エンボス加工方法およびシステムキッチン
【課題】金型を用いてエンボスを形成する場合において、製品の意匠性を向上させることが可能なエンボス加工方法およびシステムキッチンを提供することを目的とする。
【解決手段】本発明にかかるエンボス加工方法の構成は、金属製の板状部材(天板110)に複数の凸部118aからなるエンボス118を形成するエンボス加工方法であって、複数の突出部が規則的に配列された四角形150aの少なくとも隣接する2辺に四角形150bを連続させたパターンを有するパターン150を、板状部材(天板110)に押し当てて複数の凸部を形成し、押し当てにより形成された凸部の辺に隣接するように金型を更に押し当てることを繰り返すことを特徴とする。
【解決手段】本発明にかかるエンボス加工方法の構成は、金属製の板状部材(天板110)に複数の凸部118aからなるエンボス118を形成するエンボス加工方法であって、複数の突出部が規則的に配列された四角形150aの少なくとも隣接する2辺に四角形150bを連続させたパターンを有するパターン150を、板状部材(天板110)に押し当てて複数の凸部を形成し、押し当てにより形成された凸部の辺に隣接するように金型を更に押し当てることを繰り返すことを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属製の板状部材に複数の凸部からなるエンボスを形成するエンボス加工方法およびそれを適用した天板またはシンクを備えるシステムキッチンに関する。
【背景技術】
【0002】
近年のキッチンは、一枚の天板からなるワークトップの下に複数の収納庫(キャビネット)を備えたシステムキッチンが主流となっている。キッチン全体の上面を覆うワークトップ(天板)には、組み込み式のコンロや一体形成のシンク、主に調理を行うのに利用される平坦なテーブル面である調理スペースが設けられる。
【0003】
ワークトップの天板は、意匠性や耐食性に優れたステンレス等の金属製の板状部材で構成されることが多い。しかしながら、ステンレスも金属の一種であるため、他の金属に比べれば程度は低いものの、経年使用による食器類や調理器具との接触により表面に傷が生じてしまう。特に、調理スペースのような面積が広い領域では傷が目立ってしまうため、美観が損なわれてしまう。
【0004】
そこで、傷付きを低減し且つ傷を目立たなくするために、発明者は鋭意検討し、ワークトップの天板のうち、特に傷が目立ってしまう調理スペース部分にエンボス加工を施すことが有効であると考えた。調理スペースではないが、キッチンのシンクの側面へのエンボス加工は従来から行われている(例えば特許文献1)。特許文献1のように側面にエンボス加工したシンクは、まず凹凸を有する圧延ローラによって金属鋼板を圧延することによりエンボス加工を施し、その後に絞り加工によってシンクの形状に成形するという方法によって作られることが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−316195号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
仮に、キッチンのワークトップの天板の全面にエンボス加工を施すのであれば、上述したシンクの場合と同様に圧延ローラを用いた方法が好適である。しかしながら、調理スペース部分のみにエンボス加工を施そうとする場合、そこはワークトップの天板の一部の領域であるため、圧延ローラを用いる方法であると必要ない領域にまでエンボス加工が施されてしまう。このため、調理スペースのようなワークトップの天板の一部の領域にエンボス加工を施す際には、圧延ローラによるエンボス加工は適切ではない。
【0007】
そこで、発明者は他のエンボス加工方法を試行錯誤し、金型を用いた方法(プレス成形とも称される。)であれば、ワークトップの天板の一部の領域にのみエンボス加工を施すことが可能であると考え、その方法によって試作を行った。その結果、かかる方法であると、エンボスは好適に施されるものの、多角形(主に四角形である場合が多い)の金型により天板に残った多角形の境界線が容易に視認できてしまうため、意匠性に優れているとは言い難かった。
【0008】
本発明は、このような課題に鑑み、金型を用いてエンボスを形成する場合において、製品の意匠性を向上させることが可能なエンボス加工方法およびシステムキッチンを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明にかかるエンボス加工方法の代表的な構成は、金属製の板状部材に複数の凸部からなるエンボスを形成するエンボス加工方法であって、複数の突出部が規則的に配列された四角形の少なくとも隣接する2辺に四角形を連続させたパターンを有する金型を、板状部材に押し当てて複数の凸部を形成し、押し当てにより形成された凸部の辺に隣接するように金型を更に押し当てることを繰り返すことを特徴とする。
【0010】
上記構成によれば、例えば1つの四角形の隣接する2辺に四角形を連続させると金型のパターン形状は略L字状となる。その略L字状のパターンの金型を用いれば、形成されたエンボスの境界線はL字を縁取った形状となる。これにより、従来の四角の金型とは異なり、金型の境界線がなす直線が短く分断されるため、境界線が極めて観察されにくくなる。したがって、エンボスが施された製品の外観における意匠性の向上を図ることができる。また原則として境界線は極めて観察されにくくなっているものの、見る者によっては境界線を認識できる可能性もある。そのような場合にあっても本発明の金型であれば、それによって形成されたエンボスの境界線は上述したように例えば略L字状となるため、その境界線を一種の模様のように見せることができる。したがって、境界線が観察されたとしても美観を損なうことがない。
【0011】
上記の金型は、1つの四角形の3辺に四角形を連続させた略T字形状のパターンを有するとよい。金型のパターン形状を略T字形状とすることでも、これを組み合わせて面を形成すると、境界線において直線が連続しなくなるため、境界線が極めて観察されにくくなる。
【0012】
上記の金型は、1つの四角形の4辺すべてに四角形を連続させた略十字形状のパターンを有するとよい。金型のパターン形状を略十字形状とすることでも、これを組み合わせて面を形成すると、境界線において直線が連続しなくなるため、境界線が極めて観察されにくくなる。
【0013】
上記課題を解決するために、本発明にかかるエンボス加工方法の他の構成は、金属製の板状部材に複数の凸部からなるエンボスを形成するエンボス加工方法であって、複数の突出部が規則的に配列された六角形の1辺に六角形を連続させ且つ連続させた辺と対向しない辺に更に1以上の六角形を連続させたパターンを有する金型を、板状部材に押し当てて複数の凸部を形成し、押し当てにより形成された凸部の辺に隣接するように金型を更に押し当てることを繰り返すことを特徴とする。
【0014】
上記構成のように複数の六角形を連続させたパターンを有する金型であっても、上述した四角形を連続させた場合と同様の効果を得ることが可能である。
【0015】
上記課題を解決するために、本発明にかかるシステムキッチンの代表的な構成は、金属製の板状部材からなる天板またはシンクを備えるシステムキッチンであって、天板またはシンクの一部分には、上述したエンボス加工方法によって複数の凸部からなるエンボスが形成されていることを特徴とする。
【0016】
これにより、上述したように天板におけるエンボス加工時の境界線が観察しづらくなるため、システムキッチンの意匠性を向上させることが可能となる。またシンクにおいても同様の効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、金型を用いてエンボスを形成する場合において、製品の意匠性を向上させることが可能なエンボス加工方法およびシステムキッチンを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本実施形態にかかるエンボス加工方法が適用された天板を備えるキッチンを示す図である。
【図2】本実施形態にかかるエンボス加工方法が適用される天板を示す図である。
【図3】本実施形態にかかるエンボス加工方法に用いられる金型である雄型が有するパターンを例示する図である。
【図4】図3に示すパターンを有する雄型の使用態様図である。
【図5】本実施形態にかかるエンボス加工方法を説明する概略図である。
【図6】エンボス加工時の天板の表面を示す図である。
【図7】本実施形態のエンボス加工方法に用いられる金型の他のパターン形状を例示する図である。
【図8】本実施形態のエンボス加工方法に用いられる金型の他のパターン形状を例示する図である。
【図9】六角形を連続させたパターンを例示する図である。
【図10】六角形を連続させたパターンを例示する図である。
【図11】六角形を連続させたパターンを例示する図である。
【図12】六角形を連続させたパターンを例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0020】
(キッチン)
図1は本実施形態にかかるエンボス加工方法が適用された天板を備えるキッチンを示す図である。キッチン100は一枚の天板110(ワークトップ)の下に複数の収納庫(キャビネット)を備えた、いわゆるシステムキッチンである。天板110は例えばステンレス等の金属からなり、キッチン100の全体の上面を覆っている。また天板110には、組み込み式に取り付けられたコンロ112、平坦なテーブル面であり主に調理を行うのに利用される調理スペース114、天板110に一体形成されたシンク116が設けられる。
【0021】
天板110の下は、コンロ112本体が設置されているコンロキャビネット120と、調理スペース114に対応したベースキャビネット130と、シンク116が設置されているシンクキャビネット140といった各収納庫で構成される。各収納庫は収納スペースとして機能し、収納庫内の空きスペースには、コンロ112への配線や、シンク116および水栓への給排水管なども収容されている。
【0022】
(天板110およびエンボス加工方法)
次に、本実施形態にかかるエンボス加工方法、およびそれを適用された天板110について説明する。図2は、本実施形態にかかるエンボス加工方法が適用される天板110を示す図であり、図2(a)は天板110の上面図であり、図2(b)は図2(a)のA−A断面図である。
【0023】
図2(a)に示す天板110は、1枚板の金属製の板状部材を、図2(b)に示すようにキッチン100の奥行き方向において所定の形状に曲げ加工することにより製造される。また天板110には、上述したコンロ112を組付けるための開口部112a、およびシンク116を組付けるための開口部116aが形成されている。開口部112aおよび116aの間には、上述した調理スペース114となる領域114a(破線にて囲った領域)が設けられていて、本実施形態ではこの領域114aに、複数の凸部からなるエンボスを形成する。
【0024】
なお、本実施形態においては、領域114aにエンボスを形成する場合を例示して説明するが、この領域114aに限らず、他の領域にエンボスを形成することも可能である。他の領域としては、例えば、開口部112aに隣接する領域114bや、開口部116aに隣接する領域114cを例示することができる。これらの領域114bおよび114cには食器や調理器具等が載置されることがあるため、そこにエンボスを形成することにより傷付きの低減および傷を目立たなくする効果が得られる。
【0025】
本実施形態において、領域114aへのエンボスの形成には、後述する雄型190および雌型180(図4参照)の金型を用いる。図3は、本実施形態にかかるエンボス加工方法に用いられる金型である雄型190が有するパターン150を例示する図であり、図3(a)はパターン150の上面図であり、図3(b)は図3(a)のB−B断面図である。
【0026】
図3(a)に示すパターン150は、1つの四角形150a(太破線で囲った領域)の4辺に、かかる四角形150aと同一形状の四角形150b(太一点鎖線で囲った領域)を連続させた略十字形状である。パターン150には、領域114aに形成するエンボスに対応する数および形状の複数の突出部152が規則的に配列されていて、突出部152は、図3(b)に示すように上方に突出している。
【0027】
なお、図3の例において、四角形150a、150bは正方形であるが、長方形であってもよい。また四角形150aと四角形150bとは必ずしも同一形状である必要はなく、いずれか一方を正方形とし他方を長方形とした正方形と長方形の組み合わせでもよい。
【0028】
図4は、図3に示すパターン150を有する雄型190の使用態様図である。図4(a)に示すように、図3に示すパターン150は、実際には、プレス成形時に用いられる雄型190の先端面190aに配置されている。すなわち、本実施形態の雄型190は、複数の突出部152が規則的に配列された四角形150aおよび150bを連続させたパターン150を有する金型である。
【0029】
また本実施形態にかかるエンボス加工方法では、図4(b)に模式的に示すように、雄型190のパターン150に対応する形状を有する金型が雌型180として用いられる。雌型180は、その外縁182の内側に、それよりも高さが低い段部184が形成されている。なお、この段部184の詳細については後に詳述する。
【0030】
そして、図4(b)および(c)に示すように、雄型190のパターン150が配置されている面(先端面190a)を雌型180に対向させて、雄型190を矢印の方向に移動させることにより、後述するように天板110にエンボスが形成される。
【0031】
なお、図4(b)では、天板110の上方に配置される上型を雌型180とし、天板110の下方に配置される下型を雄型190としていて、図4(c)では、上型を雄型190とし、下型を雌型180としている。すなわち、図4(b)では天板110を下から押し出して、それに上向きのエンボスを形成する場合を図示していて、図4(c)では天板110を上から押し出して、それに下向きのエンボスを形成する場合を例示している。以下の説明では、図4(b)のように上型を雌型180、下型を雄型190とした場合を例示するがこれに限定するものではなく、図4(b)および図4(c)のいずれの配置であっても、天板110に好適にエンボスを形成することが可能である。
【0032】
図5は、本実施形態にかかるエンボス加工方法を説明する概略図である。本実施形態にかかるエンボス加工方法では、まず図5(a)に示すように、雄型190の突出部152が形成されている面(パターン150を有する面)を、雌型180の下方に配置されている天板110(板状部材)の背面110bに対向させて、図5(b)に示すように雄型190を天板110に押し当てる。すると、押し当て時の圧力によって天板110において突出部152に対応する箇所が変形し、図5(c)に示すように天板110の表面110aに、上方に向かって突出する複数の凸部118a(以下、この複数の凸部118aの集合体をエンボス118と称する。)が形成される。
【0033】
このとき、上述したように雌型180には段部184が形成されているため、図4(b)のように雄型190を押し当てて天板110に形成された凸部118a(エンボス118)が逃げる空間が確保されている。これにより、天板110に形成されたエンボス118が雄型190の圧力によって押しつぶされてしまうことを防ぐことができる。
【0034】
図6は、エンボス加工時の天板110の表面を示す図である。なお、上述したエンボス加工時に金型(雌型180および雄型190)によって形成されたエンボス118の境界線118bは、極めて観察しにくいものであるが、理解を容易にするために細実線にて示している。また、図示の都合上、複数の凸部118aは不図示とする。
【0035】
上述したように雄型190を天板110に押し当てると、領域114aには、図6(a)に示すように略十字状のエンボス118が形成される。このとき、雄型190のパターン150の形状が略十字状であるため、形成されたエンボス118の境界線118b(輪郭)は十字を縁取った形状となる。
【0036】
図6(a)に示すように領域114aにエンボス118(凸部118a)を形成したら、次に、その形成されたエンボス118の境界線118bの辺、すなわち複数の凸部118aの外周の辺に隣接するように、雄型190を更に押し当てる(図5(b)参照)。これにより、図6(b)に示すように、十字形状の境界線118bを有する2つのエンボス118が形成される。そして、この作業を繰り返すことにより、図6(c)に示すように、領域114aの全面にエンボス118が形成される。
【0037】
図6(d)は、従来のように単なる四角形のパターンを有する金型(不図示)を用いてエンボスを形成した天板を例示する図である。単なる四角形の金型を用いると、図6(d)に示すように、エンボス18の境界線18bはキッチン100の幅方向および奥行き方向(図面においては上下方向および左右方向)に連続することとなる。このため、その境界線18bが使用者に容易に視認されてしまい、意匠性に優れているとは言い難かった。
【0038】
それに対し、本実施形態のように複数の四角形を組み合わせた形状のパターン150を有する金型である雄型190を用いて形成されたエンボス118の境界線118bは、図6(c)に示すように十字を縁取った形状であるため、キッチン100の幅方向および奥行き方向において境界線118bがなす直線が短く分断される。したがって、エンボス118の境界線118bが極めて観察されにくくなるため、キッチン100(製品)の外観における意匠性の向上を図ることができる。また、仮に図6(c)に示すエンボス118の境界線118bが認識されたとしても、それを一種の模様のように見せることができるため、美観を損なうことがない。
【0039】
また、領域114aの範囲は、コンロ112の幅(開口部112aの幅)にあわせるか、またはシンク116の幅(開口部116aの幅)にあわせることが好ましい。これにより、天板110の外観に帯状の連続性を持たせることができる。すなわち、部分的にエンボス118を設けることにより、機能的構造であるエンボス118を装飾としても用いることができ、美観を向上させることが可能となる。
【0040】
なお、天板110に本実施形態のエンボス加工方法を適用するタイミングとしては、1枚板の天板110に開口部112aおよび開口部116aを形成した後が好適である。そして、当該エンボス加工方法によってエンボス118を形成した後に曲げ加工することにより天板110が製造される。ただし、これに限定するものではなく、当該エンボス加工方法は、開口部112aおよび開口部116aの形成前や天板110を曲げ加工する前等、他の段階において適用することも可能である。
【0041】
ここで、上記説明したパターン150では、1つの四角形150aの4辺すべてに同一形状の四角形150bを連続させた形状としたが、これに限定するものではない。1つの四角形150aの少なくとも隣接する2辺に同一形状の四角形150bを連続させた形状のパターンであっても上述した利点を得ることができる。
【0042】
図7および図8は、本実施形態のエンボス加工方法に用いられる金型の他のパターン形状を例示する図である。図7(a)は、1つめの他の形状のパターンの上面図であり、図7(b)は図7(a)のパターンを有する雄型(金型)を用いてエンボスが形成された天板110の表面を示す図である。図8(a)は、2つめの他の形状のパターンの上面図であり、図8(b)は図8(a)のパターンを有する雄型(金型)を用いてエンボスが形成された天板110の表面を示す図である。なお、上記説明した実施形態の各構成要素と同一の機能や構成を有する要素については、同一の符号を付すことにより説明を省略する。また、図示は省略するが、以下に説明するいずれのパターンにおいても、雄型190の先端面190aに配置されていることは言うまでもない。
【0043】
図7(a)に示すパターン160は、1つの四角形150a(太破線で囲った領域)の2辺に、かかる四角形150aと同一形状の四角形150b(太一点鎖線で囲った領域)を連続させた略L字状である。このパターン160によれば、領域114aに形成されたエンボス118の境界線118bは、図7(b)に示すようにL字を縁取った形状となる。したがって、上記と同様の利点を得ることができる。
【0044】
図8(a)に示すパターン170は、1つの四角形150a(太破線で囲った領域)の3辺に、かかる四角形150aと同一形状の四角形150b(太一点鎖線で囲った領域)を連続させた略T字形状である。このパターン170によれば、領域114aに形成されたエンボス118の境界線118bは、図7(b)に示すようにT字を縁取った形状となる。これによっても、上記と同様の利点を得ることができる。
【0045】
以上、複数の四角形150aおよび150bを連続させたパターン150〜170について説明したが、以下に説明するように、複数の六角形を連続させたパターンであっても、上述した四角形150aおよび150bを連続させたパターン150〜170と同様の効果を得ることが可能である。
【0046】
図9、図10、図11および図12は、六角形を連続させたパターンを例示する図である。なお、上述した実施形態の構成要素と同一の機能および構成を有する要素については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0047】
図9(a)に示すパターン210は、1つの六角形202a(太破線で囲った領域)の2辺に、かかる六角形202aと同一形状の六角形202bおよび202c(太一点鎖線で囲った領域)を連続させた形状である。詳細には、パターン210では、六角形202aの1辺に六角形202bを連続させ、且つ六角形202aにおいて六角形202bを連続させた辺と対向しない辺に六角形202cを更に連続させていて、特に六角形202bおよび202cは、六角形202aにおいて隣接する2辺に配置されている。
【0048】
上記のパターン210によれば、領域114aに形成されたエンボス118の境界線118bは、図9(b)に示すような形状となり、キッチン100の幅方向および奥行き方向において境界線がなす直線が短く分断される。したがって、上述したように、エンボス118の境界線118bを観察されにくくする効果と、それを一種の模様のように見せる効果が得られ、キッチン100(製品)の外観における意匠性の向上を図ることができる。
【0049】
ここで、六角形202bおよび六角形202cを、六角形202aにおいて対向しない辺に連続させたのは、六角形202bと六角形202cとを六角形202aにおいて対向する辺に連続させると、パターンが、六角形202a〜202cを一直線に並べた形状になるからである。図示は省略するが、かかる形状であると、それを複数回押し当てることによって形成したエンボスの境界線は、キッチン100の幅方向または奥行き方向においてジグザグな直線となる。すると、従来のように単なる四角形の金型(不図示)を用いてエンボスを形成した際の境界線18b(図6(d)参照)よりは確認しづらくなるものの、ジグザグな境界線を模様のように見せることが困難であるため好ましくない。
【0050】
図10に示すパターン220は、図9に示すパターン210の変形例である。図9に示すパターン210では、1つの六角形202aにおいて隣接する2辺に六角形202bおよび202cが配置(連続)されていたのに対し、図10(a)に示すパターン220では、1つの六角形202a(太破線で囲った領域)の6辺のうち、隣接せず且つ対向しない辺に六角形202bおよび202cが配置されている。このパターン220によれば、領域114aに形成されたエンボス118の境界線118bは、図10(b)に示すような形状となり、上記と同様の利点を得ることができる。
【0051】
図11に示すパターン230も、図9に示すパターン210の変形例である。図9に示すパターン210では、1つの六角形202aにおいて隣接する2辺に六角形202bおよび202cが配置されていたのに対し、図11(a)に示すパターン230では、六角形202bおよび202cに加え、かかる六角形202cに隣接して六角形202dが更に配置されている。これらの六角形202b〜202dは、すべて六角形202aにおいて対向しない辺に配置されている。このパターン230によれば、領域114aに形成されたエンボス118の境界線118bは、図11(b)に示すような形状となり、上記と同様の利点を得ることができる。
【0052】
図12に示すパターン240は、図10に示すパターン220の変形例である。図10に示すパターン220では、1つの六角形202aにおいて隣接せず且つ対向しない辺に六角形202bおよび202cが配置されていたのに対し、図12(a)に示すパターン240では、六角形202bおよび202cに加え、それらと対向しない辺に六角形202dが更に配置されている。このパターン240によれば、領域114aに形成されたエンボス118の境界線118bは、図12(b)に示すような形状となり、上記と同様の利点を得ることができる。
【0053】
なお、本実施形態においては、本発明にかかるエンボス加工方法を適用する対象としてキッチン100を構成する天板110を例示したが、これに限定するものではない。本発明のエンボス加工方法は、キッチン100の天板110だけでなく、シンク116にも適用することが可能であり、それら以外にも、金属製の板状部材の表面に部分的にエンボスを形成する場合に好適に用いることができる。
【0054】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、金属製の板状部材に複数の凸部からなるエンボスを形成するエンボス加工方法およびシステムキッチンに利用することができる。
【符号の説明】
【0056】
18…エンボス、18b…境界線、100…キッチン、110…天板、110a…表面、110b…背面、112…コンロ、112a…開口部、114…調理スペース、114a…領域、114b…領域、114c…領域、116…シンク、116a…開口部、118…エンボス、118a…凸部、118b…境界線、120…コンロキャビネット、130…ベースキャビネット、150…パターン、150a…四角形、150b…四角形、152…突出部、160…パターン、170…パターン、180…雌型、184…段部、190…雄型、190a…先端面、202a…六角形、202b…六角形、202c…六角形、202d…六角形、210…パターン、220…パターン、230…パターン、240…パターン
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属製の板状部材に複数の凸部からなるエンボスを形成するエンボス加工方法およびそれを適用した天板またはシンクを備えるシステムキッチンに関する。
【背景技術】
【0002】
近年のキッチンは、一枚の天板からなるワークトップの下に複数の収納庫(キャビネット)を備えたシステムキッチンが主流となっている。キッチン全体の上面を覆うワークトップ(天板)には、組み込み式のコンロや一体形成のシンク、主に調理を行うのに利用される平坦なテーブル面である調理スペースが設けられる。
【0003】
ワークトップの天板は、意匠性や耐食性に優れたステンレス等の金属製の板状部材で構成されることが多い。しかしながら、ステンレスも金属の一種であるため、他の金属に比べれば程度は低いものの、経年使用による食器類や調理器具との接触により表面に傷が生じてしまう。特に、調理スペースのような面積が広い領域では傷が目立ってしまうため、美観が損なわれてしまう。
【0004】
そこで、傷付きを低減し且つ傷を目立たなくするために、発明者は鋭意検討し、ワークトップの天板のうち、特に傷が目立ってしまう調理スペース部分にエンボス加工を施すことが有効であると考えた。調理スペースではないが、キッチンのシンクの側面へのエンボス加工は従来から行われている(例えば特許文献1)。特許文献1のように側面にエンボス加工したシンクは、まず凹凸を有する圧延ローラによって金属鋼板を圧延することによりエンボス加工を施し、その後に絞り加工によってシンクの形状に成形するという方法によって作られることが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−316195号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
仮に、キッチンのワークトップの天板の全面にエンボス加工を施すのであれば、上述したシンクの場合と同様に圧延ローラを用いた方法が好適である。しかしながら、調理スペース部分のみにエンボス加工を施そうとする場合、そこはワークトップの天板の一部の領域であるため、圧延ローラを用いる方法であると必要ない領域にまでエンボス加工が施されてしまう。このため、調理スペースのようなワークトップの天板の一部の領域にエンボス加工を施す際には、圧延ローラによるエンボス加工は適切ではない。
【0007】
そこで、発明者は他のエンボス加工方法を試行錯誤し、金型を用いた方法(プレス成形とも称される。)であれば、ワークトップの天板の一部の領域にのみエンボス加工を施すことが可能であると考え、その方法によって試作を行った。その結果、かかる方法であると、エンボスは好適に施されるものの、多角形(主に四角形である場合が多い)の金型により天板に残った多角形の境界線が容易に視認できてしまうため、意匠性に優れているとは言い難かった。
【0008】
本発明は、このような課題に鑑み、金型を用いてエンボスを形成する場合において、製品の意匠性を向上させることが可能なエンボス加工方法およびシステムキッチンを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明にかかるエンボス加工方法の代表的な構成は、金属製の板状部材に複数の凸部からなるエンボスを形成するエンボス加工方法であって、複数の突出部が規則的に配列された四角形の少なくとも隣接する2辺に四角形を連続させたパターンを有する金型を、板状部材に押し当てて複数の凸部を形成し、押し当てにより形成された凸部の辺に隣接するように金型を更に押し当てることを繰り返すことを特徴とする。
【0010】
上記構成によれば、例えば1つの四角形の隣接する2辺に四角形を連続させると金型のパターン形状は略L字状となる。その略L字状のパターンの金型を用いれば、形成されたエンボスの境界線はL字を縁取った形状となる。これにより、従来の四角の金型とは異なり、金型の境界線がなす直線が短く分断されるため、境界線が極めて観察されにくくなる。したがって、エンボスが施された製品の外観における意匠性の向上を図ることができる。また原則として境界線は極めて観察されにくくなっているものの、見る者によっては境界線を認識できる可能性もある。そのような場合にあっても本発明の金型であれば、それによって形成されたエンボスの境界線は上述したように例えば略L字状となるため、その境界線を一種の模様のように見せることができる。したがって、境界線が観察されたとしても美観を損なうことがない。
【0011】
上記の金型は、1つの四角形の3辺に四角形を連続させた略T字形状のパターンを有するとよい。金型のパターン形状を略T字形状とすることでも、これを組み合わせて面を形成すると、境界線において直線が連続しなくなるため、境界線が極めて観察されにくくなる。
【0012】
上記の金型は、1つの四角形の4辺すべてに四角形を連続させた略十字形状のパターンを有するとよい。金型のパターン形状を略十字形状とすることでも、これを組み合わせて面を形成すると、境界線において直線が連続しなくなるため、境界線が極めて観察されにくくなる。
【0013】
上記課題を解決するために、本発明にかかるエンボス加工方法の他の構成は、金属製の板状部材に複数の凸部からなるエンボスを形成するエンボス加工方法であって、複数の突出部が規則的に配列された六角形の1辺に六角形を連続させ且つ連続させた辺と対向しない辺に更に1以上の六角形を連続させたパターンを有する金型を、板状部材に押し当てて複数の凸部を形成し、押し当てにより形成された凸部の辺に隣接するように金型を更に押し当てることを繰り返すことを特徴とする。
【0014】
上記構成のように複数の六角形を連続させたパターンを有する金型であっても、上述した四角形を連続させた場合と同様の効果を得ることが可能である。
【0015】
上記課題を解決するために、本発明にかかるシステムキッチンの代表的な構成は、金属製の板状部材からなる天板またはシンクを備えるシステムキッチンであって、天板またはシンクの一部分には、上述したエンボス加工方法によって複数の凸部からなるエンボスが形成されていることを特徴とする。
【0016】
これにより、上述したように天板におけるエンボス加工時の境界線が観察しづらくなるため、システムキッチンの意匠性を向上させることが可能となる。またシンクにおいても同様の効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、金型を用いてエンボスを形成する場合において、製品の意匠性を向上させることが可能なエンボス加工方法およびシステムキッチンを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本実施形態にかかるエンボス加工方法が適用された天板を備えるキッチンを示す図である。
【図2】本実施形態にかかるエンボス加工方法が適用される天板を示す図である。
【図3】本実施形態にかかるエンボス加工方法に用いられる金型である雄型が有するパターンを例示する図である。
【図4】図3に示すパターンを有する雄型の使用態様図である。
【図5】本実施形態にかかるエンボス加工方法を説明する概略図である。
【図6】エンボス加工時の天板の表面を示す図である。
【図7】本実施形態のエンボス加工方法に用いられる金型の他のパターン形状を例示する図である。
【図8】本実施形態のエンボス加工方法に用いられる金型の他のパターン形状を例示する図である。
【図9】六角形を連続させたパターンを例示する図である。
【図10】六角形を連続させたパターンを例示する図である。
【図11】六角形を連続させたパターンを例示する図である。
【図12】六角形を連続させたパターンを例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0020】
(キッチン)
図1は本実施形態にかかるエンボス加工方法が適用された天板を備えるキッチンを示す図である。キッチン100は一枚の天板110(ワークトップ)の下に複数の収納庫(キャビネット)を備えた、いわゆるシステムキッチンである。天板110は例えばステンレス等の金属からなり、キッチン100の全体の上面を覆っている。また天板110には、組み込み式に取り付けられたコンロ112、平坦なテーブル面であり主に調理を行うのに利用される調理スペース114、天板110に一体形成されたシンク116が設けられる。
【0021】
天板110の下は、コンロ112本体が設置されているコンロキャビネット120と、調理スペース114に対応したベースキャビネット130と、シンク116が設置されているシンクキャビネット140といった各収納庫で構成される。各収納庫は収納スペースとして機能し、収納庫内の空きスペースには、コンロ112への配線や、シンク116および水栓への給排水管なども収容されている。
【0022】
(天板110およびエンボス加工方法)
次に、本実施形態にかかるエンボス加工方法、およびそれを適用された天板110について説明する。図2は、本実施形態にかかるエンボス加工方法が適用される天板110を示す図であり、図2(a)は天板110の上面図であり、図2(b)は図2(a)のA−A断面図である。
【0023】
図2(a)に示す天板110は、1枚板の金属製の板状部材を、図2(b)に示すようにキッチン100の奥行き方向において所定の形状に曲げ加工することにより製造される。また天板110には、上述したコンロ112を組付けるための開口部112a、およびシンク116を組付けるための開口部116aが形成されている。開口部112aおよび116aの間には、上述した調理スペース114となる領域114a(破線にて囲った領域)が設けられていて、本実施形態ではこの領域114aに、複数の凸部からなるエンボスを形成する。
【0024】
なお、本実施形態においては、領域114aにエンボスを形成する場合を例示して説明するが、この領域114aに限らず、他の領域にエンボスを形成することも可能である。他の領域としては、例えば、開口部112aに隣接する領域114bや、開口部116aに隣接する領域114cを例示することができる。これらの領域114bおよび114cには食器や調理器具等が載置されることがあるため、そこにエンボスを形成することにより傷付きの低減および傷を目立たなくする効果が得られる。
【0025】
本実施形態において、領域114aへのエンボスの形成には、後述する雄型190および雌型180(図4参照)の金型を用いる。図3は、本実施形態にかかるエンボス加工方法に用いられる金型である雄型190が有するパターン150を例示する図であり、図3(a)はパターン150の上面図であり、図3(b)は図3(a)のB−B断面図である。
【0026】
図3(a)に示すパターン150は、1つの四角形150a(太破線で囲った領域)の4辺に、かかる四角形150aと同一形状の四角形150b(太一点鎖線で囲った領域)を連続させた略十字形状である。パターン150には、領域114aに形成するエンボスに対応する数および形状の複数の突出部152が規則的に配列されていて、突出部152は、図3(b)に示すように上方に突出している。
【0027】
なお、図3の例において、四角形150a、150bは正方形であるが、長方形であってもよい。また四角形150aと四角形150bとは必ずしも同一形状である必要はなく、いずれか一方を正方形とし他方を長方形とした正方形と長方形の組み合わせでもよい。
【0028】
図4は、図3に示すパターン150を有する雄型190の使用態様図である。図4(a)に示すように、図3に示すパターン150は、実際には、プレス成形時に用いられる雄型190の先端面190aに配置されている。すなわち、本実施形態の雄型190は、複数の突出部152が規則的に配列された四角形150aおよび150bを連続させたパターン150を有する金型である。
【0029】
また本実施形態にかかるエンボス加工方法では、図4(b)に模式的に示すように、雄型190のパターン150に対応する形状を有する金型が雌型180として用いられる。雌型180は、その外縁182の内側に、それよりも高さが低い段部184が形成されている。なお、この段部184の詳細については後に詳述する。
【0030】
そして、図4(b)および(c)に示すように、雄型190のパターン150が配置されている面(先端面190a)を雌型180に対向させて、雄型190を矢印の方向に移動させることにより、後述するように天板110にエンボスが形成される。
【0031】
なお、図4(b)では、天板110の上方に配置される上型を雌型180とし、天板110の下方に配置される下型を雄型190としていて、図4(c)では、上型を雄型190とし、下型を雌型180としている。すなわち、図4(b)では天板110を下から押し出して、それに上向きのエンボスを形成する場合を図示していて、図4(c)では天板110を上から押し出して、それに下向きのエンボスを形成する場合を例示している。以下の説明では、図4(b)のように上型を雌型180、下型を雄型190とした場合を例示するがこれに限定するものではなく、図4(b)および図4(c)のいずれの配置であっても、天板110に好適にエンボスを形成することが可能である。
【0032】
図5は、本実施形態にかかるエンボス加工方法を説明する概略図である。本実施形態にかかるエンボス加工方法では、まず図5(a)に示すように、雄型190の突出部152が形成されている面(パターン150を有する面)を、雌型180の下方に配置されている天板110(板状部材)の背面110bに対向させて、図5(b)に示すように雄型190を天板110に押し当てる。すると、押し当て時の圧力によって天板110において突出部152に対応する箇所が変形し、図5(c)に示すように天板110の表面110aに、上方に向かって突出する複数の凸部118a(以下、この複数の凸部118aの集合体をエンボス118と称する。)が形成される。
【0033】
このとき、上述したように雌型180には段部184が形成されているため、図4(b)のように雄型190を押し当てて天板110に形成された凸部118a(エンボス118)が逃げる空間が確保されている。これにより、天板110に形成されたエンボス118が雄型190の圧力によって押しつぶされてしまうことを防ぐことができる。
【0034】
図6は、エンボス加工時の天板110の表面を示す図である。なお、上述したエンボス加工時に金型(雌型180および雄型190)によって形成されたエンボス118の境界線118bは、極めて観察しにくいものであるが、理解を容易にするために細実線にて示している。また、図示の都合上、複数の凸部118aは不図示とする。
【0035】
上述したように雄型190を天板110に押し当てると、領域114aには、図6(a)に示すように略十字状のエンボス118が形成される。このとき、雄型190のパターン150の形状が略十字状であるため、形成されたエンボス118の境界線118b(輪郭)は十字を縁取った形状となる。
【0036】
図6(a)に示すように領域114aにエンボス118(凸部118a)を形成したら、次に、その形成されたエンボス118の境界線118bの辺、すなわち複数の凸部118aの外周の辺に隣接するように、雄型190を更に押し当てる(図5(b)参照)。これにより、図6(b)に示すように、十字形状の境界線118bを有する2つのエンボス118が形成される。そして、この作業を繰り返すことにより、図6(c)に示すように、領域114aの全面にエンボス118が形成される。
【0037】
図6(d)は、従来のように単なる四角形のパターンを有する金型(不図示)を用いてエンボスを形成した天板を例示する図である。単なる四角形の金型を用いると、図6(d)に示すように、エンボス18の境界線18bはキッチン100の幅方向および奥行き方向(図面においては上下方向および左右方向)に連続することとなる。このため、その境界線18bが使用者に容易に視認されてしまい、意匠性に優れているとは言い難かった。
【0038】
それに対し、本実施形態のように複数の四角形を組み合わせた形状のパターン150を有する金型である雄型190を用いて形成されたエンボス118の境界線118bは、図6(c)に示すように十字を縁取った形状であるため、キッチン100の幅方向および奥行き方向において境界線118bがなす直線が短く分断される。したがって、エンボス118の境界線118bが極めて観察されにくくなるため、キッチン100(製品)の外観における意匠性の向上を図ることができる。また、仮に図6(c)に示すエンボス118の境界線118bが認識されたとしても、それを一種の模様のように見せることができるため、美観を損なうことがない。
【0039】
また、領域114aの範囲は、コンロ112の幅(開口部112aの幅)にあわせるか、またはシンク116の幅(開口部116aの幅)にあわせることが好ましい。これにより、天板110の外観に帯状の連続性を持たせることができる。すなわち、部分的にエンボス118を設けることにより、機能的構造であるエンボス118を装飾としても用いることができ、美観を向上させることが可能となる。
【0040】
なお、天板110に本実施形態のエンボス加工方法を適用するタイミングとしては、1枚板の天板110に開口部112aおよび開口部116aを形成した後が好適である。そして、当該エンボス加工方法によってエンボス118を形成した後に曲げ加工することにより天板110が製造される。ただし、これに限定するものではなく、当該エンボス加工方法は、開口部112aおよび開口部116aの形成前や天板110を曲げ加工する前等、他の段階において適用することも可能である。
【0041】
ここで、上記説明したパターン150では、1つの四角形150aの4辺すべてに同一形状の四角形150bを連続させた形状としたが、これに限定するものではない。1つの四角形150aの少なくとも隣接する2辺に同一形状の四角形150bを連続させた形状のパターンであっても上述した利点を得ることができる。
【0042】
図7および図8は、本実施形態のエンボス加工方法に用いられる金型の他のパターン形状を例示する図である。図7(a)は、1つめの他の形状のパターンの上面図であり、図7(b)は図7(a)のパターンを有する雄型(金型)を用いてエンボスが形成された天板110の表面を示す図である。図8(a)は、2つめの他の形状のパターンの上面図であり、図8(b)は図8(a)のパターンを有する雄型(金型)を用いてエンボスが形成された天板110の表面を示す図である。なお、上記説明した実施形態の各構成要素と同一の機能や構成を有する要素については、同一の符号を付すことにより説明を省略する。また、図示は省略するが、以下に説明するいずれのパターンにおいても、雄型190の先端面190aに配置されていることは言うまでもない。
【0043】
図7(a)に示すパターン160は、1つの四角形150a(太破線で囲った領域)の2辺に、かかる四角形150aと同一形状の四角形150b(太一点鎖線で囲った領域)を連続させた略L字状である。このパターン160によれば、領域114aに形成されたエンボス118の境界線118bは、図7(b)に示すようにL字を縁取った形状となる。したがって、上記と同様の利点を得ることができる。
【0044】
図8(a)に示すパターン170は、1つの四角形150a(太破線で囲った領域)の3辺に、かかる四角形150aと同一形状の四角形150b(太一点鎖線で囲った領域)を連続させた略T字形状である。このパターン170によれば、領域114aに形成されたエンボス118の境界線118bは、図7(b)に示すようにT字を縁取った形状となる。これによっても、上記と同様の利点を得ることができる。
【0045】
以上、複数の四角形150aおよび150bを連続させたパターン150〜170について説明したが、以下に説明するように、複数の六角形を連続させたパターンであっても、上述した四角形150aおよび150bを連続させたパターン150〜170と同様の効果を得ることが可能である。
【0046】
図9、図10、図11および図12は、六角形を連続させたパターンを例示する図である。なお、上述した実施形態の構成要素と同一の機能および構成を有する要素については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0047】
図9(a)に示すパターン210は、1つの六角形202a(太破線で囲った領域)の2辺に、かかる六角形202aと同一形状の六角形202bおよび202c(太一点鎖線で囲った領域)を連続させた形状である。詳細には、パターン210では、六角形202aの1辺に六角形202bを連続させ、且つ六角形202aにおいて六角形202bを連続させた辺と対向しない辺に六角形202cを更に連続させていて、特に六角形202bおよび202cは、六角形202aにおいて隣接する2辺に配置されている。
【0048】
上記のパターン210によれば、領域114aに形成されたエンボス118の境界線118bは、図9(b)に示すような形状となり、キッチン100の幅方向および奥行き方向において境界線がなす直線が短く分断される。したがって、上述したように、エンボス118の境界線118bを観察されにくくする効果と、それを一種の模様のように見せる効果が得られ、キッチン100(製品)の外観における意匠性の向上を図ることができる。
【0049】
ここで、六角形202bおよび六角形202cを、六角形202aにおいて対向しない辺に連続させたのは、六角形202bと六角形202cとを六角形202aにおいて対向する辺に連続させると、パターンが、六角形202a〜202cを一直線に並べた形状になるからである。図示は省略するが、かかる形状であると、それを複数回押し当てることによって形成したエンボスの境界線は、キッチン100の幅方向または奥行き方向においてジグザグな直線となる。すると、従来のように単なる四角形の金型(不図示)を用いてエンボスを形成した際の境界線18b(図6(d)参照)よりは確認しづらくなるものの、ジグザグな境界線を模様のように見せることが困難であるため好ましくない。
【0050】
図10に示すパターン220は、図9に示すパターン210の変形例である。図9に示すパターン210では、1つの六角形202aにおいて隣接する2辺に六角形202bおよび202cが配置(連続)されていたのに対し、図10(a)に示すパターン220では、1つの六角形202a(太破線で囲った領域)の6辺のうち、隣接せず且つ対向しない辺に六角形202bおよび202cが配置されている。このパターン220によれば、領域114aに形成されたエンボス118の境界線118bは、図10(b)に示すような形状となり、上記と同様の利点を得ることができる。
【0051】
図11に示すパターン230も、図9に示すパターン210の変形例である。図9に示すパターン210では、1つの六角形202aにおいて隣接する2辺に六角形202bおよび202cが配置されていたのに対し、図11(a)に示すパターン230では、六角形202bおよび202cに加え、かかる六角形202cに隣接して六角形202dが更に配置されている。これらの六角形202b〜202dは、すべて六角形202aにおいて対向しない辺に配置されている。このパターン230によれば、領域114aに形成されたエンボス118の境界線118bは、図11(b)に示すような形状となり、上記と同様の利点を得ることができる。
【0052】
図12に示すパターン240は、図10に示すパターン220の変形例である。図10に示すパターン220では、1つの六角形202aにおいて隣接せず且つ対向しない辺に六角形202bおよび202cが配置されていたのに対し、図12(a)に示すパターン240では、六角形202bおよび202cに加え、それらと対向しない辺に六角形202dが更に配置されている。このパターン240によれば、領域114aに形成されたエンボス118の境界線118bは、図12(b)に示すような形状となり、上記と同様の利点を得ることができる。
【0053】
なお、本実施形態においては、本発明にかかるエンボス加工方法を適用する対象としてキッチン100を構成する天板110を例示したが、これに限定するものではない。本発明のエンボス加工方法は、キッチン100の天板110だけでなく、シンク116にも適用することが可能であり、それら以外にも、金属製の板状部材の表面に部分的にエンボスを形成する場合に好適に用いることができる。
【0054】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、金属製の板状部材に複数の凸部からなるエンボスを形成するエンボス加工方法およびシステムキッチンに利用することができる。
【符号の説明】
【0056】
18…エンボス、18b…境界線、100…キッチン、110…天板、110a…表面、110b…背面、112…コンロ、112a…開口部、114…調理スペース、114a…領域、114b…領域、114c…領域、116…シンク、116a…開口部、118…エンボス、118a…凸部、118b…境界線、120…コンロキャビネット、130…ベースキャビネット、150…パターン、150a…四角形、150b…四角形、152…突出部、160…パターン、170…パターン、180…雌型、184…段部、190…雄型、190a…先端面、202a…六角形、202b…六角形、202c…六角形、202d…六角形、210…パターン、220…パターン、230…パターン、240…パターン
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の板状部材に複数の凸部からなるエンボスを形成するエンボス加工方法であって、
複数の突出部が規則的に配列された四角形の少なくとも隣接する2辺に四角形を連続させたパターンを有する金型を、前記板状部材に押し当てて前記複数の凸部を形成し、
前記押し当てにより形成された凸部の辺に隣接するように前記金型を更に押し当てることを繰り返すことを特徴とするエンボス加工方法。
【請求項2】
前記金型は、1つの前記四角形の3辺に四角形を連続させた略T字形状のパターンを有することを特徴とする請求項1に記載のエンボス加工方法。
【請求項3】
前記金型は、1つの前記四角形の4辺すべてに四角形を連続させた略十字形状のパターンを有することを特徴とする請求項1に記載のエンボス加工方法。
【請求項4】
金属製の板状部材に複数の凸部からなるエンボスを形成するエンボス加工方法であって、
複数の突出部が規則的に配列された六角形の1辺に六角形を連続させ且つ該連続させた辺と対向しない辺に更に1以上の六角形を連続させたパターンを有する金型を、前記板状部材に押し当てて前記複数の凸部を形成し、
前記押し当てにより形成された凸部の辺に隣接するように前記金型を更に押し当てることを繰り返すことを特徴とするエンボス加工方法。
【請求項5】
金属製の板状部材からなる天板またはシンクを備えるシステムキッチンであって、
前記天板またはシンクの一部分には、請求項1から4のいずれか1項に記載のエンボス加工方法によって複数の凸部からなるエンボスが形成されていることを特徴とするシステムキッチン。
【請求項1】
金属製の板状部材に複数の凸部からなるエンボスを形成するエンボス加工方法であって、
複数の突出部が規則的に配列された四角形の少なくとも隣接する2辺に四角形を連続させたパターンを有する金型を、前記板状部材に押し当てて前記複数の凸部を形成し、
前記押し当てにより形成された凸部の辺に隣接するように前記金型を更に押し当てることを繰り返すことを特徴とするエンボス加工方法。
【請求項2】
前記金型は、1つの前記四角形の3辺に四角形を連続させた略T字形状のパターンを有することを特徴とする請求項1に記載のエンボス加工方法。
【請求項3】
前記金型は、1つの前記四角形の4辺すべてに四角形を連続させた略十字形状のパターンを有することを特徴とする請求項1に記載のエンボス加工方法。
【請求項4】
金属製の板状部材に複数の凸部からなるエンボスを形成するエンボス加工方法であって、
複数の突出部が規則的に配列された六角形の1辺に六角形を連続させ且つ該連続させた辺と対向しない辺に更に1以上の六角形を連続させたパターンを有する金型を、前記板状部材に押し当てて前記複数の凸部を形成し、
前記押し当てにより形成された凸部の辺に隣接するように前記金型を更に押し当てることを繰り返すことを特徴とするエンボス加工方法。
【請求項5】
金属製の板状部材からなる天板またはシンクを備えるシステムキッチンであって、
前記天板またはシンクの一部分には、請求項1から4のいずれか1項に記載のエンボス加工方法によって複数の凸部からなるエンボスが形成されていることを特徴とするシステムキッチン。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−166214(P2012−166214A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−27893(P2011−27893)
【出願日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【出願人】(000104973)クリナップ株式会社 (341)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【出願人】(000104973)クリナップ株式会社 (341)
[ Back to top ]