説明

エンジンのオイルパン

【課題】供給するオイルの温度が迅速に上昇するエンジンのオイルパンを提供する。
【解決手段】底板2と、底板2の周囲を囲み底板2から立ち上げられた壁板3とを有し、壁板3で囲まれた底板2上の空間に需要先から戻って流下されるオイルを蓄積するエンジンのオイルパン1において、上記空間を短期循環用空間Sと長期蓄積用空間Lとに二分し壁板3より低い仕切り板4と、長期蓄積用空間Lの上部を覆い短期循環用空間Sに向けて傾斜したバッフルプレート5と、オイル温度が低いときには短期循環用空間Sと長期蓄積用空間Lとを遮断しオイル温度が高いときには短期循環用空間Sと長期蓄積用空間Lとを連通させる開閉弁6とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、供給するオイルの温度が迅速に上昇するエンジンのオイルパンに関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンには、回転運動や往復運動するベアリング等の機構を潤滑するためにオイルが循環される。オイルは、エンジンの下部に設置されたオイルパンに蓄積される。
【0003】
図2に示されるように、従来のオイルパン21は、底板2と、底板2の周囲を囲み底板2から立ち上げられた壁板3とを有し、壁板3で囲まれた底板2上の空間にベアリング等の機構(以下、需要先という)から戻って流下されるオイルを蓄積するようになっている。
【0004】
オイルパン21の空間内にはオイルストレーナ吸口7が設置される。オイルストレーナ吸口7はオイルポンプ8に繋がっている。
【0005】
エンジンが駆動されているとき、オイルポンプ8がオイルストレーナ吸口7よりオイルパン21のオイルを吸い上げ、その吸い上げられたオイルが需要先に供給される。需要先を通ったオイルは、流下してオイルパン21に戻る。エンジンが停止しているときは、オイルポンプ8がオイルを吸い上げないので、オイルパン21に蓄積されたオイルはそのまま蓄積され、需要先に残されたオイルは流下してオイルパン21に戻る。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
オイルは、温度が高いと粘度が低く、温度が低いと粘度が高い性質を有する。
【0007】
エンジンが冷間始動されたとき、オイルパン21内のオイルの温度が低いため、オイルの粘度は高い。その後、オイルの粘度が十分に低い程度にオイルパン21内のオイルの温度が上昇するには時間がかかる。エンジンが冷間始動されてから、オイルの粘度が十分に低い程度にオイルパン21内のオイルの温度が上昇するまでの間、需要先には粘度の高いオイルが供給され続ける。よって、この間、需要先における摩擦が大きく、潤滑が悪い状態となる。この結果、オイルパン21内のオイルの温度が上昇するまでの間、エンジンの燃費が不必要に上昇する。
【0008】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、供給するオイルの温度が迅速に上昇するエンジンのオイルパンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために本発明は、底板と、該底板の周囲を囲み該底板から立ち上げられた壁板とを有し、該壁板で囲まれた上記底板上の空間に需要先から戻って流下されるオイルを蓄積するエンジンのオイルパンにおいて、上記空間を短期循環用空間と長期蓄積用空間とに二分し上記壁板より低い仕切り板と、上記長期蓄積用空間の上部を覆い上記短期循環用空間に向けて傾斜したバッフルプレートと、オイル温度が低いときには上記短期循環用空間と上記長期蓄積用空間とを遮断しオイル温度が高いときには上記短期循環用空間と上記長期蓄積用空間とを連通させる開閉弁とを備えたものである。
【0010】
上記短期循環用空間内にオイルストレーナ吸口が設置されてもよい。
【0011】
上記仕切り板は、エンジン運転時の油面高より高く、エンジン停止時の油面高より低くてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明は次の如き優れた効果を発揮する。
【0013】
(1)需要先に供給するオイルの温度を迅速に上昇させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0015】
図1に示されるように、本発明に係るエンジンのオイルパン1は、底板2と、底板2の周囲を囲み底板2から立ち上げられた壁板3とを有し、壁板3で囲まれた底板2上の空間に需要先から戻って流下されるオイルを蓄積するエンジンのオイルパン1において、上記空間を短期循環用空間Sと長期蓄積用空間Lとに二分し壁板3より低い仕切り板4と、長期蓄積用空間Lの上部を覆い短期循環用空間Sに向けて傾斜したバッフルプレート5と、オイル温度が低いときには短期循環用空間Sと長期蓄積用空間Lとを遮断しオイル温度が高いときには短期循環用空間Sと長期蓄積用空間Lとを連通させる開閉弁6とを備えたものである。
【0016】
短期循環用空間S内には、底板2に近付けてオイルストレーナ吸口7が設置される。オイルストレーナ吸口7はオイルポンプ8に繋がっている。
【0017】
底板2はほぼ平坦である。長期蓄積用空間L側の底板2には、オイルドレンプラグ9が設けられている。
【0018】
仕切り板4は、エンジン運転時(始動直後ではなく、ある程度長時間継続して運転しているとき)の油面高P1より高く、エンジン停止時の油面高P0より低くなっている。
【0019】
開閉弁6は、仕切り板4に組み込まれている。すなわち、仕切り板4に短期循環用空間Sと長期蓄積用空間Lとを連通する開口が形成され、その開口を遮断するように開閉弁6が設けられる。開閉弁6は、開口の一端に固定された固定端と、その反対端となる自由端とを有するサーモスタット板からなる。温度が低いときには、サーモスタット板の自由端が開口の反対端に密着し、これによって開口が遮断される。温度が高いときには、サーモスタット板の自由端が開口の反対端から離間し、これによって開口が連通される。
【0020】
以下、本発明のオイルパン1の動作を説明する。
【0021】
エンジン停止時、オイルパン1には、油面高P0までオイルが蓄積されている。油面高P0は仕切り板4より高いので、油面高P0は短期循環用空間Sも長期蓄積用空間Lも共通である。
【0022】
オイルパン1に蓄積されているオイルの温度が低く、開閉弁6が遮断しているものとする。
【0023】
エンジンが冷間始動されると、オイルポンプ8がオイルストレーナ吸口7よりオイルパン1の短期循環用空間Sからオイルを吸い上げ、その吸い上げられたオイルが需要先に供給される。油面高が徐々に下がって仕切り板4より低くなると、長期蓄積用空間Lから仕切り板4を越えてオイルが移動できなくなり、短期循環用空間Sのみからオイルが吸い上げられるようになる。
【0024】
需要先を通ったオイルは、バッフルプレート5に流下する。バッフルプレート5が長期蓄積用空間Lの上部を覆い短期循環用空間Sに向けて傾斜しているため、流下したオイルは、長期蓄積用空間Lには流れ込まず、バッフルプレート5上を流れて、短期循環用空間Sに戻る。
【0025】
この状態は、オイルは短期循環用空間Sと需要先の間でのみ循環され、長期蓄積用空間Lに蓄積されているオイルは循環に供されない状態である。このため、需要先で温められたオイルが短期循環用空間Sに戻ったとき、短期循環用空間Sに蓄積されている少量のオイルと合流するので、短期循環用空間Sに蓄積されているオイルは温度が迅速に上昇する。長期蓄積用空間Lにはオイルが戻らないので、長期蓄積用空間Lに蓄積されているオイルは温度が上昇しない。
【0026】
このように、本発明にあっては、エンジンが冷間始動された直後のオイル循環がオイル全体量に比して少量で行われるので、短期循環用空間Sに蓄積されているオイルは温度が迅速に上昇する。オイルの温度が高くなったことで、オイルの粘度が低下し、需要先における摩擦が大きく、潤滑が悪い状態が迅速に解消される。この結果、エンジンの燃費の上昇が抑制される。
【0027】
その後、短期循環用空間Sに蓄積されているオイルの温度が十分に上昇すると、開閉弁6が短期循環用空間Sと長期蓄積用空間Lとを連通させる。これにより、油面高の高い空間から油面高の低い空間にオイルが移動して、両空間の油面高が均一の油面高P1になる。この時点では、長期蓄積用空間Lに蓄積されているオイルは温度が低いが、短期循環用空間Sに蓄積されているオイルは十分に温度が高いので、両空間のオイルが混ざることで、オイル温度が均一化される。
【0028】
以上の動作中、エンジン停止時の油面高P0より仕切り板4が低いので、エンジン始動後に短期循環用空間S内にあるオイルストレーナ吸口7がオイルを吸い上げると、長期蓄積用空間Lから仕切り板4を越えて短期循環用空間Sにオイルが補充される。従って、短期循環用空間Sでは底板2までオイルが払い出されることがなく、オイルストレーナ吸口7にエア吸い込みが生じるおそれがない。仕切り板4が低すぎると、エンジンが冷間始動された直後に循環されるオイル量が多くなり、オイル温度を迅速に高める効果が弱くなる。従って、仕切り板4はエンジン運転時の油面高P1より高いのが好ましい。
【0029】
開閉弁6が遮断から連通へ転じる温度は、サーモスタット板の温度特性で決まる。需要先で要求されるオイルの粘度を参考にし、その粘度が得られる温度までオイル温度が迅速に上がるよう、サーモスタット板を選択するとよい。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一実施形態を示すオイルパンの断面図である。
【図2】従来のオイルパンの断面図である。
【符号の説明】
【0031】
1 オイルパン
2 底板
3 壁板
4 仕切り板
5 バッフルプレート
6 開閉弁
7 オイルストレーナ吸口
8 オイルポンプ
9 オイルドレンプラグ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
底板と、該底板の周囲を囲み該底板から立ち上げられた壁板とを有し、該壁板で囲まれた上記底板上の空間に需要先から戻って流下されるオイルを蓄積するエンジンのオイルパンにおいて、上記空間を短期循環用空間と長期蓄積用空間とに二分し上記壁板より低い仕切り板と、上記長期蓄積用空間の上部を覆い上記短期循環用空間に向けて傾斜したバッフルプレートと、オイル温度が低いときには上記短期循環用空間と上記長期蓄積用空間とを遮断しオイル温度が高いときには上記短期循環用空間と上記長期蓄積用空間とを連通させる開閉弁とを備えたことを特徴とするエンジンのオイルパン。
【請求項2】
上記短期循環用空間内にオイルストレーナ吸口が設置されることを特徴とする請求項1記載のエンジンのオイルパン。
【請求項3】
上記仕切り板は、エンジン運転時の油面高より高く、エンジン停止時の油面高より低いことを特徴とする請求項1又は2記載のエンジンのオイルパン。

【図1】
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【図2】
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