説明

エレベータの制御方法

【課題】エレベータ乗りかごの積載量を測定し、エレベータシステムを制御してその物理的/電気的な大きさを削減する。
【解決手段】カウンタウェイトのないエレベータシステムであって、乗りかご1および電気モータ10を有する可変速駆動装置12を備えるエレベータシステムにおいて、エレベータ乗りかご1単体の質量をMcarとし、最大限の荷重を最大荷重とし、Aを係数としてエレベータ乗りかご1の全質量をMtotal=Mcar(乗りかごの質量)+A*最大荷重という式で定義する。実荷重がA*最大荷重を超えた場合は、電気モータ10の速度または加速度を低減し、あるいはさらにエレベータシステムの遊休時間を増加させるようにエレベータシステムを制御する。

【発明の詳細な説明】
【詳細な説明】
【0001】
本発明はエレベータ、特に可変速、低重量の、カウンタウェイトのないエレベータを制御する制御方法に関するものである。
【0002】
多くの住宅用途において、エレベータ乗りかごとそれらの巻上機構とは、(a)最大予定トラヒック容量または最大人数と、(b)時折なされる大きな家具の移動を可能にしさらに/あるいは車椅子の搭乗を可能にする床面積の広さとに応じた大きさに設計されている。特にカウンタウェイトのない、またはカウンタウェイトが不要な、主として液圧エレベータおよびドラムエレベータでは、かさばるモータや大きなヒューズが必要となり、特に古い建物にエレベータを新設する場合や旧式のエレベータを近代化あるいは改修する場合に様々な問題が生じる。必然的に膨らんだモータ、大きなヒューズ、および付随する大電流電線によっても、コスト高になる。
【0003】
しかし、エレベータの運行の大半では、一般的に基準荷重の30%未満しか運搬されない。おおよそ半分の運行では、乗りかごに人が搭乗していない(図1のカウンタウェイトのないエレベータの仮想利用曲線を参照のこと)。
【0004】
トラクションシーブエレベータでは、カウンタウェイトは通常、乗りかごに荷重の半分を加えた重量に応じた大きさである。つまり、乗りかごが満載状態や無積載状態で運転している時、乗りかごの重量に相当するエネルギーが節約される。しかし、住宅用エレベータにありがちな無積載状態での下降運行では、カウンタウェイトと無積載状態の乗りかごとの正味差分を解消するため、巻上機構は最大電力を必要とする。これは余計なエネルギー消費の原因となる。米国特許第5984052号には、乗りかごの積載量を測定する制御システムを備えるカウンタウェイトエレベータシステムが開示されていて、この制御システムが乗りかごの積載量に基づいて乗りかごの運転速度プロフィールを測定する。特定の実施例では、制御システムは積載量測定装置を備えていて、乗りかごの重量を用いて、2つの運転速度プロフィール、すなわち通常運転速度プロフィールおよび減速運転速度プロフィールから、いずれかを選択する。この制御システムは、測定した積載荷重を、予め選択した閾値と比較する。閾値は例えば、乗りかごの重量と、百分率平衡度を2倍してエレベータシステムの規定満載量を乗じた値とを加えた数値である。この閾値を上回る場合、減速運転速度プロフィールが選択される。このようにして、低下した平衡度を用いることができる。選択された百分率平衡度は、実験的に測定するか、建物の大きさ、用途および他の運転特性を考慮して推計してもよい。したがって、米国特許第5984052号では、カウンタウェイトを荷重の半分以下の大きさにし、乗りかごが満載状態に近い場合には巻上機構の速度を低減させることでエネルギーを節約する。この種の軽量化したカウンタウェイトシステムは、実際上、実現が困難である。
【0005】
多くの場合にカウンタウェイトのない液圧式、ドラム駆動、スクリュー駆動、またはチェーン駆動のエレベータが使用されるが、それはこれらのエレベータが例えばシャフトスペースの効率化に関していくつかの利点をもたらすからである。カウンタウェイトのないエレベータの巻上モータのサイズを縮小させる従来の方式では、モータを特定の要素において通常より小さくし、また1時間当たりの起動数を制限している。しかし、これでも、依然としてモータを全容積の約70%の大きさにしなければならない。これは無積載状態の上昇運行では、乗りかごの重量およびほぼ荷重全体を運搬するエネルギーをモータが消費することを意味する。
【0006】
本発明の目的の1つは、従来の方式の欠点を解消して、カウンタウェイトのないエレベータのエレベータ巻上機構が従来の方式のものより小さいシステムを実現することである。また、経済的な大きさの、カウンタウェイトのないトラクションシーブエレベータを提供することを目的とする。さらなる目的は本願明細書に明示的または黙示的に述べられている。本発明の課題の1つは、乗りかごの大きさおよび容量を大幅に失うことなく、機械および電気駆動装置そして可能であれば他の構成部品を基準以下の大きさにすることである。
【0007】
本発明は、可変速型巻上機構を、乗りかごが軽量なカウンタウェイトのないエレベータに組み合わせるという着想に基づいている。本発明は本願の特許請求の範囲において詳細に定義する。本発明の他の実施例はその他の特許請求の範囲に含まれる要素を特徴とする。いくつかの発明の実施例は、本願の明細書にも述べる。本願の発明の内容はまた、特許請求の範囲とは異なる定義づけをしてもよい。本発明を、特に明示的または黙示的に示す副課題を踏まえ、あるいは達成される利点または利点の種類の観点から考慮すると、本発明の内容はいくつかの異なる発明で構成され得る。この場合、特許請求の範囲に含まれる定義のいくつかは、他の発明概念の観点から、不要としてもよい。
【0008】
軽量な乗りかごと、積載量測定装置またはエレベータの実積載量を予測する他の手段と、可変速巻上機および任意の回生機構との有意な組み合わせによって、(1)巻上モータおよび駆動装置のサイズや価格の大幅な削減、(2)より小型のヒューズ、(3)エネルギー消費の著しい改善が可能となる。任意の回生機構を設けることにより、下降運行で生じるエネルギーは、節約されて電力供給システムにフィードバックされる。カウンタウェイトのないエレベータと組み合わせて可変速巻上機構を使用することで、この機構は、運行毎に、いかなる荷重に対しても調整可能となる。一方、従来方式のエレベータ、例えば米国特許第5984052号のエレベータは、固定式のカウンタウェイトを備えているため、運行の大部分でいくつかの固定式平衡システムを使用することになる。つまり、無積載状態での下降にもかかわらず、モータはカウンタウェイトを持ち上げるためにエネルギーを使ってしまう。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】カウンタウェイトのないエレベータの仮想利用曲線を示す図である。
【図2】カウンタウェイトのないトラクションシーブエレベータを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の好適な実施形態を図面を参照して詳細に説明する。
【0011】
図2において、カウンタウェイトのないエレベータはカウンタウェイトのないトラクションシーブエレベータでもよい。図2はカウンタウェイトのないトラクションシーブエレベータを示し、これはエレベータ乗りかご1、可変速モータドライブ付巻上装置(例えば、周波数変換器12および交流モータ10)、トラクションシーブ11、転向プーリ4,6,15、および巻上ロープ3を備えている。
【0012】
図2のエレベータは機械室のないエレベータであり、駆動機械10はエレベータシャフト内に設置されている。図示するエレベータは機械を上部に有するトラクションシーブエレベータである。エレベータの巻上ロープ3の経路は次の通りである。ロープの一端はシャフト上部に設けられた支持部16に不動固定されている。ロープはこの支持部から下方へと走行し、乗りかごの屋根上の転向プーリ14を周って第2転向プーリ15へと上昇し、乗りかごの屋根上の第3転向プーリ13へと戻る。そこからさらにロープは駆動機械10のトラクションシーブ11へと上昇し、その綱溝に沿ってトラクションシーブを通過する。トラクションシーブ11からロープ3は乗りかごガイドレール2に沿って移動するエレベータ乗りかご1に向かってさらに下降し、ガイドレール2下部の第4転向プーリ4を経て乗りかごの下を通過する。その後再びエレベータ乗りかご下部の第5転向プーリ5へと上昇し、第6転向プーリ6へと再度下降し、乗りかご下部の第7転向プーリ7に向かって再上昇する。転向プーリ7の先でロープは、シャフト床9にバネ8によってトラクションシーブおよび各転向プーリに対して張着固定される。
【0013】
ロープ懸垂はエレベータ乗りかご1のほぼ中心で作用していて、エレベータ乗りかごを支持するローププーリはエレベータ乗りかご1の重心を通って垂直中心線に対して略対称的に取り付けられている。
【0014】
エレベータシャフト内に設けられた駆動機械10は、好ましくは薄型の構造であり、言い換えると、機械はそれ自体の幅および/または高さに比較して奥行きが短いか、少なくともエレベータ乗りかごとエレベータシャフト壁との間に取り付けられる程度には薄いのが好ましい。この機械は違う場所に設置してもよく、例えば薄型の機械をエレベータ乗りかごとシャフト壁との仮想延長線上の一部または全体に設けてもよい。トラクションシーブには本実施例と異なるローププーリ位置を用いてもよい。このような異なる位置は、代替プーリ11を用いることで容易に設定でき、このとき代替プーリは、トラクションシーブの役割を果たす別のローププーリに牽引力を伝達する。この場合、駆動機械は必然的にこの別のプーリと連動する。機械の寸法決めの観点からは、最高のロープ速度に対するプーリ位置は、プーリ11および4の位置が好ましい。プーリの数を増やし、ロープがエレベータ乗りかごの上下部の索具まで伸びることで、エレベータ乗りかごの速度に対する機械の速度を上げることが可能であり、それに応じてモータトルク要求およびサイズを相応に縮小することも可能となる。例えば、本発明によるトラクションシーブエレベータは、エレベータ乗りかご上下部の懸垂比を6:1、7:1、8:1、9:1、10:1、もしくはそれ以上の懸垂比で実施可能である。転向プーリを用いて接触角を大きくすることで、トラクションシーブと巻上ロープとの噛み合わせを改善できる。これによって乗りかごおよびカウンタウェイトの重量の軽減が可能となり、それらの大きさもまた縮小できるため、エレベータのスペース節約の可能性が高まる。他の1つの方法として、あるいは上記の方法に加えて、カウンタウェイトの重量に対して乗りかごの重量を軽減することも可能である。1つ以上の補助転向プーリを用いることで、トラクションシーブと巻上ロープとの間に180°を超える接触角を実現できる。トラクションシーブ11を駆動させるモータに動力を供給するために必要な装置やエレベータ制御用装置もエレベータシャフトに設置してよく、これらの装置は共通の計器パネル12に設置したり、互いから分離して取り付けたり、または駆動機械10と部分的あるいは全体的に一体化させてもよい。
【0015】
駆動機械はギア式またはギアレス式でもよい。望ましい方式はギア式機械である。駆動機械はエレベータシャフトの壁、天井、1本以上のガイドレール、あるいは梁やフレームなど他の構造物に固定してもよい。
【0016】
機械を下方に設けるエレベータの場合、機械をエレベータシャフト底部に取り付けてもよい。
【0017】
本システムはまた、乗りかご1内に積載量測定手段を有し、エレベータシステムの運転を制御する制御ユニットを備えている。乗りかごの総重量は一般より軽く、特に類似のカウンタウェイトを有するエレベータより著しく軽量である。速度駆動部は可変速駆動部である。可変速型巻上機構は出力PnomおよびトルクTnomに基づいて大きさが決定され、これは次式
Pnom=Mtotal*V (1)
で表され、式中、V=速度であり、Mtotal=Mcar(乗りかごの質量)+A*最大荷重であり、TnomはMtotalや加速度などによって決まる。
【0018】
Aは例えば、モータの速度および加速度の低減や、エレベータの遊休時間の増加などによって決定される係数であり、0〜0.5の値を有し、利用者の調査によって実験的に決定される。
【0019】
A*最大荷重に代えて荷重を用いる場合は、
1)モータの速度および加速度をそれに応じて低減する、
2)エレベータの遊休時間を増加する(例えば、ドアの開閉時間の増大)
ことで、モータを十分に長い時間冷却させ、モータに熱的過負荷がかかるのを防止する。
【0020】
また、居住者の待ち時間の許容範囲内であれば、エレベータの無積載状態の運行時の速度を大幅に減速してもよい。
【0021】
本発明の実施例は上述の例に限定されるものではなく、本願の特許請求の範囲内で変更可能であることは当業者にとって言うまでもない。特に機械を下部に有するエレベータの場合、ドラムエレベータを使用してもよく、巻上機械装置のドラムに巻上ロープを巻き取ることで乗りかごが懸垂される。チェーン駆動部および懸垂機構を有するエレベータも本発明への利用に適している。積載量測定装置またはエレベータの積載量を予測する他の手段は、エレベータ乗りかご、ロープ、巻上機械、他の適したエレベータ構成部品、あるいはドライブモータに取り付けてもよく、あるいは、エレベータの他の構成部品を用いて、エレベータ乗りかごの積載量または他の各積載情報の測定をしてもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレベータ乗りかごおよび電気モータ付可変速駆動装置を備えた、カウンタウェイトのないエレベータシステムの制御方法であって、前記エレベータ乗りかごの積載量を測定し、前記エレベータシステムを制御してシステムの物理的/電気的な大きさを削減する制御方法において、
エレベータの全質量は、Mtotal=Mcar(乗りかごの質量)+A*最大荷重(積載荷重の基準値)という式で定義し、該式のMcarは前記乗りかごの質量であり、Aは、前記モータの速度および加速度の減速や前記エレベータの遊休時間の増加などの、1つ以上の運転特性によって決定され、0〜0.5の値を有する係数であり、最大荷重は、最大限の荷重であり、
前記積載荷重の基準値としてA*最大荷重が設定され、荷重が前記積載荷重の基準値を超えた場合には、A*最大荷重に代えてA*最大荷重を超えた荷重に応じた前記速度および加速度を運行前に決定し、
前記エレベータを制御して、
前記モータの速度および/または加速度を減らし、
前記エレベータの遊休時間を増加させ、
さらに、下降運行時のエネルギーを回生させ利用することを特徴とするエレベータシステムの制御方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−51735(P2012−51735A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−247040(P2011−247040)
【出願日】平成23年11月11日(2011.11.11)
【分割の表示】特願2005−503823(P2005−503823)の分割
【原出願日】平成15年7月9日(2003.7.9)
【出願人】(591159044)コネ コーポレイション (75)
【氏名又は名称原語表記】KONE CORPORATION
【Fターム(参考)】