説明

エンジンのクランクジャーナル部用の研磨装置、及びエンジンのクランクジャーナル部の研磨方法

【課題】本発明は、エンジンのクランクジャーナル部を容易且つ確実に研磨することができる研磨装置を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明のエンジンのクランクジャーナル部用の研磨装置は、同軸で回転する一対の砥石と、この砥石を軸方向に移動する移動機構とを備え、一対の砥石が軸方向に一定間隔離間して配設され、移動機構による砥石の軸方向の移動可能距離が、一対の砥石の間隔以上である構成を採用している。また、両端に砥石が取付けられる軸体を備え、さらには軸体の両端に螺着可能で且つ軸体に螺着した際に砥石の外端面に当接可能な螺着部材を備え、砥石の外端面に螺着部材を収容可能な凹部が形成されていることが好ましい。また、砥石を回転するための駆動機構と、この駆動機構の回転力を上記軸体に伝達する伝達機構とを備え、伝達機構が一対の砥石の間で軸体に連結されていると良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エンジンのクランクジャーナル部用の研磨装置、及びエンジンのクランクジャーナル部の研磨方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンのクランクジャーナル部の研磨は例えば船舶のディーゼルエンジンのメンテナンス等においてなされている。このようなメンテナンスの作業性を考慮したものとして、特開2004−276746号公報所載の船体構造が公知である。この公報所載の船体構造は、ディーゼルエンジンが設置された機関室の上方の第一甲板にエンジンメンテナンス用の第一開口部を形成し、この第一開口部を閉塞する第一カバープレートにピストンメンテナンス用の第二開口部を形成している。このため、上記公報所載の船体構造によれば、ディーゼルエンジンのピストン部分のメンテナンス作業が容易となると考えられる。
【0003】
しかしながら、メンテナンス作業に際してディーゼルエンジンのクランクジャーナル部を研磨する場合には、この研磨箇所はフィレット部に両側を挟まれた狭隘な箇所であるため、その研磨作業が困難である。そのうえ運転中の摩擦によってクランクジャーナル部の表面温度が上がり、これによりジャーナル部の表面硬度も上がっているので、バイトによる切削加工が困難で、加工面の粗度を向上させることができず、最終的には作業者が手作業によって研磨作業を行うことを要している。しかし、上述のようにフィレット部の間のクランクジャーナル部は狭隘な箇所であるため、作業者が作業可能な位置に接近しにくく、このため上記研磨作業は極めて煩雑で長時間を要するものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−276746号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明は、エンジンのクランクジャーナル部を容易且つ確実に研磨することができるエンジンのクランクジャーナル部用の研磨装置、及び研磨方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係るエンジンのクランクジャーナル部用の研磨装置は、
同軸で回転する一対の砥石と、
この砥石を軸方向に移動する移動機構と
を備え、
上記一対の砥石が軸方向に一定間隔離間して配設され、
上記移動機構による砥石の軸方向の移動可能距離が、上記一対の砥石の間隔以上である構成を採用している。
【0007】
上記構成からなる当該エンジンのクランクジャーナル部用の研磨装置は、クランクジャーナル部の対向状態で且つ回転軸をクランクジャーナル部の回転軸と平行に上記砥石を配置し、上記砥石を回転させてクランクジャーナル部の研磨を行うことができる。また、この砥石は軸方向に移動可能であるので、砥石の研磨部分をクランクジャーナル部の軸方向に移動させることで、クランクジャーナル部の広範囲を研磨することができる。特に、一対の砥石が離間する間隔以上に砥石は移動可能であるので、クランクジャーナル部のうち一対の砥石間の部分に対応する領域も研磨することができる。
【0008】
当該エンジンのクランクジャーナル部用の研磨装置にあっては、両端に上記砥石が取付けられる軸体を備える構成を採用することが好ましい。これにより、軸体を回転することで一対の砥石を回転させることができる。また、砥石は軸体の端部に取付けられるので、軸体が砥石よりも軸方向外側に位置せず、フィレット部近傍のクランクジャーナル部(コーナー部)を研磨する際に軸体がフィレット部に当接しない。このため、フィレット部近傍のクランクジャーナル部も的確に研磨することが可能である。
【0009】
このように軸体の端部に砥石を取付ける場合にあっては、当該エンジンのクランクジャーナル部用の研磨装置は、上記軸体の両端に螺着可能で且つ軸体に螺着した際に砥石の外端面に当接可能な螺着部材をさらに備え、上記砥石の外端面に、上記螺着部材を収容可能な凹部が形成されている構成を採用することが好ましい。これにより、螺着部材を螺着することで、砥石を軸体に容易かつ的確に取付けることができる。また、螺着状態において螺着部材は砥石の凹部に収容されるので、螺着部材が砥石の研磨部分よりも軸方向外側に位置せず、フィレット部近傍のクランクジャーナル部を研磨する際に螺着部材が邪魔にならない。
【0010】
また、上記のように一対の砥石を軸体の両端部に取付ける場合にあっては、当該エンジンのクランクジャーナル部用の研磨装置は、砥石を回転するための駆動機構と、この駆動機構の回転力を上記軸体に伝達する伝達機構とをさらに備え、上記伝達機構が、一対の上記砥石の間で上記軸体に連結されている構成を採用することが好ましい。これにより、駆動機構の回転力が伝達機構を介して軸体に伝達され、この軸体に取付けられた一対の砥石を回転させることができる。また、伝達機構は、一対の砥石の間で軸体に連結できるので、伝達機構と軸体とを容易かつ確実に連結することができる。
【0011】
さらに、当該エンジンのクランクジャーナル部用の研磨装置にあっては、エンジンの軸受部に取付可能な取付手段を有する基台部をさらに備えることが好ましい。これにより、基台部をエンジンの軸受部に取付けることで、当該研磨装置を容易かつ確実に装着でき、この状態で上述の研磨作業を行うことができる。
【0012】
また、上記基台部を有する場合には、上記移動機構が、上記基台部に一方向にスライド可能に取付けられた第一テーブルと、この第一テーブルに上記一方向と交差する方向にスライド可能に取付けられるとともに上記砥石を支持する第二テーブルとを備える構成を採用することが好ましい。これにより、第一テーブル又は/及び第二テーブルをスライドすることによって、砥石を軸方向に移動させることができ、また、第二テーブル又は/及び第一テーブルをスライドすることによって、砥石をクランクジャーナル部に接近・離反することができる。具体的には、例えば第一テーブルが砥石の軸方向にスライド可能に設けられ、第二テーブルが砥石の軸方向に直交する方向にスライド可能に設けられている場合、第一テーブルをスライドすることによって、砥石を軸方向に移動させることができ、また、第二テーブルをスライドすることによって、砥石をクランクジャーナル部に接近・離反することができる。
【0013】
さらに、当該エンジンのクランクジャーナル部用の研磨装置にあっては、上記砥石の軸方向への移動を制御する制御手段をさらに備えることが好ましい。これにより、制御手段によって砥石の軸方向への移動を制御することができるので、研磨開始から終了までの一連の研磨作業を制御手段によって制御しつつ行うことができる。このため、この一連の研磨作業に際して、作業者が当該エンジンのクランクジャーナル部用の研磨装置の近くに位置することを要せず、容易かつ確実に研磨作業を行うことができる。
【0014】
また、上記課題を解決するために、本発明に係るエンジンのクランクジャーナル部用の研磨方法は、
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載のエンジンのクランクジャーナル部用の研磨装置の上記砥石をエンジンの一対のフィレット部間に挿入し、クランクジャーナル部の対向状態で且つ回転軸をクランクジャーナル部の回転軸と平行に上記砥石を配置し、
エンジンを駆動させつつ上記砥石を回転及び軸方向への移動させることによりクランクジャーナル部を研磨する
構成を採用している。
【0015】
上記構成からなる当該エンジンのクランクジャーナル部用の研磨方法は、上記砥石が軸方向に移動可能であるので、砥石の研磨部分をクランクジャーナル部の軸方向に移動させることで、クランクジャーナル部の広範囲を研磨することができる。特に、一対の砥石が離間する間隔以上に砥石は移動可能であるので、クランクジャーナル部のうち一対の砥石間の部分に対応する領域も研磨することができる。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、当該エンジンのクランクジャーナル部用の研磨装置及びこれを用いた研磨方法によれば、エンジンのクランクジャーナル部を容易且つ確実に研磨することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態に係るエンジンのクランクジャーナル部用の研磨装置のエンジンの軸受部に取付けた状態における概略的側面図である。
【図2】図1のエンジンのクランクジャーナル部用の研磨装置の概略的側面図である。
【図3】図1のエンジンのクランクジャーナル部用の研磨装置であって、(A)は概略的側面図、(B)はクランクジャーナル部側から見た概略的説明図である。
【図4】図1のエンジンのクランクジャーナル部用の研磨装置の一部断面を含む砥石の移動平面の直交する方向から見た概略的説明図である。
【図5】図1のエンジンのクランクジャーナル部用の研磨装置の軸体の概略的正面図である。
【図6】図1のエンジンのクランクジャーナル部用の研磨装置の制御手段の手順を示すフローチャートある。
【図7】図1のエンジンのクランクジャーナル部用の研磨装置の制御手段の手順を示すフローチャートある。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、適宜図面を参照しつつ本発明の実施形態について説明するが、本発明の一実施形態として、船舶の大型ディーゼルエンジンのクランクジャーナル部用の研磨装置(以下、単に「研磨装置」ということがある)について、まず説明する。
【0019】
〔研磨装置〕
まず、本実施形態の研磨装置は、同軸で回転する一対の砥石110を有する研磨機構100と、この砥石110を移動させるための移動機構200と、エンジンの軸受部10に取付可能な基台部300と、上記砥石110を回転させるための駆動機構400と、この駆動機構400の回転力を砥石110に伝達するための伝達機構500と、各種機構の制御を行う制御手段(図示省略)とを有している。
【0020】
<基台部300>
上記基台部300は、エンジンの軸受部10に取付可能な取付手段を有している。具体的には、基台部300は、図1及び図2に示すようにエンジンの軸受部10の台座サドル11から突設された主軸受キャップ装着用のボルト13を介して軸受部10に取付可能に設けられている。この軸受部10の構造を具体的に以下説明する。エンジンにおいて、クランクジャーナル部1は、下部の台座サドル11の凹部と、この台座サドル11に装着される軸受キャップ(図示せず)とに囲まれた内側に位置している。この軸受キャップは、常時は上記ボルト13及びこのボルト13に螺着されるナットによって台座サドル11に固定されている。そして、当該研磨装置を用いるにあたっては、上記主軸受キャップが離脱されて、上記ボルト13が上方に向けて突設された状態となり、当該研磨装置はこのボルト13によって軸受部10に取付けられる。なお、図1において、3は、クランクが取付けられるクランクピンであり、5は、上記クランクジャーナル部1とクランクピン3とを連結するためのフィレット部である。なお、図1においては、砥石ドレッサの図示を省略している。
【0021】
この基台部300は、上記移動機構200が取付けられる基台本体330と、この基台本体330が取付けられる上記取付手段とを有している。この取付手段は、上記ボルト13に挿入される穿孔313a,315a,321a,323aを有するプレート313,315,321,323を有している。具体的には、この取付手段は、上記軸受部10のボルト13が挿入可能な上記穿孔313a,315a,321a,323aを有する上部体310及び下部体320から構成されている。この上部体310には上記基台本体330が取付けられ、下部体320には上部体310が載置固定される。なお、穿孔313a,315a,321a,323aは、容易にボルト13を挿入できるよう、ボルト13の径よりも若干大きい内径を有している。
【0022】
上記上部体310は、上記基台本体330が取付けられる取付プレート311、この取付プレート311の上部に固定される上部プレート313、この上部プレート313と平行に上記取付プレート311の下部に固定される下部プレート315、及びこの上部プレート313と下部プレート315とを連結する連結フレーム317を有している。上記上部プレート313及び下部プレート315には上記軸受部10のボルト13を挿入可能な上記穿孔313a,315aが図2に示すように形成されている。また、下部プレート315には下部体320に固定するための固定用孔315bが穿設されている。
【0023】
また、上部体310の取付プレート311は、上部プレート313に対して鈍角且つ下部プレート315に対して鋭角に取付けられ、取付プレート311は、軸受部10への取付状態においてクランクジャーナル部1の径方向(軸方向及び周方向と垂直方向)と略平行に配設されている。さらに、この取付プレート311には、基台本体330を固定するための穿孔311aが穿設されている。
【0024】
上記下部体320は、上記上部体310の下部プレート315が載置固定される上部プレート321と、この上部プレート321と平行に配され軸受部10の台座サドル11に載置される載置プレート323と、この上部プレート321と載置プレート323とを連結する連結フレーム325を有している。上部プレート321及び載置プレート323には上記軸受部10のボルト13を挿入可能な上記穿孔321a,323aが形成されている。また、上部プレート321には、上記上部体310の下部プレート315の固定用孔315bに対応する位置に固定用孔321bが形成されている。
【0025】
また、下部体320は、ボルト13との間にウェッジ15を圧入着することで、軸受部10の壁面側に下部体320が移動するようテーパー部320aを有している。本実施形態においては、上記穿孔321a,323aを挟むよう前後左右に四つの上記連結フレーム325を有しており、この複数の連結フレーム325のうち軸受部10の壁面側の一対の連結フレーム325に軸受部10の壁面に当接する当接フレーム327が架け渡されている。そして、この当接フレーム327のボルト13側(軸受部10の壁面側の反対側)にテーパー部320aが形成されている。このテーパー部320aは、装着時にボルト13と対面し、クランクジャーナル部1の回転軸と平行で且つ下方につれてボルト13側に傾斜するテーパー面から構成されている。このため、テーパー部320aとボルト13との間にウェッジ15を圧入着することによって下部体320は軸受部10の壁面側に押圧される。これにより、下部体320は軸受部10における位置が固定される。また、上部体310及び下部体320が、その固定用孔315b,321bで固定手段(例えばボルトとナット)によって固定されることで、相対位置が固定される。さらに、軸受部10のボルト13を挿入した後に、ボルト13にナット17を螺着することで、ナット17が上部体310の上部プレート313を下方に押圧することにより、基台部300が軸受部10における位置が固定されることになる。
【0026】
なお、四つの連結フレーム325のうちクランクジャーナル部1側の連結フレーム325には補強リブ329が付設されている。
【0027】
上記基台本体330は、取付プレート311に回動角度調整可能に取付けられる回動部材331を備えている。この回動部材331は、砥石110の軸と非平行な方向な回動軸心を中心に回動調節可能に上記取付プレート311に取付けられている。具体的には、この回動部材331の回動軸心は、上記取付プレート311の平面方向と直交する方向に配され、この回動軸心を中心に回動できるよう回動部材331と取付プレート311とが重なり合うように取付けられている。換言すると、回動部材331は、後述する移動機構200による砥石110の平面移動の平面方向に直交する方向を中心として、上記取付手段と相対的角度が変更調節可能に設けられている。なお、回動部材331には、上記取付プレート311の穿孔311aに対応する位置に穿孔331aが穿設されており(図2参照)、この穿孔311a,331aにナット等の螺着部材を装着することによって、取付プレート311と回動部材331とは相対的な回動が規制されつつ固定される。
【0028】
なお、当該研磨装置は、砥石ドレッサ340をさらに備え、この砥石ドレッサ340は、基台部300に付設されており、具体的には基台部本体330(の回動部材331)に付設されている。
【0029】
<移動機構200>
上記移動機構200は、図3に示すように、上記基台部300に一方向にスライド可能に取付けられた第一テーブル210と、この第一テーブル210に上記一方向と交差する方向にスライド可能に取付けられるとともに上記砥石110を支持する第二テーブル220とを備えている。本実施形態においては、第一テーブル210の移動方向に対して第二テーブル220の移動方向は直交して設けられている。より具体的には、第一テーブル210は、クランクジャーナル部1の軸方向と平行な方向にスライドするよう基台部300に取付けられている(図1等参照)。また、第二テーブル220は、上記第一テーブル210の移動方向と直交する方向で且つクランクジャーナル部1から接近・離反する方向に移動するように第一テーブル210にスライド可能に取付けられている。さらに、上記基台部300(の回動部材331)には、上記第一テーブル210をスライド可能に支持する第一テーブルガイド手段301を有し、また第一テーブル210には、上記第二テーブル220をスライド可能に支持する第二テーブルガイド手段211を有している。この第一テーブルガイド手段301及び第二テーブルガイド手段211は、レール等の周知のものを採用可能である。なお、図3(A)において、基台部300の取付手段及びベルト等の図示を省略しており、図3(B)において、駆動機構、伝達機構及び砥石ドレッサ等の図示を省略している。
【0030】
上記移動機構200は、第一テーブル210を基台部300に対して移動するための第一テーブル移動手段230と、第二テーブル220を第一テーブル210に対して移動するための第二テーブル移動手段240とをさらに備えている。この第一テーブル移動手段230及び第二テーブル移動手段240としては、種々のものを採用することができ、例えばサーボシリンダを採用することができる。この第一テーブル移動手段230としてのサーボシリンダは、基台部300及び第一テーブル210に連結されて、基台部300に対して第一テーブル210をスライドさせる。また、第二テーブル移動手段240としてのサーボシリンダは、第一テーブル210及び第二テーブル220に連結されて、第一テーブル210に対して第二テーブル220をスライドさせる。
【0031】
さらに、本実施形態においては、移動機構200は、図2に示すように、砥石110をクランクジャーナル部1に対して接近する方向に付勢可能な付勢手段250を有している。この付勢手段250は、第一テーブル210と第二テーブル220との間に配設され、第二テーブル220を第一テーブル210に対してスライド可能な伸縮部材から構成されている。この伸縮部材(付勢手段250)としては、例えばガススプリングから構成することができる。
【0032】
第二テーブル220は、上記第二テーブルガイド手段211にスライド可能に取付けられるテーブル本体221と、このテーブル本体221に立設固定されて後述する軸体120を支持する支持部223を備えている。この支持部223は、図4に示すように、軸体120を回転可能に支持する一対の支持フレーム225と、この支持フレーム225を砥石110側で連結する連結フレーム224とを有している。この一対の支持フレーム225には、軸体120を支持する箇所に軸受225aが付設され、この軸受225aによって軸体120が回転可能に支持されている。また、上記支持フレーム225は、板状に形成され、上記第二テーブル220の移動方向で且つ回動部材331の平面方向(移動機構200の平面移動方向の平面)に対して直交する方向に突設されており、一対の支持フレーム225は、上記第一テーブル210の移動方向において一定距離離間して配されている。なお、この一対の支持フレーム225は、一対の砥石110の間において上記軸体120を支持している。また、この一対の支持フレーム225には、後述する伝達機構500の伝達軸540を回転可能に支持し、具体的には、伝達軸540を支持する箇所に軸受225bが付設され、この軸受225bによって伝達軸540が回転可能に支持されている。なお、図4においては、基台及び移動機構の図示を省略している。
【0033】
上記移動機構200は、砥石110の軸方向の移動可能距離Wが、図3(B)に示すように一対の砥石110の間隔D以上に設けられている。つまり、第一テーブル210の基台部300に対する移動可能な距離Wが、一対の砥石110の間隔D以上に設けられている。このため、移動機構200は、一対の砥石110の間も砥石110によって研磨できるよう研磨機構100を移動可能に設けられている。
【0034】
また、移動機構200は、第二テーブル220を軸直交方向に移動させることでクランクジャーナル部1に砥石110を接近・離反することができ(図3(A)及び図1参照)、この軸直交方向の移動可能距離は、特に限定されるものではないが、砥石110の直径の1/4以上1倍以下程度にすることが可能である。
【0035】
<研磨機構100>
研磨機構100は、一対の砥石110、この砥石110が両端に取付けられた軸体120、及び砥石110と軸体120とを取付けるための一対の螺着部材130とを有している。
【0036】
上記軸体120は、上記一対の支持フレーム225に架け渡された状態で回転可能に取付けられている。このため、軸体120は、第一テーブル210の移動方向に沿って配設されている。
【0037】
上記砥石110は、略円柱状の形状からなり、上記軸体120に対して回転不能に取付けられ、軸体120の回転により回転する。この砥石110には、図4及び図5に示すように、軸心位置に貫通孔111が形成されている。上記軸体120の端部には、上記砥石110の貫通孔111に嵌入される略円柱状の嵌入部121が形成されている。この嵌入部121には、外周面に雄螺子が形成されている。具体的には、嵌入部121の端部外周面に雄螺子が形成されている。また、軸体120は、嵌入部121に連続して中央側(他方の砥石110側)に嵌入部121よりも大径に設けられ砥石110を支える鍔部123を有している。また、砥石110には、内側面に鍔部123が収容可能な収容凹部113が形成されている。
【0038】
上記螺着部材130は軸体120の両端に螺着可能で且つ軸体120に螺着した際に砥石110の外端面に当接可能に設けられている。具体的には、この螺着部材130は、上記嵌入部121の雄螺子に螺着可能な雌螺子が内面に形成された貫通孔を有するドーナツ状の板状部材から構成されている。この螺着部材130は、外径が、砥石110の上記貫通孔111よりも外径が大径に設けられており、具体的には上記鍔部123の外径と略等しく設けられている。このため、螺着部材130の雌螺子と軸体120の雄螺子とを螺着することで、軸体120の鍔部123と螺着部材130とにより砥石110が挟持され、砥石110が軸体120に取付けられる。
【0039】
また、上記螺着部材130は、螺着するための回転方向が、上記軸体120の回転方向と逆向きとなるよう設けられている。つまり、一対の螺着部材130は、その螺着する回転方向がそれぞれ異なっている。より具体的に図4を参酌しつつ説明すると、例えば砥石110が図4の左側から見て右回転で回転する場合において、図4の左側の螺着部材130は左回転で螺着入され右回転で螺脱されるよう雌螺子が形成されている。また、この左側の螺着部材130の雌螺子に対応して、上記軸体120の左側の雄螺子が形成されている。一方、図4の右側の螺着部材130は右回転で螺着入され左回転で螺脱されるよう雌螺子が形成されている(回転方向は上記と同様に図4の左側から見た方向を意味する)。また、この右側の螺着部材130の雌螺子に対応して、上記軸体120の右側の雄螺子が形成されている。
【0040】
さらに、研磨機構100は、上記螺着部材130の不用意な回転を抑止する抑止手段を有している。具体的には、螺着部材130には、図5に示すように、外周面に螺着入回転軸と垂直に周方向に沿ってスリット130aが形成され、螺着入回転軸方向に沿って上記スリット130aに至るまでの螺子孔(図示省略)が形成されており、この螺子孔に止め螺子(図示省略)を螺着入することで、止め螺子の先端部が螺子孔の形成されていない側のスリット壁面に当接し、この当接によりスリットが開く(スリットの一方側の壁面と他方側の壁面とが離間する)方向に力が作用する。このスリットが開く方向に力が作用することで、螺着部材130の不用意な回転が抑止されることになる。
【0041】
また、上記砥石110の外端面には、上記螺着部材130を収容可能な収容凹部117が形成されている。具体的には、この収容凹部117は、内径が螺着部材130の外径よりも大きく、また深さ(軸方向の幅)が螺着部材130の厚み(軸方向の幅)よりも大きく設けられている。このため、螺着部材130及び軸体120は、砥石110よりも軸方向内側に位置しており、この研磨機構100は、軸方向最外側に砥石110が配設されている。
【0042】
上記研磨機構100は、図3(B)に示すように、その軸方向の幅W1と移動可能距離Wとの和が、移動機構200及び基台部300の幅W4よりも大きく設けられている。そして、研磨機構100の砥石110は、移動機構200による移動によって移動機構200及び基台部300よりも軸方向外側に位置可能に設けられている。具体的には、一対の砥石110の一方側の砥石110は、移動機構200による移動によって一方側に位置した際に、移動機構200及び基台部300よりも一方側に位置し、また、他方側の砥石110は、移動機構200による移動によって他方側に位置した際に、移動機構200及び基台部300よりも他方側に位置するよう設けられている。より具体的に説明すると、図3(B)の実線で示すように左側の砥石110が左に位置した際に移動機構200及び基台部300よりも左側に位置し、また、図3(B)の一点鎖線で示すように右側の砥石110は右側に位置した際に移動機構200及び基台部300よりも右側に位置する。
【0043】
また、一対の砥石110は、一方の砥石110の幅(軸方向の長さ)W2と他方の砥石110の幅W3とが等しく設けられている。また、一対の砥石110は、軸方向に一定距離D離間している。
【0044】
<駆動機構400>
上記駆動機構400は、第二テーブル220に取付けられている。具体的には、この駆動機構400は、第二テーブル220の支持部223に付設されている。この駆動機構400は、図4に示すように、駆動源410と、この駆動源410により回転される駆動軸420と、この駆動軸420に付設された駆動プーリ430とを有している。この駆動源410としては、種々のものを採用可能であり、電動式のものが好適に用いられ、例えば電動ディスクグラインダから構成することが可能である。なお、この駆動軸420は、上記軸体120と略平行に配設されている。
【0045】
<伝達機構500>
上記伝達機構500は、上記研磨機構100の軸体120に回転不能に取付けられた第一プーリ510と、上記支持フレーム225に回転可能に支持される伝達軸540と、伝達軸540に回転不能に取付けられた第二プーリ520と、この伝達軸540に第二プーリ520と異なる箇所で回転不能に取付けられた第三プーリ530と、上記第一プーリ510及び第二プーリ520に巻回される第一ベルト550と、上記第三プーリ530及び駆動プーリ430に巻回される第二ベルト560とを備える。
【0046】
上記伝達軸540は、上記軸体120及び駆動軸420と略平行に配設されている。また、第一プーリ510は、上記一対の支持フレーム225の間において軸体120に取付けられている。また、第二プーリ520も上記一対の支持フレーム225の間において伝達軸540に取付けられている。このため、第一プーリ510と第二プーリ520とは、軸直交方向で対向する位置に配設されている。また、第三プーリ530と駆動プーリ430とも、軸直交方向で対向する位置に配設されている。具体的には、砥石110が移動する平面に直交する方向から見た状態で、上記支持フレーム225よりも外側に上記第三プーリ530及び駆動プーリ430が配設されている。
【0047】
また、駆動プーリ430の径よりも第三プーリ530の径が大きく、また第三プーリ530の径よりも第二プーリ520の径が小さく、さらに第二プーリ520の径と第一プーリ510の径が略同径で設けられている。つまり、伝達機構500は、駆動機構400から研磨機構100に対して、回転を減速させて回転力を増大させて伝達するよう設けられている。
【0048】
<制御手段>
上記制御手段は、移動手段を制御するよう構成されている。具体的には、制御手段は、上記移動機構200の第一テーブル移動手段230、第二テーブル移動手段240及び付勢手段250と、上記駆動機構400の駆動源410とを制御している。また、制御手段は、駆動手段も制御するよう構成することも可能である。具体的には、制御手段が、上記駆動機構400の駆動源410を制御するよう構成することも可能である。ここで、制御手段は、種々のものを採用可能であり、コンピュータから構成することが可能である。
【0049】
上記制御手段は、研磨作業に際して以下のようなステップを行うよう制御している。つまり、制御手段は、図6に示すように、研磨開始の初期位置を認識する初期位置認識手順(S100)、研磨開始の初期位置から砥石110を退避させて待機させる待機手順(S200)、研磨開始の初期位置に砥石110を移動させて、研磨を開始させる開始手順(S300)、研磨をさせつつ砥石110を軸方向に移動させる研磨手順(S400)、研磨終了した砥石110を退避させる終了手順(S500)を順次行う。
【0050】
本実施形態の初期位置認識手順(S100)において、一対の砥石110の一方の砥石110の一端縁を、クランクジャーナル部1の一方のコーナー部に当接させて、この位置を初期位置として制御手段に認識させている。具体的には、例えば図3(B)の左側の砥石110の左端縁をクランクジャーナル部1の左側のコーナー部に当接させて、この位置を初期位置として認識させている。ここで、当接させるまで砥石110の移動を行うには、制御手段が移動機構200を駆動することも可能であり、さらには作業者が視認しつつ砥石110を手動によって移動させることも可能である。なお、この初期位置認識手順(S100)においては、エンジンが駆動されずにクランクジャーナル部1が静止状態である。
【0051】
また、上記待機手順(S200)において、制御手段は、砥石110を初期段階で研磨を行う位置の対向位置に待機させる。具体的には、制御手段は、上記初期位置認識手順(S100)の後に、第一テーブル210を移動させる。なお、制御手段が駆動機構400の駆動源410を制御しない場合には、この待機手順(S200)において駆動源410を駆動させることが好ましい。
【0052】
さらに、上記開始手順(S300)において、エンジンが駆動し回転するクランクジャーナル部1に回転する砥石110を当接させる。具体的には、制御手段は、上記待機手段(S200)の後に、第一テーブル210を移動させる。
【0053】
上記研磨手順(S400)を開始するにあたっては、クランクジャーナル部1を回転させ、また駆動機構400の駆動源410が駆動し砥石110を回転状態とする。なお、このクランクジャーナル部1を回転させるのは、上記開始手順(S300)に際して行うことが可能である。また、制御手段が駆動源410を制御する場合には、この研磨手順(S400)の開始に際して(例えば上記開始手順(S300)において)、制御手段は駆動源410を駆動し砥石110を回転させる。
【0054】
上記研磨手順(S400)において、制御手段は、上述のように砥石110を軸方向に移動させるが、具体的には第二テーブル220を軸方向に移動させる。この研磨手順(S400)においては、制御手段は、図7に示すように、まずクランクジャーナル部1の始端(一方のコーナー部)を研磨すべく研磨開始から砥石110を初期位置に所定時間位置させる初期手順(S410)と、この初期手順(S410)の後にクランクジャーナル部1の中途部を研磨すべく砥石110の軸方向の移動を行う中間手順(S420)と、この中間手順(S420)の後にクランクジャーナル部1の終端(他方のコーナー部)を研磨すべく終端の研磨開始から砥石110を上記終端位置に所定時間位置させる最終手順(S430)とを行う。ここで、初期手順(S410)及び最終手順(S430)における所定時間は、クランクジャーナル部1が一回転に要する時間と同じ又はそれ以上とすることが好ましい。なお、研磨に要する時間の短縮を考慮すると、上記所定時間は、クランクジャーナル部1の一回転と略同じ時間とすることが好ましい。
【0055】
上記中間手順(S420)において、制御手段は、上記初期手順(S410)の後に第二テーブル220を軸方向に一定ピッチ移動させる移動手順(S411)と、このように一定ピッチ移動された砥石110をその移動位置に所定時間位置させる移動停止手順(S413)とを行う。
【0056】
ここで、移動停止手順(S413)における所定時間は、初期手順(S410)及び最終手順(S430)における所定時間と同様に、クランクジャーナル部1が一回転に要する時間と同じ又はそれ以上とすることが好ましい。なお、研磨に要する時間の短縮を考慮すると、上記所定時間は、クランクジャーナル部1の一回転と略同じ時間とすることが好ましい。また、上記移動手順(S411)において移動する。
【0057】
また、移動手順(S411)における一定ピッチは、一対の砥石110の間隔D以下であり、さらに砥石110の幅W2,W3(一対の砥石110の幅が異なる場合には小さい方)と同じ又はそれ以下とすることが好ましい。なお、研磨に要する時間の短縮を考慮すると、上記ピッチは、砥石110の幅W2,W3(一対の砥石110の幅が異なる場合には小さい方)と略同じ幅とすることが好ましい。
【0058】
また、上記中間手順(S420)において、制御手段は、上記移動手順(S411)及び移動停止手順(S413)が所定回数繰り返されたか判断を行う判断手順(S415)を行う。なお、この判断手順(S415)は、図示上、上記移動停止手順(S413)の後に記載しているが、移動停止手順(S413)の終了前に(例えば移動手順(S411)の完了時又は移動停止手段(S413)の際に)、制御手段が上記判断を行うことが可能である。
【0059】
そして、制御手段は、判断手順(S415)において繰り返し行う回数が足りていないと判断した場合には、上記移動手順(S411)及び移動停止手順(S413)を再度行う。一方、制御手段は、判断手順(S415)において繰り返し回数に達したと判断した場合には、砥石110をクランクジャーナル部1の終端(初期位置の反対側のコーナー部)まで移動させる最終移動手順(S417)を行う。そして、この最終移動手順(S417)の後に、上記最終手順(S430)を制御手段は行う。
【0060】
なお、移動手順(S411)及び第二手順(S413)を繰り返す回数Tは、以下の式(1)及び(2)を満たす自然数であることが好ましい。

上記式(1)及び(2)において、Lは研磨すべきクランクジャーナル部1の軸方向の幅、W1は一対の砥石110の外端縁同士の幅(研磨機構100の幅)、W2は一対の砥石110の一方の砥石110の幅、W3は他方の砥石110の幅、Pは移動手順(S411)において砥石110を移動する幅を意味する。なお、一対の砥石110の幅を同一とし、式(1)及び(2)の左辺が自然数となるようピッチを設定し、左辺と回数Tとが等しいことが好ましく、これにより最終移動手順(S417)において、砥石110の幅だけ移動することができる。
【0061】
なお、この研磨手順(S400)において(初期手順(S410)、第二手順(S420)及び最終手順(S430)において)、制御手段は、砥石110の回転軸とクランクジャーナル部1の回転軸とが所定距離となるよう第二テーブル220を移動するよう付勢することが好ましく、具体的には、第二テーブル移動手段及び付勢手段によって第二テーブル220をクランクジャーナル部1側に付勢して、砥石110をクランクジャーナル部1側に押し付けてクランクジャーナル部1を研磨し、クランクジャーナル部1が所望の径となるよう研磨するよう構成することが好ましい。
【0062】
上記終了手順(S500)において、制御手段は、研磨手順(S400)を終えた砥石110をクランクジャーナル部1から退避させる。具体的には、制御手段は、研磨手順(S400)の最終手順(S430)の終了後に、砥石110をクランクジャーナル部1から離反する方向に第一テーブル210を移動させる。
【0063】
また、制御手段は、上記研磨によって所望量の研磨がなされていないと判断した場合には、上記開始手順(S300)及び研磨手順(S400)を再度行う。なお、この制御手段による判断は、研磨時における移動機構200の位置(第二テーブル220の移動量(第二テーブル移動手段240の駆動量))で判断することも可能であり、また予め繰り返す回数を設定しておき、既に研磨手順(S400)が繰り返された回数と設定された繰り返す回数とを比較することで判断することも可能である。
【0064】
[研磨方法]
次に、当該研磨装置によるクランクジャーナル部1の研磨方法について説明する。
【0065】
当該研磨方法は、当該研磨装置の上記砥石110をエンジンの一対のフィレット部5間に挿入し、クランクジャーナル部1の対向状態で且つ回転軸をクランクジャーナル部1の回転軸と平行に上記砥石110を配置するよう当該研磨装置を軸受部10に装着する工程と、エンジンを駆動させつつ上記砥石110を回転及び軸方向への移動させることによりクランクジャーナル部1を研磨する工程とを有する。
【0066】
当該研磨装置の軸受部10への装着を行う工程にあっては、まず研磨対象であるエンジンの軸受部10から軸受キャップを離脱して、ボルト13が突出した状態としておく。そして、このボルト13に当該研磨装置の基台部300を取付ける。この基台部300の取付けにあっては、まずボルト13に下部体320の上下のプレート321,323の穿孔321a,323aを挿入するよう台座サドルに下部体320を載置する。その後、ボルト13に上部体310の上下のプレート313,315の穿孔313a,315aを挿入するよう下部体320に下部体320を載置し、固定用孔315b,321bによって上部体310と下部体320とを固定する。また、下部体320とボルト13との間にウェッジ15を圧入着して、軸受部10の壁面側に下部体320を移動させる。さらに、ボルト13をナット17に螺着することで、ナット17によって上部体310及び下部体320を挟持状態で固定する。また、当該研磨装置の移動機構200等が取付けられた基台本体330の回動部材331を、上記上部体310の取付プレート311に、穿孔311a,331aに固定手段を装着することによって取付ける。なお、この回動部材331の取付プレートへの取付けにあたっては、研磨機構100の軸体120がクランクジャーナル部1の回転軸と平行となるよう、回動調整されて取付けられる。
【0067】
上記のように当該研磨装置がボルト13に装着されることで、当該研磨装置の砥石110はエンジンの一対のフィレット部5間に挿入され、クランクジャーナル部1の対向状態で且つ回転軸をクランクジャーナル部1の回転軸と平行に配置されることになる。
【0068】
上述の砥石110によりクランクジャーナル部1を研磨する工程にあっては、まず制御手段に対して研磨開始の初期位置を認識させる工程と、この初期位置から砥石110を退避させて待機させる工程と、エンジンを回転させるとともに砥石110を回転させてクランクジャーナル部1に当接させて研磨を開始する工程と、砥石110を軸方向に移動させつつ研磨を行う工程と、研磨が終了した際に砥石110をクランクジャーナル部1から退避させる工程とを行う。上記研磨が終了した際に所望量の研磨がなされていないと判断される場合には、再度上記研磨を開始する工程が行われる。そして、研磨が終了した際に所望量の研磨がなされていると判断される場合、当該研磨方法が完了する。これらの工程は、前述した制御手段による制御と、エンジンの駆動及び駆動停止と、砥石110の回転及び回転停止とにより行われる。
【0069】
当該研磨方法は上述のように行われ、上記工程がすべて完了した後に、上記軸受部10への当該研磨装置の装着を行う工程の逆の手順によって、当該研磨装置は軸受部10から離脱される。
【0070】
[利点]
当該研磨装置及び研磨方法は、上述のような研磨方法を行うことができ、以下のような利点を有する。
【0071】
つまり、当該研磨装置は、基台部300が取付手段を有するので、この取付手段によってエンジンの軸受部10に取付けて、上記研磨方法を実施することができる。また、当該研磨装置の取付手段は、上部体310、及びこの上部体310と別体の下部体320を備えるので、取付手段の取付作業に際して、上部体310及び下部体320を各々軸受部10のボルト13への挿入着作業を行うことができ、このため比較的大きな取付手段であっても、作業者が容易に把持して上記挿入着作業を行うことができる。また下部体320はテーパー部320aを有するので、このテーパー部320aとボルト13との間にウェッジを圧入着することで下部体320を軸受部10の壁面側に位置させることができる。さらに、当該研磨装置は、基台部300の基台本体330が、移動機構200等を介して砥石110を支持する回動部材331を備え、この回動部材331が取付手段の取付プレート311に回動角度調整可能に取付けられているので、砥石110の回転軸をクランクジャーナル部1の回転軸と平行となるよう調節して軸受部10に装着することができる。
【0072】
さらに、当該研磨装置は、砥石110が軸方向に移動可能であるので、砥石110の研磨部分をクランクジャーナル部1の軸方向に移動させることで、クランクジャーナル部1を広範囲に亘って研磨することができる。特に、一対の砥石110が離間する間隔以上に砥石110は移動可能であるので、クランクジャーナル部1のうち一対の砥石110間の部分に対応する領域も研磨することができる。
【0073】
また、当該研磨装置にあっては、上記砥石110の軸方向への移動を制御する制御手段を備えるので、研磨開始から終了までの一連の研磨作業を制御手段によって制御しつつ行うことができ、このため一連の研磨作業に際して、作業者が当該研磨装置の近くに位置することを要せず、容易かつ確実に研磨作業を行うことができる。
【0074】
さらに、当該研磨方法にあっては、上記砥石110による研磨に際してクランクジャーナル部1を回転させて、クランクジャーナル部1を周方向に亘って研磨することができる。このため、クランクジャーナル部1の周方向の位置を変更させるよう砥石110を移動させる必要がなく、当該研磨装置の取付構造等が比較的簡易であり、簡便且つ確実に研磨を行うことができる。
【0075】
また、制御手段は、クランクジャーナル部1の始端及び終端の研磨に際して、砥石110の軸方向の位置をクランクジャーナル部1が一回転する時間以上停止させているので、クランクジャーナル部1の始端及び終端の周方向全体を研磨することができる。また、制御手段は砥石110を軸方向に各ピッチずつ移動させ、移動後に軸方向の位置をクランクジャーナル部1が一回転する時間以上停止させているので、クランクジャーナル部1の中途部も周方向全体にわたり研磨することができる。さらに、上記軸方向に移動するピッチは、砥石110の幅よりも小さいので、軸方向全域にわたってクランクジャーナル部1を研磨することができる。
【0076】
また、当該研磨装置は、軸体120及び螺着部材130が砥石110よりも軸方向外側に位置しないので、軸体120及び螺着部材130がフィレット部5に当接しない状態で、始端及び終端(フィレット部5近傍のクランクジャーナル部1のコーナー部)を砥石110で的確に研磨することができる。また、研磨機構100は、軸方向の幅W1と移動可能距離Wとの和が、移動機構200及び基台部300の幅W4よりも大きく設けられ、研磨機構100の砥石110は、移動機構200による移動によって移動機構200及び基台部300よりも軸方向外側に位置可能に設けられているので、フィレット部5近傍のクランクジャーナル部1を的確に研磨することが可能である。
【0077】
また、当該研磨装置の移動機構200が、基台部300に一方向にスライド可能に取付けられた第一テーブル210、及びこの第一テーブル210に上記一方向と交差する方向にスライド可能に取付けられるとともに上記砥石110を支持する第二テーブル220を備えているので、上記軸方向の砥石110の移動を容易に行うことができるとともに、径方向に砥石110を移動して砥石110をクランクジャーナル部1に接近・離反させることができる。つまり、当該研磨装置にあっては、第一テーブル210をスライドさせることで、砥石110を軸方向に移動させることができ、また第二テーブル220をスライドさせることで、砥石110をクランクジャーナル部1に接近・離反することができる。また、当該研磨装置にあっては、砥石110によるクランクジャーナル部1の研磨に際して、砥石110をクランクジャーナル部1に押し付けるよう第二テーブル220に力を作用させるので、クランクジャーナル部1の研磨を確実に行うことができる。さらに、当該研磨装置にあっては、第二テーブル220を移動させる第二テーブル移動手段240のみならず付勢手段250も有しているので、上記砥石110をクランクジャーナル部1により的確に押し付けた状態でクランクジャーナル部1の研磨を行うことができる。なお、第一テーブル210の移動方向及び第二テーブル220の移動方向を直角ではなく交差する方向とすることも可能であるが、上記実施形態においては二つの移動方向を直交するよう設けたため、砥石110の移動の制御に際して一方のテーブルを移動すれば足りることが多く、その制御が容易且つ確実である。
【0078】
さらに、当該研磨装置は、一つの軸体120の両端に一対の砥石110を取付けているので、一つの軸体120を回転することで一対の砥石110を回転させることができる。また、当該研磨装置は、砥石110を回転するための駆動機構400と、この駆動機構400の回転力を上記軸体120に伝達する伝達機構500と備え、伝達機構500が、一対の砥石110の間で軸体120に連結されているので、駆動機構400の回転力が伝達機構500を介して軸体120に伝達され、この軸体120に取付けられた一対の砥石110を容易且つ確実に回転させることができる。特に、軸体120、伝達機構500及び駆動機構400は、いずれも移動機構200の第二テーブル220に取付けられているので、移動機構200の移動によって相対距離が変更せず、このため駆動力の伝達するための構造が容易であり、この伝達が確実に行われる。さらに、伝達機構500は、駆動機構400から研磨機構100に対して回転を減速させて回転力を増大させて伝達するよう設けられているので、砥石110に対して強い回転力を与えることができ、研磨がより的確に且つ確実に行われる。
【0079】
また、上記軸体120に砥石110は螺着部材130によって取付けられるので、砥石110を容易且つ確実に軸体120に取付けることができる。しかも、螺着部材130は、螺着するための回転方向が、上記軸体120の回転方向と逆向きとなるよう設けられているので、研磨に際して螺着部材130が不用意に離脱することを的確に防止されている。さらに、研磨機構100は、上記螺着部材130の不用意な回転を抑止する抑止手段を有するので、螺着部材130の不用意な回転が抑止され、螺着部材130が不用意に離脱することをより的確に防止されている。
【0080】
さらに、当該研磨装置は砥石ドレッサ340を有するので、砥石110を洗浄することかできる。特に、砥石ドレッサ340は基台部300に取付けられ、砥石ドレッサ340と砥石110との軸方向の相対位置が変更可能に設けられているので、砥石ドレッサ340の軸方向の洗浄可能領域が狭い場合でも、移動機構200の移動により砥石ドレッサ340と砥石110との相対位置を変更させつつ砥石110全体を的確且つ確実に洗浄することができる。
【0081】
[その他の実施形態]
なお、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の意図する範囲内において適宜設計変更可能である。
【0082】
つまり、上記実施形態においては、移動機構200を制御する制御手段を有するものについて説明したが、この制御手段は本発明において必須の構成要件ではない。また、制御手段を設ける場合にあっても、この制御手段の手順は、上記実施形態のものに限定されるものではなく、種々の手順を採用することができる。
【0083】
また、上記実施形態のように、研磨手順(S400)において、制御手段は、初期手順(S410)と、中間手順(S420)と、最終手順(S430)とを行う場合にあっても、上記中間手順(S420)の具体的構成は上記実施形態のものに限定されるものではない。例えば、上記中間手順において、制御手段が、一定速度で第二テーブル220を軸方向に始端から終端まで移動させるよう構成することも可能である。上記一定速度としては、クランクジャーナル部1が一回転する時間の間軸方向に砥石110の幅だけ進む速度よりも遅いことが好ましい。これにより、クランクジャーナル部1の周方向及び軸方向全体を研磨することができる。
【0084】
さらに、上記実施形態のように中間手順(S420)において、移動手順(S411)と移動停止手順(S413)とを繰り返して行う場合にあっても、上記実施形態のものに限定されるものではなく、例えば移動手順(S411)において砥石110をクランクジャーナル部1から退避させた状態で移動するよう構成することも可能である。なお、最終移動手順(S417)についても同様である。
【0085】
また、上記実施形態においては、研磨手順(S400)において(初期手順(S410)、第二手順(S420)及び最終手順(S430)において)、制御手段は、砥石110の回転軸とクランクジャーナル部1の回転軸とが所定距離となるよう第二テーブル220を移動させるよう設けることについて説明したが、例えば、制御手段が、研磨に際して第二テーブル220に作用する力(付勢に対する反作用の力)を検出して、この力が一定になるよう第二テーブル220の移動を制御することも可能である。これにより、例えば回転軸からの距離が一定でないクランクジャーナル部1であっても、的確に研磨を行うことができる。
【0086】
また、上記実施形態においては、一つの軸体120の両端に砥石110を取付けたものについて説明したが、例えば、二つの軸体を設け、一の軸体の一端に一つの砥石110を取付け、他の軸体の他端に他の砥石110を取付けて、各軸体を個別に回転駆動するよう構成することも可能である。
【0087】
さらに、上記実施形態においては、メンテナンス時に好適に用いられるエンジンのクランクジャーナル部のメンテナンス用の研磨装置について主として説明したが、本発明はこれに必ずしも限定されるものではなく、いわゆる新品のエンジンのクランクジャーナル部1用の研磨装置であっても適用可能である。また、上記実施形態の研磨装置は、エンジンの軸受部10に取付可能な取付手段を有するものであったが、本発明においてこの取付手段は必須の構成要件ではない。
【産業上の利用可能性】
【0088】
以上のように、当該研磨装置及びこれを用いた研磨方法は、エンジンのクランクジャーナル部を容易且つ確実に研磨することができるので、たとえば船舶のディーゼルエンジンのメンテナンス作業に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0089】
1 クランクジャーナル部
3 クランクピン
5 フィレット部
10 軸受部
11 台座サドル
13 ボルト
15 ウェッジ
17 ナット
100 研磨機構
110 砥石
111 貫通孔
113 収容凹部
117 収容凹部
120 軸体
121 嵌入部
123 鍔部
130 螺着部材
130a スリット
200 移動機構
210 第一テーブル
211 第二テーブルガイド手段
220 第二テーブル
221 テーブル本体
223 支持部
224 連結フレーム
225 支持フレーム
225a 軸受
225b 軸受
230 第一テーブル移動手段
240 第二テーブル移動手段
250 付勢手段
260 砥石ドレッサ
300 基台部
301 第一テーブルガイド手段
310 上部体
311 取付プレート
311a 穿孔
313 上部プレート
313a 穿孔
315 下部プレート
315a 穿孔
315b 固定用孔
317 連結フレーム
320 下部体
320a テーパー部
321 上部プレート
321a 穿孔
321b 固定用孔
323 載置プレート
323a 穿孔
325 連結フレーム
327 当接フレーム
329 補強リブ
330 基台本体
331 回動部材
331a 穿孔
400 駆動機構
410 駆動源
420 駆動軸
430 駆動プーリ
500 伝達機構
510 第一プーリ
520 第二プーリ
530 第三プーリ
540 伝達軸
550 第一ベルト
560 第二ベルト
D 一対の砥石の間隔
T 繰り返し回数
W 砥石の移動可能距離
W1 研磨機構の幅
W2,W3 一つの砥石の幅
W4 移動機構の幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同軸で回転する一対の砥石と、
この砥石を軸方向に移動する移動機構と
を備え、
上記一対の砥石が軸方向に一定間隔離間して配設され、
上記移動機構による砥石の軸方向の移動可能距離が、上記一対の砥石の間隔以上である
エンジンのクランクジャーナル部用の研磨装置。
【請求項2】
両端に上記砥石が取付けられる軸体を備える
請求項1に記載のエンジンのクランクジャーナル部用の研磨装置。
【請求項3】
上記軸体の両端に螺着可能で且つ軸体に螺着した際に砥石の外端面に当接可能な螺着部材をさらに備え、
上記砥石の外端面に、上記螺着部材を収容可能な凹部が形成されている
請求項2に記載のエンジンのクランクジャーナル部用の研磨装置。
【請求項4】
砥石を回転するための駆動機構と、
この駆動機構の回転力を上記軸体に伝達する伝達機構と
をさらに備え、
上記伝達機構が、一対の上記砥石の間で上記軸体に連結されている
請求項2又は請求項3に記載のエンジンのクランクジャーナル部用の研磨装置。
【請求項5】
エンジンの軸受部に取付可能な取付手段を有する基台部をさらに備える
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のエンジンのクランクジャーナル部用の研磨装置。
【請求項6】
上記移動機構が、
上記基台部に一方向にスライド可能に取付けられた第一テーブルと、
この第一テーブルに上記一方向と交差する方向にスライド可能に取付けられるとともに上記砥石を支持する第二テーブルと
を備える
請求項5に記載のエンジンのクランクジャーナル部用の研磨装置。
【請求項7】
上記砥石の軸方向への移動を制御する制御手段をさらに備える
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のエンジンのクランクジャーナル部用の研磨装置。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載のエンジンのクランクジャーナル部用の研磨装置の上記砥石をエンジンの一対のフィレット部間に挿入し、クランクジャーナル部の対向状態で且つ回転軸をクランクジャーナル部の回転軸と平行に上記砥石を配置し、
エンジンを駆動させつつ上記砥石を回転及び軸方向への移動させることによりクランクジャーナル部を研磨する
エンジンのクランクジャーナル部の研磨方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−78832(P2013−78832A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−220538(P2011−220538)
【出願日】平成23年10月4日(2011.10.4)
【出願人】(303047034)神戸発動機株式会社 (1)
【Fターム(参考)】