オフセット枚葉印刷機用圧胴・渡し胴ジャケット
【課題】本発明は、印刷装置におけるオフセット枚葉両面印刷機の圧胴・渡し胴ジャケットの改良に関するものである。
【解決手段】金属製基板をエッチング法により凹凸構造を形成し、その上にシリコーン樹脂を凸部は薄く凹部は厚くかつ、凹凸構造を倣うようににコーティングしたオフセット枚葉両面印刷機用圧胴または渡し胴ジャケットおよびその製造方法である。
【解決手段】金属製基板をエッチング法により凹凸構造を形成し、その上にシリコーン樹脂を凸部は薄く凹部は厚くかつ、凹凸構造を倣うようににコーティングしたオフセット枚葉両面印刷機用圧胴または渡し胴ジャケットおよびその製造方法である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷機、特にオフセット枚葉印刷機における圧胴・渡し胴ジャケットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
圧胴・渡し胴(本明細書で記載する「渡し胴」は、圧胴間の紙渡しのみを行う印圧のかからない中間胴を含む。)に装着するジャケットに関連する従来技術としては、特許文献1に詳細に報告されており、この圧胴ジャケットの発明によって、オフセット枚葉両面印刷機が実用的に完成し、世界中の印刷機メーカーがこれを採用している。
【0003】
しかし、この圧胴ジャケットを使用しても片面印刷機の印刷品質と比較すると、先刷りした印刷面のインキが圧胴ジャケットのセラミックスの凹凸面の凸部でインキがとられて、微細なスクラッチ傷、白抜け(50倍ルーペで観察すると明らかに識別できる)が発生し、表裏の印刷品質差となるため、限りなく片面印刷の品質に近づけることが要求されている。
【0004】
このスクラッチ傷、白抜けは、一義的にはジャケット表面の粗度Rmaxにて管理され、Rmaxが大きくなるほどスクラッチ傷、白抜けも大きくなる傾向がある。目視でほとんど確認できない限界として、Rmax:40μmが上限値として規定されている。
【0005】
粗度の測定基準としては、JIS0601−1982があるが、特許文献1では測定長さについては明示されていない。しかし、セラミックス溶射皮膜の粗度は、測定長さが変わるとRmax,Rzとも大きく変化し、その変化量が圧胴ジャケットの性能に微妙に影響を与える。JIS0601−1982による粗度測定時の粗度測定長さの違いによるRmax、Rzの関係を表1に示す。
【0006】
【表1】
【0007】
特に、スクラッチ傷は、単位面積(2×2mm)当たり、1〜3個ぐらいの数でも印刷品質で問題となるが、これを粗度測定検査(Rmax)で管理しても測定長さ4mm、または12.5mmのJIS基準で検出される異常突起(上限値;Rmax40μmを超えるもの)は、確率的に非常に低く、これが印刷トラブルの大きな問題となるケースがある。
【0008】
これ等の異常突起は、セラミックス、または金属粉を溶射プロセスでコーティングする場合、溶射材の粒度分布のバラツキがあり、また、溶射皮膜の膜厚、スピッティングの発生等により、セラミックス皮膜の凸部の山の高さが一定にならないことが大きな原因である。
【0009】
一方、従来技術の特許文献1の請求項3には、「〜セラミックスの凹凸の凸部が、20μm×20μm平方ないし100μm×100μm平方当たり1ケ程度の割合で存在するものである〜」となっているが、この凸部の単位面積あたりの数が多いほど、両面印刷の先刷り面のベタ絵柄部のインキが圧胴ジャケットの凸部で取られて発生する白抜けの数が多くなるという問題があった。この凸部の山のピッチを溶射プロセスで任意にコントロール(1×1m2ぐらいのジャケット全面を均一な山ピッチでかつ、任意の距離、高さにコントロール)することは、非常に困難であった。
【0010】
またセラミックス溶射ジャケットの場合、凸部の径を小さくしようと思えば、小粒径の溶射材を使用することになるが、径を小さくすると、比例して山の高さも低くなり、小さい凸部の径でかつ高い山の凹凸を形成するのは難しい。
【0011】
加えて、セラミックス溶射ジャケットの場合、凸部の山の配置はランダムで好ましいが、山のピッチを0.1〜0.5mmぐらいの任意の大きさにかつ、広いジャケット面のどの位置でも均一なピッチで形成させるのは、極めて難しい。
【0012】
また、最表面には、低表面エネルギーのシリコーン樹脂がコーティングされているが、シリコーン樹脂は、セラミックスに比較し圧倒的に耐磨耗性が低いため、セラミックス凸部のシリコーン樹脂は短期間で磨耗する。これを防止するため、セラミックスの凹凸構造とシリコーン樹脂の複合皮膜にすることにより、紙面とセラミックスの凸部のみで接触させるようにして凹部のシリコーン樹脂磨耗を防止する工夫がされており累計印刷枚数で2000万枚という驚異的な耐刷寿命を達成している。
【0013】
しかし、このジャケットのシリコーン樹脂のコーティング膜の厚みは、凸部は薄く、凹部は厚くという表現のみで、シリコーン樹脂膜厚の測定方法については特に細かな基準は示されていない。しかも、当前記コーティング膜厚は、厚めにコーティングしても凸部の膜厚はほとんど変化しないため1/1000mm目盛のマイクロメータで測定してもほとんど変わらず、適正膜厚を管理することは非常に難しい。
【0014】
ところが、シリコーン樹脂コーティング量(凹凸表面に付着している量)の大小により、圧胴ジャケットの性能、寿命は大きく変化するという問題があった。また、従来公知化されている圧胴ジャケットの表面にコーティングする非粘着性樹脂としては、低表面エネルギー樹脂またはシリコーン樹脂等があり、特に表面エネルギーの指標で数値限定しているケースがある。
【0015】
しかし、シリコーン樹脂といってもその種類は非常に多く、各種用途毎に最適樹脂を選択している。ところが、圧胴ジャケットに効果的に適用できるシリコーン樹脂は非常に限定され、従来公知化されている知識で圧胴ジャケットを製造しても多くのシリコン樹脂ではインキ汚れが多く効果的なジャケットが作れないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開平8−12151号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
そこで、本発明の目的は、印刷機、特にオフセット枚葉両面印刷機における印刷物のスクラッチ傷および白抜けが少なく、表裏の印刷品質差を片面2回印刷(表面を印刷し、乾燥後裏面印刷する)に限りなく近づけ、かつ、紙エッジトラブルによるジャケット寿命短縮を防止し、更に安価な製造コストのジャケットを製造するための圧胴・渡し胴ジャケットおよびその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、上記課題解決のために鋭意研究行った結果、
厚さ0.2〜0.5mmの金属製基板の表面部に、エッチング法により、凸部の平均径10〜50μm、エッチング平均深さ30〜60μm、凸部の平均ピッチ0.1〜0.5mmの凹凸構造が形成された金属層と、
前記金属層の表面部の凹凸構造に倣ってコーティングされたシリコーン樹脂層と、
を有し、前記シリコーン樹脂層が硬化後の凹凸の平均深さが、15〜50μmであることを特徴とするオフセット枚葉印刷機用胴ジャケットおよびその製造方法により上記目的を達成するに到った。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、金属製基板をエッチング法により非常にシャープ(凸部の平均径が10〜50μm)でかつ山の高さ(レベル)が一定で、谷の平均深さ(エッチング深さ)30〜60μm、山の平均ピッチが0.1〜0.5mmの凹凸構造を形成し、その上にシリコーン樹脂を凸部は薄く凹部は厚く、かつ凹凸構造を倣うようにコーティングして、前記シリコーン樹脂の硬化後の凹凸の平均深さが、15〜50μmの表面プロフィールにすることにより印刷物のスクラッチ傷、白抜け、インキトラッピング不良等の印刷障害を最小にし、かつ、ジャケット汚れの少ない安定した品質を提供することができる。
【0020】
その他、シリコーン樹脂は、ガムテープ剥離力が20g以下のものを使用し、コーティング膜厚を樹脂コーティング後の凹凸深さで管理することにより、ジャケット汚れの非常に少ない(ジャケット洗浄頻度の少ない)、かつ、紙エッジによるジャケット傷で発生する印刷障害(紙エッジトラブル)を低く抑えて、ジャケット寿命を安定的に長寿命化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1A】本発明に係る圧胴・渡し胴ジャケットの実施態様における断面構造を模式的に示す図であり、
【図1B】本発明に係る圧胴・渡し胴ジャケットを模式的に示す図であり、
【図1C】本発明に係る圧胴・渡し胴ジャケットを模式的に示す図であり、
【図2A】本発明に係るエッチング後の凸部の点配列に関する碁盤目配列の図であり、
【図2B】本発明に係るエッチング後の凸部の点配列に関するランダム配列の図であり、
【図3A】本発明のエッチング後の凸部(ニードル突起)の傘状バリが残った状態を示す図であり、
【図3B】本発明のエッチング後の凸部(ニードル突起)の傘状バリ取り後の状態を示す図であり、
【図4】セラミックス溶射圧胴ジャケットの実施態様における断面構造を模式的に示す図であり、
【図5A】本発明に係る圧胴ジャケットの製造工程のエッチング後の粗度チャート(実施例1(凸部のピッチ;0.14mm))((粗度測定条件)JISB0601−1982縦倍率:500倍(20μm/10mm)横ばい率:20倍(500μm/10mm))であり、
【図5B】本発明に係る圧胴ジャケットの製造工程のエッチング後の粗度チャート(実施例2(凸部のピッチ;0.3mm))((粗度測定条件)JISB0601−1982縦倍率:500倍(20μm/10mm)横ばい率:20倍(500μm/10mm))であり、
【図6】セラミックス溶射圧胴ジャケットの粗度チャート(比較例)(粗度測定条件は、図5と同じである)であり、
【図7】印刷物のスクラッチ傷、白抜けの印刷障害を説明するためのマイクロスコープによる拡大写真の図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(オフセット枚葉印刷機用胴ジャケット)
本発明に係るオフセット枚葉印刷機用胴ジャケットの第1は、厚さ0.2〜0.5mmの金属製基板の表面部に、エッチング法により、凸部の平均径10〜50μm、エッチング平均深さ30〜60μm、凸部のピッチ0.1〜0.5mmの凹凸構造が形成された金属層と、前記表面部上の凹凸構造に倣ってコーティングされたシリコーン樹脂層と、を有し、シリコーン樹脂層が硬化後の凹凸の深さ15〜50μmである。
【0023】
本発明に係るオフセット枚葉印刷機用胴ジャケットをオフセット枚葉印刷機用圧胴ジャケットに使用する場合、前記金属製基板の表面部に、エッチング法により、凸部の平均径10〜30μm、エッチング平均深さ30〜40μm、凸部のピッチ0.1〜0.3mmの凹凸構造が、ランダムに配置されていることが好ましく、また前記表面部上の凹凸構造に倣ってコーティングされたシリコーン樹脂層は、当前記シリコーン樹脂層の硬化後の凹凸の深さは、15〜35μmであることが好ましい。
【0024】
一方、本発明に係るオフセット枚葉印刷機用胴ジャケットをオフセット枚葉印刷機用渡し胴ジャケットに使用する場合については、圧胴ジャケットと同様の製法および凹凸構造を有するが、その用途から、凸部の平均径が10〜50μm、エッチング平均深さ30〜60μm、凸部の平均ピッチ0.1〜0.5mmの凹凸構造(ランダム配列は必ずしも必要条件ではない)を有し、かつシリコーン樹脂が硬化後の凹凸の平均深さが20〜50μmであることが好ましい。
【0025】
図1は本発明に係る圧胴ジャケットおよび渡し胴の実施態様における圧胴ジャケットおよび渡し胴の断面構造を模式的に示す図であり、この図において縦横の縮尺比は誇張して描かれている。以下図1を用いて圧胴ジャケットおよび渡し胴の構造について説明する。
【0026】
本発明は、金属製基板上に多数の凸部を形成することにより凹凸構造を有する金属層1を形成した後、この凹凸構造を倣うように、すなわち凹部が埋もれないように表面部の凹凸構造に沿ってシリコーン樹脂層4でコーティングする(金属層の凹凸構造がほぼ残るように、すなわち実質的に残るようにシリコーン樹脂層をコーティングする)。
【0027】
さらに詳細に言うと、「凹凸構造を倣う」とは、最表面を形成するシリコーン樹脂層の凸部と、エッチング法により形成された金属層の凸部とが対応する場合を含む広い概念である。換言すると、「凹凸構造に倣う」場合とは、最も隣接する金属層の凸部間に、一つのシリコーン樹脂層の凹部が位置する場合である。具体的には、金属層の凸部には、シリコーン樹脂層表面の凸部が合致し、かつ金属層の凹部には、シリコーン樹脂層表面の凹部が合致することを意味する。
【0028】
したがって、「凹凸構造に倣う」場合には、金属層表面に均等な厚さでシリコーン樹脂層が形成される場合のみならず、図1(A)に示されるように、金属層の凸部の表面に比べて凹部の表面にシリコーン樹脂層が厚く形成される場合も含まれる。特に、エッチング法によって形成された金属層全体の凹凸構造が、シリコーン樹脂層の表面形状に反映されており、最表面を形成するシリコーン樹脂層の凸部の先端位置で規定される紙当り面が一定となるように、シリコーン樹脂層がコーティングされることが望ましい。
【0029】
図1B、Cは、本発明に係る圧胴・渡し胴ジャケットにおいて、「凸部の平均径」、「エッチング平均深さ」、「凸部の平均ピッチ」、「凹凸の平均深さ」、および「最隣接する金属層またはシリコーン樹脂層の凸部間において、最上面の端と端とを結ぶ距離」等の用語を明確にするため示した図である。「凸部の平均ピッチ」とは、図1B、Cで示すように11、12の長さをいうものである。即ち、ジャケットを上から拡大して見た際において(凸部の上面の形状が)、円の場合は、中心を中点として、前記中点を最隣接凸部のそれぞれで求めて、両中点を直線で結んだ長さを10つ測定した相加平均である、換言すると、最隣接間の円の中点と中点とを結んだ長さ11、12である。異形の場合は、閉じた領域上に、2本の交点が最長となる任意の直線を引き、その交点の結ぶ直線の中間を中点とする。前記中点を、最隣接凸部のそれぞれで求めて、両中点を直線で結んだ長さ11、12を複数個測定した平均値である。
【0030】
「凸部の平均径」とは、図1B、Cで示すように19、20、21の長さをいい、凸部の上面の形状が円の場合は、直径21、22をいい、凸部の上面の形状が異形の場合は閉じた領域上に、2本の交点が最長となる任意の直線を引き、その交点の結ぶ線分の長さを10つ測定した相加平均をいう。
【0031】
「凹凸の平均深さ」とは、最隣接するシリコーン樹脂層の凸部間において、シリコーン樹脂層の最上面と最下面との距離13を10つ測定した相加平均をいう。「エッチング平均深さ(単に、エッチング深さとも称する)」とは、最隣接する金属層の凸部間において、金属層の最上面と最下面との距離14を10つ測定した相加平均をいう。
【0032】
尚、本明細書では何ら記載が無い場合、「凸部の平均径」、「エッチング平均深さ」および「凸部の平均ピッチ」は、「シリコーン樹脂を被覆後の凸部の平均径」、「シリコーン樹脂を被覆後のエッチング平均深さ」および「シリコーン樹脂を被覆後の凸部の平均ピッチ」の意味ではなく、「エッチング後における金属層の凸部の平均径」、「エッチング後における金属層のエッチング平均深さ」および「エッチング後における金属層の凸部の平均ピッチ」を意味するものであり、「凹凸の平均深さ」は、何ら記載が無い場合、「シリコーン樹脂を被覆後の凹凸の平均深さ」を意味するものである。
【0033】
尚、本明細書に係るオフセット枚葉印刷機用胴ジャケットとは、オフセット枚葉印刷機に使用されている胴のうち、版胴およびブランケット胴以外の胴に被覆される被覆体(ジャケット)であり、特に、圧胴、渡し胴の被覆体として使用されることが好ましい。
【0034】
圧胴ジャケット(i)および渡し胴ジャケット(ii)の、凸部の平均径、エッチング平均深さ、凸部の最適ピッチの数値範囲および異なる理由の説明は以下の通りである。
【0035】
「圧胴ジャケット」
(i)圧胴ジャケットは、ブランケット胴と圧胴間で紙をプレスして印刷するが、圧胴ジャケットの凸部の径が大きいと先刷り面のベタ絵柄部の未乾燥インキが凸部の大きさに比例して取られて、大きい白抜けが発生する。この白抜けは、小さい程好ましいが、目視で識別できる限界は、径30μm以上である。また、凸部の平均径が小さすぎると(5μm未満だと)、紙との強い印圧及び微小なスリップにより、凸部の磨耗が早く、ジャケット寿命が短くなる。故に、凸部の平均径は10〜30μmであり、好ましくは凸部の平均径15〜25μmである。但し、凸部の径が5μm以下、及び40μm以上のものは除かれ、凸部の径が10〜30μmの集団群が好ましい。
【0036】
圧胴ジャケットの汚れを長期間にわたり防止するためには、ジャケットの凹凸の平均深さが最低20μm以上あるのが好ましい。更に、最表面にコーティングするシリコーン樹脂の耐摩耗性を維持するためには、凹部に厚めのシリコーン樹脂がコーティングできるようにエッチング深さは、30μm以上40μm以下にするのが好ましい。
【0037】
従来のようなセラミックス溶射で表面粗度Rz;30μm以上の粗度にしようとすれば、凸部の径は、30〜80μm位の大きなものが約30%超の比率で発生する。ところが、本発明のエッチング法では、凸部の径が30μm以下で、かつ、深さを30μm以上に加工できる利点がある。
【0038】
当前記エッチング平均深さが50μm超だと凸部が強度的に弱くなる傾向がある。また深さを40μm超に深くすると、凸部の径が10μm未満の山、または山が飛んでしまうものも発生し易くなり、また、コスト的にも高くなる。従って、本発明に係る圧胴ジャケットにおいては、エッチング後における金属層の深さ、すなわちエッチング平均深さは、平均20〜50μm、好ましくは、平均30〜40μmである。
【0039】
次に、凸部の山のピッチであるが、圧胴ジャケットは、先刷り印刷面と圧胴ジャケット間に高い印圧がかかるため、山のピッチが小さい程、多くの(山の数だけ)白抜けが発生する。故に、ピッチは大きくした方が白抜けの数は少なくなる。しかし、紙面を受ける点がまばらになると(ピッチが大きくなると)、後刷り面においてジャケット凸部は強い印圧がかかりブランケット胴から紙へのインキトラッピングは良好だが、凹部の個所は、印圧が低く後刷り面のインキトラッピング不良という問題が発生する。
【0040】
インキトラッピングにあまり影響しない凸部の最大ピッチは、紙厚みによっても異なるが、0.3mm以下である。一方、凸部の最小ピッチは白抜け発生率を小さくするためには0.1mm以上である。よって、圧胴ジャケットの凸部のピッチは、平均0.1〜0.3mmが好ましく、さらに好ましくは平均0.12〜0.25mmであり、最も好ましいのは0.14〜0.2mmである。
【0041】
上記のように、凸部の山のピッチは、任意に選択できるが、凸部の配列を図2Aのような規則正しい碁盤目の配列にすると、多色印刷の場合、数枚(2〜6枚)の圧胴ジャケットと印刷された面の紙が接触し、凸部でインキが取られるときの白ぬけがモアレとなって現れるという印刷障害が出易い。これを防止するためには、凸部の配列を図2Bのようなランダム配列にした方が好ましい。
【0042】
尚、単位面積1mm×1mm当たりの凸部の数は、0.1mmピッチでは100個、0.14mmピッチで50個、0.2mmピッチでは25個、0.3mmピッチでは11個となり、白抜けの個数、および印刷した全体面積に対する白抜け面積率が大きく変化する。
【0043】
本発明の製造方法では、上記ピッチの範囲(平均0.1〜0.3mm)の中で、印刷品質の要求仕様に合わせて任意の大きさにピッチを選択することが出来る。更に、エッチングによる凹凸構造を形成後、シリコーン樹脂をコーティングして樹脂が硬化後の凹凸の平均深さが15〜35μmの圧胴ジャケットにすることにより、インキ汚れがなく、印刷物のスクラッチ傷が無く、白抜けが非常に小さくて数が少なく、かつ、ジャケットの耐久性の非常に長い圧胴ジャケットを提供することが出来る。
【0044】
「渡し胴ジャケット」
(ii)一般に、渡し胴ジャケットは、圧胴部で印刷された紙を次の圧胴へ受け渡すための渡し胴に取り付けるジャケットである。渡し胴には印圧がかからず紙は渡し胴に軽くタッチするだけであるため、ジャケットの凹凸による凸部で紙面のインキが取られてベタ絵柄部の白抜けが発生する要因にはなりにくい。よって、凸部の径は圧胴ジャケットに比べて少々大きくても問題ない。また、渡し胴部では、印刷を行わないため、凸部のピッチを圧胴ジャケットより少々大きくしてもブランケット胴から紙へのインキトラッピング不良という問題は発生しない。渡し胴ジャケットの表面粗度プロフィールとして大切な要因は、紙からジャケットへのインキ汚れを極力抑えるために凹凸の高さを大きくすること、(凹凸高さが大きい程ジャケットのインキ汚れは少なく、かつ、凹部のシリコーン樹脂の磨耗も少なく、ジャケットの寿命が長くなる)、および凸部の高さを一定にすることである(渡し胴では紙がジャケット上を滑りやすいため、山頂点のレベルが一定でないと印刷物のベタ絵柄部にスクラッチ傷が発生し易い)。
【0045】
このような理由から、渡し胴ジャケットの粗度プロフィールは、凸部の平均径を10〜50μmにするのが好ましく、更に好ましくは20〜40μmである。またエッチング平均深さ30〜60μmであり、凸部の平均ピッチは0.1〜0.5mmが好ましく、さらに好ましくは0.2〜0.4mmであり、シリコーン樹脂をコーティングして樹脂が硬化後の凹凸の平均深さは20〜50μmにするのが好ましく、さらに好ましくは30〜40μmである。
【0046】
(オフセット枚葉印刷機用胴ジャケットの製造方法)
本発明に係るオフセット枚葉印刷機用胴ジャケットの製造方法の第2は、金属製基板の表面上にフォトレジスト層を形成する段階(a)と、前記金属製基板を、エッチング法により多数の凸部を残すように表面部を形成する段階(b)と、エッチング後の凸部(ニードル突起)の傘状のバリを除去する段階(c)と、前記表面部の凹凸構造に倣ってプライマー処理およびシリコーン樹脂をコーティングしてシリコーン樹脂層を形成する段階(d)と、を有し、前記コーティング後の凹凸の平均深さが15〜50μmである。
【0047】
本発明に係るオフセット枚葉印刷機用胴ジャケットの製造方法をオフセット枚葉印刷機用圧胴ジャケットの製造方法に適用する場合は、前記コーティング後の凹凸の平均深さが15〜35μmであることが好ましく、渡し胴ジャケットに適用する場合は凹凸の平均深さが20〜50μmになることが好ましい。また上記の理由などから、圧胴ジャケットの場合は、前記コーティング後の凹凸の平均深さが20〜30μmとなることがより好ましく、渡し胴ジャケットの場合は、前記コーティング後の凹凸の平均深さが30〜40μmとなることがより好ましい。
【0048】
本発明に係る圧胴ジャケットにおいて、前記金属製基板は、厚さ0.2〜0.5mmであり、前記段階(b)が前記金属製基板をエッチング法により、凸部の平均径が10〜30μm、エッチング平均深さ30〜40μm、凸部の平均ピッチ0.1〜0.3mmのランダム配列の凹凸構造の表面部に形成する製造方法が好ましい。また上記の理由などから、凸部の平均径が15〜25μmとなることがより好ましく、凸部の平均ピッチが0.12〜0.25mmとなることがより好ましい。
【0049】
本発明に係る渡し胴ジャケットにおいて、前記金属製基板は、厚さ0.2〜0.5mmの金属製基板であり、前記段階(b)が、前記金属製基板をエッチング法により、凸部の平均径が10〜50μm、エッチング平均深さ30〜60μm、凸部の平均ピッチ0.1〜0.5mmの表面部に形成する製造方法が好ましい。また上記の理由などから、凸部の平均径が20〜40μmとなることがより好ましく、凸部の平均ピッチが0.2〜0.4mmとなることがより好ましい。
【0050】
以下図2(A,B)を参照しながら、金属製基板の表面上にフォトレジスト層を形成させ、エッチングすることによって前記表面上に多数の凹凸構造を形成させる方法である、いわゆるフォトエッチングの一形態(段階(a)および(b))について説明する。尚、図2(A,B)は、エッチング後の金属層のドット配列の一例を示すものであり、図2(A,B)のドット径、ドットの平均径、ピッチの数字はあくまでも例示であるため、本発明の範囲はこれに限定されるものではない。
【0051】
図2−Aは、碁盤目状、45度傾斜の点配列(ドット配列)を有するパターンであって、凸部径10〜30μm、凸部ピッチ0.14mmの凹凸構造が形成された金属層をフォトエッチング法で作製している。尚、圧胴ジャケットの場合は、単位面積あたり(1mm×1mm)約10〜100個のドット(凸部)、渡し胴ジャケットの場合は、単位面積あたり(1mm×1mm)約4〜100個のドット(凸部)を有するような金属層であれば点配列の形態にかかわらず、本発明の目的を達成することができる。特に圧胴ジャケットの場合はランダムドット(凸部)配列(図2B)の方が、印刷物のモアレ防止の面からはより好ましい。
【0052】
この場合、前記点配列を有するパターン(ドットの径はエッチング深さにより、太目に調整する)のフィルムまたはガラス原版を用いて、ドットを、フォトレジスト層を形成した金属製基板上に露光、現像、焼付けをし、現像後ドット以外のエリアをエッチング法にて腐食させることにより凸部の径の大きさ、エッチング深さ、凸部の山と山のピッチ(ピッチ)を任意にかつ、正確に形成することができる。特に凸部の山の高さが一定であり、紙面は同じ高さの凸部の面と接触することにより、従来の特許文献1に記載するセラミックス溶射ジャケット(以下セラミックス溶射ジャケットと称する)のような異常に高い突起が存在しない結果、印刷物にスクラッチ傷が発生しにくい。
【0053】
セラミックス溶射ジャケットの場合、凸部の径を小さくしようと思えば、小粒径の溶射材を使用することになるが、径を小さくすると、比例して山の高さも低くなり、小さい凸部の径でかつ高い山の凹凸を形成するのは難しい。
【0054】
加えて、セラミックス溶射ジャケットの場合、凸部の山の配置はランダムで好ましいが、山のピッチを0.1〜0.5mmぐらいの任意の大きさにかつ、広いジャケット面のどの位置でも均一なピッチで形成させるのは、極めて難しい。
【0055】
しかし、本発明の金属製基板の表面上にフォトレジスト層を形成し、ドットを露光、現像、焼付けをし、現像後ドット以外のエリアをエッチング法にて腐食させる方法では、写真製版の原理によって、ドットの大きさ、ピッチを任意に選択でき、また、エッチング深さも自由にコントロールできる。かつ、金属製基板のエッチング前のレベルが、凸部の山の頂点であるため、山の高さは全て同一レベルであり、凹部の深さ方向で全体の凹凸の高さをコントロールしうる。
【0056】
上記フォトレジスト層によるエッチング法で、本発明のような非常に微細な凹凸を形成する場合、凸部(ニードル突起)の形状は、図3のような傘状のバリができる。これは、凸部のニードル突起のレジスト層の接着部において、エッチング速度が遅れることにより生ずる現象である。この僅かなバリが、圧胴として使用した場合に印刷物にドーナツ状の白ぬけとなって現れ、また、バリ部に付着したインキが印刷物に逆転写して、ドーナツ状の汚れとなって印刷障害が発生する。故に、エッチング後に、更にバリ取りを行うことが好ましい。
【0057】
すなわち、上記段階(a)および(b)の後、エッチング後の凸部(ニードル突起)の傘状のバリを除去する段階(c)を行う。
【0058】
当前記バリを除去する方法は、超音波バリ取り、電解研磨バリ取り、化学処理(強酸にディッピング)等があり、非常に微小のバリを選択除去する方法としては、化学処理の一種であるネプロス処理(ブランド名)が挙げられる。また、当前記ネプロス処理とは、化学研磨液である酸性液体に上記段階(b)で表面部に凹凸構造を形成した金属基板を投入し、当前記金属基板表面を溶かすことにより均一に研磨するものであり、本発明においてネプロス処理でバリを除去することが好ましい。
【0059】
なお、本発明に係るネプロス処理の条件は適宜選択されるものであって特に制限されないが、例えば、ネプロス処理に利用する化学研磨液(ネプロス液)と水などの溶媒とを所定比で混合した溶液を40〜60℃に加温にして、上記エッチング処理後の凹凸構造のある基板を30分〜50分浸漬し、更に水洗、中和、水洗して行うことが好ましい。
【0060】
上記エッチング後の凸部(ニードル突起)の傘状のバリを除去する段階(c)の後、前記表面部の凹凸構造に倣ってプライマー処理およびシリコーン樹脂をコーティングしてシリコーン樹脂層を形成するが、当前記エッチング後の凹凸構造に倣って直接シリコーン樹脂を金属基板の凹凸構造にコーティングした場合、金属材料(ステンレス)とシリコーン樹脂との密着力は低い。故に、凹凸構造のニードル突起で紙面を受ける複合皮膜構造であっても、シリコーン樹脂の耐摩耗性が低く、短期間でジャケットの凹部のシリコーン樹脂も脱落し、短寿命となる。ステンレス材とシリコーン樹脂の密着力を高めるため、シリコーン樹脂コーティング前にプライマー処理を行うことが長寿命化のために好ましい。
【0061】
またプライマー処理なしで直接シリコーン樹脂をコーティングした場合、ジャケット洗浄材(日研化学製;ブランウォッシュ)を布につけて強く擦ると、比較的簡単にシリコーン皮膜が剥離脱落するが、プライマー処理材を、凹凸構造を有する金属基板に塗布した後に乾燥固化させ、その上からシリコーン樹脂をコーティングし、乾燥硬化した後のシリコーン樹脂は、ジャケット洗浄材(日研化学製;ブランウォッシュ)を布につけて強く擦っても、シリコーン膜は剥離しないことが確認された。すなわち、例えば、プライマー処理剤として、信越化学製プライマーNo.4をトルエン希釈して、刷毛塗りまたはスプレー塗装した後乾燥固化し、その上からシリコーン樹脂をコーティングし、130℃で30分乾燥硬化した後のシリコーン樹脂は、ジャケット洗浄材(日研化学製;ブランウォッシュ)を布につけて強く擦っても、シリコーン膜は剥離しなかった。
【0062】
しかし、当前記プライマー処理剤を刷毛塗りした場合は、プライマーの塗装ムラ、または、毛羽残りがあり、圧胴ジャケットとしての性能は、満足できない。また、スプレー塗装の場合は、プライマーの上からコーティングするシリコーン樹脂のレベリング性が悪く、シリコーン樹脂塗膜乾燥後の表面がマダラ模様(凹凸)となり、このジャケットを実機装着して印刷すると、印刷面の光沢がマダラ模様となって低下するという問題が発生した。
【0063】
その他のプライマー処理として、イトロ処理(イトロ処理研究所)があり、例えば、特開2007−51186号に記載の方法を本発明に適用することができる。
【0064】
当前記イトロ処理とは、火炎を形成するための燃料のガス中にシラン化合物を混入し、その火炎を用いて、固体基材の表面を処理するものである。この処理により、主にSiO2を構成成分とするナノレベルの粒子が、処理された基材の表面に多数形成される。この
ナノレベルの膜が、基材(ステンレス材)と強固に結合し、また、シリコーン樹脂との結合力も強いため、基材(ステンレス)とシリコーン樹脂との密着力が非常に強くなる。
【0065】
本発明に係るイトロ処理の条件は適宜選択されるものであって、特に制限されることはないが、例えば当前記イトロ処理の条件として、イトロ社製処理装置(バーナー長:150mm、バーナー移動:リニア)を使用し、プロパンガス流量:3〜4L/min、エアー流量:80〜110L/min、イトロガス流量:0.5〜1.6L/min、距離:20〜40mm、処理スピード(バーナー移動速度):250〜700mm/secで種々条件を触らしてテストしており、何れのイトロ処理条件でも、シリコーン樹脂の密着力は大幅に向上したことが確認されている。
【0066】
以下、イトロ処理有、無の密着力の差の比較テスト結果を表2、表3に示す。
【0067】
【表2】
【0068】
【表3】
【0069】
上記プライマー処理としては、イトロ処理がより好ましい。
【0070】
上記のように凹凸構造を表面部に有する金属基板をプライマー処理した後に、さらにその表面部にシリコーン樹脂のコーティングを行うは、スプレーコーティング、ローラーコーティング、はけ塗り方法、スピンコーティング、デッピングの後高速回転による塗布等であり、好ましくはスプレーコーティング方法が用いられる。また、シリコーン樹脂をコーティングした後、100〜150℃で10〜60分乾燥固化させることが好ましい。
【0071】
これにより、本発明に係る圧胴ジャケットおよび渡し胴ジャケットが、前記構造および前記凹凸の深さを有することにより、印圧が均等にかかり、印刷物のスクラッチ傷、白抜け、インキトラッピング不良などの印刷障害を最小にし、かつジャケット汚れの少ない安定した品質を確保することが可能となる。
【0072】
以上のことから、本発明に係る圧胴ジャケットと渡し胴ジャケットおよびそれらの製造方法は、同じインキ汚れ防止の目的であっても、使われる場所の違いにより、印刷品質への影響は大きく異なり、その違いを詳細に調査分析することにより従来の技術にない新たな最適表面プロフィールのジャケットを発明した。これは、溶射という粗面形成プロセスでは実現しがたい全く新しいジャケット製造技術である。
【0073】
(オフセット枚葉印刷機用胴ジャケットおよびその製造方法における各構成要素)
本発明に係る金属製基板は、ステンレス鋼、アルミニウム、銅、ニッケルなどの単独の金属およびそれらの合金等が選択される。すなわち、前記金属類は、圧胴および渡し胴にジャケットを装着する際に十分な密着性を確保できる金属であれば本発明の目的を達成することができるため、耐食性、耐磨耗性、強度およびコストなどを判断し、適宜選択されるものである。
【0074】
本発明に係るシリコーン樹脂の材質としては、ガムテープ剥離力20g以下のシリコーン樹脂が好ましく、例えば信越化学製のKNS−316、KE45TSタイプ等が好ましい。また本発明において、シリコーン樹脂は非粘着性樹脂の一例であるため他の非粘着性樹脂を用いても良い。
【0075】
本発明に係る圧胴ジャケット及び渡し胴ジャケットにおけるシリコーン樹脂層の膜厚は、図1で示すように、凸部では薄く、凹部では凸部より厚いため、凹部および凸部によって異なる。シリコーン樹脂層の膜厚は適宜選択されるが、凸部における膜厚は薄く、数ミクロン以下であることが好ましく、具体的には、圧胴ジャケットの凸部における膜厚は、1〜5μmであり、圧胴ジャケットの凹部における膜厚は5〜15μmであることが好ましい。また、渡し胴ジャケットの凸部における膜厚は、1〜5μmであり、渡し胴ジャケットの凹部における膜厚は5〜30μmであることが好ましい。
【0076】
本発明に係るシリコーン樹脂層の厚みは、シリコーン樹脂コーティング後の凹凸深さで管理されることが好ましい。
【0077】
また、本発明に係るシリコーン樹脂コーティング後の凹凸平均深さを、同時コーティングしたエッチングなしのダミープレートのシリコーン樹脂膜厚を測定し、エッチング深さとシリコーン樹脂膜厚の差で管理されることが好ましい。
【0078】
当前記凹凸構造面にシリコーン樹脂をコーティングすると、凸部は、非常に小さな面積のため、ほとんどのシリコーン樹脂は、凹部に流れ込み、凸部には極僅かしか残らない。また、凹部にコーティングされたシリコーン樹脂の膜厚は、電磁膜厚計または渦電流膜厚計等では、計測できない。故に、本発明に係る胴ジャケットにシリコーン樹脂コーティングの際に、エッチングしていないダミープレート(製品と同材質・同厚み)も同時に同じスプレー条件でコーティングして、ダミープレート上の膜厚を塗料の膜厚計で計測する。そして、エッチング深さとダミープレートの平面上でのシリコーン樹脂膜厚の差で、コーティング後の凹凸深さを管理する(エッチング深さは、マイクロデップスゲージ:1/1000mmで測定可能であるが、シリコーン樹脂コーティング後の凹凸深さは、ディップスゲージのニードルが樹脂に刺さって樹脂上面までの深さを正確に計測できないため)。厳密には、凸部の体積相当分が、平面部の膜厚みより凹部の膜厚が厚くなるが、凸部の体積は、全体の3.5%(ピッチ0.14mm、凸部底部の径φ30μmのケース)程度であり、ほとんど凹部の膜厚には影響しない(平面でコーティングした膜厚と凹部の膜厚は、ほぼ等しいと考えてよい。)。
【0079】
尚、シリコーン樹脂層のコーティング後の深さは、圧胴ジャケットの場合は、15μm〜35μm、渡し胴ジャケットの場合は、20μm〜50μmである。
【0080】
本発明において、多数の凹部を有する表面部を形成する方法としては、エッチング方法が用いられる。一般的にエッチング方法は2種類あり、1つ目はドライエッチング、2つ目はウェットエッチングである。
【0081】
本発明に係る圧胴ジャケット、渡し胴ジャケットおよびそれらの製造方法に用いるエッチングは、ドライエッチング、ウェットエッチングのどちらでもよいが、ウェットエッチングが好ましい。ドライエッチング法としては、ガスエッチング、光励起エッチング、イオンアシストエッチング、イオンミリング、ケミカルドライエッチング、円筒型プラズマエッチング、マイクロ波プラズマエッチング、反応性イオンビームエッチング、スパッタエッチング、レーザービームエッチングなど、使用する金属に応じて適宜用いられる。また好ましくは、反応機構が化学的エッチングがよい。
【0082】
ウェットエッチング法では、エッチング液は硫酸系、塩酸系、ハロゲン化水素系、ヨウ素系およびこれらの混合物などが一般的に挙げられるが、使用するレジスト材料および金属製基板などによって適宜選択され、公知のエッチング液を使用することができる。従って本発明に係る範囲は、エッチング液の種類によって限定されるものではない。
【0083】
本発明の圧胴ジャケットは、金属製基板の表面上にフォトレジスト層を形成し、エッチング法にて腐食させることより凸部の径の大きさ、深さ、最隣接凸部間のピッチを所望の範囲にすることができ、かつ、正確に形成することが出来る。この場合におけるフォトレジストは、ポジ型、ネガ型のいずれの場合であってもよく、好ましくはネガ型である。
【0084】
また、ネガ型レジストポリマーは、特に限定されないが、酸の作用によりアルカリ可溶性が変化する樹脂成分と露光により酸を発生する酸発生剤成分を含有してなる化学増幅型ものでもよく。この化学増幅型レジストは、これまでKrF用、ArF用、F2用、電子線用、X線用などが挙げられる。
【0085】
フォトレジスト層を形成するネガ型ポリマーは使用する金属製基板の材質である金属などによって適宜選択されるが、スチレン系樹脂、フッ素化アルコール系樹脂、分子内脱水エステル化による逆極性変化を利用するエステル系樹脂が挙げられる。
【0086】
同様に、フォトレジスト層を形成するポジ型ポリマーとしては、ノボラック樹脂、デンドリマー型、ポリメタクリル酸エステル系樹脂、ノルボルネン系の脂環式樹脂、無水マレイン酸含有樹脂、フッ素系樹脂などである。
【0087】
上記酸発生剤は、ヨード化合物であるWPAG−145(和光製)、WPAG−170、WPAG−199、パラメトキシスチリルトリアジンなどのトリアジン系、ジフェニルヨードニウムトリフルオロメタンスルホネート、(4−メトキシフェニル)フェニルヨードニウムトリフルオロメタンスルホネート、ビス(p−tert−ブチルフェニル)ヨードニウムトリフルオロメタンスルホネート、トリフェニルスルホニウムトリフルオロメタンスルホネート、(4−メトキシフェニル)ジフェニルスルホニウムトリフルオロメタンスルホネートなどスルホネート系の酸発生剤など挙げられ、使用するポリマーによって酸発生剤は適宜選択される。
【0088】
尚、フォトレジスト層を形成するポリマー、現像液、酸発生剤、溶解抑制剤、剥離剤などは上記のものに限らず、公知のものを使用でき、本発明の範囲はこれらに限定されるわけではないことは言うまでもない。
【0089】
本発明に係る圧胴ジャケットは、最表面にコーティングするシリコーン樹脂の非粘着性指標としてのガムテープ剥離力が20g以下の特性のものが好ましい。
【0090】
乾燥硬化するタイプの低表面エネルギー樹脂(シリコーン樹脂)に限定しても、無数の樹脂がある。従来開示されている低表面エネルギー樹脂としては、水との表面張力の非常に低いものもあるが、表面張力が低ければ低いほど圧胴ジャケットへのインキ付着性が低いかといえば必ずしもそうとは限らない。本発明者の様々な実験結果、表面エネルギー指標(表面張力;水との接触角測定より計算で求める)より、本発明者が考案したガムテープ剥離力のほうが、圧胴ジャケットのインキ付着性の評価方法として優れている。
【0091】
ここで記載した非粘着性指標としてのガムテープ剥離力とは、本特許発明者が独自に考え出した定量的な評価方法で、25mm幅の日東電工製布粘着テープ(品番:N0.750)を乾燥硬化した非粘着性樹脂の表面に貼り付け、そのテープを直角方向に引き剥がす力を測定し、その力の大きさで非粘着性を計測するものである。
【0092】
また、ガムテープ剥離力がいくら以下なら圧胴ジャケットのインキ付着防止効果が高いかを実機の印刷操業にて長期間のテストを実施した結果、枚葉印刷機のインキ特性のもとでは、ガムテープ剥離力が30g以上では、数千枚の印刷でジャケット汚れが発生し、印刷途中でジャケット洗浄を行う必要があるが、20g以下では、1万枚〜数万枚に1回の洗浄頻度に低減できることが確認された。
この指標を非粘着性樹脂の選定指標にすることにより、圧胴ジャケットの汚れ防止効果をより適確に判断することができる。
【0093】
渡し胴ジャケット用シリコーン樹脂のガムテープ剥離力は、圧胴ジャケット用に比べて、もっと高くても充分効果があるが、ジャケット洗浄頻度をより少なくするには、低ければ低いほどよく、圧胴ジャケット用と同じシリコーン樹脂を用いるのが好ましい。
【0094】
本発明に係るガムテープ剥離力に用いられるガムテープの種類や品番に限定される必要はない。但し、使用されるガムテープを変更するとガムテープ剥離力の大きさが変化するが、JIS Z0237−12規格で傾斜式ボールタック装置の使用により同じ剥離力(接着力)を有するガムテープを使用したり、特定の剥離力を有するジャケットを基準として他のガムテープを使用した際の剥離力を測定できるためにガムテープの種類を変更しても本発明の技術的思想の範囲である。
【実施例】
【0095】
以下実施例について記載するが、下記の実施例に本発明は限定されるものではない。
【0096】
(実施例1)
厚さ0.37mmのステンレスプレート(SUS 304 2B)を脱脂後、フォトレジスト(ドライフィルム)を(ラミネート法)にてコーティングした。
一方、写真製版にて、ドット径100μm、ドットのピッチ0.14mm、ドットの配列は碁盤目(ランダム配列)で45度傾斜のフィルム原版を作製した。
【0097】
フォトレジストをコーティングしたSUSプレート上にドットを写真製版したフィルム原版を載せ、露光、現像(スプレー)、焼付け(硬化)して、SUSプレート上にはドット部のみにレジストが残るようにした。
【0098】
このSUSプレートにエッチング液をスプレー噴射し、深さ40μmになるようにエッチングを行った後、剥離液をスプレーして凸部上のレジストを除去し、スプレー洗浄した。このときの凸部径は、平均20μm(max30〜min4μm)、ピッチ;平均0.14mm、凹凸深さ;平均40μm(max43〜min37μm)であった。
【0099】
エッチング処理後、ネプロス処理(化学処理によるバリ取りの一種)を行って、凸部(ニードル突起)の傘状のバリ取りを行った。当前記ネプロス処理は、ネプロス処理液(基本液(ネプロス液):水=1:3)を50±3℃に加温した浴槽の中に、上記エッチング処理後の凹凸構造のあるSUS板を35分〜40分浸漬し、更に水洗、中和、水洗して行った。
バリ取りにより、ドット径は平均4μm、深さは平均2μm小さくなった。バリ取りなしのジャケットも比較のため、作成した)エッチング後の凸部の点配列のパターンを図2A、図2Bに示す。
【0100】
エッチング後、シリコーン樹脂コーティング前のプライマー処理として、イトロ処理を行った後、プレートの上にシリコーン樹脂(信越化学(株)製;KNS316)100質量部、トルエン100質量部および硬化触媒(信越化学(株)製CAT−P56)3質量部で混合攪拌した溶液を、スプレー方式によりコーティングした後、130℃の乾燥炉で30分間乾燥硬化させ、乾燥硬化後の表面の凹凸深さ:25μmである圧胴ジャケットを製造した。
【0101】
尚、当前記イトロ処理の条件は、イトロ社製処理装置(バーナー長:150mm、バーナー移動:リニア)を使用し、プロパンガス流量:3L/min、エアー流量:80L/min、イトロガス流量:0.5L/min、距離:20〜40mm、処理スピード:250mm/secで行った。
【0102】
本発明において、エッチング(平均)深さは、Mitutoyo製デジタルマイクロディップスゲージ(デジマチックインジケータ;ID−C112BC, 測定範囲;12.7―0.001mm)を使用した。また、凹凸深さの測定法は、バリ取り後のプレート上にシリコーン樹脂をコーティングする時に同時にエッチングなしのダミープレート上にも同じスプレー条件でコーティングし、ダミープレート上のシリコーン樹脂膜厚をKEYENCE製過電流式変位センサ(高精度デジタル変位センサ;EX−110V, 測定範囲:0〜2mm、 分解能:0.4μm)にて測定し、エッチング深さとダミープレートの平面でのシリコーン樹脂膜厚との差を計算して、コーティング後の凹凸深さとした。
【0103】
(実施例2)
写真製版時のピッチが、0.3mmである以外は、実施例1と同じ方法でエッチングによる凹凸プロフィールの形成・シリコーン樹脂コーティングを行って圧胴ジャケットを作製した。
【0104】
このときのエッチング後の凸部径は、平均24μm(max32〜min20μm),ピッチ;平均0.3mm、凹凸深さ;平均38μm(max40〜min37μm)であり、シリコーン樹脂コーティング後の凹凸深さは;23μmあった。
【0105】
(実施例3)
写真製版時のピッチが、0.5mmである以外は、実施例1と同じ方法でエッチングによる凹凸プロフィールの形成・シリコーン樹脂コーティングを行って圧胴ジャケットを作製した。
【0106】
このときのエッチング後の凸部径は、平均25μm(max33〜min20μm),ピッチ;平均0.5mm、凹凸深さ;平均41μm(max42〜min39μm)であり、シリコーン樹脂コーティング後の凹凸深さは、28μmあった。
【0107】
(比較例)
厚さ0.3mmのSUSプレートを脱脂、ブラスト後、金属溶射材として10〜38μmの粒度範囲のNi−Crを膜厚30μm溶射し、更にセラミックス溶射材として10〜44μmのG−Al2O3を膜厚40μm溶射して、製品厚0.37mmとした。そのときの表面粗度はRz;32μmであった。更に、実施例1と同じシリコーン樹脂を同じ要領でコーティングした後の表面粗度がRz;28μmのセラミックス溶射圧胴ジャケットを作製した。ただし、シリコーン樹脂コーティング前のプライマー処理は行わなかった。ここでの粗度測定法は、JIS0601−1982による粗度測定時の測定長さは、4.0mmである。
【0108】
(実施例4)
実施例1、実施例2、実施例3および比較例で作製した圧胴ジャケットを、AIC(アキヤマインターナショナル(株))製オフセット枚葉両面印刷機JP4P440の機械の圧胴に装着し、コート紙への両面印刷テストを行った。
【0109】
比較例のジャケットは、過去10年以上の長期実績のある製品であり、印刷品質、寿命の面でも、現存するジャケットでは、最も優れているものとされている。
それに対して、本発明の実施例1は、ジャケットのインキ汚れが更に少なく、比較例で問題のあったスクラッチ傷が大幅に減少し、また、白抜けの大きいもの(30μm以上で目視でも識別できるようなもの)が半減し、白抜け面積率は比較例よりやや減少した。後刷り面でのインキトラッピングも全く問題の無いものであった。
【0110】
また、ジャケット寿命で最もクリティカルな要因であるシリコーン樹脂の磨耗によるインキ汚れについても、比較例に対して凸部の径を小さくしたにもかかわらず(比較例のセラミックス溶射ジャケットは、10〜80μmに対して、本発明のエッチングジャケットは5〜30μm)、凹凸深さを40μm(バリ取り後は、38μm)と深くしているため、凹部のシリコーン樹脂耐磨耗性が非常に向上し、セラミックス溶射ジャケットの寿命(耐刷枚数約2000万枚)より更に1.5倍の寿命延長が図られた。
【0111】
また、実施例1で、凸部の配列が規則正しい碁盤目(図2A)のものと、ランダム配列(図2B)のものを比較すると、碁盤目配列の方が凸部のインキ取られによる白ぬけが線状になる事によるモアレ現象が出易かった。(1点1点の白ぬけは、非常に細かくて目視では全く判らないが、白ぬけが線状に並んで集まってくると目立ちやすくなる)。よって圧胴用エッチングジャケットの場合は、凸部の配列はランダム配列にする方がより好ましいことが確認された。
【0112】
また、実施例1で、エッチング後のバリ取りなしで、その他は、全く実施例1と同じ条件のジャケットによる実機印刷テストでは、凸部(ニードル突起)の傘状のバリによるインキ取られで、ドーナツ状の白ぬけが発生し、また、バリに取られたインキが紙面に逆転写してドーナツ状の汚れが発生する。故に、エッチング後は、バリ取りを行うことがより好ましいことが確認された。
【0113】
実施例2は、実施例1より更に印刷物の白抜けの数および面積率が1/5に減少し、印刷品質が向上した。
【0114】
後刷り面のインキトラッピングは、凸部のピッチが大きい分やや悪くなる傾向はあるが、全体の印圧調整(印圧をやや強くする)により、充分カバーできる程度のものであった。シリコーン樹脂の磨耗は、実施例1に比べると凸部のピッチが大きい分だけ紙面と凹部の樹脂が接触し易くなり、寿命は短めとなるが、比較例との寿命差は無い。実施例3は、比較例よりは良いものの実施例1、2に比べると凸部のピッチが大きすぎて、薄紙の場合は凸部が紙に刺さるような現象となり、また、後刷り面のインキトラッピングも劣り、総合評価としては良くはない。以上のことから、凸部の平均ピッチは、0.1〜0.3mmが好ましいことが判った。
【0115】
(実施例5)
オフセット印刷機用圧胴に用いる非粘着性樹脂の評価尺度として、本発明者はガムテープ剥離力の測定法を考案した。
【0116】
平板上に非粘着性樹脂の一例としてシリコーン樹脂を塗布し、乾燥硬化したサンプル表面に日東電工株式会社製;布粘着テープNo.750、テープ幅25mm×長さ70mmのうち、50mm長さを貼り付け、一定の力(1000g)で、全面均一に押さえつける。
【0117】
本明細書においてはガムテープの一端をバネばかりに貼り付けて、垂直方向に一定速度で引き上げガムテープが完全に剥がれるまでの最大値をガムテープ剥離力と定義する。
この方法で測定した様々なガムテープ剥離力のシリコーン樹脂を実施例1のエッチングによる凹凸構造形成後の表面にコーティングし、圧胴ジャケットを製造した。これ等の圧胴ジャケットをオフセット枚葉両面印刷機に装着して印刷操業を行った。
【0118】
コート紙に表4色×裏4色の両面印刷を行った結果、ガムテープ剥離力が30g以上の圧胴ジャケットの場合、インキ・紙の種類によっても異なるが、2000枚〜5000枚の印刷でジャケット上の絵柄部全面にインキが付着堆積し、印刷障害(印刷物のよがれ、ダブリ)がでるため、そのまま印刷を続行できない(印刷途中で圧胴ジャケット洗浄が必要になる)。それに対して、20g以下ではジャケット洗浄なしでの印刷可能枚数が10000枚をこえ、10g以下では、30000枚を超えるということが判った。
【0119】
そして以上のことから、一般的なオフセット枚葉印刷の印刷物の1ロット当たりの枚数は、5000〜10000枚以上あるのが普通で、最低1回のジャケット洗浄で10000枚以上の印刷が可能な洗浄頻度に抑えないと圧胴ジャケットとして実用的に使用できない(作業効率の低下、ヤレ紙の増大)。故に、シリコーン樹脂等の非粘着性樹脂としては、乾燥硬化した状態で、ガムテープ剥離力が20g以下、好ましくは10g以下のものを使用することが望ましいことが判った。
【0120】
(実施例6)
厚さ0.30mmのステンレスプレート(SUS 304 2B)を脱脂後、フォトレジスト(ドライフィルム)を(ラミネート法)にてコーティングした。一方、写真製版にてドット径140μm、ピッチ0.5mm、ドット配列は碁盤目で45度傾斜のフィルム原版を作製した。フォトレジストをコーティングしたSUSプレート上にドットを写真製版したフィルム原版を載せ、露光、現像(スプレー)、焼付け(硬化)して、SUSプレート上にはドット部のみにレジストが残るようにした。
【0121】
このSUSプレートにエッチング液をスプレー噴射し、深さ50μmになるようにエッチングを行った後、剥離液をスプレーしてドット(凸部)上のレジストを除去し、スプレー洗浄した。このときの凸部径は、平均40μ(max43〜min35μm)、ピッチ;0.5mm、深さ;平均50μm(max53〜min45μm)であった。エッチング処理後、上記の実施例1と同様のネプロス処理(化学処理によるバリ取りの一種)を行って、凸部(ニードル突起)の傘状のバリ取りを行った。バリ取りにより、ドット径は平均4μm、深さは平均2μm小さくなった。バリ取りなしのジャケットも比較のため、作成した。
【0122】
エッチング後、シリコーン樹脂コーティング前のプライマー処理として、上記の実施例1と同様のイトロ処理を行った後、このエッチングプレートの上にシリコーン樹脂(信越化学(株)製;KNS316)100部、トルエン100部および硬化触媒(信越化学(株)製CAT−P56)3部を混合攪拌した溶液をスプレー方式でコーティングした後、130℃の乾燥炉で30分間乾燥硬化させ、乾燥硬化後の表面粗度が凹凸平均深さ40μmである渡し胴ジャケットを製造した。
【0123】
この渡し胴ジャケットをハイデルベルグ社製オフセット枚葉両面印刷機SM102の機械の渡し胴に装着し、コート紙への両面印刷テストを行った。実施例3の圧胴ジャケットの場合、凸部のピッチを0.5mmに大きくすると、薄紙の場合は凸部に紙が刺さるような現象となり、また、後刷り面のインキトラッピング不良という問題も発生し、総合的に良い結果は出なかったが、実施例6の渡し胴ジャケットでは、印圧がかからないため、凸部径を大きくし、かつ、山のピッチを0.5mmと大きくしても、凸部が紙に刺さることによるスクラッチ傷、後刷り面のインキトラッピング不良等の印刷障害も無く、かつ、ジャケットへのインキ汚れも非常に少なく、ジャケット洗浄頻度を大幅に少なくすることができた。更に実施例1を渡し胴ジャケットとして使用した場合と比較すると、凸部の径が大きく、深さをより深くすることによりシリコーン樹脂の耐磨耗性はさらに向上し、寿命延長に大きく寄与することが判った。
【0124】
また、エッチング後のバリ取りの有無の比較では、圧胴ジャケットほど、バリによる印刷品質への影響は少ないが、傾向的にはバリ取りした方がよりスクラッチ傷が出にくく、バリ取りした方が好ましい。また、従来技術の特開平8−12151号公報の請求項8〜16、17のセラミックス溶射渡し胴ジャケットと比較して、このジャケットは、表面粗度が大きくなってもセラミックス溶射ジャケットのような異常突起がないためスクラッチ傷が発生しない。または、特開平8−12151号公報の請求項16および17の渡し胴用ガラスビーズコーティングフィールムとの比較において、フィルムが絶縁体であることによる帯電トラブルがあるのに対して本ジャケットは導電性のため全く問題なく、またガラスビーズとフィルムの接着強度が低い(耐溶剤性)ことによるガラスビーズ脱落等の問題も無く、寿命は、渡し胴用ガラスビーズフィルムの数倍の耐久性があった。
【符号の説明】
【0125】
1 金属製基板
2 金属粉溶射層
3 セラミックス溶射層
4 シリコーン樹脂
11 金属層の上面における凹凸部のピッチ
12 シリコーン樹脂層の上面における凹凸部のピッチ
13 凹凸の深さ
14 エッチング深さ
15 最隣接するシリコーン樹脂層の凸部間において、最上面の端と端とを結ぶ距離
16 最隣接する金属層の凸部間において、最上面の端と端とを結ぶ距離
19 シリコーン樹脂層の上面における凸部の径
20 金属層の上面における凸部の径
21 金属層の上面における凸部の径
22 シリコーン樹脂層の上面における凸部の径
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷機、特にオフセット枚葉印刷機における圧胴・渡し胴ジャケットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
圧胴・渡し胴(本明細書で記載する「渡し胴」は、圧胴間の紙渡しのみを行う印圧のかからない中間胴を含む。)に装着するジャケットに関連する従来技術としては、特許文献1に詳細に報告されており、この圧胴ジャケットの発明によって、オフセット枚葉両面印刷機が実用的に完成し、世界中の印刷機メーカーがこれを採用している。
【0003】
しかし、この圧胴ジャケットを使用しても片面印刷機の印刷品質と比較すると、先刷りした印刷面のインキが圧胴ジャケットのセラミックスの凹凸面の凸部でインキがとられて、微細なスクラッチ傷、白抜け(50倍ルーペで観察すると明らかに識別できる)が発生し、表裏の印刷品質差となるため、限りなく片面印刷の品質に近づけることが要求されている。
【0004】
このスクラッチ傷、白抜けは、一義的にはジャケット表面の粗度Rmaxにて管理され、Rmaxが大きくなるほどスクラッチ傷、白抜けも大きくなる傾向がある。目視でほとんど確認できない限界として、Rmax:40μmが上限値として規定されている。
【0005】
粗度の測定基準としては、JIS0601−1982があるが、特許文献1では測定長さについては明示されていない。しかし、セラミックス溶射皮膜の粗度は、測定長さが変わるとRmax,Rzとも大きく変化し、その変化量が圧胴ジャケットの性能に微妙に影響を与える。JIS0601−1982による粗度測定時の粗度測定長さの違いによるRmax、Rzの関係を表1に示す。
【0006】
【表1】
【0007】
特に、スクラッチ傷は、単位面積(2×2mm)当たり、1〜3個ぐらいの数でも印刷品質で問題となるが、これを粗度測定検査(Rmax)で管理しても測定長さ4mm、または12.5mmのJIS基準で検出される異常突起(上限値;Rmax40μmを超えるもの)は、確率的に非常に低く、これが印刷トラブルの大きな問題となるケースがある。
【0008】
これ等の異常突起は、セラミックス、または金属粉を溶射プロセスでコーティングする場合、溶射材の粒度分布のバラツキがあり、また、溶射皮膜の膜厚、スピッティングの発生等により、セラミックス皮膜の凸部の山の高さが一定にならないことが大きな原因である。
【0009】
一方、従来技術の特許文献1の請求項3には、「〜セラミックスの凹凸の凸部が、20μm×20μm平方ないし100μm×100μm平方当たり1ケ程度の割合で存在するものである〜」となっているが、この凸部の単位面積あたりの数が多いほど、両面印刷の先刷り面のベタ絵柄部のインキが圧胴ジャケットの凸部で取られて発生する白抜けの数が多くなるという問題があった。この凸部の山のピッチを溶射プロセスで任意にコントロール(1×1m2ぐらいのジャケット全面を均一な山ピッチでかつ、任意の距離、高さにコントロール)することは、非常に困難であった。
【0010】
またセラミックス溶射ジャケットの場合、凸部の径を小さくしようと思えば、小粒径の溶射材を使用することになるが、径を小さくすると、比例して山の高さも低くなり、小さい凸部の径でかつ高い山の凹凸を形成するのは難しい。
【0011】
加えて、セラミックス溶射ジャケットの場合、凸部の山の配置はランダムで好ましいが、山のピッチを0.1〜0.5mmぐらいの任意の大きさにかつ、広いジャケット面のどの位置でも均一なピッチで形成させるのは、極めて難しい。
【0012】
また、最表面には、低表面エネルギーのシリコーン樹脂がコーティングされているが、シリコーン樹脂は、セラミックスに比較し圧倒的に耐磨耗性が低いため、セラミックス凸部のシリコーン樹脂は短期間で磨耗する。これを防止するため、セラミックスの凹凸構造とシリコーン樹脂の複合皮膜にすることにより、紙面とセラミックスの凸部のみで接触させるようにして凹部のシリコーン樹脂磨耗を防止する工夫がされており累計印刷枚数で2000万枚という驚異的な耐刷寿命を達成している。
【0013】
しかし、このジャケットのシリコーン樹脂のコーティング膜の厚みは、凸部は薄く、凹部は厚くという表現のみで、シリコーン樹脂膜厚の測定方法については特に細かな基準は示されていない。しかも、当前記コーティング膜厚は、厚めにコーティングしても凸部の膜厚はほとんど変化しないため1/1000mm目盛のマイクロメータで測定してもほとんど変わらず、適正膜厚を管理することは非常に難しい。
【0014】
ところが、シリコーン樹脂コーティング量(凹凸表面に付着している量)の大小により、圧胴ジャケットの性能、寿命は大きく変化するという問題があった。また、従来公知化されている圧胴ジャケットの表面にコーティングする非粘着性樹脂としては、低表面エネルギー樹脂またはシリコーン樹脂等があり、特に表面エネルギーの指標で数値限定しているケースがある。
【0015】
しかし、シリコーン樹脂といってもその種類は非常に多く、各種用途毎に最適樹脂を選択している。ところが、圧胴ジャケットに効果的に適用できるシリコーン樹脂は非常に限定され、従来公知化されている知識で圧胴ジャケットを製造しても多くのシリコン樹脂ではインキ汚れが多く効果的なジャケットが作れないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開平8−12151号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
そこで、本発明の目的は、印刷機、特にオフセット枚葉両面印刷機における印刷物のスクラッチ傷および白抜けが少なく、表裏の印刷品質差を片面2回印刷(表面を印刷し、乾燥後裏面印刷する)に限りなく近づけ、かつ、紙エッジトラブルによるジャケット寿命短縮を防止し、更に安価な製造コストのジャケットを製造するための圧胴・渡し胴ジャケットおよびその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、上記課題解決のために鋭意研究行った結果、
厚さ0.2〜0.5mmの金属製基板の表面部に、エッチング法により、凸部の平均径10〜50μm、エッチング平均深さ30〜60μm、凸部の平均ピッチ0.1〜0.5mmの凹凸構造が形成された金属層と、
前記金属層の表面部の凹凸構造に倣ってコーティングされたシリコーン樹脂層と、
を有し、前記シリコーン樹脂層が硬化後の凹凸の平均深さが、15〜50μmであることを特徴とするオフセット枚葉印刷機用胴ジャケットおよびその製造方法により上記目的を達成するに到った。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、金属製基板をエッチング法により非常にシャープ(凸部の平均径が10〜50μm)でかつ山の高さ(レベル)が一定で、谷の平均深さ(エッチング深さ)30〜60μm、山の平均ピッチが0.1〜0.5mmの凹凸構造を形成し、その上にシリコーン樹脂を凸部は薄く凹部は厚く、かつ凹凸構造を倣うようにコーティングして、前記シリコーン樹脂の硬化後の凹凸の平均深さが、15〜50μmの表面プロフィールにすることにより印刷物のスクラッチ傷、白抜け、インキトラッピング不良等の印刷障害を最小にし、かつ、ジャケット汚れの少ない安定した品質を提供することができる。
【0020】
その他、シリコーン樹脂は、ガムテープ剥離力が20g以下のものを使用し、コーティング膜厚を樹脂コーティング後の凹凸深さで管理することにより、ジャケット汚れの非常に少ない(ジャケット洗浄頻度の少ない)、かつ、紙エッジによるジャケット傷で発生する印刷障害(紙エッジトラブル)を低く抑えて、ジャケット寿命を安定的に長寿命化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1A】本発明に係る圧胴・渡し胴ジャケットの実施態様における断面構造を模式的に示す図であり、
【図1B】本発明に係る圧胴・渡し胴ジャケットを模式的に示す図であり、
【図1C】本発明に係る圧胴・渡し胴ジャケットを模式的に示す図であり、
【図2A】本発明に係るエッチング後の凸部の点配列に関する碁盤目配列の図であり、
【図2B】本発明に係るエッチング後の凸部の点配列に関するランダム配列の図であり、
【図3A】本発明のエッチング後の凸部(ニードル突起)の傘状バリが残った状態を示す図であり、
【図3B】本発明のエッチング後の凸部(ニードル突起)の傘状バリ取り後の状態を示す図であり、
【図4】セラミックス溶射圧胴ジャケットの実施態様における断面構造を模式的に示す図であり、
【図5A】本発明に係る圧胴ジャケットの製造工程のエッチング後の粗度チャート(実施例1(凸部のピッチ;0.14mm))((粗度測定条件)JISB0601−1982縦倍率:500倍(20μm/10mm)横ばい率:20倍(500μm/10mm))であり、
【図5B】本発明に係る圧胴ジャケットの製造工程のエッチング後の粗度チャート(実施例2(凸部のピッチ;0.3mm))((粗度測定条件)JISB0601−1982縦倍率:500倍(20μm/10mm)横ばい率:20倍(500μm/10mm))であり、
【図6】セラミックス溶射圧胴ジャケットの粗度チャート(比較例)(粗度測定条件は、図5と同じである)であり、
【図7】印刷物のスクラッチ傷、白抜けの印刷障害を説明するためのマイクロスコープによる拡大写真の図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(オフセット枚葉印刷機用胴ジャケット)
本発明に係るオフセット枚葉印刷機用胴ジャケットの第1は、厚さ0.2〜0.5mmの金属製基板の表面部に、エッチング法により、凸部の平均径10〜50μm、エッチング平均深さ30〜60μm、凸部のピッチ0.1〜0.5mmの凹凸構造が形成された金属層と、前記表面部上の凹凸構造に倣ってコーティングされたシリコーン樹脂層と、を有し、シリコーン樹脂層が硬化後の凹凸の深さ15〜50μmである。
【0023】
本発明に係るオフセット枚葉印刷機用胴ジャケットをオフセット枚葉印刷機用圧胴ジャケットに使用する場合、前記金属製基板の表面部に、エッチング法により、凸部の平均径10〜30μm、エッチング平均深さ30〜40μm、凸部のピッチ0.1〜0.3mmの凹凸構造が、ランダムに配置されていることが好ましく、また前記表面部上の凹凸構造に倣ってコーティングされたシリコーン樹脂層は、当前記シリコーン樹脂層の硬化後の凹凸の深さは、15〜35μmであることが好ましい。
【0024】
一方、本発明に係るオフセット枚葉印刷機用胴ジャケットをオフセット枚葉印刷機用渡し胴ジャケットに使用する場合については、圧胴ジャケットと同様の製法および凹凸構造を有するが、その用途から、凸部の平均径が10〜50μm、エッチング平均深さ30〜60μm、凸部の平均ピッチ0.1〜0.5mmの凹凸構造(ランダム配列は必ずしも必要条件ではない)を有し、かつシリコーン樹脂が硬化後の凹凸の平均深さが20〜50μmであることが好ましい。
【0025】
図1は本発明に係る圧胴ジャケットおよび渡し胴の実施態様における圧胴ジャケットおよび渡し胴の断面構造を模式的に示す図であり、この図において縦横の縮尺比は誇張して描かれている。以下図1を用いて圧胴ジャケットおよび渡し胴の構造について説明する。
【0026】
本発明は、金属製基板上に多数の凸部を形成することにより凹凸構造を有する金属層1を形成した後、この凹凸構造を倣うように、すなわち凹部が埋もれないように表面部の凹凸構造に沿ってシリコーン樹脂層4でコーティングする(金属層の凹凸構造がほぼ残るように、すなわち実質的に残るようにシリコーン樹脂層をコーティングする)。
【0027】
さらに詳細に言うと、「凹凸構造を倣う」とは、最表面を形成するシリコーン樹脂層の凸部と、エッチング法により形成された金属層の凸部とが対応する場合を含む広い概念である。換言すると、「凹凸構造に倣う」場合とは、最も隣接する金属層の凸部間に、一つのシリコーン樹脂層の凹部が位置する場合である。具体的には、金属層の凸部には、シリコーン樹脂層表面の凸部が合致し、かつ金属層の凹部には、シリコーン樹脂層表面の凹部が合致することを意味する。
【0028】
したがって、「凹凸構造に倣う」場合には、金属層表面に均等な厚さでシリコーン樹脂層が形成される場合のみならず、図1(A)に示されるように、金属層の凸部の表面に比べて凹部の表面にシリコーン樹脂層が厚く形成される場合も含まれる。特に、エッチング法によって形成された金属層全体の凹凸構造が、シリコーン樹脂層の表面形状に反映されており、最表面を形成するシリコーン樹脂層の凸部の先端位置で規定される紙当り面が一定となるように、シリコーン樹脂層がコーティングされることが望ましい。
【0029】
図1B、Cは、本発明に係る圧胴・渡し胴ジャケットにおいて、「凸部の平均径」、「エッチング平均深さ」、「凸部の平均ピッチ」、「凹凸の平均深さ」、および「最隣接する金属層またはシリコーン樹脂層の凸部間において、最上面の端と端とを結ぶ距離」等の用語を明確にするため示した図である。「凸部の平均ピッチ」とは、図1B、Cで示すように11、12の長さをいうものである。即ち、ジャケットを上から拡大して見た際において(凸部の上面の形状が)、円の場合は、中心を中点として、前記中点を最隣接凸部のそれぞれで求めて、両中点を直線で結んだ長さを10つ測定した相加平均である、換言すると、最隣接間の円の中点と中点とを結んだ長さ11、12である。異形の場合は、閉じた領域上に、2本の交点が最長となる任意の直線を引き、その交点の結ぶ直線の中間を中点とする。前記中点を、最隣接凸部のそれぞれで求めて、両中点を直線で結んだ長さ11、12を複数個測定した平均値である。
【0030】
「凸部の平均径」とは、図1B、Cで示すように19、20、21の長さをいい、凸部の上面の形状が円の場合は、直径21、22をいい、凸部の上面の形状が異形の場合は閉じた領域上に、2本の交点が最長となる任意の直線を引き、その交点の結ぶ線分の長さを10つ測定した相加平均をいう。
【0031】
「凹凸の平均深さ」とは、最隣接するシリコーン樹脂層の凸部間において、シリコーン樹脂層の最上面と最下面との距離13を10つ測定した相加平均をいう。「エッチング平均深さ(単に、エッチング深さとも称する)」とは、最隣接する金属層の凸部間において、金属層の最上面と最下面との距離14を10つ測定した相加平均をいう。
【0032】
尚、本明細書では何ら記載が無い場合、「凸部の平均径」、「エッチング平均深さ」および「凸部の平均ピッチ」は、「シリコーン樹脂を被覆後の凸部の平均径」、「シリコーン樹脂を被覆後のエッチング平均深さ」および「シリコーン樹脂を被覆後の凸部の平均ピッチ」の意味ではなく、「エッチング後における金属層の凸部の平均径」、「エッチング後における金属層のエッチング平均深さ」および「エッチング後における金属層の凸部の平均ピッチ」を意味するものであり、「凹凸の平均深さ」は、何ら記載が無い場合、「シリコーン樹脂を被覆後の凹凸の平均深さ」を意味するものである。
【0033】
尚、本明細書に係るオフセット枚葉印刷機用胴ジャケットとは、オフセット枚葉印刷機に使用されている胴のうち、版胴およびブランケット胴以外の胴に被覆される被覆体(ジャケット)であり、特に、圧胴、渡し胴の被覆体として使用されることが好ましい。
【0034】
圧胴ジャケット(i)および渡し胴ジャケット(ii)の、凸部の平均径、エッチング平均深さ、凸部の最適ピッチの数値範囲および異なる理由の説明は以下の通りである。
【0035】
「圧胴ジャケット」
(i)圧胴ジャケットは、ブランケット胴と圧胴間で紙をプレスして印刷するが、圧胴ジャケットの凸部の径が大きいと先刷り面のベタ絵柄部の未乾燥インキが凸部の大きさに比例して取られて、大きい白抜けが発生する。この白抜けは、小さい程好ましいが、目視で識別できる限界は、径30μm以上である。また、凸部の平均径が小さすぎると(5μm未満だと)、紙との強い印圧及び微小なスリップにより、凸部の磨耗が早く、ジャケット寿命が短くなる。故に、凸部の平均径は10〜30μmであり、好ましくは凸部の平均径15〜25μmである。但し、凸部の径が5μm以下、及び40μm以上のものは除かれ、凸部の径が10〜30μmの集団群が好ましい。
【0036】
圧胴ジャケットの汚れを長期間にわたり防止するためには、ジャケットの凹凸の平均深さが最低20μm以上あるのが好ましい。更に、最表面にコーティングするシリコーン樹脂の耐摩耗性を維持するためには、凹部に厚めのシリコーン樹脂がコーティングできるようにエッチング深さは、30μm以上40μm以下にするのが好ましい。
【0037】
従来のようなセラミックス溶射で表面粗度Rz;30μm以上の粗度にしようとすれば、凸部の径は、30〜80μm位の大きなものが約30%超の比率で発生する。ところが、本発明のエッチング法では、凸部の径が30μm以下で、かつ、深さを30μm以上に加工できる利点がある。
【0038】
当前記エッチング平均深さが50μm超だと凸部が強度的に弱くなる傾向がある。また深さを40μm超に深くすると、凸部の径が10μm未満の山、または山が飛んでしまうものも発生し易くなり、また、コスト的にも高くなる。従って、本発明に係る圧胴ジャケットにおいては、エッチング後における金属層の深さ、すなわちエッチング平均深さは、平均20〜50μm、好ましくは、平均30〜40μmである。
【0039】
次に、凸部の山のピッチであるが、圧胴ジャケットは、先刷り印刷面と圧胴ジャケット間に高い印圧がかかるため、山のピッチが小さい程、多くの(山の数だけ)白抜けが発生する。故に、ピッチは大きくした方が白抜けの数は少なくなる。しかし、紙面を受ける点がまばらになると(ピッチが大きくなると)、後刷り面においてジャケット凸部は強い印圧がかかりブランケット胴から紙へのインキトラッピングは良好だが、凹部の個所は、印圧が低く後刷り面のインキトラッピング不良という問題が発生する。
【0040】
インキトラッピングにあまり影響しない凸部の最大ピッチは、紙厚みによっても異なるが、0.3mm以下である。一方、凸部の最小ピッチは白抜け発生率を小さくするためには0.1mm以上である。よって、圧胴ジャケットの凸部のピッチは、平均0.1〜0.3mmが好ましく、さらに好ましくは平均0.12〜0.25mmであり、最も好ましいのは0.14〜0.2mmである。
【0041】
上記のように、凸部の山のピッチは、任意に選択できるが、凸部の配列を図2Aのような規則正しい碁盤目の配列にすると、多色印刷の場合、数枚(2〜6枚)の圧胴ジャケットと印刷された面の紙が接触し、凸部でインキが取られるときの白ぬけがモアレとなって現れるという印刷障害が出易い。これを防止するためには、凸部の配列を図2Bのようなランダム配列にした方が好ましい。
【0042】
尚、単位面積1mm×1mm当たりの凸部の数は、0.1mmピッチでは100個、0.14mmピッチで50個、0.2mmピッチでは25個、0.3mmピッチでは11個となり、白抜けの個数、および印刷した全体面積に対する白抜け面積率が大きく変化する。
【0043】
本発明の製造方法では、上記ピッチの範囲(平均0.1〜0.3mm)の中で、印刷品質の要求仕様に合わせて任意の大きさにピッチを選択することが出来る。更に、エッチングによる凹凸構造を形成後、シリコーン樹脂をコーティングして樹脂が硬化後の凹凸の平均深さが15〜35μmの圧胴ジャケットにすることにより、インキ汚れがなく、印刷物のスクラッチ傷が無く、白抜けが非常に小さくて数が少なく、かつ、ジャケットの耐久性の非常に長い圧胴ジャケットを提供することが出来る。
【0044】
「渡し胴ジャケット」
(ii)一般に、渡し胴ジャケットは、圧胴部で印刷された紙を次の圧胴へ受け渡すための渡し胴に取り付けるジャケットである。渡し胴には印圧がかからず紙は渡し胴に軽くタッチするだけであるため、ジャケットの凹凸による凸部で紙面のインキが取られてベタ絵柄部の白抜けが発生する要因にはなりにくい。よって、凸部の径は圧胴ジャケットに比べて少々大きくても問題ない。また、渡し胴部では、印刷を行わないため、凸部のピッチを圧胴ジャケットより少々大きくしてもブランケット胴から紙へのインキトラッピング不良という問題は発生しない。渡し胴ジャケットの表面粗度プロフィールとして大切な要因は、紙からジャケットへのインキ汚れを極力抑えるために凹凸の高さを大きくすること、(凹凸高さが大きい程ジャケットのインキ汚れは少なく、かつ、凹部のシリコーン樹脂の磨耗も少なく、ジャケットの寿命が長くなる)、および凸部の高さを一定にすることである(渡し胴では紙がジャケット上を滑りやすいため、山頂点のレベルが一定でないと印刷物のベタ絵柄部にスクラッチ傷が発生し易い)。
【0045】
このような理由から、渡し胴ジャケットの粗度プロフィールは、凸部の平均径を10〜50μmにするのが好ましく、更に好ましくは20〜40μmである。またエッチング平均深さ30〜60μmであり、凸部の平均ピッチは0.1〜0.5mmが好ましく、さらに好ましくは0.2〜0.4mmであり、シリコーン樹脂をコーティングして樹脂が硬化後の凹凸の平均深さは20〜50μmにするのが好ましく、さらに好ましくは30〜40μmである。
【0046】
(オフセット枚葉印刷機用胴ジャケットの製造方法)
本発明に係るオフセット枚葉印刷機用胴ジャケットの製造方法の第2は、金属製基板の表面上にフォトレジスト層を形成する段階(a)と、前記金属製基板を、エッチング法により多数の凸部を残すように表面部を形成する段階(b)と、エッチング後の凸部(ニードル突起)の傘状のバリを除去する段階(c)と、前記表面部の凹凸構造に倣ってプライマー処理およびシリコーン樹脂をコーティングしてシリコーン樹脂層を形成する段階(d)と、を有し、前記コーティング後の凹凸の平均深さが15〜50μmである。
【0047】
本発明に係るオフセット枚葉印刷機用胴ジャケットの製造方法をオフセット枚葉印刷機用圧胴ジャケットの製造方法に適用する場合は、前記コーティング後の凹凸の平均深さが15〜35μmであることが好ましく、渡し胴ジャケットに適用する場合は凹凸の平均深さが20〜50μmになることが好ましい。また上記の理由などから、圧胴ジャケットの場合は、前記コーティング後の凹凸の平均深さが20〜30μmとなることがより好ましく、渡し胴ジャケットの場合は、前記コーティング後の凹凸の平均深さが30〜40μmとなることがより好ましい。
【0048】
本発明に係る圧胴ジャケットにおいて、前記金属製基板は、厚さ0.2〜0.5mmであり、前記段階(b)が前記金属製基板をエッチング法により、凸部の平均径が10〜30μm、エッチング平均深さ30〜40μm、凸部の平均ピッチ0.1〜0.3mmのランダム配列の凹凸構造の表面部に形成する製造方法が好ましい。また上記の理由などから、凸部の平均径が15〜25μmとなることがより好ましく、凸部の平均ピッチが0.12〜0.25mmとなることがより好ましい。
【0049】
本発明に係る渡し胴ジャケットにおいて、前記金属製基板は、厚さ0.2〜0.5mmの金属製基板であり、前記段階(b)が、前記金属製基板をエッチング法により、凸部の平均径が10〜50μm、エッチング平均深さ30〜60μm、凸部の平均ピッチ0.1〜0.5mmの表面部に形成する製造方法が好ましい。また上記の理由などから、凸部の平均径が20〜40μmとなることがより好ましく、凸部の平均ピッチが0.2〜0.4mmとなることがより好ましい。
【0050】
以下図2(A,B)を参照しながら、金属製基板の表面上にフォトレジスト層を形成させ、エッチングすることによって前記表面上に多数の凹凸構造を形成させる方法である、いわゆるフォトエッチングの一形態(段階(a)および(b))について説明する。尚、図2(A,B)は、エッチング後の金属層のドット配列の一例を示すものであり、図2(A,B)のドット径、ドットの平均径、ピッチの数字はあくまでも例示であるため、本発明の範囲はこれに限定されるものではない。
【0051】
図2−Aは、碁盤目状、45度傾斜の点配列(ドット配列)を有するパターンであって、凸部径10〜30μm、凸部ピッチ0.14mmの凹凸構造が形成された金属層をフォトエッチング法で作製している。尚、圧胴ジャケットの場合は、単位面積あたり(1mm×1mm)約10〜100個のドット(凸部)、渡し胴ジャケットの場合は、単位面積あたり(1mm×1mm)約4〜100個のドット(凸部)を有するような金属層であれば点配列の形態にかかわらず、本発明の目的を達成することができる。特に圧胴ジャケットの場合はランダムドット(凸部)配列(図2B)の方が、印刷物のモアレ防止の面からはより好ましい。
【0052】
この場合、前記点配列を有するパターン(ドットの径はエッチング深さにより、太目に調整する)のフィルムまたはガラス原版を用いて、ドットを、フォトレジスト層を形成した金属製基板上に露光、現像、焼付けをし、現像後ドット以外のエリアをエッチング法にて腐食させることにより凸部の径の大きさ、エッチング深さ、凸部の山と山のピッチ(ピッチ)を任意にかつ、正確に形成することができる。特に凸部の山の高さが一定であり、紙面は同じ高さの凸部の面と接触することにより、従来の特許文献1に記載するセラミックス溶射ジャケット(以下セラミックス溶射ジャケットと称する)のような異常に高い突起が存在しない結果、印刷物にスクラッチ傷が発生しにくい。
【0053】
セラミックス溶射ジャケットの場合、凸部の径を小さくしようと思えば、小粒径の溶射材を使用することになるが、径を小さくすると、比例して山の高さも低くなり、小さい凸部の径でかつ高い山の凹凸を形成するのは難しい。
【0054】
加えて、セラミックス溶射ジャケットの場合、凸部の山の配置はランダムで好ましいが、山のピッチを0.1〜0.5mmぐらいの任意の大きさにかつ、広いジャケット面のどの位置でも均一なピッチで形成させるのは、極めて難しい。
【0055】
しかし、本発明の金属製基板の表面上にフォトレジスト層を形成し、ドットを露光、現像、焼付けをし、現像後ドット以外のエリアをエッチング法にて腐食させる方法では、写真製版の原理によって、ドットの大きさ、ピッチを任意に選択でき、また、エッチング深さも自由にコントロールできる。かつ、金属製基板のエッチング前のレベルが、凸部の山の頂点であるため、山の高さは全て同一レベルであり、凹部の深さ方向で全体の凹凸の高さをコントロールしうる。
【0056】
上記フォトレジスト層によるエッチング法で、本発明のような非常に微細な凹凸を形成する場合、凸部(ニードル突起)の形状は、図3のような傘状のバリができる。これは、凸部のニードル突起のレジスト層の接着部において、エッチング速度が遅れることにより生ずる現象である。この僅かなバリが、圧胴として使用した場合に印刷物にドーナツ状の白ぬけとなって現れ、また、バリ部に付着したインキが印刷物に逆転写して、ドーナツ状の汚れとなって印刷障害が発生する。故に、エッチング後に、更にバリ取りを行うことが好ましい。
【0057】
すなわち、上記段階(a)および(b)の後、エッチング後の凸部(ニードル突起)の傘状のバリを除去する段階(c)を行う。
【0058】
当前記バリを除去する方法は、超音波バリ取り、電解研磨バリ取り、化学処理(強酸にディッピング)等があり、非常に微小のバリを選択除去する方法としては、化学処理の一種であるネプロス処理(ブランド名)が挙げられる。また、当前記ネプロス処理とは、化学研磨液である酸性液体に上記段階(b)で表面部に凹凸構造を形成した金属基板を投入し、当前記金属基板表面を溶かすことにより均一に研磨するものであり、本発明においてネプロス処理でバリを除去することが好ましい。
【0059】
なお、本発明に係るネプロス処理の条件は適宜選択されるものであって特に制限されないが、例えば、ネプロス処理に利用する化学研磨液(ネプロス液)と水などの溶媒とを所定比で混合した溶液を40〜60℃に加温にして、上記エッチング処理後の凹凸構造のある基板を30分〜50分浸漬し、更に水洗、中和、水洗して行うことが好ましい。
【0060】
上記エッチング後の凸部(ニードル突起)の傘状のバリを除去する段階(c)の後、前記表面部の凹凸構造に倣ってプライマー処理およびシリコーン樹脂をコーティングしてシリコーン樹脂層を形成するが、当前記エッチング後の凹凸構造に倣って直接シリコーン樹脂を金属基板の凹凸構造にコーティングした場合、金属材料(ステンレス)とシリコーン樹脂との密着力は低い。故に、凹凸構造のニードル突起で紙面を受ける複合皮膜構造であっても、シリコーン樹脂の耐摩耗性が低く、短期間でジャケットの凹部のシリコーン樹脂も脱落し、短寿命となる。ステンレス材とシリコーン樹脂の密着力を高めるため、シリコーン樹脂コーティング前にプライマー処理を行うことが長寿命化のために好ましい。
【0061】
またプライマー処理なしで直接シリコーン樹脂をコーティングした場合、ジャケット洗浄材(日研化学製;ブランウォッシュ)を布につけて強く擦ると、比較的簡単にシリコーン皮膜が剥離脱落するが、プライマー処理材を、凹凸構造を有する金属基板に塗布した後に乾燥固化させ、その上からシリコーン樹脂をコーティングし、乾燥硬化した後のシリコーン樹脂は、ジャケット洗浄材(日研化学製;ブランウォッシュ)を布につけて強く擦っても、シリコーン膜は剥離しないことが確認された。すなわち、例えば、プライマー処理剤として、信越化学製プライマーNo.4をトルエン希釈して、刷毛塗りまたはスプレー塗装した後乾燥固化し、その上からシリコーン樹脂をコーティングし、130℃で30分乾燥硬化した後のシリコーン樹脂は、ジャケット洗浄材(日研化学製;ブランウォッシュ)を布につけて強く擦っても、シリコーン膜は剥離しなかった。
【0062】
しかし、当前記プライマー処理剤を刷毛塗りした場合は、プライマーの塗装ムラ、または、毛羽残りがあり、圧胴ジャケットとしての性能は、満足できない。また、スプレー塗装の場合は、プライマーの上からコーティングするシリコーン樹脂のレベリング性が悪く、シリコーン樹脂塗膜乾燥後の表面がマダラ模様(凹凸)となり、このジャケットを実機装着して印刷すると、印刷面の光沢がマダラ模様となって低下するという問題が発生した。
【0063】
その他のプライマー処理として、イトロ処理(イトロ処理研究所)があり、例えば、特開2007−51186号に記載の方法を本発明に適用することができる。
【0064】
当前記イトロ処理とは、火炎を形成するための燃料のガス中にシラン化合物を混入し、その火炎を用いて、固体基材の表面を処理するものである。この処理により、主にSiO2を構成成分とするナノレベルの粒子が、処理された基材の表面に多数形成される。この
ナノレベルの膜が、基材(ステンレス材)と強固に結合し、また、シリコーン樹脂との結合力も強いため、基材(ステンレス)とシリコーン樹脂との密着力が非常に強くなる。
【0065】
本発明に係るイトロ処理の条件は適宜選択されるものであって、特に制限されることはないが、例えば当前記イトロ処理の条件として、イトロ社製処理装置(バーナー長:150mm、バーナー移動:リニア)を使用し、プロパンガス流量:3〜4L/min、エアー流量:80〜110L/min、イトロガス流量:0.5〜1.6L/min、距離:20〜40mm、処理スピード(バーナー移動速度):250〜700mm/secで種々条件を触らしてテストしており、何れのイトロ処理条件でも、シリコーン樹脂の密着力は大幅に向上したことが確認されている。
【0066】
以下、イトロ処理有、無の密着力の差の比較テスト結果を表2、表3に示す。
【0067】
【表2】
【0068】
【表3】
【0069】
上記プライマー処理としては、イトロ処理がより好ましい。
【0070】
上記のように凹凸構造を表面部に有する金属基板をプライマー処理した後に、さらにその表面部にシリコーン樹脂のコーティングを行うは、スプレーコーティング、ローラーコーティング、はけ塗り方法、スピンコーティング、デッピングの後高速回転による塗布等であり、好ましくはスプレーコーティング方法が用いられる。また、シリコーン樹脂をコーティングした後、100〜150℃で10〜60分乾燥固化させることが好ましい。
【0071】
これにより、本発明に係る圧胴ジャケットおよび渡し胴ジャケットが、前記構造および前記凹凸の深さを有することにより、印圧が均等にかかり、印刷物のスクラッチ傷、白抜け、インキトラッピング不良などの印刷障害を最小にし、かつジャケット汚れの少ない安定した品質を確保することが可能となる。
【0072】
以上のことから、本発明に係る圧胴ジャケットと渡し胴ジャケットおよびそれらの製造方法は、同じインキ汚れ防止の目的であっても、使われる場所の違いにより、印刷品質への影響は大きく異なり、その違いを詳細に調査分析することにより従来の技術にない新たな最適表面プロフィールのジャケットを発明した。これは、溶射という粗面形成プロセスでは実現しがたい全く新しいジャケット製造技術である。
【0073】
(オフセット枚葉印刷機用胴ジャケットおよびその製造方法における各構成要素)
本発明に係る金属製基板は、ステンレス鋼、アルミニウム、銅、ニッケルなどの単独の金属およびそれらの合金等が選択される。すなわち、前記金属類は、圧胴および渡し胴にジャケットを装着する際に十分な密着性を確保できる金属であれば本発明の目的を達成することができるため、耐食性、耐磨耗性、強度およびコストなどを判断し、適宜選択されるものである。
【0074】
本発明に係るシリコーン樹脂の材質としては、ガムテープ剥離力20g以下のシリコーン樹脂が好ましく、例えば信越化学製のKNS−316、KE45TSタイプ等が好ましい。また本発明において、シリコーン樹脂は非粘着性樹脂の一例であるため他の非粘着性樹脂を用いても良い。
【0075】
本発明に係る圧胴ジャケット及び渡し胴ジャケットにおけるシリコーン樹脂層の膜厚は、図1で示すように、凸部では薄く、凹部では凸部より厚いため、凹部および凸部によって異なる。シリコーン樹脂層の膜厚は適宜選択されるが、凸部における膜厚は薄く、数ミクロン以下であることが好ましく、具体的には、圧胴ジャケットの凸部における膜厚は、1〜5μmであり、圧胴ジャケットの凹部における膜厚は5〜15μmであることが好ましい。また、渡し胴ジャケットの凸部における膜厚は、1〜5μmであり、渡し胴ジャケットの凹部における膜厚は5〜30μmであることが好ましい。
【0076】
本発明に係るシリコーン樹脂層の厚みは、シリコーン樹脂コーティング後の凹凸深さで管理されることが好ましい。
【0077】
また、本発明に係るシリコーン樹脂コーティング後の凹凸平均深さを、同時コーティングしたエッチングなしのダミープレートのシリコーン樹脂膜厚を測定し、エッチング深さとシリコーン樹脂膜厚の差で管理されることが好ましい。
【0078】
当前記凹凸構造面にシリコーン樹脂をコーティングすると、凸部は、非常に小さな面積のため、ほとんどのシリコーン樹脂は、凹部に流れ込み、凸部には極僅かしか残らない。また、凹部にコーティングされたシリコーン樹脂の膜厚は、電磁膜厚計または渦電流膜厚計等では、計測できない。故に、本発明に係る胴ジャケットにシリコーン樹脂コーティングの際に、エッチングしていないダミープレート(製品と同材質・同厚み)も同時に同じスプレー条件でコーティングして、ダミープレート上の膜厚を塗料の膜厚計で計測する。そして、エッチング深さとダミープレートの平面上でのシリコーン樹脂膜厚の差で、コーティング後の凹凸深さを管理する(エッチング深さは、マイクロデップスゲージ:1/1000mmで測定可能であるが、シリコーン樹脂コーティング後の凹凸深さは、ディップスゲージのニードルが樹脂に刺さって樹脂上面までの深さを正確に計測できないため)。厳密には、凸部の体積相当分が、平面部の膜厚みより凹部の膜厚が厚くなるが、凸部の体積は、全体の3.5%(ピッチ0.14mm、凸部底部の径φ30μmのケース)程度であり、ほとんど凹部の膜厚には影響しない(平面でコーティングした膜厚と凹部の膜厚は、ほぼ等しいと考えてよい。)。
【0079】
尚、シリコーン樹脂層のコーティング後の深さは、圧胴ジャケットの場合は、15μm〜35μm、渡し胴ジャケットの場合は、20μm〜50μmである。
【0080】
本発明において、多数の凹部を有する表面部を形成する方法としては、エッチング方法が用いられる。一般的にエッチング方法は2種類あり、1つ目はドライエッチング、2つ目はウェットエッチングである。
【0081】
本発明に係る圧胴ジャケット、渡し胴ジャケットおよびそれらの製造方法に用いるエッチングは、ドライエッチング、ウェットエッチングのどちらでもよいが、ウェットエッチングが好ましい。ドライエッチング法としては、ガスエッチング、光励起エッチング、イオンアシストエッチング、イオンミリング、ケミカルドライエッチング、円筒型プラズマエッチング、マイクロ波プラズマエッチング、反応性イオンビームエッチング、スパッタエッチング、レーザービームエッチングなど、使用する金属に応じて適宜用いられる。また好ましくは、反応機構が化学的エッチングがよい。
【0082】
ウェットエッチング法では、エッチング液は硫酸系、塩酸系、ハロゲン化水素系、ヨウ素系およびこれらの混合物などが一般的に挙げられるが、使用するレジスト材料および金属製基板などによって適宜選択され、公知のエッチング液を使用することができる。従って本発明に係る範囲は、エッチング液の種類によって限定されるものではない。
【0083】
本発明の圧胴ジャケットは、金属製基板の表面上にフォトレジスト層を形成し、エッチング法にて腐食させることより凸部の径の大きさ、深さ、最隣接凸部間のピッチを所望の範囲にすることができ、かつ、正確に形成することが出来る。この場合におけるフォトレジストは、ポジ型、ネガ型のいずれの場合であってもよく、好ましくはネガ型である。
【0084】
また、ネガ型レジストポリマーは、特に限定されないが、酸の作用によりアルカリ可溶性が変化する樹脂成分と露光により酸を発生する酸発生剤成分を含有してなる化学増幅型ものでもよく。この化学増幅型レジストは、これまでKrF用、ArF用、F2用、電子線用、X線用などが挙げられる。
【0085】
フォトレジスト層を形成するネガ型ポリマーは使用する金属製基板の材質である金属などによって適宜選択されるが、スチレン系樹脂、フッ素化アルコール系樹脂、分子内脱水エステル化による逆極性変化を利用するエステル系樹脂が挙げられる。
【0086】
同様に、フォトレジスト層を形成するポジ型ポリマーとしては、ノボラック樹脂、デンドリマー型、ポリメタクリル酸エステル系樹脂、ノルボルネン系の脂環式樹脂、無水マレイン酸含有樹脂、フッ素系樹脂などである。
【0087】
上記酸発生剤は、ヨード化合物であるWPAG−145(和光製)、WPAG−170、WPAG−199、パラメトキシスチリルトリアジンなどのトリアジン系、ジフェニルヨードニウムトリフルオロメタンスルホネート、(4−メトキシフェニル)フェニルヨードニウムトリフルオロメタンスルホネート、ビス(p−tert−ブチルフェニル)ヨードニウムトリフルオロメタンスルホネート、トリフェニルスルホニウムトリフルオロメタンスルホネート、(4−メトキシフェニル)ジフェニルスルホニウムトリフルオロメタンスルホネートなどスルホネート系の酸発生剤など挙げられ、使用するポリマーによって酸発生剤は適宜選択される。
【0088】
尚、フォトレジスト層を形成するポリマー、現像液、酸発生剤、溶解抑制剤、剥離剤などは上記のものに限らず、公知のものを使用でき、本発明の範囲はこれらに限定されるわけではないことは言うまでもない。
【0089】
本発明に係る圧胴ジャケットは、最表面にコーティングするシリコーン樹脂の非粘着性指標としてのガムテープ剥離力が20g以下の特性のものが好ましい。
【0090】
乾燥硬化するタイプの低表面エネルギー樹脂(シリコーン樹脂)に限定しても、無数の樹脂がある。従来開示されている低表面エネルギー樹脂としては、水との表面張力の非常に低いものもあるが、表面張力が低ければ低いほど圧胴ジャケットへのインキ付着性が低いかといえば必ずしもそうとは限らない。本発明者の様々な実験結果、表面エネルギー指標(表面張力;水との接触角測定より計算で求める)より、本発明者が考案したガムテープ剥離力のほうが、圧胴ジャケットのインキ付着性の評価方法として優れている。
【0091】
ここで記載した非粘着性指標としてのガムテープ剥離力とは、本特許発明者が独自に考え出した定量的な評価方法で、25mm幅の日東電工製布粘着テープ(品番:N0.750)を乾燥硬化した非粘着性樹脂の表面に貼り付け、そのテープを直角方向に引き剥がす力を測定し、その力の大きさで非粘着性を計測するものである。
【0092】
また、ガムテープ剥離力がいくら以下なら圧胴ジャケットのインキ付着防止効果が高いかを実機の印刷操業にて長期間のテストを実施した結果、枚葉印刷機のインキ特性のもとでは、ガムテープ剥離力が30g以上では、数千枚の印刷でジャケット汚れが発生し、印刷途中でジャケット洗浄を行う必要があるが、20g以下では、1万枚〜数万枚に1回の洗浄頻度に低減できることが確認された。
この指標を非粘着性樹脂の選定指標にすることにより、圧胴ジャケットの汚れ防止効果をより適確に判断することができる。
【0093】
渡し胴ジャケット用シリコーン樹脂のガムテープ剥離力は、圧胴ジャケット用に比べて、もっと高くても充分効果があるが、ジャケット洗浄頻度をより少なくするには、低ければ低いほどよく、圧胴ジャケット用と同じシリコーン樹脂を用いるのが好ましい。
【0094】
本発明に係るガムテープ剥離力に用いられるガムテープの種類や品番に限定される必要はない。但し、使用されるガムテープを変更するとガムテープ剥離力の大きさが変化するが、JIS Z0237−12規格で傾斜式ボールタック装置の使用により同じ剥離力(接着力)を有するガムテープを使用したり、特定の剥離力を有するジャケットを基準として他のガムテープを使用した際の剥離力を測定できるためにガムテープの種類を変更しても本発明の技術的思想の範囲である。
【実施例】
【0095】
以下実施例について記載するが、下記の実施例に本発明は限定されるものではない。
【0096】
(実施例1)
厚さ0.37mmのステンレスプレート(SUS 304 2B)を脱脂後、フォトレジスト(ドライフィルム)を(ラミネート法)にてコーティングした。
一方、写真製版にて、ドット径100μm、ドットのピッチ0.14mm、ドットの配列は碁盤目(ランダム配列)で45度傾斜のフィルム原版を作製した。
【0097】
フォトレジストをコーティングしたSUSプレート上にドットを写真製版したフィルム原版を載せ、露光、現像(スプレー)、焼付け(硬化)して、SUSプレート上にはドット部のみにレジストが残るようにした。
【0098】
このSUSプレートにエッチング液をスプレー噴射し、深さ40μmになるようにエッチングを行った後、剥離液をスプレーして凸部上のレジストを除去し、スプレー洗浄した。このときの凸部径は、平均20μm(max30〜min4μm)、ピッチ;平均0.14mm、凹凸深さ;平均40μm(max43〜min37μm)であった。
【0099】
エッチング処理後、ネプロス処理(化学処理によるバリ取りの一種)を行って、凸部(ニードル突起)の傘状のバリ取りを行った。当前記ネプロス処理は、ネプロス処理液(基本液(ネプロス液):水=1:3)を50±3℃に加温した浴槽の中に、上記エッチング処理後の凹凸構造のあるSUS板を35分〜40分浸漬し、更に水洗、中和、水洗して行った。
バリ取りにより、ドット径は平均4μm、深さは平均2μm小さくなった。バリ取りなしのジャケットも比較のため、作成した)エッチング後の凸部の点配列のパターンを図2A、図2Bに示す。
【0100】
エッチング後、シリコーン樹脂コーティング前のプライマー処理として、イトロ処理を行った後、プレートの上にシリコーン樹脂(信越化学(株)製;KNS316)100質量部、トルエン100質量部および硬化触媒(信越化学(株)製CAT−P56)3質量部で混合攪拌した溶液を、スプレー方式によりコーティングした後、130℃の乾燥炉で30分間乾燥硬化させ、乾燥硬化後の表面の凹凸深さ:25μmである圧胴ジャケットを製造した。
【0101】
尚、当前記イトロ処理の条件は、イトロ社製処理装置(バーナー長:150mm、バーナー移動:リニア)を使用し、プロパンガス流量:3L/min、エアー流量:80L/min、イトロガス流量:0.5L/min、距離:20〜40mm、処理スピード:250mm/secで行った。
【0102】
本発明において、エッチング(平均)深さは、Mitutoyo製デジタルマイクロディップスゲージ(デジマチックインジケータ;ID−C112BC, 測定範囲;12.7―0.001mm)を使用した。また、凹凸深さの測定法は、バリ取り後のプレート上にシリコーン樹脂をコーティングする時に同時にエッチングなしのダミープレート上にも同じスプレー条件でコーティングし、ダミープレート上のシリコーン樹脂膜厚をKEYENCE製過電流式変位センサ(高精度デジタル変位センサ;EX−110V, 測定範囲:0〜2mm、 分解能:0.4μm)にて測定し、エッチング深さとダミープレートの平面でのシリコーン樹脂膜厚との差を計算して、コーティング後の凹凸深さとした。
【0103】
(実施例2)
写真製版時のピッチが、0.3mmである以外は、実施例1と同じ方法でエッチングによる凹凸プロフィールの形成・シリコーン樹脂コーティングを行って圧胴ジャケットを作製した。
【0104】
このときのエッチング後の凸部径は、平均24μm(max32〜min20μm),ピッチ;平均0.3mm、凹凸深さ;平均38μm(max40〜min37μm)であり、シリコーン樹脂コーティング後の凹凸深さは;23μmあった。
【0105】
(実施例3)
写真製版時のピッチが、0.5mmである以外は、実施例1と同じ方法でエッチングによる凹凸プロフィールの形成・シリコーン樹脂コーティングを行って圧胴ジャケットを作製した。
【0106】
このときのエッチング後の凸部径は、平均25μm(max33〜min20μm),ピッチ;平均0.5mm、凹凸深さ;平均41μm(max42〜min39μm)であり、シリコーン樹脂コーティング後の凹凸深さは、28μmあった。
【0107】
(比較例)
厚さ0.3mmのSUSプレートを脱脂、ブラスト後、金属溶射材として10〜38μmの粒度範囲のNi−Crを膜厚30μm溶射し、更にセラミックス溶射材として10〜44μmのG−Al2O3を膜厚40μm溶射して、製品厚0.37mmとした。そのときの表面粗度はRz;32μmであった。更に、実施例1と同じシリコーン樹脂を同じ要領でコーティングした後の表面粗度がRz;28μmのセラミックス溶射圧胴ジャケットを作製した。ただし、シリコーン樹脂コーティング前のプライマー処理は行わなかった。ここでの粗度測定法は、JIS0601−1982による粗度測定時の測定長さは、4.0mmである。
【0108】
(実施例4)
実施例1、実施例2、実施例3および比較例で作製した圧胴ジャケットを、AIC(アキヤマインターナショナル(株))製オフセット枚葉両面印刷機JP4P440の機械の圧胴に装着し、コート紙への両面印刷テストを行った。
【0109】
比較例のジャケットは、過去10年以上の長期実績のある製品であり、印刷品質、寿命の面でも、現存するジャケットでは、最も優れているものとされている。
それに対して、本発明の実施例1は、ジャケットのインキ汚れが更に少なく、比較例で問題のあったスクラッチ傷が大幅に減少し、また、白抜けの大きいもの(30μm以上で目視でも識別できるようなもの)が半減し、白抜け面積率は比較例よりやや減少した。後刷り面でのインキトラッピングも全く問題の無いものであった。
【0110】
また、ジャケット寿命で最もクリティカルな要因であるシリコーン樹脂の磨耗によるインキ汚れについても、比較例に対して凸部の径を小さくしたにもかかわらず(比較例のセラミックス溶射ジャケットは、10〜80μmに対して、本発明のエッチングジャケットは5〜30μm)、凹凸深さを40μm(バリ取り後は、38μm)と深くしているため、凹部のシリコーン樹脂耐磨耗性が非常に向上し、セラミックス溶射ジャケットの寿命(耐刷枚数約2000万枚)より更に1.5倍の寿命延長が図られた。
【0111】
また、実施例1で、凸部の配列が規則正しい碁盤目(図2A)のものと、ランダム配列(図2B)のものを比較すると、碁盤目配列の方が凸部のインキ取られによる白ぬけが線状になる事によるモアレ現象が出易かった。(1点1点の白ぬけは、非常に細かくて目視では全く判らないが、白ぬけが線状に並んで集まってくると目立ちやすくなる)。よって圧胴用エッチングジャケットの場合は、凸部の配列はランダム配列にする方がより好ましいことが確認された。
【0112】
また、実施例1で、エッチング後のバリ取りなしで、その他は、全く実施例1と同じ条件のジャケットによる実機印刷テストでは、凸部(ニードル突起)の傘状のバリによるインキ取られで、ドーナツ状の白ぬけが発生し、また、バリに取られたインキが紙面に逆転写してドーナツ状の汚れが発生する。故に、エッチング後は、バリ取りを行うことがより好ましいことが確認された。
【0113】
実施例2は、実施例1より更に印刷物の白抜けの数および面積率が1/5に減少し、印刷品質が向上した。
【0114】
後刷り面のインキトラッピングは、凸部のピッチが大きい分やや悪くなる傾向はあるが、全体の印圧調整(印圧をやや強くする)により、充分カバーできる程度のものであった。シリコーン樹脂の磨耗は、実施例1に比べると凸部のピッチが大きい分だけ紙面と凹部の樹脂が接触し易くなり、寿命は短めとなるが、比較例との寿命差は無い。実施例3は、比較例よりは良いものの実施例1、2に比べると凸部のピッチが大きすぎて、薄紙の場合は凸部が紙に刺さるような現象となり、また、後刷り面のインキトラッピングも劣り、総合評価としては良くはない。以上のことから、凸部の平均ピッチは、0.1〜0.3mmが好ましいことが判った。
【0115】
(実施例5)
オフセット印刷機用圧胴に用いる非粘着性樹脂の評価尺度として、本発明者はガムテープ剥離力の測定法を考案した。
【0116】
平板上に非粘着性樹脂の一例としてシリコーン樹脂を塗布し、乾燥硬化したサンプル表面に日東電工株式会社製;布粘着テープNo.750、テープ幅25mm×長さ70mmのうち、50mm長さを貼り付け、一定の力(1000g)で、全面均一に押さえつける。
【0117】
本明細書においてはガムテープの一端をバネばかりに貼り付けて、垂直方向に一定速度で引き上げガムテープが完全に剥がれるまでの最大値をガムテープ剥離力と定義する。
この方法で測定した様々なガムテープ剥離力のシリコーン樹脂を実施例1のエッチングによる凹凸構造形成後の表面にコーティングし、圧胴ジャケットを製造した。これ等の圧胴ジャケットをオフセット枚葉両面印刷機に装着して印刷操業を行った。
【0118】
コート紙に表4色×裏4色の両面印刷を行った結果、ガムテープ剥離力が30g以上の圧胴ジャケットの場合、インキ・紙の種類によっても異なるが、2000枚〜5000枚の印刷でジャケット上の絵柄部全面にインキが付着堆積し、印刷障害(印刷物のよがれ、ダブリ)がでるため、そのまま印刷を続行できない(印刷途中で圧胴ジャケット洗浄が必要になる)。それに対して、20g以下ではジャケット洗浄なしでの印刷可能枚数が10000枚をこえ、10g以下では、30000枚を超えるということが判った。
【0119】
そして以上のことから、一般的なオフセット枚葉印刷の印刷物の1ロット当たりの枚数は、5000〜10000枚以上あるのが普通で、最低1回のジャケット洗浄で10000枚以上の印刷が可能な洗浄頻度に抑えないと圧胴ジャケットとして実用的に使用できない(作業効率の低下、ヤレ紙の増大)。故に、シリコーン樹脂等の非粘着性樹脂としては、乾燥硬化した状態で、ガムテープ剥離力が20g以下、好ましくは10g以下のものを使用することが望ましいことが判った。
【0120】
(実施例6)
厚さ0.30mmのステンレスプレート(SUS 304 2B)を脱脂後、フォトレジスト(ドライフィルム)を(ラミネート法)にてコーティングした。一方、写真製版にてドット径140μm、ピッチ0.5mm、ドット配列は碁盤目で45度傾斜のフィルム原版を作製した。フォトレジストをコーティングしたSUSプレート上にドットを写真製版したフィルム原版を載せ、露光、現像(スプレー)、焼付け(硬化)して、SUSプレート上にはドット部のみにレジストが残るようにした。
【0121】
このSUSプレートにエッチング液をスプレー噴射し、深さ50μmになるようにエッチングを行った後、剥離液をスプレーしてドット(凸部)上のレジストを除去し、スプレー洗浄した。このときの凸部径は、平均40μ(max43〜min35μm)、ピッチ;0.5mm、深さ;平均50μm(max53〜min45μm)であった。エッチング処理後、上記の実施例1と同様のネプロス処理(化学処理によるバリ取りの一種)を行って、凸部(ニードル突起)の傘状のバリ取りを行った。バリ取りにより、ドット径は平均4μm、深さは平均2μm小さくなった。バリ取りなしのジャケットも比較のため、作成した。
【0122】
エッチング後、シリコーン樹脂コーティング前のプライマー処理として、上記の実施例1と同様のイトロ処理を行った後、このエッチングプレートの上にシリコーン樹脂(信越化学(株)製;KNS316)100部、トルエン100部および硬化触媒(信越化学(株)製CAT−P56)3部を混合攪拌した溶液をスプレー方式でコーティングした後、130℃の乾燥炉で30分間乾燥硬化させ、乾燥硬化後の表面粗度が凹凸平均深さ40μmである渡し胴ジャケットを製造した。
【0123】
この渡し胴ジャケットをハイデルベルグ社製オフセット枚葉両面印刷機SM102の機械の渡し胴に装着し、コート紙への両面印刷テストを行った。実施例3の圧胴ジャケットの場合、凸部のピッチを0.5mmに大きくすると、薄紙の場合は凸部に紙が刺さるような現象となり、また、後刷り面のインキトラッピング不良という問題も発生し、総合的に良い結果は出なかったが、実施例6の渡し胴ジャケットでは、印圧がかからないため、凸部径を大きくし、かつ、山のピッチを0.5mmと大きくしても、凸部が紙に刺さることによるスクラッチ傷、後刷り面のインキトラッピング不良等の印刷障害も無く、かつ、ジャケットへのインキ汚れも非常に少なく、ジャケット洗浄頻度を大幅に少なくすることができた。更に実施例1を渡し胴ジャケットとして使用した場合と比較すると、凸部の径が大きく、深さをより深くすることによりシリコーン樹脂の耐磨耗性はさらに向上し、寿命延長に大きく寄与することが判った。
【0124】
また、エッチング後のバリ取りの有無の比較では、圧胴ジャケットほど、バリによる印刷品質への影響は少ないが、傾向的にはバリ取りした方がよりスクラッチ傷が出にくく、バリ取りした方が好ましい。また、従来技術の特開平8−12151号公報の請求項8〜16、17のセラミックス溶射渡し胴ジャケットと比較して、このジャケットは、表面粗度が大きくなってもセラミックス溶射ジャケットのような異常突起がないためスクラッチ傷が発生しない。または、特開平8−12151号公報の請求項16および17の渡し胴用ガラスビーズコーティングフィールムとの比較において、フィルムが絶縁体であることによる帯電トラブルがあるのに対して本ジャケットは導電性のため全く問題なく、またガラスビーズとフィルムの接着強度が低い(耐溶剤性)ことによるガラスビーズ脱落等の問題も無く、寿命は、渡し胴用ガラスビーズフィルムの数倍の耐久性があった。
【符号の説明】
【0125】
1 金属製基板
2 金属粉溶射層
3 セラミックス溶射層
4 シリコーン樹脂
11 金属層の上面における凹凸部のピッチ
12 シリコーン樹脂層の上面における凹凸部のピッチ
13 凹凸の深さ
14 エッチング深さ
15 最隣接するシリコーン樹脂層の凸部間において、最上面の端と端とを結ぶ距離
16 最隣接する金属層の凸部間において、最上面の端と端とを結ぶ距離
19 シリコーン樹脂層の上面における凸部の径
20 金属層の上面における凸部の径
21 金属層の上面における凸部の径
22 シリコーン樹脂層の上面における凸部の径
【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さ0.2〜0.5mmの金属製基板の表面部に、エッチング法により、凸部の平均径10〜50μm、エッチング平均深さ30〜60μm、凸部の平均ピッチ0.1〜0.5mmの凹凸構造が形成された金属層と、
前記金属層の表面部の凹凸構造に倣ってコーティングされたシリコーン樹脂層と、
を有し、前記シリコーン樹脂層が硬化後の凹凸の平均深さが、15〜50μmであることを特徴とするオフセット枚葉印刷機用胴ジャケット。
【請求項2】
厚さ0.2〜0.5mmの金属製基板の表面部に、エッチング法により、凸部の平均径10〜30μm、エッチング平均深さ30〜40μm、凸部の平均ピッチ0.1〜0.3mmのランダム配列の凹凸構造が形成された金属層と、
前記金属層の表面部の凹凸構造に倣ってコーティングされたシリコーン樹脂層と、
を有し、
前記シリコーン樹脂層硬化後の凹凸の平均深さが、15〜35μmである、請求項1に記載のオフセット枚葉印刷機用胴ジャケット。
【請求項3】
前記シリコーン樹脂は、乾燥硬化した後の非粘着性指標としてのガムテープ剥離力が20g以下の特性のものであることを特徴とする、請求項1または2に記載のオフセット枚葉印刷機用胴ジャケット。
【請求項4】
請求項1または3に記載のオフセット枚葉印刷機用胴ジャケットは、前記シリコーン樹脂層が硬化後の凹凸の平均深さが、20〜50μmであり、かつオフセット枚葉印刷機用渡し胴ジャケットである。
【請求項5】
請求項2または3に記載のオフセット枚葉印刷機用胴ジャケットは、オフセット枚葉印刷機用圧胴ジャケットである。
【請求項6】
金属製基板の表面上にフォトレジスト層を形成する段階(a)と、
前記金属製基板を、エッチング法により多数の凸部を残すように表面部を形成する段階(b)と、
エッチング後の凸部(ニードル突起)の傘状のバリを除去する段階(c)と、
前記表面部の凹凸構造に倣ってプライマー処理およびシリコーン樹脂をコーティングしてシリコーン樹脂層を形成する段階(d)と、
を有し、
前記コーティング後の凹凸の平均深さ15〜50μmになることを特徴とするオフセット枚葉印刷機用胴ジャケットの製造方法。
【請求項7】
金属製基板の表面上にフォトレジスト層を形成する段階(a)と、
前記金属製基板を、エッチング法により多数の凸部を残すように表面部を形成する段階(b)と、
エッチング後の凸部(ニードル突起)の傘状のバリを除去する段階(c)と
前記表面部の凹凸構造に倣ってプライマー処理およびシリコーン樹脂をコーティングしてシリコーン樹脂層を形成する段階(d)と、
を有し、
前記コーティング後の凹凸の平均深さが15〜35μmになることを特徴とする、請求項6に記載のオフセット枚葉印刷機用胴ジャケットの製造方法。
【請求項8】
前記シリコーン樹脂は、乾燥硬化した後の非粘着性指標としてのガムテープ剥離力が20g以下の特性のものであることを特徴とする、請求項6または7のいずれかに記載のオフセット枚葉印刷機用胴ジャケットの製造方法。
【請求項9】
請求項6または8に記載のオフセット枚葉印刷機用胴ジャケットの製造方法は、前記コーティング後の凹凸の平均深さが20〜50μmになるオフセット枚葉印刷機用渡し胴ジャケットの製造方法であって、
前記金属製基板は、厚さ0.2〜0.5mmの金属製基板であり、前記段階(e)が、前記金属製基板をエッチング法により、凸部の平均径が10〜50μm、エッチング平均深さ30〜60μm、凸部の平均ピッチ0.1〜0.5mmの表面部に形成することを特徴とする、請求項6および8のいずれか1項に記載のオフセット枚葉印刷機用渡し胴ジャケットの製造方法。
【請求項10】
請求項6および請求項8〜9のいずれかの1項に記載のオフセット枚葉印刷機用胴ジャケットの製造方法は、前記コーティング後の凹凸の平均深さが20〜50μmになるオフセット枚葉印刷機用渡し胴ジャケットの製造方法であって、
前記段階(c)の後、前記シリコーン樹脂の厚みを金属層の凸部は1〜5μm、凹部は5〜30μmになるように、同時コーティングしたエッチングなしのダミープレートのシリコーン樹脂膜厚を測定し、エッチング深さとシリコーン樹脂膜厚の差でコーティング後の凹凸深さを管理することを特徴とする、請求項6ならびに請求項8〜9のいずれか1項に記載のオフセット枚葉印刷機用渡し胴ジャケットの製造方法。
【請求項11】
請求項7または8に記載のオフセット枚葉印刷機用胴ジャケットの製造方法は、オフセット枚葉印刷機用圧胴ジャケットの製造方法であって、
前記金属製基板は、厚さ0.2〜0.5mmであり、前記段階(b)が前記金属製基板をエッチング法により、凸部の平均径が10〜30μm、エッチング平均深さ30〜40μm、凸部の平均ピッチ0.1〜0.3mmのランダム配列の凹凸構造の表面部に形成することを特徴とする、請求項7または8に記載のオフセット枚葉印刷機用圧胴ジャケットの製造方法。
【請求項12】
請求項7および8ならびに11のいずれかの1項に記載のオフセット枚葉印刷機用胴ジャケットの製造方法は、オフセット枚葉印刷機用圧胴ジャケットの製造方法であって、
前記段階(c)の後、前記シリコーン樹脂の厚みを金属層の凸部は1〜5μm、凹部は5〜20μmになるように、同時コーティングしたエッチングなしのダミープレートのシリコーン樹脂膜厚を測定し、エッチング深さとシリコーン樹脂膜厚の差でコーティング後の凹凸深さを管理することを特徴とする、請求項7および8ならびに11のいずれかの1項に記載のオフセット枚葉印刷機用圧胴ジャケットの製造方法。
【請求項1】
厚さ0.2〜0.5mmの金属製基板の表面部に、エッチング法により、凸部の平均径10〜50μm、エッチング平均深さ30〜60μm、凸部の平均ピッチ0.1〜0.5mmの凹凸構造が形成された金属層と、
前記金属層の表面部の凹凸構造に倣ってコーティングされたシリコーン樹脂層と、
を有し、前記シリコーン樹脂層が硬化後の凹凸の平均深さが、15〜50μmであることを特徴とするオフセット枚葉印刷機用胴ジャケット。
【請求項2】
厚さ0.2〜0.5mmの金属製基板の表面部に、エッチング法により、凸部の平均径10〜30μm、エッチング平均深さ30〜40μm、凸部の平均ピッチ0.1〜0.3mmのランダム配列の凹凸構造が形成された金属層と、
前記金属層の表面部の凹凸構造に倣ってコーティングされたシリコーン樹脂層と、
を有し、
前記シリコーン樹脂層硬化後の凹凸の平均深さが、15〜35μmである、請求項1に記載のオフセット枚葉印刷機用胴ジャケット。
【請求項3】
前記シリコーン樹脂は、乾燥硬化した後の非粘着性指標としてのガムテープ剥離力が20g以下の特性のものであることを特徴とする、請求項1または2に記載のオフセット枚葉印刷機用胴ジャケット。
【請求項4】
請求項1または3に記載のオフセット枚葉印刷機用胴ジャケットは、前記シリコーン樹脂層が硬化後の凹凸の平均深さが、20〜50μmであり、かつオフセット枚葉印刷機用渡し胴ジャケットである。
【請求項5】
請求項2または3に記載のオフセット枚葉印刷機用胴ジャケットは、オフセット枚葉印刷機用圧胴ジャケットである。
【請求項6】
金属製基板の表面上にフォトレジスト層を形成する段階(a)と、
前記金属製基板を、エッチング法により多数の凸部を残すように表面部を形成する段階(b)と、
エッチング後の凸部(ニードル突起)の傘状のバリを除去する段階(c)と、
前記表面部の凹凸構造に倣ってプライマー処理およびシリコーン樹脂をコーティングしてシリコーン樹脂層を形成する段階(d)と、
を有し、
前記コーティング後の凹凸の平均深さ15〜50μmになることを特徴とするオフセット枚葉印刷機用胴ジャケットの製造方法。
【請求項7】
金属製基板の表面上にフォトレジスト層を形成する段階(a)と、
前記金属製基板を、エッチング法により多数の凸部を残すように表面部を形成する段階(b)と、
エッチング後の凸部(ニードル突起)の傘状のバリを除去する段階(c)と
前記表面部の凹凸構造に倣ってプライマー処理およびシリコーン樹脂をコーティングしてシリコーン樹脂層を形成する段階(d)と、
を有し、
前記コーティング後の凹凸の平均深さが15〜35μmになることを特徴とする、請求項6に記載のオフセット枚葉印刷機用胴ジャケットの製造方法。
【請求項8】
前記シリコーン樹脂は、乾燥硬化した後の非粘着性指標としてのガムテープ剥離力が20g以下の特性のものであることを特徴とする、請求項6または7のいずれかに記載のオフセット枚葉印刷機用胴ジャケットの製造方法。
【請求項9】
請求項6または8に記載のオフセット枚葉印刷機用胴ジャケットの製造方法は、前記コーティング後の凹凸の平均深さが20〜50μmになるオフセット枚葉印刷機用渡し胴ジャケットの製造方法であって、
前記金属製基板は、厚さ0.2〜0.5mmの金属製基板であり、前記段階(e)が、前記金属製基板をエッチング法により、凸部の平均径が10〜50μm、エッチング平均深さ30〜60μm、凸部の平均ピッチ0.1〜0.5mmの表面部に形成することを特徴とする、請求項6および8のいずれか1項に記載のオフセット枚葉印刷機用渡し胴ジャケットの製造方法。
【請求項10】
請求項6および請求項8〜9のいずれかの1項に記載のオフセット枚葉印刷機用胴ジャケットの製造方法は、前記コーティング後の凹凸の平均深さが20〜50μmになるオフセット枚葉印刷機用渡し胴ジャケットの製造方法であって、
前記段階(c)の後、前記シリコーン樹脂の厚みを金属層の凸部は1〜5μm、凹部は5〜30μmになるように、同時コーティングしたエッチングなしのダミープレートのシリコーン樹脂膜厚を測定し、エッチング深さとシリコーン樹脂膜厚の差でコーティング後の凹凸深さを管理することを特徴とする、請求項6ならびに請求項8〜9のいずれか1項に記載のオフセット枚葉印刷機用渡し胴ジャケットの製造方法。
【請求項11】
請求項7または8に記載のオフセット枚葉印刷機用胴ジャケットの製造方法は、オフセット枚葉印刷機用圧胴ジャケットの製造方法であって、
前記金属製基板は、厚さ0.2〜0.5mmであり、前記段階(b)が前記金属製基板をエッチング法により、凸部の平均径が10〜30μm、エッチング平均深さ30〜40μm、凸部の平均ピッチ0.1〜0.3mmのランダム配列の凹凸構造の表面部に形成することを特徴とする、請求項7または8に記載のオフセット枚葉印刷機用圧胴ジャケットの製造方法。
【請求項12】
請求項7および8ならびに11のいずれかの1項に記載のオフセット枚葉印刷機用胴ジャケットの製造方法は、オフセット枚葉印刷機用圧胴ジャケットの製造方法であって、
前記段階(c)の後、前記シリコーン樹脂の厚みを金属層の凸部は1〜5μm、凹部は5〜20μmになるように、同時コーティングしたエッチングなしのダミープレートのシリコーン樹脂膜厚を測定し、エッチング深さとシリコーン樹脂膜厚の差でコーティング後の凹凸深さを管理することを特徴とする、請求項7および8ならびに11のいずれかの1項に記載のオフセット枚葉印刷機用圧胴ジャケットの製造方法。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7】
【図1B】
【図1C】
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7】
【公開番号】特開2012−6401(P2012−6401A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−173978(P2011−173978)
【出願日】平成23年8月9日(2011.8.9)
【分割の表示】特願2010−46430(P2010−46430)の分割
【原出願日】平成22年3月3日(2010.3.3)
【出願人】(502098640)東京印刷機材トレーディング株式会社 (8)
【出願人】(000159618)吉川工業株式会社 (60)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月9日(2011.8.9)
【分割の表示】特願2010−46430(P2010−46430)の分割
【原出願日】平成22年3月3日(2010.3.3)
【出願人】(502098640)東京印刷機材トレーディング株式会社 (8)
【出願人】(000159618)吉川工業株式会社 (60)
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