説明

エンジンの燃焼可視化装置

【課題】低コストかつ短時間で製造や改良ができ、全運転域で燃焼室を視認できる燃焼可視化エンジンを形成できるエンジンの燃焼可視化装置を提供する。
【解決手段】燃焼可視化エンジン1Aを形成する燃焼可視化装置2Aは、エンジン1のシリンダヘッド4aに貫通形成されて燃焼室6に臨む貫通孔7に挿通される筒状本体部11を備え、筒状本体部11の先端には燃焼室6に臨むレンズ37が設けられ、筒状本体部11の内部であってレンズ37よりも基端側にはレンズ37で集光された光を導通させる導光部35が設けられ、筒状本体部11の内部には導光部35の周囲に第一の冷媒導通路31を設け、冷媒導通路31に任意の圧力を加えた気体乃至液体の冷媒を導通させて導光部35を冷却させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンダスリーブ内部における燃焼状態を観察可能にしたエンジンの燃焼可視化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンの燃焼研究においては、シミュレーションが有効な手段であり、それにより、燃焼の過程で発生で生成するラジカル基等の中間生成物や窒素酸化物(NOx)、CO2等が発光する波長の異なった光の診断することで燃焼の反応過程を確認することが有効である。このような観点からエンジンの燃焼状態の可視化技術や光学診断技術が求められている。従来、このような目的に用いるために、石英ガラス等の透光性材料によって形成されたシリンダやピストンを備え、シリンダ側方からシリンダ内部の燃焼状態やピストンの動作状態が視認できるようにした燃焼可視化エンジンが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−112034号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載の発明においては、シリンダやピストンを形成する透光性材料の耐圧性や耐熱性が金属材料に比べて劣る。そのため、引用文献1に記載の燃焼可視化エンジンは、自動車等を走行させる際のエンジンの通常使用時に用いられる高負荷状態や高回転状態のシミュレーションを行いつつ、シリンダ内部の燃焼状態等を視認することは難しい。また、透光性材料によって形成されるシリンダやピストンは通常は一品生産物として製造される。そのため、特許文献1に記載の燃焼可視化エンジンにおいて改良が必要となった場合、当該燃焼可視化エンジンを一品生産物として作り直さなければならず、多大な時間とコストを要するという問題がある。更に、透光性材料と金属製材料とでは熱伝導状態が異なるため、特許文献1に記載の燃焼可視化エンジンにおいては、通常のエンジンの熱伝導状態に忠実なシミュレーションを行うことが難しくなるという問題がある。
【0005】
一方、上述の問題を解決するため、シリンダやピストンが通常の金属材料で形成されたエンジンに内視鏡を配設してシリンダ内部を視認できるようにした燃焼可視化エンジンを形成することも考えられる。しかし、このような燃焼可視化エンジンは、内視鏡の耐熱性や耐圧性が、シリンダやピストンを形成する金属材料に比べて劣るため、エンジン負荷の小さい領域しか視認できないという問題がある。
【0006】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、低コストかつ短時間で製造や改良ができ、全運転域にわたって燃焼室を視認できる燃焼可視化エンジンを形成できるエンジンの燃焼可視化装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる課題を達成するために、請求項1に記載の発明は、内燃機関としてのエンジンの燃焼状態を視認するためのエンジンの燃焼可視化装置であって、前記エンジンのシリンダヘッドに貫通形成されて燃焼室に臨む貫通孔に挿通される筒状本体部を備え、該筒状本体部の先端には前記燃焼室に臨むレンズが設けられ、前記筒状本体部の内部であって前記レンズよりも基端側には前記レンズで集光された光を導通させる導光部が設けられ、前記筒状本体部の内部には前記導光部の周囲に冷媒導通路を設け、該冷媒導通路に任意の圧力を加えた気体乃至液体の冷媒を導通させて前記導光部を冷却させることを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の構成に加え、前記導光部の外周側に略円筒形の隔壁が形成され、前記冷媒導通路は、前記導光部と前記隔壁との間に形成された第一の冷媒導通路と、前記隔壁と前記筒状本体部との間に形成された第二の冷媒導通路と、前記第一の冷媒導通路と前記第二の冷媒導通路とを連通させる連通部とを有し、前記冷媒は、前記第一の冷媒導通路、前記連通部、前記第二の冷媒導通路にそれぞれ導通されることを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の構成に加え、前記第一の冷媒導通路は、前記筒状本体部の軸方向から見て、内周部が連続した波形に形成されていることを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3の何れか一つに記載の構成に加え、前記筒状本体部と前記レンズとの間には、弾性変形により前記レンズと前記筒状本体部との熱膨張の差異を緩衝する略円環状の緩衝材が配設されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に記載の発明によれば、エンジンの燃焼可視化装置は、金属材料で形成されたエンジンに貫通孔を形成して挿通させるだけで当該エンジンの燃焼状態を確認できる。従って、燃焼可視化エンジンの製造や改良を、製造ラインにより製造される製品に基づいて製造できる。また、金属材料で形成され耐熱性や耐圧性が高いエンジンにエンジンの燃焼可視化装置を取り付けることで当該エンジンの燃焼状態を確認できるので、実際に自動車等を走行させる際に発生する高負荷状態や高回転状態でエンジンのシミュレーションを行うことができ、かつ、通常の自動車のエンジンと同様の熱伝導状態をシミュレーションできる。また、エンジンの燃焼可視化装置の内部には導光部の周囲に冷媒導通路を設け、冷媒導通路に任意の圧力を加えた気体乃至液体の冷媒を導通させて導光部を冷却させることにより、エンジンが高負荷状態や高回転状態となってエンジン内部が高温になっても、流動する冷媒によって可視化装置の内部を冷却することで、導光部が過熱して変形したり破損したりする事態を抑止できる。これにより、低コストかつ短時間で製造や改良ができて、全運転域にわたって燃焼室を視認できる燃焼可視化エンジンを形成できる。
【0012】
請求項2に記載の発明によれば、冷媒は、導光部と隔壁との間に形成された第一の冷媒導通路、連通部、隔壁と前記筒状本体部との間に形成された第二の冷媒導通路にそれぞれ導通されることにより、導光部の周囲を冷媒が往復して通過することになり、導光部の冷却効率を高め、導光部が過熱して膨張したり破損したりする事態を確実に抑止できる。
【0013】
請求項3に記載の発明によれば、第一の導通路は、筒状本体部の軸方向から見て、内周部が連続した波形に形成されていることにより、隔壁の強度を確保しつつ、導光部を確実に冷却することができる。
【0014】
請求項4に記載の発明によれば、エンジンの熱によって可視化装置が熱せられ、筒状本体部とレンズとが異なる膨張率で膨張した場合も、緩衝材が弾性変形してレンズと筒状本体部との熱膨張の差異を緩衝する。また、筒状本体部とレンズとがそれぞれ膨張することによりレンズに過大な押圧力が加わることを抑止する。これにより、筒状本体部やレンズが過熱して異なる膨張率で膨張した場合にレンズが変形したり破損したりする事態を抑止できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】この発明の実施の形態1に係る燃焼可視化装置の全体構成を示す断面図及びエンジンのシリンダヘッド近傍を拡大した断面図である。
【図2】同上実施の形態1に係る燃焼可視化装置の第一の内側筒部、第二の内側筒部、内視鏡の断面図である。
【図3】同上実施の形態1に係る隔壁と内視鏡の導光部のA−A断面図である。
【図4】この発明の実施の形態1に係る燃焼可視化エンジンの概略図である。
【図5】(a)同上実施の形態1に係る燃焼可視化エンジンの、燃焼可視化装置を取り外した状態の平面図、(b)同上実施の形態1に係る燃焼可視化エンジンの、燃焼可視化装置を取り付けた状態の側面図である。
【図6】この発明の実施の形態2に係る燃焼可視化装置の第一の内側筒部、第二の内側筒部、内視鏡の断面図である。
【図7】同上実施の形態2に係る燃焼可視化装置の締結部材周辺を部分拡大した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[発明の実施の形態1]
【0017】
図1乃至図5に、この発明の実施の形態1を示す。
【0018】
まず構成を説明すると、図4に示す、この実施の形態1の燃焼可視化エンジン1Aは、エンジン1と、このエンジン1に接続された、「エンジンの燃焼可視化装置」としての燃焼可視化装置2Aを有する。
【0019】
エンジン1は、自動車等の輸送機関に搭載される各種内燃機関であって、図5に示す通り、四輪車用の水冷式4バルブガソリンエンジンである。但し、エンジン1は輸送機関用の内燃機関であればどのようなものであってもよく、例えば二輪車用の空冷式ガソリンエンジン、四輪車用の水冷式ディーゼルエンジン等でもよいし、バルブの数は4つより少なくても多くてもよい。この実施の形態1のエンジン1の材質や形状は、市販される自動車等に搭載されるエンジンと同様のものである。即ち、エンジン1は、通常のライン製造によって大量生産されるものである。但し、エンジン1は通常のライン製造とは別の一品生産物として製造されたものであってもよい。
【0020】
図4に示す通り、エンジン1は、エンジン本体3の一部に形成されたシリンダ4と、シリンダ4の内部に配設されるピストン5とを有する。シリンダ4とピストン5とは、耐熱性や耐摩耗性の高い鉄やアルミニウム等の金属、及びそれらを用いた合金で形成される。シリンダ4の先端側に形成されたシリンダヘッド4aとピストン5とに仕切られた空間は燃焼室6を形成する。
【0021】
図4及び図5に示す通り、シリンダ4の先端側には、上端側に貫通孔7が開口形成されている。貫通孔7には燃焼可視化装置2Aの先端部がシリンダ4の径方向に挿通されている。
【0022】
図4に示す通り、貫通孔7からシリンダ4内部に挿通された燃焼可視化装置2Aは、先端が燃焼室6に臨み、基端側がシリンダ4の外部に突出している。燃焼可視化装置2Aの外周部の一部は、シリンダ4内部を循環するエンジン冷却水8に接している。燃焼可視化装置2Aの先端側にはガスケット9が、基端側にはOリング10がそれぞれ嵌合されて、貫通孔7からエンジン冷却水8が漏洩することを防いでいる。
【0023】
図4に示す通り、燃焼可視化装置2Aは、筒状本体部11、内視鏡12、デジタルカメラ13、画像表示コントローラ14、モニタ15、エンコーダ16a、圧力センサ16bを有している。
【0024】
図1に示す通り、筒状本体部11は、外側筒部17、第一の内側筒部18、第二の内側筒部19を有する。
【0025】
外側筒部17は、筒状本体部11の先端側から略中央部にかけての一番外周側に設けられている。外側筒部17は、鉄、アルミニウム等の金属、及びそれらを用いた合金など、耐熱性と耐水性の高い材料によって略円筒形に形成されている。外側筒部17の基端部の内周面には、雌ねじ23が刻設されている。
【0026】
第一の内側筒部18は、外側筒部17の内部に設けられている。第一の内側筒部18は、鉄、アルミニウム等の金属、及びそれらを用いた合金など、耐熱性の高い材料によって略円筒形に形成されている。第一の内側筒部18の外径は、外側筒部17の内径に略等しい大きさに形成されている。
【0027】
図1及び図2に示す通り、第一の内側筒部18の先端は端面視環状の端面部21が形成され、端面部21の内周には開口部22が開口形成されている。第一の内側筒部18の基端側の外周面には外側筒部17の雌ねじ23に螺合される雄ねじ24が刻設され、基端側の内周面には雌ねじ25が刻設されている。
【0028】
第二の内側筒部19は、先端側の外径が第一の内側筒部18の内径に略等しい大きさに形成されている。第二の内側筒部19は軸方向の長さが外側筒部17や第一の内側筒部18よりも長く、先端側が第一の内側筒部18の内部に嵌挿された状態で、基端側が外側筒部17の基端側及び第一の内側筒部18の基端側から外方に突出している。第二の内側筒部19の先端には端面26が形成されている。第二の内側筒部19の軸方向基端側の外周面には、第一の内側筒部18の雌ねじ25に螺合される雄ねじ27が刻設されている。
【0029】
また、第二の内側筒部19の基端部側の側面には、第二の内側筒部19を貫通して第二の内側筒部19の内部と筒状本体部11の外部とを連通する冷媒排出孔20が形成されている。
【0030】
第二の内側筒部19の基端部から先端側に向けて、筒状本体部11の軸方向に沿って隔壁28が突設されている。隔壁28は、第二の内側筒部19と同じ材質によって、外径が第二の内側筒部19の内径よりも小さい略円筒形に形成されている。隔壁28の外周側と第二の内側筒部19との間には、環状の間隙が形成されている。
【0031】
また、図3に示す通り、隔壁28の内周部29は、軸方向から見て、内周面が連続した波形に形成されている。なお、内周部29の波形の波の大きさや形状や数は、隔壁28の剛性を確保しつつ、後述する第一の冷媒導通路32(図1及び図2参照)として冷媒を導通させる機能とを併有させることができれば、どのようなものでもよい。
【0032】
更に、図1及び図2に示す通り、第二の内側筒部19の基端部側の側面には、隔壁28の内部と筒状本体部11の外部とを連通する冷媒吸入孔30が形成されている。なお、冷媒吸入孔30には、空気に陽圧を加えて排出させるコンプレッサ(図示せず)に接続された吸入管(図示せず)等が接続される。
【0033】
図1及び図2に示す通り、燃焼可視化装置2Aの内部には、冷媒導通路31が形成される。冷媒導通路31は、冷媒吸入孔30、内視鏡12の後述する導光部35の外側と隔壁28の内側との間隙に形成される第一の冷媒導通路32、隔壁28の外側と筒状本体部11の内側との間隙に形成された第二の冷媒導通路33、導光部35の先端部とレンズ37の基端側とに臨む間隙に形成されて第一の冷媒導通路32と第二の冷媒導通路33とを連通させる連通部34、冷媒排出孔20、から成る。
【0034】
冷媒導通路31には冷媒が導通される。後述するとおり、この実施の形態1の冷媒である空気は、コンプレッサ(図示せず)によって陽圧をかけられて冷媒吸入孔30に供給される。なお、この実施の形態1において冷媒導通路31に導通される冷媒は空気であるが、燃焼可視化装置2Aの内部の熱を吸収しうるものであればどのようなものを冷媒に用いてもよい。具体的には、例えば、冷媒は空気以外の気体(例えば気化した二酸化炭素や窒素等、各種希ガス等)でもよいし、液体(例えば水、油脂、液化二酸化炭素、液化窒素等)であってもよい。
【0035】
内視鏡12は、導光部35と、内視鏡本体部36とを備える。
【0036】
導光部35は、導光部35は、例えば光ファイバーケーブル等、光を導通させる媒体によって細長い形状に形成された内視鏡用プローブであり、レンズ37で集光された光を筒状本体部11の基端側に挿通させる。図1及び図2に示す通り、導光部35は、レンズ37よりも基端側に位置して隔壁28の内部に挿通された状態で配設されている。導光部35の先端側はレンズ37の基端側に対向して配設されている。
【0037】
図1に示す通り、内視鏡本体部36には、導光部35の基端側が接続される。内視鏡本体部36の内部には、各種光学系が設けられている。
【0038】
図4に示す通り、内視鏡本体部36は、デジタルカメラ13に接続されている。デジタルカメラ13は、CCD撮像素子やCMOS撮像素子等、導光部35を導通された光を光電変換して送信・記録するために必要な構成を有する。
【0039】
デジタルカメラ13は画像表示コントローラ14に接続されている。画像表示コントローラ14は各種コンピュータであり、CPUを有し、デジタルカメラ13が撮像した画像をモニタ15に表示させる。また、画像表示コントローラ14にはエンコーダ16aや圧力センサ16bが接続され、これらの計測値に基づいてPV線図等の画像を形成する。
【0040】
モニタ15はLCD等であり、各種画像を表示する。エンコーダ16aはクランクシャフト(図示せず)等に取り付けられ、クランクシャフト(図示せず)の回転角を計測し、計測値を画像表示コントローラ14に供給する。圧力センサ16bはプラグと一体型であり、混合気に点火すると共に燃焼室6の内部の圧力を検出する。
【0041】
図2に示す通り、筒状本体部11の内側において、第一の内側筒部18の先端側の端面部21と第二の内側筒部19の端面26との間にはレンズ37が配設されている。レンズ37は石英ガラス等の耐熱性の高い材質によって形成されており、レンズ37の一部は開口部22から外部に露出している。
【0042】
外側筒部17の端面部21とレンズ37の先端側との間には、「緩衝材」としての円環状の第一の緩衝材38が設けられ、レンズ37の基端側には「緩衝材」としての円環状の第二の緩衝材39が設けられている。
【0043】
第一の緩衝材38、及び第二の緩衝材39は、耐熱性のある材料、例えばガラス繊維を略円環状に形成して成る。第一の緩衝材38、第二の緩衝材39は、レンズ37と筒状本体部11とが熱膨張したときに弾性変形し、常温時と熱膨張時との体積や形状の差異を緩衝する。第一の緩衝材38、及び第二の緩衝材39は、耐熱性があり、押圧力が加わると弾性変形する性質を有するものならば、どのような素材で形成されていてもよい。
【0044】
第二の緩衝材39は、金属製の円環状のガスケット40に隣接する状態で配設される。ガスケット40は第二の内側筒部19の端面26に接触する。この実施の形態1においてガスケット40は銅製であるが、液密性を有するものであればどのような金属又は金属以外の材料で形成されてもよい。
【0045】
即ち、図2に示す通り、レンズ37は、第一の緩衝材38、第二の緩衝材39、ガスケット40を介して、第一の内側筒部18の端面部21の内側と第二の内側筒部19の端面26との間に挟持されている。
【0046】
次に、この実施の形態1の作用について説明する。
【0047】
まず、この実施の形態1の燃焼可視化装置2Aを組み立てる場合、図2に示す通り、第二の内側筒部19の基端側から内視鏡12の導光部35を隔壁28の内部に挿通させる。この状態で、第二の内側筒部19と内視鏡12とを接合させる。
【0048】
次に、第一の内側筒部18の内部に、第一の緩衝材38を介してレンズ37を配設し、更に、第二の緩衝材39、ガスケット40を配設したのち第二の内側筒部19を配設する。第一の内側筒部18の雌ねじ25と第二の内側筒部19の雄ねじ27とを螺合させ、第一の内側筒部18と第二の内側筒部19とを接合させる。雌ねじ25と雄ねじ27との螺合状態を調節することで、適切な強度で第一の内側筒部18と第二の内側筒部19との間にレンズ37を挟持できる。
【0049】
更に、図1に示す通り、外側筒部17の雌ねじ23と第一の内側筒部18の雄ねじ24とを螺合させ、外側筒部17と第一の内側筒部18とを接合させる。以上の工程で燃焼可視化装置2Aが形成される。
【0050】
次に、この実施の形態1の燃焼可視化エンジン1Aを製造する場合、図5の(a)に示す通り、ライン生産されたエンジン1のシリンダヘッド4aに貫通孔7を貫通形成する。貫通孔7には、図1及び図5の(b)に示す通り、外周部にガスケット9とOリング10とを配設した燃焼可視化装置2Aを挿通させて配設する。更に、図4に示す通り、燃焼可視化装置2Aの内視鏡12と、デジタルカメラ13と、画像表示コントローラ14と、モニタ15とをそれぞれ接続して、燃焼可視化エンジン1Aが完成する。
【0051】
このように、大量生産品としてライン生産されたエンジン1を用いて燃焼可視化エンジン1Aを製造する。そのため、一品生産品のエンジンをわざわざ製造する場合に比べ、燃焼可視化エンジン1Aの製造や改良を、簡易な工程で、しかも低コストで行うことができる。燃焼可視化装置2Aは、防水性のある外側筒部17にガスケット9とOリング10が配設された状態でシリンダ4の内部のエンジン冷却水8に接する。そのため、貫通孔7からエンジン冷却水8が外部に漏洩することや、エンジン冷却水8が燃焼可視化装置2Aの内部に侵入することを防止できる。
【0052】
次に、この実施の形態1の燃焼可視化エンジン1Aで燃焼試験を行う場合、エンジン1を稼動させ、燃焼室6で混合気を燃焼させる。この状態で、内視鏡12、画像表示コントローラ14、モニタ15の電源を入れると、燃焼により発生する燃焼室6内部の光がレンズ37で集光される。レンズ37で集光された光は導光部35を導通して内視鏡本体部36に送られる。デジタルカメラ13は受光した光を光電変換して撮像し、撮像した画像を画像表示コントローラ14に送る。画像表示コントローラ14は画像に任意の画像処理を施して、その画像をモニタ15に表示させる。これにより、モニタ15には燃焼室6内の燃焼情報(混合気の爆発による光の色や発光位置等)が画像表示される。
【0053】
更に、図4に示す通り、画像表示コントローラ14はエンコーダ16aや圧力センサ16bの検出結果に基づいてPV線図を画像形成し、モニタ15に表示させる。
【0054】
ここで、コンプレッサ(図示せず)を稼動させると、図2に示す通り、圧縮空気が冷媒吸入孔30に供給される。この圧縮空気は冷媒吸入孔30を導通し、第一の冷媒導通路32、連通部34、第二の冷媒導通路33を導通し、更に冷媒排出孔20を導通して外部に排気される。
【0055】
エンジン1の稼動により発生した熱はシリンダ4を介して燃焼可視化装置2Aに伝導する。燃焼可視化装置2Aを構成するレンズ37や導光部35は、材質の特質上、過熱による変形や破損が生じ易い。しかし、エンジン1の発する熱よりも低温の圧縮空気が第一の冷媒導通路32、連通部34、第二の冷媒導通路33を導通する。これにより、レンズ37や導光部35の熱を圧縮空気に伝導させ、熱を外部に放出させることができるため、レンズ37や導光部35が熱によって変形したり破損したりする事態を抑止できる。
【0056】
また、圧縮空気は、図2に示す通り、第一の冷媒導通路32、連通部34、第二の冷媒導通路33の順でそれぞれ導通される。そのため、圧縮空気は、まず第一の冷媒導通路32において導光部35の周辺を通過して導光部35の熱を吸収し、更に、第二の冷媒導通路33において導光部35の周辺を通過して導光部35の熱を吸収する。つまり、圧縮空気は、導光部35の周囲を冷媒が往復して通過することになる。これにより、導光部35の冷却効率を高め、導光部35が過熱して膨張したり破損したりする事態を確実に抑止できる。
【0057】
また、図3に示す通り、第一の冷媒導通路32を形成する隔壁28は、筒状本体部11の軸方向から見て、内周部29が連続した波形に形成されている。そのため、隔壁28が肉厚の部分において隔壁の強度を確保しつつ、隔壁が薄肉の部分に間隙を形成して圧縮空気を確実に導通させ、導光部を確実に冷却することができる。
【0058】
なお、燃焼可視化装置2Aの第一の内側筒部18と第二の内側筒部19とは金属製であり、石英ガラスで形成されたレンズ37とは熱膨張率が異なる。そのため、仮に、レンズ37が第一の内側筒部18の端面部21と第二の内側筒部19の端面26との間に隙間なく挟持されていたとすると、エンジン1で発生した熱が燃焼可視化装置2Aに伝導したときに、上述の熱膨張率の違いにより配設状態が不安定になったり、レンズ37の変形や破損が生じ易くなったりする。
【0059】
しかし、この実施の形態1では、図2に示す通り、第一の内側筒部18の端面部21とレンズ37の先端側との間には第一の緩衝材38が設けられ、レンズ37の基端側と第二の内側筒部19の端面26との間には第二の緩衝材39が設けられている。第一の緩衝材38、第二の緩衝材39はガラス繊維性であり、圧縮により弾性変形するため、上述のような、第一の内側筒部18、第二の内側筒部19とレンズ37とが異なる熱膨張率で膨張した場合の体積変化の違いを吸収したり、第一の内側筒部18と第二の内側筒部19とが膨張してレンズ37が変形したり破損するような事態を防止できる。
【0060】
なお、この実施の形態1においては、図1に示す通り、貫通孔7において、燃焼可視化装置2Aの周囲がエンジン冷却水8に接しているので、圧縮空気に加え、エンジン冷却水8によっても燃焼可視化装置2Aが冷却され、燃焼可視化装置2Aの過熱が抑止される。
【0061】
以上示したように、この実施の形態1においては、燃焼可視化装置2Aは、金属材料で形成されたエンジン1のシリンダ4に貫通孔7を形成するだけで当該エンジン1の燃焼状態を確認できる。従って、燃焼可視化エンジン1Aの製造や改良を、製造ラインにより製造される製品に基づいて製造できる。
【0062】
この実施の形態1においては、金属材料で形成され耐熱性や耐圧性が高いエンジン1に燃焼可視化装置2Aを取り付けることで当該エンジン1の燃焼状態を確認できるので、実際に自動車等を走行させる際に発生する高負荷状態や高回転状態でエンジンのシミュレーションを行うことができ、かつ、通常の自動車のエンジンと同様の熱伝導状態をシミュレーションできる。
【0063】
この実施の形態1においては、燃焼可視化装置2Aの内部には導光部35の周囲に第一の冷媒導通路32、第二の冷媒導通路33を設け、第一の冷媒導通路32、第二の冷媒導通路33を加えた気体乃至液体の冷媒を導通させて導光部35を冷却させることにより、エンジンが高負荷状態や高回転状態となってエンジン内部が高温になっても、流動する冷媒によって燃焼可視化装置2Aの内部を冷却することで、導光部35が過熱して変形したり破損したりする事態を抑止できる。
【0064】
以上により、この実施の形態1においては、低コストかつ短時間で製造や改良ができて、全運転域にわたってシリンダ内部を視認できる燃焼可視化エンジン1Aを形成できる。
【0065】
なお、この実施の形態1においては、燃焼可視化エンジン1Aにおいて、一のシリンダヘッド4aに一の燃焼可視化装置2Aを設けたが、一のシリンダヘッド4aに複数の燃焼可視化装置2Aを設ける構成としてもよい。例えば、この実施の形態と同様に、貫通孔7から燃焼可視化装置2Aを挿通させて燃焼室6に臨ませたものの他に、シリンダヘッド4aの上方にあるバルブガイド部などから同様の燃焼可視化装置2Aを挿通させて燃焼室6に臨ませることが考えられる。このような構成とすることで、貫通孔7から挿通させた燃焼可視化装置2Aで燃焼室6を水平方向に視認し、バルブガイド部などから挿通させた燃焼可視化装置2Aで燃焼室6を斜め上方から視認し、燃焼室6内の燃焼状態を多面的に視認することが可能になる。
【0066】
[発明の実施の形態2]
図6及び図7に、この発明の実施の形態2を示す。
【0067】
図6に示す、この実施の形態2の燃焼可視化装置2Bは、実施の形態1の外側筒部17に相当する構成を除外した状態を示している。即ち、この実施の形態2の燃焼可視化装置2Bは、外側筒部(図示省略)、第一の内側筒部41、第二の内側筒部42、締結部材43、カラー44を有する。これら外側筒部(図示せず)、第一の内側筒部41、第二の内側筒部42、締結部材43、カラー44は、この実施の形態2における筒状本体部を形成する。また、この燃焼可視化装置2Bは、実施の形態1のエンジン(図1参照)に接続されて燃焼可視化エンジンを形成する。
【0068】
この実施の形態2の燃焼可視化装置2Bは、実施の形態1のレンズ37に替えてレンズ45が設けられている。このレンズ45は、先端側全体が略端面を形成している。
【0069】
この実施の形態2の燃焼可視化装置2Bの第二の内側筒部42は、基端部側の内周に拡径部46が形成されている。拡径部46の内周面には雌ねじ47が刻設されている。
【0070】
締結部材43は、鉄、アルミニウム等の金属、及びそれらを用いた合金など、耐熱性と耐水性の高い材料によって略円筒形に形成されている。締結部材43の先端側は、外径が拡径部46の内径と略等しい大きさに形成されている。締結部材43の先端側の外周面には、雄ねじ48が刻設されている。締結部材43の基端側は先端側より拡径した把持部49が形成されている。
【0071】
カラー44は、弾性と機密性のある部材、例えば各種樹脂によって形成されている。カラー44は環形に形成され、外周面は拡径部46の内周面に対応する形状、即ち先端側から基端側に拡径する形状に形成されている。
【0072】
この実施の形態2において、内視鏡12の導光部35と隔壁28とは実施の形態1よりも軸方向大きさが大きく形成されている。図6に示す通り、隔壁28は締結部材43の基端部と冷媒吸入孔30近傍との間が外部に露出している。その他の構成は実施の形態1と同じである。
【0073】
次に、実施の形態2の作用について説明する。
【0074】
この実施の形態2の燃焼可視化装置2Bを組み立てる際、使用者は、第一の内側筒部41、第二の内側筒部42を組み合わせた後、第二の内側筒部42の拡径部46にカラー44を挿入する。この状態で、使用者は拡径部46に締結部材43を嵌合させ、締結部材43の把持部49を把持して締結部材43を周方向に回転させて雌ねじ47と雄ねじ48とを螺合させる。そして、カラー44は締結部材43によって押圧されて弾性変形し、拡径部46の内周面と締結部材43の先端部と隔壁28とに密着する。
【0075】
弾性変形したカラー44は、拡径部46の内側において、隔壁28と第二の内側筒部42との間隙を密封する。これにより、第二の冷媒導通路33を通過した冷媒が冷媒排出孔20よりも基端側に漏えいすることを防止できる。
【0076】
また、弾性変形したカラー44は隔壁28を内周側に押圧するので、隔壁28が第一の内側筒部41や第二の内側筒部42に対して強固に固定される。これにより、燃焼可視化装置2Bをエンジン(図示せず)に接続して燃焼試験を行う際、エンジン(図示せず)の振動等により隔壁28や導光部35ががたついてエンジン(図示せず)内部の視認に支障をきたすような事態を抑止できる。更に、この実施の形態2の燃焼可視化装置2B及び燃焼可視化エンジンは、上述した、この発明の実施の形態1に係る燃焼可視化装置2A及び燃焼可視化エンジン1と同様の作用効果をも奏する。
【0077】
なお、上記実施の形態1の筒状本体部11、及び、上記実施の形態2の筒状本体部は外側筒部17(実施の形態2で図示せず)を有する構成としたが、これに替えて、筒状本体部が外側筒部を有しない構成としてもよい。また、上記実施の形態1の筒状本体部11、及び、上記実施の形態2の筒状本体部は第一の内側筒部17,41、及び第二の内側筒部18,42を有する構成としたが、これに替えて、一体形成された内側筒部を有する構成としてもよい。
【0078】
上記実施の形態1及び上記実施の形態2において、レンズ37,45の先端側と基端側にそれぞれ第一の緩衝材38、第二の緩衝材39を設ける構成としたが、第一の緩衝材38、第二の緩衝材39の何れか一方を除外する構成としてもよい。
【0079】
上記実施の形態2において、レンズ45に替えて実施の形態1のレンズ37を用いてもよい。また、実施の形態1において、レンズ37に替えて実施の形態2のレンズ45を用いてもよい。
【0080】
上記実施の形態1において、上記実施の形態2を構成する軸方向大きさの大きな隔壁28や導光部35を用いてもよい。また、上記実施の形態2において、上記実施の形態1を構成する軸方向大きさの小さな隔壁28や導光部35を用いてもよい。
【0081】
上記各実施の形態は本発明の例示であり、本発明が上記各実施の形態に限定されることを意味するものではないことは、いうまでもない。
【符号の説明】
【0082】
1A・・燃焼可視化エンジン
2A,2B・・・燃焼可視化装置(エンジンの燃焼可視化装置)
4a・・・シリンダヘッド
6・・・燃焼室
7・・・貫通孔
12・・・筒状本体部
28・・・隔壁
29・・・内周部
31・・・冷媒導通路
32・・・第一の冷媒導通路
33・・・第二の冷媒導通路
34・・・連通部
35・・・導光部
37,45・・・レンズ
38・・・第一の緩衝材(緩衝材)
39・・・第二の緩衝材(緩衝材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関としてのエンジンの燃焼状態を視認するためのエンジンの燃焼可視化装置であって、
前記エンジンのシリンダヘッドに貫通形成されて燃焼室に臨む貫通孔に挿通される筒状本体部を備え、
該筒状本体部の先端には前記燃焼室に臨むレンズが設けられ、
前記筒状本体部の内部であって前記レンズよりも基端側には前記レンズで集光された光を導通させる導光部が設けられ、
前記筒状本体部の内部には前記導光部の周囲に冷媒導通路を設け、該冷媒導通路に任意の圧力を加えた気体乃至液体の冷媒を導通させて前記導光部を冷却させることを特徴とするエンジンの燃焼可視化装置。
【請求項2】
前記導光部の外周側に略円筒形の隔壁が形成され、
前記冷媒導通路は、前記導光部と前記隔壁との間に形成された第一の冷媒導通路と、前記隔壁と前記筒状本体部との間に形成された第二の冷媒導通路と、前記第一の冷媒導通路と前記第二の冷媒導通路とを連通させる連通部とを有し、前記冷媒は、前記第一の冷媒導通路、前記連通部、前記第二の冷媒導通路にそれぞれ導通されることを特徴とする請求項1に記載のエンジンの燃焼可視化装置。
【請求項3】
前記第一の冷媒導通路は、前記筒状本体部の軸方向から見て、内周部が連続した波形に形成されていることを特徴とする請求項2に記載のエンジンの燃焼可視化装置。
【請求項4】
前記筒状本体部と前記レンズとの間には、弾性変形により前記レンズと前記筒状本体部との熱膨張の差異を緩衝する略円環状の緩衝材が配設されていることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一つに記載のエンジンの燃焼可視化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−96817(P2013−96817A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−239344(P2011−239344)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【出願人】(505332831)株式会社 小山ガレージ (6)
【Fターム(参考)】