説明

エレクトロウェティング方式を用いた液体光学素子

【課題】エレクトロウェティング現象を用いて光学特性を変化させる液体光学素子において、素子形状を大きくすることなく大きな界面駆動力を得ることができ、応答速度の速い液体光学素子を提供する。
【解決手段】液体光学素子100は、光学特性を変化させる機能を担う機能部と駆動ポンプ部を有する。駆動ポンプ部は、導電性液体104と非導電性液体105により形成された界面116の端部116dを保持する保持部101a、110bと、保持部に対向する対向部分108cを含む電極108を有する。電極への印加電圧を制御することで、電極に接する界面の端部を変位させて液体を移動させ、液体が連通して存在する機能部の状態を変化させて光学特性を変化させる。電極108は、対向部分から保持部の方向に伸びて保持部に近接するように配された近接部分108a、108bをも有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトロウェティング現象を用いて光学特性を変化させることが可能な液体光学素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、2種類の非混和な液体を円筒状容器等に封入し、それぞれの液体の接する界面の形状を、エレクトロウェッティング現象を用いて変化させる光学素子が知られている。こうした光学素子は、従来の固体の光学素子のように機械的な移動機構を要することなく光学特性を変化させることができる為、静音性や低消費電力を実現できることに加え、光学ユニットの小型化や応答速度の高速化を達成するのに有効である。この液体光学素子では、互いに非混和な導電性の液体と非導電性の液体が、密閉された容器に封入されている。そして、容器に設けられ導電性液体と絶縁層を介して接する電極と、導電性液体に直接接する電極との間に電圧を印加することで、前記液体が接する界面の形状を、印加電圧に応じて変化させるというものである。
【0003】
しかし、従来のエレクトロウェティング現象を用いた光学素子は、光学特性を変化させる為の界面の駆動を、光学素子として機能させる界面の端部の接触角を印加電圧により変化させることで行っている。その為、界面の変位は界面端部から始まり界面中心部へと進んで行くことになり、界面中心部の応答が遅れる。したがって、界面の変位が完全に終了する前に当該界面の次の変位動作を行うと、高次モードの界面振動が発生し易く、良好な光学特性が得られないという問題が生じることがある。また、機能部の界面を変化させる為の駆動力も、界面端部における壁面と液体及び液体相互の界面張力により決まる。すなわち、使用する液体や壁面の物性に依存する為、界面の応答速度を速める為に大きな駆動力を得ようとした場合、問題が生じ易い。特に口径の大きい光学素子の高速化において、より問題が生じ易い。
【0004】
エレクトロウェティング現象を用いた光学素子の技術に関して、次の様なものがある(特許文献1参照)。すなわち、同一容器内において、光学素子として機能する界面部分と、それを駆動する駆動力を発生する為の界面部分を分離し、駆動用の界面を変位させることで、機能部の界面を変位させるというものがある。これによれば、光学素子の界面の形状や大きさに関係なく駆動用の界面を任意に設定できるので、駆動界面を変位させる駆動力を大きくすることができ易い。また、光学素子として機能する界面全体に均一に圧力をかけ易くなるので、上記のような高次モードの界面振動の発生を抑えることができる。したがって、機能部の界面の応答速度を速くすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−79297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された方法は、界面に駆動力を与える複数の電極壁面を並列に配列するという構成のものである。界面の駆動力は、上記不混和な2液の界面と電極面との接触領域(以下、「界面端部の接触線」とも称す)の長さにより決まり、この界面端部の接触線が長いほど、界面を駆動する為の界面張力の作用を大きくすることができる。したがって、変位させる液体流量が同じであれば、界面端部の接触線が長ければ長いほど、単位体積当りの界面張力を大きくでき、より高速な駆動が可能となる。
【0007】
しかし、特許文献1に記載の方法では、上記界面端部の接触線の長さは電極壁面の数だけ長くなるに過ぎず、必要な駆動力を確保しようとして電極壁面の数を増やすと、容器そのものが大きくなってしまうことになり易い。本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものである。すなわち、エレクトロウェティング現象を用いて光学特性を変化させる液体光学素子において、素子形状を大きくすることなく比較的大きな界面駆動力が得られ、それにより応答速度を速くすることができる液体光学素子を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による液体光学素子は、光学特性を変化させる機能を担う機能部と駆動ポンプ部とを有する。駆動ポンプ部は、互いに不混和な導電性液体と非導電性液体により形成された界面の端部を保持する保持部と、保持部に対向する位置に配置された対向部分を有し前記導電性及び非導電性の液体に対して絶縁された電極とを有し、電極に印加される電圧を制御することで、エレクトロウェティング現象により、電極に接する界面の端部を変位させて、保持部と電極によって挟持された前記導電性及び非導電性の液体を移動させることができ、これにより、駆動ポンプ部から前記導電性及び非導電性の液体が連通して存在する機能部の状態を変化させて機能部による光学特性を変化させられる。電極は、対向部分から保持部のある方向に伸びて保持部に近接するように配された近接部分をも有する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の液体光学素子によれば、電極と接する界面端部の接触線を、素子形状を大きくすることなく長くでき、機能部の状態を変化させるために大きな駆動力を得るようにすることができる。したがって、液体光学素子の応答速度を上げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第1の実施例の概略構成を示す図。
【図2】本発明の第1の実施例における駆動界面を構成するセルを示す図。
【図3】界面保持に関する説明の為の一部断面図。
【図4】本発明の第1の実施例の変形例を示す概略図。
【図5】本発明の第1の実施例における電極形状の変形例を示す説明図。
【図6】本発明の第2の実施例の概略構成及び駆動界面を構成するセルを示す図。
【図7】電極形状による界面駆動力に関する説明図。
【図8】本発明の第3の実施例の概略構成を示す図。
【図9】本発明の第4の実施例の概略構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の特徴は、不混和な2液体の界面の端部を保持する保持部に対向して配された対向部分を有する絶縁電極への印加電圧を制御することで、絶縁電極に接する前記界面の端部を変位させて、保持部と絶縁電極により挟持された前記2液体を移動させることができ、これにより、保持部と絶縁電極を備える駆動ポンプ部から前記2液体が連通して存在する機能部の状態を変化させて光学特性を変化させられる液体光学素子において、絶縁電極に、対向部分から保持部の方向に伸びて保持部に近接するように配された近接部分をも設けることである。ここで、光学特性を変化させる機能を担う機能部は、後述のレンズ機能を有するものの他に種々のものであり得て、駆動ポンプ部から連通して存在する前記2液体の状態の変化で達成できる機能であれば、どの様な機能を担うものでもよい。
【0012】
以下、図1〜図9を用いて本発明の液体光学素子の実施例を説明する。
(第1の実施例)
第1の実施例の概略の構成を示す図1(a)において、液体光学素子としての液体可変焦点レンズ100は光軸Lを含む。図1(a)は図1(b)に示す平面A−Aで切断した断面図、図1(b)は図1(a)に示す平面B−Bで切断した断面図を示す。液体可変焦点レンズ100は、円筒状部材101の両端面を、透明部102a及び103aを有する封止部材102と103により接着剤等で封止した構造の密閉容器を備える。この容器の中には導電性液体104と非導電性液体105が封入されている。導電性液体104は、水に塩化ナトリウム或いは臭化ナトリウム等の電解物質を溶解させたものであり、非導電性液体105は導電性液体と非混和であるシリコーンオイル等である。また、非導電性液体105と導電性液体104は、両者が接する界面においてレンズ効果を持たせる為に、互いの屈折率が異なり、さらに重力の影響を受け難くする為に同じ密度になるように調整されている。
【0013】
円筒状部材101と封止部材102、103で密閉された容器の内部には、別の円筒状部材110が配置されている。この円筒状部材110は、端面部110eで封止部材103の内面に設けられたリブ状突起111により支持され、円筒状部材101の内壁面及び封止部材102、103の内面に対し一定の間隔を隔てて固定されている。円筒状部材110の内壁面及び外壁面には、三角形状の断面を有する突起110a、110bが円周方向に設けられている。同様に、円筒状部材101の内壁面には三角形状断面を有する突起101aが円周方向に設けられている。円筒状部材110の外壁面に設けられた突起110bと円筒状部材101の内壁面に設けられた突起101aとの間には、図1(b)に示す如く、コの字波形状に連続的に折り曲げられて蛇腹状に一体化された形状の電極108が円周方向に沿って設けられている。つまり、蛇腹状の電極108は、当該電極の壁面に垂直な断面の形状がコの字波形状である。このコの字の蛇腹状電極108は導電性を有する部材からなり、表面を絶縁性部材106により被覆されている。したがって、導電性液体104に対しては電気的に絶縁されている。さらに電極108は、導電性液体104に対し絶縁された導電性部材109を介し容器外部に設けられた後述する電圧印加部120と電気的に接続されている。
【0014】
蛇腹状電極108の一つであるコの字波形状電極の電極壁面108a1、108b1、108c1と、円筒状部材110の突起110bで囲まれた領域に、導電性液体104と非導電性液体105の界面116s1が形成される。同様に、隣接するコの字波形状電極の電極壁面108a2、108b2、108c2と、円筒状部材101の突起101aで囲まれた領域に、導電性液体104と非導電性液体105の界面116s2が形成される。このように、円筒状部材110及び円筒状部材101の突起110b、101aとコの字の蛇腹状電極108によりセル状に分割された界面116が円周方向に形成される。界面116の光軸L方向における位置は、界面116の端部116dが円筒状部材110及び円筒状部材101の突起110b、101aの先端(三角形の頂点部)と同じ位置になるように導電性液体104と非導電性液体105の液量が調整されている。また、円筒状部材110の内壁面側には導電性液体104と非導電性液体105の界面115が形成される。この界面の光軸方向における位置は界面115の端部115dが円筒状部材110の突起110aの先端(三角形の頂点部)と同じ位置になるように導電性液体104と非導電性液体105の液量が調整されている。
【0015】
107は導電性液体104に直接接している電極である。120は電極108と電極107(したがって導電性液体104)との間に電圧を印加する為の電圧印加部である。今、電圧印加部120において電極108と電極107(したがって導電性液体104)との間に直流又は交流電圧を印加する。蛇腹状電極108のセル状に分割された界面の一つである116s1に着目すると、図2に示すように、界面116s1は初期状態(電圧0V)では、壁面と液体及び液体相互の界面張力により決まる116aの位置にある。そして、電圧の印加により、電極壁面108a、108b、108cに接する界面116aの端部116a1、116b1、116c1には、エレクトロウェティング現象により界面116aの界面張力に抗して矢印E方向に押し下げる力が作用する。一方、界面端部116dは、後述する理由により円筒状部材110の突起110bに保持された状態で動かないので界面116aは116bに示す位置に変位する。これにより、非導電性液体105は図1(a)に示すように下方に押し下げられ、容器内部において矢印Cに示す流れが発生し、液体105が移動する。この時、レンズとして機能する界面115の端部115dは円筒状部材110の突起110aに、後述する理由により保持された状態で動かず、液体の移動により界面115は実線115aの状態から破線115bの状態に変位する。
【0016】
電圧印加部120において印加電圧を切ると、界面116bの電極壁面と接する界面端部116a2、116b2、116c2には界面張力による復元力F(図2に示す)が作用し、界面116bは元の116aの状態に戻る。この時、導電性液体104は上方に押し上げられ、図1(a)に示すように容器内部において矢印D方向に流れが発生し、液体104が移動する。この液体の移動により界面115は実線で示す元の位置に戻る。
【0017】
以上述べたように、駆動ポンプ部の界面116は、機能部の界面115の曲面形状を変化させ光学特性を変化させる為の駆動界面として機能する。界面115の変位量は界面116の移動量による流量変化により決まり、界面116の変位量は、電圧印加部120による電極108と電極107(したがって導電性液体104)に印加される電圧により決まる。すなわち、界面115の界面形状の変位量は、電圧印加部120による電圧により制御される。また、界面116の変位により発生した液体の圧力は界面115に対し略均一に作用するので高次の振動モードが界面115上に発生し難い。よって、以上の構成は、より大きい口径のレンズや高速で界面を変化させるような液体レンズに対し有効である。
【0018】
ここで、円筒状部材110の突起110a、110b及び円筒状部材101の突起101aにより界面端部が保持される理由について以下に述べる。図3(a)に示すように、例えば円筒130の内側に互いに非混和な液体132と液体133による界面131が形成された場合、界面131の曲面形状は壁面と液体及び液体相互の界面張力により決まる。この時、界面端部131aでの界面131の接線Tと壁面130aとのなす角である接触角θは壁面や液体相互の物性に基づく界面張力により決まる一定値を取る。液体132と液体133の液量が変化した場合、界面端部131aは壁面130a上を接触角θは一定のまま、液量比に応じて矢印G又はH方向に移動する。しかし、壁面の形状が図3(b)に示すように突起形状をしており、界面131の界面端部131aが突起130bの頂点Pの位置にある場合、接触角は上述したような相互の界面張力により決まる一定値とならない場合が生じる。すなわち、壁面と界面の接触角θ1が上記θより大きい場合、界面131の接触角θ1は図3(b)のαで示す角度の範囲では液体132と液体133の液量比で決まる値となる。そして、液体132と液体133の液量比が変わった時、界面端部131aは移動することなく頂点Pで保持され、界面の曲面形状のみ2点鎖線で示す131cから131dのように変化する。但し、接触角θ1が接触角θとなる界面131c又は131dに達した後、さらに液量比が変わった場合、接触角θはそのままで、界面端部131aは突起130bの壁面130cまたは130dに沿って矢印I又はJ方向に移動する。したがって、図1と図2で示した、円筒状部材110、101の突起110b、101aに位置する界面116の端部116dは、壁面と液体とで決まる接触角に達しない領域にある場合、動かずその位置に保持される。同様に、円筒状部材110の突起110aに位置する界面115の端部115dも壁面と液体とで決まる接触角に達しない領域にある場合、動かずその位置に保持される。
【0019】
駆動ポンプ部の駆動界面116の駆動力は、電極108の壁面と界面116の接触部において作用する力である界面張力に依存する。したがって、駆動力を大きくするにはこの電極108と界面116の接触領域を大きくする、すなわち界面端部の接触線を長くすれば良い。コの字波形状電極の場合、コの字を形成する電極108a、108bの有無で液体の変位量は変わらないと見なせるので、コの字波形状に電極を設ける方が界面端部の接触線が長くなる分、駆動力を大きくすることができる。従来の電極を並列に配置して駆動力を増す方法では駆動界面自体も増え、その分、素子形状も大きくなるが、本発明の手法によれば、界面を増やすことなく駆動力を大きくすることができる。コの字の蛇腹状電極の蛇腹の数を増やせば、電極の厚み分、駆動界面が減ることになるが、電極の厚みは、具体的には0.1mm以下なので実用上無視できるものである。
【0020】
上記実施例の変形例を説明する。図4は図1で示した液体可変焦点レンズ100の駆動界面116を同心円状に2層に設けた変形例である。図4(a)、(b)において、円筒状部材101と円筒状部材110の間にさらに円筒状部材210を同心円状に配置し、コの字の蛇腹状電極208を追加したものである。従来の電極を並列に配置し駆動界面を多層にすることで駆動力を大きくする場合に比べ、並列に配置した電極をさらにセル状に小さく分割することにより各層における駆動力を大きくできる。変位させる液体流量を増やす為に駆動界面を多層にする方法が取られるが、そうした際にも本実施例のような方法により、電極を層状に配列する場合より界面端部の接触線を長くすることができ駆動力を大きくできる。
【0021】
また、上述した実施例では、コの字波形状に一体化した電極を用いたが、電極形状は図5(a)或いは図5(b)に示すようなものでも良い。図5(a)の構造は、電極140の電極壁面140aに対し垂直に電極壁面140bを設け、これらの電極壁面と電極140の対向部にある壁面141に設けた界面端部保持部141aとで駆動界面116をセル状に分割して駆動するようにしたものである。図5(b)の構造は、円弧波状の電極142によって、上述したコの字波形状電極と同様、互いに対向した壁面143、144に設けた界面端部保持部143a、144aで挟まれた駆動界面116を互いに一定間隔でセル状に分割して駆動するようにしたものである。何れの場合も、電極壁面140bの間隔或いは円弧波状の電極のピッチを小さくすることで、上述したコの字波形状電極と同様、界面端部の接触線が増え界面116に対する駆動力を大きくすることができる。円弧波状の電極や後述の三角波形状の電極では、或るセルにおいて界面保持部の突起に対向する対向部分は、隣接するセルでは界面保持部の突起に近接した近接部分となる。また、或るセルにおいて界面保持部の突起に近接した近接部分は、隣接するセルでは界面保持部の突起に対向する対向部分となる。
【0022】
ところで、上述に例として挙げたコの字波形状電極の壁面108a、108bと界面端部保持部である突起110b或いは101aの位置関係は、界面116が変位する時、界面端部116dが固定端として機能すればよく、完全に密着している必要はない。したがって、本明細書において、「近接」という場合、完全に密着する場合の他に、多少の遊びがあって近接している場合も含んで用いられている。多少の遊びがあることは、組み立てにおいて、一体化された電極108を突起110b、101aの間に組み込む際に必要とされる隙間(具体的には0.1mm〜0.2mm程度)を許容して、組み立てを容易にする。また、本実施例で示した、電極部のみを一体化して容器とは別部品にすることは、容器や円筒状部材110を絶縁性の樹脂等を素材として成型で製造できるようにし、コストの低減にとって利点となる。さらに、一体化した電極を容器に組み込むという方法で組み立てられるので、組み立て性も良い。
【0023】
本発明は、従来並列に配置していた電極壁面に対し、それに略垂直な方向に電極壁面を設けることで駆動界面をセル化し、電極壁面に対する界面端部の接触線を増やすことで駆動力を大きくするものである。したがって、図5(c)に示すように円筒状部材145の内面に設けた電極(対向部分)108と円筒状部材146の外壁に設けた界面端部保持部としての突起146aとの間を横断的に結ぶ電極(近接部分)108aが1箇所であるような場合も含む。
【0024】
(第2の実施例)
図6(a)は第2の実施例の概略の構成を示したもので、液体光学素子300を光軸方向から見た電極形状を示す断面図である。第1の実施例において電極形状をコの字波形状にしたが、本実施例では電極形状を三角波形状にしたものである。図2において、第1の実施例と共通するものは同じ符号を付す。本実施例では、円筒状部材101の内壁面に設けられた界面保持部の突起101a及び容器内部に設けられた円筒状部材110の界面保持部の突起110bの間に、三角波形状に連続的に折り曲げられた蛇腹状の電極308が円周方向に設けられている。電極308は第1の実施例の電極108と同様、導電性を有する部材からなり、表面を絶縁部材(第1の実施例の絶縁部材106参照)により被覆されている。液体可変焦点レンズ300の他の構成は第1の実施例と同じである。
【0025】
図6(b)は、三角波形状電極による界面の変位を説明する斜視図である。駆動界面316は、三角波形状をした電極308の壁面308a、308b及び界面端部保持部である円筒状部材110に設けられた突起110bによりセル状に分割され、初期状態(印加電圧0V)では316aに示す状態にある。電圧印加部120(図示せず)により電圧が印加されると、電極壁面308a、308bに接する界面316aの端部316a1、316b1にはエレクトロウェティング現象により界面316の界面張力に抗して矢印K方向に押し下げる力が作用する。一方、界面端部316dは上述した理由により円筒状部材110の突起110bに保持された状態で動かないので界面316aは316bに示すように変位する。そして、電圧印加部120において印加電圧を切ると、電極壁面308a、308bと接する界面316bの界面端部316a2、316b2に界面張力による復元力が矢印M方向に働き、界面316bは元の316aの状態になる。
【0026】
図7は、第1の実施例に示したコの字波形状電極と第2の実施例で示す三角波形状電極とで、どちらが電極壁面に対する界面端部の接触線が大きいかを説明する図である。図7(a)はコの字波形状電極における界面変位による流量の変位を模式的に示す図で、この場合は三角柱となる。図7(b)は三角波形状電極における界面変位による流量の変位を模式的に示す図で三角錐となる。ここで、コの字波形状電極による界面及び三角波形状電極による界面は、界面の曲率半径に比べ十分小さいとして界面を平面として扱い、初期状態における界面は水平、すなわち光軸に対し垂直になっているものとする。また、電圧印加によって変位した界面変位量hは同じとする。セル化されたコの字波形状電極による界面と三角波形状電極による界面の条件を同じにする為、光軸方向からセルを見た図7(c)において、セルのピッチa及びセルの幅bを同じとする。そして、初期状態における界面の面積を同じとすると、初期の界面は、コの字波形状電極はp1−p2−p3−p4で示す四角形、三角波形状電極はp1−p5−p6−p4で示す平行四辺形になる。したがって、図7(a)に示すコの字波形状電極による流量変位を示す四角柱に対し、三角波形状電極における流量変位は、図7(b)に示す三角錐二つ分が相当することになる。
【0027】
今、電圧印加後の、コの字波形状電極の初期状態であるA面の界面端部における接触線の長さをL1(図7(a)の1点鎖線で示す)とすると、
L1=2・b+a ・・・(1)
となる。
また、界面変位により変位する流量の体積をV1とすると、
V1=a・b・h/2 ・・・(2)
となる。
同様に、電圧印加後の三角波形状電極の初期状態であるB面の界面端部における接触線の長さをL2(図7(b)の1点差線で示す)とすると、
L2=2・c
となり、実際の駆動に関わる接触線は2倍になるので、
2・L2=4・c ・・・(3)
となる。
そして、界面変位により変位する流量の体積をV2とすると、
V2=a・b・h/6
となり、実際の変位に寄与する体積は2倍になるので、
2・V2=a・b・h/3 ・・・(4)
となる。
c=〔(a/2)+b1/2 として(1)、(3)を2乗し、差を求めると、
(2・L2-L1=(a−2b)+6a+8b>0
となり、コの字波形状電極に比べ三角波形状電極の方が界面端部の接触線は長くなる。但し、式(2)、(4)より三角波形状電極の方が体積的には2/3になる為、同じ流量を得る為には、駆動用界面として面積比で1.5倍の数が必要になるが、体積当たりの界面張力による駆動力は大きくなるので優位である。
【0028】
(第3の実施例)
図8は第3の実施例の概略の構成を示したもので、図8(a)は液体光学素子としての液体可変焦点レンズ400を、光軸Lを通る平面で切断した断面図、図8(b)は図8(a)に示すB−Bを通る平面で切断した断面図を示す。上述した第1の実施例及び第2の実施例では駆動界面の移動方向が光軸と略平行となるような構成であったが、本実施例は、駆動界面の移動方向が光軸に対し略垂直になるように構成したものである。尚、上述した実施例と共通するものは同じ符号を付す。
【0029】
可変焦点レンズ400は、円筒状部材401を第1の実施例と同様、封止部材102、103により接着剤等で封止した構造の密閉容器を備える。この容器の中には導電性液体104と非導電性液体105が封入されている。容器内部には、中央部に穴410cを有する円盤状部材410が設けられている。円盤状部材410は、電極(対向部分)408(図8(b)において破線で示す)に対し垂直且つ光軸Lを中心に放射状に設けられた複数の電極(近接部分)409により支持されている。そして、円筒状部材401の内壁面及び封止部材102、103の内面に対し一定の間隔を隔てて固定されている。また、円盤状部材410の下面にはさらに界面端部を保持する為の突起410bが設けられている。電極408と電極409は電気的に導通しており、それぞれ表面を絶縁膜406により被覆されている。したがって、これら電極408、409は導電性液体104に対し電気的に絶縁されている。
【0030】
以上のような構成により、電極409の壁面409a、409bと電極408の壁面408a及び円盤状部材410の突起410bで囲まれたセル状の領域に、駆動界面416が円周方向に形成される。レンズとして機能する機能部の界面415は円盤状部材410中央の穴410cの端部に設けられた突起410aの先端位置に界面端部が保持された状態で形成される。
【0031】
電圧印加部120により電圧を印加すると、電極壁面408a、409a、409bに接する駆動界面416の端部に、エレクトロウェティング現象により界面張力に抗して力が作用する。そして、実線で示す駆動界面416aは、突起410bで界面端部が保持された状態で、破線で示す駆動界面416bに変位する。駆動界面416の変位により非導導電性液体105は中心部に向かって移動し、レンズとして機能する界面415を実線の位置415aから破線の位置415bに変位させる。そして印加電圧を切ると、電極壁面408a、409a、409bに接する駆動界面416の端部は表面張力による復元力により、破線で示す416bの位置から実線で示す416aの位置に変位する。この駆動界面416の変位により、導電性液体104は中心部に向かって移動し、界面415を破線の位置から元の実線の位置に変位させる。
【0032】
以上説明したように、駆動界面416には電極壁面408aに加え、側面に設けられた電極壁面409a、409bによる力が作用する。したがって、電極409により駆動界面416を小さくセル状に分割すれば、上述した実施例に述べたように大きな駆動力を得ることができる。尚、円盤状部材410の突起410bの方向に伸びる電極409と電極408とを合わせた形状は、上記第1の実施例及び第2の実施例で述べたコの字波形状或いは三角波形状を有してもよく、こうして蛇腹状電極に置き換えても良い。
【0033】
(第4の実施例)
図9は第4の実施例の概略の構成を示したもので、図9(a)は液体光学素子としての液体可変焦点レンズ500を、光軸Lを通る平面で切断した断面図、図9(b)は図9(a)に示すB−Bを通る平面で切断した断面図である。本実施例は、上記第3の実施例において電極409によってセル状に分割された駆動界面416を個別に駆動制御できるようにしたものである。すなわち、本実施例では、絶縁電極は、保持部に対向する対向部分と保持部に近接する近接部分をそれぞれ有する複数の電極部分に電気的に分離され、複数の電極部分は、それぞれ個別に印加電圧が制御される。
【0034】
電極509によりセル状に仕切られた電極508は、円周方向にセル毎に電気的に非導通に分割されている。電極509の一つである電極509−1は、互いに非導通である電極509a1と509b8により構成される。そして、電極509a1が電極508−1と電気的に導通状態で取り付けられ、電極509b8が、隣接する電極508−8と電気的に導通状態で取り付けられている。同様に、電極509−2は互いに非導通である電極509b1と電極509a2により構成される。そして、電極509b1が電極508−1と、電極509a2が隣接する電極508−2と、それぞれ電気的に導通状態で取り付けられている。このように、電極509a1及び電極509b1と電極508−1からなるセル化された電極は、界面416をセル状に分割すると同時に、隣接するセル化電極から電気的にも分割されている。また、分割された電極508は、電極端子511を介して、それぞれのセル化電極に対応して外部に設けられた電圧印加部520と電気的に接続されている。そして、セル化された電極への印加電圧を個別に制御することで、分割された駆動界面416の変位を、目的に合わせて細かく制御することができる。
【0035】
上述した実施例では、液体光学素子として可変焦点レンズの例を挙げたが、上述した様に、本発明は、レンズ以外にも、界面の位置ないし状態を変えることにより透過光量を変化させる光学素子等の光学素子にも適用可能である。
【符号の説明】
【0036】
100・・可変焦点レンズ(液体光学素子)、101a、110b・・突起(保持部)、104・・導電性液体、105・・非導電性液体、108・・蛇腹状電極(電極)、108a、108b・・電極の近接部分、108c・・電極の対向部分、115・・機能部の界面、116・・駆動界面(駆動ポンプ部の界面)、116d・・駆動界面の端部、120・・電圧印加部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学特性を変化させる機能を担う機能部と駆動ポンプ部とを有し、
前記駆動ポンプ部は、互いに不混和な導電性液体と非導電性液体により形成された界面の端部を保持する保持部と、前記保持部に対向する位置に配置された対向部分を有し前記導電性及び非導電性の液体に対して絶縁された電極とを有し、前記電極に印加される電圧を制御することで、エレクトロウェティング現象により、前記電極に接する前記界面の端部を変位させて、前記保持部と前記電極によって挟持された前記導電性及び非導電性の液体を移動させることができ、これにより、前記駆動ポンプ部から前記導電性及び非導電性の液体が連通して存在する前記機能部の状態を変化させて光学特性を変化させられる液体光学素子であって、
前記電極は、前記対向部分から前記保持部のある方向に伸びて前記保持部に近接するように配された近接部分をも有することを特徴とする液体光学素子。
【請求項2】
前記電極は、蛇腹状に一体化された形状を有することを特徴とする請求項1に記載の液体光学素子。
【請求項3】
前記蛇腹状の電極は、当該電極の壁面に垂直な断面の形状が三角波形状またはコの字波形状であることを特徴とする請求項2記載の液体光学素子。
【請求項4】
前記電極は、前記保持部に対向する対向部分と前記保持部に近接する近接部分をそれぞれ有する複数の電極部分に電気的に分離され、
前記複数の電極部分は、それぞれ個別に印加電圧が制御されることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の液体光学素子。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−101228(P2013−101228A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−245006(P2011−245006)
【出願日】平成23年11月9日(2011.11.9)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】