説明

エレベータの釣合重りの耐震装置

【課題】重り枠の側部側及び後部側での据付作業を行うことなく、また、釣合重りをガイドレールから外すことなく、取り付けが容易な、エレベータの釣合重りの耐震装置を提供する。
【解決手段】一対の縦柱12が間隔をおいて平行に配置され、その間に積層重り21が保持されている。一対の縦柱12の前面12aには、前側連結体22と後側連結体23とが、ボルト24によって共締めされて取り付けられている。前側連結体22は帯状の平板であり、後側連結体23は帯状の平板の両端部を断面コ字形に折り曲げて形成されている。後側連結体23の前側接合面23aと縦柱12の前面12aとが対向して配置され、後側連結体23の前方側に前側連結体22が配置されている。縦柱12の後面12cと後側連結体23の後面23cとの間には、当て金27が介在されている。前側連結体22と後側連結体23の前側接合面23aとの間には、挟み金28が介在されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、重り枠が地震等の揺れによって変形して積層重りが脱落するのを防止する、エレベータの釣合重りの耐震装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一対の縦枠、縦枠の上端部間及び下端部間にそれぞれ固定される上横枠及び下横枠を有する重り枠を備え、その内側に積層重りを積層して保持するエレベータの釣合重りにおいて、一対の縦枠の前後から補強部材を取り付けて、地震等の揺れによって重り枠が変形して積層重りが脱落するのを防止する耐震装置が公知である。
例えば特許文献1及び特許文献2には、帯状の平板全体を断面コ字形に折り曲げて形成した一対の補強部材を、重り枠の前後に配置して固定する釣合重りが開示されている。特許文献1によれば、一対の縦枠の側部にねじ穴が設けられ、補強部材である変形防止金具の両端部がボルトによって縦枠の側部に取り付けられる。特許文献2によれば、一対の縦枠の側部にそれぞれ取付座が設けられ、取付座に補強部材である補強板の両端部が取り付けられる。あらかじめねじ穴が設けられた取付座は、縦枠の側部に溶接されており、補強板はボルトによって縦枠の側部にある取付座に固定される。
また、特許文献3には、ワイヤロープを補強部材として用いる耐震装置が開示されている。これによれば、ワイヤロープが釣合重りの周囲に巻きつけられて固定され、重り枠が変形するのを防止する。
【0003】
【特許文献1】特開平6−1568号公報
【特許文献2】特開平11−60113号公報
【特許文献3】特開平10−67478号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、既設のエレベータの釣合重りに耐震装置を施工する場合、特許文献1に記載された構造とするためには、縦枠の側部にねじ穴を加工する必要や、そのねじ穴に縦枠の側部からボルトを締め込む作業を行う必要が生じる。縦枠の側部には釣合重りの昇降を案内するガイドレールが設けられているので、ねじ穴を加工するためには釣合重りをガイドレールから外す必要があり、耐震装置の据付作業に多大な労力や時間を要するという問題点を有していた。
特許文献2に記載された補強板を既設のエレベータに取り付ける場合においても、縦枠の側部に取付座を溶接する必要が生じるため、特許文献1の場合と同様に耐震装置の据付作業に多大な労力や時間を要するという問題点を有していた。
また、特許文献3に記載された耐震装置を既設の釣合重りに取り付ける場合、ワイヤロープを釣合重りの周囲に巻きつける必要が生じる。釣合重りの前部側と比較して、側部側及び後部側は作業スペースが狭いために作業性が悪く、耐震装置の据付作業に多大な労力や時間を要するという問題点を有していた。
【0005】
この発明は、このような問題点を解決するためになされたものであり、重り枠の側部側及び後部側での据付作業を行うことなく、また、釣合重りをガイドレールから外すことなく、取り付けが容易な、エレベータの釣合重りの耐震装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明にかかるエレベータの釣合重りの耐震装置は、前面、側面及び後面を有する断面コ字形の一対の縦柱を備える重り枠と、両端部が縦柱の内側に挿入されて縦柱の長手方向に積層される複数の積層体からなり、重り枠内に保持される積層重りとを備えるエレベータの釣合重りに取り付けられ、重り枠の変形を防止するエレベータの釣合重りの耐震装置であって、重り枠の側方及び後方に配置され、一部が一対の縦柱のそれぞれの前面側に延在する前側接合面を有する後側連結体と、重り枠の前方に配置され、一部が一対の縦柱のそれぞれの前面側に延在する前側連結体とを備え、前側連結体が、後側連結体とともに、一対の縦柱のそれぞれの前面に連結されることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
この発明によれば、エレベータの釣合重りにおいて、重り枠の側部側及び後部側での据付作業を行うことなく、また、釣合重りをガイドレールから外すことなく、耐震装置の取り付けを容易に行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に、この発明の実施の形態について添付図に基いて説明する。
実施の形態1.
図1に、この発明の実施の形態1に係る釣合重りの耐震装置が取り付けられる前のエレベータの、昇降路の断面図を示す。
図1において、昇降路1には、乗り場側のドアを取り付けるための開口部2が設けられている。昇降路1内の開口部2側には、かご3が図1には図示しない主ロープ4(図2参照)の一端に繋止されており、かご3は、その側部に設けられたレール5によってその昇降を案内される。主ロープ4の他端には、図示しない吊り車を介して釣合重り6が繋止されており、釣合重り6は、その側部に設けられたガイドレール7によって、その昇降を案内される。尚、以下の説明において、図1の上方側を後方側とし、下方側を前方側として説明する。
【0009】
次に、この発明の実施の形態1に係る釣合重りの耐震装置の構造について、図2〜5に基いて説明する。
図2に示すように、釣合重り6は重り枠11と、重り枠11内に保持され、複数の積層体21Aが積層されてなる積層重り21とを有している。重り枠11は、互いに間隔をおいて平行に配置された一対の縦柱12、一対の縦柱12の上端部間に固定されている上枠13及び下端部間に固定されている下枠14によって構成されている。上枠13及び下枠14の両端部には、それぞれガイドシュー15が設けられている。ガイドシュー15がガイドレール7(図1参照)に係合することによって、釣合重り6の昇降が案内される。上枠13には、複数本のシャックルロッド16が、圧縮ばね17を介して接続されており、シャックルロッド16には、主ロープ4の端末が接続されている。また、縦柱12の長手方向の中間部には、地震等の揺れによって重り枠11が変形し、釣合重り6がガイドレール7から外れることを防止する中間ストッパ18が取り付けられている。
【0010】
図3に示すように、縦柱12は、前面12a、側面12b及び後面12cを有する断面コ字形であり、一対の縦柱12は、その開口部12d同士が対向して配置されている。また、一対の縦柱12の間には、複数の積層体21Aが積層されてなる積層重り21が保持されている。積層体21Aは、縦柱12の開口部12dに係合する両端部を有しており、この端部の側面が縦柱12の側面12bと対向し、端部の前面及び後面が、それぞれ縦柱12の前面12a及び後面12cと対向して保持されている。
【0011】
縦柱12の長手方向の中間部近傍(図2参照)には、前側連結体22と後側連結体23とが、締結部材である複数本のボルト24によって、共締めされて取り付けられている。前側連結体22は帯状の平板であり、その両端部にはボルト24の通過を許容するボルト穴22aがそれぞれ設けられている。後側連結体23は、帯状の平板の両端部をそれぞれ断面コ字形に折り曲げて形成されている。その両端部には、前側接合面23a及び側面23bが形成され、側面23b同士を後面23cが連続的につないでいる。両端部の前側接合面23aには、ボルト24の通過を許容するボルト穴23dがそれぞれ設けられている。また、後側連結体23の前側接合面23aの内側に隠れて見えないが、縦柱12の前面12aには、ねじ穴12e(図5参照)が、上下に2つ設けられている。
【0012】
後側連結体23は、その両端の側面23bが、それぞれ一対の縦柱12の側面12bに対向して重り枠11の側方に配置され、後面23cが、一対の縦柱12の後面12c及び積層重り21の後方側に対向して重り枠11の後方に配置される。したがって、後側連結体23の前側接合面23aが、一対の縦柱12の前面12aに対向する位置になる。後側連結体23の前側接合面23aには、その前方側に前側連結体22が配置され、ばね座金25、平座金26が挿入されたボルト24が、前側連結体22のボルト穴22a、後側連結体23のボルト穴23dを順次通って、縦柱12のねじ穴12eに締め込まれる。
【0013】
また、後側連結体23の、縦柱12の後面12cに対応する部位には、後部当接部材である当て金27が固着されており、縦柱12の後面12cと後側連結体23の後面23cとが、当て金27を介して当接している。当て金27は、縦柱12と後側連結体23とを、その間に隙間が生じることなく当接させるために設けられており、必要に応じてその厚さが変更される。図5に示すように、当て金27が介在されることによって、縦柱12の前面12aと後側連結体23の前側接合面23aとが、隙間なく当接する。さらに、前側連結体22と後側連結体23の前側接合面23aとの間には、隙間調整部材である挟み金28が介在される。挟み金28は、ボルト24の通過を許容する溝が設けられた板状の部材であり、前側連結体22と積層重り21とが当接し、前側連結体22と後側連結体23の前側接合面23aとの間に隙間が生じる場合に介在される。図4及び図5に示すように、前側連結体22と後側連結体23の前側接合面23aとが、挟み金28を介して、その間に隙間なく当接する。
【0014】
次に、この発明の実施の形態1に係る釣合重りの耐震装置を、既設のエレベータに対して施工する場合の据付手順について図3を中心に説明する。
まず、一対の縦柱12の前面12aに、ねじ穴12e(図5参照)をそれぞれ加工する。次に、下枠14のガイドシュー15(図2参照)を外し、下枠14側から、後側連結体23を前側接合面23aが前方側となる向きで挿入する。後側連結体23は、後側連結体23のボルト穴23dと、縦柱12のねじ穴12e(図5参照)とが対応する位置に配置される。後側連結体23の配置後、さらに後側連結体23の前方側に前側連結体22を配置して、ボルト24を縦柱12のねじ穴12eに締め込み、前側連結体22及び後側連結体23を一対の縦柱12に固定する。前側連結体22と後側連結体23との間に隙間が生じる場合は、必要に応じて挟み金28が介在される。また、外したガイドシュー15は、後側連結体23の挿入後または前側連結体22及び後側連結体23の固定完了後に下枠14に取り付けられる。
【0015】
このように、重り枠11の前方に配置される前側連結体22と、重り枠11の側方及び後方に配置される後側連結体23とが、一対の縦柱12に取り付けられるため、重り枠11の剛性が向上し、地震等の揺れによって重り枠11が変形して積層重り21が脱落することが防止される。この際、前側連結体22及び後側連結体23は縦柱12の前面12aに取り付けられるため、既設のエレベータに施工する場合において、ガイドレール7側及び重り枠11の後方側で作業を行う必要や、作業スペースを確保するために釣合重り6をガイドレール7から取り外す必要がない。また、後側連結体23は、下枠14に設けられたガイドシュー15を外せば重り枠11に挿入できるため、取り付けのために釣合重り6をガイドレール7から取り外す必要もない。したがって、エレベータの釣合重りにおいて、重り枠11の側部側及び後部側での据付作業を行うことなく、また、釣合重り6をガイドレール7から外すことなく、耐震装置の取り付けを容易に行うことが実現できる。
【0016】
また、前側連結体22及び後側連結体23は、縦柱12の前面12aに、ボルト24によって共締めされて取り付けられるため、既設のエレベータに対する加工は縦柱12の前面12aに、ねじ穴12eを設けるだけでよく、容易に耐震装置の施工を行える。さらに、施工時に溶接火器等を必要としないため、安全性が向上する。
【0017】
前側連結体22及び後側連結体23には、帯状の平板が用いられているため、ワイヤロープ等の部材を用いる場合と比較して、より確実に重り枠11の剛性を向上させることが可能となる。
【0018】
また、縦柱12の後面12cと後側連結体23との間に当て金27が設けられ、縦柱12の前面12aと後側連結体23の前側接合面23aとが、その間に隙間が生じることなく当接する。前側連結体22と後側連結体23との間にも、挟み金28が介在され、前側連結体22と後側連結体23とが、その間に隙間が生じることなく当接する。したがって、重り枠11の剛性が向上し、重り枠11が変形することを確実に防止する。
【0019】
実施の形態2.
次に、実施の形態2について図6〜8に基づいて説明する。
この実施の形態2に係るエレベータの釣合い重りの耐震装置は、実施の形態1における後側連結体23の代わりに、後側連結体33を用いるように構成したものである。尚、以下の実施の形態において、図1〜5の参照符号と同一の符号は、同一又は同様な構成要素であるので、その詳細な説明は省略する。
【0020】
図6に示すように、後側連結体33は、帯状の平板の両端部をそれぞれ断面コ字形に折り曲げて形成されている。その両端部には前側接合面33a及び側面33bが形成され、側面33b同士を後面33cがつないでいる。両端部の前側接合面33aには、ボルト24の通過を許容するボルト穴33dがそれぞれ設けられている。また、両端部の側面33bには、ガイドレール7側へ突出した中間ストッパ部33eが一体として設けられている。中間ストッパ部33eは溝部33fを有しており、この溝部33fがガイドレール7に係合(図8参照)して、地震等の揺れによって重り枠11が変形し、ガイドレール7から外れることを防止する。前側連結体22と後側連結体33とが、縦柱12に取り付けられた状態を図7に示す。その他の構成については実施の形態1と同様である。
【0021】
このように、後側連結体33に中間ストッパ部33eを一体として設けたため、実施の形態1における中間ストッパ18が不要となり、部品点数を削減してコストを低減することが可能となる。
【0022】
実施の形態1及び2において、前側連結体及び後側連結体は、縦柱の上下方向の中間部近傍のみに配置されたが、これに限定されるものではなく、複数の前側連結体及び後側連結体を複数箇所に配置してもよい。
【0023】
実施の形態1及び2において、前側連結体及び後側連結体は、ボルトによって縦柱の前面に締結されたが、これに限定されるものではなく、ちょうねじ等、他の締結部材を用いて締結してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】この発明の実施の形態1に係る釣合重りの耐震装置が取り付けられるエレベータの昇降路の断面図である。
【図2】実施の形態1に係る耐震装置が取り付けられるエレベータの釣合重りを示す正面図である。
【図3】実施の形態1に係る釣合重りの耐震装置の要部を示す斜視図である。
【図4】実施の形態1に係る釣合重りの耐震装置の要部を示す側面図である。
【図5】図4のIV−IV線に沿う断面図である。
【図6】この発明の実施の形態2に係る釣合重りの耐震装置の要部を示す斜視図である。
【図7】実施の形態2に係る釣合重りの耐震装置の要部を示す側面図である。
【図8】図7のVI−VI線に沿う断面図である。
【符号の説明】
【0025】
6 釣合重り、7 ガイドレール、11 重り枠、12 縦柱、12a 縦柱の前面、12b 縦柱の側面、12c 縦柱の後面、12e ねじ穴、21 積層重り、21A 積層体、22 前側連結体、23,33 後側連結体、23a,33a 前側接合面、24 ボルト(締結部材)、27 当て金(後部当接部材)、28 挟み金(隙間調整部材)、33e 中間ストッパ部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前面、側面及び後面を有する断面コ字形の一対の縦柱を備える重り枠と、
両端部が前記縦柱の内側に挿入されて、前記縦柱の長手方向に積層される複数の積層体からなり、前記重り枠内に保持される積層重りと
を備えるエレベータの釣合重りに取り付けられ、前記重り枠の変形を防止するエレベータの釣合重りの耐震装置であって、
前記重り枠の側方及び後方に配置され、一部が前記一対の縦柱のそれぞれの前面側に延在する前側接合面を有する後側連結体と、
前記重り枠の前方に配置され、一部が前記一対の縦柱のそれぞれの前面側に延在する前側連結体とを備え、
前記前側連結体が、前記後側連結体とともに、前記一対の縦柱のそれぞれの前面に連結されることを特徴とするエレベータの釣合重りの耐震装置。
【請求項2】
前記一対の縦柱のそれぞれの前面にはねじ穴が設けられ、
前記前側連結体と、前記後側連結体とは、前記ねじ穴に締結部材が螺合されることによって、前記一対の縦柱に連結される請求項1に記載のエレベータの釣合重りの耐震装置。
【請求項3】
前記前側連結体は、帯状の平板であり、
前記後側連結体は、帯状の平板の両端部を断面コ字形に折り曲げて形成される請求項1または2に記載のエレベータの釣合重りの耐震装置。
【請求項4】
前記後側連結体には、前記一対の縦柱の後面に当接する後部当接部材が設けられ、前記後側連結体と、前記一対の縦柱の前面とが隙間なく当接する請求項1〜3のいずれか一項に記載のエレベータの釣合重りの耐震装置。
【請求項5】
前記前側連結体と、前記後側連結体との間には、少なくとも一つの隙間調整部材が介在され、前記前側連結体と、前記後側連結体とが、前記少なくとも一つの隙間調整部材を介して隙間なく当接する請求項1〜4のいずれか一項に記載のエレベータの釣合重りの耐震装置。
【請求項6】
前記後側連結体には、前記釣合重りの昇降を案内するガイドレール側へ突出し、且つ前記釣合重りが、前記ガイドレールから外れることを防止する、中間ストッパ部が一体に設けられていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のエレベータの釣合重りの耐震装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−143655(P2008−143655A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−333107(P2006−333107)
【出願日】平成18年12月11日(2006.12.11)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】