説明

オゾン混合物の分解排出方法、及びオゾン混合物の分解排出装置

【課題】本発明は、オゾンを含む流体を扱うプロセスにおいて、簡便かつ小型化された設備で、オゾンが爆発下限値を超えて濃縮することを抑制可能なオゾン混合物の分解排出方法、及びオゾン混合物の分解排出装置を提供することを課題とする。
【解決手段】オゾンと低沸点不活性ガスの混合流体の緊急排出において、予め高沸点不活性ガスを貯液した第1受液槽23に貯留させたあと、高沸点不活性ガスと混合しながら、オゾン分解槽27に導入する。この際に、オゾン分解槽27での急激な温度上昇を避けるため、オゾン分解槽27に導入する混合流体に、高沸点不活性ガスを適量混合させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オゾン混合物の分解排出方法、及びオゾン混合物の分解排出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、酸素同位体である17Oの濃縮方法として、酸素ガスをオゾナイザーに導入し、その一部をオゾンとして酸素とオゾンとの混合気体を得た後、この混合気体から酸素を分離、除去し、次いで、該オゾンに特定波長のレーザー光を照射して17Oを含むオゾン分子を選択的に光分解して、17Oを含む酸素とし、この17Oを含む酸素を、他の酸素同位体を含むオゾンから分離する方法がある。
【0003】
上記濃縮方法では、オゾナイザーから導出されたオゾンと酸素との混合ガスに希釈ガスとして、テトラフルオロメタン(CF)を添加し冷却した後、精留塔に導入し精留塔上部に酸素を、下部にオゾンとテトラフルオロメタンとを蒸留、分離する。このとき、精留塔の底部にはオゾンとテトラフルオロメタンとの混合液が溜まる。
【0004】
上記濃縮プロセスにおいて、何らかの異常が発生し、プロセスが停止して精留塔底部の温度が上昇すると、オゾンがテトラフルオロメタンよりも沸点が低いため、テトラフルオロメタンが先に気化し、前記混合液中でオゾンが濃縮される。
濃縮されたオゾンは危険であるため、プロセス停止直後に精留塔底部に溜まっている前記混合液をすべて蒸発器に送り込み、気化したガスをオゾン分解槽に送って含まれているオゾンを分解した後、系外に排出するなどの方策が必要となる。
【0005】
また、上記オゾンの濃縮による危険性については、上述の酸素同位体の濃縮プロセスに限られず、オゾンを含む流体を扱うプロセスのすべてに必然的に付随するものである。
ところで、オゾン−酸素系におけるオゾンの爆発下限値はガス状態においては、14vol%、液体状態では17.6モル%であることが知られている。
【0006】
また、オゾンを安全に取り扱うための従来技術として、特許文献1には、オゾン−酸素混合ガスにテトラフルオロメタンなどの不活性ガスをモル比で5%添加することにより、オゾンの爆発下限濃度を14.3vol%から19vol%に引き上げられること、−180℃におけるオゾン−酸素混合液にテトラフルオロメタンを重量比で約1%混合することで前記混合液に部分分解を抑制し安定化可能なことが開示されている。
【0007】
また、特許文献2には、オゾン−酸素混合液にトリフルオロメタンを重量比で1〜15%程度混合することにより、オゾン濃度が24〜40wt%の安定した均一なオゾン混合液となることが開示されている。
【0008】
また、特許文献3には、液体オゾンを製造する装置で冷凍機の温度制御が困難になった場合に、液化容器内に液化窒素を供給して冷却することにより、液体オゾンの温度上昇を防ぎ、装置を保護する方法が記載されている。
【0009】
さらに、特許文献4には、オゾンの光化学反応において、反応に影響を及ぼさないクリプトン、キセノン、ラドンのいずれか1種以上の希ガスとオゾンを混合し、オゾンの安定性を保つ技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第3400024号公報
【特許文献2】米国特許第3406117号公報
【特許文献3】特許第3919988号公報
【特許文献4】特開2005−40668号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記17Oの濃縮プロセスにおいて、プロセス停止直後に精留塔底部に溜まっている前記混合液をすべて蒸発器に送り込み、気化したガスをオゾン分解槽に送って含まれているオゾンを分解した後、系外に排出する場合、オゾンとテトラフルオロメタンとの混合液を一挙に気化させ、その後、オゾンに分解することになるので、蒸発器及びオゾン分解槽等の設備が大型化して、設備費用が嵩むという問題がある。
【0012】
また、停電や断水等が発生した場合には、前記混合液を保冷槽に自然流下させて移送し貯留する方策も考えられるが、この場合、長期の貯留では侵入熱によってテトラフルオロメタンが気化してオゾンが濃縮する危険性がある。
【0013】
そこで、本発明は、オゾンを含む流体を扱うプロセスにおいて、小型化された設備で、オゾンが爆発下限値を超えて濃縮することを抑制可能なオゾン混合物の分解排出方法、及びオゾン混合物の分解排出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を解決するため、請求項1に係る発明によれば、オゾン混合物を使用するプロセスにおいて、オゾン混合物を系外に分解排出するオゾン混合物の分解排出方法であって、予め液化高沸点不活性ガスが貯えられた受液槽に液化オゾンと液化低沸点不活性ガスとの混合液を流入させ、前記受液槽内で前記液化高沸点不活性ガス、前記液化オゾン及び前記液化低沸点不活性ガスを混合流体とし、該混合流体を液体のまま前記受液槽から取り出すと共に、前記混合流体を液化高沸点液化ガスで希釈してオゾン分解槽に導入し、前記混合流体中のオゾンを酸素ガスに分解し、該酸素ガスと、低沸点不活性ガス及び高沸点不活性ガスとを気液分離したのち、気相側の前記酸素ガスを系外に取り出すと共に、液相側の前記高沸点不活性ガスと液相側の前記低沸点不活性ガスとの混合液を蒸留分離することを特徴とするオゾン混合物の分解排出方法が提供される。
【0015】
また、請求項2に係る発明によれば、前記オゾン分解槽内の温度が所定の範囲内になるように、前記オゾン分解槽に導入する前記混合流体と、該混合流体を希釈する前記高沸点不活性ガスとの流量比を制御することを特徴とする請求項1記載のオゾン混合物の分解排出方法が提供される。
【0016】
また、請求項3に係る発明によれば、前記低沸点不活性ガスが、テトラフルオロメタン、クリプトン、アルゴンのうちの少なくともいずれか1つにより構成され、前記高沸点不活性ガスが、キセノン、トリフルオロメタン、ブロモトリフルオロメタン、ジクロロフルオロメタン、クロロジフルオロメタン、ジクロロジフルオロメタン、クロロトリフルオロメタンのうちの少なくともいずれか1つにより構成されることを特徴とする請求項1または2記載のオゾン混合物の分解排出方法が提供される。
【0017】
また、請求項4に係る発明によれば、オゾン混合物を使用する装置からオゾン混合物を分解排出するオゾン混合物の分解排出装置であって、予め液化高沸点不活性ガスを貯液している液化オゾンと液化低沸点不活性ガスとの混合液を受液し、前記液化高沸点不活性ガス、前記液化オゾン、及び前記液化低沸点不活性ガスを混合流体とする第1受液槽と、温度測定器を備え、前記混合流体中のオゾンを分解するオゾン分解槽と、前記混合流体を希釈する液化高沸点不活性ガスを貯液した第2受液槽と、前記液化高沸点不活性ガスで希釈した混合流体を前記オゾン分解槽に供給するためのポンプと、前記オゾン分解槽で前記混合流体中のオゾンを分解することにより生じた酸素ガスと、該酸素ガス以外の液化不活性ガスとに分離する気液分離器と、前記液化不活性ガスを、低沸点不活性ガスと高沸点不活性ガスとに分離する精留塔と、前記第1受液槽と前記第2受液槽から前記オゾン分解槽に供給する流体の流量比を制御する流量制御機構とを具備することを特徴とするオゾン混合物の分解排出装置が提供される。
【0018】
また、請求項5に係る発明によれば、前記オゾン分解槽に供給する前記混合液がサブクール状態になるよう、オゾン分解槽の1次側で液温度が調整されており、かつ前記オゾン分解槽内に複数の温度検出端を有し、常時、前記複数の温度検出端が検出した前記オゾン分解槽内の複数の温度のうち、最も高い温度が選択され、前記最も高い温度の情報に基づき、前記第1受液槽と第2受液槽からの液量比を制御できる液量比制御設備を有することを特徴とする請求項4記載のオゾン混合物の分解排出装置が提供される。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、受液槽内で形成された液化高沸点不活性ガスと液化オゾンと液化低沸点不活性ガスとの混合液が温度調節機能あるいは侵入熱などにより加熱された際、受液槽の気相において、オゾンより沸点の低い低沸点不活性ガスがオゾンより優先的に気化するため、気相においてオゾンが爆発下限値を越えることを防止できる。
一方、液相において、オゾンが気化する条件においても、液化高沸点不活性ガスが液相に多く残るため液相中のオゾン濃度が爆発下限値を越えることを防止できる。
【0020】
また、系外に排出するオゾン混合液を瞬時に処理するための大型の蒸発器、オゾン分解槽を設ける必要がなく、その処理を都合のよい時に長時間かけて行うことが可能となるので、処理設備を小型化でき、処理設備のコストを低減することができる。
さらに、高沸点不活性ガスおよび低沸点不活性ガスをすべて回収再使用することが可能となるので、地球温暖化ガス排出量を最低レベルに抑えることができる。
また、不活性ガスの回収に際して、気化、液化を繰り返す必要がほとんどないため、熱交換器などが不要になるほか、ほとんどの部分で流体密度が大きい液体のまま取り扱えるため、設備自体も小型化することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施の形態に係るオゾン混合物の分解排出装置の一例を示す概略構成図である。
【図2】図1に示す分解排出装置に設けられた第1受液槽内の液相のオゾン濃度を連続的に測定した結果を示す図である。
【図3】本発明のオゾン混合物の分解排出装置の他の例を示す概略構成図である。
【図4】図3に示す分解排出装置に設けられた第1受液槽内の液相のオゾン濃度を連続的に測定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明を適用した実施の形態について詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、本発明の実施形態の構成を説明するためのものであり、図示される各部の大きさや厚さや寸法等は、実際のオゾン混合物の分解排出装置の寸法関係とは異なる場合がある。
【0023】
始めに、本発明において用いられる低沸点不活性ガス及び高沸点不活性ガスについて説明する。
本発明における低沸点不活性ガスとは、オゾンより沸点が低い不活性ガスであり、具体的には、テトラフルオロメタン(CF)、クリプトン(Kr)、アルゴン(Ar)のいずれか1種または2種以上の混合物である。
また、本発明における高沸点不活性ガスとは、オゾンより沸点が高く、かつオゾンの沸点より融点が低い不活性ガスであり、具体的には、キセノン(Xe)、トリフルオロメタン(CHF)、ブロモトリフルオロメタン(CBrF)、ジクロロフルオロメタン(CHClF)、クロロジフルオロメタン(CHClF)、ジクロロジフルオロメタン(CCl)、クロロトリフルオロメタン(CClF)のいずれか1種または2種以上の混合物である。
【0024】
表1に、酸素、オゾン、低沸点不活性ガス、及び高沸点不活性ガスの沸点及び融点を示す。
【0025】
【表1】

【0026】
(実施の形態)
図1は、本発明の実施の形態に係るオゾン混合物の分解排出装置の一例を示す概略構成図である。
図1に示す分解排出装置11は、酸素同位体17Oの濃縮装置10に設けられるオゾン混合物の排出装置である。
【0027】
図1を参照するに、酸素同位体17Oの濃縮装置10の構成について簡単に説明する。
酸素同位体17Oの濃縮装置10は、分解排出装置11と、第1熱交換器13と、第1精留塔14と、光セル16と、第2熱交換器17と、第2精留塔19と、を有する。
分解排出装置11は、第1受液槽23と、温度調節部24と、ポンプ26(例えば、圧送ポンプ)と、オゾン分解槽27と、第2受液槽29と、精留塔31と、を有する。第1受液槽23は、バルブを介して、第1精留塔14の塔底と接続されている。また、第1受液槽23は、ポンプ26を介して、オゾン分解槽27と接続されている。
【0028】
次に、酸素同位体17Oの濃縮装置10の動作について簡単に説明する。
始めに、オゾン、酸素、低沸点不活性ガスの混合ガスは第1熱交換器13に送られ、冷却されて第1精留塔14に送られる。
第1精留塔14は、その塔頂から酸素ガスを排出し、塔底にはオゾンと低沸点不活性ガスとの混合液が溜まる。この混合液中のオゾン濃度は、通常10容量%程度、低沸点不活性ガス濃度は90容量%程度である。
【0029】
第1精留塔14の下部からオゾンと低沸点不活性ガスとの混合ガスが抜き出され、光セル16に送られる。光セル16では特定波長のレーザ光が照射され、17Oを含むオゾンが選択的に光分解され、17Oを含む酸素ガスとなる。
光セル16から導出されたオゾン、酸素、及び低沸点不活性ガスの混合ガスは、第2熱交換器17に送られて冷却され、第2精留塔19に導入される。
【0030】
第2精留塔19では、その塔頂から17Oを含む酸素ガスが導出され、17Oが濃縮された酸素ガスが得られ、その塔底からはオゾンと低沸点不活性ガスとの混合ガスが導出される。オゾンと低沸点不活性ガスとの混合ガスは、別途処理され、低沸点不活性ガスは回収され、再使用され、オゾンは酸素に分解されて廃棄される。
【0031】
この17O濃縮工程において、何らかの緊急事態等が発生した場合、第1精留塔14の塔底に溜まっているオゾンと低沸点不活性ガスとの混合液は、緊急開放弁を開放してその全量を第1受液槽23に流下させる必要がある。
第1受液槽23には、温度を150K程度に保った液化させた高沸点不活性ガスが予め貯液されている。第1受液槽23に流下したオゾンと低沸点不活性ガスとの混合液化ガスは、液化させた高沸点不活性ガスと混合し、三成分の混合流体となって貯留される。
この三成分の混合流体中のオゾン濃度は、通常5容量%程度、低沸点不活性ガス濃度は45容量%程度、高沸点不活性ガス濃度は、50容量%程度となる。
【0032】
第1受液槽23には、温度調節部24が備えられており、これを動作させることで第1受液槽23内の混合流体を液体として低温下で保存することが可能となる。
第1受液槽23には三成分の混合流体が貯留されているため、停電や設備の故障等、温度調節動作に支障をきたした場合でも、三成分のうち、最も低沸点の低沸点不活性ガスが優先的に気化し、液相中にはオゾンと高沸点不活性ガスとが残存する。したがって、オゾンの濃縮が抑制されるため、オゾンの爆発下限値を超えることを防止できる。
このとき、低沸点不活性ガスの気化に続いて、オゾンが気化し、さらに高沸点不活性ガスが気化するが、気相においてもオゾン以外に低沸点不活性ガスと高沸点不活性ガスが存在するため、オゾンの爆発下限値を超えることを防止できる。
【0033】
第1受液槽23の混合流体は、ポンプ26により、オゾン分解触媒が充填されたオゾン分解槽27に送られる。このとき、予め第1受液槽23に貯液されていた高沸点不活性ガスと同じ高沸点不活性ガスが貯液されている第2受液槽29の高沸点不活性ガスを混合し、前記混合流体中のオゾンをさらに希釈してから、ポンプ26を用いてオゾン分解槽27に導入する。
ここで、第1受液槽23からオゾン分解槽27に送られる混合流体の流量は、流量調整機構(図1に示す「流調x」、以下、「流量調整機構x」という。)によって調整される。流量調整機構xは、流量センサと、プロセスコントローラ(図示せず)及び流量調節弁と、を有する。
また、第2受液槽29から送られる前記混合流体を希釈するための高沸点不活性ガスの流量は、流量調整機構(図1に示す「流調y」、以下、「流量調整機構y」という。)によって調整される。流量調整機構yは、流量センサと、プロセスコントローラ(図示せず)及び流量調節弁とを有する。
【0034】
このときの第2受液槽29から送られる高沸点不活性ガスの流量は、オゾン分解槽内の温度が過度にあがらないよう、流量調整機構yで制御されるが、この際、流量調整機構xの流量と流量調整機構yの流量との合計流量は、常に一定になるよう、その流量比を制御する。
【0035】
混合流体中のオゾンは、オゾン分解槽27を通過することで、酸素ガスに分解され、高沸点不活性ガスと低沸点不活性ガス及び酸素ガスとの混合流体になる。この混合流体は、オゾン分解槽27下流の気液分離器において気液2相とし、気相側の酸素ガスを系外に排出すると共に、液相側の流体を精留塔31に導入し、高沸点不活性ガスと低沸点不活性ガスとに分離する。高沸点不活性ガスは、第2受液槽29に貯留する。
【0036】
なお、第1受液槽23の混合流体の処理は、オゾン分解槽27への送液初期においては、第2受液槽29からの高沸点不活性ガスのみを送液するものとし、徐々に第1受液槽23からの混合流体の送液量を増加、同時に第2受液槽29からの送液量を減少させる。オゾン分解槽27内の温度を測定し、この温度が過度に上昇しないよう、所定の範囲(例えば、153K未満)となるように、第1受液槽23からの流量と第2受液槽29からの流量との比を適宜調節する。
【0037】
ここでオゾン分解槽27の温度は、オゾン分解反応に伴う発熱が主たる熱源であるが、オゾン分解触媒の性能や劣化の度合い、流入するオゾン濃度と希釈液組成や流入総量等によって最高温度及び槽内温度分布が変化する。
また、槽内温度が高いと、生成O以外に低沸点不活性ガスの蒸発量も増加し、低沸点不活性ガスの回収率が低下する。槽内温度をオゾンが気化するほど過度(例えば、153K℃以上)に上げないためには、オゾン分解槽27へ流入するオゾン濃度を下げるために高沸点不活性ガスを大量に混入させることで、著しく希薄にする方法があるが、長い処理時間を要するというデメリットがある。
【0038】
このデメリットを解決するため、オゾン分解槽27に供給される混合液を予め熱交換器(図示せず)を含む冷凍機によりサブクールの状態にすることで、オゾン濃度を著しく希薄にすることなく、槽内温度の過度な上昇を防ぐことができる。サブクールにする部分は第1受液槽23や第2受液槽29にすると、温度の低下に伴って槽内圧力が低下するため、流量調整の二次側でかつ、分解槽一次側ポンプの吸入側または、吐出側が望ましい。
なお、本実施の形態における「サブクール」は、沸点より低い温度の状態の液体を意味している。
【0039】
オゾン分解槽27内では、分解触媒の劣化やオゾン濃度によって、オゾン分解槽27の温度分布が変化し、特に、触媒が新しく、オゾン濃度が高いと、入口端のみが過度に高い温度になる可能性がある。
したがって、オゾン分解槽27内には複数の温度検出端(図示せず)を設備し、それら計測される温度の一番高い温度をもって第1受液槽23及び第2受液槽29からの流量比を決定することが望ましい。
なお、複数の温度検出端の温度に基づいて流量調整機構x及び流量調整機構yを制御する方法は、温度検出端全ての温度情報をコンピュータに取り込み、比較演算して選択してもよいし、多数決フィルター等の信号変換器を使用してもよい。
【0040】
本実施の形態のオゾン混合物の分解排出方法、及びオゾン混合物の分解排出装置によれば、簡便かつ小型化された設備(具体的には、濃縮装置10)で、オゾンが爆発下限値を超えて濃縮することを抑制できる。
【0041】
以上、本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明はかかる特定の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【0042】
以下、本発明の効果を、実施例を用いて具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0043】
(第1実施例)
図1に示す濃縮装置10において、第1受液槽23(容量約300リットル)の内部に高沸点不活性ガスである約100リットルを140Kに保って貯留した。
緊急時を想定して、精留塔14の塔底に溜まっているオゾンと低沸点不活性ガスであるテトラフルオロメタンとの混合液約100リットルを、緊急開放弁を開放して第1受液槽23に流下させた。このときの混合液中のオゾン濃度は10容量%、テトラフルオロメタン濃度は90容量%であった。
【0044】
第2受液槽29からの流量調整機構xの設定をゼロとしたうえで、第2受液槽29からの高沸点不活性ガスだけをオゾン分解槽27に導入し、精留塔31、第2受液槽29の順に循環させた。
次に、流量調整機構xの流量と流量調整機構yの流量との合計流量が一定になり、かつ、オゾン分解槽27内の最高温度とオゾン触媒槽入口流体温度との差が5℃以下になるように、流量調整機構x及び流量調整機構yの流量比を自動調整しながら、循環運転を行なった。
また、処理の後期には、第1受液槽23に第2受液第1受液槽23槽29の高沸点不活性ガスの一部を供給しながら、循環運転を行い、第1受液槽23内のオゾン濃度がほぼゼロになるまで運転を続けた。
【0045】
図2は、図1に示す分解排出装置に設けられた第1受液槽内の液相のオゾン濃度を連続的に測定した結果を示す図である。
図2に示すように、第1受液槽23中のオゾン濃度(実施例1)は、初期状態で高沸点不活性ガスにより希釈されるうえに、低沸点不活性ガスの蒸発によるオゾン濃縮もわずかである。
図2には、比較例として従来方法である第1精留塔14の塔底に溜まった液体をそのまま排出した場合の液相中のオゾン濃度の推定結果を併せて示した。この結果から、オゾン−低沸点不活性ガス混合ガスの爆発下限に突入していることが分かると共に、高沸点不活性ガスを使用した効果が明らかになった。
【0046】
(第2実施例)
図3は、本発明のオゾン混合物の分解排出装置の他の例を示す概略構成図である。
図3を参照するに、酸素同位体17Oの濃縮装置35は、図1に示す酸素同位体17Oの濃縮装置10に設けられた分解排出装置11の替わりに、分解排出装置36を設けた以外は、同様に構成されている。
【0047】
分解排出装置36は、先に説明した分解排出装置11の構成に、上記実施例1よりも5℃低くできる熱交換器(図示せず)を含む冷却器37を設けた以外は、図1に示す分解排出装置11と同様に構成されている。ポンプ26は、冷却器37を介して、第1受液槽23と接続されている。
第2実施例では、上記構成とされた濃縮装置35を用いて、同様の運転を行った。このとき、オゾン分解槽27内の温度と槽内入口流体温度差を約8℃以内とした。
【0048】
図4は、図3に示す分解排出装置に設けられた第1受液槽内の液相のオゾン濃度を連続的に測定した結果を示す図である。図4には、第2実施例の結果の他に、図2に示す比較例及び第1実施例の結果も合わせて図示する。
【0049】
図4を参照するに、冷却器37のない場合(実施例1)の約2/3の時間で処理が終了することが確認できた。また、この間、オゾン分解槽27の温度計測を複数の温度検出端(図示せず)によって行い、部分的にも過度の温度上昇は観測されず、また、流量調整機構x及び流量調整機構yの比率は安定し、ハンチング等も皆無であった。
また、冷却器37を装備することによって、濃縮装置35が常温であった停止時から、実際にオゾンを分解処理可能な状態になるまでの起動時間を3%程度短縮できた。
【0050】
このように、第1受液槽23に侵入熱などがあってもオゾンが濃縮することは本質的になく、オゾン分解槽27等の起動も都合のよいときに行なうことができる。
また、例えば、第1受液槽23が三成分の混合液を保管中に、電力の供給が遮断され、第1受液槽23の温度が140K以下に保持できなくなり、かつ液化ガスの蒸発量が多くなったとしても、オゾンと低沸点不活性ガスとの混合ガスが優先的に気化するので、液体のオゾンが濃縮することがない。
【0051】
また、従来方法では、系外に排出するオゾン混合液を瞬時に処理するための大型の蒸発器、オゾン分解槽を設ける必要があったのに対して、本発明では、その処理を都合のよい時に長時間かけて行うことができる。また、液体のままでの処理が可能となるため、処理設備(具体的には、濃縮装置10,35)を小型化でき、処理設備のコストを低減することができる。
さらに、高沸点不活性ガスおよび低沸点不活性ガスをすべて回収再使用できるので、地球温暖化ガス排出量を最低レベルに抑えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、オゾン混合物の分解排出方法、及びオゾン混合物の分解排出装置に適用可能である。
【符号の説明】
【0053】
10,35…濃縮装置、11,36…分解排出装置、13…熱交換器、14…第1精留塔、16…光セル、17…第2熱交換器、19…第2精留塔、23…第1受液槽、24…温度調節部、26…ポンプ、27…オゾン分解槽、29…第2受液槽、31…精留塔、37…冷却器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オゾン混合物を使用するプロセスにおいて、オゾン混合物を系外に分解排出するオゾン混合物の分解排出方法であって、
予め液化高沸点不活性ガスが貯えられた受液槽に液化オゾンと液化低沸点不活性ガスとの混合液を流入させ、前記受液槽内で前記液化高沸点不活性ガス、前記液化オゾン及び前記液化低沸点不活性ガスを混合流体とし、該混合流体を液体のまま前記受液槽から取り出すと共に、前記混合流体を液化高沸点液化ガスで希釈してオゾン分解槽に導入し、前記混合流体中のオゾンを酸素ガスに分解し、該酸素ガスと、低沸点不活性ガス及び高沸点不活性ガスとを気液分離したのち、気相側の前記酸素ガスを系外に取り出すと共に、液相側の前記高沸点不活性ガスと液相側の前記低沸点不活性ガスとの混合液を蒸留分離することを特徴とするオゾン混合物の分解排出方法。
【請求項2】
前記オゾン分解槽内の温度が所定の範囲内になるように、前記オゾン分解槽に導入する前記混合流体と、該混合流体を希釈する前記高沸点不活性ガスとの流量比を制御することを特徴とする請求項1記載のオゾン混合物の分解排出方法。
【請求項3】
前記低沸点不活性ガスが、テトラフルオロメタン、クリプトン、アルゴンのうちの少なくともいずれか1つにより構成され、
前記高沸点不活性ガスが、キセノン、トリフルオロメタン、ブロモトリフルオロメタン、ジクロロフルオロメタン、クロロジフルオロメタン、ジクロロジフルオロメタン、クロロトリフルオロメタンのうちの少なくともいずれか1つにより構成されることを特徴とする請求項1または2記載のオゾン混合物の分解排出方法。
【請求項4】
オゾン混合物を使用する装置からオゾン混合物を分解排出するオゾン混合物の分解排出装置であって、
予め液化高沸点不活性ガスを貯液している液化オゾンと液化低沸点不活性ガスとの混合液を受液し、前記液化高沸点不活性ガス、前記液化オゾン、及び前記液化低沸点不活性ガスを混合流体とする第1受液槽と、
温度測定器を備え、前記混合流体中のオゾンを分解するオゾン分解槽と、
前記混合流体を希釈する液化高沸点不活性ガスを貯液した第2受液槽と、
前記液化高沸点不活性ガスで希釈した混合流体を前記オゾン分解槽に供給するためのポンプと、
前記オゾン分解槽で前記混合流体中のオゾンを分解することにより生じた酸素ガスと、該酸素ガス以外の液化不活性ガスとに分離する気液分離器と、
前記液化不活性ガスを、低沸点不活性ガスと高沸点不活性ガスとに分離する精留塔と、前記第1受液槽と前記第2受液槽から前記オゾン分解槽に供給する流体の流量比を制御する流量制御機構とを具備することを特徴とするオゾン混合物の分解排出装置。
【請求項5】
前記オゾン分解槽に供給する前記混合液がサブクール状態になるよう、オゾン分解槽の1次側で液温度が調整されており、かつ前記オゾン分解槽内に複数の温度検出端を有し、
常時、前記複数の温度検出端が検出した前記オゾン分解槽内の複数の温度のうち、最も高い温度が選択され、前記最も高い温度の情報に基づき、前記第1受液槽と第2受液槽からの液量比を制御できる液量比制御設備を有することを特徴とする請求項4記載のオゾン混合物の分解排出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−76071(P2012−76071A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−35783(P2011−35783)
【出願日】平成23年2月22日(2011.2.22)
【出願人】(000231235)大陽日酸株式会社 (642)
【Fターム(参考)】