸化作用があり、またビタミンCよりも安定性が高いので、ビタミンCに代わる物質として期待されている(例えば、非特許文献2〜4)。
しかしながら、エリスロアスコルビン酸の化学合成(例えば非特許文献2及び5)は、複雑でコスト高を招き、効率的ではない。また、酵母を用いてエリスロアスコルビン酸を生成させることもできるが、そもそも酵母におけるエリスロアスコルビン酸の生成量は微量(例えば非特許文献6)であるため、大量生産には向かない。
一方、酵母におけるエリスロアスコルビン酸生合成の最終ステップに関与するD−アラビノノ−1,4−ラクトンオキシダーゼを大腸菌に機能的に組み込んで生成させる系では、大腸菌においてエリスロアスコルビン酸を生成することができる(例えば非特許文献7)。しかしながら、得られるエリスロアスコルビン酸は大腸菌の菌体内に蓄積されるため精製が容易でなく、生産量自体も178μg/g菌体程度に過ぎない。
【非特許文献1】Arch Biochem. Biophys., 355,9-14 (1998)
【非特許文献2】J. Agric. Food Chem., 41, 1391-1396 (1993)
【非特許文献3】Mol. Microbiol., 30, 895-903 (1998)
【非特許文献4】Infect. Immun., 69, 3939-3946 (2001)
【非特許文献5】Carbohydr. Res., 220, 117-125 (1991)
【非特許文献6】Biochim. Biophys. Acta., 1429, 29-39 (1998)
【非特許文献7】Appl. Emviron. Microbiol., 65, 4684-4687 (1999)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
このようにエリスロアスコルビン酸を生成するために化学合成、生合成の両面から検討・開発されているが、いずれも工業的な生産という観点から充分ではない。
従って、本発明の目的は、エリスロアスコルビン酸を効率よく製造可能なエリスロアスコルビン酸の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明のエリスロアスコルビン酸の製造方法は、アスコルビン酸を、アスコルビン酸分解能を有する真菌と接触させること、前記接触によって得られたエリスロアスコルビン酸を採取すること、を含むものである。
ここで、前記アスコルビン酸分解能を有する真菌は、ペニシリウム属、アスペルギルス属、ケトミウム属(Chaetomium)、ペシロミセス属(Paecilomyces)、ユーペニシリウム(Eupenicillium)属、フザリウム(Fusarium)属、モナスカス(Monascus)属及びドレクスレラ(Drechslera)属から成る群より選択された菌であるが好ましく、このうちペニシリウム属、特にペニシリウムNo.196F(FERM P−20598)であることが更に好ましい。
また、前記真菌が、固定化担体に固定化されていてもよい。
【0005】
本発明では、アスコルビン酸分解能を有する真菌が、アスコルビン酸と接触して、これを代謝すると、高い効率でアスコルビン酸をエリスロアスコルビン酸に変換する。この結果、生成されたエリスロアスコルビン酸は菌体外へ放出されるので、エリスロアスコルビン酸の回収と精製が容易になる。また真菌によるエリスロアスコルビン酸の生成能は、通常の酵母と比較して顕著に高い。従って、この真菌を用いることによって、エリスロアスコルビン酸から効率よくエリスロアスコルビン酸が得られることが見出された。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、エリスロアスコルビン酸を、アスコルビン酸とペニシリウム属の真菌とを接触させることにより製造するので、エリスロアスコルビン酸を効率よく製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明のエリスロアスコルビン酸の製造方法は、アスコルビン酸を、アスコルビン酸分解能を有する真菌と接触させること、前記接触によって得られたエリスロアスコルビン酸を採取すること、を含むものである。
【0008】
本製造方法で用いられる真菌は、アスコルビン酸分解能を有する菌であればよく、無性世代及び有性世代のいずれであってもよい。中でもアスペルギルス属、ケトミウム属(Chaetomium)、ペシロミセス属(Paecilomyces)、ユーペニシリウム(Eupenicillium)属、フザリウム(Fusarium)属、モナスカス(Monascus)属及びドレクスレラ(Drechslera)属から成る群より選択された真菌、特にペニシリウム属が好ましい。このようなペニシリウム属としては、ペニシリウムNo.196F(独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター 受託番号 FERM P−20598、2005年7月21日付で受領)が生成能の観点から特に好ましい。
【0009】
このペニシリウムNo.196Fは、土壌より分離した真菌であり、形態的な特徴は、以下の通りである。
培養的・形態的性質
(1)巨視的観察結果
a) ポテトデキストロース寒天培地での形態観察
コロニーの直径:30〜35mm
コロニー表面・裏面の色調:Greenish grey (29B-2)
表面性状:ビロード状
可溶性色素産生の有無:無
b) 2%麦芽寒天培地での形態観察
コロニーの直径:50〜53mm
コロニー表面・裏面の色調:Dark green(29F-8)〜Greenish grey (29B-2)
表面性状:ビロード状
可溶性色素産生の有無:無
c) オートミール寒天培地での形態観察
コロニーの直径:33〜35mm
コロニー表面・裏面の色調:Greyish green(29B-C-3)
表面性状:ビロード状
可溶性色素産生の有無:無
d) LCA培地(三浦培地)での形態観察
コロニーの直径:55〜65mm
コロニー表面・裏面の色調:Greyish green(29B-2)
表面性状:ビロード状
可溶性色素産生の有無:無
【0010】
e) ツァペック酵母エキス寒天培地(25℃)での形態観察
コロニーの直径:20〜22mm
表面性状:ビロード状〜羊毛状、放射状の溝を形成
可溶性色素産生の有無:無
f) ツァペック酵母エキス寒天培地(37℃)での形態観察
コロニーの直径:5〜9mm
コロニー表面の色調:White(1A-1)
コロニー裏面の色調:Light orange(5A-5)
表面性状:ビロード状
可溶性色素産生の有無:無
g) 麦芽エキス寒天培地での形態観察
コロニーの直径:35〜37mm
コロニー表面・裏面の色調:White(1A-1)
表面性状:羊毛状
可溶性色素産生の有無:無
h) 硝酸グリセロール寒天培地での形態観察
コロニーの直径:5〜6mm
コロニー表面・裏面の色調:White(1A-1)
表面性状:ビロード状
可溶性色素産生の有無:無
*色調のカッコ内は、Kornerup A. and Wanscher, J. H. (1978) Methuen handbook of colour, 3rd ed., Eyre Methuen, London, UK, pp.243で用いられている色のコード番号を示す。
【0011】
(2)微視的観察結果
栄養菌糸
菌糸は寒天表面上若しくは寒天内に形成され、無色、有隔壁菌糸の形成が認められた。
生殖器官
・分生子柄及び分生子形成細胞
上記a)〜d)の培地による形態観察では、分生子柄は規則的に分岐し、分生子柄の先端部から円筒状のメトレが形成され、その先に分生子形成細胞であるフィアライドが形成される二輪生、及びメトレが形成されない単輪生のペニシルスが観察された。フィアライドはアンプル状を示した。
また、上記e)〜h)の培地による形態観察では、分生子柄は栄養菌糸に直生し、分岐せず、柄の先端部にはやや膨らみが認められ、その先端に円筒形のメトレ(10〜15×2〜3μm)が形成され、メトレの先端に分生子形成細胞であるフィアライド(8〜10×2〜2.5μm)が形成される二輪生のペニシルスが主に観察された。
・分生子
上記a)〜d)の培地による形態観察では、分生子はフィアロ型分生子であり、フィアライドから鎖状に連なって形成され、卵形〜楕円形、細胞、表面は平滑或いはややいぼ状であった。
・有性生殖器官
上記a)〜d)の培地では、長期培養によるテレオモルフの形成は確認できない。
【0012】
本No.196Fの形態的特徴による分類学的性質に基づき、Arx, J. A. von (1981) The genera of fungi sporulating in pure culture 3rd edition, A. R. Gantner Verlag KG., Vaduz, Germany, pp.424、Barron, G. L. (1968) The genera of hyphomycetes from soil, The Williams & Wilkins Company, Baltimore, MD, USA, pp.364、Domsch, K. H., Gams, W. and Anderson, T.-H. (1993) Compendium of soil fungi, Volume I, IHW-Verlag, Eching, Germany, Reprinted, pp.860、Domsch, K. H., Gams, W. and Anderson, T.-H. (1993) Compendium of soil fungi and supplement, Volume II, IHW-Verlag, Eching, Germany, Reprinted, pp.405、Kiffer, E. and Morelet, M. (2000) The Deuteromycetes :Mitosporic fungi classification and generic keys, Science Publishers Inc., Enfield, NH, USA, pp.273、及びKirk, P. M., Cannon, P. F., David, J. C. and Stalpers, J. A. (2001) Dictionary of the fungi 9th edition, CAB International, Wallingfork, UK, pp.655 を参考に、分類・同定を行った結果、本No.196株は、ペニシリウム(Penicillium)属であると推察された。
【0013】
また上記e)〜h)において、ペニシルスは二輪生、フィアライドはアンプル形であり、メトレの長さがフィアライドに比べて長いという特徴が認めたこと、メトレが分生子柄先端の株から分岐するように形成されるペニシルスであることから、Pitt, J. I. (1979) The genus Penicillium and its teleomorphic states Eupenicillium and Talaromyces, Academic Press, London, UK, 634pp. に基づいて、ペニシリウム属のうちでも、Furcatum亜属、Divaricatum節の1菌種であると推察された。
【0014】
本発明に用いられる真菌の培養に用いられる培地は、真菌が生育することが知られている培地であればいずれでもよく、特に制限されない。例えば、ポテトデキストロース寒天培地(培地組成:馬鈴薯(200g)抽出液1000ml、グルコース20g、寒天20g)などの培地において25℃の好気条件下、静置培養で維持、増殖することができる。また液体培地及び固体培地のいずれであってもよいが、アスコルビン酸と接触させる際には生成物の回収の観点から液体培地であることが好ましい。なお、固体培地での培養後にアスコルビン酸製造のための液体培地に供する場合には、アスコルビン酸分解能を有する真菌を液体培地による前培養に供することが好ましい。
【0015】
液体培養に用いられる培地は、真菌が生育することが知られている培地であればいずれであってもよく、一例としては、グルコース2質量%、デンプン2質量%、乾燥ブイヨン0.5質量%、酵母エキス0.2質量%、大豆ミール0.5質量%、消泡剤0.01質量%による培地を挙げることができるが、菌の種類及び状態に応じて適宜変更可能である。
【0016】
本発明によるエリスロアスコルビン酸の生成は、生産用培地による本培養工程によって行われる。この本培養工程は、アスコルビン酸の添加前の非生産工程と、アスコルビン酸の添加後の生産工程とで構成されている。
本培養工程に使用される培地には、生産用の液体培地を用いることが好ましい。
このような液体培地は、通常、微生物による化合物生産に使用可能であることが知られている培地であればいずれであってもよく、上記前培養用の液体培地に対して各種無機栄養素、例えば硝酸ナトリウム、塩化カリウム、硫酸マグネシウムなどを含むものが用いられる。また生産用液体培地のpHは、一般に3〜9、好ましくは5〜6である。
また本培養は、上記生産用液体培地を用いて静置培養または振盪培養による。振盪培養を適用する場合には、真菌の培養で通常適用される速度で行えばよく、例えば高崎科学社製、TB−25S(振幅70mm)のロータリーシェーカーであれば、500ml容のフラスコ中100mlの培地量とした場合に30rpm〜240rpm、好ましくは160rpm〜200rpmとすることができる。培養の際の温度は、種々の温度における真菌の生育条件に応じて適宜設定することができるが、一般に4〜50℃、好ましくは15〜37℃、より好ましくは20〜30℃、最も好ましくは室温(25℃)である。4℃よりも低いとエリスロアスコルビン酸への変換が起こらない場合があり好ましくなく、一方50℃よりも高いと変換のための酵素活性が低下する場合があり、好ましくない。
【0017】
アスコルビン酸と接触させる際の菌体濃度は、真菌の種類又は生育状態によって異なるが、一般に、湿重量で0.01〜0.1g/mlである。但し、さらに増やすことも可能である。
【0018】
真菌と接触されるアスコルビン酸は、真菌と接触して代謝することができる形態であれば、粉体及び液体のいずれであってもよいが、真菌への取り込み量や生成されたエリスロアスコルビン酸の回収容易性の観点から液体であることが好ましい。アスコルビン酸溶液を得るための溶媒としては、いずれのものであってもよく、水、メタノール、エタノール等を挙げることができる。アスコルビン酸溶液の濃度は、真菌の種類及び生育状態によって異なるが、一般に、1mg/ml〜100mg/mlとすることができる。なお、アスコルビン酸溶液はpHを調整して、培地のpHと同様にpH3〜9、好ましくはpH5〜7とすることが好ましい。
【0019】
アスコルビン酸の添加量は、真菌の種類及び生育状態によって異なるが、一般に、0.1〜200mg/ml、より好ましくは0.1〜100mg/ml、更に好ましくは3〜30mg/mlの量で培養系に添加すればよい。0.1mg/mlよりも少ないとエリスロアスコルビン酸が得られない場合があり、一方、200mg/mlを超えると変換が不完全になる場合があるため、それぞれ好ましくない。
【0020】
本培養工程のうち非生産工程は、使用される真菌の種類や前培養における菌の生育状態・数によって異なるが、一般に、生産用培地による本培養開始直後〜48時間、変換効率の観点から好ましくは10〜48時間、更に好ましくは18〜32時間行うことができる。48時間を超えると、アスコルビン酸からエリスロアスコルビン酸への変換効率が急激に低下して、エリスロアスコルビン酸を得ることができない場合があり、好ましくない。詳細は不明であるが、原料物質であるアスコルビン酸と生成物であるエリスロアスコルビン酸とは、それぞれこの培養系で分解していると考えられる。従って、高い変換効率でアスコルビン酸からエリスロアスコルビン酸を得るためには、特にエリスロアスコルビン酸の分解速度を抑えることが好ましい。非生産工程を上述した期間にすることによって、その後の生産工程におけるエリスロアスコルビン酸の分解速度を抑えることができると考えられ、その結果、高い変換効率でエリスロアスコルビン酸を得ることができる。
【0021】
生産工程は、培養系へアスコルビン酸が添加されることによって開始される。アスコルビン酸と真菌との接触時間は、すべてのアスコルビン酸がエリスロアスコルビン酸に変換されるまで継続することができ、真菌の種類及び培養状態によって異なるが、一般に10〜80時間、好ましくは24〜48時間であればよい。この間に、真菌がアスコルビン酸と接触してアスコルビン酸を代謝してエリスロアスコルビン酸に変換・生成し、菌体外へ放出する。なお、生産工程の継続時間は、アスコルビン酸からエリスロアスコルビン酸への変換状態によって適宜変更することができる。このような変換状態の確認は、例えば薄層クロマトグラフィーなどの既知の手段を用いて容易に行うことができる。
【0022】
培養系に放出されたエリスロアスコルビン酸は、採取工程によって採取される。このときエリスロアスコルビン酸を採取する方法としては、生産培地中に放出された化合物を回収又は精製できることが知られている手段であればいずれであってもよく、液体クロマトグラフィー(イオン交換クロマトグラフィー)、溶媒抽出、結晶化等を挙げることができる。生成物の回収・精製は、回収効率の観点から2段階以上の多段階で行うことが好ましい。
各採取手段を使用する前には、培養系から菌体を除去することが好ましい。菌体の除去には、濾過等を用いればよい。
得られたエリスロアスコルビン酸は、公知の化学分析、機器分析によって確認することができる。
【0023】
本発明のエリスロアスコルビン酸の製造方法において、真菌は、固定化担体に固定化されていてもよい。
この場合には、菌体が固定化担体に固定化されているので、真菌を培養する必要がなく、エリスロアスコルビン酸を、培地成分を含まない状態で生成・回収することができ、またエリスロアスコルビン酸と菌体との分離を容易に行うことができる。これにより、エリスロアスコルビン酸の分離・精製工程を簡略化することができる。
【0024】
ここで用いられる固定化担体としては、本発明にかかる真菌を固定化できるものであればよく、例えば、ガラス、シリカなどの無機材料や、例えば寒天、カラギーナンなどの有機材料を挙げることができる。これらの担体に対して真菌を固定化する方法は、当業界では公知であり、真菌の種類等に合わせて適宜選択することができる。
【0025】
固定化担体は、また真菌が固定化できればいずれの形態であってもよく、板状、球状、粉状などを挙げることができる。板状の場合には、アスコルビン酸溶液を固定化担体上に添加すればよく、また粉状の場合には、所定の容器に詰めてカラムを構成し、アスコルビン酸溶液をカラムに通せばよい。このような固定化担体とアスコルビン酸との接触形態の選択及び接触は、当業者には容易に実施することができる。
固定化担体への真菌の固定化は、真菌の種類等によって異なるが、一般に0.1〜500mg/ml、生産量の観点から好ましくは50〜300mg/mlの菌体密度で行うことができる。
【0026】
本発明の製造方法によれば、アスコルビン酸からエリスロアスコルビン酸へ高い効率で変換することができ、通常、アスコルビン酸100mgから50〜80mgのエリスロアスコルビン酸に変換することができる(60〜98モル%の変換効率)。このような高い変換効率は、これまでに報告がなく、本発明によって初めて得られたものである。なお、変換効率は本培養工程における非生産工程の長さによって変更することができる。
また、本発明によって得られるエリスロアスコルビン酸は、アスコルビン酸(ビタミンC)よりも安定性が高く、同様の抗酸化作用を持つことが知られている。このため、本発明では、効率よく生産されたエリスロアスコルビン酸を、アスコルビン酸の代替品として広範な用途に安価に供給することが可能となる。
【実施例】
【0027】
以下に本発明の実施例について説明するが、これに限定されるものではない。また実施例中の%は、特に断らない限り、重量(質量)基準である。
【0028】
[実施例1]
ペニシリウムNo196Fによるアスコルビン酸の生成
千葉県館山市沖ノ島公園で採取した土壌から、ビタミンC分解能に基づいて、真菌ペニシリウムNo.196F株を選別した。
この真菌を、下記に示す前培養培地100mlを含むバッフル付き500mlフラスコで、4日間25℃にて振とう培養(前培養)し、シードを得た。得られたシードを、下記に示す生産培地100mlを含むバッフル付き500mlフラスコに対して、5ml添加して、1日25℃で振とう培養した。
この培養液に、ビタミンC溶液(100mg/ml;3M NaOHでpH6に調整)を15ml添加し、24時間25℃で振とう培養した。ビタミンCからエリスロアスコルビン酸への変換の様子は薄層クロマトグラフィー(メルクシリカゲル60 F254、展開溶媒:クロロホルム−メタノール−酢酸(5:4:1))で確認できた。
【0029】
【表1】

【0030】
培養後、フラスコ2本の培養液を吸引ろ過して菌体を除去後、得られたろ液200mlに1.8LのMeOHを添加した。この操作で淡黄色の不溶物(約50ml)が生じたが、これも合わせて次の操作に用いた。
この抽出液を2回のクロマトグラフィーにかけた。
1回目のアビセル(結晶性セルロース)カラムクロマトグラフィーは、アビセル(AVICEL;旭化成)をMeOHに懸濁して得られた直径35mm、高さ350mmのカラムとして使用した。これに上記抽出物を注入した。その後、700mlの80%MeOH、500mlの75%MeOHでカラムを順次展開した。転換物は素通り画分、および80%MeOH画分の前半に回収された。
転換物を含む画分をまとめて減圧濃縮した後に、残った水溶液を凍結乾燥により、粗精製物を得た。
【0031】
2回目のアビセルカラムクロマトグラフィーは、アビセルをクロロホルム−MeOH(9:1)に懸濁して得られた直径25mm、高さ600mmのカラムとして使用した。これに上記粗精製物の半量の懸濁液(60mlのMeOHに溶解後、540mlのクロロホルムと混合)を注入した。その後、250mlのクロロホルム−MeOH(9:1)、1Lのクロロホルム−MeOH(8:2)、800mlのクロロホルム−MeOH(7:3)で順次カラムを展開した。転換物はクロロホルム−MeOH(8:2)画分の半ばからクロロホルム−MeOH(7:3)画分の前半にかけて回収された。
【0032】
次いで、転換物を含む画分をまとめて減圧濃縮して0.4gの乾固物を得た。得られた乾固物を4mlのMeOHに溶解後、そのうちの1.2mlを4回に分けてInertsil PREP−ODSカラム(30×250mm;GL Science)を用いて分画した(40℃)。展開溶媒として0.1%(v/v)ギ酸水溶液−MeOHを用い、MeOH濃度をサンプル注入後0%から50%まで25分間で直線的に増加させた。流速は毎分15ml、検出は220nmの吸収を用いた。この条件で、保持時間7.3分から8.1分の画分を集めた(図1参照)。
その後、得られた画分をまとめて減圧濃縮後、残った水溶液を凍結乾燥し、21mgの精製標品を得た。
【0033】
[実施例2]
得られたエリスロアスコルビン酸の特性
NMRは、Alpha600(JEOL)を用い、H 600MHz, 13C 150MHz、50℃で測定した。サンプルは約10mg/mlのDMSO−d溶液とした。
MSは、SX−102A(JEOL)を用い、negative ion modeでグリセロールをマトリックスとして測定した。
UVは、320 spectrophotometer(Hitachi)を用いた。試料はMeOHに溶解した(25mg/ml)。
IRは、JIR−WINSPEC50(JEOL)を用いた。MeOHに溶解した試料50mgを岩塩に塗布して測定した。
旋光度は、DIP−360(JASCO)を用いた(20℃、Na)。試料はMeOHに溶解した(5mg/ml)。
結果を表2及び3、図2及び3に示す。
【0034】
【表2】

【0035】
【表3】

【0036】
これらの結果から、本方法によって得られた化合物は、純度の高い下記のL−エリスロアスコルビン酸であることは明らかであった。
【0037】
【化1】

【0038】
このように本発明によれば、アスコルビン酸と真菌、特にペニシリウムNo196とを接触させることにより、アスコルビン酸の代替として有用なエリスロアスコルビン酸を、効率よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本実施例にかかるクロマトグラフィーのチャートである。
【図2】本実施例にかかるIRスペクトルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスコルビン酸を、アスコルビン酸分解能を有する真菌と接触させること、
前記接触によって得られたエリスロアスコルビン酸を採取すること、
を含むエリスロアスコルビン酸の製造方法。
【請求項2】
アスコルビン酸分解能を有する真菌が、ペニシリウム属、アスペルギルス属、ケトミウム属、ペシロミセス属、ユーペニシリウム属、フザリウム属、モナスカス属及びドレクスレラ属から成る群より選択された菌であることを特徴とする請求項1記載のエリスロアスコルビン酸の製造方法。
【請求項3】
前記アスコルビン酸分解能を有する真菌がペニシリウム属であることを特徴とする請求項1記載のエリスロアスコルビン酸の製造方法。
【請求項4】
前記アスコルビン酸分解能を有する真菌が、ペニシリウムNo.196F(FERM P−20598)であることを特徴とする請求項1記載のエリスロアスコルビン酸の製造方法。
【請求項5】
前記真菌が、固定化担体に固定化されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載のエリスロアスコルビン酸の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−135445(P2007−135445A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−332139(P2005−332139)
【出願日】平成17年11月16日(2005.11.16)
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【出願人】(301068114)株式会社コスモステクニカルセンター (57)
【Fターム(参考)】