説明

エレベーター用ガイドレールクリップの締付治具

【課題】スライディングクリップを用いてガイドレールを取付ブラケットに固定する際に、作業者が一人であっても、ボルトの締付作業を片手で且つ簡単に行うことができるようにする。
【解決手段】本締付治具は、本体板7の長辺側7aからなる本体部と、スライディングクリップ3に着脱自在に固定される固定部8と、本体板7の短辺側7bからなる回転規制部とを備える。上記回転規制部は、固定部8がスライディングクリップ3に固定された状態で、スライディングクリップ3の立上り部3a及び六角ボルト5の頭部間に配置されることにより、六角ボルト5の回転を規制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エレベーター用ガイドレールの据付時に作業者が使用する締付治具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図1はエレベーター用ガイドレールの固定部分を示す正面図、図2はその平面図である。図1及び図2において、1はエレベーターの昇降路内に立設されたガイドレールである。ガイドレール1は、そのガイド部1aによってエレベーターのかご(図示せず)の走行を案内するためのものである。ガイドレール1は、昇降路の固定体に固定された取付ブラケット2に、専用のガイドレールクリップを用いて取り付けられている。なお、3はガイドレールクリップの一種であるB1形と呼ばれるスライディングクリップ、4はガイドレール1の位置を調整するためのハサミ金、5は六角ボルト、6はナットである。
【0003】
スライディングクリップ3は、地震等によって建物に変形が生じた際に、ガイドレール1や取付ブラケット2が変形してしまうことを防止するための所定の構成を有している。即ち、建物の変形によってガイドレール1に過大な鉛直方向の力が作用すると、ガイドレール1と取付ブラケット2(ハサミ金4)及びスライディングクリップ3との各間に滑りが発生し、ガイドレール1等の変形を防止する。このため、ガイドレール1の据付精度に対する地震等の影響を最小限に抑えることができる。
【0004】
具体的に、上記スライディングクリップ3は、鋼製の板状部材が略Z字状に折り曲げられることによって形成されており、その中央部に、一側及び他側間に段差を形成するための立上り部3aが設けられている。そして、スライディングクリップ3は、その一側がガイドレール1のフランジ部1bに面接触するように配置され、他側が六角ボルト5及びナット6によって取付ブラケット2に固定されている。即ち、スライディングクリップ3は、バネの力を利用してフランジ部1bを取付ブラケット2側に押し付け、ガイドレール1を一定の保持力で支持する。更に、スライディングクリップ3は、立上り部3aの内側部分(図中のA部)をフランジ部1bの端面に接触させ、ガイドレール1の左右方向(図中のB方向)の移動を阻止する。
【0005】
上記構成のスライディングクリップ3を用いてガイドレール1を固定する場合、作業者は、例えば、スライディングクリップ3及び取付ブラケット2に形成された各貫通孔に六角ボルト5を通し、取付ブラケット2の背面2a側から、六角ボルト5のネジ部にナット6を回し入れる。そして、作業者は、片手(に持ったスパナ等)でナット6を押さえながら、もう片方の手でスパナ(図示せず)を用いて六角ボルト5を締め付け、上記保持力をガイドレール1に作用させる。
【0006】
なお、ガイドレール1の固定作業は、エレベーターの据付時や改修時等に行われるものであり、作業者は、例えば、エレベーターのかご枠(図示せず)に設置された作業床上から、上記固定のために必要な作業を実施する。
【0007】
また、下記特許文献1には、スパナやめがねレンチ等が使用できない場所においてボルトの締付及び弛緩作業を行う場合に、作業者から見て裏側に配置されたボルト頭部を、確実に固定しておくための工具も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−34733号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記構成のスライディングクリップ3を用いてガイドレール1の固定作業を行う場合、作業者は、スパナ等を用いて六角ボルト5を締め上げる際に、その作業を片手で行うことができなかった。このため、六角ボルト5の締め付けを行うためには、作業者が一人であれば両手が必要になり、また、片手で作業床周囲の安全柵を掴むのであれば複数人の作業者が必要になってしまう。特に、作業者は、上記締付作業を足場が不安定な作業床上で行わなければならず、その作業に多大な時間と労力とを要することとなっていた。
【0010】
なお、特許文献1に記載の工具は、その使用方法が実質的にスパナ等と同じである。このため、かかる工具を用いて上記問題を解決することはできなかった。
【0011】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、その目的は、スライディングクリップを用いてガイドレールを取付ブラケットに固定する際に、作業者が一人であっても、ボルトの締付作業を片手で且つ簡単に行うことができるようにするためのエレベーター用ガイドレールクリップの締付治具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明に係るエレベーター用ガイドレールクリップの締付治具は、エレベーター昇降路内の取付ブラケットに、六角ボルトを用いて所定のスライディングクリップを取り付ける際に使用されるエレベーター用ガイドレールクリップの締付治具であって、本体部と、本体部に設けられ、スライディングクリップに着脱自在に固定される固定部と、本体部に設けられ、固定部がスライディングクリップに固定された状態で、スライディングクリップ及び六角ボルト間に配置され、六角ボルトの回転を規制する回転規制部と、を備えたものである。
【発明の効果】
【0013】
この発明に係るエレベーター用ガイドレールクリップの締付治具を使用することにより、スライディングクリップを用いてガイドレールを取付ブラケットに固定する際に、作業者が一人であっても、ボルトの締付作業を片手で且つ簡単に行うことができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】エレベーター用ガイドレールの固定部分を示す正面図である。
【図2】エレベーター用ガイドレールの固定部分を示す平面図である。
【図3】この発明の実施の形態1におけるエレベーター用ガイドレールクリップの締付治具を示す斜視図である。
【図4】この発明の実施の形態1におけるエレベーター用ガイドレールクリップの締付治具を示す側面図である。
【図5】この発明の実施の形態1におけるエレベーター用ガイドレールクリップの締付治具を示す背面図である。
【図6】図3に示す締付治具の使用方法を説明するための図である。
【図7】図6に示すC−C矢視図である。
【図8】図3に示す締付治具の他の使用方法を説明するための図である。
【図9】この発明の実施の形態2におけるエレベーター用ガイドレールクリップの締付治具を示す斜視図である。
【図10】図9に示す締付治具の使用方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
この発明をより詳細に説明するため、添付の図面に従ってこれを説明する。なお、各図中、同一又は相当する部分には同一の符号を付しており、その重複説明は適宜に簡略化ないし省略する。
【0016】
実施の形態1.
図3はこの発明の実施の形態1におけるエレベーター用ガイドレールクリップの締付治具を示す斜視図、図4はその側面図、図5はその背面図である。本締付治具は、エレベーターの据付時や改修時等、昇降路内の取付ブラケット2に六角ボルト5を用いてスライディングクリップ3を取り付ける際に、作業者が使用するためのものである。なお、ガイドレール1の固定が完了した時の状態は図1及び図2と同じであるため、スライディングクリップ3の構成等を含め、その詳細な説明は省略する。
【0017】
図3乃至図5に示すように、本締付治具は、本体部及び回転規制部の双方の機能を有する断面L字状の本体板7と、本体板7と一体的に構成された固定部8とにより、その要部が構成されている。
【0018】
本体板7は、例えば、所定の厚みを有する板状部材がL字状に折り曲げられることによって形成される。本実施の形態では、本体板7の長辺側7aによって本体部を、短辺側7bによって回転規制部を構成する。なお、回転規制部は、スライディングクリップ3の固定作業時に、六角ボルト5の回転を規制する機能を備えた部分である。この回転規制部を構成する本体板7の短辺側7bは、本体部を構成する本体板7の長辺側7aから直交する方向に伸びており、その先端部は、先端に近づくにつれてその厚みが薄くなるように形成されている。
【0019】
固定部8は、本体板7(本締付治具)をスライディングクリップ3に着脱自在に固定する機能を有している。具体的に、固定部8は、取付板9と磁石10とから構成される。取付板9は、例えば、断面コ字状を呈する板状部材からなり、本体板7の長辺側7aに溶接固定される。また、磁石10は、取付板9のコ字状部内に配置され、ボルト及びナット等からなる締結手段11を用いて、取付板9に固定される。
【0020】
次に、図6及び図7も参照し、上記構成を有する締付治具の機能及び使用方法について具体的に説明する。図6は図3に示す締付治具の使用方法を説明するための図、図7は図6に示すC−C矢視図である。
【0021】
作業者は、スライディングクリップ3を用いてガイドレール1を固定する場合、六角ボルト5(ナット6)の最終的な締め付けを行う前に、図6及び図7に示すように、本締付治具の取り付けを行う。具体的に、作業者は、六角ボルト5をスライディングクリップ3及び取付ブラケット2に形成された各貫通孔(図示せず)に順次通した後、磁石10をスライディングクリップ3の前面に吸着させて、締付治具をスライディングクリップ3に固定する。
【0022】
この時、作業者は、スライディングクリップ3の立上り部3aと六角ボルト5の頭部との間に本体板7の短辺側7bの先端部を挿入し、この状態のまま、スライディングクリップ3の一側(ガイドレール1を押さえ付ける側)の前面に、磁石10を吸着固定させる。なお、本体板7の短辺側7bの厚みは、立上り部3a及び六角ボルト5の頭部の対向する側面間の距離(図1のW)に、また、その(短辺側7b)の先端形状は、立上り部3aの傾斜に合わせて成形されている。このため、上述したように磁石10をスライディングクリップ3に固定することにより、本体板7の短辺側7bの先端部は、立上り部3aと六角ボルト5の頭部とによって両側から挟まれるように、立上り部3a及び六角ボルト5の頭部間に適切に配置される。
【0023】
このような方法によって締付治具を図6及び図7に示す状態に取り付けると、作業者は、取付ブラケット2の背面2a側から、六角ボルト5のネジ部にナット6を回し入れ、スパナやラチェットレンチ等を使用して、ナット6の締め付けを行う。なお、本体板7の短辺側7bが立上り部3a及び六角ボルト5の頭部間に配置されているため、ナット6の締め付けによって六角ボルト5に回転力が作用しても、六角ボルト5の頭部が本体板7の短辺側7bの側面に接触してその回転が阻害され、六角ボルト5がナット6とともに回転してしまうことはない。
【0024】
また、エレベーターのガイドレール1は断面T字状を呈しており、ガイド部1aの両側にフランジ部1bが設けられている。このため、ガイドレール1を取付ブラケット2に取り付ける場合、一般に、1つの取付ブラケット2に対して2つのスライディングクリップ3が使用され、スライディングクリップ3はガイドレール1の両側に取り付けられる。
【0025】
このため、作業者は、一方のスライディングクリップ3の取り付けが終了すると、次に、反対側のスライディングクリップ3の取り付けを行う。なお、スライディングクリップ3は、ガイドレール1の両側で同じものが使用されるが、フランジ部1bと六角ボルト5の固定位置とに合わせて、その取付向きは反対になる。このため、上記手順によって一方のスライディングクリップ3を取り付けた場合は、締付治具の向きを反対にし、同じ締付治具を用いて他方のスライディングクリップ3の取り付けを行う。
【0026】
上記構成を有する締付治具を使用することにより、スライディングクリップ3を用いてガイドレール1を取付ブラケット2に固定する場合に、作業者は、一人であっても、六角ボルト5(ナット6)の締め上げ作業を片手で且つ簡単に行うことができる。特に昇降工程の長いエレベーターの据付時には、スライディングクリップ3の個数も多くなる(例えば、取付ブラケット2が昇降路内に75段必要な場合は、かご側及びつり合いおもり側を含め、1台のエレベーターにおいて、75×8=600回の締付作業が必要になる)ため、本締付治具は、特に有効な手段となり得る。
【0027】
なお、図8は、図3に示す締付治具の他の使用方法を説明するための図である。
作業者がスパナ等を使用してナット6の締め付けを行うと、六角ボルト5はD方向に力を受ける。このため、締付治具が図6に示す位置に配置されていると、六角ボルト5の頭部の一角部(図8に示すE部)が本体板7の短辺側7bの側面に強く押し付けられ、側面に喰い込んでしまう恐れがある。
【0028】
図8は、このような不具合を防止するため、本体板7の短辺側7bを六角ボルト5の頭部の上記一角部(図8に示すE部)よりも下方に配置した取り付け方を示している。
なお、反対側のスライディングクリップ3の取り付けを行う場合は、F部に示す角部が本体板7の短辺側7bに喰い込む恐れがある。このため、かかる場合は、本体板7の短辺側7bを六角ボルト5の頭部の上記一角部(図8に示すF部)よりも上方位置に配置すれば良い。
【0029】
実施の形態2.
図9はこの発明の実施の形態2におけるエレベーター用ガイドレールクリップの締付治具を示す斜視図、図10は図9に示す締付治具の使用方法を説明するための図である。
【0030】
本実施の形態における締付治具には、規制補助板(規制補助部)12が備えられている。規制補助板12は、回転規制部の大きさ(本実施の形態においては、本体板7の短辺側7bの厚み)を、立上り部3a及び六角ボルト5の頭部間の距離(図1のW)に合わせて調整するためのものである。規制補助板12は、例えば、所定の厚みを有する板状部材からなり、本体板7の長辺側7a及び短辺側7bにそれぞれ着脱自在に構成される。即ち、立上り部3a及び六角ボルト5の頭部間の距離Wが本体板7の短辺側7bの厚みと一致する場合、規制補助板12は、図9に示すように、固定ボルト13によって本体板7の長辺側7aに形成されたネジ孔7cに固定される。かかる場合、ガイドレール1を固定する際の締付治具の取付状態は、図6及び図7で示した通りとなる。
【0031】
一方、立上り部3a及び六角ボルト5の頭部間の距離Wが本体板7の短辺側7bの厚みよりも大きい場合、規制補助板12は、図10に示すように、固定ボルト13によって本体板7の短辺側7bに形成されたネジ孔7cに固定される。そして、作業者は、ガイドレール1の固定時、立上り部3a及び六角ボルト5の頭部間に、本体板7の短辺側7bと規制補助板12との双方を配置した状態で、磁石10をスライディングクリップ3の前面に吸着固定させる(図10参照)。
その他の構成や使用方法は、実施の形態1と同様である。
【0032】
上記構成の締付治具であれば、立上り部3a及び六角ボルト5の頭部間の距離Wが異なる複数の据付現場において、同じ締付治具を使用して、ガイドレール1の固定作業を行うことができるようになる。
【符号の説明】
【0033】
1 ガイドレール
1a ガイド部
1b フランジ部
2 取付ブラケット
2a 背面
3 スライディングクリップ
3a 立上り部
4 ハサミ金
5 六角ボルト
6 ナット
7 本体板
7a 長辺側
7b 短辺側
7c ネジ孔
8 固定部
9 取付板
10 磁石
11 締結手段
12 規制補助板
13 固定ボルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレベーター昇降路内の取付ブラケットに、六角ボルトを用いて所定のスライディングクリップを取り付ける際に使用されるエレベーター用ガイドレールクリップの締付治具であって、
本体部と、
前記本体部に設けられ、前記スライディングクリップに着脱自在に固定される固定部と、
前記本体部に設けられ、前記固定部が前記スライディングクリップに固定された状態で、前記スライディングクリップ及び前記六角ボルト間に配置され、前記六角ボルトの回転を規制する回転規制部と、
を備えたことを特徴とするエレベーター用ガイドレールクリップの締付治具。
【請求項2】
前記スライディングクリップは、板状部材が折り曲げられることによって形成され、ガイドレールを押さえ付ける一側及び前記取付ブラケットに固定される他側間に段差を形成するための立上り部が設けられ、
前記回転規制部は、前記固定部が前記スライディングクリップに固定された状態で、前記スライディングクリップの前記立上り部及び前記六角ボルトの頭部間に配置され、前記六角ボルトの回転を規制する
ことを特徴とする請求項1に記載のエレベーター用ガイドレールクリップの締付治具。
【請求項3】
前記回転規制部に着脱自在に構成された規制補助部と、
を更に備え、
前記規制補助部は、要時に前記回転規制部に固定されることにより、前記固定部が前記スライディングクリップに固定された状態で、前記スライディングクリップの前記立上り部及び前記六角ボルトの頭部間に、前記回転規制部と共に配置され、前記六角ボルトの回転を規制することを特徴とする請求項2に記載のエレベーター用ガイドレールクリップの締付治具。
【請求項4】
前記固定部は、前記本体部に設けられた磁石からなり、前記回転規制部が前記スライディングクリップ及び前記六角ボルト間に配置された状態で、前記スライディングクリップの前面に吸着固定されることを特徴とする請求項1から請求項3の何れかに記載のエレベーター用ガイドレールクリップの締付治具。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2012−86960(P2012−86960A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−236101(P2010−236101)
【出願日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【出願人】(000236056)三菱電機ビルテクノサービス株式会社 (1,792)
【Fターム(参考)】