説明

エリスロポイエチンを発酵により製造する方法

本発明は、エリスロポイエチンを産生する真核細胞が灌流リアクター中で細胞の滞留下に培養される際に、エリスロポイエチンを連続的に発酵により製造する方法に関し、この場合には、培養上澄液中でのグルコース濃度は、灌流速度により、および細胞数は、細胞滞留率により調節され、および/またはバイオリアクターからの定義された量の細胞含有培地の排出は、予め定めた範囲内に調節される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エリスロポイエチン(EPO)を連続的に発酵により製造するための方法に関する。本方法は、この方法が細胞堆積部を備えた灌流リアクター中で実施され、この場合発酵プロセスが僅かに選択された測定パラメーターおよび調整パラメーターによってのみ、EPOに関連して選択された宿主微生物の生産性ならびにEPOの製品品質に好ましい影響が及ぼされるように制御されることを示す。
【0002】
エリスロポイエチン、略してEPOと呼称される、は、グリコ蛋白質であり、このグリコ蛋白質は、骨髄中の赤血球の形成を刺激する。EPOは、主に腎臓内で形成され、そこから血液循環路を経て目的地に到達する。腎臓機能不全の場合、損傷された腎臓は、殆んどEPOを産生しないかまたはそもそも全くEPOを産生せず、このことは、骨髄の菌種細胞から殆んど赤血球を生じない結果をまねく。このいわゆる腎臓貧血は、赤血球の形成を骨髄中で刺激する生理的量でEPOを投与することによって処置される。EPOの治療効果および使用は、例えばEckardt K.U.,Macdougall I.C,Lancet 2006,368,947−953,Jelkmann W.,Physiol.Rev.1992,72,449−489,Eschbach J.W.et al.,N.Engl.J.Med.,1987,316,73−78,欧州特許第0148605号明細書、欧州特許第0209539号明細書、欧州特許第0205564号明細書、Huang S.L.,PNAS 1984,2708−2712,Lai,P.H. et.al.,J.Biol.Chem.1986,261,3116−3121、ならびにDietzfelbinger H. et.al.,Manual Supportive Massnahmen und symptomorientierte Therapie,Tumorzentrum Muenchen,2001,70−77に詳細に記載されている。
【0003】
投与に使用されるEPOは、ヒトの尿から取得されることができるか、または遺伝子工学的方法によって製造されることができる。EPOは、ヒトの体内に極く微少量で含まれているので、治療的用途のために天然の源からEPOを単離することは、実際に不可能である。従って、遺伝子工学的方法は、前記物質を大量に産生する唯一の経済的方法を提供する。
【0004】
エリスロポイエチンを遺伝子組換えにより製造することは、エリスロポイエチン遺伝子を1984年に同定して以来、可能である。1990年の初頭以来、ヒトのエリスロポイエチンを含有する種々の医薬品が開発されており、この場合このエリスロポイエチンは、遺伝子工学的過程で遺伝子工学的に組み換えられて変化された真核細胞中で産生された。遺伝子組換えヒトエリスロポイエチンの製造は、なかんずく欧州特許出願公開第0148605号明細書および欧州特許出願公開第205564号明細書中に記載されている。
【0005】
数多くの蛋白質、例えばエリスロポイエチンまたはインターフェロンの作用については、いわゆるシアリル化度、即ち糖鎖を介して蛋白質を末端結合されたシアリン酸の含量が決定的に重要である。この場合には、一般に高いシアリル化度を有する蛋白質は、高い特異的活性を有する。このような蛋白質、例えばEPO、t−PA(組織プラスミノゲン活性化因子)または活性が特にシアリル化度に依存する血液凝固因子VIIIは、公知技術水準によれば、このように必要とされる、蛋白質の翻訳後グリコシル化またはシアリル化への状態にある哺乳動物細胞の培養で製造される。この場合、EPOの遺伝子組換え製造は、通常、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)宿主細胞中で行なわれる。このチャイニーズハムスター卵巣(CHO)宿主細胞は、早期には胎児子牛血清および多くの場合に牛インシュリンも添加された培地中で培養されたが、この培養は、今日では規則的に血清不含および蛋白質不含の培地中で行なわれている。こうして、ウシ蛋白質、ウシウィルス、ウシDNAまたは別の望ましくない物質での汚染の危険性は、排除される。このような血清不含および蛋白質不含の培地の内容物質は、当業者に公知である。この内容物質は、アミノ酸、脂肪酸、ビタミン、無機酸およびホルモンの種々の濃度での混合物からなり、この濃度は、例えば欧州特許第1481791号明細書およびWO 88/00967A1に提示されている。この場合、培地は、宿主細胞の成長速度、細胞密度、飜訳および転写に決定的な影響を及ぼし、ひいては特に遺伝子組換えにより製造された蛋白質のグリコシル化パターンおよびシアリル化パターンにも決定的な影響を及ぼす。即ち、一般に種々の製造業者によって提供されるような血清不含の培地、例えば培地MAM−PF2(特に、Bioconcept社, Allschwil, Schweiz在、によって販売されている)または培地DMEMおよびDMENU12(例えば、Invitrogen/Gibco社, Eggenstein, Deutschland在、によって提供されている)が使用される。
【0006】
原則的に、組換え蛋白質、例えばEPOを産生するための宿主細胞を培養する3つの異なる処理形式は、区別することができる。
【0007】
バッチ法の場合、培地および細胞は、培養の開始時にバイオリアクター中に導入される。培養が終結するまで、栄養物質は、供給もされないし、細胞は、発酵槽から除去もされずに、単に酸素だけが供給される。1つ以上の基質が消費されると、このプロセスは、終結され、産生物が発酵上澄液から取得される。このバッチ法の変形は、いわゆる繰り返しバッチ法であり、この場合には、発酵の終結時に培養容量の一部分が接種剤としてバイオリアクター中に放置され、このリアクターは、中性培地で充填され、発酵プロセスは、再度開始される。
【0008】
バッチ法の1つの利点は、簡単な工業的変換可能性にある。しかし、一般に遺伝子組換え蛋白質を製造するための細胞の能力が、培地中での選択的な栄養物質の含量不足のため、ならびに細胞に対して毒性の代謝産物、例えばアンモニウムおよびラクテートの含量増加のために、完全には使用し尽くされないことは、欠点である。同様にバッチ発酵槽中で含量増加する産生物が、絶えず同様に含量増加する代謝性酵素に晒され、それによって産生物の品質および/または収量が不利に影響を及ぼされうることは、欠点である。Gramer M.J.et.al.,Biotechnology 1995,13.692−698の記載と同様に、これは、殊にいわゆるシアリダーゼにも当てはまり、このシアリダーゼは、既に形成されたグリコ蛋白質の末端シアリン酸を分解する能力を有し、それによって所望の高度にシアリル化されたグリコ蛋白質の収量は、低下する。更に、バッチ法の欠点は、細胞培養への制限された栄養物質供給のために時間的に制限された産生時間(典型的には5〜10日間の範囲内)とバイオリアクターの構築、清浄化および滅菌のための時間(典型的には4日間までの範囲内)を付加的に含む全サイクル時間との不利な比にある。
【0009】
第2の公知の培養方法は、絶えず新しい培地を供給し、および同じ程度に発酵内容物を取り出す連続的な方法である。即ち、栄養物質の不断の供給が生じ、この場合には、同時に望ましくない代謝産物、例えば成長抑制物質のアンモニウムおよびラクテートが除去されるかまたは希釈される。従って、この方法では高い細胞密度を達成することができ、比較的長い期間に亘って維持することができる。いわゆる透析リアクターは、連続的なプロセス実施の特殊な場合を表わし、この場合高分子量物質、例えば蛋白質は、発酵槽中で滞留され、一方、低分子量物質、例えば基質は、供給されうるか、または主要な廃棄産生物のアンモニウムおよびラクテートは、系から除去されうる。連続的な方法の前記利点と共に、殊に細胞滞留系の汚染物質(典型的には、メンブランフィルターの清浄化を困難にする)による汚染ならびにメンブランを完全に閉塞するまでの貫流の減少をまねきうる、プロセス経過中のフィルター表面上での細胞材料の堆積の比較的高められた危険性に関連する欠点が明らかになる。他の選択可能な方法によれば、超音波で支持された滞留系が提供され、この滞留系中で細胞は、存在する超音波によって発酵リアクターからの流出部で阻止され、メンブランフィルターは、もはや使用される必要はない。
【0010】
種々の細胞滞留系を備えた、化合物および蛋白質を微生物学的に製造する灌流リアクターの使用は、一般に公知であり、EPOにも記載されている(BioProcess International 2004, 46, Gorenflo et al., Biotech. Bioeng. 2002, 80, 438; www.sonosep.com/biosep.htm;WO 95/01214)。
【0011】
これに関連して、例えばWang M.D.et.al.,Biotechnology and Bioengineering 2002,77(2),194−203によって種々の系が討論され、この場合細胞は、マクロ多孔質ビーズ上に結合され、細孔によって大きな表面積を装備させることができ、このことは、高い細胞密度を生じる。栄養物質の管理は、新しい培地の連続的な供給によって行なわれ、この場合には、同時に細胞で成長されたビーズは、上向きに流入される。ビーズの代わりに、ポリエステル小板(直径約1cm)も攪拌釜に梱包することができ、新しい培地と一緒に連続的に貫流することができる(Jixian D. et. al., Chinese Journal of Biotechnology 1998. 13 (4), 247-252)。
【0012】
勿論、そのための前提条件は、細胞が粘着して成長することである。キャリヤーを装備することは、如何なる種類および化学組成であるのかとは無関係に、内部状態がもはや正しく管理されないように細胞が緊密に成長する可能性があり、そこに装備された細胞が産生を調節するかまたは望ましくない代謝物も、この代謝物が十分には導出されず、ひいては製品品質に不利な影響を及ぼしうるように高度に放出されるという欠点を有する。
【0013】
最後に、第3の可能な方法は、流加発酵(Fed-Batch-Fermentation)であり、この場合培養は、一部分だけが培地で充填された発酵槽中で開始され、短い成長段階後に次第に新しい培地が添加される。それによって、バッチ法よりも高い細胞密度および長いプロセス時間が可能になる。更に、この方法の利点は、細胞の代謝が栄養補給(Zufuetterung)の程度により影響を及ぼされうることであり、このこととは、廃棄物質の僅かな産生を生じうる。この場合、連続的な方法と比較して細胞の産生物は、長時間に亘って発酵槽中に蓄積され、それと共によりいっそう高い産生物濃度が達成され、それによって引続く後処理が簡易化される。勿論、これは、細胞の産生物が十分に安定しており、発酵槽中での数日間の滞留時間で酵素分解しないかまたは別の方法でも分解しないことを前提とする。更に、この方法の欠点は、バイオリアクター中での生理学的割合が濃縮された基質溶液の栄養補給によって不利に変化しうることである。
【0014】
哺乳動物細胞の培養の際の主要な問題は、栄養物質の分解産生物が細胞生理に対して臨界的範囲を超えて含量増加することなしに、細胞に十分な栄養物質を供給することである。動物細胞の主要なエネルギー源としては、グルコースおよびグルタミンが使用され、これらの主要な分解産生物のラクテートまたはアンモニウムは、高い濃度で前記細胞の成長および代謝を妨害し、細胞の壊死をまねく(Hasseil et al., Applied Biochemistry and Biotechnology 1991, 30, 29-41)。従って、動物細胞を培養する場合には、十分な栄養物質供給の際にラクテートおよびアンモニウムの蓄積を減少させ、それによってよりいっそう高い細胞密度およびよりいっそう高い産生物収量が達成されることは、好ましい。
【0015】
廃棄産生物の産生を減少させる1つの方法は、制御された基質添加にあり、この基質添加は、"異化作用の制御"とも呼称される。この場合には、発酵培地中に供給された、栄養物質の濃度による細胞代謝の依存性が利用される。グルタミンおよび/またはグルコースの制限された栄養補給は、ハイブリドーマ細胞の際にアンモニウムおよびラクテートの明らかに減少された産生を生じることが判明した(Ljunggren & Haggstrom, Biotechnology and Bioengineering 1994, 44, 808-818)。
【0016】
グルコース濃度を濃縮された培地の制御された添加によって適合させる流加培養(Fed-Batch-Kulturen)において、数時間後に"代謝シフト"とも呼称される、細胞代謝の変化を観察することができた。この"代謝シフト"は、培地中でグルコース濃度およびグルタミン濃度を数日間に亘って制限することによって開始され、僅かな栄養物質が細胞によって吸収され、および代謝されることを生じる。その後、培地中でのグルコースおよびグルタミンの含量は、上昇し、一方、廃棄物質のラクテートおよびアンモニウムの産生は、減少された使用量のために明らかに減少する(Zhou et al., Biotechnology and Bioengineering 1995, 46, 579-587)。"代謝シフト"は、ハイブリドーマ細胞の場合だけに観察されるのではなく、細胞系列、例えばSPO、HEK−293、BHKおよびCHOの場合も観察される。
【0017】
この"代謝シフト"により、同時に比較可能な長いプロセス時間の場合に1ミリリットル当たり107個を上廻る細胞の高い細胞密度を達成することができ、それというのも、廃棄産生物のラクテートおよびアンモニウムは、細胞成長を不利に調整する濃度では蓄積しないからである。この場合、栄養補給溶液が細胞の需要に適合されていることは、重要であり、"代謝シフト"の達成が保証され、一定の栄養物質の枯渇ならびに過剰の蓄積、ひいてはモル浸透圧濃度の著しい上昇が回避される(Xie und Wang, Biotechnology and Bioengineering 1994, 43, 1175-1189およびBiotechnology and Bioengineering 1996, 51, 725-729)。それにも拘わらず、さらに、遺伝子組換え蛋白質のグリコシル化のために基質としてのグルコースを細胞に十分に供給することは、重要なことである。
【0018】
供給された栄養物質の濃度を細胞の消費量に適合させうるために、一般には複雑な方法が使用され、細胞の目下の消費量が定められ、その後に栄養補給速度が要望通りに適合される。そのためには、なかんずく例えばフローインジェクション分析法によるグルコース濃度の測定または細胞の酸素消費量の測定が属する。
【0019】
即ち、例えば米国特許第6180401号明細書には、流加培養が開示され、この場合グルコース濃度は、連続的に測定され、培地中で栄養補給への適合によって測定値に依存して一定の範囲内に維持される。また、米国特許第2002/0099183号明細書の教示によれば、グルコースの栄養補給速度は、グルコース濃度により測定され、それによって培地中でのグルコース濃度は、一定の範囲内に維持される。
【0020】
培地中でのグルタミン濃度に依存する、要望通りの栄養物質供給は、供給原料−バッチ法(Fed-Batch-Verfahren)を基礎に欧州特許出願公開第1036179号明細書中に記載されている。
【0021】
WO 97/33973には、帯電した代謝産生物の産生を培地の導電率につき測定し、栄養補給速度を相応して適合させる培養法が開示されている。
【0022】
米国特許第5912113号明細書には、培地中での炭素源が消費され、それによって培地中での高められたpH値または高められた溶解酸素濃度が測定される場合に、常に栄養補給される、微生物のための発酵法が記載されている。
【0023】
また、先に議論された、培地組成物の形での栄養物質供給のような工業的プロセスのパラメーターと共に、異なる成長速度、産生運動、細胞活力、グリコシル化およびシアリル化のための翻訳後プロセシングで現れうる細胞系列特異的性質は、得られたEPOの産生物の品質ならびに発酵プロセスの全生産性にとって中心的な役を演じる。Lloyd D.R.et al.,Cytotechnology 1999,30,49−57の記載と同様に、例えば、産生する宿主細胞が存在するライフサイクルの段階に応じて、細胞代謝は、著しい差異を有し、本発明の場合には、殊にグリコシル化度およびシアリル化度に関連して異なる量および品質のEPOを形成することができる。
【0024】
EPOを真核細胞中で発酵により製造することは、記載された費用の掛かる方法、発酵上澄み中での典型的に比較的僅かな産生濃度ならびに高価な成分を有する、蛋白質不含および血清不含の培地の使用のために、極めて費用が掛かるので、効率的な産生法の開発は、著しく重要である。
【0025】
従って、本発明の工業的課題は、公知技術水準と比較してプロセス実施の簡易化ならびに高い価値のエリスロポイエチンの収量に関連して利点を有する、エリスロポイエチンを発酵により製造する方法を開発することであった。この場合、得られるEPOは、公式標準の全ての要件、殊にアイソホーム組成物およびグリコシル化パターンまたはシアリル化パターンに関連する全ての要件に対応するはずである(Ph. Eur. 04/2002:1316)。
【0026】
この工業的課題は、エリスロポイエチンを連続的に発酵により製造する方法によって解決され、この場合EPOを産生する真核細胞は、灌流リアクター中で細胞の滞留下に培養され、この場合グルコース濃度は、リアクター中で培地の灌流速度により調節され、細胞数は、リアクター中で予め定められた範囲内での細胞滞留率により調節される。
【0027】
好ましくは、エリスロポイエチンを連続的に発酵により製造するための本発明による方法において、
a)一面で、培地の灌流速度(調整パラメーターとして)は、発酵リアクター中でのグルコース濃度(測定パラメーターとして)に依存して調節され、
b)他面、細胞滞留装置の細胞滞留率(調整パラメーターとして)は、発酵リアクター中での細胞密度(測定パラメーターとして)に依存して適当な方法で予め定められた範囲内で調節される。
【0028】
b)に対して他の選択可能な方法またはb)と組み合わせた他の選択可能な方法によれば、時間間隔においても要望通りに定義された量の細胞含有培地をバイオリアクターから排出することができ、こうして一定の細胞密度をこのリアクター中で達成することができる。
【0029】
残りの該当するプロセスパラメーター、例えばpH値、温度、酸素分圧、攪拌速度ならびに供給された培地の組成は、発酵の全時間に亘って特に一定に維持される。
【0030】
記載された方法は、新たにエリスロポイエチンの産生収量ならびに産生品質を高めるための種々の手段を組み合わせている:
(1)灌流により、絶えず細胞毒性の代謝産生物が排出され、ならびに新しい栄養物質が供給され、したがってバイオリアクター中で極めて高い細胞密度が達成され、細胞は、極めて長時間に亘って産生する。
(2)灌流プロセスの場合に典型的に極めて高い消費量の高価な培地を減少させ、経済的に改善された産生プロセスを可能にするために、さらに、灌流速度は、培養上澄液中でのグルコース含量が実際に一面で効率的な細胞成長に必要な下限を下廻らないが、しかし、他面、細胞代謝で"代謝シフト"が生じ、毒性の代謝産物のラクテートおよびアンモニウムがなお減少された範囲でのみ産生され、それによって灌流の際になお微少量の新しい培地だけが排出されなければならないような形式に制限されているように選択される。
(3)その上、調整可能な細胞滞留システムの細胞滞留率を適当に調節すること、または定義された量の細胞含有培地を繰り返し排出することにより、発酵溶液中で、なお成長プラトーが達成されずに、なお指数的成長段階が存在し、特に公式標準に相当する高い価値のEPOを産生する能力を有する、高められた相対的割合の細胞での細胞集結を生じることができる。
【0031】
記載された手段、適当な細胞滞留率の調節または同時に適当な灌流速度を調節する際に定義された量の細胞含有培地の規則的な排出は、相乗作用を有し、したがって連続的な方法に対して極めて簡単で工業的に容易に実施可能なプロセスで極めて高い収量で極めて長い時間に亘って意外なことにエリスロポイエチンを取得することができ、この場合このエリスロポイエチンは、極めて高い含量で、薬局方の要件を、殊にグリコシル化度およびシアリル化度ならびにアイソホーム分布に関連して考慮に入れたEPOを有する。
【0032】
本発明によれば、グルコース濃度および細胞数の測定または監視は、連続的に行なうことができるか、または一定の時点で行なうことができる。特に、グルコース濃度および細胞数は、連続的に調節される。グルコース濃度は、灌流速度により、即ちグルコースを含有する新しい培地がグルコース濃度に依存して発酵リアクター中に添加されることにより調節される。
【0033】
請求項1に記載された好ましい方法において、培養上澄液中のグルコース濃度は、0.05〜1.5g/lの範囲内で調節され、細胞数は、1ml当たり細胞0.5×107〜5.0×107個の範囲内で調節される。
【0034】
更に、エリスロポイエチンを産生する真核細胞が哺乳動物細胞、有利にヒト細胞、特に有利にチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞であることは、好ましい。
【0035】
更に、1つの好ましい方法において、細胞は、特に段階なしに調整可能である超音波細胞滞留システムを使用しながら滞留される。
【0036】
更に、プロセスパラメーターのpH値、温度、酸素分圧、攪拌速度および培地組成が発酵の全時間に亘って技術的に必然的なずれの範囲内で一定に維持されることは、好ましい。
【0037】
本発明による方法の特に好ましい実施態様において、産生能力は、発酵上澄液1 l当たりエリスロポイエチン少なくとも10mg、特に少なくとも20mg、さらに有利に少なくとも25mg、殊に有利に少なくとも30mgである。特に、平均的な産生能力は、発酵上澄液1 l当たりエリスロポイエチン少なくとも10mg、特に少なくとも15mgである。
【0038】
更に、細胞1個当たり毎日の平均的な特殊な産生能力は、エリスロポイエチン少なくとも0.5pg、さらに有利に少なくとも1.0pg、特に有利に少なくとも1.2pg、殊に有利に少なくとも1.4pgである。
【0039】
本発明による方法を使用する場合、細胞の平均活力は、少なくとも70%、特に75%、特に有利に少なくとも80%、さらに有利に少なくとも90%、殊に有利に少なくとも95%である。
【0040】
本発明による方法は、特に0.5〜3、有利に1〜2.5、特に有利に1.5〜2.0の発酵中の灌流速度で実施される。
【0041】
好ましくは、本発明による方法は、少なくとも10日間、特に少なくとも20日間、特に有利に30日間、殊に有利に少なくとも40日間の期間に亘って実施される。
【0042】
更に、本方法の実施態様において、培養上澄液中のグルコース濃度は、有利に0.25〜1.25g/l、特に有利に0.5〜1.0g/lの範囲内で調節される。
【0043】
バイオリアクター中の細胞数は、有利に発酵培地1ml当たり細胞1.0×107〜4.0×107個、特に有利に細胞1.5×107〜3.0×107個の範囲内に調節される。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】図1は、本発明による方法で得られる、グルコース濃度または培養上澄液中でのEPO産生能力(EPO μg/ml)の時間的経過を示す線図である。
【図2】図2は、培養上澄液中での生体細胞数(vit.ZZ)およびEPO産生能力の時間的経過ならびに本発明方法による灌流の時間的経過を示す線図である。
【図3】図3は、培養上澄液中の細胞の全体数に対する生体細胞の百分率での割合の時間的経過および本発明方法による百分率での細胞滞留率の時間的経過を示す線図である。
【図4】図4は、本発明方法により得られる、培養上澄液中でのラクテート濃度またはグルタメート濃度の時間的経過を示す線図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
発明の詳細な記載(最適な実施態様)
本発明は、エリスロポイエチンを連続的に発酵により製造する方法に関し、この場合EPOを産生する真核細胞は、灌流リアクター中で細胞の滞留下に培養され、この場合グルコース濃度は、培養上澄液中で培地の灌流速度により調節され、細胞数は、細胞滞留装置の細胞滞留率および/または規則的な排出により定義された量の細胞含有培地により予め定められた範囲内で調節される。
【0046】
本発明によれば、段階なしに調節可能な超音波細胞滞留システムを備えた灌流リアクター中で、特にCHO細胞を用いてエリスロポイエチンを連続的に発酵により製造する方法で
a)一面で、培地の灌流速度(調整パラメーターとして)は、発酵リアクター中でのグルコース濃度(測定パラメーターとして)に依存して調節され、
b)他面、細胞滞留装置の細胞滞留率(調整パラメーターとして)は、発酵リアクター中での細胞密度(測定パラメーターとして)に依存して適当な方法で互いに予め定められた範囲内で調節されることにより、
発酵溶液中で、なお成長プラトーが達成されずに、なお指数的成長段階が存在する、高められた相対的割合の細胞での細胞集結が得られる。このような細胞は、特に公式標準に相当する高い価値のEPOを産生する能力を有する。
【0047】
適当な灌流速度に同時に調節する際に適当な細胞滞留率に調節する2つの手段は、相乗作用を有し、したがって連続的な方法に対して意外にも簡単で工業的に容易に実施可能なプロセスで発酵上澄液1 l当たり30mgまでの意外にも高い収量でEPOを取得することができ、この場合このEPOは、極めて高い含量で、薬局方の要件を、殊にグリコシル化度およびシアリル化度ならびにアイソホーム分布に関連して考慮に入れたEPOを有する。
【0048】
本発明によるCHO細胞系列に対して、灌流速度を調節することによって、0.05〜1.5g/l、有利に0.25〜1.25g/l、特に有利に0.5〜1.0g/lの培養上澄液中でのグルコース含量は、有利であることが証明された。灌流速度は、グルコース含量の測定に相応してリアクター中で調整される。これとの組合せにより、リアクター中での細胞密度は、超音波細胞滞留を相応して調節すること、または定義された量の細胞含有媒体を規則的に排出することにより、1ml当たり細胞0.5×107〜5.0×107個の範囲内で維持される。更に、1ml当たり細胞1.0×107〜4.0×107個の細胞密度、特に有利に1ml当たり細胞1.5×107〜3.0×107個の細胞密度は、好ましい。前記のパラメーター調節の制御は、リアクター中での細胞密度測定によって実現される。
【0049】
本発明によれば、別の全ての当該プロセスパラメーター、例えばpH値、温度、酸素分圧、攪拌速度および培地組成は、発酵の全時間に亘って特に一定に維持される。
【0050】
培養は、特に血清不含および蛋白質不含の培地中で行なわれる。このような血清不含および蛋白質不含の培地の内容物質は、当業者に公知である。この内容物質は、アミノ酸、脂肪酸、ビタミン、無機酸およびホルモンの種々の濃度での混合物からなり、この濃度は、例えば欧州特許第1481791号明細書およびWO 88/00967A1に提示されている。この場合、培地は、宿主細胞の成長速度、細胞密度、飜訳および転写に決定的な影響を及ぼし、ひいては特に遺伝子組換えにより製造された蛋白質のグリコシル化パターンおよびシアリル化パターンにも決定的な影響を及ぼす。本発明には、種々の製造業者によって提供されるような血清不含の培地、例えば培地MAM−PF2(特に、Bioconcept社, Allschwil, Schweiz在、によって販売されている)、培地DMEMおよびDMENU12(例えば、Invitrogen/Gibco社, Eggenstein, Deutschland在、によって提供されている)または培地HyQPF CHO Liquid Soy(特に、Hyclone/Perbio,Bonn,Deutschland在、によって提供されている)が使用された。
【0051】
本発明により製造されたEPOは、真核細胞中で製造された、有利に遺伝子組換えヒトエリスロポイエチンである。好ましくは、例えば一般に欧州特許出願公開第205564号明細書および欧州特許出願公開第14820605号明細書の記載と同様に、遺伝子組換えEPOは、哺乳動物細胞中、特に有利にヒト細胞中、殊に有利にCHO細胞中で製造される。
【0052】
エリスロポイエチン(EPO)は、本発明の範囲内で、エリスロポイエチン形成を骨髄中で刺激し、欧州薬局方(Ph. Eur. 04/2002:1316)に記載されたアッセイにより明らかにエリスロポイエチンとして同定することができる状態にある全ての蛋白質である(赤血球増加症または正赤血球症(normocythaemic)のマウスの活性の測定)。EPOは、野生型ヒトエリスロポイエチン、または1つ以上のアミノ酸交換体、アミノ酸欠失またはアミノ酸付加物を有する前記野生型ヒトエリスロポイエチンの変形であることができる。
【0053】
EPOの変形が問題である場合には、この変形がアミノ酸交換体、アミノ酸欠失またはアミノ酸付加物による野生型ヒトエリスロポイエチンのアミノ酸位置 単に1〜20、有利に単に1〜15、特に有利に単に1〜10、殊に有利に単に1〜5で区別されることは、好ましい。
【実施例】
【0054】

1ml当たり細胞0.44×106個を有するCHO細胞培養溶液を、10 lの容積で、Biosep 50(Applikon社)を装備した、10 lの灌流リアクター(Applikon社)中で接種し、培養パラメーターの維持下に3日間保持した。第4日目に、0.25倍の灌流で開始した。灌流速度を連続的にそれぞれ0.25回の工程で最大2.5倍になるまで上昇させ、次にそれぞれ測定されたグルコース濃度に相応してグルコース濃度の目的範囲(0.5〜1.2g/l)内に調節した。細胞数に対する目的範囲を、超音波装置へ細胞滞留率を適合させること、および相応する量の細胞含有培地を排出させることによって調節した。更に、発酵条件は、次の通りであった:
接種:1ml当たり細胞0.44×106
基礎培地:HyClone/Perbio社のHyQPF CHO Liquid Soy
反応容積:10 l
pH値:7.2
温度:37℃
酸素分圧:35%
攪拌速度:200rpm
細胞の滞留:Biosep 50
発酵時間:47時間。
【0055】
使用される基礎培地を蛋白質加水分解物(Becton Dickinson社のYeastolate、Kerry Bio Science社のHyPEP SR3)および痕跡要素(Lonza社のCHO 4A TE Sock)で含量増加した。
【0056】
発酵を分析パラメーターのEPO含量、グルコース含量、グルタミン含量、生体細胞の含量(絶対および相対)、細胞滞留率および灌流率に関連して記録した。このデータは、図1〜4に図示されている。
【0057】
発酵の進行中に粗製EPO12gの全体量と一緒に776 ;を取得した。産生能力は、1ml当たり細胞1.6×107個の平均細胞数の際に平均で15μg/mlであり、最大細胞数は、30μg/mlを超える最大産生能力の際に1ml当たり細胞2.6×107個であった。細胞1個当たりの毎日の特殊な産生能力は、1.4pgであり、平均灌流速度は、1.9であった。細胞活力は、76〜98%であった。Biosepシステムを用いての平均細胞滞留率は、85%であった(7〜97%)。
【0058】
生じた取得物を細胞不含になるまで濾過し、3〜4回のクロマトグラフィー工程からなる、当業者に公知の後処理および精製に掛けた。
【0059】
結果として、本発明による方法を用いて意外にも高い収量でエリスロポイエチンを取得することができ、この場合このエリスロポイエチンは、極めて高い含量で、薬局方の要件を、殊にグリコシル化度およびシアリル化度ならびにアイソホーム分布に関連して考慮に入れたEPOを有することが判明した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エリスロポイエチンを産生する真核細胞が灌流リアクター中で細胞の滞留下に培養される際に、エリスロポイエチンを連続的に発酵により製造する方法において、リアクター中でのグルコース濃度を培地の灌流速度により、およびリアクター中での細胞数を細胞滞留率により、予め定めた範囲内に調節することを特徴とする、エリスロポイエチンを連続的に発酵により製造する方法。
【請求項2】
a)培地の灌流速度をリアクター中でのグルコース濃度に依存して、予め定めた範囲内に調節し、および
b)細胞滞留装置の細胞滞留率をリアクター中での細胞密度に依存して、予め定めた範囲内に調節しおよび/またはリアクター中で一定の細胞密度に調節するために時間間隔で定義された量の細胞含有培地をリアクターから排出する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
エリスロポイエチンを産生する真核細胞を使用しながらの連続的で発酵による製造の場合には、有利にアミノ酸交換体、アミノ酸欠失またはアミノ酸付加物最大10個、特に有利に最大5個を有する野生型ヒトエリスロポイエチンの変形、特に有利にアミノ酸交換体、アミノ酸欠失またはアミノ酸付加物最大1個を有する変形であるエリスロポイエチンが得られる、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
培養上澄液中でのグルコース濃度を0.05〜1.5g/lの範囲内に調節し、細胞数を1ml当たり細胞0.5×107〜5.0×107個の範囲内に調節する、請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
エリスロポイエチンを産生する真核細胞は、哺乳動物細胞、有利にヒト細胞、特に有利にチャイニーズハムスター卵巣細胞である、請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
超音波滞留システムを使用しながら細胞を滞留させる、請求項1から5までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
発酵溶液は、なお指数的成長段階で存在する、高められた相対的割合の細胞を有する細胞集団を含有する、請求項1から6までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
プロセスパラメーターのpH値、温度、酸素分圧、攪拌速度および供給された培地の組成を、発酵の全時間に亘って一定に維持する、請求項1から7までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
産生能力は、発酵上澄液1 l当たりエリスロポイエチン少なくとも10mg、有利に少なくとも20mg、さらに有利に少なくとも25mg、殊に有利に少なくとも30mgである、請求項1から8までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
細胞1個当たり毎日の平均的な特殊な産生能力は、エリスロポイエチン少なくとも0.5pg、有利に少なくとも1.0pg、特に有利に少なくとも1.2pg、殊に有利に少なくとも1.4pgである、請求項1から9までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
細胞の平均活力は、少なくとも70%、特に少なくとも75%、特に有利に少なくとも80%、さらに有利に少なくとも90%、殊に有利に少なくとも95%である、請求項1から10までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
発酵中の灌流速度は、0.5〜3、有利に1〜2.5、特に有利に1.5〜2.0である、請求項1から11までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
本方法を少なくとも10日間、有利に少なくとも20日間、特に有利に少なくとも30日間、殊に有利に少なくとも40日間の期間に亘って実施する、請求項1から12までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
培養上澄液中のグルコース濃度を0.25〜1.25g/lの範囲内、有利に0.5〜1.0g/lの範囲内に調節する、請求項1から13までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
発酵リアクター内での細胞数を発酵培地1ml当たり細胞1.0×107〜4.0×107個、有利に細胞1.5×107〜3.0×107個の範囲内に調節する、請求項1から14までのいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2011−521660(P2011−521660A)
【公表日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−512115(P2011−512115)
【出願日】平成21年6月3日(2009.6.3)
【国際出願番号】PCT/EP2009/056820
【国際公開番号】WO2009/147175
【国際公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【出願人】(501073862)エボニック デグサ ゲーエムベーハー (837)
【氏名又は名称原語表記】Evonik Degussa GmbH
【住所又は居所原語表記】Rellinghauser Strasse 1−11, D−45128 Essen, Germany
【Fターム(参考)】