説明

エレベータの緩衝装置

【課題】簡易な構造でピットの深さ寸法を短縮可能することのできるエレベータの緩衝装置の提供。
【解決手段】緩衝器7は、乗かご2と衝突可能な衝突体7a、この衝突体7aと独立してピット床6に配設され乗かご2が衝突体7aに衝突したときの衝撃を緩衝する対となる緩衝体7b、及び、対となるそれぞれの緩衝体7bに張架され衝突体7aを保持するロープ7cから成り、衝突体7aは、乗かご2の横断面投影面に配置されると共に、その中央に乗かご2の下部に取付けられる衝突板2aと接触する突起部7dを有し、緩衝体7bは、乗かご2の横断面投影面外に配置されると共に、その上部に回転可能かつ溝形状を施した回転体7fを有しており、ロープ7cは、その中間部が回転体7fに巻き掛けられると共に、両端部がピット床6に固定される構造となっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、昇降体の異常下降時に衝突して衝撃を緩衝するエレベータの緩衝装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エレベータにあっては、昇降体、即ち乗かご及びつり合いおもりの異常下降時に衝突する緩衝装置の設置が義務付けられている。図5は従来のエレベータの緩衝器を示す側面図である。
【0003】
従来の緩衝装置を構成する緩衝器70は、昇降路10下部に形成されるピット床60に設置されると共に、その位置が昇降体、例えば乗かご20の横断面投影面内となっているものが一般的である。このため、緩衝器70が設置されるピットの深さ寸法は、緩衝器70の高さ寸法、及び最下階位置の乗かご20と緩衝器70との間に必要とされる所定の間隙を合計したものとなる。このような構造にあっては、特に、高速エレベータの場合、緩衝器70の緩衝ストロークが大きくなることから、必然的にピット深さ寸法も大きくなり、コストの向上を招く要因となっている。
【0004】
このため、従来、ピットの深さ寸法を短縮するため、対となる緩衝器を昇降体の断面投影面外に配置すると共に、両端がピット床に固定されるケーブルの中間部を緩衝器の上部に滑車を介して張架し、かつ、昇降体の下部にケーブルを捕獲するケーブル捕獲器を設け、昇降体の異常下降時に、昇降体がケーブルを捕獲し、ケーブル及び緩衝器のそれぞれが緩衝ストロークを提供することにより昇降体を減速するエレベータの緩衝装置が提案されている。これによれば、緩衝器の緩衝ストロークより実質的に大きなストロークを持たせることにより、緩衝器の高さ寸法、ひいてはピットの深さ寸法を抑えることができる(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平6−64861号公報(段落番号0019〜0026、第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前述した従来のものでは、緩衝装置の構造に対応したものとするために昇降体も特殊なものとする必要があった。即ち、昇降体の横断面投影面内に設置される緩衝器に対応する一般の昇降体とは異なる昇降体とする必要があり、設備費用の向上を招くという問題がある。
【0006】
また、前述のものは昇降体の異常下降時にこの昇降体がケーブルを捕獲するものであるが、地震等による水平方向荷重作用時に横剛性の比較的低いケーブルが横揺れし、ケーブルの正確な捕獲が困難となる虞があった。また、これを改善するためには昇降体の下部に設けられるケーブル捕獲器を大きくすることが考えられるが、昇降体の剛性を高める必要や、昇降体の重量の増加を招くという問題が生じる。
【0007】
本発明は、前述した従来技術における実状からなされたもので、その目的は、簡易な構造でピットの深さ寸法を短縮可能することのできるエレベータの緩衝装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明の請求項1に係る発明は、昇降路下部に形成されるピット床に配設され、ガイドレールに沿って前記昇降路を昇降する昇降体の異常下降時に衝突して衝撃を緩衝する緩衝器を備えたエレベータの緩衝装置において、前記緩衝器は、前記昇降体と衝突可能な衝突体、この衝突体と独立して前記ピット床に配設され前記昇降体が前記衝突体に衝突したときの衝撃を緩衝する対となる緩衝体、及び、対となるそれぞれの前記緩衝体に張架され前記衝突体を保持する少なくとも1本の連結体から成り、前記衝突体は、前記昇降体の横断面投影面に配置されると共に、その中央に前記昇降体の下部に取付けられる衝突板と接触する突起部を有し、前記緩衝体は、前記昇降体の横断面投影面外に配置されると共に、その上部に回転可能かつ溝形状を施した回転体を有しており、前記連結体は、その中間部が前記回転体に巻き掛けられると共に、両端部が前記ピット床に固定されることを特徴としている。
【0009】
このように構成した本発明の請求項1に係る発明は、昇降体が異常下降し衝突体に衝突すると、鉛直方向に作用する力は連結体及び回転体を介して緩衝体により緩衝される。このように衝突体と緩衝体を別体とし、衝突体を昇降体の横断面投影面内に配置すると共に、緩衝体を昇降体の横断面投影面外に配置することによって、通常時の衝突体の配置位置を緩衝器が昇降体の横断面投影面内に設置される一般のエレベータより低く、即ちピット床に近い位置に設定することが可能となり、ピットの深さ寸法を短縮することができる。また、衝突体の中央に一般の昇降体の下部にも同様に取付けられる衝突板と接触する突起部を配設することにより、一般の昇降体を構造変更することなく、本発明の緩衝装置が適用されるエレベータに用いることができる。
【0010】
また、本発明の請求項2に係る発明は、前記衝突体は、前記ガイドレールに摺接するガイド部を備え、前記昇降体の衝突時に前記ガイドレールに沿って移動することを特徴としている。
【0011】
このように構成した本発明の請求項2に係る発明は、衝突体が昇降体との衝突に応じて下降する際、ガイド部を介してガイドレールに案内されることにより円滑な緩衝を実現できる。また、地震等により衝突体が横揺れすることを防止することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、ピットの深さ寸法を短縮できると共に、一般の昇降体を構造変更することなく用いることができることから、設備費用の低減を図ることができる。また、地震等による横揺れに影響されることなく円滑な緩衝を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明に係るエレベータの緩衝装置の実施の形態を図に基づいて説明する。
【0014】
図1は本発明のエレベータの緩衝装置の一実施形態を示す平面図、図2は緩衝装置の側面図、図3は緩衝装置に備えられる回転体を示す要部平面図、図4は緩衝装置動作時の状態を示す側面図である。
【0015】
エレベータは図1、図2に示すように、昇降路1を昇降する昇降体、例えば乗かご2及び図示しないつり合いおもりと、昇降路1に立設され、乗かご2の昇降を案内するかごガイドレール4と、昇降路1に立設され、つり合いおもりの昇降を案内するつり合いおもりガイドレール5と、昇降路1下部に形成されるピット床6に配設され、乗かご2の異常下降時に衝突して衝撃を緩衝するかご緩衝器7と、ピット6床に配設され、つり合いおもり3の異常下降時に衝突して衝撃を緩衝するつり合いおもり緩衝器8とを備えている。
【0016】
そして、かご緩衝器7は、乗かご2と衝突可能な衝突体7a、この衝突体7aと独立してピット床6に配設され乗かご2が衝突体7aに衝突したときの衝撃を緩衝する対となる緩衝体7b、及び、対となるそれぞれの緩衝体7bに張架され衝突体7aを保持する連結体、例えばロープ7cから成っている。
【0017】
また、衝突体7aは、乗かご2の横断面投影面に配置されると共に、その中央に乗かご2の下部に取付けられる衝突板2aと接触する突起部7dを有しており、かつかごガイドレール4に摺接するガイド部7eを備えている。尚、突起部7dは、対となるかごガイドレール4間、かつその中心がかごガイドレール4の中心と同一線上となる位置に配置される。
【0018】
さらに、対となる緩衝体7bは、乗かご2の横断面投影面外、即ち乗かご2の横断面投影面より僅かに大きな間隔寸法を介してそれぞれが配置されると共に、その上部に図3に示すように回転可能かつ溝形状を施した回転体7fを有している。尚、この緩衝体7bは、例えばシリンダ及びプランジャから成り、オリフィス作用によりエネルギを吸収するものである。
【0019】
また、ロープ7cは、その中間部が回転体7fに巻き掛けられると共に、両端部がピット床6に固定されている。
【0020】
尚、つり合いおもり緩衝器8もかご緩衝器7と同等の構造となっており、詳細説明は省略する。
【0021】
本実施形態では、通常時、最下階に位置する乗かご2の下部と衝突体7aに設けられる突起部7dとの間には、あらかじめ設定される所定の間隙h1が介在すると共に、衝突体7aとピット床6との間には、緩衝体7bの緩衝ストロークに応じてあらかじめ設定される所定の間隙h2が介在する。そして、何らかの異常により乗かご2が異常下降し衝突体7aに衝突すると、衝突体7aはガイド部7eによりかごガイドレール4に案内されつつ下降する。鉛直方向に作用する力はロープ7c及び回転体7fを介して緩衝体7bに作用すると共に、緩衝体7bが収縮するときに生じるオリフィス作用により緩衝される。このときの乗かご2、衝突体7a、及び緩衝体7bの位置関係は図4に示すものとなり、衝突体7a下部とピット床6との間には間隙h3が介在する。
【0022】
本実施形態によれば、衝突体7aと緩衝体7bを別体とし、衝突体7bを昇降体、即ち乗かご2の横断面投影面内に配置すると共に、緩衝体7bを乗かご2の横断面投影面外に配置することによって、通常時の衝突体7aの配置位置を緩衝器が昇降体の横断面投影面内に設置される一般のエレベータより低く、即ちピット床6に近い位置に設定することが可能となり、したがって前述した図5に示すものと比べてピットの深さ寸法を短縮することができる。また、衝突体7aの中央に一般の昇降体の下部にも同様に取付けられる衝突板2aと接触する突起部を配設することにより、衝突板2aを含め一般の昇降体を構造変更することなく、本発明の緩衝装置が適用されるエレベータに用いることができ、これによって設備費用の低減を図ることができる。
【0023】
さらに、衝突体7aがガイドレールに摺接するガイド部7eを有することにより、円滑な緩衝を実現できると共に、地震等により衝突体7aが横揺れすることを防止し、乗かご2が異常下降した際の衝突板2aと衝突体7aの突起部7dとの当接を確実なものとすることができる。さらにまた、対となる緩衝体7bを乗かご2の横断面投影面より僅かに大きな間隔寸法を介して設置することにより、異常下降した乗かご2との接触を避けつつ、装置の占有スペースを可能な限り小さなものとすることができる。また、緩衝体7bを乗かご2に可能な限り近い位置に設置することにより、異常下降に応じて乗かご2が衝突体7aと衝突した際に緩衝体7bに横方向の力が作用することを低減し、緩衝体7bに歪み等が生じることを防ぐことができる。
【0024】
さらに、衝突体7aの突起部7dを、対となるガイドレール4間に配置すると共に、その中心をガイドレール4の中心と同一線上とすることにより、乗かご2と当接した際に衝突体7aに傾きが生じることを防ぎ、円滑な緩衝を実現することができる。尚、本実施形態の効果を前述のようにかご緩衝器7を例に取り説明したが、つり合いおもり緩衝器8に関しても同様の効果があることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明のエレベータの緩衝装置の一実施形態を示す平面図である。
【図2】緩衝装置の側面図である。
【図3】緩衝装置に備えられる回転体を示す要部平面図である。
【図4】緩衝装置動作時の状態を示す側面図である。
【図5】従来のエレベータの緩衝装置を示す側面図である。
【符号の説明】
【0026】
1 昇降路
2 乗かご
4 かごガイドレール
5 つり合いおもりガイドレール
6 ピット床
7 かご緩衝器
7a 衝突体
7b 緩衝体
7c ロープ
7d 突起部
7e ガイド部
7f 回転体
8 つり合いおもり緩衝器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
昇降路下部に形成されるピット床に配設され、ガイドレールに沿って前記昇降路を昇降する昇降体の異常下降時に衝突して衝撃を緩衝する緩衝器を備えたエレベータの緩衝装置において、
前記緩衝器は、前記昇降体と衝突可能な衝突体、この衝突体と独立して前記ピット床に配設され前記昇降体が前記衝突体に衝突したときの衝撃を緩衝する対となる緩衝体、及び、対となるそれぞれの前記緩衝体に張架され前記衝突体を保持する少なくとも1本の連結体から成り、前記衝突体は、前記昇降体の横断面投影面に配置されると共に、その中央に前記昇降体の下部に取付けられる衝突板と接触する突起部を有し、前記緩衝体は、前記昇降体の横断面投影面外に配置されると共に、その上部に回転可能かつ溝形状を施した回転体を有しており、前記連結体は、その中間部が前記回転体に巻き掛けられると共に、両端部が前記ピット床に固定されることを特徴とするエレベータの緩衝装置。
【請求項2】
前記衝突体は、前記ガイドレールに摺接するガイド部を備え、前記昇降体の衝突時に前記ガイドレールに沿って移動することを特徴とする請求項1記載のエレベータの緩衝装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−197138(P2007−197138A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−16716(P2006−16716)
【出願日】平成18年1月25日(2006.1.25)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】