説明

エレクトロスラグ再溶解用消耗電極およびその製造方法

【課題】銅合金のエレクトロスラグ再溶解を偏析なく良好に行うことを可能にする。
【解決手段】エレクトロスラグ再溶解における目標組成を構成する成分のうち、特定の成分によって電極軸方向に沿った軸部材2が構成され、残部の成分で主部材3が構成され、主部材3と軸部材2とによってエレクトロスラグ再溶解用消耗電極1が電極形状に形成されており、軸部材2を鋳型内に配置するとともに鋳型内に主部材3の溶湯を収容して鋳込むことにより、軸部材2の成分と主部材3の成分とによって目標組成のエレクトロスラグ再溶解用消耗電極を容易に製造することができ、エレクトロスラグ再溶解用消耗電極によって製造する鋳塊の成分設計の自由度も大幅に増す効果がある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エレクトロスラグ再溶解に用いられる消耗電極およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
Cu−Fe合金、Cu−Co合金、Cu−Cr合金など、銅と二相分離するタイプの状態図を形成する金属を添加した銅合金は、凝固中に添加した金属が晶出する。そのような銅合金は冷間加工すると、晶出した金属相がファイバー状あるいは板状に伸展し、高強度高導電率を有する素材となることが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、Crを10〜21質量%含有するCu二相合金が提案されている。Cu−Cr合金を冷間加工し、凝固中に晶出したCr相をファイバー状に分散させ、高強度高導電率を有する素材を得ている。
ただし、特許文献1の合金では高強度を発現させるには強加工が必要である。そこで、加工の負荷を軽減するため、例えば、特許文献2はCu−Cr合金においてファイバー状のCrの間に炭化物、酸化物、窒化物及びホウ化物を分散させ、強加工しなくとも高強度高導電率を有する素材を得る方法を示している。
特許文献1の実施例には素材の形状の記載はないが、特許文献2の実施例には高周波真空溶解炉にて45mm×45mm×120mmの約2kgの鋳塊を作製し、加工したことが記載されている。
【0004】
Cu−Cr合金など、銅と二相分離するタイプの状態図を形成する金属を添加した銅合金は、上述したように凝固中に金属相が晶出する。しかも、そのような銅合金は、銅と添加金属に融点差があるため、液相線温度と固相線温度の温度差が大きい特徴がある。従って、大型鋳塊を溶製した場合には凝固開始から終了までに時間を要するため、銅合金溶湯の比重と晶出した金属相の比重差に起因して、晶出した金属相が重力偏析する。そのため、過去の資料には数百kgオーダー以上のCu二相合金鋳塊を用いて高強度高導電率を実現した報告は存在しない。
【0005】
特許文献3には、Cu−Fe合金におけるFe相の重力偏析を解消する手段として、Cu−Fe合金にエレクトロスラグ再溶解を適用したことが記載されている。ESRを適用すればFe相が微細分散し、実施例には最大で径250mm×1000mm長の良好な鋳塊が得られたことが示されている。ESRの消耗電極としては、径48mm、厚み4mmの鋼管内に径3mmの銅線と鋼線を充填させ鍛造圧着したもの、あるいはCu−Fe合金を溶解して金型に鋳造して得た径70mmのものを使用したことが記されている。電極製造時にも添加金属の偏析が避けられないため、鋼管内に線材を充填させ鍛造圧着した電極か、偏析の生じ難い小径の鋳造電極を用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−104935号公報
【特許文献2】特開2000−96163号公報
【特許文献3】特開昭49−38817号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
銅と二相分離するタイプの状態図を形成する金属を添加した銅合金は、凝固中に晶出する添加金属が重力偏析しやすい。その例の状態図を図6に示す。図6は、銅と二相分離するタイプの状態図を形成する金属を添加した銅合金の代表例を示すものであり、Cu−Fe二元系状態図を示す。Cu−Fe合金においては、例えばCu−15質量%Feという成分であれば、液相線温度と固相線温度の間が約300℃もあり、凝固に時間を要することが容易に想像できる。さらに、初晶としてはFe相(正確にはFe濃度の高い相)が生じることがわかる。
【0008】
上記偏析の問題を解決する手段としては、特許文献3が示すようにエレクトロスラグ再溶解を採用することが考えられる。エレクトロスラグ再溶解用の消耗電極も大型化すると偏析が不可避となるため、特許文献3では、鋼管内に線材を充填させ鍛造圧着した電極か、偏析の生じ難い小径の鋳造電極を採用している。
しかしながら、鋼管内に線材を充填させた電極では成分選択の自由度が低くなる。任意の元素を添加した線材を得ようとすると、線材の溶解から加工までの製造要領を最適化する必要が生じ、コストアップに繋がるためである。また、鋼管内に線材を充填させた電極は大型化すると鍛造圧着が困難になることが予想され、エレクトロスラグ再溶解中に電極がバラけるなどの事故を起こすことが懸念される。一方の鋳造電極は大型化すると偏析が避けられないのは上述した通りである。
【0009】
本発明は、エレクトロスラグ再溶解用の電極として、成分選択の自由度が高く、かつ、安定的に大型化できるエレクトロスラグ再溶解用消耗電極およびその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明のエレクトロスラグ再溶解用消耗電極のうち、第1の本発明は、エレクトロスラグ再溶解における目標組成を構成する成分のうち、特定の成分によって電極軸方向に沿った軸部材が構成され、残部の成分で主部材が構成され、前記主部材と前記軸部材とによって電極形状に形成されていることを特徴とする。
【0011】
第2の本発明のエレクトロスラグ再溶解用消耗電極は、前記第1の本発明において、前記軸部材を1または2以上有することを特徴とする。
【0012】
第3の本発明のエレクトロスラグ再溶解用消耗電極は、前記第1の本発明において、成分を異にする複数の前記軸部材を有することを特徴とする。
【0013】
第4の本発明のエレクトロスラグ再溶解用消耗電極は、前記第1〜第3の本発明のいずれかにおいて、前記軸部材の材料が、前記主部材の材料に比べ高融点の材料からなることを特徴とする。
【0014】
第5の本発明のエレクトロスラグ再溶解用消耗電極は、前記第1〜第4の本発明のいずれかにおいて、前記軸部材と残部を合わせた成分が、状態図で相分離する成分であることを特徴とする。
【0015】
第6の本発明のエレクトロスラグ再溶解用消耗電極は、前記第1〜第5の本発明のいずれかにおいて、前記残部の成分が銅であり、前記特定の成分が、鉄、コバルト、クロムのいずれか1種以上であることを特徴とする。
【0016】
第7の本発明のエレクトロスラグ再溶解用消耗電極の製造方法は、前記本発明のエレクトロスラグ再溶解用消耗電極において記載の軸部材と主部材とを用い、前記軸部材を鋳型内に配置するとともに前記鋳型内に前記主部材溶湯を収容して鋳込むことにより、前記軸部材成分と前記主部材成分とによって目標組成のエレクトロスラグ再溶解用消耗電極を得ることを特徴とする。
【0017】
すなわち、本発明によれば、特定の成分を有し電極軸方向に沿った形状の軸部材と、残部の成分を有する主部材とで電極形状に形成されており、エレクトロスラグ再溶解用消耗電極を容易に得ることができ、さらに成分設計の自由度も大幅に増す。特に軸部材が主部材で鋳包まれているのが望ましい。
電極に含まれる軸部材は、目標組成中の特定の成分で構成されており、ここに偏析の生じやすい成分を含ませることで、偏析のない電極を得ることができる。軸部材の形状は電極軸方向に沿ったものであればよく、特定のものに限定されない。柱状、棒状、板状、線状などの適宜の形状とすることができる。
【0018】
すなわち、二相分離するタイプの状態図を形成する成分を軸部材にすることで、電極製造の際に凝固中に生じる晶出物が重力偏析することがない。また、主部材側には最終製品の要求特性に応じて例えば二相分離するタイプの状態図を形成しない任意の添加元素を自由に添加できる。さらに、軸部材には市販のものを使用することもでき、製造コストを抑制することができる。例えば、軸部材として鉄を採用する場合、市販の軟鋼など、例えば総量で2%以下であれば不純物を含有するものを使用しても問題ない。
また、軸部材は、1つの他、複数有するものとすることができ、各軸部材が同一形状であってもよく、また、形状を異なるものとしてもよい。さらに、複数の軸部材で成分を異にするものであってもよい。
【0019】
軸部材と主部材とは、通常は、軸部材が相対的に高融点の材料で構成され、主部材が相対的に低融点の材料で構成される。また、目標組成が状態図上で固相分離するものでは、分離する成分を軸部材と主部材とに分けて構成することができる。
例えば、銅と二相分離するタイプの状態図を形成する金属を添加した銅合金をエレクトロスラグ再溶解するため、鉄、コバルト、クロムなどを軸部材にし、銅または銅合金を主部材にして電極を構成することができる。主部材には、最終製品の要求特性に応じて、銅と二相分離するタイプの状態図を形成しない任意の合金元素を添加してもよい。
【0020】
本発明のエレクトロスラグ再溶解用消耗電極は、予め軸部材を製造し、この軸部材を鋳型内に配置し、鋳型内に主部材の溶湯を収容して鋳込むことで製造することができる。鋳型の配置と溶湯の収容の手順は特に限定されるものではない。この製造方法によれば、軸部材を主部材で鋳包み、お互いを溶着させることが出来るので、電極を大型化しても安定的に一体化できる。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、本発明によれば、エレクトロスラグ再溶解用消耗電極を容易に得ることができ、大型の電極を得ることも容易になる。さらに成分設計の自由度も大幅に増す効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態のエレクトロスラグ再溶解用消耗電極を示す平面図である。
【図2】同じく、実施例のエレクトロスラグ再溶解用消耗電極で製造されたエレクトロスラグ再溶解鋳塊の縦断面マクロ組織の図面代用写真である。
【図3】同じく、縦断面ミクロ組織の図面代用写真である。
【図4】同じく、比較例のエレクトロスラグ再溶解用消耗電極となる金型鋳塊のT部縦断面マクロ組織の図面代用写真である。
【図5】同じく、T部縦断面ミクロ組織の図面代用写真である。
【図6】Cu−Fe二元系状態図を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明の一実施形態を説明する。
この実施形態では、状態図において銅と二相分離する鉄を含有する銅合金を製造するエレクトロスラグ再溶解用消耗電極1について説明する。
先ず、上記銅合金の目標組成中の鉄によって軸部材2を形成する。この実施形態では、軸部材2は棒状で、複数本が用いられる。軸部材2の成分は、電極となるその他の成分に対し、相対的に高融点である。
【0024】
上記軸部材2を図示しない鋳型内に配置し、目標組成の残部の成分である銅または銅合金を主部材の溶湯として鋳型内に注湯する。主部材の成分として銅合金を選定する場合、銅の他の成分は、銅と2相分離しない成分を選定する。この実施形態では、主部材の成分は銅とする。
【0025】
上記鋳込みによって、軸部材2が主部材3で鋳包まれた円柱状のエレクトロスラグ再溶解用消耗電極1が得られる。軸部材2は、横断面上で略等間隔で位置しており、電極軸方向に沿って同じ断面形状を有している。得られたエレクトロスラグ再溶解用消耗電極1では、全体の組成が15質量%Fe−Cuとなっている。すなわち、この組成が得られるように軸部材2の質量および主部材3の質量を設定する。したがって、組成を変更する場合にも、軸部材2の質量を変更すれば、全体の組成を容易に変更することができる。
また、エレクトロスラグ再溶解用消耗電極1は、鋳込まれているため、全体が安定して一体化しており、ばらけるなどの問題もない。
【0026】
上記エレクトロスラグ再溶解用消耗電極1を用いてエレクトロスラグ再溶解を行えば、主部材3とともに軸部材2が同時期に溶解し、常に目標成分に沿った溶湯が得られ、偏析などの少ない鋳塊を得ることができる。この際に、軸部材2と主部材3との成分の相違や融点の相違は、同時溶解において支障とならない。
【実施例1】
【0027】
以下に、本発明の実施例として、Cu−15質量%Fe合金のエレクトロスラグ再溶解向け複合消耗電極の製造要領について説明する。
まず、径60mm×600mm高さの金型内に、径5mm×600mm長の市販の軟鋼棒を11本配置した。市販の軟鋼棒としては、総量で2%以下であれば不純物を含有するものを使用しても問題ない。本実施例では金型を用いたが、砂型を用いても良い。
軟鋼棒の総重量は銅を鋳造した後の鉄の含有量が15質量%となるように調整した。
銅は大気高周波溶解炉にて溶解した。なお、溶解は大気高周波溶解炉に限らず、真空誘導溶解炉など任意の方法で実施して良い。また、銅溶湯には、銅と二相分離するタイプの状態図を形成しない元素を添加しても良い。
【0028】
また、比較のため、大気高周波溶解炉で成分をCu−15質量%Fe合金となる組成に調整した銅合金を、径60mm×600mm高さの金型に鋳込んだ。この鋳塊の上部縦断面のマクロ組織を図4に示し、ミクロ組織を図5に示す。
マクロ組織において、あたかも結晶粒が荒いように見える矢印で示した箇所はFe相が少ない領域である。ミクロ組織において、Fe相は灰色の粒子として観察される。ミクロ組織においてはFe相の少ない領域は矢印で示した箇所のように観察される。このようにCu−Fe合金は径60mmの金型に鋳造した場合でさえ、Fe相が偏析することがわかる。
【0029】
一方、前記した本実施例のエレクトロスラグ再溶解用消耗電極を用いてエレクトロスラグ再溶解して、80mm径の鋳塊を得た。この鋳塊の縦断面マクロ組織を図2に示し、図3にミクロ組織を示す。
図2のマクロ組織において白く見える部分は腐食ムラである。すなわち、これら図2、3から、上端から下端に渡ってFe相の分布が均一な複合電極を用いてエレクトロスラグ再溶解を実施すると、得られた鋳塊のFe相の分布も均一になることがわかる。
【0030】
なお、上記実施形態および実施例では、Cu−15質量%Fe合金について、説明を行ったが、本発明は当該組成のものに限定されるものではなく、また、銅合金以外への適用も可能である。
【符号の説明】
【0031】
1 エレクトロスラグ再溶解用消耗電極
2 軸部材
3 主部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレクトロスラグ再溶解における目標組成を構成する成分のうち、特定の成分によって電極軸方向に沿った軸部材が構成され、残部の成分で主部材が構成され、前記主部材と前記軸部材とによって電極形状に形成されていることを特徴とするエレクトロスラグ再溶解用消耗電極。
【請求項2】
前記軸部材を1または2以上有することを特徴とする請求項1記載のエレクトロスラグ再溶解用消耗電極。
【請求項3】
成分を異にする複数の前記軸部材を有することを特徴とする請求項1記載のエレクトロスラグ再溶解用消耗電極。
【請求項4】
前記軸部材の材料が、前記主部材の材料に比べ高融点の材料からなることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のエレクトロスラグ再溶解用消耗電極。
【請求項5】
前記軸部材と残部を合わせた成分が、状態図で相分離する成分であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のエレクトロスラグ再溶解用消耗電極。
【請求項6】
前記残部の成分が銅であり、前記特定の成分が、鉄、コバルト、クロムのいずれか1種以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のエレクトロスラグ再溶解用消耗電極。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の軸部材と主部材とを用い、前記軸部材を鋳型内に配置するとともに前記鋳型内に前記主部材溶湯を収容して鋳込むことにより、前記軸部材成分と前記主部材成分とによって目標組成のエレクトロスラグ再溶解用消耗電極を得ることを特徴とするエレクトロスラグ再溶解用消耗電極の製造方法。


【図1】
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【図6】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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