説明

エレクトレットの帯電装置及びエレクトレットの帯電方法、振動発電装置

【課題】コロナ放電処理により、エレクトレットを部分的に帯電するための帯電装置及び帯電方法であって、エレクトレットの帯電領域と非帯電領域との間の電位差を十分大きくすることを可能とするエレクトレットの帯電装置及び帯電方法、振動発電装置を提供する。
【解決手段】本発明は、エレクトレット9の下方に配置されアース電位に接続される下部電極8を有し、下部電極8の上方に隔てられたコロナ放電処理のための放電電極12と、下部電極8と放電電極12とに電気的に接続されており、下部電極と放電電極とに電圧を印加するための電圧源とを有し、貫通孔が形成され、導電性材料からなるマスク11がエレクトレット9上に配置され、マスク11とアース電位との間の電位差が、0より大きく、エレクトレット9の絶縁破壊電圧の絶対値未満に設定された電圧になるように制御する電圧制御装置13を備えるエレクトレットの帯電装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、振動発電装置や静電アクチュエータなどに用いられるエレクトレットの帯電装置及び帯電方法に関し、より詳細には、エレクトレットの一部を選択的に帯電させるためのエレクトレットの帯電装置及び帯電方法に関する。また、本発明は、エレクトレットが用いられた振動発電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、静電反発力や静電吸引力を利用した素子が種々提案されている。例えば、下記の特許文献1には、静電気力を駆動源として用いた静電アクチュエータが開示されている。この静電アクチュエータでは、固定子と対向するように移動子が配置されている。固定子の電極に電荷を供給し、該電荷により移動子に電荷を誘導する。固定子の電極に供給された電荷と、移動子において誘導された電荷との静電反発力や静電吸引力を利用して移動子が駆動される。
【0003】
特許文献1では、上記移動子としてエレクトレットフィルムが用いられている。このエレクトレットフィルムを移動子として用いるために、特許文献1では、エレクトレットフィルムに、帯電領域と、非帯電領域とが設けられている。このように、帯電領域のみを帯電させるために、特許文献1では、図22に示す帯電方法が用いられている。
【0004】
図22に示すように、平板電極101上に、エレクトレットフィルム102が配置されている。エレクトレットフィルム102上に、導電性部材103が配置されている。導電性部材103は、複数の貫通孔103aを有する。導電性部材103と、平板電極101とが、電気的接続部材104により電気的に接続されている。この状態で、平板電極101をアース電位に接続し、平板電極101と放電電極105との間に電圧源106から電圧を印加する。それによって、コロナ放電により、エレクトレットフィルム102を部分的に帯電させる。すなわち、エレクトレットフィルム102の貫通孔103aに露出している部分が帯電され、帯電領域となる。エレクトレットフィルム102の上記帯電領域以外の領域は、非帯電領域となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−333716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載のエレクトレットフィルム102の帯電方法では、導電性部材103が、電気的接続部材104及び平板電極101を介してアース電位に接続されている。そのため、導電性部材103は常にアース電位となり、コロナ放電で発生した電荷は導電性部材103に優先的に流れ込むことになる。従って、エレクトレットフィルム102の帯電電位の絶対値が低下し、帯電領域と非帯電領域との電位差が小さくなる。従って、このような帯電方法で得られたエレクトレットフィルム102では、静電気力を機械的駆動力に変換する変換効率が低下するという問題がある。
【0007】
他方、コロナ放電処理では、印加する電圧は、エレクトレットフィルム102の絶縁破壊電圧より高いのが普通である。そのため、電気的接続部材104を設けないと、導電性部材103に電荷が溜まりすぎることになる。その結果、導電性部材103からエレクトレットフィルム102を通じて平板電極101に電流が流れることとなる。この電流によ
り、エレクトレットフィルム102の帯電させたくない領域まで帯電するおそれがある。従って、エレクトレットフィルム102において、帯電領域と非帯電領域との電位差が小さくなる。
【0008】
本発明の目的は、コロナ放電処理により、エレクトレットを部分的に帯電するための帯電装置及び帯電方法であって、エレクトレットの帯電領域と非帯電領域との間の電位差を十分大きくすることを可能とするエレクトレットの帯電装置及び帯電方法、並びに振動発電装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るエレクトレットの帯電装置は、上面にエレクトレットが配置され、アース電位と接続される下部電極と、前記下部電極の上方に隔てられて配置された放電電極と、前記下部電極と前記放電電極とに電気的に接続されており、前記下部電極と前記放電電極との間に電圧を印加する電圧源と、前記下部電極上に載置されるエレクトレット上に配置され、導電性材料からなり、かつ貫通孔を有するマスクとを備える。
【0010】
本発明では、電位制御として、前記マスクと前記アース電位との間の電位差を、0より大きく、前記エレクトレットの絶縁破壊電圧未満の範囲内に制御する電位制御手段とを備える。
【0011】
本発明に係るエレクトレットの帯電装置のある特定の局面では、前記電位制御手段が、前記マスクと前記アース電位との間に接続されており、前記電位差が前記範囲内に設定した所定の電圧未満において電流を通過させず、前記所定の電圧以上において電流を通過させる電気回路である。この場合には、エレクトレットの帯電電位をより一層高精度に制御することができ、エレクトレットの帯電電位を安定化することができる。
【0012】
本発明の他の特定の局面では、前記電位制御手段が、前記マスクと前記アース電位との間に接続されており、前記エレクトレットの絶縁破壊電圧よりも低い電圧で抵抗が低下する非直線性抵抗素子である。この場合には、抵抗素子の電圧非直線性を利用することにより、すなわち簡単な構造で、帯電領域と非帯電領域との電位差を大きくすることができる。
【0013】
本発明の他の広い局面によれば、エレクトレットの一部の領域を選択的に帯電するためのエレクトレットの帯電方法が提供される。本発明の方法は、下部電極上にエレクトレットを載置する工程を備え、前記エレクトレット上に、前記エレクトレットを帯電させる領域上が貫通孔とされており、かつ導電性材料よりなるマスクを、前記エレクトレット上に載置する工程を備え、前記下部電極をアースに接地する工程を備え、前記マスクと前記アースとの間の電位差を、0より大きく、前記エレクトレットの絶縁破壊電圧未満の範囲に電位差を制御しつつ、前記下部電極と前記放電電極との間に電圧を印加してコロナ放電させることにより、前記エレクトレットの一部を選択的に帯電させる工程とを備える。
【0014】
本発明に係るエレクトレットの帯電方法のある特定の局面では、前記マスクの電位制御を、前記マスクと前記放電電極との距離を制御することにより行う。
【0015】
本発明に係るエレクトレットの帯電方法の他の特定の局面では、前記マスクの電位制御が、前記マスクと前記アース電位との間に接続されており、前記範囲内に設定した所定の電圧未満において電流を通過させず、前記所定の電圧以上で電流を通過させる電気回路を用いる。この場合には、マスクの帯電電位とアース電位との間の電位差をより確実に上記所定の電圧に制御することができる。
【0016】
本発明に係るエレクトレットの帯電方法のさらに他の特定の局面では、前記マスクと前記アースとの間の電位差の制御に際し、前記マスクと前記アース電位との間に接続されており、かつエレクトレットの絶縁破壊電圧よりも低い電圧で抵抗が低下する非直線性抵抗素子を用いる。この場合には、抵抗素子の抵抗変化を利用するので、抵抗素子を接続するだけの簡略な構成で、エレクトレットの帯電領域と非帯電領域との電位差を大きくすることができる。
【0017】
本発明に係るエレクトレットの帯電方法のさらに別の特定の局面では、前記下部電極として金属基板を用い、前記金属基板上にエレクトレットを載置する工程の後であって、前記導電性材料よりなるマスクを前記エレクトレット上に載置する工程の前に、前記金属基板上に載置されたエレクトレットに対し、前記金属基板と、前記エレクトレットの上方に配置した放電電極との間に電圧を印加してコロナ放電させることにより、エレクトレット全体を正または負に帯電する工程をさらに備え、前記マスクとアースとの電位差を制御しつつコロナ放電により前記エレクトレットの一部を選択的に帯電させる工程において、前記エレクトレットの一部を負または正に帯電させる。この場合には、正または負に帯電している帯電領域と、負または正に帯電している帯電領域とを有するようにエレクトレットを帯電させることができる。
【0018】
本発明に係る振動発電装置は、一方主面に電極が形成されている固定基板と、前記固定基板に対向するように配置された可動基板とを備える。この振動発電装置では、前記可動基板が金属基板と、第1,第2の主面を有する平坦な板状部材からなるエレクトレットとを有し、前記エレクトレットが第2の主面側から前記金属基板に積層されている。前記エレクトレットの第1の主面において、第1の帯電領域と、第2の帯電領域または非帯電領域とが存在するように前記エレクトレットが帯電されており、前記エレクトレット上には導電部材が設けられていない。また、前記可動基板が振動し得るように前記可動基板を保持する保持部材をさらに備える。本発明の振動発電装置では、前記可動基板の振動により前記固定基板と前記可動基板との相対的位置が変化することにより電力を発生させる。
【0019】
本発明に係る振動発電装置のある特定の局面では、前記可動基板の前記固定基板側の主面に凹部が形成されており、該凹部に凹部内で回転可能となるように一部が収納されている回転体がさらに備えられている。回転体の前記可動基板とは反対側の端部が前記固定基板の可動基板側の主面に接触されており、それによって固定基板と可動基板との間に空間が設けられている。この場合には、回転体により、固定基板と可動基板との間に一定の空間を確実に形成することができる。また、可動基板の固定基板に対する相対的位置を容易にかつ円滑に変化させることができる。従って、より大きな発電量を得ることができる。
【0020】
本発明に係る振動発電装置のさらに他の特定の局面では、前記エレクトレットの第1の帯電領域が正または負の電荷がチャージされた帯電領域であり、前記エレクトレットの第2の帯電領域が、負または正の電荷がチャージされた帯電領域である。この場合には、より大きな発電量を得ることができる。
【0021】
本発明に係る振動発電装置のさらに別の特定の局面では、前記可動基板の金属基板がアース電位に接続される。この場合には、金属基板の電位が安定する。従って、固定基板の電極に誘導される電荷量がエレクトレットの帯電領域にチャージされた電荷量のみに依存することとなる。よって、発電出力を安定化することができる。
【0022】
本発明に係る振動発電装置のさらに別の特定の局面では、前記金属基板が5g/cm以上、15g/cm以下の密度を有する金属からなる。この場合には、密度が5g/cm以上であるため、可動基板の共振周波数を10Hz以下にすることが容易となる。また、この場合、密度が15g/cm以下であるため、振動発電装置の重量が大きくなり
すぎることを防ぐことができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係るエレクトレットの帯電装置及び帯電方法によれば、マスクとアースとの間の電位差が上記範囲に制御されるので、マスクに帯電した電荷を、アースに落とすことができる。よって、エレクトレットの帯電電位とアース電位との間の電位差を上記範囲に制御することができ、エレクトレットの帯電領域と非帯電領域との電位差を大きくすることが可能となる。
【0024】
また、本発明に係る振動発電装置によれば、上記構成を備えるため、発電出力の安定化、発電出力の増大を図ることができ、さらに発電出力の経時劣化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】(a)〜(c)は、本発明の第1の実施形態に係るエレクトレットの帯電方法及び帯電装置を説明するための略図的正面断面図である。
【図2】本発明の一実施形態の帯電方法により得られたエレクトレットが用いられている振動発電装置の模式的正面断面図である。
【図3】図2に示した振動発電装置に用いられているエレクトレットを含む振動基板を示す正面図である。
【図4】図3に示した振動基板中のエレクトレットの平面図である。
【図5】(a)及び(b)は、図2に示した振動発電装置における固定子としてのキャップ材の詳細を示す正面図及び平面図である。
【図6】(a)及び(b)は、振動発電装置における振動基板の支持構造を説明するための各平面図である。
【図7】(a)〜(c)は、本発明のエレクトレットが用いられている振動発電装置の動作を説明するための各模式的平面図である。
【図8】(a)〜(c)は、本発明の第2の実施形態に係るエレクトレットの帯電装置及び帯電方法を説明するための模式的正面断面図である。
【図9】(a)〜(c)は、本発明の第3の実施形態に係るエレクトレットの帯電装置及び帯電方法を説明するための模式的正面断面図である。
【図10】本発明のエレクトレットの帯電方法の変形例を説明するための模式的正面図である。
【図11】本発明のエレクトレットの帯電方法の他の変形例を説明するための模式的正面図である。
【図12】本発明のエレクトレットの帯電方法のさらに他の変形例を説明するための模式的正面図である。
【図13】本発明の第4の実施形態に係る振動発電装置の断面図である。
【図14】本発明の第4の実施形態に係る振動発電装置において、固定基板を取り除いた状態を示す模式的平面図である。
【図15】(a),(b)は、本発明の第4の実施形態における金属基板及びエレクトレットを示す断面図並びに該エレクトレット表面のストリップ状の複数本の帯電領域を示す模式的平面図である。
【図16】本発明の第4の実施形態に係る振動発電装置の変形例を説明するための断面図である。
【図17】本発明の第4の実施形態に係る振動発電装置の他の変形例を説明するための断面図である。
【図18】本発明の第4の実施形態の固定基板の変形例を説明するための平面図である。
【図19】本発明の第4の実施形態に係る振動発電装置のさらに他の変形例を説明するための断面図である。
【図20】(a)〜(c)は、本発明のエレクトレットの帯電方法の他の実施形態を説明するための各模式的表面断面図である。
【図21】(a)〜(c)は、正の帯電領域及び負の帯電領域を有するエレクトレットを用いた振動発電装置の動作を説明するための各模式的表面断面図である。
【図22】従来のエレクトレットフィルムの帯電方法を説明するための斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照しつつ、本発明の具体的な実施形態を説明することにより、本発明を明らかにする。
【0027】
先ず、本発明の帯電方法により部分的に、帯電されるエレクトレットを用いた振動発電装置を説明することにより、本発明の方法により帯電されるエレクトレットの詳細を明らかにする。
【0028】
図2に示すように、振動発電装置1は、筐体2を有する。筐体2は、上方に開いた開口を有する。この開口を閉成するように、キャップ材3が取り付けられている。キャップ材3は、後述するように、固定子として機能する。
【0029】
上記筐体2とキャップ材3とにより形成されている空間内に、振動基板4が収納されている。振動基板4は、バネ5,6により筐体2に支持されている。
【0030】
図3に示すように、振動基板4は、基材7上に、下部電極8、エレクトレット9及び保護膜10を積層した構造を有する。基材7は、ガラスなどの適宜の絶縁性材料からなる。下部電極8は、Ag、Cu、Alもしくはそれらの合金などの適宜の金属からなる。基材7は、導電性材料、例えばSiやステンレスなどにより形成されてもよい。その場合には、基材7が下部電極8を兼ねていてもよい。
【0031】
エレクトレット9は、後述の帯電方法により、帯電され得る適宜の材料からなる。このような材料としては、旭旭硝子社製、品番:CYTOPのようなフッ素樹脂などの有機材料、あるいはSiOなどの無機材料を用いることができる。エレクトレット9は、フィルム状の形状を有する。
【0032】
エレクトレット9の上面に、保護膜10が積層されている。保護膜10は、SiN、AlNまたはAlなどの適宜の絶縁性材料により形成することができる。保護膜10は設けられずともよい。
【0033】
図4に平面図で示すように、エレクトレット9は、複数本の帯状の帯電領域9aを有する。この帯電領域9a外の領域が非帯電領域9bである。複数本の帯電領域9aは、互いに平行に配置されている。複数本の帯電領域9aのピッチをAとする。
【0034】
図5(a)及び(b)に、キャップ材3の詳細を拡大して示す。キャップ材3は、絶縁性材料からなる基材3aを有する。基材3aの片面に、電極3bが形成されている。電極3bは、第1の電極3cと、第2の電極3dとを有する。第1の電極3cは、複数本の電極指を一端で連結してなるくし歯状の形状を有する。第2の電極3dも同様にくし歯状の形状を有し、複数本の電極指を有する。第1の電極3cの複数本の電極指と、第2の電極3dの複数本の電極指とが互いに間挿し合っている。電極3bにおいて、複数本の電極指のピッチをBとする。図5(b)に示すように、ピッチBは、前述したエレクトレット9における帯状の帯電領域9aのピッチAの1/2とされている。
【0035】
なお、図6(a)に示すように、上記振動基板4は、対向し合う辺4a,4b側において、前述したバネ5,6により支持されている。そして、図6(a)の矢印で示す方向に移動し得るように構成されている。なお、図6(b)に示すように、振動基板4は、辺4a,4bにおいて、それぞれ複数のバネ5,5,6,6により支持されていてもよい。
【0036】
上記振動発電装置1に加速度が加わると、振動基板4が振動する。図7(a)に模式的に示すように、第1の電極3cの電極指がエレクトレット9の帯状の帯電領域9aに対向する位置にある場合には、静電誘導により、第1の電極3cに電荷が誘導される。図7(b)は、図7(a)に示す状態から、振動基板4が前述した移動方向に移動した場合を示す。この状態では、第1の電極3cの電極指は、下方のエレクトレット9の帯電領域9a,9a間に位置し、第2の電極3dの電極指が帯電領域9aに対向する。従って、第2の電極3dに電荷が誘導される。
【0037】
図7(c)に示すように、さらに振動基板4が移動し、再度第1の電極3cの電極指が帯状の帯電領域9aに対向すると、電荷が第1の電極3cに誘導される。
【0038】
このように、外部から振動発電装置1に加速度が加わると、振動基板4が振動し、それによって電力を取り出すことができる。
【0039】
ところで、上記振動発電装置1のエレクトレット9は、図4に示したように、帯状の複数の帯電領域9aと、残りの非帯電領域9bとを有するように、選択的に帯電される必要がある。以下の本発明の実施形態の帯電装置及び帯電方法は、エレクトレット9をこのように選択的に帯電する装置及び方法に関する。
【0040】
図1(a)〜(c)は、本発明の第1の実施形態に係るエレクトレットの帯電方法を説明するための各略図的正面断面図である。本実施形態では、図1(a)に示すように、基材7、下部電極8及びエレクトレット9からなる積層体を用意する。なお、以下においては、図3に示した保護膜10は省略することとする。
【0041】
図1(a)に示すように、放電チャンバー21内においてエレクトレット9上に、導電性材料からなるマスク11を配置する。マスク11は、金属などの導電性材料からなる。マスク11は、貫通孔11aを有する。貫通孔11aの平面形状は、エレクトレット9の帯状の帯電領域9aの平面形状と一致している。マスク11の貫通孔11aを介してコロナ放電処理することにより、前述した帯電領域9aと、非帯電領域9bとを形成する。すなわち、上方に配置した放電電極12とアース電位に接続されている下部電極8との間に電圧源Vにより電圧を印加し、コロナ放電処理する。このコロナ放電処理により、エレクトレット9のマスク11の貫通孔11aに臨む部分に電荷が誘起される。
【0042】
このコロナ放電処理に際し、エレクトレット9の表面電位が所望の電位となるように、マスク11の電位を制御する。すなわち、図1(a)に示すように、マスク11とアース電位との間に電位制御装置13を接続する。この電位制御装置13により、マスク11とアースとの間の電位差を、エレクトレット9の表面電位が絶縁破壊電圧以下の所望の値となるように制御する。この所望の電位差は、0より大きく、エレクトレット9の絶縁破壊電圧よりも小さい値であればよい。このような電位制御装置13は、周知の電位制御回路により形成することができる。
【0043】
図1(b)に示すように、上記コロナ放電処理が進行すると、エレクトレット9の貫通孔11aに臨む部分に電荷が蓄積されていき、エレクトレット9の表面の電位の絶対値が大きくなる。
【0044】
また、マスク11にも電荷は流入するが、電位制御装置13によりマスク11とアースとの間の電位差は、エレクトレットの絶縁破壊電圧よりも小さい所望の値に制御される。従って、マスク11に電荷が蓄積されていったとしても、マスク11の電位の絶対値は、エレクトレット9の絶縁破壊電圧の絶対値未満に抑制される。よって、エレクトレット9の破壊を確実に防止することができる。
【0045】
従って、図1(c)に示すように、エレクトレット9の帯電領域9aにおいて、所望の表面電位となるだけの電荷が蓄積され、他方、非帯電領域9bには、蓄積されない。マスク11の電位の絶対値がエレクトレット9の絶縁破壊電圧以上に大きくならないため、マスク11に蓄積された電荷が非帯電領域9bに流れない。そのため、帯電領域9aと、非帯電領域9bとの間の電位差を確実に大きくすることができる。
【0046】
図8は、本発明の第2の実施形態に係る帯電装置及び帯電方法を説明するための各模式的正面図である。
【0047】
本実施形態では、放電チャンバー21内に、基材7及び下部電極8に積層されたエレクトレット9を配置する。エレクトレット9の上方に、放電電極22を配置する。放電電極22と、下部電極8に電源23を接続する。電源23から放電電極22と下部電極8との間に電圧を印加し、コロナ放電処理する。この場合、エレクトレット9を部分的に帯電処理するために、前述したマスク11をエレクトレット9の上方に配置する。
【0048】
そして、コロナ放電を行うためには、電源23から印加される電圧を、電源23に接続されている電圧制御装置24を調整することにより、コロナ放電電圧を制御し、さらに上記コロナ放電処理の時間を調整する。この場合、放電開始と同時に、エレクトレット9の貫通孔11aの下方の領域及びマスク11に電荷が蓄積されることとなる。従って、マスク11とアース電位との間の電位差と、エレクトレット9の帯電すべき領域とアース電位との電位差がほぼ同じ速度で高まる。
【0049】
マスク11と放電電極22との距離、電圧制御装置24による電圧制御及び放電処理時間の制御により、マスク11とアース電位との間の電位差がエレクトレット9の絶縁破壊電圧以上にならないように制御する。従って、上記マスク11とアース電位との電位差を、上記絶縁破壊電圧以上になる前に放電処理を終了することができる。
【0050】
本実施形態では、上記のように、マスク11と放電電極22との距離、コロナ放電電圧及び処理時間を制御することにより、エレクトレット9の絶縁破壊電圧以上の電圧がエレクトレット9に印加されない。従って、本実施形態においても、マスク11に蓄積された電荷が非帯電領域9b側には流れ難い。よって、帯電領域9aと非帯電領域9bとの間の電位差を確実に大きくすることができる。
【0051】
図9(a)〜(c)は、本発明の第3の実施形態に係る帯電装置及び帯電方法を説明するための各模式的正面図である。
【0052】
本実施形態では、図1に示した電位制御装置13に代えて、非直線性抵抗素子31がマスク11とアース電位との間に接続されている。非直線性抵抗素子31は、上述した所定の値で抵抗が低下する素子である。本実施形態では、非直線性抵抗素子31は放電素子からなり、絶縁破壊電圧が、エレクトレット9の絶縁破壊電圧よりも低い。従って、放電素子の絶縁破壊電圧以上の電圧が印加されると、放電により絶縁破壊し、電荷がアースに流れる。
【0053】
本実施形態の帯電装置及び帯電方法では、図9(a)に示すように、放電電極22とアース電位との間に電圧を印加してコロナ放電を開始する。図9(b)に示すように、マスク11の貫通孔11aに臨んでいる領域において、エレクトレット9に電荷が蓄積する。同時にマスク11にも電荷は蓄積する。そして、マスク11の電圧が非直線性抵抗素子31である放電素子の絶縁破壊電圧に至ると、電荷がマスク11からアースに流れることになる。従って、エレクトレット9を破壊することなく図9(c)に示すように、帯電領域9aと非帯電領域9bとの間の電位差を確実に大きくすることができる。
【0054】
しかも、本実施形態では、マスク11とアース電位との間に放電素子からなる非直線性抵抗素子31を接続するだけでよいため、簡単な構造で、帯電領域9aを選択的に確実に帯電させることができる。
【0055】
なお、本実施形態では、非直線性抵抗素子31として、絶縁破壊電圧がエレクトレット9の絶縁破壊電圧よりも低い放電素子を用いたが、他の非直線性抵抗素子を用いてもよい。すなわち、エレクトレット9の絶縁破壊電圧以上の電圧が印加された際に、マスク11に蓄積された電荷をアース電位に流し得る、適宜の素子、例えばバリスタなどを用いて非直線性抵抗素子31を構成してもよい。
【0056】
第1〜第3の実施形態では、マスク11の外側端縁は、下方に位置している下部電極8及びエレクトレット9の外側端縁と同じ位置となっている。すなわち、図10に示すように、マスク11の外側の端縁11b,11cが、下部電極8及びエレクトレット9の外側の端縁と同じ位置にある場合、矢印B及びCで示すような意図しない放電が生じるおそれがある。
【0057】
なお図10では、上記基材7、下部電極8及びエレクトレット9を含む積層体がステージ41上に配置されている。
【0058】
これに対して、図11に示す変形例では、マスク11の外側の端縁11b,11cよりも、外側に、下方のエレクトレット9及び下部電極8の端面8a,8bが位置している。言い換えれば、マスク11の面積を、マスク11が平面視した場合、下方のエレクトレット9及び下部電極8に含まれるようにマスク11が用いられている。この場合には、図10の矢印B及びCで示した放電を抑制することができ、好ましい。同様に、図12に示す変形例では、ステージ41上に、上記積層体を取り囲む治具42が配置されている。治具42は、絶縁性セラミックスなどの適宜の絶縁材料からなる。そして、エレクトレット9よりも大きな面積のマスク11Aがエレクトレット9上に配置される。ここでは、マスク11Aの外側端縁が、治具42上に位置している。従って、図10に示した矢印B及びCで示す方向の放電を抑制することができる。
【0059】
なお、第1〜第3の実施形態では、図2に示した振動発電装置1を構成するためのエレクトレット9の帯電方法を説明した。従って、複数本の帯状の帯電領域9aを形成したが、本発明の帯電方法により、選択的に帯電される領域の平面形状は特に限定されるものではない。振動発電装置や、エレクトレット9を用いた静電アクチュエータなどの用途に応じて、帯電領域の平面形状は、適宜変更することはできる。
【0060】
図13は、本発明の第4の実施形態に係る振動発電装置51の断面図である。また、図14は、本発明の第4の実施形態に係る振動発電装置51において、固定基板53を取り除いた状態を示す模式的平面図である。なお、図13は、図14のX−X線に沿う部分の断面に相当する。
【0061】
振動発電装置51は、筐体52を有する。筐体52は、上方に開いた開口を有し、かつ
その平面形状は矩形である。
【0062】
筐体52の上方の開口縁に、固定基板53が接合されている。それによって、筐体52の上方の開口が封止されている。
【0063】
筐体52は、アルミナなどの絶縁性セラミックスまたは合成樹脂などの適宜の絶縁性材料により形成することができる。なお、筐体52は、金属により形成されていてもよい。
【0064】
上記固定基板53は、アルミナなどの絶縁性セラミックスまたは合成樹脂からなる。機械的強度を高めるためには、固定基板53は、アルミナなどの絶縁性セラミックスからなることが好ましい。軽量化を図るには、固定基板53は、合成樹脂からなることが望ましい。
【0065】
固定基板53の表面には、電極54が形成されている。図14は、固定基板53を取り除いた状態の振動発電装置51の平面図であり、ここでは固定基板53のみを省略し、電極54を模式的に図示している。図14に示すように、電極54は、複数本の電極指を有する第1のくし歯電極55と複数本の電極指を有する第2のくし歯電極56とを有する。第1のくし歯電極55の電極指と、第2のくし歯電極56の電極指とが互いに間挿し合っている。
【0066】
第1のくし歯電極55には、第1の引き出し電極57aを介して第1の端子電極57bが接続されている。同様に、第2のくし歯電極56には、第2の引き出し電極58aを介して第2の端子電極58bが接続されている。これらの第1,第2の引き出し電極57a,58a及び第1,第2の端子電極57b,58bも、前述した固定基板53の下面に形成されている。
【0067】
上記第1,第2のくし歯電極55,56、第1,第2の引き出し電極57a,58a及び第1,第2の端子電極57b,58bは、Al、Cu、Ag、またはこれらの合金などの適宜の金属もしくはこれらの金属を主体とする合金により形成することができる。
【0068】
図13にもどり、上記筐体52と上記固定基板53とで封止されている空間内に、可動基板59が配置されている。可動基板59は、金属基板60と、金属基板60の上面に積層されたエレクトレット61とを有する。
【0069】
金属基板60は、ステンレスまたは銅などの適宜の金属からなる。可動基板59が金属基板60を有するため、可動基板59はたわみ難い。従って、可動基板59と固定基板53との接触、特に固定基板53の下面に設けられた電極54と可動基板59との接触を確実に抑制することができる。このため、エレクトレットの帯電領域にチャージした電荷の流出がなくなり、発電出力が安定する。
【0070】
上記金属基板60は、好ましくは、密度が5g/cm以上、15g/cm以下の金属からなる。このような金属としては、ステンレス、銅、鉄などを挙げることができる。密度が5g/cm以上である場合、共振周波数を低くすることができる。従って、人の歩行のように日常生活で発生する振動、すなわち10Hz以下の低周波の振動によっても共振させることができる。それによって、大きな発電出力を得ることができる。また、密度が15g/cm以下である場合、振動発電装置の重量が大きくなりすぎることを防ぐことができる。
【0071】
エレクトレット61は、金属基板60の上面の一部に積層されている。すなわち、図14に示す電極54が形成されている領域と対向する領域にエレクトレット61が配置され
ている。
【0072】
エレクトレット61は、合成樹脂または無機材料からなる。合成樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)のようなフッ素系樹脂を挙げることができる。無機材料としては、SiOなどを挙げることができる。
【0073】
エレクトレット61を覆うように、保護層を形成してもよい。保護層を構成する材料としては、特に限定されず、SiN、AlN、ALなどの無機材料を挙げることができる。
【0074】
エレクトレット61は、第1の主面61a及び第2の主面61bを有する平坦な板状部材からなる。本実施形態では、エレクトレット61は、矩形の平面形状を有する。
【0075】
エレクトレット61は、第2の主面61b側から前記金属基板60に積層されている。エレクトレット61の第1の主面61aには部分的に電荷がチャージされている。すなわち、図15(a)に略図的に示すように、エレクトレット61は、本実施形態では、負の電荷がチャージされている帯電領域62と、電荷がチャージされていない非帯電領域63とを有している。
【0076】
上記エレクトレット61を帯電領域62と非帯電領域63とを有するように帯電する方法については、前述した適宜の帯電方法を用いることができる。
【0077】
なお、図15(a)では、帯電領域62と、非帯電領域63とを略図的に示したが、具体的には、図15(b)に示すように、帯電領域62は、複数本のストリップ状部分である。複数本のストリップ状部分は、平行に配置されている。複数本のストリップ状部分は、上記電極54の電極指の延びる方向に延ばされている。第1のくし歯電極55の電極指と、該電極指と隣り合う第2のくし歯電極56の電極指との間の距離は、図15(b)に示したストリップ状の帯電領域62のピッチの1/2とされている。例えば、ストリップ状部分の幅を500μmm、ストリップ状部分間の間隔を600μmとした場合、ストリップ状部分のピッチは1100μmである。この場合には、電極54における電極指ピッチは550μmとすればよい。例えば、電極指幅を500μm、電極指間のスペース幅を50μmとすればよい。
【0078】
図13に示すように、金属基板60の上面には、複数の凹部60aが形成されている。この凹部60aは、図14に示すように正方形の平面形状を有する。
【0079】
上記凹部60a内に、回転体64が配置されている。回転体64は、本実施形態では、金属からなる球体により構成されている。もっとも、回転体64は、金属以外のセラミックスなどにより形成されていてもよい。回転体64の一部が凹部60a内に入り込むようにして、回転体64が回転可能に凹部60a内に支持されている。回転体64の上端は、本実施形態では、固定基板53の下面に当接している。従って、回転体64により、固定基板53の下面と可動基板59の上面との間隔を一定にすることが可能とされている。
【0080】
なお、図14に示すように、上記回転体64は、電極54を囲む複数箇所に配置されている。この回転体64の配置については特に限定されず、複数個の回転体、好ましくは3個以上の回転体が電極54を囲む部分に均一に配置されていることが望ましい。それによって上記間隔を一定に保つことができる。
【0081】
上記凹部60aは、金属基板60をプレス加工する方法により容易に形式し得る。あるいは、凹部60aが形成されている部分に相当する貫通孔を有する金属板と平板状の金属
板とを貼り合わせることにより金属基板60を形成してもよい。また、厚い金属板を切削加工することにより凹部60aを形成してもよい。
【0082】
回転体64は、金属により形成されていることが好ましい。その場合には、例えば固定基板53の下面にグラウンド電位に接続される電極を形成し、該電極に回転体64の上端を接触させることが望ましい。それによって、金属基板60をグラウンド電位に一定に保つことができる。なお、回転体64をグラウンド電位に接続する構成は上記に限定されるものではない。例えば、固定基板53を金属板により構成し、該金属板の下方上に図示しない絶縁層を介して上記電極54を形成してもよい。その場合には、固定基板53をグラウンド電位に接続することにより、金属基板60をグラウンド電位に保つことができる。
【0083】
また、図14に示すように、可動基板59は、保持部材としてのバネ65,65により筐体52に支持されている。すなわち、コイルバネからなるバネ65の一端が金属基板60の側面に固定されており、他端が筐体52に固定されている。複数のバネ65により、可動基板59は、筐体52内の空間において図14の横方向すなわち電極54の電極指と直交する方向に移動可能とされている。
【0084】
好ましくは、上記バネ65の筐体52に接続されている部分に、図16に示すように接続電極66を形成してもよい。接続電極66は、筐体52の外表面に露出している。この接続電極66をグラウンド電位に接続することにより、金属基板60をグラウンド電位に保つことができる。
【0085】
また、図17に示すように、金属基板60の下面に凹部60bを形成してもよい。ここでは、凹部60b内にも回転体64と同様に構成された回転体68が配置されている。回転体68は、その下端が、筐体52の平面に当接されている。従って、固定基板53は、上記実施形態と同様に図17の横方向に移動可能とされている。この構造においても、回転体64,68の少なくとも一方をグラウンド電位に接続することにより金属基板60をグラウンド電位に保つことができる。
【0086】
なお、本実施形態では、固定基板53の下面に電極54が形成されていたが、図18に平面図で示すように、固定基板53の上面に電極54が形成されていてもよい。
【0087】
また、固定基板53の下面に電極54が形成されている場合、電極54を外部と接続する方法については、固定基板53の内周縁に位置している第1,第2の端子電極57b,58bを形成した構造に限定されるものではない。例えば図19に示すように、固定基板53の一端に第1の端子電極57bを形成し、他端側については固定基板53を貫通するスルーホール電極69を形成してもよい。スルーホール電極69により、第1,第2のくし歯電極55,56の内一方の電極を外部と電気的に接続することができる。このように、電極54の第1,第2のくし歯電極55,56の外部との接続構造についても特に限定されるものではない。
【0088】
上記実施形態では、第1〜第3の実施形態と同様に、エレクトレット61は、帯電領域62と非帯電領域63とを有していた。もっとも、本発明においては、エレクトレット61は、第1の帯電領域と、第1の帯電領域とは異なる極性の電荷がチャージされた第2の帯電領域とを有するように帯電されていてもよい。このようなエレクトレット61を得る帯電方法を図20(a)〜(c)を参照して説明する。
【0089】
図20(a)に示すように、金属基板60上にエレクトレット61を配置する。次に、エレクトレット61の上方に放電電極を配置し電圧を印加する。それによって、コロナ放電を引き起こす。その結果、図20(a)に示すように、エレクトレット61の上面の全
領域に正の電荷がチャージされる。すなわち、エレクトレット61の第1の主面の全領域に正の電荷がチャージされることとなる。
【0090】
次に、前述したエレクトレットの帯電方法に従って、マスク11をエレクトレット61上の上方に配置する。そして、図20(a)とは逆にマイナスの電荷をチャージするように上方に配置された放電電極から金属基板との間に電圧を印加する。マスク11が載置されている部分の下方は、上記のように正の電荷がチャージされたままとなる。他方、マスク11の開口部では、コロナ放電により、負の電荷がエレクトレット61の第1の主面61aにおいてチャージされることとなる。
【0091】
次に、マスク11を取り外す。このようにして、図20(c)に示すように、正の電荷がチャージされている第1の帯電領域62と、負の電荷がチャージされている第2の帯電領域71とを有するようにエレクトレット61を帯電させることができる。このように、正の帯電領域と負の帯電領域とを有するように帯電されたエレクトレット61を用いることにより、発電量をより一層高めることができる。これを、図21(a)〜(c)を参照して説明する。
【0092】
図21(a)〜(c)に示すように、固定基板53の下面の第1のくし歯電極55が上記エレクトレット61の負の電荷がチャージされている第2の帯電領域上に位置している場合、静電誘導により第1のくし歯電極55に正の電荷が誘起される。
【0093】
次に、可動基板59が固定基板53に対して図面上左側に移動したとする。そして、図21(b)に示すように、第1のくし歯電極55の電極指の下方が第1の帯電領域の上方に位置したとする。この場合、第1のくし歯電極55に誘起された静電荷が抜けていくことになる。他方、第2のくし歯電極56の電極指がエレクトレット61の負の帯電領域に向かい合うことになり、第2のくし歯電極56に正の電荷が誘起されることになる。さらに可動基板59が左側に移動し、第1のくし歯電極55の電極指がエレクトレット61の負の帯電領域上に位置すると、図21(c)に示すように、第1のくし歯電極55に正の電荷が誘起される。他方、第2のくし歯電極56の電極指からは正の電荷が抜けていくこととなる。すなわち、図21(a)〜(c)に示すように可動基板59が移動し、次にこの移動方向と逆方向に可動基板59が移動すると、第1,第2のくし歯電極55,56に接続されている負荷抵抗Rには交流の電流が流れる。このようにして、本実施形態の振動発電装置により電力を取り出すことができる。
【0094】
なお、図21(a)〜(c)では、第2の帯電領域が第1の帯電領域と異なる極性の電荷をチャージした領域とされていた。もっとも、前述した第1〜第3の実施形態の帯電方法と同様に、帯電領域と非帯電領域とを有するエレクトレットを用いてもよく、その場合においても、可動基板59の移動の繰り返しによる発電を行うことができる。
【0095】
なお、第1,第2のくし歯電極55,56には、整流回路を接続してもよい。さらに、整流回路に蓄電回路を接続し、発生した電力を蓄えることも可能である。
【符号の説明】
【0096】
1…振動発電装置
2…筐体
3…キャップ材
3a…基材
3b…電極
3c…第1の電極
3d…第2の電極
4…振動基板
4a,4b…辺
5,6…バネ
7…基材
8…下部電極
8a,8b…端面
9…エレクトレット
9a…帯電領域
9b…非帯電領域
10…保護膜
11,11A…マスク
11a…貫通孔
11b,11c…端縁
12…放電電極
13…電位制御装置
21…放電チャンバー
22…放電電極
23…電源
24…電圧制御装置
31…非直線性抵抗素子
41…ステージ
42…治具
V…電圧源
51…振動発電装置
52…筐体
53…固定基板
54…電極
55…第1のくし歯電極
56…第2のくし歯電極
57a…第1の引き出し電極
57b…第1の端子電極
58a…第2の引き出し電極
58b…第2の端子電極
59…可動基板
60…金属基板
60a,60b…凹部
61…エレクトレット
61a…第1の主面
61b…第2の主面
62…帯電領域
63…非帯電領域
64,68…回転体
65…バネ
66…接続電極
69…スルーホール電極
71…第2の帯電領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面にエレクトレットが配置され、アース電位と接続される下部電極と、
前記下部電極の上方に隔てられて配置された放電電極と、
前記下部電極と前記放電電極とに電気的に接続されており、前記下部電極と前記放電電極との間に電圧を印加する電圧源と、
前記下部電極上に載置されるエレクトレット上に配置され、導電性材料からなり、かつ貫通孔を有するマスクと、
前記マスクとアース電位との間の電位差を、0より大きく、前記エレクトレットの絶縁破壊電圧未満の範囲内に制御する電位制御手段を有する、エレクトレットの帯電装置。
【請求項2】
前記電位制御手段は、前記マスクと前記アース電位との間に接続されており、前記電位差が前記範囲内に設定した所定の電圧未満において、電流を通過させず、前記所定の電圧以上において電流を通過させる電気回路である、請求項1に記載のエレクトレットの帯電装置。
【請求項3】
前記電位制御手段は、前記マスクと前記アース電位との間に接続されており、前記エレクトレットの絶縁破壊電圧よりも低い電圧で抵抗が低下する非直線性抵抗素子である、請求項1に記載のエレクトレットの帯電装置。
【請求項4】
エレクトレットの一部の領域を選択的に帯電するためのエレクトレットの帯電方法であって、
下部電極上にエレクトレットを載置する工程と、
前記エレクトレット上に、前記エレクトレットを帯電させる領域上が貫通孔とされており、導電性材料よりなるマスクを、前記エレクトレット上に載置する工程と、
前記下部電極をアースに接地する工程と、
前記マスクとアース電位との間の電位差を、0より大きく、前記エレクトレットの絶縁破壊電圧未満の範囲に制御しつつ、前記下部電極と放電電極との間に電圧を印加してコロナ放電させることにより、前記エレクトレットの一部を選択的に帯電させる工程とを備える、エレクトレットの帯電方法。
【請求項5】
前記マスクの電位制御は、前記マスクと前記放電電極との距離を制御することにより行う、請求項4に記載のエレクトレットの帯電方法。
【請求項6】
前記マスクの電位制御に際し、前記マスクと前記アース電位との間に接続されており、前記範囲内に設定した所定の電圧未満において電流を通過させず、前記所定の電圧以上で電流を通過させる電気回路を用いる、請求項4に記載のエレクトレットの帯電方法。
【請求項7】
前記マスクの電位制御に際し、前記マスクと前記アース電位との間に接続されており、かつエレクトレットの絶縁破壊電圧よりも低い電圧で抵抗が低下する非直線性抵抗素子を用いる、請求項4に記載のエレクトレットの帯電方法。
【請求項8】
前記下部電極として金属基板を用い、前記金属基板上にエレクトレットを載置する工程の後であって、前記導電性材料よりなるマスクを前記エレクトレット上に載置する工程の前に、前記金属基板上に載置された前記エレクトレットに対し、前記金属基板と、前記エレクトレットの上方に配置した放電電極との間に電圧を印加してコロナ放電させることにより、エレクトレット全体を正または負に帯電する工程をさらに備え、
前記マスクとアースとの電位差を制御しつつコロナ放電により前記エレクトレットの一部を選択的に帯電させる工程において、前記エレクトレットの一部を負または正に帯電させる、請求項4〜7のいずれか1項に記載のエレクトレットの帯電方法。
【請求項9】
一方主面に電極が形成されている固定基板と、
前記固定基板に対抗するように配置された可動基板とを備え、
前記可動基板が金属基板と、第1,第2の主面を有する平坦な板状部材からなるエレクトレットとを有し、前記エレクトレットが第2の主面側から前記金属基板に積層されており、前記エレクトレットの第1の主面において、第1の帯電領域と、第2の帯電領域または非帯電領域とが存在するように前記エレクトレットが帯電されており、前記エレクトレット上には導電部材が設けられておらず、
前記可動基板が振動し得るように前記可動基板を保持する保持部材をさらに備え、
前記可動基板の振動により前記固定基板と前記可動基板との相対的位置が変化することにより電力を発生させる、振動発電装置。
【請求項10】
前記可動基板の前記固定基板側の主面に凹部が形成されており、該凹部に凹部内で回転可能となるように一部が収納されている回転体をさらに備え、回転体の前記可動基板とは反対側の端部が前記固定基板の可動基板側の主面に接触され、それによって固定基板と可動基板との間に空間が設けられている、請求項9に記載の振動発電装置。
【請求項11】
前記エレクトレットの第1の帯電領域が正または負の電荷がチャージされた帯電領域であり、前記エレクトレットの第2の帯電領域が、負または正の電荷がチャージされた帯電領域である、請求項9または10に記載の振動発電装置。
【請求項12】
前記可動基板の金属基板がアース電位に接続される、請求項9〜11のいずれか1項に記載の振動発電装置。
【請求項13】
前記金属基板が5g/cm以上、15g/cm以下の密度を有する金属からなる、請求項9〜12のいずれか1項に記載の振動発電装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate