説明

オフセット印刷方式で印刷された抗菌性を有する商業印刷物

【課題】 紙基材の種類に関係なく、オフセット印刷方式で印刷された抗菌性を有する商業印刷物およびその製造方法を提供することである。
【解決手段】 紙基材の表面にオフセット印刷方式で絵柄印刷層と該絵柄印刷層を設けた面全面にオーバープリント層が順次積層され、前記オーバープリント層が前記絵柄印刷層側から第1透明オフセットインキ層と抗菌剤を含有する第2透明オフセットインキ層の2層からなることを特徴とするオフセット印刷方式で印刷された抗菌性を有する商業印刷物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オフセット印刷方式で印刷される商業印刷物等に関し、特に、抗菌性を有する商業印刷物等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、紙基材にオフセット印刷方式で印刷される雑誌、冊子、カタログ、ちらし、カレンダーなどの商業印刷物は、大腸菌等の細菌が付着しやすく、また、繁殖しやすいために、衛生上好ましいものではなく、大腸菌等の細菌の繁殖を阻止でき、常に清潔な状態で使用できる商業印刷物が求められていた。
【0003】
上記要望に対する一つの方法としては、紙基材自体を抗菌処理するものであるが、商業印刷物の場合、紙基材の表面が印刷インキで被覆されるために、抗菌剤がストレートに効かないという問題があった。
【0004】
この問題を解決するものとして、オフセット印刷物の印刷面に水で溶かした抗菌剤塗膜層を形成する抗菌処理方法が提案されている(たとえば、特許文献1参照)。この方法で形成された抗菌剤塗膜層は乾燥によって水が蒸発するので最終的に抗菌剤のみが印刷面の上に付着するものであり、印刷面に抗菌剤が固定(固着)されているものではないので、オフセット印刷物から抗菌剤が人手等で触られることにより取り除かれて時系列的に抗菌効果が低下してくることは否めないものである。
【0005】
そこで、特許文献1の問題を解決する手段として、オフセット印刷物においては、耐摩耗性の付与や意匠面からグロス調やマット調の付与のために、紙基材上に文字や絵柄がオフセット印刷形成された後に、その表面にOP(オーバープリント)ニス層が設けられることが一般的であり、このOPニス層を抗菌剤を添加したOPニスワニスを用いてオフセット印刷形成して抗菌剤を含有した層とすることで、人手等で触られても時系列的に抗菌効果が低下しないオフセット印刷物とすることができるものと考え、紙基材として90kg(四六判)の上質紙、グロスコート紙、マットコート紙の3種類について、階調版(網点濃度100%から0%まで連続的変化する版)を用いてオフセット印刷(墨1色印刷)を行い、さらに、前記オフセット印刷(墨1色印刷)を施した面全面にOPニス版(ベタ版)を用いて抗菌剤を含有したOPニスをオフセット印刷したオフセット印刷物を作製した。このオフセット印刷物は紙基材の種類が異なるだけで、その他は同じ条件でオフセット印刷したにもかかわらず、表1に示すように抗菌活性値〔JISZ2801(抗菌性試験)に基いて測定〕が紙基材の種類により抗菌効果があるもの(抗菌活性値≧2)とないもの(抗菌活性値<2)とに区分けされる結果となった。
【0006】
【表1】

【0007】
そこで、抗菌活性値が紙基材の種類により異なる結果について種々検討し、前記階調版に代えて網点濃度100%のベタ版でオフセット印刷(墨1色印刷)を施した面全面にOPニス版(ベタ版)を用いて抗菌剤を含有したOPニスをオフセット印刷したオフセット印刷物を作製した結果、表2に示す結果となり、紙基材の種類に関係なく抗菌効果がある(抗菌活性値≧2)印刷物とすることができ、抗菌剤を含有したOPニス層を設ける紙基材表面をオフセット印刷インキで、商業印刷物として流通する紙面となる紙基材表面をオフセット印刷インキで紙面が露出しないように完全に被覆することにより紙基材の種類に関係なく抗菌効果を発揮させることができることを見出して本発明を完成させたものである。
【0008】
【表2】

【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3030310号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで本発明は、紙基材の種類に関係なく、オフセット印刷方式で印刷された抗菌性を有する商業印刷物およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決するために、請求項1記載の本発明のオフセット印刷方式で印刷された抗菌性を有する商業印刷物は、紙基材の表面にオフセット印刷方式で絵柄印刷層と該絵柄印刷層を設けた面全面にオーバープリント層が順次積層され、前記オーバープリント層が前記絵柄印刷層側から第1透明オフセットインキ層と抗菌剤を含有する第2透明オフセットインキ層の2層からなることを特徴とするものである。
【0012】
また、請求項2記載のオフセット印刷方式で印刷された抗菌性を有する商業印刷物の製造方法は、紙基材の表面にオフセット印刷方式で絵柄印刷層を形成すると共に乾燥する工程と、前記絵柄印刷層面全面にオフセット印刷方式で第1透明オフセットインキ層と抗菌剤を含有する第2透明オフセットインキ層とを連続して積層してオーバープリント層を形成すると共に乾燥する工程とからなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
第1透明オフセットインキ層と第2透明オフセットインキ層とからなるオーバープリント層を絵柄印刷層を設けた面全面に、すなわち、商業印刷物として流通する紙面となる紙基材表面が露出することなく第1透明オフセットインキ層で被覆されるように絵柄印刷層を設けた面全面に設け、さらに前記第1透明オフセットインキ層を被覆するように前記第2透明オフセットインキ層を設けることにより、紙基材の種類に関係することなく、抗菌性を有する商業印刷物とすることができるし、また、生産性よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明にかかるオフセット印刷方式で印刷された抗菌性を有する商業印刷物の基本的な層構成を図解的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
上記の本発明について、図面等を用いて以下に詳しく説明する。
図1は本発明にかかるオフセット印刷方式で印刷された抗菌性を有する商業印刷物の基本的な層構成を図解的に示す図であって、商業印刷物1は紙基材10の一方の面に絵柄印刷層11と前記絵柄印刷層11面全面に第1透明オフセットインキ層12と抗菌剤を含有する第2透明オフセットインキ層13とからなるオーバープリント層2がオフセット印刷方式で形成されたものである。このように構成した商業印刷物1は、第2透明オフセットインキ層13に抗菌剤が均一に分散した状態で含有されていることと、紙基材10自体が露出しないように第1透明オフセットインキ層11により紙基材10自体の露出部が被覆されていることにより、抗菌活性値を抗菌効果を有するとされる2以上に保持することができると共に、人手等で触られても抗菌剤が取り除かれることがなく、結果として抗菌効果を長く保持することができる商業印刷物1とすることができる。
【0016】
前記紙基材10としては、オフセット印刷が可能な紙、斤量であれば、何等制限されることなく用いることができるし、また、前記絵柄印刷層11、前記第1透明オフセットインキ層12および前記第2透明オフセットインキ層を形成するインキは顔料が添加された周知慣用の酸化重合タイプのオフセットインキやOPニスを用いることができる。また、抗菌剤としては、銀などの金属やベンザルコニウム、セチルピリジニウムなどの有機系化合物をインターカレート(イオン交換)したものなどを挙げることができる。
【0017】
次に、本発明について、以下に各種構成のオフセット印刷物を挙げてさらに詳しく説明する。
最初に、絵柄印刷層を形成するオフセットインキとしてはNSSOYBI〔ザ・インクテック(株)製:墨インキ〕、第1透明オフセットインキ層を形成するマットOPニスとしてはマットOPニスEX−80〔ザ・インクテック(株)〕および第2透明オフセットインキ層を形成する抗菌剤含有マットOPニスとしてはマットOPニスEX−80〔ザ・インクテック(株)〕に抗菌剤として住友電気工業(株)製:ナノ銀分散溶液〔水:エタノール=1:1溶液中に銀を2wt%分散した溶液〕を0.3wt%添加したものを用いた。なお、背景技術において用いた墨1色印刷のインキおよび抗菌剤を含有したOPニスは上記したNSSOYBI〔ザ・インクテック(株)製:墨インキ〕および抗菌剤含有マットOPニスを用いた。
【0018】
〔テストに供するオフセット印刷物1、2、3の作製〕
紙基材として上質紙(四六判90kg)、マットコート紙(四六判90kg)、グロスコート紙(四六判90kg)のぞれぞれの一方の面にベタ版で上記した第1透明オフセットインキ層を形成した印刷物〔上質紙/第1透明オフセットインキ層(オフセット印刷物1と呼称する)、マットコート紙/第1透明オフセットインキ層(オフセット印刷物2と呼称する)、グロスコート紙/第1透明オフセットインキ層(オフセット印刷物3と呼称する)〕を作製した。
【0019】
〔テストに供するオフセット印刷物1’、2’、3’の作製〕
紙基材として上質紙(四六判90kg)、マットコート紙(四六判90kg)、グロスコート紙(四六判90kg)のぞれぞれの一方の面にベタ版で上記した第1透明オフセットインキ層と同じくベタ版で第2透明オフセットインキ層をインラインで形成した印刷物〔上質紙/第1透明オフセットインキ層/第2透明オフセットインキ層(オフセット印刷物1’と呼称する)、マットコート紙/第1透明オフセットインキ層/第2透明オフセットインキ層(オフセット印刷物2’と呼称する)、グロスコート紙/第1透明オフセットインキ層/第2透明オフセットインキ層(オフセット印刷物3’と呼称する)〕を作製した。
【0020】
〔テストに供するオフセット印刷物1”、2”、3”の作製〕
紙基材として上質紙(四六判90kg)、マットコート紙(四六判90kg)、グロスコート紙(四六判90kg)のぞれぞれの一方の面にベタ版で上記した絵柄印刷層と同じくベタ版で第2透明オフセットインキ層をインラインで形成した印刷物〔上質紙/絵柄印刷層/第2透明オフセットインキ層(オフセット印刷物1”と呼称する)、マットコート紙/絵柄印刷層/第2透明オフセットインキ層(オフセット印刷物2”と呼称する)、グロスコート紙/絵柄印刷層/第2透明オフセットインキ層(オフセット印刷物3”と呼称する)〕を作製した。
【0021】
上記で作製したオフセット印刷物の第2オフセットインキ層を形成した面をJISZ2801(抗菌性試験)に基いてテストし、その結果を表3に纏めて示した。
【0022】
【表3】

【0023】
表3からも明らかなように、紙基材の種類に関係なく、また、絵柄印刷層においてベタ柄の有無に関係なく、紙基材表面が露出しないように第1透明オフセットインキ層で被覆し、その後に第1透明オフセットインキ層を被覆するように抗菌剤含有の第2透明オフセットインキ層を設けることにより、人手等で触られても時系列的に抗菌効果が低下しないオフセット印刷物からなる商業印刷物を提供することができる。なお、オフセット印刷物の第1、第2透明オフセットインキ層をマットOPニスを用いた例を示したが、マットOPニスに限ることなくグロスOPニスを用いても同様な結果が得られるものである。また、第2透明オフセットインキ層は耐摩耗性を向上させる目的でフッ素系〔たとえば、テフロン(登録商標)〕、ポリエチレン系等周知のワックス成分を添加した層としてもよいものである。
【符号の説明】
【0024】
1 商業印刷物
10 紙基材
11 絵柄印刷層
12 第1透明オフセットインキ層
13 第2透明オフセットインキ層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙基材の表面にオフセット印刷方式で絵柄印刷層と該絵柄印刷層を設けた面全面にオーバープリント層が順次積層され、前記オーバープリント層が前記絵柄印刷層側から第1透明オフセットインキ層と抗菌剤を含有する第2透明オフセットインキ層の2層からなることを特徴とするオフセット印刷方式で印刷された抗菌性を有する商業印刷物。
【請求項2】
紙基材の表面にオフセット印刷方式で絵柄印刷層を形成すると共に乾燥する工程と、前記絵柄印刷層面全面にオフセット印刷方式で第1透明オフセットインキ層と抗菌剤を含有する第2透明オフセットインキ層とを連続して積層してオーバープリント層を形成すると共に乾燥する工程とからなることを特徴とするオフセット印刷方式で印刷された抗菌性を有する商業印刷物の製造方法。

【図1】
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