説明

エンジン冷却装置

【課題】エンジン回転数・エンジン負荷が刻々と変化する状況において、エンジン各部の温度に応じてエンジン冷却能力を柔軟に変更して、エンジン各部の温度を一定の範囲内に保つことが可能なエンジン冷却装置を提供する。
【解決手段】エンジンのシリンダヘッド温度、EGRクーラ出口ガス温度、吸気ポート壁面温度、シリンダライナ壁面温度を直接に検出する各センサ61,63,64,66又は間接に推定するECU18と、エンジン冷却能力を変更可能な冷却水ポンプ13、冷却ファン17と、各センサ61,63,64,66又はECU18によって確認された温度が閾値以上になった場合に、その温度が閾値未満の場合に対して冷却水ポンプ13、冷却ファン17のエンジン冷却能力を高めるように制御するECU18とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンに備える燃焼室の対面部位の温度若しくは燃焼室を通過した後の流体の温度に基づいてエンジン冷却能力を制御するエンジン冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジン運転中には、エンジンの各部を冷却水で冷却することが一般に行われている。
エンジン各部の温度上昇に伴って冷却水の温度が上昇すれば、サーモスタットが開き、冷却水ポンプでエンジン内の冷却水がラジエータにも循環し、冷却ファンで生起された送風によりラジエータで放熱が行われ、エンジン各部は循環する冷却水を介して冷却される。
【0003】
エンジン回転数・エンジン負荷が増せば、これに伴ってエンジンで発生する熱量も増加する。この時、エンジン回転数の増加に応じて冷却水ポンプの回転数も増え、冷却水温度が上昇するにつれてサーモスタットが大きく開くようになり、冷却水の循環量が増加するとともに、冷却ファンが停止状態から作動状態に切り換わり、冷却能力が高められる。
【0004】
このような冷却水温度に基づいて内燃機関各部の温度を調整するエンジン冷却装置としては、例えば、内燃機関温度を間接的に表すものとして冷却水温度が検出され、冷却水温度の変化に応じて冷却ファンの風量を制御するものが知られている(特許文献1)。
【0005】
また、エンジン周辺部品の温度上昇を推定し、冷却ファンの駆動を制御したり(特許文献2)、シリンダヘッド温度に基づいてウォータポンプ及びファンを制御する(特許文献3)ようなエンジン冷却装置が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−141240号公報
【特許文献2】特開2008−175171号公報
【特許文献3】特開2009−127433号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では、内燃機関温度を間接的に表す冷却水温度に基づいて、ファンの風量を2段階に制御したり、2台のファンの作動と停止を切り換えることでエンジン冷却能力を変更しているが、管理対象となる冷却水温度は、エンジン各部の温度そのものではなく、エンジン各部の温度に対して大きな隔たりがあるため、エンジン各部の温度を調整する場合に、調整された温度に誤差を生じやすく、また、冷却水の温度変化はエンジン各部の温度変化に対して緩慢であり、刻々変化するエンジン回転数・エンジン負荷に対して追従しにくく、エンジン各部の迅速な温度調整が難しい。この結果として、エンジン各部を一定の温度に保つことは困難である。
【0008】
更に、冷却水温度がエンジン負荷に対して追従しにくいので、エンジンが高負荷運転から軽負荷運転に移った際に、エンジン冷却能力の高い状態が長く続き、冷却水ポンプや冷却ファンの駆動馬力の大きい状態が長く維持され、燃費の悪化を招く。
【0009】
特許文献2では、エンジン周辺部品としてのインシュレータの温度に基づいて冷却ファンの作動を制御するが、エンジン自体の温度を管理していないので、インシュレータの温度に基づいてエンジン各部の温度を調整することは難しい。
【0010】
また、特許文献3では、エンジン停止後にシリンダヘッド温度に基づいて電動ウォータポンプの作動を制御するが、エンジン運転中に、どのエンジン部位の温度又は情報に基づいて電動ウォータポンプを制御するのか記載されていないため、エンジン各部の温度がどのように調整されるのか明確でない。
【0011】
本発明の目的は、エンジン回転数・エンジン負荷が刻々と変化する状況において、エンジン各部の温度に基づいてエンジン冷却能力を柔軟に変更して、エンジン各部の温度を一定の範囲内に保つことが可能なエンジン冷却装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、かかる目的を達成するため、エンジン運転中にエンジン各部位を冷却するエンジン冷却装置において、前記エンジンに備える燃焼室の対面部位の温度若しくは前記燃焼室を通過した後の流体の温度を直接に検出する、又は間接に推定する温度確認手段と、エンジン冷却能力を変更可能な冷却可変手段と、前記温度確認手段によって確認された前記燃焼室の対面部位の温度若しくは前記燃焼室を通過した後の前記流体の温度が閾値以上になった場合に、前記燃焼室の対面部位の温度又は前記流体の温度が閾値未満の場合に対して前記冷却可変手段のエンジン冷却能力を高めるように制御する制御手段とを備えることを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、エンジンの温度管理対象を、従来のような冷却水温度から、エンジンに備える燃焼室の対面部位の温度若しくは燃焼室を通過した後の流体の温度とするやり方に変更することで、エンジン回転数・エンジン負荷が刻々と変化する状況においても、燃焼室の対面部位の温度若しくは燃焼室を通過した後の流体の温度に応じてエンジン冷却能力を変更するため、燃焼室の対面部位の温度若しくは燃焼室を流体が通過した後の部位の温度変化がより小さくなり、エンジン各部の温度が一定の範囲内に保たれて、エンジンからの熱損失を低減できるので、燃費が向上する。更に、エンジン各部の温度変化による熱疲労が軽減される。
【0014】
また、エンジンの軽負荷運転時において、エンジン冷却能力を抑えることで燃焼室の対面部位の温度若しくは燃焼室を流体が通過した後の部位の温度、ひいてはエンジン各部の温度が従来よりも高く保たれ、エンジン冷却損失の低減と、冷却可変手段の作動制限による冷却可変手段の駆動馬力の低減とが図られ、燃費が向上する。
【0015】
前記燃焼室の対面部位の温度若しくは前記流体の温度は、シリンダヘッドの燃焼室壁面温度、EGRクーラ出口の排ガス温度、吸気ポート壁面温度、シリンダライナ壁面温度のうち、少なくとも1つであることが好ましい。
本発明によれば、エンジン各部の温度のうち、最も高い部位の少なくとも1つの温度を優先的に確認することで、エンジンの回転数やエンジン負荷に応じた急激な温度変化に迅速に対応して冷却能力の制御が行え、この結果、エンジン各部の温度をより素早くほぼ一定にすることが可能になる。
【0016】
前記冷却可変手段は、前記エンジン内及びラジエータ内の冷却水を強制循環させる冷却水ポンプであることが好ましい。
本発明によれば、冷却水ポンプの回転数を高くしてエンジン冷却能力を高めることで、エンジン内及びラジエータ内の冷却水循環量を増やし、エンジン及びラジエータからの放熱を促す。
【0017】
前記冷却可変手段は、好ましくは、前記ラジエータへの送風を促す冷却ファンであり、また、前記流体の温度は、少なくとも1つの閾値が設定されたエンジン入口冷却水温であり、このエンジン入口冷却水温の前記閾値に対応させて、該閾値の高さに応じて回転数が増加するように前記冷却ファンの回転数が設定され、前記エンジン入口冷却水温に基づいて前記冷却ファンの回転数を制御する際に、前記エンジン入口冷却水温が、前記エンジン入口冷却水温の前記閾値以上になる毎に、前記冷却ファンの回転数を前記エンジン入口冷却水温の前記閾値に対応させた前記冷却ファンの前記回転数に変更する。
本発明によれば、エンジン入口冷却水温に応じて冷却ファンの回転数をきめ細かく制御することが可能になり、エンジン各部の温度を調整する調整能力が高められる。
【発明の効果】
【0018】
以上記載のごとく本発明によれば、エンジンに備える燃焼室の対面部位の温度若しくは燃焼室を通過した後の流体の温度を直接に検出する、又は間接に推定する温度確認手段と、エンジン冷却能力を変更可能な冷却可変手段と、温度確認手段によって確認された燃焼室の対面部位の温度若しくは燃焼室を通過した後の流体の温度が閾値以上になった場合に、燃焼室の対面部位の温度又は流体の温度が閾値未満の場合に対して冷却可変手段のエンジン冷却能力を高めるように制御する制御手段とを備えるので、エンジンの温度管理対象を、従来のような冷却水温度から、エンジンに備える燃焼室の対面部位の温度若しくは燃焼室を通過した後の流体の温度とするやり方に変更することで、エンジン回転数・エンジン負荷が刻々と変化する状況においても、燃焼室の対面部位の温度若しくは燃焼室を通過した後の流体の温度に応じてエンジン冷却能力を変更するため、燃焼室の対面部位の温度若しくは燃焼室を流体が通過した後の部位の温度変化をより小さくしてエンジン各部の温度を一定の範囲内に保つことができる。
この結果、エンジンからの熱損失を低減できるので、燃費を向上させることができる。
更に、エンジン各部の温度変化による熱疲労を軽減することができ、エンジンの信頼性を向上させることができる。
【0019】
また、エンジンの軽負荷運転時において、エンジン冷却能力を抑えることで燃焼室の対面部位の温度若しくは燃焼室を流体が通過した後の部位の温度、ひいてはエンジン各部の温度を従来よりも高く保つことができる。この結果、エンジン冷却損失を低減することができ、燃費を向上させることができる。
この場合、冷却可変手段の作動が制限されるため、冷却可変手段を駆動させる駆動馬力を低減することができるため、この点からも燃費を向上させることができる。
【0020】
燃焼室の対面部位の温度若しくは流体の温度は、シリンダヘッドの燃焼室壁面温度、EGRクーラ出口の排ガス温度、吸気ポート壁面温度、シリンダライナ壁面温度のうち、少なくとも1つであるので、エンジン各部の温度のうち、最も高い部位の少なくとも1つの温度を優先的に確認することで、エンジンの回転数や負荷に応じた急激な温度変化に迅速に対応して冷却能力の制御を行うことができ、エンジン各部の温度をより素早くほぼ一定にすることができる。
【0021】
冷却可変手段は、エンジン内及びラジエータ内の冷却水を強制循環させる冷却水ポンプであるので、冷却水ポンプの回転数を高くすることで、エンジン内及びラジエータ内の冷却水循環量を増やすことができ、エンジン及びラジエータからの放熱を促すことでエンジン冷却能力を高めることができる。
【0022】
冷却可変手段は、ラジエータへの送風を促す冷却ファンであり、また、流体の温度は、少なくとも1つの閾値が設定されたエンジン入口冷却水温であり、このエンジン入口冷却水温の閾値に対応させて、該閾値の高さに応じて回転数が増加するように冷却ファンの回転数が設定され、エンジン入口冷却水温に基づいて冷却ファンの回転数を制御する際に、エンジン入口冷却水温が、エンジン入口冷却水温の閾値以上になる毎に、冷却ファンの回転数をエンジン入口冷却水温の閾値に対応させた冷却ファンの回転数に変更するので、エンジン入口冷却水温に応じて冷却ファンの回転数をきめ細かく制御することができ、エンジン各部の温度を調整する調整能力を高めることができるため、エンジン各部の温度を従来よりも高い温度にほぼ一定に且つより一層容易に保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係るエンジン冷却装置を示す説明図である。
【図2】本発明に係るエンジンとエンジン各部の温度を検出する温度センサとを示すエンジン正面図である。
【図3】本発明に係るエンジン冷却装置のブロック図である。
【図4】本発明に係るエンジン冷却装置の冷却水ポンプによる冷却方法を示すフローチャートである。
【図5】本発明に係るエンジン冷却装置の冷却ファンによる冷却方法を示すフローチャートである。
【図6】本発明に係るエンジン冷却装置を評価する自動車走行モードを示すグラフである。
【図7】図6に示した自動車走行モードを実施する際のエンジン負荷とエンジン回転数との関係を示すグラフである。
【図8】エンジン運転中におけるシリンダライナ壁面温度の時間的変化を示すグラフであり、図8(A)は本実施形態、図8(B)は比較例である。
【図9】エンジンにおける燃焼室の対面部位の熱に対する疲労強度を評価する疲労限度線図であり、図9(A)は本実施形態と比較例の疲労強度を比較する図、図9(B)は本実施形態と比較例の疲労安全率を比較する図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を図に示した実施形態を用いて詳細に説明する。但し、この実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは特に特定的な記載がな、い限り、この発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではない。
【実施例】
【0025】
図1に示すように、エンジン冷却装置10は、エンジン11の内部及び外部に設けられた冷却水通路12と、この冷却水通路12に強制的に冷却水を循環させる電動式の冷却可変手段としての冷却水ポンプ13と、冷却水通路12に設けられることで循環する冷却水から放熱させるラジエータ14と、このラジエータ14への冷却水循環を制御するために冷却水通路12の一部を開閉するように設けられたサーモスタットバルブ16と、ラジエータ14への通風を促すためにラジエータ14に近接するように設けられた電動式の冷却可変手段としての冷却ファン17と、エンジン11の燃焼室62(図2参照)の対面部位の温度又は燃焼室62を通過した後の流体(排ガス、冷却水、潤滑油)の温度を検出する複数の温度センサ(詳細は後述する。)と、これらの温度センサでの検出信号に基づいて冷却水ポンプ13及び冷却ファン17の駆動を制御する制御手段としてのECU18とから構成されている。なお、符号19は冷却水温度を検出するために後に詳述するロア冷却水通路23に設けられたエンジン冷却水温度センサである。
【0026】
冷却水通路12は、エンジン11のシリンダブロック及びシリンダヘッドに設けられたエンジン内冷却水通路(不図示)と、このエンジン内冷却水通路に接続されるようにエンジン11の外部に設けられたエンジン外冷却水通路20とからなる。
【0027】
エンジン外冷却水通路20は、エンジン内冷却水通路からラジエータ14の上部に至るアッパ冷却水通路22と、ラジエータ14の下部から冷却水ポンプ13に至るロア冷却水通路23と、冷却水ポンプ13からエンジン内冷却水通路に至るポンプ出口側冷却水通路(不図示)と、アッパ冷却水通路22から、ロア冷却水通路23に設けられたサーモスタットバルブ16に至るバイパス冷却水通路26とから構成されている。
【0028】
冷却水温度が低い場合には、サーモスタットバルブ16が閉じているので、冷却水は、冷却水ポンプ13→ポンプ出口側冷却水通路→エンジン内冷却水通路→アッパ冷却水通路22→バイパス冷却水通路26→ロア冷却水通路23→冷却水ポンプ13の順に循環する。
【0029】
冷却水温度が上昇してサーモスタットバルブ16が開くと、上記の冷却水循環路に加えてアッパ冷却水通路22→ラジエータ14→ロア冷却水通路23にも冷却水が循環するようになり、ラジエータ14からの放熱、更には冷却ファン17の作動によるラジエータ14からの放熱の促進によって冷却水の温度上昇が抑えられる。
【0030】
図2に示すように、エンジン11は、シリンダブロック31と、このシリンダブロック31の下部に回転自在に支持されたクランクシャフト32と、このクランクシャフト32のクランクピン32aに一端が連結されたコネクティングロッド33と、このコネクティングロッド33の他端にピストンピン34を介して連結されるとともにシリンダブロック31内に設けられたシリンダライナ36に移動自在に挿入されたピストン37と、シリンダブロック31の上部に取付けられたシリンダヘッド41と、このシリンダヘッド41に形成された吸気ポート41aに連通するようにシリンダヘッド41の一側面に取付けられた吸気マニホールド42と、シリンダヘッド41に形成された排気ポート41bに連通するようにシリンダヘッド41の他側面に取付けられた排気マニホールド43と、この排気マニホールド43に接続される排気通路から吸気マニホールド42に接続される吸気通路へ排ガスを戻すEGR通路46と、このEGR通路46を流れる排ガスを冷却するためにEGR通路46の途中に設けられたEGRクーラ47とを備える。
【0031】
エンジン冷却装置10では、エンジン11の各部位のうちで温度が高い部位や、温度が高い流体(排ガス、冷却水)について温度管理を行い、それらの温度管理部位又は流体の温度が一定になるように冷却制御を行っている。
【0032】
ここで、温度管理が行われる燃焼室62の対面部位としては、シリンダヘッド41(詳しくは、シリンダヘッド41の燃焼室壁面)、吸気ポート41a(詳しくは、吸気ポート41aの壁面)、シリンダライナ36(詳しくは、シリンダライナ36の内壁面)である。また、燃焼室を通過した後の流体としては、EGRクーラ47の出口の排ガスである。
【0033】
図中に示す黒丸は温度センサであり、61はピストン37の頂面とシリンダヘッド41の下面とで形成される燃焼室62に臨むようにシリンダヘッド41の燃焼室壁面に設けられた温度確認手段としてのシリンダヘッド温度センサ、63は排ガス温度を測定するためにEGRクーラ47における排ガス出口に設けられた温度確認手段としてのEGRクーラ出口ガス温度センサ、64は吸気ポート41aの壁面に設けられた温度確認手段としての吸気ポート壁面温度センサ、66はシリンダライナ36におけるピストン37に臨む内壁面に設けられた温度確認手段としてのシリンダライナ壁面温度センサ、67は排気マニホールド43内を流れる排ガス温度を検出するために排気マニホールド43に設けられた排気温度センサ、68は吸気マニホールド42内を流れる吸気ガスの温度を検出するために吸気マニホールド42に設けられた吸気温度センサ、69はエンジン11内の各部を潤滑する潤滑油の温度を検出するためにシリンダブロック31内の潤滑油通路に設けられたエンジン油温センサである。
【0034】
上記温度センサのうち、シリンダヘッド温度センサ61、吸気ポート壁面温度センサ64、シリンダライナ壁面温度センサ66、排気温度センサ67及び吸気温度センサ68については全気筒又は特定の気筒に設けられる。
【0035】
図3に示すように、エンジンの燃焼室の対面部位の温度又は燃焼室を通過した後の流体の温度を調整するために、エンジン冷却装置10の一部を構成するエンジン温度調整装置75は、図2に示した各温度センサと、これらの温度センサからの検出信号及びエンジン各部の温度を調整するのに必要な各種情報が入力されるECU18と、各温度センサからの検出信号及び各種情報に基づきECU18によってそれぞれ駆動される、詳しくは回転数が制御される冷却水ポンプ13及び冷却ファン17とからなる。
【0036】
温度センサとしては、温度管理の優先度が高い順に挙げると、(1)シリンダヘッド温度センサ61、(2)EGRクーラ出口ガス温度センサ63、(3)吸気ポート壁面温度センサ64、(4)シリンダライナ壁面温度センサ66であり、その他の温度センサとして、エンジン冷却水温度センサ19、エンジン油温度センサ69、排気温度センサ67、吸気温度センサ68がある。
【0037】
上記した温度管理の優先度が高い温度センサは、エンジン各部の中で非常に温度が高い部位に設けられ、刻々変化するエンジン回転数・エンジントルクに対応して急激に変化する温度を検出している。なお、上記の優先度は、エンジン運転状況や外気温などによって変更が可能である。
また、各種情報としては、図示せぬセンサなどによりECU18に入力されるエンジン回転数、エンジントルク又は燃料噴射量、冷却水ポンプ回転数、冷却ファン回転数がある。
【0038】
以上に述べたシリンダヘッド温度センサ61、EGRクーラ出口ガス温度センサ63、吸気ポート壁面温度センサ64、シリンダライナ壁面温度センサ66によりその部位の温度を検出するのに代えて、これらのセンサが取付けられた部位の温度を、他の温度センサから検出された温度や各種情報から温度確認手段としてのECU18によって推定してもよい。
【0039】
図4は冷却水ポンプによる冷却方法を示すフローチャートであり、図中のS1、S2、・・・はステップ番号を示している。
ステップS1では、シリンダヘッド温度Thがシリンダヘッド温度閾値Ththより小さいかどうか判断する。
Th<Ththでない(NO)場合(即ち、Th≧Ththの場合)は、ステップS2に進む。
Th<Ththである(YES)場合は、ステップS3に進む。
ステップS2では、エンジン冷却能力を高めるために、冷却水ポンプの回転数を高回転数R2に設定する。
【0040】
ステップS3では、EGRクーラ出口ガス温度TeがEGRクーラ出口ガス温度閾値Tethより小さいかどうか判断する。
Te<Tethでない(NO)場合(即ち、Te≧Tethの場合)は、ステップS2に進む。
Te<Tethである(YES)場合は、ステップS4に進む。
【0041】
ステップS4では、吸気ポート壁面温度Tiが吸気ポート壁面温度閾値Tithより小さいかどうか判断する。
Ti<Tithでない(NO)場合(即ち、Ti≧Tithの場合)は、ステップS2に進む。
Ti<Tithである(YES)場合は、ステップS5に進む。
【0042】
ステップS5では、シリンダライナ壁面温度TLがシリンダライナ壁面温度閾値TLthより小さいかどうか判断する。
TL<TLthでない(NO)場合(即ち、TL≧TLthの場合)は、ステップS2に進む。
TL<TLthである(YES)場合は、ステップS6に進む。
ステップS6では、冷却水ポンプの回転数を低回転数R1に設定する。ここで、R1<R2である。
【0043】
図5は冷却ファンによる冷却方法を示すフローチャートであり、図中のS11、S12、・・・はステップ番号を示している。
ステップS11では、エンジン冷却水温度Tcが第2エンジン冷却水温度閾値Tcth2より小さいかどうか判断する。
Tc<Tcth2でない(NO)場合(即ち、Tc≧Tcth2の場合)は、ステップS12に進む。
Tc<Tcth2である(YES)場合は、ステップS13に進む。
ステップS12では、エンジン冷却能力を高めるために、冷却水ポンプの回転数を高回転数N2に設定する。
【0044】
ステップS13では、エンジン冷却水温度Tcが第1エンジン冷却水温度閾値Tcth1(<Tcth2)より小さいかどうか判断する。
Tc<Tcth1でない(NO)場合(即ち、Tc≧Tcth1の場合)は、ステップS14に進む。
Tc<Tcth1である(YES)場合は、ステップS15に進む。
ステップS14では、冷却水ポンプの回転数を低回転数N1(<N2)に設定する。
ステップS15では、冷却ファンを停止させる。
【0045】
図6はエンジン冷却装置を評価する自動車走行モード、即ち排ガス量測定モード(JE05モード)を示すグラフであり、車両運転状態の一例を示すものである。グラフの縦軸は車速、横軸は時間を表している。
また、図7は図6に示した自動車走行モードを実施する際の車両の重量、車両に搭載される変速機の減速比等に基づいて車両に搭載されるエンジンのエンジン負荷とエンジン回転数との関係を示す各点がプロットされている。グラフの縦軸はエンジン負荷、横軸はエンジン回転数を表している。即ち、図6におけるエンジン使用域の例を示している。なお、エンジン負荷が全開(WOT)のデータをグラフ上部に参考として示しているが、エンジンは全開では運転されていない。
【0046】
図7に示したように、エンジン負荷は、エンジン回転数の全体に亘って低負荷及び中負荷となっており、本実施形態のエンジン冷却装置は、図6に示したような刻々変化する走行状態において、図7のように刻々変化するエンジン回転数、エンジン負荷においても、次図以降で説明するように、エンジン各部の温度が従来よりも高い状態で且つ一定の範囲内に保たれるようにすることで、エンジン各部の温度変化による熱疲労を軽減するとともに、エンジン冷却損失の低減や冷却水ポンプ及び冷却ファンの駆動馬力の低減を図って燃費を向上させることができる。
【0047】
図8(A)は本実施形態のエンジン冷却装置により、エンジン運転中にエンジンを冷却しているときのシリンダライナ壁面温度の時間的変化を示すグラフであり、縦軸はシリンダライナ壁面温度、横軸は時間を表している。
グラフ中のT1はシリンダライナ壁面の平均温度、T2はシリンダライナ壁面の最大温度、dAは温度変化を示しており、図6に示したように車速が刻々と変化し、図7に示したようにエンジン回転数・エンジン負荷が変化しても、図8(A)に示すように、シリンダライナ壁面温度を高い状態で且つほぼ一定に保つことができる。
【0048】
図8(B)は比較例のエンジン冷却装置により、エンジン運転中にエンジンを冷却しているときのシリンダライナ壁面温度の時間的変化を示すグラフであり、縦軸はシリンダライナ壁面温度、横軸は時間を表している。
比較例のエンジン冷却装置は、例えば、エンジンのクランクシャフトからの駆動力によってエンジン回転数に応じて回転数が変化する冷却水ポンプや、冷却水温度の所定の閾値を境にOFFとONとが切り換わる冷却ファンを採用したものである。
【0049】
グラフ中のT3はシリンダライナ壁面の平均温度、dBは温度変化を示しており、図8(A)に示した本実施形態のシリンダライナ壁面の平均温度T1に対して低くなっている(T1>T3)。また、温度変化dBは本実施形態の温度変化dAに対して大きくなっている(dA<dB)。
即ち、図8(A),(B)において、本実施形態と比較例では、最大温度はどちらもT2というように同等であり、平均温度は本実施形態の方が比較例よりも高く、温度変化は本実施例の方が比較例よりも小さい。
【0050】
このように、本実施形態において、比較例よりも温度変化dAが小さいのは、エンジン冷却装置10(図1参照)では、エンジンの温度管理対象を、従来(例えば、上記の比較例)のような冷却水温度から、エンジンの燃焼室の対面部位の温度又は燃焼室を通過した後の流体の温度とするやり方に変更することで、エンジン回転数・エンジン負荷が刻々と変化する状況においても、エンジンの燃焼室の対面部位の温度又は燃焼室を通過した後の流体の温度に応じてエンジン冷却能力を変更することができるためである。
【0051】
即ち、エンジン各部の温度のうち、最も高い部位の少なくとも1つの温度を優先的に確認することで、エンジンの回転数・エンジン負荷に応じた急激な温度変化に迅速に対応して冷却能力の制御を行うことができ、この結果、エンジン各部の温度をより素早くほぼ一定にすることができる。
【0052】
また、エンジンが軽負荷運転時において、エンジン冷却能力を抑えることでエンジンの燃焼室の対面部位の温度、ひいてはエンジン各部の温度を従来よりも高く保つことができる。
この結果、エンジン冷却損失を低減することができ、燃費を向上させることができる。
この場合、冷却水ポンプ、冷却ファンの作動が制限されるため、冷却水ポンプ、冷却ファンを駆動させる電力、ひいては、その電力を作り出す駆動馬力も低減することができるため、この点からも燃費を向上させることができる。
【0053】
図9(A)に示す疲労限度線図では、横軸が平均応力、縦軸が応力振幅を表している。
縦軸と横軸とが交わる点では、平均応力、応力振幅が共にゼロである。
三角形の斜辺は降伏限界であり、斜線はグラフ縦軸と交わる点に両振り疲労限度σW、グラフ横軸と交わる点に引張り強さσBをとった疲労限度線である。
この疲労限度線図には、本実施形態の図8(A)に示したシリンダライナ壁面温度から求められるシリンダライナ壁面の平均応力と応力振幅からなるデータ(黒塗り四角印)、比較例の図8(B)に示したシリンダライナ壁面温度から求められるシリンダライナ壁面の平均応力と応力振幅からなるデータ(白抜き四角印)がプロットされている。
【0054】
本実施形態及び比較例は共に、降伏限界内(三角形の斜辺より下側)にあるために塑性変形することはなく、また、疲労限度線より下側にあるために疲労破壊を起こすこともない。
本実施形態は、平均応力が比較例に比べて高いが、応力振幅が比較例に比べて低くなっている。
【0055】
図9(B)は図9(A)に示した疲労限度線図の要部を拡大したものである。
本実施形態の平均応力σm1に対応する疲労限度線上の応力振幅はA1であり、また、本実施形態の応力振幅はσa1であるから、疲労安全率Sf1は、Sf1=A1/σa1となる。
同様に、比較例の平均応力σm2に対応する疲労限度線上の応力振幅はA2であり、比較例の応力振幅はσa2であるから、疲労安全率Sf2は、Sf2=A2/σa2となる。
グラフから、本実施形態の疲労安全率Sf1の方が、比較例の疲労安全率Sf2に比べて大きくなっている(Sf1>Sf2)。
【0056】
このように、エンジンにおける燃焼室の対面部位の温度変化をより小さくしてエンジン各部の温度を一定の範囲内に保つことで、エンジン各部の温度変化による熱疲労を軽減することができ、エンジンの信頼性を向上させることができる。
【0057】
尚、本実施形態では、図2に示したように、シリンダライナ壁面温度センサ66をシリンダライナ36の内壁面に設けたが、これに限らず、シリンダライナ壁面温度センサ66をシリンダライナ36の壁の内側に埋め込んでもよい。
【0058】
エンジン各部の温度を管理するための温度センサとして、図3に示した温度センサの他に、例えば、ピストン頂面温度、ピストンの燃焼室壁面温度、排気ポート壁面温度をそれぞれ検出する温度センサを設けてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、電動式の冷却水ポンプ、電動式の冷却ファンを備えるエンジン冷却装置に好適である。
【符号の説明】
【0060】
10 エンジン冷却装置
11 エンジン
13,17 冷却可変手段(冷却水ポンプ、冷却ファン)
18 制御手段、温度確認手段(ECU)
36,41,41a 燃焼室の対面部位(シリンダライナ、シリンダヘッド、吸気ポート)
47 EGRクーラ
61,63,64,66 温度確認手段(シリンダヘッド温度センサ、EGRクーラ出口ガス温度センサ、吸気ポート壁面温度センサ、シリンダライナ壁面温度センサ)
N1,N2 冷却ファンの回転数(低回転数、高回転数)
Tcth1,Tcth2 エンジン入口冷却水温の閾値(第1エンジン冷却水温度閾値、第2エンジン冷却水温度閾値)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン運転中にエンジン各部位を冷却するエンジン冷却装置において、
前記エンジンに備える燃焼室の対面部位の温度若しくは前記燃焼室を通過した後の流体の温度を直接に検出する、又は間接に推定する温度確認手段と、エンジン冷却能力を変更可能な冷却可変手段と、前記温度確認手段によって確認された前記燃焼室の対面部位の温度若しくは前記燃焼室を通過した後の前記流体の温度が閾値以上になった場合に、前記燃焼室の対面部位の温度又は前記流体の温度が閾値未満の場合に対して前記冷却可変手段のエンジン冷却能力を高めるように制御する制御手段とを備えることを特徴とするエンジン冷却装置。
【請求項2】
前記燃焼室の対面部位の温度若しくは前記流体の温度は、シリンダヘッドの燃焼室壁面温度、EGRクーラ出口の排ガス温度、吸気ポート壁面温度、シリンダライナ壁面温度のうち、少なくとも1つであることを特徴とする請求項1記載のエンジン冷却装置。
【請求項3】
前記冷却可変手段は、前記エンジン内及びラジエータ内の冷却水を強制循環させる冷却水ポンプであることを特徴とする請求項1又は2記載のエンジン冷却装置。
【請求項4】
前記冷却可変手段は、前記ラジエータへの送風を促す冷却ファンであり、また、前記流体の温度は、少なくとも1つの閾値が設定されたエンジン入口冷却水温であり、このエンジン入口冷却水温の前記閾値に対応させて、該閾値の高さに応じて回転数が増加するように前記冷却ファンの回転数が設定され、
前記エンジン入口冷却水温に基づいて前記冷却ファンの回転数を制御する際に、前記エンジン入口冷却水温が、前記エンジン入口冷却水温の前記閾値以上になる毎に、前記冷却ファンの回転数を前記エンジン入口冷却水温の前記閾値に対応させた前記冷却ファンの前記回転数に変更することを特徴とする請求項1記載のエンジン冷却装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−44295(P2013−44295A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−183465(P2011−183465)
【出願日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【出願人】(598051819)ダイムラー・アクチェンゲゼルシャフト (1,147)
【氏名又は名称原語表記】Daimler AG
【住所又は居所原語表記】Mercedesstrasse 137,70327 Stuttgart,Deutschland