説明

エレクトロクロミック素子用プルシアンブルーコーティング膜の製造方法

本発明は、エレクトロクロミック素子用プルシアンブルーのコーティング膜を製造する方法に関し、更に詳しくは、透明電極が塗布された光伝達基板上にコーティングされたエレクトロクロミック層、透明電極が塗布された他の光伝達基板上にコーティングされたイオン貯蔵層、及び前記エレクトロクロミック層とイオン貯蔵層との間に形成された電解質層を含むエレクトロクロミック素子において、前記イオン貯蔵層は、湿式コーティングによりプルシアンブルーを含有する特定のナノ分散組成物で形成され、その結果、従来の電気化学法と比較したとき、同等またはより良い光透過率、応答速度、耐久性などを含む物性を提供しつつ、製造工程を単純化し、生産性を著しい向上させることができる。経済的長所により、本発明は、広面積のエレクトロクロミック素子の実現が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトロクロミック素子用プルシアンブルーのコーティング膜を製造する方法に関する。更に詳しくは、透明電極が塗布された光伝達基板上にコーティングされたエレクトロクロミック層、透明電極が塗布された他の光伝達基板上にコーティングされたイオン貯蔵層、及び前記エレクトロクロミック層とイオン貯蔵層との間に形成された電解質層を含むエレクトロクロミック素子において、前記イオン貯蔵層は、湿式コーティングによりプルシアンブルーを含有する特定のナノ分散組成物で形成され、その結果、従来の電気化学法と比較したとき、同等またはより良い光透過率、応答速度、耐久性などを含む物性を提供しつつ、製造工程を単純化し、生産性を著しく向上させることができる方法に関する。経済的長所により、本発明は、広面積のエレクトロクロミック素子の実現が可能となる。
【背景技術】
【0002】
一般的に、基板、第1透明電極層、エレクトロクロミック層、電解質層、イオン貯蔵層、第2透明電極層及び第2基板とからなるエレクトロクロミック素子は、建築用窓ガラスや自動車のルームミラーの光透過率または反射率を調節するために利用される。前記素子は、外部電波によりエレクトロクロミック物質の色が変わる原理を利用するものである。最近、エレクトロクロミック物質は可視光領域で色が変化し得るだけでなく、赤外線を遮断し得ることが報告されており、エネルギー節約型製品としての応用可能性に注目が集められている。
【0003】
エレクトロクロミック物質は、無機エレクトロクロミック物質と有機エレクトロクロミック物質とに区分される。代表的な無機エレクトロクロミック物質は、WO3、NiOxy、Nb25、V25、TiO2、MoO3などであり、代表的な有機エレクトロクロミック物質は、ポリアニリン、ポリピロール、プルシアンブルーなどである。
【0004】
エレクトロクロミック物質の光学特性は、還元又は酸化工程を通して変わり得る。また、前記エレクトロクロミック物質は着色工程によって、還元着色と酸化着色に区分される。適切な還元着色物質と、酸化着色物質を各々もしくはその反対にエレクトロクロミック層とイオン貯蔵層に使用することにより、相互補完効果によりエレクトロクロミック素子の特性を更に向上させることができる。
【0005】
前記無機エレクトロクロミック物質のうち代表的な還元着色物質であるWO3は、下記式1に表されるように、イオンと電子との反応を通して変色を行う。この時、着色程度は電荷の量により決定される。
【0006】
式1
WO3(透明)+xe-+xM+ ⇔ MxWO3(藍色)
ここで、xは反応係数であり、Mはプロトン(H)、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)またはカリウム(K)イオンであり、主として、リチウムイオンが使用される。リチウムイオンがWO3と酸化又は還元反応することにより、エレクトロクロミック効果が生じる。このような無機エレクトロクロミック物質は、真空蒸発、イオンめっき、蒸着及びゾル−ゲル法を含む様々な方法で製造され得る。
【0007】
前記有機エレクトロクロミック物質のうち代表的な酸化着色物質であるプルシアンブルーは、下記の式2に表されるように変色を行う。
【0008】
式2
MFe4III[FeII(CN)63(青色)+e-+M+ ⇔ M2Fe4II[FeII(CN)63(透明)
Fe4III[FeII(CN)63(青色)+4e-+4M+ ⇔ M4Fe4II[FeII(CN)63(透明)
ここで、Mはプロトン(H)、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)、又はアンモニウム(NH4)イオンであり、リチウムイオンが最も多く使用される。
【0009】
主に、前記有機エレクトロクロミック物質は電気めっきにより蒸着される。
【0010】
プルシアンブルーの場合、フェロシアン化カリウム(K4Fe(CN)6)と塩化鉄(FeCl3)の水溶液内で、コーティングしようとする基板と対極との間に電界を長時間流し、コーティング膜を形成する方法が公知である[米国特許第4,498,739号、米国特許第4,818,352号、米国特許第5,215,821号]。しかし、電気めっき法は、いくつかの重大な短所を有しており、コーティング膜の厚さに比例してコーティングに要求される時間が増加し;コーティング工程が非連続的であり、従って、大量生産に適合しない。特に、広面積のコーティングを行う時には、均一なコーティング膜を得るために、高価な対極のサイズを大きくしなければならない。
【0011】
小さいサイズの対極が使用される場合は、不均一なコーティング膜が得られる。
【特許文献1】米国特許第4,498,739号
【特許文献2】米国特許第4,818,352号
【特許文献3】米国特許第5,215,821号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明者は、プルシアンブルーのコーティング膜を形成する、従来の電気めっき法の複雑な工程、不均一なコーティング膜、大量生産の限界などの問題を改善するために非常な努力を行った。湿式コーティング法は、これらの問題点を解決することができる最も容易な膜形成方法である。しかし、プルシアンブルー顔料粒子は不溶性であるため、コーティング溶媒に溶けないだけでなく、懸濁液又は沈殿物の形態で存在する。従って、コーティングが容易に行われ得ない。更に、粒子のサイズが、数〜数十μmの範囲であり、コーティング後に良好な可視性を得ることができない。
【0013】
本発明において、プルシアンブルー顔料、適当な結合剤、分散剤及び分散溶媒を含む組成物をナノサイズに分散させることにより、満足する湿式コーティングが可能となる。更に、粒子を可視光線の波長より小さく粉砕することにより、可視領域での良好な可視性が得られる。前記湿式コーティング法により製造されたプルシアンブルーのコーティング膜は、従来の電気めっき法により形成されるコーティング膜と比較した際、同等またはそれ以上の光透過率、応答速度、耐久性などのエレクトロクロミック特性を有し、単純な工程及び改善された生産性を通して、著しく改善された経済的長所を提供する。
【0014】
従って、本発明の目的は、プルシアンブルーを含有するナノ分散組成物を湿式コーティングにより得られるイオン貯蔵層からなるエレクトロクロミック素子を製造する方法を提供することにあり、これは、従来のエレクトロクロミック素子と比較する時、同等またはそれ以上のエレクトロクロミックの特性を持ちつつ、単純な工程及び改善された生産性により、広面積化及び大量生産に有効である。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、透明電極が塗布された光透過基板上にコーティングされたエレクトロクロミック層、透明電極が塗布された他の光透過基板上にコーティングされたイオン貯蔵層、及び前記エレクトロクロミック層とイオン貯蔵層との間に形成された電解質層を含み、前記イオン貯蔵層は、プルシアンブルーを含有するナノ分散組成物を湿式コーティングすることにより形成される、エレクトロクロミック素子の製造方法に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を詳しく説明する。
【0017】
本発明は、プルシアンブルーを含有するナノ分散組成物を湿式コーティングして形成されるイオン貯蔵層を含むエレクトロクロミック素子を製造する方法に関する。
【0018】
一般的に、図4に表されるように、エレクトロクロミック素子は、上部基板11上に形成された透明電極層12とエレクトロクロミック層13、下部基板11上に形成された透明電極層12とイオン貯蔵層15、及び前記エレクトロクロミック層13とイオン貯蔵層15との間に形成された電解質層14からなる。酸化着色の特性を持つプルシアンブルーを使用する電気めっきのような電気化学的工程を通してイオン貯蔵層を形成する方法が公知である。電気めっき工程において、コーティングしようとする基板と対極はコーティング溶液内に配列され、電解はコーティング膜を形成するためにそれらの間に流される。
この工程は次の問題を有する。所望する厚さのコーティング膜を得るために、長時間のコーティング時間が要求される;コーティングしようとする基板を交換しなければならないため、この方法はロールトゥーロール方式の連続工程及び大量生産に適用されない;そして、コーティングが進行するに従って、コーティング溶液の濃度が変わるため、濃度の調節が要求される。特に、広面積にコーティングを行う時は、均一なコーティング膜を得るために、高価な対極のサイズを大きくしなければならない。小さいサイズの対極が使用される場合は、不均一なコーティング膜が得られる。更に、前記電気めっき法は、コーティングしようとする基板と対極との間に均一な電界を供給するための特別な装置が要求される。そして、プルシアンブルー顔料粒子は一般的に不溶性であるため、コーティング溶媒に溶解しないだけでなく、懸濁液又は沈殿物の形態で存在する。従って、コーティングが容易に行われず、更に、粒子のサイズが数〜数十μmの範囲であるため、コーティング後に、良好な可視性を得ることができない。
【0019】
一方、本発明は、不溶性のプルシアンブルー顔料粒子を適当な結合剤と混合することにより、優れたコーティング性を提供する。更に、分散剤と分散溶媒を含む組成物のナノ分散を通して、顔料粒子は細かく粉砕され、良好な可視性を確保した。結合剤の場合、当分野で一般的に使用される有機結合剤、無機結合剤、及び有機−無機ハイブリッド結合剤からなる群から選択された少なくとも1種、好ましくは、優れた接着力を有する電気化学的に安定した重合体が使用される。分散剤の場合、均一で安定的なナノ分散のために、プルシアンブルーと相溶性があるものが好ましい。そして、分散溶媒の場合、結合剤及び分散剤の溶解が可能なものが好ましい。
【0020】
従って、本発明において、特別な装置なく湿式コーティングにより、プルシアンブルー顔料内に均等にナノ分散されたイオン貯蔵層が得られる。前記湿式コーティング法は、電気めっき法に比べ、工程が単純であり、生産性が最大化され得る点で、経済的に有利である。
【0021】
イオン貯蔵層を形成するための本発明で使用されるプルシアンブルーを含有するナノ分散組成物は、プルシアンブルー顔料100質量部、分散剤0.01〜1,000質量部、結合剤0.01〜1,000質量部及び有機溶媒100〜20,000質量部からなる。
【0022】
前記分散剤は、顔料及び結合剤を均一に分散するために使用される。当分野で一般的に使用されるものとして特別に限定はしないが、本発明で使用され得る分散剤の具体的な例は、ポリアクリル系、ポリエチレンイミン系及びポリウレタン系分散剤を含む。
【0023】
前記分散剤は、プルシアンブルー顔料100質量部に対し、0.01〜1,000質量部、好ましくは0.1〜100質量部にて使用される。その含量が極めて少ない場合、効果的な分散が難しい。一方、非常に多い場合、エレクトロクロミック特性が悪くなり得る。
【0024】
前記結合剤として、当分野で一般的に使用される有機結合剤、無機結合剤及び有機−無機ハイブリッド結合剤の中から選択された少なくとも1種、好ましくは、優れた接着性を有する電気化学的に安定した重合体が使用される。更に、応答速度の向上のために、優れたイオン伝導性を有するものが好ましく、耐久性の向上のために、素子駆動の間、イオンとの副反応がないものが好ましい。前記有機結合剤は、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂などであり得る。前記熱硬化性樹脂の例は、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ジアリルフタレート樹脂、フェノール樹脂、アミノ樹脂、ポリイミド樹脂、ウレタン樹脂などを含む。そして、前記熱可塑性樹脂の例は、ポリエステル、スチレン重合体、ポリオレフィン、塩化ビニル重合体、ポリウレタン、アクリル重合体、ポリカーボネート、ブチラール樹脂、ポリイミド、ポリアミドなどを含む。
【0025】
更に、前記無機結合剤は、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化タングステン、酸化マンガン、酸化バナジウム、酸化セリウムなどであり得る。前記有機−無機ハイブリッド結合剤は、有機結合剤と無機結合剤の合成物である。有機ケイ素化合物の加水分解により得られる有機アルコキシシランのようなシリカ重合体が代表的な例である。
【0026】
前記結合剤は、プルシアンブルー顔料100質量部に対し、0.01〜1,000質量部、好ましくは0.1〜100質量部にて使用される。その含量が極めて少ない場合、十分なコーティングの接着性を得ることができない。一方、その含量が非常に多い場合は、最終製品のエレクトロクロミック特性が乏しい。
【0027】
前記有機溶媒として、当分野で一般的に使用されるもの、好ましくは、本発明の組成物を溶解することが可能であるものが使用される。前記有機溶媒は、アルコール、エーテル、ケトン、エステル、芳香族炭化水素などからなる群から選択され得る。具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、ジアセトンアルコール、フルフリルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、ジエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、アセトン、メチルエチルケトン、アセチルアセトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、アセト酢酸エーテル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−プロピル、酢酸i−ブチル、ベンゼン、トルエン、キシレンなどが使用され得る。
【0028】
より好ましくは、溶媒は、コーティング後に低温で十分に乾燥が行われなければならないため、揮発性が高い溶媒が使用される。
【0029】
前記有機溶媒は、プルシアンブルー顔料100質量部に対し、100〜20,000質量部、好ましくは、500〜5,000質量部が使用される。その含量が極めて少ない場合、分散組成物の粘度が高くなり過ぎ、一方、過度な場合は、組成物を貯蔵する際、大きい空間が要求される。
【0030】
前記プルシアンブルーを含有するナノ分散組成物は、プルシアンブルー顔料を、分散剤及び結合剤樹脂と共に有機溶媒に単独で分散することで得られる。当分野で一般的に使用される分散機が、前記各成分を有機溶媒に分散させるために使用される。具体的には、ニーダー、ロールミル、アトライター、スーパーミル、溶解機、ホモジナイザー、サンドミルなどが使用され得る。
【0031】
上記で製造されたプルシアンブルーを含有するナノ分散組成物は、透明電極が塗布された基板上に湿式コーティングがされてイオン貯蔵層を形成する。具体的には、前記湿式コーティングは、スピンコーティング、ディップコーティング、バーコーティング、スプレーコーティング、フローコーティング、キャピラリーコーティング、ロールコーティング、スクリーンプリンティングなどにより行われる。このとき、前記湿式コーティングは室温で実施される。コーティング後の乾燥温度は、溶媒が蒸発する温度以上及びプルシアンブルーが熱的に分解する温度以下でなければならない。
【0032】
上で形成されたイオン貯蔵層は、平均粒子サイズが10〜200nmであり、コーティングの厚さが50〜1,000nmである。平均粒子サイズは小さいほど、比表面積の増加によりエレクトロクロミックの特性が改善されるが、表面エネルギーの増加により溶液安定性が著しく低下する。一方、粒子サイズが大きくなり過ぎると、乏しい可視性のため、膜をエレクトロクロミック素子に使用することができない。必要なコーティングの厚さは、エレクトロクロミック層の電荷容量によって異なる。一方、コーティングの厚さが50nm未満の場合、イオン貯蔵容量が乏しいため、エレクトロクロミック特性が著しく低下する。
【0033】
更に、コーティングの厚さが1,000nmを超過する場合は、組成物の絶縁性による電子伝導が乏しいため、エレクトロクロミック特性が悪くなる。
【0034】
本発明の実用的で現在好ましい実施形態は、下記の実施例のように説明される。しかしながら、当業者がこれを考慮して、本発明の精神と範囲内で修正及び改善をし得る。
【0035】
実施例1
プルシアンブルー顔料粉末(アルドリッチ社、99.9%)0.65gをアクリル系分散剤であるDisperbyk−2001(BYK)0.13g、無機結合剤としてシリカゾール0.33g、有機溶媒としてエタノール11gと混合し、攪拌器(Red Devil)を利用して分散し、ナノ分散組成物を得た。
【0036】
面抵抗10Ω/sqのITOガラスを5×5cm2のサイズに切断し、洗浄して乾燥した。その後、プルシアンブルーのコーティング溶液を1,000rpmで30秒間スピンコーティングした。150℃で30分間熱処理した後、プルシアンブルーのコーティング膜が得られた。この時、得られたプルシアンブルーのコーティング膜の厚さは、約340nmであった。
【0037】
実施例2
前記実施例1で製造されたプルシアンブルーのナノ分散組成物をディップコーティングし、膜を得た。
【0038】
面抵抗10Ω/sqのITOガラスを5×5cm2のサイズに切断し、洗浄して乾燥した。その後、プルシアンブルーのコーティング溶液を150mm/minの速度でディップコーティングした。150℃で30分間熱処理した後、プルシアンブルーのコーティング膜が得られた。この時、得られたプルシアンブルーのコーティング膜の厚さは、約280nmであった。
【0039】
実施例3
前記実施例1で製造されたプルシアンブルーのナノ分散組成物をバーコーティングし、膜を得た。
【0040】
面抵抗10Ω/sqのITOガラスを5×5cm2のサイズに切断し、洗浄して乾燥した。その後、適量のプルシアンブルーのコーティング溶液を塗布し、Mayer Bar No.3を利用して2m/minの速度でバーコーティングを行った。150℃で30分間熱処理した後、プルシアンブルーのコーティング膜が得られた。この時、得られたプルシアンブルーのコーティング膜の厚さは、約380nmであった。
【0041】
比較例
従来の電気めっき法にてプルシアンブルーコーティング膜を製造した。
【0042】
フェロシアン化カリウム(K4Fe(CN)6)0.005モルと塩化鉄(FeCl3)0.005モルを使用して水溶液を準備した。基板と対極との間に−20μA/cm2・secの一定電流を500秒間流すことにより、プルシアンブルー膜が基板上に形成された。この時、得られたプルシアンブルー膜の厚さは、約220nmであった。
【0043】
実験例
前記実施例1〜3及び比較例で製造されたプルシアンブルーのコーティング膜を使用して、エレクトロクロミック素子が製造された。その特性を評価して、その結果を下記表1に表した。
【0044】
全ての場合において、酸化タングステンがエレクトロクロミック物質として使用され、固体状の高分子電解質が電解質として使用された。
【0045】
金属タングステン粉末(アルドリッチ社、99.9%)50gを30%過酸化水素水(アルドリッチ社、30%)235mLに徐々に滴下しながら溶解した。該溶液を1日間室温で攪拌した。その後、該溶液を120℃で1時間攪拌することで、溶液中に残っている過酸化水素及び反応副産物として形成された水を除去した。エタノール200mLで希釈した後、最終コーティング溶液が得られた。
【0046】
面抵抗10Ω/sqのITOガラスを5×5cm2のサイズに切断し、洗浄して乾燥した。その後、酸化タングステンのコーティング溶液を3,000rpmで30秒間スピンコーティングした。200℃で30分間熱処理した後、酸化タングステンのコーティング膜が得られた。この時、得られた酸化タングステンのコーティング膜の厚さは、約300nmであった。
【0047】
得られた酸化タングステン膜とプルシアンブルー膜との間に固体状の電解質を挿入し、全固体のエレクトロクロミック素子を得た。固体状の電解質として、ゾル−ゲル工程にて製造されたリチウムイオン伝導性シリカポリマーが使用された。
【0048】
【表1】

【0049】
前記表1から分かるように、本発明による湿式コーティング法により製造した実施例1〜3のエレクトロクロミック素子は、従来の電気めっき法により製造した比較例のエレクトロクロミック素子に比べて、同等またはそれ以上の結果を示した。具体的には、これらは、光透過率、応答速度及び耐久性を含むエレクトロクロミック特性において同等又はそれ以上の効果を示した。一方、これらは、容易な工程及び向上された生産性により有効な経済長所を提供することが期待される。
【0050】
図1は、実施例1の湿式コーティングされたプルシアンブルー膜の表面と断面の走査電子顕微鏡(SEM)写真を表す。均一で多孔性のプルシアンブルーのコーティング膜が形成されたことが確認され、平均粒子サイズは約50〜60nm程度を示した。
【0051】
図2は、実施例1のプルシアンブルーのコーティング膜の厚さでのイオン貯蔵量を表す。コーティング層の厚さに線形的に比例して、イオン貯蔵量は増加した。従って、これはプルシアンブルーの平均粒子サイズを小さくすることにより、比表面積の増加により更に大きいイオン貯蔵量を得ることができる。
【0052】
図3は、実施例1の湿式コーティングされたプルシアンブルー膜上で、半電池装置を利用して酸化反応と還元反応を繰り返し行った場合の可視光の光透過率の変化を表す。白金電極を対極として使用し、Ag/AgClを標準電極とし、−1.0Vで30秒間脱色し、+1.0Vで30秒間着色する工程を繰り返した。633nmの波長を有するヘリウム−ネオンレーザーを利用して光透過率の変化が測定された。光透過率は、着色の間は約10%であり、脱色の間は約60%であった。応答速度は30秒以下であった。
【0053】
図5は、実施例1の湿式コーティングされたプルシアンブルー膜を含むエレクトロクロミック素子の着色及び脱色時の可視光の光透過率の変化を表す。
【0054】
酸化タングステンをエレクトロクロミック物質として使用し、固体状の高分子電解質を電解質として使用した。
【0055】
−1.0Vで30秒間脱色し、+1.0Vで30秒間着色する工程を繰り返した。633nmの波長を有するヘリウム−ネオンレーザーを利用して光透過率の変化を測定した。光透過率の変化は約1〜70%と大きく、応答速度は30秒以下であった。図3に表される光透過率の変化の結果と比較する時、このエレクトロクロミック膜により、更に大きな光透過率の変化が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0056】
前述した通り、本発明による湿式コーティング法で製造されたプルシアンブルーのコーティング膜は、優れたコーティング性及びエレクトロクロミック特性と有する。更に、従来の電気めっき方式に比べて、短時間で広面積のコーティング膜を形成することが可能であるため、本発明は有効な経済的長所を提供することが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】実施例1の湿式コーティングされたプルシアンブルー膜の表面と断面の走査電子顕微鏡(SEM)写真を表したものである。
【図2】実施例1のプルシアンブルーのコーティング層の厚さでのイオン貯蔵量を表したものである。
【図3】実施例1の湿式コーティングされたプルシアンブルー膜上で、半電池装置を利用して酸化反応と還元反応を繰り返し行った場合の可視光の光透過率の変化を表したものである。
【図4】従来のエレクトロクロミック素子の構造を概略的に表したものである。
【図5】実施例1の湿式コーティングされたプルシアンブルー膜を含むエレクトロクロミック素子の着色及び脱色時の可視光の光透過率の変化を表したものである。
【符号の説明】
【0058】
11 基板
12 透明電極層
13 エレクトロクロミック層
14 電解質層
15 イオン貯蔵層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明電極が塗布された光透過基板上にコーティングされたエレクトロクロミック層、透明電極が塗布された他の光透過基板上にコーティングされたイオン貯蔵層、及び前記エレクトロクロミック層とイオン貯蔵層との間に形成された電解質層を含み、前記イオン貯蔵層は、プルシアンブルーを含有するナノ分散組成物を湿式コーティングすることにより製造される、エレクトロクロミック素子の製造方法。
【請求項2】
前記ナノ分散組成物は、プルシアンブルー顔料100質量部、分散剤0.01〜1,000質量部、結合剤0.01〜1,000質量部、及び有機溶媒100〜20,000質量部を含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記分散剤は、ポリアクリル系、ポリエチレンイミン系及びポリウレタン系分散剤の中から選ばれる、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記結合剤は、有機結合剤、無機結合剤、及び有機−無機ハイブリッド結合剤から選ばれる、請求項2に記載の製造方法。
【請求項5】
前記有機溶媒は、アルコール、エーテル、ケトン、エステル及び芳香族炭化水素から選択される、請求項2に記載の製造方法。
【請求項6】
前記湿式コーティングは、スピンコーティング、ディップコーティング、バーコーティング、スプレーコーティング、フローコーティング、キャピラリーコーティング、ロールコーティング及びスクリーンコーティングからなる群から選択した方法により行われる、請求項1に記載の製造方法。
【請求項7】
前記イオン貯蔵層は、平均粒子サイズが10〜200nmであり、コーティングの厚さが50〜1,000nmである、請求項1に記載の製造方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図1】
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【公表番号】特表2009−529146(P2009−529146A)
【公表日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−558175(P2008−558175)
【出願日】平成19年1月30日(2007.1.30)
【国際出願番号】PCT/KR2007/000517
【国際公開番号】WO2007/102656
【国際公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【出願人】(508148079)エスケイシー・カンパニー・リミテッド (3)
【氏名又は名称原語表記】SKC CO., LTD.
【Fターム(参考)】