説明

オイルシール付き装置及びオイルシール

【課題】回転軸とハウジングとの間をより良好にシールすることが可能なオイルシール付き装置を実現する。
【解決手段】オイル7が注入されたハウジング14と、ハウジング14の内外に貫通する回転軸44と、ハウジング14と回転軸44との間に介在される環状のオイルシール50が、ハウジング14と接触する外周面に周方向に沿って凹設された第1溝部50bと、回転軸44と接触する内周面に周方向に沿って凹設された第2溝部50dと、第1溝部50bと第2溝部50dとを連通する連通孔50eとを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オイルが注入されたハウジングを貫通する回転軸を有するオイルシール付き装置に関する。
【背景技術】
【0002】
オイルシール付き装置としては、回転軸と回転軸を収容する例えばハウジングとの間に、環状のオイルシールを介在させた装置が知られている。また、同心状に配置されて相対的に移動する2つの機械部材間を強靱かつ弾力的な合成樹脂製のシールリングと弾性ゴム材料の歪リングとを用いてシールしているものもある(例えば、特許文献1参照)。シールリングと歪リングとの2つのオイルシールを用いるシール構造は、シールリングの内周面には環状の溝が形成されており、外周面側にはリングの幅方向の中央に向かって低くなるような傾斜が周方向に沿って設けられた凹部が形成されている。さらに内周面の溝と、外周面の凹部とは放射状に形成された放射孔にて連通されている。そして、例えば2つの機械部材が軸とハウジングであった場合には、軸の外周面にシールリングの内周面が接するようにシールリングに軸を挿入し、軸に挿入されたシールリングの外周面に設けられた凹部に歪リングを嵌め付け、歪リングがハウジングを押圧するように構成されている。このシールリングと歪リングとによるシール構造は、シールリングを挟んで一方側に加圧流体が存在するときには、シールリングの一方側に位置する加圧流体により歪リングは、凹部の他方側の傾斜面に押圧される。このため、歪リングと凹部の2つの傾斜面との間では、加圧流体が存在する一方側の傾斜面と歪リングとの接触圧力が、加圧流体が存在しない他方側の傾斜面と歪リングとの接触圧力より小さくなる。このため、シールリングの内周面に設けられた溝に浸入した加圧流体は放射孔を通ってシールリングの外周方向に流れる。このとき、歪みリングに到達した加圧流体は、接触圧力が小さい、加圧流体が存在する一方側の傾斜面に沿って浸入する。このため、加圧流体が存在しない他方側に加圧流体が浸入せず、密封状態が保たれるというものである。
【特許文献1】特許2523006号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、2つの機械部材間を2つのオイルシールにてシールする場合には、1つのオイルシールにてシールする場合より、オイルシールを構成する部材の点数が増えると共に、組立工数が増えるために、部品管理や組立作業に伴う管理等も必要となり、結果としてコストが高騰する。また、オイルシールはいずれも細かな部材であるため、2つのオイルシールを組み合わせて機械部材に取り付ける作業は繁雑である。さらに、加圧流体のシールに用いるため、2つのオイルシールを組み合わせた状態にて、他の機械部材に組み付ける際には歪リングと機械部材との間に摩擦が生じて組み付けにくく、また、良好な状態にて組み付けられているか否かを確認することができない。このため、2つのオイルシールを組み合わせた状態にて、他の機械部材に組み付ける際に、歪リングが2つの傾斜面のいずれかの側に強く押圧されていると、良好なシール状態が保てない畏れがあるという課題があった。
【0004】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、回転軸とハウジングとの間をより良好にシールすることが可能なオイルシール付き装置及びオイルシールを提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
主たる発明は、オイルが注入されたハウジングと、前記ハウジングの内外に貫通する回転軸と、前記ハウジング及び前記回転軸の間に介在される環状のオイルシールと、を有するオイルシール付き装置において、前記オイルシールは、前記ハウジングと接触する外周面に周方向に沿って凹設された第1溝部と、前記回転軸と接触する内周面に周方向に沿って凹設された第2溝部と、前記第1溝部と第2溝部とを連通する連通孔とを有していることを特徴とするオイルシール付き装置である。
【0006】
本発明の他の特徴については、本明細書及び添付図面の記載により明確にする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、回転軸とハウジングとの間をより良好にシールすることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本明細書及び添付図面の記載により少なくとも次のことが明らかにされる。
【0009】
オイルが注入されたハウジングと、前記ハウジングの内外に貫通する回転軸と、前記ハウジング及び前記回転軸の間に介在される環状のオイルシールと、を有するオイルシール付き装置において、前記オイルシールは、前記ハウジングと接触する外周面に周方向に沿って凹設された第1溝部と、前記回転軸と接触する内周面に周方向に沿って凹設された第2溝部と、前記第1溝部と第2溝部とを連通する連通孔とを有していることを特徴とするオイルシール付き装置である。
【0010】
このようなオイルシール付き装置によれば、ハウジングと接触するオイルシールの外周面には第1溝部が設けられ、回転軸と接触するオイルシールの内周面には第2溝部が設けられているので、オイルシールが、ハウジングの内側に注入されているオイルにより押圧された際には、第1溝部と第2溝部とにオイルが浸入する。このため、回転軸が回転することにより発生する摩擦熱が、第1溝部と第2溝部とに浸入したオイルにより抑えられるため、摩擦熱によるオイルシールの損傷を抑えることが可能である。また、第1溝部と第2溝部とは連通孔により連通されているので、第1溝部と第2溝部とに浸入したオイルは連通孔を通って、第1溝部と第2溝部にオイルが充満し、充満したオイルにより第1溝部を第2溝部側に、また第2溝部を第1溝部側に押圧する力がそれぞれ発生する。そして、第1溝部と第2溝部とに浸入したオイルによる押圧力は互いに反対方向に作用し相殺し合うので、オイルシールをハウジング及び回転軸に押圧する押圧力が抑制される。このため、オイルシールと回転軸との摩擦力が低減されるので、摩擦熱によるオイルシールの焼き付きや、過剰な負荷によるオイルシールの損傷を防止することが可能である。よって、回転軸を良好に且つ長期間回転させることが可能となり、オイルシール付き装置の回転性能及び信頼性を向上させることが可能である。また、オイルシールは、1部材で構成されているので、簡単な構造であると共に、1部材のオイルシールをハウジングと回転軸との間に容易に介在させることが可能なため、作業工数を低減させて、コストも低減させることが可能である。
【0011】
かかるオイルシール付き装置において、前記回転軸が回転することにより、前記第2溝部より先に前記第1溝部に前記オイルが流入することが望ましい。
このようなオイルシール付き装置によれば、回転軸の回転によりオイルは外周側に導かれるため、まずハウジング側の第1溝部から浸入させることが可能である。このため、第2溝部にオイルが充満するまでは、オイルによる押圧力はほとんど発生しないので、なめらかに回転軸を回転させることが可能である。
【0012】
かかるオイルシール付き装置において、前記オイルシールの、前記ハウジングと接触する外周面における前記回転軸方向の幅は、前記回転軸と接触する内周面における前記回転軸方向の幅より狭いことが望ましい。
このようなオイルシール付き装置によれば、オイルシールの外周面における回転軸方向の幅は、内周面における回転軸方向の幅より狭いので、外周面側、すなわち第1溝部が設けられている側の方が、内周面側、すなわち第2溝部が設けられている側よりオイルが流入し易い。このため、第2溝部より先に第1溝部にオイルを流入させることが可能である。
【0013】
かかるオイルシール付き装置において、前記オイルシールは、剛性が異なる2種類の弾性部材にて構成され、前記ハウジングと接触する外周面側に剛性が低い前記弾性部材が用いられ、前記回転軸と接触する内周面側に剛性が高い前記弾性部材が用いられていることが望ましい。
このようなオイルシール付き装置によれば、オイルシールの外周面側が剛性が低く、内周面側が剛性が高いので、外周面側、すなわち第1溝部側の方が、内周面側、すなわち第2溝部が設けられている側よりオイルが流入し易い。このため、第2溝部より先に第1溝部にオイルを流入させることが可能である。
【0014】
かかるオイルシール付き装置において、前記連通孔は、オイルシールの径方向に沿って設けられていることが望ましい。
このようなオイルシール付き装置によれば、オイルシールの連通孔は、回転軸の径方向に設けられていることになる。このため、連通孔内であっても第1溝部と第2溝部とに浸入したオイルによる押圧力を回転軸の径方向、すなわち回転軸の周面に対し垂直方向に作用させて互いに相殺させることが可能である。
【0015】
かかるオイルシール付き装置において、前記連通孔の径は、前記第1溝部の幅及び第2溝部の幅より小さいことが望ましい。
このようなオイルシール付き装置によれば、第1溝部に充満したオイルと、第2溝部に充満したオイルとが、各溝部の内周壁において連通孔の設けられていない部位を押圧することになるので、第1溝部側及び第2溝部側とにてそれぞれ押圧力を発生させることが可能であり、もって互いの押圧力を相殺させて、回転軸とオイルシールとの間に作用する摩擦力を低減させることが可能である。
【0016】
かかるオイルシール付き装置において、前記第1溝部に流入した前記オイルは、前記連通孔を通って前記第2溝部へ流入することが望ましい。
このようなオイルシール付き装置によれば、第1溝部から流入したオイルが第2溝部に充満するまでは、オイルによる押圧力は発生せず、第2溝部にオイルが充満した後には、第1溝部と第2溝部とに浸入したオイルによる押圧力は互いに相殺するように作用するので、オイルシール及び回転軸に多大な摩擦力が作用することを防止することが可能である。
【0017】
かかるオイルシール付き装置において、前記第2溝部へ流入したオイルにより、前記第2溝部側から前記第1溝部側に向かう方向に作用する圧力が発生することが望ましい。
このようなオイルシール付き装置によれば、第2溝部へ流入したオイルにより、第2溝部側から第1溝部側に向かう方向に作用する圧力が発生するので、第1溝部側から回転軸方向に作用する押圧力を抑制させることが可能である。
【0018】
オイルシール付き装置において、カムが設けられた入力軸と、前記カムに係合するカムフォロアが固定された出力軸とが前記ハウジングに収容されて構成された工作用テーブル装置の、前記入力軸及び前記出力軸の少なくともいずれか一方とハウジングとの間に、前記オイルシールが介在されて構成されることが望ましい。
工作用テーブル装置は、高速にかつなめらかに回転することが要求されるため、工作用テーブル装置の入力軸及び出力軸の少なくともいずれか一方とハウジングとの間にオイルシールが介在されていると、摩擦による発熱が小さく、オイルシールの損傷も抑えられるため、長期に亘りなめらかに高速回転する高性能の工作用テーブル装置を実現することが可能である。
【0019】
また、環状をなすオイルシールの外周面に周方向に沿って凹設された第1溝部、内周面に周方向に沿って凹設された第2溝部、及び、前記第1溝部と前記第2溝部とが連通される連通孔、を有していることを特徴とするオイルシールである。
このようなオイルシールによれば、内周面と外周面とに設けられた溝部により、内周面または外周面に接触する物との間にオイルが介在されるので、オイルによる潤滑効果及び摩擦熱等の冷却効果を得ることが可能である。また、第1溝部と第2溝部とは連通孔により連通されているので、第1溝部と第2溝部とに浸入したオイルは連通孔を通って充満し、互いに反対方向に押圧し合う。このため、第1溝部と第2溝部とに浸入したオイルによる押圧力は互いに相殺されて、オイルシールを、内周面及び外周面と接触する物に押圧する押圧力が抑制される。このため、オイルシールと内周面及び外周面に接触する物との間に生じる摩擦力低減させることが可能である。
【0020】
===オイルシール付き装置の構成===
本発明に係るオイルシール付き装置の一実施形態として、入力軸から入力される回転運動を、カム機構を介して回転テーブルに伝達させる工作用テーブル装置を例に挙げて説明する。まず、工作用テーブル装置の概要について説明する。
【0021】
図1は、本実施形態における工作用テーブル装置10の外観図であり、図2は、回転テーブルが回転する際の軸に対し垂直な平面における断面図であり、図3は図2のA−A断面図である。
【0022】
図示するように、本実施形態の工作用テーブル装置10は、被加工物Wを保持する回転テーブル12と、回転テーブル12を回転可能に支持するためのハウジング14とを備えている。そして、外部から当接される切削工具T1等により切削加工するために、回転テーブル12を高速回転することにより、回転テーブル12に保持された被加工物Wを高速度(例えば500rpm)で回転させることが可能である。
【0023】
回転テーブル12の上面には、被加工物Wを保持するためのチャックを構成するブロックをスライドさせるためのスライド溝12aが、回転テーブル12の中心から放射状に設けられている。この回転テーブル12とハウジング14との軸受構造としてはクロスローラ軸受30が用いられる。
【0024】
回転テーブル12の下面側には、出力軸としての円筒状のターレット9が垂下され、ターレット9の外周面の下部には放射状に、且つ、周方向に沿って等間隔に配置された複数のカムフォロア8が設けられている。
【0025】
前記クロスローラ軸受30は、ハウジング14の上部に設けられて、カムフォロア8が取り付けられたターレット9が挿通可能な開口14aの内周部に固定される支持リング28と、支持リング28の内側に配置され、支持リングの内周面と対面する外周面を有するターレット9と、支持リング28及びターレット9の間に介装される複数の転動体26と、転動体26を保持するための保持器66とで構成されている。
【0026】
前述した支持リング28は、2つの環状部材28a,28bを有している。環状部材28a,28bは、ターレット9側の縁部が全周に亘って45°に面取りされている。これらの環状部材28a,28bは、上下に重ね合わされるとともに僅かに間隔を隔ててボルトで固定され、両者の各面取り部によって、ターレット9側に開放された第2V字状溝56が形成されている。
【0027】
また、ターレット9には、第2V字状溝56と対向する位置に、全周に亘って支持リング28側に開放された第1V字状溝58が形成されている。
【0028】
第1V字状溝58と第2V字状溝56との間には、円筒体状に形成された複数の転動体26が介在されている。この転動体26は、円筒状の転動面26aの両端に一対の平坦な端面26bを有し、ターレット9の周方向に沿って等しい間隔を隔てて配列される。そしてこれら転動体26は、内側のターレット9に設けられ第1V字状溝58を形成する内側軌道部と、外側の支持リング28に設けられ第2V字状溝56を形成する外側軌道部とに接触して転動されるようになっている。また転動体26は、その転動軸心がターレット9の回転軸心に向かうように傾斜して配置されるとともに、隣り合う転動体26同士は転動軸心が直交させて配置されている。なお、ターレット9と支持リング28との間には環状の隙間が設定されるとともに、この隙間にはこれに沿う薄肉円筒状の保持器66が設けられ、この保持器66の周面に転動体26を個別に装着するための複数のポケット孔が形成されている。
【0029】
回動テーブル12に駆動力を入力する回転軸としての入力軸44は、一対の軸受46により、ハウジング14に対して回転自在に支持されている。この入力軸44にはカム48が設けられている。このカム48は、入力軸44が回動して位相が軸方向に変位するカム面48aを有し、このカム面48aとターレット9のカムフォロア8とが噛み合っている。
【0030】
本実施形態の工作用テーブル装置10におけるカム機構は、基本的には、カム48を設けた入力軸44と、このカム48に係合するカムフォロア8を固定したターレット9と、カム48およびカムフォロア8を収納した状態で入力軸44の両端部を、これら入力軸44の軸方向に係止可能な一対の軸受46を介して回転自在に支持するハウジング14と、前記ハウジング14に嵌合される軸受46と、軸受46を入力軸44の軸方向に係止するための第1フランジ38及び第2フランジ40と、を備え、ハウジング14内には入力軸44が浸る程度にオイル7が注入されている。
【0031】
そして、本実施形態の工作用テーブル装置10は、カム48を設けた入力軸44と、外周部に複数のカムフォロア8を等間隔に突設したターレット9とを備え、これら入力軸44とターレット9は互いに直交するねじれ関係をもってハウジング14に支持される。ハウジング14内には前記カム48および前記カムフォロア8が収納され、これらカム48とカムフォロア8とが互いに係合される。
【0032】
前記カム48は、入力軸44の外周に断面台形状のリブ48bが、予め設定された蛇行形状をもって突設される。そして、リブ48bの両側のカム面48aは入力軸44が回転することにより軸方向に変位する。このため、カム面48aに前記カムフォロア8が摺接してカム48が回転することにより、リブ48bの蛇行形状に沿ってターレット9が回転される。
【0033】
入力軸44を支持するハウジング14には、少なくとも入力軸44を支持する部分の肉厚内側部分に、対をなす軸受46を入力軸44と共に軸方向移動可能に支持するための一対の挿通穴32、34がそれぞれ形成されている。これら一対の挿通穴32,34の少なくともいずれか一方は、カム48を設けた入力軸44をハウジング14内に挿入可能な口径で形成されている。本実施形態では、入力軸44と駆動源としてのモータ22とが連結されている側(駆動側)とは反対側(反駆動側)の挿通穴32がカム48を設けた入力軸44を挿入可能に形成されている。一対の挿通穴32、34はハウジング14の内外を連通する連通穴部32a、34aと、それぞれの挿通穴32,34の外側部分に連通穴部32a、34aより大きな径で段状に形成された凹部32b、34bとを有している。
【0034】
駆動側の挿通穴34には、ハウジング14の内側から軸受46が嵌合され、外側からは第2フランジ40が嵌合される。第2フランジ40は、連通穴部34aに嵌入される円筒部40aと、円筒部40aより大きな外径に形成されたリング部40bとを有している。第2フランジ40は、リング部40bが凹部34bに嵌入されるとともにボルトにて締め付けられることによりハウジング14に固定される。第2フランジ40には、中央に貫通孔40cが設けられており、この貫通孔40cを通して入力軸44がハウジング14の外側に延出され、カップリング36を介してモータ22と接続される。貫通孔40cの外部側の部位は、その内径が入力軸44の外径より僅かに大きくなるように形成されている。すなわち、貫通孔40cは、ハウジング14の内方側に位置する部位と外方側に位置する部位とで内径が異なるように形成されており、内方側に位置する部位40dの内径は、入力軸44の外径より十分に大きく形成され、外方側に位置する部位40eの内径は、入力軸44の外径より僅かに大きく形成されている。そして、貫通孔40cの内方側の部位40dの内周面と、入力軸44の外周面との間にはハウジング14内に注入されているオイル7の漏れを防止するためのオイルシール50が設けられている。また、第2フランジ40の内側に向く面には、ハウジング14の内側に配置される軸受46の外輪46aと接触する環状当接部40fが設けられている。
【0035】
反駆動側の挿通穴32には、軸受46が嵌合される嵌合穴38cを有する第1フランジ38が固定される。第1フランジ38は、連通穴部32aに嵌入される円筒部38aと、円筒部38aより大きな外径に形成されたリング部38bとを有している。第1フランジ38は、リング部38bが凹部32bに嵌入されるとともにボルトにて締め付けられることによりハウジング14に固定される。
【0036】
嵌合穴38aは、第1フランジ38がハウジング14に固定された状態で、内方から外方に向かって順次内径が小さくなるような、互いの内径が異なる4つの穴部が、同心状、すなわち断面が階段状になるように形成されている。ここでは、内径が最も大きく、最も内方側に位置する穴部を第1穴部38dとし、外方に向かって順次第2穴部38e、第3穴部38f、第4穴部38gとする。
【0037】
第1穴部38dには、軸受46が嵌入されており、第1穴部38dと第2穴部38eとの内径差により形成される段部が、軸受46の外輪46aと接触されている。第3穴部38fには、入力軸44の外周面と第3穴部38fの内周面との間に、ハウジング14内に注入されているオイル7の漏れを防止するためのオイルシール50が設けられている。第4穴部38gは、入力軸44の外径より僅かに大きな内径に形成され、軸受46に支持された入力軸44が貫通している。
【0038】
図4は、オイルシールの構造を説明するための縦断面図であり、図5は、図4におけるB−B断面図である。
【0039】
本実施形態の工作用テーブル装置10は、入力軸44の両端部側にオイルシール50を備えている。これらのオイルシール50の構造は、同様であるため、ここでは、反駆動側に設けられているオイルシール50について説明する。
【0040】
反駆動側に設けられたオイルシール50は、入力軸44と第1フランジ38の第3穴部38fとの間に介在されている。オイルシール50は、例えば、耐油性に富むアクリロニトリル-ブタジエン-ゴムなどにて環状に形成されている。ここで、本実施形態では、オイルシール50が入力軸44と第1フランジ38との間に介在されているが、第1フランジ38は、ハウジング14に密着させて固定されているので、第1フランジ38とハウジング14とは一体と考え、オイルシール50は、入力軸55とハウジングとの間に介在されているものとみなすことができる。以下の説明では、オイルシール50が入力軸44に取り付けられた際における軸方向を、オイルシール50の幅方向とする。
【0041】
オイルシール50は、外周面50aに周方向に沿って、断面が半円形状となる第1溝部50bが凹設されており、内周面50cに周方向に沿って、断面が矩形形状となる第2溝部50dが凹設されている。また、オイルシール50は、第1溝部50bと第2溝部50dを直径方向に連通する連通孔50eが1本設けられている。ここで、連通孔50eの直径は、第1溝部50bの直径及び第2溝部50dの幅より小さく形成されている。また、第1溝部50bの幅は、第2溝部50dの幅より広く形成されている。そして、第1溝部50b、第2溝部50d、連通孔50eの幅方向における中心は、オイルシール50の幅方向における中心と一致している。
【0042】
そして、オイルシール50は、工作用テーブル装置10に組み付けられた状態にて、外周面50aは、第1フランジ38の第3穴部38fの内周面と接触し、内周面50cは入力軸44の外周面と接触している。このため、オイルシール50の第1穴部50bと第3穴部38fの内周面とにより、第1フランジ38とオイルシール50との間に、環状の外周空間51が形成され、オイルシール50の第2溝部50dと入力軸44の外周面とにより、オイルシール50と入力軸44との間に、環状の内周空間52が形成され、外周空間51と内周空間52とが連通孔50eにて連通されている。このとき、第1溝部50bの幅は、第2溝部50dの幅より広く形成されているため、第1溝部50bの側部にて第1フランジ38の第3穴部38fの内周面と接触する幅は、第2溝部50dの側部にて入力軸44の外周面と接触する幅より狭くなっている。
【0043】
図6Aは、工作用テーブル装置が停止している際のオイルシールの状態を説明するための図であり、図6Bは、外周空間にオイルが流入する際のオイルシールの状態を説明するための図であり、図6Cは、外周空間及び内周空間にオイルが充満した際のオイルシールの状態を説明するための図である。
【0044】
図6Aに示すように、未使用の工作用テーブル装置10では、ハウジング14内に注入されているオイル7は、オイルシール50の内側の側面50fを軸方向外側に押圧するように貯留している。このとき、外周空間51、内周空間52、連通孔50eには、オイルは流入していない。
【0045】
入力軸44が回転し始めると、オイルシール50の側面50f側のオイル7は、側面50fに沿って入力軸44から離れる方向に流れ出す。側面50fに沿って流れたオイルは第3穴部38fの内周面に至り、第3穴部38fの内周面及びオイルシール50の外周面との間を流入し始める。このとき、第1溝部50bの側部、すなわち外周面50aと第3穴部38fの内周面と接触する幅は、第2溝部50dの側部、すなわち内周面50cと入力軸44の外周面と接触する幅より狭く、第1溝部50b側の方が剛性が低いため、オイルシール50の側面50fに沿って流れたオイルは、第2溝部50d側より先に第1溝部50b側から流入する。そして、第3穴部38fの内周面とオイルシール50の外周面との間から第1溝部50b、すなわち外周空間51に流れ込んだオイルは、連通孔50eを通って第2溝部50d、すなわち内周空間52にも流れ込む。
【0046】
このようにして流入したオイルが、外周空間51、内周空間52、連通孔50eに充満すると、外周空間51に充満したオイルによりオイルシール50の第1溝部50bが、第3穴部38fの周面側から入力軸44に向かう方向に押圧される。また、内周空間52に充満したオイルによりオイルシール50の第2溝部50dが入力軸44側から第3穴部38fの周面に向かう方向に押圧される。このため、オイルシール50の第1溝部50bと第2溝部50dとをオイルシール50の直径方向に挟むように、相反する方向に作用する力が発生する。すなわち、第1溝部50bに充満したオイルがオイルシール50を入力軸44に向かう方向に押圧しても、第1溝部50bにオイルが充満している際には、第2溝部50dにもオイルが充満しているので、第2溝部50dに充満したオイルにより、オイルシール50は入力軸44から離れる方向に押圧される。このため、第1溝部50b側のオイルによる押圧力と第2溝部50d側のオイルによる押圧力とが互いに相殺し合うので、オイルシール50の入力軸44に対する接触面圧が低減され、オイルシール50の摩耗を抑えることが可能である。
【0047】
すなわち、オイルシール50と入力軸44との摩擦力が低減されるので、摩擦熱によるオイルシール50の焼き付きや、過剰な負荷によるオイルシール50の損傷を防止することが可能である。よって、入力軸44を良好に且つ長期間回転させることが可能となり、工作用テーブル装置10の回転性能及び信頼性を向上させることが可能である。また、オイルシール50は、1部材で構成されているので、簡単な構造であると共に、1部材のオイルシール50を第1フランジ38と入力軸44との間に容易に介在させることが可能なため、作業工数を低減させて、コストも低減させることが可能である。
【0048】
本実施形態の工作用テーブル装置10によれば、入力軸44の回転によりオイルは外周側に導かれるため、まずハウジング14側の第1溝部50bから浸入させることが可能である。このため、第2溝部50dにオイルが充満するまでは、オイルによる押圧力はほとんど発生しないので、なめらかに入力軸44を回転させることが可能である。特に、本実施形態においては、第1溝部50bの幅は、第2溝部50dの幅より広く形成されているので、オイルシール50における外周面50a側の剛性が内周面50c側より低いため、オイルが外周面50a側から、より流入しやすい構造を実現している。
【0049】
また、第1溝部50bと第2溝部50dとは連通孔50eにより連通されているので、第1溝部50bに流入したオイルは、連通孔50eを通って第2溝部50dへ流入する。このため、第1溝部50bから流入したオイルを第2溝部50dに流入させることが可能である。そして、第2溝部50dにオイルが充満した後には、第1溝部50bと第2溝部50dとに流入したオイルによる押圧力は互いに相殺するように作用するので、オイルシール50及び入力軸44に多大な摩擦力が作用することを防止することが可能である。
【0050】
さらに、連通孔50eは、オイルシール50の径方向に沿って設けられているので、オイルシール50の連通孔50eは、入力軸44の径方向に設けられていることになる。このため、連通孔50e内であっても、第1溝部50bと第2溝部50dとに浸入したオイルによる押圧力を入力軸44の径方向、すなわち入力軸44の周面に対し垂直方向に作用させて互いに相殺させることが可能である。
【0051】
また、連通孔50eの径は、第1溝部50bの幅及び第2溝部50dの幅より小さく形成したので、連通孔50eが設けられている部位の周辺であっても、外周空間51に充満したオイルと、内周空間52に充満したオイルとが、各溝部50b,50dの内周壁において連通孔50eの設けられていない部位を押圧することになるため、第1溝部50b側及び第2溝部50d側にてそれぞれ押圧力を発生させることが可能であり、もって互いの押圧力を相殺させて、入力軸44とオイルシール50との間に作用する摩擦力を低減させることが可能である。
【0052】
本実施形態のおいては、連通孔50eを1本設けた例について説明したが、連通孔50eは、複数本設けても構わない。
【0053】
また、本実施形態の工作用テーブル装置10によれば、入力軸44及びターレット9の少なくともいずれか一方とハウジング14との間にオイルシール50が介在されている場合には、オイルシール50が介在された部位では摩擦による発熱が小さく、オイルシール50の損傷も抑えられるため、長期に亘りなめらかに高速回転する高性能の工作用テーブル装置10を実現することが可能である。
【0054】
本実施形態においては、第1溝部50bの側部と第3穴部38fの内周面とが接触する幅を、第2溝部50dの側部と入力軸44の外周面とが接触する幅より狭い構成とすることにより、第1溝部50b側の剛性を低くし、オイルが外周面50a側から、より流入しやすい構成としたが、例えば、オイルシール50を剛性が異なる2種類の弾性部材にて形成し、オイルシールの外周側に、2種類の弾性部材のうち剛性の低い部材を用いることにより、オイルが外周面側からより流入しやすい構成を実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本実施形態における工作用テーブル装置の外観図。
【図2】回転テーブルが回転する際の軸に対し垂直な平面における断面図。
【図3】図2のA−A断面図。
【図4】オイルシールの構造を説明するための縦断面図。
【図5】図4におけるB−B断面図。
【図6】図6Aは、工作用テーブル装置が停止している際のオイルシールの状態を説明するための図。図6Bは、外周空間にオイルが流入する際のオイルシールの状態を説明するための図。図6Cは、外周空間及び内周空間にオイルが充満した際のオイルシールの状態を説明するための図。
【符号の説明】
【0056】
7 オイル
10 工作用テーブル装置(オイルシール付き装置)
14 ハウジング
44 入力軸(回転軸)
50 オイルシール
50b 第1溝部
50d 第2溝部
50e 連通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オイルが注入されたハウジングと、前記ハウジングの内外に貫通する回転軸と、前記ハウジング及び前記回転軸の間に介在される環状のオイルシールと、を有するオイルシール付き装置において、
前記オイルシールは、前記ハウジングと接触する外周面に周方向に沿って凹設された第1溝部と、前記回転軸と接触する内周面に周方向に沿って凹設された第2溝部と、前記第1溝部と第2溝部とを連通する連通孔とを有していることを特徴とするオイルシール付き装置。
【請求項2】
請求項1に記載のオイルシール付き装置において、
前記回転軸が回転することにより、前記第2溝部より先に前記第1溝部に前記オイルが流入することを特徴とするオイルシール付き装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のオイルシール付き装置において、
前記オイルシールの、前記ハウジングと接触する外周面における前記回転軸方向の幅は、前記回転軸と接触する内周面における前記回転軸方向の幅より狭いことを特徴とするオイルシール付き装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のオイルシール付き装置において、
前記オイルシールは、剛性が異なる2種類の弾性部材にて構成され、
前記ハウジングと接触する外周面側に剛性が低い前記弾性部材が用いられ、
前記回転軸と接触する内周面側に剛性が高い前記弾性部材が用いられていることを特徴とするオイルシール付き装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のオイルシール付き装置において、
前記連通孔は、オイルシールの径方向に沿って設けられていることを特徴とするオイルシール付き装置。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれかに記載のオイルシール付き装置において、
前記連通孔の径は、前記第1溝部の幅及び第2溝部の幅より小さいことを特徴とするオイルシール付き装置。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれかに記載のオイルシール付き装置において、
前記第1溝部に流入した前記オイルは、前記連通孔を通って前記第2溝部へ流入することを特徴とするオイルシール付き装置。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のいずれかに記載のオイルシール付き装置において、
前記第2溝部へ流入したオイルにより、前記第2溝部側から前記第1溝部側に向かう方向に作用する圧力が発生することを特徴とするオイルシール付き装置。
【請求項9】
請求項1乃至請求項8のいずれかに記載のオイルシール付き装置において、
カムが設けられた入力軸と、前記カムに係合するカムフォロアが固定された出力軸とが前記ハウジングに収容されて構成された工作用テーブル装置の、前記入力軸及び前記出力軸の少なくともいずれか一方とハウジングとの間に、前記オイルシールが介在されて構成されることを特徴とするオイルシール付き装置。
【請求項10】
環状をなすオイルシールの外周面に周方向に沿って凹設された第1溝部、内周面に周方向に沿って凹設された第2溝部、及び、前記第1溝部と前記第2溝部とが連通される連通孔、を有していることを特徴とするオイルシール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−153162(P2006−153162A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−345635(P2004−345635)
【出願日】平成16年11月30日(2004.11.30)
【出願人】(390006585)株式会社三共製作所 (46)
【Fターム(参考)】