説明

オパール装飾品とその製造方法

【課題】シリカ粒子を含有する分散液をガラス容器中で時間をかけて沈殿させる場合では、シリカ粒子を沈殿させるまでに長時間かかってしまい工数が長くなること、あるいは、ガラスなどの撥水性基板の面上に、シリカなどの微粒子を含む液体を滴下し、凝集させて付着させる場合は、液滴の大きさの範囲内でしかオパール調の模様を形成できないこと。
【解決手段】吸液性基材と、シリカ粒子からなるシリカ層とを有するオパール装飾品であって、前記シリカ層は、前記吸液性基材上に位置し、前記シリカ粒子が少なくとも不規則な配列を有する第1層と、前記第1層上に位置し前記シリカ粒子が規則配列した第2層とを有すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はオパール装飾品とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オパール装飾品には天然で採掘されるもの以外に、人工的に作製されるものもあり、例えば、シリカ粒子を含有する分散液をガラス容器中静置して、時間をかけて沈殿させることによって、人工的にオパールを作製することが知られている。
【0003】
また例えば、ガラスなどの撥水性基板の面上に、シリカなどの微粒子を含む液体を滴下し、凝集させてオパール調の模様を付着させたものなどがある(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−239661号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、シリカ粒子を含有する分散液をガラス容器中で時間をかけて沈殿させる場合、シリカ粒子を沈殿させるまでに長時間を要する場合がある。
【0006】
また特許文献1のように、ガラスなどの撥水性基板の面上に、シリカなどの微粒子を含む液体を滴下し、凝集付着させる場合は、通常、液滴の大きさの範囲内でしかオパール調の模様を形成できないことがあった。あるいはオパール調の模様が吸液性基板から剥がれ易い場合もある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題に鑑みて本発明のオパール装飾品は、吸液性基材と、シリカ粒子からなるシリカ層とを有するオパール装飾品であって、前記シリカ層は、前記吸液性基材上に位置し、前記シリカ粒子が少なくとも不規則な配列を有する第1層と、該第1層上に位置し、前記シリカ粒子が規則配列した第2層とを有することを特徴とする。
【0008】
また本発明のオパール装飾品の製造方法は、繊維状またはポーラス状の吸液性基材上にシリカ粒子を含むシリカ分散液を塗布してシリカ層を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明のオパール装飾品によれば、吸液性基材と、シリカ粒子からなるシリカ層とを有するオパール装飾品であって、前記シリカ層は、前記吸液性基材上に位置し、前記シリカ粒子が少なくとも不規則な配列を有する第1層と、該第1層上に位置し、前記シリカ粒子が規則配列した第2層とを有することにより、吸液性基材の表面が歪な凹凸形状であっても、第1層のシリカ粒子によって吸液性基材の表面を平坦化させることができ、さらに、第1層上に第2層のシリカ粒子によってブラッグ回折可能な規則配列を有することによって、優れた遊色効果を呈し易くすることができる。
【0010】
また本発明のオパール装飾品の製造方法によれば、繊維状またはポーラス状の吸液性基材上にシリカ粒子を含むシリカ分散液を塗布してシリカ層を形成することにより、オパール調の模様を広範囲に形成することを容易にするとともに、オパール装飾品を短い工数で早期に提供することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本実施形態にかかるオパール装飾品の吸液性基材の断面図である。
【図2】本実施形態にかかるオパール装飾品の吸液性基材に分散液を塗布した直後の状態を示す断面図である。
【図3】本実施形態にかかるオパール装飾品の吸液性基材に分散液の分散媒が吸収される状態を示す断面図である。
【図4】本実施形態にかかるオパール装飾品の吸液性基材に分散液の分散媒が吸収され、乾燥した状態の断面図である。
【図5】本実施形態におけるオパール装飾品の第1層形成途中でのシリカ粒子の配列状態を示す図面代用写真である。
【図6】本実施形態におけるオパール装飾品の第1層形成段階におけるシリカ粒子の配列状態を示す図面代用写真である。
【図7】本実施形態におけるオパール装飾品の第2層形成段階におけるシリカ粒子の配列状態を示す図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明にかかる一実施形態を図を用いて説明する。
【0013】
本発明の一実施形態におけるオパール装飾品は、吸液性基材と、シリカ粒子からなるシリカ層とを有するオパール装飾品であって、前記シリカ層は、前記吸液性基材上に位置し、前記シリカ粒子が少なくとも不規則な配列を有する第1層と、該第1層上に位置し、前記シリカ粒子が規則配列した第2層とを有するものである。
【0014】
図1において、1は吸液性基材(以下、単に基材1という場合がある)である。この吸液性基材1とは、分散液を吸収し易いものであればよい。例えば、繊維上またはポーラス状の吸液性基材1が用いられる。具体的には、紙、布、木材、樹脂およびセラミックスならびにそれらの複合物を含むもの等が挙げられる。なお、吸液性基材1は、一般的にその表面が凹凸状である。
【0015】
また吸液性基材1には、板状もしくはシート状のものが使用されることが多く、清浄に洗浄され、乾燥したものが使用される。例えば紙であれば素早く吸液でき、オパール調の模様が滲むことが低減される。他方、ガラスなどは吸液ができないため、分散液2が面内方向に広がって滲んでしまう場合がある。
【0016】
また、基材1は凹凸を有することによって、第2層3bの表面にも凹凸として粗さが反映されるので、乱反射により遊色効果の色相が様々に変化する。
【0017】
図2において、分散液2は中に分散質2aを含む分散媒2bである。
【0018】
分散媒2bとしては、例えば、水、エタノール、メタノール、クロロホルム、エーテル、ベンゼンなどの有機溶媒、またはこれらの混合溶媒等が挙げられ、分散媒2bは吸液性基材1の親水性に応じて、最適な極性となるように用意すればよく、さらに、必要に応じて分散剤を添加してもよい。例えば、吸液性基材1が親水性であれば、分散媒2bも親水性にすることが好ましく、この場合は水などの極性の高いものを主成分とする場合が多い。
【0019】
分散剤としては、例えば、アニオン性、あるいは非イオン性の界面活性剤等が好ましい。
【0020】
また、吸液性基材1が疎水性であれば、分散媒2bも疎水性にすることが好ましく、この場合はベンゼンなどの非極性なものを主成分にする場合が多く、こうすることにより、吸液性基材1の内部に分散媒2bが吸収され易くなる。
【0021】
あるいはグリセリンのような保湿成分を添加すれば、温湿度などの影響を低減して、分散媒2bとして用いられる。有機溶媒2が揮発することを抑制することができる。
【0022】
シリカ粒子2aはシリカのコロイド粒子であり、分散媒2bの中で分散しやすい粒径で存在しており、分散液2に対して20重量%前後で含有されていることが好ましい。
【0023】
シリカ粒子2aは粒径が揃っていることが好ましく、これにより後工程における沈殿時に規則的な配列をさせやすくなる。
【0024】
これらの基材1と分散液2bとを接触させる。接触方法は特に制限されないが、例えば、シリカ粒子2aを含んだ分散液2は、ディスペンサーニードルやスクリーン印刷など(不図示)を用いて吸液性基材1上に塗布してもよい。
【0025】
あるいは、分散液2中に吸液性基材1を浸漬してもよく、この場合は、容器の底面に吸液性基材1を配置して、分散液2を注ぐなどしてもよい。
【0026】
図3において、矢印は、分散媒2bが吸液性基材1の中に吸収されていく様子を示すものである。
【0027】
吸液性基材1上の分散媒2bは、適度な速度で吸液性基材1中に吸収されていくとともに分散液2中のシリカ粒子2aは、吸液性基材1上に沈殿して堆積していく。
【0028】
沈殿の初期の段階では、吸液性基材1の表面の凹凸性状に合わせてシリカ粒子2aが沈殿していくため、シリカ粒子2aの配列は不規則なものとなり易くなる。
【0029】
これによりシリカ粒子2a間には隙間が確保され、沈殿が進んでシリカ粒子2aが堆積しても分散媒2bが吸液性基材1に吸収し易い。
【0030】
図4において、3はオパール、3aは第1層、3bは第2層、4はオパール装飾品である。オパール3は少なくとも第1層3aと第2層3bを有する。オパール装飾品4は少なくとも吸液性基材1とオパール3とを有し、図4のように、さらに分散媒2bが吸収されて沈殿が進めば、シリカ粒子2aの配列が不規則な第1層3a上に、シリカ粒子2aの配列が規則的な第2層3bが形成される。
【0031】
これにより、第2層3bでのブラッグ回折によるオパール調の遊色効果を呈することができる。
【0032】
このように第2層3bが形成されると、吸液性基材1が分散液2を吸収する必要がなくなり、残った分散液2を排液して乾燥すればよい。もしくは吸液性基材1が耐熱性のものであれば、加熱することでシリカ粒子2a同士を溶着させることもできる。
【0033】
もしも吸液性基材1とオパール3との密着性が悪い場合は、最後に固定液(不図示)として紫外線硬化樹脂を第2層3bの上から塗布して、これを紫外線により硬化させれば、吸液性基材1にオパール3を定着させることができる。あるいは、固定液を予め分散液2中に混合しておき、これを紫外線により硬化させても、吸液性基材1にオパール3を定着させることができる。
【0034】
以下、本発明のオパール装飾品の一実施形態について詳細に説明する。
【0035】
本発明のオパール装飾品の一実施形態は、吸液性基材と、シリカ粒子からなるシリカ層とを有するオパール装飾品であって、前記シリカ層は、前記吸液性基材上に位置し、前記シリカ粒子が少なくとも不規則な配列を有する第1層と、該第1層上に位置し、前記シリカ粒子が規則配列した第2層とを有するものである。
【0036】
これにより、吸液性基材1の表面が凹凸形状であっても、第1層3aのシリカ粒子2aにより吸液性基材1の表面を平坦化することによって、第2層3bのシリカ粒子2aがブラッグ回折可能な規則配列となるので、遊色効果を有し易くすることができる。
【0037】
また、第1層3aのシリカ粒子2a間の隙間を通り分散媒2bが吸液性基材1に適切な速度で吸収され易くなり、シリカ粒子2aを広い範囲で早期に整列させることが容易になる。
【0038】
また適切な速度で吸収されれば、吸液性基材1上で模様がにじむことを低減できる。
【0039】
例えば図5の写真のように、第1層3aの初期におけるシリカ粒子2aの表面配列状態は、不規則な配列をしている領域が多い。
【0040】
また、例えば図6の写真のように、第1層3aの形成後におけるシリカ粒子2aの表面配列状態は、不規則な配列をしている領域が部分的に存在する、あるいは、規則的配列をしている部分が複数に分かれて存在している。
【0041】
また、例えば図7の写真のように、第1層3bの形成後におけるシリカ粒子2aの表面配列状態は、規則的な配列をしている領域が多い。
【0042】
図4においては、第2層3bの表面は平坦に示されているが、仮に吸液性基材1の凹凸形状に沿った表面性状であっても、シリカ粒子2aが規則配列していれば、遊色効果を呈し易くできるものであり、この場合、乱反射することによって様々な発色を呈し易くすることもできる。
【0043】
さらに、本発明のオパール装飾品の一実施形態は、前記第1層における前記シリカ粒子の単位面積当たりの数が、14個/μm未満であり、前記第2層における前記シリカ粒子の単位面積当たりの数が、16個/μm以上であることが好ましい。
【0044】
これにより、適切な速度で分散媒2bを吸収することができ、優れた遊色効果を奏する第2層3bを得易い。
【0045】
ここでシリカ粒子2aの単位面積当たりの数は、前述の図5、6、7の写真のように、オパール3の表面もしくは断面をSEMを用いて、例えば10000倍に拡大して撮影し、任意の1μm四方の領域におけるシリカ粒子2aの個数をカウントすればよい。
【0046】
なお、部分的に観察領域に入っているシリカ粒子2aの個数については、小数点以下でカウントすればよい。
【0047】
また、第1層3aに対する第2層3bの密度の比率は、約1.14倍以上であることが好ましい。
【0048】
第1層3aと第2層3bとの間には明確な境界は必ずしも必要ではなく、例えば両者の間に中間的な密度の層があってもよく、あるいは、漸次密度が変化する層であっても構わない。
【0049】
さらに、本発明のオパール装飾品の一実施形態は、前記吸液性基材は繊維状またはポーラス状であることが好ましい。
【0050】
これにより、疎水性の材料を吸液性基材1として使用した場合であっても、毛管現象を利用することで、吸液性を確保し易くすることができる。
【0051】
さらに、本発明のオパール装飾品の一実施形態は、前記吸液性基材は紙、布、木材、樹脂およびセラミックスを含むものであることが好ましい。
【0052】
これにより、固定液を用いなくても、シリカ粒子2aがある程度固定された状態を維持することができる。
【0053】
さらに、本発明のオパール装飾品の一実施形態は、前記シリカ粒子の平均粒子径が0.2〜0.4μmであることが好ましい。
【0054】
これにより、シリカ粒子2aの安定した規則配列を形成することができる。
【0055】
シリカ粒子の平均粒子径は、前述の図5、6、7の写真のように、オパール3の表面もしくは断面をSEMを用いて、例えば10000倍に拡大して撮影し、任意の10個を測定した平均を計算すればよい。
【0056】
次に、本発明のオパール装飾品の製造方法の一実施形態について詳細に説明する。
【0057】
本発明のオパール装飾品の製造方法の一実施形態は、吸液性基材上にシリカ粒子を含むシリカ分散液を塗布してシリカ層を形成するものである。
【0058】
これにより、第1層3aのシリカ粒子2a間の隙間を通り、分散媒2bが吸液性基材1に吸収され易くなる。
【0059】
このような制御は、すなわち、吸液性基材1の表面性状、親水性等により決定される吸液性に依存するものであり、分散液2の極性に応じて最も適切な吸液速度になるような条件とすればよい。
【0060】
さらに、本発明のオパール装飾品の製造方法の一実施形態は、前記シリカ粒子を含むシリカ分散液中に固定剤を含むものである。また、本発明のオパール装飾品の製造方法の一実施形態は、前記シリカ層にさらに固定剤を含む固定液を接触させる工程を含むものである。
【0061】
これにより、吸液性基材1上でオパール3による模様が滲むことを低減できる。
【0062】
さらに、本発明のオパール装飾品の製造方法の一実施形態は、前記固定剤として紫外線硬化樹脂の前駆体を含む溶液を用いることが好ましい。
【0063】
これにより、第2層3bにおけるシリカ粒子2aの規則配列を崩すことなく、速やかに固定することができる。
【0064】
これらの吸液性基材1にオパール3による模様を施したオパール装飾品4は、各種印刷物、例えば、壁紙などの建築用材、和服などの衣類、商品のパッケージや包装紙などに幅広く使用することができる。
【符号の説明】
【0065】
1:(吸液性)基材
2:分散液
2a:分散質(シリカ粒子)
2b:分散媒
3:オパール
3a:第1層
3b:第2層
4:オパール装飾品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸液性基材と、シリカ粒子からなるシリカ層とを有するオパール装飾品であって、前記シリカ層は、前記吸液性基材上に位置し、前記シリカ粒子が少なくとも不規則な配列を有する第1層と、該第1層上に位置し、前記シリカ粒子が規則配列した第2層とを有するオパール装飾品。
【請求項2】
前記第1層における前記シリカ粒子の単位面積当たりの数が、14個/μm未満であり、前記第2層における前記シリカ粒子の単位面積当たりの数が、16個/μm以上である請求項1に記載のオパール装飾品。
【請求項3】
前記吸液性基材は繊維状またはポーラス状である請求項1または2に記載のオパール装飾品。
【請求項4】
前記吸液性基材は紙、布、木材、樹脂およびセラミックスならびにそれらの複合物を含むものである請求項1〜3のいずれかに記載のオパール装飾品。
【請求項5】
前記シリカ粒子の平均粒子径が0.2〜0.4μmである請求項1〜4のいずれかに記載のオパール装飾品。
【請求項6】
吸液性基材上にシリカ粒子を含むシリカ分散液を塗布してシリカ層を形成するオパール装飾品の製造方法。
【請求項7】
前記シリカ粒子を含むシリカ分散液中に固定剤を含む請求項6に記載のオパール装飾品の製造方法。
【請求項8】
前記シリカ層にさらに固定剤を含む固定液を接触させる工程を含む請求項6または7に記載のオパール装飾品の製造方法。
【請求項9】
前記固定剤として紫外線硬化樹脂の前駆体を含む溶液を用いる請求項8に記載のオパール装飾品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−245187(P2011−245187A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−123660(P2010−123660)
【出願日】平成22年5月31日(2010.5.31)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】