説明

オフセットインキ用添加剤、オフセットインキ用ワニス及びオフセット印刷用インキ組成物

【課題】インキの乳化適性を好適に調整し、印刷トラブルを抑制できるオフセットインキ用添加剤、オフセットインキ用ワニス及びオフセット印刷用インキ組成物を提供する。
【解決手段】アルキルフェノール及び/又は(ポリ)スチリルフェノールとホルムアルデヒド重縮合物のアルキレンオキシド付加物であることを特徴とするオフセットインキ用添加剤、これを含有するオフセットインキ用ワニス及びこれを含有するオフセット印刷用インキ組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はオフセットインキ用印刷インキに添加することでインキの乳化適性を好適に調整することができるアルキルフェノール及び/又は(ポリ)スチリルフェノールとホルムアルデヒド重縮合物のアルキレンオキシド付加物である添加剤、当該添加剤を含むオフセットインキ用ワニス並びに当該添加剤を含むオフセット印刷用インキ組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
オフセット印刷は、親油性部と親水性部によって構成される印刷版に湿し水を付着させ、親水性部に水を付着させることにより油性インキの付着を阻害させて非画線部とし、親油性部のみにインキを付着させて画線部とし、そのインキをブランケットに転写後に紙等に再度転写する印刷方式である。この方式では、必然的に湿し水と油性インキが接触し乳化状態となる。このとき、インキ中に多量に湿し水を取り込んでしまうと印刷版の親水性部を覆うべき水が不足したりして、本来非画線部となるべき部分にインキが付着したりにじんだりしてしまう問題が発生する。一方、インキ中に乳化される水が少なすぎると印刷版に付着した水を適正に除去できないという問題が起こる。また、乳化状態の安定性が低いとローラー上で水とインキが分離してしまうといった問題や、印刷の中断後、再開する際にインキ中に含まれていた水が分離してしまう問題が発生する。水の分離は、特にオフセット新聞印刷において問題となりやすい。また、乳化水量が変化したときにインキ粘度が大きく変動すると印刷状態を維持するのが困難となる。これら問題を発生させないためにはインキの乳化適性をコントロールする必要がある。
【0003】
インキの乳化適性をコントロールする方法として、アルキレンオキシド単位を有する化合物を添加する方法等が知られている(例えば、特許文献1〜4参照)。しかし、本目的のための乳化剤として従来知られている中で比較的効果の高いポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルでも十分ではなく、また、生分解により環境ホルモンの疑いのあるアルキルフェノールを生成することが知られており、これらの問題を解決する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭61−138677号公報
【特許文献2】特開平11−349880号公報
【特許文献3】特開2000−1643号公報
【特許文献4】特開2008−7592号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、インキの乳化適性を好適に調整し、印刷トラブルを抑制できるオフセットインキ用添加剤、オフセットインキ用ワニス及びオフセット印刷用インキ組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、アルキルフェノール及び/又は(ポリ)スチリルフェノールとホルムアルデヒド重縮合物のアルキレンオキシド付加物である添加剤をオフセットインキに含有させることにより、目的の乳化適性を付与することが可能であることを見出し、本発明に至った。
【0007】
すなわち、本発明は、
(1)アルキルフェノール及び/又は(ポリ)スチリルフェノールとホルムアルデヒド重縮合物のアルキレンオキシド付加物であることを特徴とするオフセットインキ用添加剤、
(2)アルキルフェノール及び/又は(ポリ)スチリルフェノールがアルキルフェノールであって、アルキルフェノールとホルムアルデヒド重縮合物のアルキレンオキシド付加物が下記一般式(1)を有する前記(1)のオフセットインキ用添加剤、
【化1】

ただし、Rはアルキル基、RはO(CHCHRO)H、Rは水素原子またはアルキル基、mは1〜100、nは0〜100を示す。
(3)上記に記載のアルキルフェノールのアルキル基の炭素数が4〜9である前記(1)又は(2)のオフセットインキ用添加剤、
(4)上記に記載のアルキルフェノールがパラ−t−オクチルフェノールである前記(3)のオフセットインキ用添加剤、
(5)アルキルフェノール及び/又は(ポリ)スチリルフェノールが(ポリ)スチリルフェノールであり、かつ(ポリ)スチリルフェノールの(ポリ)スチリル基のスチレン付加数が1〜4であって(ポリ)スチリルフェノールとホルムアルデヒド重縮合物のアルキレンオキシド付加物が下記一般式(1)を有する前記(1)のオフセットインキ用添加剤、
【化2】

(ただし、Rは(ポリ)スチリル基、RはO(CHCHRO)H、Rは水素原子またはアルキル基、mは1〜100、nは0〜100を示す。)
(6)上記に記載のアルキレンオキシドがエチレンオキシドである前記(1)〜(5)のオフセットインキ用添加剤、
(7)HLBが5以上18未満である前記(1)〜(6)のオフセットインキ用添加剤、
(8)前記(1)〜(7)のいずれかのオフセットインキ用添加剤を含むオフセットインキ用ワニス、
(9)前記(1)〜(7)のいずれかのオフセットインキ用添加剤を含有するオフセット印刷用インキ組成物、
を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明のアルキルフェノール及び/又は(ポリ)スチリルフェノールとホルムアルデヒド重縮合物のアルキレンオキシド付加物をオフセットインキ用添加剤として使用することで、印刷時に適正な乳化状態を維持させることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明で使用されるオフセットインキ用添加剤は、アルキルフェノール及び/又は(ポリ)スチリルフェノールとホルムアルデヒド重縮合物のアルキレンオキシド付加物であればよく、例えば、下記一般式で示されるようなものが好ましい。
【化3】

ただし、Rはアルキル基及び/又は(ポリ)スチリル基((ポリ)スチリル基は、スチリル基及び/又はポリスチリル基として略したものである。)、RはO(CHCHRO)H、Rは水素原子またはアルキル基、mは1〜100、nは0〜100を示す。
入手の容易性及び効果の点から、Rは炭素数4、8若しくは9のアルキル基又は平均の付加数が4個以下の(ポリ)スチリル基が好ましく、Rは水素原子又はメチル基が好ましい。また、入手の容易性及び取り扱いやすさの観点から、nは0〜10が好ましく、0〜5が特に好ましく、mは1〜80が好ましく、1〜50が特に好ましく、1〜25が更に好ましい。ここで、nおよびmは基本的には整数であるが化合物として分布を有する場合などには、整数でないことがあり、平均値として表示する。
【0010】
本発明で使用されるアルキルフェノール及び/又は(ポリ)スチリルフェノールとホルムアルデヒド重縮合物のアルキレンオキシド付加物のHLBは式1と定義したものである。
【0011】
式1
HLB=付加させたアルキレンオキシドの重量/全重量×20
【0012】
このとき、HLBは5〜18が好ましい。また、乳化水量が不足するインキに添加し、乳化水量を増やしたい場合にはHLBが6〜15が特に好ましく、乳化水量が多すぎて乳化を抑制したい場合にはHLBが9〜17が特に好ましい。
【0013】
本発明で使用されるアルキルフェノール及び/又は(ポリ)スチリルフェノールとホルムアルデヒド重縮合物のアルキレンオキシド付加物は市販のものを使用できる。
【0014】
本発明のアルキルフェノール及び/又は(ポリ)スチリルフェノールとホルムアルデヒド重縮合物のアルキレンオキシド付加物のインキ中の含有量は、インキに対し0.01質量%〜5質量%が好ましく、0.03質量%〜3質量%がより好ましい。0.01質量%より少ないと効果が十分に発揮されない場合があり、5質量%を超えると乳化適性のコントロールがうまくいかない場合がある。
【0015】
本発明のオフセットインキ組成物は本発明のオフセットインキ用添加剤、バインダー樹脂、溶剤、植物油、顔料以外に、乾燥促進剤(ドライヤー)や乾燥抑制剤等からなる。
【0016】
前記の顔料としては、有機又は無機顔料が使用できる。例えば、酸化チタン、硫酸バリウム、酸性カーボンブラック、中性カーボンブラック、アゾ顔料、レーキ顔料、フタロシアニン顔料、イソインドリン顔料、アンントラキノン顔料、キナクリドン顔料などが挙げられる。オフセットインキ組成物に含まれる顔料の含有率は10〜30質量%が好ましい。10質量%未満では着色が不十分となることがあり、30質量%を越えると顔料の凝集を抑制することが困難となる結果、インキ流動性が不十分となることがある。また、必要に応じ炭酸カルシウム等の体質顔料を使用することもできる。体質顔料の含有率は15質量%未満が好ましい。15質量%以上ではインキ流動性、粘弾性等に悪影響を与えることがある。
【0017】
前記のバインダー樹脂としてはロジン変性フェノール樹脂、石油樹脂変性フェノール樹脂、石油樹脂、アルキッド樹脂、および、それらの油変性樹脂が挙げられる。
【0018】
前記のロジン変性フェノール樹脂とは、ロジンに、多価アルコール、アルキルフェノール、アルデヒド、必要に応じて石油樹脂を重縮合したものである。
【0019】
前記のロジンとしては、ガムロジン、トール油ロジン、ウッドロジン等のロジン、及び水添ロジン、重合ロジン、不均化ロジン等が挙げられる。また、必要に応じてそれらを無水マレイン酸、フマル酸、アクリル酸等のα−β不飽和カルボン酸類にて強化したものでもよい。
【0020】
前記の重合ロジンとはロジンを硫酸等の触媒により重合したロジンであり、二量体のほか単量体、三量体以上の多量体も含む混合物である。
【0021】
前記の水添ロジンとはロジンを水添することにより、不飽和結合を飽和させたものである。
【0022】
前記の不均化ロジンとはロジンを加熱等により分子間で水素を移動させ、一方の分子の不飽和結合を飽和させると同時にもう一方の飽和結合を不飽和化したものである。
【0023】
前記の多価アルコールとしてはエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、ノナンジオール、ネオペンチルグリコール等の2価アルコール、グリセリン、ジグリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ジトリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ソルビトール等の3価以上のアルコール類等が挙げられる。これらは単独で用いても良いし併用しても良い。これらの中でも樹脂の分子量、融点等を適正に調整する目的としてはグリセリン及び/又はペンタエリスリトールが好ましい。多価アルコール類の使用量は、使用するロジンの酸基に対して水酸基が50mol%から250mol%となる量が好ましい。50mol%未満では十分に重合を進めることが困難であり、250mol%を越えると、製造した樹脂の親水性が高くなりすぎることがある。
【0024】
前記のアルキルフェノールとしてはクレゾール、アミルフェノール、ビスフェノールA、パラブチルフェノール、パラオクチルフェノール、パラノニルフェノール、パラドデシルフェノール、ジブチルフェノール、ジメチルフェノール等が使用できる。これらは単独で用いても良いし併用してもよい。市場価格、入手の容易性、バインダー樹脂の性能の観点からパラブチルフェノール、パラオクチルフェノール、パラノニルフェノールが特に好ましい。
【0025】
前記のアルデヒドとしては、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、トリオキサン等のホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド等が使用できる。中でも反応性等の観点からホルムアルデヒドが特に好ましい。
【0026】
重縮合は必要に応じて段階を追って行うことができる。例えば、アルキルフェノールとアルデヒドを予め塩基性触媒存在下で反応させて製造したレゾール及び/又はアルキルフェノールとアルデヒドを予め酸性触媒存在下で反応後さらにアルデヒドと塩基性触媒存在下で反応させて製造したノボラックレゾールをロジンと反応させ、次いで多価アルコールと反応させて製造することもできる。また、ロジンと多価アルコールとを反応させたロジンエステルを予め製造し、アルキルフェノールとアルデヒドを塩基性触媒存在下で反応させたレゾール及び/又はアルキルフェノールとアルデヒドを予め酸性触媒存在下で反応後さらにアルデヒドと塩基性触媒下で反応させて製造したノボラックレゾールをロジンエステルと反応させて製造することもできる。ロジンとアルキルフェノールとアルデヒドを混合して反応させ、次いで多価アルコールと反応させることもできる。
【0027】
前記の予め製造するレゾールまたはノボラックレゾールに使用する塩基性触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、酸化亜鉛等の金属触媒類、アンモニア、メチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン等のアルキルアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミン等が挙げられる。また、ノボラックレゾールに使用される酸性触媒としてはパラトルエンスルホン酸等が挙げられる。
【0028】
ロジン変性フェノール樹脂においてレゾール及び/又はノボラックレゾールの使用比率は15質量%から60質量%が好ましく、25質量%から50質量%が特に好ましい。15質量%未満では樹脂の分子量が低くなり、バインダー樹脂として使用した際に粘性が不足したり印刷時のミスチングを誘発したりすることがある。60質量%を越えるとバインダー樹脂と溶剤との親和性が著しく上昇し、印刷時の乾燥が遅くなりすぎることがある。
【0029】
石油樹脂変性フェノール樹脂とは、アルキルフェノールとアルデヒドを予め塩基性触媒存在下で反応させて製造したレゾール及び/又はアルキルフェノールとアルデヒドを予め酸性触媒存在下で反応後さらにアルデヒドと塩基性触媒存在下で反応させて製造したノボラックレゾールと石油樹脂、必要に応じてロジン及び/又はロジンエステルとを反応させたものである。
【0030】
石油樹脂変性フェノール樹脂においてレゾール及び/又はノボラックレゾールの使用比率は10質量%から70質量%が好ましく、15質量%から60質量%が特に好ましい。10質量%未満では樹脂の分子量が低くなり、バインダー樹脂として使用した際に、粘性が不足したり印刷時のミスチングを誘発したりすることがある。70質量%を越えるとバインダー樹脂と溶剤の親和性が著しく上昇し、印刷時の乾燥が遅くなりすぎることがある。
【0031】
ロジン変性フェノール樹脂や石油樹脂変性フェノール樹脂の製造は無溶剤下で行ってもよいし、必要に応じてオフセットインキ用に用いられる植物油類や溶剤類を反応溶剤として使用してもよい。反応溶剤中で行うと、溶剤を使用しなければ溶融粘度が高くなりすぎて製造できない組成の樹脂を製造することが可能である。この場合、植物油類や溶剤類の樹脂溶液、即ちワニスとして得られ、溶解工程を経ることなくオフセットインキ調製に供することができる。
【0032】
石油樹脂とはナフサクラッカーから生成するC5留分、C9留分やシクロペンタジエン類及びそのダイマー等が原料の重合物である。原料は必要な性状を得るために適宜混合して使用される。重合方法は熱重合とカチオン重合がよく知られているが、いずれの重合方法で製造した石油樹脂でも構わない。ロジン変性フェノール樹脂の原料、石油樹脂変性フェノール樹脂の原料として使用する石油樹脂は二重結合を含むものが好ましい。二重結合を含む石油樹脂としてはC5留分及び/又はシクロペンタジエン類及び/又はそのダイマーを原料の一部として使用したものが挙げられる。この場合C5留分及び/又はシクロペンタジエン類及び/又はそのダイマーは合計で10質量%以上含有することが好ましい。10質量%未満の場合には反応性が悪いことがある。ロジン変性フェノール樹脂の原料、石油樹脂変性フェノール樹脂の原料として使用せず、バインダー樹脂として使用する場合には、必ずしも二重結合を含む必要は無い。したがってC5留分及び/またはシクロペンタジエン類及び/またはそのダイマーは10質量%未満でも構わないし、石油樹脂を水添し二重結合、芳香族を飽和させた水添石油樹脂も好適に使用できる。
【0033】
アルキッド樹脂とは、動植物油などの油脂、多価アルコール、多塩基酸等を反応させた樹脂である。必要に応じて、モノエステル、樹脂酸、石油樹脂等を併用したものもある。バインダー樹脂として好適に用いることのできるアルキッド樹脂であればいずれのアルキッド樹脂を含有しても構わない。
【0034】
前記の植物油としてはアマニ油、桐油、大豆油、サフラワー油、綿実油、脱水ひまし油、カノーラ油、再生植物油の植物油及びそれら植物油脂肪酸のメチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、ブチルエステル等の植物油脂肪酸モノエステル等が挙げられる。
【0035】
本発明のオフセットインキ組成物に含まれる溶剤としては、n−パラフィン系溶剤、イソパラフィン系溶剤、ナフテン系溶剤、芳香族系溶剤、オレフィン系溶剤等の石油系溶剤、軽油、スピンドル油、マシン油、シリンダー油、テレピン油、ミネラルスピリット等が挙げられる。
【0036】
本発明のオフセットインキ組成物に含まれるバインダー樹脂は、一度植物油及び/又は溶剤に溶解し、必要に応じて2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール等の酸化防止剤を添加したり、植物油及び/又は溶剤で希釈したり、アルミキレート等のゲル化剤で粘度調整したワニスとしてオフセットインキ製造に供される。前述の通り、樹脂を植物油及び/又は溶剤中で製造し、ワニスを得る方法で製造した場合はそのまま、あるいは、粘弾性調整の後にオフセットインキ製造に供することができる。ワニス中の樹脂類の比率は、30質量%から65質量%が好ましく、35質量%から55質量%が特に好ましい。30質量%未満ではワニス粘度が低くなりすぎるため顔料分散に使用する際に分散しにくくなることがあり、65質量%を越えるとワニス粘度が高くなりすぎ、取り扱いが困難となることがある。
【0037】
本発明のオフセットインキ組成物に含まれるバインダー樹脂のオフセットインキ中の含有率は、10質量%以上50質量%以下が好ましく、15質量%以上40質量%以下が更に好ましい。10質量%未満ではインキの粘性が十分でないと同時に顔料分散を安定化できず凝集させてしまうなどの問題が発生する。50質量%を越えるとインキ粘度が高くなりすぎることがある。
【0038】
本発明のオフセットインキ組成物に含まれる植物油及び/又は溶剤のオフセットインキ中の含有率は、その他の組成物を除いた全量である。植物油と溶剤の使用比率は目的に応じて変えてよい。例えば、溶剤を含まないことを特長とするノンVOCインキの場合は溶剤を含有せず植物油のみを使用する。例えば、熱風乾燥を行うオフセット輪転印刷用インキの場合は、植物油類の使用量を減らし溶剤類を多く使用する。昨今、環境対応型インキとして大豆油インキが脚光を浴びており、オフセット輪転印刷用インキにおいても大豆油等を含有するものが多い。
【0039】
本発明のオフセットインキ組成物に必要に応じて含まれる乾燥促進剤(ドライヤー)としては、コバルト、マンガン、鉛、鉄、亜鉛等の金属とオクチル酸、ナフテン酸、ネオデカン酸等のカルボン酸との塩である金属石鹸類等が使用可能である。
【0040】
本発明のオフセットインキ組成物に必要に応じて含まれる乾燥抑制剤としては、ハイドロキノン、メトキノン、tert−ブチルハイドロキノンなどが使用可能である。
【0041】
本発明のオフセットインキ用添加剤は、インキに均一に混合できればインキ製造においてどの段階で添加しても構わない。インキ製造の最終段階で添加しても良いし、予めワニス製造の段階で添加しても構わない。また、使用する他の樹脂に添加しておき、それをワニスにして使用することも可能である。
【実施例】
【0042】
以下、実施例及び比較例を提示して本発明をさらに具体的に説明するが、これら実施例は本発明を限定するものではない。なお、製造例、実施例及び比較例で示す「部」及び「%」は、質量部及び質量%を意味する。
【0043】
ワニスに用いるロジンエステルの製造例1(ロジンエステルAの製造)
攪拌機、リービッヒ冷却器、温度計付きセパラブルフラスコに、ロジン4000部を仕込んで加熱溶解し、180℃で無水マレイン酸120部を添加して220℃まで2時間かけて昇温した。その後、ペンタエリスリトールを435部、酸化亜鉛を25部添加し、275℃まで4時間かけて昇温後保温した。適時サンプリングして酸価を測定し、25mgKOH/gに達した時点で60hPaで2時間減圧してロジンエステルAを得た。
【0044】
ワニスに用いるロジンエステルの製造例2(ロジンエステルBの製造)
攪拌機、リービッヒ冷却器、温度計付きセパラブルフラスコに、ロジン4000部を仕込んで加熱溶解し、180℃で無水マレイン酸120部を添加して220℃まで2時間かけて昇温した。その後、ペンタエリスリトールを290部、グリセリンを132部、水酸化カルシウムを26.4部添加し、275℃まで4時間かけて昇温後保温した。適時サンプリングして酸価を測定し、25mgKOH/gに達した時点で60hPaで2時間減圧してロジンエステルBを得た。
【0045】
ワニスに用いるレゾール溶液の製造例1(レゾール溶液Aの製造)
攪拌機、還流冷却器、温度計付きセパラブルフラスコに、パラオクチルフェノール2330部、有効分92%のパラホルムアルデヒド722部、AFソルベント7号(新日本石油株式会社製)830部を仕込んで加熱しパラオクチルフェノールを溶解した。その後75℃で48%水酸化ナトリウム水溶液を11.6部添加し、発熱反応で昇温するため適宜調整しながら95℃に昇温し3時間保持した。AFソルベント7号を830部添加、混合してレゾール溶液Aを得た。
【0046】
ワニスに用いるレゾール溶液の製造例2(レゾール溶液Bの製造)
AFソルベント7号をトルエンに変更した以外はレゾール溶液Aと同様にしてレゾール溶液Bを得た。
【0047】
ワニスの製造例1(ワニスAの製造)
攪拌機、リービッヒ冷却器、温度計付きセパラブルフラスコに、ロジンエステルA 800部、大豆油242部、AFソルベント7号451部を添加し、窒素下にて加熱溶解した。その後、220℃に保温しながらレゾール溶液A 840部を2時間かけて滴下投入した。投入終了2時間後、300hPaで30分減圧した。窒素で常圧に戻した後、得られた溶液を別のフラスコに1743部取り出し、次いでAFソルベント7号527部を添加した。130℃にし2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール6.8部、ケロープEP−12−10(アルミキレート。ホープ製薬製)をAFソルベント7号で3.6倍希釈したものを36部添加し、160℃まで30分かけて昇温後1時間保温し100℃まで冷却して取り出しワニスAを得た。
【0048】
ワニスの製造例2(ワニスBの製造)
攪拌機、リービッヒ冷却器、温度計付きセパラブルフラスコに、ロジンエステルA 800部、大豆油242部、AFソルベント7号451部を添加し、窒素下にて加熱溶解した。その後、220℃に保温しながらレゾール溶液A 840部を2時間かけて滴下投入した。投入終了2時間後、300hPaで30分減圧した。窒素で常圧に戻した後、得られた溶液を別のフラスコに1743部取り出し、次いでAFソルベント7号487部を添加した。130℃にし2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール6.8部、ケロープEP−12−10(ホープ製薬製)をAFソルベント7号で3.6倍希釈したものを36部添加し、160℃まで30分かけて昇温後1時間保温し120℃まで冷却し、HLBが10のパラ−t−オクチルフェノールホルムアルデヒド重縮合物のエチレンオキシド付加物を39部添加して取り出しワニスBを得た。
【0049】
ワニスの製造例3(ワニスCの製造)
HLBが10のパラ−t−オクチルフェノールホルムアルデヒド重縮合物のエチレンオキシド付加物を添加する代わりにHLBが16のパラ−t−オクチルフェノールホルムアルデヒド重縮合物のエチレンオキシド付加物を添加すること以外はワニスBと同様にしてワニスCを得た。
【0050】
ワニスの製造例4(ワニスDの製造)
攪拌機、リービッヒ冷却器、温度計付きセパラブルフラスコに、ロジンエステルB 950部を仕込み窒素下にて230℃まで昇温、溶解した。保温しながらレゾール溶液B 214部を1時間かけて添加し、1時間保温した。次いで大豆油443部、AFソルベント7号831部を添加した。添加によって温度が下がった後、再び230℃まで昇温し、レゾール溶液B 427部を1時間30分かけて添加した。投入終了2時間後、300hPaで30分減圧した。窒素で常圧に戻した後、別のフラスコに2005部とりだして、AFソルベント7号91部、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール6.3部を添加し130℃まで冷却した。B−50(アルミキレート。ホープ製薬製)を30部添加して30分で160℃まで昇温し1時間保持した後130℃まで冷却しワニスDを得た。
【0051】
ワニスの製造例5(ワニスEの製造)
攪拌機、リービッヒ冷却器、温度計付きセパラブルフラスコに、ロジンエステルB950部を仕込み窒素下にて230℃まで昇温、溶解した。保温しながらレゾール溶液B 214部を1時間かけて添加し、1時間保温した。次いで大豆油443部、AFソルベント7号831部を添加した。添加によって温度が下がった後、再び230℃まで昇温し、レゾール溶液B 427部を1時間30分かけて添加した。投入終了2時間後、300hPaで30分減圧した。窒素で常圧に戻した後、別のフラスコに2005部とりだして、AFソルベント7号55部、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール6.3部を添加し130℃まで冷却した。B−50(ホープ製薬製)を30部添加して30分で160℃まで昇温し1時間保持した後130℃まで冷却し、HLBが10のパラ−t−オクチルフェノールホルムアルデヒド重縮合物のエチレンオキシド付加物を36.2部添加してワニスEを得た。
【0052】
実施例1(インキの調製)
ワニスA 71質量部、顔料(カーボンブラックMA−7,三菱化学株式会社製) 18質量部、溶剤(AFソルベント7号,新日本石油株式会社製) 20質量部及びオフセットインキ用添加剤(パラ−t−オクチルフェノール/ホルムアルデヒド重縮合物のエチレンオキシド付加物) 0.8質量部を表1のように配合し、配合物を三本ロールミルで練肉して印刷インキを得た。
【0053】
実施例2〜11(インキの調製)
ワニス及びオフセットインキ用添加剤の種類、使用量を表1のように変える以外は実施例1と同様にして印刷インキを得た。
【0054】
比較例1(インキの調製)
オフセットインキ用添加剤を用いなかったこと以外は実施例4と同様にして印刷インキを得た。
【0055】
比較例2(インキの調製)
オフセットインキ用添加剤を用いなかったこと以外は実施例10と同様にして印刷インキを得た。
【0056】
比較例3(インキの調製)
実施例1のオフセットインキ用添加剤をパラ−t−オクチルフェノールのエチレンオキシド付加物に変えたこと以外は実施例1と同様にして印刷インキを得た。
【0057】
比較例4(インキの調製)
実施例8のオフセットインキ用添加剤をパラ−t−オクチルフェノールのエチレンオキシド付加物を変えたこと以外は実施例8と同様にして印刷インキを得た。
【0058】
【表1】

【0059】
なお、表1中のオフセットインキ用添加剤の種類Ocはパラ−t−オクチルフェノール/ホルムアルデヒド重縮合物のエチレンオキシド付加物を、Stはパラ−ポリスチリルフェノール/ホルムアルデヒド重縮合物のエチレンオキシド付加物を、比較はパラ−t−オクチルフェノールのエチレンオキシド付加物を示す。また、表1中に記載の部数は質量部であり、表1中にカッコ付きで示したオフセットインキ用添加剤の部数はあらかじめワニスに混合したものをインキ中の質量部に換算した値である。
【0060】
印刷インキの乳化適性試験
印刷インキの乳化適性試験はリソトロニック乳化試験機(novocontrol社製)を使用し、下記の条件で行った。
インキ量 25g
温度 40℃
水の添加速度 2ml/分
撹拌速度 1200rpm
水添加開始前のコンディショニング 5分
撹拌翼とカップのギャップ 1mm
リソロトニック乳化試験機は、一定量のインキを測定用のカップに入れて、同装置の撹拌翼で撹拌しながら、一定速度で水を加えていったときの撹拌翼にかかるトルクを経時的に測定する装置である。
カップに入れたインキに水を添加していくと、添加開始直後はトルクが低下する現象がみられる。このときのトルクの最小値をTminとする。その後、水の添加量が増えるに従ってトルクも上昇していく。トルクが単調に増加して最大値に至り一気に低下する場合と、トルクが極大値をもちその後徐々に低下していく場合があるが、いずれの場合も添加した水がインキに混合されなくなりトルクが低下したり不安定となったりした時点の乳化率を最大乳化率とする。最大乳化率は下式で示す。
最大乳化率(%)=水の添加量/インキ量×100
このときトルクの最大値または極大値をTmaxとする。水を添加することによるトルク変化が小さいものが、印刷機における変化が小さいことを示すため好ましい。以下の式で示されるトルク比をこの変化の目安とする。
トルク比=Tmax/Tmin
トルク比が2以下であることが好ましい。表2の判定欄に2以下であるものに○、2を超えるものに×を記載した。
【0061】
乳化水量の測定を同じ装置、条件にて30%まで水を添加して停止させて調整した乳化インキをスライドガラスに少量のせてカバーガラスを押し当て、光学顕微鏡で水分散状態を観察した。粒子が細かく均一なものを良好と判断した。結果を表2に、均一である場合○、そうでない場合に×として示した。
【0062】
【表2】

【0063】
表2に示す結果から明らかなように、アルキルフェノール及び/又は(ポリ)スチリルフェノールとホルムアルデヒド重縮合物のアルキレンオキシド付加物を含む印刷インキ(実施例)は、乳化率変化に対するトルク比が小さく、かつ、乳化状態も均一であるという良好な乳化適性を示した。しかし、アルキルフェノール及び/又は(ポリ)スチリルフェノールとホルムアルデヒド重縮合物のアルキレンオキシド付加物を含まない印刷インキまたはアルキルフェノール及び/又は(ポリ)スチリルフェノールとホルムアルデヒド重縮合物のアルキレンオキシド付加物の代わりにパラ−オクチルフェノールのエチレンオキシド付加物を含む印刷インキ(比較例)は、乳化状態が不均一であったり乳化率変化に対するトルク比が大きい結果であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルキルフェノール及び/又は(ポリ)スチリルフェノールとホルムアルデヒド重縮合物のアルキレンオキシド付加物であることを特徴とするオフセットインキ用添加剤。
【請求項2】
アルキルフェノール及び/又は(ポリ)スチリルフェノールがアルキルフェノールであって、アルキルフェノールとホルムアルデヒド重縮合物のアルキレンオキシド付加物が下記一般式(1)を有することを特徴とする請求項1に記載のオフセットインキ用添加剤。
【化1】

ただし、Rはアルキル基、RはO(CHCHRO)H、Rは水素原子またはアルキル基、mは1〜100、nは0〜100を示す。
【請求項3】
上記に記載のアルキルフェノールのアルキル基の炭素数が4〜9であることを特徴とする請求項1又は2に記載のオフセットインキ用添加剤。
【請求項4】
上記に記載のアルキルフェノールがパラ−t−オクチルフェノールであることを特徴とする請求項3に記載のオフセットインキ用添加剤。
【請求項5】
アルキルフェノール及び/又は(ポリ)スチリルフェノールが(ポリ)スチリルフェノールであり、かつ(ポリ)スチリルフェノールの(ポリ)スチリル基のスチレン付加数が1〜4であって(ポリ)スチリルフェノールとホルムアルデヒド重縮合物のアルキレンオキシド付加物が下記一般式(1)を有することを特徴とする請求項1に記載のオフセットインキ用添加剤。
【化2】

ただし、Rは(ポリ)スチリル基、RはO(CHCHRO)H、Rは水素原子またはアルキル基、mは1〜100、nは0〜100を示す。
【請求項6】
上記に記載のアルキレンオキシドがエチレンオキシドであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のオフセットインキ用添加剤。
【請求項7】
HLBが5以上18未満であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のオフセットインキ用添加剤。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のオフセットインキ用添加剤を含むことを特徴とするオフセットインキ用ワニス。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれかに記載のオフセットインキ用添加剤を含有することを特徴とするオフセット印刷用インキ組成物。

【公開番号】特開2011−93976(P2011−93976A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−247506(P2009−247506)
【出願日】平成21年10月28日(2009.10.28)
【出願人】(000109635)星光PMC株式会社 (102)
【Fターム(参考)】