説明

エレクトロクロミック素子及びその製造方法

【課題】 簡単な方法により低コストで、エレクトロクロミック特性を示す酸化タングステン微粒子分散樹脂シートを製造する方法を提供する。この微粒子分散膜を用いた熱圧着法により、強度が高く着色濃度が均一な特性を有するエレクトロクロミック素子の製造方法を提供する。
【解決手段】酸化タングステン微粒子が樹脂バインダー中に分散している酸化タングステン微粒子分散樹脂シート作製用組成物をシート状に成形して得られる酸化タングステン微粒子分散樹脂シートと、プロトン及び/またはLiイオンを樹脂に混合させた電解質シートを、透明導電膜が表面に形成されている2枚の透明導電膜付き基材の間に透明導電膜に接するようにしてそれぞれ挟み、熱圧着することで優れたエレクトロクロミック素子が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトロクロミック特性を示す酸化タングステン微粒子分散樹脂シートを用いたエレクトロクロミック素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エレクトロクロミック(以下、「EC」と記す場合がある。)現象は、物質の電気化学的な酸化還元反応によって色および透過率が変化する現象であり、1969年にベル研究所のS.K.Debによって酸化タングステン(WO3)について報告されたのが最初である。
【0003】
WO3はタングステン(W)原子に酸素(O)原子が6配位した立方晶で、可視光に対して透明である。電圧印加により立方晶に電子が注入されると、立方晶の中心にプロトンあるいはアルカリ金属イオン等が挿入され、立方晶ペロブスカイト型構造に変化する。この構造変化と同時にWの価数が6+から5+に変化し、光エネルギーに基づくWのd軌道間の遷移が可能となり、可視光を吸収して着色する。
また、電圧を逆に印加することによりプロトンあるいはアルカリ金属イオン等が引き抜かれると、立方晶となり消色する。この現象が可逆的に起こる。
上記のようにプロトンあるいはアルカリ金属イオン等が挿入される時に着色する材料を還元着色材料と呼ぶ。逆に、プロトンあるいはアルカリ金属イオン等を引き抜く時に着色する材料を酸化着色材料と呼ぶ。
【0004】
エレクトロクロミック素子は、一般に、透明電極、電解質、エレクトロクロミック層を組み合わせた積層構造からなっている。例えば、基材/透明導電膜/酸化タングステン等を主成分とする還元着色型エレクトロクロミック層/電解質層/オキシ水酸化ニッケル等を主成分とする酸化着色型エレクトロクロミック層/透明導電膜/基材の積層構造となっている。これは還元着色材と酸化着色材とを電解質層を介して対向させることにより着色効果が重畳されることを期待した構造である。
また、基材/透明導電膜/エレクトロクロミック層/電解質層/透明導電膜/基材の積層構造を有するものもある。
【0005】
還元着色材料としては、酸化タングステン、酸化ニオブ、ニオブ酸リチウム、酸化モリブデン、酸化チタン、酸化錫、アンチモン添加酸化錫(ATO)、リチウム酸コバルト、プルシアンブルー等が知られている。
また、酸化着色材としては、酸化ニッケル、水酸化ニッケル、オキシ水酸化ニッケル、酸化イリジウム、酸化ロジウム、酸化コバルト、水酸化コバルト等が知られている。他に、消色状態である程度着色していても良い場合には酸化バナジウム、窒化インジウム、窒化錫等が挙げられる。
【0006】
電解質には、プロピレンカーボネートなどの極性溶媒にアルカリ金属塩を溶解させた液体電解質が主に使用されている。液体電解質は一般に大きなイオン伝導性を示す反面、エレクトロクロミック材料の溶解、液漏れ等の問題を有している。一方、パーフルオロスルホン酸を代表とするイオン交換膜に用いられる高分子電解質は高いプロトン伝導率を持つが、高価な材料である。
【0007】
エレクトロクロミック素子の応用例として、調光ガラス、調光めがね、防眩ミラー、漏電検知器、表示素子等の開発が進められている。調光ガラス、調光めがね等のエレクトロクロミック調光素子では透過光に対して透明、着色を制御するため、還元着色材料、酸化着色材料では消色時において透明であることが求められる。また、電解質層ではすべての状態で透明であることが求められる。
【0008】
一方、エレクトロクロミック表示素子では、反射光を利用し、光を透過させる必要がない場合が多く、必ずしも消色時にエレクトロクロミック層および電解質層が透明である必要はない。この応用では、一般に、基材/透明導電膜/エレクトロクロミック層/電解質層/電極のように、一種類のエレクトロクロミック層と電解質層で形成される場合が多い。
【0009】
一般に、エレクトロクロミック素子に用いられる基材はガラスであるが、ポリエチレンテレフタレート、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリビニルアルコール、ポリメチルメタクリレート、フッ素樹脂、エチレン、ビニルアルコールなどの屈曲性のある透明樹脂フィルムも基材として用いることが検討されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、一般にエレクトロクロミック素子の作製には、高価な製造装置を必要とする乾式法のスパッタリング法が用いられることが多い。また、湿式法であるディップ法による製膜では基材塗布後に高温の加熱処理が必要となり、これらの理由から、ガラス以外の基板への応用は困難であった。
これらの問題を解決するため、粒径0.1μm以下のWO3超微粒子を塗布することにより、WO3微粒子材料を含有する薄膜を有するエレクトロクロミックディスプレイの作製方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0011】
さらに、ゾル−ゲル法で、金属アルコキシ化合物を、水を含む媒体中で加水分解させて得られる沈澱物微粒子もしくは該沈澱物微粒子を加熱処理して得られる微粒子からなるエレクトロクロミック素子材料を用い、従来のエレクトロクロミック素子の欠点である、低い着色効率、およびエレクトロクロミック層の成膜時の省エネルギー化、大面積化が困難である欠点を克服することが提案されている(特許文献2参照)。
【0012】
また、酸化タングステン微粒子表面をポリマーで修飾してイオン伝導性ポリマーと分散構造を形成させ、イオンの移動を容易にする試みがなされている(特許文献3参照)。
また、本願発明者等は、酸化タングステン微粒子とプロトン伝導体を含む樹脂を構成することにより、酸化タングステン微粒子へのプロトンの移動を容易にすることを確認している(特許文献4参照)。
【0013】
しかしながら、塗布法で作製した膜は厚さに不均一が生じやすく、厚さの不均一性は着色むらとして実用に適さない。さらに、高分子電解質膜を塗布法で形成する場合、あとで塗布した液の溶剤がはじめに塗布形成した膜に含浸して膜厚の不均一さを招くおそれがあり、工程管理が複雑となりコスト高となるといった課題があった。
【特許文献1】特開平4−174824号公報
【特許文献2】特開平7−175417号公報
【特許文献3】特開平6−95166号公報
【特許文献4】特開2003−121884号公報
【0014】
本発明は、従来技術の有する上記の如き問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、簡単な方法により、低コストで、エレクトロクロミック特性を示す酸化タングステン微粒子分散樹脂シートを得て、それを用いて、機械強度が高く、着色濃度が均一な特性を有するエレクトロクロミック素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するため、本第1の発明によるエレクトロクロミック素子は、エレクトロクロミック特性を示す酸化タングステン微粒子が樹脂バインダー中に分散している酸化タングステン微粒子分散樹脂シート作製用組成物をシート状に成形して得られる酸化タングステン微粒子分散樹脂シートと、プロトン及び/またはLiイオンを樹脂中に含有させた電解質シートを、透明導電膜が表面に形成されている2枚の透明導電膜付き基材の間に透明導電膜に接するようにしてそれぞれ挟み、熱圧着して得られることを特徴とする。
【0016】
本第2の発明は、前記透明導電膜付き基材が、2枚とも透明導電膜付きガラスであるか、2枚とも透明導電膜付きフィルムであるか、もしくは、1枚が透明導電膜付きガラスで他の1枚が透明導電膜付きフィルムであることを特徴とする。
【0017】
本第3の発明は、樹脂バインダーが、プロトンあるいはLiイオンが伝導可能な樹脂であることを特徴とする。
【0018】
本第4の発明は、樹脂バインダーが、ポリビニルアセタール(PVA)及び/又はポリビニルブチラール(PVB)であることを特徴とする。
【0019】
本第5の発明は、酸化タングステン微粒子分散樹脂シート作製用組成物中の酸化タングステン微粒子分散粒子径が200nm以下であることを特徴とする。
【0020】
本第6の発明によるエレクトロクロミック素子の製造方法は、エレクトロクロミック特性を示す酸化タングステン微粒子と樹脂バインダーを混合して、該酸化タングステン微粒子を該樹脂バインダー中に分散させた酸化タングステン微粒子分散樹脂シート作製用組成物を得、得られた該組成物をシート状に成形して酸化タングステン微粒子分散樹脂シートを得、該酸化タングステン微粒子分散樹脂シートと、プロトン及び/またはLiイオンを樹脂に混合させた電解質シートを、透明導電膜が表面に形成されている2枚の透明導電膜付き基材の間に該透明導電膜に接するようにして挟み、次に熱圧着してエレクトロクロミック素子を得るようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、簡単な方法により低コストで、エレクトロクロミック特性を示す酸化タングステン微粒子分散樹脂シートを製造することができる。また、この微粒子分散樹脂シートを用い、熱圧着法により、強度が高く着色濃度が均一な特性を有するエレクトロクロミック素子の製造方法を提供することができる。
また、この樹脂シートと電解質シートを透明導電膜付き基材に挟みこんだエレクトロクロミック素子は、強度が高く、ビル、自動車等の調光窓および安全ガラスとして利用することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本願発明者は、上記課題を解決するために、多数の試験を行い、エレクトロクロミック特性を示す酸化タングステン微粒子が樹脂バインダー中に分散している酸化タングステン微粒子分散樹脂シート作製用組成物をシート状に成形して得られる酸化タングステン微粒子分散樹脂シートと、プロトン及び/またはLiイオンを樹脂中に含有させた電解質シートを、透明導電膜が表面に形成されている2枚の透明導電膜付き基材の間に透明導電膜に接するようにしてそれぞれ挟み、熱圧着することで、機械強度が高く、着色濃度が均一な特性を有するエレクトロクロミック素子を作製できることを見出し、本発明に至った。
【0023】
以下、本発明の実施の形態にかかるエレクトロクロミック特性を示す酸化タングステン微粒子分散樹脂シートを用いたエレクトロクロミック素子の製造方法及びエレクトロクロミック素子について説明する。
1.エレクトロクロミック特性を示す酸化タングステン微粒子分散樹脂シートの製造方法
(1)酸化タングステン微粒子分散樹脂シート作製用組成物
エレクトロクロミック特性を示す酸化タングステン微粒子は公知の材料で良い。例えば、六塩化タングステンをアルコールに溶解させ、この溶液から溶媒を蒸発除去することにより酸化タングステン微粒子が得られる。また、上記溶液を加熱還流し、その後に溶媒を蒸発除去させることにより酸化タングステン微粒子が得られる。また、上記溶液に水を添加し、白色のゲル状物質を沈殿させた後、この沈殿物を液体から分離することにより酸化タングステン微粒子が得られる。溶媒から分離した酸化タングステン微粒子は、次に300℃以上で加熱する(特許文献4参照)ことが好ましい。
次に、エレクトロクロミック特性を示す酸化タングステン微粒子を、公知の溶媒、例えばアルコール、ケトン、エーテル、エステルなどの液体中に投入し、超音波照射、ボールミル、ビーズミル、サンドミル等を用いて混合して分散液を得る。
該分散液に、後述する樹脂バインダーを含有させ、得られたエレクトロクロミック特性を示す酸化タングステン微粒子分散樹脂シート作製用組成物(以下、「樹脂シート作製用組成物」と略記する場合がある。)を、公知の方法によりシートに成形することによりエレクトロクロミック特性を示す酸化タングステン微粒子分散樹脂シートを得ることができる。
【0024】
(2)酸化タングステン微粒子の分散粒子径
エレクトロクロミック特性を示す酸化タングステン微粒子分散樹脂シート作製用組成物において、溶媒中の酸化タングステン微粒子の分散粒子径を、分散の方法や条件を調整することにより、目的とする用途に応じて変えることが可能である。透過光を利用しない表示素子等では必ずしも分散粒子径は小さくなくともよく、膜形成に支障がない分散粒子径であればよい。
一方、調光ガラス用途の場合には、樹脂シート作製用組成物中における酸化タングステン微粒子の凝集体又は単分散粒子の平均分散粒子径を200nm以下、好ましくは100nm以下、更に好ましくは50nm以下とすることが良い。上述のごとく、平均分散粒子径を小さくするほど、良好な透明性が得られるからである。上記液中の酸化タングステン微粒子の分散粒子径は、エレクトロクロミック特性を示す酸化タングステン微粒子分散樹脂中においても保持される。
該樹脂シート作製用組成物を粉砕分散処理することで分散粒子径を小さくすることは可能であるが、粒子径が小さくなればなるほど再凝集しやすくなり、基材に塗布したとき溶媒の蒸発に伴って大きく凝集してしまう傾向がある。従って、安定して微小な分散粒子径を保持するには、有効な分散剤を添加することが好ましい。
【0025】
(3)分散剤
上記樹脂シート作製用組成物に添加する分散剤としては、アルコキシド系分散剤や、高分子系分散剤、界面活性剤等が好ましく、いずれも粒子表面に作用するものであり、粒子表面のイオン化状態、表面電位、分散溶媒の種類等によって適宜選択される。
上記分散剤の添加により、分散粒子が再凝集することがなくなり、安定的に液体中に分散し、更には樹脂中に安定して散在させることが可能となる。
尚、分散剤の種類や添加量は、プロトンやイオン伝導特性への影響を考慮して適宜選択するが、添加量はプロトンやイオン伝導特性を低下させないために、酸化タングステン微粒子の重量の30%以下とすることが好ましい。
【0026】
(4)樹脂バインダー
上記樹脂シート作製用組成物作製に用いる樹脂バインダーとしては、プロトンあるいはLiイオンが伝導可能な樹脂であることが好ましい。具体的には、既存の樹脂バインダーやゾルゲルシリケート等を用いることができる。
既存の樹脂バインダーとしては、例えば、熱可塑性樹脂がある。樹脂バインダーとして熱可塑性樹脂を用いれば、樹脂シート作製用組成物を加熱してエレクトロクロミック特性を示す酸化タングステン微粒子分散樹脂シートを作製することができる。
上記樹脂バインダーもまた、プロトンやイオン伝導特性を考慮して、あるいは基材への密着性によって、適宜選定すれば良い。特に、ポリビニルアセタール(PVA)、ポリビニルブチラール(PVB)は、自動車や建物の複層ガラスの中間膜として利用され、強度の高い安全ガラスの形成に利用されており、かつエレクトロクロミック素子の固体高分子イオン伝導電解質として提案されているので好ましい。
また、プロトンやイオン伝導性を補助する目的で、イオン伝導性又はプロトン伝導性を有する他のバインダーを用いて酸化タングステン微粒子の間隙を埋めることも好ましい。
【0027】
(5)成形方法
エレクトロクロミック特性を示す酸化タングステン微粒子分散樹脂シートの成形方法としては特に限定されず、押出し成形、キャスト法などを挙げることができる。
押出し成形を用いる場合には、常法により行うことができ、上記樹脂バインダーを含有させたエレクトロクロミック特性を示す酸化タングステン微粒子分散樹脂シート作製用組成物を加熱溶融した後、シート成形すればよい。
キャスト法を用いる場合には、上記樹脂バインダーを含有させたエレクトロクロミック特性を示す酸化タングステン微粒子分散樹脂シート作製用組成物をコータにて塗布し、乾燥することで成膜することができる。
コータとしては、キャスト法に通常用いられるコータを使用することができる。具体的には、ドクタコータ、ブレードコータ、ロッドコータ、ナイフコータ、リバースロールコータ、グラビアコータ、スプレイコータ、カーテンコータを用いることができ、粘度および膜厚により使い分けることができる。
【0028】
2.電解質シートの製造方法
エレクトロクロミック素子は、一般に、基材/透明導電膜/酸化タングステン等を主成分とする還元着色型エレクトロクロミック層/電解質層/オキシ水酸化ニッケル等を主成分とする酸化着色型エレクトロクロミック層/透明導電膜/基材の積層構造となっている。また、基材/透明導電膜/エレクトロクロミック層/電解質層/透明導電膜/基材の積層構造を有するものもある。
本発明のエレクトロクロミック素子は、上記した積層構造におけるエレクトロクロミック層及び電解質層として、エレクトロクロミック特性を示す酸化タングステン微粒子分散樹脂シート、電解質シートがそれぞれ対応し、これら2つのシートを対向する2枚の透明導電膜付き基材の間にそれぞれ挟み、熱圧着により積層構造を形成することで得ることができる。
【0029】
本発明の電解質シートは、支持電解質と、イオン伝導性を有する溶媒が、ポリビニルアセタール(PVA)、ポリビニルブチラール(PVB)からなる高分子シート中に分散した組成物を成形して固体シート状態で得られる。
溶媒としては、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、アセトニトリル、γ−ブチロラクトンなどを用いることができる。溶媒は、その1種を単独で使用しても良いし、また2種以上を混合して使用しても良い。なお、ポリビニルアセタール(PVA)やポリビニルブチラール(PVB)を溶解する作用のある溶媒を用いることが特に好ましい。
支持電解質としては、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等の無機イオン塩などが使用でき、特にLi塩が好ましい。
【0030】
本発明のエレクトロクロミック素子に用いられる、上記電解質シートは公知の方法で作製することができる。電解質シートの成形方法としては特に限定されず、押出し成形、キャスト法によりシート状態で得る方法などを挙げることができる。
押出し成形を用いる場合には、常法により行うことができる。例えば、ポリビニルアセタール(PVA)、ポリビニルブチラール(PVB)から選ばれる1種以上と支持電解質を溶媒に添加した溶液を混合し、加熱した後、シート成形することで得ることができる。
キャスト法を用いる場合には、例えば、ポリビニルアセタール(PVA)、ポリビニルブチラール(PVB)から選ばれる1種以上と、支持電解質を溶媒に添加した溶液を混合し、さらに適当な希釈剤にて粘度調整を行い、コータにて塗布し、乾燥することで成膜することができる。
コータとしては、キャスト法に通常用いられるコータを使用することができる。具体的には、ドクタコータ、ブレードコータ、ロッドコータ、ナイフコータ、リバースロールコータ、グラビアコータ、スプレイコータ、カーテンコータを用いることができ、粘度および膜厚により使い分けることができる。
【0031】
3.エレクトロクロミック素子の製造方法
上記したように、エレクトロクロミック素子は、一般に、基材/透明導電膜/酸化タングステン等を主成分とする還元着色型エレクトロクロミック層/電解質層/オキシ水酸化ニッケル等を主成分とする酸化着色型エレクトロクロミック層/透明導電膜/基材の積層構造となっている。また、基材/透明導電膜/エレクトロクロミック層/電解質層/透明導電膜/基材の積層構造を有するものもある。
【0032】
本発明のエレクトロクロミック素子は、上記した積層構造におけるエレクトロクロミック層及び電解質層として、エレクトロクロミック特性を示す酸化タングステン微粒子分散樹脂シート、電解質シートがそれぞれ対応し、これら2つのシートを対向する2枚の透明導電膜付き基材の間にそれぞれ挟み、熱圧着により積層構造を形成することで得ることができる。
【0033】
透明導電膜付き基材に用いられる基材としては、透明な樹脂やガラス等を使用でき、硬いボード状のものでも、フレキシブルなフィルム状のものでも良い。特に、既存の窓ガラス等に貼付し調光ガラスとする用途には、ポリエチレンテレフタレート、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリビニルアルコール、ポリメチルメタクリレート、フッ素樹脂、エチレン、ビニルアルコールなどの透明樹脂フィルムが好ましい。
【0034】
基材に形成されている透明導電膜としては、ITO(錫添加酸化インジウム)、ATO(アンチモン添加酸化錫)、FTO(フッ素添加酸化錫)、AZO(アルミニウム添加酸化亜鉛)、GZO(ガリウム添加酸化亜鉛)、Au、Ag、Pt等の貴金属薄膜等を使用できる。導電性が着色、消色の速度を決める要素となるため、透明導電膜の表面抵抗は低いことが望ましい。
【0035】
よって、前記透明導電膜付き基材は、2枚とも透明導電膜付きガラスであるか、2枚とも透明導電膜付きフィルムであるか、もしくは、1枚が透明導電膜付きガラスで他の1枚が透明導電膜付きフィルムである場合があり、いずれの構成を採るかは適宜選択すればよい。
【0036】
(1)エレクトロクロミック素子
本発明のエレクトロクロミック素子は、上記した一般的積層構造を有するエレクトロクロミック層及び電解質層として、エレクトロクロミック特性を示す酸化タングステン微粒子分散樹脂シートと電解質シートを用い、それらを対向する2枚の透明導電膜付き基材の間にそれぞれ挟み、熱圧着により積層構造を形成することにより作製できる。
本発明のエレクトロクロミック素子のエレクトロクロミック特性を示す酸化タングステン微粒子分散樹脂シートおよび電解質シートは、好ましい例として、バインダーとして、自動車や建物の複層ガラスの中間膜として利用され、強度の高い安全ガラスの形成に利用されているポリビニルアセタール(PVA)、ポリビニルブチラール(PVB)から選ばれる1種以上を用いている。
【実施例】
【0037】
本発明の、エレクトロクロミック特性を示す酸化タングステン微粒子分散樹脂シートを用いたエレクトロクロミック素子を、以下の実施例に従い作製した。
尚、光学特性に関しては、JIS A 5459(1998)(光源:A光)に基づき測定を行い、可視光透過率、日射透過率を算出した。
塗布液中の平均分散粒子径は、動的光散乱法を用いた測定装置(大塚電子株式会社製:ELS−800)により測定し、その平均値を用いた。
【0038】
[実施例1]
窒素ガス中において、エタノール350gにWCl6を少量ずつゆっくり加えて溶解した。この溶液を70℃に保持して溶媒を蒸発させ、更に100℃で加熱処理することにより薄黄色の粉末が得られた。この粉末を300℃で加熱処理し、エレクトロクロミック特性を示す酸化タングステン微粒子を得た。
得られた酸化タングステン微粒子100gと、分散剤10gと、エタノール900gを混合し、この溶液をボールミルで分散処理して、平均分散粒子径80nm以下の分散液Aを作製した。
【0039】
次に、この分散液Aの50gに、エタノールで5%に希釈したポリビニルブチラール(PVB)(積水化学工業製BL−1)10gと可塑剤0.3gを加えて撹拌混合して塗布液Bを作製した。
【0040】
10cm角フッ素樹脂板の表面に、塗布液Bをバーコーターで塗布した。これを70℃で1分間乾燥して溶媒を蒸発させ、エレクトロクロミック特性を示す酸化タングステン微粒子分散膜をフッ素樹脂上に形成した。
【0041】
次に、フッ素樹脂板からエレクトロクロミック特性を示す酸化タングステン微粒子分散膜を剥がし、エレクトロクロミック特性を示す酸化タングステン微粒子分散樹脂シートを作製した。
【0042】
次に、エタノールで5%に希釈したポリビニルブチラール(PVB)(積水化学工業製BL−1)200gに1mol/LのLiClO4のエチレンカーボネート溶液500gと可塑剤6gを添加し、エチルアルコールで希釈した後、撹拌して均一溶液を得た。
この均一溶液を10cm角フッ素樹脂板上にバーコーターで塗布し、加熱乾燥を行い、無色透明な電解質膜を得た。次に、フッ素樹脂板から電解質膜を剥がし、電解質シートを作製した。
【0043】
上記のようにして作製したエレクトロクロミック特性を示す酸化タングステン微粒子分散樹脂シートと上記電解質シートとを、透明導電膜が表面に形成されている2枚の透明導電膜付きガラスの間にそれぞれ挟み、ホットプレート上で100℃に加熱し、熱圧着してエレクトロクロミック素子を作製した。
【0044】
次に、このエレクトロクロミック素子のエレクトロクロミック特性を調査するために、このエレクトロクロミック素子に3Vの電圧を印可したところ、均一な濃青色の色調を示した。この時の膜の可視光透過率は20%、日射透過率は14%であった。次に、印可電圧を逆方向にかけたところ、膜の色は直ちに消えて透明になった。このように着消色は均一に行われた。この時の膜の可視光透過率は74%、日射透過率は65%であった。
【0045】
[比較例1]
上記実施例1で製造した粉100gと、分散剤10gと、エタノール900gを混合し、この溶液をボールミルで分散処理して、平均分散粒子径80nm以下の分散液Aを作製した。
【0046】
次に、この分散液Aの50gに、UV硬化樹脂(東亞合成製UV3701)を加えて撹拌混合して塗布液Cを作製した。透明電極としてFTO(フッ素添加酸化錫)がコートされたガラス基板上に、塗布液Cをバーコーターで塗布した。これを70℃で1分間乾燥して溶媒を蒸発させ、更に高圧水銀ランプにより紫外線照射して膜を硬化させた。
【0047】
このようにして作製した、エレクトロクロミック膜を塗布した透明導電膜付きガラスと透明導電膜付きガラスを対向させ、間に上記実施例で作製した電解質シートと同様の電解質シートを挟み込み、ホットプレート上で100℃に加熱し熱圧着してエレクトロクロミック素子を作製した。
【0048】
次に、この素子のエレクトロクロミック特性を調査するために、この素子に3Vの電圧を印可したところ、濃青色の色調を示したが一部不均質であった。
この時の膜の可視光透過率は21%、日射透過率は15%であった。次に、印可電圧を逆方向にかけたところ、膜の色は直ちに消えて透明になったが部分的に青い小さな点が見られた。このように着消色は不均一に行われた。この時の膜の可視光透過率は74%、日射透過率は65%であった。
【0049】
[比較例2]
エタノールで5%に希釈したポリビニルブチラール(PVB)(積水化学工業製BL−1)200gに1mol/LのLiClO4のエチレンカーボネート溶液500gと可塑剤6gを添加し、エチルアルコールで希釈した後、撹拌して得た溶液を、上記比較例1で作製したエレクトロクロミック膜を塗布した透明導電膜付きガラスのエレクトロクロミック膜面に塗布した。
【0050】
次に、塗布液が乾燥する前に、透明導電膜付きガラスを対向させ、乾燥後ホットプレート上で100℃に加熱し、熱圧着してエレクトロクロミック素子を作製した。
【0051】
次に、この素子のエレクトロクロミック特性を調査するために、この素子に3Vの電圧を印可したところ、濃青色の色調を示したが不均一であった。この時の膜の可視光透過率は21%、日射透過率は15%であった。次に、印可電圧を逆方向にかけたところ、膜の色は直ちに消えて透明になったが一部青い小さな点がみられた。このように着消色は不均一に行われた。この時の膜の可視光透過率は74%、日射透過率は65%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレクトロクロミック特性を示す酸化タングステン微粒子が樹脂バインダー中に分散している酸化タングステン微粒子分散樹脂シート作製用組成物をシート状に成形して得られる酸化タングステン微粒子分散樹脂シートと、プロトン及び/またはLiイオンを樹脂中に含有させた電解質シートとを、透明導電膜が表面に形成されている2枚の透明導電膜付き基材の間に前記透明導電膜に接するようにしてそれぞれ挟み、熱圧着してなるエレクトロクロミック素子。
【請求項2】
前記透明導電膜付き基材が、2枚とも透明導電膜付きガラスであるか、2枚とも透明導電膜付きフィルムであるか、もしくは、1枚が透明導電膜付きガラスで他の1枚が透明導電膜付きフィルムである請求項1記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項3】
前記樹脂バインダーが、プロトンあるいはLiイオンが伝導可能な樹脂である請求項1または2に記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項4】
前記樹脂バインダーが、ポリビニルアセタール(PVA)及び/又はポリビニルブチラール(PVB)である請求項3に記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項5】
酸化タングステン微粒子分散樹脂シート作製用組成物中の酸化タングステン微粒子分散粒子径が200nm以下である請求項1乃至4の何れかに記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項6】
エレクトロクロミック特性を示す酸化タングステン微粒子と樹脂バインダーとを混合して、前記酸化タングステン微粒子を前記樹脂バインダー中に分散させた酸化タングステン微粒子分散樹脂シート作製用組成物を得、前記組成物をシート状に成形して酸化タングステン微粒子分散樹脂シートを得、前記酸化タングステン微粒子分散樹脂シートと、プロトン及び/又はLiイオンを樹脂に混合させた電解質シートとを、透明導電膜が表面に形成されている2枚の透明導電膜付き基材の間に前記透明導電膜に接するようにしてそれぞれ挟み、熱圧着してエレクトロクロミック素子を得るようにしたエレクトロクロミック素子の製造方法。

【公開番号】特開2008−287001(P2008−287001A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−131871(P2007−131871)
【出願日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】