説明

エレクトロクロミック素子、光学デバイス及び撮影ユニット

【課題】光透過性の高いエレクトロクロミック素子を提供する。
【解決手段】カソード、アノード及び電荷輸送材料を含み、発色状態と消色状態とを示すエレクトロクロミック素子であって、 素子のカソード上、アノード上のいずれにも電子授受可能な材料がそれぞれ1種類以上存在し、電子授受可能な材料は電子授受の結果、波長400〜700nmの範囲の分光吸収スペクトルが実質的に変化する材料であって、カソードとアノードが対向する平面に直交する方向から見たとき、消色状態において波長400〜700nmの範囲の光学濃度が実質的に異なる2つ以上の領域が存在する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトロクロミック素子、電磁波の強度に応じた起電力を発生させる起電力発生要素と該素子からなる光学デバイス、および該光学デバイスを備えた撮影ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
電磁波に応答して光学濃度を変える素子の応用範囲は広範である。電磁波に応答して光学濃度を変えることのできる、つまり光の透過、あるいは反射を制御できる機能を有する材料としては、フォトクロミック材料やエレクトロクロミック材料などがある。
【0003】
フォトクロミック材料とは光の照射を受けてその光学濃度を変化させる材料であり、サングラス、紫外線チェッカー、印刷関連材料、繊維加工品等に応用されている。
【0004】
エレクトロクロミック材料とは、電圧印加を受けてその光学濃度を変化させる材料であり、自動車用防眩ミラー、車両用窓材料等に応用されている。
【0005】
こうした光学濃度変化材料の用途として、カメラを初めとする撮影システムが挙げられる。例えば近年、フィルムの装填作業が不要である写真撮影可能なカメラユニットとして、レンズ付きフィルムがその簡便さから広く普及している。その利用価値を更に高めるために高感度フィルムを搭載することが行われている。しかしながら、簡便さを売りにする従来のレンズ付きフィルムには露光量を調整する機構が備わっていなかった。そのために高感フィルムを搭載したレンズ付きフィルムを用いて明るい雰囲気で撮影した場合、露光量が多すぎて画面が白くとんでしまう失敗写真がしばしば発生した。そこで撮影中の測光によるAEコントロール方式を導入し、撮影光量により絞りの自動切換えが可能なレンズ付きフィルムが発売された。これにより、露光量過多による撮影失敗の頻度が大幅に低減した。
【0006】
撮影光量に応じて、感光材料への入射光量を調節する「調光フィルター」をより簡便に安価に実現する手段として、フォトクロミック材料を用いたレンズ付きフィルムが提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2および特許文献3参照)。
代表的なフォトクロミック材料は、ハロゲン化銀含有無機化合物や一部の有機化合物などが知られている。このようなフォトクロミック材料はある波長の光の照射を受けることで発色する、すなわち光学濃度を増す。一方で、加熱、光照射の中止、または異なる波長の光照射を受けることで消色する、すなわち光学濃度を減ずる。フォトクロミック材料で作られたフィルターをその光軸に置き、入射する光量に応じて発色・消色を行わせる事で調光が可能になると考えられた。
【0007】
しかしながら、フォトクロミック材料は、発色には1分程度、消色には数十分以上を要するのが一般的であり(例えば、非特許文献1参照)、撮影光の調光システムとして用いるのは応答速度の遅さから困難であった。
【0008】
これに対し電圧印加で制御可能な材料として、エレクトロクロミック材料が知られている。エレクトロクロミック材料は、電圧印加の結果、電子が流出入し光学濃度が変化する材料である。代表的なエレクトロクロミック材料としては、一部の金属酸化物や有機化合物などが知られている。このようなエレクトロクロミック材料に電源と撮影光量を検知する光センサーを組み合わせて用いることで、撮影する際の光量に応じて感光材料への入射光量を調節する「調光フィルター」が実現可能となる。
【0009】
エレクトロクロミック材料に光に応答して起電力を生じる太陽電池を積層した調光システムが提案されている(例えば、特許文献4参照)。このシステムの場合も光に応じた自動的な調光が期待できる。ただし、この提案のように太陽電池とエレクトロミック材料とを積層した構造ではエレクトロミック材料の層を通過する光の一部が太陽電池に吸収されることは避けられない。特にカメラ関連の光学デバイスのように、調光を必要としないシーンにおいて撮影記録媒体への入射光量を最大限に利用したいシステムには不適切である。
【0010】
特徴的なエレクトロクロミックデバイスとして、エレクトロクロミック化合物を多孔質状の酸化チタンやアンチモンドープ酸化錫の層に吸着させて用いることで応答速度を向上させたものが知られている(例えば、特許文献5、非特許文献2および非特許文献3参照)。更に、該エレクトロクロミックデバイスは、エレクトロクロミック化合物の種類を変化させることによってデバイスの発色状態の色相も制御可能である(特許文献6、非特許文献4)。
【0011】
本発明者は、上記技術を用いたエレクトロクロミック素子を、撮影装置レンズの透過光量を調節する「調光フィルター」として利用することを鋭意検討した。該エレクトロクロミック素子では消色状態の光学濃度が大きく、その結果、調光を必要としないシーンにおいて入射光量が低下してしまう問題が致命的となった。エレクトロクロミック素子を調光フィルターに応用する際、利用可能な光量を極力損失しないで済むよう消色状態での光学濃度が低いエレクトロクロミック素子が切望されている。
【特許文献1】特開平5−142700号公報
【特許文献2】特開平6−317815号公報
【特許文献3】特開2001−13301号公報
【特許文献4】特開平9−244072号公報
【特許文献5】特表2000−506629号公報
【特許文献6】国際公開第04/067673号パンフレット
【非特許文献1】ソリッド ステート アンド マテリアル サイエンス(Solid State and Material Science),1990年,16巻,291頁
【非特許文献2】ソーラー エナジー マテリアルズ アンド ソーラー セルズ(Solar Energy Materials and Solar Cells),1998年,55巻,215頁
【非特許文献3】ジャーナル オブ フィジカル ケミストリー B(Journal of Physical Chemistry B),2000年,104巻,11449頁
【非特許文献4】ソリッド ステート イオニックス(Solid State Ionics),2003年,165巻,315頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
エレクトロクロミック素子(=光学濃度変化要素)を調光フィルターとして利用する際、エレクトロクロミック素子の発色状態での色相、及び消色状態での光学濃度は重要である。例えば、調光フィルターをレンズ付きフィルムに搭載し、レンズ付きフィルムに入射する光量を調節する場合、調光フィルターとして用いるエレクトロクロミック素子は、発色時ではレンズ付きフィルムに装填されたカラーネガフィルムの分光感度に近い色相を有し、消色時では利用可能な光量を極力損失しないで済むよう光学濃度の低いものが適している。もし、エレクトロクロミック素子の発色状態の色相がカラーネガフィルムの分光感度と大きくずれた場合、通常処理の後に得られる写真の色バランスが悪く、失敗写真となってしまう。また、エレクトロクロミック素子の消色状態の光学濃度が高い場合、カラーネガフィルムに入射する光量が不足してしまう。本発明はこれらを解決することを課題とする。
勿論、本エレクトロクロミック素子の用途はレンズ付きフィルムなどの撮影機器に限定されず、調光機能や減光機能が必要なあらゆる用途、並びに高い消色状態の透明性が望まれる用途にも適用することができる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題は、消色状態において光学濃度が高いためにフィルターとして用いるには不適切な部分と、フィルターとして利用したいフィルター部分とを、エレクトロクロミック素子内で分離することにより達成された。フィルター部分は光透過性である。
エレクトロクロミック素子に用いる代表的なエレクトロクロミック材料は、無機エレクトロクロミック材料、有機エレクトロクロミック材料が挙げられる。本発明において、光学濃度変化部分となる有機エレクトロクロミック材料が吸着したナノ半導体多孔質フィルムの設計を制御することで、光学濃度が極めて低いエレクトロクロミック素子が可能となる。好ましくは、上記課題は下記の手段によって達成された。
【0014】
(1) カソード、アノード及び電荷輸送材料を含み、発色状態と消色状態とを示すエレクトロクロミック素子であって、
該素子のカソード上、アノード上のいずれにも電子授受可能な材料がそれぞれ1種類以上存在し、該電子授受可能な材料のうち少なくとも1種類は電子授受の結果、波長400〜700nmの範囲の分光吸収スペクトルが実質的に変化する材料であって、
かつ、カソードとアノードが対向する平面に直交する方向から見たとき、消色状態において波長400〜700nmの範囲の光学濃度が実質的に異なる2つ以上の領域が存在することを特徴とするエレクトロクロミック素子。
(2) カソード、アノード及び電荷輸送材料を含み、発色状態と消色状態とを示すエレクトロクロミック素子であって、
該素子のカソード上、アノード上のいずれにも電子授受可能な材料がそれぞれ1種類以上存在し、該電子授受可能な材料のうち少なくとも1種類は電子授受の結果、波長400〜700nmの範囲の分光吸収スペクトルが実質的に変化する材料であって、
かつ、カソードとアノードが対向する平面に直交する方向から見たとき、少なくとも部分的に、カソード上の前記電子授受可能な部分とアノード上の前記電子授受可能な部分が重ならない領域を有することを特徴とするエレクトロクロミック素子。
(3) カソード、アノード及び電荷輸送材料を含み、発色状態と消色状態とを示すエレクトロクロミック素子であって、
該素子のカソード上、アノード上のいずれにも電子授受可能な材料がそれぞれ1種類以上存在し、該電子授受可能な材料のうち少なくとも1種類は電子授受の結果、波長400〜700nmの範囲の分光吸収スペクトルが実質的に変化する材料であって、
かつ、カソードとアノードが対向する平面に直交する方向から見たとき、カソード上の前記電子授受可能な領域またはアノード上の前記電子授受可能な領域のいずれか一方のみが存在する領域だけでエレクトロクロミック素子の全領域が構成され、波長400〜700nmの範囲で消色状態の光学濃度が実質的に異なる2つ以上の領域が存在することを特徴とするエレクトロクロミック素子。
(4) 前記エレクトロクロミック素子のカソード上、アノード上のいずれか一方に、不純物元素をドープした半導体材料を含むことを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載のエレクトロクロミック素子。
(5) 前記エレクトロクロミック素子のアノード上に、不純物元素をドープした半導体材料を含むことを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載のエレクトロクロミック素子。
(6) 前記不純物元素をドープした半導体材料が、
(a) F、Cl、Sb、P、As、Nb、TaまたはBをドープしたSnO2
(b) Al、Ga、B、In、Y、Sc、F、V、Si、Ti、Zr、HfまたはGeをドープしたZnO
(c) Sn、Ge、Mo、F、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、W、TeまたはPbをドープしたIn2O3
(d) InまたはSnをドープしたCdO
(e) BiをドープしたPbO2
(f) SnをドープしたGa2O3
(g) Al、Ga、B、In、Y、Sc、F、V、Si、Ti、Zr、HfまたはGeをドープしたZnS
(h) C、Si、Ge、Sn、Pb、O、S、SeまたはTeをドープしたGaN
(i) F、Cl、BrまたはIをドープしたTiO2
の中から選ばれた単独(材料)、または2種以上の複合物である(4)または(5)に記載のエレクトロクロミック素子。
(7) 前記不純物元素をドープした半導体材料がSbをドープしたSnO2である(4)〜(6)のいずれかに記載のエレクトロクロミック素子。
(8) 前記エレクトロクロミック素子のアノード上に、金属を含むことを特徴とする(1)〜(7)のいずれかに記載のエレクトロクロミック素子。
(9) 前記エレクトロクロミック素子のカソード上に、下記構造式 (1) 〜(3)で表される化合物を少なくとも1種類含むことを特徴とする(1)〜(8)のいずれか1項に記載のエレクトロクロミック素子。
【0015】
【化1】

【0016】
一般式(1)、(2)、(3)中、V1、V2、V3、V4、V5、V6、V7、V8、V9、V10、V11、V12、V13、V14、V15、V16、V17、V18、V19、V20、V21、V22、V23、及びV24はそれぞれ独立に水素原子、又は一価の置換基を表す。R1、R2、R3、R4、R5、及びR6はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アリール基、又は複素環基を表す。L1、L2、L3、L4、L5、及びL6はそれぞれ独立にメチン基、又は窒素原子を表す。n1、n2、及びn3はそれぞれ独立に0、1、又は2を表す。M1、M2、及びM3はそれぞれ独立に電荷均衡対イオンを表し、m1、m2、及びm3はそれぞれ独立に分子の電荷を中和するのに必要な0以上の数を表す。
(10) 前記エレクトロクロミック素子の発色状態において、該エレクトロクロミック素子のフィルター部分の波長450〜470nmの光学濃度の平均値、波長540〜560nmの光学濃度の平均値、波長630〜650nmの光学濃度の平均値のばらつき(3つの平均値の最大値と最小値の差)が光学濃度0.5以下であることを特徴とする(1)〜(9)のいずれか1項に記載のエレクトロクロミック素子。
(11) 前記エレクトロクロミック素子の発色状態において、該エレクトロクロミック素子のフィルター部分の波長450〜470nmの光学濃度の平均値、波長540〜560nmの光学濃度の平均値、波長630〜650nmの光学濃度の平均値がいずれも0.5以上であることを特徴とする(1)〜(10)のいずれか1項に記載のエレクトロクロミック素子。
(12) 前記エレクトロクロミック素子の消色状態において、該エレクトロクロミック素子のフィルター部分の波長400nmの光学濃度が0.2以下であることを特徴とする(1)〜(11)のいずれか1項に記載のエレクトロクロミック素子。
(13) 前記エレクトロクロミック素子の消色状態において、該エレクトロクロミック素子のフィルター部分の波長400〜500nmの光学濃度の平均値、波長500〜600nmの光学濃度の平均値、600〜700nmの光学濃度の平均値がいずれも0.1以下であることを特徴とする(1)〜(12)のいずれか1項に記載のエレクトロクロミック素子。
(14) 電磁波に応答し起電力を発生させる起電力発生要素と、該起電力により駆動される(1)〜(13)のいずれか1項に記載のエレクトロクロミック素子とを有することを特徴とする光学デバイス。
(15) (14)に記載の光学デバイスを有することを特徴とする撮影ユニット。
(16) 撮影ユニットがレンズ付きフィルムであることを特徴とする(15)に記載の撮影ユニット。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、消色状態の透明性が高いエレクトロクロミック素子 (=光学濃度変化要素) を提供できる。例えば、エレクトロクロミック素子を調光フィルターとしてレンズ付きフィルムに搭載しレンズ付きフィルムに入射する光量を調節する場合、消色状態では利用可能な光量を極力損失しないで済む、光学濃度の低いエレクトロクロミック素子が提供可能となる。本発明のエレクトロクロミック素子は、レンズ付きフィルムといった撮影機器等の調光機能や減光機能としての用途以外にも、高い消色状態の透明性が望まれる用途にも適応することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明についてさらに詳述する。
本発明において、「光学濃度」とは、エレクトロクロミック素子(光学濃度変化要素)に対する入射光強度をI0、透過光強度をITとしたときに、下記数式(1)で算出される値Aである。
数式(1):A=−log(IT/I0
【0019】
本発明において、「エレクトロクロミック素子のカソード上、アノード上のいずれにも電子授受可能な材料が(それぞれの電極上に)1種類以上存在し、該電子授受可能な材料のうち少なくとも1種類(例えば、カソード上の電子授受可能な材料1種類)は電子授受の結果、波長400〜700nmの範囲の分光吸収スペクトルが実質的に変化する材料であって、かつ、カソード、アノードが対向する平面に直交する方向から見たとき、波長400〜700nmの範囲で消色状態の光学濃度が実質的に異なる2つ以上の領域が存在することを特徴とするエレクトロクロミック素子」とは、例えば図2-3、図3-3、図4-1、図4-2、図5-1〜図5-3のようなエレクトロクロミック素子である (図3-2は電子授受可能な材料が一方にしか存在していない) 。なお、図2〜図5において、「カソード、アノードが対向する平面に直交する方向から見たとき、波長400〜700nmの範囲で消色状態の光学濃度が実質的に異なる領域」の数を右側に示した。エレクトロクロミック素子の全領域に対する消色状態の光学濃度の最も低い領域が占める割合(=(消色状態の光学濃度が最も低い領域)/(エレクトロクロミック素子の全領域))は30%以上が好ましく、50%以上がより好ましく、80%以上が更に好ましい。また、消色状態の光学濃度は低い領域がエレクトロクロミック素子の中央付近にあることが好ましく、消色状態の光学濃度の高い領域はエレクトロクロミック素子の中央から離れたところにあることが好ましい。また、「波長400〜700nmの範囲で消色状態の光学濃度が実質的に異なる」とは、例えば電子授受材料が異なるために400〜700nmの範囲で分光吸収スペクトルが異なる場合だけでなく、例え同じ電子授受材料でも、電子授受材料部分の膜厚が異なるために400〜700nmの範囲で分光吸収スペクトルが異なる場合を挙げられる。
本発明において、「エレクトロクロミック素子のカソード上、アノード上のいずれにも電子授受可能な材料が1種類以上存在し、該電子授受可能な材料のうち少なくとも1種類は電子授受の結果、波長400〜700nmの範囲の分光吸収スペクトルが実質的に変化する材料であって、かつ、カソード、アノードが対向する平面に直交する方向から見たとき、少なくとも部分的に、カソード上の前記電子授受可能な部分とアノード上の前記電子授受可能な部分が重ならない領域を有することを特徴とするエレクトロクロミック素子」とは、例えば図3-3、図4-1、図4-2、図5-1〜図5-3のようなエレクトロクロミック素子である。なお、エレクトロクロミック素子の全領域に対する重ならない領域が占める割合(=(重ならない領域)/(エレクトロクロミック素子の全領域))は30%以上が好ましく、50%以上がより好ましく、80%以上が更に好ましい。最も好ましくは100%である。また、消色状態の光学濃度が低い領域はエレクトロクロミック素子の中央付近にあることが好ましく、消色状態の光学濃度が高い領域はエレクトロクロミック素子の中央から離れたところにあることが好ましい。
本発明において、「エレクトロクロミック素子のカソード上、アノード上のいずれにも電子授受可能な材料が1種類以上存在し、該電子授受可能な材料のうち少なくとも1種類は電子授受の結果、波長400〜700nmの範囲の分光吸収スペクトルが実質的に変化する材料であって、かつ、カソード、アノードが対向する平面に直交する方向から見たとき、カソード上の前記電子授受可能な部分またはアノード上の前記電子授受可能な部分のいずれか一方のみが存在する領域だけでエレクトロクロミック素子全域(アノードとカソード間で電子授受が行われ、実質的に機能する領域)が満たされ、波長400〜700nmの範囲で消色状態の光学濃度が実質的に異なる2つ以上の領域が存在することを特徴とするエレクトロクロミック素子」とは、例えば図4-2、図5-1、図5-2のようなエレクトロクロミック素子である。この場合、エレクトロクロミック素子の全領域に対する重ならない領域が占める割合は100%であり、更にカソード上の電子授受部分とアノード上の電子授受部分の和がエレクトロクロミック素子の全領域となる (つまり、 [(重ならない領域)/(エレクトロクロミック素子の全領域)] =100%、更に (エレクトロクロミック素子の全領域)=(カソード上の電子授受部分)+(アノード上の電子授受部分))。また、消色状態の光学濃度が最も低い領域がエレクトロクロミック素子の中央付近にあることが好ましく、消色状態の光学濃度が高い領域がエレクトロクロミック素子の中央から離れたところにあることが好ましい。
続いて、「エレクトロクロミック素子のフィルター部分」について説明する。本発明において、「エレクトロクロミック素子のフィルター部分」とは、エレクトロクロミック素子において消色状態の波長400〜700 nmでの透明性が高く、調光や減光機能を有する部分を指す。
「カソード、アノードが対向する平面に直交する方向から見たとき、波長400〜700 nmの範囲で消色状態の光学濃度が実質的に異なる2つ以上の領域が存在するエレクトロクロミック素子」の場合 「実質的に光学濃度の異なる領域であり、光学濃度が低く、並びに電子授受の結果として光学濃度が実質的に変化する領域 (例えば、図2-3のA)」を「フィルター部分」と指す。
また「カソード、アノードが対向する平面に直交する方向から見たとき、少なくとも部分的に、カソード上の前記電子授受可能な部分とアノード上の前記電子授受可能な部分が重ならない領域を有することを特徴とするエレクトロクロミック素子」の場合は、「アノード上の電子授受部分とカソード上の電子授受部分の重ならない領域であり、実質的に光学濃度が低い領域であり、かつ電子授受の結果実質的に光学濃度が変化する領域」を「フィルター部分」と指す。したがって、例えば「アノード上の電子授受部分とカソード上の電子授受部分の重ならない領域であり、実質的に光学濃度が低い領域であっても、実質的に光学濃度が変化しない領域 (例えば、図3-1のB、図3-2のC、図5-3のC) 」は「フィルター部分」とは言わない。
つまり、本発明のフィルター部分とは、図2-3のA、図3-3のA、図4-1のA、図4-2のA、図5-1のA、図5-2のA、図5-3のAを指す。なお、フィルター部分の形状は制限されず、いかなる形状であっても良いが、エレクトロクロミック素子の中央付近にあることが好ましい。
なお、電圧印加時に両電極上で起こる電子授受量によって、エレクトロクロミック素子の応答速度は制御可能である。電子授受量が少ないほど応答速度は速くなり、電子授受量が多いほど応答速度は遅くなる。したがって、応答速度を早くするには、必要量以上の電子授受反応が起こらないよう、エレクトロクロミック素子を設計することが好ましい。また、両電極間の距離、電解液の粘度等によっても応答速度は制御可能である。
【0020】
本発明において、「ナノ多孔質材料」とは、表面により多くの物質が吸着できるようにナノメートルオーダーの凹凸を形成し表面積を増やした材料を意味する。多孔質化の程度は「粗さ係数」によって表される。また、本発明において、「ナノ多孔質半導体材料の粗さ係数」とは、該当する半導体材料層表面の、投影した平面に対する実際に有効な表面積の割合である。具体的には、BET法を用いて測定することができる。
【0021】
本発明において「消色状態」とは、エレクトロクロミック素子の両極を短絡する、あるいは両極間に逆電圧を印加する、すなわち発色させる際にかける電圧と正負逆の方向に電圧を印加する、などしてエレクトロクロミック素子の光学濃度を可能な限り低い状態に置いた時を指す。
【0022】
本発明において「半導体材料」とは一般的な定義に従う。例えば、物理学辞典(培風館刊)によれば、「半導体材料」とは、金属と絶縁体との中間的な電気抵抗をもつ物質を意味する。
本発明において「不純物元素をドープした半導体材料」とは一般的な定義に従う。例えば、物理学辞典(培風館刊)によれば、「不純物半導体」とは、ドナーやアクセプターなどの不純物を含み、これらから供給される電子や正孔によって電気伝導が支配される半導体であって、広義では不純物半導体は欠陥や深い不純物をもっているものと定義される。本発明では、上記の広義の不純物半導体も含む。
本発明において「ドープ」とは、「ドーピング」をさしており、一般的な定義に従う。例えば、物理学辞典(培風館刊)によれば、「ドーピング」とは結晶中に少量の不純物を添加することを意味し、その手法は合金法、拡散法、またはイオン注入法などがある。
【0023】
本発明において「エレクトロクロミック材料のナノ多孔質半導体材料への吸着」とは化学結合あるいは物理結合によってナノ多孔質半導体材料表面にエレクトロクロミック材料が結合する現象を指し、吸着の定義は一般的な定義に従う。エレクトロクロミック材料のナノ多孔質半導体材料表面への吸着量は例えば以下に示すような方法で検出が可能である。
【0024】
エレクトロクロミック材料が吸着したと思われるナノ多孔質半導体材料を0.1MNaOH溶液に浸漬させ、40℃で3時間振とうする。この際に用いる溶液の量はナノ多孔質半導体材料の塗布量に応じて決められ、塗布量1g/m2あたり0.5mlが適当である。振とう後の溶液の吸収スペクトルを分光光度計で測定する。なお、この際に用いる浸漬液(この場合はNaOH)の種類、濃度や振とうの温度、時間は用いたナノ多孔質半導体材料やエレクトロクロミック材料の種類に応じて決定されるもので、上記に限定されるものではない。
【0025】
本発明において「電磁波」とは、一般的な定義に従う。例えば、物理学辞典(培風館刊)によれば、電場と磁場には、時間的に一定な静的場と時間的に変動し空間の遠方まで伝播する波動場があり、この波動場が電磁波と定義されている。具体的には、γ線、X線、紫外線、可視光線、赤外線、電波に分類される。本発明が対象とする電磁波はこれら全てを含むものであるが、本発明の光学デバイスをカメラユニットの調光システムとして適用する場合に特に対象となるのは、好ましくは紫外線、可視光線、赤外線であり、より好ましくは可視光線である。
【0026】
調光フィルターとして利用するに適した、撮影フィルムの分光感度に近い分光感度を得られるエレクトロクロミック素子は、該素子の発色状態において、波長450〜470nmの光学濃度の平均値、波長540〜560nmの光学濃度の平均値、および波長630〜650nmの光学濃度の平均値のばらつき(3つの平均値の最大値と最小値の差)が光学濃度0.5以下 (好ましくは0.3以下)であるエレクトロクロミック素子であり、更に好ましくは、発色状態のエレクトロクロミック素子の波長450〜470nmの光学濃度の平均値、波長540〜560nmの光学濃度の平均値、波長630〜650nmの光学濃度の平均値がいずれも0.5以上(好ましくは0.8以上、より好ましくは0.95以上)である前記エレクトロクロミック素子である。本発明のエレクトロクロミック素子(光学濃度変化要素)の代表的な一構成例の概略断面図を図1に示す。
【0027】
本発明において、エレクトロクロミック素子の発色状態の(a)波長450〜470nmの光学濃度の平均値、(b) 波長540〜560nmの光学濃度の平均値、(c)波長630〜650nmの光学濃度の平均値、のばらつきが光学濃度0.5以下であるとは、(a)、(b)、(c)での3つの光学濃度の最大値と最小値との差が0.5以下であるということである。また、ばらつきは、光学濃度0.5以下が好ましく、光学濃度0.3以下が更に好ましく、光学濃度0.1以下が最も好ましい。
また、エレクトロクロミック素子の発色状態の色相と撮影ユニットに含まれる撮影記録媒体 (感光材料、CCD、CMOS等) との色相とは分光感度の重なりが大きい程好ましい。
【0028】
本発明のエレクトロクロミック素子を撮影(好ましくはカメラ)ユニットなどの調光デバイスとして応用する場合、入射光を均一に吸収するニュートラルグレーに近い吸収特性を有することが好ましく、エレクトロクロミック素子(光学濃度変化要素)は可視光、好ましくは複数の異なる波長の可視光、より好ましくは青色光、緑色光および赤色光を吸収することが好ましく、前記解決手段(10)に記載のような光学濃度の平均値であることが好ましい。
本発明で言う「ニュートラルグレー」とは、エレクトロクロミック素子の発色状態の分光吸収スペクトルが波長400〜700nm全域に渡って均一(均一とは、波長400〜700nmでの光学濃度の平均値と各波長での光学濃度の差が小さいことを意味し、例えば、光学濃度の差が0.1の場合を指す)である場合だけでなく、該素子の発色状態の色相が撮影ユニットの記録媒体の色相と重なりが大きく、撮影ユニットにとって実質「ニュートラルグレー」となっている場合をも含む。
【0029】
本発明の光学デバイスは、少なくとも電磁波により起電力を発生させる起電力発生要素と、その起電力により光学濃度を変化させる光学濃度変化要素 (エレクトロクロミック素子) とを有する。電磁波に応じて起電力発生要素から起電力が発生し、該起電力に応じてエレクトロクロミック素子の光学濃度が変化する。したがって、本発明の光学デバイスは電磁波の強度に応じて、その透過光量を変化させる調光デバイスとして利用できることができる。
起電力発生要素から発生した起電力に対するエレクトロクロミック素子の光学濃度の変化率は用途により使い分けることができる。例えば、レンズ付きフィルムに入射する光量を調節する場合、光量の変化率と光学濃度の変化率ができるだけ等しくなるように起電力を発生させることが好ましい。
【0030】
以下、本発明の光学デバイスの各要素について説明する。
【0031】
本発明において「起電力を発生させる要素(起電力発生要素)」とは、電磁波エネルギーを電気エネルギーに変換する要素をいう。具体的な代表例として、太陽光を電気エネルギーに変換する太陽電池が挙げられる。太陽電池を構成する材料は、単結晶シリコン、多結晶シリコン、アモルファスシリコン、テルル化カドミウムやセレン化インジウム銅等の化合物が挙げられる。これらの化合物を用いた太陽電池としては公知のものを本発明の光学デバイスの用途に応じて選択して使用することができる。
【0032】
また、色素によって増感された酸化物半導体を用いた光電変換素子(以後、色素増感光電変換素子と略す)およびこれを用いた光電気化学電池について、Nature(第353巻、第737〜740頁、1991年)、米国特許4927721号、特開2002−75443号公報等に記載された技術も、本発明の起電力発生要素として利用することができる。このような色素増感光電変換素子もまた、本発明の起電力発生要素として好ましい。
【0033】
また、電磁波センサーと電圧源を組み合わせて起電力発生要素としてもよい。この場合の電磁波センサーは特に限定されないがフォトトランジスタ、CdSセンサー、フォトダイオード、CCD、CMOS、NMOS、太陽電池等が挙げられる。電磁波センサーの材料は応答させたい電磁波の波長に応じて適切なものを選ぶことができる。電磁波センサーの電磁波に対する指向性は高いことが好ましい。
電磁波センサーは撮像素子と同じものであっても良い。例えば、デジタルスチ ルカメラの場合、撮像素子として用いるCCD、CMOS、NMOSを同時に電磁波センサーとして用いることができる。電圧源は特に限定されないが乾電池等が挙げられる。ここでいう乾電池としてはアルカリ乾電池、マンガン乾電池などの一次電池、ニッケルカドミウム電池、ニッケル水素電池、リチウムイオン電池などの二次電池のいずれであってもよい。
【0034】
本発明の好ましい起電力発生要素は、単結晶シリコン、多結晶シリコン、アモルファスシリコンを材料とする太陽電池、色素増感光電変換素子、およびフォトトランジスタと乾電池の組み合わせである。本発明の光学デバイスを撮影(好ましくはカメラ)ユニットに適用する場合、起電力発生要素は、照射される電磁波(特に太陽光)の強度に応じた大きさの起電力を発生するのが好ましい。
【0035】
本発明において「光学濃度を変化させる要素(光学濃度変化要素=エレクトロクロミック素子)」とは、起電力発生要素により発生した起電力、すなわち電気エネルギーにより光学濃度を変化させ、電磁波の透過率を変化させる要素をいう。
【0036】
エレクトロクロミック素子(光学濃度変化要素)は、電気エネルギーに応じて光学濃度を変化させる材料(エレクトロクロミック材料)を吸着させた多孔質材料を有し、さらに導電性コーティングを担持した支持体、エレクトロクロミック素子内での導電性を担う電荷輸送材料などで構成される。図1に、エレクトロクロミック素子の代表的な一構成例を示す。図1において、エレクトロクロミック材料は多孔質材料に吸着している(33a、33b)。エレクトロクロミック材料は、上下の導電性コーティング32、多孔質材料33を通して供給される電気エネルギーに応じてそれぞれ光学濃度が変化する。このエレクトロクロミック材料の光学濃度の変化に応じて、入射する電磁波hνはエレクトロクロミック材料に吸収され、透過光量が変化する。エレクトロクロミック素子の形態は、図1の形態に限定されることなく用途に応じて多様な形態をとることができ、例えば、光学フィルター、レンズ、絞り、ミラー、窓、メガネ、表示パネル等が挙げられる。撮影(好ましくはカメラ)ユニットでは、好ましくは光学フィルター、レンズ、絞りである。
【0037】
エレクトロクロミック素子を構成する支持体は、特に限定されるものではないが、ガラス、プラスチック、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリカーボネート(PC)、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン(PES)、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド、ポリアリレート(PAR)、ポリアミド、ポリイミド(PIM)、ポリスチレン、ノルボルネン樹脂(ARTON)、アクリル樹脂、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)等が挙げられ、その用途、形態に応じて適宜選択することができる。本発明の光学デバイスが対象とする電磁波に対する吸収が小さいものを選択するのが好ましく、λ=400nm〜700nmの光に対してはガラス、PET、PEN、TACまたはアクリル樹脂が特に好ましい。また、支持体表面の反射による透過光の損失を避けるために、支持体の表面に反射防止層(例えば、酸化珪素の薄層など)を設ける事も好ましい。その他にも、素子への衝撃を防ぐ衝撃吸収層、摩擦による素子の損傷を防ぐ対擦過層、対象外の電磁波(例えば、可視光用の光学デバイスにおける紫外光)をカットする電磁波吸収層などの各種機能層が表面に設けられていても良い。紫外線吸収剤及びそれを透明支持体上に形成したフィルター層としては、例えば、特開2001−147319号公報の化合物(I−1)〜(VIII−3)が紫外線吸収剤として知られている。
【0038】
エレクトロクロミック素子を構成する電気伝導層は、特に限定されないが、金属薄膜(金、銀、銅、クロム、パラジウム、タングステンおよびその合金等)、酸化物半導体膜(酸化錫、酸化銀、酸化亜鉛、酸化バナジウム、ITO(酸化錫をドープした酸化インジウム)、アンチモンドープ酸化錫(ATO)、FTO(フッ素をドープした酸化錫)、AZO(アルミニウムをドープした酸化亜鉛)、導電性窒化薄膜(窒化チタン、窒化ジルコニウム、窒化ハフニウム)、導電性ホウ化物薄膜(LaB6)、スピネル型化合物(MgInO4、CaGaO4)、導電性高分子膜(ポリピロール/FeCl3)、イオン伝導性膜(ポリエチレンオキサイド/LiClO4)、無機・有機複合膜(酸化インジウム微粉末/飽和ポリエステル樹脂)等が挙げられる。本発明の光学デバイスが対象とする電磁波に対する吸収の小さいものを選択するのが好ましく、λ=400nm〜700nmの光に対しては酸化錫、FTOおよびITOが特に好ましい。また、対象とする電磁波の吸収をより小さくするため、電気伝導層は所望の導電性が確保できる中で可能な限り薄い事が好ましい。具体的には、電気伝導層の厚みは1000nm以下が好ましく、200nm以下がより好ましく、100nm以下が特に好ましい。
【0039】
エレクトロクロミック素子を構成する多孔質材料としては、次に挙げる例に特に限定されるものではないが、例えば以下に示すような金属酸化物、金属硫化物、金属窒化物の半導体材料、金属等が挙げられる。
金属酸化物としては、次に挙げる例に特に限定されるものではないが、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化珪素、酸化鉛、酸化タングステン、酸化錫、酸化インジウム、酸化ニオブ、酸化カドミウム、酸化ビスマス、酸化アルミニウム、酸化ガリウム(III)、酸化第一鉄等およびその複合化合物、さらにはそれらにフッ素、塩素、アンチモン、燐、砒素、ホウ素、アルミニウム、インジウム、ガリウム、珪素、ゲルマニウム、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、錫等をドープした物、が挙げられる。あるいは酸化チタンの表面にITO、アンチモンドープ酸化錫、FTO等をコートしたものでもよい。
金属硫化物としては、次に挙げる例に特に限定されるものではないが、硫化亜鉛、硫化カドミウムおよびその複合化合物、さらにはそれらにアルミニウム、ガリウム、インジウム等をドープした物等が挙げられる。あるいは他の素材の表面に金属硫化物をコートしたものでもよい。
金属窒化物層としては、次に挙げる例に特に限定されるものではないが、窒化アルミニウム、窒化ガリウム、窒化インジウムおよびその複合化合物、さらにはそれらに少量の異種原子(錫、ゲルマニウム等)をドープした物が挙げられる。あるいは他の素材の表面に金属窒化物をコートしたものでもよい。本発明のフィルター部分に用いる材料は、光学デバイスが対象とする電磁波に対する吸収の小さいものを選択するのが好ましく、λ=400nm〜700nmの光に対しては酸化チタン、酸化錫、酸化亜鉛、硫化亜鉛または窒化ガリウムが好ましく、酸化錫または酸化亜鉛が特に好ましい。
【0040】
本発明では、こうした多孔質材料にエレクトロクロミック材料を吸着させることでエレクトロクロミック素子への円滑な電子流出入を実現し、エレクトロクロミック素子(光学濃度変化要素)が短時間で光学濃度を変化させることを可能とする。この際、多孔質材料に対するエレクトロクロミック材料の吸着量が多ければ多いほど、より濃い濃度の発色が可能となる。多孔質材料はより多くのエレクトロクロミック材料の吸着を可能とするためにナノ多孔質化して表面積を増し、20以上の粗さ係数を持つことが好ましく、150以上の粗さ係数を有することが特に好ましい。
【0041】
このような多孔質を形成するに手段として、例えば、ナノメートルオーダーの超微粒子を結着させる方法が挙げられる。この場合、用いる粒子のサイズやサイズの分散性を最適化することで、電磁波が半導体材料で吸収あるいは散乱されて生じる透過光の損失を最低限に抑えることが可能となる。用いる粒子のサイズは好ましくは100nm以下、より好ましくは1nm以上60nm以下、さらに好ましくは2nm以上40nm以下である。また、粒子サイズは用途に応じて、単分散であったり、多分散であったり、異なるサイズの単分散粒子を混合して用いることが好ましい。
【0042】
本発明では、こうしたエレクトロクロミック材料が吸着した多孔質材料が二層以上存在しても良い。用いる多孔質材料の各層は同じ組成の物でもよいし、異なる組成の物でもよい。エレクトロクロミック材料が吸着した多孔質材料とエレクトロクロミック材料の吸着していない多孔質材料とを組み合わせて用いてもよい。
【0043】
エレクトロクロミック素子を構成するエレクトロクロミック材料は、ビオローゲン系色素、フェノチアジン系色素、スチリル系色素、フェロセン系色素、アントラキノン系色素、ピラゾリン系色素、フルオラン系色素、フタロシアニン系色素、等の有機色素、ポリスチレン、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリベンジン、ポリイソチアナフテン、等の導電性高分子化合物類、酸化タングステン、酸化イリジウム、酸化ニッケル、酸化コバルト、酸化バナジウム、酸化モリブデン、酸化チタン、酸化インジウム、酸化クロム、酸化マンガン、プルシアンブルー、窒化インジウム、窒化錫、窒化塩化ジルコニウム等の無機化合物、などが挙げられる。
【0044】
本発明において、有機化合物の特定の部分を「基」と称した場合には、当該部分はそれ自体が置換されていなくても、一種以上の(可能な最多数までの)置換基で置換されていても良いことを意味する。例えば、「アルキル基」とは置換または無置換のアルキル基を意味する。
【0045】
このような置換基をWとすると、Wで示される置換基としては、特に制限は無いが、例えば、ハロゲン原子、アルキル基(シクロアルキル基、ビシクロアルキル基、トリシクロアルキル基を含む)、アルケニル基(シクロアルケニル基、ビシクロアルケニル基を含む)、アルキニル基、アリール基、複素環基(ヘテロ環基と言っても良い)、シアノ基、ヒドロキシル基、ニトロ基、カルボキシル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シリルオキシ基、ヘテロ環オキシ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシカルボニルオキシ基、アミノ基(アルキルアミノ基、アリールアミノ基、ヘテロ環アミノ基を含む)、アンモニオ基、アシルアミノ基、アミノカルボニルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、スルファモイルアミノ基、アルキル及びアリールスルホニルアミノ基、メルカプト基、アルキルチオ基、アリールチオ基、ヘテロ環チオ基、スルファモイル基、スルホ基、アルキル及びアリールスルフィニル基、アルキル及びアリールスルホニル基、アシル基、アリールオキシカルボニル基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、アリール及びヘテロ環アゾ基、イミド基、ホスフィノ基、ホスフィニル基、ホスフィニルオキシ基、ホスフィニルアミノ基、ホスホノ基、シリル基、ヒドラジノ基、ウレイド基、ボロン酸基(-B(OH)2)、ホスファト基(-OPO(OH)2)、スルファト基(-OSO3H)、その他の公知の置換基、が例として挙げられる。
【0046】
また、2つのWが共同して環(芳香族、又は非芳香族の炭化水素環、又は複素環。これらは、さらに組み合わされて多環縮合環を形成することができる。例えばベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、フルオレン環、トリフェニレン環、ナフタセン環、ビフェニル環、ピロール環、フラン環、チオフェン環、イミダゾール環、オキサゾール環、チアゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、インドリジン環、インドール環、ベンゾフラン環、ベンゾチオフェン環、イソベンゾフラン環、キノリジン環、キノリン環、フタラジン環、ナフチリジン環、キノキサリン環、キノキサゾリン環、イソキノリン環、カルバゾール環、フェナントリジン環、アクリジン環、フェナントロリン環、チアントレン環、クロメン環、キサンテン環、フェノキサチイン環、フェノチアジン環、フェナジン環、が挙げられる。)を形成することもできる。
【0047】
上記の置換基Wの中で、水素原子を有するものは、これを取り去り更に上記の基で置換されていても良い。そのような置換基の例としては、−CONHSO2−基(スルホニルカルバモイル基、カルボニルスルファモイル基)、−CONHCO−基(カルボニルカルバモイル基)、−SO2NHSO2−基(スルフォニルスルファモイル基)、が挙げられる。より具体的には、アルキルカルボニルアミノスルホニル基(例えば、アセチルアミノスルホニル)、アリールカルボニルアミノスルホニル基(例えば、ベンゾイルアミノスルホニル基)、アルキルスルホニルアミノカルボニル基(例えば、メチルスルホニルアミノカルボニル)、アリールスルホニルアミノカルボニル基(例えば、p−メチルフェニルスルホニルアミノカルボニル)が挙げられる。
【0048】
ビオローゲン系色素とは、例えば前記一般式(1)、(2)、(3)で表される化合物である。
一般式(1)、(2)、(3)中、V1、V2、V3、V4、V5、V6、V7、V8、V9、V10、V11、V12、V13、V14、V15、V16、V17、V18、V19、V20、V21、V22、V23、及びV24はそれぞれ独立に水素原子、又は一価の置換基を表す。
1、R2、R3、R4、R5、及びR6はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アリール基、又は複素環基を表す。
1、L2、L3、L4、L5、及びL6はそれぞれ独立にメチン基、又は窒素原子を表す。
1、n2、及びn3はそれぞれ独立に0、1、又は2を表す。
1、M2、及びM3はそれぞれ独立に電荷均衡対イオンを表し、m1、m2、及びm3はそれぞれ独立に分子の電荷を中和するのに必要な0以上の数を表す。
【0049】
1、V2、V3、V4、V5、V6、V7、V8、V9、V10、V11、V12、V13、V14、V15、V16、V17、V18、V19、V20、V21、V22、V23、及びV24はそれぞれ独立に水素
原子、又は一価の置換基を表し、V同士が互いに結合していても、環を形成していても良い。また、他のR1〜R6、及びL1〜L6と結合していても良い。
一価の置換基としては、前述のWが挙げられる。
【0050】
1、R2、R3、R4、R5、及びR6はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アリール基、又は複素環基であり、好ましくはアルキル基、アリール基、及び複素環基であり、さらに好ましくはアルキル基、及びアリール基であり、特に好ましくはアルキル基である。
1〜R6として表されるアルキル基、アリール基、及び複素環基として、具体的には、例えば、好ましくは炭素原子1から18、さらに好ましくは1から7、特に好ましくは1から4の無置換アルキル基(例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、ヘキシル、オクチル、ドデシル、オクタデシル)、好ましくは炭素原子1から18、さらに好ましくは1から7、特に好ましくは1から4の置換アルキル基{例えば置換基として前述のWが置換したアルキル基が挙げられる。特に、酸基を持つアルキル基が好ましい。ここで、酸基について説明する。酸基とは、解離性プロトンを有する基である。具体的には、例えばスルホ基、カルボキシル基、スルファト基、−CONHSO2−基(スルホニルカルバモイル基、カルボニルスルファモイル基)、−CONHCO−基(カルボニルカルバモイル基)、−SO2NHSO2−基(スルフォニルスルファモイル基)、スルホンアミド基、スルファモイル基、ホスファト基(−OP(=O)(OH)2)、ホスホノ基(−P(=O)(OH)2)、ボロン酸基、フェノール性水酸基、など、これらのpkaと周りのpHによっては、プロトンが解離する基が挙げられる。例えばpH5〜11の間で90%以上解離することが可能なプロトン解離性酸性基が好ましい。さらに好ましくはスルホ基、カルボキシル基、−CONHSO2−基、−CONHCO−基、−SO2NHSO2−基、ホスファト基、ホスホノ基であり、さらに好ましくはカルボキシル基、ホスファト基、ホスホノ基であり、さらに好ましくはホスファト基、ホスホノ基であり、最も好ましくはホスホノ基である。
具体的には、好ましくはアラルキル基(例えば、ベンジル、2−フェニルエチル、2−(4−ビフェニル)エチル、2−スルホベンジル、4−スルホベンジル、4−スルホフェネチル、4−ホスホベンジル、4−カルボキシベンジル)、不飽和炭化水素基(例えば、アリル基、ビニル基、すなわち、ここでは置換アルキル基にアルケニル基、アルキニル基も含まれることとする。)、ヒドロキシアルキル基(例えば、2−ヒドロキシエチル、3−ヒドロキシプロピル)、カルボキシアルキル基(例えば、カルボキシメチル、2−カルボキシエチル、3−カルボキシプロピル、4−カルボキシブチル)、ホスファトアルキル基(例えば、ホスファトメチル、2−ホスファトエチル、3−ホスファトプロピル、4−ホスファトブチル)、ホスホノアルキル基(例えば、ホスホノメチル、2−ホスホノエチル、3−ホスホノプロピル、4−ホスホノブチル)、アルコキシアルキル基(例えば、2−メトキシエチル、2−(2−メトキシエトキシ)エチル)、アリーロキシアルキル基(例えば、2−フェノキシエチル、2−(4−ビフェニロキシ)エチル、2−(1−ナフトキシ)エチル、2−(4−スルホフェノキシ)エチル、2−(2−ホスホフェノキシ)エチル)、アルコキシカルボニルアルキル基(例えば、エトキシカルボニルメチル、2−ベンジルオキシカルボニルエチル)、アリーロキシカルボニルアルキル基(例えば、3−フェノキシカルボニルプロピル、3−スルホフェノキシカルボニルプロピル)、アシルオキシアルキル基(例えば、2−アセチルオキシエチル)、アシルアルキル基(例えば、2−アセチルエチル)、カルバモイルアルキル基(例えば、2−モルホリノカルボニルエチル)、スルファモイルアルキル基(例えば、N,N−ジメチルスルファモイルメチル)、スルホアルキル基(例えば、2−スルホエチル、3−スルホプロピル、3−スルホブチル、4−スルホブチル、2−[3−スルホプロポキシ]エチル、2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル、3−スルホプロポキシエトキシエチル、3−フェニル−3−スルホプロピル、4−フェニル−4−スルホブチル、3−(2−ピリジル)−3−スルホプロピル)、スルホアルケニル基、スルファトアルキル基(例えば、2−スルファトエチル基、3−スルファトプロピル、4−スルファトブチル)、複素環置換アルキル基(例えば、2−(ピロリジン−2−オン−1−イル)エチル、2−(2−ピリジル)エチル、テトラヒドロフルフリル、3−ピリジニオプロピル)、アルキルスルホニルカルバモイルアルキル基(例えば、メタンスルホニルカルバモイルメチル基)、アシルカルバモイルアルキル基(例えば、アセチルカルバモイルメチル基)、アシルスルファモイルアルキル基(例えば、アセチルスルファモイルメチル基)、アルキルスルフォニルスルファモイルアルキル基(例えば、メタンスルフォニルスルファモイルメチル基)、アンモニオアルキル基(例えば、3−(トリメチルアンモニオ)プロピル、3−アンモニオプロピル)、アミノアルキル基(例えば、3−アミノプロピル、3−(ジメチルアミノ)プロピル、4−(メチルアミノ)ブチル、グアニジノアルキル基(例えば、4−グアニジノブチル))、
【0051】
好ましくは炭素数6から20、さらに好ましくは炭素数6から10、特に好ましくは炭素数6から8の、置換または無置換アリール基(置換アリール基としては例えば、置換基の例として挙げた前述のWが置換したアリール基が挙げられる。特に、酸基を持つアリール基が好ましく、さらに好ましくはカルボキシル基、ホスファト基、ホスホノ基が置換したアリール基であり、特に好ましくはホスファト基、ホスホノ基が置換したアリール基であり、最も好ましくはホスホノ基が置換したアリール基である。具体的にはフェニル、1−ナフチル、p−メトキシフェニル、p−メチルフェニル、p−クロロフェニル、ビフェニル、4−スルホフェニル、4−スルホナフチル、4−カルボキシフェニル、4−ホスファトシフェニル、4−ホスホノフェニルなどが挙げられる。)、好ましくは炭素数1から20、さらに好ましくは炭素数3から10、特に好ましくは炭素数4から8の、置換または無置換複素環基(置換複素環基としては置換基の例として挙げた前述のWが置換した複素環基が挙げられる。特に、酸基を持つ複素環基が好ましく、さらに好ましくはカルボキシル基、ホスファト基、ホスホノ基が置換した複素環基であり、特に好ましくはホスファト基、ホスホノ基が置換した複素環基であり、最も好ましくはホスホノ基が置換した複素環基である。具体的には2−フリル、2−チエニル、2−ピリジル、3−ピラゾリル、3−イソオキサゾリル、3−イソチアゾリル、2−イミダゾリル、2−オキサゾリル、2−チアゾリル、2−ピリダジル、2−ピリミジル、3−ピラジル、2−(1,3,5−トリアゾリル)、3−(1,2,4−トリアゾリル)、5−テトラゾリル、5−メチル−2−チエニル、4−メトキシ−2−ピリジル、4−スルホ−2−ピリジル、4−カルボキシ−2−ピリジル、4−ホスファト−2−ピリジル、4−ホスホノ−2−ピリジルなどが挙げられる。)が挙げられる。
また、他のR、V1〜V24、及びL1〜L6と結合していても良い。
【0052】
1、L2、L3、L4、L5、及びL6は、それぞれ独立にメチン基、又は窒素原子を表すが、好ましくはメチン基である。L1〜L6で表されるメチン基は置換基を有していても良く、置換基としては前述のWが挙げられる。例えば置換又は無置換の炭素数1から15、好ましくは炭素数1から10、特に好ましくは炭素数1から5のアルキル基(例えば、メチル、エチル、2−カルボキシエチル、2−ホスファトエチル、2−ホスホノエチル)、置換または無置換の炭素数6から20、好ましくは炭素数6から15、更に好ましくは炭素数6から10のアリール基(例えば、フェニル、o−カルボキシフェニル、o−ホスファトフェニル、o−ホスホノフェニル)、置換または無置換の炭素数3から20、好ましくは炭素数4から15、更に好ましくは炭素数6から10の複素環基(例えば、N,N−ジメチルバルビツール酸基)、ハロゲン原子(例えば、塩素、臭素、沃素、フッ素)、炭素数1から15、好ましくは炭素数1から10、更に好ましくは炭素数1から5のアルコキシ基(例えば、メトキシ、エトキシ)、炭素数0から15、好ましくは炭素数2から10、更に好ましくは炭素数4から10のアミノ基(例えば、メチルアミノ、N,N−ジメチルアミノ、N−メチル−N−フェニルアミノ、N−メチルピペラジノ)、炭素数1から15、好ましくは炭素数1から10、更に好ましくは炭素数1から5のアルキルチオ基(例えば、メチルチオ、エチルチオ)、炭素数6から20、好ましくは炭素数6から12、更に好ましくは炭素数6から10のアリールチオ基(例えば、フェニルチオ、p−メチルフェニルチオ)などが挙げられる。また他のメチン基と結合して、環を形成していても良く、もしくはV1〜V24、及びR1〜R6と結合していても良い。
【0053】
1、n2、及びn3はそれぞれ独立に0、1、又は2を表し、好ましくは0、1であり、さらに好ましくは0である。n1〜n3が2以上の時、メチン基、又は窒素原子が繰り返されるが同一である必要はない。
【0054】
1、M2、及びM3は化合物のイオン電荷を中性にするために必要であるとき、陽イオン又は陰イオンの存在を示すために式の中に含められている。典型的な陽イオンとしては水素イオン(H+)、アルカリ金属イオン(例えば、ナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオン)、アリカリ土類金属イオン(例えば、カルシウムイオン)などの無機陽イオン、アンモニウムイオン(例えば、アンモニウムイオン、テトラアルキルアンモニウムイオン、トリエチルアンモニウムイオン、ピリジニウムイオン、エチルピリジニウムイオン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセニウムイオン)などの有機イオンが挙げられる。陰イオンは無機陰イオンあるいは有機陰イオンのいずれであっても良く、ハロゲン陰イオン(例えば、フッ素イオン、塩素イオン、ヨウ素イオン)、置換アリールスルホン酸イオン(例えば、p−トルエンスルホン酸イオン、p−クロルベンゼンスルホン酸イオン)、アリールジスルホン酸イオン(例えば、1,3−ベンゼンスルホン酸イオン、1,5−ナフタレンジスルホン酸イオン、2,6−ナフタレンジスルホン酸イオン)、アルキル硫酸イオン(例えば、メチル硫酸イオン)、硫酸イオン、チオシアン酸イオン、過塩素酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、ピクリン酸イオン、酢酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオンが挙げられる。さらに、イオン性ポリマー又は色素と逆電荷を有する他の色素を用いても良い。また、CO2-、SO3-、P(=O)(−O-)2は、対イオンとして水素イオンを持つときはCO2H、SO3H、P(=O)(−OH)2と表記することも可能である。m1、m2、及びm3は電荷を均衡させるのに必要な0以上の数を表し、好ましくは0〜4の数であり、さらに好ましくは0〜2の数であり、分子内で塩を形成する場合には0である。
【0055】
以下にビオローゲン系色素の化合物を具体例として示すが、これらに限定されるものではない。
【0056】
【化2】

【0057】
【化3】

【0058】
また、国際公開(WO)04/067673号のクレーム4の化合物(1)〜(33)が好ましい色素の化合物の具体例である。前記ビオローゲン系色素がエレクトロクロミック材料として、好ましく用いられる。
【0059】
フェノチアジン系色素とは、下記一般式(6)
【0060】
【化4】

【0061】
に示す構造に代表される化合物である。
一般式(6)中、V25、V26、V27、V28、V29、V30、V31及びV32はそれぞれ独立に水素原子、又は一価の置換基を表し、V同士が互いに結合していても、環を形成していても良い。また、他のR7と結合していても良い。
一価の置換基としては、前述のWが挙げられる。
【0062】
7は水素原子、アルキル基、アリール基、又は複素環基であり、好ましくはアルキル基、アリール基、及び複素環基であり、さらに好ましくはアルキル基、及びアリール基であり、特に好ましくはアルキル基である。R7として表されるアルキル基、アリール基、及び複素環基として、具体的には、例えば、好ましくは炭素原子1から18、さらに好ましくは1から7、特に好ましくは1から4の無置換アルキル基(例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、ヘキシル、オクチル、ドデシル、オクタデシル)、好ましくは炭素原子1から18、さらに好ましくは1から7、特に好ましくは1から4の置換アルキル基{例えば置換基として前述のWが置換したアルキル基が挙げられる。特に、酸基を持つアルキル基が好ましい。酸基については、前記のR1等の「酸基をもつアルキル基」で説明したと同じ意味で用いており、具体例及び好ましい例も同じである。
【0063】
具体的には、好ましくはアラルキル基(例えばベンジル、2−フェニルエチル、2−(4−ビフェニル)エチル、2−スルホベンジル、4−スルホベンジル、4−スルホフェネチル、4−ホスホベンジル、4−カルボキシベンジル)、不飽和炭化水素基(例えばアリル基、ビニル基、すなわち、ここでは置換アルキル基にアルケニル基、アルキニル基も含まれることとする。)、ヒドロキシアルキル基(例えば、2−ヒドロキシエチル、3−ヒドロキシプロピル)、カルボキシアルキル基(例えば、カルボキシメチル、2−カルボキシエチル、3−カルボキシプロピル、4−カルボキシブチル)、ホスファトアルキル基(例えば、ホスファトメチル、2−ホスファトエチル、3−ホスファトプロピル、4−ホスファトブチル)、ホスホノアルキル基(例えば、ホスホノメチル、2−ホスホノエチル、3−ホスホノプロピル、4−ホスホノブチル)、アルコキシアルキル基(例えば、2−メトキシエチル、2−(2−メトキシエトキシ)エチル)、アリーロキシアルキル基(例えば、2−フェノキシエチル、2−(4−ビフェニロキシ)エチル、2−(1−ナフトキシ)エチル、2−(4−スルホフェノキシ)エチル、2−(2−ホスホフェノキシ)エチル)、アルコキシカルボニルアルキル基(例えば、エトキシカルボニルメチル、2−ベンジルオキシカルボニルエチル)、アリーロキシカルボニルアルキル基(例えば、3−フェノキシカルボニルプロピル、3−スルホフェノキシカルボニルプロピル)、アシルオキシアルキル基(例えば、2−アセチルオキシエチル)、アシルアルキル基(例えば、2−アセチルエチル)、カルバモイルアルキル基(例えば、2−モルホリノカルボニルエチル)、スルファモイルアルキル基(例えば、N,N−ジメチルスルファモイルメチル)、スルホアルキル基(例えば、2−スルホエチル、3−スルホプロピル、3−スルホブチル、4−スルホブチル、2−[3−スルホプロポキシ]エチル、2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル、3−スルホプロポキシエトキシエチル、3−フェニル−3−スルホプロピル、4−フェニル−4−スルホブチル、3−(2−ピリジル)−3−スルホプロピル)、スルホアルケニル基、スルファトアルキル基(例えば、2−スルファトエチル基、3−スルファトプロピル、4−スルファトブチル)、複素環置換アルキル基(例えば、2−(ピロリジン−2−オン−1−イル)エチル、2−(2−ピリジル)エチル、テトラヒドロフルフリル、3−ピリジニオプロピル)、アルキルスルホニルカルバモイルアルキル基(例えば、メタンスルホニルカルバモイルメチル基)、アシルカルバモイルアルキル基(例えば、アセチルカルバモイルメチル基)、アシルスルファモイルアルキル基(例えば、アセチルスルファモイルメチル基)、アルキルスルフォニルスルファモイルアルキル基(例えば、メタンスルフォニルスルファモイルメチル基)、アンモニオアルキル基(例えば、3−(トリメチルアンモニオ)プロピル、3−アンモニオプロピル)、アミノアルキル基(例えば、3−アミノプロピル、3−(ジメチルアミノ)プロピル、4−(メチルアミノ)ブチル、グアニジノアルキル基(例えば、4−グアニジノブチル))、好ましくは炭素数6から20、さらに好ましくは炭素数6から10、特に好ましくは炭素数6から8の、置換または無置換アリール基(置換アリール基としては例えば、置換基の例として挙げた前述のWが置換したアリール基が挙げられる。特に、酸基を持つアリール基が好ましく、さらに好ましくはカルボキシル基、ホスファト基、ホスホノ基が置換したアリール基であり、特に好ましくはホスファト基、ホスホノ基が置換したアリール基であり、最も好ましくはホスホノ基が置換したアリール基である。具体的にはフェニル、1−ナフチル、p−メトキシフェニル、p−メチルフェニル、p−クロロフェニル、ビフェニル、4−スルホフェニル、4−スルホナフチル、4−カルボキシフェニル、4−ホスファトシフェニル、4−ホスホノフェニルなどが挙げられる。)、好ましくは炭素数1から20、さらに好ましくは炭素数3から10、特に好ましくは炭素数4から8の、置換または無置換複素環基(置換複素環基としては置換基の例として挙げた前述のWが置換した複素環基が挙げられる。特に、酸基を持つ複素環基が好ましく、さらに好ましくはカルボキシル基、ホスファト基、ホスホノ基が置換した複素環基であり、特に好ましくはホスファト基、ホスホノ基が置換した複素環基であり、最も好ましくはホスホノ基が置換した複素環基である。具体的には2−フリル、2−チエニル、2−ピリジル、3−ピラゾリル、3−イソオキサゾリル、3−イソチアゾリル、2−イミダゾリル、2−オキサゾリル、2−チアゾリル、2−ピリダジル、2−ピリミジル、3−ピラジル、2−(1,3,5−トリアゾリル)、3−(1,2,4−トリアゾリル)、5−テトラゾリル、5−メチル−2−チエニル、4−メトキシ−2−ピリジル、4−スルホ−2−ピリジル、4−カルボキシ−2−ピリジル、4−ホスファト−2−ピリジル、4−ホスホノ−2−ピリジルなどが挙げられる。)が挙げられる。
また、V25〜V32と結合していても良い。
【0064】
1は硫黄原子、酸素原子、窒素原子(N−Ra)、炭素原子(CVaVb)、又はセレン原子を表わし、好ましくは硫黄原子である。なお、Raは水素原子、アルキル基、アリール基、又は複素環基を表わし、前述のR1〜R7と同様なものが挙げられ、同様のものが好ましい。Va及びVbは、水素原子、又は一価の置換基を表わし、前述のV1〜V32、R1〜R7と同様のものが挙げられ、同様のものが好ましい。
【0065】
以下にフェノチアジン系色素の化合物を具体例として挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0066】
【化5】

【0067】
スチリル系色素とは、下記式(7)
【0068】
【化6】

【0069】
に示す基本骨格を持つ化合物である。式中、nは1〜5である。この化合物は式中の任意の場所に任意の置換基を有して良く、特にカルボキシル基、スルホン酸基、ホスホン酸基等の吸着性の置換基を有することは好ましい。以下に示す化合物を具体例として挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0070】
【化7】

【0071】
こうしたエレクトロクロミック材料のうち、有機化合物は、その置換基を変えることにより、吸収波長をコントロールすることができる。また、光学濃度を変化させるエレクトロクロミック材料を2種以上用い、エレクトロクロミック素子(光学濃度変化要素)が異なる波長の光学濃度を変化させることを可能とするのも好ましい。
【0072】
本発明の光学デバイスを撮影(好ましくはカメラ)ユニットなどの調光デバイスとして応用する場合、光学光を均一に吸収するニュートラルグレーに近い吸収特性を有することが好ましく、エレクトロクロミック素子(光学濃度変化要素)は可視光、好ましくは複数の異なる波長の可視光、より好ましくは青色光、緑色光および赤色光を吸収することが好ましく、解決手段(10)及び/又は(11)光学濃度の平均値の値を満足することが好ましい。前記解決手段(10)及び/又は(11)は、電子授受可能で電子授受の結果として波長400nm〜700nmの範囲の分光スペクトルが変化する単独の材料、または複数の材料の組み合わせにより実現させることができる。単独で用いる材料はビオローゲン系色素が好ましく、2種以上の好ましい組み合わせは、ビオローゲン系色素−フェノチアジン系色素、ビオローゲン系色素−フェロセン系色素、フタロシアニン系色素−プルシアンブルー、ビオローゲン系色素−酸化ニッケル、ビオローゲン系色素−酸化イリジウム、酸化タングステン−フェノチアジン系色素、ビオローゲン系色素−フェノチアジン系色素−スチリル系色素、ビオローゲン系色素2種(置換基の異なる2種)−フェノチアジン系色素、ビオローゲン系色素2種(置換基の異なる2種)−スチリル系色素、ビオローゲン系色素2種(置換基の異なる2種)−酸化ニッケルなどである。
【0073】
電荷輸送材料とは、イオン伝導性及び/または電子伝導性によって電荷輸送の機能を有する材料である。電荷輸送材料は、例えば以下の4種類を挙げることができる。[1] 液体電解質(すなわち電解液)(例えば、「化学総説 新型電池の材料化学」日本化学会編No49 P109 (2001) の表1参照) 、[2] ポリマー電解質 (例えば、「化学総説 新型電池の材料化学」日本化学会編No49 P118 (2001) の図8参照)、[3] 固体電解質 (例えば、「化学総説 新型電池の材料化学」日本化学会編No49 P123 (2001) 参照)、[4] 常温溶融塩 (例えば、「化学総説 新型電池の材料化学」日本化学会編No49 P129 (2001) 参照)。エレクトロクロミック素子の応答性は電荷輸送材料のイオン伝導性依存するため、応答性を重視する場合、高いイオン伝導性を有する[1]液体電解質が電荷輸送材料に好ましい。ただし、液漏れ、蒸発による液の損失等を対策することが実用上課題となる。
【0074】
また、これらのエレクトロクロミック材料の電気化学反応を促進するために、補助化合物がエレクトロクロミック素子(光学濃度変化要素)内に存在しても良い。補助化合物は、酸化還元されても良いし、されなくても良い。補助化合物は酸化還元によってλ=400nm〜700nmの光学濃度が変化しないものでも良いし、変化するものでも良い。補助化合物はエレクトロクロミック材料と同じ様に金属酸化物上に存在しても良いし、電解液中に溶解していても、あるいは電気伝導層上に単独で層を形成していても良い。前記補助化合物が、エレクトロクロミック素子のアノード上に、電子授受可能で電子授受の結果として波長400nm〜700nmでの分光吸収スペクトルが実質的に変化しない材料であることが好ましい。
補助化合物を電解液中に溶解することで、半導体多孔質材料のフラットバンド電位を制御し、電子授受反応を促進することが可能となる。具体的には、フラットバンド電位を卑とするものとしてt-ButylPyridine、フラットバンド電位を貴とするものとしてLi+が挙げられる。
【0075】
エレクトロクロミック素子(光学濃度変化要素)の電荷輸送材料が電解液の場合、該電解液は、溶媒と支持電解質とを含み、補助化合物が存在してもよい。支持電解質は荷電の授受により、それ自身は決して電気化学反応を起さず、導電性を高める役目を担う。溶媒としては極性を有するものが好ましく、具体的には例えば、水、メタノール、エタノールなどのアルコール、酢酸などのカルボン酸、アセトニトリル、プロピオンニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、メトキシアセトニトリル、ジメチルアセトアミド、メチルピロリジノン、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメトキシエタン、プロピレンカルボネート、エチレンカルボネート、γ−ブチロラクトン、テトラヒドロフラン、ジオキソラン、スルホラン、トリメチルホスフェイト、ピリジン、ヘキサメチレン酸トリアミド、ポリエチレングリコールの中から選ばれた、単独または2種類以上からなる混合物等が挙げられる。
【0076】
支持電解質は溶媒中でイオンとして荷電のキャリアーとして働くもので、イオン化し易いアニオンとカチオンで組み合わされた塩である。カチオンとしては、Li+、Na+、K+、Rb+、Cs+を代表とする金属イオン及びテトラブチルアンモニウムイオンを代表とする4級アンモニウムイオンが挙げられる。またアニオンとしては、Cl-、Br-、I-、F-を代表とするハロゲンイオン、硫酸イオン、硝酸イオン、過塩素酸イオン、トシラートイオン、テトラフルオロホウ酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン等が挙げられる。その他の電解質として、LiCl/KClを代表とする溶融塩系、イオン伝導体、超イオン伝導体を代表とする固体電解質系、イオン交換膜のような膜状のイオン導電性物質を代表とする固体高分子電解質系が挙げられる。
【0077】
本発明の光学デバイスとしては、エレクトロクロミック素子(光学濃度変化要素)の材料を適切に組み合わせる、すなわち支持体、電気伝導層、エレクトロクロミック材料の種類を最適化する、また多孔質材料の種類や粒子サイズを最適化することによって、消色状態でのλ=400nmの光学濃度を0.2以下(好ましくは0.125以下)に抑えることが好ましい。また同様にして、消色状態でのλ=400nm〜500nmの光学濃度の平均値、消色状態でのλ=500nm〜600nmの光学濃度の平均値および消色状態でのλ=600nm〜700nmの光学濃度の平均値をすべて0.1以下にすることが好ましい。一方で電磁波照射に対して応答した発色状態においてのλ=400nm〜700nmの光学濃度の平均値が0.5以上であることが好ましく、0.8以上であることがより好ましく、0.95以上であることが特に好ましい。
【0078】
本発明の光学デバイスにおいて、エレクトロクロミック素子(光学濃度変化要素)と起電力発生要素の接続に当たっては直接接続しても良いし、増幅用、保護用などの機能を持った回路を介しても良い。また、エレクトロクロミック素子(光学濃度変化要素)と並列に接続した抵抗を有し、光遮断時の印加電圧の解消を促進するような回路構成となることが好ましい。
【0079】
本発明の光学デバイスは、車両用窓材料、表示装置、カメラ関連光学デバイスなどいずれにも適応できる。本発明の光学デバイスの有効性を発揮できる一応用例がカメラ関連光学デバイスである。大版・中版のカメラ、一眼レフカメラ、コンパクトカメラ、レンズ付きフィルム、デジタルカメラ、放送用カメラ、映画用フイルムカメラ、映画用デジタルカメラ、携帯電話向け撮影(好ましくはカメラ)ユニット、8mmムービーカメラなどいずれの撮影(好ましくはカメラ)ユニット対しても有効である。特に特徴を発揮できる応用先として、レンズ付きフィルムに代表される複雑な制御機構を必要としない簡易な撮影システムがある。特徴を発揮できる別の例として、CCDあるいはCMOSを撮像素子とするデジタルカメラがあり、撮像素子のダイナミックレンジの狭さを補うことができる。
【0080】
本発明の光学デバイスを撮影ユニットに搭載する場合、エレクトロクロミック素子が撮影レンズの光軸上に設置されることが好ましい。
また、エレクトロクロミック素子の発色状態の色相は、撮影ユニットに含まれる撮影記録媒体の色相に近いことが好ましい。ここで言う撮影記録媒体とは、撮影ユニットがレンズ付きフィルムであれば搭載しているカラーネガフィルム、電子スチルカメラであれば該電子スチルカメラのCCDまたはCMOS、カメラ付き携帯電話であれば該カメラのCCDのことを指す。エレクトロクロミック素子の発色状態の色相と撮影ユニットに含まれる撮影記録媒体との色相とは分光感度の重なりが大きい程好ましい。つまり、本発明で言う「ニュートラルグレー」とは、エレクトロクロミック素子の発色状態の分光吸収スペクトルが波長400〜700nm全域に渡って均一(均一とは、波長400〜700nmでの光学濃度の平均値と各波長での光学濃度の差が小さいことを意味し、例えば、光学濃度の差が0.1の場合を指す)である場合だけでなく、該素子の発色状態の色相が撮影ユニットの記録媒体の色相と重なりが大きく、撮影ユニットにとって実質「ニュートラルグレー」となっている場合をも含む。
【0081】
[実施例]
以下に、本発明を実施例を挙げて説明するが、勿論、本発明がこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0082】
本発明のエレクトロクロミック素子の試料103(本発明)、及び試料101(比較例1)、試料102 (比較例2) の作製法について説明する。
【0083】
(1) 試料101(比較例1)の作製
試料101(比較例1)は、(i)カソード用酸化錫ナノ粒子の塗布、(ii)アノード用酸化錫ナノ粒子の塗布、(iii)エレクトロクロミック色素の吸着、(iv)エレクトロクロミック素子の組み立て、の順に作製した。
【0084】
(i)カソード用酸化錫ナノ粒子の塗布
直径約40nmの酸化錫の水分散液にポリエチレングリコール(分子量20,000)を加え、均一に攪拌して塗布液を作製した。塗布基板には、裏面に反射防止膜が付与されているITO導電ガラス (厚さ0.7mm) を用いた。この透明導電性ガラス基板のITO膜上に酸化錫が9g/m2となる様に、塗布液を均一に塗布した。塗布後、450℃で30分間、塗布されたガラス基板を焼成し酸化錫ナノ多孔質電極を作製した。上記手法に従って作成した電極はおよそ750の表面粗さ係数を持っていた。
【0085】
(ii)アノード用Sbドープ酸化錫ナノ粒子の塗布
平均直径5nmのSbドープ酸化錫 (Sbドープ率15wt%) の水分散液にポリエチレングリコール(分子量20,000)を加え、均一に攪拌して塗布液を作製した。塗布基板には、裏面に反射防止膜が付与されているITO導電ガラス (厚さ0.7mm) を用いた。この透明導電性ガラスのITO膜上に塗布液を均一に塗布した。塗布後、450℃まで100分かけて昇温し、450℃で30分間焼成して高分子を除去した。Sbドープ酸化錫の合計塗布量が7g/m2となるまで塗布、焼成を繰り返し、均一な膜厚のSbドープ酸化錫ナノ多孔質電極を得た。上記手法に従って作成した電極はおよそ750の表面粗さ係数を持っており、膜厚は3μmであった。
【0086】
(iii)エレクトロクロミック色素の吸着
エレクトロクロミック色素として1-Phosphonoethyl-1’-(4-phenoxyphenyl)-4,4’-bipyridinium dichlorideを用いた。前記色素の0.02mol/L水溶液に、上記カソード用の酸化錫ナノ多孔質基板を40℃、3 時間浸漬した (浸漬直前に、該酸化錫ナノ多孔質基板を550℃で10分再焼成を行った) 。浸漬後は、該酸化錫ナノ多孔質基板をエタノールでリンスし、真空乾燥させた。このようにして、前記色素が吸着したカソード用酸化錫ナノ多孔質材料を得た。
【0087】
(iv)エレクトロクロミック素子の組み立て
(iii) で得られたエレクトロクロミック色素が吸着したカソード用酸化錫ナノ多孔質基板と、アノード用Sbドープ酸化錫ナノ多孔質基板とを、各々のナノ多孔質材料部分が対向するよう組み立てた(図2−1)。組み立てたエレクトロクロミック素子の隙間に、0.2 mol/Lの過塩素酸リチウムが溶解したγ-ブチロラクトン溶液である電解液を満たし、封止した。なお、電解液は脱水、脱気したものを用いた。このようにして作製したエレクトロクロミック素子試料101 (比較例1)は、酸化錫ナノ多孔質材料電極を−極に、Sbドープ酸化錫ナノ多孔質電極を+極に接続することで発色し、両電極を短絡することで消色した。
【0088】
(2)試料102 (比較例2) の作製
試料102 (比較例2) は試料101 (比較例1) と同様に作製した。なお、(ii)アノード用Sbドープ酸化錫ナノ粒子塗布の工程のみが試料101(比較例1)と異なり、その他は同様に行った。
【0089】
(ii)アノード用Sbドープ酸化錫ナノ粒子の塗布
試料102 (比較例2) における本工程は、試料101 (比較例1) と同じ材料を用いた。試料102(比較例2)が試料101(比較例1)と異なる点は、試料102(比較例2)の塗布膜の膜厚を薄くした点である。試料102 (比較例2) の膜厚は0.2μmであった。
【0090】
(iv)エレクトロクロミック素子の組み立て
試料102 (比較例2) は、試料101 (比較例1) と同様に組み立てた (図2-2)。作製したエレクトロクロミック素子試料102 (比較例2) は、酸化錫ナノ多孔質材料電極を−極に、Sbドープ酸化錫ナノ多孔質電極を+極に接続することで発色し、両電極を短絡することで消色した。
【0091】
試料103(本発明)の作製
試料103(本発明)は、試料101(比較例1)と同様に作製した。なお、(ii)アノード用Sbドープ酸化錫ナノ粒子塗布の工程のみが試料101(比較例1)と異なり、その他は同様に行った。
【0092】
(ii)アノード用Sbドープ酸化錫ナノ粒子の塗布
試料103 (本発明) における本工程は、試料101 (比較例1) と同じ材料を用いた。試料103(本発明)が試料101(比較例1)と異なる点は、フィルター部分として利用したい部分 (図2‐3のA部分) のSbドープ酸化錫材料の塗布膜厚を薄くしたことである。フィルター部分 (図2‐3のA部分) の膜厚を0.2μm、フィルター部分以外 (図2‐3のB部分) の膜厚を3μmとした。本実験では、スクリーン印刷を利用して塗布膜厚及び塗布形状の制御を行った。このようなナノ多孔質材料の塗布膜厚、および塗布形状の制御は、上記方法以外にインクジェット法、塗布膜作製後に削る方法等によっても可能である。
【0093】
(iv)エレクトロクロミック素子の組み立て
試料103 (本発明) は、試料101 (比較例1) と同様に組み立てた (図2-3)。作製したエレクトロクロミック素子試料103 (本発明) は、酸化錫ナノ多孔質材料電極を−極に、Sbドープ酸化錫ナノ多孔質電極を+極に接続することで発色し、両電極を短絡することで消色した。
【0094】
試料101 (比較例1) 、試料102(比較例2)の消色状態の光学濃度、及び発色したΔ光学濃度 (= 発色状態の光学濃度−消色状態の発色濃度) とともに、試料103 (本発明) のフィルター部分(図3−3のA部分)の消色時状態の光学濃度、発色したΔ光学濃度を下表1に示す。なお、エレクトロクロミック素子を調光フィルターとして用いる場合、消色状態の光学濃度は低いほど好ましい。
【0095】
【表1】

【0096】
表1から分かるように、試料103 (本発明) は、試料101 (比較例1) よりも、消色状態の光学濃度が低く、更に発色したΔ光学濃度は試料102(比較例2)よりも高い、優れた性能を示した。
【実施例2】
【0097】
実施例1と同様に、図3-1〜図3-3のようなエレクトロクロミック素子の試料201〜203を作製した。
【0098】
試料201 (比較例1) の消色状態の光学濃度、及び発色したΔ光学濃度(=発色状態の光学濃度−消色状態の発色濃度)とともに、試料202(比較例2)、試料203 (本発明) のフィルター部分(図3−2のA部分、図3−3のA部分)の消色時状態の光学濃度、発色したΔ光学濃度を下表1に示す。表2から分かるように、本発明の試料203 (本発明) は、試料201 (比較例1) 及び試料202 (比較例2) よりも、消色状態の光学濃度が低く、更に発色したΔ光学濃度が高い、優れた性能を示した。
【0099】
【表2】

【実施例3】
【0100】
実施例1と同様に、図4-1〜図4-2のようなエレクトロクロミック素子の試料301、302を作製した。
【0101】
作製した試料301(本発明1)、および302 (本発明2) の性能を調べた結果を下表3に示す。表3から分かるように、本発明の試料301 (本発明1)、および試料301 (本発明2) は消色状態の光学濃度が低く、発色したΔ光学濃度が高くなり、共に優れた性能を示した。両試料の相違は、発色、消色状態間の光学濃度変化に要する応答時間である。試料301の方が試料302より応答速度が早かった。
電圧印加時に両電極上で起こる電子授受量によって、エレクトロクロミック素子の応答速度が変化することが分かった。電子授受量が少ないほど応答速度は速くなり、電子授受量が多いほど応答速度は遅くなった。したがって、応答速度を早くするには、必要量以上の電子授受反応が起こらないよう、エレクトロクロミック素子を設計することが好ましいことが分かった (例えば、図4-1ならばB1部分 (フィルター部分としては必要なく、電子授受反応が起こっている部分) を除去する)。
【0102】
【表3】

【実施例4】
【0103】
実施例1と同様に、図5-1〜図5-3のようなエレクトロクロミック素子の試料401〜403を作製した。
【0104】
作製した試料401 (本発明1)、試料402 (本発明2)、および402 (本発明3) の性能を調べた結果を下表4に示す。表4から分かるように、本発明の試料401 (本発明1) 〜試料403 (本発明3) は消色状態の光学濃度が低く、発色したΔ光学濃度が高くなり、全て優れた性能を示した。各試料の相違は、発色、消色状態間の光学濃度変化に要する応答時間である。応答時間は速い順に、試料401、試料402、試料403であった。
エレクトロクロミック素子において、カソード上の電子授受反応が起こる場所と、アノード上の電子授受反応が起こる場所とが近い方が応答速度は速くなることが分かった。したがって、応答速度が速いエレクトロクロミック素子を作製したい場合、アノード、カソード上の各電子授受部分が近い方が好ましいことが分かった (例えば図5-1〜図5-3においては、図5-3より、図5-2が好ましく、図5-1が更に好ましい。)
【0105】
【表4】

【実施例5】
【0106】
本発明のエレクトロクロミック素子試料103をレンズ付きフィルムユニットに搭載した実施例を示す。
【0107】
本実施の形態のレンズ付きフィルムユニットは、図6および図7に示されるように、(1)調光フィルター23(エレクトロクロミック素子)、(2)フォトトランジスタ13(電磁波センサー)を搭載したものである。フォトトランジスタ13をユニット外部に設けることで、外部光の照度に応じた起電力を発生させ、その起電力により発色した調光フィルター23にて、カラーネガフィルム16に到達する光量を調節することができる。
【0108】
(1)エレクトロクロミック素子試料103
実施例1で作製したエレクトロクロミック素子試料103を用いた。
【0109】
(2) エレクトロクロミック素子の回路
電磁波センサーとして (シャープ社製PT380) を用い、起電力発生要素としてレンズ付きフィルムのストロボ用乾電池 (単3:1.5V)を用いた。更に、エレクトロクロミック素子103と並列に抵抗 (1 kΩ) を接続した (図8の回路例の概略図を参照)。
【0110】
上記の(1)調光フィルターと(2)フォトトランジスタを用い、下記表5に示す構成のレンズ付きフィルムユニットを作製した。使用したフィルムのISO感度は1600、絞りはF8、シャッター速度は1/85”である。この条件で構成される撮影システムを用いた場合、EV=8.4の条件で写真を撮影した際に最適の濃度のネガが得られる。
【0111】
【表5】

【0112】
試料502の太陽光の強度に対する光学濃度の応答特性を図9に示す。ここに示した光学濃度はλ=400nm〜700nmの平均値である。表6にはそれぞれの光学濃度が、一般に撮影システムで用いられる“絞り”にして何絞り分に相当するかを併記した。なお、絞りを+1するということは透過光量を半分にすることを意味し、光学濃度でいうと0.3の上昇に相当する。図9に示すように、この光学デバイスの絞りは光遮断時には+0.2で、そこにEV=11.5の光を照射することで+2.9まで、EV=12.0以上の光を照射することで+3.2まで絞りが増加した。変化の応答時間は10秒であった。なお、EVとは明るさを示す値であり、照度の実用単位luxを用いて示した明るさLから、下記数式(2)により、算出される値である。
数式(2):EV=log2(L/2.4)
【0113】
先ほど示した絞りとの関係で述べると、ある光学デバイスの絞りを+1することはその光学デバイスを通して受取る光の明るさのEV値が1減少することに相当する。
【0114】
上記501(比較例)、502(本発明) のユニットを使用して、EV=6.4(暗い室内に相当)〜15.4(真夏の晴天時に相当)の範囲の明るさの場面で撮影を行い、富士写真フイルムCN−16現像処理を3分15秒間行った。その結果得られたネガの露出レベルの比較を表6に示す。なお、露出レベルとは処理後のネガの濃度の適正さを評価したもので、最適なネガの濃度を0とおいた。前述の様に今回用いた撮影システムの場合、EV=8.4の条件で写真を撮った際に最適の濃度のネガが得られる、すなわち露出レベル=0となる。露出レベル+1とは、適正なグレー濃度から1絞り分濃い(=光学濃度で言うと0.3高い)ことを、露出レベル−1とは、適正なグレー濃度から1絞り分薄い(光学濃度で言うと0.3低い)ことを意味する。
【0115】
【表6】

【0116】
ここで得られたネガを元にプリントを行う事を想定した場合、ある程度の露出レベルのずれは補正可能となる。具体的には−1〜+4までの範囲の露出レベルのネガならば、プリント時に補正可能であり、「撮影に成功した写真」を得ることができる。露出レベルが先程の範囲内にない場合にはプリント時での補正が追いつかず、「失敗写真」となってしまう。上記の条件で撮影したネガからプリントした場合に得られた写真が成功しているか失敗しているかを表7に示した。○が成功で×が失敗である。
【0117】
【表7】

【0118】
表7から、以下のことが分かる。調光システムを持つ本発明502は、調光システムを持たない比較例501と比して、照度の低い条件(EV値が小さい条件)での撮影可能領域がやや狭まっているものの照度の高い条件(EV値が大きい条件)での撮影可能領域が大幅に広がった。つまり、総合してより広い撮影領域を持つカメラシステムが実現されている。
【実施例6】
【0119】
本実施例は実施例5において、レンズ付きフィルムの搭載したネガフィルムをISO感度1600だったものを、ISO感度100、400、1600、3200と変更した実施例である。各ISO感度のネガフィルムを用いて撮影したときの結果を表8に示す。なお、撮影した写真の成功度に応じて、成功した順に◎、○、△、×と記した。
【0120】
【表8】

【0121】
表8から、以下のことが分かる。調光システムを持つ本発明の試料605〜608の中でも、試料608が特に広い撮影領域を有するカメラシステムを実現している。本発明の調光フィルターは、感度の高いネガフィルムと組み合わせたときが最も有効に機能したことが分かった。
【実施例7】
【0122】
本実施例は、特開2003−344914号に記載のレンズ付きフィルムに、本発明のエレクトロクロミック素子を搭載した実施例である。実施例5と同様な比較実験を行ったところ、本実施例においても、本発明のエレクトロクロミック素子は優れた調光効果を発揮した。
【実施例8】
【0123】
本実施例は、電子スチルカメラに調光フィルターを装備した実施例である。本発明の電子スチルカメラは、図10に示したようにレンズとCCDの間に実施例5で作製したエレクトロクロミック素子401を調光フィルターとして搭載し、更に図11に示したように外装部に実施例5と同じフォトトランジスタを設置し電子スチルカメラに内蔵された電池を電源として調光フィルターを制御するように接続した。実施例5のレンズ付きフィルムユニットと同様の比較実験を行ったところ、本発明はダイナミックレンジの狭い電子スチルカメラではレンズ付きフィルムユニットの場合よりも顕著な調光効果を発揮した。
【実施例9】
【0124】
本実施例は、特開2004−222160に記載の電子スチルカメラに、本発明のエレクトロクロミック素子を搭載した実施例である。実施例8と同様な比較実験を行ったところ、本実施例においても、本発明のエレクトロクロミック素子は優れた調光効果を発揮した。
【実施例10】
【0125】
本実施例は、特開2004−236006に記載の電子スチルカメラに、本発明のエレクトロクロミック素子を搭載した実施例である。実施例8と同様な比較実験を行ったところ、本実施例においても、本発明のエレクトロクロミック素子は優れた調光効果を発揮した。
【実施例11】
【0126】
本実施例は、特開2004−247842に記載の電子スチルカメラに、本発明のエレクトロクロミック素子を搭載した実施例である。実施例8と同様な比較実験を行ったところ、本実施例においても、本発明のエレクトロクロミック素子は優れた調光効果を発揮した。
【実施例12】
【0127】
本実施例は、特開2004−245915に記載の電子スチルカメラに、本発明のエレクトロクロミック素子を搭載した実施例である。実施例8と同様な比較実験を行ったところ、本実施例においても、本発明のエレクトロクロミック素子は優れた調光効果を発揮した。
【実施例13】
【0128】
本実施例は、携帯電話用の撮像ユニットに調光フィルターを装備した実施例である。携帯電話の撮像ユニットのレンズ上に実施例4で作製したエレクトロクロミック素子401を調光フィルターとして搭載し、更に撮像ユニットの周囲に実施例5と同じフォトトランジスタを設置し携帯電話に内蔵された電池を電源として調光フィルターを制御するように接続した。本実施例の撮像ユニットを搭載した携帯電話は、本発明のような光学デバイスを持たない撮像ユニットと比較してより幅広い露光条件での撮影が可能であった。
【実施例14】
【0129】
本実施例は、特開2004−271991に記載の撮影レンズを有するカメラ付き携帯に、本発明のエレクトロクロミック素子を搭載した実施例である。実施例8と同様な比較実験を行ったところ、本実施例においても、本発明のエレクトロクロミック素子は優れた調光効果を発揮した。
【図面の簡単な説明】
【0130】
【図1】本発明のエレクトロクロミック素子の代表的な一構成例を示す概略断面図である。
【図2】実施例1で作製したエレクトロクロミック素子の概略断面図、及びカソード、アノードが対向する平面に直面する方向から見た図である。
【図3】実施例2で作製したエレクトロクロミック素子の概略断面図、及びカソード、アノードが対向する平面に直面する方向から見た図である。
【図4】実施例3で作製したエレクトロクロミック素子の概略断面図、及びカソード、アノードが対向する平面に直面する方向から見た図である。
【図5】実施例4で作製したエレクトロクロミック素子の概略断面図、及びカソード、アノードが対向する平面に直面する方向から見た図である。
【図6】本発明の光学デバイスを有するレンズ付きフィルムユニットの要部の概略断面図である。
【図7】本発明の光学デバイスを有するレンズ付きフィルムユニットの一例の外観図である。
【図8】本発明の光学デバイスを有する制御装置の回路例を示す概略図である。
【図9】実施例7で用いた本発明の光学デバイスの起電力応答特性を示すグラフである。
【図10】本発明の光学デバイスを有する電子スチルカメラの要部の概略断面図である。
【図11】本発明の光学デバイスを有する電子スチルカメラの一例の概略外観図である。
【符号の説明】
【0131】
1 レンズ付きフィルムユニット
4 撮影レンズ
5 ファインダー
6 ストロボ発光部
8 シャッターボタン
13 太陽電池
16 写真フィルム
18 遮光筒
20 レンズホルダー
21 アパーチャー
22 露光開口
23 調光フィルター
24 絞り
29 光軸
31 支持体
32 導電性コーティング
33a,b エレクトロクロミック材料が吸着した多孔質材料
34 電解質
35 スペーサー
40 消色状態の光学濃度が低い電子授受可能な材料。
41 消色状態の光学濃度が高い電子授受可能な材料 (発色しても良いし、発色しなくても良い)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カソード、アノード及び電荷輸送材料を含み、発色状態と消色状態とを示すエレクトロクロミック素子であって、
該素子のカソード上、アノード上のいずれにも電子授受可能な材料がそれぞれ1種類以上存在し、該電子授受可能な材料のうち少なくとも1種類は電子授受の結果、波長400〜700nmの範囲の分光吸収スペクトルが実質的に変化する材料であって、
かつ、カソードとアノードが対向する平面に直交する方向から見たとき、消色状態において波長400〜700nmの範囲の光学濃度が実質的に異なる2つ以上の領域が存在することを特徴とするエレクトロクロミック素子。
【請求項2】
カソード、アノード及び電荷輸送材料を含み、発色状態と消色状態とを示すエレクトロクロミック素子であって、
該素子のカソード上、アノード上のいずれにも電子授受可能な材料がそれぞれ1種類以上存在し、該電子授受可能な材料のうち少なくとも1種類は電子授受の結果、波長400〜700nmの範囲の分光吸収スペクトルが実質的に変化する材料であって、
かつ、カソードとアノードが対向する平面に直交する方向から見たとき、少なくとも部分的に、カソード上の前記電子授受可能な部分とアノード上の前記電子授受可能な部分が重ならない領域を有することを特徴とするエレクトロクロミック素子。
【請求項3】
カソード、アノード及び電荷輸送材料を含み、発色状態と消色状態とを示すエレクトロクロミック素子であって、
該素子のカソード上、アノード上のいずれにも電子授受可能な材料がそれぞれ1種類以上存在し、該電子授受可能な材料のうち少なくとも1種類は電子授受の結果、波長400〜700nmの範囲の分光吸収スペクトルが実質的に変化する材料であって、
かつ、カソードとアノードが対向する平面に直交する方向から見たとき、カソード上の前記電子授受可能な領域またはアノード上の前記電子授受可能な領域のいずれか一方のみが存在する領域だけでエレクトロクロミック素子の全領域が構成され、波長400〜700nmの範囲で消色状態の光学濃度が実質的に異なる2つ以上の領域が存在することを特徴とするエレクトロクロミック素子。
【請求項4】
前記エレクトロクロミック素子のカソード上、アノード上のいずれか一方に、不純物元素をドープした半導体材料を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項5】
前記エレクトロクロミック素子のアノード上に、不純物元素をドープした半導体材料を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項6】
前記不純物元素をドープした半導体材料が、
(a) F、Cl、Sb、P、As、Nb、TaまたはBをドープしたSnO2
(b) Al、Ga、B、In、Y、Sc、F、V、Si、Ti、Zr、HfまたはGeをドープしたZnO
(c) Sn、Ge、Mo、F、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、W、TeまたはPbをドープしたIn2O3
(d) InまたはSnをドープしたCdO
(e) BiをドープしたPbO2
(f) SnをドープしたGa2O3
(g) Al、Ga、B、In、Y、Sc、F、V、Si、Ti、Zr、HfまたはGeをドープしたZnS
(h) C、Si、Ge、Sn、Pb、O、S、SeまたはTeをドープしたGaN
(i) F、Cl、BrまたはIをドープしたTiO2
の中から選ばれた単独、または2種以上の複合物である請求項4または5に記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項7】
前記不純物元素をドープした半導体材料がSbをドープしたSnO2である請求項4〜6のいずれかに記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項8】
前記エレクトロクロミック素子のアノード上に、金属を含むことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項9】
前記エレクトロクロミック素子のカソード上に、下記構造式 (1) 〜(3)で表される化合物を少なくとも1種類含むことを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のエレクトロクロミック素子。
【化1】

一般式(1)、(2)、(3)中、V1、V2、V3、V4、V5、V6、V7、V8、V9、V10、V11、V12、V13、V14、V15、V16、V17、V18、V19、V20、V21、V22、V23、及びV24はそれぞれ独立に水素原子、又は一価の置換基を表す。R1、R2、R3、R4、R5、及びR6はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アリール基、又は複素環基を表す。L1、L2、L3、L4、L5、及びL6はそれぞれ独立にメチン基、又は窒素原子を表す。n1、n2、及びn3はそれぞれ独立に0、1、又は2を表す。M1、M2、及びM3はそれぞれ独立に電荷均衡対イオンを表し、m1、m2、及びm3はそれぞれ独立に分子の電荷を中和するのに必要な0以上の数を表す。
【請求項10】
前記エレクトロクロミック素子の発色状態において、該エレクトロクロミック素子のフィルター部分の波長450〜470nmの光学濃度の平均値、波長540〜560nmの光学濃度の平均値、波長630〜650nmの光学濃度の平均値のばらつき(3つの平均値の最大値と最小値の差)が光学濃度0.5以下であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項11】
前記エレクトロクロミック素子の発色状態において、該エレクトロクロミック素子のフィルター部分の波長450〜470nmの光学濃度の平均値、波長540〜560nmの光学濃度の平均値、波長630〜650nmの光学濃度の平均値がいずれも0.5以上であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項12】
前記エレクトロクロミック素子の消色状態において、該エレクトロクロミック素子のフィルター部分の波長400nmの光学濃度が0.2以下であることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項13】
前記エレクトロクロミック素子の消色状態において、該エレクトロクロミック素子のフィルター部分の波長400〜500nmの光学濃度の平均値、波長500〜600nmの光学濃度の平均値、600〜700nmの光学濃度の平均値がいずれも0.1以下であることを特徴とする請求項1〜12のいずれか1項に記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項14】
電磁波に応答し起電力を発生させる起電力発生要素と、該起電力により駆動される請求項1〜13のいずれか1項に記載のエレクトロクロミック素子とを有することを特徴とする光学デバイス。
【請求項15】
請求項14に記載の光学デバイスを有することを特徴とする撮影ユニット。
【請求項16】
撮影ユニットがレンズ付きフィルムであることを特徴とする請求項15に記載の撮影ユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−145723(P2006−145723A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−334223(P2004−334223)
【出願日】平成16年11月18日(2004.11.18)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】