説明

エレクトレットおよびその製造法

【課題】常温ないし高温下でも高いトラップ電荷密度を有し、かつそのトラップ電荷密度の電荷(分極)保持性に優れ、かつ有機溶媒に可溶で広く一般的な商業用途に対応出来る高分子エレクトレット及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明のエレクトレットは、ミクロ相分離構造を示すブロック共重合体を含む樹脂組成物からなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロホン、ピックアップ、スピーカー等の音響機器の材料、電子複写や印刷の用途、医療用材料などのエレクトレットフィルター、エアーフィルターに使用されるエレクトレットおよびその製造方法に関し、特に、高い電荷密度を有し、表面電荷密度の保持性に優れる等、各種性能が良好な高分子エレクトレットおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特定の誘電材料を永久的に静電分極しうることは知られている。これらの材料は、材料を加熱し、高電圧電場を加え、そして電場の影響下で冷却することによって分極され、電場を除くと、電気的に分極した誘電材料が得られる。分極電場を除いた後、分極が長時間されるもの(永久電気分極作用を示す誘電体)がエレクトレットと呼ばれる。
【0003】
このようなエレクトレットは上記以外の様々な方法、例えばコロナ帯電、摩擦帯電またはその他の帯電方法(例えば、液体接触による)によってもつくりだすことができる。
【0004】
エレクトレットは、マイクロホン、ピックアップ、スピーカー等の音響機器の材料、電子複写や印刷の用途、医療用材料などの各種用途に利用されている。また、エレクトレットは、その使用態様に応じて、フィルム、シート、繊維、不織布等の様々な形態で用いられている。特に、エレクトレットを成形加工してなるエレクトレットフィルターは、サブミクロンのエーロゾルの除去に非常に効果的であることが知られ、エアーフィルター等の用途に広く使用されている。
【0005】
このエレクトレットとして、従来、種々の熱可塑性樹脂(無極性ポリマー、極性ポリマー)が知られており、ポリプロピレンまたはポリエチレンのようなポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステル、ポリカーボネートまたはポリアリーレート、ポリアクリレート、ポリアセタール、ポリイミド、セルロースエステル、シリコン樹脂、エポキシ樹脂、ポリスチレン、ポリ(4−メチルペンテン)、フルオロポリマー、ポリフッ化ビニリデンおよびポリフェニレンスルフィドのような重縮合体が用いられてきた。
【0006】
従来では、極性基含有化合物によりグラフト変性された変性無極性コポリマーおよびポリマーブレンド物のようなポリマーの組み合わせも適していることが提案されている(例えば特許文献1、2参照)。
【0007】
また、適切なエレクトレットポリマーの一般的な材料要件および性能特性についても文献に記載されている(例えば非特許文献1参照)。この文献の中で、ポリプロピレンまたはポリエチレンのようなポリオレフィン類およびポリカーボネート類は、化学的にも機械的にも安定性で、経済的でありそして非常にすぐれたエレクトレット性能を示すことが記載されている。しかしながら、電荷(分極)保持寿命がわずか数年程度と短く、エアーフィルターのような商業的な用途には満足なものとはなっている。
【0008】
一方、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)または過弗素化エチレン/プロピレンコポリマー(PFEP)のような特定の種類のフルオロポリマーは、電荷(分極)保持寿命が数十年ものがあり、すぐれたエレクトレット能を示し、低水分率で耐温度安定性に優れている。しかしながら、これらのポリマーは高価で、有機溶媒に難溶であるため用途が限定され、広く一般的な商業用途には不向きとなっている。
【0009】
特定の添加剤を使用してエレクトレットの性能の効率を改良することが試みられている。二酸化チタンを添加剤としたポリアリーレート(例えば非特許文献2参照)や、脂肪酸金属塩(ステアリン酸マグネシウムおよびパルミチン酸アルミニウム)を添加剤としたポリプロピレンのような絶縁ポリマー材料等エレクトレット能が向上することが報告されている(例えば特許文献3、4)。しかしながらポリマーの機械的性質および耐湿性が損なわれたり、エレクトレット効果の半永久的持続性も十分満足できるものには至っていない。
【特許文献1】特公昭59−23098号公報
【特許文献2】特開昭60−225416号公報
【特許文献3】特開昭60−196922号公報
【特許文献4】米国特許第4789504号公報
【非特許文献1】G.セスラー:Topics in Applied Physics、Vol,33、"Electrets"、Springer Verlag、ロンドン、1987年
【非特許文献2】Journal of Electrostatics、24(1990)、283-293
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上述した実情を考慮してなされたもので、常温ないし高温下でも高いトラップ電荷密度を有し、かつそのトラップ電荷密度の電荷(分極)保持性に優れ、かつ有機溶媒に可溶で広く一般的な商業用途に対応出来る高分子エレクトレット及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、請求項1に記載のエレクトレットの発明は、ミクロ相分離構造を示すブロック共重合体を含む樹脂組成物からなることを特徴とする。
【0012】
請求項2に記載の発明は、前記ブロック共重合体が極性高分子と非極性高分子との共重合体である請求項1記載のエレクトレットを特徴とする。
【0013】
請求項3に記載の発明は、前記極性高分子がポリアミド、ポリウレタン、シアノ系ポリマー、フッ素系ポリマー、アクリル系ポリマーを含む群から選択される高分子を含む請求項2記載のエレクトレットを特徴とする。
【0014】
請求項4に記載の発明は、前記ブロック共重合体が親水性高分子と疎水性高分子との共重合体からなる請求項1記載のエレクトレットを特徴とする。
【0015】
請求項5に記載の発明は、前記親水性高分子がエチレンオキサイド系ポリマー、エチレングリコール系ポリマー、ビニルピリジン系ポリマーを含む群から選択される高分子を含む請求項4記載のエレクトレットを特徴とする。
【0016】
請求項6に記載の発明は、前記ミクロ相分離構造を示すブロック共重合体の一方の相にのみ電子供与性低分子化合物を含む樹脂組成物からなる請求項1に記載のエレクトレットを特徴とする。
【0017】
請求項7に記載の発明は、前記ミクロ相分離構造を示すブロック共重合体の一方の相にのみ電子受容性低分子化合物を含む樹脂組成物からなる請求項1乃至6のいずれか1項に記載のエレクトレットを特徴とする。
【0018】
請求項8に記載の発明は、前記ミクロ相分離構造を示すブロック共重合体を含む樹脂組成物溶液を調合した後、塗布法またはキャスト法により薄膜またはフィルムを形成し、その後、上記樹脂組成物のガラス転移点以上で融点以下の温度でアニールしてミクロ相分離構造を形成した後、既知の方法にてエレクトレット化する請求項1乃至5のいずれか1項に記載のエレクトレットの製造法を特徴とする。
【0019】
請求項9に記載の発明は、電子低分子化合物とブロック共重合体とを含有する樹脂組成物溶液を調合した後、塗布法またはキャスト法により薄膜またはフィルムを形成し、その後、上記樹脂組成物のガラス転移点以上で融点以下の温度でアニールして一方の相にのみ電子低分子化合物を含むミクロ相分離構造を形成した後、既知の方法にてエレクトレット化する請求項6又は7記載のエレクトレットの製造法を特徴とする。
【0020】
請求項10に記載の発明は、ブロック共重合体を含有する樹脂組成物溶液を調合した後、塗布法、溶液浸漬法またはキャスト法により薄膜またはフィルムを形成し、その後、上記樹脂組成物のガラス転移点以上で融点以下の温度でアニールしてミクロ相分離構造を形成し、その後、電子低分子化合物を含有する溶液と接触させ、一方の相にのみ電子低分子化合物を含むミクロ相分離構造を形成した後、既知の方法にてエレクトレット化する請求項6又は7記載のエレクトレットの製造法を特徴とする。
【0021】
請求項11に記載の発明は、ブロック共重合体を含有する樹脂組成物溶液を調合した後、塗布法またはキャスト法により薄膜またはフィルムを形成し、その後、上記樹脂組成物のガラス転移点以上で融点以下の温度でアニールしてミクロ相分離構造を形成し。その後、電子低分子化合物を含む層を積層し加熱拡散させ、一方の相にのみ電子低分子化合物を含むミクロ相分離構造を形成した後、既知の方法にてエレクトレット化する請求項6又は7記載のエレクトレットの製造法を特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、ミクロ相分離構造を示すブロック共重合体を含む樹脂組成物からなるエレクトレットにより、ミクロ相分離構造を示すブロック共重合体を用いることにより、有機溶媒に可溶で高いトラップ電荷量を有する高分子エレクトレットが得ることが可能となる。
また、高いトラップ電荷密度、かつその電荷密度の保持性に優れるミクロ相分離構造を示すブロック共重合体を用いる高分子エレクトレットが得られ、高分子エレクトレットの特性を最も良く引き出す生産性に優れた製造方法が得られる。
【0023】
また、本発明のエレクトレットは、高いトラップ電荷密度を有し、かつそのトラップ電荷密度の電荷(分極)保持性に優れ、一般的な商業用途に対応出来、繊維状、フィルム状、シート状、チューブ状、管状、粉末状などの形状、織布、不織布などの、或いは他の材料、例えば熱可塑性樹脂と積層した形で利用することができる。得られるエレクトレット成形品は、電荷の長期保存性が優れているため、防塵フィルター、マイクロホンのような音響素子、計測素子、記憶素子、記録材料、塗料、医療材料などに使用でき、工業的に極めて価値がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
本発明者等は検討の結果、(1)ミクロ相分離構造を示すブロック共重合体を含む樹脂組成物をエレクトレット化することにより、本目的とするエレクトレットを得た。
さらに、(2)ブロック共重合体として、極性高分子と非極性高分子との共重合体、または親水性高分子と疎水性高分子との共重合体とすること、3)ミクロ相分離構造を示すブロック共重合体の一方の相にのみ電子供与性低分子、または電子受容性低分子を含む樹脂組成物とすることでより優れたエレクトレットを得るに至った。
【0025】
さらには、ミクロ相分離構造を示すブロック共重合体を含む樹脂組成物溶液を調合した後、塗布法またはキャスト法により薄膜またはフィルムを形成し、その後、上記樹脂組成物のガラス転移点以上で融点以下の温度でアニールしてミクロ相分離構造を形成した後、既知の方法にてエレクトレット化するエレクトレット製造法に関するものである。
【0026】
本発明で用いられるミクロ相分離構造を示すブロック共重合体は、互いに非相溶の2種以上のポリマーを組み合わせて合成する。その合成法としては、スチレン、イソプレン、α−メチルスチレン、クロロメチルスチレン、2ビニルピリジン、アミノスチレン、4−ビニルピリジン、メタクリレート類、ε−カプロラクトン、ブタジエン、ビニルメチルエーテル、1、3−シクロヘキサンジエン、エチレンオキシド等のモノマーを用い、鎖の末端から重合するリビング重合法(アニオン重合、リビングラジカル重合)や、鎖の中央から合成するリビング重合(アニオン重合)や、末端官能性ポリマーの末端を結合させる合成法(アニオン重合、リビングラジカル重合)があり、ミクロ相分離構造としては、球状、柱状、ラメラ状、共連続状もしくはその類似構造をとる。
【0027】
ブロック共重合体の具体例としては、ポリ(スチレン−b−イソプレン)、ポリ(スチレン−b−イソプレン−b−スチレン)、ポリ(スチレン−b−エチレンプロピレン)、ポリ(スチレン−b−エチレンプロピレン−b−スチレン)、ポリ(エチレンオキシド−b−プロピレンオキシド−b−エチレンオキシド)、ポリ(スチレン−b−ビニルピリジン−b−エチレンオキシド)、ポリ(スチレン−b−ビニルピリジン)、ポリ(スチレン−b−ビニルピリジン−b−スチレン)、ポリ(スチレン−b−メタアクリル酸)、ポリ(スチレン−b−ブチルメタアクリル酸)、ポリ(スチレン−b−ビニルピリジン−b−ブチルメタアクリル酸)、ポリ(スチレン−b−アクリル酸)、ポリ(スチレン−b−アクリル酸−b−メタアクリル酸) ( poly(styrene-b-acrylic acid-b-methacrylate))共重合体、あるいはポリアミドとビニルポリマーとのブロック共重合体、ポリイミドとオレフィンポリマーとのブロック共重合体などが挙げられる。
【0028】
ミクロ相分離構造を示すブロック共重合体は、高分子マトリックス内に高度に秩序化された均一形状からなるナノメートルサイズの相分離構造をとるためポリマー間の界面面積が、通常のホモポリマー、ランダム共重合体や2種以上のポリマーブレンドの系に比較し、極めて大きく、そのための高い界面トラップ電荷密度を有し優れたレクトレット性能を示す。
【0029】
さらにミクロ相分離構造を示すブロック共重合体を、極性高分子と非極性高分子との共重合体または親水性高分子と疎水性高分子との共重合体とすることでブロックホモポリマー間のエネルギーレベルを変えることが可能で、さらなる高い界面トラップ電荷密度とトラップ電荷密度の電荷(分極)保持性に優れる深い界面トラップレベルを制御できる。
さらには、このミクロ相分離構造の一方の相にのみ選択的に低分子化合物を導入することが可能なことが知られており、この現象を利用してミクロ相分離構造の一方の相にのみ電子受容性低分子化合物または電子供与性低分子化合物を含有させることにより、界面トラップ密度および界面トラップ深さを任意に制御することが可能となる。
【0030】
本発明は、上記現象を反映して発明されたものである。
ブロック共重合体化しうる極性高分子の具体的なポリマー例としては、ポリアミド、ポリウレタン、シアノ系ポリマー、フッ素系ポリマー、アクリル系ポリマー等が挙げられ、極性高分子の具体的なポリマー例としては、ポリオレフィン、ポリスチレンが挙げられる。
【0031】
ブロック共重合体化しうる親水性高分子の具体的なポリマー例としては、エチレンオキサイド系ポリマー、エチレングリコール系ポリマー、ビニルピリジン系ポリマー等が挙げられる。
電子受容性低分子化合物とは、-CX3(X=F,Cl),-NO2,-CN,-COR,-COOR,-SO2R,(R=H,アルキル基),-SO3H, -NH3,等の電子吸引基を有する低分子化合物を言う。
電子供与性低分子化合物とは、-OH,-OR,-OCOR,-NH2,-NR2,-NHR,-NHCOR,-R,(R=アルキル基、アリール基)等の電子供与基を有する低分子化合物を言う。
【0032】
本発明においては、上記ミクロ相分離構造を示すブロック共重合体をエレクトレット化したものをエレクトレットとして使用することもできるが、任意に他の熱可塑性樹脂を配合したものをエレクトレット化の原料として用いてもよい。
このような他の熱可塑性樹脂としては、各種ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ−1−ブテン、ポリ−4−メチル−1−ペンテンのようなポリオレフィン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体、エチレンビニルアルコール共重合体のようなエチレン共重合体、ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリスチレン、ABS系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフェニレンオキシド、ポリアセタール、ポリスルホン、ポリイミド、天然ゴム、合成ゴムなどを例示することができる。
【0033】
次に本発明はこのエレクトレットの製造方法についても開示する。
既に互いに非相溶の2種以上のブロック共重合体が、溶媒キャストもしくは温度変化によりミクロ相分離構造を形成することが知られている。
本発明は、既に知られているこの現象をもとに考案された。すなわちミクロ相分離構造を示すブロック共重合体を含む樹脂組成物溶液を調合し、塗布法またはキャスト法により薄膜またはフィルムを形成した後、上記樹脂組成物のガラス転移点以上で融点以下の温度でアニールしてミクロ相分離構造を形成する。
高分子マトリックス内に高度に秩序化された均一形状からなるナノメートルサイズの相分離構造が形成されることにより、ポリマー界面面積が大きくなり、そのための高い界面トラップ電荷密度が形成される。その後、既知の方法にてエレクトレット化する製造法である。
【0034】
ブロック共重合体を、極性高分子と非極性高分子との共重合体及び親水性高分子と疎水性高分子との共重合体とすることでブロックホモポリマー間のエネルギーレベルを変えることが可能で、さらなる高い界面トラップ電荷密度とトラップ電荷密度の電荷(分極)保持性に優れる深い界面トラップレベルも上記の方法により達成出来る。
【0035】
さらに、ミクロ相分離構造を示すブロック共重合体の一方の相にのみ電子受容性低分子化合物または電子供与性低分子化合物を含有させることにより、界面トラップ密度および界面トラップ深さを任意に制御することが可能で、その製造方法についても開示する。
【0036】
第一の製造方法は、このミクロ相分離構造の一方の相にのみ相溶性のある電子低分子化合物(電子受容性低分子化合物または電子供与性低分子化合物)とブロック共重合体とを含有する樹脂組成物溶液を調合した後、塗布法またはキャスト法により薄膜またはフィルムを形成し、その後、上記樹脂組成物のガラス転移点以上で融点以下の温度でアニールして一方の相にのみ電子低分子化合物を含むミクロ相分離構造を形成した後、既知の方法にてエレクトレット化する。ミクロ相分離構造の一方の相にのみ電子低分子化合物が含有された構造が形成される。
【0037】
第二の方法は、ブロック共重合体を含有する樹脂組成物溶液を調合し、塗布法またはキャスト法により薄膜またはフィルムを形成し、その後、上記樹脂組成物のガラス転移点以上で融点以下の温度でアニールしてミクロ相分離構造を形成した後、電子低分子化合物を含有する溶液と接触させ、一方の相にのみ電子低分子化合物を含むミクロ相分離構造を形成した後、既知の方法にてエレクトレット化する。同様にミクロ相分離構造の一方の相にのみ電子低分子化合物が含有された構造が形成される。
【0038】
第三の方法は、ブロック共重合体を含有する樹脂組成物溶液を調合し、塗布法またはキャスト法により薄膜またはフィルムを形成し、その後、上記樹脂組成物のガラス転移点以上で融点以下の温度でアニールしてミクロ相分離構造を形成した後、電子低分子化合物を含む層を積層し加熱拡散させ、一方の相にのみ電子低分子化合物を含むミクロ相分離構造を形成した後、既知の方法にてエレクトレット化する。同様にミクロ相分離構造の一方の相にのみ電子低分子化合物が含有された構造が形成される。
【0039】
ミクロ相分離構造を示すブロック共重合体を含む樹脂組成物をエレクトレット化するにあたり、種々の添加剤を配合することができる。このような添加剤として、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、染料、顔料、難燃剤、滑剤、ブロッキング防止剤、可塑剤、粘着付与剤、油、電荷制御剤、補強材、無機充填剤などを配合することができる。
【0040】
エレクトレット化処理は、特に制限されず、公知の種々の方法にしたがって行なうことができる。例えば、前記変性樹脂組成物を溶融または軟化するまで加熱し、直流高電圧を加えながら冷却してエレクトレット化する方法(熱エレクトレット化法);変性樹脂組成物をフィルム状に成形した後、フィルムの表面にコロナ放電やパルス状高電圧を加えたり、フィルムの両面を誘電体で保持し、両面に直流高電圧を加えてエレクトレット化する方法(エレクトロエレクトレット化法);紫外線、真空紫外光、X線や電子線などの放射線を照射してエレクトレット化する方法(ラジオエレクトレット化法);変性樹脂組成物を溶融して強磁場を作用させながら、徐冷してエレクトレット化する方法(マグネエレクトレット化法);加圧塑性変形させてエレクトレット化する方法(メカノエレクトレット化法);光照射しながら電圧を加えてエレクトレット化する方法(オートエレクトレット化法)などが挙げられる。
【0041】
より具体的には、前記変性樹脂組成物をフィルム状に成形した後、必要に応じて延伸しながら、加熱し、コロナ放電を間欠的に加える方法、フィルムを針状電極対で挟み、コロナ放電を行なう方法などが挙げられる。延伸を行なう場合、1軸延伸でも2軸延伸でもよい。
【0042】
得られるエレクトレットは、その用途等に応じて、その形態を適宜、選択することができる。例えば、フィルム、シート、繊維等の形態で得ることができる。
【0043】
ブロック共重合体の薄膜は、共重合体の溶液を調整しこの溶液を適当な基板の上に展開することによって得られる。基板材料としては、具体的には、シリコンウェアー(SiO2)シリコンや自然酸化シリコン(SiOx)、シリカ、石英ガラスや珪酸硼酸ガラスなど各種ガラス、グラファイト、アルミナやゼオライト、窒化珪素など各種セラミックス、金属、ポリイミドシートポリイミドやポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリアミドなど各種樹脂材料などが挙げられ、目的に応じて、ブロック状、板状やシート状、繊維状、球状、レンズ状、多孔質体などの形態で基板として供される。
【0044】
共重合体溶液の溶媒としては、水、テトラヒドロフラン(THF)、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどケトン類、メタノール、エタノール、ブタノール、プロピルアルコール、ペンチルアルコール、ヘキシルアルコール、フェノール、ベンジルアルコールなどのアルコール類、テトラフルオロエタノール、ヘキサフルオロイソプロパノールなどの弗化アルコール類 やジメチルアセトアミド、n−メチルピロリドン、トルエン、ジオキサン、シクロヘキサンなどが挙げられる。
【0045】
ここでいうブロック共重合体の薄膜とは、膜の厚みが概略1nm以上1μm以下のものを指し、分子量にも依存するが好ましくは概略10nm以上200nm以下のものを指す。該共重合体のミクロドメイン構造の恒等周期に依存するが、膜厚が1μm程度より大きくなると、後述する表面によって引き起こされるミクロドメイン構造の配向が膜の内部で乱れ易くなり、膜厚が1nm以下になると、脱濡れ(dewetting)により部分的に基板が露出した部分が生じるなど膜の欠陥が多くなるため、上記の範囲が好適である。
上記の溶液の基板上への展開は、例えばスピンキャスト法、ディッピング法やドクターナイフ法などによって好適に行うことができる。
【0046】
以下、本発明のエレクトレット及びその製造方法について、実施例を基に、本発明をさらに説明するが、本発明は、これら実施例に限定されて解釈されない。
【実施例1】
【0047】
数平均分子量〜87,000の疎水性高分子であるポリスチレン(PSt)と親水性高分子であるポリ−(2−ビニルピリジン)(P2VP)からなり、ポリ−(2−ビニルピリジン)の体積分率が18vol%なるブロック共重合体をリビングラジカル法で合成した。
このブロック共重合体のTHF溶液を調整し、Al蒸着PET上にブレードコーティング法によりの乾燥後の膜厚が30μmに成るように塗布し、110℃で12時間アニール処理した。この膜が球状のミクロ層分離構造を形成していることをTEM観察及びSAXS測定で確認した。
この膜をコロナ帯電処理(印加電圧:10KV、印加時間:60秒、電極間距離:15mm)しエレクトレット化フィルムを得た。
得られてエレクトレットの表面電荷密度とその経時変化を測定した。
【実施例2】
【0048】
数平均分子量〜67,000の疎水性高分子であるポリスチレン(PSt)と親水性高分子であるポリ−(2−ビニルピリジン)(P2VP)からなり、ポリ−(2−ビニルピリジン)の体積分率が48vol% なるブロック共重合体をリビングラジカル法で合成した。
実施例1と同様に膜形成した後、アニール処理し、この膜がラメラ状のミクロ層分離構造を形成していることをTEM観察及びSAXS測定で確認した。
実施例1同様にエレクトレット化し、その表面電荷密度とその経時変化を測定した。
【実施例3】
【0049】
数平均分子量〜72,000の極性高分子であるポリ(アミノスチレン)(P4AS)と非極性高分子であるイソプレン(PI)とからなり、イソプレンの体積分率が 31vol% なるブロック共重合体をリビングラジカル法で合成した。この共重合体をピリジン/クロロホルム(1/9重量比)の混合溶媒に溶解し、実施例1同様に膜形成した後、アニール処理した。この膜が柱状のミクロ層分離構造を形成していることをTEM観察及びSAXS測定で確認した。
実施例1同様にエレクトレット化し、その表面電荷密度とその経時変化を測定した。
【実施例4】
【0050】
数平均分子量〜70,000の親水性高分子ポリ(4−ビニルピリジン)(P4VP)と疎水性高分子イソプレン(PI)とから、イソプレンの体積分率が49vol%, なるブロック共重合体をリビングラジカル法で合成した。この共重合体をピリジン/クロロホルム(1.5/8.5重量比)の混合溶媒に溶解し、実施例1同様に膜形成した後、アニール処理した。この膜がラメラ状のミクロ層分離構造を形成していることをTEM観察及びSAXS測定で確認した。
実施例1同様にエレクトレット化し、その表面電荷密度とその経時変化を測定した。
【実施例5】
【0051】
実施例3で合成したブロック共重合体とN,N'-ジフェニル-N,N'-ビス(3-トルイル)-4,4'-ジアミノフェニル(TPD)との混合物(0.5/9.5重量比)をピリジン/クロロホルム(0.2/9.8重量比)の混合溶媒に溶解し、実施例1同様に膜形成した後、アニール処理した。この膜が、N,N'-ジフェニル-N,N'-ビス(3-トルイル)-4,4'-ジアミノフェニルがポリ(アミノスチレン)相に偏析した柱状のミクロ層分離構造を形成していることをTEM観察及びSAXS測定で確認した。
実施例1同様にエレクトレット化し、その表面電荷密度とその経時変化を測定した。
【実施例6】
【0052】
実施例3で合成したブロック共重合体とポリビニルカルバゾールとの混合物(0.5/9.5重量比)をピリジン/クロロホルム(1/9重量比)の混合溶媒に溶解し、実施例1同様に膜形成した後、アニール処理した。この膜が、ポリビニルカルバゾールがポリ(アミノスチレン)相に偏析した柱状のミクロ層分離構造を形成していることをTEM観察及びSAXS測定で確認した。
実施例1同様にエレクトレット化し、その表面電荷密度とその経時変化を測定した。
【実施例7】
【0053】
実施例3で合成したブロック共重合体とトリニトロフルオレノンの混合物(0.2/9.8重量比)をピリジン/クロロホルム(1/9重量比)の混合溶媒に溶解し、実施例1同様に膜形成した後、アニール処理した。この膜が、トリニトロフルオレノンがポリ(アミノスチレン)相に偏析した柱状のミクロ層分離構造を形成していることをTEM観察及びSAXS測定で確認した。
実施例1同様にエレクトレット化し、その表面電荷密度とその経時変化を測定した。
【実施例8】
【0054】
実施例3で得たミクロ相分離膜を、N,N'-ジフェニル-N,N'-ビス(3-トルイル)-4,4'-ジアミノフェニル(TPD)のTHF/エタノル(4.5/5.5重量比)溶液中に浸漬し引き上げた後に乾燥した。この膜が、N,N'-ジフェニル-N,N'-ビス(3-トルイル)-4,4'-ジアミノフェニルがポリ(アミノスチレン)相に偏析した柱状のミクロ層分離構造を形成していることをTEM観察及びSAXS測定で確認した。
実施例1同様にエレクトレット化し、その表面電荷密度とその経時変化を測定した。
【実施例9】
【0055】
実施例3で得たミクロ相分離膜上に、N,N'-ジフェニル-N,N'-ビス(3-トルイル)-4,4'-ジアミノフェニル(TPD)のTHF/エタノル(4.5/5.5重量比)溶液でスピンコート法により乾燥後の膜厚が1μmに成るように積層し、110℃で12時間アニール処理した。その後、THF/エタノル(4.5/5.5重量比)溶液でスピンコート法し、N,N'-ジフェニル-N,N'-ビス(3-トルイル)-4,4'-ジアミノフェニル層を除去した。この膜が、N,N'-ジフェニル-N,N'-ビス(3-トルイル)-4,4'-ジアミノフェニルがポリ(アミノスチレン)相に偏析した柱状のミクロ層分離構造を形成していることをTEM観察及びSAXS測定で確認した。
実施例1同様にエレクトレット化し、その表面電荷密度とその経時変化を測定した。
【0056】
[比較例1]
数平均分子量〜45,000のポリスチレン(PSt)と数平均分子量〜40,000 のポリ−(2−ビニルピリジン)(P2VP)との混合物(80/20重量比)のTHF溶液で、実施例1同様に膜形成した後、アニール処理した。この膜は、ポリスチレンとポリ−(2−ビニルピリジン)がマクロに層分離した構造を形成していることをTEM観測で確認した。
実施例1同様にエレクトレット化し、その表面電荷密度とその経時変化を測定した。
【0057】
[比較例2]
数平均分子量〜35,000のポリ(アミノスチレン)(P4St)と数平均分子量〜35,000のイソプレン(PI)との混合物(70/30重量比)のピリジン/クロロホルム(1/9重量比)溶液で、実施例3同様に膜形成した後、アニール処理した。この膜は、ポリ(アミノスチレン)とイソプレンがマクロに層分離した構造を形成していることをTEM観測で確認した。
実施例1同様にエレクトレット化し、その表面電荷密度とその経時変化を測定した。
【0058】
[比較例3]
数平均分子量〜20,000の親水性高分子であるポリエチレングリコール(PEG)と数平均分子量〜40,000の親水性高分子であるポリ−(2−ビニルピリジン)(P2VP)との混合物(66/33重量比)のTHF溶液で、実施例1同様に膜形成した後、アニール処理した。この膜は、ポリエチレングリコールとのポリ−(2−ビニルピリジン)がマクロに層分離した構造を形成していることをTEM観測で確認した。
実施例1同様にエレクトレット化し、その表面電荷密度とその経時変化を測定した。
【0059】
[比較例4]
数平均分子量〜35,000の非極性高分子であるポリスチレン(PSt)と数平均分子量〜35,000の非極性高分子であるイソプレン(PI)との混合物(80/20重量比)のTHF溶液で、実施例1同様に膜形成した後、アニール処理した。この膜は、ポリスチレンとのイソプレンがマクロに層分離した構造を形成していることをTEM観測で確認した。
実施例1同様にエレクトレット化し、その表面電荷密度とその経時変化を測定した。
【0060】
評価結果を表1に示す。
【0061】
【表1】

【0062】
ミクロ相分離構造を示すブロック共重合体からなる高分子エレクトレットは、ポリマー混合物からなる高分子エレクトレットに比較し、高い電荷密度とその保持性を示す。
極性高分子と非極性高分子からなるミクロ相分離構造を示すブロック共重合体または親水性高分子と疎水性高分子からなるミクロ相分離構造を示すブロック共重合体からなる高分子エレクトレットは、類似の性質を示すミクロ相分離構造を示すブロック共重合体からなる高分子エレクトレットに比較し、高い電荷密度とその保持性を示す。
【0063】
ミクロ相分離構造を示すブロック共重合体とその一方の相にのみ相溶性のある電子低分子化合物(電子供与体または電子受容体)との組成物からなる高分子エレクトレットは、ミクロ相分離構造を示すブロック共重合体のみからなる高分子エレクトレットに比較し、高い電荷密度とその保持性を示す。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明に係るエレクトレットは、電荷の長期保存性が優れているため、防塵フィルター、マイクロホンのような音響素子、計測素子、記憶素子、記録材料、塗料、医療材料などに使用でき、工業的に極めて価値がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミクロ相分離構造を示すブロック共重合体を含む樹脂組成物からなることを特徴とするエレクトレット。
【請求項2】
前記ブロック共重合体が極性高分子と非極性高分子との共重合体であることを特徴とする請求項1記載のエレクトレット。
【請求項3】
前記極性高分子がポリアミド、ポリウレタン、シアノ系ポリマー、フッ素系ポリマー、アクリル系ポリマーを含む群から選択される高分子を含むことを特徴とする請求項2記載のエレクトレット。
【請求項4】
前記ブロック共重合体が親水性高分子と疎水性高分子との共重合体からなることを特徴とする請求項1記載のエレクトレット。
【請求項5】
前記親水性高分子がエチレンオキサイド系ポリマー、エチレングリコール系ポリマー、ビニルピリジン系ポリマーを含む群から選択される少なくとも1つの高分子を含むことを特徴とする請求項4記載のエレクトレット。
【請求項6】
前記ミクロ相分離構造を示すブロック共重合体の一方の相にのみ電子供与性低分子化合物を含む樹脂組成物からなることを特徴とする請求項1に記載のエレクトレット。
【請求項7】
前記ミクロ相分離構造を示すブロック共重合体の一方の相にのみ電子受容性低分子化合物を含む樹脂組成物からなることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載のエレクトレット。
【請求項8】
前記ミクロ相分離構造を示すブロック共重合体を含む樹脂組成物溶液を調合した後、塗布法またはキャスト法により薄膜またはフィルムを形成し、上記樹脂組成物のガラス転移点以上で融点以下の温度でアニールしてミクロ相分離構造を形成した後、エレクトレット化することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のエレクトレットの製造法。
【請求項9】
電子低分子化合物とブロック共重合体とを含有する樹脂組成物溶液を調合した後、塗布法またはキャスト法により薄膜またはフィルムを形成し、上記樹脂組成物のガラス転移点以上で融点以下の温度でアニールして一方の相にのみ電子低分子化合物を含むミクロ相分離構造を形成した後、エレクトレット化することを特徴とする請求項6又は7記載のエレクトレットの製造法。
【請求項10】
ブロック共重合体を含有する樹脂組成物溶液を調合した後、塗布法、溶液浸漬法またはキャスト法により薄膜またはフィルムを形成し、上記樹脂組成物のガラス転移点以上で融点以下の温度でアニールしてミクロ相分離構造を形成した後、電子低分子化合物を含有する溶液と接触させ、一方の相にのみ電子低分子化合物を含むミクロ相分離構造を形成後にエレクトレット化することを特徴とする請求項6又は7記載のエレクトレットの製造法。
【請求項11】
ブロック共重合体を含有する樹脂組成物溶液を調合した後、塗布法またはキャスト法により薄膜またはフィルムを形成し、上記樹脂組成物のガラス転移点以上で融点以下の温度でアニールしてミクロ相分離構造を形成し、電子低分子化合物を含む層を積層し加熱拡散させ、一方の相にのみ電子低分子化合物を含むミクロ相分離構造を形成した後、エレクトレット化することを特徴とする請求項6又は7記載のエレクトレットの製造法。

【公開番号】特開2006−291045(P2006−291045A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−113991(P2005−113991)
【出願日】平成17年4月11日(2005.4.11)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】