説明

エンジン再始動時のオーバーリッチ防止機構

【課題】エンジン停止後に加速ポンプから燃料が吸気通路に漏出した状況でも、良好なエンジン再始動性を確保できるようにする。
【解決手段】大気側を吸気通路に連通させる外気導入路11と、外気導入路11に配設した第1の遮断弁12を弁体支持部材12bが所定温度以上で変形することで閉弁させる温度感応式弁開閉手段と、外気導入路11に配設した第2の遮断弁130を導入しているエンジンブースト圧が所定レベルを超えることで閉弁させるブースト圧感応式弁開閉手段としての完爆ダイヤフラム13とを備えており、エンジン停止後に加速ポンプ機構内の燃料が吸気通路に漏出した状態のエンジン再始動時に、エンジンブースト圧が所定レベルを超えるまでの間は、外気導入路11を開放して吸気通路に外気を導入することにより、オーバーリッチ化を回避する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン再始動時のオーバーリッチ防止機構に関し、殊に、エンジン停止後に加速ポンプから吸気通路に漏出した燃料により、エンジン再始動時にオーバーリッチに陥ることを防止するためのオーバーリッチ防止機構に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料の供給に気化器を使用する汎用エンジン等においては、急なスロットルの開動作を伴う加速時に気化器からの供給燃料が不足して、エンジンの運転性が損なわれることがある。この燃料不足を解消するために、実開平6−1754号公報に記載され図2に示すような、加速ポンプ機構2が広く採用されている。
【0003】
この加速ポンプ機構2は、スロットルバルブ5を開くことによりこれに付設したレバー6を回し、リンクレバー27でロッド21を動作させてプランジャ22を押し下げ、弁バネ24bを圧縮して弁体24aでシートさせることにより逆止弁24でフロート室3からの導入口を塞ぐ。これにより、シリンダ20内の燃料を加圧し、加速燃料通路29を通って弁体25aと弁バネ25bからなる逆止弁25を通過させることで、吸気通路4に開口した加速用ノズル23からインテークマニホルドに向かって燃料を噴射するものである。
【0004】
このような加速ポンプ機構2を配設した燃料供給システムでは、エンジン停止後には、加速ポンプ機構2の逆止弁24,25で入口側と出口側が閉鎖されその間に燃料が封入された状態となる。ところが、この付近はエンジン停止後にエンジンの余熱で加熱されて高温になるため、加速ポンプ機構2の加速燃料通路29内温度が上昇して燃料が気化を始める。
【0005】
そして、逆止弁25の手前まで満たされた燃料は、圧力上昇に伴い弁体25aを押し開いて加速用ノズル23から吸気通路4内に漏出するようになる。そのため、エンジン再始動時において、吸気通路4に流出して溜まった燃料が余分に燃焼室内に入ることになり、オーバーリッチ化によりエンジンの再始動性を悪化させる結果となる。
【特許文献1】実開平6−1754号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記のような問題点を解決しようとするものであり、エンジン停止後に加速ポンプから燃料が吸気通路に漏出した状況でも、良好なエンジンの再始動性を確保できるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、本発明は、エンジンの燃料供給システムに加速ポンプ機構とともに設けられるエンジン再始動時のオーバーリッチ防止機構であって、大気側を吸気通路に連通させる外気導入路と、この外気導入路に配設した第1の遮断弁を弁体支持部材の温度変化に伴う変形により開閉させる温度感応式弁開閉手段と、前記外気導入路に配設した第2の遮断弁を導入しているエンジンブースト圧の変化により開閉させるブースト圧感応式弁開閉手段と、を備えており、エンジン停止後において前記加速ポンプ機構内の燃料が前記吸気通路に漏出した状態でエンジンを再始動した時に、前記エンジンブースト圧が所定レベルを超えるまでの間は、前記外気導入路を開放して前記吸気通路に外気を導入することによりオーバーリッチ化を回避することにした。
【0008】
エンジン停止時に加速ポンプから燃料が漏出するような温度状況におけるエンジンの再始動時に、このように温度感応式弁開閉手段が開いて外気導入路を開通させることで漏出燃料による過濃分を外気で希釈させ、エンジン始動後にアイドル回転数が安定するタイミングで、ブースト圧感応式弁開閉手段で外気導入路を閉鎖するようにしたことでエンジン始動後の過剰なリーン化を回避しながら、エンジン再始動時におけるオーバーリッチ化を有効に防止することができる。
【0009】
また、この場合、そのブースト圧感応式弁開閉手段を、完爆ダイヤフラムを用いると、既存の部品をそのまま利用できることに加え、このエンジン再始動時オーバーリッチ防止機構を、チョークチャンバASSYや加速ポンプ付気化器と一体化することも可能となる。
【0010】
さらに、上述したエンジン再始動時におけるオーバーリッチ防止機構において、第1の遮断弁の弁体支持部材を、所定温度で変形して開弁方向に曲がるバイメタルを用いると低コストで正確な動作を実現することができる。
【0011】
さらにまた、上述した再始動時オーバーリッチ防止機構において、そのブースト圧感応式弁開閉手段を、エンジンブースト圧が−50mmHg〜−200mmHg以下となった場合に閉弁して、外気導入路を閉鎖するように設定することにより、的確なタイミングで混合気の希釈機能を終了しやすいものとなる。
【0012】
加えて、上述したエンジン再始動時のオーバーリッチ防止機構を一体的に備えてなることを特徴とする加速ポンプ付気化器とすれば、小さな配置スペースで済むとともに、これをエンジンの燃料供給システムに配設するだけで、気化器の機能に加えて上述したオーバーリッチ防止機能を発揮できるものとなる。
【発明の効果】
【0013】
エンジン再始動時におけるオーバーリッチに陥りやすい状況において、温度感応式弁開閉手段とブースト圧感応式弁開閉手段とで外気導入路を開放状態として、吸気通路に外気を導入し混合気を希釈するものとした本発明によると、エンジン停止後に燃料が加速ポンプから吸気通路に漏出した状況でも、良好なエンジン再始動性を確保することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、図面を参照しながら本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0015】
図1は、本実施の形態のエンジン再始動時におけるオーバーリッチ防止機構1の縦断面図を示している。本実施の形態においてエンジン再始動時のオーバーリッチ防止機構1は、図2に示したような加速ポンプ機構を付設してある図示しない加速ポンプ付気化器に設けられ、一体部品としてエンジンの燃料供給システムに配設されることを想定している。
【0016】
このエンジン再始動時のオーバーリッチ防止機構1は、入口11aが大気側に開口し出口側が吸気通路4内に開口する外気導入路11がボディ10を貫通しており、大気側と吸気通路4側とを連通させるバイパス路を構成しており、その外気導入路11には、バイメタル製の弁体支持部材12bの先端に設けたゴム製の弁体12aで入口11aを閉鎖するものとした第1の遮断弁12が設けられており、この弁体支持部材12bが温度変化により動作して入口11aを開閉する温度感応式弁開閉手段を構成している。
【0017】
前記支持部材12bを構成するバイメタルは、2種類の異なる金属を貼り合わせて薄板・短冊状としたものであり、所定の温度域において一方の金属が膨張することにより膨張しない側に曲がる特質を有しており、本実施の形態においては、エンジン停止後にエンジンの余熱で膨張して、加速ポンプ内の燃料が吸気通路4に流出する温度域以上になった場合に開弁側に変形して、入口11aを塞いでいた弁体12aを開いて吸気通路4に外気を導入するように設定されている。
【0018】
また、前記外気導入路11には、その途中にゴム製の弁体131と弁シート132からなる第2の遮断弁130が設けられており、ボディ10外面側にエンジンブースト圧を配管135で背圧室側に導入している完爆ダイヤフラム13が設けられており、エンジンブースト圧の変動により内部のダイヤフラムを変位させこれから延出されて弁体131を支持する弁ロッド133を動作させ、外気導入路11を開閉操作するようになっている。
【0019】
この完爆ダイヤフラム13は、一般的にはチョーク作動時に始動直後から暖機完了までの間、チョークバルブ開度を適切に維持する目的で用いるものであるが、本実施の形態では、エンジン始動時点で第2の遮断弁130を開弁状態として外気導入路11を開通させ、エンジン回転数が上がってエンジンブースト圧が所定レベルを超えることにより、第2の遮断弁130を閉弁して通常運転用に切り換える機能を有している。
【0020】
次に、このエンジン再始動時におけるオーバーリッチ防止機構1の動作を詳細に説明する。エンジンが停止した後、気化器周辺の雰囲気温度はエンジンの余熱で高温になるため、加速ポンプ機構1のシリンダ内に封入された燃料が気化・膨張して出口側の逆止弁を通って加速ノズルから漏出し、吸気通路4内に溜まった状態となる。
【0021】
このとき、外気導入路11の入口11aを塞いでいた弁体12aは、これを支持する弁体支持部材12bが加速ポンプ内の燃料が漏出する温度以上で変形するように設定されている関係で開弁方向に持ち上げられており、入口11aを開放した状態となっている。一方、完爆ダイヤフラム13は、エンジンブースト圧が所定レベル以下になるまでは、第2の遮断弁130の開弁状態を維持することになり外気導入路11は吸気通路4内部と大気側とを連通させた状態となっている。
【0022】
この状態でエンジンを再始動すると、開放された外気導入路11を経由して吸気通路4内に外気が取り込まれ、加速ポンプ機構から漏出して吸気通路4内に溜まった燃料による過濃分を希釈し、エンジン再始動時のオーバーリッチ化を回避して適切な空燃比にする。
【0023】
そして、エンジン始動後、背圧室側に導入しているアイドルブースト圧が−50mmHg〜−200mmHg以下になると、完爆ダイヤフラム13が作動して第2の遮断弁130を閉じて外気導入路11を閉鎖し、通常運転に移行した際に混合気が過剰にリーン化しなくなる。
【0024】
このように、エンジン始動時において加速ポンプから漏出した燃料を含む空気に外気が混ざり合うようにしたことで、オーバーリッチ化が有効に回避されてエンジンの再始動性が良好なものとなる。また、エンジン始動後にアイドル回転数が安定した時点で外気導入路を閉鎖するようにしたことで、通常運転に適した吸入空気量にすることも可能としている。
【0025】
以上、述べたように、エンジン停止後に燃料が加速ポンプから吸気通路に漏出した状況でも、本発明により、良好なエンジン再始動性を確保できるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施の形態を示す縦断面図。
【図2】加速ポンプ機構を中心としたエンジンの燃料供給システムの一部分を示す配置図。
【符号の説明】
【0027】
1 エンジン再始動時のオーバーリッチ防止機構、2 加速ポンプ機構、4 吸気通路、5 スロットルバルブ、10 ボディ、11 外気導入路、12,130 遮断弁、12a,131 弁体、12b 弁体支持部材13 完爆ダイヤフラム、23 加速用ノズル


【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの燃料供給システムに加速ポンプ機構とともに設けられるエンジン再始動時のオーバーリッチ防止機構であって、大気側を吸気通路に連通させる外気導入路と、この外気導入路に配設した第1の遮断弁を弁体支持部材の温度変化に伴う変形により開閉させる温度感応式弁開閉手段と、前記外気導入路に配設した第2の遮断弁を導入しているエンジンブースト圧の変化により開閉させるブースト圧感応式弁開閉手段と、を備えており、エンジン停止後において前記加速ポンプ機構内の燃料が前記吸気通路に漏出した状態でエンジンを再始動した時に、前記エンジンブースト圧が所定レベルを超えるまでの間は、前記外気導入路を開放して前記吸気通路に外気を導入することによりオーバーリッチ化を回避することを特徴とするエンジン再始動時のオーバーリッチ防止機構。
【請求項2】
前記ブースト圧感応式弁開閉手段が、完爆ダイヤフラムによるものであることを特徴とする請求項1に記載したエンジン再始動時のオーバーリッチ防止機構。
【請求項3】
前記第1の遮断弁の弁体支持部材が、所定温度で変形して開弁方向に曲がるバイメタルからなることを特徴とする請求項1または2に記載したエンジン再始動時のオーバーリッチ防止機構。
【請求項4】
前記ブースト圧感応式弁開閉手段が、エンジンブースト圧が−50mmHg〜−200mmHg以下となった場合に閉弁して前記外気導入路を閉鎖するように設定されていることを特徴とする請求項1,2または3に記載したエンジン再始動時のオーバーリッチ防止機構。


【図1】
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【図2】
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