説明

エーロゲルの吸着剤としての使用

【課題】液体から炭化水素を分離する方法の提供。
【解決手段】エーロゲルを、液相からの吸着のための吸着剤として使用する。液体から炭化水素を分離方法において、浄化すべき液体をエーロゲルと、液体中に含まれる炭化水素を吸着するのに十分な時間接触させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エーロゲルの吸着剤としての使用、液体および気体の精製方法、並びに液体から有機化合物を分離する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
気体および液体の精製並びに物質の分離には複数の吸着剤を使用し、これらの吸着剤が個々の化合物または化合物群を液体または気体混合物から吸着し、分離することができる。原則的に、液体および気体の精製には、不均質な吸着剤、特に固体吸着剤、が使用される。公知の吸着剤の例は、活性炭および重合体状吸着剤である。
【0003】
多くの有機および無機化合物を活性炭で吸着することができる。これに関して、活性炭の疎水性を変え、例えば疎水性の異なった化合物の混合物から選択的に吸着できる様にすることはほとんど不可能である。例えば、廃ガス技術に使用する活性炭は一定の吸水特性を有し、これが、他の吸着すべき化合物に使用できる吸着容量を低下させる。この吸水容量は、水蒸気で飽和した、または水蒸気を含む廃ガスの場合にのみ欠点になるのではなく、活性炭を水蒸気で再生する設備でも重要な役割を果たす。活性炭工場の水蒸気による再生では、蒸気処理に続いて時間のかかる乾燥工程を取り入れなければならないが、その際、湿った活性炭は、ほとんどの場合、大気で乾燥させる。この様に、活性炭の再生には時間および労力の両方がかかる。廃ガスから溶剤を吸着する際の吸着剤として活性炭または活性化コークスを使用する場合、特に廃棄空気の浄化設備では、吸着剤を不活性雰囲気中で再生しなければならない。可燃性溶剤の吸着および脱着の場合、時として「ホットスポット」、すなわち燻っているポケット、が生じることがあり、これが原因で吸着設備全体が焼失することがある。そのため、水蒸気に加えて、ほとんどの場合、窒素を脱着剤として使用する。さらに、追加の安全手段、例えば火災の場合に設備に大量の消火用水を制御しながら流す装置、が必要になることが多い。その様な安全対策には非常に大きな経費がかかる。ある種の吸着作業には、活性炭の使用が不可能である。例えば、活性炭は無視できない灰分を含んでおり、その灰分は、経費のかかる方法、例えば酸性化(acidulation)、によって部分的に低減できるだけなので、製薬活性成分および製品の精製には使用できない。
【0004】
従って、薬物活性成分の処理では、製品に好ましい方法として吸着工程を使用する場合、その工程は重合体状吸着剤で作業する。重合体状吸着剤は、原則的に高度に架橋した重合体、例えばスチレン/ジビニルベンゼンを基剤とする重合体である。これらの重合体状吸着剤は、生物学的および化学的に製造された医薬品の精製に広く使用されている。重合体状吸着剤は、使用する溶剤に応じて様々な程度に膨潤するので、対応する装置の寸法を決める場合、機械的な負荷が増加する場合があるので、十分な公差を考える必要がある。重合体状吸着剤は比較的せまい限度内でしか調節できない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、上記の活性炭および重合体状吸着剤の欠点を回避し、水性液体から炭化水素を分離する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による水性液体から炭化水素を分離する方法は、炭化水素を含む水性液体を、吸着剤としての、疎水性にされたエーロゲルと、炭化水素を吸着するのに十分な時間接触させ、その後、エーロゲルを液体から分離し、次いで炭化水素をエーロゲルから分離することを特徴とするものである。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】エーロゲルに対する様々な有機化合物の吸着量とそれらの化合物の水中濃度の関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明により、この課題は、液相から吸着するための吸着剤としてエーロゲルを使用することにより解決される。疎水性および親水性エーロゲルおよび好ましくは防水性が付与されたエーロゲルを一般的に吸着剤として使用する。さらに、本発明により、気相から吸着するために、活性炭または活性化アルミナと混合していないエーロゲルを含む吸着剤を使用する。
【0009】
ケイ素または金属の酸化物からなり、密度が70〜400kg/立法メートルの範囲内にあり、内部表面積が1000平方メートル/gである、原則的に非常に多孔質な材料であるエーロゲルは、熱損失ファクターが非常に低いので、主として断熱材として使用されている。
【0010】
これまでエーロゲルは、気体吸着素子における吸着剤としてのみ記載されており、そこでは、エーロゲルが、主として無機繊維からなり、層状に重ね合わせた、またはラミネートされた低密度の紙からなるマトリックスの中で、活性炭および/または活性化アルミナと一緒に結合している。未変性の金属ケイ酸塩エーロゲルが使用されており、例えばDE−A 3937863明細書に開示されている。この気体吸着素子は、主として大気中の水分を結合するために使用されている。
【0011】
本発明により、エーロゲルを、気相および液相における傑出した吸着剤として使用できることが分かった。
【0012】
適当なエーロゲルは、例えばDE−A−4316540、DE−A−4343548、DE−A−4422912、DE−A−4439217、WO96/22942、DE−A−19525021およびWO98/05591並びに未公開の独国特許出願第19648798.6号各明細書に記載されている。
【0013】
上記の文献により製造されるエーロゲルは疎水性である。疎水性エーロゲルから、例えばWO96/26890明細書に記載されている様に、好ましくはO雰囲気中、300〜600℃で熱分解することにより、親水性エーロゲルを製造することができる。
【0014】
本発明により使用するエーロゲルは、窒素吸着を使用するBET測定で100〜1000、好ましくは300〜700平方メートル/gの非常に高い内部表面積を有する。原則的に、細孔容積は1.5〜3.5、好ましくは2〜3立法cm/gである。細孔半径の大部分は1〜150、好ましくは1〜30、特に好ましくは5〜20ナノメートルである。この場合のエーロゲルは通常、連続細孔を有する、すなわち粒子の縁部からすべての細孔に到達できる。活性炭または活性化コークスに関しては、この特性は、追加の処理工程、すなわち熱的活性、によってのみ達成できる。
【0015】
エーロゲルは、吸着剤用に好適などの様な形態にでも製造することができる。
【0016】
製造により、エーロゲルは、粉末形態で、あらゆる形状の成形部品として、好ましくは直径1〜4mm、長さ3〜10mmのロッドまたは小さな棒、あるいは顆粒として存在することができる。エーロゲルはペレットまたは錠剤の形態で使用することもできる。液相における吸着では、物質移動および拡散係数が小さい理由から好ましくは粉末状の吸着剤を使用するが、その目的は拡散経路を短くすることである。気相で、例えば吸着による気体分離または廃棄空気精製に、使用する場合、エーロゲルの顆粒、錠剤、ペレットまたは成形形態を使用するのが好ましいが、これは、空隙率が大きく、例えば吸着カラムから放出されることに起因する粉塵の問題がほとんど起こらないので、圧力損失を最小に抑えることができるためである。エーロゲルの望ましい形態は製造工程で直接達成できるので、その後の成形工程を省くことができる。そのため、例えば最初に粉砕し、続いてある形状に成形する必要がある活性炭の成形よりも、製造経費が少ない。
【0017】
エーロゲルの吸着特性は、エーロゲルに親水性または疎水性を与える適切な表面変性により、管理しながら調整することができる。好ましくは、例えばトリメチルクロロシランを使用してシリル化することにより、エーロゲルに防水性を付与することができる。防水性を付与すると、エーロゲルの水吸着容量を大幅に下げることができるので、水が表面を濡らすことはほとんどできなくなる。例えば、水蒸気を含む廃ガスの吸着では、吸着容量が水の吸着により低下しない。その上、エーロゲルの水蒸気再生では、時間のかかる乾燥工程の必要がない。
【0018】
溶剤吸着の場合、特に廃棄空気精製用の設備では、エーロゲルが非常に高い熱安定性を有し、不燃性であるので、例えば活性炭吸着剤を使用する場合に必要とされる様な追加の憤然対策を省略することができる。
【0019】
この様に、エーロゲルは廃棄空気精製設備に非常に効果的に使用でき、清浄空気規則の、特に運転安全性および信頼性に関する厳格な要求を満たすことができる。精製設備が技術的な欠陥により休止時間に追い込まれることは事実上無い。
廃棄空気精製設備における溶剤吸着に加えて、本発明のエーロゲルは、気相から吸着する必要がある、公知のすべての用途に使用することができる。その例は、気体混合物の分離および気体からの不純物の吸着である。不純物が重要である場合、これらの不純物は、例えば酸化窒素、酸化硫黄、一酸化炭素、アンモニアまたは有機ガスの様な気体状不純物である。不純物は、蒸発した液体またはガス流の中に取り込まれた液体の滴でもよい。親水性変性したエーロゲルも、気体の乾燥に、すなわち水の除去に使用することができる。
本発明により使用するエーロゲルの吸着能力が消耗し尽くした場合、そのエーロゲルは公知の方法により再生することができる。例えば、吸着された物質は熱により除去することができる。他の気体、例えば蒸気、による除去も可能であり、適当な方法は当業者には公知である。
【0020】
用語「気相」は、気体または気体混合物を基剤とする物質の混合物を意味する。
【0021】
従って、気体または気体混合物は、固体および特に液体成分も含むことができる。
本発明のエーロゲルはさらに、複数の液相から吸着させるための吸着剤として使用することができる。その際、「液相」の表現は、均質な溶液、エマルジョン、分散液、溶液中に気体を含む液体、および類似の混合物を含むことができる。その場合、液体はキャリヤー相として作用し、そこから物質をエーロゲルにより吸着する。
【0022】
従って、気体、液体または溶解した物質、あるいは固体までも液体から除去することができる。これらの物質は有機または無機物質でよい。特に、有機物質、例えば炭化水素、特に芳香族または塩素化炭化水素、を除去することができる。
【0023】
この場合の液体としては、適当なすべての溶剤、例えば水または有機溶剤、を使用することができる。吸着は、好ましくは水または水性溶剤から行なう。吸着された化合物は、吸着剤を液体から分離した後、適当な方法、例えば加熱、洗浄、または溶離、により液体から放出することができる。有機含水物質を吸着する際、本発明のエーロゲルは選択性の高い吸着特性を示す。従って、本発明のエーロゲルは、工場廃液または実験室から出る廃液を精製するのに容易に使用することができる。
【0024】
本発明のエーロゲルは、液体の精製に加えて、液体または液体混合物から有機化合物を分離することにも使用できる。ここで目的とするところは、ある程度強く希釈した形態で存在し、他の多くの成分と共に液体または液体混合物中に存在し得る有機化合物の分離および回収である。これに関して、エーロゲルの高度に選択的な吸着を有利に利用し、特殊な有機化合物を、液体中の複数の、場合により類似した、有機化合物から分離することができる。
【0025】
好ましくは、有機化合物を水性液体から分離する。特に、これらの化合物は農薬または製薬物質であり、それらの製造の際に生じる母液から分離する。その様な農薬の例は、除草剤、殺菌剤または殺虫剤特性を有する活性物質である。
【0026】
製薬活性物質の製造に関しては、処理にかかるコストがコスト全体のかなりの部分を占めることが多い。微生物学的に製造された生成物は、例えば、できるだけ生成物に好ましい様式で幾つかの工程で処理しなければならない。その場合の処理とは、製薬活性物質を発酵溶液から分離、精製することを意味する。すべての製薬物質の大部分の製造では、一つまたはそれより多い吸着精製工程が必要である。
【0027】
製薬活性物質の例は、それらの製造の際に生じる発酵溶液から得られる抗生物質である。特に、エーロゲルは、セファロスポリンC(CPC)とよばれる抗生物質の精製および分離に使用する。本発明のエーロゲルの選択性が高いので、製薬活性物質、特にCPC、が問題となる場合には、処理および精製方法が著しく簡素化され、加速される。本発明は、上記の用途に関与する精製および分離方法にも関する。
【0028】
本発明の気体精製方法は、精製すべき気体を、ガス中に含まれる不純物の吸着に十分な時間、吸着剤として、活性炭または活性化アルミナと混合されていないエーロゲルと接触させることを特徴とする。対応する接触時間は、当業者には公知であるが、好ましくは0.001〜0.01秒間である。
【0029】
本発明の液体精製方法は、精製すべき液体を、液体中に含まれる不純物の吸着に十分な時間、吸着剤として作用するエーロゲルと接触させることを特徴とする。
【0030】
気体または液体を精製する別の方法は、精製すべき気体または液体を、吸着剤としての防水性エーロゲルと、気体または液体中に含まれる不純物の吸着に十分な時間、接触させることを特徴とする。
【0031】
有機化合物を液体から分離するための本発明の方法は、有機化合物を含む液体を、吸着剤としてのエーロゲルと、有機化合物の吸着に十分な時間接触させ、次いでエーロゲルを液体から分離し、続いて有機化合物をエーロゲルから分離することを特徴とする。その際、分離は上記の方法により行なう。液体の精製および有機化合物の液体からの分離を行なう場合、エーロゲルによる処理を、当業者には公知の時間、好ましくは1〜50秒間行なう。
【0032】
得られた有機化合物は、上記の様に溶剤、場合により有機溶剤または塩溶液、で溶離させることにより、エーロゲルから分離することができる。
【0033】
本発明により使用するエーロゲルは、好ましくは他のキャリヤー物質または他の吸着剤なしに使用する。しかし、本発明のエーロゲルは、他の吸着剤との組合せで使用することもできる。気相から吸着させる場合も、変性していないエーロゲルである場合、エーロゲルは活性炭または活性化アルミナとの混合物として使用しない。しかし、例えばエーロゲルによる吸着工程に続いて、活性炭または活性化アルミナによる吸着工程を行なうことはできる。その際、別の吸着工程は、気体、液体または有機化合物をさらに精製することができる。本発明のエーロゲルと組み合わせることができる吸着剤は、当業者には公知である。
【0034】
以下に本発明を、添付の図面を参照しながら、例に関して詳細に説明する。
【0035】
例1
含水物質の吸着 廃水から有機化合物を選択的に吸着することを立証するために、ベンゼン、フェノール、トルエン、1,2−ジクロロエタンおよびp−クロロフェノールを、芳香族および/または塩素化炭化水素の群の例として選択した。これらの化合物を様々な水中濃度で、25℃でエーロゲルと接触させ、エーロゲルの吸着量を測定した。これらの試験は振とう容器中で行なった。DE−A−4342548明細書に記載されている例に準じて製造した6gの疎水性エーロゲル(粒子径0.1mm、比内部表面積約500平方m/g)を、精製すべき水性混合物と振とう容器中で接触させた。平衡に達するまで最長2時間を要した吸着時間の前後の液体濃度を測定することにより、吸着された物質の量を物質収支から計算することができた。結果を図1に示す。
【0036】
図1に示す結果は、エーロゲルを精製に非常に効果的に使用できることを示している。図1に示す結果は、有機不純物を含む廃水の精製にエーロゲルを非常に効果的に使用できることを示している。
【0037】
例2および比較例
抗生物質の吸着
製造の際に生じる発酵溶液から製薬活性成分を処理する例として、抗生物質セファロスポリンC(CPC)の吸着を試験した。製造中、CPCは発酵溶液1リットルあたり数グラムの濃度で生じ、この溶液からできるだけ注意深く分離する必要がある。これに関して、膨大な数の他のアミノ酸、塩、糖、その他の内容物に加えて、溶液は生物合成の副生成物としてデスアセチル−CPC(D−CPC)
【0038】
またはデスアセトキシ−CPC(DO−CPC)を含むことも考慮しなければならない。吸着による精製には、D−CPCおよびDO−CPCではなく、CPCだけを吸着させることが重要である。本発明のエーロゲルは、この場合に高レベルの選択性で使用できた。すなわち、吸着されたのは実質的にCPCのみであった。この試験には、例1と同様の疎水性エーロゲルを使用した。
【0039】
試験には、10g/リットルのCPC、2g/リットルのD−CPCおよび0.1g/リットルのDO−CPCを含む発酵溶液を使用した。合計1リットルのこの発酵溶液をポンプで、100gのエーロゲルを充填した固定床に送り込んだ。その後、吸着された物質をイソプロパノール1リットルで洗い出した。吸着されたCPC、D−CPCおよびDO−CPCの量をHPLC測定で分析した。比較のため、吸着剤としてRohm and Haas社の樹脂XAD 16並びにMitsubishi Chemicals社のSP 835を使用した。エーロゲル1kgあたりのエーロゲル平衡吸着量および選択性の結果を下記の表1に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
エーロゲルの選択性は、比較吸着剤より20%優れているので、非常に優れたCPC精製が可能である。さらに、エーロゲルの平衡吸着量を様々なCPC濃度で測定した。CPC濃度2.5g/リットルでは、吸着量は8g/kgであり、5g/リットルでは16.5g/kgであり、7.5g/リットルでは20g/kgであり、10g/リットルでは23g/kgであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素を含む水性液体を、吸着剤としての、疎水性にされたエーロゲルと、炭化水素を吸着するのに十分な時間接触させ、その後、エーロゲルを液体から分離し、次いで炭化水素をエーロゲルから分離することを特徴とする、水性液体から炭化水素を分離する方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−264451(P2010−264451A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−170719(P2010−170719)
【出願日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【分割の表示】特願平10−544997の分割
【原出願日】平成10年4月17日(1998.4.17)
【出願人】(503079114)カボット コーポレーション (2)
【Fターム(参考)】