説明

エレベータ装置

【課題】煙突効果によって生じる上昇気流の悪影響を抑制する。
【解決手段】
エレベータ装置2は、エレベータの出入口が設けられる下方の利用階(1階〜3階)と上方の利用階(12階〜14階)の間に、エレベータの出入口が設けられない通過範囲(4階〜11階)を有するビル1に設置される。通過範囲における下階側の位置には下部ダクト6を設け、エレベータシャフト3の内部空間を建物外部に連通させる。また、通過範囲における上階側の位置には上部ダクト7を設け、エレベータシャフト3の内部空間を建物外部に連通させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低層利用階と高層利用階との間で乗りかごを昇降させるエレベータ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ビル等の高層建物に設けられるエレベータ装置では、煙突効果によってエレベータシャフトの内部空間に上昇気流が生じることがある。この上昇気流により、建物の低層階から空気が取り込まれ、エレベータシャフトの上端や建物の上層階から放出される。そして、上昇気流が強すぎると、外気を建物内に取り込んでしまい、冷暖房効率を悪くしてしまうという不具合が生じる。また、エレベータシャフト内に吸い込まれる空気によって、エレベータ出入口の開閉に支障を来すという不具合も生じる。
【0003】
このような不具合の原因となる上昇気流を抑制するための技術が種々提案されている。例えば、特許文献1には、エレベータシャフト内に設置した温度センサでエレベータシャフト内の温度を検出し、検出結果に応じてエレベータシャフト内に外気を吸引したり、エレベータシャフト内の空気を建物の外部に排出したりする装置が記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、風量計、風速計、騒音計等で構成され、エレベータシャフト内に設けられたドラフト検出手段と、建物の上側と下側のそれぞれに設けられ、エレベータシャフトと建物の外部とを連通する通路と、各通路の途中に設けられ、各通路の開口面積を変化させる制御器とを有し、ドラフト検出手段の検出結果に応じて制御器を制御する装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3353179号公報
【特許文献2】特許第2502193号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述の各特許文献に記載された装置はいずれも、エレベータシャフトの内部空間で上昇気流を発生させないように、エレベータシャフトに対する吸排気や各通路の開口面積を制御するものであった。このため、細かな制御が必要とされるという課題があった。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、煙突効果で生じるエレベータシャフトでの上昇気流による不具合を、容易な手段で抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、本発明は、エレベータの出入口が設けられる利用階の間に、エレベータの出入口が設けられない通過範囲を有する建物に設置され、エレベータシャフトと、このエレベータシャフト内を昇降する乗りかごとを有するエレベータ装置であって、
前記通過範囲における下階側の位置に設けられ、前記エレベータシャフトの内部空間を建物外部に連通させる下部連通部と、
前記通過範囲における上階側の位置に設けられ、前記エレベータシャフトの内部空間を前記建物外部に連通させる上部連通部と、
を有することを特徴とする。
【0008】
また、本発明は、エレベータの出入口が設けられる利用階の間に、エレベータの出入口が設けられない通過範囲を有する建物に設置され、エレベータシャフトと、このエレベータシャフト内を昇降する乗りかごとを有するエレベータ装置であって、
前記通過範囲における下端の位置に設けられ、前記エレベータシャフトの内部空間を建物外部に連通させる下部連通部と、
前記通過範囲における上端の位置に設けられ、前記エレベータシャフトの内部空間を前記建物外部に連通させる上部連通部と、
を有することを特徴とする。
【0009】
これらの発明では、煙突効果によってエレベータシャフトの内部空間で空気が上昇した場合、下部連通部を通じて建物外部から空気が吸い込まれる。吸い込まれた空気は、内部空間を上昇し、上部連通部を通じて建物外部へ排出される。すなわち、下部連通部から内部空間を通って上部連通部へとつながる一連の空気流路が形成される。これにより、エレベータシャフトの内部空間における利用階に対応する部分、すなわち、下部連通部との連通箇所よりも下側の部分、及び、上部連通部との連通箇所よりも上側の部分については、煙突効果による上昇気流の発生を抑制できる。このように、利用階に対応する部分における上昇気流の発生を構造的に抑制しているので、この上昇気流による悪影響を特別な制御をしなくても容易に抑制できる。
【0010】
本発明において、前記下部連通部は、開閉制御可能な下部フラッパーを建物における外部との境界に備え、前記上部連通部は、開閉制御可能な上部フラッパーを前記建物における外部との境界に備えることが好ましい。このように、下部連通部や上部連通部にフラッパーを設けることにより、台風等の荒天時において雨風が各連通部内に侵入してしまう不具合を抑制できる。
【0011】
本発明において、前記下部連通部は、前記低層利用階と前記高層利用階との間に建築される下部非利用階の床下スラブ又は天井裏空間に設けられ、前記上部連通部は、前記低層利用階と前記高層利用階との間であって前記下部非利用階のよりも上方に建築される上部非利用階の床下スラブ又は天井裏空間に設けられることが好ましい。このように、下部連通部や上部連通部を床下スラブや天井裏空間に設けることで、建物内の空間を有効活用できる。また、美観を損ねることがない。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、煙突効果に起因する上昇気流の悪影響を容易に抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】屋内型のエレベータ装置を有するビルを模式的に説明する図である。
【図2】ダクトの開口に設けたフラッパーの開閉を説明する図である。
【図3】(a),(b)は煙突効果による上昇気流と圧力分布の関係を説明する図である。
【図4】(a)は各部の圧力と流路抵抗を模式的に示す図である。(b)は、空気の流れと各部の圧力の関係を模式的に説明する図である。
【図5】シャフト内温度と外気温の関係を示すシミュレーション結果例の図である。
【図6】シャフト内圧力と外気圧との差の関係を示すシミュレーション結果例の図である。
【図7】外壁側設置型のエレベータ装置を有するビルを模式的に説明する図である。
【図8】(a)はエレベータシャフトの一部を示す平面図、(b)はフラッパーをエレベータシャフトの内側から見た図である。
【図9】複数の展望台を有するタワーを模式的に説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を用いて詳細に説明する。
【0015】
図1に例示したビル1は、屋内型のエレベータ装置2を有する。この屋内型のエレベータ装置2は、エレベータシャフト3がビル1の外壁よりも平面方向の内側に設けられたエレベータ装置である。そして、ビル1は14階建てであり、1階から3階と12階から14階がエレベータの利用階になっている。すなわち、エレベータ装置2は、1階から3階の低層利用階と12階から14階の高層利用階との間を直通運転している。このようなエレベータ装置2は、例えば、高層利用階に展望スペースが設けられていたり、飲食店が設けられていたりする場合に設置される。なお、このビル1における4階から11階はエレベータの非利用階であり、エレベータ装置2用の出入口(シャフト側扉8)は設けられていない。
【0016】
上記のエレベータ装置2は、エレベータシャフト3と、乗りかご4と、機械室5と、下部ダクト6と、上部ダクト7とを有する。
【0017】
エレベータシャフト3の内部空間は、乗りかご4が昇降するための通路(昇降路)となる。このエレベータシャフト3において、1階から3階に対応する低層利用階部分3aと12階から14階に対応する高層利用階部分3bには、エレベータの出入口となるシャフト側扉8が各階に設けられている。これらのシャフト側扉8は、乗りかご4が有するかご側扉(図示せず)と対向する位置に設けられている。そして、乗りかご4が利用階で停止しているときにシャフト側扉8とかご側扉を開放することで、利用者が乗降する。
【0018】
乗りかご4は、利用者を乗せて運ぶ部分であり、昇降路内を上下方向に移動する。機械室5はビル1の屋上に設置され、乗りかご4を昇降させるためのモーター5aやプーリー5bが収容されている。モーター5aは、プーリー5bを回転させるための動力である。プーリー5bの周面には、乗りかご4を吊り下げるワイヤー5cが巻回されている。このため、モーター5aを動作させるとプーリー5bが回転し、ワイヤー5cが繰り出されたり巻き上げられたりして、乗りかご4を昇降させることができる。なお、このエレベータ装置2において、乗りかご4は、非利用階である4階から11階は通過する。このため、このビル1における4階から11階に対応する範囲は、1階から3階(低層利用階)と12階から14階(高層利用階)との間の籠通過範囲に相当する。
【0019】
下部ダクト6は、籠通過範囲の低層利用階側でエレベータシャフト3の内部空間をビル外部に連通させる部分であり、下部連通部に相当する。この実施形態における下部ダクト6は、低層利用階の直上階にあたる4階に設けられる。詳しくは、4階の天井裏空間内に、ほぼ水平方向に設けられる。このように、下部ダクト6を天井裏空間に設けると、建物内の空間を有効活用できる。また、居室部分から下部ダクト6を隠すことができ、美観の向上が図れる。そして、下部ダクト6におけるビル外壁側の開口10にはフラッパー9(下部フラッパー)が設けられる。
【0020】
上部ダクト7は、籠通過範囲における上層利用階側でエレベータシャフト3の内部空間をビル外部に連通させる部分であり、上部連通部に相当する。この実施形態における上部ダクト7は、高層利用階の直下階にあたる11階に設けられる。詳しくは、11階の天井裏空間内に、ほぼ水平方向に設けられる。これにより、空間の有効活用と美観の向上を図っている。そして、上部ダクト7におけるビル外壁側の開口10にもフラッパー9(上部フラッパー)が設けられる。
【0021】
下部ダクト6の形状は、下部ダクト6を流れる空気の量がエレベータシャフト3の低層利用階部分3a(下部ダクト6との連通箇所よりも下側の部分)を流れる空気の量よりも多くなるように定められる。同様に、上部ダクト7の形状も、上部ダクト7を流れる空気の量が、エレベータシャフト3の高層利用階部分3b(上部ダクト7との連通箇所よりも上側の部分)を流れる空気の量よりも多くなるように定められる。言い換えれば、下部ダクト6の形状は、低層利用階部分3aよりも空気が流れやすくなるように(流路抵抗が低くなるように)定められ、上部ダクト7の形状は、高層利用階部分3bよりも空気が流れやすくなるように定められる。ここで、各ダクト6,7を流れる空気の量は、主に、各ダクト6,7の開口面積、各ダクト6,7の長さ、及び、ダクト出入口での圧力差によって定められる。従って、各ダクト6,7の開口面積と長さを規定することで、各ダクト6,7の形状を定めている。
【0022】
図2に示すように、各ダクト6,7に設けられるフラッパー9は、矩形状の板材であり、上端が回動可能な状態で各ダクト6,7の開口10,10に取り付けられる。そして、モーター(図示せず)を動作させることにより、フラッパー9が開口10を塞ぐ閉状態(実線で示す状態)と、フラッパー9の下端が開口10から離れた開状態(二点鎖線で示す状態)とに切り替えることができる。本実施形態では、通常、フラッパー9を開状態とするが、風雨の強い荒天時に閉状態とする。これにより、雨や風のダクト内への侵入を防止している。
【0023】
また、各ダクト6,7における開口10の近傍部分を、開口10よりも上方に立ち上がる立ち上がり部6a,7aとしているので、この点でも雨や風のダクト内への侵入を防止できる。さらに、開放時においてフラッパー9を斜め下方に向けて固定している。これにより、開放時においてフラッパー9が屋根のように機能し、上方からの雨を斜め下方に案内する。この点でも雨や風のダクト内への侵入を防止できる。
【0024】
次に、上記のエレベータ装置2の作用について説明する。ここで、図3(a)は、煙突効果によって生じ得るビル内での空気の流れを説明する図である。また、図3(b)は、エレベータシャフト3内での煙突効果に起因する圧力分布を説明する図である。
【0025】
図3(b)の圧力分布図では、外気圧力とエレベータシャフト3の内部圧力が等しい状態を[0]で示している。そして、エレベータシャフト3の内部圧力が外気圧力よりも低い状態を[−]で示し、内部圧力が外気圧力よりも高い状態を[+]で示している。従って、[−]の状態では、ビル1の外部からエレベータシャフト3へ向けて空気が流入され、[+]の状態では、エレベータシャフト3から外部へ向けて空気が排出される。ここで、[−]の状態と[+]の状態とが切り替わる高さ、すなわち内部圧力と外気圧力とが釣りあっている高さでは、外部とエレベータシャフト3の間で空気の流れが生じない。このような高さのことを中性点X1〜X3という。
【0026】
図3(a)に示すように、エレベータシャフト3内の空気が暖まると、内部空間には上昇気流が生じる。ここで、低層利用階部分3aよりも下部ダクト6の方が空気が流れやすく、かつ、高層利用階部分3bよりも上部ダクト7の方が空気が流れやすいため、図3(b)に示すように、エレベータシャフト3の籠通過範囲に対応する部分(籠通過部分3cという)と、低層利用階部分3a及び高層利用階部分3bとは、圧力に関して縁が切れる。すなわち、上部ダクト7から導入される外気により、籠通過部分3cでは、低層利用階部分3aや高層利用階部分3bの圧力分布の影響が無くなる。これにより、籠通過部分3cの圧力分布は、低層利用階部分3aや高層利用階部分3bの圧力分布とは独立したものとなり、図3(b)に示す圧力分布となる。
【0027】
ここで、籠通過部分3cの高さ(本実施形態では8階分)は、低層利用階部分3a及び高層利用階部分3bの高さ(本実施形態では3階分)に比べて大きい。このため、籠通過部分3cでは、低層利用階部分3a及び高層利用階部分3bよりも、煙突効果の影響を強く受ける。その結果、籠通過部分3cでの空気の上昇により、下部ダクト6からは多くの外気が取り込まれる。また、籠通過部分3cを上昇した空気は、上部ダクト7に流れ込んでビル1の外部に排出される。すなわち、下部ダクト6、籠通過部分3c及び上部ダクト7を通る一連の空気流路が形成される。一方、低層利用階部分3aや高層利用階部分3bは高さが低いので、上昇気流による圧力差は小さくなる。また、籠通過部分3cを上昇した空気は上部ダクト7に流れ込んでしまう。これらにより、低層利用階部分3aや高層利用階部分3bについては、煙突効果による空気の流れが抑えられる。
【0028】
ここで、空気の流れが抑えられる理由を、図4(a),(b)を参照してより詳細に説明する。便宜上、これらの図において、低層利用階については、左半分のみを記載し、高層利用階については右半分のみを記載する。また、籠通過範囲についてはエレベータシャフト3における籠通過部分3cのみを記載し、通過階については記載を省略している。
【0029】
図4(a)に示すように、シャフト側扉8(図1を参照)の隙間や各階の窓等により、1階フロア部分には空気等について抵抗R11が、2階フロア部分には抵抗R12が、3階フロア部分には抵抗R13がそれぞれ形成され、下部ダクト6には抵抗R14が形成されるものとする。エレベータシャフト3でも同様に、籠通過部分3cには抵抗R21が形成されるものとする。さらに、上部ダクト7には抵抗R31が、12階フロア部分には抵抗R32が、13階フロア部分には抵抗R33が、14階フロア部分には抵抗R34がそれぞれ形成されるものとする。
【0030】
ここで、エレベータシャフト3と各利用階(1階〜3階,12階〜14階)とは、シャフト側扉8によって形成される狭い隙間、例えば2枚の扉板の対向する側縁の間に形成される隙間やシャフト側扉8と壁の間に形成される隙間で連通されているに過ぎない。これに対して、下部ダクト6や上部ダクト7は、十分大きな開口面積を備えた空気の流路として構成されている。このため、1階〜3階フロア部分の抵抗R11〜R13は、下部ダクト6の抵抗R14よりも十分に大きくなり、12階〜14階フロア部分の抵抗R32〜R34は、上部ダクト7の抵抗R31よりも十分に大きくなる。
【0031】
なお、エレベータシャフト3の上方に機械室5が設置されていることから、この部位における空気の流路は、隙間程度の大きさしかない。このため、シャフト上端での抵抗は、十分に大きなものとなる。また、エレベータシャフト3の底部は塞がれているため、1階シャフト部分と1階フロア部分の間では、シャフト側扉8部分の隙間を通じて空気が出入りすることになる。
【0032】
図4(b)に示すように、エレベータシャフト3における内部空間の空気が暖められて上昇すると、抵抗R14が抵抗R11〜R13よりも十分に小さいことから、外気は、下部ダクト6を通じて籠通過部分3cに流入する。そして、上部ダクト7の抵抗R31が、各フロア部分の抵抗R32〜R34やダクト上端の抵抗よりも十分に小さいので、籠通過部分3cを上昇した空気は上部ダクト7を通ってビル1の外部に排出される。これにより、エレベータシャフト3内の熱を外部に放出することができる。
【0033】
下部ダクト6がエレベータシャフト3の内部空間に連通する部位の内部圧力P21は、抵抗R14の影響で下部ダクト6の入口圧力P12よりも多少低くなる。そして、1階フロア部分に対応する高さの内部圧力P21´は、エレベータシャフト3における内部空間の抵抗が十分に小さいことから内部圧力P21と同程度になる。また、1階フロア部分の入口圧力P11は、入口圧力P12とほぼ同じである。このため、外部から吸い込まれた空気は、1階フロア部分を通ってエレベータシャフト3における内部空間の下端部に流入する。
【0034】
ここで、低層利用階部分3aと籠通過部分3cとは、圧力に関して縁が切れている。従って、低層利用階部分3aでは、籠通過部分3cとは独立した圧力分布を示し、中性点X1よりも上側の2階フロア部分と3階フロア部分ではエレベータシャフト3側からビル1の外壁側へと空気が流れる。この場合において、内部圧力P21と入口圧力P11との圧力差が小さいので、圧力差に起因する不具合、例えばシャフト側扉8の開閉がし難くなるといった不具合を抑制できる。また、抵抗R11〜R13がシャフト側扉8部分の隙間によるものであり、抵抗R14よりも十分に大きいことも相まって、低層利用階部分3aを流れる空気の量を少なくすることができる。
【0035】
また、高層利用階部分3bと籠通過部分3cの間も、圧力に関して縁が切れている。従って、高層利用階部分3bも、籠通過部分3cとは独立した圧力分布を示し、中性点X3よりも下側の12階フロア部分を通じて建物外部から空気がエレベータシャフト3の内部空間に流入する。ここで、上部ダクト7がエレベータシャフト3の内部空間に連通する部位の内部圧力P22は、抵抗R31が小さいことから上部ダクト7の出口圧力P31よりも多少高い程度である。そして、出口圧力P31が12階フロア部分の入口圧力P32とほぼ同じであることから、12階フロア部分からの空気の流入に対し、内部圧力P22の影響は無視できる程度に小さい。
【0036】
従って、12階フロア部分からは、高層利用階部分3bでの煙突効果によって空気が流入するが、その量は3階分の高さに相当する少ない量になる。また、中性点X3よりも上側の13階フロア部分及び14階フロア部分については、エレベータシャフト3側からの空気がビル1の外壁側へと流れるが、流れる空気の量は12階フロア部分と同様に少ないものとなる。従って、高層利用階部分3bを流れる空気の量も、籠通過部分3cを流れる空気の量よりも十分に少ないものとなる。
【0037】
以上説明したように、本実施形態のエレベータ装置2を設置したビル1では、下部ダクト6と上部ダクト7を乗りかご4が通過する籠通過部分3cに連通させているので、下部ダクト6、籠通過部分3c及び上部ダクト7を含んだ一連の空気流路が形成される。そして、この空気流路によって、エレベータシャフト3の内部空間で暖められた空気を上部ダクト7から積極的に排出できる。これにより、エレベータシャフト3内の過度な温度上昇を抑制できる。
【0038】
例えば図5のシミュレーション結果例に示すように、下部ダクト6や上部ダクト7を設けない従来の構造では、シャフト内の温度が40℃以上になることが多く、外気との温度差は十数℃から数十℃もあった。この点、本発明を適用した構造では、下部ダクト6や上部ダクト7を設けて空気流路を形成することにより、シャフト内の温度を外気の温度よりも数℃高い程度に抑えることができる。
【0039】
また、エレベータシャフト3に関し、籠通過部分3cと、低層利用階部分3a及び高層利用階部分3bとの間で、圧力に関する縁を切ることができる。このため、低層利用階部分3aや高層利用階部分3bにおいて、外気との圧力差を十分に小さくでき、煙突効果に起因する不具合を抑制できる。具体的には、圧力差が大きすぎることに起因するシャフト側扉8の開閉不良や、流れる空気の量が多すぎることに起因する騒音等を抑制できる。
【0040】
例えば図6のシミュレーション結果例に示すように、従来の構造では、シャフト内の気圧とビル外部の気圧の差(最大値)が15〜40mmAqであったのに対し、本発明を適用した構造では、この気圧の差を3〜7mmAq程度に抑えることができる。
【0041】
ところで、本発明はこの実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、前述の実施形態では、屋内型のエレベータ装置2を例に挙げたが、この種のエレベータ装置に限定されない。例えば図7に示すように、壁部を透明にしたエレベータシャフト3´を、ビル1の外部に一部を露出させた状態で設置した外壁側設置型エレベータ装置2´であってもよい。このエレベータ装置2´の場合、図8(a),(b)に示すように、エレベータシャフト3´の壁部に開口10を設ければよい。この場合、開口10が、エレベータシャフト3´の内部空間を建物外部に連通させる下部連通部や上部連通部に相当する。このエレベータ装置2´では、エレベータシャフト3´の壁部が透明であるため、太陽光によってシャフト内の温度が上昇し易く、上昇気流が発生し易いが、通過範囲の下端と上端とに開口10を設けることで、上昇気流に起因する不具合を容易に抑制できる。そして、この実施形態でも、開閉可能なフラッパー9を開口10に設けている。このため、荒天時において雨や風の内部空間への侵入を防止できる。
【0042】
また、前述の実施形態では、エレベータ装置2が設けられる建物としてビル1を例示したが、図9に示すようにタワー20であってもよい。例示したタワー20は、低層階21の他、高さの異なる2つの展望台22,23が設けられている。すなわち、下方の第1展望台22と上方の第2展望台23とが設けられている。そして、低層階21と第1展望台22の間、及び、第1展望台22と第2展望台23の間には居室空間が設けられていない。このタワー20では、低層階21と第1展望台22との関係では、低層階21が低層利用階に相当し、第1展望台22が高層利用階に相当する。また、第1展望台22と第2展望台23との関係では、第1展望台22が低層利用階に相当し、第2展望台23が高層利用階に相当する。
【0043】
前述の実施形態では、低層利用階の直上階に下部ダクト6を設け、高層利用階の直下階に上部ダクト7を設けていたが、直上階や直下階でなくてもよい。すなわち、エレベータシャフト3の低層利用階部分3aや高層利用階部分3bにおける外気との圧力差や温度差、或いは、これらの部分を流れる空気の量が許容範囲であれば、各ダクト6,7を設ける高さ位置を変えてもよい。要するに、下部ダクト6は籠通過部分3cにおける下半部分に設けられ、上部ダクト7は籠通過部分3cにおける上半部分に設けられていればよい。
【0044】
また、下部ダクト6や上部ダクト7に関し、前述の実施形態では天井裏空間に設けられていたが、床下スラブに設けてもよい。例えば、図1に一点鎖線で示すように、下部ダクト6を低層利用階の直上階における床下スラブに設けた場合には、エレベータシャフト3における籠通過部分3cを、天井裏空間から床下スラブまでの高低差の分だけ長くでき、シャフト内の温度上昇を確実に防止できる。また、低層利用階部分3aや高層利用階部分3bの長さを短くできるので、これらの部分における空気の上昇をより抑制できる。
【符号の説明】
【0045】
1 ビル
2,2´ エレベータ装置
3,3´ エレベータシャフト
3a 低層利用階部分,3b 高層利用階部分,3c 籠通過部分
4 乗りかご
5 機械室,5a モーター,5b プーリー,5c ワイヤー
6 下部ダクト,6a 立ち上がり部
7 上部ダクト,7a 立ち上がり部
8 シャフト側扉
9 フラッパー
10 開口
20 タワー
21 低層階,22 第1展望台,23 第2展望台

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレベータの出入口が設けられる利用階の間に、エレベータの出入口が設けられない通過範囲を有する建物に設置され、エレベータシャフトと、このエレベータシャフト内を昇降する乗りかごとを有するエレベータ装置であって、
前記通過範囲における下階側の位置に設けられ、前記エレベータシャフトの内部空間を建物外部に連通させる下部連通部と、
前記通過範囲における上階側の位置に設けられ、前記エレベータシャフトの内部空間を前記建物外部に連通させる上部連通部と、
を有するエレベータ装置。
【請求項2】
エレベータの出入口が設けられる利用階の間に、エレベータの出入口が設けられない通過範囲を有する建物に設置され、エレベータシャフトと、このエレベータシャフト内を昇降する乗りかごとを有するエレベータ装置であって、
前記通過範囲における下端の位置に設けられ、前記エレベータシャフトの内部空間を建物外部に連通させる下部連通部と、
前記通過範囲における上端の位置に設けられ、前記エレベータシャフトの内部空間を前記建物外部に連通させる上部連通部と、
を有するエレベータ装置。
【請求項3】
前記下部連通部は、
開閉制御可能な下部フラッパーを建物における外部との境界に備え、
前記上部連通部は、
開閉制御可能な上部フラッパーを前記建物における外部との境界に備える、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のエレベータ装置。
【請求項4】
前記下部連通部は、
前記低層利用階と前記高層利用階との間に建築される下部非利用階の床下スラブ又は天井裏空間に設けられ、
前記上部連通部は、
前記低層利用階と前記高層利用階との間であって前記下部非利用階のよりも上方に建築される上部非利用階の床下スラブ又は天井裏空間に設けられる、
ことを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載のエレベータ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−46501(P2011−46501A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−197082(P2009−197082)
【出願日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】